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特許7312781PC鋼材抜気減圧防錆方法及びそれを用いたPC構造物の施工方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-12
(45)【発行日】2023-07-21
(54)【発明の名称】PC鋼材抜気減圧防錆方法及びそれを用いたPC構造物の施工方法
(51)【国際特許分類】
   E04G 21/12 20060101AFI20230713BHJP
【FI】
E04G21/12 104Z
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2021071741
(22)【出願日】2021-04-21
(65)【公開番号】P2022166493
(43)【公開日】2022-11-02
【審査請求日】2022-03-18
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 とびしま技報 2020No.68(令和2年11月30日発行)
(73)【特許権者】
【識別番号】000235543
【氏名又は名称】飛島建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000051
【氏名又は名称】弁理士法人共生国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】石塚 健一
(72)【発明者】
【氏名】北 倫彦
(72)【発明者】
【氏名】須山 淳也
【審査官】吉村 庄太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-231700(JP,A)
【文献】特開2004-183233(JP,A)
【文献】特開2005-120593(JP,A)
【文献】特開昭48-083629(JP,A)
【文献】特開2013-241760(JP,A)
【文献】特開2002-371669(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04G 21/12
E04C 5/00- 5/20
E01D 1/00-24/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
PC鋼材を挿通するシースの周囲をコンクリートで固めた後、PC鋼材を緊張してからグラウトを充填して定着するポストテンション方式のPC構造物を施工する際のPC鋼材の防錆方法であって、
一施工区間分のコンクリートを打設して前記施工区間にプレストレスを与えるためのPC鋼材のシースを固定するシース固定段階と、
前記PC鋼材を前記シース内に挿通して配置後速やかに前記シースの開口部につながる各排気ホース及び注入ホースの口を塞ぐ閉塞段階と、
前記PC鋼材に緊張を加えてから緊張の終了した複数の前記PC鋼材の各々の前記シースのいずれかの排気ホース同士を接続する相互接続段階と、
前記排気ホースにより相互に接続された前記シースのいずれかの前記排気ホースを真空ポンプに接続して相互に前記排気ホースにより接続された複数の前記シース内をまとめて抜気・減圧し減圧状態を維持する抜気・減圧段階とを有し、
前記一施工区間分の抜気・減圧段階終了後、所定の施工区間に至るまで新たな施工区間毎に前記シース固定段階、前記閉塞段階、前記相互接続段階、及び前記抜気・減圧段階を実施することを繰り返し、
前記真空ポンプは複数の施工区間分の前記シース内をまとめて抜気・減圧し減圧状態を維持することを特徴とするPC鋼材抜気減圧防錆方法。
【請求項2】
請求項1に記載のPC鋼材抜気減圧防錆方法を用いたPC構造物の施工方法であって、
数施工区間の前記PC鋼材抜気減圧防錆方法終了後、直ちに又は所定期間をおいてから前記真空ポンプを停止して前記真空ポンプに接続されるすべての前記シースにグラウトを充填するグラウト充填段階をさらに有することを特徴とするPC構造物の施工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、PC鋼材抜気減圧防錆方法及びそれを用いたPC構造物の施工方法に関し、特にPC鋼材を挿通するシース内を抜気・減圧して減圧状態を維持することで、PC鋼材を設置してからグラウトを充填するまでの所定の期間中、PC鋼材を防錆することを可能とするPC鋼材抜気減圧防錆方法及びそれを用いたPC構造物の施工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
PC構造物の施工においてコンクリートにプレストレスを与える方法として、PC鋼材を予め緊張させた状態でPC鋼材を内蔵するようにコンクリートを打設し、コンクリートの硬化後にPC鋼材の緊張を解くプリテンション方式と、PC鋼材を挿入するシースと呼ばれる中空管を設置した上でシースを内蔵するようにコンクリートを打設し、コンクリートの硬化後にシースにPC鋼材を挿通してからPC鋼材を緊張し、両端を定着具で定着させるポストテンション方式とがある。
ポストテンション方式の場合、シース内のPC鋼材は、緊張して定着したままでは空気に露出した状態であり、PC鋼材の酸化が進んでしまうため、定着後に速やかにシース内にグラウトと呼ばれる充填剤を注入してPC鋼材を防錆する必要がある。
【0003】
プレストレストコンクリート(PC)は、高い強度が要求される大規模な建設工事に広く適用される。代表的なPC構造物の1つに橋梁がある。橋梁にもいろいろな種類があるが、カンチレバー工法の橋梁の場合、橋脚を中心に両側に片持ち梁状に橋桁を少しずつ延伸させて施工する。通常は施工区間を設定し、一施工区間毎にPC鋼材で補強しながら橋桁を延伸させ、グラウト充填によるPC鋼材の防錆化も一施工区間内に終了させる。このため、橋桁を必要な長さまで延伸させるには、少なくとも必要な施工区間の数だけのグラウトの準備が必要となる。
【0004】
グラウトは、配合、混錬、試験など準備に手間がかかる上、特性への影響が大きいため作業温度に十分な注意が必要であり、準備の回数が多いと工期の長期化、作業者への負担の増大など様々な影響が生じる要因となる。このため、グラウトの充填は複数の施工区間の作業をまとめて行うなどグラウトの準備を極力減らしたいというニーズがある。また作業温度に関しては、例えば厳寒の冬の作業現場では、グラウトを保温しながら作業を行うなどの温度対策が必要であるが、シースもその周囲のコンクリートも冷え切っているため、品質上グラウトの充填は極力温度が上昇する時季まで回避したいというニーズもある。
これらのニーズにこたえるには、PC鋼材を設置して緊張、定着した後グラウトを充填するまでの所定の期間、PC鋼材を防錆する防錆技術が必須となる。このようなニーズにこたえるための防錆技術として、特許文献1のような技術が提案されている。
【0005】
特許文献1には、PC鋼材が挿通されているシース内に、同PC鋼材に沿って長尺の気化性防錆剤含有成形体が挿入されることでシース内PC鋼材の防錆を実現する防錆構造が開示されている。特許文献1に記載の発明によれば、シース内の緊張されたPC鋼材をグラウト充填時までの間、容易かつ確実に防錆することができるという効果が見込まれる。
【0006】
しかし、特許文献1に記載の発明では、長尺の気化性防錆剤含有成形体を用意しなければならないため、そのための施工費用が必要となる上、PC鋼材の設置後に気化性防錆剤含有成形体を各シース内に挿入し、グラウト充填前に挿入しておいた気化性防錆剤含有成形体を抜き取らなければならないという手間が必要である。また、防錆剤は気化性であることから、気化性防錆剤含有成形体を製造してから使用するまでの間、気化を防止して保管する必要があるなど管理面でも課題がある。
そこで、気化性防錆剤含有成形体のような特別な防錆剤を用いることなく、PC鋼材を設置してからグラウトを充填するまでの所定の期間中、PC鋼材を防錆することが可能なPC鋼材の防錆方法の提供が望まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2002-371669号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記従来のPC鋼材の防錆方法における問題点に鑑みてなされたものであって、本発明の目的は、PC鋼材を挿通するシース内を抜気・減圧して減圧状態を維持することで、PC鋼材を設置してからグラウトを充填するまでの所定の期間中、PC鋼材を防錆することを可能とするPC鋼材抜気減圧防錆方法及びそれを用いたPC構造物の施工方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するためになされた本発明によるPC鋼材抜気減圧防錆方法は、PC鋼材を挿通するシースの周囲をコンクリートで固めた後、PC鋼材を緊張してからグラウトを充填して定着するポストテンション方式のPC構造物を施工する際のPC鋼材の防錆方法であって、一施工区間分のコンクリートを打設して前記施工区間にプレストレスを与えるためのPC鋼材のシースを固定するシース固定段階と、前記PC鋼材を前記シース内に挿通して配置後速やかに前記シースの開口部につながる各排気ホース及び注入ホースの口を塞ぐ閉塞段階と、前記PC鋼材に緊張を加えてから緊張の終了した複数の前記PC鋼材の各々の前記シースのいずれかの排気ホース同士を接続する相互接続段階と、前記排気ホースにより相互に接続された前記シースのいずれかの前記排気ホースを真空ポンプに接続して相互に前記排気ホースにより接続された複数の前記シース内をまとめて抜気・減圧し減圧状態を維持する抜気・減圧段階とを有することを特徴とする。
【0010】
前記一施工区間分の抜気・減圧段階終了後、所定の施工区間に至るまで新たな施工区間毎に前記シース固定段階、前記閉塞段階、前記相互接続段階、及び前記抜気・減圧段階を実施することを繰り返し、前記真空ポンプは複数の施工区間分の前記シース内をまとめて抜気・減圧し減圧状態を維持することが好ましい。
【0011】
上記目的を達成するためになされた本発明によるPC鋼材抜気減圧防錆方法を用いたPC構造物の施工方法は、一施工区間又は複数施工区間の前記PC鋼材抜気減圧防錆方法終了後、直ちに又は所定期間をおいてから前記真空ポンプを停止して前記真空ポンプに接続されるすべての前記シースにグラウトを充填するグラウト充填段階をさらに有することを特徴とする
【発明の効果】
【0012】
本発明に係るPC鋼材抜気減圧防錆方法によれば、シースの開口部につながる各排気ホースの口を塞ぎ、緊張の終了したPC鋼材の複数のシースの排気ホース同士を接続してから真空ポンプにつないで、まとめて抜気・減圧し、減圧状態を維持することでPC鋼材を防錆することが可能となるため、一施工区間毎にグラウトを準備して充填する必要がなくなり、その分、工期が短縮されるため、PC構造物の生産性が向上する。また使用する真空ポンプは、グラウトの充填作業時の未充填防止のための減圧に使用する真空ポンプと共用できるので、防錆のための特別な装置の準備が不要である。
【0013】
本発明に係るPC鋼材抜気減圧防錆方法及びそれを用いたPC構造物の施工方法によれば、真空ポンプでシース内の減圧状態を維持することで、長期にわたりPC鋼材の錆を防ぐことができるので、季節に拘わらずPC構造物の施工を進め、グラウトの充填は作業環境温度のコンディションの良くなる時期に纏めて作業が行えるので、グラウトの品質が低下するリスクを回避することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の実施形態によるPC鋼材抜気減圧防錆方法におけるシース内を抜気するための構成を概略的に示す図である。
図2図1のPC鋼材の定着部の構造例を示す図である。
図3】本発明の実施形態によるPC鋼材抜気減圧防錆方法における排気経路の接続方法を概略的に示す図である。
図4】本発明の実施形態によるPC鋼材抜気減圧防錆方法の実証実験におけるシース内環境の経時変化の一部を抜粋して示す図である。
図5図4の実証実験後のPC鋼材の表面状況を示す図であり、図5(a)はシース内の減圧状態を維持した場合のPC鋼材の表面状況、図5(b)はシース内を大気圧で開放して保存した場合のPC鋼材の表面状況を示す図である。
図6】本発明の実施形態によるPC鋼材抜気減圧防錆方法及びそれを用いたPC構造物の施工方法を説明するためのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
次に、本発明に係るPC鋼材抜気減圧防錆方法及びそれを用いたPC構造物の施工方法を実施するための形態の具体例を、図面を参照しながら詳細に説明する。
図1は、本発明の実施形態によるPC鋼材抜気減圧防錆方法におけるシース内を抜気するための構成を概略的に示す図である。図1は、橋脚を省略して、橋脚柱頭部Aと、橋脚柱頭部Aから左右に第1施工区間B、第2施工区間Cまでの張出架設作業が進行した状態の橋梁部を示す。
【0016】
図1を参照すると、本発明の実施形態によるPC鋼材抜気減圧防錆方法においては、コンクリート5の中に中空の管であるシース20が、橋脚柱頭部Aを横切る形で複数本埋め込まれて設置され、シース20の中にPC鋼材10が挿通され、それぞれのPC鋼材10の両端は定着部40で固定されている。また、シース20の両端部近傍及び途中部分にはPC鋼材10の周りにグラウトと呼ばれる充填剤を注入するときに使用する注入ホース31又はグラウト注入時の空洞を防止するための排気ホース30が接続される。複数の排気ホース30の内、一部がホースジョイント32により相互接続され、他の一部が分岐継手51を介して真空ポンプ50に接続され、注入ホース31及び残りの排気ホース30は先端がキャップ33で閉塞される。
【0017】
ポストテンション方式のPCコンクリート構造物では、コンクリート5を打設して硬化させた後、コンクリート5内に埋め込まれたシース20にPC鋼材10を挿通させた後、PC鋼材10を緊張して定着することでコンクリート5に圧縮応力を付加する。これにより片持ち梁の状況で延伸する橋梁工事期間中、及び完成後に橋脚柱頭部Aの上面のコンクリート5に発生する曲げモーメントによる引張り応力を緩和して、構造物としての強度を向上させる。
【0018】
ポストテンション方式のPC鋼材10は、シース20内に挿通した状態や、さらに緊張して定着した状態では、シース20内で大気に曝された状態であり、またシース20の開口部から雨水などの水の浸入のおそれもあり、この状態で長期間時間が経過してしまうとPC鋼材10が酸化し、酸化が進行すると、強度低下や断線も起こり得る。そこで、通常の工法ではPC鋼材10を緊張して定着後、速やかにシース20内にグラウトを充填して硬化させ、PC鋼材10の酸化が進まないように防錆処理を行う。現場でコンクリート5を打設しながら延伸する橋梁工事では、全体の工事区間を幾つかの施工区間に分け、施工区間が終了する毎にその区間のPC鋼材10の緊張と定着を行うため、グラウトの充填も施工区間毎に行うことになる。グラウトは充填を行うまでに配合、混錬、試験など準備に手間がかかる上、作業温度が高すぎても低すぎても品質が劣化しやすく、施工区間毎にグラウトを充填するのは容易ではないし、工期に影響の大きい作業である。
【0019】
本発明の実施形態によるPC鋼材抜気減圧防錆方法は、シース20を配置した周りにコンクリート5を打設して硬化させ、コンクリート5内に埋め込まれたシース20にPC鋼材10を挿通して配置した後、速やかにシース20の開口部につながる各排気ホース30及び注入ホース31の口を塞いでシース20内への水や空気の流入を防止する。その後PC鋼材10に緊張を加えてから緊張の終了した複数のPC鋼材10の各々のシース20のいずれかの排気ホース30同士を接続し、さらに排気ホース30により相互に接続された複数のシース20のいずれかの排気ホース30を真空ポンプ50に接続して相互に接続された複数のシース20内をまとめて抜気・減圧し減圧状態を維持することで、グラウトを充填するまでの所定期間、PC鋼材10の防錆を行う方法である。
【0020】
本発明の実施形態によるPC鋼材抜気減圧防錆方法は、一施工区間毎に上記のシース20の固定から抜気・減圧までを繰り返すことで複数施工区間のPC鋼材10をまとめて所定期間の防錆状態を維持することが可能となる。
また、本発明の実施形態によるPC鋼材抜気減圧防錆方法を用いたPC構造物の施工方法は、上記PC鋼材抜気減圧防錆方法により、所定期間防錆状態を維持した後、一施工区間又は複数施工区間のPC鋼材抜気減圧防錆方法終了後、直ちに又は作業温度環境が良くなる季節までの所定期間をおいてから真空ポンプ50を停止し、真空ポンプ50に接続されるすべてのシース20にグラウトを充填することで、その後のPC鋼材10の防錆を維持する方法である。
【0021】
このように本発明によるPC鋼材抜気減圧防錆方法及びそれを用いたPC構造物の施工方法は、シース20内をまとめて真空引きを行って減圧状態を維持することにより、グラウト充填のタイミングを自由に選択し、また、グラウト充填を複数施工区間分まとめて行うことができるようにする方法である。
【0022】
図1は、橋脚柱頭部Aの両端に定着部40が位置するシース20、左右の第1施工区間Bの端部に定着部40が位置するシース20、及び左右の第2施工区間Cの端部に定着部40が位置するシース20の3種類の長さの異なるシース20が、それぞれ図の奥行き方向に2本ずつ並行して設けられた状態を例示している。シース20を固定する場合、一施工区間に収まる長さのシース20を端部が露出するように設置してコンクリート5を打設して硬化させ、露出するシース20の端部で、次の施工区間を施工する際に使用する新たなシース20と接続し、これを繰り返して必要な長さまで延伸させていく。これにより長さの異なるシース20が固定される。
【0023】
それぞれのシース20には複数の開口部が設けられ、シース20の一端に有る開口部にはグラウトを注入する注入ホース31と排気ホース30が接続され、他端の開口部には排気ホース30が接続される。またグラウト注入の際、空気だまりが生じやすい中間部分の開口部にも排気ホース30が設けられる。シース20内にPC鋼材10を挿通して配置した後に、これら開口部につながる注入ホース31と排気ホース30は閉塞されるが、その場合は例えば継ぎ手キャップの様なキャップ33を使用する。次いでPC鋼材10に緊張を加えて定着し、緊張の終了した複数のPC鋼材10の各々のシース20のいずれかの排気ホース30同士を接続するが、排気ホース30同士の接続には例えば図1に示すようにホースジョイント32を使用する。
【0024】
図1中の3種類の長さの異なるシース20の内、例えば橋脚柱頭部Aの両端に定着部40が位置する2本のシース20は、左端の排気ホース30同士がホースジョイント32で接続され、右端では一方の排気ホース30はキャップ33で閉塞され、他方の排気ホース30は分岐継手51を介して真空ポンプ50に接続されている。また、これ以外に上記の2本のシース20に接続される注入ホース31や中間部分の排気ホース30もキャップ33で閉塞される。このような接続により、橋脚柱頭部Aの両端に定着部40が位置する2本のシース20は1端が閉塞された直列接続の配管のようになり、真空ポンプ50によりまとめて減圧されるようになる。同様に他の長さの並行する2本のシース20同士も直列に接続されて、真空ポンプ50によりまとめて減圧される。尚、ここで使用する真空ポンプ50は後の工程であるグラウト充填の際に使用する真空ポンプ50を転用してもよく、これによりPC鋼材10の防錆のための付加的な装置が不要となる。
【0025】
分岐継手51は真空ポンプ50に接続され、本体部にはそれぞれが開閉弁を備え分岐継手51内部で連通する複数の接続口を備え、開閉弁の開閉により接続口に接続された排気ホース30を選択的に減圧することができる。接続口が複数あることにより、例えば施工区間毎に接続した排気ホース30を接続口に繋ぎ、施工区間毎に纏めて抜気・減圧が可能となる。図1では、橋脚柱頭部A、第1施工区間B、第2施工区間C毎に分岐継手51の接続口に接続した状態を示す。
【0026】
一施工区間内に3つ以上のシース20が配置される場合、排気ホース30の接続は、シース20同士が直列接続の関係となるように順番に接続してもよいし、分岐継手51の様な分岐可能な継手を使用してシース20同士が並列接続の関係になるようにシース20の一端同士、他端同士の排気ホース30をそれぞれまとめて接続し、そのいずれか一方を、分岐継手51を介して真空ポンプ50に接続してもよい。
【0027】
図1に示すシース20の配置や本数、排気ホース30や注入ホース31の配置や本数などは一つの実施形態を例示したに過ぎず、シース20や排気ホース30、注入ホース31の様々な配置や本数の実施形態にも、しかるべき排気ホース30や注入ホース31の接続又は閉塞により、上記の様なPC鋼材抜気減圧防錆方法が適用できることは言うまでもない。
【0028】
図2は、図1のPC鋼材の定着部の構造例を示す図であり、1つのシース20及びシース内に挿通されたPC鋼材10の中間部分を省略して両端部近傍を拡大して示す図である。
図2を参照すると、シース20及びシース20内に挿通されたPC鋼材10の両端には定着部40が形成され、定着が終了した状態で、それぞれの定着部40にはPC鋼材10の端部を覆うようにグラウトキャップ41が取り付けられる。図中で左側に示す定着部40はPC鋼材10に緊張を行う側の構成例であり、右側に示す定着部40はPC鋼材10を固定する固定端となる側の構成例である。図2に示すPC鋼材10は、より線を束ねた構成であり、端部において定着する部分では一本一本のより線を分散させて固定又は緊張を行う。
【0029】
固定端の定着部40では、複数の貫通孔が形成されたアンカープレート43のそれぞれの貫通孔にPC鋼材10の個々のより線をそれぞれ挿通した後、貫通孔の径より大きい外径の圧着グリップ44を個々のより線の先端に取り付けることにより、他端でPC鋼材10を緊張してもPC鋼材10が抜けないように固定される。
【0030】
緊張を行う側の定着部40では雌コーン46と雄コーン45の間を円周状に広げた状態で緊張した後、雄コーン45を押し付けた状態で除荷することにより、緊張した状態を維持したまま定着が行われる。
定着の方法は、上記以外にも種々の定着具により様々な方法で行うことが可能であるが、本発明の実施形態によるPC鋼材抜気減圧防錆方法においては、どのような緊張方法であっても構わない。
【0031】
図2では緊張を行う側のシース20の端部近傍にはグラウトを注入する開口部に注入ホース31が接続され、注入ホース31は、コンクリート5の外まで延長されている。注入ホース31の先端には雨水等の浸入を防止するようにキャップ33が取り付けられる。また、定着部40には2つの開口部を備えるグラウトキャップ41が取り付けられ、一方の開口部は栓42により閉鎖され、他方の開口部には排気ホース30が接続される。排気ホース30はホースジョイント32を介して他のシース20のいずれかの排気ホース30と接続される。
【0032】
固定端側の定着部40にも同様の構成のグラウトキャップ41が取り付けられる。固定端側のグラウトキャップ41に接続される排気ホース30は、逆止弁52を介して真空ポンプ50に接続される分岐継手51に接続される。この状態で真空ポンプ50により真空引きを行うことにより、図中のシース20及びホースジョイント32を介して接続される他のシース20内が減圧され、真空ポンプ50の稼働を継続する間、その状態が維持される。
【0033】
所定の期間経過後、例えば予定していた複数の施工区間の工事が全て終了後やグラウト注入の環境温度が適切になった季節までの待機後に、グラウトを注入してPC鋼材10をグラウトで防錆する。グラウトを注入する際は真空ポンプ50を止めるか、分岐継手51の開閉弁を閉じてから注入ホース31よりグラウトを注入する。このときシース20内が減圧された状態でグラウトの注入を開始することにより、グラウトの空気だまりの発生を抑制する効果が期待される。
【0034】
図3は、本発明の実施形態によるPC鋼材抜気減圧防錆方法における排気経路の接続方法を概略的に示す図である。図1では同一長さのシース20が奥行き方向に2本の場合として説明したが、実施形態ではシース20の数はこれに限らない。図3は橋梁の橋脚柱頭部A、第1施工区間B、第2施工区間C、第3施工区間Dまでの張出架設作業が既に終了し、橋脚を挟んで左右の第4施工区間に亘って設置したPC鋼材10の防錆のための接続を示すものである。
【0035】
図3を参照すると、中心線を挟んで4本ずつのシース20が対称に配置されている。尚、それぞれのシース20の注入ホース31及びシース20の中間部の排気ホース30は省略するが、抜気・減圧段階ではこれらのホースはいずれもキャップ33で先端を閉鎖されている。
【0036】
左側の4本のシース20に注目すると、隣接する2本のシース20の排気ホース30同士がホースジョイント32で接続され、排気経路としては4本のシース20は直列に接続される。直列接続の一方の端部となる左端のシース20の排気ホース30は逆止弁52を介して分岐継手51に接続される。分岐継手51の他の端子には橋脚柱頭部A、第1施工区間B、第2施工区間C、第3施工区間Dのシース20の排気ホース30がそれぞれ個別に接続される。分岐継手51は真空ポンプ50に接続されており、これにより分岐継手51に接続された経路のシース20が抜気・減圧される。
【0037】
直列接続の他方の端部となる中心線寄りのシース20の排気ホース30には、真空計53が接続される。ホースジョイント32、真空計53などが接続された排気ホース30以外の排気ホース30はいずれもキャップ33で先端を閉鎖されている。
【0038】
図3の実施形態では4本のシース20は直列に接続されるが、他の実施形態ではシース20は並列に接続する。またその他の実施形態では直列接続と並列接続を併用し、例えばシース20を2本ずつ並列に接続してから接続した2本のシース20同士を直列に接続してもよい。
【0039】
図4は、本発明の実施形態によるPC鋼材抜気減圧防錆方法の実証実験におけるシース内環境の経時変化の一部を抜粋して示す図である。
実証実験では所定の長さのシース20の周りにコンクリート5を打設して四角柱状の供試体を作製した。次いでシース20内にPC鋼材10を挿通し、シース20内の気圧と湿度を測定するセンサをセット後、真空ポンプ50につながる排気ホース30以外は閉塞し、真空ポンプ50を作動させて4月から8月までの約4か月にわたりシース20内の気圧と湿度の経時変化を測定した。
【0040】
図4は、縦軸が気圧又は内部湿度であり、気圧はゲージ圧で示す。横軸は日数であり、実証事件の期間のうちの一部である17日分を示す。この間、気圧は-98kPaを中心に周期的に変動し、最大でも-94kPaには至らなかった。また湿度は約3%を中心に周期的に変動し、最大でも12%程度であった。
【0041】
図5は、図4の実証実験後のPC鋼材の表面状況を示す図であり、図5(a)はシース内の減圧状態を維持した場合のPC鋼材の表面状況、図5(b)はシース内を大気圧で開放して保存した場合のPC鋼材の表面状況を示す図である。
供試体を2本作製し、1本はシース20内を真空ポンプ50で抜気・減圧し、1本は大気に開放した状態で実験を行った。
【0042】
図5(a)を参照すると、シース20内の減圧状態を維持した場合のPC鋼材10の表面は初期状態からの変化は認められず、錆の発生を防止できていることが確認された。一方、シース20内を大気圧で開放して保存したPC鋼材10では、図5(b)に示すように錆11の発生が認められた。
【0043】
実証実験では、図4、5を参照して説明した実証実験の他に、2本の供試体の一方の端部のシース20の排気ホース30同士を接続し、直列接続した排気経路を形成し、その排気経路の一端を閉塞し、他端を真空ポンプ50で真空引きを行う実験も行っている。この実験ではPC鋼材10の表面を水で濡らしてからシース20に挿通し、シース20内の圧力が約0.1気圧~0.2気圧(ゲージ圧約-80kPa以下)の減圧状態で約3か月を放置したが、試験後のPC鋼材10の表面は図5(a)と同様であり、初期状態と変わらず、錆の発生は認められなかった。
【0044】
図6は、本発明の実施形態によるPC鋼材抜気減圧防錆方法及びそれを用いたPC構造物の施工方法を説明するためのフローチャートである。
図6を参照すると、段階S600-1にて第1施工区間のコンクリート5を打設する前に、コンクリート用型枠内の所定に位置にシース20を設置し、その後シース20の周囲にコンクリート5を打設して硬化させ、シース20を固定する。シース20は第1施工区間の端部までの長さで定着する場合は定着部40を設置できるように、また次の施工区間に延長する場合は接続ジョイントを取り付けられるようにコンクリート5から露出させて固定する。また、シース20の端部以外の開口部に接続する注入ホース31又は排気ホース30がある場合は、後からグラウト注入が行えるようそれぞれのホース(30、31)は少なくとも先端近傍がコンクリート5の外に露出するように固定する。
【0045】
コンクリート5の硬化後、第1施工区間の端部までの長さで定着するシース20の内部にPC鋼材10を挿通し、シース20の開口部に接続される注入ホース31、排気ホース30の口を塞いで閉塞する(段階S610-1)。
【0046】
次いで段階S620-1にてPC鋼材10を緊張してから定着し、定着後、定着部40にグラウトキャップ41をかぶせて固定し、グラウトキャップ41に接続される排気ホース30を含めシース20に接続される排気ホース30のいずれかを、他のシース20の排気ホース30のいずれかと接続する。排気ホース30同士を接続したシース20以外にもまだ他のシース20がある場合は、更に排気ホース30同士を接続したシース20のいずれかの排気ホース30とその他のシース20のいずれかの排気ホース30とを接続する。こうして第1施工区間の端部までの間で定着するPC鋼材10のシース20の全てをいずれかの排気ホース30同士で接続して一つの排気経路を構成するように纏める。このときの排気ホース30同士の接続は複数のシース20が互いに直列に接続されるようしてもよいし、互いに並列になるように接続してもよい。
【0047】
最後に段階S630-1にて、排気経路の一端となるいずれかの排気ホース30を真空ポンプ50に接続される分岐継手51に接続し、排気経路の他端を含む残りの排気ホース30の先端をキャップ33で塞いで水や外気が侵入しないようにしてから、分岐継手51の開閉弁を開き、真空ポンプ50でシース20内の抜気・減圧を行う。シース20内の圧力は低い、即ち真空度が高いに越したことはないが、実証実験で効果が確認されたように、0.2気圧以下に維持すれば防錆効果は得られる。そこで真空ポンプ50は連続稼働しなくてもシース20内に圧力センサを設置しておき、0.2気圧以下を維持するように、一定の圧力以上になったら真空ポンプ50を動作させるような制御手段をさらに設けてもよい。
【0048】
段階S600-1~段階S630-1で第1施工区間の抜気減圧による防錆作業が完了する。ここで第1施工区間は図1で示した橋脚柱頭部Aの次の施工区間に限定されるわけではなく、始めにPC鋼材10を設置して定着する区間を意味する。図1のように橋脚柱頭部Aの中で定着するPC鋼材10がある場合は、第1施工区間は橋脚柱頭部Aに相当する。
【0049】
第1施工区間の抜気減圧による防錆作業が完了した時点またはこの状態で所定期間維持してからグラウトを注入してグラウトによる防錆化を行ってもよいが、本発明の実施形態によるPC鋼材抜気減圧防錆方法では、グラウトを注入しなくても防錆環境を維持できるため、後続の施工区間の作業を続けて行うことができる。この場合、1施工区間の作業を行う毎に、段階S600-1~段階S630-1と同様の段階を繰り返す。所定の施工区間である第n施工区間(nは2以上の自然数)にて同様に段階S600-n~段階S630-nを実施する。
段階S630-nまで終了後または段階S630-n終了後更に所定期間経過後に段階S640にてグラウト注入を行い、シース20内をグラウトで充填する。
【0050】
段階S640のグラウト注入作業は基本的には通常のグラウト注入作業と変わらない。ただ真空ポンプ50を止めていずれかの排気ホース30又注入ホース31のキャップ33を外すなどして開放しない限りは、シース20内は減圧状態が維持されるので、注入ホース31から注入を開始する際、大気が流入しないようにし、シース20内の圧力が低いことを利用してグラウトの注入を行ってもよいし、真空ポンプ50を止めて排気ホース30、注入ホース31を開放して大気圧に戻してから充填しても構わない。
【0051】
以上、本発明の実施形態について図面を参照しながら詳細に説明したが、本発明は、上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術的範囲から逸脱しない範囲内で多様に変更することが可能である。
【符号の説明】
【0052】
5 コンクリート
10 PC鋼材
20 シース
30 排気ホース
31 注入ホース
32 ホースジョイント
33 キャップ
40 定着部
41 グラウトキャップ
42 栓
43 アンカープレート
44 圧着グリップ
45 雄コーン
46 雌コーン
50 真空ポンプ
51 分岐継手
52 逆止弁
53 真空計
A 橋脚柱頭部
B 第1施工区間
C 第2施工区間

図1
図2
図3
図4
図5
図6