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  • 特許-高純度トリクロロシランの精製方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-13
(45)【発行日】2023-07-24
(54)【発明の名称】高純度トリクロロシランの精製方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 33/107 20060101AFI20230714BHJP
【FI】
C01B33/107 B
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019233088
(22)【出願日】2019-12-24
(65)【公開番号】P2021100902
(43)【公開日】2021-07-08
【審査請求日】2022-09-30
(73)【特許権者】
【識別番号】523119425
【氏名又は名称】高純度シリコン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088719
【弁理士】
【氏名又は名称】千葉 博史
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 和之
(72)【発明者】
【氏名】花上 康宏
【審査官】浅野 昭
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-001791(JP,A)
【文献】特開2013-067520(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0274608(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 33/107
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
粗トリクロロシランを含む原料液の蒸留精製において、該原料液に三塩化ジシランを混合して蒸留することによって、該原料液に含まれるホウ素を三塩化ジシランに吸着させて蒸留残にして除去し、高純度トリクロロシランを蒸留回収することを特徴とするトリクロロシランの精製方法。
【請求項2】
上記原料液に含まれるホウ素量に対して、三塩化ジシラン量が10質量倍~100質量倍である請求項1に記載するトリクロロシランの精製方法。
【請求項3】
高純度シリコン製造工程において副生する高沸点クロロシランに含まれる三塩化ジシランをホウ素の吸着材として用い、高沸点クロロシラン中の三塩化ジシラン量が、上記原料液に含まれるホウ素量に対して、10質量倍~100質量倍になるように、高沸点クロロシランの導入量を定め、該高沸点クロロシラン中の三塩化ジシランに上記原料液のホウ素を吸着させる請求項1または請求項2に記載するトリクロロシランの精製方法。
【請求項4】
六塩化二ケイ素の含有量に対して、三塩化ジシランの含有量が1/100質量倍以上である上記高沸点クロロシランを用いる請求項3に記載するトリクロロシランの精製方法。






【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体原料等に用いられる高純度シリコンを製造するための原料等に用いられるトリクロロシランの精製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体用シリコンには高い純度が求められ、冶金的な精製方法では必要な純度のシリコンを製造することができないので、一般的には蒸留精製したトリクロロシラン(SiHCl)を通電加熱した種棒上に接触させて高純度のシリコンを還元析出させるシーメンス法で製造される。このトリクロロシランは、冶金的に精製された純度98%程度の金属シリコンを約300℃以上の高温で塩化して製造される。この塩化反応において、殆どの金属不純物はトリクロロシランよりも数桁から10数桁低い蒸気圧の塩化物を形成するので、塩化反応炉から固形不純物として排出され、該反応炉からガスとして排出されるトリクロロシランには殆ど含まれなくなる。
【0003】
一方、シリコン結晶中の不純物は電気特性に影響を与えないようにできるだけ除去することが必要であり、通常、原料のトリクロロシランを蒸留精製して不純物をpptレベルまで除去した高純度のトリクロロシランが用いられる。ところが、電気特性への影響が大きいリン(P)やホウ素(B)はトリクロロシランに近い蒸気圧の化合物を形成するので、原料のトリクロロシランに含まれるリンやホウ素は通常の蒸留精製では容易に除去できない問題がある。
【0004】
特に三塩化ホウ素(BCl)はトリクロロシランよりもわずかに蒸気圧が高いが、蒸留過程で濃度が低くなると、活量が低下するために、ある程度以上は分離できなくなり、トリクロロシランの蒸留精製における最大の課題である。そこで、三塩化ホウ素が強いルイス酸であることを利用し、ルイス塩基性の化合物を添加して、付加化合物を形成させて除去する方法が提案されている(例えば、特許文献1~特許文献4に記載の精製方法)。また、高純度シリコン製造工程から発生する高沸点化合物を粗トリクロロシランを含む原料混合液に接触させてホウ素を低減する方法が知られている(特許文献5)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特表2011-514871号公報
【文献】特開2011-37670号公報
【文献】特表2011-524328号公報
【文献】米国特許第3252752号明細書
【文献】特開2007-1791号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1~4に示されている方法はホウ素の除去効果が十分ではない。一方、特許文献5(特開2007-1791号公報)に記載された方法は、高純度シリコン製造工程内で発生する副生物(高沸点クロロシラン)を用いる方法であり、他の方法と比べて多くのメリットがあるが、該高沸点クロロシランには種々の塩化シランが含まれており、ポリマー中のホウ素吸着成分が特定されていないので、実際に工業的に利用した場合に、高沸点クロロシラン投入の最適な条件を見出し難く、投入する高沸点クロロシラン量が過大となって蒸留カット量の過大による収率低下を招いたり、投入する高沸点クロロシラン量が過小になってホウ素除去が不完全になるなどのリスクがある。
【0007】
本発明は従来の精製方法における上記問題を解決したトリクロロシランの精製方法を提供する。本発明の検討段階において、三塩化ジシラン(SiH-SiCl)について顕著なホウ素吸着性のあることが見出された。この三塩化ジシランは高純度シリコン製造工程において副生する高沸点クロロシランに含まれている。具体的には、高純度シリコン製造工程において副生する高沸点クロロシランには主に六塩化二ケイ素(SiCl)や五塩化ジシラン(SiHCl)が含まれており、これらと共に少量の三塩化ジシランが含まれている。このうち六塩化二ケイ素や五塩化ジシランは殆どホウ素を吸着せず、または吸着しても極めて微量であるのに対して、三塩化ジシランについては顕著なホウ素吸着性が見出された。
本発明はこの三塩化ジシランのホウ素吸着性を利用してトリクロロシラン中のホウ素を極限まで低減するトリクロロシランの精製方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、以下の構成を有する、トリクロロシランの精製方法に関する。
〔1〕粗トリクロロシランを含む原料液の蒸留精製において、該原料液に三塩化ジシランを混合して蒸留することによって、該原料液に含まれるホウ素を三塩化ジシランに吸着させて蒸留残にして除去し、高純度トリクロロシランを蒸留回収することを特徴とするトリクロロシランの精製方法。
〔2〕上記原料液に含まれるホウ素量に対して、三塩化ジシラン量が10質量倍~100質量倍である上記[1]に記載するトリクロロシランの精製方法。
〔3〕高純度シリコン製造工程において副生する高沸点クロロシランに含まれる三塩化ジシランをホウ素の吸着材として用い、高沸点クロロシラン中の三塩化ジシラン量が、上記原料液に含まれるホウ素量に対して、10質量倍~100質量倍になるように、高沸点クロロシランの導入量を定め、該高沸点クロロシラン中の三塩化ジシランに上記原料液のホウ素を吸着させる上記[1]または上記[2]に記載するトリクロロシランの精製方法。
〔4〕六塩化二ケイ素の含有量に対して、三塩化ジシランの含有量が1/100質量倍以上である上記高沸点クロロシランを用いる上記[3]に記載するトリクロロシランの精製方法。
【0009】
〔具体的な説明〕
本発明の精製方法は、粗トリクロロシランを含む原料液(以下、粗TCS原料液と云う)の蒸留精製において、該粗TCS原料液に三塩化ジシランを混合して蒸留することによって、該粗TCS原料液に含まれるホウ素を三塩化ジシランに吸着させて蒸留残にして除去し、高純度トリクロロシランを蒸留回収することを特徴とするトリクロロシランの精製方法である。
【0010】
トリクロロシラン(SiHCl、TCS)を原料とする高純度シリコンの製造プロセスでは、一般に原料の粗TCSは、次式[1]に示すように、金属シリコンと塩化水素との塩化反応によって製造されている。この塩化反応によって製造される粗TCSには、原料の金属シリコンに由来する不純物のホウ素が含まれている。通常、この粗TCS原料ガスには通常約1ppm~約5ppmのホウ素(B)が含まれている。このホウ素は高純度シリコンの不純物になるので、できる限り除去することが求められる。
Si+3HCl→SiHCl+H ・・・[1]
【0011】
本発明の精製方法は、該粗TCSを含む原料液に、三塩化ジシラン(SiH-SiCl)を混合して蒸留することによって、該粗TCS原料液に含まれるホウ素を三塩化ジシランに吸着させて蒸留残にして除去し、高純度トリクロロシランを蒸留回収する。三塩化ジシランは顕著なホウ素吸着性を有することが見出された。本発明の精製方法はこの三塩化ジシランをホウ素の吸着成分として利用する。
【0012】
三塩化ジシランは合成品を用いることができ、市販品があれば用いることができる。さらに、高純度シリコンの製造プロセスにおいて副生する高沸点クロロシランに含まれる三塩化ジシランを利用することができる。この副生する高沸点クロロシランに含まれる三塩化ジシランを利用することによって高純度シリコン製造工程全体の効率を高めることができる。
【0013】
粗TCS原料液に含まれるホウ素量が約1ppm~約5ppmであるとき、このホウ素量をpptレベルに低減するには、このホウ素量に対して10質量倍~100質量倍の三塩化ジシランを用いることが好ましい。具体的には、実施例1~6に示すように、ホウ素量に対して12.5質量倍~75質量倍の三塩化ジシランを用いることによって、高純度シリコン中のホウ素濃度を3ppta未満に低減することができる。三塩化ジシラン量が10質量倍より少ないとホウ素除去効果が低減する。一方、高純度シリコン製造工程において副生する高沸点クロロシランに含まれる三塩化ジシランを利用する場合、三塩化ジシラン量が100質量倍より多いと、通常、三塩化ジシランの濃度はさほど高くないので、ボロンと共に系外へ排出される有価物のクロロシラン量の増加につながり、経済的に極めて非効率である。さらに、同伴される不純物の影響も懸念される。
【0014】
高純度シリコンの製造プロセスにおいて副生する高沸点クロロシランに含まれる三塩化ジシランを利用する態様を以下に示す。
TCSを原料とする高純度シリコンの製造プロセス例を図1に示す。図示するプロセスにおいて、TCSは金属シリコンの塩化反応によって製造される。微粒子ないし粉状の金属シリコンが塩化水素ガスと共に塩化反応炉10に導入され、300℃以上に加熱され、上記式[1]に示すように反応して粗TCSが製造される。この反応では、四塩化ケイ素 (SiCl)、六塩化二ケイ素 (SiCl)、ジクロロシラン (HSiCl)などが副生し、さらに、生成した粗TCSガスには原料の金属シリコンに由来するホウ素が三塩化ホウ素(BCl)として含まれている。
【0015】
生成した粗TCSガスは塩化反応炉10から抜き出されて冷却器11に導入され、液化されて回収される。一方、塩化反応炉10には金属シリコンに含まれる酸化ケイ素や金属不純物が塩素と反応して生じた塩化物などが固形不純物として残留するので、これらの固形不純物は炉外に排出される。
【0016】
冷却器11では液化しない水素や一部の未反応の塩化水素などはガス状態で取り出され、再利用または廃棄される。一方、液化回収された粗TCS原料液には、塩化アルミニウム(AlCl)や塩化チタン(TiCl)などの常温で固体の不純物や、ジシラン類などの高沸点クロロシランを高濃度で含むので、該粗TCS原料液は蒸発器12に導入され、これらの不純物は蒸留残として系外に排出される。なお、高沸点クロロシランは有用成分であるが、塩化アルミニウムや塩化チタンなどの不純物が含まれていると、これらを蒸留分離するのはコスト高になるので、通常は系外に排出される。
【0017】
蒸発器12において固形不純物を取り除いた粗TCS原料液は蒸留精製装置13に導入され、ここで半導体級の純度まで蒸留精製され、高純度TCSが回収される。この高純度TCSは水素(H)と共にシリコン析出反応炉14に導入され、約1000℃~約1200℃に加熱された炉内のシリコン棒に接触し、還元反応によって該シリコン棒表面に半導体純度の高純度シリコンが析出する。
【0018】
反応後に反応炉14から排出されるガス(プロセスガス)には、未反応の水素、TCS、副生した塩化水素、クロロシラン類(STC、DCS、および高沸点のクロロシラン)などが含まれている。この排ガスは冷却器15に導入され、ここで凝縮されなかった水素を主成分とするガスは水素精製設備16に送られて精製され、反応炉14に戻されて再利用される。
【0019】
クロロシラン成分を含むガスは冷却器15で冷却されて液化回収される。回収されたクロロシラン含有液は蒸留装置17に導入され、ここで高純度TCSが蒸留分離され、反応炉14に戻されて再利用される。この蒸留残には四塩化ケイ素(STC)や高沸点クロロシランが含まれており、これらは蒸留塔18に導入され、STCが蒸留回収される。
【0020】
蒸留塔18の蒸留残にはジシラン類を含む高沸点クロロシランが含まれている。具体的には、この高沸点クロロシランには、例えば、六塩化二ケイ素(SiCl)が約50質量%、五塩化ジシラン(SiHCl)が約40質量%、三塩化ジシラン(SiH-SiCl)が約1質量%含まれている。この高沸点クロロシランは蒸発器12に送られ、TCSの精製に利用される。また、高沸点クロロシランの一部は塩化反応炉10に送られ、塩化反応の原料に利用され、また該高沸点クロロシランに含まれている不純物が除去される。
【0021】
蒸発器12において、高沸点クロロシランは、冷却器11から抜き出された粗TCS原料液と共に加熱蒸留される。この加熱蒸留において、高沸点クロロシランに含まれている三塩化ジシランは粗TCS原料液に含まれるホウ素の吸着材として作用し、このホウ素は三塩化ジシランに吸着されて蒸留残に取り込まれ、ホウ素が除去された粗TCSが蒸発器12から回収される。ホウ素を含む蒸留残には、前述のように、固形不純物や高沸点クロロシランなどが含まれており、ホウ素を含むこれらの蒸留残は系外に取り出される。
【0022】
冷却器11から取り出された粗TCS原料液に含まれているホウ素量が約1~5ppmであるとき、このホウ素量をpptレベルに低減するには、ホウ素吸着材である三塩化ジシランの量は上記ホウ素量に対して10質量倍~100質量倍が好ましいので、高沸点クロロシランに含まれる三塩化ジシラン量は約10~500ppmが好ましい。この三塩化ジシラン量になるように、蒸発器12に導入する高沸点クロロシランの量を定めればよい。
【0023】
三塩化ジシランを含む高沸点クロロシランを用いるときには、三塩化ジシラン含有量ができるだけ多く、六塩化二ケイ素含有量ができるだけ少ない高沸点クロロシランが好ましい。具体的には、一般に、蒸留塔18から排出される高沸点クロロシランには、六塩化二ケイ素が約50質量%前後、三塩化ジシランが約1質量%前後含まれているので、例えば、三塩化ジシランが六塩化二ケイ素含有量の約1/100質量倍以上含まれている高沸点クロロシランが好ましい。六塩化二ケイ素等は粗TCS原料液の精製において高沸点不純物になるので、六塩化二ケイ素の含有量ができるだけ少ない高沸点クロロシランを用いることによって、六塩化二ケイ素等の混入量が抑えられ、粗TCS原料液の精製において生じる高沸点不純物量を減少することができ、蒸留精製のカット液量を低減することができる。
【0024】
上記製造方法において、粗TCS原料液に含まれるホウ素濃度および高沸点クロロシランに含まれる三塩化ジシランの濃度を測定して、高沸点クロロシランの導入量を定めればよい。三塩化ジシランの濃度はガスクロマトグラフィーで測定することができる。なお、三塩化ジシランの物性値は必ずしも明確ではないが、ガスクロマトグラフィー分析でのピーク位置から、三塩化ジシランの蒸気圧は四塩化ケイ素の1/2程度と推定されるので、蒸留計算に基づいてポリマー濃縮蒸留塔の最も三塩化ジシラン比率が高くなる中段から抜き出しを行うことによって、元液の約2倍の比率で三塩化ジシランを含む高沸点クロロシラン液を得ることができる。
【0025】
粗TCS原料液のホウ素は主に金属シリコンから持ち込まれるので、粗TCS原料液のホウ素濃度は、常時分析しなくとも、同じ金属シリコン原料を用いた場合にはほぼ一定濃度となるので、実用的には経験則に基づいたホウ素濃度に従って処理することができる。一方、反応後の回収液に含まれる三塩化ジシラン濃度は、シリコン析出反応がバッチ式であることなども影響して、比較的変動しやすいので適宜分析することが望ましい。なお、途中のタンク等で上記濃度変動を吸収させるような運転を行うことによって分析頻度を少なくすることができ、実用的である。
【発明の効果】
【0026】
本発明の精製方法によれば、ホウ素濃度を10ppt以下に低減した高純度TCSを容易に得ることができる。また、ホウ素吸着材である三塩化ジシランは、高純度シリコン製造工程において副生する高沸点クロロシランに含まれているので、この高沸点クロロシランを精製工程に利用することができ、高純度シリコン製造工程全体の効率を高めることができる。さらに、高純度シリコンの製造工程を変更する必要がないので、容易に実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】高純度シリコンの製造プロセスを示す概略図。
【発明を実施するための形態】
【0028】
〔実施例1〕
ホウ素濃度30ppmの金属シリコン粉と、塩化水素ガスを流動層の塩化反応炉に導入して反応させ、TCS濃度約90質量%、ホウ素濃度約2ppmwの粗TCS原料液を得た。
この粗TCS原料液に、STC濃度50質量%(残りはSTCより高沸成分)に調整した高沸点クロロシラン液(三塩化ジシラン濃度0.5質量%、六塩化二ケイ素濃度18質量%)を、上記粗TCS原料液に対して1/100の液量比で混合し(ホウ素濃度に対する三塩化ジシランの濃度比25)、約80℃で単蒸留し、回収した液を約50℃で精密蒸留し、高純度TCSを得た。この高純度TCSを用いて製造した高純度シリコン中のホウ素濃度および単蒸留における高沸点不純物量を測定した。この高沸点不純物量は同一温度・圧力条件で蒸留塔を運転した際のカット液量である。この結果を表1に示した。なお、シリコン中のホウ素濃度はフォトルミネッセンス法によって測定した。粗TCS原料液中のホウ素濃度はICP発光分析によって測定した。
【0029】
〔実施例2~4〕
粗TCS原料液に対する高沸点クロロシラン液の液量比を、1/30~1/200に変えた以外は実施例1と同様にして高純度TCSを製造し、この高純度TCSを用いて製造したシリコン中のホウ素濃度および単蒸留における高沸点不純物量を測定した。この結果を表1に示した。
【0030】
〔比較例1、2〕
粗TCS原料液に対する高沸点クロロシラン液の液量比を、1/500、1/20に変えた以外は実施例1と同様にして高純度TCSを製造し、この高純度TCSを用いて製造したシリコン中のホウ素濃度および単蒸留における高沸点不純物量を測定した。この結果を表1に示した。
【0031】
表1に示すように、三塩化ジシラン濃度0.5質量%、六塩化二ケイ素濃度18質量%の高沸点クロロシラン液(六塩化二ケイ素に対する三塩化ジシランの濃度比1/36)を用い、粗TCS原料液に対する高沸点クロロシラン液の液量比が1/30~1/200の範囲(粗TCS原料液のホウ素濃度と高沸点クロロシラン液の三塩化ジシラン濃度との濃度比12.5倍~75倍の範囲)で高純度シリコンを製造したとき、該高純度シリコン中のホウ素濃度は3ppta未満であり、高いホウ素除去効果が得られた(実施例1~4)。
一方、比較例1では、粗TCS原料液のホウ素濃度に対する三塩化ジシラン濃度が低いので、シリコン中のホウ素濃度が高い。また、比較例2では、ホウ素濃度に対する三塩化ジシラン濃度が高すぎるので、六塩化二ケイ素の混入量も多くなり、シリコン中のホウ素濃度は3ppta未満に低減されるが、高沸点不純物量が実施例1の2倍以上に増加した。
このように、表1に示す結果から、ホウ素の高い除去効果を得るには、ホウ素濃度に対する三塩化ジシラン濃度は10質量倍~100質量倍の範囲が好ましい。
【0032】
【表1】
【0033】
〔実施例5、6〕
多段蒸留塔(図1の18)の中段から回収した、STC濃度約92%の高沸点クロロシラン液(三塩化ジシラン濃度約0.1質量%および六塩化二ケイ素濃度3質量%)を用い、実施例1と同様の粗TCS原料液(TCS濃度約90質量%、ホウ素濃度約2ppmw)に、液量比(高沸点液/粗TCS液)1/40、1/20の割合で混合し、実施例1と同様にして高純度シリコンを製造した。この高純度シリコン中のホウ素濃度および不純物濃度を測定した。この結果を表2に示した。
表2に示すように、六塩化二ケイ素濃度が実施例1よりも低い高沸点クロロシラン液を用いることによって、粗TCS原料液に含まれるホウ素量に対する三塩化ジシラン量の比が実施例1、2と同様に12.5、25であるとき、高純度シリコン中のホウ素濃度は3ppta未満に低減されると共に、高沸点不純物量が実施例1の0.6~0.8に低減された。
【0034】
【表2】
【0035】
〔比較例3〕
STC濃度50質量%に調整した高沸点クロロシラン液(三塩化ジシランの濃度0.1質量%、六塩化二ケイ素濃度は19質量%)を用い、実施例1と同様の高沸点液/粗TCS比(1/100)で粗TCS原料液に混合し、実施例1と同様の蒸留条件で粗TCS原料液の蒸留精製を行った。この結果を表3に示す。
この比較例3では、高沸点クロロシラン液に含まれる六塩化二ケイ素量は実施例1と大差ない(約18質量%~約19質量%)ので、蒸留精製工程に導入される六塩化二ケイ素量は実施例1と同水準である(高沸点不純物量1)。
ところが、シリコン中のホウ素濃度は格段に高い(30ppta)。これは、高沸点クロロシラン液に含まれる三塩化ジシランの濃度が低い(TC2S/B比5)ためであり、このことから、ホウ素の吸着は専ら三塩化ジシランに依存しており、六塩化二ケイ素はホウ素吸着効果が殆ど無いか、あるいは極めて小さいことを示している。
【0036】
【表3】
【符号の説明】
【0037】
10-塩化反応炉、11-冷却器、12-蒸発器、13-蒸留精製装置、14-シリコン析出反応炉、15-冷却器、16-水素精製設備、17-蒸留装置、18-蒸留塔。

図1