(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-13
(45)【発行日】2023-07-24
(54)【発明の名称】アルツハイマー病生存分析装置及びアルツハイマー病生存分析プログラム
(51)【国際特許分類】
A61B 5/055 20060101AFI20230714BHJP
【FI】
A61B5/055 380
(21)【出願番号】P 2019049374
(22)【出願日】2019-03-18
【審査請求日】2022-01-31
(73)【特許権者】
【識別番号】518267562
【氏名又は名称】株式会社ERISA
(74)【代理人】
【識別番号】100081673
【氏名又は名称】河野 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100141483
【氏名又は名称】河野 生吾
(72)【発明者】
【氏名】小野田 慶一
(72)【発明者】
【氏名】石田 学
【審査官】佐野 浩樹
(56)【参考文献】
【文献】特許第6483890(JP,B1)
【文献】特開2015-084970(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0310870(US,A1)
【文献】特開2005-202685(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0278682(US,A1)
【文献】国際公開第2012/077313(WO,A1)
【文献】特開2013-066632(JP,A)
【文献】特開2008-237747(JP,A)
【文献】特表2018-511457(JP,A)
【文献】特表2015-502535(JP,A)
【文献】特表2014-506150(JP,A)
【文献】椎名顯彦ほか,アルツハイマー病の画像診断-voxel-based morphometryと人工知能によるアルツハイ,脳循環代謝,2017年,第28巻、第2号,第303-308頁
【文献】椎野顯彦ほか,人工知能によるMR画像からのprogressive MCIの予測,日本認知症学会誌,2017年10月15日,第31巻、第4号,第188頁,(第36回日本認知症学会学術集会プログラム・抄録集)
【文献】椎野 顯彦,Voxel based morphometry(VBM)の基本的概念と支援ソフトBAADの有用性の検討,臨床神経学,日本,日本神経学会,2013年,第53巻,第11号,p.1091-1093
【文献】Ronald J. Killiany et al.,Use of Structural Magnetic Resonance Imaging to Pr,Annals of Neurology,米国,2000年04月,Vol.47,No.4,p.430-439
【文献】西田恒彦 武田雅俊(編),認知症の脳画像診断 早期検出と鑑別をめざして,日本,株式会社メジカルビュー社,2015年09月20日,p.8-13
【文献】認知症疾患治療ガイドライン作成合同委員会(編),認知症疾患 治療ガイドライン 2010,日本,株式会社医学書院,2010年10月15日,p.64-68
【文献】Shannon L. Risacher et al.,Baseline MRI Predictors of Conversion from MCI to ,Current Alzheimer Research,2009,Vol.6,No.4,米国,2009年,p.347-361
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/055、 9/00 -10/06 、
G06N 3/00 - 3/12 、 7/08 -99/00 、
G06T 1/00 - 1/40 、 3/00 - 7/90 、
G06V10/00 -20/90 、30/418、40/16 、
40/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象者のアルツハイマー病への遷移確率を予測する生存分析処理を行うためのアルツハイマー病生存分析装置であって、
灰白質容積マップデータ取得手段に基づいて前記対象者の脳内の灰白質容積マップデータを取得する灰白質容積マップデータ取得部と、
前記灰白質容積マップデータに基づいて、対象者の脳構造を所定の複数領域に分割した場合の各領域における灰白質容積を示す領域別灰白質容積データを生成する領域別灰白質容積データ生成部と、
前記複数領域の各領域別灰白質容積データを少なくとも入力パラメータとして対象者のアルツハイマー病への遷移確率を出力することについて予め学習した学習済モデルに基づいて、前記対象者の前記複数領域の各領域別灰白質容積データを少なくとも入力して当該対象者のアルツハイマー病への遷移確率を出力する遷移確率出力部と、を備え、
前記遷移確率出力部は、
アルツハイマー病への遷移確率を出力するようニューラルネットワークの学習を行った結果得られた学習済モデルに基づいて前記対象者のアルツハイマー病への遷移確率を累積ワイブル分布として求めてグラフ表示するように構成された
ことを特徴とするアルツハイマー病生存分析装置。
【請求項2】
前記灰白質容積マップデータ取得手段は、MRI(核磁気共鳴画像法)であり、MRIを用いてT1強調画像を得ることで灰白質容積マップデータを取得する
請求項
1に記載のアルツハイマー病生存分析装置。
【請求項3】
対象者のアルツハイマー病への遷移確率を予測する生存分析処理をコンピュータに実現させるためのアルツハイマー病生存分析プログラムであって、
前記コンピュータに、
灰白質容積マップデータ取得手段に基づいて前記対象者の脳内の灰白質容積マップデータを取得する灰白質容積マップデータ取得機能と、
前記灰白質容積マップデータに基づいて、対象者の脳構造を所定の複数領域に分割した場合の各領域における灰白質容積を示す領域別灰白質容積データを生成する領域別灰白質容積データ生成機能と、
前記複数領域の各領域別灰白質容積データを少なくとも入力パラメータとして対象者のアルツハイマー病への遷移確率を出力することについて、予めニューラルネットワークの学習した学習済モデルに基づき、前記対象者の前記複数領域の各領域別灰白質容積データを少なくとも入力して当該対象者のアルツハイマー病への遷移確率を、累積ワイブル分布として求めてグラフ表示する遷移確率出力機能と
を実現させるアルツハイマー病生存分析プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、対象者が数年後にアルツハイマー病に遷移するか否かの確率を推定するためのアルツハイマー病生存分析装置及びアルツハイマー病生存分析プログラムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、疾患に罹患しているか否かの診断の他、疾患に罹患する可能性について分析する技術が求められている。例えば、緩やかに進行して日常生活に徐々に影響を及ぼすアルツハイマー病(Alzheimer’s Disease:AD)は、早期に発見し適切な治療を始めれば進行を大幅に遅らせることができることが分かっている。そのため、数年後にアルツハイマー病に遷移する確率を知ることが出来れば事前に適切な処置を行って進行を遅らせることが可能となるため非常に有用である。
【0003】
これまでアルツハイマー病への遷移を個人レベルで予測することは困難であった。例えば、アルツハイマー病の前段階である軽度認知障害(Mild Cognitive Impairment:MCI)の高齢者は年率約15%、5年で約半数がアルツハイマー病へ移行するとされる。軽度認知障害と診断された場合、こうした集団としての予測は可能であるが、軽度認知障害にもすぐにADに移行するタイプや軽度認知障害のままとどまるタイプなど、個人ごとに様々である。そのため、集団レベルではなく、個人レベルでいつどの程度の確率でアルツハイマー病に移行するか推定することが求められる。
【0004】
例えば、特許文献1には、拡散MRI画像をもとにアルツハイマー病を含む認知症の兆候を取得する手法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1は、拡散MRI画像を用いてパターン分類を行うことにより、ある一時点における認知障害の存在の徴候を発見することはできるが、数年後の認知症への進行に関する予測には用いることができない。
【0007】
本発明は、上記問題点に鑑みなされたものであり、対象者が数年後にアルツハイマー病に遷移するか否かの確率を推定するためのアルツハイマー病生存分析装置及びアルツハイマー病生存分析プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係るアルツハイマー病生存分析装置は、対象者のアルツハイマー病への遷移確率を予測する生存分析処理を行うためのアルツハイマー病生存分析装置であって、灰白質容積マップデータ取得手段に基づいて前記対象者の脳内の灰白質容積マップデータを取得する灰白質容積マップデータ取得部と、前記灰白質容積マップデータに基づいて、対象者の脳構造を所定の複数領域に分割した場合の各領域における灰白質容積を示す領域別灰白質容積データを生成する灰白質密度データ生成部と、前記複数領域の各灰白質密度データを少なくとも入力パラメータとして対象者のアルツハイマー病への遷移確率を出力することについて予め学習した学習済モデルに基づいて、前記対象者の前記複数領域の各灰白質密度データを少なくとも入力して当該対象者のアルツハイマー病への遷移確率を出力する遷移確率出力部とを備えることを特徴とする。
【0009】
また、本発明に係るアルツハイマー病生存分析装置において、前記遷移確率出力部は、学習済モデルに基づいて前記対象者のアルツハイマー病への遷移確率を累積ワイブル分布として求めてグラフ表示することを特徴とする。
【0010】
また、本発明に係るアルツハイマー病生存分析装置において、前記灰白質容積マップデータ取得手段は、MRI(核磁気共鳴画像法)であり、MRIを用いてT1強調画像を得ることで灰白質容積マップデータを取得することを特徴とする。
【0011】
さらに、本発明に係るアルツハイマー病生存分析装置において、前記学習済みモデルは、アルツハイマー病への遷移確率を出力するようニューラルネットワークの学習を行った結果得られたことを特徴とする。
【0012】
本発明に係るアルツハイマー病生存分析プログラムは、対象者のアルツハイマー病への遷移確率を予測する生存分析処理をコンピュータに実現させるためのアルツハイマー病生存分析プログラムであって、前記コンピュータに、灰白質容積マップデータ取得手段に基づいて前記対象者の脳内の灰白質容積マップデータを取得する灰白質容積マップデータ取得機能と、前記灰白質容積マップデータに基づいて、対象者の脳構造を所定の複数領域に分割した場合の各領域における灰白質容積を示す領域別灰白質容積データを生成する領域別灰白質容積データ生成機能と、前記複数領域の各領域別灰白質容積データを少なくとも入力パラメータとして対象者のアルツハイマー病への遷移確率を出力することについて、予めニューラルネットワークの学習した学習済モデルに基づき、前記対象者の前記複数領域の各領域別灰白質容積データを少なくとも入力して当該対象者のアルツハイマー病への遷移確率を、累積ワイブル分布として求めてグラフ表示する遷移確率出力機能とを実現させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、特定の時点におけるリスクではなく長期的な遷移確率の推定を行うことが可能となる。すなわち、本発明に係るアルツハイマー病生存分析装置の優位点として、(1)個人の相対リスクではなく、個人ごとの遷移確率の絶対値を推定することが可能となる点、(2)長期の推定であってもその精度が落ちない点、(3)灰白質容積マップデータに最適化している点が挙げられる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明に係るアルツハイマー病生存分析装置の構成を表したブロック図である。
【
図2】本発明に係るアルツハイマー病生存分析装置を含むシステムの構成を表したブロック図である。
【
図3】脳構造を複数領域に分割する概念を表した概念図である。
【
図4】アルツハイマー病への遷移確率を出力するための学習済モデルの概念を表した説明図である。
【
図5】本発明に係るアルツハイマー病生存分析装置で用いる学習済モデルの学習処理の流れを表したフローチャート図である。
【
図6】本発明に係るアルツハイマー病生存分析装置における生存分析処理の流れを表したフローチャート図である。
【
図7】アルツハイマー病への遷移確率をグラフ表示して出力する場合の表示例を示した説明図である。
【発明を実施するための形態】
【実施例1】
【0015】
以下、図面を参照しながら、実施例1に係るアルツハイマー病生存分析装置の例について説明する。
図1は、本発明に係るアルツハイマー病生存分析装置10の構成を表したブロック図である。この
図1に示すように、本発明に係るアルツハイマー病生存分析装置10は、灰白質容積マップデータ取得部11と、領域別灰白質容積データ生成部12と、遷移確率出力部13と、記憶部14とを少なくとも備えている。
【0016】
アルツハイマー病生存分析装置10は、1つの端末装置において実現してオフラインで使用するものであってもよいが、サーバ装置にアルツハイマー病生存分析装置10としての機能を集約させてもよい。
図2は、本発明に係るアルツハイマー病生存分析装置を含むシステムの構成を表したブロック図である。この
図2において、20はサーバ装置であり、このサーバ装置20にアルツハイマー病生存分析装置10の機能を集約させる。そして、ユーザが使用する端末装置301~30n(nは任意の整数)からそれぞれインターネットなどの通信ネットワーク40を介してサーバ装置20に接続して、アルツハイマー病生存分析装置10としての機能を利用するシステムであってもよい。サーバ装置20は、システム管理者によって管理され、複数の端末装置301~30nに対して各種処理に関する情報を提供するための各種機能を有する。本例において、サーバ装置20は、WWWサーバなどの情報処理装置によって構成され、各種情報を格納する記憶媒体を備える。なお、サーバ装置20は、制御部や通信部などコンピュータとして各種処理を行うための一般的な構成を備えるが、ここでの説明は省略する。なお、システム構成はこの
図2の例に限定されず、アルツハイマー病生存分析装置10として機能する1つの端末装置を複数のユーザが使用する構成としてもよいし、複数のサーバ装置を備える構成としてもよい。
【0017】
また、複数の端末装置301~30nは、それぞれ、通信ネットワーク40に接続し、サーバ装置20との通信を行うことにより各種処理を実行するためのハードウェア及びソフトウェアを備える。なお、複数の端末装置301~30nそれぞれは、サーバ装置20を介さずに互いに直接通信を行うこともできる構成とされていてもよく、例えば、アルツハイマー病生存分析装置10として機能する端末装置301を、他の端末装置302~30nから直接通信によってアクセスして利用する構成であってもよい。
【0018】
灰白質容積マップデータ取得部11は、灰白質容積マップデータ取得手段に基づいて対象者の脳内の灰白質容積マップデータを取得する機能を有する。ここで、灰白質容積マップデータとは、対象者の脳内の灰白質箇所を表した3次元マップのことをいう。また、灰白質容積マップデータ取得手段は、灰白質容積マップデータを取得することが可能なあらゆる手段のことをいう。すなわち、脳組織分離を実施することで灰白質箇所と白質を含むその他の脳組織箇所とを区別して認識して、脳全体における灰白質箇所を特定して灰白質容積マップデータを取得することができれば、どのような手段であってもよい。灰白質容積マップデータ取得手段の一例としては、MRI(核磁気共鳴画像法)を用いてT1強調画像を得ること脳組織における灰白質箇所を特定して灰白質容積マップデータを取得する手段が考えられる。
【0019】
領域別灰白質容積データ生成部12は、灰白質容積マップデータに基づいて、対象者の脳構造を所定の複数領域に分割した場合の各領域における灰白質容積を示す領域別灰白質容積データを生成する機能を有する。ここで、所定の複数領域とは、脳構造を予め定めた分割規則に従って複数に分割した場合の複数の領域のことをいう。
図3は、脳構造を複数領域に分割する概念を表した概念図である。この
図3に示すように、脳を複数に分割して、分割された各領域について領域別灰白質容積データを生成する。この
図3は、脳の側面を表示した際に見える分割領域を示しているが、3次元構造を複数に分割するので、見えない箇所にも領域が形成される。分割の仕方は様々に設定可能であるが、脳構造の分割に標準的に用いられるものとして、一例としては、Automated Anatomical Labelling(AAL)という手法によって116領域に分割する例や、Brain connectome Atlas(BA)という手法によって246領域に分割する例が考えられるが、これらに限定されるものではない。各領域毎の灰白質密度データの生成は、各領域において、灰白質容積マップデータから領域内の灰白質容積を求めて領域別灰白質容積データを生成する。すなわち、BAの手法によって246領域に分割している場合には、一人の対象者について246個の領域別灰白質容積データが生成されることになる。各領域別灰白質容積データは、分割された領域との対応関係を関連付けた状態で記憶される。
【0020】
遷移確率出力部13は、複数領域の各領域別灰白質容積データを少なくとも入力パラメータとして対象者のアルツハイマー病への遷移確率を出力することについて予め学習した学習済モデルに基づいて、対象者の複数領域の各領域別灰白質容積データを少なくとも入力して当該対象者のアルツハイマー病への遷移確率を出力する機能を有する。
図4は、アルツハイマー病への遷移確率を出力するための学習済モデルの概念を表した説明図である。この
図4に示すように、学習済モデルは、例えばニューラルネットワークによって構成し、複数領域の各領域別灰白質容積データを少なくとも入力層に対する入力パラメータとして含む構成とする。ニューラルネットワークの入力層に対する入力パラメータとしては、少なくとも領域別灰白質容積データを含んでいることを要するが、領域別灰白質容積データ以外のパラメータ(
図4における+αのパラメータ)はどのようなものを採用してもよい。例えば、対象者の年齢、認知機能スコアであるMMSEの結果、髄液中のアミロイドβやtauタンパク質及びそれらの異常蛋白の脳内蓄積量などのバイオマーカーの値、血液検査等の各種検査を含む対象者の健康診断結果、他の疾患等に関する対象者の既往歴など、様々な情報が入力パラメータとして採用し得る。後述する学習処理によって、対象者のアルツハイマー病への遷移確率を出力するようにニューラルネットワークの学習を行うことで、学習済モデルを得る。アルツハイマー病への遷移確率を出力できればどのような手法であってもよい。例えば、指定した年数経過後の各時点における遷移確率を直接推定する手法であってもよい。また、1年後のAD遷移確率、2年後のAD遷移確率、・・・、5年後のAD遷移確率、・・・、10年後のAD遷移確率・・・というように、対象者の灰白質容積マップデータを取得した時点からの経過年月毎の遷移確率をそれぞれ推定して出力するニューラルネットワークの構成であってもよい。しかし、アルツハイマー病への遷移確率は累積ワイブル分布に従うとの制限を加えて、ニューラルネットワークによってワイブル分布のパラメータを推定するようにすることがより好ましい。各時点における遷移確率を直接推定する手法の場合、打ち切りデータを含むデータではフォロー期間の後半ではその精度が落ちるという問題が生じる可能性があるが、累積ワイブル分布に従うとの制限を掛けてワイブル分布のパラメータを推定するようにすることで、長期の推定であっても精度が落ちないという効果が得られる。
【0021】
ニューラルネットワークにワイブル分布として遷移確率を出力させる場合、例えば、{1-exp(-tm/s)}というワイブル分布の関数におけるパラメータm及びsをニューラルネットワークに出力させるようにする構成が考えられる。また、ニューラルネットワークの入力層、隠れ層の構成は様々に設定可能であるが、例えば、脳構造を246領域に分割する場合には、入力層のノード数を246+αとし、隠れ層の数を3層としてノード数をそれぞれ128、64、32とし、出力層をワイブル分布の関数における2つのパラメータm及びsを出力する構成とすることが考えられる。
【0022】
また、遷移確率出力部13は、学習済モデルに基づいて対象者のアルツハイマー病への遷移確率を累積ワイブル分布として求めてグラフ表示する機能を有するようにしてもよい。すなわち、「5年後の遷移確率は?」というように各時点の遷移確率の問い合わせに対して当該各時点での遷移確率のみを出力する構成であってもよいが、対象者の遷移確率を累積ワイブル分布として求めてグラフ表示することで、年数が経過するに連れてアルツハイマー病に遷移する確率がどの程度上がるかを視覚的に認識することができるという効果がある。
【0023】
記憶部14は、アルツハイマー病生存分析装置10の各部において用いる情報及び各部による処理の結果得られた情報などの各種情報を記憶させる機能を有する。また、遷移確率出力部13で用いる学習済モデルをこの記憶部14に格納するようにしてもよい。
【0024】
図5は、本発明に係るアルツハイマー病生存分析装置で用いる学習済モデルの学習処理の流れを表したフローチャート図である。この
図5に示すように、ニューラルネットワークの学習処理は、アルツハイマー病生存分析装置10において、灰白質容積マップデータとその後のアルツハイマー病へ遷移した年月のデータとをセットとしたサンプルデータを取得することによって開始される(ステップS101)。すなわち、ある個人の灰白質容積マップデータとその個人が灰白質容積マップデータを測定した日からアルツハイマー病へ遷移した年月のデータ(或いは遷移していないという結果のデータ)とがセットとなったサンプルデータを取得する。次に、アルツハイマー病生存分析装置10は、取得したサンプルデータのうちの灰白質容積マップデータから脳構造を所定の複数領域に分割した場合の各領域毎の領域別灰白質容積データを生成する(ステップS102)。ここのステップにおいては、領域の数だけ領域別灰白質容積データが生成される。そして、領域別灰白質容積データを学習対象のニューラルネットワークに対して入力して、アルツハイマー病への遷移確率を出力させる(ステップS103)。最後に、出力された遷移確率と対象の個人のアルツハイマー病へ遷移した年月のデータとに基づいて損失を計算して、損失が減少するようにニューラルネットワークの重み、バイアス等を更新して(ステップS104)、処理を終了する。損失関数の設定はどのような手法であってもよいが、例えば、サンプルデータの情報から個人がアルツハイマー病に遷移する前を0、遷移した後を1とした正解データを用意し、正解データと出力された遷移確率との間の差分に基づいて最小二乗法により損失を計算する手法が考えられる。この
図5に示したフローチャートは1組のサンプルデータに基づく学習処理についてのみ記載しているが、実際には複数組のサンプルデータに基づいて繰り返し学習処理を行うことで、精度の高い学習済モデルを得ることが出来る。なお、アルツハイマー病生存分析装置10で学習処理を実行するのではなく、他のコンピュータにおいて学習処理を実行することで得られた学習済モデルをアルツハイマー病生存分析装置10に格納するようにしてもよい。
【0025】
次に、アルツハイマー病生存分析装置における生存分析処理の流れについて説明する。
図6は、本発明に係るアルツハイマー病生存分析装置における生存分析処理の流れを表したフローチャート図である。この
図6において、アルツハイマー病生存分析装置10における生存分析処理は、アルツハイマー病生存分析装置10において、対象者の灰白質容積マップデータを取得することで開始される(ステップS201)。次に、アルツハイマー病生存分析装置10は、取得した対象者の灰白質容積マップデータから脳構造を所定の複数領域に分割した場合の各領域毎の領域別灰白質容積データを生成する(ステップS202)。そして、アルツハイマー病生存分析装置10は、複数領域毎に生成された領域別灰白質容積データを学習済モデルに対して入力して、アルツハイマー病への遷移確率を出力させ(ステップS203)、生存分析処理を終了する。
【0026】
図7は、アルツハイマー病への遷移確率をグラフ表示して出力する場合の表示例を示した説明図である。この
図7に示すように、対象者の遷移確率を累積ワイブル分布として求めてグラフ表示することで、年数が経過するに連れてアルツハイマー病に遷移する確率がどの程度上がるかを視覚的に認識することができる。また、対象者の遷移確率のグラフ表示と併せて、例えば、5年以内にアルツハイマー病へ遷移しなかった人の典型的なワイブル分布の例と、5年以内にアルツハイマー病へ遷移した人の典型的なワイブル分布の例とを一緒に表示するなど、典型的な例を併せて表示するようにしてもよい。これらの典型例を併せて表示することで、対象者のアルツハイマー病への遷移のリスクが視覚的に分かり易くなるという効果がある。
【0027】
以上のように、本発明に係るアルツハイマー病生存分析装置によれば、灰白質容積マップデータ取得手段に基づいて対象者の脳内の灰白質容積マップデータを取得し、灰白質容積マップデータに基づいて対象者の脳構造を所定の複数領域に分割した場合の各領域における灰白質容積を示す領域別灰白質容積データを生成し、複数領域の各領域別灰白質容積データを少なくとも入力パラメータとして対象者のアルツハイマー病への遷移確率を出力することについて予め学習した学習済モデルに基づいて、対象者の複数領域の各領域別灰白質容積データを少なくとも入力して当該対象者のアルツハイマー病への遷移確率を出力するようにしたので、特定の時点におけるリスクではなく長期的な遷移確率の推定を行うことが可能となる。すなわち、本発明に係るアルツハイマー病生存分析装置の優位点として、(1)個人の相対リスクではなく、個人ごとの遷移確率の絶対値を推定することが可能となる点、(2)長期の推定であってもその精度が落ちない点、(3)灰白質容積マップデータに最適化している点が挙げられる。
【0028】
実施例1においては、アルツハイマー病生存分析装置10単体において各種処理を実行するものとして説明を行ったが、これに限定されるものではない。例えば、アルツハイマー病生存分析装置10から通信ネットワークを介して接続可能なサーバ装置20に学習済モデルを格納するようにし、サーバ装置20にて遷移確率出力処理を実行するようにしてもよい。すなわち、アルツハイマー病生存分析装置10で取得した対象者の灰白質容積マップデータ、又は、アルツハイマー病生存分析装置10で生成した領域別灰白質容積データを通信ネットワークを介してサーバ装置20に送信し、サーバ装置20に遷移確率出力部13と同様の機能を持たせて(さらに領域別灰白質容積データ生成部12の機能を持たせてもよい)、サーバ装置20において遷移確率出力処理を実行し、サーバ装置20において出力した遷移確率を通信ネットワークを介してアルツハイマー病生存分析装置10において受信する構成であっても、前記実施例と同様の効果を有するアルツハイマー病生存分析装置10を実現することができる。
【0029】
なお、上述した実施例1では、アルツハイマー病生存分析装置10、サーバ装置20、複数の端末装置301~30nは、自己が備える記憶装置に記憶されている各種制御プログラムに従って、上述した各種の処理を実行するものであることはいうまでもない。
【符号の説明】
【0030】
10 アルツハイマー病生存分析装置
11 灰白質容積マップデータ取得部
12 領域別灰白質容積データ生成部
13 遷移確率出力部
14 記憶部
20 サーバ装置
301~30n 端末装置
40 通信ネットワーク