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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-12
(45)【発行日】2023-07-21
(54)【発明の名称】直流遮断装置
(51)【国際特許分類】
   H01H 33/59 20060101AFI20230713BHJP
   H01H 9/54 20060101ALI20230713BHJP
【FI】
H01H33/59 B
H01H9/54 A
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020108391
(22)【出願日】2020-06-24
(65)【公開番号】P2022006250
(43)【公開日】2022-01-13
【審査請求日】2022-07-08
(73)【特許権者】
【識別番号】501137636
【氏名又は名称】東芝三菱電機産業システム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100108062
【弁理士】
【氏名又は名称】日向寺 雅彦
(74)【代理人】
【識別番号】100168332
【弁理士】
【氏名又は名称】小崎 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100146592
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100172188
【弁理士】
【氏名又は名称】内田 敬人
(72)【発明者】
【氏名】川村 弥
【審査官】井上 信
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/104623(WO,A1)
【文献】特開平4-170221(JP,A)
【文献】特開2020-87775(JP,A)
【文献】特開2008-199228(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01H 33/59
H01H 9/54
H03K 17/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
機械式遮断器と、
前記機械式遮断器に並列に接続された逆電圧印加回路と、
を備え、
前記逆電圧印加回路は、
ダイオードと、
前記ダイオードに直列に接続され、前記機械式遮断器が開放される前にオンし、前記機械式遮断器が開放された後にターンオフするスイッチング素子と、
前記スイッチング素子に並列に接続されたスナバ回路と、
前記ダイオードおよび前記スイッチング素子の直列回路に並列に接続されたコンデンサと、
を含み、
前記コンデンサは、あらかじめ第1電圧値に充電され、前記第1電圧値は、前記スイッチング素子のターンオフ期間に発生するサージ電圧のピーク値よりも大きい直流遮断装置。
【請求項2】
前記第1電圧値は、前記機械式遮断器が遮断する直流遮断電流の最大値にもとづいて、一定値に設定された請求項1記載の直流遮断装置。
【請求項3】
前記第1電圧値は、前記機械式遮断器が遮断する直流遮断電流にもとづいて設定され、前記直流遮断電流に関して正の相関を有するように設定された請求項1記載の直流電源装置。
【請求項4】
前記コンデンサを前記第1電圧値に設定する電源回路
をさらに備えた請求項1~3のいずれか1つに記載の直流遮断装置。
【請求項5】
前記電源回路によって設定される前記第1電圧値は、制御装置が生成する電圧指令値にもとづいて、設定された請求項4記載の直流遮断装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、直流遮断装置に関する。
【背景技術】
【0002】
直流の電力線を遮断する直流遮断装置がある。直流は、交流のようにゼロクロスしないため、遮断時のエネルギの処理をどのようにするか、直流遮断装置のさまざま方式が検討され、提案されている。
【0003】
高圧直流送電システムに用いられるような直流遮断装置では、通常流れる直流電流が大きいため、主遮断器を機械式遮断器とすることによって、損失を改善し、放熱機構を簡素化することができる。一方で、機械式遮断器に流れる電流をゼロクロスさせるために、遮断動作時に機械式遮断器の電流を転流させる機構を追加する必要がある。
【0004】
このような機能を実現するために、逆電圧印加回路が、機械式遮断器の両端に接続される場合がある(たとえば、特許文献1等)。逆電圧印加回路は、機械式遮断器の両端に逆電圧を印加して、機械式遮断器に流れていた電流を強制的に引き込むことで、機械式遮断器の電流をゼロクロスさせ、機械式遮断器をアーク放電することなく開放させる。機械式遮断器の開放後には、逆電圧印加回路は、ターンオフされるが、ターンオフ時に配線等に起因する寄生インダクタンスにもとづくサージ電圧が発生することがある。逆電圧印加回路は、サージ電圧に起因して不具合を生じる場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2016-162713号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
実施形態は、逆電圧印加回路のターンオフ時にサージ電圧が発生しても、安全に動作を継続することができる直流遮断装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
実施形態に係る直流遮断装置は、機械式遮断器と、前記機械式遮断器に並列に接続された逆電圧印加回路と、を備える。前記逆電圧印加回路は、ダイオードと、前記ダイオードに直列に接続され、前記機械式遮断器が開放される前にオンし、前記機械式遮断器が開放された後にターンオフするスイッチング素子と、前記スイッチング素子に並列に接続されたスナバ回路と、前記ダイオードおよび前記スイッチング素子の直列回路に並列に接続されたコンデンサと、を含む。前記コンデンサは、あらかじめ第1電圧値に充電され、前記第1電圧値は、前記スイッチング素子のターンオフ期間に発生するサージ電圧のピーク値よりも大きい。
【発明の効果】
【0008】
実施形態では、逆電圧印加回路のターンオフ時にサージ電圧が発生しても、安全に動作を継続することができる直流遮断装置が実現される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】第1の実施形態に係る直流遮断装置を例示する模式的なブロック図である。
図2】直流遮断装置の動作を説明するための直流遮断装置の一部を例示する回路図である。
図3図3(a)は、図2の回路の各部の波形を模式的に示す動作波形図である。図3(b)は、図3(a)の動作波形を実現するための動作条件を模式的に示すグラフである。
図4】比較例の直流遮断装置の図2に対応する回路の各部の波形を模式的に示す動作波形図である。
図5】第2の実施形態に係る直流遮断装置を例示する模式的なブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施形態について説明する。
なお、図面は模式的または概念的なものであり、各部分の厚みと幅との関係、部分間の大きさの比率などは、必ずしも現実のものと同一とは限らない。また、同じ部分を表す場合であっても、図面により互いの寸法や比率が異なって表される場合もある。
なお、本願明細書と各図において、既出の図に関して前述したものと同様の要素には、同一の符号を付して詳細な説明を適宜省略する。
【0011】
(第1の実施形態)
図1は、本実施形態に係る直流遮断装置を例示する模式的なブロック図である。
図1に示すように、本実施形態の直流遮断装置1は、直流遮断器10と、制御盤80と、電源盤90と、を備える。直流遮断装置1は、たとえば直流の電力系統(以下、単に直流系統ともいう)に直列に接続される。直流遮断装置1は、上位制御装置70に接続されており、上位制御装置70によって設定された直流遮断電流にもとづいて、直流系統を遮断する。たとえば、上位制御装置70によって設定される直流遮断電流は、直流系統に流れる過大な直流電流であって、事故時に想定される最大の直流電流値が設定されている。
【0012】
直流遮断器10は、端子11a,11bを含む。端子11a,11bは、直流系統に接続される。この例では、直流遮断器10は、端子11aから端子11bに直流電流が流れるように接続される。
【0013】
制御盤80は、直流遮断器10に接続されている。制御盤80は、上位制御装置70によって設定された遮断電流値を指令値として、直流遮断器10に送信する。直流遮断器10は、遮断動作の開始、停止や後述する逆電圧印加回路20の過電圧状態等を制御盤80に送信する。
【0014】
制御盤80は、電源盤90にも接続されている。電源盤90は、太実線の矢印で示したように、制御盤80が動作するための電力を供給する。制御盤80は、直流遮断装置1の起動時や停止時等に電源盤90の電源投入順、遮断順等を電源盤90に指令する。
【0015】
電源盤90は、直流遮断器10に接続されている。電源盤90は、太実線で示したように、直流遮断器10の動作のための電力を供給する。直流遮断器10の動作のための電源には、後述する制御回路60の動作のための電源および充電回路30の動作のための電源が含まれる。
【0016】
直流遮断器10の構成について詳細に説明する。
直流遮断器10は、逆電圧印加回路20と、充電回路30と、機械式遮断器40,50と、制御回路60と、を含む。
【0017】
この例では、複数の逆電圧印加回路20が直列に接続されている。複数の逆電圧印加回路20の直列回路は、機械式遮断器40に並列に接続されている。複数の逆電圧印加回路20の直列回路と機械式遮断器40の並列回路は、機械式遮断器50に直列に接続されている。機械式遮断器40,50の直列回路は、端子11a,11bの間に接続されている。逆電圧印加回路20の直列数は、機械式遮断器40が遮断する電流にもとづいて設定され、たとえば、1つの逆電圧印加回路20が機械式遮断器40に接続されてもよい。
【0018】
なお、直流遮断器には、機械式遮断器40,50に並列に転流回路をさらに設けてもよく、転流回路によって直流遮断電流のエネルギを転流し、アレスタ等によって転流エネルギを吸収するようにしてもよい。その他、さまざまな構成としてもよい。
【0019】
逆電圧印加回路20は、スイッチング素子22a,22bと、ダイオード24a,24bと、コンデンサ26と、スナバ回路28a,28bと、を含む。ダイオード24aおよびスイッチング素子22aは、直列に接続されている。ダイオード24aが高電位側であり、スイッチング素子22aは低電位側に接続されている。スイッチング素子22bおよびダイオード24bは、直列に接続されている。スイッチング素子22bが高電位側であり、ダイオード24bは低電位側に接続されている。ダイオード24aおよびスイッチング素子22aの直列回路、スイッチング素子22bおよびダイオード24bの直列回路およびコンデンサ26は、並列に接続されている。スイッチング素子22a,22bは、自己消弧型の半導体素子であり、この例では、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)である。
【0020】
ダイオード24aおよびスイッチング素子22aの接続ノードは、高電位側の接続端子である。スイッチング素子22bおよびダイオード24bの接続ノードは、低電位側の接続端子である。複数の逆電圧印加回路20は、これらの端子により互いに接続されている。もっとも高電位側に接続された逆電圧印加回路20の高電位側の接続端子は、機械式遮断器40の高電位側に接続されている。もっとも低電位側に接続された逆電圧印加回路20の低電位側の接続端子は、リアクトル12を介して、機械式遮断器40の低電位側に接続されている。リアクトル12は、機械式遮断器40に流れる電流の急峻な時間変化を抑制するために設けられている。
【0021】
逆電圧印加回路20は、上述のように、スイッチング素子22a,22bおよびダイオード24a,24bによるHブリッジ回路であり、スイッチング素子22a,22bが配されたアームに流れる電流をスイッチング素子22a,22bによって制御することができる。
【0022】
スイッチング素子22a,22bは、直流遮断器10に流れる電流が遮断すべき電流に達した場合には、制御回路60から出力される駆動信号によってターンオンする。コンデンサ26には、あらかじめ所定の電圧が充電されており、スイッチング素子22a,22bのターンオンによって、高電位側の端子を基準にして、低電位側の端子に正の電圧が出力される。つまり、逆電圧印加回路20は、機械式遮断器40の高電位側と低電位側との間の電圧を相殺する方向に、機械式遮断器40に流れる電流を所定時間内に逆電圧印加回路20に転流させるように、逆電圧を出力する。なお、逆電圧印加回路20では、コンデンサ26の両端電圧は、スイッチング素子22a,22bに通電することによって過熱しないように、スイッチング素子22a,22bの特性や放熱条件等によって決定される。
【0023】
スナバ回路28aは、スイッチング素子22aのコレクタ-エミッタ間に接続されている。スナバ回路28bは、スイッチング素子22bのコレクタ-エミッタ間に接続されている。スナバ回路28a,28bは、たとえばRCDスナバである。RCDスナバは、CR直列回路からなり、抵抗器の両端にダイオードが接続されている。スナバ回路28a,28bは、スイッチング素子22a,22bのターンオフ時のコレクタ-エミッタ間電圧の急峻な上昇を抑制するために設けられている。
【0024】
充電回路(電源回路)30は、逆電圧印加回路20のコンデンサ26の両端に接続されている。充電回路30は、電源盤90から供給される電源によって動作し、コンデンサ26の両端の電圧が所定の値になるようにコンデンサ26を充電する。コンデンサ26の両端電圧VCは、スイッチング素子22a,22bがターンオフする過程において、寄生インダクタンス等によって発生するサージ電圧のピーク値よりも高い値に設定される。本実施形態では、コンデンサ26の両端電圧は、あらかじめ設定された固定値である。
【0025】
電源盤90は、交流電源92と、変圧器94と、整流器96と、を含む。電源盤90は、交流電源で生成した交流電圧を変圧器94で昇圧し、整流器96によって直流に変換して、充電回路30に供給する。
【0026】
電源盤90の内部のその他の具体的な構成については図示しないが、電源盤90は、制御回路60等の動作のための電源や制御盤80の動作のための電源を生成し、それぞれ供給する。
【0027】
本実施形態の直流遮断装置1の動作について説明する。
図2は、直流遮断装置の動作を説明するための直流遮断装置の一部を例示する回路図である。
図3(a)は、図2の回路の各部の波形を模式的に示す動作波形図である。図3(b)は、図3(a)の動作波形を実現するための動作条件を模式的に示すグラフである。
図2に示すように、図3(a)および図3(b)で用いる電流や電圧が定義されている。逆電圧印加回路20の回路構成は、上述したとおりである。2組のスイッチング素子22a,22bおよびダイオード24a,24bは、ほぼ同じ電流、電圧で動作するので、一方のスイッチング素子22aおよびダイオード24aの直列回路の組の動作について説明する。
【0028】
スイッチング素子22aのコレクタ-エミッタ間電圧をVCEとする。スイッチング素子22aのコレクタ電流をICEとする。スナバ回路28aは、スイッチング素子22aに並列に接続されており、スナバコンデンサCs、スナバダイオードDsおよび抵抗器RsからなるRCDスナバである。スナバ回路28aに流れ込む電流をIsとする。ダイオード24aに流れる電流をIdとする。
【0029】
図示しない電流検出器が、直流遮断電流を検出すると、制御回路60は、駆動信号を出力し、スイッチング素子22aをオンさせる。スイッチング素子22aがオンすることによって、機械式遮断器40とリアクトル12との直列回路の両端にコンデンサ26に充電された電圧が逆電圧として印加される。機械式遮断器40は制御回路60によって開放され、続いてスイッチング素子22a,22bは、制御回路60によって、ターンオフされる。なお、スイッチング素子22bは、スイッチング素子22aと同時にオンし、ターンオフするように、制御回路60によって制御される。
【0030】
図3(a)には、逆電圧印加回路20による逆電圧の出力後、スイッチング素子22aがターンオフする時刻t0からの各部の動作波形が示されている。時刻t0におけるスイッチング素子22aのコレクタ電流ICEを遮断電流ISDと呼ぶこととする。つまり、遮断電流ISDは、スイッチング素子22aがターンオフする直前のコレクタ電流ICEである。
【0031】
図3(a)に示すように、時刻t0からt1の期間で、コレクタ電流ICEは、遮断電流ISDから急速に低下し、ほぼ0となる。時刻t0からt1の期間に、端子21aから流入する電流の一部は、スナバ回路28aに転流される。スナバ回路28aに転流されることによって、スイッチング素子22aのコレクタ-エミッタ間VCEはゆるやかに上昇する。
【0032】
しかし、時刻t0からt1の期間では、コレクタ電流ICEの時間変化と、コレクタ電流ICEが流れている配線等の寄生インダクタンスとによって、スイッチング素子22aのコレクタ-エミッタ間に、サージ電圧を生ずる。サージ電圧は、スナバ回路28aによって吸収されないので、急峻な傾きのサージ電圧が発生し、コレクタ-エミッタ間電圧VCEは、サージ電圧とスナバ回路28aによる緩慢な上昇率を有する電圧波形の重畳波形が生成される。サージ電圧のピーク値がVdspである。
【0033】
本実施形態では、コンデンサの両端電圧VCは、サージ電圧のピーク値Vdspよりも高い値に設定(充電)されている。そのため、時刻t0からt1のスイッチング素子22aのターンオフ期間には、ダイオード24aには電流Idは流れない。
【0034】
時刻t2までに、端子21aから流入する電流のスナバ回路28aへの転流が完了し、コレクタ-エミッタ間電圧VCEがコンデンサ26の両端電圧VCに達する。
【0035】
時刻t2からt3の期間において、コレクタ-エミッタ間電圧VCEは、コンデンサ26の両端電圧VCを超えて上昇し、ダイオード24aが導通して電流Idが流れる。コレクタ-エミッタ間電圧VCEは、最大値Vdmに達する。
【0036】
図3(b)に示すように、スイッチング素子22aのコレクタ-エミッタ間電圧VCEに発生するサージ電圧のピーク値Vdspの大きさは、遮断電流ISDの大きさに依存する。ピーク値Vdspは、遮断電流ISDに対して正の相関関係を有する。
【0037】
本実施形態では、上位制御装置70によって設定された最大の直流遮断電流によって、スイッチング素子22aの遮断電流ISD(max)が設定される。直流遮断電流に関する遮断電流ISDの最大値ISD(max)は、たとえばシミュレーション等によって実験的に求められる。コンデンサ26の両端電圧VCは、設定された最大の遮断電流ISD(max)に対応するVCE間のサージ電圧のピーク値Vdsp(set)よりも高い値となるように設定される。両端電圧VCは、Vdsp(set)にΔVCを加算することによって設定される。ΔVC(>0)は、固定値であり、Vdspのばらつき等を考慮し、十分大きい値とされるが、コンデンサ26の耐電圧も考慮して決定される。
【0038】
後に比較例の動作によって説明するが、スイッチング素子22aのターンオフ期間中にサージ電圧のピーク値Vdspがコンデンサ26の両端電圧VCを超えた場合には、ダイオード24aが順バイアスされることがある。ダイオード24aが順バイアスされることによって、ピーク値Vdspが両端電圧VCを超えると、その期間順方向電流が流れる。サージ電圧が急峻であるため、この順方向電流は、大きなdi/dtを有する。そのため、ダイオード24aの逆回復現象によって、ダイオード24aの両端に過大な逆回復電圧が発生し、ダイオード24aは、破損に至る場合がある。
【0039】
本実施形態の直流遮断装置1では、スイッチング素子22aのターンオフ期間においてサージ電圧が発生しても、両端電圧VCは、ピーク値Vdspが両端電圧VCを超えないように設定されている。そのため、ダイオード24aは、スイッチング素子22aのターンオフ期間中にオンすることはない。したがって、ダイオード24aは、逆回復現象を生じることなく、スイッチング素子22aは、ターンオフ過程を完了することができる。
【0040】
図4は、比較例の直流遮断装置の図2に対応する回路の各部の波形を模式的に示す動作波形図である。
図4の場合には、コンデンサ26の両端電圧VC1は、上述した図3(a)の場合の両端電圧VCよりも低い値とされている。両端電圧VC1は、たとえば、機械式遮断器40の両端電圧を逆電圧印加回路20の個数で割った電圧程度に設定される。図4に示すように、サージ電圧は、時刻taでコンデンサ26の両端電圧VC1を超え、時刻tbでコンデンサ26の両端電圧VC1を下回る。
【0041】
このように、コンデンサ26の両端電圧VC1が低く設定されている場合には、スイッチング素子22aがターンオフしたときに発生するサージ電圧のピーク値Vdspがコンデンサ26の両端電圧VC1を超えることがある。ピーク値Vdspが、両端電圧VC1を超えた、時刻taから時刻tbの期間において、ダイオード24aが導通する。ダイオード24aがターンオフする時刻tbにおいて過大な逆回復電圧が印加され、ダイオード24aが破損する可能性を生ずる。なお、ピーク値Vdspは、遮断電流ISDが図3(a)の場合と同じであるので、図3(a)のVdspと同一の値となる。
【0042】
本実施形態では、上述のとおり、コンデンサ26の両端電圧VCは、最大の遮断電流ISD(max)にもとづいて設定されたサージ電圧のピーク値Vdsp(set)よりも高い値に設定されている。そのため、スイッチング素子22aのターンオフ過程においては、ダイオード24aに電流Idが流れることがない。そのため、ダイオード24aの逆回復現象による回路素子の破損を生ずることが防止される。
【0043】
本実施形態の直流遮断装置201の効果について説明する。
逆電圧印加回路20を構成する際に、スイッチング素子22a,22b、ダイオード24a,24b、コンデンサ26およびスナバ回路28a,28bを電気的に接続するには、ある程度のスペースを要するものであり、寄生インダクタンス等を完全になくすことが困難である。回路素子の配置や配線の引き回しの工夫等によって、寄生インダクタンス等によるサージ電圧を極力抑制することは可能であっても、完全になくすことは困難である。
【0044】
また、スイッチング素子22a,22bのターンオフ速度が向上することによって、直流遮断器10の機能、性能を向上させることが、サージ電圧発生の抑制をより困難にしている実態もある。
【0045】
スイッチング素子22a,22bのターンオフの過程においては、サージ電圧によるダイオード24a,24bが導通する期間も短縮され、流れる電流も小さくなるが、逆回復時の動作は、必ずしも電流が大きいときの現象よりも軽くなるとは限らない。また、ダイオード24a,24bについて、このような短時間の微小通電時の逆回復現象の最悪値を規定することも困難である。
【0046】
本実施形態の直流遮断装置1では、あらかじめ、コンデンサ26の両端電圧VCをスイッチング素子22a,22bサージ電圧のピーク値Vdsp(set)よりも高く設定している。そのため、スイッチング素子22a,22bのターンオフ期間においては、ダイオード24a,24bがオンすることがないので、逆回復現象を生じることがなく、安全に動作させることができる。
【0047】
(第2の実施形態)
上述の実施形態では、コンデンサ26の両端電圧VCは、固定とされていたが、本実施形態では、スイッチング素子22a,22bの遮断時のコレクタ電流にもとづいて可変される。
図5は、本実施形態に係る直流遮断装置を例示する模式的なブロック図である。
図5に示すように、本実施形態の直流遮断装置201は、直流遮断器210と、制御盤280と、電源盤290と、を備える。
【0048】
直流遮断器210は、上述の他の実施形態の場合と異なる充電回路230を有している。充電回路230は、電源盤290から供給される電圧にしたがって、コンデンサ26の両端電圧を充電する。充電回路230は、放電機能も有しており、一旦設定されたコンデンサ26の両端電圧をより低い電圧値に設定することもできる。なお、直流遮断器210に関する直流遮断電流の時間変化は、充電回路230による充電および放電に要する時間よりも十分ゆるやかであるものとする。
【0049】
制御盤280は、遮断すべき直流電流値を、上位制御装置70によって設定された値に設定する。本実施形態では、遮断すべき直流電流値は、固定ではなく、可変とされている。また、制御盤280は、上位制御装置70を介さずに、遮断すべき直流電流を設定するようにしてもよい。制御盤280は、直流遮断器210に流れている直流電流にかかわらず、遮断指令を直流遮断器210に送信することによって、直流遮断器210を遮断するようにしてもよい。
【0050】
制御盤280は、直流遮断電流と、その直流遮断電流に対応するコンデンサ両端電圧との関係を表すテーブルを有する。テーブルに代えて、直流遮断電流と、その直流遮断電流に対応するコンデンサ両端電圧との関係を表す近似式を有するようにしてもよい。制御盤280は、上位制御装置70等から直流遮断電流値が入力され、設定されると、その直流遮断電流値に応じたコンデンサ両端電圧を設定するための電圧指令値を電源盤290に送信する。
【0051】
なお、直流遮断電流値とその直流遮断電流に対応するコンデンサ両端電圧との関係は、図3(b)で示した遮断電流ISDとサージ電圧のピーク値Vdspとの関係から導かれる。遮断電流ISDは、直流遮断電流値の従属変数であり、直流遮断電流値が決まれば、遮断電流ISDが決定される。コンデンサ26の両端電圧VCは、ピーク値Vdspよりも大きい値であり、Vdsp+ΔVC(ΔVCは固定値)のように設定することができる。ΔVCの値は、固定値に限らず、たとえばVdspに応じて変えるようにしてもよい。
【0052】
電源盤290は、交流電源292と、変圧器94と、整流器96と、を含む。交流電源292は、制御盤280から送信されてくる電圧指令値に応じた交流電圧を出力する。したがって、電源盤290は、制御盤280によって設定された電圧指令値にもとづいて、充電回路230が出力する電圧を設定することができる。
【0053】
本実施形態の直流遮断装置201の動作について説明する。
本実施形態の直流遮断装置201では、制御盤280が設定した遮断すべき直流電流にもとづいて、コンデンサ26の両端電圧VCのための指令値を電源盤290に供給する。
【0054】
電源盤290の交流電源292は、指令値にもとづいて、出力すべき電圧を設定し、設定された電圧を出力する。したがって、電源盤290は、制御盤280が生成した指令値に応じた電圧を充電回路230に供給する。
【0055】
直流遮断器210の充電回路230は、電源盤290から供給される電圧に応じて、コンデンサ26の両端の電圧VCを充電し、あるいは放電する。
【0056】
本実施形態の直流遮断装置201の効果について説明する。
本実施形態の直流遮断装置201では、遮断すべき直流電流値に応じて、コンデンサ26の両端電圧VCを設定することができる。上述の他の実施形態において説明したように、スイッチング素子22a,22bのコレクタ-エミッタ間のサージ電圧のピーク値Vdspは、遮断電流ISDに関して正の相関を有する。遮断電流ISDも遮断すべき直流電流値と正の相関を有する。そのため、遮断すべき直流電流値が大きいほど、コンデンサ26の両端電圧VCを高くし、遮断すべき直流電流値が小さいほど、コンデンサ26の両端電圧VCを低くすることができる。
【0057】
コンデンサ26の両端電圧VCを、最悪時よりも低い電圧で維持することができるので、コンデンサ26の電圧ディレーティングにより、装置の寿命を実質的に延長することができる。
【0058】
遮断すべき直流電流値を最大値に固定する必要がないので、上位制御装置70からの指令に限らず、任意の時点で直流遮断器210の遮断動作をさせることができ、電力系統の運用を容易にすることができる。
【0059】
上述では、単一方向に直流電流を流す場合の直流遮断器の逆電圧印加回路の場合について説明したが、逆電圧印加回路のHブリッジを構成するアームすべてを自己消弧型のスイッチング素子とすることによって、双方向の直流遮断装置とすることもできる。
【0060】
以上説明した実施形態によれば、逆電圧印加回路のターンオフ時にサージ電圧が発生しても、安全に動作を継続することができる直流遮断装置を実現することができる。
【0061】
以上、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他のさまざまな形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明およびその等価物の範囲に含まれる。また、前述の各実施形態は、相互に組み合わせて実施することができる。
【符号の説明】
【0062】
1,201 直流遮断装置、10,210 直流遮断器、20 逆電圧印加回路、22a,22b スイッチング素子、24a,24b ダイオード、26 コンデンサ、28a,28b スナバ回路、30,230 充電回路、40,50 機械式遮断器、60 制御回路、70 上位制御装置、80,280 制御盤、90,290 電源盤、92,292 交流電源
図1
図2
図3
図4
図5