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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-13
(45)【発行日】2023-07-24
(54)【発明の名称】靴底
(51)【国際特許分類】
   A43B 7/32 20060101AFI20230714BHJP
【FI】
A43B7/32
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020198695
(22)【出願日】2020-11-30
(65)【公開番号】P2022086595
(43)【公開日】2022-06-09
【審査請求日】2022-01-14
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 2020年12月3日付け新規性の喪失の例外証明書提出書参照。
(73)【特許権者】
【識別番号】000004433
【氏名又は名称】アサヒシューズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000800
【氏名又は名称】弁理士法人創成国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】笠 和明
(72)【発明者】
【氏名】酒向 俊治
(72)【発明者】
【氏名】金子 久光
(72)【発明者】
【氏名】西岡 真菜未
【審査官】村山 睦
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-171855(JP,A)
【文献】特開平08-266304(JP,A)
【文献】実開昭54-145339(JP,U)
【文献】特開2000-004905(JP,A)
【文献】特表2015-526251(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A43B 7/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
足面に設けられ、平面視で六角形の互いに隣接する複数の第1凹部を備え
前記複数の第1凹部を構成する第1隔壁は、該第1隔壁の上縁から切り欠かれた切欠きが設けられた切欠き部を有し、
前記切欠き部の底と前記第1隔壁の基端とは離間し、
前記第1隔壁のうち、足裏の中心軸に平面視で重なる部分、又は前記複数の第1凹部のうちの前記中心軸に平面視で重なる第1凹部を構成する部分に設けられた切欠き部である第1切欠き部の切欠きは、前記複数の第1隔壁のうち、前記第1切欠き部を設けられた部分よりも平面視で外周側に位置する部分に設けられた切欠き部である第2切欠き部の切欠きよりも深く切り欠かれていることを特徴とする靴底
【請求項2】
前記接足面の前足部に対応する領域に設けられ、平面視で六角形の互いに隣接する第2凹部と、
前記接足面の前記第2凹部の内側に設けられ、平面視で六角形の第3凹部とを備え、
前記第3凹部を構成する第3隔壁は、平面視で、六角形の前記第3凹部の各頂点から、該頂点に対向する六角形の前記第2凹部の内角まで延設された延設部を有していることを特徴とする請求項1に記載の靴底
【請求項3】
前記第1隔壁は、上方側ほど肉厚が薄くなるテーパー状に形成されたことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の靴底材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、靴の靴底に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に履物における靴底は、歩行の衝撃や野外での活動による損傷に耐えうるように、ゴムなどの比較的重い材質で構成されている。そこで、軽量かつ負担の少ない履物の需要に応えるため、靴底の改良が求められてきた。従来より、靴底の接足面側に四角形の凹部を形成した靴底が多数公開されており、これにより軽量化を図りつつ、剛性を維持して着地時に足裏にかかる負担を軽減させ、衝撃吸収に寄与していた。
【0003】
この構造は単純なため製造し易いという利点もあるが、一方で剛性の確保と軽量化の両立という意味では不十分であった。すなわち、凹部の隔壁の幅を薄くすると着地時の衝撃に耐えられず、隔壁が撓んで変形し、安定性が失われる。また、隔壁の幅を厚くすると変形しにくく、衝撃吸収力が低くなるとともに軽量化を図ることが難しくなる。
【0004】
そこで、特開平9-322803号(特許文献1)は、アウトソールの内側に開口したセルを有し、前記セル状構造と同様の位置に貫通孔を有したミッドソールを前記アウトソールの上に接着し、前記セルをハニカム構造としたことを特徴とするものとして開示されている。これにより、着地時にセルが圧潰して変形し、ポンプのような役割を果たして靴内に空気を循環させ、連結したミッドソールの貫通孔を通して通気作用が発生し透湿性を確保できるというものである。
【0005】
また、特開2003―38203(特許文献2)では、内部に筒状の中空部群が設けられた弾性体からなるクッション材を靴底材とし、前記クッション材は粘弾性体により構成され、前記中空部群は断面形状が円形、楕円形、多角形あるいは6角形(ハニカム状構造体)であり、その断面積が一定または異なることを特徴とした履物が開示されている。
【0006】
また、特開2008-302113号(特許文献3)では、靴底の接足面に隔壁で仕切られた多数の凹所を設けて、前記隔壁の上縁を切欠き、凹所と靴底の側面を連通させる空気孔を形成した靴底が開示されている。これにより、歩行の際に発生する靴底内の空気を切欠部を通して循環させつつ、凹所と靴の側面に連通させた空気孔から外部に排出または空気を取り入れることで、足が蒸れにくく、快適な状態にさせるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開平9ー322803
【文献】特開2003―38203
【文献】特開2008―302113
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
然しながら、特許文献1の発明は着地時のセルの圧潰によって空気を循環させることを優先させており、衝撃吸収性については考慮されていない。また、単に靴底にハニカム形状のセルを配置したことで、剛性の向上や軽量化に繋がるとは言い難い。
【0009】
また、特許文献2の発明は、ミッドソールに相当する部分に弾性体あるいは粘弾性体からなるクッション材を配置して、内部に筒状の中空部群を設けているが、この構造によりクッション性を優先させた結果、剛性が損なわれて安定性が低下するおそれがある。
【0010】
特許文献3の発明では、歩行時の衝撃の吸収や負荷の軽減よりも、靴底に設けた凹所内の空気を循環させる目的で隔壁の上縁を切り欠いており、凹所の剛性については言及しておらず、安定性の確保や衝撃吸収性の向上と軽量性の両立という作用を兼ね備えているとは言い難い。
【0011】
そこで、本発明の靴底は、靴底材の軽量化と剛性の確保を両立し、かつ安定性や衝撃吸収性に優れたものを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の靴底材は、接足面に設けられ、平面視で六角形の互いに隣接する複数の第1凹部を備え、前記複数の第1凹部を構成する第1隔壁は、該第1隔壁の上縁から切り欠かれた切欠きが設けられた切欠き部を有し、前記切欠き部の底と前記第1隔壁の基端とは離間し、前記第1隔壁のうち、足裏の中心軸に平面視で重なる部分、又は前記複数の第1凹部のうちの前記中心軸に平面視で重なる第1凹部を構成する部分に設けられた切欠き部である第1切欠き部の切欠きは、前記複数の第1隔壁のうち、前記第1切欠き部を設けられた部分よりも平面視で外周側に位置する部分に設けられた切欠き部である第2切欠き部の切欠きよりも深く切り欠かれていることを特徴とする。
【0013】
これにより、従来の四角形による略凹部と比較して衝撃の吸収、分散力が向上し、また凹部を六角形状とすることで剛性を維持でき、靴底材の硬度を軟質とした場合でも耐久性が損なわれない。さらに、凹部の底面には張力が発生して、靴底面からの突き上げるような衝撃を緩和する。そして足裏の中心軸、すなわち着地から踏み込みに至る過程において足裏に荷重がかかる軌道に対応する位置に配置した第1切欠き部は、外周側に位置する隔壁の第2切欠きよりも深くすることで、着地時の荷重でより撓み、荷重がかかる部位の負荷の軽減が図れる。
【0015】
また、本発明の靴底材においては、前記接足面の前足部に対応する領域に設けられ、平面視で六角形の互いに隣接する第2凹部と、前記接足面の前記第2凹部の内側に設けられ、平面視で六角形の第3凹部とを備え、前記第3凹部を構成する第3隔壁は、平面視で、六角形の前記第3凹部の各頂点から、該頂点に対向する六角形の前記第2凹部の内角まで延設された延設部を有していることが好ましい。
【0016】
一般に靴底の前足部は、後足部よりも上下方向の厚みが薄く、これは着地から前進に際しての体重移動などの歩行動作と関連している。すなわち、後足部から前足部にかけて下降するように傾斜を施すことで体重移動を促す効果があるが、一方で前足部は衝撃が足裏に伝わりやすい。本発明の靴底は六角形状の第2凹部の内側に一回り小さい略六角形状の第3凹部を形成することで、前記効果を維持しつつ、衝撃を緩和する。
また、本発明の靴底材においては、第1隔壁は、上方側ほど肉厚が薄くなるテーパー状に形成されることが好ましい。
第1隔壁が、上方側ほど肉厚が薄くなるテーパー状に形成されることにより、凹部の下面は剛性を確保されるとともに、上面は幅が薄くなり撓み易く、さらに切欠きが歩行時の荷重で撓み衝撃の分散、吸収を行うことが出来る。また、靴底成形時に金型から脱型し易くなるため、製造の効率化を図ることが出来る。
【発明の効果】
【0017】
本発明の靴底材は、靴底の接足面において、内部を空洞とした六角形の第1凹部を互いに隣接させ、前記第1凹部を構成する第1隔壁は上方にかけてテーパー状に形成し、その上面に切欠きを施し、足裏の中心軸、すなわち着地から踏み込みに至る過程において、足裏にかかる荷重の軌道上に対応する位置の第1切欠き部を、外周側に位置する第2切欠き部よりも深くしたことを特徴とした靴底で、凹部を六角形とすることで靴底材の硬度を比較的軟質とした場合においても剛性を保ち、歩行時の衝撃を効率よく吸収するとともに、接地面側は張力により強度が増して、下面からの突き上げるような衝撃の軽減にも寄与している。また、着地時に足裏に荷重がかかる位置に対応する第1切欠きを深くすることで、着地時の衝撃によって生じる隔壁の撓みが増大し、衝撃の吸収を高める。さらに、外周側の第2切欠きはその深さが浅いため、過度の撓みによる安定性の低下を防ぐことが出来る。また、第1凹部を構成する第1隔壁は、下面から上面にかけてテーパー状に形成しているため、凹部の剛性を確保しつつ上面の切欠きが歩行時の荷重による撓みによって衝撃を分散、吸収する。
【0018】
また、前記靴底の前足部接足面には、互いに隣接する六角形状の第2凹部を設け、前記第2凹部を構成する第2隔壁は中間部分が分離し、かつ前記第2凹部の内角から中心に向かって延設された第3隔壁の中心方向の先端は略Y字状に二方向へ分かれており、これらによって前記第2凹部の中心に略六角形状の第3凹部を設けたことで、踵部からつま先部にかけて漸次肉薄となる傾斜を維持しつつ前足部の衝撃を緩和することができる。すなわち、外観上の美感と歩行時の衝撃緩和を両立している。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の靴底を接足面からみた平面図
図2図1のAーA断面図
図3】第1隔壁の平面図
図4図1におけるA’拡大図
図5】本発明の靴底の接足面の斜視図
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の靴底の実施形態について説明する。図1は本発明の靴底の接足面を上から見た平面図で、図2図1で示したA-A断面図、図3は第1隔壁の平面図、図4図1のA’の拡大図、図5は本発明の靴底の接足面の斜視図である。
【0021】
本発明の靴底は、ゴム、PVC、EVA、ポリウレタンなどの通常靴底材として用いられる材料で形成される。また、硬度はJIS-A規格で50°~80°であればよい。図1~4に示すように、本発明の靴底1の接足面は、靴の中心Sから踵方向にかけて内部を空洞とした六角形の第1凹部20を互いに隣接させており、前記中心Sからつま先方向にかけては内部を空洞とした六角形の第2凹部30を互いに隣接している。第2凹部30を構成する第2隔壁31は中間部分で分離しており、第2凹部30の内角32から第3隔壁33が中心に向かって延設している。第3隔壁33は中心方向の一端が二股に分岐しており、これら分岐部34が略六角形の第3凹部35を形成している。
【0022】
図3に示すように六角形の第1凹部20のうち足裏の中心軸Lに対応する位置においては、その構成する隔壁21の上面を深さ3mmで切り欠いている。これにより、着地時に靴底にかかる荷重によって隔壁21が上下に撓み、衝撃を分散、吸収することができる。また、隔壁の上面のみを切り欠いていることで、六角形状による第1凹部20の底面には張力が発生し強度が増すため、接地面からの突き上げるような衝撃を軽減する。また、中心軸Lは歩行時の体重移動に沿った軌道であり、この軌道上に位置する隔壁を外周側60よりも深く切欠くことで、より効果的に衝撃の分散、吸収を行うことが出来る。なお、切欠きの深さは2mm~4mmの間が好ましく、この範囲よりも下回ると撓みが不十分となり効果を発揮できず、また上回った場合は撓み幅が大きくなり不安定となる。
【0023】
靴底の外周側60に配置された隔壁22には、深さ1mmの第2切欠き23が施されている。これにより着地時の衝撃を分散、吸収するとともに、第1切欠きよりも浅くすることで、荷重による撓みを少なくして外周縁の安定性を確保することが出来る。第2切欠き23の深さは1mm~2mmの間が好ましい。
【0024】
また、図2に示すように第1隔壁21は下方から上方にかけてテーパー状に形成されている。これにより靴底成形時に金型から靴底を脱型し易く、また脱型による隔壁の損傷などの不良、ロスを防ぎ、製造能率が低下することなく生産できる。
【0025】
図4に示すように、靴底10の前足部には、互いに隣接した六角形の第2凹部30が形成されている。第2凹部30を構成する第2隔壁31はその中間で分離しており、第2凹部30の内角32からは、中心に向かって延設された第3隔壁33を形成している。また、第3隔壁33の中心方向の一端は略Y字状に分岐しており、これら分岐部34によって第2凹部30の内部に略六角形状の第3凹部35を形成している。
【0026】
歩行動作において前足部は着地時の衝撃に加えて前進するために踏み込みから蹴り出しに至る動作を伴い、負荷が大きくなるため、足裏からの突き上げを体感しやすくなる。前記構成によれば第2凹部30の内側に第3の凹部35を配置することでこの突き上げを防止することができる。また、第3凹部を構成する第2隔壁31により、さらなる突き上げの防止や、負荷の分散吸収が期待できる。さらに、第2隔壁31を設けることで中底と接する面積が増加し、中底との接着力が向上する。
【実施例
【0027】
本発明の靴底は靴サイズを23.5cmとした婦人用靴であって、靴底10の接足面において、内部を空洞とした六角形の第1凹部20を互いに隣接させて、前記凹部20を構成する隔壁21の上面に切欠き22、23を形成したもので、足裏の中心軸Lに沿う箇所の隔壁には深さ3mmの第1切り欠き22を、外周縁側の隔壁には深さ1mmの第2切り欠き23を形成した。
【0028】
また、本発明の靴底の接足面の前足部には、互いに隣接する六角形状の第2凹部30を設け、前記第2凹部30を構成する第2隔壁31はその中間部分で分離させる。また、第2凹部30の内角32から中心に向かって延びる第3隔壁33と、前記第3隔壁33の中心方向の一端は略Y字状に二股に分岐しており、前記分岐部34が第2凹部30の内部に第3凹部35を形成した。
【0029】
そして、本発明の靴底は、踵部40からつま先部50にかけて、漸次肉薄となる形状とした。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明の靴底は前記構成にからなるもので、靴底の剛性を確保しつつ軽量化を図っており、着地時の衝撃を吸収、分散するとともに着地時の安定性を維持する作用効果を発揮するため、怪我や病気あるいは加齢によって歩行に負担を感じる場合を想定しているが、使用者または靴の種類を限定することなく、幅広く使用することができる。
【符号の説明】
【0031】
10・・・靴底
20・・・第1凹部
21・・・第1隔壁
22・・・第1切欠
23・・・第2切欠
30・・・第2凹部
31・・・第2隔壁
32・・・内角
33・・・第3隔壁
34・・・分岐部
35・・・第3凹部
40・・・踵部
50・・・つま先部
60・・・外周側
S・・・中心
L・・・中心軸
図1
図2
図3
図4
図5