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特許7312771炭化水素を解析する方法、2つの石油留分を比較する方法、炭化水素中の所定の炭化水素をアッセイする方法、水中の所定の炭化水素をアッセイする方法、及び自律移動体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-12
(45)【発行日】2023-07-21
(54)【発明の名称】炭化水素を解析する方法、2つの石油留分を比較する方法、炭化水素中の所定の炭化水素をアッセイする方法、水中の所定の炭化水素をアッセイする方法、及び自律移動体
(51)【国際特許分類】
   G01N 30/88 20060101AFI20230713BHJP
   G01N 30/86 20060101ALI20230713BHJP
   G01N 30/62 20060101ALI20230713BHJP
   G01N 30/66 20060101ALI20230713BHJP
【FI】
G01N30/88 M
G01N30/88 G
G01N30/86 H
G01N30/62 F
G01N30/66
【請求項の数】 20
(21)【出願番号】P 2020566331
(86)(22)【出願日】2019-02-15
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-06-10
(86)【国際出願番号】 FR2019050354
(87)【国際公開番号】W WO2019158879
(87)【国際公開日】2019-08-22
【審査請求日】2022-02-10
(31)【優先権主張番号】1851416
(32)【優先日】2018-02-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】520314397
【氏名又は名称】アピックス アナリティック
【氏名又は名称原語表記】APIX ANALYTICS
【住所又は居所原語表記】MINIPARC POLYTEC IMMEUBLE TRAMONTANE 60 R DES BERGES, 38000 GRENOBLE, FRANCE
(73)【特許権者】
【識別番号】508013548
【氏名又は名称】トタルエナジーズ エス ウ
(74)【代理人】
【識別番号】110000785
【氏名又は名称】SSIP弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】コリネ、エリック
(72)【発明者】
【氏名】アンドレッシ、フィリップ
(72)【発明者】
【氏名】プジェ、ピエール
(72)【発明者】
【氏名】ロリオー、マテュー
(72)【発明者】
【氏名】オルドネ ヴァレラ、ジョン リシャール
(72)【発明者】
【氏名】エスラー、 フランク
【審査官】黒田 浩一
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2016/0327518(US,A1)
【文献】特表2013-531789(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0184556(US,A1)
【文献】特表2017-502269(JP,A)
【文献】特開2011-106911(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0024100(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2015/0300999(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2011/0011157(US,A1)
【文献】Mo Li et al.,Nanoelectromechanical Resonator Arrays for Ultrafast, Gas-Phase Chromatographic Chemical Analysis,Nano Lett.,2010年,Vol.10,pp.3899-3903
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 30/00-30/96
G01N 33/18
G01N 33/22
G01N 33/28
G01N 29/00-29/52
G01N 11/00-13/04
G01N 5/00-9/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭化水素を解析する方法であって、
第1の制御温度プロファイルに従ってガスクロマトグラフィ分離を行い、試料を複数の分析物に分離する工程と、
共振周波数で振動するように作られた機能層で被覆されたナノ電気機械システム(NEMS)型の少なくとも1つの共振器の共振周波数の変化を、前記機能層による前記分析物の吸着または脱着の影響下で測定することで、前記分析物のうち少なくとも1つを検出する工程と、を含み、
前記共振器は、前記第1の制御温度プロファイルより低い第2の制御温度プロファイルに曝されることを特徴とする方法。
【請求項2】
前記第1の制御温度プロファイルと前記第2の制御温度プロファイルの温度差は、5~150℃である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記第1の制御温度プロファイルの温度は、50~400℃の間で展開する、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記第2の制御温度プロファイルの温度は、0~350℃の間で展開する、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記分析物のうち少なくとも1つを検出する工程は、前記共振器の共振振幅の変化を測定することをさらに含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記試料は、16~40個の炭素原子を有する炭素鎖を含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記共振器は、温度調節されたチャンバーに封入され、前記チャンバーは、制御された方法で前記チャンバーの温度を変化させるように構成された温度調節ユニットを含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記共振器が封入された前記チャンバーから熱的に分離されたチャンバーにクロマトグラフィカラムが封入される、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記共振器と同じ流路に配置されたカサロメータにより、少なくとも1つの前記分析物を分析することをさらに含む、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記共振器の応答のベースラインから、同じ温度プロファイルで流体循環がない状態で予め測定された前記共振器のブランク応答のベースラインを減算する処理を行うことを含む、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
参照共振器である少なくとも1つの第2の共振器の共振周波数の変化を、同じ温度プロファイルで前記分析物に曝さずに測定し、前記分析物に曝された前記共振器の応答信号から前記参照共振器の応答信号を減算する処理を行うことをさらに含む、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記分析物の分子組成は、前記共振器の共振周波数の変化の測定から推定される、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記分析物の流体特性は、前記共振器の共振振幅の変化の測定からさらに推定される、請求項5と組み合わされる請求項12に記載の方法。
【請求項14】
2つの石油留分を比較する方法であって、
請求項1~13のいずれか一項に記載の方法を実行することで、前記石油留分のそれぞれの組成を解析することを含む方法。
【請求項15】
炭化水素中の所定の炭化水素をアッセイする方法であって、
請求項1~13のいずれか一項に記載の方法を実行することで、前記炭化水素の試料中の前記炭化水素を検出することを含む方法。
【請求項16】
水中の所定の炭化水素をアッセイする方法であって、
請求項1~13のいずれか一項に記載の方法を実行することで、前記試料中の前記炭化水素を検出することを含む方法。
【請求項17】
請求項1~16のいずれか一項に記載の方法を実施するための分析システムを備える、炭化水素の採取および/または水中探査のための掘削器具または自律移動体であって、
前記分析システムは、
第1の温度調節チャンバーに配置されたガスクロマトグラフィカラムと、
前記ガスクロマトグラフィカラムの出口側の流路に配置されたナノ電気機械システム(NEMS)型の共振器であって、第2の温度調節チャンバーに配置された機能層を含む共振器と、
前記共振器を共振周波数で振動させ、前記機能層による分析物の吸着または脱着の影響下で前記共振周波数の変化を測定するのに適した読み取り装置と、を含み、
前記第1の温度調節チャンバー及び前記第2の温度調節チャンバーは、互いに熱的に分離し、各チャンバーは、温度調節ユニットを含み、前記温度調節ユニットは、異なる温度プロファイルに従って、各チャンバーの温度を変化させるように構成された、掘削器具または自律移動体。
【請求項18】
前記分析システムは、前記流路の前記共振器より上流側又は下流側に配置されたカサロメータをさらに含む、請求項17に記載の掘削器具または自律移動体。
【請求項19】
前記第1の制御温度プロファイルと前記第2の制御温度プロファイルの温度差は、30~100℃である、請求項1に記載の方法。
【請求項20】
前記第1の制御温度プロファイルと前記第2の制御温度プロファイルの温度差は、40~60℃である、請求項1に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭化水素を解析する方法、2つの石油留分を比較する方法、炭化水素中の所定の炭化水素をアッセイする方法、水中の所定の炭化水素をアッセイする方法、及び自律移動体に関する。
【背景技術】
【0002】
炭化水素のガスクロマトグラフィ分析用の測定チェーンは、インジェクタ(ガスバルブまたは液体噴射タイプ)、分離カラム、および少なくとも1つの検出器から構成される。
【0003】
分析のニーズのため、測定チェーンの各点で温度を制御する必要がある。
【0004】
特に、インジェクタと検出器の温度を、分析するガス状試料の沸点(試料が気体状態となる温度)より約50℃高く設定された一定値に維持することが広く行われている。
【0005】
カラムに関しては、温度制御がより繊細である。カラムの温度は、分析試料を構成するさまざまなガスのピークを確実に分離し、分析速度を向上させるように調整する必要がある。試料の露点と沸点の間のカラム温度で操作することが好ましい。
【0006】
したがって、多くの場合、20℃~350℃の広い温度範囲でカラムを維持する必要がある。
【0007】
2種類の分析が広く行われている。1つ目は、カラムの温度を一定の値に制御する。この等温分析は、分析サイクル(2つの連続する分析間の時間間隔)を最小に短縮する必要がある大気圧での(試料を構成する分析対象の沸点差が小さい)単純なガス状試料に特に適している。「温度プログラミング」による2つ目のアプローチは、段階的または徐々にカラムの温度を上昇させる線形温度勾配による。この2番目のアプローチは、例えば室温で液体状態にある複雑な混合物など、沸点差が大きい複雑な試料に使用される。温度勾配(℃/分で表される温度上昇率)は、分離能力または分析時間のニーズに応じて調整される。この勾配により、固定相(カラムを機能させる化学物質)とカラム内の移動相(ガス)の間の吸収/脱着現象を制御することもできる。固定相と移動相の間のこの共有により、所与の分析物の移動速度が決定され、分析試料中に存在する2つの異なる分析物を分離することが可能となる。
【0008】
カラムの出口に位置する検出器は、異なる分子を検出し、分離されたクロマトグラフィピークに変換することを可能にする。
【0009】
検出器に関して、いくつかの異なる技術が存在する。
【0010】
従来使用されている検出器として、カサロメータ(熱伝導率検出器;Thermal Conductivity Detectorの頭字語をとってTCDと呼ばれる)が挙げられる。このセンサの利点は、汎用的であること、すなわち、あらゆるタイプのガスを検出できることである。また、このセンサは試料のガス状化合物に対して非破壊的である。したがって、別のタイプの検出器と直列に連結することができる。さらに、この検出器は、使用する不活性キャリアガス(ヘリウム、アルゴン、窒素)がその感度に関係している場合でも、キャリアガスと適合性がある。この検出器の欠点は、現在購入可能な最新の検出器であっても、その感度が、軽化合物(炭素原子数が7未満の炭素鎖)の場合はppmオーダーであり、重化合物(炭素原子数が7以上の炭素鎖)の場合は10ppm程度であることである。
【0011】
別のタイプのセンサは、FID(炎イオン化検出器;Flame Ionisation Detector)と呼ばれる。このセンサは、炭化水素に対して良好な感度(ppm未満)を有する。さらに、その感度は炭素原子の数に伴い直線的に増加する。ただし、この検出器は炭素含有物(アルカン、アルケン、芳香族化合物)にのみ高感度であり、汎用的ではない。さらに、その動作には水素炎が必要であり、水素の消費が必要であるため、爆発環境との適合性が低い。最後に、この検出器は、試料のガス状化合物が燃焼するという欠点がある。
【0012】
特定のニーズに対してより限定的に使用される他のタイプの検出器が存在する。これらとしては以下のものを挙げられる。
・PFPD(パルスド炎光光度検出器;Pulse Flame Photonic Detector):硫黄またはリンを含む物質に対して非常に高感度だが、汎用的ではなく、水素の使用を伴い、試料を破壊する。
・HID(ヘリウムイオン化検出器;Helium Ionisation Detector):検出限界がppmオーダーの汎用検出器であり、分析物の質量に高感度だが、放射線源が必要であり、ヘリウムの大量消費を伴う。また、この検出器の他の欠点として、試料の一部が破壊される。
・NEMS(ナノ電気機械システム;Nano-Electro-Mechanical-System):NEMS型の検出器は、共振器に設けられた機能層への分析物の吸着または脱着の影響下で、共振器の共振周波数の変化に基づく質量測定を可能とする。この検出器は、炭素数1~40個の幅広い分子(炭素鎖に限定されない)に対して優れた感度(ppm未満)を有する。試料に対して非破壊的であるため、別の検出器と直列に連結することができる。さらに、この検出器は、感度に大きな影響を与えることなく不活性キャリアガス(ヘリウム、アルゴン、窒素)の互換性があり、(HIDとは異なり)水素と適合性がある。一方、軽化合物(炭素数1~6)に対しては感度が高くない。
【0013】
NEMSを除く全ての検出器では、検出器の受感部までの試料の正確な輸送と検出器の正確な操作を確実にするために、操作温度を分析するガス状試料の沸点より高く制御する必要がある。
【0014】
NEMS検出器の場合、その検出限界を最適化するために温度を細かく制御する必要がある。実際、温度上昇に伴い吸着現象が最小限に抑えられる範囲で、検出器を十分に低い温度に維持することが一般的に求められる。しかしながら、検出器の温度を下げすぎると、吸着反応が過剰になり、共振器で分析物の凝縮が起こる可能性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【文献】欧州特許出願公開第2008965号明細書
【文献】国際公開第2012/034990号
【文献】国際公開第2012/034951号
【文献】国際公開第2014/053575号
【文献】欧州特許出願公開第2878942号明細書
【文献】国際公開第2015/097282号
【非特許文献】
【0016】
【文献】[Mile2010] E.Mile,G.Jourdan,I.Bargatin,S.Labarthe,C.Marcoux,P.Andreucci,S.Hentz,C.Kharrat,E.Colinet,L.Duraffourg,“In-plane nanoelectromechanicalresonators based on silicon nanowire piezoresistive detection”,Nanotechnology21,2010年,165504
【文献】[Bao2007] M.Bao,H.Yang,“Squeeze film airdamping in MEMS”,Sensors andActuators A 136,2007年,3-27
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明の目的は、危険な環境で実施することができる、広範囲の炭化水素に対して良好な感度を有する方法を設計することである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
この目的のため、本発明では、炭化水素を解析する方法であって、
第1の制御温度プロファイルに従ってガスクロマトグラフィ分離を行い、炭化水素を含有する試料を複数の分析物に分離する工程と、
共振周波数で振動するように作られた機能層で被覆されたナノ電気機械システム(NEMS)型の少なくとも1つの共振器の共振周波数の変化を、機能層による分析物の吸着または脱着の影響下で測定することで、分析物のうち少なくとも1つを検出する工程と、を含み、
共振器は、第1の制御温度プロファイルより低い第2の制御温度プロファイルに曝されることを特徴とする方法が提供される。
【0019】
「第1のプロファイルよりも低い第2のプロファイル」とは、各時点において、共振器に適用される温度が、分離が行われるクロマトグラフィカラムに適用される温度よりも低いことを意味する。
【0020】
特に有利な方法では、第1の制御温度プロファイルと第2の制御温度プロファイルの温度差は、5~150℃、好ましくは30~100℃、より好ましくは40~60℃である。
【0021】
好ましい実施形態では、第1の制御温度プロファイルの温度は、50~400℃の間で展開する。また、第2の制御温度プロファイルの温度は、0~350℃の間で展開する。
【0022】
一実施形態では、分析物のうち少なくとも1つを検出する工程は、共振器の共振振幅の変化を測定することをさらに含む。
【0023】
特に有利な方法では、試料は、16~40個の炭素原子を有する炭素鎖を含む。
【0024】
また、本方法の好ましい実施形態では、共振器は、温度調節されたチャンバーに封入され、このチャンバーは、上記の決定された温度プロファイルに従ってチャンバーの温度を変化させるように構成された温度調節ユニットを含む。
【0025】
さらに、共振器が封入されたチャンバーから熱的に分離されたチャンバーにクロマトグラフィカラムが封入されてもよい。
【0026】
一実施形態では、本方法は、共振器と同じ流路に配置されたカサロメータにより、少なくとも1つの分析物を分析することをさらに含む。
【0027】
特に有利な方法では、本方法は、共振器の応答のベースラインから、同じ温度プロファイルで流体循環がない状態で予め測定された共振器のブランク応答のベースラインを減算する処理を行うことを含む。
【0028】
これに代わって、本方法は、参照共振器である少なくとも1つの第2の共振器の共振周波数の変化を、同じ温度プロファイルで分析物に曝さずに測定し、分析物に曝された前記共振器の応答信号から前記参照共振器の応答信号を減算する処理を行うことをさらに含んでもよい。
【0029】
特に有利な方法では、分析物の分子組成は、共振器の共振周波数の変化の測定から推定される。
【0030】
さらに、共振器の共振振幅の変化が測定された際、共振器の共振振幅の変化の測定から分析物の流体特性が推定されてもよい。
【0031】
本発明の適用例の1つは、上記の方法を実行することで、石油留分のそれぞれの組成を解析し、2つの石油留分を比較することである。
【0032】
本発明の別の適用例は、上記の方法を実行することで、炭化水素の試料中の成分を検出し、炭化水素中の所定の成分をアッセイすることである。
【0033】
本発明の別の適用例は、上記の方法を実行することで、水試料中の炭化水素を検出し、水中の所定の炭化水素をアッセイすることである。
【0034】
また、本発明は、上記の方法を実施するための分析システムを備える、炭化水素の採取および/または水中探査のための掘削器具または自律移動体であって、
分析システムは、
第1の温度調節チャンバーに配置されたガスクロマトグラフィカラムと、
ガスクロマトグラフィカラムの出口側の流路に配置されたナノ電気機械システム(NEMS)型の共振器であって、第2の温度調節チャンバーに配置された機能層を含む共振器と、
共振器を共振周波数で振動させ、機能層による分析物の吸着または脱着の影響下で共振周波数の変化を測定するのに適した読み取り装置と、を含み、
第1の温度調節チャンバー及び第2の温度調節チャンバーは、互いに熱的に分離し、各チャンバーは、温度調節ユニットを含み、温度調節ユニットは、異なる温度プロファイルに従って、各チャンバーの温度を変化させるように構成されたものである掘削器具または自律移動体に関する。
【0035】
特に有利な方法では、分析システムは、流路の共振器より上流側又は下流側に配置されたカサロメータをさらに含む。
【0036】
本発明の他の利点および特徴は、添付の図面を参照して、以下の詳細な説明から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0037】
図1】本発明の実施形態による共振器の走査型電子顕微鏡画像、および共振器の断面図である。
図2】一実施形態による検出器で得られた生のクロマトグラム(時間(秒)の関数としての検出器の応答)である。
図3図2のクロマトグラムから検出器のブランク応答のベースラインを減算して得られたクロマトグラム(時間(秒)の関数としての検出器の応答)である。
図4】外因性現象に関連するベースラインの変動を排除可能な差分読み取り装置のブロック図である。
図5】ガソリンとC28H58の混合物について、NEMS共振器と異なるチャンバーに封入されたクロマトグラフィカラムを用いて得られた3つのクロマトグラムであり、それぞれカラムと共振器との間の温度差が異なり、2つのチャンバーの間の熱分離の影響が示される。
図6図5の生成に使用したガソリンとC28H58の混合物について、FID検出器とNEMS検出器を用いてそれぞれ得られたクロマトグラムであり、クロマトグラフィカラムとNEMS共振器との間の最も好ましい温度差が適用される。
図7】凝縮物について、FID検出器とNEMS検出器を用いてそれぞれ得られたクロマトグラムであり、NEMS共振器の温度は、クロマトグラフィカラムの温度プロファイルより60°低い線形プロファイルに従う。
図8】本発明の一実施形態による検出器の分解斜視図である。
図9】本発明の一実施形態による検出器の分解斜視図である。
図10】本発明の一実施形態による検出器の分解斜視図である。
図11】本発明の一実施形態による検出器の分解斜視図である。
図12】本発明の一実施形態による検出器の分解斜視図である。
図13】本発明の一実施形態による共振器を封入するチャンバーの部分断面図である。
図14】本発明の一実施形態による共振器を封入するチャンバーの部分断面図である。
図15】共振器が配置される流路の一実施形態の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0038】
本発明は、少なくとも1つのNEMS共振器に基づく検出器を実装する。この検出器は、ガスクロマトグラフィカラムの出口に配置されており、試料に含まれ、カラムによって分離された1つ以上の分析物を検出する。試料は室温で気体状態であってもよい。あるいは、試料は室温で液体であってもよく、蒸気状態でカラムに注入するためにその沸点以上の温度まで加熱され、また、試料の凝縮を回避するためにカラム、共振器、およびこれを接続する流路をその沸点以上の温度に維持してもよい。試料は、キャリアガスによってクロマトグラフィカラムと検出器に輸送される。
【0039】
共振器は、少なくとも1つの主表面が対象の分析物と化学的親和性を持つ機能層で覆われたビーム形状を有する。
【0040】
目的の用途に応じて、機能層は極性または無極性を有する。
【0041】
必要に応じて、検出器は、対象の分析物に応じて選択された、同一または異なる機能層を含む複数の共振器を含んでもよい。
【0042】
ビームは基板に対して吊り下げられる。一実施形態では、ビームの一端は基板に埋め込まれ、他端は自由である。しかしながら、ビームを吊るす他の方法、例えば、ビームの両端で埋め込むことが想定されてもよい。
【0043】
このような共振器のビームの寸法は、例えば、長さが数マイクロメートル、幅が数百ナノメートル、厚さが百ナノメートル程度である。
【0044】
例示的な実施形態によれば、ビームは、長さが1~100μm、幅が50~500nmまたは数μm、厚さが50~500nmである。
【0045】
共振器は、共振器を共振周波数で振動させ、機能層による分析物の吸着または脱着の影響下で共振周波数の変化を測定するように構成された電子読み取り装置にスレーブ化される。
【0046】
対象の分析物が機能層に吸着(または脱着)すると、共振器の有効質量が変化し、共振器の共振周波数が変化する。したがって、読み取りシステムによる共振周波数の変化の測定により、共振器の質量の変化を測定し、そこから分析するガスまたは蒸気の濃度を推定することができる。分析物の所与の濃度に対して、吸着されたガスの質量、延いては測定感度は、分析物の蒸気相と吸着相の間の平衡定数に依存する。この平衡定数は、表面の温度と反応表面の物理化学的特性に依存する。したがって、機能層は、所与の使用温度で高い吸着相/気相平衡定数を有することが有利である。
【0047】
機能層の所与の濃度と所与の性質に対して、検出器の温度が低下すると、吸着される分析物の質量が増加し、検出器によって送信される信号が増加する。しかしながら、検出器の温度が低すぎると、吸着反応が過剰になり、最終的に検出器の表面で凝縮が発生する可能性がある。したがって、所与の対象の分析物に対する検出器の最適な動作温度が存在する。この最適な動作温度は、分析物の沸点とほぼ同じように上昇する。
【0048】
NEMS共振器の製造は既知であるため、本明細書では詳細には説明されない。本発明による検出器に実装可能なNEMS共振器を開示している文献[Mile2010]、欧州特許出願公開第2008965号明細書、国際公開第2012/034990号、および国際公開第2012/034951号を特に参照することができる。
【0049】
単一のNEMS共振器の代わりに、検出器は1つ以上のNEMS共振器のアレイを含むことができることに留意されたい。
【0050】
単一の共振器に対して、共振器アレイには複数の利点がある。まず、共振器アレイは、分析する種を捕獲する全表面を提供するが、これはビーム数が多いほど大きくなる。これにより、試料中に含まれる低濃度の種をより精密に検出して分析することができる。さらに、共振器アレイを使用することにより、アレイのうち1つの故障の影響を他の共振器の動作によって補償し、最小限に抑えることができ、これにより、検出器の堅牢性を向上することができる。最後に、N個のNEMS共振器のアレイの場合、理論的には、信号に関してルートNオーダー(または電力に関してNオーダー)の検出限界のゲインに到達する。
【0051】
本発明による検出器に実装可能なNEMS共振器のアレイの説明については、国際公開第2014/053575号を参照することができる。
【0052】
さらに、NEMS共振器の複数のアレイが検出器に使用される場合、これらのアレイを、アレイごとに異なる機能層で機能化することができる。
【0053】
以下の説明で、単数形の「NEMS共振器」という用語が使用されるが、この記載は、アレイ状にまたは非アレイ状に配置された複数のNEMS共振器にも適用されることが理解される。
【0054】
図1は、本発明による検出器に実装可能なNEMS共振器の走査型電子顕微鏡図、および概略横断面図である。
【0055】
この共振器は、有利には、半導体基板1000、例えばシリコン上に形成される。基板1000は、有利には、(例えば、酸化シリコンからなる)電気絶縁層1003と、シリコン層1002で覆われ、SOI(シリコンオンインシュレータ)タイプの基板を形成する。
【0056】
共振器は、長さLおよび幅wのビーム1001を含む。
【0057】
ビーム1は、支持基板2に対して吊り下げられており、一端1001aが基板1000の一部に埋め込まれ、ビームの下に延在する基板の平面に対して突出している。
【0058】
ビームの他端1001bは、自由端である。
【0059】
既知の方法において、このようなビームは、ビームを画定し、ビーム1001の下方に位置する電気絶縁層1003を部分的に排除して自由にするエッチングにより、層1002に形成することができる。
【0060】
ビームの両側には、基板1000に対して吊り下げられた、例えばピエゾ抵抗式の2つのひずみゲージ1004が延在する。
【0061】
有利には、これらのゲージは、ビームと同様に、SOI基板にエッチングされ、ビームと共通の少なくとも1つの面を有する。
【0062】
これらのゲージは、有利には、ドープされた半導体材料からなり、好ましくは、ドーパント濃度は、1019原子/cm以上である。
【0063】
好ましくは、ドープされた半導体材料は、ドープされたシリコンである。
【0064】
各ゲージとビームとの間の交点は、ビームのたわみ中にゲージに加えられるひずみが最大化されるように選択された、ビームの埋め込み領域から離間した位置にある。
【0065】
各ゲージ1004は、電極1005に接続され、この電極により、異符号の一定の電位を加えることができる。
【0066】
共振器の他の実施形態では、ドープされた半導体材料からなる1つのひずみゲージのみを使用することが可能である。
【0067】
共振器は、ビーム1001を静電的に作動させるためのデバイスをさらに含み、デバイスは、ここで表されるように、ビームと同じ面に延在し、その両側に所定の距離で配置された2つの電極1006を含み得る。
【0068】
電極1006は、それぞれ電気的励起信号および異符号の信号を受信することが意図されており、したがって、共振器の2つの入力を構成する。
【0069】
ビームの空の共振周波数に対応する周波数を有する電気信号の適用下で、ビームは、基板に平行な面内で振動させられる。
【0070】
ビームの空の共振周波数とは、分析する試料がない場合のビームの共振周波数を意味する。
【0071】
一実施形態によれば、ピエゾ抵抗式ゲージの電気抵抗の変化の測定は、ビームの埋め込み端部と、ビームおよびゲージ間の接合部との間で行われる。
【0072】
したがって、共振器の出力信号は、信号の読み取りを考慮して、ビームの埋め込み端部に位置する接続電極1007に送られる。
【0073】
しかしながら、この測定方法に限られるものではなく、出力信号は他の手段によって提供されてもよい。例えば、電極に分極電圧を印加し、2つのゲージのアセンブリの端子で電圧を測定して、そこからそれらの電気抵抗の変化を推定することも可能である。
【0074】
当業者であれば、本発明の範囲を超えることなく、ひずみゲージの分極の設計およびそれらの応答の測定を調整することができるであろう。さらに、本発明の範囲を超えることなく、別の作動モードを使用することができるであろう。
【0075】
特に有利な方法では、NEMS共振器は、側面数ミリメートルのチップ上に形成され、チップは、以下で詳細に説明されるように、プリント回路上に埋め込むことができる。
【0076】
NEMS共振器の温度制御を可能にするために、共振器は、温度調節されたチャンバーに封入される。
【0077】
チャンバーの容積は、チャンバー内の温度を調節するのに必要なエネルギー消費を最適化するために自由空間を最小限に抑えながら、共振器と共振器が形成されたチップを十分に囲めるよう選択される。
【0078】
NEMSが形成されるチップの寸法を小さく、特に、チャンバーの内部容積を小さく(数mmまたは数十mmオーダー)してもよい。これにはいくつかの利点がある。一つ目として、チャンバー内の温度を調節するための電力を削減することができる。また、所与の電力において、容量が大きいチャンバーと比べ、加熱および冷却の速度が増加する。さらに、クロマトグラフィカラムに対する検出器のチャンバーの熱的分離も容易となる。
【0079】
チャンバー内の温度制御は、温度調節ユニットによって行われる。
【0080】
調節ユニットは、加熱手段および/または冷却手段、温度センサ、ならびに所定のプロファイルに従った温度をチャンバー内に適用可能なフィードバックループを含み得る。この温度プロファイルは、分析する試料の組成および所望の分析物に応じて、ユーザにより定義されてもよい。
【0081】
フィードバックループは通常、ユーザインターフェースと通信し、温度プロファイルを受け取って温度センサのデータを適用および測定し、これらの入力要素から加熱および/または冷却手段に命令を送信して、チャンバー内で経時的に目的の温度を得るように構成された計算機を含む。
【0082】
温度センサは、特にPt100型の電子機器で広く使用されているプラチナ抵抗温度計であってもよい。
【0083】
特に有利な方法では、調節ユニットは、チャンバー内に配置された加熱要素を含む。加熱要素は、小型化の理由から、電流によって供給される加熱抵抗器であってもよい。
【0084】
好ましくは、調節ユニットは、冷却システムをさらに含む。ファン、ペルチェセル、流体冷却回路、それらの組み合わせなど、さまざまな冷却技術が考えられる。当業者であれば、チャンバーの配置および期待される性能に応じて、冷却システムを選択し、寸法を決定することができる。冷却システムにより、特に、高温での検出後にチャンバーの内部容積を急速に冷却することができ、これにより、低温での新たな検出を迅速に実行することが可能となる。
【0085】
チャンバーは必ずしも密閉されていなくてもよく、外部から断熱されていなくてもよい。反対に、共振器を冷却することが望まれる場合、熱を迅速に排出可能な通気孔が設けられてもよい。さらに、チャンバーの内部容積は、(例えば、それ自体が加熱されているクロマトグラフィカラムに近接しているため)チャンバーの外側からの受動的熱伝達によって少なくとも部分的に加熱される可能性がある。
【0086】
NEMS共振器の共振周波数は、共振器の有効質量とは別に、検出器の温度、キャリアガスの流量などの外的要因にも依存する。
【0087】
したがって、測定信号のベースラインは温度によって変化する。このため、測定に利用できる信号(すなわち、ガスの吸着/脱着に関連するNEMS共振器の共振周波数の変化)と、利用できないバックグラウンド信号(NEMS共振器の温度変化や共振器の共振周波数を変化させる外因性の要因)との重なりがある。
【0088】
例えば、図2には、NEMS共振器を用いて得られた生のクロマトグラムが示されており、その動作温度は、40~250℃の間で毎分20℃の速度で線形温度プロファイルに従って変化する。周波数の変化とともに、NEMSに適用される温度勾配に関連する小さな信号対バックグラウンドノイズ比がはっきりと観察されるが、これはさまざまなピークの識別を妨げる。
【0089】
したがって、有利には、NEMS共振器のいわゆる差分読み取りが実施される。これにより、対象の分析物の吸着によって生じる質量の変化に依存しない変化を低減し、ガスの吸着/脱着によるNEMS共振器の共振周波数の変化のみを強調することができる。
【0090】
この目的のための第1のアプローチは、分析に必要なカラムとNEMS検出器に温度プロファイルを適用しながら、試料をクロマトグラフィカラムに注入しない、いわゆるブランク分析を実行することである。この分析では、システムにキャリアガスのみを注入するか、空のガス回路で操作を行う。これにより、ガスの吸着と脱着以外の現象に関連する検出器のベースラインの変化を収集することができる。次に、試料を注入し、ブランク分析と同じ温度プロファイルを適用して分析を行う。最後に、いわゆるオフライン処理において、異なるガスピークの吸着/脱着に関連する検出器のベースラインの変化のみを得るため、試料を注入して測定したベースラインからブランクベースラインを減算する。図3(NEMSカーブ)は、図2のクロマトグラムに対して実行されたこのような処理の結果を示す。比較として、FID検出器の応答がクロマトグラム(FIDカーブ)に表示されており、これにより2つの手法で検出されたピークの対応が正しいかを検証することができる。
【0091】
図2および図3のクロマトグラムは、炭化水素の単純な混合物について得られたものである。図3は、最大32個の炭素原子を持つ化合物がNEMS共振器で検出できたことを示しており、NEMS共振器の炭化水素の分析能力が確認される。
【0092】
差分読み取りの別のアプローチでは、同じ分析工程の過程で2つの共振器(または、TCD検出器がNEMS検出器に関連付けられている場合、NEMS共振器およびTCD検出器それぞれ2組)の共振周波数の変化が差分的に同時に測定される。図4に示すように、2つの共振器のうち一方が分析経路Aに配置され、分析物のさまざまなピークとその他の外因性現象を測定する。もう一方は、いわゆる参照経路Rに配置され、外因性現象のみを測定する。このシステムは、ガス状または蒸気状の試料Sの一部とキャリアガスVを受け取り、分析経路A上のGCで表わされるクロマトグラフィカラムや、参照経路R上のカラムと同等の水頭損失を有する導管ΔPに注入する前にこれらを混合するインジェクタIを2つの経路の上流に備える。2組の検出器から得られる測定信号を区別する電子回路を介して、異なるガスピークの吸着/脱着から得られる信号のみが得られる。このアプローチは、ブランク分析やオフライン処理を必要としない点で好ましい。
【0093】
NEMS共振器は、周囲のガスとの重要な相互作用(流体相互作用と呼ばれる)を有することができる。
【0094】
したがって、共振器の共振周波数の変化とは別に、共振器と試料との間の流体相互作用による共振振幅の変化を測定することが可能である。
【0095】
欧州特許出願公開第2878942号明細書に記載されるように、この振幅の変化から、試料の流体特性を推定することができる。この流体特性は、有利には、試料の粘度、有効粘度、分子の平均自由行程、流量、および/または熱伝導率である。「有効粘度」とは、本文では、ナビエ-ストークス方程式を簡略化するレイノルズ方程式におけるガスの希薄化領域を考慮した粘度パラメータを意味する([Bao2007]の段落5.1を参照)。
【0096】
さらに、キャリアガスの流体特性と分析する試料の流体特性の差は、NEMS共振器が曝される温度が高いほど大きくなることが実証されている。欧州特許出願公開第2878942号明細書に記載されたシステムでは、流体相互作用に関する吸着現象の影響を最小限に抑えるために、NEMS共振器がジュール効果によって加熱される。
【0097】
一方、NEMS共振器を加熱することで、試料とキャリアガスの有効粘度を下げることができ、読み取り装置で測定される振幅の変化を大きくすることができる。
【0098】
したがって、本発明では、共振器がチャンバー内で加熱されることで、このシステムで使用されるジュール効果加熱システムを使用せずに、欧州特許出願公開第2878942号明細書に記載された原理に従って少なくとも1つの流体特性の測定を高感度で実施するという利益を得ることができる。
【0099】
周波数の変化の測定と振幅の変化の測定の組み合わせにより、試料に関するより多くの情報を得ることができ、これにより、類似した応答を有する分析物をより正確に区別することができる。
【0100】
NEMS共振器は軽化合物(炭素数1~6)に対する応答レベルが低いため、必要に応じて、これらの種により高感度なマイクロカサロメータ(TCD検出器とも呼ばれる)と直列に連結することが望ましい場合がある。これら2つの検出器は非破壊的であり、TCD検出器をNEMS共振器と同じ流路内においてその上流または下流に配置することができる。
【0101】
TCD検出器は、例えば同じチップまたは同じプリント回路上での検出器の統合を容易にするため、NEMS検出器と同じチャンバーに配置されてもよい。これに代わって、TCD検出器はNEMS検出器のチャンバーの外側に実装することもでき、その感度は動作温度に直接影響されない。
【0102】
TCD検出器はそれ自体既知であるため、より詳細な説明は省略される。
【0103】
上述した検出器は、ガスクロマトグラフィカラムおよびカラムの出口に配置された検出器を含むガス分析システムでの実施に特に適している。
【0104】
クロマトグラフィカラムは温度調節されたチャンバー内に配置され、共振器が封入されたチャンバーから熱的に分離される。クロマトグラフィカラムより上流側のインジェクタにより、試料を気化し、キャリアガスと混合することができる。炭化水素の場合、分割注入が一般に行われる。すなわち、キャリアガスによって運ばれた気化試料の一部のみがカラムに注入される。
【0105】
流路(例えばキャピラリチューブ)は、クロマトグラフィカラムの出口と検出器の入口を接続する。
【0106】
2つのチャンバー間の熱的分離を最大化するには、チャンバー間の距離を大きくし、接続管を加熱して、凝縮が起こる冷点をなくすことが好ましい。
【0107】
この熱的分離により、2つのチャンバーのそれぞれの温度プロファイルを個別に調整することができ、これにより、クロマトグラフィカラムの温度に関係なく、NEMS共振器の温度を管理することができる。
【0108】
クロマトグラフィで使用される他の検出器とは異なり、NEMS共振器は、対象の分析物に応じた最適な検出温度を有する。
【0109】
共振器の温度が高すぎると、ガスの吸着効率が低下し、測定感度が低下する。また、共振器の温度が低すぎると、カラムの出口でピーク(適切な分析システムの場合はガウス形状)が変形し(ピーク後縁が大きくなる)、クロマトグラフィカラムの分離能力が低下し、および/または、機能層が汚染され(吸着部が解放されない)、時間が経つにつれて効率が低下する。
【0110】
NEMS共振器の性能を最適化するには、その動作温度を細かく制御し、対象の分析物ごとに最適値付近に維持する必要がある。したがって、分析および分離の速度を制御するためにクロマトグラフィカラムを温度調節するのと同様に、共振器の温度をカラムから出る分析物に応じて動的に適合させることが有用である。広い範囲のガス状化合物を検出するには、できるだけ広い温度範囲(通常、室温(20℃)~350℃)で共振器を制御することが望ましい。
【0111】
複雑な混合物を分析する場合、例えば直線勾配の形状の温度上昇プロファイルをクロマトグラフィカラムに実行し、カラムに保持されたガス状化合物を分離することが適切であることが多い。NEMS共振器の動作温度は、その検出性能を最適化するために必ずしもカラムの動作温度と同一である必要はない。ほとんどの場合、NEMS共振器の温度はカラムの温度よりも低いことがさらに好ましい。これにより、2つのチャンバー間の熱的分離が可能になる。
【0112】
一実施形態によれば、NEMS共振器の温度調節は、クロマトグラフィカラムのチャンバー内の温度に基づいて行われる。この目的のため、クロマトグラフィカラムを含むチャンバーの加熱要素は、クロマトグラフィカラムの温度を常時測定するための(Pt100または熱電対タイプの)温度センサを備える。NEMS共振器を含むチャンバーの温度は、クロマトグラフィカラムを含むチャンバーの温度に応じてリアルタイムで調節することができる。言い換えれば、NEMS共振器の温度T_NEMSは、法則T_NEMS=f(T_GC)に従って適合される。ここで、fはプログラム可能な分析関数であり、T_GCは、前述の温度センサによって測定されるクロマトグラフィカラムのチャンバー内の温度である。
【0113】
NEMS共振器の温度プロファイルの例として、例えば、カラムの温度とNEMS共振器の温度との間に一定の温度差が適用される。温度調節の法則は、T_NEMS=T_GCΔTとなる(ΔTは定数)。
【0114】
図5は、共振器とは異なるチャンバーに封入されたクロマトグラフィカラムを用いて得られた3つのクロマトグラムを示しており、2つのチャンバー間の熱分離の影響を示す。
【0115】
分析する試料は、比較的重質な炭化水素であるC28H58を5000mg/Lの濃度で含有する比較的形質なガソリン溶液である。
【0116】
クロマトグラフィカラムのチャンバーの温度プロファイルは、3つとも同一であり、50℃~300℃の間で、毎分20℃の線形温度上昇勾配を含む(カーブの右側に示される温度プロファイルGCを参照)。
【0117】
クロマトグラムAは、共振器のチャンバーに、カラム(GC)と同じ温度上昇勾配(NEMS)を適用することで作成された(2つの勾配差=0℃)。
【0118】
クロマトグラムBは、2つの温度勾配の差が20℃になるように、1分遅れで共振器のチャンバーに毎分20℃の温度勾配を適用することで作成された。
【0119】
クロマトグラムCは、2つの温度勾配の差が60℃になるように、3分遅れで共振器のチャンバーに毎分20℃の温度勾配を適用することで作成された。
【0120】
クロマトグラムA、B、Cを比較すると、カラムの温度プロファイルと共振器の温度プロファイルの間の温度差が最も大きい場合に、C28H58ピークに対する感度が最高となることが分かる。
【0121】
しかしながら、温度差が大きすぎると、このような改善は得られなくなることに留意されたい。
【0122】
したがって、長い炭素鎖を持つ炭化水素を検出する場合、共振器のチャンバーとクロマトグラフィカラムのチャンバーとの間の温度差は、-5~-150℃、好ましくは-30~-100℃、または-30~-70℃、さらに好ましくは-40~-60℃、例えば-50℃が選択される。
【0123】
もちろん、対象となる適用例に応じてNEMS共振器の温度プロファイルの他の戦略を採用することもできる。特に、クロマトグラフィカラムとNEMS共振器の間の温度差は、常に一定でなくてもよい。
【0124】
図6のクロマトグラムは、同じガソリンとC28H58の混合物について、クロマトグラフィカラムと共振器との間の温度差を-60℃として、FID検出器(上のカーブ)と本発明によるNEMS共振器を用いてそれぞれ得られたものである。これら2つの曲線のY軸に沿ったスケールは同じではないが、C28H58のピークがNEMS共振器で実際に検出されていることが確認される。
【0125】
図7のクロマトグラムは、実際の石油留分である凝縮液から得られたものである。上のカーブはFID検出器の信号を表し、カーブBはNEMS検出器の信号を表す。クロマトグラフィカラムとNEMS共振器の温度差は-60℃である。
【0126】
凝縮物は上述のケースよりもはるかに複雑な混合物からなるが、FID信号とNEMS信号の間で良好な相関が観察され、特にNEMS信号の顕著なピークが観察される。
【0127】
NEMS共振器の飽和を回避するには、大きすぎる試料をクロマトグラフィカラムに注入しないようにする必要がある。当業者であれば、実際にクロマトグラフィカラムに注入される試料の体積と気化した試料の総体積との間の分割比を調整することができるであろう。
【0128】
NEMS共振器を、特に温度プロファイルに従って動的に加熱することは、ガス分析分野における慣例に反することに留意されたい。実際、熱によって不利になる吸着メカニズムに直接感度が関連する重量測定検出を含むため、NEMS共振器を比較的低い温度に安定して維持する慣例に反している。さらに、NEMS共振器を機能化するために通常使用されるポリマー機能層は、本発明で提供されるような高温での動作には適していない。
【0129】
したがって、本発明によるシステムは、炭化水素、特に重質炭化水素の分析のためのFID検出器に特に関連する代替案を提供する。実際、NEMS検出器は、FID検出器の欠点(破壊特性、炭素鎖の制限、水素炎の存在)を排除しながら、少なくともFID検出器と同等の性能を有するため、制約のある環境での使用が可能である。
【0130】
(適用例1:炭化水素の分子同定とアッセイ)
一実施形態によれば、NEMS共振器を被覆する機能層は無極性相である。ガスクロマトグラフィカラムの出口に配置されたこのような共振器により、分子レベルで、かつ再現可能な方法で、ガス状または液体状態の石油流体の組成を定性的および定量的観点から同定することができる。
【0131】
別の実施形態によれば、NEMS共振器を被覆する機能層は、極性相である。ガスクロマトグラフィカラムの出口に配置されたこのような共振器により、分子レベルで、かつ再現可能な方法で、気体、硫黄、酸素、または窒素を含むガス状または液体状態の石油または精製流体の分子の組成を定性的および定量的観点から同定することができる。
【0132】
どちらの場合でも、本発明によるシステムにより実行される分子分析は、石油分野での多くの適用を可能にする。
【0133】
第1の適用例は、貯留層の区画化と接続性の分析である。すなわち、分子分析により、炭素数1~50の炭化水素の組成の類似点と相違点を統計的手法で特定して、油井によって作られ得る領域を特定し、油層の流体の流れを把握することができる。
【0134】
別の適用例は、生産の割り当てに関する。分子分析により、実際に、同じ油井、異なる油井、異なるプラットフォーム、また、異なるフィールドからの、混合生産に寄与する異なる貯留層に由来する流体の比率を計算することができる。
【0135】
別の適用例は、油井の完全性の評価に関する。分子分析により、油井の環状部で見つかった生成物の組成を全ての貯留層の流体と比較することで、油井の環状部にある流体の起源を統計的手法で特定することができる。
【0136】
別の適用例は、貯留層における流体の組成の予測および同定に関する。ガス分析システムにより得られた流体の分子組成の同定は、熱力学モデルによる流体の特性(特に、貯留層条件での相状態、密度、粘度など)の決定に使用することができる。
【0137】
別の用途は、深度条件での直接測定による層内の所与の深度における流体組成の同定に関する。この組成を、構成要素ごとに別の深さの構成要素と比較して、その変化を求めることができる。
【0138】
最後に、機能層が極性相である場合、分子分析により、製油所の水素化脱硫装置における供給の硫黄含有留分を確実に監視することができる。
【0139】
ガス分析システムによって提供される分子分析を活用するためのさまざまな技術は、それ自体は既知であり、したがって、ここでは詳細には説明しない。
【0140】
(適用例2:水中での炭化水素の分子同定とアッセイ)
一実施形態によれば、NEMS共振器を被覆する機能層は無極性相である。ガスクロマトグラフィカラムの出口に配置され、抽出/予備濃縮システムに接続されたこのような共振器により、分子レベルで、かつ再現可能な方法で、水中のあらゆるタイプの炭化水素の組成を同定することができる。
【0141】
別の実施形態によれば、NEMS共振器を被覆する機能層は、極性相である。ガスクロマトグラフィカラムの出口に配置され、抽出/予備濃縮システムに接続されたこのような共振器により、分子レベルで、かつ再現可能な方法で、硫黄、酸素、または窒素を含む水中のあらゆるタイプの炭化水素の組成を同定することができる。
【0142】
どちらの場合でも、本発明によるシステムにより実行される分子分析は、石油分野での環境分析における多くの適用を可能にする。
【0143】
第1の適用例は、液-液抽出後(水と非混和性の有機溶媒)の合成水または実水中(海、排水、河川、貯留層)の多環式芳香族炭化水素(PAH)、ポリクロロビフェニル(PCB)、BTEX(ベンゼン、トルエン、エチルベンゼン、キシレン)、アルカン、アルケン、および/またはその他の環境標的分子の分析に関する。
【0144】
別の適用例は、気相部分の抽出(いわゆる「ヘッドスペース」分析)後の、合成水または実水中のHAP、PCB、BTEX、アルカン、アルケン、および/または他の環境標的分子のアッセイに関する。
【0145】
別の適用例は、SPE(solid phase extraction;固相抽出)、SPME(solid phase microextraction;固相マイクロ抽出)、SBSE(stir bar sorptive extraction;攪拌棒吸着抽出)タイプの固相での、もしくは、水と好ましい分配係数を示す他の固体または膜材料での抽出後の合成水または実水中のHAP、PCB、BTEX、アルカン、アルケン、および/または他の環境標的分子のアッセイに関する。
【0146】
別の適用例は、探査目的だけでなく、基地設備(パイプ、バルブ、ライザーなど)の制御と水質の監視のための、自然環境における炭化水素の自然または産業漏出の追跡に関する。水中の炭化水素の分子分析は、実際に、漏出の早期発見、漏出の原因の特定などの重要な情報を提供し得る。
【0147】
(適用例3:トレーサの追跡)
NEMS共振器を被覆する機能層が無極性相であっても極性相であっても、ガスクロマトグラフィカラムの出口に配置された共振器により、石油流体中のあらゆるタイプの天然または合成トレーサを検出し、このトレーサを選択的に追跡することができる。
【0148】
本発明の特に有利な適用は、生産の割り当ておよび流体の起源の決定のための(統合または注入される)人工トレーサの定性的および定量的分析である。
【0149】
図8図12は、NEMS検出器およびTCD検出器が封入された第1の温度調節チャンバーを含む検出器の例示的な実施形態を示す。図8は第1のチャンバーに配置された検出器の斜視図である。図9図12は、異なる角度による部分断面図である。
【0150】
TCD検出器およびNEMS検出器は、プリント回路基板3に直列に取り付けられる。検出器は、プリント回路3に電気的に接続されたモジュール31、32の形で配置される。例えば、モジュール31は、1つ以上のNEMS検出器を含み、モジュール32は、1つ以上のTCD検出器を含む。各モジュールは、同じタイプの2つの検出器で構成され、一方は参照として機能し、もう一方は上記の差分測定のための分析に使用される。
【0151】
別の実施形態(不図示)によれば、第1のモジュールは、極性の機能層を有するNEMS共振器のアレイを含み、第2のモジュールは、例えば無極性の異なる機能層を有する共振器のアレイを含む。他の任意のモジュールの構成を採用することができる。
【0152】
特に有利な方法では、各モジュールは、共振器または共振器のアレイが封入された第2の温度調節チャンバーを形成する。
【0153】
第1のチャンバーは、円筒形のシェル1と、シェルの端部に配置された2つのフランジ10、11とを組み立てることで形成される。シェル1は、プリント回路3に取り付けられ、検出器を外部処理システムに電気的に接続するように機能するコネクタ30を通すための開口13を有する。フランジ10、11は、開口(通気口)100、110を有し、迅速な排熱を可能にする。もちろん、本発明の範囲を超えることなく、チャンバーの他の任意の構造を選択することができる。
【0154】
ファン4は、ブレードの回転面がシェル1の長手方向軸に垂直となるよう、チャンバーの一端に配置される。
【0155】
ファンと反対側の端部には、マンドレル21が配置され、その周りに、マンドレルの周りに巻かれた加熱フィラメントの形態である加熱要素22が配置される。マンドレル21および加熱要素22は、チューブ2内に配置される。
【0156】
マンドレル21の内部には、コネクタ20を介してクロマトグラフィカラムに流体接続するのに適したキャピラリチューブが挿通される。このコネクタは、2つの流入口201、202および2つの流出口203、204を備える。2つの流入口は2つの検出器(測定用および参照用)への供給口である。検出器からの2つの流出口は、その下流に直列に他の検出器または通気口を接続することを可能にする。これにより、キャピラリチューブは、試料の凝縮を引き起こしやすい低温点を持たない。
【0157】
第1のチャンバーの内部には、プリント回路3を支持することを意図した支持体12と、カラムと検出器との間の流体接続を確実にするキャピラリチューブ52、53、54が配置される。チューブ52により、導入装置51を介して試料をモジュール31に導入することができる。チューブ53および54は、モジュール31、32の両側に対称的に配置される。これにより、試料をNEMS検出器からコネクタ20に輸送することができる。
【0158】
また、支持体12は、第1のチャンバー内の温度をリアルタイムで監視可能な加熱カートリッジおよび温度プローブを含む加熱ユニット23を支持する。
【0159】
図13および図14は、NEMS検出器を含むモジュール31の2つの部分断面図を示す。第1のチャンバー内の構成要素の配置は、図8~12の配置とは若干異なるが、この実施形態では、当業者が到達可能な範囲でいくつかの変更がなされた図13図14のモジュールを使用できる。図8~12の実施形態に対して、加熱ユニット23は、マンドレルおよびその周りに巻かれた電熱線を含むチューブ2に面して、フランジ10上で第1のチャンバー内に配置される。マンドレルに配置されたキャピラリチューブは、ユニット23を通過し、適切な温度に加熱され、モジュールに開口する。
【0160】
モジュール31は、例えばマイカからなる電気的および熱的に絶縁性の複数の板を含み、これらの板が、NEMS共振器およびそれと流体接続するキャピラリチューブの周りに第2のチャンバーを形成する。共振器は、プリント回路3に電気的に接続されたチップ上に、参照番号31で表される長方形の中心に配置される。プリント回路の一部のみが図13に示されており、残りの部分は、共振器およびキャピラリチューブが配置される内部容積を画定する絶縁板35によって覆われている。この容積は、図14に示されるプレート33によって閉じられている。プレート33には、高い電気抵抗率を有する電熱線34が挿通する複数の穴330が設けられている。穴330は、電熱線がキャピラリチューブやNEMS共振器を均一に加熱できるように、プレート33の表面に配置される。図13および図14には図示されないが、モジュール内部の温度をリアルタイムで測定するための温度センサがモジュール31に配置される。この温度は、不図示の計算機を備えるフィードバックループによって決定された温度プロファイルに追従する。計算機は、一方で温度センサと接続され、その測定データを受信し、他方で電熱線に接続され、電熱線を流れる電流の強度設定値を送信して目的の温度に到達させる。有利には、検出器が完全に自律的であるように、計算機はプリント回路3に埋め込まれる。第2のチャンバーの内部容積は非常に小さく、広い温度範囲にわたって非常に細かくリアルタイムで温度を制御することができる。
【0161】
なお、検出器のこれらの特定の配置は、非限定的な例示である。特に、加熱要素は、抵抗線以外の形態、例えばバーまたは平板の形態であってもよく、これにより、特に、工業規模での生産を目的として、第2のチャンバーの壁部での組み立てを簡素化することができる。また、第2のチャンバーの寸法に適したその他の発熱体を使用することができる。
【0162】
検出器の広い動作温度範囲をカバーするため、検出器を構成する材料は、300℃程度の温度に耐えるように選択される。
【0163】
第1のチャンバーの内部空間を画定するシェルとフランジは、通常、金属からなる。
【0164】
共振器を支持するプリント回路基板に関して、好ましい材料は、例えばセラミックまたはポリイミド(カプトンTM)である。
【0165】
NEMS共振器、また必要に応じてTCD検出器は、有利には、機械的剛性および電気伝導を確実にするため、ドープされたシリコンまたは窒化シリコンからなる。ドープされたシリコンは、その電気的および機械的特性を変更することなく、400℃を超える温度に耐えることができる。TCD検出器は、300℃を超えて全ての物理的性質を維持するプラチナ層で被覆される。
【0166】
機能層に関して、NEMS共振器を機能化するために従来から使用されるポリマーは、熱耐性が不十分であるため本発明では一般に使用できない。実際、これらのポリマーの析出温度は、その性質に応じて100℃~200℃付近である。したがって、本発明では、NEMS共振器は、有利には、高温(400~500℃程度)で析出するマイクロエレクトロニクスに由来する多孔質酸化物層で機能化される。これは、広範囲の分子(アルカン、アルケン、アルコール、芳香族化合物など)に対して良好な化学的応答を示す。有利には、酸化物の組成は、一般式SiO(x>0、yおよびz≧0)、例えば、SiOC、SiO、SiOHである。このような多孔質酸化物は、特に国際公開第2015/097282号に記載されている。一般式Al(xおよびy>0)の酸化アルミニウム、例えばAlを使用することもできる。
【0167】
NEMS共振器とTCD検出器を含む流体フローラインを形成するため、それらを支持する基板1000に、ガラスまたはシリコンで作られた構造化蓋部2000が約400℃の熱はんだ付けプロセスによりガラスフリット2001を用いて組み立てられる。図15は流体フローラインの断面図である。
【0168】
ガスをチップ上に運ぶキャピラリ3000、3001はガラス製であり、高温で架橋されたエポキシ接着剤、例えば参照番号2002で示される商品名EPO-TEK731(登録商標)により接合される。
【0169】
これらの材料を選択することにより、検出器が高い使用温度に耐えることを保証することができる。
【0170】
さらに、検出器とクロマトグラフィカラムの容積が小さいため、ガス分析システムを小型化して、例えば直径10cm以上の可搬型デバイスに組み込むことができる。さらに、試料を運ぶのに必要なキャリア流体の流量が小さく、クロマトグラフィカラムとNEMS検出器の温度調整のためのエネルギー消費が少ないため、システムの優れた自律性を実現することができる。したがって、このシステムは、危険な環境を含む、アクセスしにくい場所で分析を行うために使用することができる。
【0171】
例えば、ガス分析システムは、自律的でプログラム可能な水中移動体(例えば、トーピード)または掘削器具に挿入することができ、これにより、上記の分析を海洋および貯留層で実施することができる。
【0172】
トーピード内の計装や掘削器具は、他のタイプのセンサで既知であるため、ここでは詳細には説明しない。
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