(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-13
(45)【発行日】2023-07-24
(54)【発明の名称】リチウム硫黄二次電池、および、リチウム硫黄二次電池の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 10/052 20100101AFI20230714BHJP
H01M 4/80 20060101ALI20230714BHJP
H01M 10/0565 20100101ALI20230714BHJP
H01M 10/058 20100101ALI20230714BHJP
H01M 4/66 20060101ALI20230714BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20230714BHJP
【FI】
H01M10/052
H01M4/80 C
H01M10/0565
H01M10/058
H01M4/66 A
H01M4/62 Z
(21)【出願番号】P 2019162978
(22)【出願日】2019-09-06
【審査請求日】2022-06-03
(73)【特許権者】
【識別番号】899000068
【氏名又は名称】学校法人早稲田大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002907
【氏名又は名称】弁理士法人イトーシン国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】逢坂 哲彌
(72)【発明者】
【氏名】三栗谷 仁
【審査官】渡部 朋也
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-200827(JP,A)
【文献】特開2012-160320(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/052-10/0587
H01M 4/13-4/1399
H01M 4/80
H01M 4/66
H01M 4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極と、負極と、前記正極と前記負極との間に配設されているセパレータ電解液を含むセパレータと、を具備し、
前記正極が、多孔金属の内部の壁面に配設されている正極活物質と、前記正極活物質を覆っている、第1の正極電解液を含有している固体電解質である紫外線硬化型の樹脂と、を含
み、
前記樹脂の周囲に、前記第1の正極電解液よりも低粘度の第2の正極電解液が充填されていることを特徴とするリチウム硫黄二次電池。
【請求項2】
正極と、負極と、前記正極と前記負極との間に配設されているセパレータ電解液を含むセパレータと、を具備し、
前記正極が、多孔金属の内部の壁面に配設されている正極活物質と、前記正極活物質を覆っている、第1の正極電解液を含有している固体電解質である紫外線硬化型の樹脂と、を含み、
前記セパレータが、前記セパレータ電解液を含有している固体電解質である前記樹脂を含むことを特徴とするリチウム硫黄二次電池。
【請求項3】
前記多孔金属が、アルミニウムまたはニッケルを主成分とし、気孔率が50%以上98%以下であることを特徴とする請求項1
または請求項2に記載のリチウム硫黄二次電池。
【請求項4】
前記第1の正極電解液が、グライム系溶媒和イオン液体であることを特徴とする請求項1
から請求項3のいずれか1項に記載のリチウム硫黄二次電池。
【請求項5】
前記正極の硫黄担持量が、4mg/cm
2
以上であることを特徴とする請求項1から請求項
4のいずれか1項に記載のリチウム硫黄二次電池。
【請求項6】
前記正極活物質の周囲に、前記第1の正極電解液を含有する前記固体電解質である前記樹脂が隙間無く充填されていることを特徴とする請求項1から請求項
5のいずれか1項に記載のリチウム硫黄二次電池。
【請求項7】
前記セパレータが、多孔体と、前記多孔体の内部の空間を充填している前記固体電解質である前記樹脂と、を含むことを特徴とする
請求項2から請求項6のいずれか1項に記載のリチウム硫黄二次電池。
【請求項8】
前記セパレータ電解液が、前記第1の正極電解液よりも、低粘度であることを特徴とする請求項
2から請求項
7のいずれか1項に記載のリチウム硫黄二次電池。
【請求項9】
正極と、負極と、前記正極と前記負極との間に配設されている、セパレータ電解液を含むセパレータと、を具備し、前記正極が、多孔金属と、前記多孔金属の内部の壁面に配設されている正極活物質と、前記正極活物質を覆っている、第1の正極電解液を含有している固体電解質である紫外線硬化型の樹脂と、を含むリチウム硫黄二次電池の製造方法であって、
第1の主面と第2の主面とを有する平板の前記多孔金属の内部の壁面に硫黄を配設する工程と、
前記硫黄を覆うように、前記第1の正極電解液を含有している未硬化の前記樹脂を配設する工程と、
前記樹脂を硬化処理し固体化する工程と、
前記正極の前記多孔金属の前記第1の主面に金属リチウム板を当接する工程と、
前記多孔金属の前記第2の主面と前記金属リチウム板との間に電流を印加し、前記正極の硫黄を硫化リチウムに酸化する工程と、
前記第1の主面から前記金属リチウム板を剥離する工程と、
前記正極活物質として硫化リチウムを含む前記正極と、負極活物質として炭素を含む前記負極とを、前記セパレータを間に挾んだ状態において封止する組立工程と、を具備することを特徴とするリチウム硫黄二次電池の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多孔集電体を含む正極を具備するリチウム硫黄二次電池、および、多孔集電体を含む正極を具備するリチウム硫黄二次電池の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話端末の普及、および、環境問題に対応した電気自動車の研究開発に伴い、高容量の二次電池が要望されている。二次電池としてはリチウムイオン二次電池が普及している。
【0003】
リチウムイオン二次電池よりも、さらに高容量の二次電池として、正極活物質として硫黄を有するリチウム硫黄電池が注目されている。硫黄は理論容量が1670mAh/g程度であり、リチウムイオン電池の代表的な正極活物質であるLiCoO2(約140mAh/g)よりも、理論容量が10倍程度高い。また、硫黄は低コストかつ資源が豊富である。
【0004】
以下の(反応式1~5)に示すように、リチウム硫黄電池においては、放電時には正極において例えば、単体硫黄(S8)からS8
2-(1), S6
2-(2), S4
2-(3), S2
2-(3)へと順次、還元され多硫化物アニオンとなり、最終的にLi2Sが生成する(5)。一方、負極では、負極中のリチウムがリチウムイオンとして放出され、電解液を経由して正極へと到達し、Li2S生成のためのLi源となる。
【0005】
【0006】
ここで、硫黄の還元生成物である、S8
2-, S6
2-, S4
2-, S2
2-等の多硫化物とリチウムとからなる多硫化リチウムは有機溶媒に溶解しやすく電池の電解液にも溶出する。
【0007】
充電中に、電解液に溶出した多硫化アニオンは、負極表面に到達すると還元され、正極表面に到達すると酸化され、電解液中で、物質移動による短絡が起こる。すると、充電電流を加え続けても充電されないという、いわゆるシャトル効果によってクーロン効率(放電容量/充電容量)が低下してしまう。
【0008】
特開2012-109223号公報には、グライムとリチウム塩との錯体からなるグライム系イオン液体を電解液として用いたリチウム硫黄二次電池が開示されている。グライム系イオン液体は、多硫化リチウムの溶解度が低いため、クーロン効率の低下等が防止されている。しかし、更にクーロン効率を改善した電池が求められていた。
【0009】
特開2005-79096号公報には、非水電解質を含むモノマーをコーティングしてから重合することによって、正極の表面が高分子フィルムに被覆されたリチウム硫黄二次電池が開示されている。
【0010】
電池のエネルギー密度向上には、より多くの正極活物質を正極に担持することが有効である。特開2018-200827号公報には、表面積の広いニッケル多孔体の内部の壁面に、正極活物質である硫化ニッケルを生成した、多孔集電体を含むリチウム硫黄二次電池が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】特開2012-109223号公報
【文献】特開2005-79096号公報
【文献】特開2018-200827号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の実施形態は、エネギー密度が高く、クーロン効率のよいリチウム硫黄二次電池、および、エネギー密度が高く、クーロン効率のよいリチウム硫黄二次電池の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の実施形態のリチウム硫黄二次電池は、正極と、負極と、前記正極と前記負極との間に配設されているセパレータ電解液を含むセパレータと、を具備し、前記正極が、多孔金属の内部の壁面に配設されている正極活物質と、前記正極活物質を覆っている、第1の正極電解液を含有している固体電解質である紫外線硬化型の樹脂と、を含み、前記樹脂の周囲に、前記第1の正極電解液よりも低粘度の第2の正極電解液が充填されている。
本発明の実施形態のリチウム硫黄二次電池は、正極と、負極と、前記正極と前記負極との間に配設されているセパレータ電解液を含むセパレータと、を具備し、前記正極が、多孔金属の内部の壁面に配設されている正極活物質と、前記正極活物質を覆っている、第1の正極電解液を含有している固体電解質である紫外線硬化型の樹脂と、を含み、前記セパレータが、前記セパレータ電解液を含有している固体電解質である前記樹脂を含む。
【0014】
本発明の実施形態のリチウム硫黄二次電池の製造方法は、正極と、負極と、前記正極と前記負極との間に配設されている、セパレータ電解液を含むセパレータと、を具備し、前記正極が、多孔金属と、前記多孔金属の内部の壁面に配設されている正極活物質と、前記正極活物質を覆っている、第1の正極電解液を含有している固体電解質である紫外線硬化型の樹脂と、を含むリチウム硫黄二次電池の製造方法であって、第1の主面と第2の主面とを有する平板の前記多孔金属の内部の壁面に硫黄を配設する工程と、前記硫黄を覆うように、前記第1の正極電解液を含有している未硬化の前記樹脂を配設する工程と、前記樹脂を硬化処理し固体化する工程と、前記正極の前記多孔金属の前記第1の主面に金属リチウム板を当接する工程と、前記多孔金属の前記第2の主面と前記金属リチウム板との間に電流を印加し、前記正極の硫黄を硫化リチウムに酸化する工程と、前記第1の主面から前記金属リチウム板を剥離する工程と、前記正極活物質として硫化リチウムを含む前記正極と、負極活物質として炭素を含む前記負極とを、前記セパレータを間に挾んだ状態において封止する組立工程と、を具備する。
【発明の効果】
【0015】
本発明の実施形態によれば、エネギー密度が高く、クーロン効率のよいリチウム硫黄二次電池、および、エネギー密度が高く、クーロン効率のよいリチウム硫黄二次電池の製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】実施形態のリチウム硫黄二次電池の構成図である。
【
図2】第1実施形態のリチウム硫黄二次電池の正極の多孔金属の写真である。
【
図3】第1実施形態のリチウム硫黄二次電池の正極の多孔金属の断面模式図である。
【
図4】第1実施形態のリチウム硫黄二次電池の正極の製造方法を説明するための断面模式図である。
【
図5】第1実施形態のリチウム硫黄二次電池の正極の断面模式図である。
【
図6】第1実施形態のリチウム硫黄二次電池および比較例のリチウム硫黄二次電池のクーロン効率を示すグラフである。
【
図7】第1実施形態の変形例1のリチウム硫黄二次電池の正極の断面模式図である。
【
図8】第1実施形態の変形例2のリチウム硫黄二次電池の製造方法のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
<第1実施形態>
<電池の構成>
図1に示すように、本実施形態のリチウム硫黄二次電池10(以下、「電池」ともいう。)は、多孔集電体を含む正極20と、セパレータ30と、リチウムイオンを吸蔵脱離する負極活物質を含む負極40と、を主要構成要素として具備する。電池10は、コインセルケース51/ガスケット52/負極40/セパレータ電解液35を含むセパレータ30/正極20/スペーサ53/スプリングワッシャー54/上蓋55が、順に配置されている。
【0018】
正極20は、多孔金属である集電体11A(
図2、
図3)と、集電体11Aの内部空孔の壁面に配設されている硫黄系の正極活物質11B(
図4)と、正極電解液25を含む固体電解質である樹脂11C(
図5)と、液体の正極電解液25A(
図5)と、を有する。
【0019】
正極20の母材である集電体11Aは、例えば、発泡アルミニウムであるセルメット(登録商標)である。正極活物質11Bは、単体硫黄(S)と結着剤と導電剤とを含む。紫外線硬化型の樹脂11Cは、リチウム塩が溶解している正極電解液25を含有する固体電解質である。
【0020】
集電体11Aは表面積が広い多孔体であるため、多くの正極活物質を担持できる。例えば、金属箔からなる集電体は、0.3mg/cm2程度の硫黄しか担持できない。これに対して、後述するように、実施形態の集電体11Aは、4.0mg/cm2以上の硫黄が担持できる。このため、電池10はエネルギー密度が高い。
【0021】
樹脂11Cは、リチウム塩が溶解している第1の正極電解液25を含む紫外線硬化型樹脂である。第1の正極電解液25は、リチウム塩1モルを、G1(モノグライム)0.5モルおよびG3(トリグライム)0.5モルからなる溶媒に溶解し、添加溶媒であるハイドロフルオロエーテル(HFE:HF2CF2CH2C-O-CF2CF2H)4モルにて希釈したグライム系溶媒和イオン液体である。リチウムカチオンは樹脂11Cを通過できるが多硫化物アニオンは樹脂11Cを通過できない。
【0022】
第2の正極電解液25Aは、1モルのリチウム塩を、1、2-ジメトキシエタン(DME)1モルおよび1.3-ジオキソラン(DOL)1モルからなる溶媒に溶解した有機電解液体である。第2の正極電解液25Aは第1の正極電解液25よりも低粘度である。
【0023】
リチウム塩は、Li-TFSI(リチウム(トリフルオロメタンスルフォニル)イミドである。
【0024】
負極40は、厚さ200μmの金属リチウム板である。
【0025】
正極20と負極40の間に配置されているセパレータ30は、必須の構成要素ではないが、セパレータ30は、極間距離を短くする機能およびセパレータ電解液35の担持機能を有する。電池10では、セパレータ30は、ポリプロピレン多孔シートである。
【0026】
<電池の製造方法>
集電体11Aに用いたセルメットは、気孔率98%、比表面積8500m2/m3、孔径0.45mm、厚さ1.4mmである。強度を改善するとともに、所定の大きさのコインセルケース51に収納するために、セルメットは、切断され、厚さ0.3mm程度に圧縮されて、集電体11Aとして用いられた。圧縮処理されている集電体11Aは、気孔率85%であった。
【0027】
集電体11Aの比表面積は、1500m2/m3以上が好ましく、3000m2/m3以上が特に好ましい。広い表面積を得るために、集電体11Aは、気孔率が50%以上で、連続気孔を有し、さらに、閉気孔をほとんど含まないことが好ましい。なお、空孔率が98%超の集電体11Aは機械的強度が弱く取り扱いが容易ではない。
【0028】
二次元表面を有する平板状の集電体の表面積は平面視寸法に比例する。これに対して三次元網目構造を有する集電体11Aの表面積は、平面視寸法(外面面積)および厚さに比例する。集電体11Aの表面積は、同じ平面視寸法の二次元表面を有する集電体の表面積の2倍以上が好ましく、5倍以上が特に好ましい。なお、技術的な観点から集電体11Aの表面積は、同じ平面視寸法の二次元表面を有する集電体の表面積の100倍以下である。
【0029】
比表面積は、例えば、静電容量法によって測定される。静電容量法は、試料の静電容量が表面積に比例することを利用する測定方法である。表面積が既知の金属板等を複数枚用意し、それぞれの静電容量を測定する。そして、「静電容量」対「面積」の検量線を作成することで、試料の表面積が検量法により算出される。一方、気孔率は、試料の比重と体積とから算出される。
【0030】
<ステップS10:硫黄配設工程>
正極活物質11Bは、硫黄系活物質である単体硫黄(S)と導電剤であるKBとを含むケッチェンブラック(KB)複合体である。KB複合体の重量比は、(S/KB=6/4)である。結着剤は、CMC(カルボキシメチルセルロース)およびSBR(スチレン・ブタジエン・ラバー)を含み、重量比は、(CMC/SBR=2/1)である。結着剤は、正極電解液25と反応しないものであれば特に限定されることはなく、例えば、PVDF(ポリフッ化ビニリデン)、または、ポリテトラフルオロエチレンでもよい。正極活物質11Bの重量比は、(KB複合体/KB/結着剤=60/30/3)である。
【0031】
正極活物質11Bは、S/KB複合体と結着剤とに適量のN-メチル-2-ピロリドン(NMP)を加えて混錬して得られた活物質スラリーを、集電体11Aに滴下してから、乾燥することにより配設される。
【0032】
第1の主面と第2の主面とを有する平板の集電体11Aの表面(主面)に活物質スラリーを滴下すると、活物質スラリーは多孔体である集電体11Aの内部の空間に吸い込まれていく。適量のスラリーを滴下後に、60℃にて24時間の乾燥処理を行い、集電体11Aの内部の壁面に正極活物質11Bを配設した(
図4)。
【0033】
活物質スラリーは界面張力により、多孔の集電体11Aの孔(空隙部)の内部に浸透する。このため、集電体11Aの孔の内面、すなわち、壁面を正極活物質11Bで覆うことが容易である。
【0034】
活物質スラリーの乾燥温度は溶剤である、N-メチルピロリドンの沸点(202℃)よりも、低く設定されているため、溶剤は急激に蒸発することなく、正極活物質11Bが集電体11Aの内部の壁面に層状に配設された。もちろん、乾燥工程において、徐々に温度を上昇し、最終的に溶剤の沸点以上にまで加熱されてもよい。しかし、少なくとも溶剤の90重量%以上が蒸発するまでは乾燥温度は沸点以下に保持されることが好ましい。
【0035】
集電体11Aの内部の空間(void)は一時的に溶剤を含む正極活物質11Bによって充填される。溶剤が蒸発すると、内部の壁面は正極活物質11Bからなる活物質層によって覆われているが、空間の大きさに比較すると、後述するように活物質層の厚さは薄いために、集電体11Aの多孔性が損なわれることはない。
【0036】
なお、正極活物質11Bの硫黄量(担持量)は、活物質配設工程の前後の重量測定から算出される。集電体11Aに配設された活物質11Bの硫黄量は、主面の面積を基準とすると、10.0mg/cm2であった。
【0037】
<ステップS20:樹脂配設工程>
リチウム塩が溶解している第1の正極電解液25を含有する、未硬化のため流動性のある紫外線硬化型の樹脂11Cが、多孔の集電体11Aの活物質11Bの上に配設される。すなわち、正極活物質11Bと同じように、液状の樹脂11Cは界面張力により、多孔の集電体11Aの孔(空隙部)の内部に浸透する。
【0038】
樹脂11Cは、エトキシル化トリメチロールプロパントリアクリレート(ETPTA)である。すでに説明したように、第1の正極電解液25は、リチウム塩と溶媒のグライムとが錯体を構成しているグライム系溶媒和イオン液体である。
【0039】
第1の正極電解液25には、各種のグライム系溶媒和イオン液体を用いることができる。グライムには、モノグライム(G1:1,2‐ジメトキシエタン)、ジグライム(G2:ジエチレングリコールジメチルエーテル)、トリグライム(G3:トリエチレングリコールジメチルエーテル)、または、テトラグライム(G4:テトラエチレングリコールジメチルエーテル)等を用いる。
【0040】
溶媒和イオン液体に、さらに溶媒を添加してもよい。添加溶媒には、フッ素系溶媒である、HF2CF2CH2C-O-CF2CF2H、および、F3CH2C-O-CF2CF2Hなどのハイドロフルオロエーテル(HFE)が例示される。溶媒の添加量は、例えば、イオン伝導率(30℃)が、0.1mS/cm以上、粘度(30℃)が、10mPa・s以下となるように設定される。
【0041】
樹脂11Cの、第1の正極電解液25/ETPTA/重合開始剤の重量比は、85/15/0.15である。重合開始剤は、紫外線によってラジカルを形成する、例えば、2-ヒドロキシ2-メチル-1-フェニル-プロパン-1-オン(HMPP)である。
【0042】
<ステップS30:硬化工程>
紫外線ランプを用いて、集電体11Aに、365nm、280mW/cm2の紫外線を20秒間照射することによって、ETPTAは重合し、活物質11Bを覆う固体電解質である樹脂11Cとなる。
【0043】
樹脂11Cは硬化処理されているために安定であり、第1の正極電解液25によって膨潤したりすることがない。また、紫外線硬化は、熱硬化に比べて、低温かつ短時間の処理である。このため、正極電解液25が蒸発したり変性したりすることがない。
【0044】
なお、樹脂11Cが紫外線硬化型樹脂であることを、立証することは、適切な測定および解析の手段が存在していないためにおよそ実際的ではない。また、紫外線硬化型以外の樹脂との相違に係る構造または特性を特定する文言を見いだすことができなかった。
【0045】
樹脂11Cの厚さは、例えば0.5μm以上20μm以下が好ましく、2μm以上10μm以下が特に好ましい。樹脂11Cの厚さが、前記範囲未満では多硫化物イオンの遮蔽効果が十分ではなく、先記範囲超であると、正極電解液25を含んでいても電気抵抗が高くなる。
【0046】
<ステップS40:組立工程>
アルゴン雰囲気下のグローブボックス内で、正極20に第2の正極電解液25Aを滴下してから、正極20の上にセパレータ30が配設される。セパレータ30にセパレータ電解液35を適量加えてから、60℃で60分間保持することによってセパレータ電解液35をセパレータ30に浸漬させた。
【0047】
第2の正極電解液25Aには、プロピレンカーボネート等の一般的な非水溶媒を含む電解液を用いることができる。セパレータ電解液35は、第2の正極電解液25Aと同じであるが、異なっていてもよい。セパレータ電解液35は、より大きな電流による充放電のためには、第2の正極電解液25Aよりも低粘度であることが好ましい。
【0048】
正極20の上のセパレータ30に負極40を配設し、さらにセパレータ電解液35を注入した後、2032型のコインセルケース51(SUS304製の厚さ3.2mm)に入れて、負極40の上にセパレータ30を載置した。セパレータ30の上にスプリングワッシャー54を配置した。スプリングワッシャー54の上から上蓋55でコインセルケース51を封止し、
図1に示す構造のリチウム硫黄電池10を作製した。なお、コインセルケース51の側壁にはガスケット52が介装されている。
【0049】
組立工程では、正極活物質を含む正極20と、負極活物質を含む負極40とは、セパレータ電解液35を含むセパレータ30を間に挾んだ状態において、コインセルケース51の内部に封止される。
【0050】
<電池の特性>
上記方法で作製した実施形態の電池10の特性評価結果を以下に示す。なお、比較のため、電池10と同じ構成で、正極20に樹脂11Cが配設されていない比較例の電池110も作製し、同様に評価した。
【0051】
充放電評価は、カットオフ電位を、1.5V-3.0V(vs.Li/Li+)、充放電速度を3.0C、電流密度25μA/cm2とした。サイクリックボルタンメトリー測定(CV)は、カットオフ電位を、1.5V-3.0V(vs.Li/Li+)、走査速度を0.1mV/sとした。
【0052】
電池10の2サイクル目の容量は、730mAh/g-Sであった。電池110の2サイクル目の容量は、700mAh/g-Sであった。なお、上記容量は、正極20の硫黄担持量で規定した容量である。電池10、110の容量(エネルギー密度)は、担持している硫黄量に比例する。すでに説明したように正極20の硫黄担持量が、10mg/cm2であり、同じ平面視寸法の平板正極(硫黄担持量0.3mg/cm2)の10倍以上である。このため、電池10の正極20の平面面積で規定した容量(エネルギー密度)は、平板集電体を有する電池110の10倍以上である。
【0053】
図6に示すように、電池10は、10サイクル後のクーロン効率が100%であったのに対して、電池110の10サイクル後のクーロン効率は、80%以下であった。
【0054】
電池10は、樹脂11Cによって、正極20からの硫黄の溶出が防止されているためにクーロン効率がよい。
【0055】
なお、集電体11Aには、発泡金属、金属不織布、金属繊維集合体、または金属粒子集合体等の金属多孔体を用いることができる。金属多孔体は、例えば、発泡樹脂の孔の内面(壁面)に金属層をコーティングした後、発泡樹脂を分解することで作製される。発泡樹脂としては、気孔率が高く、セル径の均一性が高く、熱分解性に優れている発泡ウレタンが好ましい。金属層がニッケルの場合には、発泡樹脂の孔の壁面にカーボン粉末等を塗布して導電化処理したり、ダイレクトめっき法を用いたりして、ニッケルめっき膜がコーティングされる。水溶液を用いた電気めっき法により成膜困難な金属層、例えばアルミニウム層は、溶融塩浴を用いた電気めっき法により行われる。
【0056】
結着剤としては、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエーテルニトリル(PEN)、ポリイミド(PI)、ポリアミド(PA)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリメチルアクリレート(PMA)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリアクリル酸(PAA)、ポリアクリル酸リチウム(PAALi)、エチレンオキシド、もしくは、一置換エポキサイドの開環重合物などのポリアルキレンオキサイド、または、これらの混合物が挙げられる。
【0057】
樹脂11Cとしては、アクリル系、トリメチロールプロパントリアクリラート、ビニル系、非ビニル系、および、ETPT等の紫外線により硬化する樹脂を用いる。重合開始剤はベンゾインエーテル(benzoin ether)、ジアルキルアセトフェノン(dialkyl acetophenone)、ヒドロキシルアルキルケトン(hydroxylalkylketone)、フェニルグリオキシレート(phenyl glyoxylate)、ベンジルジメチルケタル(benzyl dimethyl ketal)、アシルホスフィン(acyl phosphine)およびアルファ-アミノケトン(α-aminoketone)からなる群から選択される1以上を使用する。
【0058】
セパレータ30としては、例えば、セパレータ電解液35を吸収保持するガラス繊維製セパレータ、樹脂からなる多孔シートおよび不織布を挙げることができる。多孔シートは、例えば、多孔樹脂で構成される。
【0059】
多孔シートを構成する樹脂としては、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)などのポリオレフィン;PP/PE/PPの3層構造をした積層体、ポリイミド、アラミドなどが挙げられる。特にポリオレフィン系微多孔セパレータおよびガラス繊維製セパレータは、有機溶媒に対して化学的に安定であり、セパレータ電解液35との反応性を低く抑えることができることから、多孔シートとして好ましい。
【0060】
多孔シートであるセパレータの厚みは限定されないが、車両のモータ駆動用二次電池の用途においては、単層または多層で全体の厚みは4μm~60μmであることが好ましい。また、多孔シートからなるセパレータの微細孔の内径は、最大で10μm以下であり(通常は、10nm~100nm程度)、空孔率は20%~80%であることが好ましい。
【0061】
負極としては、リチウム、リチウム合金、リチウムを吸蔵脱離可能な炭素からなる群から選択される1以上の負極活物質を含んでいればよい。負極に含まれる負極活物質は、リチウムイオンを吸蔵脱離する。
【0062】
第2の正極電解液25Aおよびセパレータ電解液35の少なくともいずれかに、第1の正極電解液25と同じグライム系溶媒和イオン液体を用いてもよい。ただし、第2の正極電解液25Aおよびセパレータ電解液35は、第1の正極電解液25よりも低粘度であることが好ましい。
【0063】
例えば、第1の正極電解液25には、リチウム塩1モルを、G1(モノグライム)0.5モルおよびG3(トリグライム)0.5モルからなる溶媒に溶解した溶媒和イオン液体を用いて、第2の正極電解液25Aおよびセパレータ電解液35の少なくともいずれかには、第1の正極電解液25に、希釈溶媒であるHFE4モル添加した溶媒和イオン液体を用いる。
【0064】
<第1実施形態の変形例1>
第1実施形態の変形例1の電池10Aは、電池10と類似し同じ効果を有するため、同じ機能の構成要素には同じ符号を付し説明は省略する。
【0065】
図3に示したように、電池10では正極20の集電体11Aの孔には、液体の第2の正極電解液25Aが充填されていた。これに対して、
図7に示すように、電池10Aの集電体11Aの孔は、活物質11Bを覆う、第1の正極電解液25を含有する固体電解質である紫外線硬化型の樹脂11Cによって充填されている。言い替えれば、正極活物質11Bの周囲に、第1の正極電解液25を含有する樹脂11Cが隙間無く充填されている。
【0066】
電池10Aは電池10と略同じ充放電特性を有している。また、電池10Aの正極20は、固体の樹脂11Cが第1の正極電解液25を含んでいる全固体型正極であるため、取り扱いが容易である。
【0067】
<第1実施形態の変形例2>
第1実施形態の変形例2の電池10Bは、電池10と類似し同じ効果を有するため、同じ機能の構成要素には同じ符号を付し説明は省略する。
【0068】
電池10は、製造された状態では正極20は正極活物質として、単体硫黄を含んでいた。すなわち、電池10は製造されたときに充電状態となっている。これに対して、電池10Bの正極20は製造された状態において正極活物質として、硫化リチウムを含んでいる。すなわち、電池10は製造されたときに放電状態となっている。
【0069】
電池10Bでは、負極活物質としてリチウムを含まない炭素を用いることができる。具体的には、負極活物質として、天然黒鉛、人造黒鉛、カーボンブラック、アセチレンブラック、グラファイト、活性炭、カーボンファイバー、コークス、ソフトカーボン、ハードカーボンなどを用いることができる。
【0070】
図8に示すように、電池10Bの製造方法は、電池10と同じように、第1の主面と第2の主面とを有する平板の多孔金属
である焦電体11Aの内部の壁面に正極活物質である単体硫黄(S)を配設する工程(ステップS10)を有する。
【0071】
さらに、電池10Bの製造方法は、正極活物質を覆うように、第1の正極電解液25を含有する未硬化の樹脂11Cを配設する工程(ステップS20)と、樹脂11Cを紫外線硬化処理する工程(ステップS30)と、を有する。
【0072】
電池10Bの製造方法では、組み立て工程(ステップS40)の前に、正極20の単体硫黄(S)を、硫化リチウムに酸化する工程(ステップS32-S36)を有する。
【0073】
<ステップS32:金属リチウム板当接工程>
樹脂11Cが硬化処理され、第2の正極電解液25Aが注入された平板の正極20の第1の主面に、金属リチウム板が当接される。正極20と金属リチウム板との間の隙間にはセパレータ電解液35等の導電性液体が注入されていることが好ましい。
【0074】
<ステップS34:硫黄酸化工程>
正極20の第1の主面と、第2の主面と金属リチウム板との間に電流が印加される。金属リチウムはリチウムイオンとなり、正極20の硫黄は硫化リチウムに酸化される。
【0075】
<ステップS36:金属リチウム板剥離工程>
第1の主面から金属リチウム板が剥離される。
【0076】
組み立て工程(ステップS40)は、電池10の製造方法と同じである。電池10Bの製造方法では、負極活物質としてリチウムを含まない炭素を用いることができるため、電池10よりも製造が容易であり、安全性が高い。
【0077】
電池10Aと同じように、正極活物質11Bの周囲に、正極電解液25を含有する固体電解質である樹脂11Cが充填されていてもよい。
【0078】
電池10Bは電池10、10Aと略同じ充放電特性を有している。
【0079】
<第2実施形態>
第2実施形態の電池10Cは、電池10と類似し同じ効果を有するため、同じ機能の構成要素には同じ符号を付し説明は省略する。
【0080】
電池10Bのセパレータ30は、セパレータ電解液35を含んでいる固体電解質である樹脂11Cを含んでいる。例えば、樹脂11Cからなるシートをセパレータ30として用いる。樹脂11Cの機械的強度が十分ではない場合には、樹脂11Cを保持する、多孔体からなる保持部材を用いることが好ましい。すなわち、セパレータ電解液35を含んでいる固体電解質である紫外線硬化型の樹脂11Cが、内部の空間(孔)に充填された多孔体がセパレータ30となる。
【0081】
多孔体の構成は、正極20の多孔金属(集電体11A)と略同じである。ただし、セパレータ30の多孔体は導電性を有している必要は無い。
【0082】
すなわち、電池10Bのセパレータ30は、多孔体を母材とし、樹脂11Cが内部の空間に充填されている。樹脂11Cは、紫外線硬化型であり、リチウム塩が溶解しているセパレータ電解液35を含有している固体電解質である。
【0083】
<第2実施形態の変形例>
第2実施形態の変形例の電池10Cは、電池10A、10Bと類似し同じ効果を有するため、同じ機能の構成要素には同じ符号を付し説明は省略する。
【0084】
電池10Cは、電池10Aと同じ正極20と、負極40と、電池10Bと同じセパレータ30と、を具備する全固体型電池である。
【0085】
なお、以上の説明では、簡単な構造の電池10等について説明した。しかし、本発明の電池は、電池10等のような単位セルを複数個積層した構造の組電池、または、同じ積層構造のセルを巻回してケースに収容した構造の電池等であってもよい。またセパレータ電解液35は、ゲル電解質または固体電解質であってもよい。
【0086】
本発明は、上述した実施形態等に限定されるものではなく、発明の趣旨を逸脱しない範囲内において種々の変更、組み合わせ、および応用が可能であることは勿論である。
【符号の説明】
【0087】
10、10A-10C・・・リチウム硫黄二次電池
11A・・・集電体(多孔金属)
11B・・・正極活物質
11C・・・樹脂
20・・・正極
25・・・第1の正極電解液
25A・・・第2の正極電解液
30・・・セパレータ
35・・・セパレータ電解液
40・・・負極