(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-13
(45)【発行日】2023-07-24
(54)【発明の名称】認知機能評価装置、認知機能評価装置の作動方法、及びプログラム
(51)【国際特許分類】
A61B 10/00 20060101AFI20230714BHJP
A61B 5/11 20060101ALI20230714BHJP
【FI】
A61B10/00 H
A61B5/11 230
(21)【出願番号】P 2018225930
(22)【出願日】2018-11-30
【審査請求日】2021-08-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000133179
【氏名又は名称】株式会社タニタ
(73)【特許権者】
【識別番号】504171134
【氏名又は名称】国立大学法人 筑波大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002468
【氏名又は名称】弁理士法人後藤特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】竹原 知子
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 富男
(72)【発明者】
【氏名】酒井 良雄
(72)【発明者】
【氏名】大藏 倫博
【審査官】磯野 光司
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-157581(JP,A)
【文献】特開2000-325665(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0352521(US,A1)
【文献】大学改革推進事業にて「認知機能ブース」を担当して,星城大学キャンパスニュース,2013年10月28日,<URL:http://www.seijoh-u.ac.jp/blog/2013/10/>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/11
A61B 10/00
A61H 1/02
A63F 13/214
A63F 13/814
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
Scopus
医中誌WEB
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
荷重を測定する測定台と、
被験者に対し、前記測定台上で足の巧緻性が反映される所定の足の動作を行うことを指示する指示手段と、
前記所定の足の動作によって生じる荷重の変化の基準を設定する設定手段と、
前記被験者が前記指示に応じた動作を行うことによって前記測定台に加わる荷重の変化を測定する測定手段と、
前記設定手段により設定された前記基準と、前記測定手段により測定された前記測定台に加わる荷重の変化の測定結果との乖離を算出する算出手段と、
前記算出手段により算出された前記乖離の程度に基づいて前記被験者の認知機能を評価する評価手段と、
を含むことを特徴とする認知機能評価装置。
【請求項2】
請求項1に記載の認知機能評価装置であって、
前記測定台上で行われる前記所定の足の動作は、前記被験者が座った状態で実施される、
認知機能評価装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の認知機能評価装置であって、
前記指示手段が指示する所定の足の動作には、所定のタイミングで前記被験者の足を動作させるタイミング動作と、所定の方向に前記被験者の足を動作させるスペーシング動作と、所定の強度で前記被験者の足を動作させるグレーディング動作と、の少なくとも一つが含まれる、
認知機能評価装置。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の認知機能評価装置であって、
前記評価手段は、前記算出手段により算出された前記乖離の程度の変化に基づいて前記被験者の認知機能を評価する、
認知機能評価装置。
【請求項5】
請求項3に記載の認知機能評価装置であって、
前記算出手段は、
前記タイミング動作においては、前記指示手段が指示するタイミングで前記被験者の足を動作させた場合に生じる荷重の変化の基準と、前記測定結果とから前記乖離を算出し、
前記スペーシング動作においては、前記指示手段が指示する方向に前記被験者の足を動作させた場合に生じる荷重の変化の基準と、前記測定結果とから前記乖離を算出し、
前記グレーディング動作においては、前記指示手段が指示する強度で前記被験者の足を動作させた場合に生じる荷重の変化の基準と、前記測定結果とから前記乖離を算出する、
認知機能評価装置。
【請求項6】
請求項5に記載の認知機能評価装置であって、
前記指示手段は、
前記タイミング動作においては、前記乖離を判定するための基準となる基準線と、当該基準線に向かって所定の速度で移動するオブジェクトと、を含む画像を表示して、前記被験者に対して前記オブジェクトが前記基準線上にあるタイミングで前記被験者の足を動作させることを指示し、
前記スペーシング動作においては、所定の軌跡で移動するターゲットと、前記測定台上に乗せた前記被験者の足の位置に対応する位置に表示されるポイントと、を含む画像を表示して、前記被験者に対して前記ターゲットが移動する方向に前記ポイントが移動するように当該足を動作させることを指示し、
前記グレーディング動作においては、前記測定手段によって、前記被験者が前記測定台上に前記被験者の足を乗せた状態において全力で立ち上がった際の荷重の変化と普通の力で立ち上がった際の荷重の変化とをそれぞれ測定した後に、前記被験者に対して、前記測定台に前記被験者の足を乗せた状態において前記全力と前記普通の力との中間の力加減で立ち上がるように当該足を動作させることを指示する、
認知機能評価装置。
【請求項7】
荷重を測定する測定台を備えた認知機能評価装置を作動させるコンピュータが、
被験者に対し、前記測定台上で足の巧緻性が反映される所定の足の動作を行うことを指示する指示ステップと、
前記所定の足の動作によって生じる荷重の変化の基準を設定する設定ステップと、
前記被験者が前記指示に応じた動作を行うことによって前記測定台に加わる荷重の変化を測定する測定ステップと、
前記設定ステップにより設定された前記基準と、前記測定ステップにより測定された前記測定台に加わる荷重の変化の測定結果との乖離を算出する算出ステップと、
前記算出ステップにより算出された前記乖離の程度に基づいて前記被験者の認知機能を評価する評価ステップと、
を
実行する認知機能評価装置の作動方法。
【請求項8】
荷重を測定する測定台を用いて被験者の認知機能を評価するコンピュータに、
前記被験者に対し、前記測定台上で足の巧緻性が反映される所定の足の動作を行うことを指示する指示ステップと、
前記所定の足の動作によって生じる荷重の変化の基準を設定する設定ステップと、
前記被験者が前記指示に応じた動作を行うことによって前記測定台に加わる荷重の変化を測定する測定ステップと、
前記設定ステップにより設定された前記基準と、前記測定ステップにより測定された前記測定台に加わる荷重の変化の測定結果との乖離を算出する算出ステップと、
前記算出ステップにより算出された前記乖離の程度に基づいて前記被験者の認知機能を評価する評価ステップと、
を実行させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被験者の認知機能を評価する認知機能評価装置、認知機能評価装置の作動方法、及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
非特許文献1には、可動式の床面を備えた荷重測定器を用いて、被験者に立位姿勢を保持させた状態で床面を動かした際の重心動揺値を測定し、測定した重心動揺値から被験者の認知機能を評価する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】相馬優樹、他3名、「立位姿勢保持課題時の足圧中心動揺パラメータを用いた高齢者の認知機能の評価に関する検討」、日本認知症予防学会誌、Vol.5 No.1、2016
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述の重心動揺値は、被験者が静止した状態で測定された値であり、個人差が出にくい。そのため、例えば被験者の認知機能がわずかに低下しており、健常者の認知機能との差分が小さい場合には、被験者の認知機能を正確に評価することが難しいという問題がある。
【0005】
本発明は、このような問題点に着目してなされたものであり、被験者の認知機能をより精度よく評価する認知機能評価装置、認知機能評価装置の作動方法、及びプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のある態様によれば、認知機能評価装置であって、荷重を測定する測定台と、被験者に対し、前記測定台上で所定の足の動作を行うことを指示する指示手段と、前記所定の足の動作によって生じる荷重の変化の基準を設定する設定手段と、前記被験者が前記指示に応じた動作を行うことによって前記測定台に加わる荷重の変化を測定する測定手段と、前記設定手段により設定された前記基準と、前記測定手段により測定された前記測定台に加わる荷重の変化の測定結果との乖離を算出する算出手段と、前記算出手段により算出された前記乖離の程度に基づいて前記被験者の認知機能を評価する評価手段と、を含む。
【発明の効果】
【0007】
この態様によれば、所定の動作指示に応じた被験者の主体的な足の動きに基づいて認知機能を評価するので、被験者の個人差が出やすく、被験者の認知機能をより精度よく評価することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、本発明の実施形態における認知機能評価装置の外観を示す図である。
【
図2】
図2は、認知機能評価装置の構成例を示すブロック図である。
【
図3】
図3は、処理部の機能構成の一例を示すブロック図である。
【
図4】
図4は、認知機能評価方法の一例を示すフローチャートである。
【
図5】
図5は、認知機能の評価結果を示す画像の一例を示す図である。
【
図6】
図6は、タイミング度測定方法の一例を示すフローチャートである。
【
図7A】
図7Aは、タイミング課題中の指示画面(実行画面1)の一例を示す図である。
【
図7B】
図7Bは、タイミング課題中の指示画面(実行画面2)の一例を示す図である。
【
図7C】
図7Cは、タイミング課題中の指示画面(実行画面3)の一例を示す図である。
【
図7D】
図7Dは、タイミング課題中の指示画面(実行画面4)の一例を示す図である。
【
図7E】
図7Eは、タイミング課題中の指示画面(実行画面5)の一例を示す図である。
【
図8】
図8は、タイミング度を算出する方法の一例を説明する図である。
【
図9】
図9は、タイミング動作の測定結果を表示する画面の一例を示す図である。
【
図10】
図10は、スペーシング度測定方法の一例を示すフローチャートである。
【
図11A】
図11Aは、スペーシング課題中の指示画面(実行画面1)の一例を示す図である。
【
図11B】
図11Bは、スペーシング課題中の指示画面(実行画面2)の一例を示す図である。
【
図11C】
図11Cは、スペーシング課題中の指示画面(実行画面3)の一例を示す図である。
【
図11D】
図11Dは、スペーシング課題中の指示画面(実行画面4)の一例を示す図である。
【
図12】
図12は、スペーシング度を算出する方法の一例を説明する図である。
【
図13】
図13は、スペーシング度を算出する方法の他の例を説明する図である。
【
図14】
図14は、グレーディング度測定方法の一例を示すフローチャートである。
【
図15】
図15は、参照値として測定された被験者の荷重の変化を示す図である。
【
図16】
図16は、参照値として測定された被験者の荷重の変化の測定値を示す図である。
【
図17】
図17は、グレーディング課題中の指示画面の一例を示す図である。
【
図18】
図18は、グレーディング動作の測定結果の一例を示す図である。
【
図19】
図19は、グレーディング課題中の指示画面の一例を示す図である。
【
図20】
図20は、グレーディング動作の測定結果を表示する画面の一例を示す図である。
【
図21】
図21は、グレーディング課題を行う測定台の他の構成例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、添付図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。
【0010】
図1は、本発明の実施形態における認知機能評価装置1の外観を示す図である。
【0011】
認知機能評価装置1は、認知機能を評価する対象である被験者の下半身(足)の動作を測定し、測定した被験者の足の動作に基づいて被験者の認知機能を評価する装置である。
【0012】
本実施形態では、認知機能評価装置1は、まず、認知機能を評価する指標として被験者の足の巧緻性を測定する。ここにいう足の巧緻性とは、足の器用さ、巧緻の度合い等、巧みに足を動かす能力のことを指す表現である。具体的には、認知機能評価装置1は、被験者に対して所定の足の動作を行うことを指示し、被験者が当該指示に応じて行う足の動作を測定することにより被験者の足の巧緻性を測定する。
【0013】
認知機能を評価する指標として足の巧緻性を採用したのは、日常的に細かな動きが要求される手先の巧緻性よりも、普段の生活において細かな動きが要求される機会がより少ない足の巧緻性の方が個人差が出やすいからである。足の巧緻性の測定方法、及び、測定した足の巧緻性に基づく認知機能の評価方法の詳細については後述する。
【0014】
認知機能評価装置1は、測定部10と処理部20と画像表示部30とを備える。
【0015】
測定部10は、被験者の足が乗る測定台11を有し、被験者の足の動作によって測定台11に加えられる荷重の変化を測定する。測定台11は、その上面が水平になるように設置されてもよいし、上面が被験者側に向くように傾斜して設置されてもよい(
図21参照)。なお、測定台11は、必ずしも図示するような厚み(高さ)を有している必要はなく、薄く柔らかいマット等で構成されてもよい。
【0016】
処理部20は、ROM(Read Only Memory)及びRAM(Random Access Memory)等の記憶装置と、CPU(Central Processing Unit)と、入出力インターフェースと、これらを相互に接続するバスと、により構成される。処理部20は、記憶装置に格納されている制御プログラムを読み出してCPUに実行させることにより、入出力インターフェースを介して認知機能評価装置1の動作を制御する。
【0017】
処理部20は、測定部10に対してケーブル25により接続されている。処理部20は、測定部10によって測定された被験者の足の動作に応じた荷重の変化に基づいて被験者の足の巧緻性を測定するとともに、測定した足の巧緻性を指標として被験者の認知機能を評価する。処理部20は、例えば、携帯電話機、スマートフォン又はサーバー等によって構成されてもよい。
【0018】
画像表示部30は、処理部20に対してケーブル26により接続されており、被験者に測定結果等を報知するための報知手段として機能する。画像表示部30には、例えばLCD(Liquid Crystal Display)等の液晶表示パネルが採用される。画像表示部30は、処理部20での足の巧緻性の測定結果及び認知機能の評価結果を、文言或いはグラフ等の画像により表示する。画像表示部30は、被験者に見やすいところに設置されるのが好ましく、例えば図示するような支柱の上部に取り付けられていてもよい。
【0019】
また、画像表示部30は、被験者に対して測定台11上で所定の足の動作を行うことを指示する指示手段としても機能する。画像表示部30による被験者への指示の具体的内容については後述する。
【0020】
なお、処理部20及び画像表示部30は、無線を介して接続されてもよい。また、測定部10と処理部20と画像表示部30とは、全て一体化して構成してもよいし、任意の組み合わせで適宜一体化して構成してもよい。例えば、認知機能評価装置1は、画像表示部30の機能を備えたいわゆるノートパソコンで構成される処理部20と、測定部10とにより構成されてよい。
【0021】
図2は、本実施形態における認知機能評価装置1の構成を示すブロック図である。
【0022】
測定部10は、荷重を検出する荷重センサ12と、荷重算出回路13と、を備える。
【0023】
荷重センサ12は、矩形の測定台11の四隅に配置されている。荷重センサ12は、例えば、ロードセルを含んで構成される。ロードセルは、入力された荷重に応じて変形する起歪体と、起歪体に貼り付けられた歪ゲージと、を含み、歪ゲージは、起歪体の変形に応じた値を示す電気信号(検出信号)を出力する。
【0024】
荷重センサ12については、測定台11において荷重が加わる位置により測定される荷重がばらつくことを抑制するために、複数の荷重センサ12を測定部10に内蔵するのが好ましい。本実施形態では四つの荷重センサ12が内蔵されている。荷重センサ12の各々は、測定台11のうち荷重センサ12が設置された部位において上面に対して垂直方向に作用する荷重に応じた検出信号を生成する。
【0025】
荷重センサ12は、荷重算出回路13に接続されている。被験者が測定部10の測定台11に乗ると、その測定台11に加わる荷重は各荷重センサ12によって検出される。各荷重センサ12は、荷重に応じた検出信号を荷重算出回路13へ出力する。
【0026】
荷重算出回路13は、各荷重センサ12から出力される検出信号に基づいて測定台11に加わる荷重を算出する。荷重算出回路13は、算出した荷重を時系列に示す荷重データを生成して処理部20に出力する。また、荷重算出回路13は、各荷重センサ12から出力される検出信号に基づいて測定台11に加わる荷重の重心を検出することができる。
【0027】
処理部20は、複数の操作スイッチ21と、表示画面22と、出力ポート23と、CPU24と、を備える。
【0028】
操作スイッチ21は、認知機能評価装置1のオン/オフ、被験者に指示する動作の選択、個人情報、測定開始の指示等を入力(操作)するスイッチである。ここにいう個人情報としては、例えば、被験者の年齢、性別、体重及び身長等が挙げられる。
【0029】
表示画面22には、被験者又は測定者の操作に応じて入力された指令、情報又は評価結果等が表示される。ただし、これら情報等は、必ずしも表示画面22ではなく、画像表示部30を介して表示されてもよい。
【0030】
出力ポート23は、被験者の認知機能の評価結果等を携帯電話機、スマートフォン又はサーバー等不図示の外部装置に送信することを可能とするために構成される。
【0031】
CPU24は、認知機能評価装置1を統括的に制御する制御装置である。CPU24には、操作スイッチ21と表示画面22と出力ポート23とが接続される。また、CPU24は、ケーブル25を介して測定部10内の荷重算出回路13と接続される。
【0032】
図3は、本実施形態におけるCPU24の機能構成を示すブロック図である。
【0033】
CPU24は、データ取得部241と、認知機能評価部242と、表示画像生成部243と、を備える。
【0034】
データ取得部241は、被験者の足の動作により生じる荷重の変化として荷重算出回路13から出力される荷重データを取得する取得手段を構成する。また、本実施形態のデータ取得部241は、操作スイッチ21を介して入力される被験者に指示する所定の足の動作の種類に関する情報(指示動作情報)を取得する。
【0035】
本実施形態において被験者に指示する「所定の足の動作」には、所定のタイミングで被験者の足を動作させる「タイミング動作」と、所定の方向に被験者の足を動作させる「スペーシング動作」と、所定の強度で被験者の足を動作させる「グレーディング動作」の少なくとも一つが含まれる。すなわち、「所定の足の動作」のどれを被験者に指示するかについての選択情報が上述の指示動作情報には含まれる。「所定の足の動作」の詳細については後述する。
【0036】
認知機能評価部242は、被験者の足の動作により生じる荷重の変化の測定結果(荷重データ)に基づいて被験者の認知機能を評価する。本実施形態の認知機能評価部242は、基準設定部242Aと、測定部242Bと、評価部242Cとを含んで構成される。
【0037】
基準設定部242Aは、操作スイッチ21を介して入力される指示動作情報に基づいて選択された「所定の足の動作」によって生じる荷重の変化の基準を設定する。
【0038】
ここでの「基準」は、被験者が行う「所定の足の動作」によって生じる荷重の変化を定量的に評価するための基準となる値である。当該基準は、測定台11上にかかる荷重に対して、「測定台11上の位置」、「荷重がかかるタイミング」、及び「かかる荷重の強さ」の少なくとも一つに関する基準である。当該基準は、処理部20に予め記憶しておくか、もしくは、サーバー等の不図示の外部装置から取得される。また、当該基準は、例えば、認知機能が正常(普通)と評価される健常者が、「所定の足の動作」を測定台11上で行った場合に生じる荷重の変化を、実証試験等を通じて予め取得した値でもよい。或いは、当該基準は、健常者が「所定の足の動作」を行った場合に想定される荷重の変化を推定した推定値を用いてもよい。
【0039】
測定部242Bは、基準設定部242Aにより設定された基準と、測定部10を用いて測定された被験者の足の動作により生じる荷重の変化の測定結果との乖離(ズレ)を測定する。ここにいう測定結果とは、測定台11上にかかる荷重に基づいて、「測定台11上の位置」、「荷重がかかるタイミング」、及び「かかる荷重の強さ」の少なくとも一つに関して定まる測定結果である。そして、測定部242Bは、当該乖離の程度に基づいて被験者の足の巧緻性を測定する。本実施形態では、認知機能評価装置1は、被験者に対して三つの「足の動作」を指示しそれぞれについて上記の乖離の程度を測定することにより、指示する足の動作に応じた被験者の足の巧緻性を三つの観点からそれぞれ評価する。上記乖離の測定方法等についての詳細は後述する。
【0040】
評価部242Cは、測定部242Bにより測定された被験者の足の巧緻性に基づいて被験者の認知機能を評価する評価手段として構成される。評価方法等についての詳細は後述する。
【0041】
表示画像生成部243は、画像表示部30に表示する静止画像又は動画像等の画像(映像)を生成する。例えば、表示画像生成部243は、データ取得部241を介して入力される指示動作情報に基づいて、被験者に指示する足の動作を当該被験者が視覚的に容易に理解できる画像を生成する。換言すると、表示画像生成部243は、指示動作情報により選択された足の動作を被験者に指示するために、当該選択された足の動作を被験者に促す画像データを画像表示部30に出力する。当該画像データの素材は、処理部20に予め記憶しておくか、もしくは、サーバー等の不図示の外部装置から取得される。画像の具体的内容については、
図7Aないし
図7E等を用いて後述する。
【0042】
また、表示画像生成部243は、評価部242Cによる評価結果に基づいて、被験者の認知機能に関する評価結果を示す画像を生成する。当該画像データの素材も、処理部20に予め記憶しておくか、もしくは、サーバー等の不図示の外部装置から取得される。
【0043】
以下では、本実施形態における認知機能評価装置の作動方法としての認知機能評価方法の処理手順について説明する。
【0044】
図4は、第1実施形態の認知機能評価方法の処理手順例を示すフローチャートである。処理部20のCPU24は、この認知機能評価方法が記述されたプログラムを実行する。
【0045】
ここで、ステップS1において測定が開始される前に、被験者または測定者は、処理部20に対して被験者の個人情報(被験者情報)を入力する。ここでいう個人情報には、年齢、性別、体重等の少なくとも一つ以上が含まれる。また、被験者のきき足や、職業等の情報を入力してもよい。これらの情報は、例えば、後述する各種測定結果に対する重み付け要素として考慮される。
【0046】
ステップS2では、CPU24は、所定のタイミングで被験者の足を動作させる「タイミング動作」を行うことを被験者に指示するとともに、タイミング動作に基づく被験者の足の動作を観測して、被験者の足の巧緻性を測定する。測定結果は、例えばタイミング度として定量的に算出される。被験者に指示するタイミング動作(タイミング課題)の詳細は
図6を用いて後述する。
【0047】
ステップS3では、CPU24は、所定の方向に被験者の足を動作させる「スペーシング動作」を行うことを被験者に指示するとともに、スペーシング動作に基づく被験者の足の動作を観測して、被験者の足の巧緻性を測定する。測定結果は、例えばスペーシング度として定量的に算出される。被験者に指示するスペーシング動作(スペーシング課題)の詳細は
図10を用いて後述する。
【0048】
ステップS4では、CPU24は、所定の強度で被験者の足を動作させる「グレーディング動作」を行うことを被験者に指示するとともに、グレーディング動作に基づく被験者の足の動作を観測して、被験者の足の巧緻性を測定する。測定結果は、例えばグレーディング度として定量的に算出される。被験者に指示するグレーディング動作(グレーディング課題)の詳細は
図14を用いて後述する。
【0049】
ステップS5では、CPU24は、上記のタイミング課題、スペーシング課題、及び、グレーディング課題の各課題によって測定された被験者の足の巧緻性に基づいて、各課題の総合評価として被験者の認知機能を評価する。認知機能の評価は、例えば、タイミング課題の測定結果であるタイミング度をx1、スペーシング課題の測定結果であるスペーシング度をx2、グレーディング課題の測定結果であるスペーシング度をx3、及び、認知機能の評価結果である認知機能評価値をZとした場合に、次式(1)のような数式を用いて定量的に算出される。
【0050】
【0051】
ただし、式(1)中のa1,a2,a3は上述の各課題(要素指標)の測定結果に対して重みづけをするための係数である。また、分子(a1x1+a2x2+a3x3)を要素指標の数で除算して得た値を認知機能評価値Zとしてもよい。
【0052】
本実施形態における係数a1,a2,a3は、上記の各要素指標の認知機能への影響度を考慮して別個に設定されてもよい。また、係数a1,a2,a3は、被験者の年齢、性別、または効き足等の個人情報を考慮して設定されてもよい。また、要素指標の数は、タイミング度x1、スペーシング度x2、及び、グレーディング度x3の三つに限らず、少なくとも一つ以上であればよい。
【0053】
そして、ステップS6では、CPU24は、ステップS5で評価した被験者の認知機能レベルを、各要素指標にかかる測定結果とともに画像表示部30に表示する。画像表示部30に表示される内容は、例えば
図5で示すような画像である。
【0054】
図5は、被験者の認知機能の評価結果を示す画像の一例を示す図である。図示するように、本実施形態の認知機能評価装置1が評価した被験者の認知機能は認知機能レベルとして表示される。本例によれば、被験者の認知機能レベルは、中央よりも若干右側(良側)まで達した棒グラフと、当該棒グラフ上に記載された「普通」の文字とで示されている。これにより、被験者及び測定者は、被験者の認知機能が正常(普通)レベルであることを知得することができる。
【0055】
また、図示するように、被験者の認知機能レベルだけでなく、各要素指標の測定結果も、認知機能レベルと同様の棒グラフで認知機能レベルと同時に表示されてもよい。これにより、被験者及び測定者は、認知機能レベルだけでなく、足の巧緻性に係る各要素指標毎の認知機能への影響の度合いを直感的に知得することができる。なお、評価結果を表示する態様は
図5で示す態様に特に限定されず、言葉のみ、或いは点数で表示する等適宜選択されてもよい。
【0056】
ステップS6で認知機能の評価結果が表示されると、CPU24は、認知機能評価方法についての一連の処理を終了する。以下では、ステップS2から4の処理において測定される各要素指標の詳細について説明する。
【0057】
まず、上述のステップS2で実行される「タイミング課題」について、
図6から9を用いて説明する。
【0058】
ここで実行される「タイミング課題」とは、所定のタイミングで足を動作させる「タイミング動作」を被験者に行わせることをいう。被験者に「タイミング動作」を行わせている間、CPU24は、この「タイミング動作」を被験者に行わることによって生じる荷重の変化の測定結果と、基準設定部242Aにより予め設定された基準との乖離(差分)を算出することによって、被験者が時間調整を正しく行いながら足を動かすことができる能力を測定する。換言すれば、認知機能評価装置1は、被験者に「タイミング課題」を課すことによって測定した足の巧緻性から時間調整を正しく行う能力を評価することができる。
【0059】
図6は、
図4で示すフローチャートのステップS2にかかる処理の詳細であって、被験者のタイミング度を測定するタイミング度測定方法の処理手順例を示すフローチャートである。処理部20のCPU24は、このタイミング度測定方法が記述されたプログラムを実行する。
【0060】
ステップS10では、CPU24は、被験者の立位状態における重心を測定する。後述するように、タイミング課題では、被験者に対して、測定台11の上で所定のタイミングで左右の足を上げたりその足で測定台11を踏んだりする動作を行うように指示する。したがって、本ステップにおいて被験者の立位状態における重心を測定しておき、その重心の移動を観測することで、被験者が左右いずれの足を上げたり踏んだりしたのかを検出することができる。なお、タイミング課題における荷重の変化の測定結果は必ずしも重心である必要はない。本実施形態の測定部10は、左右別個に設けられた複数の荷重センサ12を備えているため、例えば左右に設けられた荷重センサ12のそれぞれの検出値の変化量を測定し、測定結果を比較することにより、被験者の重心を算出せずとも左右いずれの足を上げて測定台11を踏んだのかを検出することができる。
【0061】
ステップS11では、CPU24は、タイミング課題を開始する。本実施形態におけるCPU24は、
図7Aから
図7Dに示すような画像を画像表示部30に表示することにより、被験者に対して測定台11上で所定の足の動作を行うように指示する。すなわち、本実施形態のタイミング課題では、画像表示部30が被験者に対して所定の足の動作を行うことを指示する指示手段として機能する。以下、タイミング課題中の画像表示部30の画面(指示画面)及び、指示画面に対応する被験者の足の動作について説明する。
【0062】
図7Aから
図7Dは、タイミング課題中の指示画面の一例と、指示画面に対応する被験者の足の動作を説明する図である。図の左側には指示画面が示され、右側には測定台11上における被験者の足の動作が示されている。なお、右側の図において、左右に二つ並んで描かれた楕円は左右の足を表し、グレーの楕円は測定台11を踏んだ状態、白楕円は測定台11から足を上げた状態を表している。
【0063】
図7Aは、タイミング課題のスタート画面(実行画面1)を示す。スタート画面には、これからタイミング課題が始まることを明示する「スタート」の文字と、左右に引かれた一本の基準線31が表示される。基準線31は、被験者に所定のタイミングを指示する際の基準となる線である。すなわち、基準線31は、被験者が行う「所定の足の動作(タイミング動作)」によって生じる荷重の変化を定量的に評価するための基準の一つとして設定される。基準線31は、図示するように画面の中央より下側に位置するのが好ましい。このとき、被験者は、両足が測定台11を踏んだ状態を維持する。
【0064】
図7Bは、タイミング課題の実行画面2を示す。当該実行画面2では、スタートの文字は消え、画面の上方から下方へ垂直方向に所定の速度で移動(降下)する物体(オブジェクト32)が表示される。上方から下方へ移動するオブジェクト32の軌跡(非表示)は、左右に2列あり、各列は被験者の左右の足に対応する。また、オブジェクト32には上下方向の中心位置で左右に引かれた中心線32Aが示されている。図中の矢印が示すように、上方から現れたオブジェクト32は所定の速度で下方へ降下していき、基準線31に近づいていく。
【0065】
図7Cは、タイミング課題の実行画面3を示す。当該実行画面3では、オブジェクト32が実行画面2の状態からさらに下方へ降下して基準線31上に到達し、且つ、オブジェクト32の中心線32Aが基準線31に重なっている。この時、被験者は、基準線31上のオブジェクト32に対応する足(右足)を上げて下ろす(タップする)ように足を動かす。測定部242Bは、この時の被験者の足の動作により生じる荷重の変化の測定結果と、基準との乖離の程度に基づいて、足の巧緻性を示す要素指標の一つであるタイミング度x1を算出する(
図6のステップS12参照)。タイミング度x1の算出方法について、
図8を参照して説明する。
【0066】
図8(a)は、タイミング度x1を算出する方法の一例を説明する図である。本例(算出方法1)におけるタイミング度x1は、被験者がタップしたタイミングにおける基準線31とオブジェクト32の中心線32Aとのズレ(時間差)に基づいて算出される。なお、ここでいう「タップしたタイミング」とは、足を上げたタイミング、足を下げて測定台11を踏んだタイミングのいずれでもよく、適宜選択されてよい。
【0067】
例えば、
図8(a)では、右足を下げて測定台11を踏んだタイミングにおける基準線31と中心線32Aとの乖離(時間差)が示されている。図示するように、本例において荷重の変化を定量的に評価するための基準として設定された基準線31と、測定結果として表示された中心線32Aとの乖離(時間差)は0.5秒である。基準と測定結果との乖離は、基準線31上を降下するオブジェクト32毎に算出される。
【0068】
そして、測定部242Bは、タイミング課題の実行中に基準線31上を降下するオブジェクト32毎に算出された基準と測定結果との乖離の絶対値の総計、又は、平均値に基づいて、被験者のタイミング度x1を算出する。なお、本例(算出方法1)において、基準線31の上下方向厚さを当該時間差にどのように組み込むかは適宜設定されてよい。本例では、基準線31の下限とオブジェクト32の中心線32Aとの間を乖離(時間差)とする。なお、ここでのタイミング度x1は、上記の乖離が小さいほど大きい値(認知機能がより正常と評価される値)となるように算出される。
【0069】
また、タイミング度x1を算出する方法の他の例(算出方法2)として、測定部242Bは、
図8(b)、及び
図8(c)で示すように、オブジェクト32の中心線32Aを考慮せず、被験者がタップしたタイミングにおけるオブジェクト32と基準線31との位置関係に基づいてタイミング度x1を算出してもよい。
【0070】
例えば、測定部242Bは、
図8(b)で示すように基準線31とオブジェクト32とが接した部分がある場合には成功とし、
図8(c)で示すように基準線31とオブジェクト32とが接していない場合には失敗として勘案して、被験者のタイミング度x1を算出してもよい。この場合、タイミング度x1は例えば以下のように算出される。すなわち、成功を1点、失敗を0点として基準線31上を降下するオブジェクト32毎に点数をつけていき、これら点数のタイミング課題の実行中における総計、又は平均値を測定結果として算出する。一方、算出方法2における基準としては例えば満点(オブジェクト32が10個降下した場合には10点)を設定しておく。そして、測定結果と基準との乖離に基づいて被験者のタイミング度x1を算出する。認知機能評価装置1は、このような方法によっても被験者のタイミング度x1を定量的に算出することができる。
【0071】
また、画面の上方から下方へ移動(降下)する物体(オブジェクト32)の速度をタイミング課題中に変化させてもよい。オブジェクト32が降下する所定の速度を、例えば「ゆっくり」、「少し早い」、「早い」の三段階に変更可能にすることにより、タイミング課題の難易度を調整することが可能となる。また、オブジェクト32が降下する速度を変更可能とすることにより、被験者のタイミング度x1を上述の算出方法1、2とは違う方法で算出することもできる。
【0072】
図7Dは、タイミング度x1を算出する方法の他の例(算出方法3)を説明するための図である。算出方法3では、オブジェクト32の移動速度を変化させることにより、測定部242Bは、タイミング課題中に被験者の足を動作させるタイミングを変えた場合における変化への追従性を加味した被験者のタイミング度x1を算出する。算出方法3によれば、被験者の時間調整能力に加えて、被験者の変化へ対応する能力(対応力)或は変化へ追従する能力(追従力)を評価することができる。
【0073】
算出方法3では、タイミング課題中においてオブジェクト32の降下速度を変化させた場合(本例では速度を上げた場合)に、速度を上げる前と上げた後での測定結果の変化、すなわち、基準と測定結果との乖離の程度の変化に基づいてタイミング度を算出する。
【0074】
具体的には、
図9に示す測定結果に基づいて説明する。
図9の右欄に示す測定結果は上述の算出方法1によって測定された基準線31と中心線32Aとの乖離(時間差)である。図中の点線より上の測定結果は、オブジェクト32の降下速度が「ゆっくり」のときの値である。一方、図中の点線より下の測定結果は、オブジェクト32の降下速度を「ゆっくり」から「少し早い」に変更して以降の値が示されている。
【0075】
図9に示した測定結果から分かるように、オブジェクト32の降下速度が「ゆっくり」の際の一回目の測定結果が0.1秒であるのに対して、「少し早い」に変更された直後の測定結果は0.8秒であり、乖離(時間差)が大きくなっている。次の二回目の測定結果は0.5秒(絶対値)であり、前回よりはその乖離(時間差)が小さくなっているものの、「ゆっくり」の際の測定結果よりは悪い。そして、三回目の測定結果において初めて速度変更前と同じ0.1秒が記録されている。すなわち、測定結果では、オブジェクト32の降下速度が「ゆっくり」から「少し早い」に変更されてから3個目のオブジェクト32において、速度変更前の乖離(時間差)と同レベルの測定結果が得られたことが分かる。
【0076】
算出方法3では、このような測定結果、すなわち、降下速度を変更した場合における乖離の程度の変化に基づいて被験者のタイミング度x1を算出する。より具体的には、算出方法3では、当該変更後の測定結果が当該変更前の測定結果と同レベルになるまでに要する時間又は個数(オブジェクト32の降下数)に基づいて被験者のタイミング度x1を算出する。例えば、本例では、速度変更後に変更前の測定結果と同レベルになるまでのオブジェクト32の数が3個であることが測定されるため、測定結果は3である。この時、基準が例えば1個に設定されていたとすると、測定結果と基準との乖離は2となり、この値に基づいて被験者のタイミング度x1が算出される。
【0077】
なお、本実施形態にかかるタイミング度x1は、上述の算出方法1から3のいずれか一つの算出結果に基づいて算出されてもよいし、少なくとも二つ以上の算出結果を総合して算出されてもよい。ただし、複数の算出方法を組み合せる場合には、それぞれの算出方法を用いた算出結果に対して重み付けしてもよい。当該重み付けは認知機能への影響の度合いを考慮して決定してよく、例えば、上式(1)と同様の式を用いて定量的に算出される。式(1)を用いる場合には、タイミング度をZとし、例えば、算出方法1の算出結果をx1、算出方法2の算出結果をx2、算出方法3の算出結果をx3として算出すればよい。
【0078】
そして、
図6に戻り、ステップS13において、CPU24は、タイミング課題の結果について例えば
図7Eで示すような実行画面5で画像表示部30に表示する。なお、
図7Eでは、一例として、上述の算出方法1(ズレ度)及び算出方法2(的中率)による算出結果のそれぞれが示されている。以上が、タイミング課題の内容、及び、タイミング度x1の算出方法の詳細である。
【0079】
続いて、
図4に示したステップS3で実行される「スペーシング課題」の詳細を
図10から
図13を用いて説明する。
【0080】
ここで実行される「スペーシング課題」とは、所定の方向に足を動作させる「スペーシング動作」を被験者に行わせることをいう。CPU24は、この「スペーシング動作」を被験者に行わせることによって生じる荷重の変化の測定結果と、基準設定部242Aにより設定された基準との乖離(ズレ)を算出することによって、被験者が方向と距離の調整を正しく行いながら足を動かすことができる能力を測定する。換言すれば、認知機能評価装置1は、被験者に「スペーシング課題」を課すことによって測定した足の巧緻性から被験者の方向と距離の調整を正しく行う能力を評価することができる。
【0081】
図10は、
図4で示すフローチャートのステップS3にかかる処理の詳細であって、被験者のスペーシング度を測定するスペーシング度測定方法の処理手順例を示すフローチャートである。処理部20のCPU24は、このスペーシング度測定方法が記述されたプログラムを実行する。
【0082】
ステップS20では、CPU24は、スペーシング課題において画像表示部30に表示される図形(ターゲット)の形状と、ターゲットの移動速度とを設定する。設定されるターゲットの形状は、例えば、棒形状、三角形状、四角形状、アルファベット等から操作スイッチ21を介して測定者等により選択される。また、ターゲットの大きさや色等も選択可能であってもよい。移動速度も、例えば、「ゆっくり」、「ふつう」、「はやい」の三段階から操作スイッチ21を介して測定者等により選択される。
【0083】
ステップS21では、CPU24は、スペーシング課題を開始する。本実施形態におけるCPU24は、
図11Aから
図11Dに示すような画像を画像表示部30に表示することにより、被験者に対して測定台11上で所定の足の動作を行うように指示する。すなわち、本実施形態のスペーシング課題では、画像表示部30が被験者に対して所定の足の動作を行うことを指示する指示手段として機能する。以下にスペーシング課題中の画像表示部30の画面(指示画面)及び、指示画面に対応する被験者の足の動作の詳細について説明する。
【0084】
図11Aから
図11Dは、スペーシング動作中の指示画面の一例と、指示画面に対応する被験者の足の動作を説明する図である。図の左側には指示画面が示され、右側には測定台11上における被験者の足の動作が示されている。左側の図において、白丸はターゲットを示す。黒丸は、画像表示部30の画面において、測定台11上に乗せた被験者の足の位置に対応する位置(ポイント)を示す。この黒丸の位置は、測定部10が測定した荷重の変化に基づいて特定される測定台11上の被験者の足の位置に従って決定される。
【0085】
また、スタートとゴールが結ぶ線は、スペーシング課題においてターゲットが動く範囲(始点と終点)とその道筋を示している。なお、右向きの矢印は、ターゲットが移動する方向を被験者が直感的に知得できるように示されたものである。なお、スペーシング課題を行うにおいて当画面に必須の要素は白丸(ターゲット)と黒丸(ポイント)であり、他の要素については適宜削除してもよい。
【0086】
図11Aはスペーシング課題の実行画面1を示す。スペーシング課題を開始する際には、ターゲットの始点と自身の足の位置とを一致させるべく、実行画面1の「スタート」の位置に黒丸が配置されるように、被験者は測定台11上における自身の足(例えば右足)の位置を調整する。本例においては、図示するように、被験者は足を測定台11の左側に移動させることにより、実行画面1上における白丸の位置と黒丸の位置とを一致させることができる。
【0087】
そして、
図11Bから
図11D(実行画面2から実行画面4)で示すように、スペーシング課題が開始されると、スタート位置にあったターゲットは所定の速度でゴールまで移動していく。このターゲットの移動に黒丸が追従するように、被験者は測定台11に乗せた足を左から右へ移動させる。この時、スタートの位置から黒丸まで延びる点線は、黒丸の移動の軌跡、すなわち測定台11上に乗せた被験者の足の軌跡を示している。測定部242Bは、このようにして観測される被験者の足の動作により生じる荷重の変化の測定結果と基準との乖離の程度に基づいて、足の巧緻性を示す要素指標の一つであるスペーシング度x2を算出する(
図10のステップS22参照)。スペーシング度x2の算出方法について、
図12、及び
図13を参照して説明する。
【0088】
図12は、スペーシング度x2を算出する方法の一例を説明する図である。本例(算出方法1)におけるスペーシング度x2は、ターゲットと黒丸との間の距離(位置の乖離)に基づいて算出される。より詳細には、本例におけるスペーシング度x2は、ターゲットと黒丸との位置の乖離の総和(積分量)に基づいて算出される。
【0089】
ここで、例えばターゲットと黒丸との位置の乖離を
図12(a)で示す距離Aとした場合に、スペーシング課題を実行している間における距離Aの変化を観測すると、
図12(b)のように表すことができる。
図12(b)は、横軸は時間を、縦軸はターゲットと黒丸との位置の乖離(距離A)を示す。すなわち、ターゲットと黒丸との位置の乖離の総和(積分量)は、
図12(b)における横軸と、時系列に示された距離Aの波形とで囲まれる面積で表すことができる。
【0090】
すなわち、算出方法1では、被験者がスペーシング動作を行うことによって測定台11に加わる荷重の測定結果から得た距離Aの積分量と、健常者によるスペーシング動作により得られる距離Aの積分量として設定された基準との乖離の程度に基づいて算出される。
【0091】
なお、スペーシング度x2の算出において、
図12(b)に示された距離Aの軌跡の周波数成分を解析した結果が考慮されてもよい。例えば、健常者であれば、スペーシング動作中にターゲットに黒丸を追従させる際に細かな位置調整を常時行うことが知られている。したがって、距離Aを時系列に示した波形の周波数成分のうちの高周波成分の量(割合)を解析することでも被験者の認知機能を評価することができる。この場合、例えば高周波成分が所定の割合以上含まれていれば、被験者の認知機能は正常であると評価することができる。
【0092】
また、スペーシング度x2を算出する方法の他の例(算出方法2)として、
図13で示すように、ターゲットの移動の道筋と、黒丸の移動の軌跡との乖離(ズレ)の総和(積分量)に基づいてスペーシング度x2を算出してもよい。
【0093】
本例においては、例えば、ターゲットの移動の道筋と、黒丸の移動の軌跡との乖離を
図13(a)で示す距離Bとした場合に、スペーシング課題を実行している間における距離Bの変化を測定すると、距離Bの変化は、
図13(b)のように表すことができる。
図13(b)は、横軸は時間を、縦軸はターゲットの移動の道筋と黒丸の移動の軌跡との乖離(距離B)を示す。ただし、
図13(b)では、ターゲットの移動の道筋に対して上方に生じた距離Bは正の値とし、ターゲットの移動の道筋に対して下方に生じた距離Bは負の値として表されている。すなわち、距離Bの総和(積分量)は、
図13(b)の0点における横軸(0点)と、時系列に示された距離Bの軌跡とで囲まれる面積の総和で表すことができる。
【0094】
すなわち、算出方法2においても、被験者がスペーシング動作を行うことによって測定台11に加わる荷重の変化の測定結果から得た距離Bの積分量と、健常者によるスペーシング動作により得られる距離Bの積分量として設定された基準との乖離の程度に基づいてスペーシング度x2が算出される。
【0095】
なお、算出方法2においても、算出方法1と同様に
図13(b)で示す距離Bを時系列に示した波形の周波数成分を解析した結果が考慮されてもよい。例えば、
図13(b)における距離Bの波形の周波数成分のうちの高周波成分の量(割合)を解析することによっても被験者の認知機能を評価することができる。この場合、例えば高周波成分が所定の割合以上に含まれていれば、被験者の認知機能は正常であると評価することができる。
【0096】
なお、本実施形態にかかるスペーシング度x2は、上述の算出方法1及び2のいずれか一つの算出結果に基づいて算出されてもよいし、周波数成分の解析結果を含む少なくとも二つ以上の算出結果を総合して算出されてもよい。ただし、複数の算出方法を組み合せる場合には、それぞれの算出方法を用いた算出結果に対して重み付けしてもよい。当該重み付けは認知機能への影響の度合いを考慮して決定されてよく、例えば、上記式(1)と同様の式を用いて定量的に算出されてよい。
【0097】
また、算出方法1および算出方法2のいずれの方法においても、基準と測定結果の乖離の程度の変化に基づいてスペーシング度を算出してもよい。例えば、距離Aの積分量および距離Bの積分量は、単位時間毎に区間積分をした積分量であってもよく、時間経過とともに単位時間毎に区間積分をした積分量が小さくなっている場合には、スペーシング度が大きくなるように算出してもよい。
【0098】
また、ターゲットの移動速度を変更してもよく、移動速度が変更されたターゲットに対して、被験者の変化へ対応する能力(対応力)或は変化へ追従する能力(追従力)をスペーシング度として評価してもよい。
【0099】
以上が、スペーシング課題の内容、及び、スペーシング度x2の算出方法の詳細である。なお、図示はしないが、スペーシング課題の結果についても、タイミング課題と同様に画像表示部30に表示される(
図10のステップS23参照)。
【0100】
続いて、
図4に示したステップS4で実行される「グレーディング課題」の詳細を
図14から
図21を用いて説明する。
【0101】
ここで実行される「グレーディング課題」とは、被験者に所定の強度(力加減)で足を動作させることをいう。CPU24は、この「グレーディング課題」を被験者に行わせることによって生じる荷重の変化の測定結果と、当該「グレーディング動作」を健常者が行った場合に生じる荷重の変化の基準との乖離(ズレ)を算出することによって、被験者が力加減を適切に調整しながら足を動かすことができる能力を測定する。換言すれば、認知機能評価装置1は、被験者に「グレーディング課題」を課すことによって測定した足の巧緻性から力加減の調整を正しく行う能力を評価することができる。
【0102】
図14は、
図4で示すフローチャートのステップS4にかかる処理の詳細であって、被験者のグレーディング度を測定するグレーディング度測定方法の処理手順例を示すフローチャートである。処理部20のCPU24は、このグレーディング度測定方法が記述されたプログラムを実行する。
【0103】
ステップS30では、CPU24は、後段の処理においてグレーディング度x3を算出するために被験者の立位体重を測定する。
【0104】
ステップS31では、CPU24は、ステップS32から開始するグレーディング課題を実行するために必要な荷重データを測定する。具体的には、CPU24は、被験者が測定台11に足を乗せた座位状態から立位状態になるまで全力で立ち上がり動作を行った際の荷重の変化(全力動作)と、被験者が測定台11に足をのせた座位状態から立位状態になるまで普通に立ち上がり動作を行った際の荷重の変化(ふつう動作)とをそれぞれ測定する。なお、ここにいう「立ち上がり動作」は「足の動作」に含まれる。
【0105】
ここで、本実施形態の「グレーディング課題」では、CPU24は、被験者に測定台11上で上記の全力動作とふつう動作を事前に行ってもらった後に、全力動作とふつう動作の中間の力加減で測定台11上で立ち上がり動作を行うように指示する。そして、当該指示に応じた被験者の動作の力加減と、全力動作とふつう動作の中間の力加減とを比較することによって、被験者による力加減の調整を正しく行う能力(グレーディング度)を評価する。したがって、グレーディング度を定量的に評価するために、上記の全力動作とふつう動作を行った際の荷重の変化をグレーディング課題を行う前にそれぞれ測定する。
【0106】
図15は、ステップS31において測定された被験者の荷重の変化を示す図である。
図15(a)は全力動作時の測定結果を示し、
図15(b)はふつう動作時の測定結果を示している。両図とも、横軸は時間を示し、縦軸は荷重の大きさを示す。
【0107】
本例においては、測定台11の正面に椅子を用意し、被験者が当該椅子に座り、且つ、両足を測定台11に乗せた状態の被験者に対して立ち上がり動作が指示される。
図15(a)及び
図15(b)に示すように、被験者が測定台11に足を乗せた座位状態から立位状態になるように立ち上がり動作を行った際には、荷重測定値は、被験者が座位状態から立ち上がろうとして椅子からお尻が浮いた瞬間からピーク値に到達するまで急峻に増加した後、一端下り、ステップS30で測定した自身の立位体重に収束していく。
【0108】
ステップS31で測定した全力動作とふつう動作の荷重の変化は、
図16で示すように定量的に表すことができる。すなわち、本実施形態のグレーディング課題において参照値(比較値)として用いられる全力動作とふつう動作の荷重の変化は、
図16で示す荷重の最大変化率(
図15の両矢印参照)を被験者の体重で割った値と、荷重の最大ピーク値(
図15の点線丸参照)を被験者の体重で割った値とを用いて定量的に把握することができる。そして、これらの値の中間の値は(
図16の下段参照)、次のステップS32において、被験者に「全力動作とふつう動作の中間の力加減で立ち上がる」ことを指示した際に、当該指示に応じて測定される被験者の荷重の変化の目標値となる。ただし、当該値を必ずしも二つ用いる必要はなく、いずれか一方の値を用いてグレーディング課題を行ってもよい。以下に、荷重の最大ピーク値(
図15の点線丸参照)を被験者の体重で割った値(以下、単に「荷重ピーク値」という)を用いてグレーディング課題を行った例について説明する。
【0109】
図14のステップS32では、CPU24は、グレーディング課題を開始する。本実施形態では、上述したように、ステップS31において事前に測定した全力動作とふつう動作を行った際における力加減を前提に、被験者に対してそれらの中間の力加減での立ち上がり動作を行うように指示する。当該指示は、画像を介して行ってもよいし、音声により行ってもよい。従って、本実施形態のグレーディング課題では、画像表示部30を用いて
図17で示すような画像を表示することにより被験者への指示を行ってもよいし、不図示の音声出力装置(例えばスピーカ)を備え、当該装置を介して被験者への指示を行ってもよい。
【0110】
すなわち、本実施形態のグレーディング課題では、画像表示部30、又は、不図示の音声出力装置が被験者に対して所定の足の動作を行うことを指示する指示手段として機能する。以下に、画像表示部30を指示手段として用いることを前提に、グレーディング課題中の画像表示部30の画面(指示画面)及び、指示画面に対応する被験者の足の動作の詳細について説明する。
【0111】
図18は、被験者がグレーディング動作を行った際の荷重の変化を測定した測定結果を示す図である。図では、グレーディング動作を三回行った場合の測定結果が示されている。被験者の一回目の測定結果を見ると、荷重ピーク値は1.27であり、目標値(1.34)に対して0.07(絶対値)の乖離がある。このため、被験者は、足の力加減の調整能力において目標値に対して0.07のズレがあるということを定量的に把握することができる。
【0112】
ここで、被験者が二回目の立ち上がり動作を行う前に、CPU24は1回目の測定結果を被験者にフィードバックする。当該フィードバックは、例えば
図19(a)のような画像を画像表示部30に表示することにより行われる。
【0113】
すなわち、
図19(a)に示すように、CPU24は、1回目の測定結果が指示(目標値)に対してどれだけズレているかを直感的に知得できるような画像を表示するとともに、1回目の測定結果に対して次はどのような力加減(より強くなのか、より弱くなのか)で立ち上がり動作を行うべきなのかを提示する。このような画像を見た後に被験者は2回目の立ち上がり動作を行う。本例にかかる2回目の立ち上がり動作の測定結果は、
図18に示すとおりである。すなわち、2回目の立ち上がり動作での荷重ピーク値は1.39であり、目標値(1.34(
図16参照))よりも力加減が強く、目標値に対して0.05(絶対値)の乖離が生じていることが分かる。この場合も、1回目の測定結果後と同様に、CPU24は、例えば
図19(b)のような画像を画像表示部30に表示して2回目の測定結果を被験者にフィードバックする。
【0114】
そして、3回目の測定結果(
図18参照)では、目標値とのズレが0.01となっており、1回目、2回目と比べて、目標値への力加減の調整がうまく出来ていることが分かる。
【0115】
ステップS33では、CPU24は、上述の測定結果に基づいて被験者のグレーディング度x3を算出する。グレーディング度x3は、被験者が複数回(本例では3回)行った立ち上がり動作のそれぞれの測定結果と、目標値である荷重ピーク値との乖離の絶対値の総和、または標準偏差に基づいて算出される(算出方法1)。
【0116】
すなわち、本実施形態のグレーディング度x3は、力加減の指示(目標値)に対する被験者の力加減の測定結果のズレやバラツキ具合を複数回の立ち上がり動作の測定結果より算出して得た値(上記乖離の総和又は標準偏差)と、健常者が同様のグレーディング動作を行った場合の基準とのズレ(乖離)に基づいて算出される。
【0117】
また、グレーディング度x3を算出する方法の他の例(算出方法2)として、被験者が行ったグレーディング動作の各回(本例では一回目と、二回目と、三回目)のそれぞれの乖離の程度の変化に基づいて算出してもよい。この場合は、各回の測定結果にかかる目標値との乖離が各回ごとに好適に減少していく場合には、グレーディング度x3が高く算出され、認知機能がより健常者に近いと評価される。すなわち、算出方法2によりグレーディング度x3を算出することにより、グレーディング課題中において各回の終了毎にフィードバックした事項に対する被験者の学習能力(調整能力)を、グレーディング動作の各回毎の測定結果の変化に基づいて評価することができる。
【0118】
また、グレーディング度x3を算出する方法の他の例(算出方法3)として、以下の方法を用いることもできる。すなわち、算出方法1、2のように、測定結果と目標値との乖離に基づいて算出するのではなく、目標値に対して一定の幅(上下限範囲)を設け、測定結果が当該上下限範囲内に入った回数、または、入るまでの回数を測定し、当該測定結果に基づいてグレーディング度x3を算出してもよい。例えば、目標値に対して、±0.3の上下限範囲を設けた場合に被験者の測定結果が
図18で示す値だったとすると、当該上下限範囲内に入った回数は1(3回目のみ)、入るまでの回数は3と測定され、当該測定結果の少なくとも一方の値に基づいて被験者のグレーディング度x3が算出される。
【0119】
なお、本実施形態にかかるグレーディング度x3は、上述の算出方法1から3のいずれか一つの算出結果に基づいて算出されてもよいし、少なくとも二つ以上の算出結果を総合して算出されてもよい。ただし、複数の算出方法を組み合せる場合には、それぞれの算出方法を用いた算出結果に対して重み付けしてもよい。当該重み付けは認知機能への影響の度合いを考慮して決定されてよく、例えば、上記式(1)と同様の式を用いて定量的に算出される。式(1)を用いる場合には、例えば、グレーディング度をZとし、算出方法1の算出結果をx1、算出方法2の算出結果をx2、算出方法3の算出結果をx3とすればよい。
【0120】
ここで、本実施形態のグレーディング課題は、被験者に立ち上がり動作を課すものである。したがって、被験者の立ち上がり動作に伴う荷重の変化を測定することにより被験者の運動機能を同時に評価することができる(例えば、特許第6183827号公報を参照)。認知機能に加えて、被験者の運動機能をも評価することにより、例えば、被験者の転倒リスク、或いは転倒原因を、認知機能の側面と、運動機能の側面との両面から多面的に評価することができる。
【0121】
一方で、本実施形態のグレーディング課題は、上述したように、必ずしも測定台11上で立ち上がる動作を行う必要はない。例えば、
図21で示すように、被験者は、測定台11の上面を被験者側に傾斜した状態で、上述の立ち上がり動作に代えて自身の足を指示に応じた強さで測定台11に押しつける動作を行うことによってグリーディング課題を行ってもよい。
【0122】
以上が、グレーディング課題の内容、及び、グレーディング度x3の算出方法の詳細である。なお、グレーディング課題の結果については、例えば
図20で示すような画面で画像表示部30に表示してもよい(ステップS34参照)。
図20では、一例として、上述の算出方法1による算出結果に基づいて算出されるグレーディング度が点数(90点)として示されている。
【0123】
そして、認知機能評価装置1は、上述のようにして実施された「タイミング課題」、「スペーシング課題」、及び「グリーディング課題」の測定結果に基づいて、総合的な評価である被験者の認知機能レベルを算出する(
図4のステップS5参照)。なお、認知機能レベルは、上記(1)式を用いたいわゆる重回帰分析を用いて算出されてもよいし、各課題の測定結果に対して主成分分析を行うことにより集約した式を用いて算出してもよい。
【0124】
またさらに、認知機能評価装置1は、評価した被験者の認知機能レベルに応じて、被験者の認知機能を向上させる訓練プログラムや、認知機能の向上に資する情報を提供してもよい。
【0125】
続いて、本実施形態における作用効果について説明する。
【0126】
本実施形態によれば、認知機能評価装置1は、荷重を測定する測定台11と、被験者の認知機能を評価するCPU24とを備える。CPU24は、測定台11上で所定の足の動作を行うことを被験者に画像表示部30を介して指示し、所定の足の動作によって生じる荷重の変化の基準を設定し、被験者が指示に応じた動作を行うことによって測定台11に加わる荷重の変化を測定し、測定台11に加わる荷重の変化の測定結果と設定された基準との乖離を算出する。そして、CPU24は、算出された乖離の程度に基づいて被験者の認知機能を評価する。
【0127】
すなわち、CPU24は、手先に比べて日常生活では細かな動きを要求される機会がより少ない足の動作を測定し、測定した動作と基準動作との乖離(ズレ)を指標として被験者の認知機能を評価するので、評価結果の被験者の個人差がより大きくなる。足は手に比べて細かな動きをする機会が少なく、細かな動きに慣れていないために、足の動作時は、手の動作時と比較して、脳からの指令が直接動作に反映されやすいからである。そのため、本実実施形態の認知機能評価装置1は、手の動作の測定結果を指標とする場合にくらべて精度よく被験者の認知機能を評価することができる。
【0128】
また、認知機能評価装置1は、荷重を測定する測定台11と、被験者の認知機能を評価するCPU24と、指示手段としての画像表示部30(又は音声出力装置)による簡素な構成により実現することができる。そのため、例えば被験者を指定場所に招集したり、評価を行う場所に大掛かりな装置を運搬したりすることを要さずに、被験者の認知機能を簡素な装置により簡便に評価することができる。
【0129】
また、認知機能評価装置1は、被験者に指示する所定の動作として、所定のタイミングで被験者の足を動作させるタイミング動作と、所定の方向に被験者の足を動作させるスペーシング動作と、所定の強度で被験者の足を動作させるグレーディング動作と、の少なくとも一つの動作を被験者に指示する。これにより、様々な観点から見た足の巧緻性から、被験者の認知性を評価することができるので、被験者の認知機能の評価精度を高めることができる。
【0130】
また、認知機能評価装置1は、算出された乖離の程度の変化に基づいて被験者の認知機能を評価する。これにより、CPU24は、被験者の変化へ対応する能力(対応力)、或は、被験者の学習能力(調整能力)を評価することができるので、当該評価結果に基づいて被験者の認知機能をより多面的に評価することができる。
【0131】
また、認知機能評価装置1は、タイミング動作においては、指示するタイミングで被験者の足を動作させた場合に生じる荷重の変化の基準と、測定結果との乖離に基づいて被験者の認知機能を評価する。これにより、被験者の足の巧緻性に寄与する能力のうち、特に被験者の時間調整を正しく行う能力に基づいて、被験者の認知機能を評価することができる。
【0132】
また、認知機能評価装置1は、「タイミング課題」を実施する際に、荷重変化の基準と測定結果との乖離を判定するための基準となる基準線31と、当該基準線31に向かって所定の速度で移動するオブジェクト32と、を含む画像を表示して、被験者に対してオブジェクト32が基準線31上にあるタイミングで被験者の足を動作させることを指示する。これにより、特に被験者の時間調整を正しく行う能力を適切にかつ、客観的に評価することができる。
【0133】
また、認知機能評価装置1は、スペーシング動作においては、指示する方向に被験者の足を動作させた場合に生じる荷重の変化の基準と、測定結果との乖離に基づいて被験者の認知機能を評価する。これにより、足の巧緻性に寄与する能力のうち、特に被験者の方向と距離の調整を正しく行う能力に基づいて、被験者の認知機能を評価することができる。
【0134】
また、認知機能評価装置1は、「スペーシング課題」を実施する際に、所定の軌跡で移動するターゲットと、測定台11上に乗せた被験者の足の位置に対応する位置に表示されるポイントと、を含む画像を表示して、被験者に対してターゲットが移動する方向にポイントが移動するように当該足を動作させることを指示する。これにより、特に被験者の方向と距離の調整を正しく行う能力を適切にかつ、客観的に評価することができる。
【0135】
また、認知機能評価装置1は、グレーディング動作においては、指示する強度で被験者の足を動作させた場合に生じる荷重の変化の基準と、測定結果との乖離に基づいて被験者の認知機能を評価する。これにより、足の巧緻性に寄与する能力のうち、特に被験者の力加減の調整を正しく行う能力に基づいて、被験者の認知機能を評価することができる。
【0136】
また、認知機能評価装置1は、「グレーディング課題」を実施する際に、被験者が測定台11上に被験者の足を乗せた状態において、全力で立ち上がった際の荷重の変化と普通の力で立ち上がった際の荷重の変化とをそれぞれ測定し、被験者に対して、測定台11に被験者の足を乗せた状態において、全力と普通の力との中間の力加減で立ち上がるように当該足を動作させることを指示する。これにより、特に被験者の力加減の調整を正しく行う能力を適切にかつ、客観的に評価することができる。
【0137】
また、認知機能評価装置1は、指示するタイミングで被験者の足を動作させた場合に生じる荷重の変化を測定した測定結果と基準との乖離(第1乖離)と、指示する方向に被験者の足を動作させた場合に生じる荷重の変化を測定した測定結果と基準との乖離(第2乖離)と、指示する強度で被験者の足を動作させた場合に生じる荷重の変化を測定した測定結果と基準との乖離(第3乖離)との少なくとも2つ以上の乖離に基づいて、被験者の認知機能を評価する。これにより、タイミング課題と、スペーシング課題と、グレーディング課題のうち少なくとも二つ以上の異なる観点から見た足の巧緻性から、被験者の認知性を総合的に評価することができるので、被験者の認知機能の評価精度を高めることができる。
【0138】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上述の実施形態は本発明の適用例の一部を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を上述の実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。
【0139】
例えば、
図2を用いて説明した測定部10は、4つの荷重センサ12を備えていることを説明したが、これに限られない。例えば、上述のグリーディング課題では少なくとも荷重の最大値を検出すれば実施できるため、グリーディング課題のみの測定結果に基づいて認知機能を評価する場合には、少なくとも一つの荷重センサ12を備えていればよい。また、重心を測定する場合でも、4つの荷重センサ12を備える必要は必ずしもなく、3つの荷重センサ12を備えていればよい。
【0140】
また、タイミング課題、スペーシング課題を実施する際には、被験者は必ずしも立位姿勢である必要はない。これらの課題についても、グレーディング課題について
図21を用いて説明したのと同様に、座った状態において自身の足を測定台11に押しつけることによって実施することができる。
【0141】
また、各課題を指示する際に画像表示部30に表示される指示画面は上述したものに限られない。例えば、
図7Aから
図7Dを用いて説明したタイミング課題においてオブジェクト32が移動する方向は、上から下に限られない。下から上、或いは斜め等であってもよく、基準線31の位置等とともに適宜変更されてよい。また、例えば
図11Aから
図11Dを用いて説明したスペーシング課題においてターゲットが移動する道筋も、直線状に限られない。円形状、或いは波状等であってもよく、適宜変更されてよい。
【0142】
また、
図4、6、10、及び、14で示すフローチャートは、必ずしも図示するステップを全て備える必要はなく、又、必ずしも図示する順序で実行される必要はない。例えば、
図6のステップS13等で示す測定結果表示に係る処理は実行しなくてもよい。また、
図4で示すステップS2からS4で示すタイミング課題、スペーシング課題、及び、グレーディング課題の処理を行う順序は適宜入れ替え可能である。また、これらの課題は連続で実行される必要はなく、例えばそれぞれ別日に実行されてもよい。
【符号の説明】
【0143】
1 認知機能評価装置
11 測定台
30 画像表示部(指示手段)
24 CPU(認知機能評価装置)
241 データ取得部(取得手段)
242 認知機能評価部(評価手段)
242A 基準設定部(設定手段)
242B 測定部(測定手段)
242C 評価部(評価手段)