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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-13
(45)【発行日】2023-07-24
(54)【発明の名称】繊維シートおよび複合膜
(51)【国際特許分類】
   D04H 1/4326 20120101AFI20230714BHJP
   D04H 1/728 20120101ALI20230714BHJP
   D01F 6/74 20060101ALI20230714BHJP
   H01M 8/10 20160101ALN20230714BHJP
   H01M 8/106 20160101ALN20230714BHJP
【FI】
D04H1/4326
D04H1/728
D01F6/74 A
D01F6/74 Z
H01M8/10 101
H01M8/106
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2018203654
(22)【出願日】2018-10-30
(65)【公開番号】P2020070505
(43)【公開日】2020-05-07
【審査請求日】2021-09-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000229542
【氏名又は名称】日本バイリーン株式会社
(72)【発明者】
【氏名】倉持 政宏
(72)【発明者】
【氏名】角前 洋介
(72)【発明者】
【氏名】若元 佑太
(72)【発明者】
【氏名】道畑 典子
【審査官】静野 朋季
(56)【参考文献】
【文献】特開昭62-250055(JP,A)
【文献】特開2012-238590(JP,A)
【文献】特開2015-028850(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D04H 1/00-18/04
D01F 1/00-6/96
D01F 9/00-9/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリベンゾイミダゾール樹脂およびポリイミド樹脂を含有した繊維を含んでなる、繊維シートを製造する方法であって、
前記ポリベンゾイミダゾール樹脂および前記ポリイミド樹脂の前駆体であるポリアミック酸を含有した紡糸液を紡糸し、
その後、紡糸された繊維を加熱することで、前記紡糸された繊維に含有されている前記ポリアミック酸を前記ポリイミド樹脂にする工程を備える、
繊維シートを製造する方法。
【請求項2】
請求項1に記載の繊維シートを製造する方法を用いて製造される繊維シートは、温度80℃のN-メチル-2-ピロリドン中に30分間浸漬した後における質量が、浸漬前の質量の90質量%以上である、
請求項1に記載の繊維シートを製造する方法。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の繊維シートを製造する方法を用いて製造された繊維シートを用意する工程、
前記繊維シートへ膜構成樹脂を付与する工程、
を備える、複合膜を製造する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリベンゾイミダゾール樹脂およびポリイミド樹脂を含有した繊維を含んでなる繊維シート、および、該繊維シートを含んでいる複合膜に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリベンゾイミダゾール樹脂は耐熱性に優れることが知られている。また、例えば400℃以上の高温で加熱処理したり架橋剤を添加することにより、耐溶剤性を向上できることが知られている。
そのため、ポリベンゾイミダゾール樹脂からなる繊維シートは、特開2014-234581号公報(特許文献1)にも例示されているように、水処理膜などの液体分離膜や気体分離膜、医療用材料、イオン交換膜や透析膜、レドックスフロー電池や燃料電池の高分子電解質膜などといった様々な産業用途に使用可能な膜の支持体として、あるいは、キャパシタや一次/二次電池などの電気化学素子用セパレータ、プリプレグ、気体フィルタや液体フィルタなどといった、様々な産業用途に使用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2014-234581号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本願出願人は、様々な産業用途に使用するにあたり、繊維シートには伸度に優れるという特性が必要であることを見出した。一例として、伸度に優れる複合膜を提供するためには、複合膜の支持体となる不織布にも伸度が求められることを見出した。
しかし、ポリベンゾイミダゾール樹脂からなる繊維シートは伸度に劣るものであり、様々な産業用途に使用するには限界があった。特に、伸度に優れる複合膜が求められている燃料電池の高分子電解質膜用途において、複合膜の支持体としてポリベンゾイミダゾール樹脂からなる繊維シートを使用するには限界があった。
本発明は、ポリベンゾイミダゾール樹脂を含有した繊維を含んでなる、伸度に優れた繊維シートの提供を第一の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、
「(請求項1)ポリベンゾイミダゾール樹脂およびポリイミド樹脂を含有した繊維を含んでなる、繊維シートを製造する方法であって、
前記ポリベンゾイミダゾール樹脂および前記ポリイミド樹脂の前駆体であるポリアミック酸を含有した紡糸液を紡糸し、
その後、紡糸された繊維を加熱することで、前記紡糸された繊維に含有されている前記ポリアミック酸を前記ポリイミド樹脂にする工程を備える、
繊維シートを製造する方法。
(請求項2)請求項1に記載の繊維シートを製造する方法を用いて製造される繊維シートは、温度80℃のN-メチル-2-ピロリドン中に30分間浸漬した後における質量が、浸漬前の質量の90質量%以上である、
請求項1に記載の繊維シートを製造する方法。
(請求項3)請求項1又は請求項2に記載の繊維シートを製造する方法を用いて製造された繊維シートを用意する工程、
前記繊維シートへ膜構成樹脂を付与する工程、
を備える、複合膜を製造する方法。」
である。
【発明の効果】
【0006】
本願出願人は検討の結果、ポリベンゾイミダゾール樹脂およびポリイミド樹脂を含有した繊維を含んでなる繊維シート(以降、繊維シートと称することがある)は、伸度に優れることを見出した。そのため、本発明によって、伸度が向上した繊維シートを提供できる。
また、本願出願人は検討の結果、ポリイミド樹脂の種類を選択することによって、伸度に優れると共に耐溶剤性に優れる繊維シートを提供できることを見出した。
そして、本発明にかかる繊維シートを用いることで、伸度に優れる複合膜を提供できる。更に、本発明にかかる耐溶剤性に優れる繊維シートを含んでいることにより、伸度に優れると共に耐溶剤性に優れる複合膜を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本発明では、例えば以下の構成など、各種構成を適宜選択できる。
本発明にかかる繊維シートは、ポリベンゾイミダゾール樹脂(以下、「PBI」と表記することがある)およびポリイミド樹脂(以下、「PI」と表記することがある)を含有した繊維を含んでいる。
【0008】
本発明でいうPBIは、下記式(I)または(II)で表される繰り返し単位の化学構造を骨格内に有する有機樹脂である。
【0009】
【化1】
【0010】
【化2】
【0011】
式(II)において、YはO及びSから選択される置換元素、又は炭素間結合(例えば、-O-、-CO-、-SO-などの二価の基)である。また、Y部分は上述した式(I)で表される繰り返し単位同士を結合する共有結合であってもよい。
また、Zは二価C1-C10アルカンジイル、二価C2-C10アルケンジイル、二価C6-C15アリール、二価C5-C15ヘテロアリール、二価C5-C15ヘテロシクリル、二価C6-C19アリールスルホン、及び二価C6-C19アリールエーテルからなる群より選択され、少なくとも1つの芳香環を有する2価の基が好ましい。例えば、下記式で表される基を持つ官能基が好ましい。
【0012】
【化3】
【0013】
PBIの分子量は上述した課題を解決できるのであれば、適宜選択することができるものである。また、PBIの固有粘度も適宜選択できるものであり、0.1~1.5であることができ、0.4~1.1であることができる。
【0014】
繊維シートの構成繊維に含有されている有機樹脂質量に占めるPBIの質量の百分率は、産業資材の用途や要求物性などによって適宜調整できるが、その質量百分率が多いほど耐熱性及び耐薬品性に優れる繊維シートを提供し易くなる。そのため、該質量百分率は1質量%以上であるのが好ましく、10質量%以上であるのが好ましく、30質量%以上であるのが好ましく、50質量%以上であるのが好ましく、70質量%以上であるのが好ましく、80質量%以上であるのが好ましい。上限値も適宜調整するものであるが、100質量%未満であり、90質量%以下であるのが好ましい。
【0015】
また、繊維シートの構成繊維に含有されているPBIの種類は、一種類であっても複数種類であってもよい。
【0016】
本発明でいうPIは、イミド結合を含む化学構造を骨格内に有する有機樹脂の総称である。PIの種類は本発明にかかる繊維シートを提供できるよう、適宜選択できるものであるが、例えば、芳香族PI、熱可塑性PI、熱硬化性PI、透明PIなどを採用することができる。特に、芳香族PI、熱硬化性PIなどは耐溶剤性に優れていることから、これらのPIを採用することで耐溶剤性に優れた繊維シートを提供でき好ましい。PIのガラス転移温度は200℃以上であることができ、300℃以上であることができ、400℃以上であることができる。特に柔軟性に優れた繊維シートを提供できることから、ガラス転移温度が250℃~350℃のPIであるのが好ましい。
【0017】
このような耐溶剤性に優れるPIを含有した繊維を含んでなる繊維シートは、例えば後述するように、PI前駆体であるポリアミック酸を含有した紡糸液を紡糸し、その後、紡糸された繊維を加熱する方法によって提供できる。
つまり、PIを溶媒に溶解してなる紡糸液を用いて調製された繊維シートは、紡糸液を構成する溶媒に可溶なPIを含有した繊維からなる繊維シートである。そのため、前記溶媒に対し溶解し易い繊維シートである。
一方、上述したポリアミック酸を加熱させPIにする方法を用いることで、紡糸液を構成する溶媒に対する溶解度がポリアミック酸とは異なるPIを含有した繊維からなる繊維シートを提供できる。また、参考文献(西崎俊一郎、不可三晃、工業化学雑誌、67、No.3、474(1964))によれば、ポリアミック酸は加熱されることによって分子内縮合して耐溶剤性に優れるPIになることが知られている。そのため、本製造方法によって、伸度に優れると共に耐溶剤性に優れる繊維シートを提供できる。
【0018】
なお、上述した繊維シートを加熱する温度は、伸度に優れると共に耐溶剤性に優れる繊維シートを提供できるよう適宜調整するが、100℃以上であることができ、200℃以上であるのが好ましく、300℃以上であるのが好ましい。また、温度の上限値も適宜調整するが、繊維シートの構成成分が意図せず変性するのを防止できるよう、500℃以下であるのが好ましく、450℃以下であるのが好ましく、430℃以下であるのが好ましい。
【0019】
繊維シートの構成繊維に含有されている有機樹脂質量に占めるPIの質量の百分率は、産業資材の用途や要求物性などによって適宜調整できるが、その質量百分率が多いほど伸度に優れる繊維シートを提供し易くなる。そのため、該質量百分率は1質量%以上であるのが好ましく、10質量%以上であるのが好ましく、30質量%以上であるのが好ましく、50質量%以上であるのが好ましく、70質量%以上であるのが好ましく、80質量%以上であるのが好ましい。上限値も適宜調整するものであるが、100質量%未満であり、90質量%以下であるのが好ましい。
【0020】
また、繊維シートの構成繊維に含有されているPIの種類は、一種類であっても複数種類であってもよい。
【0021】
繊維シートの構成繊維に占めるPBIとPIの比率は、産業資材の用途や要求物性などに合わせ、耐熱性や伸度あるいは耐薬品性に優れる繊維シートを提供できるよう適宜調整する。該質量比率は、例えば、PBI質量:PI質量=1質量%:99質量%~99質量%:1質量%の範囲となるよう調整できるものであり、10質量%:90質量%~90質量%:10質量%の範囲となるよう調整できるものであり、30質量%:70質量%~70質量%:30質量%の範囲となるよう調整できる。
【0022】
本発明にかかる繊維は、PBIおよびPIを含有するものであるが、他の樹脂や添加剤を含有してもよい。
他の樹脂として、例えば、ポリオレフィン系樹脂(ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン、炭化水素の一部をシアノ基またはフッ素或いは塩素といったハロゲンで置換した構造のポリオレフィン系樹脂など)、スチレン系樹脂、ポリエーテル系樹脂(ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリエーテルエーテルケトン、ポリアセタール、変性ポリフェニレンエーテル、芳香族ポリエーテルケトンなど)、フェノール系樹脂、メラミン系樹脂、ユリア系樹脂、エポキシ系樹脂、ポリエステル系樹脂(ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリ乳酸、全芳香族ポリエステル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂など)、ポリアミドイミド樹脂、ポリアミド系樹脂(例えば、アラミド樹脂などの芳香族ポリアミド樹脂、芳香族ポリエーテルアミド樹脂、ナイロン樹脂など)、ウレタン系樹脂、フッ素系樹脂(ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、パーフルオロスルホン酸樹脂など)、多糖類(デンプン、セルロース系樹脂、プルラン、アルギン酸、ヒアルロン酸など)、たんぱく質類(ゼラチン、コラーゲンなど)、ビニルアルコール系樹脂(ポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニルなど)、ポリカプロラクトン、ポリグリコール酸、ポリビニルピロリドン、アクリル系樹脂(例えば、アクリル酸エステルあるいはメタクリル酸エステルなどを共重合したポリアクリロニトリル系樹脂、アクリロニトリルと塩化ビニルまたは塩化ビニリデンを共重合したモダアクリル系樹脂など)など、公知の樹脂を挙げることができる。なお、他の樹脂の種類は複数種類であっても良く、これらの樹脂は、直鎖状ポリマーまたは分岐状ポリマーのいずれからなるものでも構わず、また樹脂がブロック共重合体やランダム共重合体でもよい。また、樹脂の立体構造や結晶性の有無がいかなるものでもよい。
【0023】
繊維シートの構成繊維は、産業資材の用途や要求物性などにより、必要に応じて添加剤を含有していても良い。添加剤の種類として、例えば、難燃剤、香料、顔料(無機顔料および/または有機系顔料)、抗菌剤、抗黴材、光触媒粒子、導電性粒子、乳化剤、分散剤、増粘剤、消泡剤、架橋剤、硬化促進剤などを挙げることができる。
【0024】
また、繊維シートは上述した他の樹脂からなる繊維を含んでいてもよい。繊維シートの構成繊維に占める、本発明にかかる繊維とそれ以外の繊維の質量比率は、産業資材の用途や要求物性などによって適宜調整できるものであるが、本発明の課題を効果的に解決できる繊維シートを提供できるよう、本発明にかかる繊維のみで構成された繊維シートであるのが好ましい。
【0025】
繊維シートに含まれている繊維の平均繊維径や、繊維シートに含まれている繊維の平均繊維長は、産業資材の用途や要求物性などによって適宜調整できる。
その平均繊維径が細いほど、分離性能、液体保持性能、払拭性能、隠蔽性能、絶縁性能、或いは柔軟性など、様々な性能に優れる繊維シートを提供できる。そのため、平均繊維径は3μm以下であるのが好ましく、2μm以下であるのが好ましく、1μm以下であるのが好ましく、800nm以下であるのが好ましい。なお、平均繊維径の下限値は適宜調整するものであるが、1nm以上であるのが現実的であり、100nm以上であるのが好ましい。ここでいう「平均繊維径」は、繊維を含む測定対象部分を撮影した5000倍の電子顕微鏡写真をもとに測定した、50点の繊維における各繊維径の算術平均値をいう。繊維の断面形状が非円形である場合には、断面積と同じ面積の円の直径を繊維径とみなす。
繊維長は適宜調整でき、具体的に、短繊維や長繊維あるいは連続長を有する繊維であることができる。特に、繊維シートにおける繊維端部の数が少なくなることで、表面が平滑となり広く産業資材の用途に採用できることから、繊維シートを構成する繊維は連続長を有する繊維を含んでいるのが好ましく、繊維シートを構成する繊維は連続長を有する繊維のみであるのが好ましい。
【0026】
本発明でいう繊維シートとは、上述した繊維を構成繊維として含んでなる、シート状の繊維構造体を指し、例えば、繊維ウェブや不織布、あるいは、織物や編物などであることができる。特に、表面積や空隙率が大きく柔軟性に優れるなどの諸特性に優れ、繊維がランダムに存在してなる構造であることによって、剛性や補強性などが効率良く発揮されることから、繊維シートは繊維ウェブや不織布であるのが最も好ましい。
繊維シートの目付や厚さなどは産業資材の用途や要求物性などによって適宜調整できる。その目付は0.1~20g/mであることができ、0.5~15g/mであることができ、1~10g/mであることができる。そして、その厚みは100μm以下であるのが好ましく、75μm以下であるのが好ましく、50μm以下であるのが好ましい。一方、厚みは1μm以上であるのが現実的である。なお、本発明において、目付とは測定対象物の主面における1mあたりに換算した質量をいい、厚みとは、シックネスゲージ((株)ミツトヨ製、コードNo.:547-401、測定力3.5N以下)を用いて測定した値を意味する。
【0027】
また、本発明の繊維シートに対し必要であれば、繊維交点を接着するためや添加剤を担持するため、バインダを付与してもよい。なお、バインダの組成やバインダの付与方法については、適宜調整できる。
【0028】
本発明にかかる繊維シートの強度や伸度は、産業資材の用途や要求物性などによって適宜調整できる。具体的には、強度は1MPa以上であることができ、2MPa以上であることができ、5MPa以上であることができる。強度の上限値は適宜調整するが、100MPa以下であるのが現実的である。また、伸度は20%より高く、30%以上であることができる。なお、伸度の上限値は適宜調整するが、100%以下であるのが現実的である。
なお、繊維シートの強度および伸度は、以下の測定方法へ繊維シートを供することで求めることができる。
【0029】
(強度の測定方法)
(1)測定対象のMD方向(生産方向)と長辺方向が平行を成すようにして、測定対象から長方形の試料(短辺:5mm、長辺:50mm)を採取した。なお、測定対象のMD方向が不明である場合には、測定対象の主面上における様々な方向から複数の試料を採取し後述する(2)~(3)の工程へ供した結果、測定された強度(MPa)の値が最大であった試料の長辺方向と平行をなす方向を、測定対象のMD方向とみなした。
(2)引張り試験機(サーチ株式会社製、卓上型引張試験機(型式:TSM-41-cre)を使用し、つかみ間隔20mm、引張り速度20mm/min.の条件で、試料が破断するまで試料を長辺方向へ引張った。
(3)試料が破断するまでに測定された最大応力を、測定対象の「強度(単位:MPa)」とした。
【0030】
(伸度の測定方法)
(1)測定対象を上述した(強度の測定方法)へ供し、試料が破断したときのつかみ間隔の長さを測定した。
(2)次の式から得られる値を測定対象の「伸度(単位:%)」とした。
L={(D-20)/20}×100
ここで、Lは伸度(単位:%)、Dは試料が破断した時のつかみ間隔の長さ(単位:mm)をそれぞれ意味する。
【0031】
更に、本発明にかかる繊維シートは、温度80℃のN-メチル-2-ピロリドン中に30分間浸漬した後における質量が、浸漬前の質量の90質量%以上であるのが好ましい。このような特性を有する繊維シートは、耐溶剤性に優れたものであることによって、より広く様々な産業用途に使用できる繊維シートである。
なお、繊維シートの耐溶剤性は、以下の方法へ繊維シートを供することで評価できる。
【0032】
(耐溶剤性の評価方法)
(1)測定対象から、一辺の長さが100mmの正方形状の試料を採取し、その質量(A、単位:g)を量った。
(2)温度80℃のN-メチル-2-ピロリドンを10ml用意した。
(3)10mlの温度80℃のN-メチル-2-ピロリドン中に、試料を30分間浸漬した。そして、N-メチル-2-ピロリドン中から試料を取り出し、取り出した試料からN-メチル-2-ピロリドンを除去した。
(4)N-メチル-2-ピロリドンを除去した後の試料の質量(B、単位:g)を量った。
(5)測定値を以下式へ代入し、算出された値を測定対象の「質量変化百分率(単位:質量%)」とした。
質量変化百分率=(B/A)×100
A:浸漬処理前の、試料の質量(単位:g)。
B:浸漬処理しN-メチル-2-ピロリドンを除去した後の、試料の質量(単位:g)。
(6)算出された質量変化百分率の値が90質量%以上であった場合、測定対象は耐溶剤性に優れると評価し、算出された質量変化百分率の値が90質量%未満であった場合、測定対象は耐溶剤性に劣ると評価した。
【0033】
次いで、本発明にかかる繊維シートの調製方法について、例示し説明する。なお、すでに説明した項目と構成を同じくする点については説明を省略する。
【0034】
繊維シートの調製方法は適宜選択できるが、例えば、静電紡糸法、特開2009-287138号公報に開示されているようなガスの作用により紡糸する方法、特開2011-32593号公報に開示されているような電界の作用に加えてガスの剪断力を作用させて紡糸する方法、遠心紡糸法などを用いることができる。そして、これらの調製方法を用いて紡糸液を細径化させるとともに繊維化して、例えばネットあるいはドラムやベルトコンベアなどの捕集体上に捕集することで、捕集体上に繊維ウェブを形成できる。
これらの中でも静電紡糸法や、特開2009-287138号公報に開示されているようなガスの剪断作用により紡糸する方法を用いることで、平均繊維径が3μm以下の極細繊維を紡糸しやすく、繊維径が揃っており、しかも連続長の極細繊維のみからなる繊維シートを調製しやすいため好適である。
【0035】
なお、
・PBIおよびPIを含有した紡糸液(有機樹脂溶液や有機樹脂が融解してなる液)を紡糸してなる繊維を含んだ繊維シートを調製しても、
・PBIおよび、PI前駆体(例えば、ポリアミック酸など)を含有した紡糸液(有機樹脂溶液や有機樹脂が融解してなる液)を紡糸してなる繊維シートを調製し、該繊維シートを加熱処理へ供するなどして、含有されているPI前駆体をPIにすることで繊維シートを調製してもよい。
【0036】
このようにして調製した繊維シートから残留している溶媒を除去するため、繊維シートを加熱処理へ供してもよい。加熱処理の種類は適宜選択でき、例えば、ロールにより加熱または加熱加圧する装置、オーブンドライヤー、遠赤外線ヒーター、乾熱乾燥機、熱風乾燥機、赤外線を照射し加熱できる装置などを用いた処理を採用できる。加熱装置による加熱温度は適宜選択するが、溶媒を揮発あるいは分解し揮発させ除去可能であると共に、構成繊維などの構成成分が意図せず分解や変性しない温度であるように適宜調整する。また、上述のようにして調製した繊維シートを、水などに浸漬することで、構成繊維中に残留している溶媒を溶出させることで除去してもよい。
【0037】
なお、PI前駆体(例えば、ポリアミック酸など)を含有した紡糸液を用いて繊維シートを調製した場合には、本加熱処理によって含有されているPI前駆体をPIにできる。加熱処理により繊維シートが加熱される温度は、繊維シートの意図しない変性の発生が防止されていると共に、PI前駆体をPIにできるよう適宜調整するが、100℃~500℃の範囲であることができ、150℃~450℃の範囲であることができ、180℃~430℃の範囲であることができる。
なお、上述の加熱処理によって、あるいは、架橋剤などの添加剤と反応させることで、PBIおよび/またはPIの耐熱性を向上させたり不溶化させるなどして、繊維の物性を向上させてもよい。
【0038】
更に、上述のようにして調製した繊維シートを、表面を平滑とするためカレンダー処理など加圧処理する工程へ供してもよい。
【0039】
調製した繊維シートはそのまま各種用途に使用してもよいが、膜構成樹脂中に繊維シートを含んでいる複合膜を調製する工程、あるいは、別の多孔体、フィルム、発泡体などの構成部材を積層して積層体を調製する工程、用途や使用態様に合わせて形状を打ち抜くなどして加工する工程などの各種二次工程を経て、様々な産業資材として使用してもよい。
【0040】
また、本発明にかかる繊維シートを用いることで、伸度に優れる複合膜を提供できる。更に、本発明にかかる耐溶剤性に優れる繊維シートを含んでいることにより、複合膜が伸度ならびに耐溶剤性に優れる材料により構成されていることで、伸度に優れると共に耐溶剤性に優れる複合膜を提供できる。
【実施例
【0041】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、これらは本発明の範囲を限定するものではない。
【0042】
(PBI紡糸液の用意)
ジメチルアセトアミドにPBIを溶解させ、固形分濃度が22質量%のPBI溶液を調製した。そして、調製したPBI溶液に酢酸アンモニウムを0.25質量%となるように添加し、PBI溶液に溶解させた。そして、酢酸アンモニウムを添加したPBI溶液を、孔径1μmのガラスフィルタへ供し濾過することで、PBI紡糸液を調製した。
【0043】
(PBI/ポリアミック酸紡糸液Aの用意)
最終的に調製された不織布の構成繊維に含有されているPBIとPIの質量比率が、表1の「質量比率」欄に記載されている比率となるように、上述のようにして調製したPBI紡糸液へポリアミック酸溶液A(ユニチカ株式会社製、製品名:Uイミド(登録商標)ワニス)を混合することで、質量比率が異なるPBI/ポリアミック酸紡糸液Aを各々調製した。
なお、使用したポリアミック酸溶液Aは、350℃以上の温度条件下に存在することによって、固形分質量の百分率が18質量%のポリイミドとなるものを使用した。つまり、例えば、100gのポリアミック酸溶液中に含有されているポリアミック酸を350℃以上の温度条件下へ供することによって、18gのポリイミドとなるポリアミック酸溶液を使用した。
【0044】
(PBI/ポリアミック酸紡糸液Bの用意)
最終的に調製された不織布の構成繊維に含有されているPBIとPIの質量比率が、表1の「質量比率」欄に記載されている比率となるように、上述のようにして調製したPBI紡糸液へポリアミック酸溶液B(宇部興産株式会社製、製品名:U-ワニス)を混合することで、PBI/ポリアミック酸紡糸液Bを調製した。
なお、使用したポリアミック酸溶液Bは、350℃以上の温度条件下に存在することによって、固形分質量の百分率が20質量%のポリイミドとなるものを使用した。つまり、例えば、100gのポリアミック酸溶液中に含有されているポリアミック酸を350℃以上の温度条件下へ供することによって、20gのポリイミドとなるポリアミック酸溶液を使用した。
【0045】
(PBI/ポリアミック酸紡糸液Cの用意)
最終的に調製された不織布の構成繊維に含有されているPBIとPIの質量比率が、表1の「質量比率」欄に記載されている比率となるように、上述のようにして調製したPBI紡糸液へポリアミック酸溶液C(三井化学株式会社製)を混合することで、PBI/ポリアミック酸紡糸液Cを調製した。
なお、使用したポリアミック酸溶液Cは、350℃以上の温度条件下に存在することによって、固形分質量の百分率が28質量%のポリイミドとなるものを使用した。つまり、例えば、100gのポリアミック酸溶液中に含有されているポリアミック酸を350℃以上の温度条件下へ供することによって、28gのポリイミドとなるポリアミック酸溶液を使用した。
【0046】
なお、ポリアミック酸溶液A~Cの各々に含有されている各ポリアミック酸は、互いに化学構造が異なるものである。そのため、各ポリアミック酸により調製されるポリイミドは、互いに化学構造が異なるものである。
【0047】
(PBI/PSU紡糸液の用意)
最終的に調製された不織布の構成繊維に含有されているPBIとポリスルホン樹脂(以下、「PSU」と表記することがある)の質量比率が、表1の「質量比率」欄に記載されている比率となるように、上述のようにして調製したPBI紡糸液へPSUを混合することで、PBI/PSU紡糸液を調製した。
【0048】
(紡糸方法)
内径が0.33mmの金属製のノズルに、アース処理されたパワーサプライを接続した。ノズル先端部の開口と対面するように、アース処理された捕集体(金属板)を設けた。この時、ノズル先端部と捕集体との最短距離が、4~8cmとなるように調整した。ノズルをパワーサプライにより8~15kVとなるように印加して、ノズルと捕集体の間に電界を形成した。
ノズルの開口から紡糸液を吐出量が0.7~1cc/時間となるようにして吐出させ、紡糸液を電界に導いて、紡糸液をノズル先端部の開口から捕集体へと飛翔させると共に細径化させ、繊維化して捕集体上に捕集し繊維ウェブを調製することを試みた。なお、本工程における紡糸環境は、温度25℃、湿度20%RHに調整した。
【0049】
(比較例1)
PBI紡糸液を用いて捕集体の主面上に、繊維ウェブを調製した。そして、調製した繊維ウェブを捕集体から剥がし、180℃で30分間加熱処理することで構成繊維中に残留している溶媒を揮発させて除去した後、400℃で30分加熱処理することでPBIを不溶化処理し、PBI不織布を調製した。
【0050】
(実施例1~7)
各種PBI/ポリアミック酸紡糸液A~Cを用いて捕集体の主面上に、繊維ウェブを各々調製した。そして、調製した繊維ウェブを各々捕集体から剥がし、180℃で30分間加熱処理することで構成繊維中に残留している溶媒を揮発させて除去した後、400℃で30分加熱処理することでPBIを不溶化処理すると共にポリアミック酸をPIにすることで、PBIおよびPIを含有した繊維のみで構成された不織布を調製した。
【0051】
(比較例2)
PBI/PSU紡糸液を用いて捕集体の主面上に、繊維ウェブを調製した。そして、調製した繊維ウェブを捕集体から剥がし、180℃で30分間加熱処理することで構成繊維中に残留している溶媒を揮発させて除去した後、400℃で30分加熱処理することでPBIを不溶化処理し、PBIおよびPSUを含有した繊維のみで構成された不織布を調製した。
【0052】
上述のようにして調製した、実施例および比較例の各不織布を以下の測定方法へ供した結果を表1にまとめた。なお、調製した不織布を(耐溶剤性の評価方法)へ供した結果、耐溶剤性に優れると評価されたものについては「耐溶剤性」の欄に○印を記載し、耐溶剤性に劣ると評価されたものについては「耐溶剤性」の欄に×印を記載した。
【0053】
【表1】
【0054】
以上の結果から、実施例の不織布は比較例1の不織布よりも、いずれも伸度に優れるものであった。また、実施例の不織布は比較例2の不織布(PIではない樹脂(PSU)を含有した繊維を含んでなる不織布)よりも、いずれも伸度に優れるものであった。
以上から、PBIを含有した繊維を含んでなる繊維シートにおいて、該繊維がPIを含有していることによって、繊維シートの伸度が向上することが判明した。そのため、本発明によって、伸度が向上した繊維シートを提供できる。
更に、実施例の不織布は、いずれも耐溶剤性に優れるものであった。そのため、本発明によって、伸度に優れると共に耐溶剤性に優れる繊維シートを提供できる。
【0055】
(比較例3)
比較例1で調製した不織布をガラス基板上に静置し、不織布の主面へNafion(登録商標)分散液(デュポン社製、DE2021CS)を塗布した。Nafion分散液を塗布した後の不織布を、加熱温度を80℃に調製した加熱機へ供することで分散液中の溶媒を除去した後、更に加熱温度を130℃に調製した加熱機へ供して、Nafion樹脂中に不織布を含んでいる複合膜を調製した。
【0056】
(実施例8)
実施例3で調製した不織布を用いたこと以外は、比較例3と同様にして、Nafion(登録商標)樹脂中に不織布を含んでいる複合膜を調製した。
【0057】
(実施例9)
実施例4で調製した不織布を用いたこと以外は、比較例3と同様にして、Nafion(登録商標)樹脂中に不織布を含んでいる複合膜を調製した。
【0058】
(実施例10)
実施例5で調製した不織布を用いたこと以外は、比較例3と同様にして、Nafion(登録商標)樹脂中に不織布を含んでいる複合膜を調製した。
【0059】
上述のようにして調製した、実施例および比較例の各複合膜の物性を表2にまとめた。
【0060】
【表2】
【0061】
以上の結果から、本発明にかかる繊維シートを用いることで、伸度に優れる複合膜を提供できた。また、本発明にかかる繊維シートは耐溶剤性に優れていたことから、伸度に優れると共に耐溶剤性に優れる複合膜を提供できた。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明の繊維シートは、様々な産業用途(例えば、水処理膜などの液体分離膜や気体分離膜、医療用材料、イオン交換膜や透析膜、燃料電池の高分子電解質膜などといった様々な産業用途に使用可能な複合膜の支持体として、あるいは、キャパシタや一次/二次電池などの電気化学素子用セパレータ、プリプレグ、気体フィルタや液体フィルタなど)に使用できる。
また、本発明の繊維シートを含んでいる複合膜は、様々な産業用途(例えば、水処理膜などの液体分離膜や気体分離膜、医療用材料、イオン交換膜や透析膜、燃料電池の高分子電解質膜などといった様々な産業用途に使用可能な複合膜として、あるいは、キャパシタや一次/二次電池などの電気化学素子用セパレータ、プリプレグ、気体フィルタや液体フィルタなど)に使用できる。