(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-12
(45)【発行日】2023-07-21
(54)【発明の名称】内燃機関のシリンダハウジング
(51)【国際特許分類】
F02F 1/16 20060101AFI20230713BHJP
F02F 1/00 20060101ALI20230713BHJP
【FI】
F02F1/16 B
F02F1/00 N
(21)【出願番号】P 2019564563
(86)(22)【出願日】2018-02-14
(86)【国際出願番号】 AT2018060042
(87)【国際公開番号】W WO2018148773
(87)【国際公開日】2018-08-23
【審査請求日】2021-02-05
(32)【優先日】2017-02-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】AT
(73)【特許権者】
【識別番号】597083976
【氏名又は名称】アー・ファウ・エル・リスト・ゲー・エム・ベー・ハー
【氏名又は名称原語表記】AVL LIST GMBH
【住所又は居所原語表記】HANS-LIST-PLATZ 1,A-8020 GRAZ,AUSTRIA
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】ファイヒティンガー,シュテファン
(72)【発明者】
【氏名】シュトッカー‐ライヒャー,シュテファン
(72)【発明者】
【氏名】ホイスル,ギュンター
【審査官】鶴江 陽介
(56)【参考文献】
【文献】実開昭57-031549(JP,U)
【文献】特開2007-120359(JP,A)
【文献】実開昭58-090344(JP,U)
【文献】特開昭59-101565(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02F 1/16
F02F 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持構造物(4)に収容されたそれぞれ一つのウェットシリンダライナ(3)を有する
少なくとも二つの隣り合って配置されたシリンダ(2)を有し、その際、前記支持構造物
(4)と前記シリンダライナ(3)との間に冷媒ジャケット(5)が配置され、さらに、
シリンダヘッドシール面(6)を形成する閉じたデッキ(7)を有し、その際、シリンダ
軸(2a)に平行なエンジン短手方向断面(8)の領域において二つのシリンダ(2)の
間にシリンダヘッドボルト用の少なくとも一つのボルト収容部(9)が配置されるように
構成された内燃機関のシリンダハウジング(1)であって、
二つの隣り合うシリンダ(2)における各々の前記支持構造物(4)同士が、当該シリ
ンダ軸(2a)を含むエンジン長手方向断面(10)と
前記二つの隣り合うシリンダ(2)の間の当該エンジン短手方向断面(8)とが交差する領域(S)
から、互いに間隔が空けられ、
前記支持構造物(4)は、クランクケース(16)の方向において前記冷媒ジャケット
(5)に連続する領域であって、前記ボルト収容部(9)を外囲する領域に、円錐状に成
形された移行領域(17)を有し、その際、円錐状に成形された前記移行領域(17)は
、前記移行領域(17)の厚みが前記デッキ(7)の方向に行くにしたがって大きくなる
ように前記デッキ(7)の方向にテーパし、
少なくとも二つの隣り合った支持構造物(4)は、円錐状に成形された前記移行領域(
17)の底部(17a)の領域において、中間デッキ(19)を介して、互いに連結され
ていることを特徴とする、シリンダハウジング(1)。
【請求項2】
前記冷媒ジャケット(5)の領域における二つの隣り合う支持構造物(4)の最小間隔
(a)は、当該シリンダヘッドボルト直径(d)の少なくとも二分の一に等しいことを特
徴とする、請求項1に記載のシリンダハウジング(1)。
【請求項3】
前記冷媒ジャケット(5)の領域における二つの隣り合う支持構造物(4)の最小間隔
(a)は、少なくとも当該シリンダヘッドボルト直径(d)に等しいことを特徴とする、
請求項1に記載のシリンダハウジング(1)。
【請求項4】
少なくとも一つのボルト収容部(9)は前記デッキ(7)から間隔が空けられているこ
とを特徴とする、請求項1から3のいずれか一項に記載のシリンダハウジング(1)。
【請求項5】
少なくとも一つのボルト収容部(9)は前記シリンダ(2)の中央領域内―特に中央三
分の一の領域(12)内―に配置され、その際、前記ボルト収容部(9)は側方が、二つ
の隣り合うシリンダ(2)の前記支持構造物(4)に接していることを特徴とする、請求
項1から4のいずれか一項に記載のシリンダハウジング(1)。
【請求項6】
前記支持構造物(4)は、前記冷媒ジャケット(5)の領域において、基本的に中空円
筒状に成形されていることを特徴とする、請求項1から5のいずれか一項に記載のシリン
ダハウジング(1)。
【請求項7】
前記中間デッキ(19)は主軸受隔壁(18)と結合されていることを特徴とする、請
求項1から6のいずれか一項に記載のシリンダハウジング(1)。
【請求項8】
前記冷媒ジャケット(5)は、前記支持構造物(4)の円筒状内壁(13)と前記シリ
ンダライナ(3)の円筒状外壁(14)との間において、前記シリンダ(2)の上方三分
の一の領域(15)内に形成されていることを特徴とする、請求項1から7のいずれか一
項に記載のシリンダハウジング(1)。
【請求項9】
少なくとも一つのエンジン短手方向断面(8)の領域において、二つのシリンダ(2)
の間に、前記シリンダハウジング(1)と一体に形成された主軸受隔壁(18)が配置さ
れていることを特徴とする、請求項1から8いずれか一項に記載のシリンダハウジング(
1)。
【請求項10】
組み付けられた状態において、当該内燃機関の運転中、前記支持構造物(4)は、前記
シリンダヘッドシール面(6)と前記ボルト収容部(9)との間に形成された領域が圧力
(C)によって負荷され、前記支持構造物(4)の残余の領域及び前記主軸受隔壁(18
)は、引っ張り力によって負荷されることを特徴とする、請求項7又は9のいずれか一項
に記載のシリンダハウジング(1)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、支持構造物に収容されたそれぞれ一つのウェットシリンダライナを有する少
なくとも二つの隣り合って配置されたシリンダを有し、その際、前記支持構造物と前記シ
リンダライナとの間に冷媒ジャケットが配置され、さらに、シリンダヘッドシール面を形
成する閉じたデッキを有し、その際、エンジン横断面の領域において二つのシリンダの
間にシリンダヘッドボルト用の少なくとも一つのボルト収容部が配置されるように構成さ
れた内燃機関のシリンダハウジングに関する。
【背景技術】
【0002】
ウェットシリンダライナを有する鋳造シリンダハウジングにおいて、当該シリンダライ
ナはその外周面が冷媒に接している。ウェットシリンダライナを有する鋳造シリンダハウ
ジングは、例えば、独国特許出願公開第102012111521号明細書から公知であ
る。その際、通例、当該エンジン横断面の領域において二つの隣り合ったシリンダの当
該シリンダハウジングの当該シリンダライナを収容する当該支持構造物は互いに連結され
ている。これによって、機械的及び熱的なデメリットが生ずる。
【0003】
特開2011-163215号から、当該シリンダヘッドボルト用の、当該シリンダハ
ウジング内の比較的低い位置に配置されたボルト収容部を有する鋳造シリンダヘッドが公
知に属する。その際、当該ボルト収容部は、当該シリンダの中央領域内に位置し、上部の
デッキから間隔が空けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】独国特許出願公開第102012111521号明細書
【文献】特開2011-163215号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、最適な冷却を可能にすると共に、当該シリンダハウジングの当該機械
的ストレスを低減するシリンダハウジングを提案することである。
【0006】
本発明によれば、上記目的は、冒頭に述べたタイプのシリンダハウジングにおいて、二
つの隣り合うシリンダの当該支持構造物が、当該シリンダ軸を含むエンジン長手方向断面
による当該エンジン横断面の切断領域において、互いに間隔が空けられていることによ
って達成される。これによって、当該シリンダライナの歪みは低減される。
【0007】
本発明により、一体形成された―例えば鋳造された―シリンダハウジングにおいて、好
適な力配分が生ずる。
【0008】
好適には、二つのシリンダ間の少なくとも一つのエンジン横断面の領域に、当該シリ
ンダハウジングと一体に形成された主軸受隔壁が配置されている。
【0009】
当該冷媒ジャケットの領域における二つの隣り合う支持構造物の当該最小間隔は、当該
シリンダヘッドボルト直径の少なくとも二分の一、好ましくは少なくとも当該シリンダヘ
ッドボルト直径に等しい。これによって、二つの隣り合うシリンダ相互の十分な熱的及び
機械的隔離が可能とされる。
【0010】
さらなる機械的隔離を達成すべく、さらに、少なくとも一つのボルト収容部は当該デッ
キから間隔が空けられていてよい。本発明のバリエーションにおいて、少なくとも一つの
ボルト収容部は当該シリンダの中央領域内に配置され、その際、好ましくは、当該ボルト
収容部の側方は、二つの隣り合った支持構造物に接している。これにより、当該シリンダ
ヘッドボルトの当該支持構造物からの十分な隔離が可能とされる。
【0011】
好ましくは、当該支持構造物は、当該冷媒ジャケットの領域において、基本的に中空円
筒状に成形され、その際、当該冷媒ジャケットが、当該支持構造物の円筒状内壁と当該シ
リンダライナの円筒状外壁との間において、好ましくは、当該シリンダの上方三分の一の
領域内に形成されていれば、熱的に高度に負荷される領域の特に良好な冷却を達成するこ
とができる。
【0012】
本発明の好適な実施形態において、当該支持構造物は、当該クランクケースの方向にお
いて当該冷媒ジャケットに連続する領域、好ましくは、当該ボルト収容部の領域に、円錐
状に成形された移行領域を有し、その際、円錐状に成形された当該移行領域は当該デッキ
の方向にテーパしている。この場合、少なくとも二つの隣り合った支持構造物が、円錐状
に成形された当該移行領域の底部の領域において、中間デッキを介して、互いに連結され
ているのが、特に好適である。好ましくは、当該中間デッキは主軸受隔壁と結合されてい
る。これによって、当該第一のボルト収容部から当該主軸受隔壁への好適な力の伝達並び
に当該シリンダハウジングの安定した機械的支保がもたらされる。
【0013】
組み付けられた状態において、当該内燃機関の運転中、当該支持構造物は、当該シリン
ダヘッドシール面と当該ボルト収容部との間に形成された領域が圧力によって負荷され、
当該支持構造物の残余の領域及び当該主軸受隔壁は、引っ張り力によって負荷されるのが
特に好適である。これにより、一方で当該シリンダ相互及び他方で当該各シリンダヘッド
ボルトの十分な機械的及び熱的隔離が可能とされる。同じく、当該シリンダライナの歪み
も低減される。
【0014】
以下、図面に示した、本発明を制限するものではない例を参照して、本発明を詳細に説
明する。各図は以下を示している。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】
図2に示したI-I線による、本発明によるシリンダハウジングの断面図である。
【
図2】
図1に示したII-II線による、上記シリンダハウジングの斜視断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
内燃機関のシリンダハウジング1は、それぞれ該シリンダハウジング1の支持構造物4
によって収容されるウェットシリンダライナ3を有する並列配置された複数のシリンダ2
のために考え出されている。該シリンダハウジング1は一体に形成され、シリンダライナ
3を支保する機能も詳細不図示のクランクシャフトを支保する機能も引き受ける。当該ク
ランクシャフトの軸支のために、該シリンダハウジング1は、エンジン横断面8の領域
に、統合された主軸受隔壁18を有する。その際、主軸受隔壁18は、正確に当該それぞ
れのエンジン横断面8内に形成されているか又は該断面からわずかにそれて形成されて
いてよい。さらに、例えば―鋳造プロセス又は積層造形法、例えば3Dプリントプロセス
において―一体に共同製造される該シリンダハウジング1のハウジングスカートが当該ク
ランクシャフトを収容するためのクランクケース16を張り広げている。
【0017】
内燃機関のクランクケーススカート及び主軸受隔壁18を含めたクランクケースは、該
シリンダハウジング1と一体に形成されている。
【0018】
支持構造物4とシリンダライナ3との間には、冷媒ジャケット5が配置されている。冷
媒ジャケット5の両側において、シリンダライナ3は支持構造物4のシール面4a、4b
に密接し、その際、シーリングには符号11が付されている。支持構造物4は、冷媒ジャ
ケット5の領域が、基本的に中空円筒状に形成されている。その際、冷媒路20から移行
路21を介して冷媒供給を受ける冷媒ジャケット5は、支持構造物4の円筒状内壁13と
シリンダライナ3の円筒状外壁14との間を半径方向に延びて、シリンダ2の上方三分の
一の領域15内に配置されている。ここで、上方三分の一の領域15とは、シリンダ2の
当該シリンダヘッドシール面6側に位置する三分の一の領域として理解される。その際、
移行路21は、弧を描いて、冷媒ジャケット5に合流し、これにより、冷媒流量は当該円
筒状の冷媒ジャケット5を介して所定の方法で分配される。これによって、シリンダ2の
均等な冷却が可能となる。
【0019】
詳細不図示の当該シリンダヘッド側に位置するシリンダハウジング1の当該上面に、該
シリンダハウジングは、シリンダヘッドシール面6を形成する閉じたデッキ7を有する。
エンジン横断面8の領域において、二つのシリンダ2の間には、詳細不図示のシリンダ
ヘッドボルト用の二つのボルト収容部9がデッキ7から離間して配置されている。当該実
施例において、デッキ7からのボルト収容部9の間隔bは、シリンダ2のシリンダ直径D
の大略二分の一に等しい。その際、ボルト収容部9は正確に当該それぞれのエンジン水平
断面8内に形成されているか又は該断面からわずかにそれて形成されていてよい。
【0020】
二つの隣り合うシリンダ2の支持構造物4は、シリンダ軸2aを含むエンジン長手方向
断面10によるエンジン横断面8の切断領域Sにおいて、互いに間隔が空けられており
、その際、本実施例における冷媒ジャケット5の領域における二つの隣り合う支持構造物
4の最小間隔aはシリンダヘッドボルト直径dに大略等しい。
【0021】
ボルト収容部9は、シリンダ2の中央三分の一の領域12内に位置している。その際、
各々のボルト収容部9は側方が、隣り合う二つの支持構造物4に接している。支持構造物
4は、クランクケース16の方向において冷媒ジャケット5に連続する領域―特に、ボル
ト収容部9の領域に―円錐状に成形された移行領域17を有する。円錐状に成形された移
行領域17はデッキ7の方向にテーパしている。円錐状に成形された移行領域17のベー
ス17aの領域において、隣り合った支持構造物4は、中間デッキ19を介して、互いに
連結されている。移行領域17には、クランクケース16の方向に向かって、主軸受隔壁
18が連続している。こうした配置により、
図2に示唆したように、シリンダハウジング
1内に、圧力C及び引っ張り力Tによる好適な力伝達が形成される。ボルト収容部9の上
方―図示実施例において、シリンダ2の上方三分の一の領域15内―において、当該内燃
機関の運転中、圧力Cがシリンダハウジング1の支持構造物4に作用する。他方、支持構
造物4の残余の領域、図示実施例において、当該シリンダの中央三分の一の領域12及び
その下の領域並びにシリンダハウジング1の主軸受隔壁18は、引っ張り力Tの作用を受
ける。
【0022】
支持構造物4がエンジン長手方向断面10の領域において互いに間隔が空けられ、ボル
ト収容部9がデッキ7から間隔が空けられていることにより、一方でシリンダ2相互及び
他方で当該シリンダヘッドボルトの十分な機械的及び熱的隔離が達成される。同じく、シ
リンダライナ3の歪みも低減される。