(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-13
(45)【発行日】2023-07-24
(54)【発明の名称】接着構造及び接着方法
(51)【国際特許分類】
B29C 65/00 20060101AFI20230714BHJP
C08J 5/12 20060101ALI20230714BHJP
C08J 7/00 20060101ALI20230714BHJP
【FI】
B29C65/00
C08J5/12 CER
C08J5/12 CEZ
C08J7/00 306
(21)【出願番号】P 2019011711
(22)【出願日】2019-01-25
【審査請求日】2021-09-14
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】512118370
【氏名又は名称】株式会社電子技研
(74)【代理人】
【識別番号】100121441
【氏名又は名称】西村 竜平
(74)【代理人】
【識別番号】100154704
【氏名又は名称】齊藤 真大
(73)【特許権者】
【識別番号】517132810
【氏名又は名称】地方独立行政法人大阪産業技術研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100121441
【氏名又は名称】西村 竜平
(72)【発明者】
【氏名】小泉 剛
(72)【発明者】
【氏名】古川 勝紀
(72)【発明者】
【氏名】小嶋 保次
(72)【発明者】
【氏名】小林 靖之
(72)【発明者】
【氏名】池田 慎吾
【審査官】田代 吉成
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-140167(JP,A)
【文献】特開2017-177519(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 65/00
C08J 5/12
C08J 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1基材の表面と、前記第1基材の表面に接着された第2基材の表面とからなる接着構造であって、
前記第1基材が、PTFE、PFA、FEP、又は、LCPの
難接着性樹脂のうちの少なくとも1つからなるものであり、
前記第1基材の表面に形成されたダングリングボンドに結合した官能基が存在しており、
前記第2基材の表面に形成されたダングリングボンド又はマイクロクラックに結合した官能基が存在しており、
前記第1基材の表面に存在する前記官能基が、-NHxを含み、
前記第2基材の表面に存在する前記官能基が、-H、-NHx、-COH、-COOH、-OH、-F、-CFxの少なくとも一つであり、
前記第1基材の表面に存在する官能基と前記第2基材の表面に存在する官能基との少なくとも一部が、互いに反応することなく結合されており、接着性を向上させるための改質剤が前記第1基材及び前記第2基材に含まれていないことを特徴とする接着構造。
【請求項2】
前記第2基材が、フッ素樹脂、液晶ポリマー、COP樹脂、又はエンジニアリングプラスチックであることを特徴とする請求項1に記載の接着構造。
【請求項3】
PTFE、PFA、FEP、又は、LCPの
難接着性樹脂のうちの少なくとも1つからなる第1基材の表面にプラズマ処理によりダングリングボンドを形成し、前記ダングリングボンドに官能基を結合させ、
前記第1基材とは別の第2基材の表面にプラズマ処理によりダングリングボンド又はマイクロクラックを形成し、前記ダングリングボンド又は前記マイクロクラックに官能基を結合させ、
前記第1基材の表面に存在する前記官能基が、-NHxを含み、
前記第2基材の表面に存在する前記官能基が、-H、-NHx、-COH、-COOH、-OH、-F、-CFxの少なくとも一つであり、
前記第1基材の表面に存在する官能基と前記第2基材の表面に存在する官能基との少なくとも一部を、接着性を向上させるための改質剤を用いることなく、且つ、互いに反応させることなく結合させることを特徴とする接着方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接着剤を用いることなく、異種又は同種の基材を接着させる接着構造及び接着方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
2枚の基材を接着剤によって接着させた場合、これらの基材からなる接着構造は、接着剤が熱に弱いので、耐熱性が要求される製品としては用いることができないし、接着剤により接着界面の誘電率が変わってしまうので、プリント基板等にも不向きである。
【0003】
そこで、接着剤を用いることなく2枚の基材を接着させる方法としては、特許文献1に示すように、フッ素樹脂シートの表面にプラズマ処理により-OH基を生成し、このフッ素樹脂シートの表面を金属部材に接合させる方法がある。
【0004】
しかしながら、-OH基による脱水縮合など、官能基の反応により得られる実際の接着力は決して強いとは言えず、例えばテフロン等のような難接着性の基材に対しては、これまで十分な接着力が得られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明は、上述した問題を解決すべくなされたものであり、難接着性の基材であっても、接着剤を用いることなく強固に接着できるようにすることをその主たる課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち、本発明に係る接着構造は、第1基材の表面と、前記第1基材の表面に接着された第2基材の表面とからなる接着構造であって、前記第1基材及び前記第2基材それぞれの表面に官能基が存在しており、それらの官能基の少なくとも一部が、互いに反応することなく結合されていることを特徴とするものである。
【0008】
このような接着構造によれば、第1基材及び第2基材それぞれの表面に存在する官能基の少なくとも一部が、例えば分子結合などにより、互いに反応することなく結合されているので、仮に第1基材や第2基材がテフロン等の難接着性のものであっても、これらの基材を強固に接着させることができる。
【0009】
難接着性の基材に対して十分な接着力を得るための一実施態様としては、前記第1基材又は前記第2基材の一方の表面に存在する前記官能基が、-NHxであることが好ましい。なお、xは1以上の自然数である。
【0010】
-NHxと反応することなく結合する官能基としては、前記第1基材又は前記第2基材の他方の表面に存在する前記官能基が、-H、-NHx、-COH、-COOH、-OH、-F、-CFxの少なくとも一つであることが好ましい。なお、xは1以上の自然数である。
【0011】
本発明に係る効果がより顕著に発揮させる一実施態様としては、前記第1基材又は前記第2基材が、フッ素樹脂、液晶ポリマー、COP樹脂、又はエンジニアリングプラスチック等の難接着材である場合が挙げられる。
【0012】
例えば樹脂製の基材表面に形成された官能基の具体的な構成としては、前記官能基が、前記第1基材又は前記第2基材の表面に形成されたダングリングボンドに結合しているものが挙げられる。
【0013】
例えば金属製の基材表面に形成された官能基の具体的な構成としては、前記官能基が、前記第1基材又は前記第2基材の表面に形成されたマイクロクラックに結合しているものが挙げられる。なお、ここでいうマイクロクラックは、微小アンカーから原子格子欠損までを含むものである。
【0014】
また、本発明に係る接着方法は、第1基材の表面にプラズマ処理により官能基を生成し、前記第1基材とは別の第2基材の表面にプラズマ処理により官能基を生成し、前記第1基材及び前記第2基材それぞれの表面に生成された前記官能基の少なくとも一部を、互いに反応させることなく結合させることを特徴とする方法である。
このような接着方法であっても、上述した接着構造の作用効果と同様、仮に第1基材や第2基材がテフロン等の難接着性のものであっても、これらの基材を強固に接着させることができる。
【発明の効果】
【0015】
このように構成した本発明によれば、難接着性の基材であっても、接着剤を用いることなく強固に接着させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本実施形態に係るプラズマ処理装置の構成を模式的に示す図。
【
図2】同実施形態における接着方法の手順を示すフローチャート図。
【
図3】同実施形態における接着構造の構成を示す概念図。
【
図4】同実施形態における官能基の結合態様を示す概念図。
【
図5】同実施形態における接着構造をX線解析した解析結果。
【
図6】同実施形態における接着構造をX線解析した解析結果。
【
図7】その他の実施形態における接着方法の手順を示すフローチャート図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の一実施形態に係る接着構造及びこの接着方法について図面を参照しながら説明する。
【0018】
<装置構成>
まず、接着構造を製造するための装置について説明する。
【0019】
本装置は、基材の表面をプラズマ処理するプラズマ処理装置100であり、
図1に示すように、真空チャンバ1と、真空チャンバ1内に設けられて基材Wを支持する下部電極2と、真空チャンバ1内において基材Wに対向配置された上部電極3と、高周波電源4とを具備し、高周波電源4から例えば13.50MHzの高周波電力を下部電極2に供給するとともに、上部電極3を接地することで、真空チャンバ1内にプラズマPを生成するように構成されている。また、本プラズマ処理装置100は、基材材質、反応ガスの種類などによっては、下部電極2を接地するとともに、上部電極3に高周波電力を供給する方式へ切り替え可能に構成されている。
【0020】
然して、この実施形態のプラズマ処理装置100は、基材Wの表面に官能基を生成するために用いられるものであり、生成する官能基に対応したプロセスガスGを真空チャンバ1内に供給するように構成されている。
【0021】
<接着方法>
次に、上述したプラズマ処理装置を用いて、異種又は同種の第1基材及び第2基材を、接着剤を用いることなく接着させる手順について、
図2のフローチャートや
図3の概念図を参照しながら説明する。
【0022】
第1基材及び第2基材としては、例えば平板状のものであり、具体的には、銅、アルミニウム、鉄等の金属製のものや、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、PFA(パーフルオロアルコキシアルカン)、FEP(パーフルオロエチレンプロペンコポリマー)、LCP(液晶ポリマー)、COP(シクロオレフィンポリマー)、PI(ポリイミド)、エンジニアリングプラスチック等の難接着性樹脂からなるものや、ガラス等の非晶質からなるものなどを挙げることができる。
【0023】
以下では、例えばプリント基板等として用いられる異種の第1基材及び第2基材を接着させる方法について述べることとし、第1基材がフッ素樹脂製のものであり、第2基材が銅などの金属製のものである場合について説明するが、基材の用途や材質等はこれに限定されるものではない。
【0024】
まず、第1基材(以下、樹脂基材ともいう)を上述したプラズマ処理装置によりプラズマ処理することにより、
図3に示すように、この樹脂基材の表面にダングリングボンドを形成する(S1)。基材の種類構造によっては、ダングリングボンドを形成させるプラズマ処理を官能基付与の前に別途実施する。
【0025】
具体的には、樹脂基材をプラズマエッチングすることで、表面のC-F結合からF原子を切り離して、C原子のダングリングボンド(未結合手)を形成し、樹脂基材の表面の反応性を活性化させる。
【0026】
次に、
図3に示すように、ダングリングボンドに所望の官能基(以下、第1の官能基ともいう)を結合させる(S2)。
【0027】
具体的には、上述したプロセスガスとして、第1の官能基に対応するガス種を選択して、真空チャンバ内に供給することで、第1の官能基がプラズマ化されてダングリングボンドと結合する。
【0028】
本実施形態では、親水性の官能基であるアミノ基を第1の官能基として樹脂基材の表面に形成するようにしており、プロセスガスは、アンモニウムガス等のアミノ基含有ガスである。
【0029】
より詳細には、真空チャンバに1sccm以上の流量でアンモニウムガスを供給し、プロセス圧力を1~1,000Paに維持する雰囲気のもと、1~100MHzの高周波を0.01~3W/cm2のパワー密度で印加して高周波減圧プラズマ処理する。
なお、プロセスガスとしては、アミノ基含有ガスと希ガスや不活性ガス(He、Ne、Ar、Kr、Xe、N2)との混合ガスであっても良い。
【0030】
これにより、アミノ基である-NH(2級アミノ基)や-NH2(1級アミノ基)がプラズマ化され、樹脂基材の表面に形成されたダングリングボンドと結合する。
【0031】
ここで、S2における第1の官能基の形成は、例えば基材の材質や第1の官能基の種類などに鑑みて、S1におけるダングリングボンドの形成とともに行っても良いし、S1におけるダングリングボンドの形成の後に、S1とは別の工程として行っても良い。
【0032】
すなわち、真空チャンバ内にアミノ基含有ガスを供給しながら樹脂基材をプラズマエッチングすれば、ダングリングボンドの形成とともにアミノ基の形成が進行するので、S1の工程及びS2の工程が1つの工程として同時に進行する。
【0033】
一方、真空チャンバ内に例えばハロゲンガス等のアミノ基含有ガスとは別のプロセスガスを供給しながら樹脂基材をプラズマエッチングすれば、ダングリングボンドの形成後に、プロセスガスをハロゲンガスからアミノ基含有ガスに切り替えて、第1の官能基の形成することになり、S1の工程及びS2の工程が別工程として進行する。
【0034】
次に、
図3に示すように、第2基材(以下、銅基材ともいう)を上述したプラズマ処理装置によりプラズマ処理することにより、この銅基材の表面に所謂マイクロクラックを形成する(S3)。なお、ここでいうマイクロクラックは、微小アンカーから原子格子欠損までを含むものである。
【0035】
具体的には、銅基材をプラズマエッチングすることで、表面に数nm~数百nm程度又はそれよりも小さい欠陥(微小アンカーから原子格子欠損までを含むマイクロクラック)を、官能基を結合させるための構造物として形成する。
【0036】
次に、
図3に示すように、微小構造物であるマイクロクラックに所望の官能基(以下、第2の官能基ともいう)を結合させる(S4)。
具体的には、上述したプロセスガスとして、第2の官能基に対応するガス種を選択して、真空チャンバ内に供給することで、第2の官能基がプラズマ化されてマイクロクラックに結合する。
【0037】
本実施形態では、銅基材の表面に-Hや-OH(ヒドロキシ基)を第2の官能基として形成するようにしており、プロセスガスとしては、水素ガスを含むものを用いており、例えば水素ガスそのものであっても良いし、水素ガスを希ガスや不活性ガスによって混合希釈したものであっても良い。
【0038】
より詳細には、真空チャンバに1sccm以上の流量で水素ガスを供給し、プロセス圧力を1~1,000Paに維持する雰囲気のもと、1~100MHzの高周波を0.01~3W/cm2のパワー密度で印加して高周波減圧プラズマ処理する。
なお、プロセスガスとしては、水素ガスと希ガスや不活性ガス(He、Ne、Ar、Kr、Xe、N2)との混合ガスであっても良い。
【0039】
これにより、-Hや-OHがプラズマ化され、銅基材の表面に形成されたマイクロクラックに結合する。
【0040】
なお、S2における第1の官能基の形成と同様、S4における第2の官能基の形成は、例えば基材の材質や第2の官能基の種類などに鑑みて、S3におけるマイクロクラックの形成とともに行っても良いし、S3におけるマイクロクラックの形成の後に、S3とは別の工程として行われても良い。
【0041】
すなわち、真空チャンバ内に例えば水素ガスとアルゴンガスとの混合ガスを供給しながら銅基材をプラズマエッチングすれば、マイクロクラックの形成とともに-Hや-OHの官能基形成が進行するので、S3の工程及びS4の工程が1つの工程として同時に進行する。
【0042】
一方、真空チャンバ内に例えばアルゴンガス等の水素ガスとは別のプロセスガスを供給しながら銅基材をプラズマ処理すれば、この銅基材にマイクロクラックを形成することができ、その後プロセスガスをアルゴンガスから水素ガス或いは水素ガスと希ガスや不活性ガスとの混合ガスに切り替えることで、第2の官能基を形成することができ、S3の工程及びS4の工程が別工程として進行する。
【0043】
上述したS1~S4の工程により、第1の官能基及び第2の官能基は、それぞれ第1基材及び第2基材の表面から原子レベルから数十nm程度の厚みで形成される。
【0044】
なお、この実施形態では、第1基材である樹脂基材に第1の官能基を形成した後、第2基材である銅基材に第2の官能基を形成しているが、これらの工程の順序は逆であっても良いし、複数のプラズマ処理装置を用いて同時に行っても良い。
【0045】
そして、
図3に示すように、第1基材たる樹脂基材の第1の官能基が形成された表面と、第2基材たる銅基材の第2の官能基が形成された表面とを対向させ、第1基材及び第2基材を密接させる(S5)。
【0046】
この密接工程は、第1基材の表面と第2基材の表面とを可及的にフラットにして近づけるべく、第1基材及び第2基材に荷重を与える工程であり、具体的には、これらの表面を例えば数nm程度に近づけるために加圧している。
なお、第1基材の表面と第2基材の表面とを密接させる方法としては、加圧に限らず、真空引き等を利用した方法など、適宜変更して構わない。
【0047】
本実施形態では、この密接工程において、樹脂基材及び銅基材を加熱しており、具体的には第1基材及び第2基材に加える荷重を0.5kg/cm2とし、加熱温度を100℃としている。
【0048】
このようにして、第1基材の表面と第2基材の表面とが可及的にフラットになり、例えば数nm程度に近づくと、第1の官能基及び第2の官能基の間には互いに引き合う力が生じ、その結果、第1基材及び第2基材は、第1の官能基及び第2の官能基の間に生じる水素結合や分子結合によって接着される。
【0049】
<接着構造>
このように接着された第1基材の表面、及び、第2基材の表面の間には、接着剤が介在しておらず、言い換えればこれらの表面の間には、第1基材及び第2基材とは異種の有機材が介在していない。
【0050】
そして、第1基材の表面、及び、第2基材の表面が接着してなる接着構造は、
図4に示すように、第1基材の表面に存在する官能基の少なくとも一部と、第2基材の表面に存在する官能基の少なくとも一部とが、互いに反応することなく結合されていることを特徴とする。
【0051】
具体的には、
図4(a)に示す例では、第1基材及び第2基材の一方の表面に存在する末端官能基と、第1基材及び第2基材の一方の表面に存在する-Hとの間に、これらの極性が異なることにより引き付けあう力が生じ、この力により、第1基材及び第2基材の表面に存在する官能基の少なくとも一部が、水素結合により結合されている。
【0052】
また、
図4(b)に示す例では、分子内の電子の偏りにより発生した極性によって引き付けあう力が生じ、この力により第1基材及び第2基材の表面に存在する官能基が、分子間力(ファンデルワールス力)により結合がされている。
【0053】
図5及び
図6に示すスペクトルは、本実施形態の接着構造をX線解析した結果であり、具体的には、分子間結合を確認するべく、接着した樹脂基材(第1基材)及び銅基材(第2基材)を剥離して、銅基材の表面をXPSなどにより解析した結果である。
より詳細には、C1sピークを確認することで有機物の存在を確認するべく、銅基材の表面(測定面)を2nmずつエッチングしながら測定した。
なお、銅基材の表面を解析する理由は、銅基材よりも樹脂基材の破壊強度の方が弱く、樹脂基材を解析しても樹脂基材由来の元素や結合が解析されるだけであるが、銅基材には剥離された樹脂基材の極表面が残り、両基材やこれらの間の結合を解析できるからである。
【0054】
まず、
図6(a)に示すように、エッチング深さ0nm(エッチング前)では、C-F2結合の構成比が100%であり、樹脂のピークが確認された。
また、
図6(d)に示すように、エッチング深さ6nmでは、C1sのピークが存在せず、有機物(樹脂)は確認されずに銅基材の内部に到達していることが分かる。
【0055】
これに対して、
図6(b)及び
図6(c)に示すように、エッチング深さ2nm、4nmでは、第1の官能基であるアミノ基(-NHx)の存在を示すC-N結合由来のピークが確認された。
このことは、第1の官能基であるアミノ基(-NHx)や、第2の官能基であるヒドロキシ基(-OH)が、互いに反応することなく、接着構造に含まれていることの証左である。
【0056】
そして、本実施形態の接着構造によれば、下記の表1に示すように、従来の接着構造に比べて密着性を大幅に向上できていることが分かる。
【表1】
【0057】
このように、本実施形態に係る接着構造及び接着方法によれば、従来に比べて強固な接着力を得ることができ、難接着性の基材である例えばPTFE、PFA、FEP、PI等の樹脂製の基材であっても、接着剤を用いることなく、別の基材に強固に接着させることができる。
【0058】
なお、本発明は前記実施形態に限られるものではない。
【0059】
例えば、前記実施形態では、銅基材の表面に-Hを形成していたが、-NHx(アミノ基)、-COH(アルデヒド基)、-COOH(カルボキシ基)、-OH(ヒドロキシ基)、-F、-CFxからなる群から選択された一つ以上の官能基を銅基材の表面に形成しても良い。なお、xは1以上の自然数である(以下同じ)。
【0060】
また、前記実施形態では、樹脂基材と銅基材とを接着する場合について説明したが、同種の基材、例えば2枚の銅基材同士や2枚の樹脂基材同士を接着しても良い。
例えば2枚の樹脂基材同士を接着させる場合、
図7に示すように、一方の基材の表面にアミノ基を形成し、他方の基材の表面に-H、-NHx(アミノ基)、-COH(アルデヒド基)、-COOH(カルボキシ基)、-OH(ヒドロキシ基)、-F、-CFxからなる群から選択された一つ以上の官能基を形成すれば良い。
【0061】
加えて、前記実施形態では第2基材として、銅基材について説明したが、アルミニウム基材や鉄鋼基材などであっても良い。
この場合、アルミニウム基材や鉄鋼基材の表面に-H、-NHx(アミノ基)、-COH(アルデヒド基)、-COOH(カルボキシ基)、-OH(ヒドロキシ基)、-F(フルオロ基)、-CFxからなる群から選択された一つ以上の官能基を形成すれば良い。
【0062】
さらに加えて、第1基材及び第2基材との組み合わせとしては、フッ素樹脂、COP、LCP、PI、PET、エンジニアリングプラスチック、鉄、銅、アルミからなる群から選択された同種又は異種の基材とすることができる。
【0063】
そのうえ、前記実施形態では2枚の基材を接着させる場合について説明したが、異種又は同種の3枚以上の基材を接着させる場合に、本発明に係る接着構造や接着方法を適用しても良い。
【0064】
その他、本発明の趣旨に反しない限りにおいて様々な実施形態の変形や組み合わせを行っても構わない。
【符号の説明】
【0065】
X ・・・プラズマ処理装置
P ・・・プラズマ
1 ・・・真空チャンバ
2 ・・・下部電極
3 ・・・上部電極
4 ・・・高周波電源