(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-12
(45)【発行日】2023-07-21
(54)【発明の名称】樹脂組成物及びその成形体
(51)【国際特許分類】
C08L 81/02 20060101AFI20230713BHJP
C08L 23/26 20060101ALI20230713BHJP
C08K 7/04 20060101ALI20230713BHJP
C08L 77/10 20060101ALI20230713BHJP
C08F 8/46 20060101ALI20230713BHJP
【FI】
C08L81/02
C08L23/26
C08K7/04
C08L77/10
C08F8/46
(21)【出願番号】P 2019176869
(22)【出願日】2019-09-27
【審査請求日】2022-08-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001070
【氏名又は名称】弁理士法人エスエス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】河相 龍宜
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 孝太郎
(72)【発明者】
【氏名】関 亮一
【審査官】中落 臣諭
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-057151(JP,A)
【文献】特開2007-106834(JP,A)
【文献】特開2011-016942(JP,A)
【文献】特開2017-171731(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L1/00-101/14
C08K3/00-13/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリフェニレンサルファイド(A)と、
変性ポリオレフィン組成物(B)と、
繊維状充填剤(C)と
を含み、
前記変性ポリオレフィン組成物(B)が、
135℃デカリン溶媒中で測定した極限粘度が6~40dl/gである超高分子量ポリオレフィン(B0-1)と、極限粘度が0.1~5dl/gである低分子量ないし高分子量ポリオレフィン(B0-2)とからなるポリオレフィン組成物(B0)を、変性モノマー存在下で変性してなる組成物であり、かつ、
前記ポリフェニレンサルファイド(A)と、前記変性ポリオレフィン組成物(B)と、前記繊維状充填剤(C)との合計100質量部に対する前記変性ポリオレフィン組成物(B)の含有量が2~8質量部である樹脂組成物。
【請求項2】
前記変性モノマーによる変性量が、前記ポリオレフィン組成物(B0)に対して0.01~10質量%の範囲にある請求項
1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
前記変性ポリオレフィン組成物(B)が、カルボキシル基、-C(=O)-O-C(=O)-で表される基、-C(=O)-Xで表される基(Xはハロゲン原子)、-C(=O)-O-で表される基、-C(=O)-N<で表される基、-C(=O)-NR-C(=O)-で表される基(Rは水素原子またはアルキル基)、アミノ基及び水酸基からなる群より選ばれる官能基を含む構造単位を含むポリオレフィン組成物である、請求項1
または2に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
前記変性モノマーが、不飽和カルボン酸、不飽和カルボン酸の酸ハライド、不飽和カルボン酸エステル、不飽和カルボン酸アミド、不飽和カルボン酸イミド、及び、不飽和カルボン酸無水物からなる群より選ばれる少なくとも1種である請求項
1~3
のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項5】
前記繊維状充填剤(C)が、ガラス繊維、炭素繊維、アラミド繊維、金属繊維及びセラミック繊維からなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項1~
4のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1~
5のいずれか1項に記載の樹脂組成物を含む成形体。
【請求項7】
被覆材または摺動材である請求項
6に記載の成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂組成物及びその成形体、より詳しくは、ポリフェニレンサルファイドを含む樹脂組成物及びその成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリフェニレンサルファイド(Polyphenylene sulfide:以下、「PPS」と呼ぶ場合がある。)は、フェニル基と硫黄原子とからなる直鎖状の有機ポリマーである。ポリフェニレンサルファイドは、優れた耐熱性、剛性、寸法安定性及び難燃性などエンジニアリングプラスチックとして好適な性質を有していることから、射出成形用を中心として、各種電気・電子部品、機械部品及び自動車部品などに広く用いられている。しかし、ポリフェニレンサルファイドは、それ自体では脆いため、耐摩耗性及び機械的強度に劣るという欠点がある。このような欠点を補うため、ポリフェニレンサルファイドは、多くの場合、ガラス繊維等の強化剤、及び/または、無機充填剤を配合してなる組成物の形で用いられる。
【0003】
ここで、ポリフェニレンサルファイドを摺動部品材料、例えば、ギアー、軸受け、シール材等に用いる場合、ポリフェニレンサルファイドには、それ自体では自己潤滑性に乏しく、また、ポリフェニレンサルファイドをガラス繊維等の強化剤との組成物の形で用いる場合には、耐摩耗性等が充分でないという問題点がある。そのため、ポリフェニレンサルファイドを摺動部品材料として用いるためには、潤滑性を付与させる必要がある。
【0004】
ポリフェニレンサルファイドに潤滑性を付与させるために、従来種々の試みがなされている。
その1つとして、ポリフェニレンサルファイドにポリテトラフルオロエチレン(PTFE)などのフッ素樹脂を配合することにより、摺動性及び耐摩耗性を向上させる試みが種々なされてきた。ただ、フッ素樹脂には高価であるという欠点があることから、安価な超高分子量ポリエチレンを用いてポリフェニレンサルファイドの摺動性及び耐摩耗性を向上させる試みも行われてきた。
【0005】
例えば、特許文献1(特開平6-192574号)には、ポリフェニレンサルファイドと、超高分子量ポリエチレンと、繊維強化剤と、無機充填材と、滑剤等とを特定の割合で含む熱可塑性成形組成物が開示されている。この特許文献1には、超高分子量ポリエチレンを含む熱可塑性成形組成物では、超高分子量ポリエチレンを含まない熱可塑性成形組成物と比べて、高い耐摩耗性、すなわち、優れた滑り特性を有することが示されている。なお、この特許文献1には、超高分子量ポリエチレンに代えて変性されているポリエチレンを用いることは記載されていない。
【0006】
また、特許文献2(特開昭61-285256号)には、ガラスファイバーで強化されたポリフェニレンサルファイドに超高分子量ポリエチレンを添加してなるポリフェニレンサルファイド樹脂組成物が開示されている。この特許文献2には、このようなポリフェニレンサルファイド樹脂組成物では、超高分子量ポリエチレンを添加しない場合と比べてスラスト摩擦特性が向上し、超高分子量ポリエチレンに代えてフッ素樹脂を用いた場合と同等の潤滑性が得られたことを示している。
【0007】
一方、樹脂の耐摩耗性及び摺動性を向上させるために、超高分子量ポリエチレンを含むポリオレフィン組成物を変性させてなる変性ポリオレフィン組成物を用いる試みもなされている。
【0008】
例えば、特許文献3(特開2001-279093号)には、特定の半芳香族ポリアミドと、超高分子量ポリエチレンを含むポリオレフィン組成物を変性させてなる変性ポリオレフィン組成物とからなるポリアミド樹脂組成物が開示されている。ここで、特許文献3には、その他の成分として、ポリフェニレンサルファイドなどの耐熱性樹脂、及び、ガラス繊維などの繊維状の無機充填材をこのポリアミド樹脂組成物に配合することができると記載されているものの、そのような耐熱性樹脂及び繊維状の無機充填材を含むポリアミド樹脂組成物は、具体的には開示されていない。
【0009】
また、特許文献4(特開2018-119018号)には、超高分子量ポリエチレンを含むポリエチレン樹脂組成物をグラフト変性させてなる変性ポリエチレン樹脂組成物、並びに、そのような変性ポリエチレン樹脂組成物を、ポリアミド樹脂、ポリアセタール樹脂またはポリエステル樹脂と組み合わせてなる樹脂組成物が記載されている。ここで、特許文献4には、この樹脂組成物において、ポリアミド樹脂等に代えてポリフェニレンサルファイドやポリカーボネート樹脂などの熱可塑性樹脂を用いてもよいこと、並びに、ガラス繊維などの充填剤をさらに配合しても良いことは記載されているものの、そのようなポリフェニレンサルファイド及び充填剤を含む樹脂組成物は、具体的には開示されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開平6-192574号
【文献】特開昭61-285256号
【文献】特開2001-279093号
【文献】特開2018-119018号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
ポリフェニレンサルファイドにフッ素樹脂または超高分子量ポリエチレンを配合してなる従来のポリフェニレンサルファイド組成物において、摺動性及び耐摩耗性は向上するものの、引張破断強度、引張破断伸度、シャルピー衝撃強度、熱変形温度などの機械物性の点では、必ずしも十分に高くないという問題点がある。
【0012】
そこで、本発明は、高い摺動性及び耐摩耗性を有するとともに、引張破断強度、引張破断伸度、シャルピー衝撃強度、熱変形温度などの機械物性にも優れる成形体を提供可能なポリフェニレンサルファイド樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、このような状況において鋭意検討した結果、ポリフェニレンサルファイドと繊維状充填剤とを含む組成物に変性ポリオレフィン組成物を特定の割合で配合することにより、高い摺動性を有するとともにシャルピー衝撃強度などの機械物性にも優れる成形体を与えるポリフェニレンサルファイド組成物が得られるとの知見を得、本発明を完成させた。
【0014】
本発明は、以下の[1]~[8]に係る。
[1]
ポリフェニレンサルファイド(A)と、
変性ポリオレフィン組成物(B)と、
繊維状充填剤(C)と
を含み、
前記ポリフェニレンサルファイド(A)と、前記変性ポリオレフィン組成物(B)と、前記繊維状充填剤(C)との合計100質量部に対する前記変性ポリオレフィン組成物(B)の含有量が2~8質量部である樹脂組成物。
【0015】
[2]
前記変性ポリオレフィン組成物(B)が、
135℃デカリン溶媒中で測定した極限粘度が6~40dl/gである超高分子量ポリオレフィン(B0-1)と、極限粘度が0.1~5dl/gである低分子量ないし高分子量ポリオレフィン(B0-2)とからなるポリオレフィン組成物(B0)を、変性モノマー存在下で変性してなる組成物である前記[1]に記載の樹脂組成物。
【0016】
[3]
前記変性モノマーによる変性量が、前記ポリオレフィン組成物(B0)に対して0.01~10質量%の範囲にある前記[2]に記載の樹脂組成物。
【0017】
[4]
前記変性ポリオレフィン組成物(B)が、カルボキシル基、-C(=O)-O-C(=O)-で表される基、-C(=O)-Xで表される基(Xはハロゲン原子)、-C(=O)-O-で表される基、-C(=O)-N<で表される基、-C(=O)-NR-C(=O)-で表される基(Rは水素原子またはアルキル基)、アミノ基及び水酸基からなる群より選ばれる官能基を含む構造単位を含むポリオレフィン組成物である、前記[1]~[3]のいずれかに記載の樹脂組成物。
【0018】
[5]
前記変性モノマーが、不飽和カルボン酸、不飽和カルボン酸の酸ハライド、不飽和カルボン酸エステル、不飽和カルボン酸アミド、不飽和カルボン酸イミド、及び、不飽和カルボン酸無水物からなる群より選ばれる少なくとも1種である前記[2]または[3]に記載の樹脂組成物。
【0019】
[6]
前記繊維状充填剤(C)が、ガラス繊維、炭素繊維、アラミド繊維、金属繊維及びセラミック繊維からなる群から選ばれる少なくとも1種である、前記[1]~[5]のいずれかに記載の樹脂組成物。
【0020】
[7]
前記[1]~[6]のいずれかに記載の樹脂組成物を含む成形体。
【0021】
[8]
被覆材または摺動材である前記[7]に記載の成形体。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、高い摺動性を有するとともにシャルピー衝撃強度などの機械物性にも優れる成形体を与えるポリフェニレンサルファイド組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
[樹脂組成物]
本発明の樹脂組成物は、
ポリフェニレンサルファイド(A)と、
変性ポリオレフィン組成物(B)と、
繊維状充填剤(C)と
を含む。ここで、本発明の樹脂組成物において、変性ポリオレフィン組成物(B)の含有量は、ポリフェニレンサルファイド(A)と、変性ポリオレフィン組成物(B)と、繊維状充填剤(C)との合計100質量部に対して2~8質量部である。
【0024】
<ポリフェニレンサルファイド(A)>
本発明で用いられるポリフェニレンサルファイド(A)は、芳香族環と硫黄原子とが結合した構造を繰り返し単位とする樹脂構造を有しており、具体的には、下記構造式(1)
【0025】
【化1】
(式中、R
5及びR
6は、それぞれ独立的に水素原子、炭素原子数1~4のアルキル基、ニトロ基、アミノ基、フェニル基、メトキシ基、エトキシ基を表す。)
で表される構造部位を繰り返し単位とする樹脂である。
【0026】
ここで、前記構造式(1)で表される構造部位は、特に該式中のR5及びR6は、前記ポリフェニレンサルファイド(A)の機械的強度の点から水素原子であることが好ましく、その場合、下記構造式(2)で表されるパラ位で結合するもの、及び下記構造式(3)で表されるメタ位で結合するものが挙げられる。
【0027】
【化2】
これらの中でも、特に繰り返し単位中の芳香族環に対する硫黄原子の結合は前記構造式(2)で表されるパラ位で結合した構造であることが前記ポリフェニレンサルファイド(A)の耐熱性や結晶性の面で好ましい。
【0028】
ポリフェニレンサルファイド(A)は、成形品の耐熱性、機械強度が得られる範囲で構造式(1)以外の構造を含んでいても良い。構造式(1)以外の構造として、例えば、芳香族環と2以上の硫黄原子とからなる繰り返し単位、及び、芳香族環と硫黄原子以外の原子または基とからなる繰り返し単位などが挙げられる。
【0029】
本発明で用いられるポリフェニレンサルファイド(A)は、従来公知のものとすることができる。ここで、ポリフェニレンサルファイド(A)は、従来公知の方法によって製造することができ、例えば、硫化ナトリウムとp-ジクロルベンゼンとを反応させる方法によって製造することができる。また、本発明で用いられるポリフェニレンサルファイド(A)は、市販品であっても良い。
【0030】
本発明で用いられるポリフェニレンサルファイド(A)の分子量については、本発明の樹脂組成物の用途に応じて適宜決定して良い。
ポリフェニレンサルファイド(A)は、成形性と表面強度の点から、メルトフローレートが、1~3000g/10分、より好ましくは5~2300g/10分、更に好ましくは10~1500g/10分の範囲にあるものが好ましい。なお、当該メルトフローレートは、ASTM D1238-86による316℃/5000g荷重下(オリフィス:0.0825±0.002インチ径×0.315±0.001インチ長さ)で測定した値である。
【0031】
本発明の樹脂組成物におけるポリフェニレンサルファイド(A)の含有量は、ポリフェニレンサルファイド(A)と、後述する変性ポリオレフィン組成物(B)と、後述する繊維状充填剤(C)との合計100質量部に対して、通常52~88質量部、好ましくは、55~82質量部である。
【0032】
<変性ポリオレフィン組成物(B)>
変性ポリオレフィン組成物(B)は、ポリオレフィン組成物(B0)を変性モノマー存在下で変性してなる組成物である。本発明において、変性ポリオレフィン組成物(B)は、上記ポリフェニレンサルファイド(A)と後述する繊維状充填剤(C)との組み合わせに基づく機械物性を維持または向上させながら、さらに十分な摺動性を樹脂組成物に付与するために摺動性付与剤として用いられる。
【0033】
ここで、ポリフェニレンサルファイド(A)の摺動性及び耐摩耗性を向上させるためにフッ素樹脂を用いる場合、樹脂組成物としたときに引張破断強度、引張破断伸度、シャルピー衝撃強度などの機械的強度が低下する傾向にある。例えば、特開昭63-213560号には、ポリフェニレンサルファイドとガラス繊維または炭素繊維とを含むポリフェニレンサルファイド組成物にフッ素樹脂を配合すると、フッ素樹脂を含まないポリフェニレンサルファイド組成物と比べて、摺動性及び耐摩耗性は向上する一方で、引張強さは低下する傾向にあることが示されている(第2表:比較例1と3、及び、比較例4と5の対比結果を参照のこと。)。同様の機械物性の低下は、本発明について後述する比較例1と比較例2及び3との対比からも確認されている。
【0034】
また、ポリフェニレンサルファイド(A)の摺動性及び耐摩耗性を向上させるために、変性していない超高分子量ポリオレフィンを用いる場合にも、必ずしも十分に高い機械物性が得られない傾向にある。例えば、上記特許文献1の実施例1~3と比較実施例1との対比結果を見ると、特許文献1に記載の超高分子量ポリエチレンを含む熱可塑性成形組成物では、超高分子量ポリエチレンを含まない組成物と比べて、より高い耐摩耗性は得られているものの、加熱撓み温度(HDT)は低下している(特許文献1の表3)。つまり、特許文献1に記載の超高分子量ポリエチレンを含む熱可塑性成形組成物では、超高分子量ポリエチレンを含まない組成物と比べて、熱変形温度が低下しているといえ、耐熱性が低下していることを示している。
【0035】
これに対し、本発明では、摺動性付与剤としてフッ素樹脂や変性していない超高分子量ポリオレフィンに代えて変性ポリオレフィン組成物(B)を用いることにより、シャルピー衝撃強度などの機械物性を維持または向上させながら、フッ素樹脂を用いたときと同等の摺動性を有する成形体を与える樹脂組成物を得ることができる。
【0036】
ポリオレフィン組成物(B0)
ポリオレフィン組成物(B0)は、本願で用いられる変性ポリオレフィン組成物(B)の原料であり、変性モノマー存在下での変性により変性ポリオレフィン組成物(B)を与える。
【0037】
本発明における典型的な態様において、ポリオレフィン組成物(B0)は、超高分子量ポリオレフィン(B0-1)と、低分子量ないし高分子量ポリオレフィン(B0-2)とを含む。言い換えると、本発明における典型的な態様において、変性ポリオレフィン組成物(B)は、超高分子量ポリオレフィン(B0-1)と、低分子量ないし高分子量ポリオレフィン(B0-2)とを含むポリオレフィン組成物(B0)を変性モノマー存在下で変性してなる組成物である。
【0038】
超高分子量ポリオレフィン(B0-1)としては、例えばエチレン、プロピレン、1-ブテン、イソブテン、1-ペンテン、2-メチル-1- ブテン、3-メチル-1- ブテン、1-ヘキセン、3-メチル-1- ペンテン、4-メチル-1- ペンテン、1-ヘプテン、1-オクテン、1-デセン、1-ドデセン、1-テトラデセン、1-ヘキサデセン、1-オクタデセン、1-イコセンなどのα- オレフィンの単独重合体または共重合体からなる。本発明においては、エチレン単独重合体、及びエチレンと他のα- オレフィンとからなる、エチレンを主成分とする共重合体が望ましい。
【0039】
この超高分子量ポリオレフィン(B0-1)のデカリン溶媒中135℃で測定した極限粘度[η]は、6~40dl/g、好ましくは10~40dl/g、さらに好ましくは25~35dl/gである。
この超高分子量ポリオレフィン(B0-1)は、密度(D:ASTM D1505に準じて測定)0.920g/cm3 以上、0.935g/cm3 未満のものが望ましい。
【0040】
また、ポリオレフィン組成物の構成成分である低分子量ないし高分子量ポリオレフィン(B0-2)は、上記超高分子量ポリオレフィン(B0-1)より極限粘度の低いものであれば特に制限されるものではなく、通常、前記した超高分子量ポリオレフィン(B0-1)と同様に、上記のようなα-オレフィンの単独重合体または共重合体からなる。本発明においては、エチレン単独重合体、及び、エチレンと他のα- オレフィンとからなる、エチレンを主成分とする共重合体が好ましい。
【0041】
低分子量ないし高分子量ポリオレフィン(B0-2)のデカリン溶媒中135℃で測定した極限粘度[η]は、0.1~5.0dl/g、好ましくは0.1~2dl/gである。超高分子量ポリオレフィンの極限粘度と、低分子量ないし高分子量ポリオレフィンの極限粘度との差は、23~39dl/g、好ましくは23~37dl/gであることが望ましい。
【0042】
また、低分子量ないし高分子量ポリオレフィン(B0-2)は、密度0.935g/cm3 以上のものが望ましい。ポリオレフィン組成物(B0)中の超高分子量ポリオレフィン(B0-1)の含有量は、超高分子量ポリオレフィン(B0-1)と低分子量ないし高分子量ポリオレフィン(B0-2)との合計量に対して、5~45質量%、好ましくは10~30質量%、さらに好ましくは10~25質量%の範囲にあることが望ましい。
【0043】
超高分子量ポリオレフィン(B0-1)と、低分子量ないし高分子量ポリオレフィン(B0-2)とからなるポリオレフィン組成物(B0)の極限粘度は、5~15dl/g、好ましくは3~10dl/g、さらに好ましくは4~6dl/gの範囲にあることが望ましい。
【0044】
このようなポリオレフィン組成物(B0)は、超高分子量ポリオレフィン(B0-1)と低分子量ないし高分子量ポリオレフィン(B0-2)とを、公知の方法で混合することによって調製される。
【0045】
また、オレフィンの重合時に、特定のチーグラー型触媒を用いる多段階重合を行なって超高分子量ポリオレフィン(B0-1)と低分子量ないし高分子量ポリオレフィン(B0-2)とを特定の割合で含む混合物を製造することによってポリオレフィン組成物(B0)を調製することができる。
【0046】
多段階重合によって 超高分子量ポリオレフィン(B0-1)と低分子量ないし高分子量ポリオレフィン(B0-2)とを含むポリオレフィン組成物(B0)を調製する方法としては、マグネシウム、チタン及びハロゲンを必須成分とする高活性固体状チタン触媒成分(a)及び有機アルミニウム化合物触媒成分(b)から形成されるチーグラー型触媒の存在下にオレフィンを多段階重合させる方法が採用される。
【0047】
ポリオレフィン組成物(B0)の調製に用いることのできる具体的なチーグラー触媒として、例えば、特開2001-279093号に記載されているチーグラー触媒が挙げられる。特開2001-279093号には、このようなチーグラー触媒の製造方法も記載されている。
【0048】
変性モノマー
本発明において、変性モノマーは、上記ポリオレフィン組成物(B0)を変性して変性ポリオレフィン組成物(B)を与えるために用いられる。この変性は、通常、グラフト変性によって行われる。
【0049】
変性モノマーとして、ポリオレフィンのグラフト変性に通常用いられるものが挙げられ、その典型例として、不飽和カルボン酸及びその誘導体が挙げられる。
変性に使用される不飽和カルボン酸として、具体的には、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸、クロトン酸、エンドシス- ビシクロ[2,2,1]ヘプト-5- エン-2,3- ジカルボン酸(ナジック酸TM)などが挙げられる。
【0050】
また、不飽和カルボン酸の誘導体として、不飽和カルボン酸の酸ハライド、不飽和カルボン酸エステル、不飽和カルボン酸アミド、不飽和カルボン酸イミド、不飽和カルボン酸無水物などが挙げられ、具体的には、塩化マレニル、マレイミド、アクリル酸アミド、メタクリル酸アミド、グリシジルメタクリレート、無水マレイン酸、無水シトラコン酸、マレイン酸モノメチル、マレイン酸ジメチル、グリシジルマレエートなどが挙げられる。
【0051】
また、本発明で用いることのできる変性モノマーとして、重合性二重結合と、アミノ基、及び、水酸基からなる群より選ばれる官能基とを含むモノマーも挙げられる。
これらの変性モノマーは、1種単独でも2種以上を組み合わせても用いられる。これらの中でも、無水マレイン酸が、反応性が高く、強度及び外観の良好な成型物を得ることができるため好ましい。
【0052】
本発明で用いられる変性ポリオレフィン組成物において、上記変性モノマーによる変性量(グラフト量)は、ポリオレフィン組成物(B0)の合計量100質量%に対して0.01~10質量%の割合であるのが好ましく、特に0.7~1.3質量%の割合であるのが好ましい。なお、ポリオレフィン組成物(B0)が、超高分子量ポリオレフィン(B0-1)と低分子量ないし高分子量ポリオレフィン(B0-2)とのみからなる場合、超高分子量ポリオレフィン(B0-1)と低分子量ないし高分子量ポリオレフィン(B0-2)との合計量が前記100質量%の基準となる。
【0053】
変性ポリオレフィン組成物(B)の調製方法
本発明で用いられる変性ポリオレフィン組成物(B)は、上記ポリオレフィン組成物(B0)を上記変性モノマー存在下で変性することによって得ることができる。ここで、上記ポリオレフィン組成物(B0)の変性方法として、従来公知の種々の方法を採用できる。
【0054】
例えば、上記ポリオレフィン組成物(B0)を溶媒に懸濁させ、あるいは溶解させて、通常、80~200℃の温度で、上記変性モノマーとラジカル重合開始剤等を添加混合してグラフト共重合させる方法、あるいは融点以上、例えば、180~300℃の温度で溶融混練下に上記変性モノマーとラジカル重合開始剤とを接触させる方法などが挙げられる。
【0055】
また、超高分子量ポリオレフィン(B0-1)及び低分子量ないし高分子量ポリオレフィン(B0-2)のそれぞれを予め変性モノマーで変性してそれぞれ対応する変性超高分子量ポリオレフィン(B-1)及び変性低分子量ないし高分子量ポリオレフィン(B-2)に導いた後、これらを混合して変性ポリオレフィン組成物(B)としてもよい。
【0056】
変性に用いられる溶媒としては、具体的には、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶媒;ヘキサン、ヘプタン、オクタン、デカン等の脂肪族炭化水素系溶媒;シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン等の脂環族炭化水素系溶媒;トリクロロエチレン、パークロロエチレン、ジクロロエチレン、ジクロロエタン、クロロベンゼン等の塩素化炭化水素系溶媒;エタノール、イソプロパノール等の脂肪族アルコール系溶媒;アセトン、メチルイソブチルケトン、メチルエチルケトン等のケトン系溶媒、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル系溶媒などが挙げられる。これらの溶媒は、1種単独でも2種以上を組み合わせても用いられる。
【0057】
また、ラジカル重合開始剤としては、有機過酸化物、アゾ化合物等のラジカル開始剤が挙げられる。
有機過酸化物としては、具体的には、ベンゾイルパーオキサイド、2,4-ジクロロベンゾイルパーオキサイド、m-トリオイルパーオキサイド、ジ-t- ブチルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、(2,5-ジメチル-2,5- ビス(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン、2,5-ジメチル-2,5- ビス(t-ブチルパーオキシ)ヘキシン-3、ラウロイルパーオキサイド、t-ブチルパーオキシアセテート、2,5-ジメチル-2,5- ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、t-ブチルパーオキシベンゾエート、t-ブチルパーオキシイソブチレート、t-ブチルパーオキシフェニルアセテート、t-ブチルパーオキシ-s- オクテート、t-ブチルパーオキシピバレート、クミルパーオキシピバレート、t-ブチルパーオキシエチルアセテートなどが挙げられる。
【0058】
アゾ化合物としては、具体的には、アゾイソブチロニトリル、ジメチルアゾイソブチレートなどが挙げられる。
これらのラジカル開始剤は、1種単独または2種以上を組合わせて用いられる。
【0059】
以上のとおり、本発明で用いられる変性ポリオレフィン組成物(B)は、ポリオレフィン組成物(B0)を変性モノマー存在下で変性することにより得ることができる。したがって、変性ポリオレフィン組成物(B)は、変性モノマーに由来する官能基を含む構造単位を含むことになる。
【0060】
例えば、変性モノマーとして不飽和カルボン酸または不飽和カルボン酸の誘導体が用いられる場合、得られる変性ポリオレフィン組成物(B)は、不飽和カルボン酸または不飽和カルボン酸の誘導体に由来する官能基を含む構造単位を含むことになる。そのような官能基の例として、カルボキシル基、-C(=O)-O-C(=O)-で表される基、-C(=O)-Xで表される基(Xはハロゲン原子)、-C(=O)-O-で表される基、-C(=O)-N<で表される基、及び、-C(=O)-NR-C(=O)-で表される基(Rは水素原子またはアルキル基)が挙げられる。
【0061】
一方、変性モノマーとして、重合性二重結合と、アミノ基、及び、水酸基からなる群より選ばれる官能基とを含むモノマーが用いられる場合、得られる変性ポリオレフィン組成物(B)は、そのようなモノマーに由来する官能基を含む構造単位を含むことになる。この場合、得られる変性ポリオレフィン組成物(B)は、アミノ基、及び、水酸基からなる群より選ばれる官能基を含む構造単位を含むことになる。
【0062】
変性ポリオレフィン組成物(B)に含まれうる「変性モノマーに由来する官能基」は、変性モノマーに応じて、1種単独の場合もあり、あるいは、2種以上の組み合わせの場合もある。
【0063】
樹脂組成物における変性ポリオレフィン組成物(B)の含有量
本発明の樹脂組成物における変性ポリオレフィン組成物(B)の含有量は、この樹脂組成物から得られる成形体が充分な摺動性を確保できるよう、上記ポリフェニレンサルファイド(A)と、変性ポリオレフィン組成物(B)と、後述する繊維状充填剤(C)との合計100質量部に対して2質量部以上、好ましくは3質量部以上である。一方、十分に高い機械物性を維持する観点からは、本発明の樹脂組成物におけるポリフェニレンサルファイド(A)及び繊維状充填剤(C)の含有量を一定以上にすることが好ましい。したがって、本発明の樹脂組成物における変性ポリオレフィン組成物(B)の含有量は、上記ポリフェニレンサルファイド(A)と、変性ポリオレフィン組成物(B)と、後述する繊維状充填剤(C)との合計100質量部に対して8質量部以下、好ましくは5質量部以下である。
【0064】
<繊維状充填剤(C)>
本発明において、繊維状充填剤(C)は、本発明の樹脂組成物に、耐摩耗性及び機械的強度を付与するために用いられる。
本発明で用いられる繊維状充填剤(C)は、ポリフェニレンサルファイド(A)を強化するために一般に用いられるものとすることができ、従来公知のものであっても良い。
【0065】
このような繊維状充填剤(C)の例として、ガラス繊維、炭素繊維、アラミド繊維、金属繊維、セラミック繊維、ボロン繊維、チタン酸カリウィスカー、ポリエステル繊維、及び、ポリアミド繊維が挙げられる。ここで、金属繊維の例として、アルミニウム繊維及びステンレス鋼繊維などが挙げられる。本発明の好適な態様の1つにおいて、繊維状充填剤(C)は、ガラス繊維、炭素繊維、アラミド繊維、金属繊維及びセラミック繊維からなる群から選ばれる少なくとも1種である。
【0066】
これらの繊維状充填剤(C)は、その繊維径が1~30μm、好ましくは5~20μmであり、繊維長が1000~10000μm、好ましくは2000~6000μmであり、アスペクト比は33~10000、好ましくは150~1200であることが望ましい。
【0067】
これらの繊維状充填剤(C)は、1種単独で用いてもよく、あるいは、2種以上を併用しても良い。
本発明の樹脂組成物における繊維状充填剤(C)の含有量は、ポリフェニレンサルファイド(A)と、変性ポリオレフィン組成物(B)と、繊維状充填剤(C)との合計100質量部に対して、通常10~40質量部、好ましくは、15~40質量部である。
【0068】
<組成>
上述したとおり、本発明の樹脂組成物は、上記ポリフェニレンサルファイド(A)と、上記変性ポリオレフィン組成物(B)と、上記繊維状充填剤(C)とを含む。
【0069】
ここで、本発明における典型的な態様の1つにおいて、本発明の樹脂組成物は、上記ポリフェニレンサルファイド(A)と、上記変性ポリオレフィン組成物(B)と、上記繊維状充填剤(C)とからなる。ただ、本発明の樹脂組成物は、これらの成分に加えて、上記ポリフェニレンサルファイド(A)にも、上記変性ポリオレフィン組成物(B)にも、上記繊維状充填剤(C)にも該当しないその他の成分(以下、「その他の成分」)をさらに含んでいても良い。
【0070】
「その他の成分」の例として、活性炭、多孔率ケイ酸マグネシウム、カーボンブラック、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、タルク、カオリン、石英、白亜、及び雲母などの無機充填剤、並びに、フッ素樹脂粉末、グラファイト等の固体潤滑剤などが挙げられる。また、滑剤、流れ助剤(flow auxiliaries)、離型剤、安定剤、紫外線吸収剤、無機顔料、有機染料のようなプラスチックに関して従来用いられている添加剤もまた、「その他の成分」となりうる。
【0071】
このような「その他の成分」は、1種単独で用いてもよく、あるいは、2種以上を併用しても良い。
本発明の樹脂組成物に含まれうる「その他の成分」の含有量は、本発明の樹脂組成物の全体に対して10質量%未満であることが好ましい。ここで、「その他の成分」が2種以上用いられる場合、「その他の成分」の合計の含有量が、本発明の樹脂組成物の全体に対して10質量%未満であることが好ましいことになる。
【0072】
本発明の樹脂組成物が「その他の成分」を含む場合、ポリフェニレンサルファイド(A)と、変性ポリオレフィン組成物(B)と、繊維状充填剤(C)との合計量は、本発明の樹脂組成物の全体に対して90質量%以上100質量%未満であることが好ましい。
【0073】
<製造方法>
本発明の樹脂組成物は、上記ポリフェニレンサルファイド(A)と、上記変性ポリオレフィン組成物(B)と、上記繊維状充填剤(C)と、オプションの上記「その他の成分」とを混合することにより得られる。ここで、上記ポリフェニレンサルファイド(A)は、上記繊維状充填剤(C)とは別々に配合されても良く、あるいは、予め上記繊維状充填剤(C)の添加がなされている複合体(すなわち、上記ポリフェニレンサルファイド(A)と上記繊維状充填剤(C)とを含む複合体)の形で配合されても良い。
【0074】
この混合は、従来公知の方法により行うことができ、例えば、二軸スクリュー押出機により溶融混練することによって行うことができる。この混合を溶融混練によって行う場合、この溶融混練は、例えば、300℃~350℃の温度にて行うことができる。
【0075】
[成形体]
本発明の成形体は、上述した本発明の樹脂組成物を含む。
このような本発明の成形体は、高い摺動性を有するとともに、高い機械物性をも有している。したがって、その用途として、被覆材及び摺動材が挙げられる。
【実施例】
【0076】
以下、本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明はその主旨を越えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
[樹脂組成物についての各種物性の測定方法]
下記実施例及び比較例で得られた各樹脂組成物についての各種物性を測定するのに用いた方法を以下に示す。
【0077】
<密度>
ASTM D1505に準拠して密度を測定した。
[成形体についての各種物性の測定方法]
下記実施例及び比較例のそれぞれにつき、得られた樹脂組成物を用いて、射出成形にて多目的試験片、及び縦120mm×横130mm×厚さ3mmの平板試験片(樹脂部材)を作製し、次の物性評価を行った。
ここで、下記「動摩擦係数」に記載の試験においては、平板試験片(樹脂部材)を試験片として使用し、それ以外の試験においては、多目的試験片を試験片として使用した。
【0078】
<引張試験>
ISO-527-1,2に準拠して、引張速度を50mm/minとし、試験片の引張破断強度、引張破断伸度を求めた。
【0079】
<シャルピー衝撃強度>
ISO-179に準拠して、ノッチ付き試験片を用いてシャルピー衝撃強度を測定した。
【0080】
<熱変形温度>
ISO-75-1,2に準拠して、試験片の熱変形温度を求めた。ここで、熱変形温度の測定は、曲げ応力を0.45MPaとした場合と、1.80MPaとした場合のそれぞれについて行った。
【0081】
<動摩擦係数>
JIS K7218「プラスチックの滑り摩耗試験A法」に準拠して、松原式摩擦摩耗試験機を使用して試験片の動摩擦係数を測定した。
試験条件は次の条件とした。
相手材:炭素鋼(S45C)、速度:50cm/秒、距離:3km、荷重:30kg、測定環境温度:23℃。
【0082】
[実施例及び比較例で使用した各成分]
<(A)ポリフェニレンサルファイド>
ポリフェニレンサルファイド(PPS)として、FZ-2100(DIC社製)を用いた。
このFZ-2100は、非強化の(すなわち、ガラス繊維等の添加がされていない)リニアー型のPPSである。
【0083】
<(B)変性ポリオレフィン組成物>
変性ポリオレフィン組成物の調製は、特開2001-279093 製造例6を参照して行った。
すなわち、超高分子量ポリエチレン[135℃デカリン中の[η]:31dl/g]20質量%と低分子量ポリエチレン[135℃デカリン中の[η]:1dl/g]80質量%とからなるポリエチレン組成物100質量部と、無水マレイン酸0.8質量部と、有機過酸化物[日本油脂(株) パーヘキシン-25B]0.07質量部とをヘキシェルミキサーで混合した。この混合により得られた混合物を、250℃に設定した65mmφの一軸押出機で溶融グラフト変性することによって、変性ポリオレフィン組成物を得た。
この変性ポリオレフィン組成物の無水マレイン酸グラフト量をIR分析で測定したところ、0.8質量%であった。
【0084】
<(B')フッ素樹脂>
フッ素樹脂として、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE) KT-600M(喜多村社製)を用いた。
このKT-600Mは、焼成されたPTFEの微粉末である。
【0085】
<(C)繊維状充填剤>
繊維状充填剤として、ガラス繊維(GF) T-717H(日本電気硝子社製)を用いた。
このT-717Hは、ガラス繊維からなる、フィラメント径10.5±1.0μm、ストランド長3.0±1.0mmのチョップドストランドである。
【0086】
[実施例1,2及び比較例1~3]
下記表1に示す配合量に従い、各成分を、二軸スクリュー押出機(東芝機械社製 TEM26-SS)により、310℃で溶融混練し、樹脂組成物を得た。
各樹脂組成物につき、上記「樹脂組成物についての各種物性の測定方法」及び「成形体についての各種物性の測定方法」に記載の方法で物性評価を行った。結果を下記表1に示す。
【0087】