(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-12
(45)【発行日】2023-07-21
(54)【発明の名称】光学部品形成用樹脂組成物、成形体、及び光学部品
(51)【国際特許分類】
G02B 5/22 20060101AFI20230713BHJP
C08L 45/00 20060101ALI20230713BHJP
C08L 65/00 20060101ALI20230713BHJP
C08K 5/3432 20060101ALI20230713BHJP
【FI】
G02B5/22
C08L45/00
C08L65/00
C08K5/3432
(21)【出願番号】P 2021519346
(86)(22)【出願日】2020-04-24
(86)【国際出願番号】 JP2020017689
(87)【国際公開番号】W WO2020230587
(87)【国際公開日】2020-11-19
【審査請求日】2021-06-02
(31)【優先権主張番号】P 2019091098
(32)【優先日】2019-05-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110928
【氏名又は名称】速水 進治
(72)【発明者】
【氏名】橋本 裕喜
(72)【発明者】
【氏名】添田 泰之
(72)【発明者】
【氏名】加藤 久博
(72)【発明者】
【氏名】奥野 孝行
【審査官】藤岡 善行
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-026635(JP,A)
【文献】特開平11-352301(JP,A)
【文献】特開平11-021433(JP,A)
【文献】国際公開第2017/213047(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/22
C08L 65/00
C08L 23/08
C08K 5/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
環状オレフィン系重合体(I)と、アントラキノン系色素(II)を含む光学部品形成用樹脂組成物であって、
前記環状オレフィン系重合体(I)が、エチレンまたはα-オレフィンと環状オレフィンとの下記式(2)で表される1種または2種以上の構造を有する共重合体を含み、
前記アントラキノン系色素(II)が、下記一般式(A1)で表される化合物(ただし、下記式(s-7)で表される化合物を除く。)を含む、光学部品形成用樹脂組成物。
【化1】
(上記式(2)中、R
1は、炭素原子数2~20の炭化水素基よりなる群から選ばれる1種または2種以上の2価の基である。R
2は、水素原子、炭素原子数1~10の炭化水素基よりなる群から選ばれる1種または2種以上の1価の基である。x、yは共重合比を示し、5/95≦y/x≦95/5を満たす実数である。)
【化2】
(一般式(A1)中、R
1~R
12はそれぞれ独立して置換基を表す。R
1~R
12はそれぞれ同一でも異なっていても良く、水素原子、ハロゲン原子、炭素原子数1~20のアルキル基、炭素原子数1~20のハロゲン化アルキル基、炭素原子数3~15のシクロアルキル基または炭素原子数6~20の芳香族炭化水素基、スルホ基、スルホン酸ナトリウム基、ベンゼンスルホン酸またはその誘導体を表す。)
【化3】
【請求項2】
環状オレフィン系重合体(I)と、アントラキノン系色素(II)を含む光学部品形成用樹脂組成物であって、
前記環状オレフィン系重合体(I)が、エチレンまたはα-オレフィンと環状オレフィンとの下記式(2)で表される1種または2種以上の構造を有する共重合体を含み、
前記アントラキノン系色素(II)が、2-[[9,10-ジヒドロ-4-メチルアミノ-9,10-ジオキソアントラセン-1-イル]アミノ]-5-メチルベンゼンスルホン酸ナトリウム、1,4-ビス(2-ソジオスルホ-4-メチルアニリノ)アントラキノン、1,4-ビス[2-(ソジオスルホ)-4-ブチルアニリノ]-9,10-アントラキノン、5,8-ビス(p-ブチルアニリノ)-1,4-ジヒドロキシアントラキノン、および1-メチルアミノ-4-[(3-メチルフェニル)アミノ]-9,10-アントラキノンから選択される少なくとも1種を含む、光学部品形成用樹脂組成物。
【化4】
(上記式(2)中、R
1
は、炭素原子数2~20の炭化水素基よりなる群から選ばれる1種または2種以上の2価の基である。R
2
は、水素原子、炭素原子数1~10の炭化水素基よりなる群から選ばれる1種または2種以上の1価の基である。x、yは共重合比を示し、5/95≦y/x≦95/5を満たす実数である。)
【請求項3】
前記アントラキノン系色素(II)を、900ppm以上、4000ppm以下含む、請求項1または2に記載の光学部品形成用樹脂組成物。
【請求項4】
2種以上のアントラキノン系色素を含む前記アントラキノン系色素(II)、または前記アントラキノン系色素(II)およびアゾ系色素の組み合わせ、を含む、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の光学部品形成用樹脂組成物。
【請求項5】
前記光学部品形成用樹脂組成物からなる厚さ1mmの成形体において、波長850~1000nmの透過率の平均値が85%以上、波長300~600nmの透過率の平均値が1%以下である、請求項1乃至4のいずれか一項に記載の、光学部品形成用樹脂組成物。
【請求項6】
前記光学部品形成用樹脂組成物からなる厚さ3mmの成形体において、波長830nmの屈折率が、測定温度25℃で1.50以上1.70以下である、請求項1乃至5のいずれか一項に記載の、光学部品形成用樹脂組成物。
【請求項7】
前記アントラキノン系色素(II)が、極大吸収波長が波長550~800nmの範囲に存在するアントラキノン系色素を含む、請求項1乃至6のいずれか一項に記載の光学部品形成用樹脂組成物。
【請求項8】
前記光学部品形成用樹脂組成物中の前記アントラキノン系色素(II)の含有量が、前記光学部品形成用樹脂組成物に対し、500ppm以上、10000ppm以下である、請求項1乃至7のいずれか一項に記載の光学部品形成用樹脂組成物。
【請求項9】
請求項1乃至8のいずれか一項に記載の光学部品形成用樹脂組成物であって、
前記光学部品形成用樹脂組成物からなる成形体の波長830nmの屈折率が、
前記環状オレフィン系重合体(I)からなる成形体の波長830nmの屈折率より0.00040以上高い、光学部品形成用樹脂組成物。
【請求項10】
請求項1乃至9のいずれか一項に記載の光学部品形成用脂組成物であって、前記光学部品形成用樹脂組成物からなる厚さ1mmの成形体において、波長850nmの透過率が20%以上である、光学部品形成用樹脂組成物。
【請求項11】
請求項1乃至10のいずれか一項に記載の光学部品形成用樹脂組成物を成形してなる成形体。
【請求項12】
請求項11に記載の成形体を含む光学部品。
【請求項13】
レンズ、プリズムまたは導光板である、請求項12に記載の光学部品。
【請求項14】
樹脂(I')と、アントラキノン系色素(II)を含む光学部品形成用樹脂組成物であって、
前記樹脂(I')が、下記式(2)で表される1種または2種以上の構造を有する環状オレフィン系重合体(I)を含み、
前記アントラキノン系色素(II)が、下記一般式(A1)で表される化合物(ただし、下記式(s-7)で表される化合物を除く。)を含み、
前記光学部品形成用樹脂組成物からなる厚さ1mmの成形体において、波長850~1000nmの透過率の平均値が85%以上、波長300~600nmの透過率の平均値が1%以下であり、
前記光学部品形成用樹脂組成物からなる厚さ3mmの成形体において、波長830nmの屈折率が、測定温度25℃で1.50以上1.70以下である、
光学部品形成用樹脂組成物。
【化5】
(上記式(2)中、R
1は、炭素原子数2~20の炭化水素基よりなる群から選ばれる1種または2種以上の2価の基である。R
2は、水素原子、炭素原子数1~10の炭化水素基よりなる群から選ばれる1種または2種以上の1価の基である。x、yは共重合比を示し、5/95≦y/x≦95/5を満たす実数である。)
【化6】
(一般式(A1)中、R
1~R
12はそれぞれ独立して置換基を表す。R
1~R
12はそれぞれ同一でも異なっていても良く、水素原子、ハロゲン原子、炭素原子数1~20のアルキル基、炭素原子数1~20のハロゲン化アルキル基、炭素原子数3~15のシクロアルキル基または炭素原子数6~20の芳香族炭化水素基、スルホ基、スルホン酸ナトリウム基、ベンゼンスルホン酸またはその誘導体を表す。)
【化7】
【請求項15】
樹脂(I')と、アントラキノン系色素(II)を含む光学部品形成用樹脂組成物であって、
前記樹脂(I')が、下記式(2)で表される1種または2種以上の構造を有する環状オレフィン系重合体(I)を含み、
前記アントラキノン系色素(II)が、2-[[9,10-ジヒドロ-4-メチルアミノ-9,10-ジオキソアントラセン-1-イル]アミノ]-5-メチルベンゼンスルホン酸ナトリウム、1,4-ビス(2-ソジオスルホ-4-メチルアニリノ)アントラキノン、1,4-ビス[2-(ソジオスルホ)-4-ブチルアニリノ]-9,10-アントラキノン、5,8-ビス(p-ブチルアニリノ)-1,4-ジヒドロキシアントラキノン、および1-メチルアミノ-4-[(3-メチルフェニル)アミノ]-9,10-アントラキノンから選択される少なくとも1種を含み、
前記光学部品形成用樹脂組成物からなる厚さ1mmの成形体において、波長850~1000nmの透過率の平均値が85%以上、波長300~600nmの透過率の平均値が1%以下であり、
前記光学部品形成用樹脂組成物からなる厚さ3mmの成形体において、波長830nmの屈折率が、測定温度25℃で1.50以上1.70以下である、
光学部品形成用樹脂組成物。
【化8】
(上記式(2)中、R
1
は、炭素原子数2~20の炭化水素基よりなる群から選ばれる1種または2種以上の2価の基である。R
2
は、水素原子、炭素原子数1~10の炭化水素基よりなる群から選ばれる1種または2種以上の1価の基である。x、yは共重合比を示し、5/95≦y/x≦95/5を満たす実数である。)
【請求項16】
前記アントラキノン系色素(II)を、900ppm以上、4000ppm以下含む、請求項14または15に記載の光学部品形成用樹脂組成物。
【請求項17】
2種以上のアントラキノン系色素を含む前記アントラキノン系色素(II)、または前記アントラキノン系色素(II)およびアゾ系色素の組み合わせ、を含み、
前記光学部品形成用樹脂組成物からなる厚さ1mmの成形体において、波長850~1000nmの透過率の平均値が85%以上、波長300~600nmの透過率の平均値が1%以下であり、
前記光学部品形成用樹脂組成物からなる厚さ3mmの成形体において、波長830nmの屈折率が、測定温度25℃で1.50以上1.70以下である、請求項14乃至16のいずれか一項に記載の光学部品形成用樹脂組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学部品形成用樹脂組成物、成形体、及び光学部品に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、対象物の形や距離を測定する3Dセンサや測距センサが、スマートフォンや自動車に搭載されるなどして利用が拡大している。これらのデバイスでは近赤外光を利用しており、可視光はノイズとして検出される。したがって、これらのデバイスには可視光を遮光し、近赤外光を選択的に透過させる光学部品が不可欠である。
従来、このような光学部品として可視光カットフィルターが広く用いられてきた。可視光カットフィルターは、一般的にはガラス基板上に所定の厚みの誘電体物質を10層以上積層して製造される光学部品であり、レンズとセンサの間に設置される。しかし、製造工程が複雑であり、コストがかかるという問題があった。そこで、例えば、特許文献1に記載されているように、樹脂基板上に光吸収層を塗布することで簡便に可視光カットフィルターを作成する方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記の方法では、光吸収層の剥離などで基板樹脂が露出した場合、透過特性が大きく変化する懸念がある。加えて、特に低背化が強く望まれるスマートフォンにおいては、可視光カットフィルターを設置するためのスペースが問題となる。
【0005】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、樹脂組成物からなる成形体自体に近赤外選択透過特性を有するため、光吸収層のコーティングが不要な成形体を作成することが可能な光学部品形成用樹脂組成物であって、従来よりも屈折率が大きく、例えば、レンズとして用いる際、レンズの厚みを薄くすることができる成形体を得ることが可能である樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
すなわち、本発明によれば、以下に示す樹脂組成物、成形体、及び、光学部品が提供される。
【0007】
[1] 環状オレフィン系重合体と、アントラキノン系色素を含む光学部品形成用樹脂組成物であって、
前記環状オレフィン系重合体が、エチレンまたはα-オレフィンと環状オレフィンとの共重合体、および、環状オレフィンの開環重合体から選択される少なくとも一種を含む、光学部品形成用樹脂組成物。
[2] 前記光学部品形成用樹脂組成物からなる厚さ1mmの成形体において、波長850~1000nmの透過率の平均値が85%以上、波長300~600nmの透過率の平均値が1%以下である、[1]に記載の、光学部品形成用樹脂組成物。
[3] 前記光学部品形成用樹脂組成物からなる厚さ3mmの成形体において、波長830nmの屈折率が、測定温度25℃で1.50以上1.70以下である、[1]又は[2]に記載の、光学部品形成用樹脂組成物。
[4] 前記アントラキノン系色素が、極大吸収波長が波長550~800nmの範囲に存在するアントラキノン系色素を含む、[1]乃至[3]のいずれかに記載の光学部品形成用樹脂組成物。
[5] 前記アントラキノン系色素が、下記一般式(A1)で表される化合物を含む、[1]乃至[4]のいずれかに記載の光学部品形成用樹脂組成物。
【化1】
(一般式(A1)中、R
1~R
12はそれぞれ独立して置換基を表す。R
1~R
12はそれぞれ同一でも異なっていても良く、水素原子、ハロゲン原子、炭素原子数1~20のアルキル基、炭素原子数1~20のハロゲン化アルキル基、炭素原子数3~15のシクロアルキル基または炭素原子数6~20の芳香族炭化水素基、スルホ基、スルホン酸ナトリウム基、ベンゼンスルホン酸またはその誘導体を表す。)
[6] 前記光学部品形成用樹脂組成物中の前記アントラキノン系色素の含有量が、前記光学部品形成用樹脂組成物に対し、500ppm以上、10000ppm以下である、[1]乃至[5]に記載の光学部品形成用樹脂組成物。
[7] [1]乃至[6]のいずれかに記載の光学部品形成用樹脂組成物であって、
前記光学部品形成用樹脂組成物からなる成形体の波長830nmの屈折率が、
前記環状オレフィン系重合体からなる成形体の波長830nmの屈折率より0.00040以上高い、光学部品形成用樹脂組成物。
[8] [1]乃至[7]のいずれかに記載の光学部品形成用脂組成物であって、前記光学部品形成用樹脂組成物からなる厚さ1mmの成形体において、波長850nmの透過率が20%以上である、光学部品形成用樹脂組成物。
[9] [1]乃至[8]のいずれかに記載の光学部品形成用樹脂組成物を成形してなる成形体。
[10] [9]に記載の成形体を含む光学部品。
[11] レンズ、プリズムまたは導光板である、[10]に記載の光学部品。
[12] 樹脂と、アントラキノン系色素を含む光学部品形成用樹脂組成物であって、
前記樹脂が、環状オレフィン系重合体、ポリカーボネート、アクリル樹脂、ポリエステルから選択される少なくとも一種を含み、
前記光学部品形成用樹脂組成物からなる厚さ1mmの成形体において、波長850~1000nmの透過率の平均値が85%以上、波長300~600nmの透過率の平均値が1%以下であり、
前記光学部品形成用樹脂組成物からなる厚さ3mmの成形体において、波長830nmの屈折率が、測定温度25℃で1.50以上1.70以下である、
光学部品形成用樹脂組成物。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、成形体自体に近赤外選択透過特性を有するため光吸収層のコーティングが不要な成形体を作成することが可能な樹脂組成物であって、かつ、従来よりも屈折率が大きく、さらに耐熱性、耐湿熱性、および耐紫外線性にバランス良く優れ、可視光線の遮蔽効果の低下および近赤外線透過率の低下が抑制された成形体を得ることが可能である樹脂組成物、該樹脂組成物からなる成形体、及び、光学部品を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態について、詳細に説明する。
本明細書中、数値範囲の説明における「a~b」との表記は、特に断らない限り、a以上b以下のことを表す。例えば、「1~5質量%」とは「1質量%以上5質量%以下」の意である。
【0010】
本発明の第一の実施形態に係る光学部品形成用樹脂組成物は、環状オレフィン系重合体と、アントラキノン系色素を含む。また、本実施形態に係る環状オレフィン系重合体は、エチレンまたはα-オレフィンと環状オレフィンとの共重合体、および、環状オレフィンの開環重合体から選択される少なくとも一種を含む。
本実施形態に係る光学部品形成用樹脂組成物は、環状オレフィン系重合体と、アントラキノン系色素を含み、かつ、環状オレフィン系重合体として、エチレンまたはα-オレフィンと環状オレフィンとの共重合体、および、環状オレフィンの開環重合体から選択される少なくとも一種を含むことによって、該光学部品形成用樹脂組成物から成る成形体自体に近赤外選択透過特性を付与することができ、該成形体は、光吸収層のコーティングを要さず可視光を遮光し近赤外光を選択的に透過させることができる成形体となる。
また、本実施形態に係る光学部品形成用樹脂組成物によれば、従来よりも屈折率が大きい成形体を得ることが可能である。よって、例えば、本実施形態に係る光学部品形成用樹脂組成物から成る成形体をレンズとして用いる際、レンズの厚みを薄くすることができ、省スペース化、軽量化を図ることができる。
また、本発明者らの検討によれば、従来技術においては、光学部品形成用樹脂組成物において、該光学部品形成用樹脂組成物、及び、該光学部品形成用樹脂組成物から成る成形体に近赤外選択透過特性を付与しようとした場合、該光学部品形成用樹脂組成物や、該成形体に色ムラが生じる場合があることが知見されたが、本発明によれば、該光学部品形成用樹脂組成物や、該成形体に生じる色ムラを抑制することができる。
さらに、本発明によれば、上記した効果に加え、優れた耐熱性、耐湿熱性、耐紫外線性を備え、可視光線の遮蔽効果の低下および近赤外線透過率の低下が抑制された光学部品を得ることが可能な光学部品形成用樹脂組成物を提供することが可能となる。
【0011】
以下、本実施形態に係る光学部品形成用樹脂組成物が含む各成分について具体的に説明する。
【0012】
(環状オレフィン系重合体)
環状オレフィン系重合体は、環状オレフィンに由来する繰り返し単位を必須構成単位とする重合体である。
本実施形態に係る環状オレフィン系重合体は、エチレンまたはα-オレフィンと環状オレフィンとの共重合体、および、環状オレフィンの開環重合体から選択される少なくとも一種を含む。
【0013】
本実施形態に係る環状オレフィン系重合体としては、特開2009-120794号に記載のポリマー(A)を挙げることができ、本実施形態に係る環状オレフィン系重合体は、脂環式構造を有する、下記化学式[I]、化学式[II]、または、化学式[III]で表される環状オレフィンから導かれる構成単位(a)を有する環状オレフィン系重合体を含むことができる。
構成単位(a)は、下記化学式[I]、化学式[II]、または化学式[III]で表される環状オレフィンから導かれることが好ましい。
【0014】
【0015】
上記式[I]中、nは0または1であり、mは0または正の整数であり、qは0または1である。なおqが1の場合には、RaおよびRbは、それぞれ独立に、下記の原子または炭化水素基であり、qが0の場合には、それぞれの結合手が結合して5員環を形成する。
【0016】
R1~R18ならびにRaおよびRbは、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子またはハロゲン原子で置換されていてもよい炭化水素基である。ここでハロゲン原子は、フッ素原子、塩素原子、臭素原子またはヨウ素原子である。
【0017】
また、炭化水素基としては、それぞれ独立に、通常炭素原子数1~20のアルキル基、炭素原子数3~15のシクロアルキル基、芳香族炭化水素基が挙げられる。より具体的には、アルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、アミル基、ヘキシル基、オクチル基、デシル基、ドデシル基およびオクタデシル基が挙げられ、シクロアルキル基としては、シクロヘキシル基が挙げられ、芳香族炭化水素基としては、フェニル基、ナフチル基などが挙げられる。これらの炭化水素基は、ハロゲン原子で置換されていてもよい。
【0018】
さらに上記式[I]において、R15~R18がそれぞれ結合して(互いに共同して)単環または多環を形成していてもよく、しかもこのようにして形成された単環または多環は二重結合を有していてもよい。ここで形成される単環または多環の具体例を下記に示す。
【0019】
【0020】
なお上記例示において、1または2の番号が付された炭素原子は、式[I]においてそれぞれR
15(R
16)またはR
17(R
18)が結合している炭素原子を示している。またR
15とR
16とで、またはR
17とR
18とでアルキリデン基を形成していてもよい。このようなアルキリデン基は、通常は炭素原子数2~20のアルキリデン基であり、このようなアルキリデン基の具体的な例としては、エチリデン基、プロピリデン基およびイソプロピリデン基を挙げることができる。
【化4】
【0021】
上記式[II]中、pおよびqは0または正の整数であり、mおよびnは0、1または2である。またR1~R19は、それぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、ハロゲン原子で置換されていてもよい炭化水素基またはアルコキシ基である。
【0022】
ハロゲン原子は、上記式[I]におけるハロゲン原子と同じ意味である。また炭化水素基としては、それぞれ独立に炭素原子数1~20のアルキル基、炭素原子数1~20のハロゲン化アルキル基、炭素原子数3~15のシクロアルキル基または芳香族炭化水素基が挙げられる。より具体的には、アルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、アミル基、ヘキシル基、オクチル基、デシル基、ドデシル基およびオクタデシル基が挙げられ、シクロアルキル基としては、シクロヘキシル基が挙げられ、芳香族炭化水素基としては、アリール基およびアラルキル基、具体的には、フェニル基、トリル基、ナフチル基、ベンジル基およびフェニルエチル基などが挙げられる。アルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基およびプロポキシ基などを挙げることができる。これらの炭化水素基およびアルコキシ基は、フッ素原子、塩素原子、臭素原子またはヨウ素原子で置換されていてもよい。
【0023】
ここで、R9およびR10が結合している炭素原子と、R13が結合している炭素原子またはR11が結合している炭素原子とは、直接あるいは炭素原子数1~3のアルキレン基を介して結合していてもよい。すなわち上記二個の炭素原子がアルキレン基を介して結合している場合には、R9およびR13で示される基が、またはR10およびR11で示される基が互いに共同して、メチレン基(-CH2-)、エチレン基(-CH2CH2-)またはプロピレン基(-CH2CH2CH2-)のうちのいずれかのアルキレン基を形成している。さらに、n=m=0のとき、R15とR12またはR15とR19とは互いに結合して単環または多環の芳香族環を形成していてもよい。この場合の単環または多環の芳香族環として、たとえば下記のようなn=m=0のときR15とR12とまたはR15とR19とがさらに芳香族環を形成している基が挙げられる。
【0024】
【0025】
ここでqは式[II]におけるqと同じ意味である。
【0026】
【0027】
(化学式[III]中、R1~R8はそれぞれ独立に、水素原子または炭化水素基であり、R5とR6、R6とR7、R7とR8は互いに結合して単環を形成していてもよく、該単環が二重結合を有していても良い。)
上記の式[III]において、R1~R8はそれぞれ独立に、水素原子または炭素数4以下の炭化水素基であることが好ましく、炭素数4以下の炭化水素基の例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基などのアルキル基、シクロプロピル基などのシクロアルキル基が挙げられる。
【0028】
上記のような式[I]、[II]または[III]で示される環状オレフィンを、より具体的に下記に例示する。
【0029】
【0030】
で示されるビシクロ[2.2.1]-2-へプテン(上記式中、1~7の数字は炭素の位置番号を示す。)、及び、ビシクロ[2.2.1]-2-ヘプテンに、例えばハロゲン原子またはハロゲン原子で置換されていてもよい炭化水素基が置換した誘導体。このハロゲン原子としては、上記式[I]におけるハロゲン原子と同じ意味であり、炭化水素基としては、たとえば、5-メチル、5,6-ジメチル、1-メチル、5-エチル、5-n-ブチル、5-イソブチル、7-メチル、5-フェニル、5-メチル-5-フェニル、5-ベンジル、5-トリル、5-(エチルフェニル)、5-(イソプロピルフェニル)、5-(ビフェニル)、5-(ベータ-ナフチル)、5-(アルファ-ナフチル)、5-(アントラセニル)、5,6-ジフェニルなどが挙げられる。これらの炭化水素基は、フッ素原子、塩素原子、臭素原子またはヨウ素原子で置換されていてもよい。
【0031】
さらに他の誘導体として、シクロペンタジエン-アセナフチレン付加物、1,4-メタノ-1,4,4a,9a-テトラヒドロフルオレン、1,4-メタノ-1,4,4a,5,10,10a-ヘキサヒドロアントラセンナドノビシクロ[2.2.1]-2-ヘプテン誘導体などが挙げられる。
【0032】
トリシクロ[4.3.0.12,5]-3-デセン、2-メチルトリシクロ[4.3.0.12,5]-3-デセン、5-メチルトリシクロ[4.3.0.12,5]-3-デセンなどのトリシクロ[4.3.0.12,5]-3-デセン誘導体、トリシクロ[4.4.0.12,5]-3-ウンデセン、10-メチルトリシクロ[4.4.0.12,5]-3-ウンデセンなどのトリシクロ[4.4.0.12,5]-3-ウンデセン誘導体。
【0033】
【0034】
で示されるテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]-3-ドデセン(上記式中、1~12の数字は炭素の位置番号を示す。)およびこれに、炭化水素基が置換した誘導体。この炭化水素基としては、たとえば、8-メチル、8-エチル、8-プロピル、8-ブチル、 8- イソブチル、8-ヘキシル、8-シクロヘキシル、8-ステアリル、5,10-ジメチル、2,10-ジメチル、8,9-ジメチル、8-エチル-9-メチル、11,12-ジメチル、2,7,9-トリメチル、2,7-ジメチル-9-エチル、9-イソブチル-2,7-ジメチル、9,11,12-トリメチル、9-エチル-11,12-ジメチル、9-イソブチル-11,12-ジメチル、5,8,9,10-テトラメチル、8-エチリデン、8-エチリデン-9-メチル、8-エチリデン-9-エチル、8-エチリデン-9-イソプロピル、8-エチリデン-9-ブチル、8-n-プロピリデン、8-n-プロピリデン-9-メチル、8-n-プロピリデン-9-エチル、8-n-プロピリデン-9-イソプロピル、8-n-プロピリデン-9-ブチル、8-イソプロピリデン、8-イソプロピリデン-9-メチル、8-イソプロピリデン-9-エチル、8-イソプロピリデン-9-イソプロピル、8-イソプロピリデン-9-ブチル、8-クロロ、8-ブロモ、8-フルオロ、8,9-ジクロロ、8-フェニル、8-メチル-8-フェニル、8-ベンジル、8-トリル、8-(エチルフェニル)、8-(イソプロピルフェニル)、8,9-ジフェニル、8-(ビフェニル)、8-(ベータ-ナフチル)、8-(アルファ-ナフチル)、8-(アントラセニル)、5,6-ジフェニルなどが挙げられる。
【0035】
さらに他の誘導体として、(シクロペンタジエン-アセナフチレン付加物)とシクロペンタジエンとの付加物などが挙げられる。ペンタシクロ[6.5.1.13,6.02,7.09,13]-4-ペンタデセンおよびその誘導体、ペンタシクロ[7.4.0.12,5.19,12.08,13]-3-ペンタデセンおよびその誘導体、ペンタシクロ[6.5.1.13,6.02,7.09,13]-4,10-ペンタデカジエン等のペンタシクロペンタデカジエン化合物、ペンタシクロ[8.4.0.12,5.19,12.08,13]-3-ヘキサデセンおよびその誘導体、ペンタシクロ[6.6.1.13,6.02,7.09,14]-4-ヘキサデセンおよびその誘導体、ヘキサシクロ[6.6.1.13,6.110,13.02,7.09,14]-4-ヘプタデセンおよびその誘導体、ヘプタシクロ[8.7.0.12,9.14,7.111,17.03,8.012,16]-5-エイコセンおよびその誘導体、ヘプタシクロ[8.8.0.12,9.14,7.111,18.03,8.012,17]-5-ヘンエイコセンおよびその誘導体、オクタシクロ[8.8.0.12,9.14,7.111,18.113,16.03,8.012,17]-5-ドコセンおよびその誘導体、ノナシクロ[10.9.1.14,7.113,20.115,18.02,10.03,8.012,21.014,19]-5-ペンタコセンおよびその誘導体、ノナシクロ[10.10.1.15,8.114,21.116,19.02,11.04,9.013,22.015,20]-6-ヘキサコセンおよびその誘導体等が挙げられる。
【0036】
さらに他の誘導体として、シクロペンタジエン-ベンザイン付加物(ベンゾノルボルナジエンと呼ぶ)や、これに炭化水素基が置換した誘導体などが挙げられる。
【0037】
なお一般式[I]、[II]または[III]で示される環状オレフィンの具体例を上記に示したが、これら化合物のより具体的な構造例としては、特開平6-228380号当初明細書の段落番号[0038]~[0058]に示された環状オレフィンの構造例や、特開2005-330465号当初明細書の段落番号[0027]~[0029]に示された環状オレフィンの構造例を挙げることができる。本実施形態に係る環状オレフィン系重合体は、上記環状オレフィンから導かれる単位を2種以上含有していてもよい。
【0038】
上記のような一般式[I]、[II]または[III]で示される環状オレフィンは、シクロペンタジエンと対応する構造を有するオレフィン類とを、ディールス・アルダー反応させることによって製造することができる。なお、このようなディールズ・アルダー反応によって得られる環状モノマーは、通常エンド体とエキソ体との異性体混合物として得られるが、エンド体が主に生成する。但し、従来公知、例えば特開平5-86131号に記載の方法で異性体混合物中のエキソ体の濃度を増加させることができる。これに従って、本発明の目的を損なわない範囲で環状モノマーのエンド体/エキソ体の比を調整して使用することができる。
また、例えばベンゾノルボルナジエン(以下BNBDと呼ぶことがある)やその誘導体は従来公知、例えばGB2244276号に記載の方法で製造することができる。例えばBNBDは、1,2-ジメトキシエタンの存在下でシクロペンタジエンと2-アミノ安息香酸を反応させることにより得ることができる。
【0039】
上記した中でも、本実施形態に係る環状オレフィン系重合体は、ノルボルネン骨格を有する単量体に由来する構造単位を含む、ノルボルネン単量体を重合してなるノルボルネン系重合体であることが好ましい。なお、ノルボルネン単量体の具体例については、後述の通りである。
【0040】
[エチレンまたはα-オレフィンと環状オレフィンとの共重合体]
上記したように、本実施形態に係る環状オレフィン系重合体は、エチレンまたはα-オレフィンと環状オレフィンとの共重合体、および、環状オレフィンの開環重合体から選択される少なくとも一種を含み、エチレンまたはα-オレフィンと環状オレフィンとの共重合体を含むことが好ましい。
エチレンまたはα-オレフィンと環状オレフィンとの共重合体としては、例えば、国際公開第2008/047468号パンフレットの段落0030~0123に記載の重合体や、特開2016-8236に記載の環状オレフィン系重合体を用いることができる。
【0041】
共重合体として例えば、繰り返し構造単位の少なくとも一部に脂環族構造を有する重合体(以下、単に「脂環族構造を有する重合体」ともいう)であり、重合体の繰り返し単位の少なくとも一部に脂環族構造を有するものであればよく、具体的には下記一般式(1)で表される1種ないし2種以上の構造を有する重合体を含むことが好ましい。
【0042】
【0043】
(式(1)中、x、yは共重合比を示し、0/100≦y/x≦95/5を満たす実数である。x、yはモル基準である。
nは置換基Qの置換数を示し、0≦n≦2の実数である。
R1は炭素原子数2~20、好ましくは2~12の炭化水素基よりなる群から選ばれる1種または2種以上の2+n価の基である。R2は水素原子、炭素原子数1~10の炭化水素基よりなる群から選ばれる1種または2種以上の1価の基である。R3は炭素原子数2~10、好ましくは2~5の炭化水素基よりなる群から選ばれる1種または2種以上の4価の基である。
Qは、COORd(Rdは、水素原子、または炭素原子数1~10の炭化水素基よりなる群から選ばれる1価の基である。)である。
R1、R2、R3およびQは、それぞれ1種であってもよく、2種以上を任意の割合で有していてもよい。)
【0044】
上記式(1)中の各記号については、次のような好ましい条件を挙げることができ、これらの条件は必要に応じ組み合わせて用いられる。
[1]R1が、構造中に少なくとも環構造を1箇所持つ基である。
[2]R3が、n=0の場合、下記の例示構造(a)、(b)、(c)である。
【0045】
【0046】
上記式(a)~式(c)中、R1は式(1)と同じである。
【0047】
[3]nが0である。
[4]y/xが、20/80≦y/x≦65/35を満たす実数である。
[5]R2が、水素原子及び/または-CH3である。
[6]Qが、-COOHまたは、-COOCH3基である。
【0048】
本実施形態に用いられる環状オレフィン系重合体としては、下記式(2)で表される1種または2種以上の構造を有する重合体であることがさらに好ましい。
【化11】
【0049】
上記式(2)中、R1は、炭素原子数2~20、好ましくは2~12の炭化水素基よりなる群から選ばれる1種または2種以上の2価の基である。
R2は、水素原子、炭素原子数1~10の炭化水素基よりなる群から選ばれる1種または2種以上の1価の基である。
【0050】
上記式(2)中、x、yは共重合比を示し、5/95≦y/x≦95/5を満たす実数である。好ましくは50/50≦y/x≦95/5、さらに好ましくは、55/45≦y/x≦80/20である。x、yはモル基準である。
【0051】
上記式(2)中の各記号については、次のような好ましい条件を挙げることができ、これらの条件は必要に応じ組み合わせて用いられる。
[1]R1基が、下記式(3)で表される2価の基である。
【0052】
【0053】
上記式(3)中、pは、0乃至2の整数である。好ましくは、上記式(3)においてpが1である2価の基である。
【0054】
[2]R2は、水素原子である。
【0055】
エチレンまたはα-オレフィンとしては、エチレン、プロピレン、ブテン-1、等を挙げる事ができるが、エチレンが好ましい。
環状オレフィンとしては、上記した一般式[I]、[II]、[III]で表される環状オレフィンを挙げることができ、例えば、ビシクロ[2.2.1]-2-ヘプテン、テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]-3-ドデセン、1,4-メタノ-1,4,4a,9a-テトラヒドロフルオレン、シクロペンタジエン-ベンザイン付加物およびシクロペンタジエン-アセナフチレン付加物からなる群から選ばれる一種または二種以上であるものが好ましく、ビシクロ[2.2.1]-2-ヘプテンおよびテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]-3-ドデセンから選択される少なくとも一種であるものがより好ましい。
【0056】
本実施形態に係るエチレンまたはα-オレフィンと環状オレフィンとの共重合体は、本実施形態に係る樹脂組成物、該樹脂組成物から得られる成形体等の良好な物性を損なわない範囲で、他の共重合可能なモノマーから誘導される繰り返し構造単位を有していてもよい。その共重合比は特に限定されないが、エチレンまたはα-オレフィン及び環状オレフィン以外のモノマーから誘導される繰り返し構造単位は、環状オレフィン系重合体を100モル%としたとき、好ましくは20モル%以下、さらに好ましくは10モル%以下である。上記共重合比が上記上限値以下であると、得られる樹脂組成物、該樹脂組成物から得られる成形体の光学物性等をより良好なものとし、より高精度の光学部品を得ることができる。
【0057】
他の共重合可能なモノマーとしては、例えば、芳香族ビニル化合物を挙げることができる。芳香族ビニル化合物としては、スチレン及びその誘導体が包含される。スチレン誘導体とは、スチレンに他の基が結合した化合物であって、例えば、o-メチルスチレン、m-メチルスチレン、p-メチルスチレン、2,4-ジメチルスチレン、o-エチルスチレン、p-エチルスチレンのようなアルキルスチレンや、ヒドロキシスチレン、t-ブトキシスチレン、ビニル安息香酸、ビニルベンジルアセテート、o-クロロスチレン、p-クロロスチレンの如き、スチレンのベンゼン核に水酸基、アルコキシ基、カルボキシル基、アシルオキシ基、ハロゲンなどが導入された置換スチレン、また4-ビニルビフェニル、4-ヒドロキシ-4′-ビニルビフェニルのようなビニルビフェニル系化合物などが挙げられる。
これらの中でも、得られる成形体の光学特性の面からは、ベンゼン環のユニットを有するモノマーが好ましく、例えば、スチレン及びその誘導体が好ましい。
【0058】
また、本実施形態に係るエチレンまたはα-オレフィンと環状オレフィンとの共重合体の共重合体のタイプは特に限定されないが、ランダム共重合体、ブロック共重合体、交互共重合体等、公知の様々な共重合体のタイプを適用することができる。それらの中でも、ランダム共重合体が好ましい。
【0059】
本実施形態に係る光学部品形成用樹脂組成物は、樹脂組成物を成形してなる成形体の複屈折量を小さくする場合、環状オレフィン系重合体自体の複屈折量がより小さい、エチレンまたはα-オレフィンと環状オレフィンとの共重合体を含むことが好ましい。ここでいう複屈折量とは、厚さ1mmの成形体について、波長850nmで測定した位相差である。
【0060】
[環状オレフィンの開環重合体]
上記したように、本実施形態に係る環状オレフィン系重合体は、エチレンまたはα-オレフィンと環状オレフィンとの共重合体、および、環状オレフィンの開環重合体から選択される少なくとも一種を含む。以下、環状オレフィンの開環重合体について説明する。
環状オレフィンの開環重合体としては、例えば、ノルボルネン単量体の開環重合体およびノルボルネン単量体とこれと開環共重合可能なその他の単量体との開環重合体、ならびにこれらの水素化物等が挙げられ、たとえば、特許6256353号公報に記載のノルボルネン系重合体が挙げられる。
【0061】
ノルボルネン単量体としては、ノルボルネン系単量体、テトラシクロドデセン系単量体、ジシクロペンタジエン系単量体、メタノテトラヒドロフルオレン系単量体、などが挙げられる。
【0062】
ノルボルネン系単量体としては、ビシクロ[2.2.1]ヘプタ-2-エン(慣用名ノルボルネン)、5-メチル-ビシクロ[2.2.1]ヘプタ-2-エン、5,5-ジメチル-ビシクロ[2.2.1]ヘプタ-2-エン、5-エチル-ビシクロ[2.2.1]ヘプタ-2-エン、5-エチリデン-ビシクロ[2.2.1]ヘプタ-2-エン、5-ビニル-ビシクロ[2.2.1]ヘプタ-2-エン、5-プロペニルビシクロ[2.2.1]ヘプタ-2-エン、5-メトキシルボニル-ビシクロ[2.2.1]ヘプタ-2-エン、5-シアノビシクロ[2.2.1]ヘプタ-2-エン、5-メチル5-メトキシカルボニル-ビシクロ[2.2.1]ヘプタ-2-エンなどが例示される。
【0063】
テトラシクロドデセン系単量体としては、テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]-3-ドデセン(テトラシクロドデセン)、テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]-3-ドデセン、8-メチルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]-3-ドデセン、8-エチルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]-3-ドデセン、8-エチリデンテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]-3-ドデセン、8,9-ジメチルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]-3-ドデセン、8-エチル-9-メチルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]-3-ドデセン、8-エチリデン-9-メチルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]-3-ドデセン、8-メチル-8-カルボキシメチルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]-3-ドデセン等が挙げられる。
【0064】
ジシクロペンタジエン系単量体としては、トリシクロ[4.3.01,6.12,5]デカ-3,7-ジエン(慣用名ジシクロペンタジエン)、2-メチルジシクロペンタジエン、2,3-ジメチルジシクロペンタジエン、2,3-ジヒドロキシジシクロペンタジエン等が挙げられる。
【0065】
メタノテトラヒドロフルオレン系単量体としては、7,8-ベンゾトリシクロ[4.3.0.12,5]デカ-3-エン(慣用名メタノテトラヒドロフルオレン:1,4-メタノ-1,4,4a,9a-テトラヒドロフルオレンともいう)、1,4-メタノ-8-メチル-1,4,4a,9a-テトラヒドロフルオレン、1,4-メタノ-8-クロロ-1,4,4a,9a-テトラヒドロフルオレン、1,4-メタノ-8-ブロモ-1,4,4a,9a-テトラヒドロフルオレン等が挙げられる。
【0066】
ノルボルネン単量体としては、例えば、ビシクロ[2.2.1]ヘプト-2-エン(慣用名:ノルボルネン)およびその誘導体(環に置換基を有するもの)、トリシクロ[4.3.01,6.12,5]デカ-3,7-ジエン(慣用名ジシクロペンタジエン)およびその誘導体、7,8-ベンゾトリシクロ[4.3.0.12,5]デカ-3-エン(慣用名メタノテトラヒドロフルオレン:1,4-メタノ-1,4,4a,9a-テトラヒドロフルオレンともいう)およびその誘導体、テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]-3-ドデセン(慣用名:テトラシクロドデセン)およびその誘導体、から選ばれる少なくとも1種以上が好ましく挙げられる。
【0067】
これらの誘導体の環に置換される置換基としては、アルキル基、アルキレン基、ビニル基、アルコキシカルボニル基、アルキリデン基等が挙げられる。なお、置換基は、1個または2個以上を有することができる。
これらのノルボルネン単量体は、それぞれ単独であるいは2種以上を組み合わせて用いられる。
【0068】
ノルボルネン単量体の開環重合体、又はノルボルネン単量体とこれと開環共重合可能なその他の単量体との開環重合体は、単量体成分を、公知の開環重合触媒の存在下で重合することによって得ることができる。開環重合触媒としては、例えば、ルテニウム、オスミウムなどの金属のハロゲン化物と、硝酸塩又はアセチルアセトン化合物、及び還元剤とからなる触媒、又は、チタン、ジルコニウム、タングステン、モリブデンなどの金属のハロゲン化物又はアセチルアセトン化合物と、有機アルミニウム化合物とからなる触媒を挙げることができる。
【0069】
また、ノルボルネン単量体と開環共重合可能なその他の単量体としては、例えば、シクロヘキセン、シクロヘプテン、シクロオクテンなどの単環の環状オレフィン系単量体などを挙げることができる。
【0070】
ノルボルネン系単量体の開環重合体の水素化物は、一般に、上記開環重合体の重合溶液に、ニッケル、パラジウムなどの遷移金属を含む公知の水素化触媒を添加し、炭素-炭素不飽和結合を水素化することにより得ることができる。
【0071】
本実施形態に係る環状オレフィン系重合体は、環状オレフィン系重合体全体を100モル%としたとき、環状オレフィン系重合体中の芳香環含有モノマーに由来する構造単位の含有量が、70モル%未満であることが好ましく、50モル%以下であることがより好ましく、30モル%以下であることがさらに好ましく、10モル%以下であることが特に好ましい。本実施形態に係る環状オレフィン系重合体に含まれる芳香環含有モノマーに由来する構造単位の含有量の下限は例えば、0モル%以上である。すなわち、本実施形態に係る環状オレフィン系重合体は、環状オレフィン系重合体中に芳香環含有モノマーに由来する構造単位を含まないこととすることもできる。
【0072】
(極性基含有環状オレフィン系重合体(X))
本実施形態に係る環状オレフィン系重合体は、エチレンまたはα-オレフィンと環状オレフィンとの共重合体、および、環状オレフィンの開環重合体から選択される少なくとも一種を含み、エチレンまたはα-オレフィンと環状オレフィンとの共重合体、および、環状オレフィンの開環重合体以外の環状オレフィン系重合体を含むこともできる。
一例として、本実施形態に係る環状オレフィン系重合体は、環状オレフィン系重合体を極性基により変性した、変性体極性基含有環状オレフィン系重合体(X)を含んでもよい。このような極性基含有環状オレフィン系重合体(X)としては、例えば、極性基を有する単量体を環状オレフィン系重合体にグラフトまたはグラフト重合させた共重合体、環状オレフィンと極性基を有する単量体との共重合体等が挙げられる。
【0073】
(アントラキノン系色素)
本実施形態に係る光学部品形成用樹脂組成物は、アントラキノン系色素を含む。本実施形態に係る光学部品形成用樹脂組成物は、アントラキノン系色素を1種又は2種以上含むことができる。また、本実施形態に係るアントラキノン系色素は、その極大吸収波長が波長550~800nmの範囲に存在するアントラキノン系色素を含むことが好ましい。
【0074】
本実施形態に係る光学部品形成用樹脂組成物は、青色系のアントラキノン系色素、及び/又は、緑色系のアントラキノン系色素を含むことが好ましい。
ここで、本実施形態に係る光学部品形成用樹脂組成物が、青色系のアントラキノン系色素を含む場合、青色系のアントラキノン系色素の極大吸収波長は、波長550~700nmの範囲に存在することが好ましく、波長550~600nmの範囲に存在することがより好ましい。
また、本実施形態に係る光学部品形成用樹脂組成物が、緑色系のアントラキノン系色素を含む場合、緑色系のアントラキノン系色素の極大吸収波長は、波長600~800nmの範囲に存在することが好ましく、波長650~750nmの範囲に存在することがより好ましい。
【0075】
本実施形態に係るアントラキノン系色素は、下記一般式(A1)で表される化合物を含むことが好ましい。
【0076】
【0077】
一般式(A1)中、R1~R12はそれぞれ独立して置換基を表す。R1~R12はそれぞれ同一でも異なっていても良く、水素原子、ハロゲン原子、炭素原子数1~20のアルキル基、炭素原子数1~20のハロゲン化アルキル基、炭素原子数3~15のシクロアルキル基または炭素原子数6~20の芳香族炭化水素基、スルホ基、スルホン酸ナトリウム基、ベンゼンスルホン酸またはその誘導体を表す。
【0078】
本実施形態に係るアントラキノン系色素としては、具体的には、2-[[9,10-ジヒドロ-4-メチルアミノ-9,10-ジオキソアントラセン-1-イル]アミノ]-5-メチルベンゼンスルホン酸ナトリウム、1,4-ビス(p-トルイジノ)アントラキノン、1,4-ビス(2-ソジオスルホ-4-メチルアニリノ)アントラキノン、1,4-ビス[2-(ソジオスルホ)-4-ブチルアニリノ]-9,10-アントラキノン、5,8-ビス(p-ブチルアニリノ)-1,4-ジヒドロキシアントラキノン、1-メチルアミノ-4-[(3-メチルフェニル)アミノ]-9,10-アントラキノンを挙げることができる。
【0079】
本実施形態に係る光学部品形成用樹脂組成物は、上記態様のアントラキノン系色素を含むことによって、より可視光吸収性、近赤外光に優れ、かつ、屈折率増大効果に優れた光学部品形成用樹脂組成物となる。
【0080】
本実施形態に係る光学部品形成用樹脂組成物は、アントラキノン系色素に加え、アントラキノン系色素以外の色素を含むことができ、その具体例としては、アゾ系の色素を挙げることができる。
本実施形態に係る光学部品形成用樹脂組成物は、該光学部品形成用樹脂組成物に含まれるアントラキノン系色素、および、アントラキノン系色素以外の色素の合計を100質量部としたとき、該光学部品形成用樹脂組成物に含まれるアントラキノン系色素が、30質量部以上100質量部以下であることが好ましく、50質量部以上100質量部以下であることがより好ましく、60質量部以上100質量部以下であることが特に好ましい。
光学部品形成用樹脂組成物に含まれる全色素中のアントラキノン系色素の量を上記数値範囲内とすることによって、より色むらが少なく、屈折率増加効果に優れた成形体を得ることが可能な光学部品形成用樹脂組成物となる。
【0081】
本実施形態に係る光学部品形成用樹脂組成物は、光学部品形成用樹脂組成物中のアントラキノン系色素の含有量が、光学部品形成用樹脂組成物に対し、500ppm以上、10000ppm以下であることが好ましく、800ppm以上、8000ppm以下であることがより好ましく、900ppm以上4000ppm以下であることがさらに好ましい。
【0082】
(その他の成分)
本実施形態に係る光学部品形成用樹脂組成物は、必要に応じて、本実施形態に係る光学部品形成用樹脂組成物、及び、その成形体の良好な物性を損なわない範囲内で任意成分として公知の添加剤を含有させることができる。添加剤としては、例えば、フェノール系安定剤、高級脂肪酸金属塩、酸化防止剤、紫外線吸収剤、ヒンダードアミン系光安定剤、塩酸吸収剤、金属不活性化剤、帯電防止剤、防曇剤、滑剤、スリップ剤、核剤、可塑剤、難燃剤、リン系安定剤等を本発明の目的を損なわない程度に配合することができ、その配合割合は適宜量である。
【0083】
本実施形態に係る光学部品形成用樹脂組成物中の環状オレフィン系重合体と、アントラキノン系色素を含む色素との合計の含有量は、成形性を確保しつつ、可視光吸収性、近赤外光透過性、屈折率増大効果等をより向上させる観点から、当該光学部品形成用樹脂組成物の全体を100質量%としたとき、好ましくは50質量%以上100質量%以下であり、より好ましくは60質量%以上100質量%以下であり、さらに好ましくは70質量%以上100質量%以下であり、特に好ましくは80質量%以上100質量%以下である。
【0084】
本実施形態に係る光学部品形成用樹脂組成物は、環状オレフィン系重合体と、アントラキノン系色素を含む原料を、押出機およびバンバリーミキサー等の公知の混練装置を用いて溶融混練する方法;環状オレフィン系重合体と、アントラキノン系色素を含む原料を共通の溶媒に溶解した後、溶媒を蒸発させる方法;貧溶媒中に環状オレフィン系重合体と、アントラキノン系色素を含む原料溶液を加えて析出させる方法;等の方法により得ることができる。
【0085】
(光学部品形成用樹脂組成物の物性)
本実施形態に係る光学部品形成用樹脂組成物は、光学部品形成用樹脂組成物からなる厚さ1mmの成形体において、波長850~1000nmの透過率の平均値が85%以上、波長300~600nmの透過率の平均値が1%以下であることが好ましい。また、本実施形態に係る光学部品形成用樹脂組成物は、光学部品形成用樹脂組成物からなる厚さ1mmの成形体において、波長850~1000nmの透過率の平均値が90%以上、波長300~600nmの透過率の平均値が0.1%以下であることがより好ましい。
【0086】
また、本実施形態に係る光学部品形成用樹脂組成物は、光学部品形成用樹脂組成物からなる厚さ1mmの成形体において、波長850nmの透過率が20%以上であることが好ましく、50%以上であることがより好ましく、85%以上であることが特に好ましい。
本実施形態に係る光学部品形成用樹脂組成物は、可視光の遮蔽性及び近赤外光の透過性を上記数値範囲内に調整することによって、ノイズを十分にカットすることでき、かつ、センサに係る近赤外光を十分に透過させることができる光学部品を得ることが光学部品形成用樹脂組成物となるため、例えば、該光学部品を対象物の形や距離を測定する3Dセンサや測距センサとして、特に好適に用いることができる。
【0087】
なお、本実施形態に係る光学部品形成用樹脂組成物の各波長における透過率は以下のように求めることができる。
まず、例えば射出成形により、本実施形態に係る光学部品形成用樹脂組成物から成る厚さ1mmの角板形状の成形体を得る。ここで、成形条件は、空気雰囲気下でシリンダー温度275℃、背圧3MPaとすることができる。得られた厚み1mmの角板を試料として、紫外可視近赤外分光光度計(例えば、紫外可視近赤外分光光度計U-4150(日立ハイテク製))を用いて、波長300nmから600nmまで1nm刻みで、波長850nmから1000nmまで1nm刻みで、透過率を測定する。波長850~1000nmの透過率の平均値は、波長850nmから1000nmまで1nm刻みで測定した透過率の算術平均値を意味し、波長300~600nmの透過率は、波長300nmから600nmまで1nm刻みで測定した透過率の算術平均値を示す。
【0088】
本実施形態に係る光学部品形成用樹脂組成物は、該光学部品形成用樹脂組成物からなる成形体の波長830nmの屈折率が、測定温度25℃で1.50以上1.70以下であることが好ましく、1.50以上1.60以下であることがより好ましく、1.53以上1.57以下であることがさらに好ましく、1.53以上1.55以下であることが特に好ましい。
また、本実施形態に係る光学部品形成用樹脂組成物は、該光学部品形成用樹脂組成物からなる成形体の波長830nmの屈折率が、本実施形態に係る環状オレフィン系重合体からなる成形体の波長830nmの屈折率より0.00040以上高いことが好ましく、0.00080以上高いことがより好ましい。
本実施形態に係る光学部品形成用樹脂組成物は、従来の光学部品形成用樹脂組成物よりも屈折率が大きい成形体を得ることが可能であるため、例えば、本実施形態に係る光学部品形成用樹脂組成物から成る成形体をレンズとして用いる際、レンズの厚みを薄くすることができる。
【0089】
なお、該光学部品形成用樹脂組成物からなる成形体の波長830nmの屈折率、及び、環状オレフィン系重合体からなる成形体の波長830nmの屈折率は以下の方法で求めることができる。
まず、例えば射出成形により、本実施形態に係る光学部品形成用樹脂組成物から成る厚さ3mmの角板形状の成形体、及び、環状オレフィン系重合体からなる厚さ3mmの角板形状の成形体を得る。ここで、成形条件は、空気雰囲気下でシリンダー温度275℃、背圧3MPaとすることができる。得られた厚み3mmの角板を試料として、屈折率計(例えば、屈折率計KPR-3000(島津製作所製))を用いて、測定温度25℃で波長830nmの屈折率を測定する。
【0090】
(成形体)
本実施形態に係る成形体は、本実施形態に係る光学部品形成用樹脂組成物を成形してなる成形体である。言い換えると、本実施形態に係る成形体は、環状オレフィン系重合体と、アントラキノン系色素とを含む光学部品形成用樹脂組成物からなる成形体である。
後述のように、本実施形態に係る成形体を得る方法としては特に限定されるものではないが、本実施形態に係る成形体は、射出成形により得られた射出成形体であることが好ましい。
【0091】
本実施形態に係る成形体は、厚み1mmあたりに換算したときの波長850~1000nmの透過率の平均値が85%以上、波長300~600nmの透過率の平均値が1%以下であることが好ましく、厚み1mmあたりに換算したときの波長850~1000nmの透過率の平均値が90%以上、波長300~600nmの透過率の平均値が0.1%以下であることがより好ましい。
また、本実施形態に係る成形体は、厚み1mmに換算したときの波長850nmの透過率が20%以上であることが好ましく、50%以上であることがより好ましく、85%以上であることが特に好ましい。
また、本実施形態に係る成形体は、波長830nmの屈折率が、本実施形態に係る環状オレフィン系重合体からなる成形体の波長830nmの屈折率より0.00040以上高いことが好ましく、0.00080以上、高いことがより好ましい。
【0092】
本実施形態に係る成形体は、光学部品として用いることができる。すなわち、本実施形態に係る光学部品は、本実施形態に係る成形体を含む。本実施形態に係る光学部品は、例えば、レンズ、プリズムまたは導光板等の光学部品として好適に用いることかできる。本実施形態に係る光学部品は、光吸収層のコーティングを設けずとも、高い可視光遮蔽性、高い近赤外光透過性を有するため、可視光がノイズとなり、近赤外光を感知することが要されるセンサ、例えば、スマートフォンや自動車に搭載される対象物の形や距離を測定する3Dセンサや測距センサ用光学部品として、特に好適に用いることができる。
【0093】
(成形体の製造方法)
本実施形態に係る成形体は、本実施形態に係る光学部品形成用樹脂組成物を所定の形状に成形することにより得ることができる。本実施形態に係る光学部品形成用樹脂組成物を成形して成形体を得る方法としては特に限定されるものではなく、公知の方法を用いることができるが本実施形態に係る光学部品形成用樹脂組成物は、溶融成形により成形されることが好ましい。
その用途および形状にもよるが、例えば、押出成形、射出成形、圧縮成形、インフレーション成形、ブロー成形、押出ブロー成形、射出ブロー成形、プレス成形、真空成形、パウダースラッシュ成形、カレンダー成形、発泡成形等が適用可能である。これらの中でも、成形性、生産性の観点から射出成形法が好ましい。また、成形条件は使用目的、または成形方法により適宜選択されるが、例えば射出成形における樹脂温度は、通常150℃~400℃、好ましくは200℃~350℃、より好ましくは230℃~330℃の範囲で適宜選択される。
【0094】
本実施形態に係る成形体は、レンズ形状、球状、棒状、板状、円柱状、筒状、チューブ状、繊維状、フィルムまたはシート形状等の種々の形態で使用することができる。
【0095】
本実施形態に係る成形体には、必要に応じて、本実施形態に係る成形体の良好な物性を損なわない範囲内で任意成分として公知の添加剤を含有させることができる。添加剤としては、例えば、フェノール系安定剤、高級脂肪酸金属塩、酸化防止剤、紫外線吸収剤、ヒンダードアミン系光安定剤、塩酸吸収剤、金属不活性化剤、帯電防止剤、防曇剤、滑剤、スリップ剤、核剤、可塑剤、難燃剤、リン系安定剤等を本発明の目的を損なわない程度に配合することができ、その配合割合は適宜量である。
【0096】
本実施形態に係る成形体を光学レンズとして用いる場合、該光学レンズは上記光学レンズとは異なる光学レンズと組み合わせて光学レンズ系としてもよい。
すなわち、本実施形態に係る光学レンズ系は、本実施形態に係る樹脂組成物を含む成形体により構成された第1の光学レンズと、上記第1の光学レンズとは異なる第2の光学レンズと、備える。
【0097】
上記第2の光学レンズとしては特に限定されないが、例えば、ポリカーボネート樹脂およびポリエステル樹脂から選択される少なくとも一種の樹脂により構成された光学レンズを用いることができる。
【0098】
なお、本発明は前述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれるものである。
【0099】
本発明の第二の実施形態に係る光学部品形成用樹脂組成物は、樹脂と、アントラキノン系色素を含み、かつ、樹脂として、環状オレフィン系重合体、ポリカーボネート、アクリル樹脂、ポリエステルから選択される少なくとも一種を含み、
該光学部品形成用樹脂組成物から成る厚さ1mmの成形体において、波長850~1000nmの透過率の平均値が85%以上、波長300~600nmの透過率の平均値が1%以下、好ましくは0.1%以下であり、
該光学部品形成用樹脂組成物からなる厚さ3mmの成形体において、波長830nmの屈折率が、測定温度25℃で1.50以上1.70以下、好ましくは1.50以上1.60以下、より好ましくは1.53以上1.57以下である。
【0100】
以下、本実施形態に係る光学部品形成用樹脂組成物が含む各成分について具体的に説明する。
樹脂は、環状オレフィン系重合体、ポリカーボネート、アクリル樹脂、ポリエステルから選択される少なくとも一種を含む。
環状オレフィン系重合体は、前述の環状オレフィン系重合体と同様のものを使用できる。
ポリカーボネート、アクリル樹脂、ポリエステルは特に構造を限定されず、本発明の効果を発揮し得る範囲で公知のものを使用できる。
アントラキノン系色素およびその添加量、その他の成分、光学部品形成用樹脂組成物の物性、成形体、成形体の製造方法等については、上述の第一の実施形態と同様である。
【実施例】
【0101】
以下、本発明について実施例を参照して詳細に説明するが、本発明は、これらの実施例の記載に何ら限定されるものではない。
以下の実施例及び比較例では下記の樹脂を用いた。
【0102】
<樹脂>
エチレンと環状オレフィン(テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]-3-ドデセン)との共重合体(三井化学社製、製品名:アペル5014CL:MFR:36g/10min(260℃、2.16kg荷重、ASTM D1238に準拠)、Tg:135℃)
【0103】
[実施例1]
上記樹脂からなるペレットに、橙色色素SudanII(東京化成株式会社製、アゾ系、極大吸収波長500nm)を1000ppm、青色色素Plast blue 8540(有本化学製、アントラキノン系、極大吸収波長600nm)を1000ppm添加し、2軸押出混練機(日本製鋼製)を用いて260℃で押出混練して樹脂組成物を得た。得られた樹脂組成物を、ペレタイザーでペレット化した。
【0104】
【0105】
Plast blue 8540の化学式を以下に示す。
【化15】
【0106】
[実施例2]
橙色色素SudanIIの添加量を1000ppm、青色色素Plast blue 8540の添加量を2000ppmに変更したこと以外は実施例1と同様にして樹脂組成物のペレットを得た。
【0107】
[実施例3]
橙色色素SudanIIの添加量を2000ppm、青色色素Plast blue 8540の添加量を1000ppmに変更したこと以外は実施例1と同様にして樹脂組成物のペレットを得た。
【0108】
[実施例4]
使用する色素と添加量を、赤色色素PS-Red G(三井化学ファイン製、アントラキノン系、極大吸収波長500nm)を1000ppm、黒色色素Kayaset Black A-N(日本化薬製、アミノケトン系とアントラキノン系の混合物)を2000ppm、緑色色素Solvent Green 28(有本化学製、アントラキノン系、極大吸収波長 680nm)2000ppmに変更したこと以外は実施例1と同様にして樹脂組成物のペレットを得た。
【0109】
PS-Red Gの構造式を以下に示す。
【化16】
【0110】
Solvent Green 28の構造式を以下に示す。
【0111】
【0112】
[実施例5]
使用する色素と添加量を、橙色色素SudanII(東京化成株式会社製、アゾ系、極大吸収波長500nm)を1000ppm、青色色素Plast blue 8540(有本化学製、アントラキノン系、極大吸収波長600nm)を2000ppm、緑色色素Solvent Green 28(有本化学製、アントラキノン系、極大吸収波長 680nm)2000ppmに変更したこと以外は実施例1と同様にして樹脂組成物のペレットを得た。
【0113】
[実施例6]
使用する色素と添加量を、黒色色素Kayaset Black A-N(日本化薬製、アミノケトン系とアントラキノン系の混合物)を3000ppm、緑色色素Solvent Green 28(有本化学製、アントラキノン系、極大吸収波長 680nm)2000ppmに変更したこと以外は実施例1と同様にして樹脂組成物のペレットを得た。
【0114】
[比較例1]
エチレンと環状オレフィン(テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]-3-ドデセン)との共重合体(三井化学社製、製品名:アペル5014CL)からなる樹脂組成物をペレタイザーでペレット化した。なお、比較例1に係る樹脂組成物は、色素添加、押出混練は行わなかった。
【0115】
[比較例2]
使用する色素と添加量を、橙色色素SudanIIを1000ppm、黒色色素Sudan Black B(東京化成製、アゾ系、極大吸収波長600nm)を1000ppmに変更した以外は実施例1と同様にして、樹脂組成物のペレットを得た。
【0116】
Sudan Black Bの構造式を以下に示す。
【0117】
【0118】
実施例1~6、比較例1、2で得られたペレットを射出成形機(ファナック社製 ROBOSHOT S2000i-30α)を用いて、シリンダー温度275℃、背圧3MPaで射出成形し、厚さ1mm×35mm×65mmの角板と厚さ3mm×35mm×65mmの角板に成形した。
【0119】
[可視光透過率の評価]
得られた厚さ1mm×35mm×65mmの角板を試料として、紫外可視近赤外分光光度計U-4150(日立ハイテク社製)を用いて波長300nmから600nmまで1nm刻みで透過率を測定し、その平均値を可視光透過率とした。得られた透過率を以下の基準で評価した。
1%超:×
0.1%以上1%以下:〇
0.1%未満:◎
【0120】
[近赤外光透過率の評価]
得られた厚さ1mm×35mm×65mmの角板を試料として、紫外可視近赤外分光光度計U-4100(日立ハイテク社製)を用いて波長850nmから1000nmまで1nm刻みで透過率を測定し、その平均値を近赤外光透過率とした。得られた透過率を以下の基準で評価した。
85%未満:×
85%以上、90%未満:〇
90%以上:◎
【0121】
[色ムラの評価]
得られた厚さ3mm×35mm×65mmの角板に対して目視で色ムラの有無を判断した。色ムラが見られたものは×、色ムラが確認されなかったものは◎とした。
【0122】
[屈折率および屈折率増加量の評価]
得られた厚さ3mm×35mm×65mmの角板を試料として、屈折率計KPR-3000(島津製作所社製)を用いて、測定温度25℃で波長830nmの屈折率を測定した。
さらに、色素を添加しない場合(比較例1)と比較した際の屈折率増加量を求めた。得られた屈折率増加量を以下の基準で評価した。
0.0004未満:×
0.0004以上0.0008未満:○
0.0008以上:◎
【0123】
[耐熱性試験前後の可視光線透過率変化量および近赤外線透過率変化量]
得られた厚さ1mm×35mm×65mmの角板を、温度105℃の高温室内で1000時間加熱した。耐熱性試験後の各試料の可視光線透過率を上記の方法で測定し、平均値を求めた。耐熱性試験前後の可視光線透過率の変化量を以下の基準で評価した。
1以上:×
0.1以上1未満:〇
0.1未満:◎
耐熱性試験後の各試料の近赤外線透過率を上記の方法で測定し、平均値を求めた。耐熱性試験前後の近赤外線透過率の変化量を以下の基準で評価した。
1以上:×
0.1以上1未満:〇
0.1未満:◎
【0124】
[耐湿熱性試験前後の可視光線透過率変化量および近赤外線透過率変化量]
得られた厚さ1mm×35mm×65mmの角板を、温度85℃、湿度85%の恒温恒湿槽内で168時間加熱した。耐湿熱性試験後の各試料の可視光線透過率を上記の方法で測定し、平均値を求めた。耐湿熱性試験前後の可視光線透過率の変化量を以下の基準で評価した。
1以上:×
0.1以上1未満:〇
0.1未満:◎
耐湿熱性試験後の各試料の近赤外線透過率を上記の方法で測定し、平均値を求めた。耐湿熱性試験前後の近赤外線透過率の変化量を以下の基準で評価した。
1以上:×
0.1以上1未満:〇
0.1未満:◎
【0125】
[耐紫外線試験前後の可視光線透過率変化量および近赤外線透過率変化量]
得られた厚さ1mm×35mm×65mmの角板に、次の条件で紫外線を照射した。
照射装置:FALAUH(スガ試験機製UVFade)
光源:紫外線カーボンアークランプ
光源出力:500W/m2
光源と試料の距離:250mm
試験温度:61℃
照射時間:1000時間
耐紫外線試験後の各試料の可視光線透過率を上記の方法で測定し、平均値を求めた。耐紫外線試験前後の可視光線透過率の変化量を以下の基準で評価した。
1以上:×
0.1以上1未満:〇
0.1未満:◎
耐紫外線試験後の各試料の近赤外線透過率を上記の方法で測定し、平均値を求めた。耐紫外線試験前後の近赤外線透過率の変化量を以下の基準で評価した。
1以上:×
0.1以上1未満:〇
0.1未満:◎
【0126】
【0127】
【0128】
以上のように、実施例で得られた成形体は、高い可視光遮蔽性、及び、高い近赤外光透過性を有しつつ、色素を添加しなかった比較例1に比べ、成形体の屈折率を向上させる効果に優れていた。一方、アントラキノン系色素を含まない比較例で得られた成形体は、可視光遮蔽性、近赤外光透過性、屈折率向上効果の点で、実施例で得られた成形体に劣った。
さらに、実施例で得られた成形体は、比較例に比べて、耐熱性、耐湿熱性および耐紫外線性にバランスよく優れており、可視光線の遮蔽効果の低下および近赤外線透過率の低下が抑制されていた。
【0129】
この出願は、2019年5月14日に出願された日本出願特願2019-091098号を基礎とする優先権を主張し、その開示の全てをここに取り込む。