(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-13
(45)【発行日】2023-07-24
(54)【発明の名称】リチウム一次電池およびリチウム一次電池用非水電解液
(51)【国際特許分類】
H01M 6/16 20060101AFI20230714BHJP
H01M 4/50 20100101ALI20230714BHJP
H01M 4/06 20060101ALI20230714BHJP
【FI】
H01M6/16 A
H01M4/50
H01M4/06 X
(21)【出願番号】P 2021572967
(86)(22)【出願日】2020-10-15
(86)【国際出願番号】 JP2020038921
(87)【国際公開番号】W WO2021149310
(87)【国際公開日】2021-07-29
【審査請求日】2022-03-03
(31)【優先権主張番号】P 2020007064
(32)【優先日】2020-01-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002745
【氏名又は名称】弁理士法人河崎特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 弘平
(72)【発明者】
【氏名】中堤 貴之
(72)【発明者】
【氏名】福井 厚史
【審査官】冨士 美香
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-257961(JP,A)
【文献】特開2000-294231(JP,A)
【文献】国際公開第2001/041247(WO,A1)
【文献】特開2009-123549(JP,A)
【文献】特開昭61-281466(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 6/16
H01M 4/50
H01M 4/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極と、負極と、非水電解液と、を備え、
前記正極は、LixMnO
2(0≦x≦0.05)を含む正極合剤を含み、
前記負極は、金属リチウムおよびリチウム合金の少なくとも一方を含み、
前記非水電解液は、オキサレートホウ酸錯体成分および環状イミド成分を含み、
前記環状イミド成分は、フタルイミドおよびN-置換フタルイミドからなる群より選択される少なくとも一種を含み、
前記非水電解液中の前記オキサレートホウ酸錯体成分の濃度は、5.5質量%以下であり、
前記非水電解液中の前記環状イミド成分の濃度は、1質量%以下であり、
前記非水電解液中に含まれる前記環状イミド成分の前記オキサレートホウ酸錯体成分に対する質量比は、0.02以上10以下である、リチウム一次電池。
【請求項2】
正極と、負極と、非水電解液と、を備え、
前記正極は、LixMnO
2(0≦x≦0.05)を含む正極合剤を含み、
前記負極は、金属リチウムおよびリチウム合金の少なくとも一方を含み、
前記非水電解液は、オキサレートホウ酸錯体成分および環状イミド成分を含み、
前記環状イミド成分は、フタルイミドおよびN-置換フタルイミドからなる群より選択される少なくとも一種を含み、
前記非水電解液中の前記オキサレートホウ酸錯体成分の濃度は、0.1質量%以上5.5質量%以下であり、
前記非水電解液中の前記環状イミド成分の濃度は、0.1質量%以上1質量%以下である、リチウム一次電池。
【請求項3】
前記非水電解液中に含まれる前記環状イミド成分の前記オキサレートホウ酸錯体成分に対する質量比は、0.02以上10以下である、請求項2に記載のリチウム一次電池。
【請求項4】
前記オキサレートホウ酸錯体成分は、ビス(オキサレート)ホウ酸錯体成分およびジフルオロ(オキサレート)ホウ酸錯体成分からなる群より選択される少なくとも一種を含む、請求項1~3のいずれか1項に記載のリチウム一次電池。
【請求項5】
前記オキサレートホウ酸錯体成分は、ビス(オキサレート)ホウ酸リチウムおよびジフルオロ(オキサレート)ホウ酸リチウムからなる群より選択される少なくとも一種を含む、請求項1~4のいずれか1項に記載のリチウム一次電池。
【請求項6】
前記環状イミド成分は、少なくともフタルイミドを含む、請求項1~
5のいずれか1項に記載のリチウム一次電池。
【請求項7】
前記正極合剤は、さらに硫酸塩を含み、
前記正極合剤に含まれるイオウ原子の量は、前記正極合剤に含まれるマンガン原子100質量部に対して、0.05質量部以上3質量部以下である、請求項1~
6のいずれか1項に記載のリチウム一次電池。
【請求項8】
LixMnO
2の粒子径の中央値は、10μm以上40μm以下である、請求項1~
7のいずれか1項に記載のリチウム一次電池。
【請求項9】
LixMnO
2のBET比表面積は、20m
2/g以上50m
2/g以下である、請求項1~
8のいずれか1項に記載のリチウム一次電池。
【請求項10】
前記負極は、金属リチウムまたはリチウム合金の箔を含み、かつ長手方向と短手方向とを有する形状を具備し、前記負極の少なくとも一方の主面に前記長手方向に沿って樹脂基材と粘着層とを具備する長尺のテープが貼り付けられている、請求項1~
9のいずれか1項に記載のリチウム一次電池。
【請求項11】
LixMnO
2(0≦x≦0.05)を含む正極合剤を含む正極と、金属リチウムおよびリチウム合金の少なくとも一方を含む負極と、非水電解液と、を備えるリチウム一次電池に用いられる非水電解液であって、
前記非水電解液は、オキサレートホウ酸錯体成分および環状イミド成分を含み、
前記環状イミド成分は、フタルイミドおよびN-置換フタルイミドからなる群より選択される少なくとも一種を含み、
前記非水電解液中の前記オキサレートホウ酸錯体成分の濃度は、0.1質量%以上5.5質量%以下であり、
前記非水電解液中の前記環状イミド成分の濃度は、0.1質量%以上1質量%以下である、リチウム一次電池用非水電解液。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、リチウム一次電池に用いられる非水電解液、およびそれを用いるリチウム一次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウム一次電池は、高エネルギー密度であり、自己放電が少ないことから、多くの電子機器に使用されている。リチウム一次電池は、金属リチウムを含む負極と、正極と、非水電解液とを含む。正極には、活物質として、フッ化黒鉛、二酸化マンガン、または塩化チオニルなどが用いられる。
【0003】
リチウム一次電池では、放電が進行すると、内部抵抗が上昇して、放電容量が低下することがある。このような内部抵抗の上昇を抑制する観点から、電解液に添加剤を用いることが提案されている。
【0004】
例えば、特許文献1は、二酸化マンガンを正極活物質、リチウム金属またはリチウム合金を負極活物質とするリチウム一次電池用の非水系有機電解液であって、支持塩としてLiCF3SO3が含まれ、LiB(C2O4)2が添加されている非水系有機電解液を提案している。特許文献2は、一次電池または二次電池の内部抵抗の上昇を抑制し、二次電池の充放電サイクル特性を向上する観点から、フタルイミドなどの添加剤を含む非水電解質を用いることを提案している。
【0005】
耐熱性、耐加水分解性が高い電気化学デバイス用電解質として、特許文献3は、LiB(C2O4)F2などを含むものを提案している。
【0006】
なお、特許文献4は、特定の酸の酸性プロトンの少なくとも1つが、3つの炭化水素基を有するシリル基で置換された化合物(A)からなる添加剤を含む非水蓄電デバイス用電解液の添加剤組成物を提案している。特許文献4には、上記の添加剤が、リチウムイオン二次電池使用中のガス発生を抑制し、電池の膨れを生じないことが教示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2015-22985号公報
【文献】国際公開第01/41247号
【文献】特開2002-110235号公報
【文献】特開2016-189327号公報
【発明の概要】
【0008】
リチウム一次電池では、電池を保存中に非水溶媒などの電解液の成分が分解してガス発生が顕著になることがある。ガス発生が顕著になると、電池内部の圧力が上昇して、電池の膨れが生じたり、電解液が漏れたりすることがある。
【0009】
特許文献1では、ビス(オキサレート)ホウ酸リチウム(LiB(C2O4)2(LiBOB))を含む非水電解液が提案されている。しかし、このようなオキサレートホウ酸錯体成分を含む非水電解液を、二酸化マンガンを用いた正極とリチウム金属またはリチウム合金を用いた負極とを備えるリチウム一次電池に用いると、電池を保存中にオキサレートホウ酸錯体成分が分解してガスが発生することがある。
【0010】
本開示の第1側面は、正極と、負極と、非水電解液と、を備え、
前記正極は、LixMnO2(0≦x≦0.05)を含む正極合剤を含み、
前記負極は、金属リチウムおよびリチウム合金の少なくとも一方を含み、
前記非水電解液は、オキサレートホウ酸錯体成分および環状イミド成分を含み、
前記非水電解液中の前記オキサレートホウ酸錯体成分の濃度は、5.5質量%以下であり、
前記非水電解液中の前記環状イミド成分の濃度は、1質量%以下であり、
前記非水電解液中に含まれる前記環状イミド成分の前記オキサレートホウ酸錯体成分に対する質量比は、0.02以上10以下である、リチウム一次電池に関する。
【0011】
本開示の第2側面は、正極と、負極と、非水電解液と、を備え、
前記正極は、LixMnO2(0≦x≦0.05)を含む正極合剤を含み、
前記負極は、金属リチウムおよびリチウム合金の少なくとも一方を含み、
前記非水電解液は、オキサレートホウ酸錯体成分および環状イミド成分を含み、
前記非水電解液中の前記オキサレートホウ酸錯体成分の濃度は、0.1質量%以上5.5質量%以下であり、
前記非水電解液中の前記環状イミド成分の濃度は、0.1質量%以上1質量%以下である、リチウム一次電池に関する。
【0012】
本開示の第3側面は、LixMnO2(0≦x≦0.05)を含む正極合剤を含む正極と、金属リチウムおよびリチウム合金の少なくとも一方を含む負極と、非水電解液と、を備えるリチウム一次電池に用いられる非水電解液であって、
前記非水電解液は、オキサレートホウ酸錯体成分および環状イミド成分を含み、
前記非水電解液中の前記オキサレートホウ酸錯体成分の濃度は、0.1質量%以上5.5質量%以下であり、
前記非水電解液中の前記環状イミド成分の濃度は、0.1質量%以上1質量%以下である、リチウム一次電池用非水電解液に関する。
【0013】
本開示にかかるリチウム一次電池およびリチウム一次電池用非水電解液により、リチウム一次電池を保存したときのガス発生を抑制できるとともに、容量低下を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、本開示の実施形態に係るリチウム一次電池の一部を断面にした正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
LixMnO2(0≦x≦0.05)を含む正極と金属リチウムおよびリチウム合金の少なくとも一方を含む負極とを備えるリチウム一次電池において、オキサレートホウ酸錯体成分を含む非水電解液を用いた場合、オキサレートホウ酸錯体成分を含まない非水電解液を用いる場合に比べて、電池を保存したときの容量の低下はある程度抑制されるものの、ガス発生量が多くなることが明らかとなった。このようにガス発生量が増加することから、上記の正極および負極を備えるリチウム一次電池では、電池の保存時に、オキサレートホウ酸錯体成分が分解してガスが発生すると考えられる。なお、このようなガス発生は、電池を高温下で保存したときに特に顕著である。
【0016】
一方、リチウム一次電池では、正極の表面に電解液に含まれる成分に由来する被膜が形成されることがある。被膜が形成されると、正極表面での電解液の分解が抑制されるため、ガス発生が低減されると考えられる。しかし、正極表面が緻密な被膜で覆われると、電解液の分解を伴う副反応が抑制される一方で、被膜のリチウムイオン伝導性が低いことにより、容量が低下する。電池の保存時には、被膜が成長し易い。従って、電池を保存した後の容量の低下抑制と、ガス発生抑制とは、トレードオフの関係にあり、双方を両立させることは難しい。なお、被膜の成長は、特に、電池を高温で保存したときに顕著である。
【0017】
本開示のリチウム一次電池は、LixMnO2(0≦x≦0.05)を含む正極合剤を含む正極と、金属リチウムおよびリチウム合金の少なくとも一方を含む負極と、非水電解液とを備える。非水電解液は、オキサレートホウ酸錯体成分および環状イミド成分を含む。このようなリチウム一次電池において、非水電解液は、下記の条件(a)および(b)の少なくとも一方を充足する。
【0018】
(a)非水電解液中のオキサレートホウ酸錯体成分の濃度は、5.5質量%以下であり、非水電解液中の環状イミド成分の濃度は、1質量%以下であり、非水電解液中に含まれる環状イミド成分のオキサレートホウ酸錯体成分に対する質量比は、0.02以上10以下である。
【0019】
(b)非水電解液中のオキサレートホウ酸錯体成分の濃度は、0.1質量%以上5.5質量%以下であり、非水電解液中の環状イミド成分の濃度は、0.1質量%以上1質量%以下である。
【0020】
本開示によれば、リチウム一次電池が上記のような非水電解液を備えることで、非水電解液にオキサレートホウ酸錯体成分が含まれるにも拘わらず、電池を保存したときのガス発生を抑制できる。加えて、リチウム一次電池を保存した後の容量の低下を抑制できる。特に、リチウム一次電池を高温下で保存したときでも、ガス発生を抑制できるとともに、容量低下を抑制できる。本開示において、このような効果が得られるのは、次のような理由によるものと考えられる。
【0021】
上記の正極と上記の負極と非水電解液とを備えるリチウム一次電池において、非水電解液が、オキサレートホウ酸錯体成分を含まず環状イミド成分を含む場合、オキサレートホウ酸錯体成分および環状イミド成分の双方を含まない場合に比べて、ガス発生量は少なくなる一方で、保存後の容量は著しく低下する。これは、正極表面に環状イミド成分に由来する成分を含む緻密な被膜が形成されることで、電解液溶媒と正極の接触が抑制され、溶媒の分解に起因するガス発生が抑制されるものの、一方で、上記被膜のリチウムイオン伝導性が低いことにより、放電反応が阻害され、放電容量が低下していると考えられる。
【0022】
非水電解液が、環状イミド成分を含まずオキサレートホウ酸錯体成分を含む場合、オキサレートホウ酸錯体成分および環状イミド成分の双方を含まない場合に比べて、保存後の容量低下はある程度抑制されるが、ガスの発生量は多くなる。ガスの発生量が多くなるのは、上述のように正極表面でオキサレートホウ酸錯体成分が分解し、ガスが発生することによると考えられる。
【0023】
それに対し、本開示のリチウム一次電池では、非水電解液がオキサレートホウ酸錯体成分を含むにも拘わらず、オキサレートホウ酸錯体成分および環状イミド成分の双方を含まない場合に比べて、ガス発生が大幅に抑制される。加えて、非水電解液が、環状イミド成分を含まずオキサレートホウ酸錯体成分を含む場合に比べて、保存後の容量の低下を格段に抑制できる。本開示のリチウム一次電池では、保存後の容量の低下は、非水電解液がオキサレートホウ酸錯体成分および環状イミド成分のいずれか一方を含む場合から予想されるよりも大幅に抑制される。そのため、非水電解液が上記(a)および(b)の少なくとも一方の条件を充足する場合、保存後の容量の低下抑制において、オキサレートホウ酸錯体成分と環状イミド成分とによる相乗的な効果が得られていると言える。このように、本開示のリチウム一次電池において、ガス発生が大幅に抑制されるにも拘わらず、保存後の容量の低下が格段に抑制される要因は必ずしも明らかではないが、以下のように考えることができる。正極表面において環状イミドが分解され被膜を形成する際、その分解反応にオキサレートホウ酸錯体成分も巻き込まれ、オキサレートホウ酸錯体成分および環状イミド成分の双方に由来する成分を含む被膜が形成されると考えられる。このような被膜は、環状イミド成分のみからなる被膜と異なり、高いリチウムイオン伝導性を有しつつ、溶媒と正極の接触を抑制するため、容量の低下を抑制しながらも、ガス発生を伴う副反応の増加が抑制されると考えられる。
【0024】
本開示には、LixMnO2(0≦x≦0.05)を含む正極合剤を含む正極と、金属リチウムおよびリチウム合金の少なくとも一方を含む負極と、非水電解液と、を備えるリチウム一次電池に用いられる非水電解液も包含される。ここで、非水電解液は、オキサレートホウ酸錯体成分および環状イミド成分を含む。非水電解液は、上記(b)の条件を充足する。また、本開示には、このような非水電解液の、LixMnO2(0≦x≦0.05)を含む正極合剤を含む正極と、金属リチウムおよびリチウム合金の少なくとも一方を含む負極と、非水電解液と、を備えるリチウム一次電池への使用も含まれる。
【0025】
以下に、本開示のリチウム一次電池、非水電解液、およびリチウム一次電池の製造方法についてより具体的に説明する。
【0026】
[リチウム一次電池]
(正極)
正極は、正極合剤を含む。正極合剤は、正極活物質を含む。正極に含まれる正極活物質としては、二酸化マンガンが挙げられる。二酸化マンガンを含む正極は、比較的高電圧を発現し、パルス放電特性に優れている。二酸化マンガンは、複数種の結晶状態を含む混晶状態であってもよい。正極には、二酸化マンガン以外のマンガン酸化物が含まれていてもよい。二酸化マンガン以外のマンガン酸化物としては、MnO、Mn3O4、Mn2O3、Mn2O7などが挙げられる。正極に含まれるマンガン酸化物の主成分が二酸化マンガンであることが好ましい。
【0027】
正極に含まれる二酸化マンガンの一部にリチウムがドープされていてもよい。リチウムのドープ量が少量であれば、高容量を確保できる。二酸化マンガンおよび少量のリチウムがドープされた二酸化マンガンは、LixMnO2(0≦x≦0.05)で表すことができる。なお、正極に含まれるマンガン酸化物全体の平均的組成が、LixMnO2(0≦x≦0.05)であればよい。なお、Liの比率xは、リチウム一次電池の放電初期の状態で、0.05以下であればよい。Liの比率xは、一般に、リチウム一次電池の放電の進行に伴い増加する。二酸化マンガンに含まれるマンガンの酸化数は、理論的には4価である。しかし、正極に他のマンガン酸化物が含まれたり、二酸化マンガンにリチウムがドープされたりすることで、マンガンの酸化数が4価から多少増減することがある。そのため、LixMnO2において、マンガンの平均的な酸化数は4価から多少の増減が許容される。
【0028】
正極は、LixMnO2に加え、リチウム一次電池で用いられる他の正極活物質を含むことができる。他の正極活物質としては、フッ化黒鉛などが挙げられる。上記(a)または(b)の条件を充足する非水電解液を用いることによる効果が発揮され易い観点からは、正極活物質全体に占めるLixMnO2の割合は、90質量%以上が好ましい。
【0029】
二酸化マンガンとしては、電解二酸化マンガンが好適に用いられる。必要に応じて、中和処理、洗浄処理、および焼成処理の少なくともいずれかの処理を施した電解二酸化マンガンを用いてもよい。
【0030】
電解二酸化マンガンは、一般に、硫酸マンガン水溶液の電気分解により得られる。そのため、電解二酸化マンガンには、硫酸イオンが不可避的に含まれる。このような電解二酸化マンガンを用いて作製される正極合剤には、イオウ原子が不可避的に含まれる。正極合剤に含まれるイオウ原子の量は、正極合剤に含まれるマンガン原子100質量部に対して、0.05質量部以上3質量部以下であってもよい。イオウ原子がこのような範囲である場合、リチウム一次電池では、硫酸イオンと、LixMnO2へのリチウムの挿入に伴い生成する不安定なM3+とが相互作用して、Mn3+の不均化によるMn2+の生成が抑制されると考えられる。これにより、Mn2+の非水電解液への溶出および負極でのMnの析出が抑制されると考えられる。その結果、高容量を確保しながら、リチウム一次電池の高い信頼性を確保できる。一方、リチウム二次電池では、充電過程で硫酸イオンの一部が分解されるため、仮に、正極合剤にイオウ原子が上記の範囲となるような量で硫酸塩が含まれていても、上記のような効果を十分に確保することは難しい。正極合剤に含まれるイオウ原子の割合は、洗浄処理および中和処理の条件を調節することにより調節できる。洗浄処理としては、例えば、水洗処理および酸による洗浄処理の少なくとも一方が挙げられる。中和処理に用いられる中和剤としては、例えば、アンモニア、水酸化物などの無機塩基が用いられる。
【0031】
電解合成時の条件を調節すると、二酸化マンガンの結晶化度を高めることができ、電解二酸化マンガンの比表面積を小さくすることができる。LixMnO2のBET比表面積は、20m2/g以上50m2/g以下であってもよい。LixMnO2のBET比表面積がこのような範囲である場合、リチウム一次電池において、ガス発生をより効果的に抑制しながら、正極合剤層を容易に形成することができる。
【0032】
LixMnO2のBET比表面積は、公知の方法で測定すればよく、例えば、比表面積測定装置(例えば、株式会社マウンテック製)を用いてBET法に基づいて測定される。例えば、電池から取り出した正極から分離したLixMnO2を測定試料とすればよい。
【0033】
LixMnO2の粒子径の中央値は、10μm以上40μm以下であってもよい。粒子径の中央値がこのような範囲である場合、リチウム一次電池において、ガス発生をより効果的に抑制できるとともに、正極における高い集電性を確保し易い。
【0034】
LixMnO2の粒子径の中央値は、例えば、定量レーザー回折・散乱法(qLD法)により求められる粒度分布の中央値である。例えば、電池から取り出した正極から分離したLixMnO2を測定試料とすればよい。測定には、例えば、(株)島津製作所製のSALD-7500nanoが用いられる。
【0035】
正極合剤は、正極活物質の他に、結着剤として含み得る。正極合剤は、導電剤を含んでもよい。
【0036】
結着剤としては、例えば、フッ素樹脂、ゴム粒子、アクリル樹脂が挙げられる。
【0037】
導電剤としては、例えば、導電性炭素材料が挙げられる。導電性炭素材料としては、例えば、天然黒鉛、人造黒鉛、カーボンブラック、炭素繊維が挙げられる。
【0038】
正極は、さらに正極合剤を保持する正極集電体を含み得る。正極集電体の材質としては、例えば、ステンレス鋼、アルミニウム、チタンなどが挙げられる。
【0039】
コイン形電池の場合、断面がL字型のリング状の正極集電体を正極合剤ペレットに装着して正極を構成してもよく、正極合剤ペレットのみで正極を構成してもよい。正極合剤ペレットは、例えば、正極活物質および添加剤に適量の水を加えて調製した湿潤状態の正極合剤を圧縮成形し、乾燥することにより得られる。
【0040】
円筒形電池の場合、シート状の正極集電体と、正極集電体に保持された正極合剤層と、を備える正極を用いることができる。シート状の正極集電体には、例えば、エキスパンドメタル、ネット、パンチングメタルなどが用いられる。正極合剤層は、例えば、上記の湿潤状態の正極合剤をシート状の正極集電体の表面に塗布し、厚み方向に加圧し、乾燥することにより得られる。
【0041】
(負極)
負極は、金属リチウムまたはリチウム合金を含んでいてもよく、金属リチウムおよびリチウム金属の双方を含んでいてもよい。例えば、金属リチウムとリチウム合金とを含む複合物を負極に用いてもよい。
【0042】
リチウム合金としては、Li-Al合金、Li-Sn合金、Li-Ni-Si合金、Li-Pb合金などが挙げられる。リチウム合金に含まれるリチウム以外の金属元素の含有量は、放電容量の確保や内部抵抗の安定化の観点から、0.05~15質量%とすることが好ましい。
【0043】
金属リチウム、リチウム合金、またはこれらの複合物は、リチウム一次電池の形状、寸法、規格性能などに応じて、任意の形状および厚さに成形される。
【0044】
コイン形電池の場合、フープ状の金属リチウム、リチウム合金またはこれらの複合物を、円板状に打ち抜いたものを負極に用いてもよい。円筒形電池の場合、金属リチウム、リチウム合金、またはこれらの複合物のシートを負極に用いてもよい。シートは、例えば、押し出し成形により得られる。より具体的には、円筒形電池では、長手方向と短手方向とを有する形状を備える、金属リチウムまたはリチウム合金の箔などが用いられる。
【0045】
円筒形電池の場合、負極の少なくとも一方の主面に長手方向に沿って樹脂基材と粘着層とを具備した長尺のテープが貼り付けられていてもよい。主面とは、正極と対向する面を意味する。このテープの幅は、例えば0.5mm以上、3mm以下とすると良い。このテープは放電末期で反応により負極のリチウム成分が消費された際に、負極が箔切れして集電不良が発生するのを防止する役割がある。集電不良が発生すると、電池容量の低下を招く。しかしながら、テープの粘着力は、長期保存時に、電解液によって低下する。オキサレートホウ酸錯体成分および環状イミド成分を含む電解液を用いた場合には、この粘着力の低下を抑制でき、負極が箔切れして、集電不良が発生するのをより効果的に防止できる。
【0046】
樹脂基材の材質としては、例えば、フッ素樹脂、ポリイミド、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルスルホン、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン、ポリエチレンテレフタレートなどを用いることができる。中でもポリオレフィンが好ましく、ポリプロピレンがより好ましい。
【0047】
粘着層は、例えば、ゴム成分、シリコーン成分およびアクリル樹脂成分からなる群より選択される少なくとも1種の成分を含む。具体的には、ゴム成分としては、合成ゴムや、天然ゴムなどを用い得る。合成ゴムとしては、ブチルゴム、ブタジエンゴム、スチレン-ブタジエンゴム、イソプレンゴム、ネオプレン、ポリイソブチレン、アクリロニトリル-ブタジエンゴム、スチレン-イソプレンブロック共重合体、スチレン-ブタジエンブロック共重合体、スチレン-エチレン-ブタジエンブロック共重合体などが挙げられる。シリコーン成分としては、ポリシロキサン構造を有する有機化合物、シリコーン系ポリマー等を用い得る。シリコーン系ポリマーとしては、過酸化物硬化型シリコーン、付加反応型シリコーン等が挙げられる。アクリル樹脂成分としては、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステルなどのアクリル系モノマーを含む重合体を用いることができ、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、メタクリル酸プロピル、アクリル酸ブチル、メタクリル酸ブチル、アクリル酸オクチル、メタクリル酸オクチル、アクリル酸2-エチルヘキシル、メタクリル酸2-エチルヘキシルなどのアクリル系モノマーの単独または共重合体などが挙げられる。なお、粘着層には、架橋剤、可塑剤、粘着付与剤が含まれていてもよい。
【0048】
(非水電解液)
非水電解液は、例えば、オキサレートホウ酸錯体成分および環状イミド成分と、これらを溶解する非水溶媒とを含んでいる。非水電解液には、リチウム塩またはリチウムイオンが含まれる。オキサレートホウ酸錯体成分および環状イミド成分の少なくとも一方が、リチウム塩であってもよく、リチウムイオンを生成可能であってもよい。また、非水電解液は、オキサレートホウ酸錯体成分および環状イミド成分以外のリチウム塩を含んでいてもよい。
【0049】
(オキサレートホウ酸錯体成分)
オキサレートホウ酸錯体成分は、少なくとも下記式(1)で表される構造を有するものであればよい。非水電解液は、オキサレートホウ酸錯体成分を一種含んでいてもよく、二種以上含んでいてもよい。
【0050】
【0051】
(式中、*は結合手を示す。)
オキサレートホウ酸錯体成分は、非水電解液中に、酸(またはアニオン)および塩のいずれの形態で含まれていてもよい。オキサレートホウ酸錯体成分は、非水電解液中で、少なくともオキサレートホウ酸錯体アニオンを生成可能であればよい。オキサレートホウ酸錯体成分は、オキサレートホウ酸錯体アニオンと非水電解液に含まれるカチオンとの塩であってもよい。
【0052】
オキサレートホウ酸錯体成分において、1つのホウ素原子には、少なくとも1つのオキサレート配位子が配位していればよく、2つのオキサレート配位子が配位していてもよい。オキサレートホウ酸錯体成分は、1つのホウ素原子に、1つのオキサレート配位子と、2つのハロゲン原子とが配位した構造を有するものであってもよい。このような構造を有するオキサレートホウ酸錯体成分は、下記式(2)で表されるアニオンを生成可能である。
【0053】
【0054】
X1およびX2は、それぞれ、ハロゲン原子である。ホウ素原子に配位したハロゲン原子としては、例えば、フッ素原子、塩素原子が挙げられる。
【0055】
オキサレートホウ酸錯体成分としては、ビス(オキサレート)ホウ酸錯体成分、ジフルオロ(オキサレート)ホウ酸錯体成分が好適に用いられる。中でも、オキサレートホウ酸錯体成分としては、ビス(オキサレート)ホウ酸リチウム、ジフルオロ(オキサレート)ホウ酸リチウムが好ましい。ビス(オキサレート)ホウ酸錯体成分は、1つのホウ素原子に2つのオキサレート配位子が配位した構造を有する。このような構造を有するオキサレートホウ酸錯体成分は、下記式(3)で表されるアニオンを生成可能である。また、ジフルオロ(オキサレート)ホウ酸錯体成分は、1つのホウ素原子に1つのオキサレート配位子と2つのフッ素原子とが配位した構造を有する。
【0056】
【0057】
非水電解液が上記(a)の条件を充足する場合、非水電解液中のオキサレートホウ酸錯体成分の濃度は、5.5質量%以下であり、5質量%以下であってもよい。オキサレートホウ酸錯体成分の濃度が5.5質量%を超えると、保存時のガス発生が顕著になる。非水電解液中のオキサレートホウ酸錯体成分の濃度は、検出限界以上であればよく、0.1質量%以上または0.5質量%以上であってもよい。これらの上限値と下限値とは任意に組み合わせることができる。
【0058】
リチウム一次電池の保存または放電の間、オキサレートホウ酸錯体成分は、リチウム一次電池内で被膜形成などに消費され、非水電解液中のオキサレートホウ酸錯体成分の濃度は変化する。リチウム一次電池の組み立てまたは製造に用いられる非水電解液中のオキサレートホウ酸錯体成分の濃度が、0.1質量%以上であることが好ましく、0.5質量%以上とすることがより好ましい。この場合、リチウム一次電池を保存した後の容量低下を顕著に抑制できる。リチウム一次電池の組み立てまたは製造に用いられる非水電解液中のオキサレートホウ酸錯体成分の濃度を、5.5質量%以下または5質量%以下とすることが好ましい。この場合、リチウム一次電池の保存時のガス発生を効果的に抑制できる。これらの下限値と上限値とは任意に組み合わせることができる。
【0059】
非水電解液が上記(b)の条件を充足する場合、非水電解液中のオキサレートホウ酸錯体成分の濃度は、0.1質量%以上5.5質量%以下であればよく、0.1質量%以上5質量%以下、0.5質量%以上5.5質量%以下、または0.5質量%以上5質量%以下であってもよい。オキサレートホウ酸錯体成分の濃度がこのような範囲である場合、リチウム一次電池の保存時のガス発生量を抑制しながら、保存後の容量低下を顕著に抑制できる。
【0060】
上述のように、オキサレートホウ酸錯体成分は、非水電解液中に酸(またはアニオン)の形態で含まれていてもよい。ただし、本明細書中、非水電解液中のオキサレートホウ酸錯体成分の濃度または質量基準の量は、オキサレートホウ酸錯体のリチウム塩の濃度または質量基準の量として換算した値とする。
【0061】
(環状イミド成分)
環状イミド成分としては、例えば、環状のジアシルアミンが挙げられる。環状イミド成分は、ジアシルアミン環(またはイミド環とも称される)を有していればよい。イミド環には、他の環(第2の環とも称される)が縮合していてもよい。非水電解液は、環状イミド成分を一種含んでいてもよく、二種以上含んでいてもよい。環状イミド成分は、非水電解液に、イミドの状態で含まれていてもよく、アニオンまたは塩の形態で含まれていてもよい。非水電解液に環状イミド成分がイミドの状態で含まれる場合、フリーのNH基を有する形態で含まれていてもよく、三級アミンの形態で含まれていてもよい。
【0062】
第2の環としては、芳香環、飽和または不飽和脂肪族環などが挙げられる。第2の環には、少なくとも1つのヘテロ原子が含まれていてもよい。ヘテロ原子としては、酸素原子、イオウ原子、および窒素原子などが挙げられる。
【0063】
環状イミド成分を構成する環状イミドとしては、例えば、脂肪族ジカルボン酸イミド、および第2の環を有する環状イミドが挙げられる。脂肪族ジカルボン酸イミドとしては、例えば、コハク酸イミドなどが挙げられる。第2の環を有する環状イミドとしては、芳香族または脂環族ジカルボン酸のイミドなどが挙げられる。芳香族ジカルボン酸または脂環族ジカルボン酸は、例えば、環を構成する隣接する2つの原子にそれぞれカルボキシ基を有するものが挙げられる。第2の環を有する環状イミドとしては、例えば、フタルイミド、フタルイミドの水素添加体が挙げられる。フタルイミドの水素添加体としては、シクロヘキサ-3-エン-1,2-ジカルボキシミド、シクロヘキサン-1,2-ジカルボキシミドなどが挙げられる。
【0064】
イミド環は、イミドの窒素原子に置換基を有するN-置換イミド環であってもよい。このような置換基としては、ヒドロキシ基、アルキル基、アルコキシ基、ハロゲン原子などが挙げられる。アルキル基としては、例えば、C1-4アルキル基が挙げられ、メチル基、エチル基などであってもよい。アルコキシ基としては、例えば、C1-4アルコキシ基が挙げられ、メトキシ基、エトキシ基などであってもよい。ハロゲン原子としては、塩素原子、フッ素原子などが挙げられる。
【0065】
環状イミド成分のうち、フタルイミドおよびN-置換フタルイミドなどがより好ましい。N-置換フタルイミドの窒素原子上の置換基としては、N-置換イミド環について例示した置換基から選択できる。少なくともフタルイミドを含む環状イミド成分を用いることがさらに好ましい。
【0066】
非水電解液が上記(a)の条件を充足する場合、非水電解液中に含まれる環状イミド成分のオキサレートホウ酸錯体成分に対する質量比は、0.02以上10以下であり、0.02以上7以下または0.02以上5以下がより好ましい。質量比がこのような範囲であることで、リチウムイオン伝導性に優れる被膜が正極表面にさらに形成され易くなる。よって、リチウム一次電池の保存時のガス発生量を抑制しながら、保存後の容量低下を顕著に抑制できる。
【0067】
非水電解液中の環状イミド成分の濃度は、1質量%以下であり、0.7質量%以下であってもよい。環状イミド成分の濃度がこのような範囲である場合、リチウム一次電池を保存した後の容量の低下をさらに抑制できる。非水電解液中の環状イミド成分の濃度は、検出限界以上であればよく、0.1質量%以上であってもよい。
【0068】
リチウム一次電池の保存または放電の間、環状イミド成分は、リチウム一次電池内で被膜形成などに消費され、非水電解液中の環状イミド成分の濃度は変化する。リチウム一次電池の組み立てまたは製造に用いられる非水電解液中の環状イミド成分の濃度は、0.1質量%以上であることが好ましい。この場合、リチウム一次電池を保存したときのガス発生を効果的に抑制できる。リチウム一次電池の組み立てまたは製造に用いられる非水電解液中の環状イミド成分の濃度を、1質量%以下または0.7質量%以下とすることが好ましい。この場合、リチウム一次電池を保存した後の容量の低下を顕著に抑制できる。
【0069】
非水電解液が上記(b)の条件を充足する場合、非水電解液中の環状イミド成分の濃度は、0.1質量%以上1質量%以下であればよく、0.1質量%以上0.7質量%以下であってもよい。環状イミド成分の濃度がこのような範囲である場合、リチウム一次電池の保存時のガス発生量を抑制しながら、保存後の容量低下を顕著に抑制できる。
【0070】
また、非水電解液中に含まれる環状イミド成分のオキサレートホウ酸錯体成分に対する質量比は、0.02以上10以下であってもよく、0.02以上7以下または0.02以上5以下であってもよい。質量比がこのような範囲であることで、リチウム一次電池の保存時のガス発生量をより効果的に抑制しながら、保存後の容量低下をさらに抑制できる。
【0071】
上述のように、環状イミド成分は、非水電解液中に塩の形態で含まれていてもよい。しかし、本明細書中、非水電解液中の環状イミド成分の濃度または質量基準の量は、フリーのNH基を有する環状イミドの濃度または質量基準の量として換算した値とする。
【0072】
(非水溶媒)
非水溶媒としては、リチウム一次電池の非水電解液に一般的に用いられ得る有機溶媒が挙げられる。非水溶媒としては、エーテル、エステル、炭酸エステルなどが挙げられる。非水溶媒としては、ジメチルエーテル、γ-ブチルラクトン、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、1,2-ジメトキシエタンなどを用いることができる。非水電解液は、一種の非水溶媒を含んでいてもよく、二種以上の非水溶媒を含んでいてもよい。
【0073】
リチウム一次電池の放電特性を向上させる観点から、非水溶媒は、沸点が高い環状炭酸エステルと、低温下でも低粘度である鎖状エーテルとを含んでいることが好ましい。環状炭酸エステルは、プロピレンカーボネート(PC)およびエチレンカーボネート(EC)よりなる群から選択される少なくとも一種を含むことが好ましく、PCが特に好ましい。鎖状エーテルは、25℃において、1mPa・s以下の粘度を有することが好ましく、特にジメトキシエタン(DME)を含むことが好ましい。なお、非水溶媒の粘度は、レオセンス社製微量サンプル粘度計m-VROCを用い、25℃温度下、せん断速度10000(1/s)による測定で求められる。
【0074】
(リチウム塩)
非水電解液は、オキサレートホウ酸錯体成分および環状イミド成分以外のリチウム塩を含んでいてもよい。リチウム塩としては、例えば、リチウム一次電池で溶質として用いられるリチウム塩が挙げられる。このようなリチウム塩としては、例えば、LiCF3SO3、LiClO4、LiBF4、LiPF6、LiRaSO3(Raは炭素数1~4のフッ化アルキル基)、LiFSO3、LiN(SO2Rb)(SO2Rc)(RbおよびRcはそれぞれ独立に炭素数1~4のフッ化アルキル基)、LiN(FSO2)2、LiPO2F2が挙げられる。非水電解液は、これらのリチウム塩を一種含んでいてもよく、二種以上含んでいてもよい。
【0075】
(その他)
非水電解液に含まれるリチウムイオンの濃度(リチウム塩の合計濃度)は、例えば、0.2~2.0mol/Lであり、0.3~1.5mol/Lであってもよい。
【0076】
非水電解液は、必要に応じて、添加剤を含んでもよい。このような添加剤としては、プロパンスルトン、ビニレンカーボネートなどが挙げられる。非水電解液に含まれるこのような添加剤の合計濃度は、例えば、0.003~5mol/Lである。
【0077】
非水電解液は、リン又はホウ素を含む酸の酸性プロトンの少なくとも1つが、3つの炭化水素基を有するシリル基で置換されたシリルエステルを含まないことが好ましい。リチウム一次電池では、二次電池のように充電により正極が酸化し、高電位になる過程がない。そのため、非水電解液がこのようなシリルエステルを含む場合、正極上にはシリルエステルに由来する成分を含む被膜は形成されにくい一方で、負極上で還元分解されてガス発生などが起こり、リチウム一次電池の信頼性の低下を招くことがある。
【0078】
(セパレータ)
リチウム一次電池は、通常、正極と負極との間に介在するセパレータを備えている。セパレータとしては、リチウム一次電池の内部環境に対して耐性を有する絶縁性材料で形成された多孔質シートを使用すればよい。具体的には、合成樹脂製の不織布、合成樹脂製の微多孔膜、またはこれらの積層体などが挙げられる。
【0079】
不織布に用いられる合成樹脂としては、例えば、ポリプロピレン、ポリフェニレンサルファイド、ポリブチレンテレフタレートなどが挙げられる。微多孔膜に用いられる合成樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-プロピレン共重合体などのポリオレフィン樹脂などが挙げられる。微多孔膜は、必要により、無機粒子を含有してもよい。
【0080】
セパレータの厚みは、例えば、5μm以上100μm以下である。
【0081】
リチウム一次電池の構造は特に限定されない。リチウム一次電池は、円板状の正極と円板状の負極とをセパレータを介して積層して構成された積層型電極群を備えるコイン形電池でもよい。帯状の正極と帯状の負極とをセパレータを介して渦巻き状に捲回して構成された捲回型電極群を備える円筒形電池でもよい。
【0082】
図1に、本開示の一実施形態に係る円筒形のリチウム一次電池の一部を断面にした正面図を示す。リチウム一次電池10は、正極1と、負極2とが、セパレータ3を介して捲回された電極群が、非水電解質とともに電池ケース9に収容されている。電池ケース9の開口部には封口板8が装着されている。封口板8には、正極1の集電体1aに接続された正極リード4が接続されている。負極2に接続された負極リード5は、ケース9に接続されている。また、電極群の上部と下部には、内部短絡防止のためにそれぞれ上部絶縁板6、下部絶縁板7が配置されている。
【0083】
[リチウム一次電池の製造方法]
リチウム一次電池は、電池ケースに、正極、負極、および非水電解液を収容することにより製造できる。本開示のリチウム一次電池の製造方法は、オキサレートホウ酸錯体成分および環状イミド成分を含み、かつ上記の(b)の条件を充足する非水電解液を調製する工程を少なくとも備える。このような工程を備える製造方法により得られるリチウム一次電池では、保存時のガス発生量を抑制しながら、保存後の容量低下を顕著に抑制できる。リチウム一次電池の製造方法において、非水電解液の調製工程以外は、電池の種類などに応じて、公知の製造方法を採用できる。
【0084】
[実施例]
以下、本開示を実施例および比較例に基づいて具体的に説明するが、本開示は以下の実施例に限定されるものではない。
【0085】
《実施例1~7および比較例1~7》
(1)正極の作製
正極として、電解二酸化マンガン100質量部に、導電剤であるケッチェンブラック5質量部と、結着剤であるポリテトラフルオロエチレン5質量部と、適量の純水と、を加えて混錬し、湿潤状態の正極合剤を調製した。
【0086】
次に、正極合剤を、ステンレス鋼(SUS444)製の厚み0.1mmのエキスパンドメタルからなる正極集電体に充填して、正極前駆体を作製した。その後、正極前駆体を、乾燥させ、ロールプレスにより厚みが0.4mmになるまで圧延し、縦2.2cmおよび横1.5cmのシート状に裁断することにより、正極を得た。続いて、充填された正極合剤の一部を剥離し、正極集電体を露出させた部分にSUS444製のタブリードを抵抗溶接した。
【0087】
(2)負極の作製
厚み300μmの金属リチウム箔を縦4cmおよび横2.5cmのサイズに裁断することにより、負極を得た。負極の所定箇所にニッケル製のタブリードを圧接により接続した。
【0088】
(3)電極群の作製
正極にセパレータを巻いて負極と対向するように重ねることで、電極群を作製した。セパレータには厚み25μmのポリプロピレン製の微多孔膜を用いた。
【0089】
(4)非水電解液の調製
PCとECとDMEとを体積比4:2:4で混合した。得られる混合物に、LiCF3SO3を0.5mol/Lの濃度となるように溶解させるとともに、表1に示すオキサレートホウ酸錯体成分および環状イミド成分としてのフタルイミドを、各成分が表1に示す濃度となるように溶解させた。このようにして、非水電解液を調製した。オキサレートホウ酸錯体成分としては、LiBOBまたはジフルオロ(オキサレート)ホウ酸リチウム(LiB(C2O4)F2(LiFOB))を用いた。
【0090】
(5)リチウム一次電池の組み立て
正極および負極に接続したタブリードの一部が袋から露出するように、縦9cmおよび横6cmの筒状のアルミラミネート製の袋に電極群を収容し、タブリード側の開口部を封止した。タブリードとは反対側の開口部から、電解液0.5mLを注入し、真空熱シールにより開口部を封止した。このようにして、試験用のリチウム一次電池を作製した。リチウム一次電池の設計容量は、301mAh/gである。
【0091】
なお、実施例のリチウム一次電池において、正極合剤に含まれる硫酸塩由来のイオウ原子の量は、正極合剤に含まれるマンガン原子100質量部に対して、0.05質量部以上1.25質量部以下であった。実施例のリチウム一次電池において、正極に含まれるLixMnO2の粒子径の中央値は、25μm~27μmであり、BET比表面積は38~42m2/gであった。
【0092】
(6)評価
(6-1)保存後の容量低下
組み立て直後のリチウム一次電池を、設計容量(C0)の2.5%に相当する容量分放電した後、60℃で3日間保存した。保存後のリチウム一次電池を、二酸化マンガンの単位質量(g)当たり、4.5mAの電流で、電池電圧が2Vになるまで放電した。このときの放電容量C1(mAh/g)を求めた。C1からC0を減じることにより、容量の低下量を求めた。比較例7のリチウム一次電池における容量の低下量を100%としたときの各リチウム一次電池における容量の低下量の比率(%)を、保存後の容量低下率として求めた。この容量低下率が低いほど容量低下が抑制されていることを示す。
【0093】
(6-2)ガス発生
組み立て直後のリチウム一次電池を、設計容量の2.5%に相当する容量分放電した後、85℃で2週間保存した。保存後のリチウム一次電池を解体し、電池内に含まれるガスを捕集した。捕集したガスを、ガスクロマトグラフィーで分析し、H2、CO、CO2、およびCH4のガス量を求めた。比較例7のリチウム一次電池における体積基準のガス量を100%としたときの各リチウム一次電池における体積基準のガス量の比率(%)を求めた。この比率が小さいほど、ガス発生が少ないことを示す。
【0094】
実施例および比較例の結果を表1に示す。表1中、E1~E7は、実施例1~7であり、R1~R7は、比較例1~7である。表1では、オキサレートホウ酸錯体成分を第1成分、環状イミド成分を第2成分として記載した。
【0095】
【0096】
表1に示されるように、非水電解液が第2成分を含まず第1成分を含む場合、非水電解液が第1成分および第2成分のいずれも含まない場合に比べて、ガス発生が6%増加している(比較例1と比較例7との対比)。そのため、このガス発生は、第1成分の分解に起因するものと考えられる。それに対し、非水電解液が、第1成分に加えて第2成分を含む場合、リチウム一次電池を保存したときのガス発生を抑制できる(比較例7と実施例1~7との対比)。
【0097】
非水電解液が第1成分を含まず第2成分を含む場合、保存後の容量低下率は200%と、非水電解液が第1成分および第2成分のいずれも含まない場合に比べて格段に容量が低下する(比較例6と比較例7との対比)。非水電解液が第2成分を含まず第1成分を含む場合、保存後の容量低下率は71%と、非水電解液が第1成分および第2成分のいずれも含まない場合に比べて29%改善される(比較例1と比較例7との対比)。これらの結果からは、非水電解液が第1成分および第2成分の双方を含む場合、保存後の容量低下率は、200%-29%=171%になると類推される。ところが、実際には、非水電解液が第1成分および第2成分の双方を含む場合、保存後の容量低下率は11%となり、類推される171%という値に比べて格段に容量低下が抑制されている(実施例1)。このような効果は、明らかに第1成分および第2成分の相乗効果によるものと言える。
【0098】
また、実施例の上記のような効果は、非水電解液が上記の(a)および(b)の少なくとも一方の条件を充足する場合に得られる(実施例1~7と比較例2~5との対比)。
【産業上の利用可能性】
【0099】
本開示のリチウム一次電池では、保存に伴う容量低下およびガス発生を抑制することができる。そのため、リチウム一次電池は、例えば、各種メータの主電源、メモリーバックアップ電源として好適に用いられる。しかし、リチウム一次電池の用途は、これらに限定されるものではない。
【符号の説明】
【0100】
1 正極
1a 正極集電体
2 負極
3 セパレータ
4 正極リード
5 負極リード
6 上部絶縁板
7 下部絶縁板
8 封口板
9 電池ケース
10 リチウム一次電池