(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-13
(45)【発行日】2023-07-24
(54)【発明の名称】測定装置
(51)【国際特許分類】
G01N 27/02 20060101AFI20230714BHJP
【FI】
G01N27/02 D
(21)【出願番号】P 2020525638
(86)(22)【出願日】2019-06-12
(86)【国際出願番号】 JP2019023377
(87)【国際公開番号】W WO2019240202
(87)【国際公開日】2019-12-19
【審査請求日】2022-02-04
(31)【優先権主張番号】P 2018114957
(32)【優先日】2018-06-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】516279260
【氏名又は名称】株式会社日本バイオデータ
(74)【代理人】
【識別番号】100116850
【氏名又は名称】廣瀬 隆行
(72)【発明者】
【氏名】緒方 法親
【審査官】吉田 将志
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第05981268(US,A)
【文献】米国特許出願公開第2008/0293997(US,A1)
【文献】国際公開第2010/070538(WO,A1)
【文献】国際公開第02/055653(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/02
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶液(3)を収容する溶液槽(5)と,
前記溶液層(5)内に存在し,少なくとも表面の一部が前記溶液中に露出する第1の電極(7)及び第2の電極(9)と,
第1の電極(7)及び第2の電極(9)との間に電圧を印可する電圧印加手段(11)と,
第1の電極(7)及び第2の電極(9)との間に流れる電流を測定する電流測定手段(13)と,を備える電気化学測定装置(1)であって,
第1の電極(7)の前記溶液槽(5)に露出した部分(15)の表面積Sが0.1μm
2以上100μm
2以下である,
電気化学
測定装置
であって,
前記溶液中に含まれる試料(17)が第2の電極に付着することを防止する付着防止手段(19)を有し,
第2の電極(9)は,前記溶液に浮遊する電極収容体(23)に設けられ,前記電極収容体(23)の少なくとも一部が,前記付着防止手段(19)を有し,
第1の電極(7)は,基板上(21)に設けられる,電気化学測定装置。
【請求項2】
請求項1に記載の
電気化学測定装置であって,
前記
電気化学測定装置は,前記溶液中に含まれる試料(17)であって第1の電極付近に存在するもの(17a)の物性又は動きを測定するための装置である,
電気化学測定装置。
【請求項3】
請求項1に記載の
電気化学測定装置であって,
前記試料(17)が生物細胞又はリポソームであり,前記表面積Sが前記生物細胞又はリポソームの面積より小さい,
電気化学測定装置。
【請求項4】
請求項1に記載の
電気化学測定装置であって,第1の電極(7)及び第2の電極(9)はそれぞれ複数存在し,隣接する第1の電極(7)又は第2の電極(9)までの最小距離が31mm以下である,
電気化学測定装置。
【請求項5】
請求項1に記載の
電気化学測定装置であって,
第1の電極(7)及び第2の電極(9)は,基板(21)上に設けられ,
第2の電極(9)は,前記基板(21)の凹み部分(23)に設けられ,前記付着防止手段(19)は,前記凹み部を覆う網である,電気化学測定装置。
【請求項6】
請求項1に記載の
電気化学測定装置であって,
第1の電極(7)は,基板上(21)に設けられ,
第2の電極(9)は,前記溶液槽(5)の側壁に設けられ,
前記付着防止手段(19)は,第2の電極を覆う網である,
電気化学
測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は, 測定装置に関する。より詳しく説明すると,本発明は,細胞の物性や挙動を測定できる電気化学的測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許5617532号公報には,誘電サイトメトリ装置及び誘電サイトメトリによる細胞分取方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の誘電サイトメトリでは,電極付近にある試料の物性を測定できないという問題や,電極と試料との距離により測定値が変動するという問題があった。
【0005】
そこで,本明細書は,試料の物性をより精度よく測定でき,試料の挙動をも測定できる電気化学的測定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題は,電極を試料の断面積よりも小さくすることで,電極付近に存在する試料の物性をも測定できるという知見に基づく。また,隣接する電極の間の距離を小さくするとより精度よく試料の物性を測定でき,電圧を印可する電極の間を溶液は通るものの試料は通さない隔壁を設けることで,さらに精度よく試料の物性を測定できるという知見に基づく。
【0007】
本明細書において最初に記載される発明は測定装置1に関する。この測定装置は,溶液3を収容する溶液槽5と,第1の電極7及び第2の電極9と,電圧印加手段11と,電流測定手段13と,を備える電気化学測定装置1である。
【0008】
第1の電極7及び第2の電極9は,溶液槽5内に存在し,少なくとも表面の一部が溶液中に露出する。
【0009】
電圧印加手段11は,第1の電極7及び第2の電極9との間に電圧を印可するための要素である。
【0010】
電流測定手段13は,第1の電極7及び第2の電極9との間に流れる電流を測定するための要素である。
【0011】
そして,この装置は,第1の電極7の溶液槽5に露出した部分15の表面積Sが0.1μm2以上100μm2以下である。
【0012】
この測定装置は,例えば,溶液中に含まれる試料17であって第1の電極付近に存在するもの17aの物性又は動きを測定するための装置である。試料17の例は,生物細胞又はリポソームであり,表面積Sが生物細胞又はリポソームの面積より小さいことが好ましい。
【0013】
この装置は,溶液中に含まれる試料17が第2の電極に付着することを防止する付着防止手段19を有することが好ましい。
【0014】
第1の電極7及び第2の電極9はそれぞれ複数存在し,隣接する第1の電極7又は第2の電極9までの最小距離が31mm以下であるものが好ましい。
【0015】
第1の電極7及び第2の電極9は,基板21上に設けられてもよい。また,第2の電極9は,基板21の凹み部分23に設けられ,付着防止手段19は,凹み部を覆う網であるものが好ましい。
【0016】
第1の電極7は,基板上21に設けられ,
第2の電極9は,溶液槽5の側壁に設けられ,
付着防止手段19は,第2の電極を覆う網であってもよい。
【0017】
第2の電極9は,溶液に浮遊する電極収容体23に設けられ,電極収容体23の少なくとも一部が,付着防止手段19を有し,第1の電極7は,基板上21に設けられるものであってもよい。
【発明の効果】
【0018】
この明細書に記載した発明は,,試料の物性をより精度よく測定でき,試料の挙動をも測定できる電気化学的測定装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】
図1は,測定装置の構成例を示す概念図である。
【
図2】
図2は,第1の電極及び第2の電極が基板上に設けられた測定装置の例を示す概念図である。
【
図3】
図3は,アレイ状に形成された第1の電極及び第2の電極を示す概念図である。
【
図4】
図4は,第1の電極が溶液槽の側壁に設けられ,第2の電極は溶液槽の底に設けられる測定装置を示す概念図である。
【
図5】
図5は,第2の電極が溶液にうく電極収容体に収容された測定装置の例を示す概念図である。
【
図6】
図6は,実施例において製造された電極の概念図である。
【
図7】
図7は,誘電スペクトルを測定するための誘電測定装置を示す概念図である。
【
図8】
図8は,電極と細胞の様子を示す図面に代わる写真である。
【
図9】
図9は,測定されたCole-Coleプロット(
図9(A))及び周波数-位相プロット(
図9(B))を示す図面に代わるグラフである。
【
図10】
図10は,電極間の距離の効果を示すためのCole-Coleプロット(
図10(A))及び周波数-位相プロット(
図10(B))を示す図面に代わるグラフである。
【
図11】
図11は,非電解質の影響を検討するための周波数-位相プロットを示す図面に代わるグラフである。
【
図12】
図12は,移動する細胞を追跡した様子を示す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下,図面を用いて本発明を実施するための形態について説明する。本発明は,以下に説明する形態に限定されるものではなく,以下の形態から当業者が自明な範囲で適宜修正したものも含む。
【0021】
本明細書において最初に記載される発明は測定装置1に関する。
図1は,測定装置の構成例を示す概念図である。
図1に示されるように,この測定装置は,溶液3を収容する溶液槽5と,第1の電極7及び第2の電極9と,電圧印加手段11と,電流測定手段13と,を備える電気化学測定装置1である。溶液の例は電解質溶液や,細胞やリポソームによっては,培地や培養液であってもよい。溶液槽5は溶液を収容できるものであればよく,用途に合わせてその大きさや素材を適宜選択できる。
【0022】
第1の電極7及び第2の電極9は,溶液槽5内に存在し,少なくとも表面の一部が溶液中に露出する。電極の表面全体が露出して溶液と接触するものであってもよし,電極の一部が基板や溶液に埋没していてもよい。第1の電極7の溶液槽5に露出した部分15の表面積Sが0.1μm2以上100μm2以下である。Sの値は0.2の電極はμm2以上80μm2以下でもよいし,0.5μm2以上70μm2以下でもよいし,1μm2以上50μm2以下でもよいし,0.5μm2以上30μm2以下でもよいし,2μm2以上10μm2以下でもよいし,10μm2以上50μm2以下でもよい。このように微小な電極に電圧を印加した場合,電極表面へ試料を輸送する拡散層の形が半球に近づき,試料が半球表面から電極に向けて収束するように拡散するので,試料の物性を精度よく測定できると考えられる。つまり,通常の電極を用いると隣接する電極に付着等した試料により測定値が変動するものの,電極を微小とすることでそのような問題を解消できると考えられる。半導体チップは微小化及び迅速化が達成できているので,このような微小電極を,半導体製造方法における技術を用いることで製造できる。
【0023】
第2の電極9も第1の電極と同様のものであってもよい。また,第1の電極7及び第2の電極9は,複数存在してもよい。
図2は,第1の電極及び第2の電極が基板上に設けられた測定装置の例を示す概念図である。
図2に示される測定装置は,第1の電極7及び第2の電極9が,基板21上に設けられている。そして,第2の電極9が,基板21の凹み部分23に設けられ,付着防止手段19が,凹み部を覆う網である。網により,溶液は網を通過するものの,試料は網を通過しない。これにより,第2の電極に試料が付着する事態を防止できる。
図2に示されるように第1の電極7及び第2の電極9は,基板に設けられたアレイ状のものであってもよい。また,第1の電極7及び第2の電極9は,それぞれの接続関係を調整できるように接続関係を制御できるものが好ましい。
【0024】
図3は,アレイ状に形成された第1の電極及び第2の電極を示す概念図である。第1の電極7及び第2の電極9はそれぞれ複数存在し,隣接する第1の電極7又は第2の電極9までの最小距離dが31mm以下であるものが好ましい。dの値があまりに小さいと隣接する電極において通電してしまうので,dの値は0.1μm以上であることが好ましく,1μm以上でもよいし,5μm以上でもよい。一方,dは,25mm以下でもよいし,20mm以下でもよいし,15mm以下でもよいし,10mm以下でもよいし,1mm以下でもよいし,500μm以下でもよいし,100μm以下でもよいし,50μm以下でもよい。
図3において,電極のうち溶液槽5に露出した部分15が描画されている。また,
図3のアレイ状の電極において,いずれが第1の電極7又は第2の電極9であってもよい。
【0025】
電圧印加手段11は,第1の電極7及び第2の電極9との間に電圧を印可するための要素である。電圧印加手段11は,第1の電極7及び第2の電極9の間に電圧を印可する手段である。印加される電圧は交流であっても,直流であってもよいものの,通常は交流電圧である。電圧印加手段11は,電極間に印加する交流電圧の周波数を制御できるものが好ましい。誘電サイトメトリ等において2つの電極の間に印加される電圧は公知であるから,公知の印過電圧を適宜調整したものを第1の電極7及び第2の電極9との間に印加すればよい。そして,複数の電極を有する電極アレイのうち,いずれの電極間に電圧を印可するかは,制御部により制御できるようにされていることが好ましい。
【0026】
電流測定手段13は,第1の電極7及び第2の電極9との間に流れる電流を測定するための要素である。電流測定手段13は,公知である。電流測定手段13は,2つの電極間の電流を測定することで,各種物性を測定できるものであってもよい。
【0027】
この測定装置は,例えば,溶液中に含まれる試料17であって第1の電極付近に存在するもの17aの物性又は動きを測定するための装置である。試料17の例は,生物細胞又はリポソームであり,表面積Sが生物細胞又はリポソームの面積より小さいことが好ましい。第1の電極付近の例は,第1の電極と隣接する電極において,第1の電極への距離が近い領域である。
【0028】
この装置は,溶液中に含まれる試料17が第2の電極に付着することを防止する付着防止手段19を有することが好ましい。 付着防止手段19は,第1の電極に試料が付着することをも防止してもよい。付着防止手段19の例は,後述する網や半透膜である。付着防止手段19が網の場合,網の目の大きさが試料(の断面積)よりも小さいものが好ましい。そのような網を用いることで溶液の移動を確保しつつ,試料が電極に付着する事態を効果的に防止できる。
【0029】
図4は,第1の電極が溶液槽の側壁に設けられ,第2の電極は溶液槽の底に設けられる測定装置を示す概念図である。
図4の例では,第1の電極7が,基板上21に設けられ,第2の電極9が,溶液槽5の側壁に設けられ,付着防止手段19が,第2の電極を覆う網である。このような位置関係にある場合,特に試料が細胞であると,試料が第2の電極に付着する事態を効果的に防止できたため,好ましい。この場合の,溶液槽5は,底面と底面から伸びる側壁とを有するものである。底面の形状の例は,円形,楕円形,及び多角形である。第2の電極は,底面から所定の高さにあることが好ましい。高さの例は,1μm以上1mm以下であり,10μm以上100μm以下でもよい。
【0030】
基板は,絶縁体により構成されていてもよい。基板が透明又は半透明な絶縁体により構成されていることが好ましい。そのような絶縁体の例は,透明セラミックスである。透明セラミックスは,例えばAl2O3,Y2O3及び YAGのいずれか又は複数を用いることで達成できる。基板が透明であれば,特に試料が細胞やリポソームの場合に,それらの挙動を観測しやすい。
【0031】
図5は,第2の電極が溶液に浮く電極収容体に収容された測定装置の例を示す概念図である。電極収容体の例は,浮きである。第2の電極9は,溶液に浮遊する電極収容体23に設けられ,電極収容体23の少なくとも一部が,付着防止手段19(例えば網)を有し,第1の電極7は,基板上21に設けられるものであってもよい。
【0032】
次に,電気化学測定装置の原理を簡単に説明する。
電極板間に交流電圧を印加して,流れる電流を測定することで,電極間の複素抵抗(複素インピーダンス)が得られる。印加される交流電圧の周波数を変化させると,測定される複素抵抗も変化する。このような測定は,市販されている精密インピーダンスアナライザ(電流測定装置)を用いて行うことができる。
【0033】
周波数に依存した複素抵抗は,測定容器の形状に依存した因子,複素抵抗測定器と測定容器の間の電気配線の伝送特性に依存した因子などを補正することにより,細胞懸濁液の複素誘電率に変換できる。複素誘電率の周波数依存性を,複素誘電率分散(誘電スペクトル)という。
【0034】
細胞懸濁液の複素誘電率分散は,単一の緩和関数(例えば,Cole-Cole関数),あるいは複数の緩和関数の重ね合わせにより表現できる。実験的に得られた複素誘電率分散に対して,緩和関数が含む未定係数を変数とした非線形適合を行うことにより,その変数を最適化できる。例えばCole-Cole関数の場合,分散曲線を特徴づける変数として,緩和強度及び緩和周波数がある。これらの誘電変数は,細胞の構造や物性と密接に関連している。誘電変数から細胞を構成する相(細胞膜,細胞質など)の電気的物性値を推定する方法は,例えば特開2009-42141号公報に記載されている。
【実施例】
【0035】
測定装置を製造するにあたり,基板(チップ)上に電極を開発した。
図6は,実施例において製造された電極の概念図である。電極表面は,窒化チタン(TiN)で形成され,溶液や動物細胞などの試料と接することとなる部分である。非ドープケイ酸塩ガラス(NSG,SiO2),アルミニウム(Al),酸化ケイ素(SiO2),ケイ素(Si)が用いられた。
【0036】
予備チップ
20μm間隔の10μm四方の36個の電極パッドを6行6列のグリッド電極アレイとし,28900μm2の領域を覆った。
【0037】
細動の挙動追跡用チップ
3.4μmの間隔をおいて6.6μm角の36個の電極パッドを6行6列のグリッド電極アレイとし,3200μm2の領域を覆った。
【0038】
誘電測定装置
図7に誘電スペクトルを測定するための誘電測定装置を示す。この例では,アジレント4294Aプレシジョンインピーダンスアナライザーを用いて,誘電スペクトルを測定した。Z値と位相を測定した。
【0039】
溶液としてグルコース溶液及びPBSを用いた。試料の例として,ここでは,25μmのポリスチレン製のビーズを用いた。
【0040】
MGM-450昆虫培地に10μm四方の電極2個を20μm間隔で接触させ,培地に昆虫細胞塊を加えた。光学顕微鏡を用いて電極を観察し,電極上部に細胞塊が乗っていない2つの電極間でLCRメーターを用いて100mVで100Hzから1000000Hzまでのインピーダンス測定を行ってZ値とθ値を得た。同様に,MGM-450昆虫培地に10μm四方の電極2個を20μm間隔で接触させ,培地に昆虫細胞塊を加えた。光学顕微鏡を用いて電極を観察し,電極上部に細胞塊が乗っている2つの電極間でLCRメーターを用いて100mVで100Hzから1000000Hzまでのインピーダンス測定を行ってZ値とθ値を得た。
図8は,電極と細胞の様子を示す図面に代わる写真である。
図9は,測定されたCole-Coleプロット(
図9(A))及び周波数-位相プロット(
図9(B))である。測定結果をθ-Hz平面上に図示したときに観察される10000Hz付近のピークは電極上部に細胞塊が乗っている2つの電極間の測定において低周波側にシフトした。
【0041】
電極間の距離についての検討
電極として,10μm四方の電極と6.6μm四方の電極とマニュアルプローバーのプローブ針を用いた。10μm四方の電極と6.6μm四方の電極は,いずれも独立の導線で繋がっており,導線の反対側の端はマニュアルプローバーのプローブ針を用いてプロービングすることで導通が得られるようにした。
【0042】
リン酸緩衝生理食塩水に6.6μm四方の電極2個を接触させ,LCRメーターを用いて100mVで100Hzから100000000Hzまでのインピーダンス測定を行ってZ値とθ値を得た。θ値は100Hzで-80°,10000Hzで-60°,10000000Hzで-80°となり,100000000で-75°となり,従来技術で測定されてきた高周波領域に現れる電極表面から離れた領域にある電極間中間物質の電気化学的特性と,従来技術では測定されなかった10000Hz付近に現れる電極表面領域にある電極間中間物質の電気化学的特性が確認された。電極の間隔が3μmから60μmの範囲では測定結果が変化しなかった。
【0043】
リン酸緩衝生理食塩水に6.6μm四方の電極1個とマニュアルプローバーのプローブ針を接触させ,LCRメーターを用いて100mVで100Hzから100000000Hzまでのインピーダンス測定を行ってZ値とθ値を得た。
図10は,電極間の距離の効果を示すためのCole-Coleプロット(
図10(A))及び周波数-位相プロット(
図10(B))を示す図面に代わるグラフである。電極の間隔を2.5mmから8mmの範囲で変化させると,θ値は100Hzで-80°,10000Hzで-60°となるまでは前述の実施例と同様であったが,10000000Hz付近でθの値が電極間距離依存的に-80°から-70°まで増大し,100000000Hz付近でθの値が電極間距離依存的に-75°から-45°まで増大した。電極表面領域にある電極間中間物質の電気化学的特性は10000Hz付近に現れ,電極間の距離を変化させることによって変化しなかった。一方で電極表面から離れた領域にある電極間中間物質の電気化学的特性は高周波領域に現れ,電極間の距離を変化させることによって変化した。
【0044】
非電解質の効果
電極表面領域にある電極間中間物質(試料)の電気化学的特性に由来するθの増大と電極表面から離れた領域にある電極間中間物質の電気化学的特性に由来するθの増大とは,θ-Hz平面上に2つのピークを生じるが,この2つのピークの間に生じる谷底のHzの値が,電極表面領域にある電極間中間物質の電気化学的特性の現れる10000Hz付近に近づくと,電極表面領域にある電極間中間物質の電気化学的特性と電極表面から離れた領域にある電極間中間物質の電気化学的特性をθ-Hz平面上の2つのピークとして分離することが困難になると予測される。これまでの測定結果を外挿すると,前述の谷底のHzの値は10^(7.1+0.1(電極間距離(mm)))であり,電極間距離が31mm以上になると電極表面領域にある電極間中間物質の電気化学的特性と電極表面から離れた領域にある電極間中間物質の電気化学的特性をθ-Hz平面上の2つのピークとして分離することが困難になる。
【0045】
リン酸緩衝生理食塩水に6.6μm四方の電極1個とマニュアルプローバーのプローブ針を接触させ,LCRメーターを用いて100mVで100Hzから1000000Hzまでのインピーダンス測定を行ってZ値とθ値を得た。
図11は,非電解質の影響を検討するための周波数-位相プロットを示す図面に代わるグラフである。測定結果をθ-Hz平面上に図示したときに観察される10000Hz付近のピークは,リン酸緩衝生理食塩水にスチレンビーズ,砂糖,真核細胞を加えることによって低周波側にシフトした。
【0046】
電極2個をミセルや粒子などの不均質構造の分散した溶液に接触させるLCRメーターを用いたインピーダンス測定において,電極表面領域にある電極間中間物質の電気化学的特性と電極表面から離れた領域にある電極間中間物質の電気化学的特性を分離してそれぞれ測定する限定された条件では,片方の電極をミセルや粒子,細胞などの不均質構造が接触しないように網などで覆うことで,溶液に接触した2個の電極のうちどちらに不均質構造が接触したのか知ることができた。
【0047】
試料の挙動分析
細胞なしで72時間培養培地を連続的に測定することにより,チップの耐久性を検証した。その結果,インピーダンスは変化しなかった。次に,隣り合っている60個の電極対を1時間15分間隔で繰り返し測定した。その結果,移動する細胞を追跡することができた。その様子を
図12に示す。
図12は,移動する細胞を追跡した様子を示す概念図である。細胞の位置は点線で囲ってある。つまり,細胞が移動すると電極において測定される電流値(したがってインピーダンス)が変化するので,細胞が移動したことを測定できる。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明は分析機器の分野で利用されうる。
【符号の説明】
【0049】
1 電気化学測定装置
3 溶液
5 溶液槽
7 第1の電極
9 第2の電極
11 電圧印加手段
13 電流測定手段
15 第1の電極の溶液槽に露出した部分