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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-13
(45)【発行日】2023-07-24
(54)【発明の名称】マイクロ波処理装置
(51)【国際特許分類】
   H05B 6/68 20060101AFI20230714BHJP
【FI】
H05B6/68 320M
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020572182
(86)(22)【出願日】2020-02-03
(86)【国際出願番号】 JP2020003933
(87)【国際公開番号】W WO2020166409
(87)【国際公開日】2020-08-20
【審査請求日】2022-01-14
(31)【優先権主張番号】P 2019025293
(32)【優先日】2019-02-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106116
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 健司
(74)【代理人】
【識別番号】100131495
【弁理士】
【氏名又は名称】前田 健児
(72)【発明者】
【氏名】大森 義治
(72)【発明者】
【氏名】細川 大介
(72)【発明者】
【氏名】小笠原 史太佳
(72)【発明者】
【氏名】福井 幹男
(72)【発明者】
【氏名】吉野 浩二
(72)【発明者】
【氏名】夘野 高史
【審査官】土屋 正志
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2009/050893(WO,A1)
【文献】特開平04-080523(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05B 6/68
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被加熱物を収容するように構成された加熱室と、
所定の周波数帯域内の周波数を有するマイクロ波を出力するように構成されたマイクロ波発生部と、
前記マイクロ波を前記加熱室に放射するように構成された給電部と、
前記加熱室からの反射電力を検出するように構成された検出部と、
前記所定の周波数帯域において周波数掃引を行うよう、前記マイクロ波発生部を制御し、前記マイクロ波の周波数と、前記反射電力の量と、加熱開始からの経過時間とに基づく前記反射電力の周波数特性の時間的変化に応じて前記マイクロ波発生部を制御するように構成された制御部と、を備え、
前記制御部は、経過時間とともに前記周波数特性の変化を記憶し、前記周波数特性の変化に基づいて前記被加熱物の調理の進捗を認識し、前記被加熱物の調理の進捗に応じて前記マイクロ波発生部を制御する、マイクロ波処理装置。
【請求項2】
前記制御部が、前記反射電力の前記周波数特性における最小点、極小点、最大点、極大点のうちの少なくとも一つの点の周波数の時間的変化に応じて前記マイクロ波発生部を制御するように構成された、請求項1に記載のマイクロ波処理装置。
【請求項3】
前記マイクロ波発生部とは異なる他の加熱部をさらに備え、前記制御部が、前記反射電力の前記周波数特性の時間的変化に応じて前記他の加熱部を制御するように構成された、請求項1に記載のマイクロ波処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、マイクロ波発生部を備えたマイクロ波処理装置(Microwave treatment device)に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、反射電力の量に応じて半導体発振器の発振周波数、発振振幅レベルなどの発振状態を変化させる高周波加熱装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。この従来技術は、発振状態を変化させることにより、増幅器を反射電力から保護しようとする。
【0003】
被加熱物を加熱する前に、周波数を掃引しながら反射電力を検出し、反射電力が最小または極小となる周波数において、出力するマイクロ波の周波数を決定する従来技術が知られている(例えば、特許文献2参照)。反射電力が最小または極小となる周波数のマイクロ波を出力することにより、電力変換効率を向上させるとともに、反射電力によるマイクロ波発生部の破損を防止しようとする。
【0004】
マイクロ波の入射電力量と反射電力量との差の平均値を求め、この値が目標平均値に到達すると、マイクロ波加熱を終了または一時停止させる従来技術も知られている(例えば、特許文献3参照)。この従来技術は、入射電力量と反射電力量との差の平均値に基づいて乾燥の完了を判定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開昭56-134491号公報
【文献】特開2008-108491号公報
【文献】特開平11-83325号公報
【発明の概要】
【0006】
反射電力を利用することで、高効率な動作を実施することができる。しかし、調理を確実に遂行するには、温度センサなど調理の進行を認識するための機器が必要である。
【0007】
反射電力量に基づいて加熱終了を判定するためには、被加熱物の量、種類、所望の仕上り状態などに応じて判定基準を変える必要がある。そのため、正確な加熱終了の判定が困難である。
【0008】
マイクロ波加熱以外のヒータ加熱などでは、反射電力量は利用できない。
【0009】
本開示は、マイクロ波加熱に加えて他の加熱装置を使用して、形状、種類、量などが異なる様々な被加熱物に対して所望の調理を行うことができるマイクロ波処理装置を提供することを目的とする。
【0010】
本開示の一態様のマイクロ波処理装置は、被加熱物を収容する加熱室と、マイクロ波発生部と、給電部と、検出部と、制御部とを備える。
【0011】
マイクロ波発生部は、所定の周波数帯域内の周波数を有するマイクロ波を出力する。給電部は、マイクロ波を加熱室に放射する。検出部は、加熱室からの反射電力を検出する。
【0012】
制御部は、所定の周波数帯域において周波数掃引を行うよう、マイクロ波発生部を制御する。制御部はさらに、マイクロ波の周波数と、反射電力の量と、加熱開始からの経過時間とに基づく反射電力の周波数特性の時間的変化に応じてマイクロ波発生部を制御する。
【0013】
本態様によれば、被加熱物を加熱しながら、調理の進捗を正確に認識することができる。これにより、調理を適切に終了させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、本開示の実施の形態に係るマイクロ波処理装置の構成を模式的に示す図である。
図2図2は、本実施の形態における反射電力の周波数特性を示す図である。
図3図3は、本実施の形態における反射電力の周波数特性の時間的変化を示す図である。
図4A図4Aは、反射電力の周波数特性の時間的変化の第1パターンを示す図である。
図4B図4Bは、反射電力の周波数特性の時間的変化の第2パターンを示す図である。
図4C図4Cは、反射電力の周波数特性の時間的変化の第3パターンを示す図である。
図4D図4Dは、反射電力の周波数特性の時間的変化の第4パターンを示す図である。
図4E図4Eは、反射電力の周波数特性の時間的変化の第5パターンを示す図である。
図4F図4Fは、反射電力の周波数特性の時間的変化の第6パターンを示す図である。
図5A図5Aは、本実施の形態における制御の流れを示すフローチャートである。
図5B図5Bは、本実施の形態における制御の流れを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本開示の第1の態様のマイクロ波処理装置は、被加熱物を収容する加熱室と、マイクロ波発生部と、給電部と、検出部と、制御部とを備える。
【0016】
マイクロ波発生部は、所定の周波数帯域内の周波数を有するマイクロ波を出力する。給電部は、マイクロ波を加熱室に放射する。検出部は、加熱室からの反射電力を検出する。
【0017】
制御部は、所定の周波数帯域において周波数掃引を行うよう、マイクロ波発生部を制御する。制御部はさらに、マイクロ波の周波数と、反射電力の量と、加熱開始からの経過時間とに基づく反射電力の周波数特性の時間的変化に応じてマイクロ波発生部を制御する。
【0018】
本開示の第2の態様のマイクロ波処理装置において、第1の態様に基づきながら、制御部は、反射電力の周波数特性における最小点、極小点、最大点、極大点のうちの少なくとも一つの点の周波数の時間的変化に応じてマイクロ波発生部を制御する。
【0019】
本開示の第3の態様のマイクロ波処理装置は、第1の態様に基づきながら、マイクロ波発生部とは異なる他の加熱部をさらに備える。制御部は、反射電力の周波数特性の時間的変化に応じて他の加熱部を制御する。
【0020】
以下、本開示の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
【0021】
図1は、本開示の実施の形態に係るマイクロ波処理装置の構成を模式的に示す。図1に示すように、本実施の形態のマイクロ波処理装置は、被加熱物2を収容するように構成された加熱室1と、発振器3と、増幅器4と、給電部5と、検出部6と、制御部7と、ヒータ8を備える。
【0022】
発振器3は、所定の周波数帯域、例えば2400MHz~2500MHzの範囲のいずれかの周波数のマイクロ波を発生する。増幅器4は、発振器3により発生されたマイクロ波を、設定された増幅率で増幅する。
【0023】
給電部5は、増幅器4により増幅されたマイクロ波を加熱室1に放射するアンテナである。ヒータ8は、例えば、加熱室1の天井に配置され、被加熱物2を上方から輻射加熱を行う管状ヒータである。検出部6は、加熱室1に供給されたマイクロ波のうち、消費されずに反射して加熱室1から戻ってきたマイクロ波を検出する。
【0024】
制御部7は、発振器3により発生されるマイクロ波の周波数を設定し、増幅器4における増幅率を設定する。さらに、制御部7はヒータ8を制御する。
【0025】
本実施の形態において、発振器3と増幅器4とは、所望のマイクロ波を出力するマイクロ波発生部に相当する。ヒータ8は、マイクロ波発生部とは異なる他の加熱部に相当する。
【0026】
被加熱物2において消費される電力、加熱室1内での共振は、周波数に応じて変化する。このような周波数に応じた変化により、加熱室1内で消費されるマイクロ波の量が変化する。それに伴って、反射電力量が変化する。
【0027】
図2は、本実施の形態における反射電力の周波数特性を説明するための図である。ここでは、横軸を周波数、縦軸を反射電力量とした場合において、周波数毎の反射電力をグラフにしたものを周波数特性と呼ぶ。
【0028】
図2に示すように、実線で示した周波数特性11は、調理開始後のある時点t1における、周波数毎の反射電力を示す。周波数特性11は、極小点13および極大点14を含み、この周波数帯域における反射電力の最大点15および最小点16を含む。
【0029】
調理の進行に伴って被加熱物2の温度が変化すると、被加熱物2が最もマイクロ波を消費する周波数が変化する。それに加えて、蒸気が発生すると、加熱室1内の空間の誘電率が変化し、加熱室1内の空間の共振周波数が変化する。
【0030】
図2において、時点t1より後の時点t2における周波数特性12を点線で示す。図2に示すように、被加熱物2と加熱室1内の空間との変化により、極小点13は、a1点からa1点よりも周波数の低いa2点に移動する。同様に、極大点14は、b1点からb1点よりも周波数の低いb2点に移動する。このように、時間の経過とともに周波数特性は変化する。
【0031】
ここでは、極小点13を例として説明する。例えば、水分が豊富な被加熱物2を調理する場合、調理の進行につれて蒸気が発生する。蒸気が加熱室1に充満すると、空間の誘電率が徐々に大きくなる。このため、共振周波数は低下する。その結果、周波数特性11の極小点13も、a1点から徐々に低周波数の方にずれる。
【0032】
図3は、横軸を調理開始からの経過時間、縦軸を周波数とした場合に、極小点13の周波数の変化をグラフにしたものである。図3に示すように、時間が経過すると、極小点13の周波数は低下する。
【0033】
すなわち、制御部7が、極小点13、極大点14、最大点15、最小点16の周波数の時間的変化をあらかじめ記憶すれば、制御部7は、検出部6により検出された周波数特性の時間的変化に応じて調理の進捗を認識することができる。
【0034】
図4A図4Fは、本実施の形態における反射電力の周波数特性の時間的変化の種々のパターンを示す。
【0035】
図4Aは、時間の経過とともに、周波数特性が低周波数の方にずれるパターンを示す。このパターンは図3に示すものと同じである。図4Aに示す変化は、水分が豊富な被加熱物2が、昇温の過程で加熱室1に蒸気を放出することにより生じる。この現象は調理の中盤で現れる。
【0036】
図4Bは、時間の経過とともに、周波数特性が高周波数の方にずれるパターンを示す。図4Bに示す変化は、被加熱物2からの蒸気の放出が少なくなって、加熱室1の内部が乾燥すると生じる。この現象は調理の終盤で現れる。
【0037】
図4Cは、時間の経過に関わらず、周波数特性がほとんど変化しないパターンを示す。図4Cに示す変化は、例えば、煮込み料理など水分の多い被加熱物2の場合に、充満する蒸気で加熱室1内の空間の誘電率が安定することで生じる。この現象は調理の中盤以降に現れる。
【0038】
図4Dは、調理の途中で、一つの極小点13が二つに分かれるパターンを示す。図4Eは、調理の途中で、例えば二つあった極大点14が一つになるパターンを示す。これらの場合、加熱室1内に複数の共振周波数が存在し、それぞれの周波数で異なる電磁界分布を示す。
【0039】
被加熱物2の変化は、電磁界分布に大きく影響する。例えば、ケーキが膨化したり、ポップコーンが破裂したりして被加熱物2の形状が大きく変化する場合、全周波数帯域で加熱室1内の電磁界分布は大きく変わる。この場合、周波数特性に、図4D図4Eに示す変化が生じる。この現象は調理の中盤以降に現れる。
【0040】
図4Fは、時間の経過とともに、周波数が不規則に変化するパターンを示す。例えば被加熱物2がスープである場合、沸騰により液面が揺れ、蒸気が不規則に放出される。その結果、図4Fに示す変化が生じる。この現象は調理の中盤以降に現れる。
【0041】
以上のように、極小点13、極大点14、最大点15、最小点16のうちの少なくとも一つの点の周波数の時間的変化により、調理の進捗を認識することができる。
【0042】
図5A図5Bは、周波数特性の時間的変化を用いた調理制御の流れを示す。図5Aはメイン処理のフローチャートであり、図5Bは検出処理の詳細を示すフローチャートである。
【0043】
図5Aに示すように、ステップS1において、制御部7は、設定された調理条件に応じて、マイクロ波発生部とヒータ8とを制御して加熱処理を行う。制御部7は、マイクロ波加熱のみ、または、マイクロ波加熱と輻射加熱との両方により被加熱物2を加熱する。
【0044】
図4Fは、時間の経過とともに、周波数特性が不規則に変化するパターンを示す。例えば被加熱物2がスープである場合、沸騰により液面が揺れ、蒸気が不規則に放出される。その結果、図4Fに示す変化が生じる。この現象は調理の中盤以降に現れる。
【0045】
ステップS12において、検出部6は、周波数掃引の際に受信する反射電力を検出する。ステップS13において、制御部7は、検出された反射電力の量に基づいて、周波数特性における極小点、極大点、最大点、最小点の各周波数を特定する。制御部7は、検出された反射電力の量、極小点、極大点、最大点、最小点の各周波数、調理開始からの経過時間などの情報を記憶する。ステップS13の後、処理はメイン処理に戻る。
【0046】
図5Aに戻って、ステップS3において、制御部7は、ステップS13で記憶された情報に基づいて反射電力の周波数特性の時間的変化を取得し、反射電力の周波数特性の時間的変化に応じて調理の進捗を認識する。ステップS4において、制御部7は、調理の進捗に応じて処理終了か処理継続かを判定する。
【0047】
処理終了の場合、制御部7は調理を終了させる。処理継続の場合、ステップS5において、制御部7は、必要に応じて調理条件を変更する。制御部7は、処理をステップS1に戻し、加熱処理を続行する。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本開示のマイクロ波処理装置は、民生用の加熱調理器の他に、乾燥装置、陶芸用加熱装置、生ゴミ処理機、半導体製造装置、化学反応装置などの工業用途の加熱装置に適用可能である。
【符号の説明】
【0049】
1 加熱室
2 被加熱物
3 発振器
4 増幅器
5 給電部
6 検出部
7 制御部
8 ヒータ
11、12 周波数特性
13 極小点
14 極大点
15 最大点
16 最小点
図1
図2
図3
図4A
図4B
図4C
図4D
図4E
図4F
図5A
図5B