(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-12
(45)【発行日】2023-07-21
(54)【発明の名称】二価の二重特異性抗体およびその製造方法、コードする遺伝子、宿主細胞、組成物
(51)【国際特許分類】
C12N 15/13 20060101AFI20230713BHJP
C07K 16/46 20060101ALI20230713BHJP
C12N 1/15 20060101ALI20230713BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20230713BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20230713BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20230713BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20230713BHJP
G01N 33/531 20060101ALI20230713BHJP
C12P 21/08 20060101ALI20230713BHJP
C12N 15/09 20060101ALI20230713BHJP
C07K 19/00 20060101ALI20230713BHJP
C12N 15/62 20060101ALI20230713BHJP
A61P 35/00 20060101ALN20230713BHJP
【FI】
C12N15/13 ZNA
C07K16/46
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
A61K39/395 N
G01N33/531 A
C12P21/08
C12N15/09 Z
C07K19/00
C12N15/62 Z
A61P35/00
(21)【出願番号】P 2021538377
(86)(22)【出願日】2019-12-26
(86)【国際出願番号】 CN2019128582
(87)【国際公開番号】W WO2020135555
(87)【国際公開日】2020-07-02
【審査請求日】2021-06-28
(31)【優先権主張番号】201811622069.2
(32)【優先日】2018-12-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】521284587
【氏名又は名称】チャンチュン ジーンサイエンス ファーマシューティカルズ カンパニー,リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】フォン、シアオ
(72)【発明者】
【氏名】チン、レイ
(72)【発明者】
【氏名】ワン、タオ
(72)【発明者】
【氏名】クオ、ホンルイ
(72)【発明者】
【氏名】リウ、ショアン
(72)【発明者】
【氏名】チェン、ユイホン
(72)【発明者】
【氏名】ハン、ニン
(72)【発明者】
【氏名】リャン、ヤンチウ
【審査官】山本 晋也
(56)【参考文献】
【文献】特表2010-530756(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第104558193(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第107459578(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第106084052(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第108250296(CN,A)
【文献】特表2013-515509(JP,A)
【文献】特表2018-505882(JP,A)
【文献】国際公開第2017/165464(WO,A1)
【文献】特表2014-504860(JP,A)
【文献】特表2014-533249(JP,A)
【文献】特表2014-529600(JP,A)
【文献】国際公開第2017/055537(WO,A1)
【文献】Ulrich Brinkmann et al.,MABS,2017年,Vol. 9, no. 2,p. 182-212
【文献】Kristian M. Muller et al.,FEBS Letters,1998年,Vol. 422,p. 259-264
【文献】Christoph Spiess et al.,Molecular Immunology,2015年01月27日,Vol. 67,p. 95-106
【文献】Dan Lu et al.,The Journal of Biological Chemistry,2004年01月23日,Vol. 279, No. 4,pp. 2856-2865
【文献】Zhuang Zuo et al.,Protein Engineering,2000年,vol. 13, no. 5,pp. 361-367
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K
C12N
G01N
A61K
A61P
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)第1の抗原に特異的に結合する抗体に由来する一本鎖可変フラグメントscFvであるscFv2、フレキシブルペプチド、IgG1の重鎖定常領域CH1、およびIgG1のヒンジ領域の一部の配列;ここで前記scFv2、前記フレキシブルペプチド、前記CH1、および前記ヒンジ領域の一部の配列は、CH1-ヒンジ領域の一部の配列-リンカーとしてのフレキシブルペプチド-scFv2の順に並んでいる、と、
b)第2の抗原に特異的に結合する抗体に由来する一本鎖可変フラグメントscFvであるscFv1および軽鎖定常領域CL;ここで前記scFv1および前記CLは、scFv1-CLの順に並んでいる、と、
を含むか、或いは、
a)第1の抗原に特異的に結合する抗体に由来する一本鎖可変フラグメントscFvであるscFv2、フレキシブルペプチド、IgG1の重鎖定常領域CH1、およびIgG1のヒンジ領域の一部の配列;ここで前記scFv2、前記フレキシブルペプチド、前記CH1、および前記ヒンジ領域の一部の配列は、scFv2-リンカーとしてのフレキシブルペプチド-CH1-ヒンジ領域の一部の配列の順に並んでいる、と、
b)第2の抗原に特異的に結合する抗体に由来する一本鎖可変フラグメントscFvであるscFv1および軽鎖定常領域CL;ここで前記scFv1およびCLは、CL-scFv1の順に並んでいる、と、
を含み、
前記順は、N末端側からC末端側に向けてであることを特徴とする二価の二重特異性抗体。
【請求項2】
前記フレキシブルペプチドが(G4S/G4SAS)nであり、ここで、nは0或いは0より大きい整数であり、かつフレキシブルペプチドに連結するIgG1ヒンジ領域の一部の配列がEPKSCDKであることを特徴とする請求項1に記載の二価の二重特異性抗体。
【請求項3】
CLおよびCH1がヘテロ二量体を形成し、CLの末端システイン残基が重鎖のヒンジ領域のシステイン残基とジスルフィド結合を形成する、ことを特徴とする請求項1に記載の二価の二重特異性抗体。
【請求項4】
(1)第1の抗原に特異的に結合する抗体に由来する一本鎖可変フラグメントscFv
2、フレキシブルペプチド、IgG1の重鎖定常領域CH1、およびIgG1のヒンジ領域の一部の配列を含む、配列番号2で示されるアミノ酸配列と、
第2の抗原に特異的に結合する抗体に由来する一本鎖可変フラグメントscFv
1および軽鎖定常領域CLを含む、配列番号11で示されるアミノ酸配列と、
あるいは、
(2)第1の抗原に特異的に結合する抗体に由来する一本鎖可変フラグメントscFv
2、フレキシブルペプチド、IgG1の重鎖定常領域CH1、およびIgG1のヒンジ領域の一部の配列を含む、配列番号1で示されるアミノ酸配列と、
第2の抗原に特異的に結合する抗体に由来する一本鎖可変フラグメントscFv
1および軽鎖定常領域CLを含む、配列番号10で示されるアミノ酸配列と、
あるいは、
(3)第1の抗原に特異的に結合する抗体に由来する一本鎖可変フラグメントscFv
2、フレキシブルペプチド、IgG1の重鎖定常領域CH1、およびIgG1のヒンジ領域の一部の配列を含む、配列番号3で示されるアミノ酸配列と、
第2の抗原に特異的に結合する抗体に由来する一本鎖可変フラグメントscFv
1および軽鎖定常領域CLを含む、配列番号12で示されるアミノ酸配列と、
あるいは、
(4)第1の抗原に特異的に結合する抗体に由来する一本鎖可変フラグメントscFv
2、フレキシブルペプチド、IgG1の重鎖定常領域CH1、およびIgG1のヒンジ領域の一部の配列を含む、配列番号4で示されるアミノ酸配列と、
第2の抗原に特異的に結合する抗体に由来する一本鎖可変フラグメントscFv
1および軽鎖定常領域CLを含む、配列番号13で示されるアミノ酸配列と、
を含む請求項1に記載の二価の二重特異性抗体。
【請求項5】
a)第1の抗原に特異的に結合する抗体に由来する一本鎖可変フラグメン
トscFv
2、フレキシブルペプチド、IgGIの重鎖定常領域CH1、およびIgG1のヒンジ領域の一部をコードする核酸分子を含む第1のベクター、ならびに、第2の抗原に特異的に結合する抗体に由来する一本鎖可変フラグメン
トscFv
1および軽鎖定常領域CLをコードする核酸分子を含む第2のベクターで宿主細胞を形質転換するステップと、
b)抗体分子の合成を可能にする条件下で宿主細胞を培養するステップと、
c)前記抗体分子を培養物から回収するステップと、を含む、
ことを特徴とする請求項1~請求項4のいずれか1項に記載の二価の二重特異性抗体の製造方法。
【請求項6】
第1の抗原に特異的に結合する抗体に由来する一本鎖可変フラグメントscFv
2、フレキシブルペプチド、IgG1の重鎖定常領域CH1、およびIgG1のヒンジ領域の一部の配列をコードする第1核酸分子と、
第2の抗原に特異的に結合する抗体に由来する一本鎖可変フラグメントscFv
1および軽鎖定常領域CLをコードする第2核酸分子と、を含む、
ことを特徴とする請求項1~請求項4のいずれか1項に記載の前記二価の二重特異性抗体をコードする核酸分子。
【請求項7】
請求項1~請求項4のいずれか1項に記載の前記二価の二重特異性抗体をコードする核酸分子を含む、宿主細胞。
【請求項8】
請求項1~請求項4のいずれか1項に記載の二価の二重特異性抗体を含む組成物であって、医薬組成物或いは診断組成物であることを特徴とする、組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この出願は、2018年12月28日に中国特許庁へ出願された、出願番号201811622069.2、発明の名称「二価の二重特異性抗体及びその製造方法、コードする遺伝子、宿主細胞、組成物」の中国特許出願に基づく優先権を主張し、その全内容を援用により本出願に組み込まれる。
【0002】
本発明は抗体医薬技術分野に関し、特に、二価の二重特異性抗体およびその製造方法、コードする遺伝子、宿主細胞、組成物に関する。
【背景技術】
【0003】
二重特異性抗体(bispecific monoclonal antibody,BsAb)は人工的に作られた2つの異なる抗原に同時に結合できる特殊な抗体である二。二重特異性抗体は、腫瘍標的細胞および免疫エフェクター細胞を同時に認識することができるため、抗体特異性とエフェクター細胞の細胞傷害作用を媒介するという二重の機能を持っている。二重特異性抗体は、エフェクター細胞を腫瘍部位に集め、そしてエフェクター細胞を活性化して抗腫瘍効果を発揮させることができる。それが腫瘍細胞を死滅させる作用機構は、細胞増殖、サイトカイン放出、細胞傷害性ポリペプチドおよび酵素の調節を含む。インビボおよび臨床研究にて実証されるように、二重特異性抗体が介した免疫治療は、一部の動物に対して腫瘍を寛解させ、臨床的に腫瘍患者の病状を軽減し、寿命を延ばすことができる。したがって、二重特異性抗体が介した免疫担当細胞は腫瘍の治療への応用が良い見通しがある。
【0004】
二重特異性抗体は、自然状態で存在せず、人工的にしか調製できない。当該分野において、二重または多重特異性抗体は、2つ以上の抗原に結合することができ、細胞融合、化学的コンジュゲーションや組換えDNA技術によって産生することができる。近年では、例えばIgG抗体形態と一本鎖ドメインを融合した四価二重特異性抗体など、様々な組換え二重特異性抗体の形態が広く開発されている(例えば、Coloma,M.J.,et al.,Nature Biotech.15(1997)159-163;WO2001077342;及びMorrison,S.L.,Nature Biotech.25(2007)1233-1234を参照)。さらに、抗体の中心構造(IgA、IgD、IgE、IgGまたはIgM)が二重抗体、3本鎖抗体、またはいは4本鎖抗体、ミニボディおよび幾つの一本鎖のような形態などをもはや維持しない、二つ以上の抗原に結合可能な他の多くの新規形態も開発された(scFv、Bis-scFv)(Holliger,P.,et al.,Nature Biotech.23(2005)1126-1136;Fischer,N.,およびLeger,O.,Pathobiology 74(2007)3-14;Shen,J.,et al.,Journal of Immunogica1 Methods 318(2007)65-74;Wu,C.,et al.,Nature Biotech.25(2007)1290-1297)。
【0005】
1つのアプローチでは、天然の抗体によく似た二重特異性抗体が、その二重特異性抗体の所望の特異性を持つマウスモノクローナル抗体を発現する2つの異なるハイブリドーマ細胞系の体細胞融合に基づく細胞ハイブリドーマ(quadroma)技術(Milstein,C.およびA.C.Cue11o,Nature,305(1983)537-40に参照)を使って生産された。産生された細胞ハイブリドーマ細胞株における二つの異なる抗体の重鎖と軽鎖がランダムにペアリングするので、最大で10種類の異なる抗体種が生成するが、所望の二重特異性を有する抗体はそのうちの1つだけである。ミスマッチした副生成物の存在および著しい生産収量の低減ゆえに、洗練された精製プロセスが必要になる(例えば、Morrison,S.L.,Nature Biotech 25(2007)1233-1234参照)。一般に、組換え発現技術を使用すると、同様なミスマッチした副生成物の問題は残る。
【0006】
ミスマッチした副生成物の問題を克服するための、「ノブ・イントゥ・ホール(knobs-into-ho1es)」と呼ばれるものが知られているアプローチでは、CH3ドメインに突然変異を導入して接触境界面を修飾することによって、2つの異なる抗体重鎖をペアリングさせることを目指す。一方の鎖において、「ホール」を作り出すために、嵩高いアミノ酸を短い側鎖を持つアミノ酸で置き換えられた。逆に、他方のCH3ドメインには、「ノブ」を作り出すために、大きな側鎖を持つアミノ酸が導入された。これら2本の重鎖を共発現させることにより、ホモ二量体の形態(「ホール一ホール」または「ノブ-ノブ」)と比較し、高収率のヘテロ二量体の形成(「ノブ-ホール」)が観察された(Ridgway,J.B.,Presta,L.G.,Carter,P.およびWO 1996027011)。ヘテロ二量体のパーセンテージは、ファージディスプレイアプローチを用いて2つのCH3ドメインの相互作用面をリモデリングすることと、ジスルフィド結合を導入して当該ヘテロ二量体を安定化させることとによって、さらに増加させることができた(Merchant,A.M.,など,Nature Biotech 16 (1998)677-681;Atwell,S.,Ridgway,J.B.,Wells,J.A.,Carter,P.,J.Mol.Biol.270(1997)26-35)。この策略の重要な制約は、ミスマッチおよび不活性化分子の形成を防ぐために、両方の親抗体の軽鎖が同一でなければならないことである。
【0007】
「ノブ・イントゥ・ホール」構造のほかに、IgGとIgAとのCH3の鎖交換(strand-exchange engineered ドメイン,SEED)技術により異なる半抗体のFcペアリングを達成することもできる(Davis,J.H.,et al.,プロテイン Eng.Des.Sel.,2010,23(4):195-202.)。
【0008】
異なる軽鎖の正確なアセンブル問題を解決するために、近年、二重細胞系でそれぞれの半抗体を発現し、in vitroアセンブルの新たなプロセスが開発された。GenMab社は、ヒトIgG4抗体が生理条件で自然に発生する半抗体のランダム交換プロセスの示唆下で、Fabアーム交換(Fab-arm exchange、FAE)二重機能抗体技術を開発した(Gramer,M.J,et al.,MAbs 2013,5(6):962-973.)。二つの目的抗体IgG1の重鎖CH3領域へそれぞれK409RおよびF405Lの二つの点突然変異を導入すると、IgG4抗体に類似する半抗体の交換再配列を形成できる。突然変異後の二つの異なるIgG1抗体は二つのCHO細胞系でそれぞれ発現し半抗体の軽鎖と重鎖との間のアセンブルが完了し、プロテインAによるアフィニティー精製後、温和な酸化剤システムによってin vitroで異種半抗体同士の正確なアセンブルを実現できる。
【0009】
同じ配列の軽鎖を共用したり、またはin vitroアセンブルを実行したりするだけでなく、Crossmabテクノロジーにより抗体の軽鎖の正確なアセンブルを促進することもできる。代表的な製品は、ロシュ(Roche)社のAng-2/VEGF CrossMab CH1-CLである。Crossmabテクノロジーは、「ノブ・イントゥ・ホール」交換に基づいて、Ang-2抗体のFabドメインにおけるCLとCH1とを互いに置き換え、VEGF抗体のFab構造が変化しないことである。改造されたAng-2抗体の軽鎖は、VEGF抗体の重鎖とのミスマッチが起こしにくく、また「ノブ・イントゥ・ホール」構造は2本の重鎖のヘテロ二量体化を促進することができる(Schaefer,W.,et al.,Proc Natl.Acad.Sci.USA,2011,108(27):11187-11192.)。
【0010】
また、2つの一本鎖抗体(scFv)または2つのFabをペプチドセグメントで連結、二重機能性抗体断片を形成されることも可能である。代表的な製品は、ドイツのMicromet社によって開発されたBiTE(bispecific T-cell engager)シリーズである。当該一連のシリーズの製品は、ペプチドセグメントを介して抗CD3一本鎖抗体を異なる抗腫瘍細胞表面抗原の一本鎖抗体と結合して得られたものである(Baeuerle,P.A.,et al.,Cancer Res.,2009,69(12):4941-4944.)。このタイプの抗体は、構造的な利点は分子量が低く、原核細胞で発現でき、正確なアセンブルの問題を考慮する必要がないことであり、欠点はが、抗体Fcセグメントがないため、対応する生物学的な機能を仲介できなく、半減期が短いなどのことである。
【0011】
公開番号US2015/0284475A1およびCN101896504Aの特許には、二価の二重特異性抗体が開示されるが、その二つの特許に記載の二価の二重特異性抗体と抗原との親和力は低い。前記の二つの特許における二価の二重特異性抗体は、邵長利による発表された「フレキシブル鎖に基づいて連結した二重特異性抗体分子の設計および構造シミュレーション」におけるフレキシブルペプチド構造によって変更されたが、抗体の親和力は依然として理想的ではない。
【0012】
上記の二重特異性抗体技術プラットフォームの軽鎖のミスマッチ、軽鎖と重鎖との正確なアセンブルの精度が低く、あるいは分子が大きすぎたり小さすぎたりするなどの問題は、新規の二価の二重特異性抗体を発明する必要ことがある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
上述の問題に鑑みて、本発明は二価の二重特異性抗体およびその製造方法、コードする遺伝子、宿主細胞、組成物を提供する。当該抗体は、軽鎖と重鎖との正確なアセンブルの精度が高く、かつ分子の大きさが適当である。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上述の発明の目的を達成するために、本発明は以下の技術案を提供する。
【0015】
本発明は、
a)第1の抗原に特異的に結合する抗体の一本鎖可変フラグメントscFv、フレキシブルペプチド、IgG1の重鎖定常領域CH1およびヒンジ領域の一部の配列、即ち、CH1-partial hinge(ヒンジ領域の一部の配列)-linker(フレキシブルペプチド)-scFv2或いはscFv2-linker-CH1-partial hingeと、
b)第2の抗原に特異的に結合する抗体の一本鎖可変フラグメントscFvおよび軽鎖定常領域CL、即ちscFv1-CL或いはCL-scFv1と、を含み、
あるいは
c)第1の抗原に特異的に結合する抗体の軽鎖および重鎖と、
d)軽鎖の可変領域がフレキシブルペプチドおよびリンカーに連結し、重鎖の可変領域がフレキシブルペプチドおよびリンカーを介して重鎖のFc断片に連結する、第2の抗原に特異的に結合する抗体の軽鎖および重鎖と、を含む、二価の二重特異性抗体を提供する。
【0016】
好ましくは、フレキシブルペプチドが(G4S/G4SAS)n、0又は0より大きい整数であるnであり、かつフレキシブルペプチドに連結するIgG1ヒンジ領域の一部の配列がEPKSCDK(SEQ ID NO:24)であり。ここで、(G4S/G4SAS)nは(G4S)n又は(G4SAS)nを示し、nは0又は0より大きい整数である。
【0017】
リンカーがL/GGGC(L/GGGCはLGGC或いはGGGCを示す)であり、かつリンカーに連結する重鎖ヒンジ領域の第1システイン残基(C)突然変異がセリン(S)である。
【0018】
好ましくは、a)およびb)ステップにおいて、CLおよびCH1がヘテロ二量体を形成することができ、CLの末端システイン残基が重鎖のヒンジ領域のシステイン残基とジスルフィド結合を形成することができる。
【0019】
好ましくは、c)およびd)ステップにおいて、そのうちの1つの重鎖のリンカーL/GGGCと1つの軽鎖のリンカーL/GGGCとの末端システイン残基がジスルフィド結合を形成することができ、またそのうちの1つの重鎖のCH3ドメインと他の重鎖のCH3ドメインが二価の二重特異性抗体の構造の形成を促進するように変更される。
【0020】
好ましくは、変更が
a)二価の二重特異性抗体の第2の重鎖のCH3ドメインのオリジナル界面と接触する第1の重鎖のCH3ドメインのオリジナル界面内で、アミノ酸残基が元のアミノ酸残基よりも体積が大きいアミノ残基に置換され、第1の重鎖のCH3ドメインの界面内に突起を生じ、当該突起は、第2の重鎖のCH3ドメインの界面内の凹みに位置決定できる、第1の重鎖のCH3ドメインの変更であり、かつ
b)二価の二重特異性抗体の第1の重鎖のCH3ドメインのオリジナル界面と接触する第2の重鎖のCH3ドメインのオリジナル界面内で、アミノ酸残基が元のアミノ酸残基よりも体積が小さいアミノ酸残基に置換され、第2の重鎖のCH3ドメインの界面内に凹みを生じ、当該凹みは、第1の重鎖のCH3ドメインの界面内の突起を位置決定できる、第2の重鎖のCH3ドメインの変更であり、
ここで、第1の重鎖可変領域と軽鎖可変領域はそれぞれ(G4S/G4SAS)nとL/GGGCに連結し、かつ二つのL/GGGCのシステイン残基間でジスルフィド結合を形成する。
【0021】
好ましくは、元のアミノ酸残基より体積の大きいアミノ酸残基が、アルギニン(R)、フェニルアラニン(P)、チロシン(Y)、およびトリプトファン(W)からなる群より選ばれる。
【0022】
元のアミノ酸残基より体積の小さいアミノ酸残基が、アラニン(A)、セリン(S)、トレオニン(T)、およびバリン(V)からなる群より選ばれる。
【0023】
好ましくは、本発明は、
a)第1の抗原に特異的に結合する抗体の一本鎖可変フラグメントscFv、フレキシブルペプチド、IgG1の重鎖定常領域CH1およびヒンジ領域の一部の配列、即ちSEQ ID NO:2で示されるアミノ酸配列と、
b)第2の抗原に特異的に結合する抗体の一本鎖可変フラグメントscFvおよび軽鎖定常領域CL、即ちSEQ ID NO:11で示されるアミノ酸配列と、を含み、
あるいは
c)第1の抗原に特異的に結合する抗体の軽鎖および重鎖、即ちSEQ ID NO:5およびSEQ ID NO:14で示されるアミノ酸配列と、
d)軽鎖可変領域がフレキシブルペプチドおよびリンカーに連結し、重鎖の可変領域がフレキシブルペプチドおよびリンカーを介して重鎖Fc断片に連結する、第2の抗原に特異的に結合する抗体の軽鎖および重鎖、即ちSEQ ID NO:6およびSEQ ID NO:15で示されるアミノ酸配列とを含む、二価の二重特異性抗体を提供する。
【0024】
さらに、本発明は、
a)以下のベクターで宿主細胞を形質転換するステップと、
第1の抗原に特異的に結合する抗体の一本鎖可変フラグメントおよび重鎖定常領域CH1をコードする核酸分子を含む第1のベクター(SEQ ID NO:2をコードする遺伝子を含む)と、
第2の抗原に特異的に結合する抗体の一本鎖可変フラグメントおよび軽鎖定常領域をコードする核酸分子を含む第2のベクター(SEQ ID NO:11をコードする遺伝子を含む)、
あるいは、
第1の抗原に特異的に結合する抗体の軽鎖をコードする核酸分子を含む第3のベクター(SEQ ID NO:14をコードする遺伝子を含む)と、
第1の抗原に特異的に結合する抗体の重鎖をコードする核酸分子を含む第4のベクター(SEQ ID NO:5をコードする遺伝子を含む)と、
第2の抗原に特異的に結合する抗体の軽鎖をコードする核酸分子を含むベクターであって、軽鎖の可変領域がリンカーに連結する第5のベクター(SEQ ID NO:15をコードする遺伝子を含む)と、
第2の抗原に特異的に結合する抗体の重鎖をコードする核酸分子を含むベクターであって、重鎖の可変領域がリンカーを介して重鎖Fc断片に連結する第6のベクター(SEQ ID NO:6をコードする遺伝子を含む)、
b)抗体分子の合成を可能にする条件下で宿主細胞を培養するステップと、
c)前記抗体分子を培養物から回収するステップと、
を含む、当該二価の二重特異性抗体の製造方法を提供する。
【0025】
さらに、本発明は、
第1の抗原に特異的に結合する抗体の一本鎖可変フラグメントscFv、フレキシブルペプチド、IgG1の重鎖定常領域CH1およびヒンジ領域の一部の配列をコードする第1核酸分子(SEQ ID NO:2をコードする遺伝子)と、
第2の抗原に特異的に結合する抗体の一本鎖可変フラグメントscFvおよび軽鎖定常領域CLをコードする第2核酸分子(SEQ ID NO:11をコードする遺伝子)と、
を含み、あるいは
第1の抗原に特異的に結合する抗体の軽鎖をコードする第3核酸分子(SEQ ID NO:14をコードする遺伝子)と、
第1の抗原に特異的に結合する抗体の重鎖をコードする第4核酸分子(SEQ ID NO:5をコードする遺伝子)と、
第2の抗原に特異的に結合する抗体の軽鎖をコードする核酸分子であって、軽鎖の可変領域がフレキシブルペプチドおよびリンカーに連結する第5核酸分子(SEQ ID NO:15をコードする遺伝子)と、
第2の抗原に特異的に結合する抗体の重鎖をコードする核酸分子であって、重鎖の可変領域がフレキシブルペプチドおよびリンカーを介して重鎖Fc断片に連結する第6核酸分子(SEQ ID NO:6をコードする遺伝子)と、
を含む本発明における二価の二重特異性抗体をコードする遺伝子を提供する。
【0026】
さらに、本発明は
第1の抗原に特異的に結合する抗体の一本鎖可変フラグメントおよび重鎖定常領域CH1をコードする核酸分子を含む第1のベクターと、
第2の抗原に特異的に結合する抗体の一本鎖可変フラグメントおよび軽鎖定常領域をコードする核酸分子を含む第2のベクターと、
を含み、あるいは
第1の抗原に特異的に結合する抗体の軽鎖をコードする核酸分子を含む第3のベクターと、
第1の抗原に特異的に結合する抗体の重鎖をコードする核酸分子を含む第4のベクターと、
第2の抗原に特異的に結合する抗体の軽鎖をコードする核酸分子を含むベクターであって、軽鎖の可変領域がリンカーに連結する第5のベクターと、
第2の抗原に特異的に結合する抗体の重鎖をコードする核酸分子を含むベクターであって、重鎖の可変領域がリンカーを介して重鎖Fc断片に連結する第6のベクターと、
を含む、宿主細胞を提供する。
【0027】
さらに、本発明は、当該二価の二重特異性抗体を含む組成物を提供し、二価の二重特異性抗体の組成物は医薬組成物或いは診断用組成物である。
【0028】
好ましくは、医薬組成物はさらに少なくとも一つの医薬の賦形剤を含む。
【0029】
本発明は二価の二重特異性抗体およびその製造方法、コードする遺伝子、宿主細胞、組成物を提供する。当該二価の二重特異性抗体は、a)第1の抗原に特異的に結合する抗体の一本鎖可変フラグメントscFv、フレキシブルペプチド、IgG1の重鎖定常領域CH1およびヒンジ領域の一部の配列、即ちCH1-partial hinge-linker-scFv2或いはscFv2-linker-CH1-partial hingeと、b)第2の抗原に特異的に結合する抗体の一本鎖可変フラグメントscFvおよび軽鎖定常領域CL、即ちscFv1-CL或いはCL-scFv1と、を含み、
あるいは
c)第1の抗原に特異的に結合する抗体の軽鎖および重鎖と、d)軽鎖の可変領域がフレキシブルペプチドおよびリンカーに連結し、重鎖の可変領域がフレキシブルペプチドおよびリンカーを介して重鎖のFc断片に連結する、第2の抗原に特異的に結合する抗体の軽鎖および重鎖とを含む。
【発明の効果】
【0030】
本発明は、以下の効果を奏する。
本発明の二価の二重特異性抗体は第1の抗原分子及び第2の抗原分子のいずれかとの親和力も高く、親のモノクローナル抗体分子と同等であり、例えば、B2およびFV1はPD-L1との親和力がそれぞれ1.09E-10Mおよび2.71E-10Mであり、B2およびFV1はPD-L1との親和力がそれぞれ2.58E-8Mおよび1.50E-8Mである。これから分かれるように、本発明の抗体の軽鎖と重鎖との正確なアセンブルの精度が高く、かつ分子サイズが適度である。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図1】
図1は、B1、B2、B3およびB4の四つの構造を含む、B構造の二価の二重特異性抗体の模式図である。
【
図2】
図2は、FV1、FV2、FV3およびFV4の四つの構造を含む、FV構造の二価の二重特異性抗体の模式図である。
【
図3】
図3はBおよびFV構造の二重特異性抗体の一過性発現のSDS-PAGE検出の結果を示し、ここで、Mはマーカーであり、レーン1、3、5、7、9、11、13、15はそれぞれB1、B2、B3、B4、FV1、FV2、FV3、FV4の非還元電気泳動であり、レーン2、4、6、8、10、12、14、16はそれぞれB1、B2、B3、B4、FV1、FV2、FV3、FV4の還元電気泳動である。
【
図4】
図4はBおよびFV構造の二価の二重特異性抗体のElisa検出の結果を示し、ここで、B1、B2、B3およびB4の四つの構造(4-1)、およびFV1、FV2、FV3およびFV4の四つの構造(4-2)のElisa検出の結果を含む。
【
図5】
図5は好ましいB2およびFV1構造の二重特異性抗体の精製後のSDS-PAGE検出の結果を示し、ここで、Mはマーカーであり、レーン1、2、3はB2二重特異性抗体の非還元一過性上清、プロテインLアフィニティークロマトグラフィー非還元溶離液、PD-L1アフィニティークロマトグラフィー非還元溶離液であり、レーン4、6、8はFV1二重特異性抗体のMab SelectSureアフィニティークロマトグラフィーによる非還元溶離液、プロテインLアフィニティークロマトグラフィーによる非還元溶離液、hCD47アフィニティークロマトグラフィーによる非還元溶離液であり、レーン5、7、9はFV1二重特異性抗体のMab SelectSureアフィニティークロマトグラフィーによる還元溶離液、プロテインLアフィニティークロマトグラフィーによる還元溶離液、hCD47アフィニティークロマトグラフィーによる還元溶離液である。
【
図6】
図6は好ましいB2およびFV1構造の二価の二重特異性抗体の精製後のElisa検出の結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0032】
本発明は二価の二重特異性抗体およびその製造方法、コードする遺伝子、宿主細胞、組成物を開示し、当業者はこれらの記載を参考し、プロセスパラメータを適切に改善して実現されることが可能である。なお、全ての類似な置換および変更が当業者にとって明白であり、それらは本発明に含まれたものとみなされることを指摘すべきである。本発明の方法および応用は好ましい実施例を用いて説明したが、当業者は、本発明の技術を実施および適用するために、本発明の内容、思想、および範囲から逸脱することなく、本明細書に記載の方法および応用を変更または適切な変更および組み合わせを行うことができることが明らかである。
【0033】
用語の解釈
本明細書において使用する場合、「抗体」という用語とは、完全モノクローナル抗体を意味する。前記完全な抗体は2対の「軽鎖」(LC)と「重鎖」(HC)からなる。前記抗体の軽鎖および重鎖はいくつのドメインからなるポリペプチドである。完全な抗体において、各重鎖は重鎖可変領域VHおよび重鎖定常領域を含む。重鎖定常領域は重鎖定常ドメインCH1、CH2、CH3(抗体タイプIgA、IgD、およびIgG)および任意選択的な重鎖定常ドメインCH4(抗体タイプIgEおよびIgM)を含む。各軽鎖は軽鎖可変ドメインVLおよび軽鎖定常ドメインCLを含む。一つの天然に存在する完全な抗体、即ちIgG抗体である。可変ドメインVHおよびVLはさらに相補性決定領域CDRと呼ばれる超可変領域に分けられ、それらの間にフレームワーク領域FRと称する、より保存される領域がある。個々のVHおよびVLは、次の順番でアミノ基端からカルボキシル基端へ並んでいる三つのCDRおよびよつのFRから構成される:FR1、CDR1、FR2、CDR2、F3、CD3及びFR4(Janeway,C.A.,Jr.ら,(2001)Immunobiology,第5版,Garland Publishing,およびWoof,J.,Burton D.Nat.Rev.Immunol.4(2004)89-99)。2対の重鎖および軽鎖は同じ抗原に対して特異的に結合することができる。従って、前記完全な抗体は二価の単特異性抗体である。かかる「抗体」は、例えばマウス抗体、ヒト抗体、キメラ抗体、ヒト化抗体および遺伝子的に構築された抗体を、それらの特徴的性質が保持される限り含む。ヒト或いはヒト化抗体、特に好ましくは組換えヒト或いはヒト化抗体が特に好ましい。
【0034】
α、δ、ε、γおよびμのギリシャ文字で表される5種類の哺乳動物抗体重鎖がある(Janeway,C.A.,Jr.ら.,(2001)Immunobiology,第5版,Garland Publishing)。重鎖のタイプに対応する抗体のタイプが存在している。存在する重鎖タイプが抗体の種類を定義し、これらの鎖はIgA、IgD、IgE、IgGおよびIgM抗体に見られる(Rhoades,R.A.,Pflanzer,R.G.(2002).Human Physiology,第4版,Thomson Learning)。異なる重鎖は、サイズおよび組成が異なる。αおよびγは約450個のアミノ酸を含有し、μおよびεは約550個のアミノ酸を有する。
【0035】
各重鎖は二つの領域を有し、即ち、定常領域および可変領域を有している。定常領域は、同じアイソタイプの全ての抗体において同じであるが、異なるアイソタイプの抗体において異なる。重鎖γ、αおよびδは三つの定常ドメインCH1、CH2およびCH3からなる定常領域およびレキシブルを増加するためのヒンジ領域を有する(Woof,J.,Burton D.Nat.Rev.Immunol.4(2004)89-99)。重鎖μおよびεは、四つの定常ドメインCH1、CH2、CH3およびCH4からなる定常領域を有する(Janeway,C.A.,Jr.ら,(2001)Immunobiology,第5版,Garland Publishing)。重鎖の可変領域は異なるB細胞により産生された抗体において異なるが、単一のB細胞またはB細胞クローンによって産生されたすべての抗体で同一である。各重鎖の可変領域は約110個アミノ酸であり、かつ単一の抗体ドメインから構成される。
【0036】
哺乳動物にはλおよびKと呼ばれる、わずか二つ種類の軽鎖が存在し、軽鎖は二つの連続的ドメインを有し、一つは定常ドメインCLであり、もう一つは可変ドメインVLである。軽鎖の近似長さは211-217個のアミノ酸である。好ましくは、軽鎖は、K軽鎖であり、かつ、定常ドメインCLはCKであることが好ましい。
【0037】
「モノクローナル抗体」或いは「モノクローナル抗体組成物」という用語とは、本明細書において使用される場合、単一のアミノ酸組成物の抗体分子製剤を意味する。
【0038】
本発明による「抗体」は、任意のタイプ(例えばIgA、IgD、IgE、IgGおよびIgM、好ましくはIgGあるいはIgEである)のものでもよく、あるいはサブタイプ(例えば、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1およびIgA2、好ましくはIgG1である)であり、そのうち、本発明による二価の二重特異性抗体が由来する二つの抗体は、同じサブタイプ(例えばIgG1、IgG4など、好ましいIgG1)のFc部分を有し、好ましくは同じアロタイプのFc部分を有する。
【0039】
「抗体のFc部分」とは、当業者がよく知られており、パパイン酵素による抗体の切断に基づいて定義される用語である。本発明による抗体は、例えばFc部分、好ましくはヒト由来のFc部分および好ましいヒト定常領域の全ての他の部分を含む。抗体のFc部分分は、補体活性化、C1q結合、C3活性化およびFc受容体結合に直接関与する。抗体は、補体系への抗体の影響が特定の条件に依存するが、C1qへの結合はFc部分における決定される結合部位により引起される。前記結合部位は、先行技術であり、Lukas,T.J.,et al.,J.Immunol.127(1981)2555-2560;Brunhouse;Cebra,J.J.,Mol.Immunol.16(1979)907-917;Burton,D.R.,et al.,Nature 288(1980)338-344;Thommesen,J.E.,et al.,Mol.Immunol.37(2000)995-1004;Idusogie,E.E.,et al.,J.Immunol.164(2000)4178-4184;Hezareh,M.,et al.,J.Virol.75(2001)12161-12168;Morgan,A.,et al.,Immunology 86(1995)319-324;およびEP0307434に記載される。前記結合部位は、例えばL234、L235、D270、N297、E318、K320、K322、P331およびP329(KabatによるEUディレクトリ番号)である。通常には、サブタイプIgGl、IgG2、およびIgG3の抗体は、補体活性化、C1q結合、およびC3活性化を示すが、IgG4のは補体系を活性化させず、C1qに結合せず、C3を活性化させない。好ましくは、Fc部分がヒトFc部分である。
【0040】
本明細書に使用される「組換えヒト抗体」という用語は、組換え手段により製造、発現、産生あるいは単離された全てのヒト抗体、例えば、宿主細胞例えばNSOやCHO細胞、又はヒト免疫グロブリン遺伝子の遺伝子導入動物から単離された抗体、又は宿主細胞にトランスフェクトされた組換え発現ベクターにより発現される抗体を含むことを意味する。これらの組換えヒト抗体は、転位された形態の可変領域および定常領域を有する。
【0041】
「可変ドメイン」は、本明細書において使用される場合、抗体の抗原への結合に直接関与する軽鎖と重鎖との対の個々を示す。可変ヒト軽鎖および重鎖のドメインは、同じ一般構造を有し、かつ各ドメインは、4つのフレームワーク領域(FR)を含み、当該フレームワーク領域は、一般に保存され、3つの超可変領域(CDRs)によって連結される。フレームワーク領域は、自己折り畳み構造を取り、かつCDRは、自己折り畳み構造を連結するループを形成することができる。各鎖のCDRは、フレームワーク領域によってその3次元構造で保持され、他方の鎖のCDRと共に抗原結合部位を形成する。抗体の重鎖および軽鎖のCDR3領域は本発明による抗体の結合特異性/親和性において非常に重要な役割を果たす。
【0042】
「超可変領域」或いは「抗体の抗原と結合する部分」という用語とは、本明細書に使用される場合、抗原結合を担う抗体のアミノ酸残基を意味する。超可変領域は「相補性決定領域」由来のアミノ酸残基を含む。「フレームワーク領域」は本明細書に定義された超可変領域の残基以外のそれらの可変ドメインの領域である。そのため、抗体の軽鎖および重鎖は、N末端からC末端までドメインFR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3およびFR4を含み、各鎖におけるCDRは前記フレームワークアミノ酸によって分離される。特に、重鎖のCDR3は抗原結合に最も寄与する領域である。CDRおよびFR領域は、Kabat,et al.,免疫学的に重要なタンパク質の配列(Sequences of proteins of lmmunological Interest),第5版,公衆健康サービス;国家健康研究所(Public Health Service,National Institutes of Health),Bethesda,MD.(1991)の基準の定義に従って決定される。
【0043】
重鎖および軽鎖の「定常ドメイン」は抗体の抗原への結合に直接に関与しないが、さまざまなエフェクター機能を示す。
【0044】
「二価の二重特異性抗体」という用語とは、本明細書において使用される場合、2つの一本鎖可変フラグメントが、それぞれ異なる抗原に特異的に結合する、即ち、第1の一本鎖可変フラグメントおよび軽鎖定常領域は、第1の抗原に特異的に結合し、第2の一本鎖可変フラグメント、重鎖定常領域1およびヒンジ領域の一部が、第2の抗原に特異的に結合する、上述した抗体を指す。前記二価の二重特異性抗体は、二つの異なる抗原に同時に結合することができ、かつ2種類の抗原を超えず、それと対照的に、一方、1つの抗原のみに結合することができる単一特異性抗体であり、他方、4つの抗原分子に同時に結合することができる4価の四特異性抗体である。
【0045】
「抗原」あるいは「抗原分子」という用語とは、本明細書において使用される場合、交換可能的に使用され、抗体によって特異的に結合されることができる全ての分子を意味する。二価の二重特異性抗体は第1の抗原及び異なる第2の抗原に特異的に結合する。「抗原」という用語は、本明細書において使用される場合、例えばタンパク質、タンパク質上の異なるエピトープ(本発明の意味の範囲内で異なる抗原とする)及び多糖体を含む。これは主に、細菌、ウィルス、その他の微生物の部分(外殻、被膜、細胞壁、鞭毛、線毛および毒素)を含む。脂質および核酸は、タンパク質および多糖体と結合する場合にのみ抗原性を示す。非微生物外因性(非自己)抗原は、花粉、卵白および移植された組織および臓器からのタンパク質、または輸血された血液細胞の表面上のタンパク質を含むことができる。好ましくは、抗原は、サイトカイン、細胞表面タンパク質、酵素および受容体サイトカイン、細胞表面タンパク質、酵素および受容体からなる群から選ばれる。
【0046】
腫瘍抗原は、腫瘍細胞の表面上のMHCI或いはMHCII分子内の抗原である。これらの抗原は、腫瘍細胞によって提示されることがあり、正常細胞によっては提示されないことがない。したがって、それらは腫瘍特異抗原(TSAs)と呼ばれ、かつ典型的には腫瘍特異的変異によって産生される。最も見られるのは、腫瘍細胞および正常細胞によって提示される抗原であり、腫瘍関連抗原(TAAs)と呼ばれる。これらの抗原を認識する細胞傷害性Tリンパ球は、腫瘍細胞の増殖または転移前にそれらを破壊することができる。腫瘍抗原はまた、例えば、腫瘍表面上に変異受容体の形態として存在する可能性があり、この場合、それらがB細胞によって認識されるべきである。
【0047】
好ましい一実施形態においては、二価の二重特異性抗体が特異的に結合する2種類の異なる抗原(第1および第2の抗原)のうちの少なくとも1つは腫瘍抗原である。
【0048】
別の好ましい実施形態においては、二価の二重特異性抗体が特異的に結合する2種類の異なる抗原(第1および第2の抗原)はいずれも腫瘍抗原である。この場合には、前記第1および第2の抗原はさらに同じの腫瘍特異的タンパク質での2種類の異なるエピトープであってもよい。
【0049】
別の好ましい実施形態においては、二価の二重特異性抗体が特異的に結合する2種類の異なる抗原(第1および第2の抗原)の一つは腫瘍抗原であり、かつもう1種類はエフェクター細胞抗原、例えばT細胞受容体、CD3、CD16などである。
【0050】
別の好ましい実施形態においては、二価の二重特異性抗体が特異的に結合する2種類の異なる抗原(第1および第2の抗原)の一つは腫瘍抗原であり、かつもう1種類は抗癌物質、例えば、毒素やキナーゼ阻害剤である。
【0051】
「特異的に結合」或いは「…に特異的に結合する」とは、本明細書において使用される場合に、抗原に特異的に結合する抗体を指す。該抗原に特異的に結合する抗体の結合親和性は、10-9mol/L以下、例えば10-10mol/LのKD値、好ましくは、10-10mo1/L以下、例えば10-12mo1/LのKD値を有する。結合親和性は、基準結合測定、例えば表面プラズモン共鳴技術(Biacore)により決定される。
【0052】
「エピトープ」という用語は特異的に抗体に結合することができる任意のポリペプチド決定基を含む。ある実施形態においては、エピトープ決定基は、分子の化学的に清浄な表面のグループ、例えばアミノ酸、糖側鎖、ホスホリル又はスルホニルを含み、ある実施形態においては、特定の三次元構造特徴を有し、かつ、特定の帯電性能を有することができる。エピトープは抗体により結合される抗原の領域である。ある実施形態においては、抗体がタンパク質および/または高分子の複雑な混合物において、その標的抗原を優先的に認識する場合、該抗体は抗原に特異的に結合すると称される。
【0053】
「核酸又は核酸分子」という用語とは、本明細書において使用される場合に、DNA分子およびRNA分子を含むことを意図する。核酸分子は一本鎖でもよく二本鎖でもよいが、好ましくは二本鎖DNAである。
【0054】
「細胞」、「細胞系」および「細胞培養物」という表現は、本明細書において使用される場合に、可換的に使用されることができ、かつこれらの名称には全て子孫も含まれる。したがって、「形質転換体」および「形質転換された細胞」という言葉は、その継代数にかかわらず、初代対象細胞およびそれから派生した培養物を含む。また、全ての子孫は、意図的な又は意図しない突然変異により、DNA含有量が正確に同じではないことも理解される。元の形質転換された細胞からスクリーニングされた同じ機能的又は生物学的活性を有する変異体子孫も含まれる。異なる名称が意図される場合、その文脈から明らかになる。
【0055】
「形質転換」という用語とは、本明細書において使用される場合、ベクター/核酸を宿主細胞導入するプロセスを意味する。細胞壁の障壁を克服することが困難な細胞が宿主細胞として使用される場合、トランスフェクションは、例えば、Grahamおよびvan der Eh,Virology 52(1978)546ffに記載のリン酸カルシウム沈殿法によって行われる。また、例えば核注入プロトプラスト融合による細胞中へDNAの導入するための他の方法を使用できる。原核細胞又は実質的な細胞壁構造を有する細胞を用いる場合、例えば、トランスフェクションの一方法は、Cohen,F.N.,など,PNAS.69(1972)7110ffに記載の酸化カルシウムを用いるカルシウム処理である。
【0056】
形質転換を用いる抗体の組換え生成は、先行技術においてよく知られ、例えば、レビュー文献Makrides,S.C.,プロテイン Expr.Purif.17(1999)183-202;Geisse,S.,et al.,Protein Expr.Purif.8(1996)271-282;Kaufman,R.J.,Mol.Biotechnol.16(2000)151-161;Werner,R.G.,et al.,Arzneimittel Forschung 48(1998)870-880、US6,331,415やUS4,816,567に記載されている。
【0057】
本明細書において使用される場合、「発現」とは、核酸をmRNAに転写するプロセス、及び/又は転写されたmRNAをペプチド、ポリペプチド又はタンパク質にその後に翻訳するプロセスを意味する。転写物およびコードされたポリペプチドは、遺伝子産物と総称される。ポリヌクレオチドがゲノムDNAに由来する場合、真核細胞における発現はmRNAのスプライシングを含んでもよい。
【0058】
「ベクター」とは、核酸分子、特に自己複製する核酸分子であり、それは、組み込まれた核酸分子を宿主細胞内及び/又は宿主細胞間にトランスファーすることを含む。この用語は、細胞へDNAまたはRNAを組み込むために主に機能するベクター、DNAまたはRNAを複製するために主に機能する複製ベクター、およびDNAまたはRNAを転写および/または翻訳するために主に機能する発現ベクターを含む。さらに、上記の機能の1つ以上を提供するベクターを含む。
【0059】
「発現ベクター」とは、適切な宿主細胞に導入された後でポリペプチドに転写および翻訳されることができるポリヌクレオチドである。「発現システム」とは、一般に、所望の発現産物を産生するために機能する発現ベクターを含む適切な宿主細胞を意味する。
【0060】
本発明による二価の二重特異性抗体は、組換え手段により生じることが好ましい。前記方法は、当技術分野において広く知られており、原核および真核細胞におけるタンパク質の発現、その後の抗体ポリペプチドの単離、および通常の医薬的に許容できる純度までの精製を含む。タンパク質を発現するために、軽鎖および重鎖をコードする核酸またはその断片を、標準方法により発現ベクターに組み込む。発現は、例えば、CHO細胞、NSO細胞、SP2/0細胞、HEK293細胞、COS細胞、酵母または大腸菌(E.coli)細胞などの適切な原核または真核宿主細胞において行われ、そして前記細胞(細胞溶解後の上清または細胞)から抗体を回収される。二価の二重特異性抗体は、完全な細胞、細胞ライセート、或いは一部精製されたもしくは実質的に純粋な形で存在することができる。精製は、アルカリ/SDS処理、カラムクロマトグラフィー、および当技術分野で周知の他の技術を含む標準技術により行われる。これによって、他の細胞成分または他の細胞核酸やタンパク質などの汚染物を排除する。Ausube l,F.,et al.,Current Protocols in Molecular Biology,Greene PublishingとWileylnter science,ニューヨーク(1987)を参照する。NSO細胞における発現は、例えば、Barnes,L.M.,et al.,Cytotechnology 32(2000)109-123;およびBarnes,L.M.,et al.,Biotech.Bioeng,73(2001)261-270に記載されている。一過性表現は、例えば、Durocher,Y.,et al.,Nucl.Acids Res.30(2002)四に記載されている。可変ドメインのクローンは、Orlandi,R.,et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 86(1989)3833-3837;Carter,P.,et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 89(1992)4285-4289;およびNorderha,L.,et al.,J.Immunol.Methods 204(1997)77-87に記載されている。好ましい一過性表現システム(HEK 293)は、Schlaeger,E.J.とChristensen,K.,Cytotechnology 30(1999)71-83;およびSchlaeger,E.J.,J.Immunol.Methods 194(1996)191-199に記載されている。
【0061】
原核生物に適した制御配列は、例えば、プロモーター、任意選択のオペレーター配列、およびリボソーム結合部位が含まれる。真核細胞は、プロモーター、エンハンサーおよびポリアデニル化シグナルを使用することが知られている。
【0062】
核酸は、別の核酸配列との機能性的関係に置かれる場合、「作動可能に連結される」。例えば、それがポリペプチドの分泌に関与するプレタンパク質として発現される条件で、リーダー配列または分泌リーダー配列のDNAはポリペプチドのDNAに作動可能に連結し、それが配列の転写に影響を及ぼす条件で、プロモーターまたはエンハンサーをコード配列に作動可能に連結し、または、翻訳を促進するために局在化される条件で、リボソーム結合部位はコード配列に作動可能に連結する。一般的には、「作動可能に連結される」とは、連結されるDNA配列が連続的であり、そして分泌リーダー配列の場合、連続的かつ読み取りの位相内にあることを意味する。しかしながら、エンハンサーは連続する必要がない。連結は、都合のよい制限部位での連結により達成される。前記サイトが存在しない場合には、従来の慣行に従って合成オリゴヌクレオチドアダプターまたはリンカーを使用する。
【0063】
二価の二重特異性抗体は、例えば、プロテインA-アガロース、アパタイトクロマトグラフィー、ゲル電気泳動、透析、またはアフィニティークロマトグラフィーなどの従来の免疫グロブリン精製プロセスによって、培地から適切に単離される。モノクローナル抗体をコードするDNAおよびRNAは、従来の方法により容易に単離され、シークエンシングされる。ハイブリドーマ細胞は、前記DNAおよびRNAの由来として作用することができる。単離されると、DNAは、発現ベクターに組み込むことができ、次に、前記発現ベクターを、さもなければ免疫グロブリンを産生しない宿主細胞、例えばHEK293細胞、CHO細胞、または骨髄腫細胞などの宿主細胞にトランスフェクトされ、宿主細胞における組換えモノクローナル抗体の合成を達成する。
【0064】
二価の二重特異性抗体のアミノ酸配列バリアント(または突然変異体)は、適切なヌクレオチド変化を抗体DNAに導入することにより、またはヌクレオチド合成により調製される。ただし、そのような修飾は、非常に制限された範囲内、例えば、上記のような範囲内でのみ行うことができる。また、前記修飾は、上記抗体特性、IgGアイソタイプおよび抗原結合を変更させないが、組換え産物の収率、タンパク質安定性を増加させるか、または精製を促進することができる。しかし組換え生成の収率、タンパク質安定性を改良するか、又は精製を促進する。
【0065】
本発明によって提供される二価の二重特異性抗体及びその調製方法、コードする遺伝子、宿主細胞、組成物に用いられる原料又は試薬はすべて、市場から購入することができる。
【0066】
以下では、実施例を参照しながら、本発明をさらに説明する。
【実施例】
【0067】
実施例1:二価の二重特異性抗体の製造
1.二価の二重特異性抗体の一過性トランスフェクションのための発現ベクターの構築
【0068】
(1)材料
抗ヒトCD47のヒト化モノクローナル抗体059-4.16.2H1L2のVL(SEQ ID NO:18)およびVH(SEQ ID NO:19)の配列;059-4.16.2H1L2は、ハイブリドーマからマウス抗体(201610436519.3)を得て、次いでヒト化遺伝子改造を行うことにより得られた。
抗ヒトPD-L1のヒトモノクローナル抗体047 Ab-6のVL(SEQ ID NO:20)とVH(SEQ ID NO:21)の配列、047 Ab-6は、ナイーブヒューマンライブラリーからパニングして得られた(201810044303.1)。IgG1の重鎖定常領域CH1のコードするヌクレオチド、ヒンジ領域とFcのコードするヌクレオチド、およびカッパ鎖定常領域のヌクレオチド。
【0069】
(2)方法
pGS003を選択して、二価の二重特異性抗体(8つ、構造模式図は
図1および
図2に示す)の重鎖および軽鎖の発現ベクターを構築した。抗ヒトCD47のヒト化モノクローナル抗体059-4.16.2 H1L2のVLおよびVHのコードヌクレオチド、抗ヒトPD-L1のヒト化モノクローナル抗体047 Ab-6のVLおよびVHのコードヌクレオチド、IgG1の重鎖定常領域CH1のコードヌクレオチド、ヒンジ領域およびFcのコードヌクレオチド、およびカッパ鎖の定常領域のヌクレオチド配列、並びにベクターおけるマルチクローニングサイトに基づき、プライマーを設計した。表1に示すように、PCR増幅後、in vitro組換え法(蘇州泓迅、iMulli多断片の組換えクローニングキット)を用い、9つの重鎖コード配列および8つの軽鎖コード配列をpGS003にクローニングした。シークエンシングにより抗体遺伝子の正確な挿入を確認した後、組換え発現ベクターを大腸菌TOP10F’に形質転換し、シングルコロニーを採取して100μg/mLのアンピシリンを含むLB培地に接種し、37℃で16時間振とう培養した。Zymo Researchのエンドトキシンを特異的に効率よく除去するマキキットを用い、プラスミドを抽出し、最後にプラスミドを超純水1mLに溶解し、分光光度計でプラスミド濃度およびOD260/280を測定した。OD260/280は1.8~1.9で純度の高いプラスミドDNAである。
【0070】
【0071】
2.哺乳動物細胞293Eにおけるトランスフェクション、発現および検出
上記9つの重鎖発現ベクターおよび8つの軽鎖発現ベクターにおけるH1、L2、L3およびH4のanti-h CD47を発現するscFv;L1、H2、H3およびL4のanti-h PD-L1を発現するscFv;H5およびL5のそれぞれanti-h PD-L1を発現するVHおよびVL;H6、H7、H8およびH9のanti-h CD47を発現するVH;L6、L7およびL8のanti-h CD47を発現するVL。
【0072】
上記ベクターが、H1+L1(B1構造)、H2+L2(B2構造)、H3+L3(B3構造)、H4+L4(B4構造)、H5+L5+H6+L6(FV1構造)、H5+L5+H7+L7(FV2構造)、H5+L5+H8+L8(FV3構造)およびH5+L5+H9+L7(FV4構造)に従い組み合った後、2mLの293Eシステムの一過性トランスフェクション発現し、評価した。ここで、FV1構造が(G4S/G4SAS)
0+L/GGGCであり、FV2構造が(G4S/G4SAS)
1+L/GGGCであり、FV3構造が(G4S/G4SAS)
3+L/GGGCであり、FV4構造の軽鎖が(G4S/G4SAS)
1+L/GGGCであり、重鎖がL/GGGC+(G4S/G4SAS)
1であった。発現量および抗体がヒトCD47及びヒトPD-L1と結合したELISA検出値を検出した結果、
図3、
図4(ただし、4-1はB構造の二価の二重特異性抗体のElisa検出結果を示し、4-2はFV構造の二価の二重特異性抗体Elisa検出結果を示した)に示した。B2構造は、B系構造の二重特異性抗体において、発現、構築、及び抗原への結合のいずれかが最適であった。FV1構造は、FV系構造の二重特異性抗体において、発現、アセンブル、及び抗原への結合がすべて最適であった。従って、抗体は、B2、FV1が好ましい。
【0073】
Freestyle培地で293Eを用い、B2およびFV1構造の二つの好ましい抗体を、増幅された一過性トランスフェクションし、発現させた。トランスフェクションの24時間前に、1L細胞培養フラスコに0.5×106細胞/mLで293E細胞 300mLを接種し、37℃ 5% CO2インキュベーターに120rpmでシェーカーで培養した。トランスフェクションする際に、先に、300μLの293fectinを取って5.7mLのOPtiMEMに加え、十分に混合した後、室温で2分間インキュベートした。また、B2構造およびFV1構造分子のために使用された、それぞれ総量300μgの発現プラスミドを、OPtiMEMを用いて6mLに希釈した。上記希釈したトランスフェクション試薬及びプラスミドをよく混合し、室温で15分間インキュベートした後、すべての混合物を細胞に加え、十分に混合し、37℃ 5% CO2インキュベーターでシェーカーにより120rpmで7日間培養した。
【0074】
実施例2:好ましい抗体的精製および検出
B2構造のタンパク質の精製:
細胞培養液2000gを、20分間遠心分離し、上清を集めた。上清を0.22マイクロメートルのろ過膜で濾過し、Protein L(GE)クロマトグラフィーにより、クエン酸-クエン酸ナトリウム20mM、pH3.0で溶出し、1M Tris baseでpHを中性に調整した。Protein Lクロマトグラフィーされたサンプルを、またヒトPDL1タンパク質がカップリングされたアフィニティークロマトグラフィーに供し、クエン酸-クエン酸ナトリウム20mMを用い、pH3.0で溶出し、1M Tris baseでpHを中性に調整した。精製サンプルは、4~20%グラジエントゲル(Genscript Biotech Corporation)を用いてSDS-PAGEで精製タンパク質を検出した。結果は
図5に示し、好ましい抗体B2の純度は95%であった。
【0075】
FV1構造のタンパク質の精製:
細胞培養液2000gを、20分間遠心して上清を集めた。上清を0.22マイクロメートルのろ過膜で濾過し、Mabselect Sure(GE)クロマトグラフィーにより、クエン酸-クエン酸ナトリウム20mM、pH3.0で溶出し、1M Tris baseでpHを中性に調整した。Mabselect Sureクロマトグラフィー後のサンプルを、さらにProtein L(GE)クロマトグラフィーにかけ、クエン酸-クエン酸ナトリウム20mM、pH3.0で溶出し、1M Tris baseでpHを中性に調整した。Protein Lクロマトグラフィー後のサンプルを、さらにヒトCD47タンパク質がカップリングされたアフィニティークロマトグラフィーにかけ、クエン酸-クエン酸ナトリウム20mM、pH3.0で溶出し、1M Tris baseでpHを中性に調整した。精製サンプルは、4~20%グラジエントゲル(Genscript Biotech Corporation)を用いてSDS-PAGEで精製タンパク質を検出し、結果は
図5に示し、好ましい抗体FV1の純度は90.8%であった。
【0076】
実施例3:好ましい抗体がヒトCD47およびヒトPD-L1との結合のELISA検出
1.第1の抗原のコーティング:ヒトPD-L1-mFc(GeneScience Pharmaceuticalsが自社構築され、SEQ ID NO:22)をPBSで1μg/mLに希釈し、96ウェルマイクロプレートにウェル当たり50μL添加し、4℃で一晩インキュベートした。
【0077】
2.ブロッキング:プレートを3回洗浄した後、3%BSAでウェル当たり250μLでブロッキングし、37℃で2時間インキュベートした。
【0078】
3.候補抗体の添加:プレートを3回洗浄した後、初期濃度が10mg/mLである、2倍希釈した、12個の濃度勾配の候補抗体サンプルまたは陽性対照または陰性対照を添加した。ウェル当たり50μL、25℃の条件下で1時間インキュベーションした。
【0079】
4.第2の抗原の添加:ヒトCD47-His(GeneScience Pharmaceuticalsが自社構築され、SEQ ID NO:23)を、PBSで10μg/mLに希釈し、96ウェルマイクロプレートにウェル当たり50μL添加し、25℃の条件下で1時間インキュベートした。
【0080】
5.二次抗体の添加:プレートを3回洗浄した後、HRP標識ストレプトアビジン(1:10000)をウェル当たり50μL添加し、25℃の条件下で1時間インキュベートした。
【0081】
6.発色:プレートを4回洗浄した後、TMB発色液をウェルあたり50μL加え、室温で10分間遮光して発色させる。
【0082】
7.停止:1ウェルあたり50μLのように反応停止液を直接添加し、反応を停止させた。
【0083】
8.検出:反応停止後、すぐにマイクロプレートをマイクロプレートリーダーにセットし、450nmでOD値を測定し、元のデータを保存して整理した。その結果を
図6に示した。精製後の好ましい抗体B2がEC50=0.5636であり、FV1がEC50=1.662であった。
【0084】
実施例4:好ましい抗体の親和力の測定
BiacoreT200機器を用い、B2およびFV1構造の抗体の親和力を検出した。具体的な方法は以下の通りであった。ヒトPD-L1-His及びヒトCD47-HisをCM5バイオセンサーチップ(GE)にカップリングし、様々な濃度の抗体が30μL/minの流速でチップを流れ、抗原は結合時間120s及び解離時間300sで候補抗体に結合した。BIAevalutionソフトウェア(GE)を用い、動力学フィッティングを行い、親和性定数を求めた。その結果は、表2、表3に示される。B2およびFV1とPD-L1との親和力はそれぞれ1.09E-10Mおよび2.71E-10Mであり、B2およびFV1とCD47との親和力はそれぞれ2.58E-8Mおよび1.50E-8Mであった。
【0085】
【0086】
【0087】
上記は、本発明の好適な実施例に過ぎず、当業者にとって、本発明の原理から逸脱することなく、幾つの改善及び修飾を行うことができ、これらも本発明の特許請求の範囲に含
まれると見られるべきである。
本発明は以下の態様を含む。
<1>
a)第1の抗原に特異的に結合する抗体の一本鎖可変フラグメントscFv、フレキシブルペプチド、IgG1の重鎖定常領域CH1およびヒンジ領域の一部の配列と、
b)第2の抗原に特異的に結合する抗体の一本鎖可変フラグメントscFvおよび軽鎖定常領域CLと、を含み、
あるいは
c)第1の抗原に特異的に結合する抗体の軽鎖および重鎖と、
d)軽鎖の可変領域がフレキシブルペプチドおよびリンカーに連結し、重鎖の可変領域がフレキシブルペプチドおよびリンカーを介して重鎖のFc断片に連結する、第2の抗原に特異的に結合する抗体の軽鎖および重鎖とを含む、ことを特徴とする二価の二重特異性抗体。
<2>
前記フレキシブルペプチドが(G4S/G4SAS)nであり、ここで、nは0或いは0より大きい整数であり、かつフレキシブルペプチドに連結するIgG1ヒンジ領域の一部の配列がEPKSCDKであり、
前記リンカーがL/GGGCであり、かつリンカーに連結する重鎖のヒンジ領域における第1システイン残基がセリンに変異する、
ことを特徴とする<1>に記載の二価の二重特異性抗体。
<3>
CLおよびCH1がヘテロ二量体を形成し、CLの末端システイン残基が重鎖のヒンジ領域のシステイン残基とジスルフィド結合を形成する、ことを特徴とする<1>或いは<2>に記載の二価の二重特異性抗体。
<4>
1つの重鎖のリンカーL/GGGCと1つの軽鎖のリンカーL/GGGCとの末端システイン残基がジスルフィド結合を形成すること、および一方の重鎖のCH3ドメインと他方の重鎖のCH3ドメインが前記二価の二重特異性抗体の構造の形成を促進するように変更されること、を特徴とする<1>或いは<2>に記載の二価の二重特異性抗体。
<5>
前記変更が
a)二価の二重特異性抗体内の第2の重鎖のCH3ドメインのオリジナル界面と接触する第1の重鎖のCH3ドメインのオリジナル界面内で、アミノ酸残基が元のアミノ酸残基よりも体積が大きいアミノ残基に置換され、第1の重鎖のCH3ドメインの界面内に突起を生じ、前記突起は、前記第2の重鎖のCH3のドメインの界面内の凹みに位置決定できる、第1の重鎖のCH3ドメインの変更であり、かつ
b)二価の二重特異性抗体内の第1の重鎖のCH3ドメインのオリジナル界面と接触する第2の重鎖のCH3ドメインのオリジナル界面内で、アミノ酸残基が元のアミノ酸残基よりも体積が小さいアミノ酸残基に置換され、第2の重鎖のCH3ドメインの界面内に凹みを生じ、前記凹みに前記第1の重鎖のCH3ドメインの界面内の突起を位置決定できる、第2の重鎖のCH3ドメインの変更であり、
第1の重鎖可変領域と軽鎖可変領域がそれぞれ(G4S/G4SAS)nとL/GGGCに連結し、かつ二つのL/GGGCのシステイン残基間でジスルフィド結合が形成される、ことを特徴とする<4>に記載の二価の二重特異性抗体。
<6>
前記元のアミノ酸残基より体積の大きいアミノ酸残基がアルギニン、フェニルアラニン、チロシン、およびトリプトファンからなる群より選ばれ、
前記元のアミノ酸残基より体積の小さいアミノ酸残基がアラニン、セリン、トレオニン、およびバリンからなる群より選ばれる、
ことを特徴とする<1>ないし<5>のいずれかに記載の二価の二重特異性抗体。
<7>
前記二価の二重特異性抗体が、
a)第1の抗原に特異的に結合する抗体の一本鎖可変フラグメントscFv、フレキシブルペプチド、IgG1の重鎖定常領域CH1およびヒンジ領域の一部の配列、即ちSEQ ID NO:2で示されるアミノ酸配列と、
b)第2の抗原に特異的に結合する抗体の一本鎖可変フラグメントscFvおよび軽鎖定常領域CL、即ちSEQ ID NO:11で示されるアミノ酸配列と、を含み、
あるいは、
c)第1の抗原に特異的に結合する抗体の軽鎖および重鎖、即ちSEQ ID NO:5およびSEQ ID NO:14で示されるアミノ酸配列と、
d)軽鎖可変領域がフレキシブルペプチドおよびリンカーに連結し、重鎖の可変領域がフレキシブルペプチドおよびリンカーを介して重鎖Fc断片に連結する、第2の抗原に特異的に結合する抗体の軽鎖および重鎖、即ちSEQ ID NO:6およびSEQ ID
NO:15で示されるアミノ酸配列とを含むこと、
を特徴とする<1>ないし<6>のいずれかに記載の二価の二重特異性抗体。
<8>
a)以下のベクターで宿主細胞を形質転換するステップと、
第1の抗原に特異的に結合する抗体の一本鎖可変フラグメントおよび重鎖定常領域CH1をコードする核酸分子を含む第1のベクターと、
第2の抗原に特異的に結合する抗体の一本鎖可変フラグメントおよび軽鎖定常領域をコードする核酸分子を含む第2のベクターと、
あるいは、
第1の抗原に特異的に結合する抗体の軽鎖をコードする核酸分子を含む第3のベクターと、
第1の抗原に特異的に結合する抗体の重鎖をコードする核酸分子を含む第4のベクターと、
第2の抗原に特異的に結合する抗体の軽鎖をコードする核酸分子を含むベクターであって、軽鎖の可変領域がリンカーに連結する第5のベクターと、
第2の抗原に特異的に結合する抗体の重鎖をコードする核酸分子を含むベクターであって、重鎖の可変領域がリンカーを介して重鎖Fc断片に連結する第6のベクターと、
b)抗体分子の合成を可能にする条件下で宿主細胞を培養するステップと、
c)前記抗体分子を培養物から回収するステップと、を含む、
ことを特徴とする<1>ないし<7>のいずれかに記載の二価の二重特異性抗体の製造方法。
<9>
第1の抗原に特異的に結合する抗体の一本鎖可変フラグメントscFv、フレキシブルペプチド、IgG1の重鎖定常領域CH1およびヒンジ領域の一部の配列をコードする第1核酸分子と、
第2の抗原に特異的に結合する抗体の一本鎖可変フラグメントscFvおよび軽鎖定常領域CLをコードする第2核酸分子とを含み、
あるいは、
第1の抗原に特異的に結合する抗体の軽鎖をコードする第3核酸分子と、
第1の抗原に特異的に結合する抗体の重鎖をコードする第4核酸分子と、
第2の抗原に特異的に結合する抗体の軽鎖をコードする核酸分子であって、軽鎖の可変領域がフレキシブルペプチドおよびリンカーに連結する第5核酸分子と、
第2の抗原に特異的に結合する抗体の重鎖をコードする核酸分子であって、重鎖の可変領域がフレキシブルペプチドおよびリンカーを介して重鎖Fc断片に連結する第6核酸分子と、を含む、
ことを特徴とする<1>ないし<7>のいずれかに記載の前記二価の二重特異性抗体をコードする遺伝子。
<10>
第1の抗原に特異的に結合する抗体の一本鎖可変フラグメントおよび重鎖定常領域CH1をコードする核酸分子を含む第1のベクターと、
第2の抗原に特異的に結合する抗体の一本鎖可変フラグメントおよび軽鎖定常領域をコードする核酸分子を含む第2のベクターと、を含み、
あるいは、
第1の抗原に特異的に結合する抗体の軽鎖をコードする核酸分子を含む第3のベクターと、
第1の抗原に特異的に結合する抗体の重鎖をコードする核酸分子を含む第4のベクターと、
第2の抗原に特異的に結合する抗体の軽鎖をコードする核酸分子を含むベクターであって、軽鎖の可変領域がリンカーに連結する第5のベクターと、
第2の抗原に特異的に結合する抗体の重鎖をコードする核酸分子を含むベクターであって、重鎖の可変領域がリンカーを介して重鎖Fc断片に連結する第6のベクターと、を含む、ことを特徴とする宿主細胞。
<11>
<1>ないし<7>のいずれかに記載の二価の二重特異性抗体を含む組成物であって、医薬組成物或いは診断組成物であることを特徴とする、組成物。
【配列表】