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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-13
(45)【発行日】2023-07-24
(54)【発明の名称】工具寿命検出装置及び工具寿命検出方法
(51)【国際特許分類】
   B23Q 17/09 20060101AFI20230714BHJP
   G05B 19/4065 20060101ALI20230714BHJP
【FI】
B23Q17/09 A
B23Q17/09 F
G05B19/4065
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019044673
(22)【出願日】2019-03-12
(65)【公開番号】P2020146776
(43)【公開日】2020-09-17
【審査請求日】2022-03-06
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成29年度(第31回)若い研究者を育てる会研究発表会研究論文集により公開
(73)【特許権者】
【識別番号】000236920
【氏名又は名称】富山県
(74)【代理人】
【識別番号】100067356
【弁理士】
【氏名又は名称】下田 容一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100160004
【弁理士】
【氏名又は名称】下田 憲雅
(74)【代理人】
【識別番号】100120558
【弁理士】
【氏名又は名称】住吉 勝彦
(74)【代理人】
【識別番号】100148909
【弁理士】
【氏名又は名称】瀧澤 匡則
(72)【発明者】
【氏名】石澤 剛士
(72)【発明者】
【氏名】金森 直希
【審査官】中川 康文
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-226027(JP,A)
【文献】特開2015-004544(JP,A)
【文献】特開2018-025979(JP,A)
【文献】特開2016-223906(JP,A)
【文献】特開2004-110602(JP,A)
【文献】特表昭58-500605(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0068658(US,A1)
【文献】特開2005-092466(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第103674511(CN,A)
【文献】西田崇、外1名,センシングデータ解析による工具摩耗の推定,長野県工技センター研報,No.13,日本,長野県,2018年,p.P15-P18,www.gitc.pref.nagano.lg.jp/reports/pdf/H30/H30P15.pdf
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23Q 17/00-23/00
G05B 19/18-19/416
G05B 23/00-23/02
G01M 13/00-13/045
G01H 1/00-17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
加工工具とワークとの相対運動により前記ワークに機械加工を施す工作機械に付属され、前記加工工具の寿命を加工作業中に検出する工具寿命検出装置であって、
この工具寿命検出装置は、前記工作機械の構成要素に取付けられ振動を検出する振動センサと、この振動センサからの振動情報に基づいてマハラノビスの距離を計算する計算部と、この計算部で得たマハラノビスの距離が判定値以上であるか否かを判定する判定部と、この判定部がマハラノビスの距離は判定値以上であると判定したときに異常を表示する異常表示部とを備え、
前記計算部では、前記振動情報から得た波形曲線に加工時間軸に平行な標本線を引き、前記波形曲線と前記標本線とが交わった交点の数を変化量とし、前記波形曲線で区切られた前記標本線の線分の和を存在量とし、前記変化量及び前記存在量を前記マハラノビスの距離の計算に供し、
前記計算部では、前記加工工具の刃が前記ワークに当たる周波数を基本周波数とし、
この基本周波数を1次周波数とし、この1次周波数に基づいて2次以上の周波数を定め、
前記振動情報の一部から少なくとも前記1次周波数近傍の振動情報をフィルタリングし、このフィルタリングした振動情報を用いて前記マハラノビスの距離の計算を実施することを特徴とする工具寿命検出装置。
【請求項2】
請求項1記載の工具寿命検出装置であって、
前記工作機械の構成要素は、前記加工工具が取付けられる前記工作機械の主軸であり、
前記振動センサは、前記主軸に且つ前記加工工具の送り方向に沿うようにして取付けられていることを特徴とする工具寿命検出装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2記載の工具寿命検出装置であって、
前記計算部では、前記加工工具が前記ワークに対して相対的に1パスするときに得られる前記振動情報のうち、それの一部を用いて前記マハラノビスの距離の計算を実施することを特徴とする工具寿命検出装置。
【請求項4】
加工工具とワークとの相対運動により前記ワークに機械加工を施す工作機械に付属され、前記加工工具の寿命を加工作業中に検出する工具寿命検出方法であって、
前記工作機械の構成要素に発生する振動を検出する工程と、
検出した振動情報に基づいてマハラノビスの距離を計算する工程と、
計算で得られたマハラノビスの距離が判定値以上であるときに異常を検出する工程と、からなり、
前記マハラノビスの距離を計算する工程では、前記振動情報から得た波形曲線に加工時間軸に平行な標本線を引き、前記波形曲線と前記標本線とが交わった交点の数を変化量とし、前記波形曲線で区切られた前記標本線の線分の和を存在量とし、前記変化量及び前記存在量を前記マハラノビスの距離の計算に供し、
前記マハラノビスの距離を計算する工程では、前記加工工具の刃が前記ワークに当たる周波数を基本周波数とし、この基本周波数を1次周波数とし、この1次周波数に基づいて2次以上の周波数を定め、
前記振動情報の一部から少なくとも前記1次周波数近傍の振動情報をフィルタリングし、このフィルタリングした振動情報を用いて前記マハラノビスの距離の計算を実施することを特徴とする工具寿命検出方法。
【請求項5】
請求項記載の工具寿命検出方法であって、
前記マハラノビスの距離を計算する工程では、前記加工工具が前記ワークに対して相対的に1パスするときに得られる前記振動情報のうち、それの一部を用いて前記マハラノビスの距離の計算を実施することを特徴とする工具寿命検出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工作機械に付属され、加工工具の寿命を加工作業中に検出する工具寿命検出装置及び工具寿命検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属の機械加工において、一定以上の加工品質を保つには、加工工具の寿命を正確に把握し適切な時期に加工工具を交換する必要がある。
従来は、加工対象物(以下、ワークという)の加工面粗さが規格外になるまでの加工回数を調べ、この加工回数に安全率を見込んだ回数を工具交換の目安としてきた。
【0003】
安全率は、加工工具のチッピングや加工工具のばらつきを考慮して経験的に決定される。チッピングは、いわゆる刃こぼれである。摩耗は加工回数に比例して徐々に発生するが、チッピングは急に発生する。ばらつきは加工工具の出来、不出来に起因して発生する。
そのため、安全率は10%程度が見込まれる。
【0004】
安全率を見込んだ回数で交換した加工工具を調べてみた。すると、まだ相当程度使えるものが見つかった。すなわち、加工面粗さが規格内に収まるはずの加工工具が寿命前に交換された。
加工工具が寿命まで使われれば、加工回数の増加による生産性の向上と、加工工具の調達費用の低減とが図れる。
そこで、加工工具の寿命を、高い精度で検出することができる技術が求められる。
【0005】
そのために、加工工具の寿命を検出する技術が、幾つか提案されてきた(例えば、特許文献1(図5)参照)。
【0006】
特許文献1は、加工中に得たデータに基づいて、マハラノビス・タグチ法(以下、MT法という)によりマハラノビスの距離(以下、MD値という)を求め、このMD値によりフライス(多刃工具)の寿命を検出するというものである。
【0007】
加工中に得るデータは、工作機械における主軸トルク指令値、X軸方向振動振幅、Y軸方向振動振幅、Z軸方向振動振幅、X軸方向ひずみ、Y軸方向ひずみとされる。
図15に基づいて、従来の技術を説明する。
図15(a)は逃げ面摩耗量の識別を説明するグラフ、(b)はチッピングの識別を説明するグラフである。何れも、加工回数(パス数)を横軸、マハラノビス距離を縦軸に取っている。
【0008】
図15(a)において、例えば、8000(縦軸)を判定基準に定めておき、右上がりの曲線が8000に達したら、工具を交換する(特許文献1段落0033)。
図15(b)において、新品の多刃工具に人為的にチッピングを施したときに、2000程度のMD値が得られ、830パス後の多刃工具に人為的にチッピングを施したときに、18000程度のMD値が得られる。
摩耗量とチッピングを切り分けて異常を判定することができる(特許文献1段落0047)。
【0009】
そして、特許文献1では、逃げ面摩耗量に対応する加工時マハラノビス距離に対して、所定の距離だけ上方に隔離する位置に加工時マハラノビス距離が表示された場合には、チッピングが発生したことを検知する、とされている(特許文献1段落0046)。
しかし、隔離する位置に表示される距離は、変化する。変化する距離で判定することは、煩雑であり、煩雑であるために、特許文献1はチッピングに対しては有効性に疑問が残る。
すなわち、特許文献1の技術は、摩耗に対しては有効であると認められるが、チッピングに対しては有効性に疑問が残る。
しかし、多刃工具を含む加工工具の有効利用が求められる中、チッピングを含めた異常が正しく検出できることが求められる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開2017-226027号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、チッピングを含めた加工工具の寿命を高い精度で検出することができる工具寿命検出装置及び工具寿命検出方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、特許文献1の技術において、次に述べる2つの点に注目した。
第1点は、データとして、トルク指令値と振動振幅とひずみが選ばれている。
第2点は、振動振幅の処理法である。
【0013】
第1点での、トルク指令値と振動振幅とひずみであるが、コンピュータによるデータ処理はデータの数に比例して処理負担が大きくなる。3種のデータがあると、データ取得も大変である。
本発明者は、実験と検討を進めた結果、摩耗とチッピングとのうち、チッピングに重きを置くことで、取得データの数を減らすことができることに気づいた。すなわち、チッピンは、振動に大きく影響し、トルク指令値とひずみへの影響は小さい。この考えから、取得データは、振動に限定することを思いついた。
【0014】
第2の点での振動振幅であるが、特許文献1では、振動波の大小に注目している。
同じ大きさの第1の波と第2の波があって、時間軸方向の第1の波の幅(時間軸長さ)が広く、第2の波の幅が狭い場合、この波の幅が加工工具の寿命に影響すると考えられる。特許文献1ではこの点が欠落している。
本発明者らは、振動の振幅に、波の幅を加えることが、必要であると考えるに至った。
【0015】
本発明者らは、取得データを振動に限定し、得られた振動を振幅と波の幅(時間軸長さ)によって解析することに基づいて実験と検証を進め、本発明を完成するに至った。
【0016】
請求項1に係る発明は、加工工具とワークとの相対運動により前記ワークに機械加工を施す工作機械に付属され、前記加工工具の寿命を加工作業中に検出する工具寿命検出装置であって、
この工具寿命検出装置は、前記工作機械の構成要素に取付けられ振動を検出する振動センサと、この振動センサからの振動情報に基づいてマハラノビスの距離を計算する計算部と、この計算部で得たマハラノビスの距離が判定値以上であるか否かを判定する判定部と、この判定部がマハラノビスの距離は判定値以上であると判定したときに異常を表示する異常表示部とを備え、
前記計算部では、前記振動情報から得た波形曲線に加工時間軸に平行な標本線を引き、前記波形曲線と前記標本線とが交わった交点の数を変化量とし、前記波形曲線で区切られた前記標本線の線分の和を存在量とし、前記変化量及び前記存在量を前記マハラノビスの距離の計算に供し、
前記計算部では、前記加工工具の刃が前記ワークに当たる周波数を基本周波数とし、
この基本周波数を1次周波数とし、この1次周波数に基づいて2次以上の周波数を定め、
前記振動情報の一部から少なくとも前記1次周波数近傍の振動情報をフィルタリングし、このフィルタリングした振動情報を用いて前記マハラノビスの距離の計算を実施することを特徴とする。
【0017】
請求項2に係る発明は、請求項1記載の工具寿命検出装置であって、
前記工作機械の構成要素は、前記加工工具が取付けられる前記工作機械の主軸であり、
前記振動センサは、前記主軸に且つ前記加工工具の送り方向に沿うようにして取付けられていることを特徴とする。
【0018】
請求項3に係る発明は、請求項1又は請求項2記載の工具寿命検出装置であって、
前記計算部では、前記加工工具が前記ワークに対して相対的に1パスするときに得られる前記振動情報のうち、それの一部を用いて前記マハラノビスの距離の計算を実施することを特徴とする。
【0020】
請求項に係る発明は、加工工具とワークとの相対運動により前記ワークに機械加工を施す工作機械に付属され、前記加工工具の寿命を加工作業中に検出する工具寿命検出方法であって、
前記工作機械の構成要素に発生する振動を検出する工程と、
検出した振動情報に基づいてマハラノビスの距離を計算する工程と、
計算で得られたマハラノビスの距離が判定値以上であるときに異常を検出する工程と、からなり、
前記マハラノビスの距離を計算する工程では、前記振動情報から得た波形曲線に加工時間軸に平行な標本線を引き、前記波形曲線と前記標本線とが交わった交点の数を変化量とし、前記波形曲線で区切られた前記標本線の線分の和を存在量とし、前記変化量及び前記存在量を前記マハラノビスの距離の計算に供し、
前記マハラノビスの距離を計算する工程では、前記加工工具の刃が前記ワークに当たる周波数を基本周波数とし、この基本周波数を1次周波数とし、この1次周波数に基づいて2次以上の周波数を定め、
前記振動情報の一部から少なくとも前記1次周波数近傍の振動情報をフィルタリングし、このフィルタリングした振動情報を用いて前記マハラノビスの距離の計算を実施することを特徴とする。
【0021】
請求項に係る発明は、請求項記載の工具寿命検出方法であって、
前記マハラノビスの距離を計算する工程では、前記加工工具が前記ワークに対して相対的に1パスするときに得られる前記振動情報のうち、それの一部を用いて前記マハラノビスの距離の計算を実施することを特徴とする。
【発明の効果】
【0023】
請求項1に係る発明では、振動情報から得た波形曲線に加工時間軸に平行な標本線を引き、波形曲線と標本線とが交わった交点の数を変化量とし、波形曲線で区切られた標本線の線分の和を存在量とし、変化量及び存在量をマハラノビスの距離の計算に供する。
なお、波形曲線で区切られた標本線の線分は、波の幅に相当する。
【0024】
すなわち、本発明では、数あるデータ(一次情報)から、一次情報として振動情報のみを選択した。これにより、計算部での負担を大幅に軽減することができた。
そして、波形曲線と標本線とが交わった交点の数を変化量とし、波形曲線で区切られた標本線の線分の和を存在量とし、変化量及び存在量をマハラノビスの距離の計算に供することにより、寿命検出の精度を高めることができ、加工工具を限度まで使用することが可能となった。
よって、本発明により、チッピングを含めた加工工具の寿命を高い精度で検出することができる工具寿命検出装置が提供される。
加えて、請求項1に係る発明では、少なくとも基本周波数に基づいてフィルタリングした振動情報を用いて計算を実施する。少なくとも基本周波数に基づいてフィルタリングするため、刃がワークに当たるときの振動情報だけを計算に供することができ、寿命判定の信頼性をさらに高めることができる。
【0025】
請求項2に係る発明では、振動センサは、主軸に且つ加工工具の送り方向に沿うようにして取付けられている。
主軸の軸方向をz軸方向、加工工具の送り方向で且つz軸に直交する方向をy軸方向、このy軸とz軸の両方に直交する方向をx軸方向とすると、振動センサの取付方向はx軸方向とy軸方向とz軸方向の何れであっても工具寿命検出が可能であることが確認できた。
ただし、x軸方向及びz軸方向に比較して、y軸方向が寿命判定の信頼性が高いことが分かった。よって、振動センサは、加工工具の送り方向に沿って取付ることが推奨される。
【0026】
請求項3に係る発明では、加工工具がワークに対して相対的に1パスするときに得られる振動情報の一部を用いる。振動情報の全部を用いて計算させることに比較して、一部を用いて計算させることとで、計算部の負担を軽減することができ、計算部の低コスト化が図れる。
【0028】
請求項に係る発明では、請求項1と同様に、振動情報から得た波形曲線に加工時間軸に平行な標本線を引き、波形曲線と標本線とが交わった交点の数を変化量とし、波形曲線で区切られた標本線の線分の和を存在量とし、変化量及び存在量をマハラノビスの距離の計算に供する。
【0029】
すなわち、本発明では、数あるデータ(一次情報)から、一次情報として振動情報のみを選択した。これにより、計算部での負担を大幅に軽減することができた。
そして、波形曲線と標本線とが交わった交点の数を変化量とし、波形曲線で区切られた標本線の線分の和を存在量とし、変化量及び存在量をマハラノビスの距離の計算に供することにより、寿命検出の精度を高めることができ、加工工具を限度まで使用することが可能となった。
よって、本発明により、チッピングを含めた加工工具の寿命を高い精度で検出することができる工具寿命検出方法が提供される。
加えて、請求項4に係る発明では、少なくとも基本周波数に基づいてフィルタリングした振動情報を用いて計算を実施する。少なくとも基本周波数に基づいてフィルタリングするため、刃がワークに当たるときの振動情報だけを計算に供することができ、寿命判定の信頼性をさらに高めることができる。
【0030】
請求項に係る発明では、請求項3と同様に、加工工具がワークに対して相対的に1パスするときに得られる振動情報の一部を用いる。振動情報の全部を用いて計算させることに比較して、一部を用いて計算させることとで、計算部の負担を軽減することができ、計算部の低コスト化が図れる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1】本発明に係る実験装置の原理図である。
図2】実験で得られた加工面粗さと振動波のグラフである。
図3】MD値を計算するときに用いる変化量と存在量を説明する図である。
図4】振動情報の一部を使用することを説明する図である。
図5】ワークの振動情報に基づいて作成したMD値のグラフである。
図6】本発明の有効性を説明する図である。
図7】振動センサを主軸のx軸方向に備えた実験装置の原理図である。
図8】x軸方向の振動情報に基づいて作成したMD値のグラフである。
図9】フィルタリングを説明する図である。
図10】フィルタリング後のx軸方向の振動情報に基づいて作成したMD値のグラフである。
図11】主軸のz軸方向の振動情報に基づいて作成したMD値のグラフである。
図12】主軸のy軸方向の振動情報に基づいて作成したMD値のグラフである。
図13】本発明に係る工具寿命検出装置の基本構成図である。
図14】本発明に係る工具寿命検出装置の作用を説明するフロー図である。
図15】従来の技術を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
本発明の実施の形態を添付図に基づいて以下に説明する。
【実施例
【0034】
本発明に係る工具寿命検出装置31は、図13に基づいて説明するが、その前提となる本発明の基本原理を図1図12に基づいて説明する。
図1に示すように、実験装置10は、テーブル11と、主軸12と、振動センサ13と、この振動センサ13からの振動情報を増幅するアンプ14と、増幅された振動情報に基づいてMD値を計算する計算部15とを備えている。
振動センサ13は、実験では小型の1軸加速度ピックアップを使用したが、種類や形式は任意に選択してよい。
【0035】
テーブル11に、下部板16を載せ、この下部板16にワーク17を載せ、このワーク17に上部板18を載せる。そして、複数本(この例では4本)のボルト19を上部板18、ワーク17、下部板16を貫通させた上で、テーブル11にねじこむ。なお、下部板16をテーブル11に固定し、この下部板16にボルト19でワーク17及び上部板18を固定することは差し支えない。
【0036】
主軸12に、切削工具としてのエンドミル21を取付ける。エンドミル21とワーク17とをx軸、y軸及びz軸方向に相対移動させると共に、エンドミル21を回転させることで、ワーク17の一辺を切削する。
【0037】
実験条件:
・ワークの材質:中心まで焼きを入れたSKD11
・ワークの寸法:5mm×100mm×100mm
【0038】
・エンドミルの刃数:6枚
・主軸回転速度:毎分3170回転
・切り込み:0.1mm
・送り速度:5.3mm/秒
・1パス時間:約20秒(エンドミルで100mm長さを1回切削する時間)
・ワークの交換:約200パスでワークを交換する。約200パスで切削代が無くなるため。
【0039】
・サンプリング周波数:6.4kHz
・測定項目:加工面粗さ、切削振動、チッピングの有無:
・・切削振動は、1パス毎に振動データを絶対値にし、絶対値の平均値とする。
・・チッピングは、25パス(2.5m)毎にマイクロスコープで有無を調べる。
・計算項目:MD値(詳細は、図3で説明する。)
【0040】
図2(a)に示すように、横軸に切削距離(m)を取り、縦軸に加工面粗さ(Ra(μm))を取ると、加工面は徐々に粗くなる。エンドミルが徐々に摩耗するからである。
横軸で20mを超えた時点と、40mを超えた時点でワークを交換し、3枚目のワークを切削しているときに、すなわち切削距離が70m近傍で、粗さが1.5μmに跳ね上がった。エンドミルの刃をマイクロスコープで観察したところ、チッピング(刃の欠け)が認められた。
【0041】
このように、加工面粗さを監視することで、チッピングが検出可能である。しかし、実操業中に、加工面粗さを測ることは困難である。
対して、振動であれば、切削作業中に測ることができる。そこで、振動でチッピングを検出することができるか否かを検討する。
【0042】
図2(b)に示すように、振動は、徐々に大きくなった。なお、横軸で40mの前に大きな乱れがあるが、この乱れは1日目と2日目の境目であり、切削作業の停止、起動に伴発生した乱れである。
切削距離が70m近傍で、チッピングが発生するは、図2(a)から予測される。しかし、切削距離が70mの前と後で、振動の変化は顕著でない。そのため、チッピングの検出は困難である。
【0043】
この困難さを克服するために、本発明ではMD値(マハラノビスの距離)を使用する。
MD値は、変化量や存在値を、MT法計算式により計算することで得られる。変化量や存在値については、図3で説明する。MT法計算式は周知であるため、その数式及び計算については説明を省略する。
【0044】
図3(a)に比較例を示す。
図3(a)では、横軸に切削時間、縦軸に振動を取った上で、振動値23をプロットする。この振動値23はデジタル値である。MT(マハラノビス・タグチ法)では、適当な標本線24を横軸(加工時間軸)に平行に引く。そして、標準的な手法では、標本線24より上に存在する振動値23の個数を存在量とする。第1の山25における点の数は6であり、第2の山26の点の数は5であり、第3の山27の点の数は3である。6+5+3=14の計算により、存在量は14となる。
【0045】
加工時間軸に平行に引かれた標本線24は、第1の山25、第2の山26、第3の山27で区切られている。
仮に、第1の山25で区切られた標本線24の線分をm1とする。なお、線分は、有限長さの線であって、無限長さの線とは異なる。線分m1の単位は、切削時間である。
【0046】
この線分m1の長短は、エンドミルに与えられるダメージに大きな影響を及ぼすことが想定される。しかし、図3(a)で述べた比較例では、単に振動の大小のみを考慮しているだけであり、線分m1は全く考慮していない。本発明者らは、この点に注目した。
【0047】
そこで、本発明者らは、線分m1を考慮することで、MD値の信頼性を高めることができることを知見した。
図3(b)は実施例である。
点で与えられていた振動値(図3(a)、23)を滑らかな曲線で結ぶことにより、図3(b)に示す波形曲線28を得た。そして、この波形曲線28と標本線24とが交わる交点29の数(この例では6)を、変化量とした。
加えて、第1の山25の線分m1、第2の山26の線分m2、第3の山27の線分m3の和(m1+m2+m3)を存在量とした。
本発明では、変化量と存在量に基づいてMD値を計算する。
【0048】
なお、標本線27や波形曲線28は、理解を促すために図形で説明したが、コンピュータ内では仮想的な線であることは言うまでもない。交点29や線分m1~m3も仮想的な点や線である。
【0049】
MD値は1パス毎に計算するが、計算部の負担を軽減するために、好ましくは、次に述べる対策を講じる。
図4に示すように、20秒(1パス分)の振動データのうちで、安定期に入った1秒目~3秒目の2秒間を、MT法計算領域とする。20秒中、2秒だけの計算をすることにより、計算部の負担を1/10に軽減することができる。
なお、MT法計算領域は、9秒目~11秒目の2秒間に変更するなど、任意の箇所に設定することは差し支えない。
【0050】
図3(b)及び図4に基づいて、計算したMD値を、図5(b)で説明する。
図5(a)は図2(b)と同じ図である。
図5(a)の横軸で0~67.5mの間は、図5(b)では詰めで表記し、図5(a)の横軸で67.5~69.9mの間は、図5(b)では広げて表記した。
【0051】
横軸で、0~67.5mの間におけるMD値は、図5(b)に示すように、5以下であった。この間を、便宜的に正常域という。
横軸で、67.5~69.9mの間におけるMD値は、図5(b)に示すように、0~249の間で変化した。この間を、便宜的に境界域という。
横軸で、70m~におけるMD値は、図5(b)に示すように、100を超えた。この間を、便宜的に異常域という。
【0052】
例えば、判定値を「50」に設定すると、境界域の途中の(68.6)でMD値が判定値以上となり、この時点で異常と判定することが可能となる。
この可能性を、別の実証実験で確認した。その結果を、図6で説明する。
【0053】
この実証実験は、タレット旋盤でワークを切削した。
図6(a)に示すように、160個までワークを研削する間は、MD値は小さく、安定していた。旋盤を担当する熟練工は、点Aの時点で、異常に気づいた。点Aでの生産数は184個である。
【0054】
図6(b)に示すように、判定値を与えると、点Bの時点でMD値が判定値以上となる。点Bでの生産数は171個である。
【0055】
171個目~184個目までの被加工品が「不良品」であると仮定する。
本発明を適用した図6(b)であれば、不良品は1個に止まる。
対して、本発明を適用しない図6(a)であれば、187-170=17の計算により、不良品は17個に達する。
【0056】
本発明を適用することにより、不良品の発生を最小限に抑えることができるという格別の効果が発揮される。すなわち、本発明により、不良品の発生を最小限に抑えつつ、ぎりぎりまで切削工具を使い続けることができる。
【0057】
ところで、振動センサ13は、図1では、上部板18に取付けた。この取付けでは、ワーク17を交換するときに、振動センサ13を脱着する必要があり、脱着の工数が嵩む。
工数の削減が求められるため、振動センサ13を主軸12に取付けることを検討する。
【0058】
図7に示すように、振動センサ13を主軸12に且つx軸方向に沿って取付け、実験を行い、MD値を計算した。結果、図8に示す。
図8に示すように、境界域及び異常域のMD値は、正常域のMD値と顕著な差がでなかった。これでは判定値を与えることが難しく、与えたとしても誤った判定が下される危険性があり、その対策が求められる。
【0059】
本発明者らは、図1では、振動センサ13がワーク17側に取付けられていたため、振動が直接的に振動センサ13で検出できたが、図7では、振動センサ13が主軸12に取付けられている。主軸12とエンドミル21との間には軸受が介在し、この軸受の隙間により、振動が減衰されたと考えた。この減衰を補う対策を講じる必要がある。
【0060】
エンドミル21は、60°ピッチで1周に6枚の刃が付いており、刃がワーク17に当たっているときと、当たっていないときで、振動に差があることに注目した。すなわち、刃が当たっていないときの振動データが、信頼性を低下させることに着目した。
【0061】
図9(a)は、図4と同じ図である。
図9(a)のMT法計算領域の振動情報を、図9(b)に示すように周波数分析した。6枚刃のエンドミルを、毎分3170回転させるため、6×3170÷60=317の計算により、317Hzが切削における基本周波数となる。
図9(b)において、317Hz(1次)、634Hz(2次)、951Hz(3次)、1268Hz(4次)、1585Hz(5次)に横線を加える。
そして、図9(c)に示すように、各周波数に10Hz程度の幅を持たせたフィルタリングを行い、フィルタリングした波形を新しいMT法計算領域とする。
【0062】
この新しいMT法計算領域に基づいて、MD値を計算し直した結果を、図10に示す。
図8に比較して、図10では、正常領域のMD値に対して、境界域でのMD値が大きく異なる。よって、図10であれば、異常検出が容易に且つ正確になる。
【0063】
なお、図9(c)において、317Hz(基本周波数)のみを新しいMT法計算領域とし、計算したところ、図10ほどではないが、正常域と境界域及び異常域に差が認められた。
次に、317Hz(1次周波数)と634Hz(2次周波数)とからなる2つの周波数を新しいMT法計算領域とし、計算したところ、少し図10に近づいた。
すなわち、1次周波数~n次周波数(nは2以上の整数)に基づいて計算する場合に、nを大きくする程、正常域と境界域や異常域の差が明確になる。
【0064】
実施例では、nを5としたが、nは状況に応じて適宜設定すればよい。状況によってはn次周波数はなくてもよい。
よって、基本周波数を1次周波数とし、この1次周波数に基づいて2次以上の周波数を定め、振動情報の一部から少なくとも1次周波数近傍の振動情報をフィルタリングし、このフィルタリングした振動情報を用いてマハラノビスの距離の計算を実施すればよい。
【0065】
図11(a)に示すように、振動センサ13を主軸12に且つz軸方向に沿って取付けた。
図11(b)に示すようなMD値が得られた。このMD値は新しいMT法計算領域による。
【0066】
図12(a)に示すように、振動センサ13を主軸12に且つy軸方向に沿って取付けた。「y軸方向に沿って」とは、振動センサ13の軸を、y軸に平行に配置することを意味する。x軸方向、z軸方向についても同様である。
図12(b)に示すようなMD値が得られた。このMD値は新しいMT法計算領域による。
【0067】
図10(x軸方向)と、図11(b)(z軸方向)と、図12(b)(y軸方向)とを比較する。
境界域に注目すると、図10(x軸方向)と、図12(b)(y軸方向)とが異常検出の点で優れている。
また、異常域に注目すると図12(b)(y軸方向)が優れている。
【0068】
よって、振動センサ13は主軸12の何処に取付けても異常検出は可能であるが、好ましくはx軸方向又はy軸方向に配置し、さらにはy軸方向に配置することが最適である。
【0069】
次に、本発明に係る工具寿命検出装置31を、図13及び図14に基づいて説明する。
図13に示すように、工作機械30は、ワーク17を支えるテーブル11と、加工工具21が着脱可能に取付けられる主軸12とを主要素とし、工具寿命検出装置31を備えている。
【0070】
工具寿命検出装置31は、工作機械30の構成要素(例えば、ワーク17や主軸12)に取付けられる振動センサ13と、この振動センサ13で得た振動情報を増幅するアンプ14と、増幅された振動情報に基づいてMD値を計算する計算部15と、計算されたMD値と判定値を比較する判定部32と、この判定部32で異常と判定されたときに周囲に異常を知らせる異常表示部33とからなる。異常は、ブザーやベルによる音、ランプや回転式警告灯による光、ディスプレイによる図形表示や文字表示の何れか、又はこれらの組合わせによって、知らされる。
【0071】
なお、工作機械30は、ワーク17を支えるテーブル11を備えていればよく、フライス盤、ボール盤、中ぐり盤、旋盤の何れでもよい。加工工具21が切削工具であれば、切削工具は、フライスカッター、エンドミル、ドリル、バイトの何れでもよい。
【0072】
図14のST(ステップ番号)01で、工作機械に振動センサを取付ける。
ST02で、判定値MDbを読み込む。
次に、加工を開始し(ST03)、1パス毎にMD値を計算し(ST04)、計算で得られたMDcalが判定値MDb以上であるか否かを判定する(ST05)。
【0073】
MDcalが判定値MDb未満であれば、ST04に戻って加工を継続する。なお、休憩などで作業を中断するときや人為的に作業を終えるときは、ST06によりこのフローを終える。
【0074】
ST05で、MDcalが判定値MDb以上と判定されたときには、異常表示を行う(ST07)。
異常表示と共に加工を中止することは差し支えないが、好ましくは、そのパスが終了するまで待つ(ST08)。
そのパスが終了したら、加工を停止し(ST09)、加工工具を交換し(ST10)、作業を継続するときにはST03に戻る(ST11)。
【0075】
すなわち、本発明に係る工具寿命検出方法は、次に述べる工程からなる。
工作機械の構成要素に発生する振動を検出する工程(ST01~ST03)と、検出した振動情報に基づいてマハラノビスの距離を計算する工程(ST04)と、計算で得られたマハラノビスの距離が判定値以上であるときに異常を検出する工程(ST05)と、からなる。
【0076】
そして、マハラノビスの距離を計算する工程では、振動情報から得た波形曲線に加工時間軸に平行な標本線を引き、波形曲線と標本線とが交わった交点の数を変化量とし、波形曲線で区切られた標本線の線分の和を存在量とし、変化量及び存在量をマハラノビスの距離の計算に供する。
【0077】
なお、このフローは、好適な一例を説明したものであり、適宜変更することは差し支えない。
【0078】
また、実施例では、加工工具21を切削工具(エンドミルなど)としたが、加工工具21は研削工具、研磨工具、孔開け工具の何れでもよく、機械加工に供するツールであれば、種類は問わない。
また、実施例では、振動センサの取付け対象である工作機械の構成要素を、ワークまたは主軸としたが、工作機械の構成要素は、加工工具、タレットのベース、ワークを固定するステージの何れでもよく、機械加工に伴って発生する振動が伝わる部位であれば、どの要素でもよい。
【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明は、工作機械に付属する工具寿命検出装置及び工具寿命検出方法に好適である。
【符号の説明】
【0080】
12…主軸、13…振動センサ、15…計算部、17…ワーク、21…加工工具(切削工具、エンドミル)、24…標本線、28…波形曲線、29…交点、30…工作機械、31…工具寿命検出装置、32…判定部、33…異常表示部、m1~m3…線分。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15