(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-13
(45)【発行日】2023-07-24
(54)【発明の名称】油脂組成物の製造方法および油脂組成物
(51)【国際特許分類】
C11B 5/00 20060101AFI20230714BHJP
A23D 9/02 20060101ALI20230714BHJP
A23D 9/007 20060101ALI20230714BHJP
【FI】
C11B5/00
A23D9/02
A23D9/007
(21)【出願番号】P 2018185323
(22)【出願日】2018-09-28
【審査請求日】2021-07-16
(73)【特許権者】
【識別番号】398028503
【氏名又は名称】株式会社東洋新薬
(74)【代理人】
【識別番号】230116816
【氏名又は名称】成川 弘樹
(74)【代理人】
【識別番号】100174850
【氏名又は名称】大崎 絵美
(72)【発明者】
【氏名】阪田 哲郎
(72)【発明者】
【氏名】高橋 宏哉
【審査官】小久保 敦規
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-131395(JP,A)
【文献】特開平11-246399(JP,A)
【文献】特開2003-245054(JP,A)
【文献】特開2003-128539(JP,A)
【文献】特開平09-255568(JP,A)
【文献】特開2017-057144(JP,A)
【文献】特開2008-255040(JP,A)
【文献】特開2013-237643(JP,A)
【文献】特開2015-063507(JP,A)
【文献】特開2009-007256(JP,A)
【文献】特開2001-086931(JP,A)
【文献】特開2017-006123(JP,A)
【文献】特開2009-291107(JP,A)
【文献】特開2002-322490(JP,A)
【文献】特開2013-202005(JP,A)
【文献】特開2006-342286(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C11B 1/00 - 15/00
C11C 1/00 - 5/02
A23D 7/00 - 9/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
油脂とポリフェノールとを混合する混合工程を含み、
上記混合工程は、油脂の一部とポリフェノールとを混合する第1混合工程と、当該第1混合工程で得られた混合物と残りの油脂とを混合する第2混合工程とを含
み、
上記油脂は、不飽和度2以上の油脂であり、
上記ポリフェノールは、クルクミノイド、スチルベノイドおよびフラバノン類のうち、少なくとも1種であり、
上記油脂の一部と上記残りの油脂とが組成の異なる油脂であることを特徴とする、油脂組成物の製造方法。
【請求項2】
上記第1混合工程と上記第2混合工程との間に、上記第1混合工程で得られた混合物を10分以上静置する静置工程を含むことを特徴とする、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
上記ポリフェノールは、クルクミン、レスベラトロールおよびヘスペリジンのうち、少なくとも1種であることを特徴とする、請求項
1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
上記油脂は、
アマニ油、ブドウ油、米油、ヘンプシードオイル、オリーブオイル、ティーシードオイルおよび魚油のうち、少なくとも1種であることを特徴とする、請求項1~
3の何れか一項に記載の製造方法。
【請求項5】
油脂の酸化を抑制する方法であって、
油脂とポリフェノールとを混合する混合工程を含み、
上記混合工程は、油脂の一部とポリフェノールとを混合する第1混合工程と、当該第1混合工程で得られた混合物と残りの油脂とを混合する第2混合工程とを含
み、
上記油脂は、不飽和度2以上の油脂であり、
上記ポリフェノールは、クルクミノイド、スチルベノイドおよびフラバノン類のうち、少なくとも1種であり、
上記油脂の一部と上記残りの油脂とが組成の異なる油脂であることを特徴とする抑制方法。
【請求項6】
請求項1~
4の何れか一項に記載の製造方法によって製造されたことを特徴とする油脂組成物。
【請求項7】
請求項
6に記載の油脂組成物を内液とするソフトカプセル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油脂の酸化が効果的に抑制された油脂組成物の製造方法、および油脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、食品や化粧品等、様々な分野において、油脂が広く使用されている。一般的に油脂は、光、熱、酸素、水等の存在下で酸化されることが知られている。酸化された油脂は、腐敗、着色、戻り臭の発生などの劣化による品質低下を招く。
【0003】
油脂の酸化を抑制する技術として、例えば、特許文献1には、スフィンゴイド塩基構造を有する化合物のアミノ基とカルボニル化合物のカルボニル基とが結合した構造を有するアミノカルボニル化合物を有効成分とする酸化抑制剤を油脂に配合することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
油脂の酸化を効果的に抑制することができるさらなる技術の開発が期待されている。
本発明は、油脂の酸化を効果的に抑制することができる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、以下のとおりである。
[1]油脂とポリフェノールとを混合する混合工程を含むことを特徴とする、油脂組成物の製造方法。
[2]上記混合工程は、油脂の一部とポリフェノールとを混合する第1混合工程と、当該第1混合工程で得られた混合物と残りの油脂とを混合する第2混合工程とを含むことを特徴とする、[1]に記載の製造方法。
[3]上記油脂の一部と上記残りの油脂とが組成の異なる油脂であることを特徴とする、[2]に記載の製造方法。
[4]上記第1混合工程と上記第2混合工程との間に、上記第1混合工程で得られた混合物を10分以上静置する静置工程を含むことを特徴とする、[2]又は[3]に記載の製造方法。
[5]上記ポリフェノールは、脂溶性ポリフェノールであることを特徴とする、[1]~[4]の何れかに記載の製造方法。
[6]上記脂溶性ポリフェノールは、クルクミン、レスベラトロールおよびヘスペリジンのうち、少なくとも1種であることを特徴とする、[5]に記載の製造方法。
[7]上記油脂は、不飽和度2以上の油脂であることを特徴とする、[1]~[6]の何れかに記載の製造方法。
[8]上記不飽和度2以上の油脂は、アマニ油、ブドウ油、米油、ヘンプシードオイル、オリーブオイル、ティーシードオイルおよび魚油からのうち、少なくとも1種であることを特徴とする、[7]に記載の製造方法。
[9]油脂の酸化を抑制する方法であって、油脂とポリフェノールとを混合する混合工程を含むことを特徴とする抑制方法。
[10]上記ポリフェノールは、脂溶性ポリフェノールであることを特徴とする、[9]に記載の抑制方法。
[11]上記脂溶性ポリフェノールは、クルクミン、レスベラトロールおよびヘスペリジンのうち、少なくとも1種であることを特徴とする、[10]に記載の抑制方法。
[12]上記油脂は、不飽和度2以上の油脂であることを特徴とする、[9]~[11]の何れかに記載の抑制方法。
[13]上記不飽和度2以上の油脂は、アマニ油、ブドウ油、米油、ヘンプシードオイル、オリーブオイル、ティーシードオイルおよび魚油のうち、少なくとも1種であることを特徴とする、[12]に記載の抑制方法。
[14]不飽和度2以上の油脂2種以上とポリフェノールとを含有することを特徴とする油脂組成物。
[15]上記の不飽和度2以上の油脂は、アマニ油、ブドウ油、米油、ヘンプシードオイル、オリーブオイル、ティーシードオイルおよび魚油のうち、少なくとも1種であることを特徴とする、[14]に記載の油脂組成物。
[16]上記ポリフェノールは、脂溶性ポリフェノールであることを特徴とする、[14]又は[15]に記載の油脂組成物。
[17]上記脂溶性ポリフェノールは、クルクミン、レスベラトロールおよびヘスペリジンのうち、少なくとも1種であることを特徴とする、[16]に記載の油脂組成物。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、油脂の酸化を効果的に抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】実施例における試験群1の結果を示す図である。
【
図2】実施例における試験群2の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
(本発明の方法の概要)
本発明の一実施形態は、油脂とポリフェノールとを混合する混合工程を含む、油脂組成物の製造方法である。
【0010】
本発明の別の一実施形態は、油脂の酸化を抑制する方法であって、油脂とポリフェノールとを混合する混合工程を含む抑制方法である。
【0011】
(油脂)
本発明における油脂としては、例えば、アマニ油、ブドウ油(グレープシードオイル)、ナタネ油、ヒマシ油、ヤシ油、コーン油、ベニバナ油、ひまわり油、大豆油、椿油、エゴマ油、ごま油、とうもろこし油、パーム油、パーム核油、綿実油、米油、オリーブオイル、ピーナッツオイル、アーモンドオイル、アボカドオイル、ヘーゼルナッツオイル、ウォルナッツオイル、マスタードオイル、ココナッツオイル、ヘンプシードオイル、ティーシードオイル等の植物性油脂、牛、乳、豚、魚(いわし、さば、さめ、さんま、たら等)から得られる動物性油脂、および、これらの硬化油、分別油、エステル交換油脂等が挙げられる。油脂は、2種以上の油脂の混合物であってもよい。油脂は、脂肪油であることが好ましい。一例において、油脂は、不飽和度が2以上の油脂であることがより好ましく、アマニ油、ブドウ油、米油、ヘンプシードオイル、オリーブオイル、ティーシードオイルおよび魚油のうち、少なくとも1種であることがさらに好ましく、アマニ油およびブドウ油のうち、少なくとも1種であることが特に好ましい。
【0012】
(ポリフェノール)
本発明におけるポリフェノールとしては、植物から得られるものが挙げられ、例えば、フラボノイド、クロロゲン酸類、エラグ酸類、リグナン、クルクミノイド、スチルベノイド、クマリン等が挙げられる。フラボノイドとしては、フラボン類、フラボノール類、フラバノン類、イソフラボン類、アントシアニジン類、フラバノール類およびカテキン類等が挙げられる。ポリフェノールは、植物からの抽出物が好ましく、有機溶媒抽出物がより好ましく、エタノール抽出物がさらに好ましい。ポリフェノールは、2種以上のポリフェノールの混合物であってもよい。一例において、ポリフェノールは、脂溶性であることが好ましく、例えば、クルクミノイド、スチルベノイド、フラバノン類であることがより好ましい。クルクミノイドとしては、クルクミンが好ましく、スチルベノイドとしてはレスベラトロールが好ましく、フラバノン類としてはヘスペリジンが好ましい。ポリフェノールは、抽出液またはその乾燥粉末の形態で使用することが好ましい。
【0013】
(混合工程)
油脂とポリフェノールとの重量比は、特に限定されないが、油脂に対するポリフェノールの溶解性の観点から、100:0.00001~10であることが好ましく、100:0.0001~1であることがより好ましく、100:0.001~0.1であることがさらに好ましい。
【0014】
混合工程における温度は特に限定されないが、油脂に対するポリフェノールの溶解性や製造容易性等の観点から、200℃以下であることが好ましく、180℃以下であることがより好ましく、150℃以下であることがさらに好ましい。また、油脂の融点以上の温度であれば良く、好ましくは10℃以上、より好ましくは15℃以上である。
【0015】
混合方法は特に限定されず公知の方法を用いればよい。混合方法としては、例えば、ミキサーによる撹拌混合、空気の吹き込みによる撹拌混合、混合に用いる容器の転倒混和による混合等が挙げられる。
【0016】
好ましい一実施形態では、混合工程は、油脂の一部とポリフェノールとを混合する第1混合工程と、当該第1混合工程で得られた混合物と残りの油脂とを混合する第2混合工程とを含む。これによって、油脂の酸化の抑制効果が向上する(後述の実施例も参照)。
【0017】
第1混合工程における「油脂の一部」と第2混合工程における「残りの油脂」とは、組成が同じ油脂であってもよいし、組成の異なる油脂であってもよい。本発明においては、油脂の有する生理活性効果を活用でき、かつ、高い酸化抑制効果を有する点から、組成の異なる油脂であることが好ましい。
【0018】
第1混合工程において混合される油脂(すなわち「油脂の一部」)と第2混合工程において混合される油脂(すなわち「残りの油脂」)との重量比は、特に限定されないが、100:1~1000であることが好ましく、100:5~500であることがより好ましく、100:10~300であることがさらに好ましい。
【0019】
より好ましい一実施形態では、第1混合工程と第2混合工程との間に、第1混合工程で得られた混合物を10分以上静置する静置工程を含む。これによって、油脂の酸化の抑制効果がさらに向上する(後述の実施例も参照)。
【0020】
静置時間は特に限定されないが、10分以上であることが好ましく、15分以上であることがより好ましく、20分以上であることがさらに好ましく、30分以上であることが特に好ましい。
【0021】
静置工程における温度は特に限定されず、組成物が液体である温度、すなわち、油脂の融点以上であればよい。特に、製造容易性の観点から、10℃以上であることが好ましく、15℃以上であることがより好ましい。また、静置工程は、混合工程後の冷却工程を兼ねることができる。その場合、100℃以下に冷却されることが好ましく、80℃以下に冷却されることがより好ましい。
【0022】
(油脂組成物)
本発明の製造方法によって、油脂とポリフェノールとを含有する油脂組成物が製造される。本発明の製造方法によって製造された油脂組成物は、ポリフェノールを含有しない場合と比較して、油脂の酸化が抑制されている。
【0023】
本発明はまた、不飽和度2以上の油脂2種以上とポリフェノールとを含有する油脂組成物を提供する。油脂およびポリフェノールの説明は上述のとおりである。当該油脂組成物は、ポリフェノールを含有しない場合と比較して、油脂の酸化が抑制されている。
【0024】
本発明の油脂組成物は、様々な用途に利用することができ、例えば、ソフトカプセル内液用油脂組成物として利用できる。
【0025】
本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、それぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例】
【0026】
以下に実施例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明はこれにより限定されるものではない。なお、本発明において、使用する原料は特に断りのない限り市販品を用いた。
【0027】
〔1.試験群1のサンプルの調製〕
試験群1のサンプルを以下のように調製した。なお、調製は全て室温で行った。
【0028】
(比較例1)
アマニ油2.5gとブドウ油2.5gとを混合し、サンプル1とした。
【0029】
(実施例1)
アマニ油2.5gとブドウ油2.5gとを混合した。混合後、直ちにウコン抽出物(クルクミン95%含有)0.0005g添加して混合し、サンプル2とした。
【0030】
(実施例2)
アマニ油2.5gとクルクミン0.0005gとを混合した。混合後、直ちにブドウ油2.5g添加して混合し、サンプル3とした。
【0031】
(実施例3)
アマニ油2.5gとクルクミン0.0005gとを混合した。混合後、30分間室温で静置した後にブドウ油2.5g添加して混合し、サンプル4とした。
【0032】
〔2.試験群2のサンプルの調製〕
試験群2のサンプルを以下のように調製した。なお、調製は全て室温で行った。
【0033】
(比較例1)
上記と同様にサンプル1を調製した。
【0034】
(実施例1)
上記と同様にサンプル2を調製した。
【0035】
(実施例4)
ブドウ油2.5gとクルクミン0.0005gとを混合した。混合後、直ちにアマニ油2.5g添加して混合し、サンプル5とした。
【0036】
(実施例5)
ブドウ油2.5gとクルクミン0.0005gとを混合した。混合後、30分間室温で静置した後にアマニ油2.5g添加して混合し、サンプル6とした。
【0037】
〔3.酸化度の測定〕
試験群1および試験群2の各サンプルを60℃で10日間静置した後、試験紙「AV‐CHECK」(ADVANTEC、型番07810049)を用いて酸化度を測定した。
【0038】
〔4.結果〕
試験群1の結果を
図1に、試験群2の結果を
図2に示す。比較例1と実施例1とを比べると、ポリフェノールを配合することにより油脂の酸化が抑制されることがわかった。また、用いる油脂の一部をクルクミンと先に混合し、残りの油脂を後から混合することによって、油脂に対する酸化抑制効果が向上することがわかった。さらに、用いる油脂の一部をクルクミンと先に混合した後、一定時間静置してから残りの油脂を混合することによって、油脂に対する酸化抑制効果がさらに向上することがわかった。
【0039】
〔5.製造例〕
実施例3と同様にして、表1に記載の組成物を調製したところ、油脂の酸化が抑制された組成物が得られた。なお、表1における各原料の数値は、質量%を表す。
【0040】
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明は、例えば、食品や化粧品の分野において利用することができる。具体的には、本発明の組成物は、例えば、ソフトカプセル内液として利用することができる。