(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-13
(45)【発行日】2023-07-24
(54)【発明の名称】電解コンデンサおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01G 9/00 20060101AFI20230714BHJP
H01G 9/028 20060101ALI20230714BHJP
【FI】
H01G9/00 290H
H01G9/028 G
(21)【出願番号】P 2019037023
(22)【出願日】2019-02-28
【審査請求日】2022-02-02
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002745
【氏名又は名称】弁理士法人河崎特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】平田 義和
【審査官】清水 稔
(56)【参考文献】
【文献】特表2014-519204(JP,A)
【文献】特開2017-220469(JP,A)
【文献】特開2005-154481(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01G 9/00
H01G 9/028
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
誘電体層を備える陽極体を準備する工程と、
導電性高分子成分と、水である第1分散媒と、を含む導電性高分子分散体を準備する工程と、
前記陽極体に前記導電性高分子分散体を付与した後、前記第1分散媒を凍結乾燥により除去して、前記導電性高分子成分を含む導電性高分子層を形成する工程と、を備える、電解コンデンサの製造方法。
【請求項2】
前記導電性高分子分散体は、ヒロドキシ基を2つ以上有する多価アルコールを含む、請求項1に記載の電解コンデンサの製造方法。
【請求項3】
前記導電性高分子分散体は、糖アルコールを含む、請求項2に記載の電解コンデンサの製造方法。
【請求項4】
前記導電性高分子分散体は、融点が-50℃以下の第2分散媒を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の電解コンデンサの製造方法。
【請求項5】
前記導電性高分子層を形成する工程において、前記第1分散媒の融点以下であって、前記第2分散媒の融点以上の温度で凍結処理が行われる、請求項4に記載の電解コンデンサの製造方法。
【請求項6】
表面に誘電体層を備える陽極体と、前記誘電体層上に形成された導電性高分子層と、を有するコンデンサ素子を備え、
前記導電性高分子層は三次元網目状であ
り、
前記導電性高分子層は、糖アルコールを含む、電解コンデンサ。
【請求項7】
表面に誘電体層を備える陽極体と、前記誘電体層上に形成された導電性高分子層と、を有するコンデンサ素子を備え、
前記導電性高分子層は三次元網目状であ
り、
前記導電性高分子層は、融点が-50℃以下の分散媒を含む、電解コンデンサ。
【請求項8】
表面に誘電体層を備える陽極体と、前記誘電体層上に形成された導電性高分子層と、を有するコンデンサ素子を備え、
前記導電性高分子層は三次元網目状であ
り、
前記導電性高分子層は、糖アルコール以外であって、ヒロドキシ基を2つ以上有する多価アルコールを含む、電解コンデンサ。
【請求項9】
前記導電性高分子層の多孔度は、20%以上である、請求項6
~8のいずれか一項に記載の電解コンデンサ。
【請求項10】
表面に誘電体層を備える陽極体と、前記誘電体層上に形成された導電性高分子層と、を有するコンデンサ素子を備え、
前記導電性高分子層は、水と導電性高分子成分とを含む導電性高分子分散体を凍結乾燥させることにより得られる、電解コンデンサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電解コンデンサおよびその製造方法に関し、詳細には、ESR特性の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
電子機器に使用されるコンデンサは、大容量で、かつ、高周波領域における等価直列抵抗(ESR)が小さいことが求められる。大容量で低ESRのコンデンサとしては、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリフラン、ポリアニリン等の導電性高分子を固体電解質として用いる電解コンデンサが有望である。特許文献1は、導電性高分子の分散体をコンデンサ素子に含浸させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
分散体に含まれる分散媒は、通常、加熱により除去される。このとき、加熱温度の偏りや分散媒の蒸発速度のバラツキ、乾燥中に分散体が自重により偏在すること等により、形成される導電性高分子層は不均一になり易い。そのため、ESRは十分に低減されない。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の第一の局面は、誘電体層を備える陽極体を準備する工程と、導電性高分子成分と、水である第1分散媒と、を含む導電性高分子分散体を準備する工程と、前記陽極体に前記導電性高分子分散体を付与した後、前記第1分散媒を凍結乾燥により除去して、前記導電性高分子成分を含む導電性高分子層を形成する工程と、を備える、電解コンデンサの製造方法に関する。
【0006】
本発明の第二の局面は、表面に誘電体層を備える陽極体と、前記誘電体層上に形成された導電性高分子層と、を有するコンデンサ素子を備え、前記導電性高分子層は三次元網目状である、電解コンデンサに関する。
【0007】
本発明の第三の局面は、表面に誘電体層を備える陽極体と、前記誘電体層上に形成された導電性高分子層と、を有するコンデンサ素子を備え、前記導電性高分子層は、水と導電性高分子成分とを含む導電性高分子分散体を凍結乾燥させることにより得られる、電解コンデンサに関する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、ESRが低減された電解コンデンサが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の実施形態に係る製造方法の一例を示すフローチャートである。
【
図2】本発明の実施形態に係る電解コンデンサを模式的に示す側面図である。
【
図3】本発明の実施形態に係るコンデンサ素子の一部を模式的に示す分解斜視図である。
【
図4A】実施例1で作製されたコンデンサ素子のリードタブが植立している面を法線方向からマイクロスコープを用いて撮影した画像(倍率30倍)である。
【
図4B】実施例1で作製された導電性高分子層の表面をレーザ顕微鏡を用いて撮影した画像(倍率100)である。
【
図5A】実施例2で作製されたコンデンサ素子のリードタブが植立している面を法線方向からマイクロスコープを用いて撮影した画像(倍率30倍)である。
【
図5B】実施例2で作製された導電性高分子層の表面をレーザ顕微鏡を用いて撮影した画像(倍率100)である。
【
図6A】比較例1で作製されたコンデンサ素子のリードタブが植立している面を法線方向からマイクロスコープを用いて撮影した画像(倍率30倍)である。
【
図6B】比較例1で作製された導電性高分子層の表面をレーザ顕微鏡を用いて撮影した画像(倍率100)である。
【
図7A】比較例2で作製されたコンデンサ素子のリードタブが植立している面を法線方向からマイクロスコープを用いて撮影した画像(倍率30倍)である。
【
図7B】比較例2で作製された導電性高分子層の表面をレーザ顕微鏡を用いて撮影した画像(倍率100)である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本実施形態では、導電性高分子を含む分散体(以下、単に分散体と称する。)を、加熱乾燥ではなく、凍結乾燥させる。凍結乾燥は、乾燥対象物に含まれる液体成分(水分等)を凍結させて、減圧下に置いて、凍結させた液体成分を昇華により除去する方法である。そのため、導電性高分子のコンデンサ素子に付与された時の分布状態を維持したまま、分散媒を除去することができる。よって、乾燥工程中に生じる分散体の偏在化が抑制されて、均一な導電性高分子層が形成される。
【0011】
さらに、液体成分が昇華することにより、導電性高分子層には微細な孔が多数形成される。そのため、本実施形態に係る導電性高分子層は、三次元網目状である。三次元網目状の導電性高分子層は、導電性高分子成分を含む骨格と、この骨格が三次元的に連なることにより形成される多数の気孔と、を備える。そのため、導電性高分子層の嵩密度が小さくなる。例えば、同じ質量の導電性高分子成分を陽極体に付着させた場合、加熱乾燥により形成される導電性高分子層よりも、凍結乾燥により形成される導電性高分子層の体積は大きくなり易い。よって、導電性高分子層と陽極体の表面に形成されている誘電体層とが密着し易くなるとともに、導電性高分子層の見かけの体積が増えて、ESRはより低減される。
【0012】
[電解コンデンサの製造方法]
本実施形態に係る電解コンデンサは、誘電体層を備える陽極体を準備する工程と、導電性高分子成分と、水である第1分散媒と、を含む導電性高分子分散体を準備する工程と、陽極体に導電性高分子分散体を付与した後、第1分散媒を凍結乾燥により除去して、導電性高分子成分を含む導電性高分子層を形成する工程と、を備える方法により製造することができる。
図1は、本実施形態に係る製造方法の一例を示すフローチャートである。
以下、本実施形態に係る電解コンデンサの製造方法の一例について、工程ごとに説明する。
【0013】
(1)陽極体を準備する工程(S1)
陽極体の原料として、例えば、弁作用金属を含む金属箔が用いられる。
金属箔の表面に誘電体層を形成して、陽極体を準備する。誘電体層の形成方法は特に限定されないが、金属箔を化成処理することにより形成することができる。化成処理では、例えば、金属箔をアジピン酸アンモニウム溶液などの化成液に浸漬し、熱処理する。金属箔を化成液に浸漬し、電圧を印加してもよい。
【0014】
誘電体層を形成する前に、必要に応じて、金属箔の表面を粗面化してもよい。粗面化により、金属箔の表面に、複数の凹凸が形成される。粗面化は、金属箔をエッチング処理することにより行うことが好ましい。エッチング処理は、例えば直流電解法や交流電解法により行えばよい。
【0015】
その他、コンデンサ素子の構成部材として、必要に応じて、陰極体およびセパレータを準備する。陰極体の原料は、例えば、弁作用金属を含む金属箔である。陰極体として使用する金属箔の表面を粗面化してもよい。さらに、陰極体として使用する金属箔の表面上記方法により誘電体層を形成してもよい。セパレータの原料は多孔質である限り特に限定されず、例えば、セルロース繊維製の不織布、ガラス繊維製の不織布、ポリオレフィン製の微多孔膜、織布、不織布などである。
【0016】
(2)導電性高分子分散体を準備する工程(S2)
導電性高分子成分と、第1分散媒である水と、を含む分散体を準備する。
【0017】
導電性高分子成分は、導電性高分子を含む。導電性高分子としては、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリフラン、ポリアニリン、ポリアセチレン、ポリフェニレン、ポリフェニレンビニレン、ポリアセン、ポリチオフェンビニレンなどが挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよく、2種以上のモノマーの共重合体でもよい。
【0018】
なお、本明細書では、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリフラン、ポリアニリンなどは、それぞれ、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリフラン、ポリアニリンなどを基本骨格とする高分子を意味する。したがって、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリフラン、ポリアニリンなどには、それぞれの誘導体も含まれ得る。例えば、ポリチオフェンには、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)などが含まれる。
【0019】
導電性高分子成分は、さらにドーパントを含んでいてよい。ドーパントは、ポリアニオンであってよい。ポリアニオンの具体例としては、ポリビニルスルホン酸、ポリスチレンスルホン酸、ポリアリルスルホン酸、ポリアクリルスルホン酸、ポリメタクリルスルホン酸、ポリ(2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸)、ポリイソプレンスルホン酸、ポリアクリル酸などが挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、これらは単独モノマーの重合体であってもよく、2種以上のモノマーの共重合体であってもよい。なかでも、ポリスチレンスルホン酸由来のポリアニオンが好ましい。
【0020】
分散体は、さらに非水溶媒を含んでもよい。非水溶媒とは、水を除く液体の総称であり、有機溶媒やイオン性液体が含まれる。なかでも、取扱い性、導電性高分子成分の分散性の観点から、水は、水と非水溶媒との合計の50質量%以上を占めてよく、70質量%以上を占めてよく、90質量%以上を占めてよい。非水溶媒としては、極性溶媒(プロトン性溶媒および/または非プロトン性溶媒)が挙げられる。
【0021】
なかでも、分散体は、融点が-50℃以下の非水溶媒(第2分散媒)を含むことが好ましい。凍結乾燥における凍結温度は、通常、-30℃程度である。そのため、第2分散媒は、凍結処理時にも液体として存在する。これにより、導電性高分子成分は、三次元網目状の骨格を形成するように動き易くなって、形成される導電性高分子層の多孔度が向上し易くなる。
【0022】
第2分散媒としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロピルアルコール、ブタノール、イソブチルアルコール、プロピレングリコール、1,2-ジメトキシエタン、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、テトラヒドロフラン、エチルメチルケトン、トルエン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、酢酸メチル、N,N-ジメチルホルムアミド等が挙げられる。これらは単独で、あるいは、2種以上を組み合わせて用いられる。
【0023】
第2分散媒の含有量(質量)は、導電性高分子成分の質量の1倍以上、5倍以下であってよく、2倍以上、4倍以下であってよい。
【0024】
分散体は、ヒロドキシ基を2つ以上有する多価アルコール(以下、単に多価アルコールと称する。)を含むことが好ましい。多価アルコールは、導電性高分子成分を膨潤させて、分散体内で凝集することを抑制する作用を有する。これにより、三次元網目状の骨格が形成され易くなって、形成される導電性高分子層の多孔度が向上し易くなる。
【0025】
多価アルコールとしては、第2分散媒として挙げられた多価アルコールに加えて、エチレングリコール(EG)、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコールおよびポリエチレングリコール(PEG)、グリセリン、ポリグリセリン、糖アルコール等が挙げられる。これらは単独で、あるいは、2種以上を組み合わせて用いられる。
【0026】
多価アルコール(質量)は、導電性高分子成分の質量の1倍以上、8倍以下であってよく、1倍以上、6倍以下であってよく、2倍以上、5倍以下であってよい。上記第2分散媒に該当し、上記多価アルコールにも該当する溶媒は、第2分散媒とみなせばよい。
【0027】
なかでも、分散体は、糖アルコールを含むことが好ましい。糖アルコールは一般的に融点が高いが、分散体中では水に溶解している。そのため、糖アルコールは、凍結処理の当初は水に溶解しているものの、水が凍結するにしたがって結晶化し始める。導電性高分子成分は、結晶化する糖アルコールに沿うように固化していく。また、糖アルコールは水分を保持し易いため、乾燥時の水分の蒸発速度を抑制し、導電性高分子成分の乾燥速度を緩やかにする。これらにより、三次元網目状の骨格が形成され易くなって、形成される導電性高分子層の多孔度が向上し易くなる。
【0028】
糖アルコールとしては、例えば、ソルビトール、マンニトール、エリスリトール、ペンタエリスリトール、D-トレイトール、L-アラビニトール、リビトール、キシリトール、ガラクチトール、ラムニトール、イソマルトース、マルチトール、ラクチトール、パラチノース、還元パラチノース等が挙げられる。これらは単独で、あるいは、2種以上を組み合わせて用いられる。
【0029】
糖アルコールは、糖アルコール以外の多価アルコールと併用されてもよい。この場合、糖アルコールの含有量は、導電性高分子成分の質量の1倍以上、8倍以下であってよく、1倍以上、6倍以下であってよく、2倍以上、5倍以下であってよい。
【0030】
分散体は、その他、従来公知の添加剤を含んでいてよい。
【0031】
分散体は、例えば、分散媒(第1分散媒、さらには非水溶媒および/または第2分散媒)に導電性高分子成分の粒子を分散させる方法や、分散媒中で導電性高分子成分の前駆体モノマーを重合させて、分散媒中に導電性高分子成分の粒子を生成させる方法などにより得ることができる。
【0032】
導電性高分子成分の含有量は特に限定されない。導電性高分子成分は、分散体中に1質量%以上、15質量%以下含有されてよい。導電性高分子成分の含有量がこの範囲であると、コンデンサ素子に十分な量の導電性高分子層を付着させ易くなる。導電性高分子成分の含有量は、10質量%以下であってよく、5質量%以下であってよく、3質量%以下であってよい。
【0033】
導電性高分子成分は、例えば粒子の状態で、分散媒に分散している。導電性高分子成分の粒子の平均粒径は、特に限定されず、重合条件や分散条件などにより、適宜調整することができる。例えば、導電性高分子成分の粒子の平均粒径は、0.01μm以上、0.5μm以下であってよい。平均粒径は、動的光散乱法による粒径測定装置により測定される体積粒度分布におけるメディアン径である。
【0034】
(3)巻回体の作製(S3)
陽極体と陰極体との間にセパレータが介在するように、陽極体と陰極体とを巻回する。この場合、最外層に位置する陰極体の端部は、巻止めテープで固定される。
【0035】
(4)導電性高分子層を形成する工程(S4)
巻回体に分散体を接触させて、陽極体に分散体を付与する(S41)。分散体の一部は、陽極体の誘電体層の表面および孔やエッチングピットの内部、さらには、セパレータの内部にも浸透し得る。その後、水を凍結乾燥により除去する(S42)。これにより、コンデンサ素子が得られる。
【0036】
凍結乾燥では、巻回体を例えば-30℃の低温下に置いて、分散体中の少なくとも水を凍結させた後、減圧雰囲気下に置く。これにより、凍結させた水が昇華する。凍結乾燥により、分散体に含まれていた多価アルコール、添加剤等の少なくとも一部も除去され得る。
【0037】
凍結温度、凍結時間等は特に限定されず、巻回体のサイズ、分散体に含まれる材料等に応じて、適宜設定すればよい。分散体が第2分散媒を含む場合、導電性高分子層が三次元網目状になり易い点で、凍結温度は、第1分散媒の融点以下であって、第2分散媒の融点以上で行うことが好ましい。凍結温度は、具体的には、-40℃以上、-20℃以下であってよい。
【0038】
減圧雰囲気下における温度は特に限定されず、水の昇華に必要な熱エネルギーが供給できればよく、常温(25℃)であってもよい。凍結乾燥によれば、巻回体を高温(例えば、水の沸点以上の温度)で加熱することを要さない。よって、導電性高分子成分やその他の巻回体の構成要素の熱による劣化が抑制され易い。そのため、電解コンデンサの漏れ電流も抑制され易い。
【0039】
巻回体に分散体を接触させる方法は特に限定されず、含浸法であってもよい。なお、巻回体を形成する前に、陽極体に分散体を付与してもよい。この場合、分散体を凍結乾燥させて、陽極体に導電性高分子層を形成した後、巻回体を作製してもよいし、分散体が付与された陽極体を用いて巻回体を作製した後、分散体を凍結乾燥させてもよい。
【0040】
陽極体への分散体の付与量は特に限定されない。本実施形態によれば多孔質の導電性高分子層が形成されるため、少ない付与量であってもESRを低減する効果は高くなり易い。
【0041】
凍結乾燥の後、さらに、巻回体を加熱乾燥させてもよい。これにより、分散体に含まれる添加剤が除去され易くなる。加熱乾燥を行っても、導電性高分子層の多孔度や嵩高さは維持され得る。また、凍結乾燥後の加熱は、従来のような第1分散媒を除去するための加熱よりも穏やかな条件で行われればよいため、巻回体の構成要素の熱による劣化は抑制される。加熱温度は特に限定されず、目的に応じて適宜設定すればよい。
【0042】
(5)コンデンサ素子に液状成分を含浸する工程(S5)
必要に応じて、コンデンサ素子に、液状成分(例えば、電解液)を含浸させてもよい。液状成分として電解液を用いると、誘電体層の自己修復性能が向上し易くなる。また、電解液は、実質的な陰極材料として機能するため、静電容量を大きくする効果が期待できる。電導度の低い液状成分(例えば、電解質を含まない液状成分)を用いると、導電性高分子の劣化が抑制され易くなる。なお、液状成分を含浸させる方法は特に限定されない。
【0043】
導電性高分子分散体が糖アルコールを含む場合、液状成分は、上記の多価アルコールを含むことが好ましい。この場合、三次元網目構造の導電性高分子層の空隙に液状成分が浸入し易くなるとともに、固化した導電性高分子成分の少なくとも一部を再膨潤させることができるため、電解コンデンサのESRをより低減できる。
【0044】
電解液は、溶媒を含む。
溶媒としては、スルホン化合物、ラクトン化合物、カーボネート化合物、上記多価アルコールなどが挙げられる。スルホン化合物としては、スルホラン(SL)、ジメチルスルホキシドおよびジエチルスルホキシド等が挙げられる。ラクトン化合物としては、γ-ブチロラクトン(GBL)、γ-バレロラクトン等が挙げられる。カーボネート化合物としては、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)およびフルオロエチレンカーボネート(FEC)等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、複数種を組み合わせて用いてもよい。
【0045】
電解液は、さらに酸成分を含んでよい。導電性高分子成分がドーパントを含む場合、電解液中の酸成分は、ドーパントの脱ドープ現象を抑制し、各高分子成分の導電性を安定化させる。また、導電性高分子成分からドーパントが脱ドープした場合でも、脱ドープ跡のサイトに電解液の酸成分が再ドープされるため、ESRが低く維持され易くなる。酸成分としては、例えば、炭素数1~30の脂肪族スルホン酸、炭素数6~30の芳香族スルホン酸が挙げられる。電解液は、酸成分とともに塩基成分を含んでもよい。塩基成分により、酸成分の少なくとも一部が中和される。よって、酸成分の濃度を高めつつ、酸成分による電極の腐食を抑制することができる。塩基成分としては、例えば、アンモニア、第1級アミン、第2級アミン、第3級アミン、第4級アンモニウム化合物およびアミジニウム化合物等が挙げられる。
【0046】
電解液のpHは4以下が好ましく、3.8以下がより好ましく、3.6以下が更に好ましい。電解液のpHを4以下とすることで、導電性高分子成分の劣化は抑制され易くなる。pHは2.0以上が好ましい。
【0047】
(6)コンデンサ素子を封止する工程(S6)
作製されたコンデンサ素子を有底ケースに収納する。有底ケースの材料としては、アルミニウム、ステンレス鋼、銅、鉄、真鍮などの金属あるいはこれらの合金を用いることができる。その後、有底ケースの開口端近傍に横絞り加工を施し、開口端を封止部材にかしめてカール加工することにより、コンデンサ素子が封止される。最後に、カール部分に座板が配置されて、電解コンデンサが完成する。その後、定格電圧を印加しながら、エージング処理を行ってもよい。
【0048】
以上、巻回型の電解コンデンサを例に挙げて説明したが、電解コンデンサの構成はこれに限定されない。本実施形態は、例えば、誘電体層を備える陽極体と、陽極体を覆う陰極引出層と、を含むコンデンサ素子を備える積層型の電解コンデンサ、および、陽極体として弁作用金属を含む焼結体(多孔質体)を含むコンデンサ素子を備える電解コンデンサに適用可能である。
【0049】
[電解コンデンサ]
本実施形態に係る電解コンデンサは、表面に誘電体層を備える陽極体と、誘電体層上に形成された導電性高分子層と、を有するコンデンサ素子を備える。導電性高分子層は三次元網目状である。これにより、導電性高分子層の見かけの体積が増えるとともに、導電性高分子層と陽極体の表面に形成されている誘電体層とが密着し易くなって、電解コンデンサのESRは低減する。
【0050】
三次元網目状の導電性高分子層は、導電性高分子成分を含む骨格と、この骨格が三次元的に連なることにより形成される多数の気孔と、を備える。導電性高分子層は多孔質であって、例えば、不織布状もしくはスポンジ状の構造と同様の、導電性高分子成分を含む骨格を有する。導電性高分子層は、さらに、上記骨格で区画された複数の気孔を有する。隣接する気孔同士は連通している。骨格は、例えば、導電性高分子成分を含む繊維状である。
【0051】
三次元網目状の導電性高分子層は、例えば、水と導電性高分子成分とを含む導電性高分子分散体を、凍結乾燥させることにより得られる。本実施形態は、表面に誘電体層を備える陽極体と、誘電体層上に形成された導電性高分子層と、を有するコンデンサ素子を備え、導電性高分子層は、水と導電性高分子成分とを含む導電性高分子分散体を凍結乾燥させることにより得られる、電解コンデンサを包含する。
【0052】
三次元網目状の導電性高分子層の多孔度は、例えば、20%以上であり、30%以上であってよい。ある程度の量の導電性高分子成分を確保できる点で、多孔度は、60%以下であってよく、50%以下であってよい。
【0053】
多孔度は、例えば、次式から算出できる。導電性高分子層の密度(de)は、導電性高分子の密度とみなしてよい。
多孔度(%)=[1-{We/(Ve×de)}]×100
We:導電性高分子層の質量[g]
Ve:導電性高分子層の外観の形状の体積[cm3]
de:導電性高分子層の密度[g/cm3]
【0054】
導電性高分子層に形成される孔の平均径(直径)は特に限定されない。上記平均径は、均一性および多孔性の観点から、100nm以上、100μm以下であることが好ましい。平均径は、例えば水銀ポロシメータで測定される細孔分布の最頻度孔径である。平均径は、導電性高分子層の拡大された断面写真から求めてもよい。例えば、導電性高分子層の任意の断面を、レーザ顕微鏡を用いて倍率100倍以上で撮影する。この画像の観察視野内から任意の複数個(例えば、20個)の孔を選択して直径を算出し、平均化することにより求めることができる。孔の断面の面積と同じ面積を有する円の直径を、その孔の直径とすればよい。
【0055】
図2は、本実施形態に係る電解コンデンサの断面模式図であり、
図3は、同電解コンデンサに係るコンデンサ素子の一部を展開した概略図である。
【0056】
電解コンデンサは、例えば、コンデンサ素子10と、コンデンサ素子10を収容する有底ケース101と、有底ケース101の開口を塞ぐ封止部材102と、封止部材102を覆う座板103と、封止部材102から導出され、座板103を貫通するリード線104A、104Bと、リード線とコンデンサ素子10の電極とを接続するリードタブ105A、105Bとを備える。有底ケース101の開口端近傍は、内側に絞り加工されており、開口端は封止部材102にかしめるようにカール加工されている。
【0057】
コンデンサ素子10は、例えば、
図3に示すような巻回体である。巻回体は、リードタブ105Aと接続された陽極体11と、リードタブ105Bと接続された陰極体12と、セパレータ13とを備える。陽極体11には、図示しない三次元網目状の導電性高分子層が形成されている。
【0058】
陽極体11および陰極体12は、セパレータ13を介して巻回されている。巻回体の最外周は、巻止めテープ14により固定される。なお、
図3は、巻回体の最外周を止める前の、一部が展開された状態を示している。
【0059】
電解コンデンサは、少なくとも1つのコンデンサ素子を有していればよく、複数のコンデンサ素子を有していてもよい。電解コンデンサに含まれるコンデンサ素子の数は、用途に応じて決定すればよい。
【0060】
[実施例]
以下、実施例に基づいて、本発明をより詳細に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0061】
《実施例1》
定格電圧63Vの電解コンデンサを以下の要領で作製した。
(a)陽極体、セパレータおよび陰極体の準備
厚さ100μmのアルミニウム箔にエッチング処理を行い、アルミニウム箔の表面を粗面化した。粗面化されたアルミニウム箔の表面を化成処理して誘電体層を形成し、陽極体を得た。
厚さ50μmのアルミニウム箔にエッチング処理を行い、アルミニウム箔の表面を粗面化し、陰極体を得た。
厚さ50μmのセルロース製不織布を、セパレータとして準備した。
【0062】
(b)分散体の準備
約5質量%のPSS(ドーパント)がドープされたポリエチレンジオキシチオフェン(PEDOT/PSS、導電性高分子成分)および水を含む分散体Aを準備した。分散体Aにおける導電性高分子成分の濃度は、2質量%であった。
【0063】
(c)巻回体の作製
陽極体、陰極体およびセパレータをそれぞれ所定の大きさに切断した。
陽極体および陰極体に陽極リードタブおよび陰極リードタブを接続し、リードタブを巻き込みながら陽極体と陰極体とをセパレータを介して巻回した。巻回体から突出する各リードタブの端部に陽極リード線および陰極リード線をそれぞれ接続した。得られた巻回体に再度化成を行い、陽極体の端面に誘電体層を形成した。巻回体の外側表面の端部を巻止めテープで固定して、巻回体を得た。
【0064】
(d)導電性高分子層の形成
分散体Aを巻回体に含浸させた。その後、巻回体を-30℃の低温下に置いて、水を凍結させた後、減圧雰囲気下に置いて凍結乾燥させて、導電性高分子層を形成し、コンデンサ素子を得た。その後、コンデンサ素子を加熱乾燥した。
【0065】
(e)コンデンサ素子の封止
コンデンサ素子を封止して、
図2に示すような電解コンデンサ(A1)を完成させた。その後、定格電圧を印加しながら、95℃で90分のエージングを行った。
【0066】
<評価>
電解コンデンサA1について、エージング後の静電容量、ESRを測定した。評価結果は、比較例1で作製された電解コンデンサB1の静電容量およびESRに対する相対値として示した。
【0067】
静電容量およびESRを測定した後、電解コンデンサA1を分解してコンデンサ素子を取り出した。
図4Aは、コンデンサ素子(直径7.5mm)のリードタブが植立している面を法線方向からマイクロスコープを用いて撮影した画像(倍率30倍)である。
図4Bは、コンデンサ素子を展開して確認できた導電性高分子層の表面を、レーザ顕微鏡を用いて撮影した画像(倍率100)である。
【0068】
導電性高分子層の多孔度は38%であった。導電性高分子層は、導電性高分子成分を含む繊維状の骨格と大き目の孔径を有する多数の孔とを備える、キメのやや粗い三次元網目構造を有していた。導電性高分子層に形成された孔の直径は100nm以上、100μm以下であった。
【0069】
《実施例2》
分散体の準備(b)において、分散体Aに、ソルビトール(10質量%)、プロピレングリコール(5質量%)を添加して分散体Bを調製したこと、および、この分散体Bを用いて導電性高分子層の形成(d)を行ったこと以外、実施例1と同様にして、電解コンデンサA2を作製し、同様に評価した。結果を表1に示す。
【0070】
静電容量およびESRを測定した後、電解コンデンサA2を分解してコンデンサ素子を取り出した。
図5Aは、コンデンサ素子(直径7.5mm)のリードタブが植立している面を法線方向からマイクロスコープを用いて撮影した画像(倍率30倍)である。
図5Bは、コンデンサ素子を展開して確認できた導電性高分子層の表面を、レーザ顕微鏡を用いて撮影した画像(倍率100)である。
【0071】
導電性高分子層の多孔度は45%であった。導電性高分子層は、導電性高分子成分を含む繊維状の骨格と小さく均一な孔径を有する多数の孔とを備える、キメの細かなスポンジ状の構造(三次元網目構造)を有していた。導電性高分子層に形成された孔の直径は100nm以上、100μm以下であった。
【0072】
《実施例3~6》
導電性高分子層の形成(d)の後、コンデンサ素子の封止(e)の前に、減圧雰囲気(40kPa)中で電解液(実施例3:EG、実施例4:GBL、実施例5:SL、及び実施例6:PEG(重量平均分子量300))にコンデンサ素子を5分間浸漬したこと以外、実施例2と同様にして、電解コンデンサA3~A6を作製し、同様に評価した。結果を表1に示す。
【0073】
《比較例1》
導電性高分子層の形成(d)において、凍結乾燥に替えて、150℃で加熱して水を除去したこと以外、実施例1と同様にして、電解コンデンサB1を作製し、同様に評価した。結果を表1に示す。
【0074】
静電容量およびESRを測定した後、電解コンデンサB1を分解してコンデンサ素子を取り出した。
図6Aは、コンデンサ素子(直径7.5mm)のリードタブが植立している面を法線方向からマイクロスコープを用いて撮影した画像(倍率30倍)である。
図6Bは、コンデンサ素子を展開して確認できた導電性高分子層の表面を、レーザ顕微鏡を用いて撮影した画像(倍率100)である。
【0075】
導電性高分子層の多孔度は5%であった。ただし、導電性高分子層の拡大された断面写真において、孔と見なせる部分は確認できなかった。
【0076】
《比較例2》
導電性高分子層の形成(d)において、凍結乾燥に替えて、150℃で加熱して水を除去したこと以外、実施例2と同様にして、電解コンデンサB2を作製し、同様に評価した。結果を表1に示す。
【0077】
静電容量およびESRを測定した後、電解コンデンサB2を分解してコンデンサ素子を取り出した。
図7Aは、コンデンサ素子(直径7.5mm)のリードタブが植立している面を法線方向からマイクロスコープを用いて撮影した画像(倍率30倍)である。
図7Bは、コンデンサ素子を展開して確認できた導電性高分子層の表面を、レーザ顕微鏡を用いて撮影した画像(倍率100)である。
【0078】
導電性高分子層の多孔度は28%であった。ただし、導電性高分子層には繊維状の骨格は確認できず、導電性高分子層は三次元網目構造を有していなかった。
【0079】
《比較例3~6》
比較例2と同様にしてコンデンサ素子を形成した後、実施例3~6と同様に電解液を含浸させて、電解コンデンサB3~6を作製し、同様に評価した。結果を表1に示す。
【0080】
【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明の電解コンデンサは、ESRが低減されるため、様々な用途に用いることができる。
【符号の説明】
【0082】
100:電解コンデンサ
101:有底ケース
102:封止部材
103:座板
104A、104B:リード線
105A、105B:リードタブ
10:コンデンサ素子
11:陽極体
12:陰極体
13:セパレータ
14:巻止めテープ