(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-13
(45)【発行日】2023-07-24
(54)【発明の名称】抵抗溶接機の制御装置およびその制御方法ならびに制御プログラム
(51)【国際特許分類】
B23K 11/24 20060101AFI20230714BHJP
B23K 11/11 20060101ALI20230714BHJP
【FI】
B23K11/24 338
B23K11/11
(21)【出願番号】P 2019174802
(22)【出願日】2019-09-25
【審査請求日】2022-03-25
(73)【特許権者】
【識別番号】391009833
【氏名又は名称】株式会社ナ・デックス
(74)【代理人】
【識別番号】110002516
【氏名又は名称】弁理士法人白坂
(72)【発明者】
【氏名】花田 芳樹
【審査官】岩見 勤
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-000768(JP,A)
【文献】特開2000-317647(JP,A)
【文献】特開2001-269776(JP,A)
【文献】特開2011-152574(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 11/24
B23K 11/11
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワークの溶接箇所に電極を移動させて、前記ワークに電極を接触させて加圧し、さらに前記電極から電流を通電することにより生じる抵抗発熱によって前記溶接箇所の溶接を実施する抵抗溶接機の制御装置であって、
溶接の実施中において前記ワークの物理的膨張量を測定する測定部と、
前記測定部において測定された前記物理的膨張量に基づき前記電極の摩耗状態を判断する判断部と、
前記判断部において判断された前記摩耗状態の情報を提供する提供部と
を備え
、
前記判断部は、前記物理的膨張量の飽和点の存在の有無に基づき前記電極の摩耗状態を判断する、抵抗溶接機の制御装置。
【請求項2】
ワークの溶接箇所に電極を移動させて、前記ワークに電極を接触させて加圧し、さらに前記電極から電流を通電することにより生じる抵抗発熱によって前記溶接箇所の溶接を実施する抵抗溶接機の制御装置であって、
溶接の実施中において前記ワークの物理的膨張量を測定する測定部と、
前記測定部において測定された前記物理的膨張量に基づき前記電極の摩耗状態を判断する判断部と、
前記判断部において判断された前記摩耗状態の情報を提供する提供部と
を備え、
前記判断部は、前記物理的膨張量の飽和後の物理的膨張量の挙動に基づき前記電極の摩耗状態を判断する、抵抗溶接機の制御装置。
【請求項3】
前記測定部は、前記電極の移動量を測定することにより前記物理的膨張量を測定する、請求項1
または2に記載の抵抗溶接機の制御装置。
【請求項4】
前記測定部は、前記電極がワークを加圧するときの前記電極を保持するガンヨークのひずみ量を測定して前記電極の移動量に換算することにより前記移動量を測定する、請求項
3に記載の抵抗溶接機の制御装置。
【請求項5】
前記判断部は、通電開始時の前記物理的膨張量に基づき前記電極の摩耗状態を判断する、請求項1から
4のいずれか一項に記載の抵抗溶接機の制御装置。
【請求項6】
前記物理的膨張量の基準値を予め記憶する記憶部をさらに備え、
前記判断部は、前記測定部において測定された前記物理的膨張量と前記記憶部に記憶された前記基準値とを比較して前記電極の摩耗状態を判断する、請求項1から
5のいずれか一項に記載の抵抗溶接機の制御装置。
【請求項7】
前記物理的膨張量を時系列で記録する記録部をさらに備え、
前記判断部は、前記測定部において測定された前記物理的膨張量と前記記録部に時系列で記録された物理的膨張量とを比較して前記電極の摩耗状態を判断する、請求項1から
6のいずれか一項に記載の抵抗溶接機の制御装置。
【請求項8】
前記測定部は、前記電極を直線的に移動させるためのボールねじの回転量を測定することにより前記物理的膨張量を測定する、請求項1から
7のいずれか一項に記載の抵抗溶接機の制御装置。
【請求項9】
ワークの溶接箇所に電極を移動させて、前記ワークに電極を接触させて加圧し、さらに前記電極から電流を通電することにより生じる抵抗発熱によって前記溶接箇所の溶接を実施する抵抗溶接機の制御方法であって、
溶接の実施中において前記ワークの物理的膨張量を測定する測定ステップと、
前記測定ステップにおいて測定された前記物理的膨張量に基づき前記電極の摩耗状態を判断する判断ステップと、
前記判断ステップにおいて判断された前記摩耗状態の情報を提供する提供ステップと
を含
み、
前記判断ステップにおいて、前記物理的膨張量の飽和点の存在の有無に基づき前記電極の摩耗状態を判断する、抵抗溶接機の制御方法。
【請求項10】
ワークの溶接箇所に電極を移動させて、前記ワークに電極を接触させて加圧し、さらに前記電極から電流を通電することにより生じる抵抗発熱によって前記溶接箇所の溶接を実施する抵抗溶接機の制御方法であって、
溶接の実施中において前記ワークの物理的膨張量を測定する測定ステップと、
前記測定ステップにおいて測定された前記物理的膨張量に基づき前記電極の摩耗状態を判断する判断ステップと、
前記判断ステップにおいて判断された前記摩耗状態の情報を提供する提供ステップと
を含み、
前記判断ステップにおいて、前記物理的膨張量の飽和後の物理的膨張量の挙動に基づき前記電極の摩耗状態を判断する、抵抗溶接機の制御方法。
【請求項11】
ワークの溶接箇所に電極を移動させて、前記ワークに電極を接触させて加圧し、さらに前記電極から電流を通電することにより生じる抵抗発熱によって前記溶接箇所の溶接を実施する抵抗溶接機の制御プログラムであって、
コンピュータに、
溶接の実施中において前記ワークの物理的膨張量を測定する測定機能と、
前記測定機能において測定された前記物理的膨張量に基づき前記電極の摩耗状態を判断する判断機能と、
前記判断機能において判断された前記摩耗状態の情報を提供する提供機能と
を実現させ
、
前記判断機能において、前記物理的膨張量の飽和点の存在の有無に基づき前記電極の摩耗状態を判断させるための、抵抗溶接機の制御プログラム。
【請求項12】
ワークの溶接箇所に電極を移動させて、前記ワークに電極を接触させて加圧し、さらに前記電極から電流を通電することにより生じる抵抗発熱によって前記溶接箇所の溶接を実施する抵抗溶接機の制御プログラムであって、
コンピュータに、
溶接の実施中において前記ワークの物理的膨張量を測定する測定機能と、
前記測定機能において測定された前記物理的膨張量に基づき前記電極の摩耗状態を判断する判断機能と、
前記判断機能において判断された前記摩耗状態の情報を提供する提供機能と
を実現させ、
前記判断機能において、前記物理的膨張量の飽和後の物理的膨張量の挙動に基づき前記電極の摩耗状態を判断させるための、抵抗溶接機の制御プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抵抗溶接機の制御装置およびその制御方法ならびに制御プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
ワークの溶接箇所に電極を接触させて電流を通電することにより生じる抵抗発熱によってワークを溶接する抵抗溶接機では、ワークと接触する電極が摩耗すると溶接不良が発生する場合がある。
【0003】
このため、従来は抵抗溶接において所定回数の溶接がされた後にまたは定期的に、電極を研磨して電極の形状を維持していた(例えば、特許文献1を参照)。
【0004】
また、抵抗溶接機の電極の摩耗度を検出する装置に電極を移動させて電極の形状を測定する装置があった(例えば、特許文献2を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2008-254069号公報
【文献】特開平08-224671号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、従来技術においては、所定回数の溶接がされた後にまたは定期的に電極を研磨していたため、電極の摩耗量が想定より小さい場合、まだ研磨が不用な電極が研磨されて無駄なコストが発生する場合があった。また、電極の摩耗量が想定より大きい場合、研磨前の溶接において溶接不良が発生し、溶接機を含むライン全体の停止により生産性が低下する場合があった。
【0007】
また、形状測定装置において電極の形状を測定するには形状測定装置の追加にともない装置コストが上昇するとともに、測定装置まで電極を移動するための時間が必要なため測定頻度が高くなると溶接機を含むライン全体の生産性が低下する場合があった。
【0008】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、低コストにおいて抵抗溶接機の電極の正確な研磨時期を把握できるとともに溶接機の生産性を向上させることができる、抵抗溶接機の制御装置およびその制御方法ならびに制御プログラムを提供することを一つの目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(1)上記の課題を解決するため、抵抗溶接機の制御装置は、ワークの溶接箇所に電極を移動させて、ワークに電極を接触させて加圧し、さらに電極から電流を通電することにより生じる抵抗発熱によって溶接箇所の溶接を実施する抵抗溶接機の制御装置であって、溶接の実施中においてワークの物理的膨張量を測定する測定部と、測定部において測定された物理的膨張量に基づき電極の摩耗状態を判断する判断部と、判断部において判断された摩耗状態の情報を提供する提供部とを備える。
【0010】
(2)また、実施形態の抵抗溶接機の制御装置において、測定部は、電極の移動量を測定することにより物理的膨張量を測定するものであってもよい。
【0011】
(3)また、実施形態の抵抗溶接機の制御装置において、測定部は、電極がワークを加圧するときの電極を保持するガンヨークのひずみ量を測定して電極の移動量に換算することにより移動量を測定するものであってもよい。
【0012】
(4)また、実施形態の抵抗溶接機の制御装置において、判断部は、通電開始時の物理的膨張量に基づき電極の摩耗状態を判断するものであってもよい。
【0013】
(5)また、実施形態の抵抗溶接機の制御装置において、判断部は、物理的膨張量の飽和点の存在の有無に基づき電極の摩耗状態を判断するものであってもよい。
【0014】
(6)また、実施形態の抵抗溶接機の制御装置において、判断部は、物理的膨張量の飽和後の物理的膨張量の挙動に基づき電極の摩耗状態を判断するものであってもよい。
【0015】
(7)また、実施形態の抵抗溶接機の制御装置において、物理的膨張量の基準値を予め記憶する記憶部をさらに備え、判断部は、測定部において測定された物理的膨張量と記憶部に記憶された基準値とを比較して電極の摩耗状態を判断するものであってもよい。
【0016】
(8)また、実施形態の抵抗溶接機の制御装置において、物理的膨張量を時系列で記録する記録部をさらに備え、判断部は、測定部において測定された物理的膨張量と記録部に時系列で記録された物理的膨張量とを比較して電極の摩耗状態を判断するものであってもよい。
【0017】
(9)また、実施形態の抵抗溶接機の制御装置において、測定部は、電極を直線的に移動させるためのボールねじの回転量を測定することにより物理的膨張量を測定するものであってもよい。
【0018】
(10)上記の課題を解決するため、抵抗溶接機の制御方法は、ワークの溶接箇所に電極を移動させて、ワークに電極を接触させて加圧し、さらに電極から電流を通電することにより生じる抵抗発熱によって溶接箇所の溶接を実施する抵抗溶接機の制御方法であって、溶接の実施中においてワークの物理的膨張量を測定する測定ステップと、測定ステップにおいて測定された物理的膨張量に基づき電極の摩耗状態を判断する判断ステップと、判断ステップにおいて判断された摩耗状態の情報を提供する提供ステップとを含む。
【0019】
(11)上記の課題を解決するため、抵抗溶接機の制御プログラムは、ワークの溶接箇所に電極を移動させて、ワークに電極を接触させて加圧し、さらに電極から電流を通電することにより生じる抵抗発熱によって溶接箇所の溶接を実施する抵抗溶接機の制御プログラムであって、コンピュータに、溶接の実施中においてワークの物理的膨張量を測定する測定機能と、測定機能において測定された物理的膨張量に基づき電極の摩耗状態を判断する判断機能と、判断機能において判断された摩耗状態の情報を提供する提供機能とを実現させる。
【発明の効果】
【0020】
本発明の一つの実施形態によれば、溶接の実施中においてワークの物理的膨張量を測定し、測定された物理的膨張量に基づき電極の摩耗状態を判断し、判断された摩耗状態の情報を提供することにより、低コストにおいて抵抗溶接機の電極の正確な研磨時期を把握できるとともに溶接機の生産性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】実施形態における抵抗溶接機の制御装置のソフトウェア構成の一例を示すブロック図である。
【
図2】実施形態における抵抗溶接機の第1の構成例を示す図である。
【
図3】実施形態における抵抗溶接機の第2の構成例を示す図である。
【
図4】実施形態における抵抗溶接機の制御装置の動作の一例を示すフローチャートである。
【
図5】実施形態における電極の物理的膨張の第1の測定結果の一例を示す図である。
【
図6】実施形態における電極の物理的膨張の第2の測定結果の一例を示す図である。
【
図7】実施形態における抵抗溶接機の制御装置のハードウェア構成の一例を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を参照して本発明の一実施形態における抵抗溶接機の制御装置、抵抗溶接機の制御方法、および抵抗溶接機の制御プログラムについて詳細に説明する。
【0023】
先ず、
図1を用いて、抵抗溶接機の制御装置の機能を説明する。
図1は、実施形態における抵抗溶接機の制御装置のソフトウェア構成の一例を示すブロック図である。
【0024】
図1において、制御装置1は、図示しない抵抗溶接機を制御するための装置である。制御装置1は、例えばネットワーク9を介して、摩耗監視装置2と通信可能に接続されている。摩耗監視装置2は、抵抗溶接機の電極の摩耗を、抵抗溶接機の電極を保守する保守者等に報知する装置であり、例えば、表示装置、警報装置または印字装置等によって摩耗を報知する。なお、
図1は、制御装置1と摩耗監視装置2がそれぞれ1台ネットワーク9によって接続されるシステム構成を例示しているが、システム構成はこれに限定されるものではない。例えば、複数の制御装置1が1台の摩耗監視装置2と接続されて、1台の摩耗監視装置2において複数の抵抗溶接機を監視するシステムを構成するようにしてもよい。また、ネットワーク9は、有線または無線を介する通信経路であり、その通信プロトコル等の通信手段は任意である。
【0025】
抵抗溶接機の制御装置1は、測定部11、入出力部12、記憶部13、記録部14、判断部15、提供部16、駆動部17および電流制御部18の各機能部を有する。本実施形態における制御装置1の上記各機能部は、本実施形態における抵抗溶接機の制御プログラム(ソフトウェア)によって実現される機能モジュールであるものとして説明する。
【0026】
測定部11は、溶接の実施中においてワークの物理的膨張量を測定する。本実施形態においては、角位置センサ111、ひずみセンサ112、または変位センサ113の測定値を用いてワークの物理的膨張量を測定する場合を例示して説明(後述)する。
【0027】
ここで、電極の摩耗とワークの物理的膨張量について説明する。抵抗溶接(抵抗スポット溶接)における電極(電極チップ)は、溶接箇所におけるワークとの接触およびワークへの加圧力の印加によって摩耗する。電極の摩耗量は、例えば、溶接回数、ワーク(材料、表面状態または厚み等)、通電電流量、および加圧力の強さ等、様々な要因によって異なる。従って、例えば、溶接回数のみでは、実際の摩耗量を推定することが困難となる場合がある。また、電極が摩耗すると、ワークとの接触面積が大きくなるため、電流経路が広くなることでワークと電極間の抵抗値が小さくなりジュール熱の発生量が小さくなる。また、ワークとの接触面積が大きくなるとワークの熱が電極に伝導しやすくなり、ワークの溶接箇所における温度上昇が小さくなる。この溶接箇所の温度上昇を小さくする性質を「冷却能力」と言う場合がある。すなわち、ワークと電極の接触面積が大きくなると冷却能力が向上して溶接箇所の温度上昇が小さくなる。したがって、電極の摩耗量が大きくなると、ジュール熱の低下(第1の効果)と冷却能力の向上(第2の効果)の2つの効果によって溶接箇所における温度上昇が不十分となり溶接不良が発生する場合がある。
【0028】
一方、ワークは温度上昇に伴って物理的に膨張(物理的膨張)する。ワークは、溶接開始時から温度が上昇すると、電極の元の形状に応じて物理的膨張をする。例えば、電極が新品の場合、上述したように、接触面積が小さく冷却能力が小さいためワークの温度が高くなりやすくなり、物理的膨張量が大きくなりやすくなる。一方、電極が摩耗している場合、冷却効果によって温度上昇が不十分となり、ワークの物理的膨張量が小さくなる。したがって、電流通電開始からのワークの物理的膨張量を測定することができれば、電極の摩耗状態を測定することが可能となる。測定部11は、溶接の実施中において、角位置センサ111、ひずみセンサ112、または変位センサ113の測定値を用いることにより、ワークの物理的膨張量を測定する。測定部11は、角位置センサ111、ひずみセンサ112、または変位センサ113の測定値に基づきワークの物理的膨張量を測定することにより、電極の消耗状態を判断するための測定値を測定することができる。
【0029】
入出力部12は、測定部11において測定された物理的膨張量と比較するための物理的膨張量の基準値を取得する。例えば、基準値は予め定められた閾値であり、入出力部12は、図示しないキーボード等のI/O機器を介して保守者等が手入力することにより基準値を取得する。入出力部12は、摩耗監視装置2等の外部装置から基準値を取得するようにしてもよい。
【0030】
記憶部13は、入出力部12を介して取得された物理的膨張量の基準値を予め記憶する。記憶部13は、溶接条件に合わせて複数の基準値を記憶するようにしてもよい。例えば、記憶部13は、溶接対象のワークの種類、電極研磨実施後の溶接回数、気温、または単位時間あたりの溶接回数等に応じて基準値を変えて記憶するようにしてもよい。
【0031】
記録部14は、測定部11において測定された時系列の物理的膨張量を記録する。例えば、記録部14は、過去千回の物理的膨張量を時系列で記録してもよい。測定部11において測定される物理的膨張量は溶接実施毎に測定誤差(ばらつき)を含む場合がある。記録部14は、物理的膨張量を時系列で記録していくことにより、例えば、測定値の平均値を算出可能にして、測定値の誤差が平準化された測定値のトレンドを算出可能にする。これにより、経時的に徐々に変化する物理的膨張量の経時的な変化を取得することが可能となる。
【0032】
判断部15は、測定部11において測定された物理的膨張量に基づき、電極の摩耗状態を判断する。例えば、判断部15は、測定部11において測定された物理的膨張量と、記憶部13に記憶された基準値とを比較して電極の摩耗状態を判断する。また、判断部15は、測定部11において測定された物理的膨張量と、記録部14に時系列で記録された物理的膨張量とを比較して電極の摩耗状態を判断するようにしてもよい。例えば、判断部15は、摩耗状態を「使用OK」または「使用NG」の2段階で判断する。また、判断部15は、研磨後の摩耗状態を「100%」、使用NGの摩耗状態を「0%」としたときの「100%」~「0%」の数値、または消耗の度合いを複数のランクとして判断するようにしてもよい。なお、判断部15における具体的な判断例は後述する。
【0033】
提供部16は、判断部15において判断された摩耗状態の情報を提供する。例えば、提供部16は、摩耗監視装置2に対して摩耗状態を提供する。また、提供部16は、摩耗状態に応じて、抵抗溶接機を停止させるための情報、または通電電流量を調整するための情報等を提供するものであってもよい。
【0034】
駆動部17は、電極を溶接対象のワークに対して接触・加圧するために電極を移動させるアクチュエータの駆動を制御する。
【0035】
電流制御部18は、電極における通電電流を制御する。例えば、電流制御部18は、通電電流の波形を制御する。通電電流の波形は、通電開始から通電終了までの電流量の時間的な変化を定めるものであり、例えば、電流制御部18は、矩形パルス形状の波形を通電させる制御を行う。
【0036】
なお、抵抗溶接機3の制御装置1が有する、上述の各機能部は、制御装置1の機能部の一例を示したものであり、制御装置1が有する機能を限定したものではない。例えば、制御装置1は、上記全ての機能部を有している必要はなく、一部の機能部を有するものであってもよい。また、制御装置1は、上記以外の他の機能を有していてもよい。例えば、制御装置1は、情報を入力するために入力機能や、装置の稼働状態をLEDランプ等により報知する出力機能を有していてもよい。
【0037】
また、制御装置1が有する上記各機能部は、上述の通り、ソフトウェアによって実現されるものとして説明した。しかし、制御装置1が有する上記機能部の中で少なくとも1つ以上の機能部は、ハードウェアによって実現されるものであってもよい。
【0038】
また、制御装置1が有する上記何れかの機能部は、1つの機能部を複数の機能部に分割して実施してもよい。また、制御装置1が有する上記何れか2つ以上の機能部を1つの機能部に集約して実施してもよい。すなわち、
図1は、制御装置1が有する機能を機能ブロックで表現したものであり、例えば、各機能部がそれぞれ別個のプログラムファイル等で構成されていることを示すものではない。
【0039】
また、制御装置1は、1つの筐体によって実現される装置であっても、ネットワーク等を介して接続された複数の装置から実現されるシステムであってもよい。例えば、制御装置1は、その機能の一部または全部をクラウドコンピューティングシステムによって提供されるクラウドサービス等、他の仮想的な装置によって実現するものであってもよい。すなわち、制御装置1は、上記各機能部のうち、少なくとも1以上の機能部を他の装置において実現するようにしてもよい。また、制御装置1は、デスクトップPC等の汎用的なコンピュータであってもよく、機能が限定された専用の装置であってもよい。
【0040】
たとえば、摩耗監視装置2が、制御装置1から測定部11において測定された物理的膨張量に基づき電極の摩耗状態を判断する機能を有し、または判断された摩耗状態の情報を提供する機能を有していてもよい。また、制御装置1の機能は抵抗溶接機として一体的に実施されるものであってもよい。すなわち、制御装置1は、抵抗溶接機として実施されてもよい。
【0041】
次に、
図2および
図3を用いて、抵抗溶接機の構成を説明する。
図2は、実施形態における抵抗溶接機の第1の構成例を示す図である。
図3は、実施形態における抵抗溶接機の第2の構成例を示す図である。
図2に示す抵抗溶接機3aは、抵抗溶接機3の第1の構成例であり、
図3に示す抵抗溶接機3bは、抵抗溶接機3の第2の構成例である。
【0042】
図2において、抵抗溶接機3aは、モータ31、ギア(プーリ)32、ボールねじ33、電極34、ガンヨーク35、角位置センサ111およびひずみセンサ112を備える。第1の構成例である抵抗溶接機3aは、電極34の物理的膨張量を角位置センサ111およびひずみセンサ112を用いて測定する。
【0043】
モータ31は、ギア(プーリ)32を介してボールねじ33を回転させる。モータ31は駆動部17によって回転が制御される。モータ31の回転は、ギア(プーリ)32において減速されてボールねじ33に伝達される。例えば、抵抗溶接機3aの溶接ガンが電極を直線的に移動させるCタイプの溶接ガンである場合、ボールねじ33の回転動は、図示しないスプラインを介して上下動(直線運動)に変換されて、スプラインとともに上下動する図示上側の電極34を直線運動させる。すなわち、電極34におけるワークの加圧は、モータ31の回転によって行われる。本実施形態において「電極の移動量」という場合、電極34によってワークを加圧する方向の直線運動における移動量を意味する。図示する抵抗溶接機3aにおいては、電極の移動量は上下方向における移動量であるが、たとえば加圧の方向が水平方向である場合、電極の移動量は水平方向となる。また、例えば、抵抗溶接機3aの溶接ガンが支点を中心に電極が回動するXタイプの溶接ガンである場合、スプラインの移動は電極を回動運動させる。すなわち、本実施形態において「電極の移動量」という場合、電極34によってワークを加圧する方向の回動運動における移動量を意味する。
【0044】
モータ31の回転軸には角位置センサ111が取り付けられている。角位置センサ111は、モータ31の角位置を検出するセンサであり、例えば、ロータリエンコーダまたはレゾルバ等によって実施することができる。以下の説明では、角位置センサ111はロータリエンコーダであるものとして説明する。ロータリエンコーダは、モータ31の回転量をパルスとして測定することができる。すなわち、電極34の直線運動における可動域36は、角位置センサ111のパルス数として測定される。
【0045】
角位置センサ111が2048パルス/回転のロータリエンコーダである場合、角位置センサ111はモータの1回転を2048パルスとして測定する。すなわち、角位置センサ111で検出される1パルスは、モータ31の1/2048回転を示す。また、ギア(プーリ)32のギア減衰比が2:1、ボールねじ33のピッチが20mmである場合、モータ1回転は電極の直線運動量10mmとなる。すなわち、角位置センサ111で検出される1パルスは、10mm/2048パルス≒0.00488となり、電極34の直線運動は、4.88μm/パルス(式1)として測定される。
【0046】
ひずみセンサ112は、電極34がワークを加圧したときにガンヨーク35に生じるひずみ量を測定するセンサである。ひずみセンサ112は、溶接の実施中においてワークが物理的膨張をした場合に生じる加圧力の上昇をひずみ量として測定することができる。ガンヨーク35のひずみ量εと角位置センサ111において測定されるモータ31の回転量は、例えば、溶接前の空打ち等で事前に測定しておくことができる。例えば、電極でワークを加圧開始したときの開始圧力(例えば、1kN)から加圧が溶接に必要な圧力である到達圧力(例えば、5kN)に到達するまでの電極の直線距離が角位置センサ111のパルス量として1600パルスと測定された場合、単位加圧力あたりのパルス数は、1600パルス/(5-1)kN=400パルス/kNとなる。また、開始圧力から到達圧力に到達するまでのガンヨーク35のひずみ量が400μεであった場合、単位加圧力あたりのひずみ量は、400με/(5-1)kN=100με/kNとなる。すなわち、ひずみ量あたりのパルス数は、400パルス/100με=4パルス/μεとなる。ここで、上述のようにパルスあたりの電極の移動量は4.88μm/パルスであるため、ひずみ量あたりの電極の移動量は、4.88μm/(1/4με)=19.52μm/με(式2)となる。すなわち、ひずみセンサ112は、ガンヨーク35に生じるひずみ量から、物理的膨張量を電極の移動量として測定することが可能となる。
【0047】
<電極の物理的膨張の測定(1)>
次に、第1の構成例である抵抗溶接機3aにおける物理的膨張の測定方法を説明する。ワークは、通電によって生じるジュール熱で、ボールねじ33による電極34の移動方向に物理的膨張量37として膨張する。物理的膨張量37は、電極34とワークの加圧力を高め、ガンヨーク35のひずみ量として測定される。例えば、ひずみセンサ112によって溶接の実施中(通電中)に測定されるひずみ量が5μεであった場合、式2によって物理的膨張量37は、5*19.52μm/με=97.6μm(測定結果1)として測定される。
【0048】
また、ワークの熱膨張によってボールねじ33が逆回転(加圧方向と逆向きの回転)した場合、ボールねじ33の回転量は角位置センサ111のパルス数として測定される。たとえばボールねじ33の逆回転によって角位置センサ111において10パルスが測定された場合、式1によって、10*4.88μm/パルス=48.8μm(測定結果2)として測定される。この場合、測定結果1との合計、すなわち97.6+48.8=146.0μmが物理的膨張量37として測定される。
【0049】
ここで、判断部15における物理的膨張量37の値を用いた電極34の摩耗状態の判断の具体例(A~Eで示す判断手法)を説明する。なお、摩耗状態とは、物理的形状における摩耗の状態をいい、電極34の先端部(最初にワークに接する部分)から徐々に摩耗していく形状変化の度合いである。以下に説明する判断手法は、少なくともいずれか1つの手法が実施される。また、2つ以上の判断手法を組み合わせて実施するものであってもよい。
【0050】
<判断手法A:通電開始時の物理的膨張量に基づく判断>
判断部15は、通電開始時の物理的膨張量37に基づき電極34の摩耗状態を判断する。通電開始時の物理的膨張量37とは、例えば、通電開始から所定時間経過後の物理的膨張量37の大きさであり、単位時間当たりの物理的膨張量37の変化量である。電極34の摩耗量が小さい場合、冷却能力が小さいため単位時間当たりの物理的膨張量37の変化量が大きくなる。一方、電極34の摩耗量が大きい場合、冷却能力が大きくなるため単位時間当たりの物理的膨張量37の変化量が小さくなる。単位時間当たりの物理的膨張量37の変化量は電極34の摩耗状態に応じた冷却能力に正確に対応する。このため、単位時間当たりの物理的膨張量37の変化量を測定することにより、電極34の摩耗状態を正確に判断することが可能となる。
【0051】
例えば、単位時間当たりの物理的膨張量37の変化量は、横軸に通電開始からの経過時間、縦軸に物理的膨張量をプロットしたグラフにおいては、グラフの傾きとして表現される。通電開始から25mS後の物理的膨張量37が100μmであったとすると、グラフの傾きは、100μm/25mS=4μm/mSとして測定される。例えば、判断部15は、傾きが1μm/mS以上の場合、摩耗状態がOKであると判断し、1μm/mS未満の場合、摩耗状態がNGであると判断する。また、判断部15は、傾きが4μm/mS以上の場合はレベル1の摩耗状態、傾きが3μm/mS以上4μm/mS未満の場合はレベル2の摩耗状態、傾きが2μm/mS以上3μm/mS未満の場合はレベル3の摩耗状態、傾きが1μm/mS以上2μm/mS未満の場合はレベル4の摩耗状態、さらに傾きが1μm/mS未満の場合はレベル5の摩耗状態と判断するようにしてもよい。
【0052】
<判断手法B:物理的膨張量の飽和点の存在の有無に基づく判断>
判断部15は、物理的膨張量37の飽和点の存在の有無に基づき電極34の摩耗状態を判断する。物理的膨張量37の飽和点の存在の有無とは、通電開始から所定の時間内に物理的膨張量37が飽和してそれ以上増加しなくなる点(飽和点)が出現するか否かである。上述のように、電極34の摩耗量が小さい場合、冷却能力が小さいため単位時間当たりの物理的膨張量37の変化量が大きくなる。このため、通電開始から所定の時間内(例えば、通電終了まで)に電極34の温度が所定の温度まで上昇して物理的膨張量37の飽和点が出現する。一方、電極34の摩耗量が大きい場合、冷却能力が大きいため単位時間当たりの物理的膨張量37の変化量が小さくなる。このため、通電開始から所定の時間が経過しても電極34の温度が所定の温度まで達しないため物理的膨張量37の飽和点が出現しない。上述のように、単位時間当たりの物理的膨張量37の変化量は冷却能力に正確に対応する。このため、物理的膨張量37の飽和点の存在の有無を判断することにより、電極34の摩耗状態を正確に判断することが可能となる。
【0053】
例えば、判断部15は、所定時間内において物理的膨張量37の飽和点が存在したと判断した場合、摩耗状態がOKであると判断し、飽和点が存在していないと判断した場合、摩耗状態がNGであると判断する。飽和点の存在の有無は、例えば、物理的膨張量37の単位時間当たりの変化量が予め定められた量以下になった場合、または物理的膨張量37の変化量が予め定められた値に到達した場合等によって判断することができる。
【0054】
また、判断部15は、通電開始から物理的膨張量37の変化量が飽和点に到達するまでの時間によって電極34の摩耗状態を判断するようにしてもよい。例えば、通電開始から25mSまでの間に到達した場合レベル1の摩耗状態、25~50mSまでの間に到達した場合レベル2の摩耗状態、50~100mSまでの間に到達した場合レベル3の摩耗状態、100~通電終了までの間に到達した場合レベル4の摩耗状態、さらに通電終了までの間に到達しなかった場合レベル5の摩耗状態と判断するようにしてもよい。
【0055】
<判断手法C:物理的膨張量の飽和後の物理的膨張量の挙動に基づく判断>
判断部15は、物理的膨張量37の飽和後の物理的膨張量37の挙動に基づき電極34の摩耗状態を判断する。飽和後の物理的膨張量37の挙動とは、飽和後における物理的膨張量37の値の増加または減少である。物理的膨張量37の飽和とは、上述のように物理的膨張量37の変化量が予め定められた値に到達した場合等によって判断することができる。しかし、物理的膨張量37の変化は電極34の摩耗にともない緩やかになるため、飽和の検出が困難となる場合がある。そこで、物理的膨張量37の飽和が判断された場合であっても飽和後の物理的膨張量37の挙動を判断することにより、より正確に物理的膨張量37の飽和を判断することが可能となる。
【0056】
例えば、物理的膨張量37の飽和が判断された後において物理的膨張量37がさらに増加した場合、判断部15は、あらたに増加した物理的膨張量37に基づき摩耗状態を判断するようにしてもよい。また、物理的膨張量37の飽和が判断された後において物理的膨張量37が一度低下した場合、判断部15は、判断された飽和を追認するようにしてもよい。
【0057】
なお、判断手法A~Cにおいて、記憶部13に記憶された基準値に基づき摩耗状態を判断することができる。例えば、判断部15は、判断手法A~Cにおいて測定された物理的膨張量37を記憶部13に記憶された基準値と比較することにより摩耗状態を判断する。基準値は予め定められた数値を記憶部13に記憶しておくことができるので、溶接条件(例えば、ワークの種類、通電電流量、または電流の波形パターン等)に応じて記憶された基準値を読み出して摩耗状態の判断に使用することができる。
【0058】
また、判断手法A~Cにおいて、記録部14に時系列で記録された物理的膨張量37に基づき摩耗状態を判断することができる。例えば、判断部15は、判断手法A~Cにおいて測定された物理的膨張量37を記録部14に保存し、測定された物理的膨張量37と、記録された時系列の記録とを比較することにより摩耗状態を判断する。物理的膨張量37は溶接の実施とともに誤差を含んで測定される場合がある。物理的膨張量37を時系列で記録することにより、例えば、物理的膨張量37を平均化して誤差をキャンセルすることができる。誤差がキャンセルされた物理的膨張量37を比較対象とすることにより、摩耗状態を正確に判断することが可能となる。また、物理的膨張量37を時系列で記録することにより、物理的膨張量37の経時的な変化(トレンド)を記録することができる。摩耗状態は溶接回数に応じて徐々に変化するため、物理的膨張量37をトレンドで補正することにより、誤差をキャンセルすることができ、さらに摩耗状態を正確に判断することが可能となる。
【0059】
第1の構成例である抵抗溶接機3aは、溶接の通電中の物理的膨張量37の値を使用するため、抵抗溶接機3aのインラインにおける測定が可能となり、電極34の摩耗検出のために工程を増やすことがない。このため、低コストにおいて電極の状態を把握することができ、溶接機の生産性を向上させることができる。
【0060】
次に、
図3において、抵抗溶接機3bは、モータ31、ギア(プーリ)32、ボールねじ33、電極34、ガンヨーク35および変位センサ113を備える。第2の構成例である抵抗溶接機3bは、電極34の物理的膨張量37を、変位センサ113を用いて測定する。なお、
図2と同じ構成は同じ符号を付すことにより説明を省略する。
【0061】
<電極の物理的膨張の測定(2)>
変位センサ113は、ワークが膨張したときに生じる電極間の距離(上側電極と下側電極の距離)の変化を直接測定するセンサであり、例えばレーザ式変位計等を用いることができる。例えば、上側の電極34とともに移動する位置にレーザ式の変位センサ113を取り付け、下の電極34とともにガンヨーク35に固定されている位置にレーザを反射する反射板を取り付けることにより電極間の距離を測定することができる。電極間の距離の変化は、ワークの膨張にともなうガンヨーク35に生じるひずみ、またはボールねじ33の逆回転によって生じる。変位センサ113は、電極間の距離の変化を測定することにより、物理的膨張量37を直接測定することが可能となる。
【0062】
第2の構成例である抵抗溶接機3bは、第1の構成例である抵抗溶接機3aと同様に、溶接の通電中の物理的膨張量37の値を使用するため、抵抗溶接機3bのインラインにおける測定が可能となり、電極34の摩耗検出のために工程を増やすことがない。このため、低コストにおいて電極の状態を把握することができ、溶接機の生産性を向上させることができる。
【0063】
次に、
図4を用いて、制御装置1の動作を説明する。
図4は、実施形態における抵抗溶接機3の制御装置1の動作の一例を示すフローチャートである。なお、ここで説明する動作は、制御装置1を主体として実行される場合を説明するが、
図1において説明した制御装置1が有する各機能において実現されてもよい。
【0064】
図4において、制御装置1は、電極による加圧が溶接に必要な加圧力に到達したか否かを判断する(ステップS11)。溶接に必要な加圧力に到達したか否かは、例えば角位置センサ111のパルス数から判断することができる。なお、電極による加圧が、例えばロボットコントローラの制御において行われる場合、制御装置1は、溶接に必要な加圧力に到達したか否かの情報をロボットコントローラから取得するようにしてもよい。溶接に必要な加圧力に到達していないと判断した場合(ステップS11:NO)、制御装置1は、ステップS11の動作を繰り返し、加圧力の到達を待機する。
【0065】
一方、溶接に必要な加圧力に到達したと判断した場合(ステップS11:YES)、制御装置1は、電極34からの通電を開始する(ステップS12)。電極34からの通電は、例えば、予め定められたパルス波形の電流によって実施される。
【0066】
ステップS12の処理が実行された後、制御装置1は、物理的膨張量37の測定を開始する(ステップS13)。物理的膨張量37の測定は、上述した、「ワークの物理的膨張の測定(1)」または「ワークの物理的膨張の測定(2)」の少なくともいずれか一方で実施することができる。
【0067】
ステップS13の処理が実行された後、制御装置1は、電極34からの通電を終了する(ステップS14)。電極34からの通電の終了は、例えば、予め定められたパルス波形(例えば、矩形パルス波形)の電流を予め定められた回数(例えば、1回)通電することにより実施される。
【0068】
ステップS14の処理が実行された後、制御装置1は、電極34の摩耗状態を判断する(ステップS15)。摩耗状態の判断は、判断部15において上述した判断手法A~Cで実行することができる。摩耗状態の判断は、例えば、摩耗状態によって電極34が使用可能(摩耗状態OK)か、使用不可(摩耗状態NG)かで判断される。
【0069】
ステップS15の処理において摩耗状態がNGであると判断された場合(ステップS16:YES)、制御装置1は、摩耗状態を提供する(ステップS17)。制御装置1は、上述のように、たとえば摩耗監視装置2に対して摩耗状態を提供する。ステップS15の処理において摩耗状態がOKであると判断された場合(ステップS16:NO)、または、ステップS17の処理が実行された後、制御装置1は、フローチャートで示す処理を終了する。
【0070】
次に、
図5および
図6を用いて、ワークの物理的膨張量37の測定結果について説明する。
図5は、実施形態におけるワークの物理的膨張量37の第1の測定結果の一例を示す図である。
図6は、実施形態におけるワークの物理的膨張量37の第2の測定結果の一例を示す図である。
図5は、電極34が新品または研磨後の状態における測定結果を示す。
図6は、電極の摩耗が進んだ状態における測定結果を示す。
【0071】
図5において、x軸は通電開始(x軸:0mS)からの時間の経過を示す。太線で示す電流波形41は、電極34から通電される電流の経時的な変化を示す。本実施形態において、電流波形41は矩形パルス波である場合を示している。電流波形41は、0~150mSにおいて8000Aの電流値である。
【0072】
図5において、実線は、電極34が新品の状態における物理的膨張量37の測定値42を示し、点線は電極間の抵抗値の測定値43を示している。測定値42は、約25mSにおいて飽和に達し、その後も100μm程度を維持し、通電終了の150mSから徐々に小さくなる。判断手法Aにおいては、通電開始から25mS後に100μmとなるため、グラフの傾きは、100μm/25mS=4μm/mSとして測定される。判断部15は、この測定結果から電極の摩耗がないと判断する。また、判断手法Bにおいては、約25mSにおいて飽和に達しているため、判断部15は、この測定結果から電極の摩耗がないと判断する。さらに、判断手法Cにおいては、飽和に達した後に100μm程度を維持しているため、判断部15は、この測定結果から電極の摩耗がないと判断する。
【0073】
抵抗溶接における発熱量は、抵抗値rと電流Iからr*I2と算出される。ここで矩形パルスにおいては通電電流が一定のため、測定値43の測定結果は、単位時間当たりの発熱量に比例する。測定値43は、通電開始時には300μΩと高い抵抗値を示し、発熱量もこれに比例して大きくなる。物理的膨張に伴い測定値43は徐々に低下していくため、測定値42も100μmを維持することができる。冷却能力は温度差が大きいほど高くなるため、抵抗値の低下により発熱量が下がると冷却能力も小さくなる。したがって、測定値42が一定値を維持するのは発熱量と冷却能力のバランスが取れているためと推測することができる。
【0074】
図6において、太線で示す電流波形51は、
図5と同様である。実線は、電極34が摩耗した状態における物理的膨張量37の測定値52を示し、点線は電極間の抵抗値の測定値53を示している。測定値52は、通電開始から約25mSにおいて約25μmに達し、その後も飽和せずに通電終了まで徐々に高くなっている。判断手法Aにおいては、通電開始から25mS後に25μmとなるため、グラフの傾きは、25μm/25mS=1μm/mSとして測定される。判断部15は、この測定結果から電極が摩耗していると判断する。また、判断手法Bにおいては、通電開始から終了までに飽和に達していないため、判断部15は、この測定結果から電極が摩耗していると判断する。さらに、判断手法Cにおいては、飽和に達していないため、判断部15は、この測定結果から電極が摩耗していると判断する。
【0075】
測定値53は、通電開始時には約250μΩであるが、その後は150μΩ程度に低下し、
図5の測定値43に比べて低い値となる。これは、電極34の摩耗によってワークとの接触面積が増加しているためであり、電極34が新品のときに比べて十分な発熱量を得ることができないことを示している。
次に、
図7を用いて、制御装置1のハードウェア構成を説明する。
図7は、実施形態における制御装置1のハードウェア構成の一例を示すブロック図である。
【0076】
制御装置1は、CPU(Central Processing Unit)101、RAM(Random Access Memory)102、ROM(Read Only Memory)103、I/O機器104、および通信I/F(Interface)105を有する。制御装置1は、
図1で説明した制御装置1の制御プログラムを実行する装置である。
【0077】
CPU101は、RAM102またはROM103に記憶された情報処理プログラムを実行することにより、利用者端末の制御を行う。情報処理プログラムは、例えば、プログラムを記録した記録媒体、又はネットワークを介したプログラム配信サーバ等から取得されて、ROM103にインストールされ、CPU101から読出されて実行される。
【0078】
I/O機器104は、操作入力機能と表示機能(操作表示機能)を有する。I/O機器104は、例えばタッチパネルである。タッチパネルは、制御装置1の利用者に対して指先又はタッチペン等を用いた操作入力を可能にする。本実施形態におけるI/O機器104は、操作表示機能を有するタッチパネルを用いる場合を説明するが、I/O機器104は、表示機能を有する表示装置と操作入力機能を有する操作入力装置とを別個有するものであってもよい。その場合、タッチパネルの表示画面は表示装置の表示画面、タッチパネルの操作は操作入力装置の操作として実施することができる。なお、I/O機器104は、ヘッドマウント型、メガネ型、腕時計型のディスプレイ等の種々の形態によって実現されてもよい。
【0079】
通信I/F105は、通信用のI/Fである。通信I/F105は、例えば、無線LAN、有線LAN、赤外線等の近距離無線通信を実行する。図は通信用のI/Fとして通信I/F105のみを図示するが、制御装置1は複数の通信方式においてそれぞれの通信用のI/Fを有するものであってもよい。
【0080】
なお、本実施形態で説明した装置を構成する機能を実現するためのプログラムを、コンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録して、当該記録媒体に記録されたプログラムをコンピュータシステムに読み込ませ、実行することにより、本実施形態の上述した種々の処理を行ってもよい。なお、ここでいう「コンピュータシステム」とは、OSや周辺機器等のハードウェアを含むものであってもよい。また、「コンピュータシステム」は、WWWシステムを利用している場合であれば、ホームページ提供環境(あるいは表示環境)も含むものとする。また、「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、フレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM、フラッシュメモリ等の書き込み可能な不揮発性メモリ、CD-ROM等の可搬媒体、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶装置のことをいう。
【0081】
さらに「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、インターネット等のネットワークや電話回線等の通信回線を介してプログラムが送信された場合のサーバやクライアントとなるコンピュータシステム内部の揮発性メモリ(例えばDRAM(Dynamic Random Access Memory))のように、一定時間プログラムを保持しているものも含むものとする。また、上記プログラムは、このプログラムを記憶装置等に格納したコンピュータシステムから、伝送媒体を介して、あるいは、伝送媒体中の伝送波により他のコンピュータシステムに伝送されてもよい。ここで、プログラムを伝送する「伝送媒体」は、インターネット等のネットワーク(通信網)や電話回線等の通信回線(通信線)のように情報を伝送する機能を有する媒体のことをいう。また、上記プログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであっても良い。さらに、前述した機能をコンピュータシステムにすでに記録されているプログラムとの組合せで実現するもの、いわゆる差分ファイル(差分プログラム)であっても良い。
【0082】
以上、本発明の実施形態について、図面を参照して説明してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲においての種々の変更も含まれる。
【符号の説明】
【0083】
1 制御装置
11 測定部
111 角位置センサ
112 ひずみセンサ
113 変位センサ
12 入出力部
13 記憶部
14 記録部
15 判断部
16 提供部
17 駆動部
18 電流制御部
2 摩耗監視装置
3(3a、3b) 抵抗溶接機
31 モータ
32 ギア(プーリ)
33 ボールねじ
34 電極
35 ガンヨーク
36 可動域
37 物理的膨張量
41、51 電流波形
42、52 測定値
43、53 測定値
9 ネットワーク
101 CPU
102 RAM
103 ROM
104 I/O機器
105 通信I/F