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特許7312761インビトロ培養及び移植のための組織構築物の生理学的3Dバイオプリンティングのためのバイオガム及び植物性ガムハイドロゲルバイオインク
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-12
(45)【発行日】2023-07-21
(54)【発明の名称】インビトロ培養及び移植のための組織構築物の生理学的3Dバイオプリンティングのためのバイオガム及び植物性ガムハイドロゲルバイオインク
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/68 20060101AFI20230713BHJP
   C12N 5/07 20100101ALI20230713BHJP
   C12N 5/02 20060101ALI20230713BHJP
【FI】
G01N33/68
C12N5/07
C12N5/02
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2020549630
(86)(22)【出願日】2019-10-25
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-08-10
(86)【国際出願番号】 US2019058025
(87)【国際公開番号】W WO2020086941
(87)【国際公開日】2020-04-30
【審査請求日】2020-11-27
(31)【優先権主張番号】62/750,390
(32)【優先日】2018-10-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/750,417
(32)【優先日】2018-10-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【早期審査対象出願】
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】518429296
【氏名又は名称】ビコ グループ アー・ベー
【氏名又は名称原語表記】BICO Group AB
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】レッドワン,アデル,イテデール ナムロ
(72)【発明者】
【氏名】セイヤー,パトリック
(72)【発明者】
【氏名】マルティネス,ヘクター
(72)【発明者】
【氏名】ゲーテンホルム,エリック
【審査官】倉持 俊輔
(56)【参考文献】
【文献】特表2010-533855(JP,A)
【文献】特表2018-501845(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0368225(US,A1)
【文献】国際公開第2018/187380(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/210663(WO,A1)
【文献】ZHAO Yu et al.,Three-dimensional printing of Hela cells for cervical tumor model in vitro,Biofabrication,2014年04月11日,Vol.6, No.3,pp.035001
【文献】Panwar A et al.,Current status of bioinks for micro-extrusion-based 3D bioprinting.,Molecules,2016年05月25日,vol. 21, no. 6,p 685,doi:10.3390/molecules21060685
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48-33/98,
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
a.組成物をバイオプリントして、バイオプリントされた組織又は足場を提供することであって、前記組成物が、
1つ以上の微生物、真菌、若しくは植物ベースの、又はそれらにより産生された、バイオガムと、
哺乳動物ベースのハイドロゲル、植物ベースのハイドロゲル、微生物ベースのハイドロゲル、又は合成的に誘導されたハイドロゲルから選択される1つ以上のハイドロゲルと、
を含み、
当該バイオプリントすることが、前記1つ以上のバイオガム及び前記1つ以上のハイドロゲルを、個体由来のヒト細胞と組み合わせる態様で実施され、前記個体の天然組織の微小環境の3D再現として前記バイオプリントされた組織又は足場を形成すること、及び
b.前記バイオプリントされた組織又は足場中の足場又は組織の1つ以上のタンパク質の存在及び/又は量を決定すること、
を含み、
前記バイオプリントされた組織又は足場中の前記足場又は組織の1つ以上のタンパク質の存在及び/又は量が、前記個体の疾患の存在を示すか、又は前記個体が前記個体の疾患の処置への応答を経験したかを示し、
前記組成物が、
前記バイオガムの一つとしてのキサンタンガムと、前記ハイドロゲルの一つとしてのゼラチン又はゼラチン誘導体、又は
前記バイオガムの一つとしてのグルコマンナンと、前記ハイドロゲルの一つとしてのキトサン
を含む、
ヒト個体の疾患を診断又は監視することを補助するための方法。
【請求項2】
a.前記バイオプリントすることの間の温度が4℃から40℃の範囲である;及び/又は
b.前記バイオプリントすることの間のプリント圧力が1から200kPaの範囲である、
請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記疾患が、肝臓疾患、代謝性疾患、糖尿病、心臓病、腎臓疾患、皮膚欠損、筋肉欠損、骨欠損、骨及び軟部組織肉腫、肺疾患、血管修復、腸疾患、瘻孔、軟骨欠損、網膜欠損、膀胱疾患、前立腺疾患、組織線維症、又は癌から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記組成物中における1つ以上の前記バイオガム:1つ以上の前記ハイドロゲルの重量比(w:w)が、5:95から95:5(w:w)の範囲にある、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記組成物が、架橋可能な、及び/又は前記組成物のレオロジー特性に寄与する、1つ以上の追加のバイオポリマーを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記1つ以上の追加のバイオポリマーが、1つ以上のアルギン酸塩、ヒアルロン酸及びその誘導体、アガロース及びその誘導体、キトサン、フィブリン、ジェランガム、シルク及びその誘導体、ナノフィブリル化セルロース、ミクロフィブリル化セルロース、結晶ナノセルロース、細菌ナノセルロース、カラギーナン、エラスチン、コラーゲン及びその誘導体、ゼラチン及びゼラチン誘導体、又はそれらの任意の組み合わせを含む、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記バイオプリントすることの間の前記プリント圧力が1から50kPaの範囲である、請求項2に記載の方法。
【請求項8】
前記バイオプリントすることの間の前記プリント圧力が50から200kPaの範囲である、請求項2に記載の方法。
【請求項9】
前記バイオガムがグルコマンナンであり、前記組成物中に0.5%から20%(w/v)の範囲の量で存在し、かつ、
前記ハイドロゲルがキトサンであり、前記組成物中に0.5%から10%(w/v)の範囲の量で存在する、
請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記グルコマンナンと前記キトサンが、それぞれ、0.5%から5%(w/v)の範囲の量で前記組成物中に存在する、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記バイオガムがキサンタンガムであり、前記組成物中に0.5%から20%(w/v)の範囲の量で存在し、かつ、
前記ハイドロゲルがゼラチン又はゼラチン誘導体であり、前記組成物中に0.5%から10%(w/v)の範囲の量で存在する、
請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記組成物が、
前記ゼラチン誘導体として、0.5%から10%(w/v)のゼラチンメタクリロイル、及び
0.5%から5%(w/v)のキサンタンガム
を含む、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記組成物中に前記キサンタンガムが、0.5%から3%(w/v)の範囲の量で存在する、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記ゼラチン誘導体がゼラチンメタクリロイルである、請求項11に記載の方法。
【請求項15】
前記組成物が、一又は複数の光開始剤をさらに含む、請求項12又は14に記載の方法。
【請求項16】
前記光開始剤が、フリーラジカル光開始剤、カチオン性光開始剤、アニオン性光開始剤、リチウムフェニル-2,4,6-トリメチルベンゾイルホスフィネート、又は1-[4-(2-ヒドロキシエトキシ)-フェニル]-2-ヒドロキシ-2-メチル-1-プロパン-1-オンである、請求項15に記載の方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
[0001] 本出願は、2018年10月25日に出願された米国仮特許出願第62/750,390号及び62/750,417号の開示に依拠し、優先権及び出願日の利益を主張するものであり、それぞれはその全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
発明の背景
発明の分野
[0002] 本発明は、3Dバイオプリンティング及び機能的組織工学の新たな分野に関する。より具体的には、本発明の実施形態は、インビトロ培養、移植、組織の発達、並びに薬物スクリーニング及び開発におけるその後の使用のための哺乳動物及びヒト組織構築物のバイオプリンティングで使用可能なバイオインクを構成するために、生体適合性生体材料と組み合わせてバイオガム及び/又は植物性ガムを含む、組成物に関する。
【背景技術】
【0003】
関連技術の説明
[0003] 3次元(3D)プリンティングプロセスでは、コンピューター支援設計であるCADファイルを使用して、プリンター装置によって層ごとにオブジェクトが製作される。3Dプリンティングは、患者固有の足場を製作するために、多くの科学者たちによって、組織工学で既に成功裏に使用されている。熱可塑性ポリマーで作製された足場は、3Dプリンターを使用して押出成形されている。熱可塑性材料を使用した3Dプリンティングの欠点は、多孔性構造への細胞遊走が制限されているため、細胞播種が困難なことである。3Dバイオプリンティングは、室温又は体温の液体を使用して動作するため、生細胞を処理できる可能性がある。3Dバイオプリンティングの導入は、組織工学及び再生医療の分野に革命をもたらすと期待されており、これにより、好ましくは患者自身の細胞を使用して、生体組織及び器官の再構築が可能となり得る。3Dバイオプリンターは、液体を分注しながら10μmの解像度でC、U、Z方向に移動できるロボットアームである。3Dバイオプリンターは、複数の細胞タイプを配置できるため、複雑な器官の構造を再構築できる。3D組織の階層アセンブリの必要性は、新技術が高度な組織の製作に不可欠であることを考えると、ますます重要になっている。3D細胞プリンティングは、天然組織の微小環境を再現する強力な技術として登場し、事前定義された位置に複数の細胞を正確に沈着させることができる。これらの技術の進歩と並行して、細胞活動を支持する適切な微小環境を提供することのできる適切なバイオインクについての探索が脚光を浴びている。バイオインクは、多くの場合、細胞生存能力及び生物学的活性を維持しながら、プリント適性を付与するために増粘剤と混合された低粘度又は温度感受性生体材料を含む。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0004】
発明の概要
[0004] 実施形態によれば、微生物由来のガム(例えば、キサンタンガム)又は植物由来(例えば、植物性)などのバイオガムは、様々な生体材料と組み合わせて増粘剤として利用され、プリンティングノズル及びパラメーターの範囲に互換性のあるプリント可能なバイオインクを製作する。本発明の実施形態は、ヒト組織及び足場の3Dバイオプリンティングにおける使用のための、細胞を伴い又は伴わない、1つの生体材料ベースのハイドロゲル(哺乳動物、植物ベース、又は微生物由来)又は合成ハイドロゲル、及び増粘剤(例えば、キサンタンガム、ジェランガム、デュータンガム、ウェランガム、プルランガム、アカシアガム、タラガム、グルコマンナン、ペクチン、ローカストビーンガム、グアーガム、カラギーナン及びトラガカント)として作用する、1つの微生物、真菌、若しくは植物ベースの、又はそれにより産生された、生体適合性多糖類、の2つのポリマーの組み合わせが、優れたプリント適正並びに改善された細胞機能、生存能力及び生着をもたらすという発見に依存する。
【0005】
[0005] 実施形態は、哺乳動物、植物、微生物に由来する、又は合成のハイドロゲルとともに、細胞を伴い又は伴わず、生体適合性微生物(キサンタンガム、ジェランガム、カードランガム、ウェランガム、プルランガムなど)、真菌、又は植物産生(アカシアガム、タラガム、グルコマンナン、ペクチン、ローカストビーンガム、グアーガム、カラギーナン、トラガカントなど)多糖類を含む、生理学的条件下でのヒト組織類似体及び足場のバイオプリンティングのためのバイオインク組成物に関する。さらに、バイオインク組成物の実施形態は、補助タンパク質及び超親和性成長因子及びモルフォゲンを含む細胞外マトリックス成分、ラミニン、成長因子などの他の分子の添加を通じて補完することができる。バイオインク組成物は、細胞適合性である3Dバイオプリンティングパラメーター(例えば、温度、プリント圧力、ノズルサイズ、バイオインクゲル化プロセス)に関連する生理学的条件下で使用することができる。1つの実施例によれば、微生物、真菌、又は植物性バイオガム多糖類と、哺乳動物、植物、微生物又は合成的に誘導されたハイドロゲルとの組み合わせは、これらのバイオガムを含有しないバイオインクでプリントされた組織と比較して、プリント適性、細胞機能、及び生存能力の改善を示した。したがって、実施形態は、製品(例えば、ヒト組織特異的バイオインク)及び方法(例えば、生理学的プリンティング条件)、並びに複数の適用を含む。
【0006】
[0006] 第1の態様では、以下を含む、3Dバイオプリンティングにおける使用のためのバイオインク組成物が提供される。
【0007】
[0007] (i)1つ以上の微生物、真菌、若しくは植物ベースの、又はそれにより産生された増粘剤成分(バイオガム及び/又は植物性ガム)、
【0008】
[0008] (ii)1つ以上の哺乳動物、植物、微生物、又は合成的に誘導された生体材料成分、及び
【0009】
[0009] (iii)任意選択により、1つ以上の補助成分。
【0010】
[0010] バイオインク組成物は、任意選択により、細胞を含む。
【0011】
[0011] いくつかの実施形態では、組成物は、ヒト細胞などの細胞を含む。
【0012】
[0012] いくつかの実施形態では、バイオガムは、キサントモナス(Xanthomonas)属のグラム陰性菌から産生されるキサンタンガムであり、以下のうちの1つ以上を含む。
【0013】
[0013] (i)X.カンペストリス(X. campestris)
【0014】
[0014] (ii)X.フラガリア1822(X. fragaria 1822)
【0015】
[0015] (iii)X.アルボリコーラ(X. arboricola)
【0016】
[0016] (iv)X.アキソノポディス(X. axonopodis)
【0017】
[0017] (v)X.シトリ(X. citri)
【0018】
[0018] (ii)X.フラガリア(X. fragaria)
【0019】
[0019] (vii)X. gummisudans 2182
【0020】
[0020] (viii)X.ジュグランディス411(X. juglandis 411)
【0021】
[0021] (ix)X.ファセオリ1128(X. phaseoli 1128)
【0022】
[0022] (x)X. vasculorium 702
【0023】
[0023] いくつかの実施形態では、バイオガムは、スフィンゴモナス(Sphingomonas)属のグラム陰性菌スフィンゴモナス・エルドダ(Sphingomonas Eldoda)から産生されるジェランガムである。
【0024】
[0024] いくつかの実施形態では、バイオガムは、アルカリゲネス(Alcaligenes)属のアルカリゲネス・フェーカリス(Alcaligenes faecalis)のグラム陰性菌から産生されるカードランガムである。
【0025】
[0025] いくつかの実施形態では、バイオガムは、アルカリゲネス(Alcaligenes)属のグラム陰性菌から産生されるウェランガムである。
【0026】
[0026] いくつかの実施形態では、バイオガムは、真菌のアウレオバシジウム・プルランス(Aureobasidium pullulans)から産生されたプルランガムである。
【0027】
[0027] いくつかの実施形態では、バイオガムは、以下のうちの1つ以上を含む、植物種から産生されるアカシアガムなどの植物性ガムである。
【0028】
[0028] アカシア ニロチカ(Acacia nilotica)
【0029】
[0029] アカシア セネガル(Acacia Senegal)
【0030】
[0030] バケリア(アカシア)・セヤル(Vachellia (Acacia) seyal)
【0031】
[0031] コンブレツム、アルビジア(Combretum, Albizia)
【0032】
[0032] いくつかの実施形態では、バイオガムは、T.スピノス(T. spinos)から産生されるタラガムである。
【0033】
[0033] 実施形態では、バイオガムは、アモルフォファルス・コンニャク(Amorphophallus konjac)から産生されたグルコマンノン(glucomannon)である。
【0034】
[0034] 実施形態では、バイオガムは、レモン、オレンジ、リンゴの皮からのペクチンである。
【0035】
[0035] 実施形態では、バイオガムは、セラトニア・シリカ(Ceratonia siliqua)から産生されたローカストビーンガムである。
【0036】
[0036] 実施形態では、バイオガムは、シャモプシス・テトラゴノロバ(Cyamopsis tetragonolob)から産生されるグアーガムである。
【0037】
[0037] いくつかの実施形態では、バイオガムは、コンドラスクリプス(アイリッシュ・モス)(Chondrus crispus (Irish moss))から産生されるカラギーナンである。
【0038】
[0038] いくつかの実施形態では、バイオガムは、アストラガルス(Astragalus)属のマメ科植物から産生されるトラガカントであり、以下のうちの1つ以上を含む。
【0039】
[0039] A.アドセンデンス(A.adscendens)
【0040】
[0040] A.グミファー(A.gummifer)
【0041】
[0041] A.ブラキカリックス(A.brachycalyx)
【0042】
[0042] いくつかの実施形態では、キサンタンガム又は他の微生物バイオガム、例えばジェランガム、デュータンガム、ウェランガム、又はプルランガム対生体材料の重量比(w:w)は、5:95から95:5w:w、又は80:20から20:80w:wの区間(10:90、20:80、30:70、40:60、50:50、60:40、70:30、80:20、90:10w:wなど)にあるか、又はこれらの値を包含する、若しくは含む、任意の範囲内である。
【0043】
[0043] いくつかの実施形態では、キサンタンガム又は他の微生物バイオガム、例えばジェランガム、デュータンガム、ウェランガム、又はプルランガム増粘剤成分は、0.5から20重量体積%(w/v)の区間の濃度を有し、0.6、0.7、0.8、0.9、1.0、1.5、2.0、2.5、3.0、3.5、4.0、4.5、5.0、5.5、6.0、6.5、7.0、7.5、8.0、8.5、9.0、9.5、10、10.5、11、11.5、12、12.5、13、13.5、14、14.5、15、15.5、16、16.5、17、17.5、18、18.5、19、19.5、又は20重量体積%(w/v)、又は0.5から2%w/v、2から5%w/v、5から8%w/v、8から10%w/v、3から7.5%w/v、1から6%w/v、4から8%w/v、5から15%w/v、8から20%w/v、2から18%w/vなどのこれらの値を包含する、又は含む、任意の範囲の濃度を含む。この濃度レベルは、初期濃度及び最終濃度として、及び組成物の他の成分で希釈した後の両方に関する。
【0044】
[0044] いくつかの実施形態では、植物性ガム対生体材料の重量比(w:w)は、5:95から95:5w:w、又は、例えば10:90、20:80、30:70、40:60、50:50、60:40、70:30、80:20、90:10w:wなどの80:20から20:80w:w、若しくはこれらの値を包含する/含む任意の区間内である。
【0045】
[0045] いくつかの実施形態では、植物性ガム増粘剤成分は、0.5から50重量体積%(w/v)の区間内の濃度を有し、0.6、0.7、0.8、0.9、1.0、1.5、2.0、2.5、3.0、3.5、4.0、4.5、5.0、5.5、6.0、6.5、7.0、7.5、8.0、8.5、9.0、9.5、10、12、14、16、18、20、25、30、35、40.45重量体積%(w/v)、又は0.5から2%w/v、0.4から1.2%w/v、0.6から1.5%w/v、2から5%w/v、5から8%w/v、8から10%w/v、3から7.5%w/v、1から6%w/v、4から8%w/v、5から50%w/v、10から50%w/v、10から40%w/v、0.5から25%w/v、20から50%w/v、5から45%w/v、1から10%w/v、5から35%w/vなどのこれらの値を包含する、又は含む任意の範囲の濃度を含む。この濃度レベルは、初期濃度及び最終濃度として、及び組成物の他の成分で希釈した後の両方に関する。
【0046】
[0046] いくつかの実施形態では、哺乳動物、植物、微生物又は合成的に誘導された生体材料は、架橋目的及び/又は親水コロイド又は増粘及びゲル化剤などのバイオインクのレオロジー特性に寄与するために、以下の成分:I型コラーゲン、コラーゲン及びその誘導体、ゼラチンメタクリロイル、ゼラチン及びその誘導体、フィブリノーゲン、トロンビン、エラスチン、アルギン酸(アルギン酸ナトリウムなど)、アガロース及びその誘導体、ヒアルロン酸などのグリコサミノグリカン及びその誘導体、キトサン、低及び高メトキシペクチン、ジェランガム、デュータンガム、グルコマンナンガム、及び/又はカラギーナンなどのバイオガム、ナノフィブリル化セルロース、ミクロフィブリル化セルロース、結晶性ナノセルロース、カルボキシメチルセルロース、メチル及びヒドロキシプロピルメチルセルロース、バクテリアナノセルロース、の少なくとも1つ、及び/又はこれらの成分の任意の組み合わせから選択される。
【0047】
[0047] いくつかの実施形態では、哺乳動物、植物、微生物、又は合成的に誘導された生体材料の濃度は、0.5から50%(w/v)の区間(0.6、0.7、0.8、0.9、1.0、1.5、2.0、2.5、3.0、3.5、4.0、4.5、5.0、5.5、6.0、6.5、7.0、7.5、8.0、8.5、9.0、9.5、10、12、14、16、18、20、25、30、35、40、45%(w/v)など、又はこれらの値を包含する、又は含む、任意の範囲(0.5から10%(w/v)など))にあり、細胞の濃度は、10万/mlから1億5千万/mlの区間にある。
【0048】
[0048] いくつかの実施形態では、哺乳動物、植物、微生物、又は合成的に誘導された生体材料は、以下の1つ以上を含む。
【0049】
[0049] a.アルギン酸、及びアルギン酸ナトリウムなどのその誘導体
【0050】
[0050] b.アガロース及びその誘導体
【0051】
[0051] c.ゼラチン及びその誘導体
【0052】
[0052] d.コラーゲン及びその誘導体
【0053】
[0053] e.フィブリン及びその誘導体
【0054】
[0054] f.ヒアルロン酸
【0055】
[0055] g.基底膜マトリックス
【0056】
[0056] h.ラミニン
【0057】
[0057] i.フィブロネクチン及びその誘導体
【0058】
[0058] j.ヘパラン硫酸プロテオグリカン
【0059】
[0059] k.セルロース及びその誘導体
【0060】
[0060] l.ペクチン及びその誘導体
【0061】
[0061] m.キトサン及びその誘導体
【0062】
[0062] n.シルク、及びシルクフィブロインなどのその誘導体
【0063】
[0063] o.ポリエチレングリコール及びその誘導体
【0064】
[0064] p.ポリ(ビニルアルコール)ベースのハイドロゲル
【0065】
[0065] q.ポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)(PNIPAM)
【0066】
[0066] r.ポリ(メタクリル酸2-ヒドロキシプロピル(PHPMA)
【0067】
[0067] s.ポリ(メタクリル酸2-ヒドロキシエチル)(PHEMA)
【0068】
[0068] いくつかの実施形態では、組成物は、生理学的条件下で提供される。
【0069】
[0069] いくつかの実施形態では、組成物は、以下の条件の少なくとも1つが満たされるように提供される。
【0070】
[0070] a.5~8の区間(5~7、又は6~8、又は7~8、又は約7を含む)にある組成物のpH値;
【0071】
[0071] b.組成物の浸透圧は、275から300mOsm/kgの区間(275~295、280~295、280~300、285~300mOsm/kgを含む(約295mOsm/kgなど))にある;
【0072】
[0072] いくつかの実施形態では、生体材料などの補助成分は、0.5%から50%w/vの範囲の濃度であってもよく、以下のうちの1つ以上を含んでもよい。
【0073】
[0073] a.フィブロネクチン及びその誘導体
【0074】
[0074] b.コラーゲン及びその誘導体
【0075】
[0075] c.細胞外マトリックス
【0076】
[0076] d.基底膜マトリックス
【0077】
[0077] e.フィブリン及びその誘導体
【0078】
[0078] f.エラスチン及びその誘導体
【0079】
[0079] g.グリコサミノグリカン、及びヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸、デルマチン硫酸、ヘパリン硫酸、ケラチン硫酸を含むその誘導体
【0080】
[0080] h.ラミニン及びその誘導体
【0081】
[0081] i.小分子
【0082】
[0082] j.ペプチド(接着、分化、形態形成)
【0083】
[0083] k.リゾチーム
【0084】
[0084] l.(a)増殖性、(b)分化(例えば、軟骨形成、線維形成、筋原性、心筋形成、神経形成、肝性、膵臓、腎臓、腸、皮膚、骨形成、発癌性)、及び/又は(c)幹細胞性維持(例えば、軟骨形成性、線維形成性、筋原性、心筋形成性、神経形成性、肝性、膵性、腎性、腸性、皮膚性、骨形成性、発癌性)を含む、成長因子及びモルフォゲン
【0085】
[0085] m.蛍光標識されたタンパク質及び生体分子
【0086】
[0086] 第2の態様では、本発明は、本発明の組成物をバイオプリンティングすることを含む、ヒト組織の3Dバイオプリンティングのための方法であって、それにより、バイオガム(例えば、微生物ガム、植物性ガム)、及び哺乳動物、植物、微生物又は合成源由来の生体材料を、ヒト細胞又は哺乳動物細胞と組み合わせる方法に関する。
【0087】
[0087] 第3の態様では、本発明は、本発明の組成物をバイオプリンティングすることを含む少なくとも1つの足場の3Dバイオプリンティングのための方法であって、それにより、バイオガム(例えば、微生物ガム、植物性ガム)ベースの増粘剤及び哺乳動物、植物、微生物又は合成由来の生体材料と組み合わせる方法に関する。
【0088】
[0088] いくつかの実施形態では、本発明のバイオプリンティングのための方法は、生理学的条件下で実施される。
【0089】
[0089] 本発明のバイオプリンティングのための方法に関するいくつかの実施形態では、3Dバイオプリンティング中に以下の条件の少なくとも1つが満たされる。
【0090】
[0090] a.3Dバイオプリンティング中の温度は、4℃から40℃の区間(10℃から40℃、20℃から40℃、及び30℃から40℃を含む(37℃など))にある;又は、
【0091】
[0091] b.3Dバイオプリンティング中のプリント圧力は、1~200kPaの区間(50kPa以下など(5~45kPa、10~35kPa、及び5~40kPaを含む))、又は細胞を用いたバイオプリンティングの場合は、5~25kPaの区間にある。
【0092】
[0092] さらなる態様では、本発明は、本発明にしたがって、ヒト細胞を用いた3Dバイオプリンティングのための方法によって調製されたバイオプリントされた組織又は器官に関する。
【0093】
[0093] さらに別の態様では、本発明は、肝臓疾患、代謝性疾患、糖尿病、心臓疾患、腎臓疾患、皮膚欠損、骨欠損、骨及び軟部組織肉腫、肺疾患、血管修復、腸疾患、網膜欠損、膀胱疾患、前立腺疾患、組織線維症(例えば、肝臓、腎臓、腸、肺、皮膚)、肝細胞癌などの任意の組織の癌、肝臓、結腸又は膵臓などの任意の組織の転移、結腸癌、肺癌、肝臓癌、膵臓癌、及び任意の他の組織の癌の処置を含む治療用途における使用のための、本発明にしたがってバイオプリントされた組織又は器官に関する。
【0094】
[0094] 別の態様では、本発明は、本発明にしたがってバイオプリントされた組織又は器官を使用することを含む、肝臓疾患、代謝性疾患、糖尿病、心臓疾患、腎臓疾患、皮膚欠損、骨欠損、骨及び軟部組織肉腫、肺疾患、血管修復、腸疾患、網膜欠損、膀胱疾患、前立腺疾患、組織線維症(例えば、肝臓、腎臓、腸、肺、皮膚)、肝細胞癌などの任意の組織の癌、肝臓、結腸又は膵臓などの任意の組織の転移、結腸癌、肺癌、肝臓癌、膵臓癌、及び任意の他の組織の癌を処置するための方法に関する。
【0095】
[0095] さらに別の態様では、本発明は、本発明のバイオプリントされた組織又は器官を培養する方法に関し、バイオプリントされた組織又は器官は、生理学的又は病理学的条件下で培養される。
【0096】
[0096] いくつかの実施形態では、少なくとも2つのタイプの細胞が異なる比率で共培養される。共培養における細胞比は、1:1、1:5、1:10、1:25、1:50、1:100、1:150、及びその間の任意の範囲から選択される。培養中の細胞タイプが2つを超える場合、比率は、1:1:1、1:1:5、1:1:10、1:1:50、1:1:100、及びその間の任意の範囲から選択される。
【0097】
[0097] 別の実施形態では、培養方法は、インビトロ培養、疾患モデリング、薬物スクリーニング、バイオマーカー発見、薬物開発のための組織モデル、物質試験及び生物活性化合物効力試験を目的としたものである。
【0098】
[0098] さらなる態様では、本発明は、本発明に従う培養方法により調製されるインビトロ培養物に関する。
【0099】
[0099] 本発明は、組織の発達、疾患の進行、薬物スクリーニング及び開発、並びにバイオマーカーのための、本発明に従うインビトロ培養物の使用に関する。
【0100】
[0100] さらに別の態様では、本発明は、本発明に従う3Dバイオプリンティングのための方法によって調製された、バイオプリントされた足場に関する。
【0101】
[0101] さらに別の態様では、本発明は、創傷治癒のための、本発明に従うバイオプリントされた足場の使用に関する。
【0102】
[0102] さらなる態様では、本発明は、本発明のバイオプリントされた足場を再配置することを含む、脱細胞化組織を調製する方法に関する。
【0103】
[0103] 別の態様では、本発明は、ヒト細胞を用いた本発明のバイオプリントされた足場を再配置することによって産生される、脱細胞化されたバイオプリントされた組織に関する。
【0104】
[0104] さらに別の態様では、本発明は、成長因子をさらに含む、本発明のバイオプリントされた組織、足場又は脱細胞化されたバイオプリントされた組織に関する。
【0105】
[0105] さらに別の態様では、本発明は、本発明の成長因子を含む、バイオプリントされた組織、足場又は脱細胞化組織を、病変組織又は器官に移植することを含む、組織修復を促進する方法に関する。
【0106】
[0106] 別の態様では、本発明は、本発明のバイオプリントされた組織、器官又は足場を移植する方法に関し、バイオプリントされた足場及び/又は組織は、皮下若しくは網内に、又は組織パッチとして直接的に病変組織又は器官に異所的に移植されるなど、病変組織又は器官に移植される。
【0107】
[0107] さらに別の態様では、本発明は、組織又は器官を修復する方法に関し、本発明のバイオプリントされた足場及び/又は組織は、創傷治癒を改善するための組織パッチとして移植される。
【0108】
[0108] 別の態様では、本発明は、組織又は器官の疾患を処置する方法に関連し、本発明のバイオプリントされた組織又は本発明の脱細胞化バイオプリントされた組織は、例えば、注射、移植、カプセル化又は体外適用などにより組織又は器官に適用される。
【0109】
[0109] 1つのさらなる態様では、本発明は、以下のステップを含む、疾患モデリングのための方法に関する。
【0110】
[0110] a.本発明のバイオプリントされた足場を提供するステップ;
【0111】
[0111] b.機械的調査を実施するステップ;及び/又は
【0112】
[0112] c.足場又は組織に対する、化合物、薬物、生物学的因子、機器又は治療的介入の効果を決定するステップ。
【0113】
[0113] さらに別の態様では、本発明は、以下のうちの1つ以上における使用のための、バイオプリントされた組織、足場又は脱細胞化バイオプリントされた組織に関する。
【0114】
[0114] a.病変組織又は器官への移植;
【0115】
[0115] b.バイオプリントされた足場及び/又は組織が、皮下又は網内に、又は組織パッチとして直接的に病変組織又は器官に異所的に移植される、ヒト又は動物の体への移植;
【0116】
[0116] c.バイオプリントされた足場及び/又は組織が、創傷治癒を改善するために組織パッチとして移植される、組織又は器官の修復;及び/又は
【0117】
[0117] d.請求されるバイオプリントされた組織又は脱細胞化されたバイオプリントされた組織が、注射、移植、カプセル化、又は体外適用などにより、組織又は器官に適用される、組織又は器官の疾患の処置。
【0118】
図面の簡単な説明
[0118] 添付の図面は、本発明の実施形態の一定の態様を示しており、本発明を限定するために使用されるべきではない。書面による説明とともに、図面は本発明の一定の原理を説明するのに役立つ。
【図面の簡単な説明】
【0119】
図1】[0119]33℃から15℃の範囲のGelXGの温度掃引を示すグラフであり、プロットされた値は、2つの反復の平均である。貯蔵弾性率(G’)及び損失弾性率(G’’)は左の第1軸に対応し、tanδは右の第2軸に対応する。
図2】[0120]0.002s-1及び500s-1の間のせん断速度での、4つの異なる温度でのGelXGのフロースイープを示すグラフである。
図3】[0121]20℃でのUV架橋GelXGの周波数掃引を示すグラフであり、貯蔵弾性率及び損失弾性率は左軸に対応し、複素粘度は右軸に対応する。
図4】[0122]同一サンプルに対して本試験前に実施された、周波数掃引の線形領域における20℃でのUV架橋GelXGの振幅掃引を示すグラフである。
図5】[0123]SilkInkの温度掃引を示すグラフである。
図6】[0124]25℃で測定されたSilkIInkのフロースイープを示すグラフである。
図7】[0125]異なる温度で測定されたSilkInkのフロースイープを示すグラフである。
図8】[0126]37℃でのSilkInkバイオインク(架橋及び非架橋)の周波数掃引を示すグラフである。
図9A】[0127]G3バイオインク(キトサン-グルコマンナンバイオインク)でプリントされた単層格子構造を示す写真である。
図9B】[0127]それらの速度を変化させて計算されたフィラメント幅を示す写真である。
図10A】[0128]キトサン-グルコマンナンバイオインク多層構築物が安定であることを示す写真である。
図10B】[0128]キトサン-グルコマンナンバイオインク多層構築物が安定であることを示す写真である。
図11】[0129]キトサン-グルコマンナンバイオインクが強力なフィラメントを提供することを示す写真である。
図12A】[0130]キトサン-グルコマンナンバイオインクのG3サンプルにつき、温度掃引を示すグラフである。
図12B】[0130]キトサン-グルコマンナンバイオインクの複数サンプルにつき、温度掃引を示すグラフである。
図13A】[0131]25℃でのキトサン-グルコマンナンバイオインクのフロースイープを示すグラフである。
図13B】[0131]37℃でのキトサン-グルコマンナンバイオインクのフロースイープを示すグラフである。
図14A】[0132]架橋後15分(図14A)での異なるキトサン-グルコマンナンバイオインクの圧縮応力-ひずみ曲線を示すグラフである。
図14B】[0132]架橋後16時間(図14B)での異なるキトサン-グルコマンナンバイオインクの圧縮応力-ひずみ曲線を示すグラフである。
図15】[0133]キトサン及びキトサン-グルコマンナンバイオインクの機械的特性を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0120】
本発明の様々な実施形態の詳細な説明
[0134] 用語の定義及び請求の特徴
【0121】
[0135] 「バイオガム」とは、細菌或いは他の微生物、真菌、又は、植物などの生体が産生する多糖類を指し、微生物バイオガムの例は、キサンタンガム、ジェランガム、デュータンガム、ウェランガム、及びプルランガムを含む。
【0122】
[0136] 「キサンタンガム」とは、マンノース2個、グルコン酸1個、及びグルコース2個の単位からなる五糖単位からなる一次構造を有するヘテロ多糖類を指す。キサンタンは、0~3の位置で1つおきのグルコース単位に結合したマンノース-グルクロン酸-マンノースからなる三糖側鎖を有するグルコース単位の主鎖からなる。
【0123】
[0137] 「ジェランガム」とは、グルコース2個、グルコン酸1個、及びラムノース2個の単位からなる四糖単位からなる一次構造を有するヘテロ多糖類を指す。主鎖構造は、グルコース-グルクロン酸-グルコース-ラムノースである。
【0124】
[0138] 「デュータンガム」とは、6つの糖からなる繰り返し単位からなる多糖を指す。主鎖は、d-グルコース、d-グルクロン酸、d-グルコース、及びl-ラムノース、並びにl-ラムノース2個の側鎖で構成される。
【0125】
[0139] 「ウェランガム」とは、L-マンノース又はL-ラムノースの単枝を有する繰り返し四糖単位からなる。
【0126】
[0140] 「プルランガム」とは、α-(1,6)-結合マルトトリオース残基で構成される中性ポリマーを指し、これは次にα-(1,4)グリコシド結合によって互いに接続されたグルコース分子3個で構成される。
【0127】
[0141] 「植物性ガム」とは、植物から分離された多糖類バイオガムを指し、植物性ガムの例には、アカシアガム、タラガム、グルコマンナン、ペクチン、ローカストビーンガム、グアーガム、カラギーナン、及びトラガカントが含まれる。
【0128】
[0142] 「アカシアガム」とは、セネガリア(アカシア)・セネガル(Senegalia (Acacia) Senegal)及びバケリア(アカシア)・セヤル(Vachellia (Acacia) seyal)の木から得られるヘテロ多糖類を指す。このガムは、アラビノース及びガラクトースの単糖からからなるアラビノガラクタンを含み、アラビノガラクタンタンパク質として知られるものを形成するタンパク質と結合する。
【0129】
[0143] 「タラガム」とは、α-D-ガラクトピラノース単位と(1-6)結合によって結合された(1-4)-β-Dマンノピラノース単位の線状主鎖からなるタラ科のT.スピノス(T.spinos)から分離されたヘテロ多糖類を指す。
【0130】
[0144] 「グルコマンノン(Glucomannon)」とは、コンニャク植物の根から分離された少量の分岐を有する直鎖ポリマーを指す。成分糖は、β-1(1→4)結合D-マンノース及びD-グルコースを1.6:1の比率で有する。
【0131】
[0145] 「ペクチン」とは、陸生植物の一次細胞壁に見られるヘテロ多糖類を指す。これらには、ホモガラクツロナンがα-(1-4)結合D-ガラクツロン酸、ラムノガラクツロナンII(RG-II)の線状鎖であり、複雑で高度に分岐した多糖類、アミド化ペクチン、高エステルペクチン、及び低エステルペクチンが含まれる。
【0132】
[0146] 「ローカストビーンガム」とは、グリコシド結合を介して結合したガラクトース及びマンノース単位から構成される高分子量の親水コロイド多糖類を指し、化学的にガラクトマンナンと記載され得る。ローカストビーンガムは、熱水又は冷水に分散可能であり、pH5.4から7.0の間でゾルを形成する。これは、少量のホウ酸ナトリウムを添加することでゲルに変換され得る。ローカストビーンガムは、D-マンノピラノース単位の直線骨格鎖とD-マンノピラノース単位を4個ごとにD-ガラクトピラノース単位分岐を平均1個有するD-ガラクトピラノースの側枝単位から構成される。
【0133】
[0147] 「グアーガム」とは、糖ガラクトース及びマンノースから構成されるエキソ多糖類を指す。主鎖は、β1,4-結合マンノース残基の線状鎖であり、ガラクトース残基はマンノース2個置きに1,6-結合しており、短い側枝を形成している。
【0134】
[0148] 「カラギーナン」は紅藻から分離された多糖類を指し、カラギーナンは、ガラクトース単位の繰り返し及び3,6アンヒドロガラクトース(3,6-AG)で構成される高分子量多糖類であり、硫酸塩及び非硫酸塩の両方がある。単位は、α-1,3及び1,4グリコシド結合を交互に結合している。カラギーナンは、カッパ、イオタ、及びラムダの3形態がある。カッパは、カリウムの存在下で硬いゲルを形成し、カッパフィカスアルバレジ(Kappaphycus alvarezii)から分離される。イオタは、カルシウムイオンの存在下で柔らかいゲルを形成し、ユーチュマ・デンティキュラタム(Eucheuma denticulatum)から分離される。ラムダはゲル化せず、純粋な増粘剤として使用される。
【0135】
[0149] 「トラガカント」は、A.アドセンデンス(A.adscendens)、A.グミファー(A.gummifer)、及びA.ブラキカリックス(A.brachycalyx)を含むアストラガルス(Astragalus)属の中東マメ科植物の複数種の乾燥樹液を指す。
【0136】
[0150] 「哺乳動物、植物、微生物、又は合成ハイドロゲル」とは、ハイドロゲルの特性を示す任意の生体適合性ポリマーネットワークを指す。ハイドロゲルは、親水性(例えば、水結合)特性を有するポリマーネットワークである。哺乳動物のハイドロゲルは、ヒト、ブタ、ウシを含む哺乳動物に見られる、様々な組織、器官、及び細胞由来のタンパク質又はポリマーからなる。植物ハイドロゲルは、樹木、藻類、昆布、海藻を含む、様々な植物に由来するタンパク質又はポリマーからなる。微生物ハイドロゲル(バイオガムとも呼ばれる)には、キサンタンガム、ジェランガム、デュータンガム、ウェランガム、及びプルランガムなどの細菌によって産生される多糖類が含まれる。合成ハイドロゲルには、ポリエチレン、ポリエチレン、ポリカプロラクトン、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、及びそれらの誘導体に由来するポリマーが含まれる。
【0137】
[0151] 「バイオプリンティング」とは、3Dプリンティング及び3Dプリンティングのような技術を利用して、細胞、成長因子、及び生体材料を組み合わせ、自然組織の特性を最大限に模倣する生物医学部品を製作することを指す。一般的に、3Dバイオプリンティングは、バイオインクとして公知の材料を堆積させるために積層法を利用して、後に医学及び組織工学分野で使用される組織様構造を作製する。
【0138】
[0152] 本明細書で使用される場合、「生理学的条件」は、培養物又は細胞について正常な生活環境に対して典型的である条件(例えば、pH、浸透圧、温度、プリンティング/押し出し圧力)を含み、例えばヒト細胞については、約37℃の温度(35℃~39℃の区間など)、1kPaから200kPaの区間(25kPa未満など)のプリント圧力、5~8の区間(約7など)のpH、及び275から300mOsm/kgの区間(約295mOsm/kgなど)の浸透圧、の条件を有する。
【0139】
[0153] 本明細書で使用される場合、「病理学的条件」は、培養物又は細胞の炎症性及び/又は発癌性条件の曝露を含み、例えば、疾患の再現を含む。
【0140】
[0154] 本明細書で使用される場合、「共培養」細胞は、少なくとも2つのタイプの細胞が一緒に培養されることを意味する。
【0141】
[0155] 本発明の文脈において、「バイオプリントされた足場」という用語は、細胞を含まない組成物でプリントされたバイオプリントされた構造又は組織を指す。一方、「バイオプリントされた組織」という用語は、細胞を含む組成物でプリントされたバイオプリントされた構造又は組織を指す。細胞は、自己、同種又は異種であり得る。細胞は、幹細胞(例えば、多能性、人工多能性、多分化能、分化全能性;間葉系、造血系、胚性、臍帯)、初代細胞(例えば、初代肝細胞、初代腎細胞)、又は不死化細胞であり得る。細胞は、例えば、肝臓、腎臓、心臓、肺、胃腸、筋肉、皮膚、骨、軟骨、血管新生組織、血管、管、耳、鼻、食道、気管、及び目などの組織からの細胞であり得るか、又はそれらを含むか、であり得るか又はそれらを含み得る。これらは、内皮細胞、ケラチノサイト、メラノサイト、ランゲルハンス細胞、及びメルケル細胞などの皮膚細胞、線維芽細胞、肥満細胞、形質細胞、マクロファージ、脂肪細胞、及び白血球などの結合組織細胞、骨芽細胞、破骨細胞、骨細胞、骨幹(骨形成性の)細胞などの骨組織細胞、軟骨細胞及び軟骨芽細胞などの軟骨細胞、平滑筋細胞、骨格筋細胞、心筋細胞などの筋細胞、タイプI(遅筋)、タイプIIa及びタイプIIb(速筋)などの筋繊維を有する任意の細胞、多極ニューロン、双極ニューロン、単極ニューロン、感覚ニューロン、介在ニューロン、運動ニューロン、脳のニューロン(例えば、ゴルジ細胞、プルキンエ細胞、錐体細胞)などの神経細胞、オリゴデンドロサイト、アストロサイト、上衣細胞、シュワン細胞、ミクログリア、及び衛星細胞などのグリア細胞、肝細胞、胆管上皮細胞(胆管細胞)、星細胞、クッパー細胞、肝類洞内皮細胞などの肝細胞、糸球体壁細胞、糸球体上皮細胞、近位尿細管刷子縁細胞、ヘンレ係蹄細部細胞、太い上行脚細胞、腎遠位尿細管細胞、集合管主細胞、集合管介在細胞、及び間質腎細胞などの腎細胞、膵島細胞、α細胞、β細胞、δ細胞、PP細胞などの膵細胞、膵細胞、視床下部細胞、下垂体細胞、甲状腺細胞、副甲状腺細胞、副腎細胞、松果体細胞、卵巣細胞、及び精巣細胞などの内分泌腺細胞、汗腺細胞、唾液腺細胞、乳腺細胞、耳道腺細胞、涙腺細胞、皮脂腺細胞及び粘液腺細胞などの外分泌系細胞、又は扁平上皮細胞、立方細胞、単層、重層及び偽重層などの構造に配列された円柱細胞などの上皮細胞を含み得る。
【0142】
[0156] 次に、本発明の様々な例示的な実施形態を詳細に参照する。例示的な実施形態の以下の説明は、本発明を限定することを意図するものではないことを理解されたい。むしろ、以下の議論は、本発明の一定の態様及び特徴のより詳細な理解を読者に与えるために提供される。
【0143】
[0157] 組成物
【0144】
[0158] 第1の態様では、本発明は、用途に応じて細胞を伴い又は伴わず、補助成分を伴い又は伴わず、バイオガムベースの増粘剤、及び哺乳動物、植物、微生物又は合成由来の生体材料を含むバイオインク組成物に関する。
【0145】
[0159] 実施形態では、本発明のバイオインク組成物は、1つ以上のバイオガム増粘剤、1つ以上の哺乳動物、植物、微生物又は合成生体材料、及び1つ以上の補助成分を含んでもよい。
【0146】
[0160] バイオガムは、原料(例えば、植物ベース(又は植物性)、真菌、又は微生物)に対して行われる当該技術分野で公知の異なる機械的、酵素的及び/又は化学的ステップに由来し得る。バイオインク組成物又は成分は、典型的には、無菌成分を使用して調製され、クリーンルーム条件で調製される。
【0147】
[0161] 実施形態では、バイオインク組成物は、HEPES(4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジンエタンスルホン酸)、PIPES(ピペラジン-N,N’-ビス(2-エタンスルホン酸))、TES(2-[(2-ヒドロキシ-1,1-ビス(ヒドロキシメチル)エチル)アミノ]エタンスルホン酸、N-[トリス(ヒドロキシメチル)メチル]-2-アミノエタンスルホン酸)、及びCAPS(N-シクロヘキシル-3-アミノプロパンスルホン酸)などの1つ以上の緩衝液を含み得る。バイオインク組成物はまた、蒸留水、生理食塩水、又はpH緩衝生理食塩水などの1つ以上の溶媒を含み得る。組成物の浸透圧は、1つ以上の細胞タイプとの適合性を提供するように設計することができる。
【0148】
[0162] いくつかの実施形態では、組成物又はその個々の成分の1つ以上は、溶媒又は緩衝剤による再構成に適した乾燥形態で提供される。
【0149】
[0163] バイオプリンティングの方法
【0150】
[0164] 別の態様では、本発明は、本発明の様々な製品、用途及び方法での使用に適したバイオプリントされた組織又は足場を調製するための方法に関する。
【0151】
[0165] 一般に、ヒト組織(細胞あり)又は足場(細胞なし)の3Dバイオプリンティングの方法は、1つ以上のバイオガムベースのバイオインク(ヒト細胞をあり又はなし)及びヒト組織特異的細胞外マトリックス(ECM)材料を組み合わせることを含み、3Dバイオプリンティングは生理学的条件下で行われる。
【0152】
[0166] 3Dバイオプリントされた組織又は足場は、格子状、ドロップ状、肝臓などの肝小葉などの組織特異的形状の形態であってもよい。3Dバイオプリントされた組織、構築物又は足場は、直径及び/又は長さ又は幅が0.1mmから50cmの区間にあるプリントされたサイズを有し得る。バイオプリンター装置は、CELLINK AB社の3DバイオプリンターのINKREDIBLE(商標)、INKREDIBLE+(商標)若しくはBIO X(商標)などの市販の任意のタイプ、又はモーター、プリントヘッド、プリント基板、プリント構造、カートリッジ、シリンジ、プラットフォーム、レーザー及び制御装置などの標準構成要素を備えた任意の従来のロボット型バイオプリンターのいずれであってもよい。
【0153】
[0167] バイオプリンティング用キット
【0154】
[0168] 一実施形態では、バイオインク組成物は、1つ以上のカートリッジ、バイアル、又はシリンジに装填された組成物を含むキットで提供される。組成物は、キット中に乾燥形態で提供することができる。キットは、組成物を再構成するための別個の緩衝液又は溶媒を含み得るか、又は、組成物は、組成物と同一のカートリッジ、バイアル、又はシリンジに既に含有され、緩衝液又は溶媒で既に再構成されて提供されてもよい。
【0155】
[0169] バイオプリントされた組織又は足場の調製方法は、生物学的条件下で実施することができ、プリントされた組織及び/又は細胞に応じて変化する可能性がある。典型的には、バイオプリンティング中の条件及びパラメーターは、以下の区間内で変化する。
【0156】
[0170] 温度:4℃から40℃。
【0157】
[0171] プリント圧力:1~200kPa。
【0158】
[0172] また、塩化カルシウム溶液、UV又は365nm、405nm、425nm、及び480nmなどの300nmから800nmの間の波長でのUV又は光照射、又は熱インキュベーション下での生体材料成分の自己組織化などのバイオプリンティングプロセスの間又はその後に、外部架橋を使用してもよい。使用できる光開始剤には、リチウムフェニル-2,4,6-トリメチルベンゾイルホスフィネート又はLAPが含まれる。他の光開始剤には、フリーラジカル光開始剤、カチオン性光開始剤、及びアニオン性光開始剤が含まれてもよい。光開始剤は、フリーラジカル、カチオン、又はアニオンを形成し、これらはその後反応し、重合又は架橋反応を触媒する。他の光開始剤の例には、ベンゾフェノン、ベンゾインエーテル、2-(ジメチルアミノ)エタノール(DMAE)、ヒドロキシアセトフェノン、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルプロパン--1オン及びヒドロキシル--フェニル-ケトン、イルガキュア(Irgacure)(登録商標)2959、2-ヒドロキシ-4’-(2-ヒドロキシエトキシ)-2-メチルプロピルフェノン、(2-ヒドロキシ-1-[4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]-2-メチル-1-プロパノン;(2,2’-アゾビス[2-メチル-N-(2-ヒドロキシメチル)プロピオンアミド];メタクリル酸2-イソシアノトエチル;ベンゾイルベンジルアミン;カンファーキノン;チオール-ノルボメン(チオール-エン);リボフラビン;ルシリン-TPO;ローズベンガル/フルフリル;エチルエオシン;メタクリル酸無水物;2,2-ジメトキシ-2-フェニルアセトフェノン;及びエオシンYが含まれるが、これらに限定されるものではない。
【0159】
[0173] バイオプリントされた組織又は器官
【0160】
[0174] 本発明の他の態様は、上記の方法によって産生されたバイオプリントされた組織を提供する。本明細書に記載されるように産生されたバイオプリントされた組織は、供給源組織サンプルの組織特異的細胞外マトリックスタンパク質組成を示す。
【0161】
[0175] バイオプリントされた足場+バイオプリントされた足場の使用
【0162】
[0176] 本発明の別の態様は、例えば、組織修復における使用のために、上記のように産生されたバイオプリントされたヒト足場又は組織を提供する。
【0163】
[0177] 細胞を伴う又は伴わない、及び/又は公知の成長因子を伴う又は伴わない、バイオプリントされた足場は、組織修復を促進するために、組織パッチなどの病変組織又は器官に埋め込むことができる。例えば、組織修復は、免疫調節に有利であるECMの能力に起因する創傷治癒によって促進され、それにより線維性疾患(例えば、肝線維症、腸線維症、瘻孔、クローン病、軟骨欠損など)における組織瘢痕を軽減する。
【0164】
[0178] バイオプリントされた組織の培養+インビトロ培養+インビトロ培養の使用の方法
【0165】
[0179] 本発明の実施形態は、ヒト疾患モデリング、薬物試験、及びバイオマーカー発見における使用のために、上記のように産生されたバイオプリントされたヒトの足場又は組織を提供する。
【0166】
[0180] バイオプリントされた組織は、薬物及び/又は細胞ベースの治療法をスクリーニングするために使用することができる。例えば、癌細胞を含むバイオプリントされた組織は、化学療法剤、免疫療法、及び/又はCAR-T、NK細胞に曝露される可能性がある。
【0167】
[0181] 移植の方法
【0168】
[0182] 本発明のさらに別の態様は、個体の組織又は器官の移植に使用するために、上記のように産生されたバイオプリントされたヒト足場又はバイオプリントされたヒト組織を提供する。
【0169】
[0183] 例えば、バイオプリントされたヒト足場又はバイオプリントされたヒト組織を個体に移植して、器官又は組織を置換してもよい。
【0170】
[0184] 組織及び器官の修復又は再生方法
【0171】
[0185] 本発明の別の態様は、個体の組織又は器官における疾患又は機能不全の処置に使用するために、上記のように産生されたバイオプリントされたヒト足場又はバイオプリントされたヒト組織を提供する。
【0172】
[0186] 例えば、バイオプリントされたヒト足場又はバイオプリントされたヒト組織は、完全に新しい器官を再生するため、又は損傷した器官の修復を改善するために個体に移植してもよく、又は体外から個体の器官機能を支持してもよい。
【0173】
[0187] 疾患を処置する方法
【0174】
[0188] バイオプリントされた足場又は組織は、例えば、個体の組織の置換又は補充のための療法に有用であり得る。
【0175】
[0189] 疾患の処置方法は、上記のようにそれを必要とする個体に産生されたバイオプリントされたヒト足場又はバイオプリントされたヒト組織を移植することを含んでもよい。
【0176】
[0190] 移植されたバイオプリントされた足場又は組織は、個体の既存の組織を置換するか又は補完することができる。
【0177】
[0191] バイオプリントされた足場又は組織は、肝臓疾患、代謝性疾患、糖尿病、心臓疾患、腎臓疾患、肺疾患、皮膚欠損、筋肉欠損、骨欠損、骨及び軟部組織肉腫、肺疾患、血管修復、腸疾患、瘻孔、軟骨欠損、網膜欠損、膀胱疾患、前立腺疾患、組織線維症(例えば、肝臓、腎臓、腸、肺、皮膚)、肝細胞癌などの任意の組織の癌、肝臓、結腸又は膵臓などの任意の組織の転移、結腸癌、肺癌、膵臓癌、及び本出願に開示された任意の他の組織の癌から選択されるいずれかの疾患の処置に使用してもよく、バイオプリントされた組織、器官又は足場を使用することを含むが、これらに限定されるものではない。
【0178】
[0192] 疾患モデリングの方法
【0179】
[0193] バイオプリントされた組織又はバイオプリントされた足場は、疾患モデリングに有用であり得る。上記のように、適切なECM源は、正常組織サンプル又は病理組織サンプル由来であってもよい。
【0180】
[0194] 疾患モデリングの方法は、以下を含み得る。
【0181】
[0195] 上記のように産生されたバイオプリントされた組織又は足場を提供すること、任意選択により、脱細胞化されたバイオプリントされた組織を産生するため細胞で組織又は足場をバイオプリンティングすること、及びバイオプリントされた足場若しくは組織又はその中にある細胞に対する化合物、薬物、生物学的薬剤、機器又は治療的介入の効果を決定すること。
【0182】
[0196] 本明細書に記載の方法は、組織線維症、組織癌及び転移、組織薬物毒性、移植後免疫応答、及び自己免疫疾患などの組織疾患又は組織に影響を与える疾患のモデリングに有用であり得る。
【0183】
[0197] 診断方法
【0184】
[0198] バイオプリントされた足場及び組織は、疾患の診断に有用であり得る。適切なバイオプリントされた足場及び組織は、組織又は器官に疾患を有することが疑われる個体からの組織に由来し得る。
【0185】
[0199] ヒト個体の疾患を診断する方法は、上記のように産生された、バイオプリントされた足場又は組織を個体から提供すること;及びサンプル中の1つ以上の足場のタンパク質の存在及び量を決定することを含み得る。
【0186】
[0200] サンプル中の足場タンパク質の存在及び量は、個体の組織又は器官における疾患の存在を示し得る。
【0187】
[0201] その他の適用
【0188】
[0202] バイオプリントされた足場及び組織は、プロテオミクス、バイオマーカー発見、及び診断への適用にも有用であり得る。例えば、バイオプリントされた足場及び組織の成分、構造又は形態に対するプロテアーゼの効果は、バイオマーカーの同定に有用であり得る。
【実施例
【0189】
[0203] 次に、本発明を以下の非限定的な実施例によって説明する。
【0190】
[0204] 実施例:GelXG、SilkInk、及びキトサン-グルコマンナンバイオインク
【0191】
[0205] 実施例1~3は、本発明のバイオインク組成物(GelXG)のレオロジーデータを提供する。バイオインク組成物GelXGは、緩衝液として、5%GelMA(ゼラチンメタクリロイル)+1.5%キサンタンガム+LAP0.25%(リチウムフェニル-2,4,6-トリメチルベンゾイルホスフィネート)+2.3%マンニトール+10 mM HEPES(4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジンエタンスルホン酸)を含む。実施例4は、本発明の別のバイオインク組成物(SilkInk)のレオロジーデータを提供する。バイオインク組成物SilkInkは、15%w/vシルクフィブロイン+1%w/vアルギン酸塩(例えば、アルギン酸ナトリウム)+10%w/v増粘剤としてのキサンタンガムを含む。実施例5は、本発明の別のバイオインク組成物(キトサン-グルコマンナンバイオインク)のレオロジーデータを提供し、このバイオインク組成物は、3.18%w/vのキトサン、1.818%w/vのグリセロールリン酸二ナトリウム塩(GP)、及びグルコマンナン(GM)0.909%w/vの量を含む。これらの実施例は単に例示的なものであり、本発明の特定の特徴を限定するものとして解釈されるべきではない。
【0192】
[0206] 実施例1:粘弾性特性の温度依存性(GelXG)
【0193】
[0207] 試験は、20mmのプレート-プレート形状(Discovery Hybrid Rheometer2、TA instruments、英国)を使用して、33℃で開始し、15℃で終了するように実施した。試験は、10rad/sの一定の角周波数で実施される。貯蔵弾性率G’、損失弾性率G’’及びtanδの2つの反復からの平均値が図1に提示される。
【0194】
[0208] 実施例2:粘度分析(GelXG)
【0195】
[0209] 試験は、20mmのプレート-プレート形状(Discovery Hybrid Rheometer2、TA instruments、英国)を使用して実施した。フロースイープを、せん断速度0.002s-1から500s1で、4つの温度:20℃、26℃、30℃及び37℃で実施した。フロースイープを図2で比較する。
【0196】
[0210] 実施例3:架橋サンプルの特性(GelXG)
【0197】
[0211] 試験は、8mmの鋸状のプレート-プレート形状(Discovery Hybrid Rheometer2、TA instruments、英国)を使用して実施した。0.16Hz及び6.3Hzの間で周波数掃引を実施し、貯蔵弾性率、損失弾性率及び複素粘度をプロットした。その後、貯蔵弾性率の線形領域からの周波数での振幅掃引を同じサンプルで実施した。全ての試験は、20℃で、20秒間UV(405nm)で架橋された3Dプリントされたサンプル(直径=8mm、高さ=2mm)で実施した。図3は、UV架橋GelXGの周波数掃引の結果を示し、図4は、同じGelXGサンプルの振幅掃引の結果を示す。
【0198】
[0212] 実施例4(SilkInk)
【0199】
[0213] 調製:第1の溶液(30%w/vシルクフィブロイン(SF)溶液)及び第2の溶液(アルギン酸塩(例えば、アルギン酸ナトリウム)キサンタンガム(XG)ブレンド)を、ルアーロックアダプターを使用して、シリンジ間で1:1の比率で、最大10回前後に動かして、成分の最終濃度(15%w/vシルクフィブロイン+1%w/vアルギン酸塩(アルギン酸ナトリウム)+10%w/vキサンタンガム)を得た。合計3つのバッチを調製した。第1のバッチは、混合後、明らかにシルクの自己組織化をいくらか有していたが、他の2つは、この影響を最小限とするため、さらに穏やかに混合された。
【0200】
[0214] 図5は、SilkInkサンプルの温度掃引を示すグラフである。SilkInkバイオインクは温度感受性ではなく、15~40℃の範囲を通してほぼ同一の性能を示す(30℃を超えるとG’がわずかに増加するが、これはシルクタンパク質集合体が原因であり得る)。SilkInkバイオインクは、G’が常にG”よりも高いため、明確なゲル化点を有しない。
【0201】
[0215] 図6及び7は、広いせん断速度範囲でのバイオインクの非常に安定したせん断減粘挙動(図6)、及び異なる温度でのバイオインクの非常に類似したせん断減粘挙動を示すフロースイープであり、これにより、SilkInkが温度非感受性のバイオインクであることが確認される(図7)。
【0202】
[0216] 図8は、SilkInkサンプル(架橋及び非架橋)の周波数掃引を示すグラフである。架橋SilkInkの場合、1Hzでの貯蔵弾性率は20kPaを超え、これは、構築物を堅牢にするのに十分に高い。非架橋SilkInkの場合、貯蔵弾性率は1kPaより高いものの、より低くなり、非架橋SilkInkは架橋なしであっても安定した状態を維持するはずであるが、取り扱いはより困難になる可能性がある。非架橋SilkInkの場合、発振周波数が高くなると、貯蔵弾性率は増加し、これは、押出後の連続的なシルクの自己組織化を示唆する。
【0203】
[0217] 実施例5(キトサン-グルコマンナンバイオインク)
【0204】
[0218] 図9A及び9Bは、G3バイオインクでプリントされた単層格子構造(図9A)、及び異なる速度で計算されたそれらのフィラメント幅(図9B)を示す。キトサン-グルコマンナンバイオインクは、目詰まりがなく、滑らかなラインであり、1層の良好なプリント適正を示すが、グルコマンナンが高濃度になると、目詰まり及びフィラメント破損をもたらす。図10A及び10Bは、キトサン-グルコマンナンバイオインク多層構築物が安定(例えば、滑らかなライン)であることを示す写真である。図11は、キトサン-グルコマンナンバイオインクが強力なフィラメント(7mmギャップでも崩壊の兆候なし)を提供することを示す。
【0205】
[0219] 図12A及び12Bは、架橋剤(この場合ではトリポリリン酸ナトリウム(STPP))と混合後、キトサンバイオインクが完全に温度非依存性であることを示す、温度掃引である(図12A)。G3の場合、貯蔵弾性率は、室温で約0.6kPaである(図12B)。グルコマンナンの添加は、バイオインクをより硬くするために重要である(G3対G3C)。G4~6は、G3よりも多くのグルコマンナンを含有し、したがって、G3よりも高い貯蔵弾性率を有する。
【0206】
[0220] 図13A及び図13Bは、0.2s-1のせん断速度を超える全てのサンプルについて、キトサンバイオインクが良好なせん断減粘挙動を示したことを示すフロースイープである(図13A)。粘度は、キトサン/GP比(G1、G2、及びG3C)に比例するが、グルコマンナンの添加によりこの関係は消失する(グルコマンナンが粘度を決定する)。全てのグルコマンナン含有バイオインクは、37℃でも優れたせん断減粘挙動を示す(図13B)(25℃とほぼ同一、挿入画像)。
【0207】
[0221] 図14A及び14Bは、架橋後15分(図14A)及び16時間(図14B)の、異なるキトサンベースの3Dプリント構築物の圧縮応力-ひずみ曲線を示すグラフである。100NロードセルUTS(Instron 5565A、英国)を、40%ひずみに達するまで、圧縮速度1%/sで使用した。円柱状サンプル(d=8mm、h=2mm)をゲルキャスター中で調製し、弾性係数及び靭性を計算した(値は図15の表に示す)。
【0208】
[0222] 本発明は、様々な特徴を有する特定の実施形態を参照して説明されている。上記で提供された開示に照らし、本発明の範囲又は精神から逸脱することなく、本発明の実施において様々な修正及び変更を行うことができることは、当業者には明らかであろう。当業者は、開示された特徴が、所与の出願又は設計の要件及び明細書に基づいて、単独で、任意の組み合わせで、又は省略されて使用され得ることを認識するであろう。実施形態が一定の特徴を「含む」ことを指す場合、実施形態は、代替的に、任意の1つ以上の特徴「からなる」又は「から本質的になる」ことができることを理解されたい。本発明の他の実施形態は、本発明の明細書及び実施を考慮することにより、当業者には明らかであろう。
【0209】
[0223] 本明細書において値の範囲が提供される場合、その範囲の上限と下限の間の各値も具体的に開示されることに特に留意されたい。これらのより小さい範囲の上限及び下限は、独立してその範囲に含まれてもよく、又はその範囲から除外されてもよい。単数形「a」、「an」、及び「the」には、文脈で明確に指示されていない限り、複数の指示対象が含まれる。明細書及び実施例は、本質的に例示的なものであると見なされ、本発明の本質から逸脱しない変更は、本発明の範囲内に含まれることが意図されている。さらに、この開示で引用された全ての参考文献は、それぞれ個別にその全体が参照により本明細書に組み込まれ、そのようにして本発明の授権する開示を補完する効果的な方法を提供するとともに、当業者のレベルの詳細を説明する背景を提供することを意図している。
【0210】
(要約)
ヒト組織及び足場の3Dバイオプリンティングにおける使用のための、細胞を伴い又は伴わず、ハイドロゲル及び微生物産生、真菌産生、又は植物産生の多糖類などの生体材料(哺乳動物、植物ベース、合成由来、又は微生物由来)を含む、バイオインク組成物が記載される。バイオインク組成物は、優れたプリント適性及び改善された細胞機能、生存能力並びに生着性を有する。さらに、バイオインク組成物は、補助タンパク質、及び細胞外マトリックス成分、ラミニン、超親和性成長因子及びモルフォゲンを含む成長因子などの他の分子の添加により補完することができる。バイオインク組成物は、細胞適合性である3Dバイオプリンティングパラメーター(例えば、温度、プリント圧力、ノズルサイズ、バイオインクゲル化プロセス)に関する生理学的条件下で使用することができる。哺乳動物、植物、微生物又は合成的に誘導されたハイドロゲルとのバイオガムベース生体材料の組み合わせは、バイオガムを含有しないバイオインクでプリントされた組織と比較して、プリント適正、細胞機能及び生存能力の改善を示した。

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9A
図9B
図10A
図10B
図11
図12A
図12B
図13A
図13B
図14A
図14B
図15