IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ベキシオン ファーマシューティカルズ インコーポレイテッドの特許一覧

特許7313091サポシンC薬学的組成物および癌を治療する方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-13
(45)【発行日】2023-07-24
(54)【発明の名称】サポシンC薬学的組成物および癌を治療する方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 38/16 20060101AFI20230714BHJP
   A61K 9/107 20060101ALI20230714BHJP
   A61K 47/24 20060101ALI20230714BHJP
   A61K 47/26 20060101ALI20230714BHJP
   A61K 47/10 20170101ALI20230714BHJP
   A61K 47/18 20170101ALI20230714BHJP
   A61K 47/12 20060101ALI20230714BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20230714BHJP
   C07K 14/47 20060101ALN20230714BHJP
【FI】
A61K38/16 ZNA
A61K9/107
A61K47/24
A61K47/26
A61K47/10
A61K47/18
A61K47/12
A61P35/00
C07K14/47
【請求項の数】 19
(21)【出願番号】P 2022082176
(22)【出願日】2022-05-19
(62)【分割の表示】P 2021500778の分割
【原出願日】2018-11-02
(65)【公開番号】P2022110121
(43)【公開日】2022-07-28
【審査請求日】2022-06-14
(31)【優先権主張番号】62/647,058
(32)【優先日】2018-03-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/678,668
(32)【優先日】2018-05-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】520363328
【氏名又は名称】ベキシオン ファーマシューティカルズ インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100102118
【弁理士】
【氏名又は名称】春名 雅夫
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【弁理士】
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【弁理士】
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【弁理士】
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【弁理士】
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【弁理士】
【氏名又は名称】川本 和弥
(72)【発明者】
【氏名】モンソン エレン ケイ.
(72)【発明者】
【氏名】ウェイ シャオチェン
(72)【発明者】
【氏名】タキギク レイ
(72)【発明者】
【氏名】クルーズ サード チャールズ エイ.
(72)【発明者】
【氏名】ワイズ ジョセフ ダブリュ.
【審査官】鶴 剛史
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第102614125(CN,A)
【文献】国際公開第2014/078522(WO,A1)
【文献】国際公開第2007/127439(WO,A2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 38/00-38/58
A61K 9/00-9/72
A61K 47/00-47/69
A61P 1/00-43/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOS
IS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
0~4個のアミノ酸挿入、置換、または欠失を有するSEQ ID NO: 1のアミノ酸配列を含む、ポリペプチド;
ホスファチジルセリン脂質;
pH5.0~8.0の緩衝液;
トレハロース;および

を含む組成物であって、
ここで、該ポリペプチドの濃度が0.4~5.0mg/mlであり、
該ホスファチジルセリン脂質と該ポリペプチドとのモル比が8:1~20:1の範囲であり、かつ
該ホスファチジルセリン脂質および該ポリペプチドが、一緒に結合して、水中に懸濁した小胞の形態をとっている、
組成物。
【請求項2】
組成物中の小胞の大部分が、動的光散乱法で測定して、100nm未満の径を有する、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
トレハロースの濃度が1.5~9% w/vである、請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
トレハロースの濃度が(5±1)% w/vである、請求項2に記載の組成物。
【請求項5】
ポリペプチドのアミノ酸配列がSEQ ID NO: 1を含む、請求項2記載の組成物。
【請求項6】
ホスファチジルセリン脂質が、ジオレオイルホスファチジルセリン(DOPS)、ジヘキサノイルホスファチジルセリン、ジオクタノイルホスファチジルセリン、ジデカノイルホスファチジルセリン、ジラウロイルホスファチジルセリン、ジミリストイルホスファチジルセリン、ジパルミトイルホスファチジルセリン、パルミトイル-オレオイルホスファチジルセリン、1-ステアロイル-2-オレオイルホスファチジルセリン、またはジフィタノイルホスファチジルセリンのうちの1つまたは複数を含み、かつ
ホスファチジルセリン脂質が、塩形態または塩ではない形態のいずれかである、請求項2記載の組成物。
【請求項7】
ホスファチジルセリン脂質が、塩の形態のDOPSを含む、請求項2に記載の組成物。
【請求項8】
ホスファチジルセリン脂質が、陽イオンとの塩の形態のDOPSを含む、請求項2に記載の組成物。
【請求項9】
陽イオンがナトリウムイオンである、請求項8に記載の組成物。
【請求項10】
ポリペプチドのアミノ酸配列がSEQ ID NO: 1を含む、請求項7記載の組成物。
【請求項11】
2重量%未満の濃度のt-ブチルアルコールをさらに含む、請求項2に記載の組成物。
【請求項12】
t-ブチルアルコールが、0.5重量%未満の濃度で存在する、請求項11に記載の組成物。
【請求項13】
2重量%未満の濃度のt-ブチルアルコールをさらに含む、請求項10に記載の組成物。
【請求項14】
トレハロースの濃度が1.5~9% w/vである、請求項10に記載の組成物。
【請求項15】
トレハロースの濃度が(5±1)% w/vである、請求項10に記載の組成物。
【請求項16】
ポリペプチドの濃度が1.9~2.5mg/mlであり、かつDOPSの濃度が2.0~2.8mg/mlである、請求項14に記載の組成物。
【請求項17】
緩衝液が、Tris緩衝液、クエン酸緩衝液、または酢酸緩衝液であり、かつ緩衝液の濃度が10~50mMである、請求項2記載の組成物。
【請求項18】
ポリペプチドがSEQ ID NO: 1のアミノ酸配列を含み、かつポリペプチドの濃度が1.9~2.5mg/mlである、請求項8記載の組成物。
【請求項19】
DOPSとポリペプチドとのモル比が11:1~13:1の範囲である、請求項18記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2018年3月23日に出願された米国特許仮出願第62/647,058号および2018年5月31日に出願された米国特許仮出願第62/678,668号の恩典を主張する。
【0002】
発明の分野
本発明は、サポシンCを含む組成物およびそれらを用いて様々な癌病態を治療する方法に関する。
【背景技術】
【0003】
背景
熱安定性の小型(約80アミノ酸の)糖タンパク質のファミリーであるサポシンは、スフィンゴ糖脂質の異化経路において、いくつかのリソソーム酵素のインビボ加水分解活性に不可欠である。サポシンA、B、C、およびDは、米国特許第7,834,147号(特許文献1)および同第9,271,932号(特許文献2)において説明されている。
【0004】
サポシンC(「SapC」)およびジオレオイルホスファチジルセリン(DOPS)を含むナノベシクルは、インビトロおよびインビボにおいて、ホスファチジルセリンに富む膜に対して高い親和性を有しており、標的細胞においてアポトーシスおよびネクローシスを誘導することができる(Qi et al. (2009), Clin Cancer Res 2009; 15: 5840-5851(非特許文献1))。SapC-DOPSナノベシクルがアポトーシスを誘導する際のメカニズムとして提唱されているのは、β-グルコシダーゼおよび酸性スフィンゴミエリナーゼの活性化(続いて、グルコシルセラミドおよびスフィンゴミエリンの分解をそれぞれ伴う)によりセラミドが増加し、それによりカスパーゼが活性化されるというものである。ナノベシクル調製物は、インビトロおよび同所性マウス腫瘍モデルにおいて多種多様の腫瘍タイプに対して有効であることが判明した(Qi et al. (2009)(非特許文献1); Wojton et al. (2013), Mol Ther, 21: 1517-1525(非特許文献2); Abu-Baker et al. (2012), J Cancer Ther, 3: 321-326(非特許文献3); Chu et al. (2013), PLoS One; 8: e75507(非特許文献4); 米国特許第7,834,147号(特許文献1))。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】米国特許第7,834,147号
【文献】米国特許第9,271,932号
【非特許文献】
【0006】
【文献】Qi et al. (2009), Clin Cancer Res 2009; 15: 5840-5851
【文献】Wojton et al. (2013), Mol Ther, 21: 1517-1525
【文献】Abu-Baker et al. (2012), J Cancer Ther, 3: 321-326
【文献】Chu et al. (2013), PLoS One; 8: e75507
【発明の概要】
【0007】
概要
本開示は、サポシンCを含む水性組成物および固形組成物、ならびに癌の治療においてそのような組成物を使用する方法に関連する。
【0008】
以下を含む組成物を説明する:0~4個のアミノ酸挿入、置換、または欠失を有するSEQ ID NO: 1のアミノ酸配列を含む、ポリペプチド;ホスファチジルセリン脂質;pH5.0~8.0の緩衝液;1.5~9重量%のトレハロース;0~35%のt-ブチルアルコール;および水。ポリペプチドの濃度は0.4~5.0mg/mlであり、ホスファチジルセリン脂質とポリペプチドとのモル比は8:1~20:1の範囲である。いくつかの態様において、緩衝液は、濃度10~50mMのトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン(Tris)であり、組成物のpHは、pH6.8~7.6である。いくつかの態様において、緩衝液は、濃度10~50mMのクエン酸緩衝液である。いくつかの態様において、緩衝液は、濃度10~50mMの酢酸緩衝液である。特定の態様において、ホスファチジルセリン脂質は、ジオレオイルホスファチジルセリン(DOPS)、ジヘキサノイルホスファチジルセリン脂質、ジオクタノイルホスファチジルセリン脂質、ジデカノイルホスファチジルセリン脂質、ジラウロイルホスファチジルセリン脂質、ジミリストイルホスファチジルセリン脂質、ジパルミトイルホスファチジルセリン脂質、パルミトイル-オレオイルホスファチジルセリン脂質、1-ステアロイル-2-オレオイルホスファチジルセリン脂質、またはジフィタノイルホスファチジルセリン脂質のうちの1つまたは複数を含む。ホスファチジルセリン脂質は、好ましくはDOPSであり、これはナトリウム塩などの塩の形態であってよい。様々な場合において、ポリペプチドは、SEQ ID NO: 1のアミノ酸配列、または1個もしくは2個のアミノ酸挿入、置換、もしくは欠失を有するSEQ ID NO: 1の配列を含むか、またはそれからなる。好ましい態様において、組成物は、濃度1.9~2.5mg/mlの、SEQ ID NO: 1のアミノ酸配列を含むポリペプチド;濃度2.0~2.8mg/mlのDOPS;濃度23~27mMのTris;濃度4~6重量%のトレハロース;および濃度約15~25重量%のt-ブチルアルコールを含み、pHはpH6.8~7.6の範囲である。
【0009】
固形の組成物、例えば、以下を含む凍結乾燥粉末組成物も説明する:0~4個のアミノ酸挿入、置換、または欠失を有するSEQ ID NO: 1のアミノ酸配列を含む、ポリペプチド;ホスファチジルセリン脂質;緩衝液;および75~90重量%のトレハロース。この組成物中のポリペプチドの濃度は3.2~4.4重量%であり、ホスファチジルセリン脂質とポリペプチドとのモル比は8:1~20:1の範囲である。いくつかの態様において、緩衝液は、5.6~7.6重量%のTrisである。いくつかの態様において、緩衝液は、9~13重量%のクエン酸緩衝液である。いくつかの態様において、緩衝液は、3~5重量%の酢酸緩衝液である。特定の態様において、ホスファチジルセリン脂質は、ジオレオイルホスファチジルセリン(DOPS)、ジヘキサノイルホスファチジルセリン脂質、ジオクタノイルホスファチジルセリン脂質、ジデカノイルホスファチジルセリン脂質、ジラウロイルホスファチジルセリン脂質、ジミリストイルホスファチジルセリン脂質、ジパルミトイルホスファチジルセリン脂質、パルミトイル-オレオイルホスファチジルセリン脂質、1-ステアロイル-2-オレオイルホスファチジルセリン脂質、またはジフィタノイルホスファチジルセリン脂質のうちの1つまたは複数を含む。様々な場合において、組成物は、SEQ ID NO: 1のポリペプチドアミノ酸配列を含むか、もしくはそれからなるか、または1個もしくは2個のアミノ酸挿入、置換、もしくは欠失を有するSEQ ID NO: 1の配列を含む。いくつかの態様において、この組成物は、3重量%未満の量のt-ブチルアルコールを含む。好ましい態様において、固形組成物は、以下を含む:濃度3.3~4.3重量%の、SEQ ID NO: 1のアミノ酸配列を含むポリペプチド;濃度3.4~4.8重量%のDOPS(例えばナトリウム塩);濃度6.0~7.2重量%のTris;濃度81~87.3重量%のトレハロース;および濃度3重量%未満のt-ブチルアルコール。
【0010】
以下を含む薬学的組成物も説明する:0~4個のアミノ酸挿入、置換、または欠失を有するSEQ ID NO: 1のアミノ酸配列を含む、ポリペプチド;ホスファチジルセリン脂質;pH5.0~8の緩衝液;1.5~9% w/vのトレハロース;および水。ポリペプチドの濃度は0.4~5mg/mlであり、ホスファチジルセリン脂質とポリペプチドとのモル比は8:1~20:1の範囲である。いくつかの態様において、緩衝液は、濃度10~50mMのTrisであり、組成物のpHは、pH6.8~7.6である。いくつかの態様において、緩衝液は、濃度10~50mMのクエン酸緩衝液である。いくつかの態様において、緩衝液は、濃度10~50mMの酢酸緩衝液である。特定の態様において、ホスファチジルセリン脂質は、DOPS、ジヘキサノイルホスファチジルセリン脂質、ジオクタノイルホスファチジルセリン脂質、ジデカノイルホスファチジルセリン脂質、ジラウロイルホスファチジルセリン脂質、ジミリストイルホスファチジルセリン脂質、ジパルミトイルホスファチジルセリン脂質、パルミトイル-オレオイルホスファチジルセリン脂質、1-ステアロイル-2-オレオイルホスファチジルセリン脂質、またはジフィタノイルホスファチジルセリン脂質のうちの1つまたは複数を含み、好ましくはDOPS、例えばDOPSのナトリウム塩である。様々な場合において、ポリペプチドは、SEQ ID NO: 1のアミノ酸配列を含むか、もしくはそれからなるか、または1個もしくは2個のアミノ酸挿入、置換、もしくは欠失を有するSEQ ID NO: 1の配列を含むか、もしくはそれからなる。いくつかの態様において、この組成物は、3%未満の量のt-ブチルアルコールを含む。好ましい態様において、組成物は、濃度1.9~2.5mg/mlの、SEQ ID NO: 1のアミノ酸配列を含むポリペプチド;濃度2.0~2.8mg/ml の(好ましくはナトリウム塩形態の)DOPS;濃度23~27mMのTris;濃度4~6重量%のトレハロース;0.5重量%未満の量のt-ブチルアルコールを含み、pHはpH6.8~7.6(より好ましくはpH7.0~7.4またはpH7.1~7.3)の範囲である。固形腫瘍であり得る癌を治療するための方法もまた、説明する。この方法で治療可能な癌の例には、神経膠腫、上衣腫、および直腸腺癌などの胃腸癌が含まれる。この方法は、本明細書において説明する薬学的組成物をヒト癌患者に投与する段階を含む。いくつかの態様において、この方法は、本明細書において説明する固形組成物を水または生理食塩水で再調製して、再調製組成物を作製する段階、および再調製組成物の用量を患者に静脈内投与する段階を含む。いくつかの態様において、組成物は、0.4mg/kg~7mg/kg SapCの範囲の用量で静脈内に送達され、組成物中のSapCとDOPSとの比は、1:8~1:20の範囲である。別の態様において、組成物は、2.3~2.5mg/kg SapCの用量で静脈内に送達され、組成物中のSapCとDOPSとの比は、1:11~1:13の範囲である。いくつかの態様において、組成物は、以下のような少なくとも2つのサイクルにわたって患者に繰り返し投与される:
サイクル1:
1週目:1~5日目のそれぞれの日に1回投与;
2週目:1日おきに週に3回、例えば、8日目、10日目、および12日目のそれぞれの日に1回投与;
3週目および4週目:毎週1回投与(7(±3)日ごと);
サイクル2:
5週目の間に1回投与;ならびに
任意の後続のサイクル:
直近の前回の投与後28(±3)日目に1回投与。
[本発明1001]
0~4個のアミノ酸挿入、置換、または欠失を有するSEQ ID NO: 1のアミノ酸配列を含む、ポリペプチド;
ホスファチジルセリン脂質;
pH5.0~8.0の緩衝液;
1.5~9重量%のトレハロース;
0~35%のt-ブチルアルコール;および

を含む組成物であって、
ここで、該ポリペプチドの濃度が0.4~5.0mg/mlであり、該ホスファチジルセリン脂質と該ポリペプチドとのモル比が8:1~20:1の範囲である、組成物。
[本発明1002]
緩衝液が、濃度10~50mMのトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン(Tris)であり、組成物のpHがpH6.8~7.6である、本発明1001の組成物。
[本発明1003]
緩衝液が、濃度10~50mMのクエン酸緩衝液である、本発明1001の組成物。
[本発明1004]
緩衝液が、濃度10~50mMの酢酸緩衝液である、本発明1001の組成物。
[本発明1005]
ホスファチジルセリン脂質がジオレオイルホスファチジルセリン(DOPS)である、本発明1001の組成物。
[本発明1006]
ホスファチジルセリン脂質が、DOPS、ジヘキサノイルホスファチジルセリン脂質、ジオクタノイルホスファチジルセリン脂質、ジデカノイルホスファチジルセリン脂質、ジラウロイルホスファチジルセリン脂質、ジミリストイルホスファチジルセリン脂質、ジパルミトイルホスファチジルセリン脂質、パルミトイル-オレオイルホスファチジルセリン脂質、1-ステアロイル-2-オレオイルホスファチジルセリン脂質、またはジフィタノイルホスファチジルセリン脂質のうちの1つまたは複数を含む、本発明1001の組成物。
[本発明1007]
ポリペプチドのアミノ酸配列が、1個または2個のアミノ酸挿入、置換、または欠失を有するSEQ ID NO: 1を含む、本発明1001の組成物。
[本発明1008]
ポリペプチドのアミノ酸配列がSEQ ID NO: 1を含む、本発明1001の組成物。
[本発明1009]
ポリペプチドのアミノ酸配列がSEQ ID NO: 1からなる、本発明1001の組成物。
[本発明1010]
ポリペプチドが、SEQ ID NO: 1の配列を含み、かつ濃度が1.9~2.5mg/mlであり;
ホスファチジルセリン脂質がDOPSであり、かつ濃度が2.0~2.8mg/mlであり;
緩衝液が、濃度23~27mMのTrisであり;
トレハロースの濃度が4~6重量%であり;
組成物のpHがpH 6.8~7.6の範囲であり;かつ
組成物が、濃度約15~25重量%のt-ブチルアルコールをさらに含む、
本発明1001の組成物。
[本発明1011]
0~4個のアミノ酸挿入、置換、または欠失を有するSEQ ID NO: 1のアミノ酸配列を含む、ポリペプチド;
ホスファチジルセリン脂質;
緩衝液;および
75~90重量%のトレハロース
を含む固形の組成物であって、
ここで、該ポリペプチドの濃度が3.2~4.4重量%であり、ホスファチジルセリン脂質とポリペプチドとのモル比が8:1~20:1の範囲である、組成物。
[本発明1012]
緩衝液が、5.6~7.6重量%のTrisである、本発明1011の組成物。
[本発明1013]
緩衝液が、9~13重量%のクエン酸緩衝液である、本発明1011の組成物。
[本発明1014]
緩衝液が、3~5重量%の酢酸緩衝液である、本発明1011の組成物。
[本発明1015]
ホスファチジルセリン脂質がDOPSである、本発明1011の組成物。
[本発明1016]
ホスファチジルセリン脂質が、DOPS、ジヘキサノイルホスファチジルセリン脂質、ジオクタノイルホスファチジルセリン脂質、ジデカノイルホスファチジルセリン脂質、ジラウロイルホスファチジルセリン脂質、ジミリストイルホスファチジルセリン脂質、ジパルミトイルホスファチジルセリン脂質、パルミトイル-オレオイルホスファチジルセリン脂質、1-ステアロイル-2-オレオイルホスファチジルセリン脂質、またはジフィタノイルホスファチジルセリン脂質のうちの1つまたは複数を含む、本発明1011の組成物。
[本発明1017]
ポリペプチドのアミノ酸配列が、1個または2個のアミノ酸挿入、置換、または欠失を有するSEQ ID NO: 1を含む、本発明1011の組成物。
[本発明1018]
ポリペプチドのアミノ酸配列がSEQ ID NO: 1を含む、本発明1011の組成物。
[本発明1019]
ポリペプチドのアミノ酸配列がSEQ ID NO: 1からなる、本発明1011の組成物。
[本発明1020]
3重量%未満の量のt-ブチルアルコールをさらに含む、本発明1011の組成物。
[本発明1021]
ポリペプチドが、SEQ ID NO: 1の配列を含み、かつ濃度が3.3~4.3重量%であり;
ホスファチジルセリン脂質がDOPSであり、かつ濃度が3.4~4.8 重量%であり;
緩衝液がTrisであり、かつ濃度が6.0~7.2重量%であり;
トレハロースの濃度が81~87.3重量%であり;かつ
組成物が、濃度3重量%未満のt-ブチルアルコールをさらに含む、
本発明1011の組成物。
[本発明1022]
0~4個のアミノ酸挿入、置換、または欠失を有するSEQ ID NO: 1のアミノ酸配列を含む、ポリペプチド;
ホスファチジルセリン脂質;
pH5.0~8の緩衝液;
1.5~9% w/vのトレハロース;および

を含む薬学的組成物であって、
ここで、該ポリペプチドの濃度が0.4~5mg/mlであり、ホスファチジルセリン脂質とポリペプチドとのモル比が8:1~20:1の範囲である、薬学的組成物。
[本発明1023]
緩衝液が、濃度10~50mMのTrisであり、組成物のpHがpH6.8~7.6である、本発明1022の薬学的組成物。
[本発明1024]
緩衝液が、濃度10~50mMのクエン酸緩衝液である、本発明1022の薬学的組成物。
[本発明1025]
緩衝液が、濃度10~50mMの酢酸緩衝液である、本発明1022の薬学的組成物。
[本発明1026]
ホスファチジルセリン脂質がDOPSである、本発明1022の薬学的組成物。
[本発明1027]
ホスファチジルセリン脂質が、DOPS、ジヘキサノイルホスファチジルセリン脂質、ジオクタノイルホスファチジルセリン脂質、ジデカノイルホスファチジルセリン脂質、ジラウロイルホスファチジルセリン脂質、ジミリストイルホスファチジルセリン脂質、ジパルミトイルホスファチジルセリン脂質、パルミトイル-オレオイルホスファチジルセリン脂質、1-ステアロイル-2-オレオイルホスファチジルセリン脂質、またはジフィタノイルホスファチジルセリン脂質のうちの1つまたは複数を含む、本発明1022の薬学的組成物。
[本発明1028]
ポリペプチドのアミノ酸配列が、1個または2個のアミノ酸挿入、置換、または欠失を有するSEQ ID NO: 1を含む、本発明1022の薬学的組成物。
[本発明1029]
ポリペプチドのアミノ酸配列がSEQ ID NO: 1を含む、本発明1022の薬学的組成物。
[本発明1030]
ポリペプチドのアミノ酸配列がSEQ ID NO: 1からなる、本発明1022の薬学的組成物。
[本発明1031]
3%未満の量のt-ブチルアルコールをさらに含む、本発明1022の薬学的組成物。
[本発明1032]
ポリペプチドが、SEQ ID NO: 1のアミノ酸配列を含み、かつ濃度が1.9~2.5mg/mlであり;
ホスファチジルセリン脂質がDOPSであり、かつ濃度が2.0~2.8mg/mlであり;
緩衝液がTrisであり、かつ濃度が23~27mMであり;
トレハロースの濃度が4~6重量%であり;
組成物のpHがpH6.8~7.6の範囲であり;かつ
組成物が、0.5重量%未満の量のt-ブチルアルコールをさらに含む、
本発明1022の薬学的組成物。
[本発明1033]
本発明1022の組成物を患者に投与する段階を含む、ヒト患者において癌を治療する方法。
[本発明1034]
患者が固形腫瘍を有する、本発明1033の方法。
[本発明1035]
患者が神経膠腫または上衣腫を有する、本発明1034の方法。
[本発明1036]
患者が胃腸癌を有する、本発明1034の方法。
[本発明1037]
組成物が、0.4mg/kg~7mg/kg SapCの範囲の用量で静脈内に送達され、該組成物中のSapCとDOPSとの比が、1:8~1:20の範囲である、本発明1033の方法。
[本発明1038]
組成物が、2.3~2.5mg/kg SapCの用量で静脈内に送達され、該組成物中のSapCとDOPSとの比が、1:11~1:13の範囲である、本発明1033の方法。
[本発明1039]
組成物が、以下のような少なくとも2つのサイクルにわたって患者に繰り返し投与される、本発明1037の方法:
サイクル1:
1週目:1~5日目のそれぞれの日に1回投与;
2週目:1日おきに3回投与;
3週目および4週目:毎週1回投与(7(±3)日ごと);
サイクル2:
5週目の間に1回投与。
[本発明1040]
少なくとも1回の後続のサイクルをさらに含み、該少なくとも1回の後続のサイクルが、直近の前回の投与後28(±3)日目の1回投与を含む、本発明1039の方法。
[本発明1041]
本発明1011の組成物を水または生理食塩水で再調製して、再調製された組成物を作製する段階、および
該再調製された組成物の用量を患者に静脈内投与する段階
を含む、ヒト患者において癌を治療する方法。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】試料75312-F10についてのDSC解析の結果を示すグラフである。
図2】表2に挙げた試料についてのCD解析の結果を示すグラフである。
図3】表2に挙げた試料についてのCD解析によって推定された、αヘリックスおよびランダムコイルの比率を示すグラフである。
図4】表4で挙げた各試料について、310nmにおける光学濃度の値を示すグラフである。
図5】表4で挙げた試料について、t=0および60℃で10日経過後のSapC純度のSE-HPLC測定値を示すグラフである。
図6】表4で挙げた試料について、t=0および60℃で10日経過後のSapC純度のRP-HPLC測定値を示すグラフである。
図7】表4で挙げた試料について、t=0および60℃で10日経過後のSapC純度のIEX-HPLC測定値を示すグラフである。
図8】表8の各組成物について、t=0および60℃で10日経過後に310nmで分析した場合の光学濃度を示すグラフである。
図9】t=0および60℃で10日経過後の表8の組成物についてのSapC純度のRP-HPLC測定値を示すグラフである。
図10】t=0および60℃で10日経過後の表8の組成物についてのSapC純度のSE-HPLC測定値を示すグラフである。
図11】t=0および60℃で10日経過後の表8の組成物についてのSapC純度のIEX-HPLC測定値を示すグラフである。
図12】実施例4の各試料のpHを示すグラフである。
図13】実施例4の各試料のタンパク質含有量を示すグラフである。
図14】表14で挙げた試料について、t=0および50℃で2週間保存後の、再調製組成物におけるSapC純度および回収率(%)のRP-HPLC測定値を示すグラフである。
図15図15A~Bは、t=0(A)および50℃で5週間経過後(B)の試料76114-F5を対象とする動的光散乱の結果を示すグラフである。
図16図16A~Bは、t=0(A)および50℃で5週間経過後(B)の試料76114-F6を対象とする動的光散乱の結果を示すグラフである。
図17】表21に挙げた試料について、t=0の各再調製試料を対象とする動的光散乱の結果を示すグラフである。
図18】表21に挙げた試料について、各再調製試料を対象とする動的光散乱の経時変化を示すグラフである。
図19】表22の組成物の各再調製試料中のTBA比率(%)を示すグラフである。
図20】表23の組成物の各再調製試料中のTBA比率(%)を示すグラフである。
図21図21A~Dは、表23の組成物のうちのいくつかについて再調製液体の3つのレプリケートの粒径分布を示すグラフである。
図22】表26で挙げた試料について、25℃で2週間または4週間保存した凍結乾燥粉末から調製した各再調製組成物におけるSapC純度のRP-HPLC測定値を示すグラフである。
図23】表26で挙げた試料について、25℃で2週間または4週間保存した凍結乾燥粉末から調製した各再調製組成物におけるSapC純度のIEX-HPLC測定値を示すグラフである。
図24】表26で挙げた試料について、25℃で2週間または4週間保存した凍結乾燥粉末から調製した各再調製組成物における平均粒径の推移を示すグラフである。
図25】SapC-DOPSの活性を試験するGBA酵素アッセイ法の結果を示すグラフである。
図26】第1a相の患者背景および有害事象を投薬群別に示す表である。
図27A】固形腫瘍を有する患者(対数線形)において1日目に、24時間毎に0.75時間にわたってBXQ-350を複数回静脈内投与した際の平均SapC血漿中濃度-時間プロファイルを示すグラフの3つのセットである。
図27B】固形腫瘍を有する患者(対数線形)において4日目に、24時間毎に0.75時間にわたってBXQ-350を複数回静脈内投与した際の平均SapC血漿中濃度-時間プロファイルを示すグラフの3つのセットである。
図27C】固形腫瘍を有する患者(対数線形)において22日目に、24時間毎に0.75時間にわたってBXQ-350を複数回静脈内投与した際の平均SapC血漿中濃度-時間プロファイルを示すグラフの3つのセットである。
図28図28A~Dは、死後の組織学的検査および肉眼的解剖分析の結果を表し、左から右に以下のとおりである:(A)最初の外科的標本は、上衣分化および豊富な有糸分裂形状の証拠をほとんど示さなかった。H&E、倍率40倍;(B)剖検時の肉眼的脳検査では、広範囲の腫瘍壊死が示された;(C)腫瘍切片の顕微鏡検査では、存続可能な腫瘍はほとんど示されず壊死が示されている(H&E、倍率4倍、囲み部分は40倍);(D)剖検時、腫瘍が外科的欠陥および頭皮を介して広がった部位に、広範囲の軟骨様分化が認められた。
図29】第1A相臨床試験における患者の転帰を示すスイマープロットである。
図30図30Aおよび30Bは、治療開始時(図30A)および12ヶ月を超える治療後(図30B)の、一組の陽電子放射断層撮影(PET)画像である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
詳細な説明
本発明は、脳癌を含む固形腫瘍などの癌を治療するための組成物および方法に関する。これらの組成物には、サポシンポリペプチド、例えば、サポシンC(SapC)、およびホスファチジルセリンまたはその構造類似体、例えばジオレオイルホスファチジルセリン(DOPS)が含まれる。
【0013】
本明細書において使用される場合、用語「アミノ酸」または「アミノ酸配列」は、オリゴペプチド、ペプチド、ポリペプチド、もしくはタンパク質配列、またはこれらのいずれかの断片、および天然分子または合成分子を意味する。ある天然タンパク質分子のアミノ酸配列に言及するために「アミノ酸配列」が本明細書において挙げられる場合、「アミノ酸配列」および同様の用語は、挙げられたそのタンパク質分子に関連する完全なネイティブアミノ酸配列に該アミノ酸配列を限定することを意図しない。
【0014】
「欠失」とは、本明細書においてこの用語が使用される場合、1つまたは複数のアミノ酸残基またはヌクレオチドの欠如をもたらす、アミノ酸配列またはヌクレオチド配列の変化を意味する。
【0015】
本明細書において使用される場合、単語「挿入」または「付加」は、天然分子中に見出される配列に、1つまたは複数のアミノ酸残基またはヌクレオチドの付加をそれぞれもたらす、アミノ酸またはヌクレオチド配列の変化を意味する。
【0016】
本明細書において使用される場合、用語「融合性タンパク質または融合性ポリペプチド」とは、2つの個別の二分子膜に添加された場合にそれらを融合して単一膜をもたらすことができる、タンパク質またはペプチドを意味する。融合性タンパク質は、細胞膜またはモデル膜が近距離で接触するように強い、それらを融合させる。本発明で使用するための適切なリソソームの融合性タンパク質および融合性ポリペプチドには、サポシンファミリーのタンパク質が含まれるが、それらに限定されるわけではない。
【0017】
本明細書において使用される場合、用語「サポシン」は、プロサポシンに由来するタンパク質およびポリペプチドのファミリーを意味し、限定されるわけではないが、天然サポシンA、B、C、およびD(ヒトまたは他の動物種、例えば、マウス、ラット、ブタ、およびウシに由来する;例えば、(参照により組み入れられる)Qi et al. (1996) J. Biol. Chem. 271(12):6874-6880を参照されたい)、ならびに融合活性を示す、サポシン由来の合成のタンパク質およびペプチドならびにペプチド類似体を含む。 特定の態様において、サポシンポリペプチドは、ヒトSapCのアミノ酸配列:
を含むか、またはそれからなる。他の態様において、SapCポリペプチドは、0~4個のアミノ酸挿入、置換、または欠失、例えば、合計1個、2個、3個、または4個のこのような変更を有する、SEQ ID NO: 1のアミノ酸配列を含む。いくつかの態様において、SapCポリペプチドのアミノ酸配列は、1個もしくは2個のアミノ酸挿入、置換、もしくは欠失、またはこのような変更の組合せを有するSEQ ID NO: 1を含む。ヒトSapCの融合活性をいくらか備えているポリペプチド類似体もまた、含まれる。「類似体」とは、SapCのアミノ酸配列中に置換または他の改変を有するポリペプチドを意味し、これらの置換または改変は該ポリペプチドの融合性活性に悪影響を及ぼさない。したがって、類似体は、SEQ ID NO: 1と実質的に同一のアミノ酸配列を有し、かつ1つまたは複数のアミノ酸残基が、化学的に類似したアミノ酸によって保存的に置換されている、ポリペプチドであり得る。保存的置換の例には、イソロイシン、バリン、ロイシン、またはメチオニンなどの無極性(疎水性)残基による別の残基の置換が含まれる。同様に、本発明は、例えば、アルギニンとリジンの間、グルタミンとアスパラギンの間、およびグリシンとセリンの間での、1つの極性(親水性)残基による置換も企図する。リジン、アルギニン、もしくはヒスチジンなどの塩基性残基による別の残基の置換、またはアスパラギン酸もしくはグルタミン酸などの1つの酸性残基による別の残基の置換もまた、企図される。
【0018】
SapCおよびそれに由来するポリペプチドは、任意の有用な方法、例えば、化学的に、酵素的に、または組換えによって作製され得る。ポリペプチドおよびその断片を作製するための方法は、当技術分野において公知であり、化学的ペプチド合成、インビトロ翻訳系、および組換え宿主生物からの発現(および精製)が含まれる、それらに限定されるわけではない。
【0019】
「脂質小胞」および「リポソーム」は同義的に使用されて、典型的には1つまたは複数の同心円状層、例えば、二重層の形態で存在する、両親媒性脂質からなる通常は球形のかたまりまたは凝集体を意味する。
【0020】
用語「ホスファチジルセリン」および「ホスファチジルセリン脂質」は同義的に使用されて、グリセロールの第1の炭素および第2の炭素にエステル結合で結合している2つの脂肪酸ならびにグリセロールの第3の炭素にリン酸ジエステル結合によって結合しているセリン部分を有する脂質を意味する。本発明の組成物と共に使用され得るホスファチジルセリン脂質の例には、以下のもの:ジオレオイルホスファチジルセリン脂質(DOPS);ジヘキサノイルホスファチジルセリン脂質;ジオクタノイルホスファチジルセリン脂質;ジデカノイルホスファチジルセリン脂質;ジラウロイルホスファチジルセリン脂質;ジミリストイルホスファチジルセリン脂質;ジパルミトイルホスファチジルセリン脂質;パルミトイル-オレオイルホスファチジルセリン脂質;1-ステアロイル-2-オレオイルホスファチジルセリン脂質;およびジフィタノイルホスファチジルセリン脂質が含まれ、DOPSが好ましいが、これらに限定されるわけではない。中性pHの水性組成物において、このようなホスファチジルセリン脂質は、陽イオンとの塩の形態で存在することが典型的であり、したがって、本発明の組成物において使用されるDOPSおよび他のホスファチジルセリン脂質への言及は、これらの脂質の塩形態と塩ではない形態の両方を含むことが意図されている。適切な陽イオンには、ホスファチジルセリン脂質との塩を形成する任意の薬学的に許容される陽イオン、例えば、以下のうちのいずれかが含まれる:アンモニウムイオン、L-アルギニンイオン、ベンザチンイオン、デアノールイオン、ジエタノールアミン(2,2'-イミノジエタノール)イオン、ヒドラバミンイオン、リジンイオン、カリウムイオン、ナトリウムイオン、トリエタノールアミン(2,2',2''-ニトリロトリ(エタン-1-オール))イオン、およびトロメタミン(2-アミノ-2-(ヒドロキシメチル)プロパン-1,3-ジオールイオン。ナトリウム塩、カリウム塩、およびアンモニウム塩が、好ましい。
【0021】
本発明の組成物は、緩衝剤を含んでよい。例示的な緩衝剤には、酢酸、クエン酸、ヒスチジン、コハク酸、およびトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン(Tris;トロメタミンとしても公知)、ならびにTrisの公知の誘導体、例えばアミノ基が修飾されているものが含まれるが、それらに限定されるわけではない。好ましい態様において、本発明の水性組成物は、濃度10~50mM(好ましくは20~30mM、例えば25mM)のTrisを含み、これらの組成物のpHは、pH6.8~7.6(例えばpH7~7.4、例えばpH7.1~7.3)の範囲である。いくつかの態様において、組成物は、濃度10~50mMのクエン酸緩衝液または酢酸緩衝液を含み、組成物のpHは、pH5.0~8.0の範囲である。
【0022】
安定化材料および/または増量剤として有用な生体適合性ポリマーは、天然由来、半合成由来(改変された天然物質)、または合成由来のものであってよい。本明細書において使用される場合、用語ポリマーは、2個またはそれより多い繰り返しモノマー単位、および好ましくは10個またはそれより多い繰り返しモノマー単位から構成される化合物を意味する。本明細書において使用される場合、用語「半合成ポリマー(または改変された天然ポリマー)」は、何らかの様式で化学修飾された天然ポリマーを意味する。本発明で使用するのに適した例示的な天然ポリマーには、天然の多糖類が含まれる。このような多糖類には、例えば、アラビナン、フルクタン、フカン、ガラクタン、ガラクツロナン、グルカン、マンナン、キシラン(例えばイヌリン)、レバン、フコイダン、カラゲナン、ガラトカロロース、ペクチン酸、ペクチン、アミロース、プルラン、グリコーゲン、アミロペクチン、セルロース、デキストラン、デキストリン、デキストロース、ポリデキストロース、プスツラン、キチン、アガロース、ケラタン、コンドロイタン、デルマタン、ヒアルロン酸、アルギン酸、キサンタンゴム、デンプン、ならびに他の様々な天然のホモポリマーまたはヘテロポリマー、例えば、以下のアルドース、ケトース、酸、またはアミン:エリトロース、トレオース、リボース、アラビノース、キシロース、リキソース、アロース、アルトロース、ルコース、マンノース、グロース、イドース、ガラクトース、タロース、エリチルロース、リブロース、キシルロース、プシコース、フルクトース、ソルボース、タガトース、マンニトール、ソルビトール、ラクトース、スクロース、トレハロース、マルトース、セロビオース、グリシン、セリン、トレオニン、システイン、チロシン、アスパラギン、グルタミン、アスパラギン酸、グルタミン酸、リジン、アルギニン、ヒスチジン、グルクロン酸、グルコン酸、グルカル酸、ガラクツロン酸、マンヌロン酸、グルコサミン、ガラクトサミン、およびノイラミン酸、ならびにそれらの天然誘導体のうちの1つまたは複数を含むもの、が含まれる。例示的な半合成ポリマーには、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、メチルセルロース、およびメトキシセルロースが含まれる。本発明において使用するのに適した例示的な合成ポリマーには、ポリエチレン(例えば、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリオキシエチレン、およびポリエチレンテレフタラート)、ポリプロピレン(例えばポリプロピレングリコール)、ポリウレタン(例えば、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリ塩化ビニル、およびポリビニルピロリドン(PVP))、ナイロンを含むポリアミド、ポリスチレン、ポリ乳酸、フッ化炭化水素、フッ化炭素(例えばポリテトラフルオロエチレン)、およびポリメタクリル酸メチル、ならびにこれらのいずれかについての誘導体が含まれる。ポリマーを安定化化合物として使用する小胞組成物を調製するための方法は、ひとたび本開示の内容を与えられると、その開示内容の全体が参照により本明細書に組み入れられる米国特許第5,205,290号において説明および言及されているもののような当技術分野において公知の情報と本開示を結び付けた場合に、当業者には容易に明らかになるであろう。好ましい形態では、本発明の組成物は、マンニトール、ラクトース、トレハロース、スクロース、PEG、PVP、ソルビトール、またはグルコースのうちの1種または複数種を含む。
【0023】
特許請求の範囲の組成物を調製するために、多種多様の技術が利用可能である。好ましい態様において、DOPSまたは別のホスファチジルセリン脂質は、有機溶媒を用いて可溶化され、次いで、周囲温度で5~15分間、SapCを含む水性成分と混合される。この目的のために使用され得る例示的な有機溶媒には、エタノール、DMSO、n-ブタノール、およびt-ブタノール(t-ブチルアルコール、TBAとしても公知)が含まれるが、それらに限定されるわけではない。好ましい態様において、有機溶媒は、例えば98%を超える純度の、t-ブタノールである。成分が混合されると、脂質およびSapCは一緒になって、水溶液中に懸濁した小胞を形成する。混合物の凍結乾燥によって、水だけでなく、有機溶媒の大部分またはすべても除去される。好ましい態様において、凍結乾燥粉末は、3重量%未満のTBAを含む。
【0024】
当業者に公知である多種多様の技術を用いて、リポソーム組成物を調製することができる。これらの技術には、例えば、溶媒透析、フレンチプレス、押出し成形(凍結解凍を併用または併用しない)、逆相蒸発法、単純な凍結解凍、超音波処理、キレート透析、ホモジナイゼーション、溶媒注入、微細乳化、自発的形成、溶媒蒸発、溶媒透析、コントロールされた界面活性剤透析などが含まれる。例えば、その開示内容の全体が参照により本明細書に組み入れられるMadden et al., Chemistry and Physics of Lipids, 1990 53, 37-46を参照されたい。適切な凍結解凍技術は、例えば、その開示内容の全体が参照により本明細書に組み入れられる、1989年11月8日に出願された国際出願番号PCT/US89/05040において説明されている。リポソームの調製は、溶液、例えば、生理食塩水、水性リン酸緩衝液、または滅菌水中で実施してよい。リポソームは、振盪またはボルテックスを含む様々な方法によって調製してよい。
【0025】
小胞組成物の調製において使用するために変更できる多くのリポソーム調製技術が、例えば、米国特許第4,728,578号;英国特許出願公開GB 2193095 A;米国特許第4,728,575号、同第 4,737,323号;国際出願番号PCT/US85/01161;Mayer et al., Biochimica et Biophysica Acta, Vol. 858, pp. 161-168 (1986); Hope et al., Biochimica et Biophysica Acta, Vol. 812, pp. 55-65 (1985); Mayhew et al., Methods in Enzymology, Vol. 149, pp. 64-77 (1987); Mayhew et al., Biochimica et Biophysica Acta, Vol 755, pp. 169-74 (1984); Cheng et al, Investigative Radiology, Vol. 22, pp. 47-55 (1987);国際出願番号PCT/US89/05040; 米国特許第4,533,254号、同第4,162,282号、同第4,310,505号、同第4,921,706号; およびLiposome Technology, Gregoriadis, G., ed., Vol. 1, pp. 29-31, 51-67 and 79-108 (CRC Press Inc., Boca Raton, Fla. 1984)において考察されており、これら各文献の開示内容は、その全体が参照により本明細書に組み入れられる。
【0026】
当業者は、小胞組成物のいずれかを保存用に凍結乾燥し、例えば、必要な場合には勢いよい撹拌の助けを借りて、患者への投与に適した滅菌済み水性媒体(水、リン酸緩衝液、Tris緩衝液、または生理食塩水など)を用いて再調製できることを認識するであろう。これらのリポソームは、関連する部分が参照により組み入れられるRey, L. (2010), Freeze-Drying/Lyophilization of Pharmaceutical and Biological Products. ISBN 9781439825754で説明されているものを含む、当技術分野において公知の方法に従って凍結乾燥してよい。例示的な凍結乾燥方法では、表Iに開示したパラメーターに従う凍結、一次乾燥、および二次乾燥の段階を用いる。
【0027】
(表I)凍結乾燥パラメーターの例示的範囲
【0028】
凍結乾燥の結果として脂質および/または小胞の凝集または融合が起こるのを防ぐために、そのような融合または凝集が起こるのを防ぐ添加物を含むことが有用である場合がある。有用であり得る添加物には、ソルビトール、マンニトール、塩化ナトリウム、グルコース、トレハロース、ポリビニルピロリドン(PVP)、およびポリ(エチレングリコール)(PEG)、例えばPEG400が含まれる。これらおよび他の添加物は、文献、例えば、その開示内容の全体が参照により本明細書に組み入れられる、米国薬局方、USP XXII、NF XVII、アメリカ薬局方、米国国民医薬品集、United States Pharmacopeial Convention Inc., 12601 Twinbrook Parkway, Rockville, Md. 20852で説明されている。
【0029】
用語「安定な」および「安定化された」は、小胞に対して使われる場合、それらの小胞が、例えば、小胞構造または封入された気体もしくは気体前駆物質の減少を含む分解に対して、有用な期間、実質的に耐性であることを意味する。(凍結乾燥前または凍結乾燥粉末の再調製後の)SapC/脂質小胞を含む本発明の水性組成物に対して使われる場合、用語「安定な」および「安定化された」は、タンパク質またはホスファチジルセリン脂質の含有量にも純度にも有意な減少が認められず、物理的特性にも有意な変化がないことを意味する。本発明の凍結乾燥粉末組成物に対して使われる場合、用語「安定な」および「安定化された」は、注射用水を用いて再調製した際に、タンパク質およびホスファチジルセリン脂質の含有量にも純度にも有意な減少が認められず、物理的特性にも有意な変化がないことを意味する。
【0030】
本発明の組成物を用いて治療可能な癌には、例えば、任意の固形腫瘍または神経の癌、例えば、前立腺癌、肝臓癌、肺癌、膵臓癌、腎細胞癌、乳癌、卵巣癌、精巣癌、上衣腫、脳癌、例えば、多形性膠芽腫(GBM)を含む高悪性度神経膠腫(HGG)、ならびに虫垂癌および結腸直腸癌を含む胃腸(GI)癌が含まれる。これらの組成物は、原発腫瘍のタイプにもそれが転移する器官にも関係なく、転移腫瘍を治療するのに有用である。転移性腫瘍は、前立腺、結腸、肺、乳房、および肝臓から発生したものを非限定的に含む、多数の原発腫瘍のタイプから生じ得る。用語「癌」および「新生物」は、様々な器官系の悪性腫瘍、例えば、肺、乳房、甲状腺、リンパ系、胃腸管、または尿生殖器を冒すもの、ならびにほとんどの結腸癌、腎細胞癌、前立腺癌、および/または精巣腫瘍、肺の非小細胞癌、小腸癌、および食道癌などの悪性腫瘍が含まれる腺癌を含むことができる。用語「癌腫」は、当技術分野において認識されており、呼吸器系癌腫、胃腸系癌腫、尿生殖器系癌腫、精巣癌腫、乳癌腫、前立腺癌腫、内分泌系癌腫、および黒色腫を含む、上皮組織または内分泌組織の悪性腫瘍を意味する。例示的な癌腫には、子宮頸、肺、前立腺、乳房、頭頸部、結腸、および卵巣の組織から形成されるものが含まれる。この用語はまた、癌性組織および肉腫性組織から構成される悪性腫瘍を含む癌肉腫も含む。「腺癌」は、腺組織に由来する癌腫、または癌腫中で腫瘍細胞が認識可能な腺構造を形成している癌腫を意味する。さらに詳しい内容は、例えば、その全体が参照により本明細書に組み入れられる米国特許第7,834,147号で確認することができる。
【0031】
「患者」または「対象」とは、哺乳動物を含む動物、好ましくはヒトを意味する。
【0032】
組成物の治療的に有効な用量または量とは、患者の癌を治療するのに有用な量である。通常、本発明の組成物の1回分の治療的有効用量は、約0.01~30mg/kg体重、好ましくは約0.05~20mg/kg体重、より好ましくは約0.1~15mg/kg体重、およびさらにより好ましくは約0.5~10mg/kgの範囲の量のSapC(またはその誘導体)を含む。例えば、1回分の静脈内用量中のSapCの量は、約0.7mg/kg、1.1mg/kg、1.4mg/kg、1.8mg/kg、2.4mg/kg、2.8mg/kg、3.0mg/kg、3.2mg/kg、3.6mg/kg、またはそれより多くであることができる。所与の患者に、1回または複数回の初期投与のための所与の用量レベルを与え、かつその後の投与のための異なる(低いまたは高い)レベルを与えてよい。送達は、任意の適切な注射用経路、例えば、静脈内、動脈内、皮内、筋肉内、心臓内、頭蓋内、皮下、または腹腔内経路によって行ってよい。典型的には、本発明の組成物は、無菌注射用水に溶かして再調製され、生理食塩水、PBS、または5重量%デキストロース(D5W)などの等張性担体を含むIVバッグに入れて点滴静注によって送達される。投与経路に関するさらなる詳しい内容は、例えば、米国特許第7,834,147号において確認することができる。
【0033】
投与は、何日かの連続した日数の間、例えば、3日、4日、5日、6日、7日、8日、9日、もしくはそれより長い連続した日数の間、1日に少なくとも1回行うことができ、または例えば、1日おきに、もしくは週に3回、もしくは7±3日ごとに1回、もしくは14±3日ごとに1回、もしくは28±3日ごとに1回であることができる。投与時期は、これらのスケジュールのうちの1つを用いて始め、適切な治療期間後に、頻度が多いまたは少ない別のスケジュールに変更してよい。全体の治療期間は、例えば8週もしくは12週もしくは16週で、または最長6ヶ月で完了することができるが、より好ましくは、患者が治療の恩恵を受けていると思われる限り、継続する。例えば、投与計画は、以下であってよい:
サイクル1:
1週目:1~5日目のそれぞれの日に1回投与;
2週目:1日おきに週に3回、例えば、8日目、10日目、および12日目のそれぞれの日に1回投与;
3週目および4週目:毎週1回投与(7(±3)日ごと);
サイクル2:
5週目の間に1回投与;ならびに
任意の後続のサイクル:直近の前回の投与後28(±3)日目に1回投与。
【0034】
本発明の組成物中のSapCポリペプチドとホスファチジルセリン脂質とのモル比は、1:2~1:50、例えば1:5~1:30、または1:8~1:20、または1:11~1:13の範囲であることができる。適切なモル比には、1:10、1:11、1:12、1:13、1:14、および1:15が含まれるが、それらに限定されるわけではない。ポリペプチドとホスファチジルセリン脂質の質量比は、約1:0.18~約1:4.5、または約1:0.45~約1:2.7、または約1:0.72~約1:1.81、または約1:1~約1:1.2の範囲である。本発明の組成物中のポリペプチドおよび脂質の好ましい比は、限定されるわけではないが標的細胞のタイプおよび送達系路などのいくつかの因子の影響を受け得ることが認識される。
【0035】
有用な基本的情報および技術的詳細は、その全体が参照により本明細書に組み入れられる米国特許第7,834,147号および同第9,271,932号において確認することができる。
【0036】
上記の組成物および方法を、以下の実施例において提供する情報を用いてさらに裏付ける。実施例において説明する態様は例示にすぎず、本発明の範囲を限定することを意図しておらず、本発明は添付の特許請求の範囲によってのみ限定されることを理解すべきである。
【実施例
【0037】
材料
以下の試薬を供給業者から購入した:クエン酸ナトリウム二水和物、無水クエン酸、グリシン、リン酸ナトリウム一塩基性一水和物(EMD)、リン酸ナトリウム二塩基性七水和物(Thermo Scientific)、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン(「Tris」、J. T. Baker)、L-ヒスチジン、塩化ナトリウム、HyClone(商標)水(Thermo Scientific)、水酸化ナトリウム、無水D-トレハロース(VWR International)、D(+)トレハロース二水和物 (Spectrum)、スクロース(BDH Chemicals)、マンニトール(BDH Chemicals)、0.9%塩化ナトリウム、t-ブタノール(Sigma Aldrich)、1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホ-L-セリン(DOPSナトリウム塩)(Avanti Polar Lipids)。
【0038】
サポシンC(「SapC」)は、組換え発現を使用する標準的な方法によって、大腸菌(E. coli)細胞中で調製した。
【0039】
実施例1 SapCを含む組成物の安定性に選択緩衝剤がどのように影響を与えるかの測定
緩衝剤がSapC安定性にどのように影響を与えるかを測定するために、表1および2に挙げた選択緩衝剤に溶かしたSapC組成物を調製し、示差走査熱量測定(DSC)および円偏光二色性(CD)に基づいて解析した。
【0040】
方法
表1および2に挙げた組成物を調製した。
【0041】
(表1)DSC解析のために調製した組成物
【0042】
(表2)CD解析のために調製した組成物
【0043】
MicroCal(商標)VP-DSC熱量計(Northampton, MA)を用いてDSC測定を行った。実行パラメーターには、温度範囲10~110℃、走査速度60℃/時間、およびデータ取り込み時間間隔16秒が含まれた。試料は、各走査の前に15分間、前もって平衡化した。サーモグラムは、Originバージョン7用のMicroCal(商標)VP-DSC熱量計アドオンモジュールを用いて処理した。DSC融解は、この事象に関連するエンタルピーの変化をモニターすることにより、タンパク質のアンフォールディングを検出するものである。タンパク質アンフォールディングは、一般に発熱性であり、サーモグラムが示す値のピークを特徴とし、頂点は、タンパク質分子の半分がアンフォールディングしている転換期を示している。融解温度(Tm)が高いことは、固有の立体構造の安定性が高いことを意味する。
【0044】
CD測定は、4ポジションペルチェ温度調節装置と共にChirascan(商標)plus分光偏光計(Leatherhead, UK)を用いて実施した。0.1cm光路長のキュベットを用い、10℃で180~260nmの波長範囲にわたって、各試料の遠紫外線スペクトルを取得した。各対照試料のスペクトルを、対応する試験試料のスペクトルから引いた。二次構造の比率(%)を、測定機器と共に提供されるCDNNソフトウェアを用いて概算した。SapC濃度が1mg/mLの試料は、CDスペクトルが低波長で集中するのを避けるために希釈する必要があると判断した。したがって、CD測定前に各試料の6倍希釈を行った。
【0045】
結果
図1は、試料75312-F10についてのDSC解析の結果を示すグラフである。試料75312-F10およびまた試験した全試料(データ不掲載)のサーモグラムには、タンパク質アンフォールディングに対して予想される転換期がなかった。特定の理論に拘泥するものではないが、出願人は、(1)SapCタンパク質が三次構造を持たないか、または(2)SapCタンパク質が、最高温度の110℃でさえアンフォールディングしないかのいずれかと仮定している。
【0046】
図2は、表2に挙げた試料についてのCD解析の結果を示すグラフである。全試料のCDスペクトルは、約208nmおよび約220nmで最小値を示し、これは、かなりのαヘリックス含有量を示唆する特徴である。スペクトルの解析により、pH7.0>7.5≒6.0>8.0>9.0の順にスペクトルの大きさがpHに依存することが明らかになった。
【0047】
各試料の二次構造の比率(%)を、当技術分野において公知の方法を用いてCDスペクトルから推定した。これらの比率を表3に示す。図3は、表2に挙げた試料についてのCD解析によって推定された、αヘリックスおよびランダムコイルの比率(%)を示すグラフである。注目すべきことには、αヘリックスの最大量および最小量は試料のpHと相関関係があり、75312-F2(pH7)の場合に最大量であり、75312-F7(pH 9)の場合に最小量であった。これらのデータは、pH7のリン酸またはpH7.6のTris中で保存された場合、二次構造の構成要素が維持されることから推測されるように、SapCは活性を保持している可能性が高いことを示している。これらのデータはまた、張性を一定に保ちつつ緩衝液濃度を変動させた場合、特に10mMリン酸または50mMリン酸(75312-F5と75312-F6の比較)の場合、SapCの二次構造に差を与えなかったことも示している。
【0048】
(表3)各組成物中の推定される二次構造比率(%)
【0049】
実施例2 60℃で保存されたSapC組成物の安定性および純度に選択緩衝剤(および濃度)がどのように影響を与えるかの測定
SapCを含む組成物の安定性および純度に様々な緩衝剤がどのように影響を与えるかを測定するために、表4に挙げた選択緩衝剤に溶かしたSapC組成物を調製し、60℃で保存し、視覚的外観、タンパク質の総含有量、およびタンパク質内容物の純度に基づいて解析した。
【0050】
方法
表4に挙げた組成物を調製した。一部の試料を調製直後に凍結し(t=0日)、解析時まで-70℃で維持した;他の試料は60℃で10日間保存した後に凍結し(t=10日)、解析時まで-70℃で維持した。次いで、凍結した試料を解凍して室温に戻し、次の特性を調べた:(1)試料中の任意の粒状物質の清澄度、色、および存在を観察するために明るい光のもとで液体を視覚的に特徴付けすることにより評価される外観;(2)pHメーターによって定量されるpH;(3)吸光係数0.395mg-1 mL cm-1を用いる280nmでのUV解析によって定量されるタンパク質総含有量;(4)タンパク質含有物の純度、具体的には、SE-HPLC、RP-HPLC、およびIEX-HPLCによって評価される、試料中の完全長SapCの比率(%)ならびにSapC分解産物の存在(および濃度)。SE-HPLC、RP-HPLC、およびIEX-HPLCは、それぞれ、大きさ、疎水性、および電荷変異体に基づいて分析物を分離するクロマトグラフィー法である。
【0051】
(表4)組成物の一覧
【0052】
結果
試料の視覚的外観を表5に要約する。t= 0日の時点で、183-001-01-095-F2、183-001-01-095-F4、183-001-01-095-F5、183-001-01-095-F6、および183-001-01-095-F7では、目に見える粒子がなかったのに対し、183-001-01-095-F1、183-001-01-095-F3、183-001-01-095-F8、183-001-01-095-F9、183-001-01-095-F10、183-001-01-095-F11、および183-001-01-095-F12では、大部分は清澄であり、数個の粒子が存在した。60℃で10日間のインキュベーション後、どの試料にも数個の粒子が存在し、リン酸緩衝化された183-001-01-095-F5、183-001-01-095-F6、および183-001-01-095-F8は、「長い」粒子を有していた。さらに、ヒスチジンおよびリン酸を含む一部の試料、具体的には183-001-01-095-F3、183-001-01-095-F4、183-001-01-095-F7、および183-001-01-095-F8は、淡黄色の色合いを呈した。
【0053】
(表5)t=0日およびt=10日後の各組成物の外観
【0054】
各試料のpHを表6に示す。リン酸によって緩衝化した試料(183-001-01-095-F5、183-001-01-095-F6、183-001-01-095-F7、183-001-01-095-F8)は、どちらの時点でも、目標pHである6.8よりも塩基性のpHに移っていた。注目すべきことには、10mMリン酸によって緩衝化した試料(183-001-01-095-F5および183-001-01-095-F7)のpHは、50mMリン酸(183-001-01-095-F6および183-001-01-095-F8)を用いて緩衝化した試料よりも、大きく移動した。ヒスチジン(183-001-01-095-F1、183-001-01-095-F2、183-001-01-095-F3、および183-001-01-095-F4)またはTris(183-001-01-095-F9、183-001-01-095-F10、183-001-01-095-F11、および183-001-01-095-F12)を用いて緩衝化した試料はすべて、最初のpH値を0.1pH単位の範囲内に維持した。
【0055】
(表6)t=0日およびt=10日後の各試料のpH
【0056】
各試料中のタンパク質の総含有量を表7に示す。t=0の時点では、すべての試料が、目標値である2mg/mLまたは5mg/mLのいずれかに近いタンパク質濃度を示した。しかし、t=10日の時点では、試料の大多数が、タンパク質濃度の上昇を示していた。これらの数値上昇は、試料中の大型粒子の増加に起因するスペクトル散乱の結果である可能性が高い。散乱の増加を定量するために、各試料について光学濃度スキャン(200~400nm)を測定して、保存時の散乱増加の程度を評価した。図4は、各試料について、顕著な吸光シグナルを含まない波長である310nmでの光学濃度の値を示すグラフである(試料183-001-01-095-F11は解析しなかったことに留意されたい)。pH6のヒスチジンによって緩衝化した試料(183-001-01-095-F1、183-001-01-095-F2、183-001-01-095-F3、および183-001-01-095-F4)ならびにpH6.8のリン酸によって緩衝化した試料(183-001-01-095-F5、183-001-01-095-F6、183-001-01-095-F7、および183-001-01-095-F8)は、10日後に、散乱の増加を示した。注目すべきことには、pH7.6のTrisによって緩衝化した試料183-001-01-095-F9、183-001-01-095-F10、および183-001-01-095-F12は、10日後に散乱の増加を示したが最小限であった。
【0057】
(表7)t=0日およびt=10日後の組成物中のタンパク質の総含有量(mg/mL)
【0058】
試料中のSapCの純度を、SE-HPLC、RP-HPLC、およびIEX-HPLCによって推定した。試料中のSapCの純度は、完全長SapCを含む溶離ピークにおいて検出されるタンパク質含有量の比率(%)として定量した。図5は、t=0および60℃で10日経過後のSapC純度のSE-HPLC測定値を示すグラフである。どの試料も、SE-HPLCによって検出した場合、10日後に、95%を超えるSapC純度を示していた。注目すべきことには、OD 310nmにおいて散乱の増加を示した、pH6のヒスチジンによって緩衝化した試料(183-001-01-095-F1、183-001-01-095-F2、183-001-01-095-F3、および183-001-01-095-F4)ならびにpH6.8のリン酸によって緩衝化した試料(183-001-01-095-F5、183-001-01-095-F6、183-001-01-095-F7、および183-001-01-095-F8)は、分子量がより大きな種(すなわち凝集体)を含むことが予想されたが、これらの試料において、そのような化学種はSE-HPLCによって観察されなかった。想定されるこれらの凝集体が大きすぎてカラムを通過できなかったならば、(クロマトグラフの面積に基づく)タンパク質の見かけの濃度は低下したはずである。このこともまた観察されず、SapCメインピークの回収率は、これらの試料において、10日後でさえ高かった。特定の理論に拘泥するものではないが、これらの結果を説明し得る可能性のある説として出願人が注目しているのは、F1~F8において観察される粒状物質がSapCもしくはSapC断片を含まないか、または無視できる量のSapCもしくはSapC断片を含むとするものである。
【0059】
図6は、t=0および60℃で10日経過後のSapC純度のRP-HPLC測定値を示すグラフである。RP-HPLCによって測定した際、いずれの試料も、10日経過後にSapC純度の低下をいくらか示していた。pH6.8のリン酸によって緩衝化した試料(183-001-01-095-F5、183-001-01-095-F6、183-001-01-095-F7、および183-001-01-095-F8)は、SapC純度の最大級の低下を示した。
【0060】
図7は、t=0および60℃で10日経過後のSapC純度のIEX-HPLC測定値を示すグラフである。IEX-HPLCによって測定した際、いずれの試料も、10日経過後にSapC純度の低下をいくらか示していた。RP-HPLCを用いて測定を行った場合に当てはまったように(上記を参照されたい)、pH6.8のリン酸によって緩衝化した試料(183-001-01-095-F5、183-001-01-095-F6、183-001-01-095-F7、および183-001-01-095-F8)は、SapC純度の最大級の低下を示した。
【0061】
要約すれば、これらのデータから、pH7.6のTrisを含む試料の方が、pH6のヒスチジンまたはpH6.8のリン酸を含む試料と比べて、高い安定性および純度を示したことが示される。
【0062】
実施例3 60℃に曝露されたSapCを含む組成物の安定性および純度に、選択濃度のpH6.2のクエン酸がどのように影響を与えるかの測定
SapCを含む組成物の安定性および純度にクエン酸がどのように影響を与えるかを測定するために、pH6.2のクエン酸に溶かした様々なSapC組成物を調製し、60℃で保存し、外観、pH、タンパク質含有量、およびクロマトグラフィー法に基づいて解析した。
【0063】
方法
表8に挙げた組成物の試料をt=0(調製直後)および60℃で10日間の保存後(t=10日)の時点に採取し、次いで凍結し、解析時まで-70℃で保存した。凍結した組成物を解凍して室温に戻し、以下の特性、すなわち視覚的外観、pH、タンパク質の総含有量、およびタンパク質内容物の純度を、実施例2で説明したようにして分析した。
【0064】
(表8)クエン酸を含む組成物
【0065】
結果
各試料の視覚的外観およびpHを表9に示す。これらの試料はすべて、どちらの時点でも、清澄かつ無色の液体であった。いずれの試料のpHも、60℃で10日経過後に、初期pH値から0.2pH単位の範囲内で維持されていたが、いずれの試料の初期pHも、目標のpH6.2よりも塩基性であった。
【0066】
(表9)t=0日およびt=10日後の各試料の視覚的外観およびpH
【0067】
図8は、表8の各組成物について、t=0および60℃で10日経過後に310nmで分析した場合の光学濃度を示すグラフである。どの組成物も、10日経過後に310nmでの光学濃度の有意な上昇を示していなかった。
【0068】
図9は、t=0および60℃で10日経過後の表8の組成物についてのSapC純度のRP-HPLC測定値を示すグラフである。この測定では、いずれの組成物も、10日経過後にSapC純度の低下を示していた。
【0069】
図10は、t=0および60℃で10日経過後の表8の組成物についてのSapC純度のSE-HPLC測定値を示すグラフである。いずれの組成物も、10日経過後にSapC純度の著しい変化を示していなかった。
【0070】
図11は、t=0および60℃で10日経過後の表8の組成物についてのSapC純度のIEX-HPLC測定値を示すグラフである。この測定では、いずれの試料も、10日経過後にSapC純度の低下を示していた。
【0071】
要約すれば、これらのデータから、2mg/mL SapCまたは5mg/mL SapCのいずれかおよび目標pHがpH6.2(実際のpHは最高で6.64)の10mMクエン酸または50mMクエン酸のいずれかを含む試料が、60℃で10日間の間、同様の安全性および純度を示したことが示される。このデータおよび先の実施例のデータに基づいて、SapCを含む組成物のための有望な緩衝剤には、限定されるわけではないが、おおよそのpHが6.2のクエン酸およびおおよそのpHが7.6のTrisが含まれる。
【0072】
実施例4 機械的ストレスまたは熱ストレスのいずれかに曝露された後の、SapCおよびpH7.2の25mM Trisを含む組成物の安定性の測定
機械的ストレスまたは熱ストレスに曝露された後の、SapCおよびpH7.2の25mM Trisを含む組成物の安定性を定量するために、これらの組成物を機械的ストレスまたは熱ストレスに曝露し、視覚的外観、pH、およびタンパク質の総含有量に基づいて解析した。
【0073】
方法
5mg/mL SapC、pH7.1~7.2の25mM Trisを含む組成物183-001-01-220-F1を調製し、その試料を、凍結-解凍ストレスまたは撹拌ストレスのいずれかに曝露した。各試料について、以下の特性、すなわち視覚的外観、pH、およびタンパク質の総含有量を、実施例2で説明したようにして分析した。
【0074】
凍結解凍ストレスの試験のために、試料を5mL容PETGバイアル中に1.3mLずつ分け、5回の凍結解凍サイクルに供した。各サイクルのために、バイアルを-70℃で凍結し、解凍して室温に戻した。各解凍後に、約5回そっと逆さまにすることによって各バイアルの内容物を混合した後、次のサイクルのために-70℃に戻した。
【0075】
撹拌ストレスの試験のために、試料を8本のPETGバイアル中に1.3mLずつ分けた。これらのバイアルのうちの4本を、オービタルシェーカー(Thermo Scientific、モデル番号2309)を用いて、周囲温度、220RPMで15または24時間撹拌した。並行して、残りの4本のバイアルをベンチトップのシェーカー近くに置き、静止対照とした。15時間後および24時間後に、試験群の2本のバイアルおよび対照群の2本のバイアルを解析した。
【0076】
結果
これらの試料はすべて、清澄かつ無色の液体であった(データ不掲載)。
【0077】
各試料のpHを図12に示す。いずれの試料のpHも、初期pH値から0.1pH単位の範囲内で維持されていた。
【0078】
各試料中のタンパク質の総含有量を図13に示す。ストレスを受けた試料すべてにおいて、タンパク質含有量は、t=0時点のストレスを受けていない試料におけるタンパク質の総含有量との差が3%以内であった。
【0079】
要約すれば、SapCおよびpH7.1の25mM Tris(実際のpHは、t=0の時点で7.1であった;目標pHは7.2であった)を含む試験された組成物は、視覚的外観、pH、およびタンパク質の総含有量に基づいて評価したところ、機械的ストレスまたは熱ストレスへの曝露後、安定性を示した。
【0080】
実施例5 SapCおよびジオレオイルホスファチジルセリン(DOPS)を含む組成物の安定性および純度に、様々な濃度のt-ブタノール(TBA)がどのように影響を与えるかの測定
t-ブタノール(またはt-ブチルアルコール;TBA)を有機溶媒として使用してDOPSを溶解してから、DOPSを様々なSapC組成物に混ぜた。SapCを含む組成物の安定性および純度に様々な濃度のTBAがどのように影響を与えるかを測定するために、表10に挙げた濃度のTBAを含む組成物を調製し、ろ過し、視覚的外観、タンパク質の総含有量、およびDOPS含有量について解析した。
【0081】
方法
表10に挙げた組成物を調製し、0.2ミクロンフィルターに通す標準的な滅菌ろ過の前および後に評価した。比率はすべてw/wである。視覚的外観および各組成物中のタンパク質の総含有量を、実施例2で説明したようにして分析した。各組成物中のDOPS総含有量をHPLC-ELSDによって分析した。
【0082】
(表10)TBAを含む組成物
【0083】
結果
各試料の視覚的外観を表10に説明する。これらの試料はすべて、ろ過の前でも後でも、清澄かつ無色の液体であった。
【0084】
(表11)ろ過の前および後の各試料の視覚的外観
【0085】
各試料のタンパク質の総含有量を表12に示す。どの試料も、ろ過の前と後とでタンパク質含有量の有意な変化を示さなかった。
【0086】
(表12)ろ過の前および後の各組成物中のタンパク質の総含有量(mg/mL)
【0087】
各試料中のDOPSの総含有量を表13に示す。これらの組成物は、ろ過の前と後とでDOPS含有量の有意な変化を示さなかった。
【0088】
(表13)ろ過の前および後の各組成物中のDOPSの総含有量(mg/mL)
【0089】
要約すれば、これらのデータから、15~35%のTBAを含む試料は、ろ過前およびろ過後に、同様の視覚的外観、タンパク質含有量、およびDOPS含有量を示したことが示される。
【0090】
実施例6 SapCおよびDOPSを含む組成物の安定性および純度に、いくつかの賦形剤および緩衝剤がどのように影響を与えるかの測定
SapCを含む組成物の安定性および純度にいくつかの賦形剤および緩衝剤がどのように影響を与えるかを測定するために、表14に挙げた組成物を調製し、各組成物の安定性および純度を評価した。
【0091】
方法
表14に挙げた組成物を調製し、表15に説明する凍結乾燥手順に従って、1.2mlアリコートを凍結乾燥した。次いで、凍結乾燥した各試料をHyClone(商標)精製水1.2mLを用いて再調製し、凍結乾燥ケーキを完全に溶解させた。
【0092】
以下の特性、すなわち視覚的外観、タンパク質の総含有量、およびタンパク質内容物の純度を、実施例2で説明したようにして分析した。各凍結乾燥試料の含水率は、電量測定法によって測定した。各試料中のTBAの比率(%)は、GC-MSヘッドスペース法によって測定した。(試料中のTBAは、凍結乾燥工程の間に試料からTBAの大部分を昇華させた後に、DOPSのための溶媒として使用したTBAが残存していたものであった)。
【0093】
その後の実験では、各再調製組成物の試料を50℃で2週間または5週間保存し、実施例2で説明したようにして解析した視覚的外観およびタンパク質内容物の純度、RP-HPLCを用いて測定した純度、ならびに粒度分布に基づいて、安定性を評価した。t=0およびt=5週の時点の各再調製液体中の粒子の大きさを、Malvern製の装置を用いて動的光散乱法によって測定した。
【0094】
(表14)凍結乾燥および再調製のために調製した組成物
【0095】
(表15)凍結乾燥組成物を調製するために使用される凍結乾燥サイクル
【0096】
結果
各試料の視覚的外観を表16に要約する。9%スクロースを含む試料はどれも、再調製するとt=0の時点で粒子を示したのに対し、トレハロースを含む試料はどれも、粒子を含まなかった。これは、注射用組成物にとって考慮すべき重要な事柄である。
【0097】
(表16)凍結乾燥ケーキおよびt=0の再調製液体の視覚的外観
【0098】
各再調製組成物のタンパク質の総含有量を表17に示す。
【0099】
(表17)RP-HPLCによって評価した、t=0における各再調製組成物中のタンパク質の総含有量(mg/mL)
【0100】
t=0における各再調製組成物中のSapCの純度を表18に示す。
【0101】
(表18)RP-HPLCおよびIEX-HPLCによって評価した、t=0における各組成物中のSapCの純度
【0102】
各再調製組成物中のTBAの比率(%)を表19に示す。9%スクロースを含む再調製組成物(F1、F4、およびF7)はどれも、試験した他の組成物と比べて、高レベルの残存TBAを含んでいた。
【0103】
(表19)t=0における、各再調製組成物中のTBA比率(%)
【0104】
(表20)各凍結乾燥組成物の含水率
【0105】
図14は、t=0および50℃で2週間保存後の、再調製組成物におけるSapC純度および回収率(%)のRP-HPLC測定値を示すグラフである。50℃で2週間経過後のSapCの純度は、pH6.5のヒスチジンで緩衝化した試料すべて(76114-F7、76114-F8、および76114-F9)、ならびに(pH7.2のTrisで緩衝化した)76114-F6試料において、90%より高い値のままであった。他の試料はすべて、50℃で2週間経過後に、85%未満のSapC純度を示した。
【0106】
9%スクロースを含む試料の場合の凍結乾燥物質(76114-F1、76114-F4、76114-F7)は、50℃で2週間経過後に融解した(データ不掲載)のに対し、他の凍結乾燥試料は、50℃で2週間経過後に視覚的外観の顕著な変化を示さなかった。
【0107】
図15は、t=0(A)および50℃で5週間経過後(B)の試料76114-F5を対象とする動的光散乱の結果を示すグラフである。図16は、t=0(A)および50℃で5週間経過後(B)の試料76114-F6を対象とする動的光散乱の結果を示すグラフである。9%トレハロースを含む組成物(F2、F5、F8)は、試験した他のすべての組成物と比べて、動的光散乱による体積基準の粒径分布が最も均一で再現可能であった。
【0108】
要約すると、これらのデータから、スクロースならびにマンニトールおよびスクロースの混合物と比べて、トレハロースが、好ましい糖賦形剤であることが示唆される。このことは、マンニトール/スクロース混合物を含む組成物が、試験したすべての組成物のうちで最も低いTBA比率(%)を示したということに反している。さらに、これらのデータから、SapCおよびDOPSを含む組成物が、pH8の10mM Trisと比べて、pH6.5またはpH7.2の10mM Trisに加えた方が安定であることも示される。
【0109】
実施例7 SapCおよびDOPSを含む組成物の安定性および純度に、選択濃度のSapCおよびDOPS(SapCとDOPSとのモル比は一定)がどのように影響を与えるかの測定
様々な濃度のSapCおよびDOPSが組成物の安定性および純度にどのように影響を与えるかを測定するために、表21に挙げた組成物を調製し、各組成物の安定性および純度を評価した。
【0110】
方法
表21に挙げた組成物を調製し、実施例6で説明した凍結乾燥方法に従って、1.2mlアリコートを凍結乾燥した。次いで、凍結乾燥した各試料をHyClone(商標)水1.2mLを用いて再調製し、凍結乾燥ケーキを完全に溶解させた。t=0における各再調製試料中の粒子の大きさを、Malvern製の装置を用いて動的光散乱法によって測定した。
【0111】
(表21)凍結乾燥前の組成物
【0112】
結果
図17は、t=0の各再調製試料を対象とする動的光散乱の結果を示すグラフである。図18は、各再調製試料を対象とする動的光散乱の経時変化を示すグラフである。SapC濃度が最も高い、すなわち4.2mg/mLである組成物は、2.2mg/mLまたはそれより低い濃度のSapCを有する組成物と比べて、大きな平均粒径を示した。いずれの再調製組成物も、4時間という期間にわたって一貫した平均粒径を維持したことから、安定な再調製製品であることが示唆された。これらの結果から、好ましいSapC濃度が2.2mg/mL SapC以下であり、SapCとDOPSとのモル比が1:12であることが示唆される。
【0113】
実施例8 DOPSを含む組成物の安定性に、様々な濃度のマンニトールおよびトレハロースがどのように影響を与えるかの測定
DOPSを含む組成物の安定性および純度に、様々な濃度のマンニトールおよびトレハロースがどのように影響を与えるかを測定するために、表22および23に説明した組成物を調製し、凍結乾燥し、水に溶かして再調製した。
【0114】
方法
表22に挙げた組成物を調製し、実施例6で説明した凍結乾燥工程に従って、2ml容バイアル中の0.8mlアリコートまたは10ml容バイアル中の4mlアリコートを凍結乾燥した。各バイアルの凍結乾燥試料をHyClone(商標)水を用いて再調製し、凍結乾燥ケーキを完全に溶解させた。凍結乾燥ケーキの視覚的外観および各再調製試料中のTBAの比率(%)を、実施例6で説明したようにして分析した。
【0115】
(表22)凍結乾燥前の組成物
【0116】
表23に挙げた組成物を調製し、実施例6で説明した凍結乾燥工程を1箇所修正、すなわち一次乾燥温度を-40℃で保つ代わりに-45℃で保った工程に従って、凍結した。凍結乾燥した各試料をHyClone(商標)水1.2mLを用いて再調製し、凍結乾燥ケーキを完全に溶解させた。以下の特性、すなわち凍結乾燥ケーキの視覚的外観、各再調製試料中のTBA比率(%)、および各再調製試料中の粒径分布を、実施例6で説明したようにして分析した。
【0117】
(表23)修正した凍結乾燥工程において使用した、凍結乾燥前の組成物
【0118】
結果
表24および表25は、ケーキが形成したか否か、およびケーキが形成した場合にはそのケーキの完全性および質を含む、凍結乾燥組成物の定性的観察結果を含む。
【0119】
(表24)表22の組成物から得られた凍結乾燥ケーキの外観
【0120】
(表25)表23の組成物から得られた凍結乾燥ケーキの外観
【0121】
図19は、表22の組成物の各再調製試料中のTBA比率(%)を示すグラフである。
【0122】
図20は、表23の組成物の各再調製試料中のTBA比率(%)を示すグラフである。
【0123】
図21は、表23の組成物について再調製液体の3つのレプリケートの粒径分布を示すグラフである。パネルAは、183-001-01-114-F1のデータを示し、パネルBは、183-001-01-114-F4のデータを示し、パネルCは、183-001-01-114-F5のデータを示し、パネルDは、183-001-01-114-F6のデータを示す。表22の組成物の一部、すなわち 81494-F7、81494-F8、81494-F9、81494-F10、81494-F11、および81494-F12は、高品質の凍結乾燥ケーキを形成した。水に溶かして再調製した場合、これら6種の組成物すべてが、3%未満のTBAを含んでいた。再調製した81494-F9組成物および81494-F10組成物が、最も低い比率のTBAを含み、0.5%未満であった。これらのデータから、組成物81494-F7、81494-F8、81494-F9、81494-F10、および81494-F11の構成成分が、凍結乾燥ケーキと再調製溶液の両方に、有益な特性を与え得ることが示される。
【0124】
凍結乾燥ケーキの質および完全性は、修正した凍結乾燥工程を用いて調製した組成物(表23の組成物)すべてにおいて高く、これらの組成物はすべて、再調製した場合、TBAレベルが0.5%未満であった。これらの結果は、再調製した組成物において高比率(%)のマンニトールと低レベルのTBAが相関関係にあることを示したこれまでの実験を裏付けるものである。しかし、マンニトールを含む組成物は、唯一の糖賦形剤としてトレハロースを含む組成物の場合に観察されたような均一かつ再現可能な粒径分布を示さない。したがって、トレハロースが、SapCおよびDOPSを含む組成物にとって好ましい糖賦形剤である。
【0125】
実施例9 SapCおよびDOPSを含む組成物の安定性および純度に様々な組成物がどのように影響を与えるかの測定
これまでの実施例の結果に基づき、SapC-DOPS医薬品のために好ましい組成物は、2.2mg/mL SapC、2.4mg/mL DOPS(SapC:DOPSのモル比は1:12)、25mM Tris pH7.2、5%トレハロースであると定めた。SapCおよびDOPSを含む組成物の安定性および純度に、構成成分のpHおよび濃度の変動がどのように影響を与えるかを測定するために、表26に挙げた組成物を調製し、評価した。
【0126】
方法
表26に挙げた組成物を調製した。4mlアリコートをバイアルに入れ、実施例6で説明した凍結乾燥工程を1箇所修正、すなわち二次乾燥時間を15時間の代わりに25時間にした工程に従って、凍結乾燥した。凍結乾燥ケーキを50℃で4週間保存(または25℃で2週間もしくは4週間保存)した後、解析し、HyClone(商標)水1.2mLを用いて再調製した。以下の特性、すなわち視覚的外観、pH、タンパク質の総含有量、および再調製試料中のタンパク質内容物の純度を、実施例2で説明したようにして分析した。以下の特性、すなわち凍結乾燥ケーキの視覚的外観、再調製試料中のTBA比率(%)、および各再調製試料中の粒径分布を、実施例6で説明したようにして分析した。
【0127】
(表26)組成物、凍結乾燥前
【0128】
結果
表27は、50℃で4週間保存した凍結乾燥組成物の定性的観察結果および保存した凍結乾燥組成物から調製し、次いで直ちに解析した再調製組成物の定性的観察結果を含む。各再調製試料のpHを表28に示し、TBA比率(%)を表29に示している。
【0129】
(表27)50℃で4週間保存した凍結乾燥ケーキの外観、および保存したケーキから調製した再調製液体の外観
【0130】
(表28)凍結乾燥試料を4週間保存した後に調製した各再調製組成物のpH
【0131】
(表29)凍結乾燥試料を4週間保存した後に調製した各再調製組成物中のTBA比率(%)
【0132】
図22は、25℃で2週間または4週間保存した凍結乾燥粉末から調製した各再調製組成物におけるSapC純度のRP-HPLC測定値を示すグラフである。図23は、25℃で2週間または4週間保存した凍結乾燥粉末から調製した各再調製組成物におけるSapC純度のIEX-HPLC測定値を示すグラフである。
【0133】
図24は、25℃で2週間または4週間保存した凍結乾燥粉末から調製した各再調製組成物における平均粒径の推移を示すグラフである。
【0134】
表26の組成物に関する上記のデータは、以下を示す:
(1)どの組成物の凍結乾燥ケーキも、希釈剤添加のほぼ直後に再調製された;
(2)いずれの凍結乾燥組成物の外観も、50℃で4週間保存後に、変わっていなかった;
(3)再調製した製品の外観から、2.2mg/mL SapC、SapC:DOPSモル比が1:12になる量のDOPS、25mM Tris pH7.2、および5%トレハロースを含む組成物(好ましい組成物)が、許容される程度に濁りが少ないことが示された;
(4)50℃で2週間または4週間保管されたすべての再調製組成物において、pHは安定なままであった;
(5)トレハロースの比率(%)が低い再調製組成物では、TBA比率(%)が低かった;
(6)再調製後の好ましい組成物(n=3;F1、F6、およびF7)の平均残存TBAは1.8%であった;
(7)トレハロース比率(%)が高い組成物は、小さな平均粒径および組成を示した。
【0135】
実施例1~9で得られた全データに基づくと、8:1~20:1の範囲のモル比のホスファチジルセリン脂質とポリペプチド、Tris緩衝液、トレハロース、およびTBAを含む組成物が、臨床的組成物にとって好ましい物理的特性および化学的特性を与えた。
【0136】
実施例10 SapCおよびDOPSを含む組成物の活性の評価
サポシンCは、陰イオン性リン脂質(DOPS)の存在下で、酵素グルコセレブロシダーゼ(GBA)を活性化して、セレブロシドのセレミドおよびグルコースへの加水分解を触媒することが公知である。SapC-DOPS化合物のこの機能をインビトロで試験するために、組換えヒトGBA酵素(R&D Systems、カタログ番号:7410-GHB-020)を使用し、セレブロシドの代わりに4-メチルウンベリフェリル-β-D-グルコピラノシドまたは4-MUG(Sigma、カタログ番号:M3633)を基質として使用する。SapC-DOPSがrhGBAを活性化して4-MUGを切断し、蛍光シグナルを発する4-メチルウンベリエロン(4-MU)とグルコースとにする。
【0137】
下記の実施例において、陽性対照試料は、参照(REF)標準と比べて102%の相対的効力を有することが判明した。(このアッセイ法の条件にかなう結果は、70~160%の相対的効力である)。特異性(SPEC)試料も試験したところ、SapCが何らかの方法で損傷している場合には活性の低下を示した。SPEC試料は、70℃で48時間処理され、次いでDOPSと混合されたSapCを含んだ。曲線が異なると考えられるため、SPEC試料の相対的効力を決定することはできなかった。しかし、SPEC試料の最適曲線の最大値は、REF試料の最適曲線の最大値の79%であった。特異性についての条件にかなう結果は、90%未満である。さらに、このアッセイ法の不可欠な構成成分の全部ではないが一部の様々な組合せを含む対照も利用した。これらのうちで注目すべきは、次のものである:SapC-DOPSは用いず、酵素および基質(GBA+4MU);SapCは用いず、酵素および基質ならびにDOPS(DOPSのみ);ならびにDOPSは用いず、酵素および基質ならびにSapC(SapCのみ)。これらの対照のどれも、有意な蛍光シグナルを生じなかったことから、酵素を活性化して基質を切断するためにSapCおよびDOPSの両方が必要とされることが示される。
【0138】
図25は、SapC-DOPSの活性を試験するGBA酵素アッセイ法の結果を示すグラフである。
【0139】
実施例11 SapCおよびDOPSを含む薬学的組成物を用いる治療のプロトコール
進行した固形腫瘍または再発性高悪性度神経膠腫(HGG)に罹患した18歳以上の患者を、BXQ-350と名付けたSapC/DOPS組成物の非盲検用量漸増第1相臨床試験に登録した。(バイアルに入れた凍結乾燥粉末として供給される)凍結乾燥したBXQ-350製品を、無菌注射用水を用いて再調製して、2.2mg/ml(±0.3mg/ml)のヒトSapC、2.4mg/ml(±0.4mg/ml)のDOPSナトリウム塩、25mM(±2mM)、pH7.2(±0.4)のTris、5%w/v(±1%)のトレハロースを含む水溶液を作った。t-ブチルアルコールが存在する場合、2重量%未満である。
【0140】
用量漸増試験の後、2.4mg/kg体重のSapCを送達するBXQ-350用量を、後続の試験のために選択した。投与プロトコールは、少なくとも1サイクルの治療を含む。例えば表30に説明するように、治療は、6サイクルの治療にわたって、または疾患が進行するまで継続してよい。BXQ-350は、ガラス製バイアルに入れた凍結乾燥粉末として供給される。投与に先立って、4mLの無菌注射用水、USPをバイアルに添加することによって、固形の薬物産物をバイアル中で再調製して、バイアル中で強さ2.2mg/mL SapCの再調製薬物を得る。次いで、再調製した薬物産物を、IVバッグ中の滅菌済み0.9%生理食塩水に溶かして、IV投与用の目的濃度まで希釈する。各用量を、約45分±15分の期間にわたってIV輸注によって投与する。
【0141】
(表30)投与計画
【0142】
図26は、第1a相の患者背景および有害事象を投薬群別に示す表である。治療に関係のある重篤有害事象は報告されなかった。
【0143】
前臨床PK/TKを相対成長的に換算して、治療用量0.7~2.4mg/kgにおけるヒトPKおよび曝露(曲線下面積(AUC))を予測した。ファースト・イン・ヒューマン(FIH)試験によって得られた(用量0.7~2.4mg/kgにおける)ヒトクリアランス、終末相分布容積(Vz)、半減期、およびAUCを以下にまとめて示す:クリアランス(Cl) 57~76mL/kg/hr、Vz 314~509mL/kg、および半減期3.5~5時間。対応するAUCは、10,020hr*ng/mLから42,330hr*ng/mLまでの範囲にわたった。典型的には、用量が4~16mg/kgであり、対応するAUCが7,400~29,600hr*ng/mLである場合に、マウスモデルにおいて有効性が認められた。マウスのデータに基づくと、FIH曝露は、所望の曝露範囲に収まる。図27A~Cは、第1相試験の1日目(図27A)、4日目(図27B)、および22日目(図27C)の薬物動態結果を示すグラフの3つのセットである。データは、片対数プロットして提示されている(各セットの上部)。薬物動態は、用量に比例していた。
【0144】
図29は、第1a相試験における患者の転帰を示すスイマープロットである。個々の対象のうちの一部について、下記の実施例12~14で考察する。
【0145】
実施例12 頭頂部退形成性上衣腫と診断された患者を治療するための、SapCおよびDOPSを含む薬学的組成物の使用
方法
上衣腫は、米国における成人脳腫瘍の約3%を占める珍しい原発性神経系腫瘍である。標準治療には、可及的外科的切除および放射線療法が含まれる。FDAに承認された薬物療法はない。
【0146】
前立腺癌の既往がある67歳白人男性が、2014年10月に左頭頂部退形成性上衣腫と診断された。この男性は、全摘出、続いて補助放射線療法を受けた。2017年4月の脳MRI再検査によって、局所的再発が示された。この男性にテモロゾミドを3サイクル与えたが、反応しなかった。2017年9月のBXQ-350試験にこの男性を登録した。登録時、米国東海岸癌臨床試験グループ(ECOG)パフォーマンスステータスは1であり、主な症状は、失語および右半身筋力低下であった。この患者に、サイクル1(BXQ-350 2.4mg/kg IV輸注 1~5日目、8日目、10日目、12日目、15日目、22日目)および追加の3サイクル(1×28日)を投与し、安全性、反応、修正された神経腫瘍学的評価(RANO)、およびECOGパフォーマンスステータスを死亡時まで追跡した。
【0147】
結果
ベースライン時、側頭部病変は6.4×3.2cmであり、頭蓋骨および頭皮に浸潤を伴っていた。2サイクル後、頭蓋内の増強要素の大きさが少し小さくなったことが報告された(RANOに基づくと、全般的に安定な病態)。この患者に合計4サイクルのBXQ-350を投与したところ、関係した有害事象も毒性も認められなかった。MRIにおいて体積の増大が認められたため、サイクル5は中止した。患者は、脳腫瘍の腫瘤効果が原因で、登録後6ヶ月目に死亡した。死後の組織学的検査および肉眼解剖学的検査により、軟骨様分化を伴う広範囲の脳腫瘍壊死、ならびに顕微鏡観察時の胸椎および腰椎における壊死性疾患の徴候が示された。剖検時に観察された脳腫瘍壊死は、治療に関係していると思われた。このことは、該当薬物が腫瘍細胞に対して毒性であったことを示唆する。
【0148】
図28A~Dは、死後の組織学的解析および肉眼解剖学的解析の結果を示す。左から右に、次のとおりである:(A)初期の外科的標本は、上衣分化および豊富な有糸分裂像の徴候をほとんど示さなかった;H&E、40倍。(B)剖検時の肉眼的脳検査では、広範囲の腫瘍壊死が示された;(C)腫瘍切片の顕微鏡検査では、壊死が示され、生存腫瘍はほとんど示されない(H&E、4倍、囲み部分は40倍);(D)剖検時、手術による欠損部および頭皮を介して腫瘍が拡大した部位に、広範囲の軟骨様分化が認められた。
【0149】
実施例13 高悪性度の神経膠腫と診断された患者を治療するための、SapCおよびDOPSを含む薬学的組成物の使用
高悪性度神経膠腫(HGG)の成人患者9名を、BXQ-350の安全性の調査を目的とする用量漸増試験に含めた。用量は、表30のプロトコールに従うサイクルで与え、範囲は0.7mg/kg~2.4mg/kgであった。HGG患者9名中8名が、一連のサイクルすべてを完了した後、投与を中止した(7名は進行が原因で、1名は自発的に中止)。
【0150】
6サイクルより多い(12ヶ月より長い)、0.7mg/kgから始まる用量を用いた治療を完了したGBM患者1名は、疾患の安定および病変サイズの縮小を示し、機能的神経障害の顕著な進行を示さなかった。HGG患者のうちの6名において、113日目の時点でRANO/RECISTが改善していた。
【0151】
実施例14 虫垂の腺癌と診断された患者を治療するための、SapCおよびDOPSを含む薬学的組成物の使用
局所的に進行した虫垂粘液性腺癌に罹患した62歳女性を、第1a相試験の一環として治療した。切除および術後の補助化学療法(FOLFOX)の後、2007年に卵巣を含む骨盤に再発が起こったため、腹式子宮全摘出術/両側卵管卵巣摘除術を含む減量手術を行い、続いてイリノテカンおよびセツキシマブを用いる全身療法を行った。2009年に再発したため、広範囲にわたる減量手術および腹腔内温熱灌流を行ったところ、完全寛解した。2016年の再発に対する治療を断った後、この女性は2017年7月にBXQ-350を開始した。第1相プロトコールに従って2.4mg/kg BXQ-350をIVによって投与すると、部分奏功が認められたことから、この患者は11サイクル完了後に第1b相試験の研究に留まり、BXQ-350に帰すことができる重篤有害事象はなかった。
【0152】
実施例15 直腸腺癌と診断された患者を治療するための、SapCおよびDOPSを含む薬学的組成物の使用
様々な固形腫瘍を有する成人患者を、BXQ-350の安全性の調査を目的とする用量漸増試験に含めた。用量は、表30のプロトコールに従うサイクルで与え、範囲は0.7mg/kg~2.4mg/kgであった。全患者が、中止前に少なくとも1サイクルを完了した。
【0153】
転移性(スターブIV)の直腸腺癌と診断された1名の患者は、1.8mg/kgから始まる用量を用いる12ヶ月を超える治療を完了し、疾患の安定を示した。12ヶ月を超える治療の後にフルロデオキシグルコース(F-18FDG)を利用してポジトロン放出断層撮影(PET)を行ったところ、腫瘍転移活性の有意な低下の徴候があった。図30Aおよび図30Bを参照されたい。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
図25
図26
図27A
図27B
図27C
図28
図29
図30
【配列表】
0007313091000001.app