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  • 特許-骨接合材料 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-13
(45)【発行日】2023-07-24
(54)【発明の名称】骨接合材料
(51)【国際特許分類】
   A61B 17/80 20060101AFI20230714BHJP
【FI】
A61B17/80
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2019109679
(22)【出願日】2019-06-12
(65)【公開番号】P2020199160
(43)【公開日】2020-12-17
【審査請求日】2022-04-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000001339
【氏名又は名称】グンゼ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】塚原 麻衣
(72)【発明者】
【氏名】平岡 智恵美
(72)【発明者】
【氏名】船岡 正幸
【審査官】野口 絢子
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第104546103(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B13/00-18/18
Japio-GPG/FX
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
骨折部位において骨を固定するために用いられる、複数の孔を有するL字型の骨接合材料であって、
前記骨接合材料は、生体吸収性材料からなり、
少なくとも長辺及び短辺の端部と、角部と、長辺の端部及び角部の間とに前記孔を有し、
前記長辺の端部の孔の中心及び前記長辺の端部の孔と角部の孔との間の孔の中心を通る直線Aと、前記長辺の端部の孔の中心及び前記角部の孔の中心を通る直線Bとなす角Xの少なくとも一方が1°以上45°以下である
ことを特徴とする骨接合材料。
【請求項2】
前記直線Aと、短辺の端部の孔の中心及び角部の孔の中心を通る直線Cとなす角Yの少なくとも一方が60°以上120°以下であることを特徴とする請求項1記載の骨接合材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高い強度を有するとともに骨の再生後は体内に吸収される骨接合材料に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、骨折が治癒するまで骨を固定する骨接合材料としてステンレス、セラミック等より成るワイヤー、プレート、ねじ、ピン、ビス、ステープル、クリップ、ロッド等が用いられている。しかし、金属やセラミックからなる骨接合材料は、人体に吸収されないことから治癒後には摘出の為の再手術をする必要があった。また、これらの骨接合材料は、SUS-316のステンレス製のもので323N/mm2 程度、セラミック製のもので245~490N/mm2 程度と、実用上充分な曲げ強度を有する一方で、人骨に比べて剛性が高すぎることから、適用部の骨が削られたり、持続刺激によって局部の骨の融解、新生骨の強度低下、再生骨の成長遅延等を生じたりする恐れがあるという問題点があった。
【0003】
これに対して、ポリ-L-乳酸等の生体吸収性材料からなる骨接合材料が開発されている。例えば、特許文献1には、生体吸収性材料の成形物を、該ポリマーのガラス転移点以上であって融点以下の温度で静水圧押出しして、生体吸収性材料の分子が長軸方向に配向した高密度成形体であって、浮沈法で測定した密度が1.260g/cm以上である骨接合材料が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第2619760号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の生体吸収性材料からなる骨接合材料は、強度の面でまだ満足のいくものではなく、より高い強度を有する骨接合材料が求められている。
【0006】
本発明は、上記現状に鑑み、高い強度を有するとともに骨の再生後は体内に吸収される骨接合材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、骨折部位において骨を固定するために用いられる、複数の孔を有するL字型の骨接合材料であって、前記骨接合材料は、生体吸収性材料からなり、少なくとも長辺及び短辺の端部と、角部と、長辺の端部及び角部の間とに前記孔を有し、前記長辺の端部の孔の中心及び前記長辺の端部の孔と角部の孔との間の孔の中心を通る直線Aと、前記長辺の端部の孔の中心及び前記角部の孔の中心を通る直線Bとがなす角Xが1°以上45°以下である骨接合材料である。
以下に本発明を詳述する。
【0008】
本発明者らは、鋭意検討の結果、驚くべきことにL字型の骨接合材料において角部の位置をずらすことで、高い強度を有する骨接合材料が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
本発明の骨接合材料は、生体吸収性材料からなる。
骨接合材料を生体吸収性材料によって構成することで、骨接合材料が時間の経過とともに体内へ徐々に吸収されることから、後に手術によって取り出す必要がない。
【0010】
上記生体吸収性材料としては、例えば、ポリグリコリド、ポリラクチド、ポリ-ε-カプロラクトン、ラクチド-グリコール酸共重合体、グリコリド-ε-カプロラクトン共重合体、ラクチド-ε-カプロラクトン共重合体、ポリクエン酸、ポリリンゴ酸、ポリ-α-シアノアクリレート、ポリ-β-ヒドロキシ酸、ポリトリメチレンオキサレート、ポリテトラメチレンオキサレート、ポリオルソエステル、ポリオルソカーボネート、ポリエチレンカーボネート、ポリ-γ-ベンジル-L-グルタメート、ポリ-γ-メチル-L-グルタメート、ポリ-L-アラニン、ポリグリコールセバスチン酸等の合成高分子や、デンプン、アルギン酸、ヒアルロン酸、キチン、ペクチン酸及びその誘導体等の多糖類や、ゼラチン、コラーゲン、アルブミン、フィブリン等のタンパク質等の天然高分子、マグネシウム等の生体吸収性無機物等が挙げられる。なかでも、体内での分解速度が骨接合材料として用いるのに適していることからラクチド-グリコール酸共重合体であることが好ましい。なお、本明細書においてラクチドは、L-ラクチド、D-ラクチド、D,L-ラクチド(ラセミ体)のいずれをも含むが、好ましくはL-ラクチドである。これらの生体吸収性材料は単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0011】
上記生体吸収性材料がラクチド―グリコール酸共重合体である場合、ラクチドとグリコール酸のモル比が70:30~95:5であることが好ましい。このような比率でラクチドとグリコール酸を含むラクチド―グリコール酸共重合体を用いることで、骨の再生まで充分な強度を有する骨接合材料とすることができる。上記ラクチド―グリコール酸共重合体におけるラクチドとグリコール酸のモル比は、75:25~90:10であることがより好ましく、79:21~85:15であることが更に好ましい。
【0012】
上記生体吸収性材料が高分子である場合、重量平均分子量は14万以上32万以下であることが好ましい。
重量平均分子量を上記下限以上とすることで、強度をより高めることができる。また、重量平均分子量を上記上限以下とすることで、骨の再生後は早期に体内へ吸収されるため、体内での異物反応を抑えることができる。強度をより高めるとともに、骨の再生後には骨接合材料をより早く生体内へ吸収させる観点から、上記生体吸収性材料の重量平均分子量は18万以上が好ましく、20万以上がより好ましく、30万以下であることが好ましく、28万以下であることが更に好ましい。なお、ここで重量平均分子量とは、GPC(Gel Permeation Chromatography:ゲルパーミエーションクロマトグラフィ)による標準ポリスチレン換算の重量平均分子量である。具体的には、カラム温度40℃において溶出液としてクロロホルム、細孔多分散型有機溶媒系カラムを用いて、ポリスチレン標準により決定することができる。
【0013】
本発明の骨接合材料は、複数の孔を有するL字型の形状であり、少なくとも長辺及び短辺の端部と、角部と、長辺の端部及び角部の間とに上記孔を有し、上記長辺の端部の孔の中心及び上記長辺の端部の孔と角部の孔との間の孔の中心を通る直線Aと、上記長辺の端部の孔の中心及び上記角部の孔の中心を通る直線Bとがなす角Xが1°以上45°以下である。
上記長辺の端部の孔の中心及び上記長辺の端部の孔と角部の孔との間の孔の中心を通る直線Aと、上記長辺の端部の孔の中心及び上記角部の孔の中心を通る直線Bとがなす角Xが上記範囲であることで、力が適度に分散され、骨接合材料の強度を高めることができる。
【0014】
ここで、従来のL字型の骨接合材料と本発明の骨接合材料を表した模式図を図1(a)~(c)に示す。図1(a)に示すように、従来のL字型の骨接合材料は、長辺の端部の孔2と、角部の孔4と、長辺の端部の孔と角部の孔との間の孔5とが一直線に配置されており、長辺方向への力は全て骨接合材料の長辺部にかかっていた。一方、図1(b)、(c)に示すように、本発明では角部の孔4が、長辺の端部の孔2と長辺の端部の孔と角部の孔との間の孔5とを結ぶ直線A6と、長辺の端部の孔の中心及び角部の孔の中心を通る直線B7とがなす角X9が上記範囲となるように、直線A6上からずれているため、長辺方向へかかった力が短辺方向へも分散されることから、強度を高めることができる。図1では例としてダンベル型の骨接合材料を示しているが、本発明の骨接合材料は、L字型であればプレート型等他の形態であってもよい。
【0015】
骨接合材料の強度をより高める観点から、上記角Xは3°以上であることが好ましく、10°以下であることが好ましい。
【0016】
本発明の骨接合材料は、上記直線Aと、短辺の端部の孔の中心及び角部の孔の中心を通る直線Cとがなす角Yが60°以上120°以下であることが好ましい。
図1(b)、(c)における直線A6と、直線C8とがなす角Y10が上記範囲であることで、骨接合材料を骨の曲面に沿わせやすくすることができる。
【0017】
本発明の骨接合材料の製造方法は特に限定されず、例えば、射出成型や切削によって製造することができる。
【0018】
本発明の骨接合材料は、骨折部位において骨を固定するために用いられる。本発明の骨接合材料は、上記角Xの範囲を満たすような形状であることで、強度が従来の骨接合材料よりも高いことから、骨折部位が治癒するまでの間確実に骨を固定することができるとともに、生体吸収性材料からなることで、治癒後は体内へ吸収され、取り出しのための再手術を行う必要がない。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、高い強度を有するとともに骨の再生後は体内に吸収される骨接合材料を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】従来のL字型の骨接合材料と本発明の骨接合材料を表した模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。
【0022】
(実施例1)
骨接合材料の原料としてラクチド(L体)-グリコール酸共重合体(ラクチドに由来する構成単位:ε-カプロラクトンに由来する構成単位のモル比=82:18、重量平均分子量:28万)を準備した。
上記原料を射出成形し、切削加工によりネジ挿入孔を形成することにより、長辺23mm、短辺11mm、厚み1.4mmのL字型であり、直径2.3mmの孔が角X6°、角Y90°となるように、図1(b)に示す位置に配置された形状を有する骨接合材料を得た。
【0023】
(実施例2)
短辺の端部の孔の配置を角Yが100°となるような位置とした以外は実施例1と同様にして骨接合材料を得た。
【0024】
(比較例1)
短辺の端部の孔と角部の孔の配置を角Xが0°、角Yが90°となるような位置とした以外は実施例1と同様にして骨接合材料を得た。
【0025】
(比較例2)
短辺の端部の孔と角部の孔の配置を角Xが0°、角Yが100°となるような位置とした以外は実施例1と同様にして骨接合材料を得た。
【0026】
<評価>
実施例、比較例で得られた骨接合材料について以下の方法により評価を行った。
結果を表1に示した。
【0027】
(1)耐引張性の評価
オートグラフを用いてJIS K7113(プラスチックの引張試験方法)に準じて接合材料の引張方向に対する破断強力を測定することで、耐引張性を評価した。
【0028】
(2)分解性の評価
50℃のPBSに実施例1の骨接合材料を浸漬し、所定の時間経過したものについて上記耐引張性の評価と同様の方法で破断強力を測定した。得られた破断強力を上記耐引張性の評価で得られた破断強力で除することにより強力保持率(%)を算出することで、骨接合材料の分解性を評価した。なお、50℃のPBSに浸漬したものは生体内の約8倍の速度で分解するものと考えられる。
【0029】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明によれば、高い強度を有するとともに骨の再生後は体内に吸収される骨接合材料を提供することができる。
【符号の説明】
【0031】
1 骨接合材料
2 長辺の端部の孔
3 短辺の端部の孔
4 角部の孔
5 長辺の端部の孔と角部の孔との間の孔
6 直線A
7 直線B
8 直線C
9 角X
10 角Y
図1