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  • 特許-回転機器の翼を洗浄する方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-13
(45)【発行日】2023-07-24
(54)【発明の名称】回転機器の翼を洗浄する方法
(51)【国際特許分類】
   F01D 25/00 20060101AFI20230714BHJP
   F02C 7/00 20060101ALI20230714BHJP
   F02B 39/16 20060101ALI20230714BHJP
【FI】
F01D25/00 R
F01D25/00 X
F02C7/00 D
F02B39/16 A
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2019138754
(22)【出願日】2019-07-29
(65)【公開番号】P2021021369
(43)【公開日】2021-02-18
【審査請求日】2022-04-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000785
【氏名又は名称】SSIP弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】朝長 成之
(72)【発明者】
【氏名】宮田 光
(72)【発明者】
【氏名】三井 裕之
(72)【発明者】
【氏名】五十嵐 貴之
【審査官】所村 陽一
(56)【参考文献】
【文献】特表2007-504323(JP,A)
【文献】特開昭63-003891(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01D 25/00
F02C 7/00
F02B 39/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転機器の翼を洗浄する方法であって、
界面活性剤を含む水溶性の第1の洗浄液を前記翼に塗布する第1塗布ステップと、
前記第1の洗浄液が塗布された前記翼を静置する静置ステップと、
前記静置ステップの後に前記翼を拭き取る第1拭き取りステップと、
前記第1拭き取りステップの後に、前記第1塗布ステップで塗布した前記第1の洗浄液よりも前記界面活性剤の濃度が低い第2の洗浄液又は水を前記翼に塗布する第2塗布ステップと、
前記第2塗布ステップの後に前記翼を拭き取る第2拭き取りステップと
を含む回転機器の翼を洗浄する方法。
【請求項2】
前記界面活性剤は、アルキルポリグルコシドまたはポリヒドロキシアルキルエーテルのいずれか1つまたは両方である、請求項1に記載の回転機器の翼を洗浄する方法。
【請求項3】
前記第2の洗浄液は、前記第1塗布ステップで塗布した前記第1の洗浄液と同種の洗浄液を水で希釈して作った洗浄液であり、前記第1の洗浄液よりも前記界面活性剤の濃度が低い、請求項1に記載の回転機器の翼を洗浄する方法。
【請求項4】
前記第1拭き取りステップ及び前記第2塗布ステップにおいて、前記翼をウエスで拭き取る、請求項1に記載の回転機器の翼を洗浄する方法。
【請求項5】
前記第1塗布ステップの前に、前記翼を含む回転部材を前記回転機器から取り外して吊り下げる洗浄準備ステップを含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の回転機器の翼を洗浄する方法。
【請求項6】
前記第1拭き取りステップの後に、前記第1塗布ステップと、前記静置ステップと、前記第1拭き取りステップとをこの順序で少なくとも1回繰り返す、請求項1~5のいずれか一項に記載の回転機器の翼を洗浄する方法。
【請求項7】
前記第2拭き取りステップの後に、前記第2塗布ステップと、前記第2拭き取りステップとをこの順序で少なくとも1回繰り返す、請求項1~のいずれか一項に記載の回転機器の翼を洗浄する方法。
【請求項8】
前記静置ステップにおいて前記翼を静置する時間は1~60分である、請求項1~のいずれか一項に記載の回転機器の翼を洗浄する方法。
【請求項9】
前記第1の洗浄液及び前記第2の洗浄液のpHは6~8である、請求項1~のいずれか一項に記載の回転機器の翼を洗浄する方法。
【請求項10】
前記回転機器は、ガスタービンの圧縮機、ガスコンプレッサー、ターボチャージャである、請求項1~のいずれか一項に記載の回転機器の翼を洗浄する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、回転機器の翼を洗浄する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
回転機器、例えばガスタービンの圧縮機は、大気中の空気を圧縮することによって圧縮空気を生成する。大気中の空気には様々な塵埃物が含まれているので、通常は吸気フィルターにより塵埃物を除去しているが、除去できなかった塵埃物の少なくとも一部は圧縮機の動静翼に付着してしまう。動静翼に塵埃物が付着すると、圧縮機の圧縮機効率が低下し、発電効率の低下を招くおそれがある。このため、圧縮機の翼の洗浄が重要となる。特許文献1及び2には、回転中のエンジンに洗浄液をスプレーすることによって吸引させて洗浄を行うことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第5184611号公報
【文献】特許第6255073号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、ガスタービンの圧縮機を洗浄するにあたり、特許文献1及び2に記載の方法のように、圧縮機を回転させた状態で吸気側から洗浄液をスプレーすることによる洗浄方法は、性能改善は見られるが、十分に汚れが除去できず、定期点検でガスタービンを開放して翼の拭き取りを行う作業が発生する。
【0005】
上述の事情に鑑みて、本開示の少なくとも1つの実施形態は、作業性を向上できる回転機器の翼を洗浄する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本開示に係る回転機器の翼を洗浄する方法は、界面活性剤を含む水溶性の第1の洗浄液を前記翼に塗布する第1塗布ステップと、前記第1の洗浄液が塗布された前記翼を静置する静置ステップと、前記静置ステップの後に前記翼を拭き取る第1拭き取りステップと、前記第1拭き取りステップの後に、前記第1塗布ステップで塗布した前記第1の洗浄液よりも前記界面活性剤の濃度が低い第2の洗浄液又は水を前記翼に塗布する第2塗布ステップと、前記第2塗布ステップの後に前記翼を拭き取る第2拭き取りステップとを含む。

【発明の効果】
【0007】
本開示の回転機器の翼を洗浄する方法によれば、第1塗布ステップと、静置ステップと、第1拭き取りステップとによって油汚れが除去されて、油汚れによる塵埃物の固着が緩むので、第1拭き取りステップで塵埃物の一部が油汚れと共に除去される。しかし、塵埃物が無機物質の場合には、洗浄液中の水分濃度が高い方が除去されやすいので、第1塗布ステップ及び第1拭き取りステップで完全には除去しきれないことがある。これに対し、第2塗布ステップでは、第1塗布ステップで翼に塗布する洗浄液よりも界面活性剤の濃度が低い希薄洗浄液又は水を使用することにより、塵埃物の溶解濃度やウエスへの吸着力が高くなるため、第2拭き取りステップで塵埃物を拭き取りやすくなる。この結果、翼の洗浄の作業性を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】回転機器の翼の汚れ状態の一例を示す部分拡大断面図である。
図2】本開示の回転機器の翼を洗浄する方法のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本開示の実施の形態による回転機械の翼洗浄方法について、図面に基づいて説明する。かかる実施の形態は、本開示の一態様を示すものであり、この開示を限定するものではなく、本開示の技術的思想の範囲内で任意に変更可能である。
【0010】
<翼の汚れ状態の説明>
限定はしないが、例えばガスタービンの圧縮機、ガスコンプレッサー、ターボチャージャのような回転機器は、大気中の空気を圧縮して圧縮空気を生成する。大気中の空気には様々な塵埃物が含まれているので、通常は吸気フィルターにより塵埃物を除去しているものの、除去できなかった塵埃物の少なくとも一部は、それらの回転部材の翼に付着する。図1に示されるように、翼100の表面100aに付着した塵埃物101は、油汚れ102によって表面100aに固着している場合が多い。以下で説明する回転機器の翼を洗浄する方法は、このような状態の翼を洗浄することに限定するものではないが、このような状態の翼の洗浄に対して特に効果的である。
【0011】
<回転機器の翼を洗浄する方法の説明>
回転機器の翼を洗浄する方法を、ガスタービンの圧縮機に設けられた動静翼を洗浄することを例にして説明する。図2に示されるように、ステップS1において、動静翼に対して洗浄作業ができるように洗浄準備を行う。例えば、圧縮機の車室を画定するケーシングが上側部分と下側部分との2つの部分に分解可能に構成されている場合、下側部分から上側部分を取外すことで、車室内に設けられるロータが見える状態になる。このロータを吊り上げて車室内から取り外し、作業員が作業しやすい位置(高さ)にロータを吊り下げた状態で固定する。洗浄の作業員は、吊り下げられたロータに設けられた動翼と、ケーシング内に固定された静翼との両方にアクセス可能になる。
【0012】
洗浄準備が終了したら、動翼及び静翼に対して洗浄液をスプレーすることによって、動翼及び静翼それぞれの表面に洗浄液を塗布する(ステップS2)。尚、洗浄液の塗布については、スプレーに限定するものではなく、洗浄液を含ませたウエスで翼の表面を拭いたりする等、任意の方法で行うことができる。
【0013】
本方法に用いられる好ましい洗浄液は、界面活性剤を含む水溶性の洗浄液である。圧縮機の翼には、アルミニウムを主成分とするサーメテルコートがコーティングされていたり、遮熱コーティングが施された部分があったりするため、これらに悪影響を与えないようにするために、洗浄液は中性、すなわち洗浄液のpHが6~8であることが好ましい。このような洗浄剤として、例えば、いずれも花王株式会社から市販されているクリンスルーTW-100(pH6.7)/KS-1000(pH8)/KS-7405(pH6.4)/LC-940/MC-02(pH7)を使用することができる。例えば、クリンスルーTW-100には、界面活性剤としてアルキルポリグルコシドやポリヒドロキシアルキルエーテルが含まれている。
【0014】
翼の表面に洗浄液を塗布したら、そのままの状態で静置する(ステップS3)。静置時間は、翼の汚れ状態に起因するため特に限定するものではないが、例えば1~60分の範囲の任意の時間、例えば5分静置することができる。尚、洗浄液として有機溶剤を使用した場合は、このような静置を行うと蒸発してしまうが、界面活性剤を含む水溶性の洗浄液であればこのような静置が可能である。このような静置を行うことにより、界面活性剤の油汚れに対する乳化作用及び分散作用が高まるので、油汚れの除去率を向上することができる。
【0015】
ある時間の静置の後、翼の表面をウエスで拭き取る(ステップS4)。ステップS3において、翼に固着した油汚れが界面活性剤によって乳化・分散されているので、ステップS4におけるウエスによる拭き取りによって、油汚れの少なくとも一部が翼の表面から除去される。また、油汚れの乳化・分散により、油汚れによる翼の表面への塵埃物の固着が緩むので、ウエスによる拭き取りの際に、塵埃物の少なくとも一部も翼の表面から除去され得る。
【0016】
続くステップS5では、ウエスによって拭き取られた翼の表面に対して、油汚れが残っているか否かの目視確認を行う。まだ油汚れが残っていたら、ステップS2に戻り、ステップS2~S4を繰り返す。ステップS5の目視確認において油汚れが全て除去されたと判断したら、ステップS2で使用した洗浄液の界面活性剤の濃度よりも低い界面活性剤の濃度、限定はしないが例えば10倍希釈した希薄洗浄液を、ウエスによって拭き取られた翼の表面にスプレーすることによって、動翼及び静翼それぞれの表面に希薄洗浄液を塗布する(ステップS6)。尚、希薄洗浄液の塗布についてもステップS2と同様に、スプレーに限定するものではなく、希薄洗浄液を含ませたウエスで翼の表面を拭いたりする等、任意の方法で行うことができる。また、希薄洗浄液のpHについても、洗浄液と同じ理由で、6~8であることが好ましい。
【0017】
続くステップS7では、翼の表面をウエスで拭き取る。ステップS7では、油汚れは存在していないので、ウエスによる拭き取りによって、翼の表面に塗布された希薄洗浄液と共に塵埃物が翼の表面から除去される。塵埃物が無機物質の場合には、洗浄液中の界面活性剤の濃度が高いと溶解あるいはウエスへの吸着が低下するため、ステップS2~S4で完全には除去しきれないことがある。これに対し、ステップS6では、ステップS2で翼に塗布する洗浄液よりも界面活性剤の濃度が低い希薄洗浄液を使用することにより、塵埃物の溶解濃度が高くなるため、ステップS7で塵埃物を拭き取りやすくなる。
【0018】
続くステップS8では、ウエスによって拭き取られた翼の表面に対して、塵埃物が残っているか否かの目視確認を行う。まだ塵埃物が残っていたら、ステップS6に戻り、ステップS6及びS7を繰り返す。ステップS8の目視確認において塵埃物が全て除去されたと判断したら、洗浄作業を終了する。
【0019】
このように、ステップS2~S4によって油汚れが除去されて、油汚れによる塵埃物の固着が緩むので、ステップS4で塵埃物の一部が油汚れと共に除去される。ステップS6では、ステップS2で翼に塗布する洗浄液よりも界面活性剤の濃度が低い希薄洗浄液を使用することにより、ステップS7で塵埃物を拭き取りやすくなる。この結果、翼の洗浄の作業性を向上することができる。
【0020】
ステップS6では、翼の表面に希薄洗浄液を塗布していたが、水を塗布してもよい。ステップS2で翼の表面に洗浄液を塗布した後にステップS4で洗浄液がウエスで拭き取られるが、洗浄液中の界面活性剤の一部が翼の表面に付着したままである場合が多い。この状態で翼の表面に水が塗布されると、翼に付着している界面活性剤が水に溶解して希薄洗浄液が生成するので、希薄洗浄液を翼の表面に塗布した状態と同様の状態にすることができる。
【0021】
(1)一の態様に係る回転機器の翼を洗浄する方法は、
界面活性剤を含む水溶性の洗浄液を前記翼に塗布する第1塗布ステップ(ステップS2)と、
前記洗浄液が塗布された前記翼を静置する静置ステップ(ステップS3)と、
前記静置ステップの後に前記翼を拭き取る第1拭き取りステップ(ステップS4)と、
前記第1拭き取りステップの後に、前記第1塗布ステップで塗布した前記洗浄液よりも前記界面活性剤の濃度が低い希薄洗浄液又は水を前記翼に塗布する第2塗布ステップ(ステップS6)と、
前記第2塗布ステップの後に前記翼を拭き取る第2拭き取りステップ(ステップS7)と
を含む。
【0022】
翼に付着した塵埃物は一般的に、翼面に対して油汚れで固着している場合が多い。このため、本開示の回転機器の翼を洗浄する方法によれば、第1塗布ステップと、静置ステップと、第1拭き取りステップとによって油汚れが除去されて、塵埃物の固着が緩むので、第1拭き取りステップで塵埃物の一部が油汚れと共に除去される。第2塗布ステップでは、第1塗布ステップで翼に塗布する洗浄液よりも界面活性剤の濃度が低い希薄洗浄液又は水を使用することにより、第2拭き取りステップで塵埃物を拭き取りやすくなる。この結果、翼の洗浄の作業性を向上することができる。
【0023】
(2)別の態様に係る回転機器の翼を洗浄する方法は、(1)に記載の回転機器の翼を洗浄する方法であって、
前記第1塗布ステップ(ステップS2)の前に、前記翼を含む回転部材を前記回転機器から取り外して吊り下げる洗浄準備ステップ(ステップS1)を含む。
【0024】
このような構成によれば、作業者の作業しやすい位置(高さ)で翼を含む回転部材を吊り下げた状態で翼の洗浄を行えるので、翼の洗浄の作業性を向上することができる。
【0025】
(3)さらに別の態様に係る回転機器の翼を洗浄する方法は、(1)または(2)に記載の回転機器の翼を洗浄する方法であって、
前記第1拭き取りステップ(ステップS4)の後に、前記第1塗布ステップ(ステップS2)と、前記静置ステップ(ステップS3)と、前記第1拭き取りステップ(ステップS4)とをこの順序で少なくとも1回繰り返す。
【0026】
このような構成によれば、油汚れを除去する作業が繰り返されるので、油汚れを確実に除去することができる。
【0027】
(4)さらに別の態様に係る回転機器の翼を洗浄する方法は、(1)~(3)のいずれかに記載の回転機器の翼を洗浄する方法であって、
前記第2拭き取りステップ(ステップS7)の後に、前記第2塗布ステップ(ステップS6)と、前記第2拭き取りステップ(ステップS7)とをこの順序で少なくとも1回繰り返す。
【0028】
このような構成によれば、塵埃物を除去する作業が繰り返されるので、塵埃物を確実に除去することができる。
【0029】
(5)一の態様に係る回転機器の翼を洗浄する方法は、(1)~(4)のいずれかに記載の回転機器の翼を洗浄する方法であって、
前記静置ステップ(ステップS3)において前記翼を静置する時間は1~60分である。
【0030】
このような構成によれば、界面活性剤の油汚れに対する乳化作用及び分散作用が高まるので、油汚れを確実に除去することができる。
【0031】
(6)一の態様に係る回転機器の翼を洗浄する方法は、(1)~(5)のいずれかに記載の回転機器の翼を洗浄する方法であって、
前記洗浄液及び前記希薄洗浄液のpHは6~8である。
【0032】
このような構成によれば、アルミニウムを主成分とするサーメテルコートがコーティングされた翼や遮熱コーティングを施した部分に対しても洗浄液を使用することが可能になる。
【0033】
(7)一の態様に係る回転機器の翼を洗浄する方法は、(1)~(6)のいずれかに記載の回転機器の翼を洗浄する方法であって、
前記回転機器は、ガスタービンの圧縮機、ガスコンプレッサー、ターボチャージャである。
【0034】
このような構成によれば、ガスタービンの圧縮機、ガスコンプレッサー、ターボチャージャの翼の洗浄の作業性を向上することができる。
【符号の説明】
【0035】
100 翼
100a (翼の)表面
101 塵埃物
102 油汚れ
図1
図2