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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-13
(45)【発行日】2023-07-24
(54)【発明の名称】重油組成物および重油組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C10L 1/04 20060101AFI20230714BHJP
【FI】
C10L1/04
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2018240572
(22)【出願日】2018-12-25
(65)【公開番号】P2019214696
(43)【公開日】2019-12-19
【審査請求日】2021-11-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000105567
【氏名又は名称】コスモ石油株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002538
【氏名又は名称】弁理士法人あしたば国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】濱野 純也
【審査官】岡田 三恵
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-165367(JP,A)
【文献】特開2018-165366(JP,A)
【文献】特開2019-182919(JP,A)
【文献】特開2012-092253(JP,A)
【文献】特開2014-015627(JP,A)
【文献】特開2018-165365(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10L 1/04
C10L 1/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
直接脱硫重油を1~10容量%、
直接脱硫重油を除く基材であって、硫黄分の含有割合が0.01~0.70質量%、CCAIが800~900、50℃における動粘度が100.00mm/s以下、15℃における密度が0.9400g/cm~1.2000g/cmであるスラリーオイルを80~99容量%含み、
硫黄分含有量が0.50質量%以下、
50℃における動粘度が55.00mm/秒以下、
CCAIが825~870
であることを特徴とする重油組成物。
【請求項2】
前記スラリーオイルが、芳香族分の含有割合が41質量%以下、レジン分の含有割合が1.0質量%~5.0質量%である請求項1に記載の重油組成物。
【請求項3】
重油組成物を製造する方法であって、
直接脱硫重油が1~10容量%、
直接脱硫重油を除く基材であって、硫黄分の含有割合が0.01~0.70質量%、CCAIが800~900、50℃における動粘度が100.00mm/s以下、15℃における密度が0.9400g/cm~1.2000g/cmであるスラリーオイルが80~99容量%となるように混合して、
硫黄分含有量が0.50質量%以下、
50℃における動粘度が55.00mm/秒以下、
CCAIが825~870
である重油組成物を得ることを特徴とする重油組成物の製造方法。
【請求項4】
前記スラリーオイルが、芳香族分の含有割合が41質量%以下、レジン分の含有割合が1.0質量%~5.0質量%である請求項3に記載の重油組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、重油組成物および重油組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、重油組成物は、各種産業分野において種々の用途に使用されており、JIS K2205において、動粘度により、1種(A重油)、2種(B重油)及び3種(C重油)の3種類に分類されている。
これらの重油組成物のうち、A重油は、一般にハウス加温栽培用暖房機やビル等の暖房機用の燃料油として用いられ、B重油及びC重油は、一般に船舶用大型ディーゼルエンジンの燃料油や、工場、発電所、地域冷暖房などの大規模ボイラーの燃料油として用いられている(例えば、特許文献1(特開平5-331470号公報)参照)。
【0003】
上述したようにC重油とA重油は粘性が相違するものであることから、基材配合も相違するものとなっている。すなわち、A重油及びC重油は、いずれも、石油精製工程で得られる重質で粘性の高い減圧蒸留残渣油等の残渣油と、比較的軽質な軽油基材とを配合してなるものであるが、A重油は、上記軽油基材に対して上記残渣油を若干割合配合してなるものであるのに対して、C重油は、上記残渣油に対して軽油基材をカッター材として若干割合配合してなるものであり、その粘性もA重油に比べて高いものとなる。
【0004】
一方、近年、環境負荷を低減し煙道腐食を抑制するという観点から、重油基材となる残渣油の低硫黄化が検討されており、このような低硫黄化した基材を用いた重油組成物が求められるようになっている。
特に、船舶用燃料油として使用される重油組成物については、IMO(国際海事機関)の定める国際条約(MARPOL条約)によって硫黄分の含有量が段階的に規制され、今後、0.50質量%以下に低減することが求められている。
【0005】
また、C重油相当の重油組成物等の内燃機関で使用される重油組成物においては、着火性および燃焼性に優れることが求められる。
C重油相当の重油組成物の着火性の指標としては、重油組成物の15℃における密度および50℃における動粘度から算出されるCCAI(Calculated Carbon Aromaticity Index)が知られており、一般的には、CCAIが高い重油組成物ほど着火性が低いとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平5-331470号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、一般に重油組成物を構成する減圧蒸留残渣油等の残渣油は、硫黄分が非常に高い基材であることが知られている。
【0008】
また、上述したように、C重油相当の重油組成物は、残渣油の含有割合が高く粘性の高いものであることから、一般に着火性を向上させ難い。
特に残渣油として流動接触分解(FCC)装置のボトム油等(例えば、スラリーオイル等)の重質な基材を使用した場合にはCCAIが悪化し易いことから、重質な基材を多量に含有する重油組成物を調製し難かった。
【0009】
このような状況下、本発明は、重質な基材を多量に含有する場合においても、硫黄分の含有割合が0.50質量%以下に低減され、CCAIを所望範囲に制御し得る重油組成物を提供するとともに、重油組成物の製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者が鋭意検討したところ、直接脱硫重油を1~35容量%、直接脱硫重油を除く基材であって、CCAIが900以下、動粘度が100.00mm/s以下、密度が0.9400g/cm~1.2000g/cmであるスラリーオイルに相当する基材(基材A)を65~99容量%含み、硫黄分含有量が0.50質量%以下、50℃における動粘度が55.00mm/秒以下、CCAIが825~870である重油組成物により、上記技術課題を解決し得ることを見出し、本知見に基づいて本発明を完成するに至ったものである。
【0011】
すなわち、本発明は、
(1)直接脱硫重油を1~35容量%、
直接脱硫重油を除く基材であって、CCAIが900以下、動粘度が100.00mm/s以下、密度が0.9400g/cm~1.2000g/cmである基材Aを65~99容量%含み、
硫黄分含有量が0.50質量%以下、
50℃における動粘度が55.00mm/秒以下、
CCAIが825~870
であることを特徴とする重油組成物、
(2)前記基材Aが、芳香族分の含有割合が41質量%以下、レジン分の含有割合が1.0質量%~5.0質量%である上記(1)に記載の重油組成物、
(3)重油組成物を製造する方法であって、
直接脱硫重油が1~35容量%、
直接脱硫重油を除く基材であって、CCAIが900以下、動粘度が100.00mm/s以下、密度が0.9400g/cm~1.2000g/cmである基材Aが65~99容量%となるように混合して、
硫黄分含有量が0.50質量%以下、
50℃における動粘度が55.00mm/秒以下、
CCAIが825~870、
である重油組成物を得ることを特徴とする重油組成物の製造方法、
(4)前記基材Aが、芳香族分の含有割合が41質量%以下、レジン分の含有割合が1.0質量%~5.0質量%である上記(3)に記載の重油組成物の製造方法、
を提供するものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、重質な基材を多量に含有する場合においても、硫黄分の含有割合が0.50質量%以下に低減され、CCAIを所望範囲に制御し得る重油組成物を提供するとともに、重油組成物の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。
なお、本明細書中、数値範囲を現す「~」は、その上限及び下限としてそれぞれ記載されている数値を含む範囲を表す。また、「~」で表される数値範囲において上限値のみ単位が記載されている場合は、下限値も同じ単位であることを意味する。
本明細書に段階的に記載されている数値範囲において、ある数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。
本明細書において組成物中の各成分の含有率又は含有量は、組成物中に各成分に該当する物質が複数種存在する場合、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数種の物質の合計の含有率又は含有量を意味する。
本明細書において、好ましい態様の組み合わせは、より好ましい態様である。
【0014】
本明細書において、下記項目の値は、特に断らない限り、以下の試験法方及び計算を用いて求めた値を意味する。
・「密度」(15℃における密度);
JIS K 2249-1(2011)「原油製品及び石油製品―密度試験方法」
・「硫黄分」;
JIS K 2541-7(2003)「原油及び石油製品―硫黄分試験方法」(蛍光X線法)
・「動粘度」(50℃における動粘度);
JIS K 2283(2000)「原油及び石油製品―動粘度試験方法」
・「CCAI」;
下記式(α)に示す計算方法で求めた値を意味する。
CCAI=D-140.7log10log10(V+0.85)-80.6 (α)
式(α)中、Dは15℃における密度(kg/m3)、Vは50℃における動粘度(mm2/s)を示す。
・「組成」(アスファルテン分、レジン分、芳香族分及び飽和分の含有量);
JPI-5S-22-83「アスファルトのカラムクロマトグラフィー法による組成分析」に準拠して測定した。
但し、アスファルテン分以外の成分分析はカラムクロマトグラフィーの代わりに、液体クロマトグラフィーを用いた。液体クロマトグラフィーの主な運転パラメーターは以下の通りである。
【0015】
【表1】
・「潜在セジメント」;
ISO 10307-2:2009「Petroleum products― Total sediment in residual fuel oils―」
Thermal ageing(Procedure A)により測定した値を意味する。
・「実在セジメント」;
ISO 10307-1:2009「Petroleum products― Total sediment in residual fuel oils―」によって測定した値を意味する。
【0016】
先ず、本発明の重油組成物について説明する。
本発明の重油組成物は、
直接脱硫重油を1~35容量%、
直接脱硫重油を除く基材であって、CCAIが900以下、動粘度が100.00mm/s以下、密度が0.9400g/cm~1.2000g/cmである基材Aを65~99容量%含み、
硫黄分含有量が0.50質量%以下、
50℃における動粘度が55.00mm/秒以下、
CCAIが825~870
であることを特徴とするものである。
【0017】
本発明の重油組成物は、直接脱硫重油を1~35容量%含むものである。
【0018】
直接脱硫重油は、常圧蒸留残油、減圧蒸留残油、又はこれらの混合物を水素化脱硫して得られる重質な留分である。
水素化脱硫に用いる直接脱硫装置としては、特に制限はなく、公知の装置を適用することができる。
直接脱硫重油は、従来の重油組成物の主基材として用いられている減圧蒸留残渣油と比べて硫黄分の含有量が少ないため、重油組成物が直接脱硫重油を含有することで、組成物中の硫黄分の含有量を低減し、かつ、重油組成物に適した粘度に容易に調製することができる。
【0019】
直接脱硫重油は、硫黄分の含有割合が、0.50質量%以下であるものが好ましく、0.10質量%~0.50質量%であるものがより好ましく、0.15質量%~0.50質量%であるものがさらに好ましい。
直接脱硫重油中の硫黄分はより少ないことが好ましいが、直接脱硫重油中の硫黄分を過度に低減しようとすると、脱硫原料油が制約されたり、過酷な処理条件等が必要になるたり、コストアップに繋がり易くなる。
直接脱硫重油中の硫黄分含有割合が0.50質量%以下であることにより、重油組成物の硫黄分含有量を容易に調整することができる。
【0020】
直接脱硫重油は、密度(15℃における密度)が、0.8600g/cm~0.9600g/cmであるものが好ましく、0.8600g/cm~0.9500g/cmであるものがより好ましく、0.8700g/cm~0.9500g/cmであるものがさらに好ましい。
15℃における密度が、上記範囲内にある直接脱硫重油を用いて調製された重油組成物は、容量当りの発熱量を大きくすることができ、かつ燃焼の不均一性や燃焼障害の発生を容易に抑制することができる。
【0021】
直接脱硫重油は、50℃における動粘度が、80.00mm/s~270.00mm/sであるものが好ましく、90.00mm/s~250.00mm/sであるものがより好ましく、100.00mm/s~240.00mm/sであるものがさらに好ましい。
50℃における動粘度が上記範囲内にある直接脱硫重油を用いて調製された重油組成物は、内燃機関で使用した場合の噴霧状態が良好なため、燃焼の不均一性及び失火を抑制することができ、また重油組成物を安定して機関に供給することができる。
【0022】
直接脱硫重油は、CCAIが、810以下であるものが好ましく、805以下であるものがより好ましく、800以下であるものがさらに好ましい。
直接脱硫重油のCCAIが上記範囲内にあることにより、内燃機関で使用した場合に噴霧状態が良好となり、燃焼の不均一性及び失火を抑制することができるとともに、重油組成物を安定して機関に供給することができる。また、重質な基材である分解系基材を有効活用しつつ、良好な着火性を発揮し易くなる。
【0023】
直接脱硫重油は、アスファルテン分の含有割合が、5.0質量%以下であるものが好ましく、4.0質量%以下であるものがより好ましく、3.5質量%以下であるものがさらに好ましい。
【0024】
直接脱硫重油は、レジン分の含有割合が、1.0質量%~10.0質量%であるものが好ましく、1.0質量%~8.0質量%であるものがより好ましい。
【0025】
直接脱硫重油は、芳香族分の含有割合が、10.0質量%~40.0質量%であるものが好ましく、10.0質量%~35.0質量%であるものがより好ましい。
【0026】
直接脱硫重油は、飽和分の含有割合が、80.0質量%以下であるものが好ましく、75.0質量%以下であるものがより好ましい。
【0027】
直接脱硫重油は、潜在セジメント量が、2.00質量%以下であるものが好ましく、1.70質量%以下であるものがより好ましく1.50質量%以下であるものがさらに好ましい。
潜在セジメント量が2.00質量%以下である直接脱硫重油を用いて調製された重油組成物は、貯蔵時におけるセジメントの発生を容易に抑制することができる。
【0028】
潜在セジメント量は、上述したアスファルテン分、レジン分、芳香族分及び飽和分の含有割合を調整することにより、容易に制御することができる。
【0029】
本発明の重油組成物において、直接脱硫重油の含有割合は、1容量%~35容量%であり、1容量%~30容量%であることがより好ましく、1容量%~25容量%であることが更に好ましい。
【0030】
直接脱硫重油の含有割合が上記範囲内にあることにより、貯蔵時におけるセジメントの発生が抑制され、CCAIが所望範囲に制御されるとともに、硫黄分の含有割合が抑制された重油組成物を容易に提供することができる。
【0031】
本発明の重油組成物は、直接脱硫重油を除く基材であって、CCAIが900以下、動粘度が100.00mm/s以下、密度が0.9400g/cm~1.2000g/cmである基材Aを65~99容量%含むものである。
【0032】
基材Aは、直接脱硫重油を除く重質油であって、例えば、スラリーオイル、接触分解重油、間接脱硫重油等の重油留分、常圧蒸留残油、調整した減圧蒸留残油等の残渣分、エチレンボトム油等から選ばれる一種以上を挙げることができる。
スラリーオイルは、流動接触分解装置又は残油流動接触分解装置から得られる残渣油であり、一般的には、軽油相当留分以上の沸点範囲を有する。
流動接触分解装置又は残油流動接触分解装置としては、特に制限はなく、公知の装置を用いることができる。
【0033】
基材Aは、硫黄分の含有割合が、0.01質量%~0.70質量%であるものが好ましく、0.01質量%~0.60質量%であるものがより好ましく、 0.01質量%~0.50質量%であるものがさらに好ましい。
基材Aの硫黄分の含有割合が上記範囲内にあることにより、重油組成物中の硫黄分を0.5質量%に容易に調製することができる。
【0034】
基材Aは、密度(15℃における密度)が、0.9400g/cm~1.2000g/cmであるものが好ましく、0.9400g/cm~1.100g/cmであるものがより好ましく、0.9400g/cm~1.0000g/cmであるものがさらに好ましい。
基材Aの15℃における密度が、上記範囲内にあることにより、重油組成物の容量当たりの発熱量を容易に向上させることができる。
【0035】
基材Aは、50℃における動粘度が、100.00mm/s以下であるものが好ましく、10.00mm/s~90.00mm/sであるものがより好ましく、30.00mm/s~70.00mm/sであるものがさらに好ましい。
基材Aの50℃における動粘度が上記範囲内にあることにより、特に内燃機関で使用可能な重油組成物の粘度範囲に容易に調整することが容易となる。
【0036】
基材Aは、CCAIが、900以下であるものが好ましく、800~890であるものがより好ましく、850~890であるものがさらに好ましい。
基材AのCCAIが上記範囲内にあることにより、重質な基材である分解系基材を有効活用しつつ、良好な着火性を発揮し易くなる。
【0037】
基材Aは、アスファルテン分の含有割合が、4.0質量%以下であるものが好ましく、3.5質量%以下であるものがより好ましく、3.0質量%以下であるものがさらに好ましい。
【0038】
基材Aは、レジン分の含有割合が、1.0質量%~5.0質量%であるものが好ましく、1.0質量%~4.5質量%であるものがより好ましく、1.0質量%~4.0質量%であるものがさらに好ましい。
本発明の重油組成物において、レジン分の含有割合が上記範囲内にある基材Aを用いることにより、重質な基材Aを多量に含む場合であっても、CCAIを所望範囲内に容易に制御することができる。
【0039】
基材Aは、芳香族分の含有割合が、41質量%以下であるものが好ましく、0.1質量%~41質量%であるものがより好ましく、20質量%~41質量%であるものがさらに好ましい。
本発明の重油組成物において、芳香族分の含有割合が上記範囲内にある基材Aを用いることによっても、重質な基材Aを多量に含む場合であっても、CCAIを所望範囲内に容易に制御することができる。
【0040】
基材Aは、飽和分の含有割合が、80.0質量%以下であるものが好ましく、75.0質量%以下であるものがより好ましい。
【0041】
基材Aは、潜在セジメントが、0.50質量%以下であるものが好ましく、0.30質量%以下であるものがより好ましく、0.10質量%以下であるものがさらに好ましい。
基材Aにおける潜在セジメントが0.50質量%以下であることにより、重油組成物におけるセジメントの発生をより容易に抑制することができる。
【0042】
本発明の重油組成物における基材Aの含有割合は、65容量%~99容量%であり、65容量%~90容量%であることがより好ましく、65容量%~80容量%であることがさらに好ましい。
【0043】
本発明の重油組成物は、重質な基材Aを上記のとおり多量に含む場合であっても、重油組成物における硫黄分の含有割合を容易に低減しつつ、CCAIを所望範囲に容易に制御することができる。
【0044】
本発明の重油組成物は、直接脱硫重油および基材A以外とともに他の基材(以下、「その他の基材」ともいう。)をさらに含有してもよい。
その他の基材としては、特に制限されず、例えば、接触分解軽油(LCO)、直留軽油(LGO)、直接脱硫軽質軽油、直接脱硫重質軽油、水素化脱硫軽油、間接脱硫減圧軽油、熱分解軽油、重質接触分解軽油、脱硫減圧軽油、減圧軽油(VGO)等の軽油留分、カットバック残渣油等が挙げられる。
その他の基材は、1種単独で用いてもよく、又は2種以上を併用してもよい。
【0045】
本明細書において、「カットバック残渣油」とは、減圧蒸留装置から得られる残渣油に軽質基材を配合して、カットバックした残渣油を指す。
本明細書において、「カットバック」とは、残渣油に、軽油留分、間接脱硫軽油等の軽質基材を混合して粘度、硫黄分等を重油組成物としての目的性状に合わせることを意味する。
カットバックに用いる軽質基材としては、特に制限されず、例えば、接触分解軽油(LCO)、直留軽油(LGO)、減圧軽油(VGO)、直接脱硫軽油、水素化脱硫軽油、間接脱硫軽油、熱分解軽油、重質接触分解軽油、脱硫減圧軽油等が挙げられる。
【0046】
本発明の重油組成物において、その他の基材の含有割合は、0容量%~34容量%であり、1容量%~33容量%であることが好ましく、5容量%~30容量%であることがより好ましい。
【0047】
本発明の重油組成物は、必要に応じて各種の添加剤を適宜含有するものであってもよい。
添加剤としては、流動性向上剤、流動点降下剤、酸化防止剤、スラッジ分散剤、エマルジョン防止剤、燃焼促進剤、腐食防止剤等公知の燃料添加剤が挙げられる。
添加剤の使用は、1種単独であってもよく、又は2種以上の組み合わせでもよい。
【0048】
本発明の重油組成物は、硫黄分含有量が、0.50質量%以下であり、0.01~0.50質量%であることが好ましく、0.10~0.50質量%であることがより好ましい。
【0049】
本発明の重油組成物は、所定の直接脱硫重油および基材Aを各々所定量含むことにより、硫黄含有量を容易に0.50質量%以下に制御することができる。
【0050】
本発明の重油組成物は、密度(15℃における密度)が、0.9000g/cm~1.0300g/cmであることが好ましく、0.92g/cm~1.00g/cmであることがより好ましく、0.94g/cm~0.98g/cmであることがさらに好ましい。
【0051】
本発明の重油組成物は、50℃における動粘度が、55.00mm/秒以下であり、5.00mm/秒~100.00mm/秒であることが好ましく、5.00mm/秒~80.00mm/秒であることがより好ましい。
【0052】
本発明の重油組成物は、CCAIが、825~870であり、830~870であることが好ましく、840~870であることがより好ましい。
CCAIが上記範囲内にあることにより、貯蔵安定性に優れるとともに着火性に優れた重油組成物を提供することができる。
【0053】
本発明の重油組成物は、直接脱硫重油を所定量含むとともに、特定の性状を有する基材Aを所定量含むものであることから、密度、動粘度およびCCAIを所望範囲に容易に制御することができる。
【0054】
本発明の重油組成物は、芳香族分の含有割合が、20~34質量%であるものが好ましく、20~32質量%であるものがより好ましく、20~30質量%であるものがより好ましい。
【0055】
本発明の重油組成物は、芳香族分の含有割合が上記範囲内にあることにより、重油組成物中に含まれるアスファルテンに対する親和性を増大させ、その安定性を容易に向上させることができるとともに、潜在セジメント量を容易に低減することができる。
【0056】
本発明の重油組成物は、実在セジメントが0.1質量%以下であることが好ましく、0.09質量%以下であることがより好ましく、0.01~0.08質量%であることがさらに好ましく、0.01~0.07質量%であることが特に好ましい。
本発明の重油組成物においては、実在セジメントが上記範囲内にあることにより、重油組成物が長時間の加熱された状態であったとしてもスラッジの生成を容易に抑制することができる。
【0057】
本発明の重油組成物は、後述する本発明の製造方法により好適に製造することができる。
【0058】
本発明の重油組成物としては、C重油組成物を挙げることができ、係るC重油組成物は、例えば船舶用燃料等として好適に使用することができる。
【0059】
本発明によれば、スラリーオイルに相当する基材を多量に含有する場合においても、硫黄分の含有割合が0.50質量%以下に低減され、CCAIを所望範囲に制御し得る重油組成物を提供することができる。
【0060】
次に、本発明の重油組成物の製造方法について説明する。
本発明の製造方法は、重油組成物を製造する方法であって、
直節脱硫重油が1~35容量%、
直接脱硫重油を除く基材であって、CCAIが900以下、動粘度が100.00mm/s以下、密度が0.9400g/cm~1.2000g/cmであるである基材Aが65~99容量%となるように混合して、
硫黄分含有量が0.50質量%以下、
50℃における動粘度が55.00mm/秒以下、
CCAIが825~870、
である重油組成物を得ることを特徴とするものである。
【0061】
本発明の燃料油組物の製造方法において、上記直接脱硫重油、基材Aおよび必要に応じて使用されるその他の基材の詳細は、上述したとおりである。
【0062】
本発明の重油組成物の製造方法において、上記直接脱硫重油、基材Aおよび必要に応じて使用されるその他の基材を任意の方法で混合することにより調製することができる。
【0063】
本発明の重油組成物の製造方法においては、直接脱硫重油を1容量%~35容量%混合し、1容量%~30容量%混合することが好ましく、1容量%~25容量%混合することがより好ましい。
【0064】
本発明の重油組成物の製造方法において、直接脱硫重油の混合割合を上記範囲にすることにより、硫黄分の含有割合が0.50質量%以下に低減され、CCAIを所望範囲に制御し得る重油組成物を容易に提供することができる。
【0065】
本発明の重油組成物の製造方法においては、基材Aを65容量%~99容量%混合し、65容量%~90容量%混合することが好ましく、65容量%~80容量%混合することがより好ましい。
【0066】
本発明の重油組成物の製造方法において、基材Aの混合割合を上記範囲にすることにより、得られる重油組成物において硫黄分の含有量を容易に低減しつつ、CCAIを所望範囲に容易に制御することができる。
【0067】
本発明の製造方法で得られる重油組成物の詳細は、上述したとおりである。
本発明の製造方法で得られる重油組成物としては、特にC重油組成物を挙げることができ、係るC重油組成物は、例えば船舶用燃料等として好適に使用することができる。
【0068】
本発明によれば、スラリーオイルに相当する基材を多量に含有する場合においても、硫黄分の含有割合が0.50質量%以下に低減され、CCAIを所望範囲に制御し得る重油組成物を簡便に製造する方法を提供することができる。
【実施例
【0069】
以下、本発明を実施例に更に詳細に説明するが、本発明は本実施例により何ら限定されるものではない。
【0070】
(実施例1~実施例9および比較例1~比較例2、参考例1)
表2に示す性状を有する、直接脱硫重油(DDSP)、スラリーオイル1(SLO1)、スラリーオイル2(SLO2)、接触分解軽油(LCO)および直留軽油(LGO)を用いて、各々表3および表4に示す割合で配合することにより、実施例1~実施例9、比較例1~比較例2および参考例1に係るC重油組成物を調製した。
得られた各重油組成物の性状を表3~表4に示す。
【0071】
なお、表2に示すLCOおよびLGOを各々構成する、飽和分(容量%)、オレフィン分(容量%)、一環芳香族分(容量)、二環芳香族分(容量%)、三環以上の芳香族分(容量%)、芳香族分合計(容量%)は、ガスクロマトグラフ法-質量分析法(GC-MS)で分析し、ASTM D 2786に従って解析した値を意味する。
具体的には、試料を高速液体クロマトグラフ法(HPLC)で飽和分と芳香族分とに分取した後、各分取物をGC-FIDで定量し、それぞれの面積比を質量%として算出した。また、各分取物をGC-MSで測定して平均マススペクトルを求めた後、飽和分はASTM D 2786で、芳香族分はASTM D 3239の計算式で解析を行い、タイプ別割合を容量%で算出した。
【0072】
【表2】
【0073】
【表3】
【0074】
【表4】
【0075】
表2~表4より、実施例1~実施例9で得られた本発明の重油組成物は、直接脱硫重油と特定の性状を有する基材Aとを各々所定量配合して得られた特定性状を有するものであることから、重質な基材を多量に含有する場合においても、硫黄分の含有割合が0.50質量%以下に低減され、基材Aに代えて接触分解軽油(LCO)を基材を多量に用いた参考例1記載の重油組成物と同等のCCAIを示すものであることが分かる。
【0076】
一方、表2および表4より、比較例1~比較例2で得られた比較用重油組成物は、直接脱硫重油または特定の性状を有する基材Aの配合割合が所定範囲外であったり(比較例2)、特定の性状を有する基材Aを配合したものでない(比較例1)ことから、CCAIが高く着火性に劣るものであったり(比較例1)、CCAIが低く貯蔵安定性に劣るものである(比較例2)ことが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明によれば、重質な基材を多量に含有する場合においても、硫黄分の含有割合が0.50質量%以下に低減され、CCAIを所望範囲に制御し得る重油組成物を提供するとともに、重油組成物の製造方法を提供することができる。