(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-12
(45)【発行日】2023-07-21
(54)【発明の名称】繊維集束用組成物、及びこれを用いた樹脂含浸繊維、熱可塑性樹脂組成物、成形品
(51)【国際特許分類】
D06M 15/263 20060101AFI20230713BHJP
B32B 27/04 20060101ALI20230713BHJP
C08J 5/04 20060101ALI20230713BHJP
C08K 7/02 20060101ALI20230713BHJP
C08K 9/08 20060101ALI20230713BHJP
D06M 13/17 20060101ALI20230713BHJP
D06M 13/256 20060101ALI20230713BHJP
D06M 13/262 20060101ALI20230713BHJP
D06M 15/233 20060101ALI20230713BHJP
D06M 15/31 20060101ALI20230713BHJP
D06M 15/53 20060101ALI20230713BHJP
【FI】
D06M15/263
B32B27/04 Z
C08J5/04 CES
C08J5/04 CET
C08J5/04 CFD
C08J5/04 CFF
C08J5/04 CFG
C08K7/02
C08K9/08
D06M13/17
D06M13/256
D06M13/262
D06M15/233
D06M15/31
D06M15/53
(21)【出願番号】P 2022104039
(22)【出願日】2022-06-28
【審査請求日】2023-01-12
(31)【優先権主張番号】P 2021202611
(32)【優先日】2021-12-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】399034220
【氏名又は名称】日本エイアンドエル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103517
【氏名又は名称】岡本 寛之
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 雅典
(72)【発明者】
【氏名】藤田 和代
(72)【発明者】
【氏名】田村 雛乃
【審査官】鈴木 祐里絵
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-176227(JP,A)
【文献】特開平3-45680(JP,A)
【文献】特開昭62-292803(JP,A)
【文献】特開昭57-121040(JP,A)
【文献】国際公開第2012/008561(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D06M13/00-15/715
B29B11/16
15/08-15/14
C08J5/04-5/10
5/24
C08C19/00-19/44
C08F6/00-246/00
301/00
C08K3/00-13/08
C08L1/00-101/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂含浸繊維と熱可塑性樹脂とが複合化した繊維強化熱可塑性樹脂複合材料の製造において、複数の繊維を集束して前記樹脂含浸繊維を製造するための繊維集束用組成物であり、
エチレン系不飽和カルボン酸単量体1~10重量%と
、前記エチレン系不飽和カルボン酸単量体と共重合可能な他の単量体との共重合体を含有する熱可塑性樹脂エマルジョンを含み、
前記他の単量体は、芳香族ビニル系単量体80~94重量%と、シアン化ビニル系単量体5~15重量%とを含有し、
pHが4~
6.4である繊維集束用組成物。
【請求項2】
直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩、α-オレフィンスルホン酸塩、アルカンスルホン酸塩、ジアルキルスルホコハク酸塩及びアルキル硫酸塩から選ばれた少なくとも1種を含む請求項1に記載の繊維集束用組成物。
【請求項3】
非イオン系界面活性剤を含むことを特徴とする請求項1に記載の繊維集束用組成物。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載の繊維集束用組成物で集束された樹脂含浸繊維。
【請求項5】
請求項4に記載の樹脂含浸繊維と熱可塑性樹脂とを含む繊維強化熱可塑性樹脂組成物。
【請求項6】
請求項5に記載の繊維強化熱可塑性樹脂組成物を成形してなる成形品。
【請求項7】
請求項4に記載の樹脂含浸繊維からなる層と熱可塑性樹脂層を含む積層体を成形してなる成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は主に繊維強化熱可塑性樹脂複合材料の製造に用いられる繊維の集束用組成物、その集束用組成物で集束された樹脂含浸繊維、およびこれを用いた熱可塑性樹脂組成物、成形品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
炭素繊維を代表とする繊維材料は高強度、高弾性、電気伝導性等の優れた特徴をもち、その特徴を活かして熱可塑性樹脂をマトリックスとした繊維強化熱可塑性樹脂複合材料として、家電、輸送機械、スポーツ用品など様々な産業分野で広く利用されている。
【0003】
これら繊維強化熱可塑性樹脂複合材料の製造に際しては、繊維に対して集束処理を行い繊維ストランドとした後、(1)短繊維化して熱可塑性樹脂と溶融混練する方法、(2)シート状とし熱可塑性樹脂シートと積層させる方法などで行なっている。
【0004】
集束処理は、数百本~数万本からなる独立した繊維を集束剤により一体化させ、ストランドとするもので、後の熱可塑性樹脂との複合化工程に必要不可欠な処理である。
【0005】
この集束剤は、繊維ストランドに耐擦性を付与させ、複合化工程における作業性に影響を与えるのみならず、本質的に相溶性のない繊維と熱可塑性樹脂との間に濡れ性や接着性等を付与し、最終的な繊維強化熱可塑性樹脂複合材料の性能や品質に大きく影響を与える重要なものである。
【0006】
従来、繊維と熱可塑性樹脂との親和性を高める目的では、さまざまな集束剤が検討されている。例えば、特許文献1では、共重合ナイロン樹脂を主成分とする水系エマルジョンで繊維を集束させることで、繊維と熱可塑性樹脂との接着性を向上させて、繊維強化熱可塑性樹脂複合材料の強度を改善する方法が開示されている。あるいは特許文献2では、特定のカルボキシル基量を有するスチレン系エマルジョンで集束処理する方法が開示されている。
【0007】
また、特許文献3では、炭素繊維等からなる連続強化繊維シートと、熱可塑性樹脂からなる樹脂シートとを交互に積層した状態で、熱プレス処理(加熱加圧処理)を行うことにより、連続強化繊維間の隙間に熱可塑性樹脂を含浸させた繊維強化熱可塑性樹脂複合材料が開示されている。
【0008】
さらに、特許文献4では、炭素繊維等からなる連続強化繊維間の隙間に熱可塑性樹脂を含浸させたシート状のプリプレグを積層することにより形成された繊維強化熱可塑性樹脂複合材料が提案されており、予め所定の形状(長さ)に切断されたプリプレグの強化繊維を所定の方向に配向させた状態で、熱プレスにより付着(溶融接着)させて積層することで、生産性に優れ、高性能を有する繊維強化熱可塑性樹脂複合材料を得ることができると開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開昭61-254629号公報
【文献】特開2004-176227号公報
【文献】特開2013-189634号公報
【文献】国際公開WO2016/067711号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかし、これらの方法では、繊維と熱可塑性樹脂との界面接着強度こそ向上するものの、熱可塑性樹脂にポリエステル樹脂を用いた場合、ポリエステル樹脂の加水分解を引き起こすという不具合があり、最終製品における長期安定性の面で未だ満足できるものが得られていないのが現状である。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは前述の諸事情に鑑み、現状の問題点を解決すべく鋭意検討した結果、熱可塑性樹脂エマルジョンを含む繊維集束用組成物のpHを特定の範囲に調整することにより、熱可塑性樹脂としてポリエステル樹脂を用いた場合、ポリエステル樹脂の加水分解を抑制することが可能であることを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0012】
本発明は以下の[1]で構成される。
[1]熱可塑性樹脂エマルジョンを含み、pHが4~7である繊維集束用組成物。
【0013】
本発明には、以下の[2]~[7]のような態様も含まれる。
[2] 前記熱可塑性樹脂エマルジョンが、エチレン系不飽和カルボン酸単量体0.1~20重量%と、前記エチレン系不飽和カルボン酸単量体と共重合可能な他の単量体80~99.9重量%との共重合物を含有することを特徴とする[1]に記載の繊維集束用組成物。
[3] 直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩、α-オレフィンスルホン酸塩、アルカンスルホン酸塩、ジアルキルスルホコハク酸塩及びアルキル硫酸塩から選ばれた少なくとも1種を含む[1]~[2]のいずれか一項に記載の繊維集束用組成物。
[4] 非イオン系界面活性剤を含むことを特徴とする[1]~[3]のいずれか一項に記載の繊維集束用組成物。
[5] [1]~[4]のいずれか一項に記載の繊維集束用組成物で集束された樹脂含浸繊維。
[6] [5]に記載の樹脂含浸繊維と熱可塑性樹脂とを含む繊維強化熱可塑性樹脂組成物。
[7] [6]に記載の繊維強化熱可塑性樹脂組成物を成形してなる成形品。
[8] [5]に記載の樹脂含浸繊維からなる層と熱可塑性樹脂層を含む積層体を成形してなる成形品。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、ポリエステル樹脂の加水分解を抑制する熱可塑性樹脂エマルジョンを含む繊維集束用組成物、及びこれを用いた樹脂含浸繊維、熱可塑性樹脂組成物、成形品を提供することが可能である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明につき詳細に説明する。
【0016】
本発明の繊維集束用組成物は、熱可塑性樹脂エマルジョンを含むものである。
【0017】
本発明の繊維集束用組成物に含まれる熱可塑性樹脂エマルジョンは、熱可塑性樹脂の水分散体であれば特に制限なく、例えば、ポリエステル系樹脂エマルジョン、ポリウレタン系樹脂エマルジョン、酢酸ビニル系樹脂エマルジョン、塩化ビニリデン系樹脂エマルジョン、ポリアミド系樹脂エマルジョン、芳香族ビニル系樹脂エマルジョン、アクリル系樹脂エマルジョン、オレフィン系樹脂エマルジョンなどが挙げられる。
【0018】
中でも、集束された繊維の取り扱いの容易さや最終製品の性能の点から、熱可塑性樹脂エマルジョンは、好ましくは、エチレン系不飽和カルボン酸単量体を含有する複数の単量体が重合した共重合体を含有する。
【0019】
エチレン系不飽和カルボン酸単量体としては、アクリル酸、メタクリル酸及びクロトン酸などのモノカルボン酸単量体、マレイン酸、フマル酸及びイタコン酸などのジカルボン酸単量体並びにこれらの無水物が挙げられる。これらの単量体は1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。特にアクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸の使用が好ましい。
【0020】
エチレン系不飽和カルボン酸単量体と共重合可能な他の単量体としては、芳香族ビニル系単量体、シアン化ビニル系単量体、アルキルエステル系単量体、ヒドロキシアルキル基を含有する不飽和単量体、不飽和カルボン酸アミド系単量体、ビニルピリジン系単量体、オキサゾリン系単量体、共役ジエン系単量体等が挙げられ、目的に応じて各々1種または2種以上混合して使用することが可能である。
【0021】
芳香族ビニル系単量体としては、スチレン、α-メチルスチレン、ビニルトルエンおよびジビニルベンゼン等が挙げられ、これらを1種または2種以上使用することができる。
【0022】
シアン化ビニル系単量体としては、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、α-クロルアクリロニトリル、α-エチルアクリロニトリル等が挙げられ、これらを1種または2種以上使用することができる。
【0023】
アルキルエステル系単量体としては、メチルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルアクリレート、エチルメタクリレート、ブチルアクリレート、グリシジルメタクリレート、ジメチルフマレート、ジエチルフマレート、ジメチルマレエート、ジエチルマルエート、ジメチルイタコネート、モノメチルフマレート、モノエチルフマレート、2-エチルヘキシルアクリレート等が挙げられ、これらを1種または2種以上使用することができる。
【0024】
ヒドロキシアルキル基を含有する不飽和単量体としては、β-ヒドロキシエチルアクリレート、β-ヒドロキシエチルメタクリレート、ヒドロキシプロピルアクリレート、ヒドロキシプロピルメタクリレート、ヒドロキシブチルアクリレート、ヒドロキシブチルメタクリレート、3-クロロ-2-ヒドロキシプロピルメタクリレート、ジ-(エチレングリコール)マレエート、ジ-(エチレングリコール)イタコネート、2-ヒドロキシエチルマレエート、ビス(2-ヒドロキシエチル)マレエート、2-ヒドロキシエチルメチルフマレート等が挙げられ、これらを1種または2種以上使用することができる。
【0025】
不飽和カルボン酸アミド系単量体としては、アクリルアミド、メタクリルアミド、N-メチロールアクリルアミド、N-メチロールメタクリルアミド、N,N-ジメチルアクリルアミド等が挙げられ、これらを1種または2種以上使用することができる。
【0026】
ビニルピリジン系単量体としては、2-ビニルピリジン、3-ビニルピリジン、4-ビニルピリジン、2-メチル-5-ビニルピリジン等が挙げられ、これらを1種または2種以上使用することができる。
【0027】
オキサゾリン系単量体としては、例えば2-ビニル-2-オキサゾリンや4,4-ジメチル-2-ビニル-2-オキサゾリン-5-オン等が挙げられ、これらを1種または2種以上使用することができる。
【0028】
共役ジエン系単量体としては、1,3-ブタジエン、2-メチル-1,3-ブタジエン、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン、2-クロル-1,3-ブタジエン等が挙げられ、これらを1種または2種以上使用することができる。
【0029】
中でも、エチレン系不飽和カルボン酸単量体と共重合可能な他の単量体として、スチレン、α-メチルスチレン、アクリロニトリル、メチルメタクリレート、ブチルアクリレート、β-ヒドロキシエチルアクリレート、アクリルアミドまたはメタクリルアミド、2-ビニルピリジン、1,3-ブタジエンの使用が好ましい。
【0030】
全単量体中のエチレン系不飽和カルボン酸単量体の含有量は、0.1~20重量%であることが好ましく、0.5~18重量%がより好ましく、0.5~16重量%がさらに好ましい。この範囲に調整することで、集束性と樹脂含浸繊維の熱可塑性樹脂への分散性のバランスに優れる傾向にある。
【0031】
熱可塑性樹脂エマルジョンの各単量体の好ましい組成比率としては、芳香族系ビニル単量体60~95重量%、シアン化ビニル系単量体4~39重量%、エチレン系不飽和カルボン酸単量体1~15重量%が挙げられ、さらに好ましい組成比率としては、芳香族系ビニル単量体80~94重量%、シアン化ビニル系単量体5~15重量%、エチレン系不飽和カルボン酸単量体1~10重量%が挙げられる。
【0032】
本発明の繊維集束用組成物に含まれる熱可塑性樹脂エマルジョンが、乳化重合法により得られる場合、公知の乳化重合法、例えば、一括添加方法、分割添加方法、連続添加方法、多段階重合法、シード重合法、パワーフィード重合法等、目的に応じて任意の方法を採用してもよいが、中でも重合時の安定性や分子量の調整の容易さから連続添加方法が好ましい。
【0033】
本発明の繊維集束用組成物に含まれる熱可塑性樹脂エマルジョンを乳化重合する際に用いられる界面活性剤としては、例えば、直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩、α-オレフィンスルホン酸塩、アルカンスルホン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル酢酸塩、脂肪酸塩、α-スルホ脂肪酸メチルエステル塩、ジアルキルスルホコハク酸塩及びアルキル硫酸塩等の陰イオン系界面活性剤や、非イオン系界面活性剤、例えば、アセチレングリコール系界面活性剤、アセチレンアルコール系界面活性剤、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンドデシルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアリルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルなどのエーテル系、ポリオキシエチレンオレイン酸、ポリオキシエチレンオレイン酸エステル、ポリオキシエチレンジステアリン酸エステル、ソルビタンラウレート、ソルビタンモノステアレート、ソルビタンモノオレエート、ソルビタンセスキオレート、ポリオキシエチレンモノオレエート、ポリオキシエチレンステアレート等のエステル系、ジメチルポリシロキサン等のシリコン系界面活性剤、その他フッ素アルキルエステル、パーフルオロアルキルカルボン酸塩等の含フッ素系界面活性剤、非イオン性界面活性剤の硫酸エステル塩等のアニオン性界面活性剤あるいはポリエチレングリコールのアルキルエステル型、アルキルフェニルエーテル型、アルキルエーテル型等のノニオン性界面活性剤が挙げられ、各々1種または2種以上混合して用いることが可能である。
【0034】
中でも、直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩、α-オレフィンスルホン酸塩、アルカンスルホン酸塩、ジアルキルスルホコハク酸塩、アルキル硫酸塩及び非イオン系界面活性剤から選ばれた少なくとも1種を用いることが好ましく、直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩であることがより好ましい。
【0035】
乳化重合の際に使用される界面活性剤は、全単量体100重量部に対して、0.05~10重量部の範囲で使用するのが好ましい。0.05部未満ではエマルジョンの安定性に劣るため含浸処理の際の歩留まりが低下し、10重量部を越えると最終製品の成型の際にガスが多量に発生し成形品表面を損なう不具合や最終製品の強度低下が発生する傾向がある。好ましくは0.06~8重量部、より好ましくは0.08~5重量部の範囲である。
【0036】
本発明の繊維集束用組成物に含まれる熱可塑性樹脂エマルジョンを乳化重合する際に用いられる重合開始剤としては、例えば、過硫酸リチウム、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム等の水溶性重合開始剤、クメンハイドロパーオキサイド、過酸化ベンゾイル、t-ブチルハイドロパーオキサイド、アセチルパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、及び1,1,3,3-テトラメチルブチルハイドロパーオキサイド等の油溶性重合開始剤が挙げられる。これらは1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。これらのうち、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、クメンハイドロパーオキサイド、又はt-ブチルハイドロパーオキサイドを用いることが好ましい。重合開始剤の配合量は、単量体組成、重合反応系のpH、他の添加剤などの組み合わせを考慮して適宜調整される。
【0037】
本発明の繊維集束用組成物に含まれる熱可塑性樹脂エマルジョンを乳化重合する際に用いられる連鎖移動剤としては、例えば、n-ヘキシルメルカプタン、n-オクチルメルカプタン、t-オクチルメルカプタン、n-ドデシルメルカプタン、t-ドデシルメルカプタン、n-ステアリルメルカプタン等のアルキルメルカプタン;ジメチルキサントゲンジサルファイド、ジイソプロピルキサントゲンジサルファイド等のキサントゲン化合物;テトラメチルチウラムジスルフィド、テトラエチルチウラムジスルフィド、テトラメチルチウラムモノスルフィド等のチウラム系化合物;2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェノール、スチレン化フェノール等のフェノール系化合物;アリルアルコール等のアリル化合物;ジクロルメタン、ジブロモメタン、四臭化炭素等のハロゲン化炭化水素化合物;α-ベンジルオキシスチレン、α-ベンジルオキシアクリロニトリル、α-ベンジルオキシアクリルアミド等のビニルエーテル;トリフェニルエタン、ペンタフェニルエタン、アクロレイン、メタアクロレイン、チオグリコール酸、チオリンゴ酸、2-エチルヘキシルチオグリコレート、ターピノレン、α-メチルスチレンダイマーなどの連鎖移動剤が挙げられる。これらは1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。連鎖移動剤の配合量は、他の添加剤などの組み合わせを考慮して適宜調整することができる。
【0038】
本発明の繊維集束用組成物に含まれる熱可塑性樹脂エマルジョンを乳化重合する際に用いられる還元剤としては、例えば、亜硫酸塩、亜硫酸水素塩、ピロ亜硫酸塩、亜ニチオン酸塩、ニチオン酸塩、チオ硫酸塩、ホルムアルデヒドスルホン酸塩、ベンズアルデヒドスルホン酸塩;L-アスコルビン酸、エリソルビン酸、酒石酸、クエン酸などのカルボン酸類およびその塩;デキストロース、サッカロースなどの還元糖類;ジメチルアニリン、トリエタノールアミンなどのアミン類が挙げられる。これらは1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。これらのうち、L-アスコルビン酸、エリソルビン酸が好ましい。還元剤の配合量は、他の添加剤などの組み合わせを考慮して適宜調整することができる。
【0039】
また、本実施形態に係る反応系には、共重合体の分子量及び架橋構造を制御する目的で、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、シクロヘキサン、シクロヘプタン等の飽和炭化水素;ペンテン、ヘキセン、ヘプテン、シクロペンテン、シクロヘキセン、シクロヘプテン、4-メチルシクロヘキセン、1-メチルシクロヘキセン等の不飽和炭化水素;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素などの炭化水素化合物を配合することができる。これらは1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。これらのうち、シクロヘキセン、トルエンを用いることが好ましい。
【0040】
エチレン系不飽和カルボン酸単量体や界面活性剤の添加方法には特に制限は無く、初期に必要量を全量添加する、重合中に連続あるいは断続的に添加する、あるいは重合時に一部を使用した後、重合完了後に残りを追添する方法等、目的に応じて方法を採用することができる。重合完了後に界面活性剤を追加添加する場合には、重合時に使用した界面活性剤と同種のものを使う以外に、異なる種類の界面活性剤を1種または2種以上混合し添加することも可能である。
【0041】
また、乳化重合する際の重合温度は、30~85℃の範囲で行うことが好ましく、重合時間は、3~20時間の範囲であることが好ましい。
【0042】
本発明の繊維集束用組成物中の熱可塑性樹脂エマルジョンの固形分のガラス転移温度に特に制限はないが、30~200℃の範囲であることが最終製品の強度の点から好ましい。より好ましくは35~190℃、さらに好ましくは60~140℃、特に好ましくは80~120℃の範囲である。このガラス転移温度はJIS K7121―2012に準拠して測定することができる。なお、この熱可塑性樹脂エマルジョン中の固形分の抽出方法に特に制限はないが、例えば熱可塑性樹脂エマルジョンを90℃に調整された乾燥機中で10時間乾燥することにより得ることができる。
【0043】
本発明の繊維集束用組成物には、熱可塑性樹脂エマルジョン以外に、分散剤、滑剤、消泡剤、防腐剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定化剤、着色剤、帯電防止剤、可塑剤等を、本発明の効果を損なわない範囲に配合して使用することが可能である。
【0044】
本発明の繊維集束用組成物中の熱可塑性樹脂エマルジョンの含有割合(固形分換算)は、80重量%以上であることが好ましく、90重量%以上であることがより好ましい。
【0045】
本発明の繊維集束用組成物のpHは、4~7の範囲であり、4~6.4であることが好ましく、4.1~5.5であることがより好ましい。pHが4未満または7を超える場合、マトリックス樹脂であるポリエステル樹脂の加水分解が著しく進行する傾向にある。
【0046】
繊維集束用組成物のpHは、熱可塑性樹脂エマルジョンを重合する際のエチレン系不飽和カルボン酸単量体の種類や添加量、重合時または重合完了時に添加される水酸化ナトリウムや水酸化カリウム等のアルカリ物質の添加量、酢酸や硫酸、塩酸、リン酸等の酸性物質の添加量によって調整することが可能である。
【0047】
本発明の繊維集束用組成物により繊維を集束させる方法には特に制限はなく、スプレー法や塗布法または含浸法等の公知の方法から1種または2種以上組み合わせて選択することが可能である。
【0048】
本発明の繊維集束用組成物により集束させる繊維としては、炭素繊維、ガラス繊維、硼素繊維、炭化ケイ素繊維、あるいはアルミウム繊維、ステンレス繊維、銅繊維、ニッケル繊維などの金属繊維、ポリアミド繊維、ポリエステル繊維、ポリアリレート繊維、ポリイミド繊維、(ナノ)セルロース繊維などの有機繊維等を用いることが出来る。さらにこれらの繊維は1種または2種以上を組み合わせて用いることも可能である。中でも、炭素繊維、ガラス繊維が好ましい。炭素繊維には、通常の炭素繊維に加えて、ニッケルなどの金属で被覆処理した炭素繊維なども含まれ、かつその形態に特に制限はなく、連続繊維、チョップド繊維、ミルド形状や不織布等、目的に応じて任意の形態のものを選ぶことが可能である。
【0049】
本発明における繊維集束用組成物と繊維の含浸比率に特に制限は無いが、最終製品の強度面から、固形分換算で、繊維集束用組成物1~20重量部、繊維99~80重量部の範囲で含浸させることが好ましい。
【0050】
本発明の樹脂含浸繊維における、繊維集束用組成物により集束させた繊維の水分の蒸発方法については特に制限はなく、乾燥機を使用する方法、赤外線を照射する方法、連続的に乾燥機を通過させる方法等、目的に応じて採用することが可能である。尚、乾燥温度については、熱可塑性樹脂エマルジョンのガラス転移温度+60~80℃に調整されることが、集束処理後の繊維を取り扱う上で好ましい。
【0051】
本発明の樹脂含浸繊維は、熱可塑性樹脂と溶融混練し、繊維強化熱可塑性樹脂組成物として用いることができる。さらに、熱可塑性樹脂シートまたはフィルムと積層させた積層品としても用いることもできる。
【0052】
本発明の樹脂含浸繊維と組み合わせる熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリカーボネート(PC)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリ乳酸樹脂(PLA)等のポリエステル樹脂、ポリスチレン(PS)、耐衝撃性ポリスチレン(HIPS)、アクリロニトリル-ブタジエンゴム-スチレン共重合体(ABS)、アクリロニトリルーアクリルゴム-スチレン共重合体(ASA)、アクリロニトリル-エチレンプロピレンゴム-スチレン共重合体(AES)、アクリロニトリル-スチレン共重合体(AS)等のスチレン系樹脂、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)等のポリオレフィン樹脂、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリアミド(PA)、熱可塑性ポリウレタン樹脂(TPU)、ポリエーテルサルフォン(PES)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)等が挙げられ、1種または2種以上を組み合わせて使用することが可能である。中でも、ポリエステル樹脂を含む熱可塑性樹脂であることが、本発明の効果をより顕著に得るために好ましい。
【0053】
本発明の樹脂含浸繊維と組み合せる熱可塑性樹脂には、例えば、光安定剤、酸化防止剤、熱安定剤、紫外線吸収剤、滑剤、難燃剤、難燃助剤、可塑剤、顔料、染料等の各種添加剤を含むこともできる。
【0054】
本発明の樹脂含浸繊維と熱可塑性樹脂とを溶融混練して得られた繊維強化熱可塑性樹脂組成物は、例えば、射出成形、多層押し出し成形、フィルム成形、シート成形、インフレーション成形、プレス成形、SMC成形法、LFT-D法等、目的に応じた加工法を採用することで成形品を得ることが可能である。また、場合によっては予備賦形を行う工程を挟むことも可能である。
【0055】
また、上記の加工法以外に、本発明の樹脂含浸繊維からなる層を熱可塑性樹脂シートまたはフィルムと積層させた積層体を用いて、プレス成型、SMC成形法等により成形品を得ることが可能である。また、場合によっては予備賦形を行う工程を挟むことも可能である。
【0056】
成形品の加工温度に特に制限はなく、使用される熱可塑性樹脂の特性により任意の温度を選択することが可能であるが、成形サイクルの点から180~300℃の範囲で成形することが好ましく、更に好ましくは200~280℃の範囲である。
【実施例】
【0057】
以下、本実施形態を実施例及び比較例を用いてより具体的に説明するが、本実施形態は以下の実施例によって何ら限定されるものではない。
【0058】
ガラス転移温度
得られた熱可塑性樹脂エマルジョンを90℃のオーブンで10時間乾燥させることで測定サンプルとした。その後、示差走査熱量計を用いてJIS K7121―2012に準拠して測定した。
【0059】
pHの測定
各実施例及び比較例で得られた繊維集束用組成物をJIS Z-8802に準拠して液温25℃でのpHを測定した。pHの測定には、卓上型電気伝導率計(東亜DKK(株)製 CM-25R)を用いた。
【0060】
加水分解性の評価(1)
各実施例及び比較例で得られたペレットを100℃で4時間乾燥した後、ISO1133に準じてメルトフローレート(MFR-0)を測定した。また、85℃、相対湿度95%の恒温恒湿槽に500時間保管した後、100℃で4時間乾燥した後のメルトフローレート(MFR―500)も測定した。得られた測定値を基に、下記式(1)を用いてメルトフローレート上昇率を求めた。数値は大きいほど加水分解が進んでいることを示す。
メルトフローレート上昇率(%)=MFR-500/MFR-0×100・・・(式1)
尚、MFRの測定は、下記条件で行った。
熱可塑性樹脂(1)を用いた繊維強化熱可塑性樹脂組成物:300℃、1.2kg
熱可塑性樹脂(2)を用いた繊維強化熱可塑性樹脂組成物:240℃、10kg
熱可塑性樹脂(3)を用いた繊維強化熱可塑性樹脂組成物:220℃、10kg
加水分解性の評価(2)
各実施例及び比較例で得られたペレットを用いてISOダンベルを作成し、ISO178に準じて曲げ強度(FS-0)を測定した。また、加水分解性の評価(1)と同様に、85℃、相対湿度95%の恒温恒湿槽に500時間保管した後の曲げ強度(FS-500)も測定した。吸湿前の曲げ強度(FS-0)と吸湿後の曲げ強度(FS-500)から下記式(2)を用いて曲げ強度保持率を求めた。数値は小さいほど加水分解が進んでいることを示す。
曲げ強度保持率(%)=FS-500/FS-0×100・・・(式2)
加水分解性の評価(3)
各実施例及び比較例で得られた積層品から幅15mm×長さ150mmの試験片を切り出し、JIS K7074に準じて曲げ強度(FS)を測定し、加水分解性の評価(2)と同様に、吸湿前の曲げ強度(FS-0)と吸湿後の曲げ強度(FS-500)から曲げ強度保持率を求めた。
【0061】
<熱可塑性樹脂エマルジョン(1)の製造方法>
重合反応器に純水45重量部を添加した後、窒素置換を行った。その後、昇温を開始し75℃に到達した時点で過硫酸カリウム0.2重量部を添加した。更に反応器が80℃に到達した時点でドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム2.1重量部(固形分換算)を純水30重量部に溶解させた溶液、スチレン88重量部、アクリロニトリル10重量部、アクリル酸2重量部、t-ドデシルメルカプタン0.8重量部からなる単量体混合物の7.5時間にわたる連続添加を開始した。その間反応器の温度は80℃を保ち、連続添加終了後は更に重合を完了させるため温度を80℃で5時間保持した。その後純水を用いて固形分を45%に調整し、熱可塑性樹脂エマルジョン(1)を得た。熱可塑性樹脂エマルジョン(1)中の固形分のガラス転移温度は102℃であった。
【0062】
<熱可塑性樹脂エマルジョン(2)の製造方法>
重合反応器に純水45重量部を添加した後、窒素置換を行った。その後、昇温を開始し75℃に到達した時点で過硫酸アンモニウム0.4重量部を添加した。更に反応器が80℃に到達した時点でドデシルベンゼンスルホン酸アンモニウム3.0重量部(固形分換算)を純水30重量部に溶解させた溶液、スチレン89重量部、アクリロニトリル10重量部、アクリル酸1重量部、t-ドデシルメルカプタン0.8重量部からなる単量体混合物の7.5時間にわたる連続添加を開始した。その間反応器の温度は80℃を保ち、連続添加終了後は更に重合を完了させるため温度を80℃で5時間保持した。その後純水を用いて固形分を45%に調整し、熱可塑性樹脂エマルジョン(2)を得た。熱可塑性樹脂エマルジョン(2)中の固形分のガラス転移温度は100℃であった。
【0063】
<熱可塑性樹脂エマルジョン(3)の製造方法>
重合反応器に純水45重量部を添加した後、窒素置換を行った。その後、昇温を開始し75℃に到達した時点で過硫酸カリウム0.4重量部を添加した。更に反応器が80℃に到達した時点でドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム3.0重量部(固形分換算)を純水30重量部に溶解させた溶液、スチレン80重量部、アクリロニトリル10重量部、メタアクリル酸10重量部、t-ドデシルメルカプタン0.8重量部からなる単量体混合物の7.5時間にわたる連続添加を開始した。その間反応器の温度は80℃を保ち、連続添加終了後は更に重合を完了させるため温度を80℃で5時間保持した。その後純水を用いて固形分を45%に調整し、熱可塑性樹脂エマルジョン(3)を得た。熱可塑性樹脂エマルジョン(3)中の固形分のガラス転移温度は105℃であった。
【0064】
<繊維集束用組成物(1)の製造方法>
熱可塑性樹脂エマルジョン(1)を繊維集束用組成物(1)とした。上述の方法で測定したpHは4.8であった。
【0065】
<繊維集束用組成物(2)の製造方法>
熱可塑性樹脂エマルジョン(2)を繊維集束用組成物(2)とした。上述の方法で測定したpHは5.2であった。
【0066】
<繊維集束用組成物(3)の製造方法>
熱可塑性樹脂エマルジョン(3)を繊維集束用組成物(3)とした。上述の方法で測定したpHは4.2であった。
【0067】
<繊維集束用組成物(4)の製造方法>
熱可塑性樹脂エマルジョン(1)100重量部(固形分)にアセチレングリコール型非イオン性界面活性剤(日信化学工業(株)製 サーフィノール(登録商標)104E)を1重量部添加した後、十分に攪拌し、繊維集束用組成物(4)を得た。上述の方法で測定したpHは5.2であった。
【0068】
<繊維集束用組成物(5)の製造方法>
熱可塑性樹脂エマルジョン(1)に1Nの水酸化ナトリウム水溶液を適量添加した後、十分に攪拌し、繊維集束用組成物(5)を得た。上述の方法で測定したpHは6.4であった。
【0069】
<繊維集束用組成物(6)の製造方法>
熱可塑性樹脂エマルジョン(1)に1Nの水酸化ナトリウム水溶液を適量添加した後、十分に攪拌し、繊維集束用組成物(6)を得た。上述の方法で測定したpHは6.8であった。
【0070】
<繊維集束用組成物(7)の製造方法>
熱可塑性樹脂エマルジョン(1)に1Nの水酸化ナトリウム水溶液を適量添加した後、十分に攪拌し、繊維集束用組成物(7)を得た。上述の方法で測定したpHは9.0であった。
【0071】
<チョップドストランド(1)の製造方法>
繊維集束用組成物(1)(固形分換算)を連続炭素繊維100重量部に対して付着量が3重量部となるように集束させた後、ペレタイザーを用いて切断を行い、100℃に調整した棚式乾燥機を用いて水分量が0.1%以下になるまで乾燥を行い、チョップドストランド(1)を得た。
【0072】
<チョップドストランド(2)~(7)の製造方法>
繊維集束用組成物(1)を繊維集束用組成物(2)~(7)に変更した以外は、チョップドストランド(1)と同じ製法で、チョップドストランド(2)~(7)を得た。
【0073】
<連続樹脂含浸繊維(1)の製造方法>
布引装置を用いて、各熱可塑性樹脂エマルジョンを連続炭素繊維100重量部に対して付着量が10重量部(固形分換算)となるように集束させ、その後得られた連続樹脂含浸繊維を180℃に調整した乾燥炉内を1m/分の速さで3分間移動させることにより水分を完全に除去し、最終の連続樹脂含浸繊維(1)を得た。
【0074】
<連続樹脂含浸繊維(2)~(7)の製造方法>
繊維集束用組成物(1)を繊維集束用組成物(2)~(7)に変更した以外は、連続樹脂含浸繊維(1)と同じ製法で、連続樹脂含浸繊維(2)~(7)を得た。
【0075】
上述のチョップドストランド、連続樹脂含浸繊維に用いた炭素繊維は、帝人株式会社製 Tenax(登録商標)-J STS40 F13 24K 1600texである。
【0076】
熱可塑性樹脂(1)
住化ポリカーボネート株式会社製 SD POLYCA(登録商標)301-10
熱可塑性樹脂(2)
日本エイアンドエル株式会社製 テクニエース(登録商標)PAX-1439
(ポリカーボネート樹脂とABS樹脂のアロイ)
熱可塑性樹脂(3)
ポリ乳酸樹脂とABS樹脂のアロイ
<繊維強化熱可塑性樹脂組成物の製造方法>
熱可塑性樹脂およびチョップドストランドを表1に記載の配合割合で混合した後、260℃に設定したフィーダーを2基有しているSTEER社製OMega30Hを用いて、F1より熱可塑性樹脂を、F2からチョップドストランドを投入し溶融混練して繊維強化熱可塑性樹脂組成物のペレットを得た。得られたペレットを用いてISOダンベルを作成し、加水分解性の評価(2)に用いた。
【0077】
<連続樹脂含浸連続繊維と熱可塑性樹脂からなる成形品の製造方法>
連続樹脂含浸繊維を20cm角のシートとなるように複数枚並列させた後、公知のフィルム成形機を用いて作成されたポリカーボネート樹脂フィルム(厚み40μm)と炭素繊維を、炭素繊維含量が25重量%になるように交互に積層させ、設定温度280℃の圧縮成型機NF37型を用いて、圧力5MPaをかけた状態で余熱を5分間行った後、圧力15MPaをかけた状態で5分間熱プレス処理を行い、厚みが2mmの積層品を作製した。得られた積層品からら幅15mm×長さ150mmの試験片を切り出し、加水分解性の評価(3)に用いた。
【0078】
【0079】
【0080】
実施例1~15は、本発明で規定するpHを満足する繊維集束用組成物であるため、加水分解が抑制され、強度保持率に優れるものであった。
【0081】
比較例1および2は、本発明で規定するpHを満足しない繊維集束用組成物であるため、加水分解が進み、強度保持率に劣るものであった。
【産業上の利用可能性】
【0082】
上述の通り、本発明品は、従来の集束剤を用いた含浸繊維に比べてポリエステル樹脂の加水分解を抑制し、強度保持率の優れるものであることから、成形体として、例えば自動車部品や電化製品に好適である。