(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-13
(45)【発行日】2023-07-24
(54)【発明の名称】排液器
(51)【国際特許分類】
A61F 9/007 20060101AFI20230714BHJP
【FI】
A61F9/007 200Z
(21)【出願番号】P 2021162943
(22)【出願日】2021-10-01
【審査請求日】2022-11-25
(73)【特許権者】
【識別番号】517344251
【氏名又は名称】株式会社MIRAI EYE
(74)【代理人】
【識別番号】100114764
【氏名又は名称】小林 正樹
(74)【代理人】
【識別番号】100178124
【氏名又は名称】篠原 英樹
(72)【発明者】
【氏名】飽浦 淳介
(72)【発明者】
【氏名】芳賀 善九
【審査官】寺澤 忠司
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-35413(JP,A)
【文献】特開2014-30713(JP,A)
【文献】特許第4572378(JP,B2)
【文献】特許第4806731(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 9/007
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
眼科手術時に瞼裂内に貯留する液体を瞼裂外に排出する排液器において、
顔面の眼瞼縁部の内側に配置される先端部と、該先端部から眼瞼縁部を跨ぐ態様で延設される中間部と、該中間部から眼瞼縁部の外側に延びる態様で延設される後部とからなる本体部を備え、
前記本体部の全体が板状またはシート状に形成され、前記本体部の表面側において、前記先端部から前記後部にかけて長さ方向に延びる第1の溝部が幅方向に沿って複数形成されるとともに、本体部の裏面側において、前記先端部から前記後部にかけて長さ方向に延びる第2の溝部が幅方向に沿って複数形成されていることを特徴とする排液器。
【請求項2】
前記本体部は、板状部材またはシート状部材が幅方向に交互に折曲されることにより、表面側と裏面側において第1の溝部と第2の溝部が交互に複数形成される請求項1に記載の排液器。
【請求項3】
前記本体部は、前記先端部がV字状に形成されている請求項1または請求項2に記載の排液器。
【請求項4】
前記本体部は、前記第1の溝部および前記第2の溝部が幅0.2mm~2.5mmの大きさに形成されている請求項1から請求項3のいずれかに記載の排液器。
【請求項5】
前記本体部は、前記第1の溝部および前記第2の溝部が深さ0.2mm~2.0mmの大きさに形成されている請求項1から請求項4のいずれかに記載の排液器。
【請求項6】
前記本体部は、前記第1の溝部および前記第2の溝部が幅方向に3個/cm~25個/cmの密度で連続して形成されている請求項1から請求項5のいずれかに記載の排液器。
【請求項7】
前記本体部は、第1の溝部および第2の溝部の深さが第1の溝部および第2の溝部の幅の50%~120%の大きさに形成される請求項1から請求項6のいずれかに記載の排液器。
【請求項8】
前記本体部は、後部に板状またはシート状のテール部が延設されている請求項1から請求項7のいずれかに記載の排液器。
【請求項9】
前記本体部は、前後方向に複数重ねる態様で設けられている請求項1から請求項8のいずれかに記載の排液器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、白内障などの眼科手術時において、瞼裂内に貯留して手術の妨げとなる液体を瞼裂外に排出するための排液器に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、白内障手術や他の眼科手術の時に、角膜の透明性維持のためにシリンジから液体が瞼裂内に供給されたり、手術機械から眼球内に多量に液体が供給される。ここで瞼裂内や眼球内に供給された液体が瞼裂内に貯留すると、術者の視認性を低下させ術中合併症発生の原因になったり、貯留した液体中に細菌が混入して術後細菌性眼内炎の原因になったりする虞がある。特に、奥目の人の場合は上述のような液体の貯留が起きやすい。
【0003】
上述した瞼裂内での液体の貯留防止の方法として、ガーゼやスポンジに液体をしみこませて排出する方法が用いられてきた。しかし、この方法では排液能力が非常に弱く、多量の液体が供給されるような超音波白内障手術などの現代の手術に対応することができなかった。
【0004】
また、現在、排液方法として最もよく用いられている方法は、手術中に眼瞼を開く開瞼器の中腔のアーム部に孔や溝を設けて、そのアーム部の孔と電動式のポンプとをチューブでつなぎ、該ポンプの吸引力により瞼裂内に貯留した液体を吸引することによって排出する方法である。しかし、この方法でも、眼瞼が厚く眼瞼狭小であったり、奥目などのような液体が貯留し易い眼には、充分な排液能力が発揮できなかった。またポンプの駆動電力が必要なこと、液体の吸引時の音がうるさいこと、また、老人で弛緩した結膜部は容易にポンプの吸収孔に嵌頓して液体の吸収を妨げたり、痛みを併発させたりするなども弱点であった。
【0005】
上述の問題に対処し得るものとして、近年、ポンプを使用しなくても外眼角部(目尻)やその近傍の眼瞼縁部に設置することによって、瞼裂内に貯留した液体が排出される排液器が知られている(例えば下記特許文献1,2参照)。これら特許文献1,2の排液器は、いずれも本体と眼瞼の間に作られる空間を毛細管現象等により液体が移動して排液するというものである。
【0006】
具体的には、特許文献1の排液器は、外眼角部近傍の眼瞼上の載置面と所定の隙間をあけて載置される本体を備えている。該本体は平坦なシート状の構造であって、展開状態では全体形状が略台形状となされ、防水性素材により形成されている。また、本体は瞼裂縁部から内側に突出する突出部が設けられ、該突起部には外眼角部近傍の結膜部に向かって垂下する垂下部が設けられている。そして、突出部の裏面に瞼裂内の液体を付着させて本体と眼瞼上の載置面の隙間内に毛細管現象等により液体を吸引し、その液体を本体と眼瞼上の載置面の隙間に通過させて、本体の外部に排出する。
【0007】
また、特許文献2の排液器は、本体(ボディ部)の先端部がへら状に形成されたフック状の構造で、そのフック部を外眼角部の眼瞼結膜嚢やドレープに差し込んで設置する。そして、毛細管現象等により液体を本体の腹部における眼瞼縁部側表面と眼瞼縁部又はドレープとの隙間を伝わせて、本体のテール部の表面に到達させて液体を排出する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特許第4572378号
【文献】特許第4806731号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、従来の排液器は、瞼裂内に貯留する液体を瞼裂外に排出するに際して、液体の吸引力や通過面積が決して大きいものでないため、液体を効率的に排出することができないという問題があった。
【0010】
例えば、特許文献1の排液器は、排液路を囲む閉鎖領域が狭小とならないため、排液器の毛細管現象等による液体に対する単位面積当たりの吸引力が大きくならなかった。また、特許文献2の排液器は、排液路を囲む領域の側面が開放されており閉鎖領域とならないため、排液器の毛細管現象等による単位面積当たりの液体の吸引力が大きくならなかった。さらに、特許文献1、2の排液器は、いずれも排液器の裏面側(眼瞼側)のみで液体が通過するだけであり、液体の通過面積も十分確保することができなかった。
【0011】
このため、実際、特許文献1,2の排液器とも、液体を瞼裂外に効率的に排出することができず、液体の供給量が排液器の排出量を上回ってしまい、瞼裂内に液体が貯留する場合が生じていた。しかも、特許文献2の排液器は、眼瞼の前後方向に嵩張るため、患者の耳側に座って手術を行う術者にとって手術器具操作の邪魔になることも多かった。
【0012】
本発明は、上述の問題に鑑みてなされたものであって、瞼裂内に貯留する液体を瞼裂外に効率的に排出することができる排液器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、上記目的を達成するために、眼科手術時に瞼裂内に貯留する液体を瞼裂外に排出する排液器において、顔面の眼瞼縁部の内側に配置される先端部と、該先端部から眼瞼縁部を跨ぐ態様で延設される中間部と、該中間部から眼瞼縁部の外側に延びる態様で延設される後部とからなる本体部を備え、前記本体部の全体が板状またはシート状に形成され、前記本体部の表面側において、前記先端部から前記後部にかけて長さ方向に延びる第1の溝部が幅方向に沿って複数形成されるとともに、本体部の裏面側において、前記先端部から前記後部にかけて長さ方向に延びる第2の溝部が幅方向に沿って複数形成されていることを特徴とする。
【0014】
これによれば、眼科手術時に排液器を眼瞼に設置した際、排液器の本体部の表面側において、第1の溝部の内側に狭小で細長い排液路が形成され、それら排液路が幅方向に並んで配置されることにより第1の排液流域が構成される。また、同じく排液器の本体部の裏面側において、第2の溝部の内側に狭小で細長い排液路が形成され、それら排液路が幅方向に並んで配置されることにより第2の排液流域が構成される。
【0015】
このため、第1の溝部および第2の溝部による排液路が狭小で細長く形成されることにより、排液路における毛細管現象等による液体の吸引力が大きくなるため、第1の排液流域および第2の排液流域における単位面積当たりの液体の吸引力を大きくすることができる。また、第1の溝部および第2の溝部による排液路が本体部の表面側と裏面側において幅方向に複数並んで配置されるため、第1の排液流域および第2の排液流域における液体の通過面積を十分に確保することができる。このため、瞼裂内に貯留する液体を、毛細管現象等による大きな吸引力をもって、本体部の表面側と裏面側の十分な通過面積を確保しながら瞼裂外に効率的に排出することができる。
【0016】
また、前記本体部は、板状部材またはシート状部材が幅方向に交互に折曲されることにより、表面側と裏面側において第1の溝部と第2の溝部が交互に複数形成されてもよい。これによれば、簡易な構成にして、本体部の表面側と裏面側に多くの第1の溝部と第2の溝部を効率良く形成することができる。
【0017】
また、前記本体部は、前記先端部がV字状に形成されてもよい。これによれば、先端部が外眼角部(目尻)の眼瞼縁部に沿うため、眼瞼内に貯留する液体を先端部のV字状の内側に誘導して、第1の排液流域および第2の排液流域に速やかに吸引することができる。
【0018】
また、前記本体部は、前記第1の溝部および前記第2の溝部が幅0.2mm~2.5mmの大きさに形成されてもよい。これによれば、第1の溝部および第2の第2の溝部が幅2.5mm以下の大きさに形成されているため、第1の排液流域および第2の排液流域における単位面積当たりの液体の吸引力を確実に大きくすることができる。また、第1の溝部および第2の溝部が幅0.2mm以上の大きさに形成されているため、第1の排液流域および第2の排液流域における流体の通過面積を十分に確保することができる。
【0019】
また、前記本体部は、前記第1の溝部および前記第2の溝部が深さ0.2mm~2.0mmの大きさに形成されてもよい。これによれば、第1の溝部および第2の第2の溝部が深さ2.0mm以下の大きさに形成されているため、本体部の厚みを抑えることができ、手術時に器具を操作し易くなる。また、第1の溝部および第2の溝部が深さ0.2mm以上の大きさに形成されているため、第1の排液流域および第2の排液流域における流体の通過面積を十分に確保することができる。
【0020】
また、前記本体部は、前記第1の溝部および前記第2の溝部が幅方向に3個/cm~25個/cmの密度で連続して形成されてもよい。これによれば、前記第1の溝部および前記第2の溝部が幅方向に3個/cm以上の密度で連続して形成されることにより、第1の溝部および第2の溝部の幅が狭小に形成され得るため、第1の排液流域および第2の排液流域における単位面積当たりの液体の吸引力を確実に大きくすることができる。また、前記第1の溝部および前記第2の溝部が幅方向に25個/cm以下の密度で連続して形成されることにより、第1の溝部および第2の溝部の幅が適度な幅に形成されるため、第1の排液流域および第2の排液流域における流体の通過面積を十分に確保することができる。
【0021】
前記本体部は、第1の溝部および第2の溝部の深さが第1の溝部および第2の溝部の幅の40%~120%の大きさに形成されてもよい。これによれば、第1の排水領域および第2の排水領域における流体の通過面積を十分に確保することができるとともに、毛細管現象等による吸引力を大きくすることができる。
【0022】
また、前記本体部は、後部に板状またはシート状のテール部が延設されてもよい。これによれば、排液器の設置や撤去の際にテール部を把持することにより、排液器を簡単に設置および撤去することができる。また、テール部に開瞼器等を接続することにより、開瞼器等に簡単かつ確実に固定することができる。
【0023】
前記本体部は、前後方向に複数重ねる態様で設けられてもよい。これによれば、第1の排水領域および第2の排水領域における流体の通過面積を大きくすることができ、液体をより効果的に排出することが可能となる。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、眼科手術時に排液器を眼瞼に設置した際、排液器の本体部の表面側において、第1の溝部の内側に狭小で細長い排液路が形成され、それら排液路が幅方向に並んで配置されることにより第1の排液流域が構成される。また、同じく排液器の本体部の裏面側において、第2の溝部の内側に狭小で細長い排液路が形成され、それら排液路が幅方向に並んで配置されることにより第2の排液流域が構成される。
【0025】
このため、第1の溝部および第2の溝部による排液路が狭小で細長く形成されることにより、排液路における毛細管現象等による液体の吸引力が大きくなるため、第1の排液流域および第2の排液流域における単位面積当たりの液体の吸引力を大きくすることができる。また、第1の溝部および第2の溝部による排液路が本体部の表面側と裏面側において幅方向に複数並んで配置されるため、第1の排液流域および第2の排液流域における液体の通過面積を十分に確保することができる。このため、瞼裂内に貯留する液体を、毛細管現象等による大きな吸引力をもって、本体部の表面側と裏面側の十分な通過面積を確保しながら瞼裂外に効率的に排出することができる。
【0026】
また、本体部が板状またはシート状に形成されることにより眼瞼の前後方向に嵩張らないため、手術を行う術者の手術器具操作の邪魔にならず、手術時の負担を軽減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】本発明の実施形態に係る排液器の表面側斜視図である。
【
図6】
図1の排液器の排液流域を示す拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
次に、本発明の実施形態に係る排液器1について、
図1~
図6を参照しつつ説明する。
【0029】
本排液器1は、白内障などの眼科手術時に瞼裂K内に貯留する液体を瞼裂K外に排出する器具であって、
図1および
図2に示すように、顔面Fの眼瞼Mに設置される本体部11と、顔面Fの眼瞼Mの耳側に設置されるテール部12とを備えている。
【0030】
前記本体部11は、
図1~
図3に示すように、全体が長さ20mm、幅6mm程度、厚さ1mm程度の大きさの板状またはシート状に形成され、顔面Fの眼瞼縁部Nの内側に配置される先端部11aと、該先端部11aから眼瞼縁部Nを跨ぐ態様で延設される中間部11bと、該中間部11bから眼瞼縁部Nの外側(耳側)に延びる態様で延設される後部11cとからなる。
【0031】
また、前記本体部11は、本体部11の表面113側において、先端部11aから後部11cにかけて長さ方向に延びる4個の第1の溝部111が幅方向に沿って形成されるとともに、本体部11の裏面114側において、先端部11aから後部11cにかけて長さ方向に延びる5個の第2の溝部112が幅方向に沿って形成されている。これら第1の溝部111および第2の溝部112は、一方端部が本体部11の先端部11aにおいて長さ方向に開放された状態となる一方、他方端部が本体部11の後部11cにおいて長さ方向に開放された状態となっている。
【0032】
特に本実施形態では、前記本体部1は、幅方向に交互に折曲されることにより、表面113側と裏面114側において第1の溝部111と第2の溝部112が交互に複数形成されているため、簡易な構成にして、本体部11の表面113側と裏面114側に多くの第1の溝部111と第2の溝部112を効率良く形成することができる。
【0033】
而して、
図4および
図5に示すように、眼科手術時に排液器1を顔面Fの眼瞼Mに設置した際、
図6に示すように、排液器1の本体部11の表面113側において、第1の溝部111の内側に狭小で細長い排液路が形成され、それら排液路が幅方向に並んで配置されることにより全体として第1の排液流域S1が構成される。なお、第1の排液流域S1は、液体が各第1の溝部111から溢れた状態となって、第1の溝部111の内側の各排液路が第1の溝部111の上方で互いに繋がった状態になってもよい。
【0034】
また、同じく排液器1の本体部11の裏面114側において、第2の溝部112の内側に狭小で細長い排液路が形成され、それら排液路が幅方向に並んで配置されることにより全体として第2の排液流域S2が構成される。
【0035】
このため、第1の溝部111および第2の溝部112による排液路が狭小で細長く形成されることにより、排液路における毛細管現象等による液体の吸引力が大きくなるため、第1の排液流域S1および第2の排液流域S2における単位面積当たりの液体の吸引力を大きくすることができる。
【0036】
また、第1の溝部111および第2の溝部112による排液路が本体部11の表面113側と裏面114側において幅方向に隙間なく連続する態様で複数並んで配置されるため、第1の排液流域S1および第2の排液流域S2における液体の通過面積を十分に確保することができる。
【0037】
また、本実施形態では、前記本体部11は、後述するように排液器1のテール部12に接続された開瞼器Z1の固定部Z10により顔面Fに固定された際、眼瞼Mとの間に所定の隙間D1を空けて配置される。このため、該隙間D1において第3の排液流域S3が形成されるため、本体部11と眼瞼Mの間に第3の排液流域S3の分だけ液体の通過面積を大きくすることができる。なお、液体の排出の原理としては、基本的に第1の排水領域S2と第2の排水領域S3で発生し、これら2つの排液領域S1、S2において液体の通過面積(排液能力)を超えた量の液体供給があった場合、第3の排液領域S3にも液体が流れて排出される。
【0038】
また、前記本体部11は、先端部11aがV字状に形成されている。具体的には、先端部11aは、幅方向端部から幅方向中央に向かうに従って中間部11bから先端縁までの長さが段階的または連続的に短くなるように形成されている。これによれば、先端部11aが外眼角部(目尻)の眼瞼縁部Nに沿うため、瞼裂K内に貯留する液体を先端部11aのV字状の内側に誘導して、第1の排液流域S1および第2の排液流域S2に速やかに吸引することができる。なお、この先端部11aは、本排液器1が眼瞼Mに安定して配置されるよう、眼瞼Mに引っ掛かる形状、例えば鉤状に形成されてもよい。
【0039】
また、前記本体部11は、先端部11aが中間部11bから裏側に屈曲する態様で形成されるとともに、後部11cが中間部11bから裏側にわずかに傾斜する態様で形成されている。このため、排液器1が顔面Fの眼瞼Mに設置された際、中間部11bが先端部11aより高い位置に配置される一方、本体部11の後部11cが先端部11aより低い位置に配置される。このように本体部11の後部11cが先端部11aより低い位置に配置されることにより、液体はサイフォン原理等により先端部11aより高い中間部11bを乗り越えたあと、中間部11bから後部11cにかけて第1の溝部111および第2の溝部112の内側の排液路を流れる。
【0040】
前記テール部12は、幅5.0mm程度、長さ30mm、厚さ1mm程度の大きさに板状またはシート状部材であって、表面および裏面が平らな形状に形成されている。これによれば、排液器1の設置や撤去の際にテール部12を把持することにより、排液器1を顔面Fの眼瞼Mに簡単に設置および撤去することができる。また、本実施形態のようにテール部12に開瞼器Z1等を接続することにより、開瞼器Z1等に簡単かつ確実に固定することができる。
【0041】
また、前記テール部12は、
図5に示すように、前部12aが中間部12bに向かって表側にわずかに湾曲する態様で形成される一方、中間部12bから後部12cにかけて長さ方向に直線的に形成されており、顔面Fに設置された際、裏面122と顔面Fとの間に液体の隙間D2が形成される。
【0042】
また、前記テール部12は、中間部12bにおいて開瞼器Z1の固定部Z10と接続するための孔部123が設けられている。これによれば、排液器1と開瞼器Z1を接続して一体化することができ、手術時における器具の取り扱いを容易にすることが可能となる。
【0043】
前記本体部11および前記テール部12は、シリコン樹脂により一体的に成形されている。これによれば、本体部11およびテール部12を容易に形成することができ、製造コストを抑えることができる。
【0044】
次に排液器の設置方法について
図4~
図6を参照しつつ説明する。
【0045】
排液器1を顔面Fの眼瞼Mに設置する際、排液器1のテール部12を開瞼器Z1の固定部Z10に接続して、開瞼器Z1を眼瞼Mに設置すると同時に排液器1を外眼角部(目尻)の眼瞼に設置する。なお、
図5において、Oは瞼裂K内の角膜を示す。
【0046】
このとき、本体部11の先端部11aを眼瞼縁部Nの内側の結膜部Lの上方に配置し、本体部11の中間部11bを眼瞼縁部Nを跨ぐ態様で配置するとともに、本体部11の後部11cを眼瞼縁部Nの外側(耳側)の上方に配置し、排液器1を全体として顔面Fの眼瞼Mの上方に所定の隙間D1、D2を空けて設置する。なお、この所定の隙間D1については、耳側の眼瞼Mの厚みが大きいなどの症例によっては生じない場合もある。
【0047】
なお、本実施形態では、排液器1のテール部12を開瞼器Z1の固定部Z10に接続するものとしたが、排液器1のテール部12を把持してそのまま顔面Fの眼瞼Mに設置してもよい。
【0048】
次に本排液器1の排液方法について
図4~
図6を参照しつつ説明する
【0049】
まず、瞼裂K内に貯留する液体は、本排液器1の本体部11のV字状に形成された先端部11aの内側に誘導される。
【0050】
次に、液体は、本体部11の先端部11aにおいて、本体部11の表面113側における第1の溝部111による第1の排液流域S1と、本体部11の裏面114側の第2の溝部112による第2の排液流域S2に吸引される。このとき、第1の溝部111および第2の溝部112による各排液路が狭小で細長く形成されることにより、排液路における毛細管現象等による液体の吸引力が大きくなって、第1の排液流域S1および第2の排液流域S2における単位面積当たりの液体の吸引力が大きくなる。このため、液体は、本体部11の先端部11aにおいて、第1の溝部111による第1の排液路S1と第2の溝部112による第2の排液路S2に次々と吸引され、第1の排液路S1と第2の排液路S2を重力に逆らいながら斜め上方に流れる。
【0051】
次に、液体は、本体部11の中間部11bおよび後部11cにおいて、本体部11の表面113側における第1の溝111部による第1の排液路S1と、本体部11の裏面114側の第2の溝部112による第2の排液路S2を速やかに流れる。このとき、第1の溝部111および第2の溝部112の内側の排液路が本体部11の表面113側と裏面114側において幅方向に隙間なく連続する態様で複数並んで配置され、第1の排液流域S1および第2の排液流域S2における液体の通過面積が十分に確保されるため、液体は先端部11aから中間部11bを経て後部11cにかけて、第1の排液流域S1および第2の排液流域S2を速やかに流れる。
【0052】
また、本実施形態では、排液器1が開瞼器Z1の固定部Z10により顔面Fに固定され、該本体部11と顔面Fとの間に液体が流通可能な第3の排液流域S3が形成されるため、
第1の排液領域S1および第2の排液領域S2において液体の通過面積(排液能力)を超えた量の液体供給があった場合、第3の排液領域S3にも液体が流れる。
【0053】
最後に、液体は、後部11cにおける第1の溝部111および第2の溝部112から顔面Fあるいはテール部12を伝うことにより瞼裂K外に排出される。
【0054】
而して、瞼裂K内に貯留する液体を、毛細管現象等による大きな吸引力をもって、本体部11の表面113側と裏面114側の十分な通過面積を確保しながら瞼裂K外に効率的に排出することができる。
【0055】
また、本体部11が板状またはシート状に形成されることにより眼瞼の前後方向に嵩張らないため、手術を行う術者の手術器具操作の邪魔にならず、手術時の負担を軽減することができる。
【0056】
上記実施形態において、前記排液器1は、テール部12を備えるものとしたが、これに限られず、テール部12を備えなくてもよい。
【0057】
また、前記本体部11は、顔面(ドレープを設置した場合にはドレープの表面を含む)との間に所定の隙間を空けて設置されるものとしたが、顔面に当接した状態で設置されてもよい。
【0058】
また、前記本体部11は、幅方向に交互に上下に折曲されることにより第1の溝部111および第2の溝部112が形成されるものとしたが、これに限られず、第1の溝部111および第2の溝部112がどのように形成されてもよい。例えば、本体部11の表面113と裏面114がレーザー等で長さ方向に切り欠かれることにより、
図7(a)に示すように、断面コ字状の第1の溝部111および第2の溝部112が幅方向に複数形成されたり、
図7(b)に示すように、断面V字状の第1の溝部111および第2の溝部112が幅方向に複数形成されたり、
図7(c)に示すように、断面U字状の第1の溝部111および第2の溝部112が複数形成されたり、
図7(d)に示すように、隣り合う溝部同士が異なる形状の第1の溝部111および第2の溝部112が複数形成されてもよい。
【0059】
また、前記本体部11は、第1の溝部111および第2の溝部112の幅、深さおよび密度については特に限定されるものではないが、本体部11が単数で形成される場合、例えば第1の溝部111および第2の溝部112は幅0.2mm~2.5mmの大きさに形成されるのが好ましい。これによれば、第1の溝部111および第2の第2の溝部112が幅2.5mm以下の大きさに形成されているため、第1の排液流域S1および第2の排液流域S2における単位面積当たりの液体の吸引力を確実に大きくすることができる。また、第1の溝部111および第2の溝部112が幅0.2mm以上の大きさに形成されているため、第1の排液流域S1および第2の排液流域S2における流体の通過面積を十分に確保することができる。
【0060】
また、第1の溝部111および第2の溝部112は、本体部11が単数で形成される場合、深さ0.2mm~2.0mmの大きさに形成されるのが好ましい。これによれば、第1の溝部111および第2の溝部112が深さ2.0mm以下の大きさに形成されているため、本体部の厚みを抑えることができ、手術時に器具を操作し易くなる。また、第1の溝部111および第2の溝部112が深さ0.2mm以上の大きさに形成されているため、第1の排液流域S1および第2の排液流域S2における流体の通過面積を十分に確保することができる。
【0061】
また、第1の溝部111および第2の溝部112の深さは、第1の溝部111および第2の溝部112の幅の40%~120%の大きさに形成されるのがよい。これによれば、第1の排水領域S1および第2の排水領域S2における流体の通過面積を十分に確保することができるとともに、毛細管現象等による吸引力を大きくすることができる。
【0062】
また、前記本体部11は、
図8に示すように、前後方向に複数重ねる態様で設けられてもよい。これによれば、第1の排水領域S1および第2の排水領域S2における流体の通過面積を大きくすることができ、液体をより効果的に排出することが可能となる。
【0063】
また、第1の溝部111および第2の溝部112は、幅方向に3個/cm~25個/cmの密度で形成されるのが好ましい。これによれば、前記第1の溝部111および前記第2の溝部112が幅方向に3個/cm以上の密度で連続して形成されることにより、第1の溝部111および第2の溝部112の幅が狭小に形成され得るため、第1の排液流域S1および第2の排液流域S2における単位面積当たりの液体の吸引力を確実に大きくすることができる。また、前記第1の溝部111および前記第2の溝部112が幅方向に25個/cm以下の密度で連続して形成されることにより、第1の溝部111および第2の溝部112の幅が適度な幅に形成されるため、第1の排液流域S1および第2の排液流域S2における流体の通過面積を十分に確保することができる。
【0064】
以上、図面を参照して本発明の実施形態を説明したが、本発明は、図示した実施形態のものに限定されない。図示された実施形態に対して、本発明と同一の範囲内において、あるいは均等の範囲内において、種々の修正や変形を加えることが可能である。
【符号の説明】
【0065】
1…排液器
11…本体部
11a…先端部
11b…中間部
11c…後部
111…第1の溝部
112…第2の溝部
113…表面
114…裏面
12…テール部
12a…前部
12b…中間部
12c…後部
121…表面
122…裏面
123…孔部
K…瞼裂
L…結膜部
M…眼瞼
N…眼瞼縁部
O…角膜
Z1…開瞼器
Z10…固定部
D1、D2…隙間
F…顔面
S1…第1の排液流域
S2…第2の排液流域
S3…第3の排液流域