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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-13
(45)【発行日】2023-07-24
(54)【発明の名称】残留塩素計および残留塩素濃度測定方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/38 20060101AFI20230714BHJP
   G01N 27/416 20060101ALI20230714BHJP
【FI】
G01N27/38
G01N27/416 351K
G01N27/416 316Z
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2018158310
(22)【出願日】2018-08-27
(65)【公開番号】P2020034286
(43)【公開日】2020-03-05
【審査請求日】2021-08-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000133179
【氏名又は名称】株式会社タニタ
(74)【代理人】
【識別番号】100111202
【弁理士】
【氏名又は名称】北村 周彦
(74)【代理人】
【識別番号】100139365
【弁理士】
【氏名又は名称】中嶋 武雄
(72)【発明者】
【氏名】池田 悟
(72)【発明者】
【氏名】小出 哲
【審査官】小澤 理
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-138650(JP,A)
【文献】特開平11-333462(JP,A)
【文献】特開2017-053746(JP,A)
【文献】特開2005-127763(JP,A)
【文献】特開2002-350422(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2003/0019748(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第107604324(CN,A)
【文献】東亜ディーケーケー株式会社,ポータブル残留塩素計,カタログ,2011年,No.RC3-LB15803,第13頁,第32-33頁,[online], [令和5年1月12日検索], インターネット <URL: https://www.measuring.jp/pdfdoc/sui0404t.pdf>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/38
G01N 27/416
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
Scopus
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
作用電極である第1の電極と、参照電極または対極である第2の電極とを被検液に浸漬させ、前記第1の電極と前記第2の電極との間の電圧に基づいて前記被検液の残留塩素濃度を測定する測定部と、
前記第1の電極と前記第2の電極との間に前処理電圧を印加する前処理部と、
前記前処理電圧の印加後、前記前処理電圧の印加を停止し、その後、前記被検液の残留塩素濃度の測定を行うように前記測定部および前記前処理部を制御する制御部とを備え、
前記前処理部は、前記前処理電圧の波形が三角波となるように前記前処理電圧を一定の速度で掃引することを特徴とする残留塩素計。
【請求項2】
前記前処理部は、前記前処理電圧を、0Vを中心にプラス側の振幅とマイナス側の振幅とが互いに等しくなるように掃引することを特徴とする請求項に記載の残留塩素計。
【請求項3】
前記制御部は、前記前処理電圧の印加後における前記測定部による残留塩素濃度の測定回数が所定回数以上であるか否かを判断し、前記測定回数が前記所定回数以上であるときには、前記測定部による次の残留塩素濃度の測定の前に前記前処理電圧の印加を行い、前記測定回数が前記所定回数未満であるときには、前記測定部による次の残留塩素濃度の測定の前に前記前処理電圧の印加を行わないように前記前処理部を制御することを特徴とする請求項1または2に記載の残留塩素計。
【請求項4】
前記制御部は、前記前処理電圧の印加が行われてからの経過時間が所定時間以上であるか否かを判断し、前記経過時間が前記所定時間以上であるときには、前記測定部による残留塩素濃度の測定の前に前記前処理電圧の印加を行い、前記経過時間が前記所定時間未満であるときには、前記測定部による残留塩素濃度の測定の前に前記前処理電圧の印加を行わないように前記前処理部を制御することを特徴とする請求項1ないしのいずれかに記載の残留塩素計。
【請求項5】
作用電極である第1の電極と、参照電極または対極である第2の電極とを被検液に浸漬させ、前記第1の電極と前記第2の電極との間の電圧に基づいて前記被検液の残留塩素濃度を測定する残留塩素濃度測定方法であって、
前記第1の電極と前記第2の電極との間に前処理電圧を印加する前処理工程と、
前記前処理工程における前記前処理電圧の印加が停止した後に、前記第1の電極と前記第2の電極との間の電圧に基づいて前記被検液の残留塩素濃度を測定する測定工程とを備え、
前記前処理工程において、前記前処理電圧の波形が三角波となるように前記前処理電圧を一定の速度で掃引することを特徴とする残留塩素濃度測定方法。
【請求項6】
前記前処理工程において、前記前処理電圧を、0Vを中心にプラス側の振幅とマイナス側の振幅とが互いに等しくなるように掃引することを特徴とする請求項に記載の残留塩素濃度測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水道水等の被検液の残留塩素濃度を測定する残留塩素計および残留塩素濃度測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
無試薬型残留塩素計としてガルバニ方式の残留塩素計が知られている。ガルバニ方式の残留塩素計では、白金電極または金電極を作用電極として用い、銀/塩化銀電極を参照電極として用い、両電極を水道水等の被検液に浸漬させ、両電極間の電圧に基づいて被検液の残留塩素濃度を測定する。ガルバニ方式の残留塩素計の測定原理は概ね次の通りである。すなわち、作用電極および参照電極を被検液に浸漬させると、酸化還元反応により電極間に電流が流れ、電極間に電位差が生じる。この電極間の電位差は、被検液の残留塩素濃度に応じて異なる。したがって、電極間の電位差(電圧)に基づいて被検液の残留塩素濃度を測定することができる。
【0003】
また、無試薬型の他の方式の残留塩素計としてポーラログラフ方式の残留塩素計が知られている。ポーラログラフ方式の残留塩素計も、多くの場合、ガルバニ方式の残留塩素計と同様に、白金電極または金電極を作用電極として用い、銀/塩化銀電極を対極として用い、両電極を水道水等の被検液に浸漬させて被検液の残留塩素濃度の測定を行う。しかしながら、ポーラログラフ方式の残留塩素計では、ガルバニ方式の残留塩素計とは異なり、電極間に電圧を印加し、その状態で、電極間の電流値に基づいて被検液の残留塩素濃度を測定する。ポーラログラフ方式の残留塩素計の測定原理は概ね次の通りである。すなわち、作用電極および対極を被検液に浸漬させ、電極間に電圧を印加する。この印加電圧をマイナス方向に大きくしていくと、還元反応が進行し、電極間を流れる電流が増加していく。ところが、印加電圧をマイナス方向にさらに大きくしていくと、印加電圧を変化させても電極間を流れる電流が変化しなくなる現象が生じる。引き続き印加電圧をマイナス方向に大きくしていくと、電極間を流れる電流が再び増加し始める。印加電圧を変化させても電極間を流れる電流が変化しなくなる現象が生じている状態では、被検液の残留塩素濃度に応じて定まる電極間の電流値を安定的に測定することができる。したがって、上記現象が生じる電圧値を有する印加電圧を電極間に印加し、その状態で電極間の電流値を測定することにより、被検液の残留塩素濃度を精度よく測定することができる。
【0004】
ところで、ガルバニ方式およびポーラログラフ方式のいずれの残留塩素計においても、残留塩素濃度の測定を行うことにより、酸化還元反応生成物等が作用電極に付着する。酸化還元反応生成物等が作用電極に付着すると、残留塩素濃度の測定精度が低下する。この残留塩素濃度の測定精度の低下を抑制する方法として、次に述べるような方法が知られている。
【0005】
すなわち、主にポータブルタイプのガルバニ方式の残留塩素計において、測定前に、柔らかい布やメラミンスポンジ等を用いて作用電極に付着した酸化還元反応生成物等を拭き取る方法が知られている。
【0006】
また、主に、浄水場、用水処理施設等の水槽や配管等に取り付けて被検液の残留塩素濃度の連続測定を行うタイプのポーラログラフ方式の残留塩素計においては、容器内に研磨用ビーズを収容し、その容器内に臨むように作用電極を配置し、作用電極をモーター等を用いて円運動させることにより、または容器内に被検液を流し込むことにより、作用電極を研磨用ビーズで研磨する方法が知られている(下記の特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2015-117939号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記方法には、次のような問題がある。
【0009】
まず、メラミンスポンジ等で作用電極に付着した酸化還元反応生成物等を拭き取る方法については、利用者は、測定前に作用電極を拭く作業を行わなければならず、手間がかかるという問題がある。
【0010】
次に、研磨用ビーズで作用電極を研磨する方法については、その方法を実現するために、作用電極をモーターで円運動させるための装置や、研磨用ビーズを収容した容器へ被検液を導いて当該容器内に被検液を流し込ませる装置等、大がかりな装置が必要となり、残留塩素計の大型化、複雑化または価格の上昇を招くという問題がある。
【0011】
本発明は例えば上述したような問題に鑑みなされたものであり、本発明の課題は、酸化還元反応生成物等が作用電極に付着することに起因する残留塩素濃度の測定精度の低下を、利用者に手間をかけることなく、かつ残留塩素計の大型化、複雑化または高価格化を招くことなく抑制することができる残留塩素計および残留塩素濃度測定方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、本発明の残留塩素計は、作用電極である第1の電極と、参照電極または対極である第2の電極とを被検液に浸漬させ、第1の電極と第2の電極との間の電圧に基づいて被検液の残留塩素濃度を測定する測定部と、第1の電極と第2の電極との間に前処理電圧を印加する前処理部と、前処理電圧の印加後、前処理電圧の印加を停止し、その後、被検液の残留塩素濃度の測定を行うように測定部および前処理部を制御する制御部とを備えていることを特徴とする。
【0013】
本発明の残留塩素計によれば、前処理電圧を第1の電極と第2の電極との間に印加することで、前回またはそれよりも前に行った残留塩素濃度の測定により第1の電極に付着した酸化還元反応生成物等の少なくとも一部を除去することができる。そして、前処理電圧の印加を終えた後に残留塩素濃度の測定を行うことで、酸化還元反応生成物等の第1の電極への付着に起因する残留塩素濃度の測定精度の低下を抑制することができる。したがって、測定前にメラミンスポンジ等で作用電極に付着した酸化還元反応生成物等を拭き取る作業をなくすことができる。また、研磨用ビーズで作用電極を研磨するための大がかりな装置を不要とすることができる。
【0014】
上記本発明の残留塩素計において、前処理部は前処理電圧を掃引する構成としてもよい。前処理電圧を掃引することにより、直流の前処理電圧を印加する場合と比較して、被検液の残留塩素濃度の測定精度を安定させることができる。
【0015】
また、上記本発明の残留塩素計において、前処理部は、前処理電圧を、0Vを中心にプラス側の振幅とマイナス側の振幅とが互いに等しくなるように掃引する構成としてもよい。この構成により、前処理部または制御部を構成する電気回路の設計が複雑化することを防止することができる。
【0016】
また、上記本発明の残留塩素計において、前処理部は、前処理電圧を一定の速度で掃引する構成としてもよい。この構成によっても、前処理部または制御部を構成する電気回路の設計が複雑化することを防止することができる。
【0017】
また、上記本発明の残留塩素計において、制御部は、前処理電圧の印加後における測定部による残留塩素濃度の測定回数が所定回数以上であるか否かを判断し、当該測定回数が所定回数以上であるときには、測定部による次の残留塩素濃度の測定の前に前処理電圧の印加を行い、当該測定回数が所定回数未満であるときには、測定部による次の残留塩素濃度の測定の前に前処理電圧の印加を行わないように前処理部を制御する構成としてもよい。この構成によれば、前処理電圧の印加を行う頻度を下げることができる。したがって、酸化還元反応生成物等が第1の電極に付着することに起因する残留塩素濃度の測定精度の低下を抑制しつつも、測定作業を迅速化させることができ、かつ消費電力を削減することができる。
【0018】
また、上記本発明の残留塩素計において、制御部は、前処理電圧の印加が行われてからの経過時間が所定時間以上であるか否かを判断し、当該経過時間が所定時間以上であるときには、測定部による残留塩素濃度の測定の前に前処理電圧の印加を行い、当該経過時間が所定時間未満であるときには、測定部による残留塩素濃度の測定の前に前処理電圧の印加を行わないように前処理部を制御する構成としてもよい。この構成によっても、前処理電圧の印加を行う頻度を下げることができ、測定作業の迅速化および消費電力の削減を図ることができる。
【0019】
また、上記課題を解決するために、本発明の残留塩素濃度測定方法は、作用電極である第1の電極と、参照電極または対極である第2の電極とを被検液に浸漬させ、第1の電極と第2の電極との間の電圧に基づいて被検液の残留塩素濃度を測定する残留塩素濃度測定方法であって、第1の電極と第2の電極との間に前処理電圧を印加する前処理工程と、前処理工程における前処理電圧の印加が停止した後に、第1の電極と第2の電極との間の電圧に基づいて被検液の残留塩素濃度を測定する測定工程とを備えていることを特徴とする。
【0020】
本発明の残留塩素濃度測定方法によれば、上述した本発明の残留塩素計と同様に、第1の電極に付着した酸化還元反応生成物等の少なくとも一部を除去することができ、酸化還元反応生成物等の第1の電極への付着に起因する残留塩素濃度の測定精度の低下を抑制することができる。
【0021】
また、上記本発明の残留塩素濃度測定方法の前処理工程において、前処理電圧を掃引することとしてもよい。これにより、直流の前処理電圧を印加する場合と比較して、被検液の残留塩素濃度の測定精度を安定させることができる。
【0022】
また、上記本発明の残留塩素濃度測定方法の前処理工程において、前処理電圧を、0Vを中心にプラス側の振幅とマイナス側の振幅とが互いに等しくなるように掃引することとしてもよい。また、上記本発明の残留塩素濃度測定方法の前処理工程において、前処理電圧を一定の速度で掃引することとしてもよい。これらの各構成によれば、前処理工程において前処理電圧を印加するための電気回路の設計が複雑化することを防止することができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、酸化還元反応生成物等が作用電極に付着することに起因する残留塩素濃度の測定精度の低下を、利用者に手間をかけることなく、かつ残留塩素計の大型化、複雑化または高価格化を招くことなく抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本発明の第1の実施形態の残留塩素計の構成を示すブロック図である。
図2】本発明の第1の実施形態の残留塩素計を示す外観図である。
図3】本発明の第1の実施形態の残留塩素計の動作を示すフローチャートである。
図4】本発明の第1の実施形態の残留塩素計における前処理電圧の波形を示す波形図である。
図5】本発明の第1の実施形態の残留塩素計における前処理電圧を示すボルタモグラムである。
図6】(A)擦り拭きも前処理電圧の印加も行わなかった場合、および(B)擦り拭きを行った場合のそれぞれにつき、残留塩素計の作用電極と参照電極との間の被検液浸漬時の電圧を示すグラフである。
図7】(A)擦り拭きも前処理電圧の印加も行わなかった場合、および(B)前処理電圧の印加を行った場合のそれぞれにつき、残留塩素計の作用電極と参照電極との間の被検液浸漬時の電圧を示すグラフである。
図8】測定後に研磨処理も前処理電圧の印加も行わなかった場合、測定後に研磨処理を行った場合、および測定後に前処理電圧の印加を行った場合のそれぞれにつき、残留塩素計の作用電極の表面分析結果を示す表である。
図9】(A)擦り拭きを行ってから測定した場合、および(B)前処理電圧の印加を行ってから測定した場合のそれぞれにつき、残留塩素計の作用電極と参照電極との間の被検液浸漬時の電圧の経時変化を示すグラフである。
図10】(A)前処理電圧を掃引した場合、(B)前処理電圧としてプラスの直流電圧を印加した場合、および(C)前処理電圧としてマイナスの直流電圧を印加した場合のそれぞれにつき、残留塩素計の作用電極と参照電極との間の被検液浸漬時の電圧を示すグラフである。
図11】本発明の第2の実施形態の残留塩素計の動作を示すフローチャートである。
図12】本発明の第1または第2の実施形態の残留塩素計における前処理電圧波形の変形例を示す波形図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
(第1の実施形態)
まず、本発明の第1の実施形態の残留塩素計1について説明する。図1は残留塩素計1の構成を示している。図2は残留塩素計1の外観を示している。図1に示すように、残留塩素計1は、水道水等の被検液Eの残留塩素濃度を測定する装置である。残留塩素計1は残留塩素濃度の測定方式としてガルバニ方式を採用している。残留塩素計1は、作用電極2、参照電極3、処理回路4および電源回路5を備えている。さらに、残留塩素計1は、図2に示すように、筐体6、操作ボタン7および表示部8を備えている。
【0026】
図2において、筐体6は全体的に見て上下方向に細長い形状を有し、その上側部分は大略直方体状に形成されている。また、筐体6の下側部分は、上側部分の幅および厚さのそれぞれの寸法と比較して小さい径寸法を有する円筒状に形成されている。作用電極2および参照電極3は筐体6の下端部に取り付けられ、操作ボタン7および表示部8は筐体6の上側部分に取り付けられている。また、処理回路4および電源回路5は筐体6の上側部分の内部に収容されている。さらに、筐体6の上側部分には電池収容部(図示せず)が設けられ、電池収容部内には電池9が収容されている。なお、残留塩素計1の電源は電池に限定されない。
【0027】
作用電極2は白金電極または金電極等であり、例えば線状に形成されている。なお、作用電極2をディスク状に形成してもよい。参照電極3は銀/塩化銀電極等であり、線状に形成されている。また、参照電極3の電位は基準電位に設定されている。本実施形態において基準電位は0Vである。
【0028】
処理回路4は、前処理部としての前処理電圧印加回路11、測定部としての測定回路12、切換器13、制御部としてのマイクロコントローラー14、および記憶回路15を備えている。
【0029】
前処理電圧印加回路11は、作用電極2と参照電極3との間に前処理電圧を印加する回路である。後述するように、残留塩素計1は、被検液Eの残留塩素濃度の測定を行う前に作用電極2と参照電極3との間に電圧を印加する。この測定前に電圧を印加する処理が「前処理」であり、この処理で印加する電圧が「前処理電圧」である。また、前処理電圧印加回路11は前処理電圧を掃引する機能を有している。
【0030】
測定回路12は、作用電極2と参照電極3との間の電圧に基づき、被検液Eの残留塩素濃度を測定する回路である。例えば、測定回路12は、作用電極2と参照電極3との間の電圧をアナログーデジタル変換し、デジタル化された電圧値に対応する残留塩素濃度値を、電極間の電圧値と残留塩素濃度値との対応関係が予め記録されたデータテーブルを参照する方法、または所定の計算式等により演算する方法により特定する。そして、測定回路12は、特定した残留塩素濃度値をマイクロコントローラー14へ出力する。
【0031】
切換器13は、作用電極2と参照電極3との間へ前処理電圧を印加する経路と、作用電極2と参照電極3との間の電圧に基づいて残留塩素濃度を測定する経路とを切り換える回路である。具体的には、切換器13において、接点aと接点cとが接続されたとき、前処理電圧印加回路11から作用電極2と参照電極3との間へ前処理電圧を印加する経路が形成される。一方、切換器13において、接点bと接点cとが接続されたとき、測定回路12により作用電極2と参照電極3との間の電圧に基づいて残留塩素濃度を測定する経路が形成される。
【0032】
マイクロコントローラー14は、前処理電圧印加回路11、測定回路12、および切換器13を制御する装置であり、演算処理回路等を有している。マイクロコントローラー14は、切換器13へ切換制御信号を出力し、切換器13において、接点aと接点cとが接続された状態と、接点bと接点cとが接続された状態とを切り換えることができる。また、マイクロコントローラー14は、前処理制御信号を前処理電圧印加回路11へ出力し、前処理電圧の出力を開始させることができる。また、マイクロコントローラー14は、測定制御信号を測定回路12へ出力し、残留塩素濃度の測定を開始させることができる。また、マイクロコントローラー14は、利用者により操作ボタン7が押下されたときに、それに応じて前処理を開始し、前処理を終えた後、測定処理を行う。また、マイクロコントローラー14は、残留塩素濃度の測定結果を表示部8に表示させることができる。表示部8は例えば液晶ディスプレイである。記憶回路15は、半導体記憶素子を備えており、マイクロコントローラー14による処理に用いられるデータ等を記憶する。
【0033】
電源回路5は、電池9から得た電力を、前処理電圧印加回路11、測定回路12、切換器13、マイクロコントローラー14、記憶回路15、操作ボタン7の回路および表示部8へ供給する回路である。
【0034】
図3は残留塩素計1の動作を示している。被検液Eの残留塩素濃度の測定を行う際に、利用者は、残留塩素計1の下端部を被検液E中に入れ、作用電極2および参照電極3を被検液Eに浸漬させる。そして、利用者は、作用電極2および参照電極3が被検液Eに浸かった状態で、操作ボタン7を押下する。
【0035】
残留塩素計1のマイクロコントローラー14は、図3中のステップS1に示すように、操作ボタン7の押下を検知する(ステップS1:YES)。続いて、マイクロコントローラー14は、切換制御信号を切換器13へ出力し、切換器13の接点aと接点cとを接続する。続いて、マイクロコントローラー14は、前処理制御信号を前処理電圧印加回路11へ出力し、前処理電圧の出力を開始させる。これにより、前処理電圧の作用電極2と参照電極3との間への印加が開始される(ステップS2:前処理工程)。
【0036】
ここで、図4は前処理電圧の波形を示している。また、図5は前処理電圧のボルタモグラムを示している。前処理電圧印加回路11は、例えば図4および図5に示すように、前処理電圧を掃引する。すなわち、前処理電圧印加回路11は、前処理電圧を、0Vを中心にプラス側の振幅とマイナス側の振幅とが互いに等しくなるように掃引する。本実施形態では、例えば、前処理電圧のプラス側のピーク値が1.5Vであり、マイナス側のピーク値が-1.5Vである。また、前処理電圧印加回路11は、前処理電圧を一定の速度で掃引する。本実施形態では、例えば、前処理電圧の掃引速度は0.5V/秒である。このように、前処理電圧を、0Vを中心にプラス側の振幅とマイナス側の振幅とが互いに等しくなるように掃引することにより、または、前処理電圧を一定の速度で掃引することにより、前処理電圧印加回路11の設計が複雑化することを防止することができる。
【0037】
また、前処理電圧印加回路11は、前処理電圧を一定のパターンで掃引する。本実施形態における前処理電圧のパターンは次の通りである。すなわち、図4に示すように、前処理電圧の開始時の電圧値は0Vである。続いて、前処理電圧は、0Vから0.5V/秒の速度で3秒間増加する。この結果、前処理電圧の電圧値は1.5Vに達する。続いて、前処理電圧は、1.5Vから0.5V/秒の速度で6秒間減少する。この結果、前処理電圧の電圧値は-1.5Vに達する。続いて、前処理電圧は、-1.5Vから0.5V/秒の速度で3秒間増加する。この結果、前処理電圧の電圧値は0Vになる。前処理電圧印加回路11は、このようなパターンで前処理電圧を12秒間掃引した後、前処理電圧の出力を停止する。その結果、前処理電圧の波形は、三角波の1周期分に相当する波形となる。
【0038】
前処理電圧の出力が停止された後、マイクロコントローラー14は、切換制御信号を切換器13へ出力し、切換器13の接点bと接点cとを接続する。続いて、マイクロコントローラー14は、測定制御信号を測定回路12へ出力し、被検液Eの残留塩素濃度の測定を開始させる。測定回路12は、作用電極2と参照電極3との間の電圧に基づいて被検液Eの残留塩素濃度を測定し、測定した残留塩素濃度値をマイクロコントローラー14へ出力する(ステップS3:測定工程)。
【0039】
続いて、マイクロコントローラー14は、測定回路12による残留塩素濃度の測定結果を表示部8に表示する(ステップS4)。
【0040】
本発明の第1の実施形態の残留塩素計1によれば、前処理電圧を作用電極2と参照電極3との間に印加することで、前回またはそれよりも前に行った残留塩素濃度の測定により作用電極2に付着した酸化還元反応生成物等の少なくとも一部を除去することができる。そして、前処理電圧の印加を終えた後に残留塩素濃度の測定を行うことで、酸化還元反応生成物等の作用電極2への付着に起因する残留塩素濃度の測定精度の低下を抑制することができる。残留塩素計1のこの作用効果は、以下に述べるいくつかの実験により確認された。
【0041】
(第1の実験)
まず、作用電極の擦り拭きも前処理電圧の印加も行わなかった場合、作用電極の擦り拭きを行った場合、および前処理電圧の印加を行った場合のそれぞれにつき、残留塩素計の作用電極と参照電極との間の被検液浸漬時の電圧を測定する実験を行った。この実験を「第1の実験」という。
【0042】
第1の実験では、本発明の第1の実施形態の残留塩素計1と同じ作用電極、参照電極および測定回路を備え、作用電極と参照電極との間の電圧値を外部にデータとして出力することができる機能が設けられた実験用のガルバニ方式の残留塩素計を用いた。第1の実験を行うに当たり、このような残留塩素計であって、その作用電極および参照電極を例えば水道水等の被検液に十数秒間浸漬させた後、被検液から出し、そのまま1年程度放置しておいたものを6つ用意した。これら6つの残留塩素計を、残留塩素計M1~M6ということとする。さらに、第1の実験を行うに当たり、被検液として、純水、残留塩素濃度を約0.2mg/Lに調整した調整水、残留塩素濃度を約0.4mg/Lに調整した調整水、および残留塩素濃度を約0.8mg/Lに調整した調整水を用意した。そして、残留塩素計M1~M3を用いて、作用電極の擦り拭きも前処理電圧の印加も行わない場合における作用電極と参照電極との間の被検液浸漬時の電圧と、作用電極の擦り拭きを行った場合における作用電極と参照電極との間の被検液浸漬時の電圧とをそれぞれ測定した。また、残留塩素計M4~M6を用いて、作用電極の擦り拭きも前処理電圧の印加も行わない場合における作用電極と参照電極との間の被検液浸漬時の電圧と、前処理電圧を印加した場合における作用電極と参照電極との間の被検液浸漬時の電圧とをそれぞれ測定した。
【0043】
第1の実験について、より具体的に説明する。まず、残留塩素計M1の作用電極および参照電極を被検液に浸漬させ、その状態で両電極間の電圧を測定する作業を、上記4種の被検液に対して順次に連続的に行った(工程1-1)。次に、残留塩素計M1の作用電極をメラミンスポンジ等で十分に擦り拭きした(工程1-2)。擦り拭きを終えた直後、残留塩素計M1の作用電極および参照電極を被検液に浸漬させ、その状態で両電極間の電圧を測定する作業を、上記4種の被検液に対して順次に連続的に行った(工程1-3)。次に、残留塩素計M2を用いて工程1-1から1-3までを行い、次に、残留塩素計M3を用いて工程1-1から1-3までを行った。
【0044】
また、残留塩素計M4の作用電極および参照電極を被検液に浸漬させ、その状態で両電極間の電圧を測定する作業を、上記4種の被検液に対して順次に連続的に行った(工程1-4)。次に、残留塩素計M4の作用電極および参照電極を上記4種の被検液のうちのいずれかに浸漬させ、その状態で、ポテンショスタット等の外部装置を用いて、残留塩素計M4の作用電極と参照電極との間に図4に示す掃引パターンの前処理電圧を印加した(工程1-5)。前処理電圧の印加を終えた直後、残留塩素計M4の作用電極および参照電極を被検液に浸漬させ、その状態で両電極間の電圧を測定する作業を、上記4種の被検液に対して順次に連続的に行った(工程1-6)。次に、残留塩素計M5を用いて工程1-4から1-6までを行い、次に、残留塩素計M6を用いて工程1-4から1-6までを行った。
【0045】
なお、工程1-1から1-3までを3つの残留塩素計M1~M3を用いて3回行い、工程1-4から1-6までを3つの残留塩素計M4~M6を用いて3回行う理由は、実験の精度を確認するためである。
【0046】
図6(A)は、工程1-1において得られた各残留塩素計M1~M3の作用電極と参照電極との間の電圧の測定結果を示している。これらは、作用電極の擦り拭きも前処理電圧の印加も行わなかった場合における各残留塩素計M1~M3の作用電極と参照電極との間の被検液浸漬時の電圧の測定結果である。また、図6(A)中の破線は、残留塩素計として許容される誤差範囲の上限に対応する、作用電極と参照電極との間の被検液浸漬時の電圧値(上限電圧値U)を示している。また、図6(A)中の二点鎖線は、残留塩素計として許容される誤差範囲の下限に対応する、作用電極と参照電極との間の被検液浸漬時の電圧値(下限電圧値L)を示している。なお、図6(B)、図7(A)および図7(B)にも、上限電圧値Uを示す破線と、下限電圧値Lを示す二点鎖線が描かれている。図6(A)を見るとわかる通り、残留塩素計M1~M3の作用電極と参照電極との間の電圧はいずれも、本実験で用いた4種の被検液の残留塩素濃度のすべてにおいて下限電圧値Lを下回っている。すなわち、作用電極の擦り拭きも前処理電圧の印加も行わないで被検液の残留塩素濃度を測定した場合には、残留塩素濃度の正しい測定結果が得られない。
【0047】
図6(B)は、工程1-3において得られた各残留塩素計M1~M3の作用電極と参照電極との間の電圧の測定結果を示している。これらは作用電極の擦り拭きを行った場合における各残留塩素計M1~M3の作用電極と参照電極との間の被検液浸漬時の電圧の測定結果である。図6(B)を見るとわかる通り、残留塩素計M1~M3の作用電極と参照電極との間の電圧はいずれも、本実験で用いた4種の被検液の残留塩素濃度のすべてにおいて下限電圧値L以上であり、かつ上限電圧値U以下である。すなわち、作用電極の擦り拭きを行ってから被検液の残留塩素濃度を測定した場合には、残留塩素濃度の正しい測定結果が得られる。
【0048】
そして、図6(A)と図6(B)とを比較するとわかる通り、作用電極の擦り拭きを行うことで、前回またはそれよりも前に行った残留塩素濃度の測定により作用電極に付着した酸化還元反応生成物等の少なくとも一部を除去することができ、擦り拭き後に残留塩素濃度の測定を行うことで、酸化還元反応生成物等の作用電極への付着に起因する残留塩素濃度の測定精度の低下を抑制することができる。
【0049】
図7(A)は、工程1-4において得られた各残留塩素計M4~M6の作用電極と参照電極との間の電圧の測定結果を示している。これらは作用電極の擦り拭きも前処理電圧の印加も行わなかった場合における各残留塩素計M4~M6の作用電極と参照電極との間の被検液浸漬時の電圧の測定結果である。図7(A)を見るとわかる通り、残留塩素計M4~M6の作用電極と参照電極との間の電圧はいずれも、本実験で用いた4種の被検液の残留塩素濃度のすべてにおいて下限電圧値Lを下回っている。すなわち、作用電極の擦り拭きも前処理電圧の印加も行わないで被検液の残留塩素濃度を測定した場合、残留塩素濃度の正しい測定結果が得られないことが、残留塩素計M4~M6のそれぞれについても確認された。
【0050】
図7(B)は、工程1-6において得られた各残留塩素計M4~M6の作用電極と参照電極との間の電圧の測定結果を示している。これらは前処理電圧を印加した場合における各残留塩素計M4~M6の作用電極と参照電極との間の被検液浸漬時の電圧の測定結果である。図7(B)を見るとわかる通り、残留塩素計M4~M6の作用電極と参照電極との間の電圧はいずれも、本実験で用いた4種の被検液の残留塩素濃度のすべてにおいて下限電圧値L以上であり、かつ上限電圧値U以下である。すなわち、前処理電圧を印加してから被検液の残留塩素濃度を測定した場合には、残留塩素濃度の正しい測定結果が得られる。
【0051】
そして、図7(A)と図7(B)とを比較するとわかる通り、作用電極と参照電圧との間に前処理電圧を印加することで、前回またはそれよりも前に行った残留塩素濃度の測定により作用電極に付着した酸化還元反応生成物等の少なくとも一部を除去することができ、前処理電圧の印加後に残留塩素濃度の測定を行うことで、酸化還元反応生成物等の作用電極への付着に起因する残留塩素濃度の測定精度の低下を抑制することができる。
【0052】
以上、第1の実験により、本発明の第1の実施形態の残留塩素計1において、作用電極2と参照電極3との間に前処理電圧を印加した後に被検液Eの残留塩素濃度の測定を行うことで、作用電極2の擦り拭きを行った後に被検液Eの残留塩素濃度の測定する場合と同程度に、残留塩素濃度の測定精度の低下を抑制することができることが確認された。
【0053】
本発明の第1の実施形態の残留塩素計1によれば、被検液Eの残留塩素濃度の測定前に、作用電極2と参照電極3との間に前処理電圧を印加することで、酸化還元反応生成物等が作用電極2に付着することに起因する残留塩素濃度の測定精度の低下を抑制することができる。したがって、測定前に柔らかい布やメラミンスポンジ等で作用電極2に付着した酸化還元反応生成物等を拭き取る作業をなくすことができる。また、研磨用ビーズで作用電極2を研磨するために、作用電極2をモーターで円運動させる装置や、研磨用ビーズを収容した容器に被検液Eを流し込ませる装置等の大がかりな装置が不要となり、残留塩素計1の大型化、複雑化および高価格化を防止することができる。
【0054】
(作用電極の表面分析)
参考までに、作用電極の研磨処理も前処理電圧の印加も行わなかった場合、作用電極の研磨処理を行った場合、および前処理電圧の印加を行った場合のそれぞれにつき、作用電極の表面分析結果を示す。表面分析の手法として、X線光電分光法(XPS)を採用した。
【0055】
具体的には、本発明の第1の実施形態の残留塩素計1と同じ作用電極(白金電極を採用)、参照電極および測定回路を備えた実験用のガルバニ方式の残留塩素計であって、その作用電極および参照電極を例えば水道水等の被検液に十数秒間浸漬させた後、被検液から出し、そのまま1年程度放置しておいたものを3つ用意した。これら3つの残留塩素計を残留塩素計M11~M13ということとする。そして、残留塩素計M11については、作用電極および参照電極を水道水に十数秒間浸漬させた後、作用電極の研磨処理も、作用電極と参照電極との間への前処理電圧の印加も行わずに作用電極の表面分析を行った。また、残留塩素計M12については、作用電極および参照電極を水道水に十数秒間浸漬させた後、研磨剤(ダイヤモンドペースト)を用いて作用電極を研磨する処理(研磨処理)を行い、その直後に作用電極の表面分析を行った。また、残留塩素計M13については、作用電極および参照電極を水道水に十数秒間浸漬させ、浸漬中に作用電極と参照電極との間に、図4に示す掃引パターンの前処理電圧を印加し、浸漬を終えた直後に作用電極の表面分析を行った。
【0056】
図8は各残留塩素計M11~M13の作用電極の表面分析の結果を示している。図8からわかる通り、残留塩素計M11の作用電極の表面における白金(Pt)の割合は11.1%であるのに対し、残留塩素計M12の作用電極の表面における白金の割合は36.3%である。すなわち、残留塩素計M12の作用電極の表面における白金の割合の方が、残留塩素計M11の作用電極の表面における白金の割合よりも大きい。これは、作用電極に研磨処理を施したことにより、作用電極の表面に付着した酸化還元反応生成物等の一部が除去されたことを意味する。
【0057】
また、図8からわかる通り、残留塩素計M11の作用電極の表面における白金の割合は11.1%であるのに対し、残留塩素計M13の作用電極の表面における白金の割合は22.4%である。すなわち、残留塩素計M13の作用電極の表面における白金の割合の方が、残留塩素計M11の作用電極の表面における白金の割合よりも大きい。これは、作用電極と参照電極との間に前処理電圧を印加したことにより、作用電極の表面に付着した酸化還元反応生成物等の一部が除去されたことを意味する。
【0058】
また、図8からわかる通り、残留塩素計M13の作用電極の表面における白金の割合は、残留塩素計M12の作用電極の表面における白金の割合に近い。これは、残留塩素計の作用電極に対して研磨処理を施すことにより得られる酸化還元反応生成物等の除去効果に近い効果が、残留塩素計の作用電極と参照電極との間に前処理電圧を印加することによって得られることを意味する。
【0059】
(第2の実験)
次に、作用電極の擦り拭きを行った残留塩素計、および作用電極と参照電極との間に前処理電圧を印加した残留塩素計のそれぞれにつき、作用電極と参照電極との間の被検液浸漬時の電圧を所定の時間間隔を置いて複数回測定する実験を行った。この実験を「第2の実験」という。
【0060】
第2の実験では、第1の実験と同様に、本発明の第1の実施形態の残留塩素計1と同じ作用電極、参照電極および測定回路を備え、作用電極と参照電極との間の電圧値を外部にデータとして出力することができる機能が設けられた実験用のガルバニ方式の残留塩素計を用いた。第2の実験を行うに当たり、このような残留塩素計であって、その作用電極および参照電極を例えば水道水等の被検液に十数秒間浸漬させた後、被検液から出し、そのまま1年程度放置しておいたものを10個用意した。これら10個の残留塩素計を、残留塩素計M21~M30ということとする。さらに、第2の実験を行うに当たり、被検液として、残留塩素濃度を約0.2mg/Lに調整した調整水、残留塩素濃度を約0.4mg/Lに調整した調整水、および残留塩素濃度を約0.8mg/Lに調整した調整水を用意した。そして、残留塩素計M21~M25を用いて、作用電極の擦り拭きを行った後の作用電極と参照電極との間の被検液浸漬時の電圧を所定の時間間隔を置いて複数回測定した。また、残留塩素計M26~M30を用いて、前処理電圧を印加した後の作用電極と参照電極との間の被検液浸漬時の電圧を所定の時間間隔を置いて複数回測定した。
【0061】
第2の実験について、より具体的に説明する。まず、残留塩素計M21の作用電極をメラミンスポンジ等で十分に擦り拭きした(工程2-1)。擦り拭きを終えた直後、残留塩素計M21の作用電極および参照電極を被検液に浸漬させ、その状態で両電極間の電圧を測定する作業を、上記3種の被検液に対して順次に連続的に行った(工程2-2)。次に、残留塩素計M21を直ちに被検液から出して大気中に放置した(工程2-3)。次に、同日中に、残留塩素計M22~M25を用いて、工程2-1から工程2-3までをそれぞれ順次連続的に行った。次に、残留塩素計M21~M25を用いて工程2-1を行った日から1日、7日、14日、21日および28日経過したそれぞれの日に、残留塩素計M21~M25を用いて工程2-2および2-3のみをそれぞれ順次に連続的に行った。
【0062】
また、残留塩素計M26の作用電極および参照電極を上記3種の被検液のうちのいずれかに浸漬させ、その状態で、ポテンショスタット等の外部装置を用いて、残留塩素計M26の作用電極と参照電極との間に、図4に示す掃引パターンの前処理電圧を印加した(工程2-4)。前処理電圧の印加を終えた直後、残留塩素計M26の作用電極および参照電極を被検液に浸漬させ、その状態で両電極間の電圧を測定する作業を、上記3種の被検液に対して順次に連続的に行った(工程2-5)。次に、残留塩素計M26を直ちに被検液から出して大気中に放置した(工程2-6)。次に、同日中に、残留塩素計M27~M30を用いて、工程2-4から工程2-6までをそれぞれ順次連続的に行った。次に、残留塩素計M26~M30を用いて工程2-4を行った日から1日、7日、14日、21日および28日経過したそれぞれの日に、残留塩素計M26~M30を用いて工程2-5および2-6のみをそれぞれ順次に連続的に行った。
【0063】
図9(A)は、工程2-2において得られた残留塩素計M21~M25のそれぞれの作用電極と参照電極との間の被検液浸漬時の電圧の平均値を、経過日数ごと、かつ被検液の残留塩素濃度ごとに算出し、それら平均値の経過日数に応じた変化を描いたものである。また、図9(B)は、工程2-5において得られた残留塩素計M26~M30のそれぞれの作用電極と参照電極との間の被検液浸漬時の電圧の平均値を、経過日数ごと、かつ被検液の残留塩素濃度ごとに算出し、それら平均値の経過日数に応じた変化を描いたものである。また、図9(A)および(B)中の二点鎖線は、残留塩素計として許容される誤差範囲の下限に対応する、作用電極と参照電極との間の被検液浸漬時の電圧値(下限電圧値La、Lb、Lc)を残留塩素濃度ごとに示している。下限電圧値Laは、残留塩素濃度が約0.2mg/Lの被検液に作用電極および参照電極が浸漬されたときの下限電圧値である。下限電圧値Lbは、残留塩素濃度が約0.4mg/Lの被検液に作用電極および参照電極が浸漬されたときの下限電圧値である。下限電圧値Lcは、残留塩素濃度が約0.8mg/Lの被検液に作用電極および参照電極が浸漬されたときの下限電圧値である。
【0064】
図9(A)を見るとわかる通り、作用電極の擦り拭きを行った残留塩素計M21~M25は、第2の実験の開始日に作用電極および参照電極を被検液に浸漬させた後、1日経過しただけで、作用電極と参照電極との間の被検液浸漬時の電圧が、すべての残留塩素濃度につき、それぞれの下限電圧値La、Lb、Lcを下回っている。一方、図9(B)を見るとわかる通り、作用電極と参照電極との間に前処理電圧を印加した残留塩素計M26~M30は、第2の実験の開始日に作用電極および参照電極を被検液に浸漬させた後、21日に経過した時点において、作用電極と参照電極との間の被検液浸漬時の電圧が、すべての残留塩素濃度につき、それぞれの下限電圧値La、Lb、Lc以上である。そして、図9(A)と図9(B)とを比較するとわかる通り、残留塩素計の作用電極と参照電極との間に前処理電圧を印加する方が、残留塩素計の作用電極の擦り拭きを行うよりも、酸化還元反応生成物等が作用電極に付着することに起因する残留塩素濃度の測定精度の低下を抑制する効果の持続時間が長い。
【0065】
以上、第2の実験により、本発明の第1の実施形態の残留塩素計1において、作用電極2と参照電極3との間に前処理電圧を印加することで、酸化還元反応生成物等が作用電極2に付着することに起因する残留塩素濃度の測定精度の低下を抑制する効果を、長時間持続させることができることが確認された。
【0066】
(第3の実験)
次に、前処理電圧を掃引した場合、前処理電圧としてプラスの直流電圧を印加した場合、および前処理電圧としてマイナスの直流電圧を印加した場合のそれぞれにつき、残留塩素計の作用電極と参照電極との間の被検液浸漬時の電圧を測定する実験を行った。この実験を「第3の実験」という。
【0067】
第3の実験では、第1の実験と同様に、本発明の第1の実施形態の残留塩素計1と同じ作用電極、参照電極および測定回路を備え、作用電極と参照電極との間の電圧値を外部にデータとして出力することができる機能が設けられた実験用のガルバニ方式の残留塩素計を用いた。第3の実験を行うに当たり、このような残留塩素計であって、その作用電極および参照電極を例えば水道水等の被検液に十数秒間浸漬させた後、被検液から出し、そのまま1年程度放置しておいたものを9個用意した。これら9個の残留塩素計を、残留塩素計M41~M49ということとする。さらに、第3の実験を行うに当たり、被検液として、純水、残留塩素濃度を約0.3mg/Lに調整した調整水、および残留塩素濃度を約0.9mg/Lに調整した調整水を用意した。そして、残留塩素計M41~M43を用いて、前処理電圧を掃引した場合における作用電極と参照電極との間の被検液浸漬時の電圧を測定した。また、残留塩素計M44~M46を用いて、前処理電圧としてプラスの直流電圧を印加した場合における作用電極と参照電極との間の被検液浸漬時の電圧を測定した。また、残留塩素計M47~M49を用いて、前処理電圧としてマイナスの直流電圧を印加した場合における作用電極と参照電極との間の被検液浸漬時の電圧を測定した。
【0068】
第3の実験について、より具体的に説明する。まず、残留塩素計M41の作用電極および参照電極を上記3種の被検液のうちのいずれかに浸漬させ、その状態で、ポテンショスタット等の外部装置を用いて、残留塩素計M41の作用電極と参照電極との間に図4に示す掃引パターンの前処理電圧を印加した(工程3-1)。この前処理電圧のプラス側のピーク値は1.5Vとし、マイナス側のピーク値は-1.5Vとし、印加時間は12秒とした。前処理電圧の印加を終えた直後、残留塩素計M41の作用電極および参照電極を被検液に浸漬させ、その状態で両電極間の電圧を測定する作業を、上記3種の被検液に対して順次に連続的に行った(工程3-2)。次に、残留塩素計M42を用いて工程3-1および3-2を行い、次に、残留塩素計M43を用いて工程3-1および3-2を行った。
【0069】
また、残留塩素計M44の作用電極および参照電極を上記3種の被検液のうちのいずれかに浸漬させ、その状態で、ポテンショスタット等の外部装置を用いて、残留塩素計M44の作用電極と参照電極との間に前処理電圧として1.5Vの直流電圧を12秒間印加した(工程3-3)。前処理電圧の印加を終えた直後、残留塩素計M44の作用電極および参照電極を被検液に浸漬させ、その状態で両電極間の電圧を測定する作業を、上記3種の被検液に対して順次に連続的に行った(工程3-4)。次に、残留塩素計M45を用いて工程3-3および3-4を行い、次に、残留塩素計M46を用いて工程3-3および3-4を行った。
【0070】
また、残留塩素計M47の作用電極および参照電極を上記3種の被検液のうちのいずれかに浸漬させ、その状態で、ポテンショスタット等の外部装置を用いて、残留塩素計M47の作用電極と参照電極との間に前処理電圧としてー1.5Vの直流電圧を12秒間印加した(工程3-5)。前処理電圧の印加を終えた直後、残留塩素計M47の作用電極および参照電極を被検液に浸漬させ、その状態で両電極間の電圧を測定する作業を、上記3種の被検液に対して順次に連続的に行った(工程3-6)。次に、残留塩素計M48を用いて工程3-5および3-6を行い、次に、残留塩素計M49を用いて工程3-5および3-6を行った。
【0071】
図10(A)は、工程3-2において得られた各残留塩素計M41~M43の作用電極と参照電極との間の被検液浸漬時の電圧の測定結果を示している。これらは、前処理電圧を掃引した場合における残留塩素計の作用電極と参照電極との間の被検液浸漬時の電圧の測定結果である。また、図10(A)中の破線は、残留塩素計として許容される誤差範囲の上限に対応する、作用電極と参照電極との間の被検液浸漬時の電圧値(上限電圧値U)を示している。また、図10(A)中の二点鎖線は、残留塩素計として許容される誤差範囲の下限に対応する、作用電極と参照電極との間の被検液浸漬時の電圧値(下限電圧値L)を示している。また、図10(A)中の一点鎖線は、上限電圧値Uと下限電圧値Lとのちょうど中間の電圧値を示している。なお、図10(B)および図10(C)にも、上限電圧値Uを示す破線、下限電圧値Lを示す二点鎖線、および上限電圧値Uと下限電圧値Lとのちょうど中間を示す一点鎖線が描かれている。図10(A)を見るとわかる通り、残留塩素計M41~M43の作用電極と参照電極との間の電圧はいずれも、本実験で用いた3種の被検液の残留塩素濃度のすべてにおいて、下限電圧値L以上であり、かつ上限電圧値U以下である。さらに、残留塩素計M41~M43の作用電極と参照電極との間の電圧のほとんどは、下限電圧値Lと上限電圧値Uとのちょうど中間の付近に集まっている。
【0072】
また、図10(B)は、工程3-4において得られた各残留塩素計M44~M46の作用電極と参照電極との間の被検液浸漬時の電圧の測定結果を示している。これらは、前処理電圧としてプラスの直流電圧を印加した場合における残留塩素計の作用電極と参照電極との間の被検液浸漬時の電圧の測定結果である。図10(B)を見るとわかる通り、残留塩素計M44~M46の作用電極と参照電極との間の電圧はいずれも、本実験で用いた3種の被検液の残留塩素濃度のすべてにおいて、下限電圧値L以上であり、かつ上限電圧値U以下である。しかしながら、残留塩素計M44~M46の作用電極と参照電極との間の電圧の一部は、下限電圧値Lと上限電圧値Uとのちょうど中間よりも低く、下限電圧値Lに接近した値となっている。
【0073】
また、図10(C)は、工程3-6において得られた各残留塩素計M47~M49の作用電極と参照電極との間の被検液浸漬時の電圧の測定結果を示している。これらは、前処理電圧としてマイナスの直流電圧を印加した場合における残留塩素計の作用電極と参照電極との間の被検液浸漬時の電圧の測定結果である。図10(C)を見るとわかる通り、残留塩素計M47~M49の作用電極と参照電極との間の電圧の一部は上限電圧値Uを超えている。
【0074】
図10(A)ないし(C)を比較することにより、次のことがわかる。すなわち、前処理電圧を掃引した場合には、被検液の残留塩素濃度の測定時における残留塩素計の作用電極と参照電極との間の電圧のばらつきが小さく、当該電圧が上限電圧値Uと下限電圧値Lとの間において安定する。一方、直流の前処理電圧を印加した場合には、被検液の残留塩素濃度の測定時における残留塩素計の作用電極と参照電極との間の電圧のばらつきが大きく、当該電圧が不安定であり、当該電圧が上限電圧値Uと下限電圧値Lとの間から逸脱する場合がある。
【0075】
以上、第3の実験により、本発明の第1の実施形態の残留塩素計1のように、前処理電圧を掃引することによって、被検液Eの残留塩素濃度の測定精度をより向上させることができることが確認された。
【0076】
(第2の実施形態)
次に、本発明の第2の実施形態の残留塩素計について説明する。上述した本発明の第1の実施形態の残留塩素計1は、被検液Eの残留塩素濃度の測定を1回行うごとに、測定前の前処理電圧の印加を行う。これに対し、本発明の第2の実施形態の残留塩素計は、被検液Eの残留塩素濃度の測定を2回以上の所定回数行うごとに、測定前の前処理電圧の印加を1回行う。
【0077】
第2の実施形態の残留塩素計のハードウェア構成は、図1に示す第1の実施形態の残留塩素計1のハードウェア構成と同じである。また、第2の実施形態の残留塩素計のマイクロコントローラー14には、残留塩素濃度の測定回数に基づいて前処理電圧の印加を制御する機能が追加されている。すなわち、第2の実施形態の残留塩素計のマイクロコントローラー14は、前処理電圧の印加後における残留塩素濃度の測定回数が所定回数以上であるか否かを判断し、当該測定回数が所定回数以上であるときには、次の残留塩素濃度の測定の前に前処理電圧の印加を行い、当該測定回数が所定回数未満であるときには、次の残留塩素濃度の測定の前に前処理電圧の印加を行わないように前処理電圧印加回路11を制御する。また、第2の実施形態の残留塩素計の記憶回路15には、前処理電圧の印加後における残留塩素濃度の測定回数を示すカウント値である測定回数値が記憶されている。なお、本実施形態において測定回数値の初期値は0である。
【0078】
図11は、本発明の第2の実施形態の残留塩素計の動作を示している。図11において、利用者が作用電極2および参照電極3を被検液Eに浸漬させ、操作ボタン7を押下したとき、マイクロコントローラー14は操作ボタン7の押下を検知し(ステップS11:YES)、続いて、測定回数値を記憶回路15から読み出す(ステップS12)。続いて、マイクロコントローラー14は、読み出した測定回数値が、予め設定された回数基準値以上であるか否かを判断する(ステップS13)。回数基準値は例えば2以上であり、予め設定されている。なお、回数基準値を利用者が任意に設定できるようにしてもよい。
【0079】
この判断の結果、測定回数値が上記回数基準値以上である場合には(ステップS13:YES)、マイクロコントローラー14は測定回数値を初期値に設定する(ステップS14)。続いて、マイクロコントローラー14は、切換器13を制御して切換器13の接点aと接点cとを接続し、続いて、前処理電圧印加回路11を制御して、前処理電圧の作用電極2と参照電極3との間への印加を開始させる(ステップS15:前処理工程)。前処理電圧印加回路11は、マイクロコントローラー14の制御に従い、前処理電圧の出力を開始し、図4に示す掃引パターンで前処理電圧を12秒間掃引した後、前処理電圧の印加を停止する。
【0080】
前処理電圧の出力が停止された後、マイクロコントローラー14は、切換器13を制御して切換器13の接点bと接点cとを接続し、続いて、測定回路12を制御して、被検液Eの残留塩素濃度の測定を開始させる。測定回路12は被検液Eの残留塩素濃度を測定し、測定した残留塩素濃度値をマイクロコントローラー14へ出力する(ステップS16:測定工程)。
【0081】
一方、ステップS13における判断の結果、測定回数値が上記回数基準値以上でない場合には(ステップS13:NO)、マイクロコントローラー14は、測定回数値を初期値に設定する処理および前処理電圧を印加する制御を行わずに、直ちに、切換器13の接点bと接点cとを接続し、測定回路12による被検液Eの残留塩素濃度の測定を開始させる。測定回路12は被検液Eの残留塩素濃度を測定し、測定した残留塩素濃度値をマイクロコントローラー14へ出力する(ステップS16:測定工程)。
【0082】
続いて、マイクロコントローラー14は、測定回路12から出力された残留塩素濃度の測定結果を表示部8に表示する(ステップS17)。続いて、マイクロコントローラー14は、記憶回路15に記憶された測定回数値を1増加させる(ステップS18)。
【0083】
本発明の第2の実施形態の残留塩素計において、例えば、上記回数基準値が5に設定されており、前処理電圧の印加が行われてから、残留塩素濃度の測定が6回実施された場合、まず、当該前処理電圧の印加の直後に1回目の残留塩素濃度測定が行われるので、1回目の残留塩素濃度測定の直前に前処理電圧の印加が行われたこととなる。次に、2回目、3回目、4回目および5回目の各残留塩素濃度測定の直前には前処理電圧の印加は行われない。次に、6回目の残留塩素濃度測定の直前に前処理電圧の印加が行われる。
【0084】
本発明の第2の実施形態の残留塩素計によれば、前処理電圧の印加が行われる頻度が低くなるので、酸化還元反応生成物等が作用電極2に付着することに起因する残留塩素濃度の測定精度の低下の抑制を図りつつも、測定作業を迅速化させることができ、かつ消費電力を削減して電池9の寿命を長くすることができる。
【0085】
なお、上記各実施形態では、図4に示すような三角波の前処理電圧を印加する場合を例にあげたが、前処理電圧の位相、掃引速度、ピーク値の大きさ、周期数、印加時間、波形等は限定されない。例えば図12の(A)、(B)または(C)に示すように、前処理電圧の位相(掃引を開始する電圧および掃引を終了する電圧)を変更してもよい。また、上記各実施形態では、前処理電圧の掃引速度を0.5V/秒としたが、前処理電圧の掃引速度をこれよりも遅くしてもよいし、速くしてもよい。また、上記各実施形態では、前処理電圧のプラス側のピーク値を1.5Vとし、マイナス側のピーク値を-1.5Vとしたが、各ピーク値は適宜調整することができる。また、上記各実施形態では、波形の1周期分の前処理電圧を印加することとしたが、波形の2周期分以上の前処理電圧を印加してもよい。また、前処理電圧の波形をサイン波にしてもよい。
【0086】
また、前処理電圧をプラスまたはマイナスの直流電圧としてもよい。先に図10を用いて検討したように、直流の前処理電圧を印加する場合には、前処理電圧を掃引する場合と比較して残留塩素濃度の測定時における残留塩素計の作用電極と参照電極との間の電圧が不安定になることがあるが、前処理電圧を印加せず、かつ作用電極の擦り拭きも行わない場合と比較すると、残留塩素濃度の測定精度の低下を抑制することができる。
【0087】
また、上記各実施形態では、前処理電圧の印加から残留塩素濃度の測定へ自動的に移行する場合を例にあげたが、前処理電圧の印加から残留塩素濃度の測定へ手動で移行するようにしてもよい。また、利用者の操作に従い、前処理電圧の印加のみを行えるようにしてもよい。
【0088】
また、残留塩素濃度の測定を行う際に、測定回路12により作用電極2と参照電極3との間にバイアス電圧を印加するようにしてもよい。なお、このバイアス電圧は、ポーラログラフ方式の残留塩素計において残留塩素濃度を測定するために印加する電圧とは異なるものである。
【0089】
また、上記実施形態では、本発明を、図2に示すようなポータブルタイプの残留塩素計に適用する場合を例にあげたが、本発明は、例えば、作用電極および参照電極を水道水の配管や貯水槽に固定し、配管内を流れ、または貯水槽内に貯留された水道水の残留塩素濃度を周期的に測定するような据え置きタイプの残留塩素計にも適用することができる。
【0090】
また、上記第2の実施形態の残留塩素計において、前処理電圧の印加を行うか否かを前処理電圧印加後における残留塩素濃度の測定回数に基づいて判断するに当たり、その判断の基準となる回数基準値を、前処理電圧印加後に実際に行われた残留塩素濃度の測定により得られた測定値に基づいて変化させてもよい。例えば、残留塩素濃度の測定により得られた測定値が大きく(残留塩素濃度が濃く)なるに応じて回数基準値を減少させ、残留塩素濃度の測定により得られた測定値が小さく(残留塩素濃度が薄く)なるに応じて回数基準値を増加させてもよい。これにより、残留塩素濃度によって酸化還元反応生成物等の電極への付着のし易さが変わることを考慮に入れて、前処理電圧の印加を行う適切なタイミングを決定することができる。
【0091】
また、上記第2の実施形態の残留塩素計は、前処理電圧の印加を行うか否かを、前処理電圧印加後における残留塩素濃度の測定回数に基づいて判断する。しかしながら、本発明はこれに限らない。前処理電圧の印加を行うか否かを、前処理電圧の印加が行われてからの経過時間に基づいて判断してもよい。この場合、マイクロコントローラー14は、前処理電圧の印加が行われてからの経過時間が所定の基準時間以上であるか否かを判断し、当該経過時間が基準時間以上であるときには、測定回路12による残留塩素濃度の測定の前に前処理電圧の印加を行い、当該経過時間が基準時間未満であるときには、測定回路12による残留塩素濃度の測定の前に前処理電圧の印加を行わないように前処理電圧印加回路11を制御する。図9(B)に示すように、前処理電圧の印加時から21日を経過した時点において、作用電極と参照電極との間の被検液浸漬時の電圧はそれぞれ、残留塩素濃度の正しい測定結果が得られる下限値La、Lb、Lc以上である。したがって、上記基準時間を例えば21日に設定することにより、酸化還元反応生成物等が作用電極に付着することに起因する残留塩素濃度の測定精度の低下の抑制を図りつつ、前処理電圧の印加を行う頻度を下げることができる。
【0092】
また、このような残留塩素計において、前処理電圧の印加を行うか否かを前処理電圧の印加が行われてからの経過時間に基づいて判断するに当たり、その判断の基準となる基準時間を、前処理電圧印加後に実際に行われた残留塩素濃度の測定により得られた測定値に基づいて変化させてもよい。例えば、残留塩素濃度の測定により得られた測定値が大きくなるに応じて基準時間を短くし、残留塩素濃度の測定により得られた測定値が小さくなるに応じて基準時間を長くしてもよい。これにより、残留塩素濃度によって酸化還元反応生成物等の電極への付着のし易さが変わることを考慮に入れて、前処理電圧の印加を行う適切なタイミングを決定することができる。
【0093】
また、上記第2の実施形態の残留塩素計において、前処理電圧の印加を行うか否かを、前処理電圧印加後における残留塩素濃度の測定回数および前処理電圧の印加が行われてからの経過時間の双方に基づいて判断してもよい。例えば、残留塩素計のマイクロコントローラー14は、前処理電圧の印加が行われてから、残留塩素濃度の測定回数が回数基準値以上となること、および経過時間が所定の基準時間以上となることのいずれか一方の条件が成立する場合には前処理電圧の印加を行うと判断する。これにより、残留塩素計の実際の使用状態を考慮して、前処理電圧の印加を行う適切なタイミングを決定することができる。
【0094】
また、本発明は、請求の範囲および明細書全体から読み取ることのできる発明の要旨または思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴う残留塩素計および残留塩素濃度測定方法もまた本発明の技術思想に含まれる。
【符号の説明】
【0095】
1 残留塩素計
2 作用電極(第1の電極)
3 参照電極(第2の電極)
4 処理回路
5 電源回路
11 前処理電圧印加回路(前処理部)
12 測定回路(測定部)
13 切換器
14 マイクロコントローラー(制御部)
図1
図2
図3
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図5
図6
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図8
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図10
図11
図12