(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-13
(45)【発行日】2023-07-24
(54)【発明の名称】がんのバイオマーカーおよびがんの発症を判定する方法
(51)【国際特許分類】
G01N 33/68 20060101AFI20230714BHJP
G01N 33/493 20060101ALI20230714BHJP
C12Q 1/37 20060101ALI20230714BHJP
C12N 9/64 20060101ALI20230714BHJP
【FI】
G01N33/68
G01N33/493 A
C12Q1/37
C12N9/64 Z
(21)【出願番号】P 2019117199
(22)【出願日】2019-06-25
【審査請求日】2022-06-10
(73)【特許権者】
【識別番号】519231267
【氏名又は名称】医療法人三栄会
(73)【特許権者】
【識別番号】000125381
【氏名又は名称】学校法人藤田学園
(73)【特許権者】
【識別番号】504160781
【氏名又は名称】国立大学法人金沢大学
(74)【代理人】
【識別番号】100077012
【氏名又は名称】岩谷 龍
(72)【発明者】
【氏名】松本 邦夫
(72)【発明者】
【氏名】加藤 将夫
(72)【発明者】
【氏名】増尾 友佑
(72)【発明者】
【氏名】水谷 榮彦
(72)【発明者】
【氏名】柴田 清住
【審査官】小澤 理
(56)【参考文献】
【文献】特表2007-509313(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第107130013(CN,A)
【文献】国際公開第2009/133934(WO,A1)
【文献】小林浩 ほか,婦人科悪性腫瘍における胎盤型Leucine Aminopeptidase (P-LAP) の測定意義,日本産科婦人科学会雑誌,1985年05月01日,Vol.37, No.5,pp.696-702
【文献】柴田清住 ほか,子宮内膜癌の予後分子マーカー,HORMONE FRONTIER GYNECOLOGY,2006年12月,Vol.13, No.4,pp.379-385
【文献】KINOSHITA, K. et al.,Urinary sex steroid hormone and placental leucine aminopeptidase concentration differences between live births and stillbirth of Bornean orangutans (Pongo pygmaeus),JOURNAL OF MEDICAL PRIMATOLOGY,2016年11月17日,Vol.46, No.1,pp.3-8
【文献】CARRERA, M. P. et al.,Insulin-regulated Aminopeptidase/Placental Leucil Aminopeptidase (IRAP/P-LAP) and Angiotensin IV-forming Activities are Modified in Serum of Rats with Breast Cancer Induced by N-methyl-nitrosourea,ANTICANCER RESEARCH,2006年,Vol.26,pp.1011-1014
【文献】SHIBATA, K. et al.,Placental leucine aminopeptidase (P-LAP) and glucose transporter 4 (GLUT4) expression in benign, borderline,Gynecologic Oncology,2005年07月,Vol.98, no.1,pp.11-18
【文献】栗山学 ほか,腎細胞癌における胎盤性ロイシンアミノペプチダーゼ(P-LAP)の意義,日本泌尿器科學會雑誌,1987年,vol.78, No.7,pp. 1220-1226
【文献】MIZUTANI, S. et al.,Essential role of placental leucine aminopeptidase in gynecologic malignancy,Expert Opinion on Therapeutic Targets,2007年,Vol.11, No.4,pp.453-461
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/68
G01N 33/493
C12Q 1/37
C12N 9/64
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/BIOSIS(STN)
医中誌WEB
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
尿中の胎盤性ロイシンアミノペプチダーゼからなる
卵巣がんのバイオマーカー。
【請求項2】
卵巣がんの発症を判定する
ための方法であって、被験体の尿中の胎盤性ロイシンアミノペプチダーゼ量または胎盤性ロイシンアミノペプチダーゼ活性を測定する工程を含む方法。
【請求項3】
被験体が、画像診断において悪性または非悪性の判定が困難な卵巣腫瘍を有する個体である請求項
2に記載の方法。
【請求項4】
卵巣がんの発症が、切除手術後の再発である請求項
2に記載の方法。
【請求項5】
胎盤性ロイシンアミノペプチダーゼ活性を測定する工程において、被験体の尿をメチオニン存在下でL-ロイシン-p-ニトロアニリドと反応させ、生成したp-ニトロアニリド量を測定する方法を用いる請求項
2~4のいずれかに記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、がんのバイオマーカーおよびがんの発症を判定する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
卵巣腫瘍では、超音波検査、必要によりMRI検査を行い、これらの画像診断により卵巣腫瘍であるかそれ以外の腫瘍であるかを区別し、腫瘍の内部構造を詳しく調べて良性か悪性かを推定する。良性または悪性の推定には、画像診断と共に腫瘍マーカー検査が用いられ、腫瘍マーカーの値が非常に高い場合は悪性の可能性が高いとされている。しかし、腫瘍マーカーは良性の内膜症性嚢胞(チョコレート嚢胞)などでも上昇することが知られている。また、卵巣がんの初期には腫瘍マーカーが上昇しないことも多く、卵巣がんの早期発見には不向きとされている。研究の進展と技術の進歩に伴い、卵巣腫瘍の臨床的経過、画像診断および腫瘍マーカーの評価によって、卵巣腫瘍が良性か悪性かその中間型(境界悪性)かについて、相当程度のことがわかるようになってきた。しかし、今でも卵巣がんの確定診断は、手術で卵巣腫瘍を摘出して病理組織検査を行うことにより行われている。
【0003】
このように、卵巣がんは、手術をしなければ良性か悪性かの判別が難しいがん種の1つである。他臓器のがんの場合、手術前に腫瘍の一部を採取する生検により病理組織検査を行い、悪性(がん)か否かを確定することが多いが、卵巣腫瘍では針を刺すとがん細胞が腹腔内に拡がる危険性があるため、手術前の生検は行われていない。したがって、卵巣腫瘍が良性か、境界悪性か、悪性かを手術前に高感度および高特異度で診断できるバイオマーカーが必要とされている。
【0004】
ロイシンアミノペプチダーゼ(LAP)は、ペプチドのアミノ末端からロイシンを切り出す活性を有する酵素であり、3種のアイソザイム(細胞質LAP、膜結合性LAP、胎盤性LAP)が知られている。悪性腫瘍において血中LAPが上昇するとの報告があり、また、胎盤性LAP(P-LAP)が腎細胞がんで上昇するとの報告がある。さらに、卵巣組織のP-LAPを、抗体を用いて検出することにより、卵巣がんの発症および予後を評価できることが報告されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、非侵襲的に採取可能な尿中に含まれ、がんの発症および再発を早期に判定可能なバイオマーカーを提供することを課題とする。特に、悪性の卵巣腫瘍と非悪性(良性および境界悪性)の卵巣腫瘍を判別可能な卵巣がんのバイオマーカーを提供すること、および、卵巣がんの発症および再発を早期に判定可能な卵巣がん発症の判定方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記の課題を解決するために、以下の各発明を包含する。
[1]尿中の胎盤性ロイシンアミノペプチダーゼからなるがんのバイオマーカー。
[2]がんが、卵巣がん、子宮体がん、腎臓がん、前立腺がん、胃がん、膵臓がん、食道がん、絨毛がん、または乳がんである前記[1]に記載のバイオマーカー。
[3]がんが卵巣がんである前記[1]に記載のバイオマーカー。
[4]卵巣がんの発症を判定する方法であって、被験体の尿中の胎盤性ロイシンアミノペプチダーゼ量または胎盤性ロイシンアミノペプチダーゼ活性を測定する工程を含む方法。
[5]被験体が、画像診断において悪性または非悪性の判定が困難な卵巣腫瘍を有する個体である前記[4]に記載の方法。
[6]卵巣がんの発症が、切除手術後の再発である前記[4]に記載の方法。
[7]胎盤性ロイシンアミノペプチダーゼ活性を測定する工程において、被験体の尿をメチオニン存在下でL-ロイシン-p-ニトロアニリドと反応させ、生成したp-ニトロアニリド量を測定する方法を用いる前記[4]~[6]のいずれかに記載の方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、非侵襲的に採取可能な尿中に含まれるがんのバイオマーカーを提供することができる。本発明のバイオマーカーは、従来の腫瘍マーカーより鋭敏であり、変化が顕著であるため、悪性腫瘍と非悪性腫瘍を判別することができる。本発明のバイオマーカーは、悪性腫瘍と非悪性腫瘍の判別が困難である卵巣がんのバイオマーカーとして非常に有用である。また、本発明のバイオマーカーを用いることにより、卵巣がんの発症および再発を早期に判定可能な卵巣がん発症の判定方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】卵巣腫瘍患者(25例)の尿中P-LAP測定を測定し、術後病理診断との相関を検討した結果を示す図である。
【
図2】卵巣がん患者の手術前、手術後、再発時の尿中p-LPA、血清CA125および血清CA19-9を測定した結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
〔バイオマーカー〕
本発明はがんのバイオマーカーを提供する。本発明のがんのバイオマーカー(以下、「本発明のバイオマーカー」と記す)は、尿中の胎盤性ロイシンアミノペプチダーゼ(以下、「P-LAP」と記す)からなるバイオマーカーである。特許文献1には、卵巣がん患者から分離されたがん組織中のP-LAP量を測定することにより、がんの予後を評価できることが記載されている。しかしP-LAPは蛋白質であり、腎機能が正常であれば尿蛋白は陰性であるため、当業者は尿中のP-LAPを卵巣がんのバイオマーカーとして使用する動機を持ち得ない。さらに、本発明者らは、尿中P-LAPが血清P-LAPより、卵巣がんに対して鋭敏であり、卵巣がんの有無による変化が顕著であることを確認している(実施例参照)。すなわち、尿中のP-LAPを卵巣がんのバイオマーカーに用いることは当業者が容易になし得ることではなく、血清P-LAPより尿中P-LAPがバイオマーカーとして優れているという効果は、容易に予測できない格別顕著な効果である。
【0011】
P-LAPは、以下のがんにおいてもがん組織中に発現していることが報告されている。したがって、尿中P-LAPはこれらのがんのバイオマーカーとしても有用であると考えられる。
・子宮体がん(Shibata K et al. P-LAP/IRAP-induced cell proliferation and glucose uptake in endometrial carcinoma cells via insulin receptor signaling, BMC Cancer 2007, Jan 19; 7:1)
・腎臓がん(Kuriyama M et al. Clinical evaluation of serum placental leucine aminopeptidase (P-LAP) activity in renal cell carcinoma, Nihon Hinyokika Gakkai Zasshi 1987 Jul; 78(7):1220-6.)
・前立腺がん(Lerman B et al. Oxytocin and cancer: An emaerging link. World Journal of Clinical Oncology. 2018 Sep 14; 9(5):74-82.)
・胃がん(Lerman B et al. Oxytocin and cancer: An emaerging link. World Journal of Clinical Oncology. 2018 Sep 14; 9(5):74-82.)
・膵臓がん(Lerman B et al. Oxytocin and cancer: An emaerging link. World Journal of Clinical Oncology. 2018 Sep 14; 9(5):74-82. 、Nagasaka T et al, Immunohistochemical localization of placental leucine aminopeptidase/oxytocinase in normal human placental, fetal and adult tissues, Reproduction Fertility and Development 1997; 9(8):747-53.)
・食道がん(Lerman B et al. Oxytocin and cancer: An emaerging link. World Journal of Clinical Oncology. 2018 Sep 14; 9(5):74-82. 、Nagasaka T et al, Immunohistochemical localization of placental leucine aminopeptidase/oxytocinase in normal human placental, fetal and adult tissues, Reproduction Fertility and Development 1997; 9(8):747-53.)
・絨毛がん(Nagasaka T et al, Immunohistochemical localization of placental leucine aminopeptidase/oxytocinase in normal human placental, fetal and adult tissues, Reproduction Fertility and Development 1997; 9(8):747-53. 、Ino K et al. Expression of placental leucine aminopeptidase and adipocyte-derived leucine aminopeptidase in human normal and malignant invasive trophoblastic cells. Lab Invest. 2003 Dec;83(12):1799-809.)
・乳がん(Jose manuel Martinez-Martos et al. Kidney aminopeptidase activities are related to renal damage in experimental breast cancer, Journal of Clinical and Molecular Medicine. 2018 Doi: 10.15761/JCMM.1000105)
【0012】
本発明のバイオマーカー、すなわち尿中P-LAPは公知の方法により測定することができる。例えば、L-ロイシン-p-ニトロアニリド法などの酵素法を好適に用いることができる。L-ロイシン-p-ニトロアニリド法は、試料中のP-LAPがL-ロイシン-p-ニトロアニリド(基質)に作用してL-ロイシンとp-ニトロアニリドを生成する際に、p-ニトロアニリドの生成に伴う吸光度の増加速度を測定することで、LAP活性値を求めるものである。L-ロイシン-p-ニトロアニリド法により尿中P-LAPを測定する場合、市販のロイシンアミノペプチダーゼ測定キットを使用することができる。
【0013】
酵素法により尿中P-LAPを測定する場合、メチオニンの存在下で基質と試料を反応させてもよい。メチオニンの存在により、P-LAP以外のLAP(例えば、細胞質由来のLPA、ミクロソーム由来のLAPなど)の活性を阻害でき、P-LAPに基づく活性を測定することができるからである。メチオニン濃度は特に限定されないが、例えば、1mM~50mMであってもよく、5mM~40mMであってもよく、10mM~30mMであってもよく、15mM~25mMであってもよい。
【0014】
尿中P-LAPの測定法には、ELISA法などのイムノアッセイ法を好適に用いることができる。イムノアッセイ法では、試料と抗P-LAP抗体とを接触させ、試料中のP-LAPと抗P-LAP抗体との複合体を検出することで、尿中P-LAP量を測定することができる。
【0015】
〔卵巣がん発症の判定方法〕
本発明は、卵巣がん発症の判定方法または卵巣がん発症の判定を補助する方法を提供する。本発明の方法は、医師による卵巣がんの診断を補助することができる。卵巣腫瘍は良性腫瘍、境界悪性腫瘍(良性と悪性の中間的な性質を持つ)および悪性腫瘍(卵巣がん)に分類されるが、悪性腫瘍(卵巣がん)と非悪性腫瘍を、病理組織検査を行わずに判別することは非常に困難である。本発明の方法は、悪性腫瘍(卵巣がん)と非悪性腫瘍を、高い特異度で判別することができるので、非常に有用である。また、本発明の方法は、卵巣がんの発症を早期に判定できるだけでなく、卵巣がんの切除手術後の再発を早期に判定できる点で非常に有用である。
【0016】
「卵巣腫瘍取扱い規約」(2016年)によれば、卵巣腫瘍は、I.上皮性腫瘍、II.性索間質性腫瘍、III.胚細胞腫瘍、IV.その他の腫瘍に分類され、各々に良性腫瘍、境界悪性腫瘍および悪性腫瘍が含まれる。上皮性腫瘍の良性腫瘍としては、漿液性嚢胞腺腫、粘液性嚢胞腺腫、類内膜腺腫、明細胞腺腫、腺線維腫、表在性乳頭腫、ブレンナー腫瘍、子宮内膜症性嚢胞などが挙げられる。上皮性腫瘍の境界悪性腫瘍としては、漿液性境界悪性腫瘍、粘液性境界悪性腫瘍、類内膜境界悪性腫瘍、明細胞境界悪性腫瘍、境界悪性ブレンナー腫瘍などが挙げられる。上皮性腫瘍の悪性腫瘍としては、低異型度漿液性癌、高異型度漿液性癌、粘液性癌、類内膜癌、明細胞癌、悪性ブレンナー腫瘍、漿液粘液性癌、未分化癌、微小乳頭状パターンを伴う漿液性境界悪性腫瘍などが挙げられる。性索間質性腫瘍の良性腫瘍としては、莢膜細胞腫、セルトリ・間質性腫瘍(高分化型)、硬化性間質性腫瘍、線維腫、ライディク細胞腫、輪状細管を伴う性索腫瘍などが挙げられる。性索間質性腫瘍の境界悪性腫瘍としては、若年型顆粒膜細胞腫、セルトリ・間質細胞腫瘍(中分化型)などが挙げられる。性索間質性腫瘍の悪性腫瘍としては、線維肉腫、セルトリ・間質細胞腫(低分化型)、悪性ステロイド細胞腫瘍、成人型顆粒膜細胞腫などが挙げられる。胚細胞腫瘍の良性腫瘍としては、成熟奇形腫、良性卵巣甲状腺腫瘍、脂腺腺腫などが挙げられる。胚細胞腫瘍の悪性腫瘍としては、悪性転化を伴う成熟奇形腫、卵黄嚢腫瘍、多胎芽腫、胎芽性癌、未分化胚細胞腫、絨毛癌、悪性卵巣甲状腺腫瘍、未熟奇形腫(G1~G3)、カルチノイド腫瘍などが挙げられる。その他の腫瘍の良性腫瘍としては、卵巣網腺腫などが挙げられる。その他の腫瘍の境界悪性腫瘍としては、性腺芽腫(純粋型)などが挙げられる。その他の腫瘍の悪性腫瘍としては、小細胞癌、悪性リンパ腫、二次性(転移性)腫瘍などが挙げられる。
【0017】
本発明の方法は、被験体の尿中のP-LAP量またはP-LAP活性を測定する工程を含むものであればよい。被験体は卵巣がんを発症しうる哺乳動物であれば限定されず、ヒト、サル、チンパンジー、イヌ、ネコ、ウシ、ウマ、ブタ、ウサギ、マウス、ラット等が挙げられる。好ましくはヒトである。被験体は、卵巣腫瘍の存在が疑われる個体であってもよく、卵巣腫瘍を有する個体であってもよく、画像診断において悪性または非悪性の判定が困難な卵巣腫瘍を有する個体であってもよい。
【0018】
本発明の方法において、尿中のP-LAP量またはP-LAP活性を測定する方法としては、L-ロイシン-p-ニトロアニリド法などの酵素法、ELISA法などのイムノアッセイ法を好適に用いることができる。
【0019】
被験体が卵巣がんを発症しているか否かの判定は、例えば、L-ロイシン-p-ニトロアニリド法で測定したP-LAP値について、悪性腫瘍群のP-LAP値と非悪性腫瘍群のP-LAP値に基づいてカットオフ値を設定し、当該カットオフ値を超えたかどうかを判定基準とする判定方法などが挙げられる。カットオフ値は10~30mU/mLの範囲に設定してもよく、10~20mU/mLの範囲に設定してもよく、10~15mU/mLの範囲に設定してもよい。
【0020】
なお、卵巣がん以外の様々ながん組織においてもP-LAPの発現は認められる。したがって、本発明の方法は、卵巣がん以外のがんにも適用できる。具体的には、例えば、子宮体がん、腎臓がん、前立腺がん、胃がん、膵臓がん、食道がん、絨毛がん、乳がんなどである。
【実施例】
【0021】
以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0022】
〔実施例1:卵巣腫瘍患者の尿中P-LAP測定〕
1-1 材料および方法
(1)試料
画像診断などで良性、悪性の診断が困難な卵巣腫瘍患者(25例)の同意を得て尿を採取し、試料とした。
(2)尿中P-LAP測定方法
ロイシンアミノペプチダーゼ測定用キット(株式会社セロテック)を使用した。具体的には、第一試薬160μLおよび第二試薬40μLをチューブに加え、L-メチオニンを終濃度20mMになるように添加し、尿を4μL加え、37℃で5分間インキュベートした。分光光度計を用いて405nmの吸光度を測定した。
(3)病理診断
上記25例の卵巣腫瘍患者については、その後手術を行い、卵巣腫瘍を摘出して病理組織検査によって、良性、悪性の診断を行った。
【0023】
(4)結果
結果を
図1および表1に示した。25例中10例が悪性、15例が良性~境界悪性(非悪性)であった。悪性腫瘍患者の尿中P-LAP(平均値:43.4mU/mL)は、非悪性腫瘍患者の尿中P-LAP(平均値:6.8mU/mL)より顕著に高値であった。カットオフ値を15mU/mLに設定すれば、感度90%、特異度100%であった。なお、良性~境界悪性15例の内訳は、チョコレート嚢腫7例、成熟奇形腫2例、粘液性嚢胞腺腫2例、線維腫1例、粘液性境界悪性腫瘍2例、漿液性境界悪性腫瘍1例であった。悪性腫瘍10例の内訳は、明細胞がん4例、内膜がん2例、粘液性がん1例、漿液性がん2例、未分化がん1例であった。
【0024】
【0025】
(5)血清P-LAP測定
上記25例中5例(良性2例、悪性3例)については、血清中のP-LAPを測定した。測定方法は上記(2)と同じである。結果を表2に示した。悪性腫瘍患者と良性腫瘍患者の血清P-LAP値に差は認められなかった。
【0026】
【0027】
〔実施例2:卵巣がん患者の手術前、手術後、再発時の尿中P-LPAの推移〕
卵巣がん患者の手術前、手術後、再発時の尿中p-LPAを測定した。同時に、腫瘍マーカーである血清CA125および血清CA19-9を測定した。この患者は、手術は2018年5月9日に手術を行い、同年5月22日に手術後の測定を行い翌23日に退院した。その後、同年5月31日に再発が確認された。
【0028】
結果を
図2に示した。尿中P-LPAは、手術前が163mU/mL、手術後が8mU/mL、再発時が152mU/mLであった。従来の腫瘍マーカーであるCA125およびCA19-9も手術後に濃度が下がり、再発時には濃度の上昇が認められたが、手術後の低下率および再発時の上昇率は尿中P-LPAのほうが顕著であった。つまり、尿中P-LPAのほうが従来の腫瘍マーカーより、鋭敏にがん細胞の存在を反映できることが示された。この結果から、尿中P-LPAは、手術で切除した卵巣がんの再発を判定するためのマーカーとして有用であることが明らかになった。
【0029】
なお本発明は上述した各実施形態および実施例に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。また、本明細書中に記載された学術文献および特許文献の全てが、本明細書中において参考として援用される。