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特許7313278ビールテイストアルコール飲料、ビールテイストアルコール飲料のコク味増強剤及びビールテイストアルコール飲料のコク味増強方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-13
(45)【発行日】2023-07-24
(54)【発明の名称】ビールテイストアルコール飲料、ビールテイストアルコール飲料のコク味増強剤及びビールテイストアルコール飲料のコク味増強方法
(51)【国際特許分類】
   C12C 5/02 20060101AFI20230714BHJP
   C12G 3/02 20190101ALI20230714BHJP
   C12G 3/04 20190101ALI20230714BHJP
【FI】
C12C5/02
C12G3/02
C12G3/04
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2019239770
(22)【出願日】2019-12-27
(65)【公開番号】P2021106546
(43)【公開日】2021-07-29
【審査請求日】2022-04-04
(73)【特許権者】
【識別番号】309007911
【氏名又は名称】サントリーホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】岩佐 恵子
(72)【発明者】
【氏名】別府 佳紀
(72)【発明者】
【氏名】中原 光一
(72)【発明者】
【氏名】松尾 嘉英
(72)【発明者】
【氏名】藤田 陽平
【審査官】手島 理
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-201976(JP,A)
【文献】国際公開第2007/007487(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12C
C12G
A23L
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料中の麦芽の比率が50重量%以上であるビールテイストアルコール飲料であって、
穀類由来タンパク質を構成するリジンのアミノ基がグリケーションされた、分子量35~50kDaの糖修飾タンパク質を含み、
前記糖修飾タンパク質が有する、グリケーションされたリジンの含有量が、55.0nmol/mL以上であるビールテイストアルコール飲料。
【請求項2】
前記糖修飾タンパク質が有する、グリケーションされたリジンの含有量が、57.0nmol/mL以上である請求項1に記載のビールテイストアルコール飲料。
【請求項3】
前記糖修飾タンパク質が有する、グリケーションされたリジンの含有量が、55.0~1000nmol/mLである請求項1又は2に記載のビールテイストアルコール飲料。
【請求項4】
前記グリケーションされたリジンのアミノ基にグリケーションしている糖が、単糖又は二糖である請求項1~3のいずれか一項に記載のビールテイストアルコール飲料。
【請求項5】
前記穀類が、大麦、小麦、トウモロコシ、イネ、大豆からなる群より選択される少なくとも1種である請求項1~4のいずれか一項に記載のビールテイストアルコール飲料。
【請求項6】
穀類由来タンパク質を構成するリジンのアミノ基がグリケーションされた、分子量35~50kDaの糖修飾タンパク質を含む、原料中の麦芽の比率が50重量%以上であるビールテイストアルコール飲料のコク味増強剤。
【請求項7】
原料中の麦芽の比率が50重量%以上であるビールテイストアルコール飲料に、穀類由来タンパク質を構成するリジンのアミノ基がグリケーションされた、分子量35~50kDaの糖修飾タンパク質を添加することにより、ビールテイストアルコール飲料のコク味を増強する、ビールテイストアルコール飲料のコク味増強方法であって、
前記糖修飾タンパク質が有する、グリケーションされたリジンの含有量が、55.0nmol/mL以上となるように前記糖修飾タンパク質を添加する、ビールテイストアルコール飲料のコク味増強方法
【請求項8】
前記グリケーションされたリジンを添加濃度で4.7nmol/mL以上添加する請求項7に記載のコク味増強方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ビールテイストアルコール飲料、ビールテイストアルコール飲料のコク味増強剤及びビールテイストアルコール飲料のコク味増強方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の消費者の嗜好の多様化にともなって、様々な香味特徴をもつビールテイストアルコール飲料の開発が望まれている。
【0003】
例えば、特許文献1にはビール様飲料のコク感等を増強するために、アルコール成分、
甘味系成分、アルデヒド系成分などをビール様飲料用風味改善剤とすることなどが開示さ
れている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2016-214262号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1のような風味改善剤は、香味に影響を与えるものであり、使
用に適さない場合もあった。
【0006】
また、ビールテイストアルコール飲料の原材料として穀類及びホップ以外の原料を使用しないことが好ましい場合があることから、穀類由来原料を使用してコク味を増強する方法が望まれていた。
【0007】
本発明は、穀類由来原料を用いてコク味の強いビールテイストアルコール飲料を提供することを目的とする。また、本発明は、穀類由来原料であるビールテイストアルコール飲料のコク味増強剤を提供することを目的とする。さらに、本発明は、穀類由来原料を用いたビールテイストアルコール飲料のコク味増強方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち、本発明は、以下のビールテイストアルコール飲料等に関する。
〔1〕原料中の麦芽の比率が50重量%以上であるビールテイストアルコール飲料であって、穀類由来タンパク質を構成するリジンのアミノ基がグリケーションされた、分子量35~50kDaの糖修飾タンパク質を含み、上記糖修飾タンパク質が有する、グリケーションされたリジンの含有量が、55.0nmol/mL以上であるビールテイストアルコール飲料。
〔2〕上記糖修飾タンパク質が有する、グリケーションされたリジンの含有量が、57.0nmol/mL以上である上記[1]に記載のビールテイストアルコール飲料。
〔3〕上記糖修飾タンパク質が有する、グリケーションされたリジンの含有量が、55.0~1000nmol/mLである上記〔1〕又は〔2〕に記載のビールテイストアルコール飲料。
〔4〕上記グリケーションされたリジンのアミノ基にグリケーションしている糖が、単糖又は二糖である上記〔1〕~〔3〕のいずれかに記載のビールテイストアルコール飲料。
〔5〕上記穀類が、大麦、小麦、トウモロコシ、イネ、大豆からなる群より選択される少なくとも1種である上記〔1〕~〔4〕のいずれかに記載のビールテイストアルコール飲料。
〔6〕穀類由来タンパク質を構成するリジンのアミノ基がグリケーションされた、分子量35~50kDaの糖修飾タンパク質を含む、原料中の麦芽の比率が50重量%以上であるビールテイストアルコール飲料のコク味増強剤。
〔7〕原料中の麦芽の比率が50重量%以上であるビールテイストアルコール飲料に、穀類由来タンパク質を構成するリジンのアミノ基がグリケーションされた、分子量35~50kDaの糖修飾タンパク質を添加することにより、ビールテイストアルコール飲料のコク味を増強する、ビールテイストアルコール飲料のコク味増強方法。
〔8〕上記グリケーションされたリジンを添加濃度で4.7nmol/mL以上添加する上記〔7〕に記載のコク味増強方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、穀類由来原料を用いてコク味の強いビールテイストアルコール飲料を提供することができる。また、穀類由来原料であるビールテイストアルコール飲料のコク味増強剤を提供することができる。さらに、穀類由来原料を用いたビールテイストアルコール飲料のコク味増強方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明のビールテイストアルコール飲料は、原料中の麦芽の比率が50重量%以上である。
麦芽の比率はより好ましくは100重量%である。
ここで「麦芽の比率」とは、麦芽、米、トウモロコシ、コウリャン、バレイショ、デンプ
ン、麦芽以外の麦、及び糖類など、水とホップ以外の原料中に占める麦芽の質量の比率を
いう。ただし、酸味料、甘味料、苦味料、調味料、香料など、微量に添加され得る成分に
ついては上記比率の計算に含めない。
【0011】
本発明のビールテイストアルコール飲料は、糖修飾タンパク質を含む。
糖修飾タンパク質は、その分子量が35~50kDaである。
【0012】
分子量35~50kDaのタンパク質は、ビールテイストアルコール飲料の原料液に対して30kDaのカットオフ膜を用いて限外濾過を行い、次いでSDS-PAGEによる電気泳動で測定される分子量が35~50kDaの領域にみられるタンパク質である。
好ましくは約40kDaのタンパク質であり、本明細書では約40kDaのタンパク質を40kDaタンパク質ともいう。
【0013】
糖修飾タンパク質は、穀類由来タンパク質である。
上記穀類は、大麦、小麦、トウモロコシ、イネ、大豆からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。
また、穀類が麦である場合、ビールテイストアルコール飲料の製造に使用される公知の麦に由来するタンパク質を含有することができる。このような麦としては、大麦、小麦、ライ麦、カラス麦、オート麦、エン麦などが挙げられ、好ましくは大麦である。また、発芽した麦、未発芽の麦のいずれでもよいが、好ましくは発芽した麦の麦芽である。これらは、単独で含有していてもよく、2種以上を組み合わせて含有していてもよい。
【0014】
糖修飾タンパク質は、穀類由来タンパク質を構成するリジンのアミノ基がグリケーションされたタンパク質である。
本発明の「リジンのアミノ基がグリケーションされた」とは、リジンのアミノ基に糖が結合していることを意味する。
リジンの有するアミノ基のうち、側鎖のアミノ基に糖がグリケーションしていることが好ましい。
リジンのアミノ基がグリケーションされていることの確認は、NBT法(Nitroblue tetrazolium法)により比色定量することにより行うことができる。
リジンのアミノ基にグリケーションしている糖は、単糖、二糖、三糖以上の多糖のいずれであってもよいが、単糖又は二糖であることが好ましい。
単糖としては、グルコース、フルクトース、ガラクトース、マンノースを含むすべての糖が挙げられる。
二糖としては、マルトース、ラクトース、アラビノース等のマルトース型二糖が挙げられる。
三糖としては、マルトトリオース、セルトリオース、フコシルラクトース、シアリルラクトース等が挙げられる。
【0015】
本発明のビールテイストアルコール飲料では、グリケーションされたリジンの含有量が55.0nmol/mL以上である。
また、グリケーションされたリジンの含有量が57.0nmol/mL以上であることが好ましく、80.0nmol/mL以上であることも好ましく、100nmol/mL以上であることも好ましい。
また、グリケーションされたリジンの含有量が55.0~1000nmol/mLであることが好ましく、80.0~1000nmol/mLであることも好ましく、100~1000nmol/mLであることも好ましい。
グリケーションされたリジンの含有量の定量は、NBT法により比色定量することにより行うことができる。
【0016】
本発明のビールテイストアルコール飲料は、上記のような糖修飾タンパク質を含有するために、コク味の強いビールテイストアルコール飲料とすることができる。
また、糖修飾タンパク質は穀類由来原料であるため、特許文献1に記載された風味改善剤のように香味に意図しない影響を与えることが防止される。また、ビールテイストアルコール飲料の原材料は穀類及びホップのみであることが好ましいので、糖修飾タンパク質が穀類由来原料であることはビールテイストアルコール飲料の原材料として好ましい特徴である。
【0017】
本発明において、「コク味」とは、5基本味、すなわち、甘味、塩味、酸味、苦味及びうま味では表せない味覚であり、味の強さ(飲み応え)、味の広がり、味の厚み、味の経時変化(余韻又は持続性)等によって表される味覚である。本発明においてコク味を増強するとは、例えば、コク味を有しない飲食品に、コク味を付与すること、コク味を有する飲食品のコク味を増強することを含む。コク味の有無や程度は、専門パネルによる官能評価によって評価することができる。
【0018】
本発明のビールテイストアルコール飲料は、プリン体濃度が0.1~20mg/100mLであることが好ましい。
プリン体濃度が上記範囲にあるビールテイストアルコール飲料について、糖修飾タンパク質を添加することによってコク味を特に増強させることができる。
【0019】
本発明のビールテイストアルコール飲料は、アルコールを含有するビールテイスト飲料である。アルコールとしてはエタノールを指し、エタノール含量としては容量比で1%~10%が好ましいが、特に限定されるものではない。さらに、該ビールテイストアルコール飲料に含まれるアルコール分の由来としては、醗酵、非醗酵に限定されるものではない。
【0020】
以下に、一般的なビールテイストアルコール飲料の製造工程を示す。
まず、麦芽等の麦の他、必要に応じて他の穀物、でんぷん、糖類、苦味料、又は着色料などの原料及び水を含む混合物に、必要に応じてアミラーゼなどの酵素を添加し、糊化、糖化を行なわせ、ろ過し、糖化液とする。必要に応じてホップや苦味料などを糖化液に加えて煮沸し、清澄タンクにて凝固タンパク質などの固形分を取り除く。この糖化液の代替として、麦芽エキスに温水を加えたものにホップを加えて煮沸してもよい。ホップは煮沸開始から煮沸終了前のどの段階で混合してもよい。糖化工程、煮沸工程、固形分除去工程などにおける条件は、知られている条件を用いればよい。醗酵・貯酒工程などにおける条件は、知られている条件を用いればよい。得られた醗酵液を濾過し、得られた濾過液に炭酸ガスを加える。その後、容器に充填し殺菌工程を経て目的のビールテイストアルコール飲料を得る。上記各工程においてコク味増強剤の添加は、充填までのどの工程で行ってもよい。
【0021】
非醗酵かつアルコールを含有するビールテイストアルコール飲料は、原料用アルコールなどを加えることにより最終製品のアルコール分を調整したものでもよい。原料用アルコールの添加は、糖化工程から充填工程までのどの工程で行ってもよい。
【0022】
本発明に係るビールテイストアルコール飲料のアルコール度数は、飲料中のアルコール分の含有量(v/v%)を意味し、公知のいずれの方法によっても測定することができるが、例えば、振動式密度計によって測定することができる。具体的には、飲料から濾過又は超音波によって炭酸ガスを抜いた試料を調製し、そして、その試料を直火蒸留し、得られた留液の15℃における密度を測定し、国税庁所定分析法(平19国税庁訓令第6号、平成19年6月22日改訂)の付表である「第2表 アルコール分と密度(15℃)及び比重(15/15℃)換算表」を用いて換算して求めることができる。アルコール度が1.0%未満の低濃度の場合は、市販のアルコール測定装置や、ガスクロマトグラフィーを用いても良い。
【0023】
本発明に係るビールテイストアルコール飲料に、酒感を付与する観点から、脂肪族アルコールを添加してもよい。脂肪族アルコールとしては、公知のものであれば特に制限されないが、炭素数4~5の脂肪族アルコールが好ましい。本発明において、好ましい脂肪族アルコールとしては、炭素数4のものとして、2-メチル-1-プロパノール、1-ブタノール等が、炭素数5のものとして、3-メチル-1-ブタノール、1-ペンタノール、2-ペンタノール等が挙げられる。これらは1種又は2種以上の組み合せで用いることができる。
炭素数4~5の脂肪族アルコールの含有量は好ましくは0.0002~0.0007質量%であり、より好ましくは0.0003~0.0006質量%である。本明細書において、脂肪族アルコールの含有量は、ヘッドスペースガスクロマトグラフ法を用いて測定することができる。
【0024】
本発明に係るビールテイストアルコール飲料に含まれる糖質とは、食品の栄養表示基準(平成15年厚生労働省告示第176号)に基づく糖質をいう。具体的には、糖質は、食品から、タンパク質、脂質、食物繊維、灰分、アルコール分及び水分を除いたものをいう。また、食品中の糖質の量は、当該食品の重量から、タンパク質、脂質、食物繊維、灰分及び水分の量を控除することにより算定される。この場合に、タンパク質、脂質、食物繊維、灰分及び水分の量は、栄養表示基準に掲げる方法により測定する。具体的には、タンパク質の量は窒素定量換算法で測定し、脂質の量はエーテル抽出法、クロロホルム・メタノール混液抽出法、ゲルベル法、酸分解法またはレーゼゴットリーブ法で測定し、食物繊維の量は高速液体クロマトグラフ法またはプロスキー法で測定し、灰分の量は酢酸マグネシウム添加灰化法、直接灰化法または硫酸添加灰化法で測定し、水分の量はカールフィッシャー法、乾燥助剤法、減圧過熱乾燥法、常圧加熱乾燥法またはプラスチックフィルム法で測定する。
【0025】
本発明に係るビールテイストアルコール飲料は、近年の低糖質嗜好に合わせて、低糖質であってもよい。従って、本発明に係るビールテイストアルコール飲料の糖質の含有量は、2.5g/100mL未満であってもよく、0.5g/100mL未満であってもよい。また、下限は特に設定されないが、通常、0.1g/100mL程度であり、例えば、0.15g/100mL以上であっても、0.2g/100mL以上であってもよい。
【0026】
本発明に係るビールテイストアルコール飲料においては、原料の一部にホップを用いることができる。
ホップを使用する際には、ビール等の製造に使用される通常のペレットホップ、粉末ホップ、ホップエキスを、所望の香味に応じて適宜選択して使用することができる。また、イソ化ホップ、還元ホップなどのホップ加工品を用いてもよい。本発明に係るビールテイストアルコール飲料に使用されるホップには、これらのものが包含される。また、ホップの添加量は特に限定されないが、典型的には、飲料全量に対して0.0001~1重量%程度である。
【0027】
本発明に係るビールテイストアルコール飲料は、本発明の効果を妨げない範囲で、必要に応じて、その他の原料を用いてもよい。例えば、甘味料(高甘味度甘味料を含む)、苦味料、香料、酵母エキス、カラメル色素などの着色料、大豆サポニンやキラヤサポニン等の植物抽出サポニン系物質、コーンや大豆などの植物タンパク質およびペプチド含有物、ウシ血清アルブミン等のタンパク質系物質、食物繊維やアミノ酸などの調味料、アスコルビン酸等の酸化防止剤を、本発明の効果を妨げない範囲で必要に応じて用いることができる。
【0028】
本発明に係るビールテイストアルコール飲料は、容器詰めとすることができる。容器の形態は何ら制限されず、ビン、缶、樽、またはペットボトル等の密封容器に充填して、容器入り飲料とすることができる。
【0029】
本発明のコク味増強剤は、穀類由来タンパク質を構成するリジンのアミノ基がグリケーションされた、分子量35~50kDaの糖修飾タンパク質を含む、原料中の麦芽の比率が50重量%以上であるビールテイストアルコール飲料のコク味増強剤である。
【0030】
本発明のコク味増強剤は、ビールテイストアルコール飲料のコク味を増強するために用いられる、糖修飾タンパク質そのもの又は糖修飾タンパク質を含む組成物である。
糖修飾タンパク質は、穀類由来タンパク質を構成するリジンのアミノ基がグリケーションされた分子量35~50kDaのタンパク質であり、その詳細は上述した通りである。
コク味増強剤が糖修飾タンパク質を含む組成物である場合、本発明の効果を阻害しない限りにおいて、飲料に添加することのできる公知の添加剤が任意に含まれていてもよい。
【0031】
本発明のコク味増強剤に含まれる糖修飾タンパク質における、グリケーションされたリジンの含有量は、糖修飾タンパク質1μgあたりのグリケーションされたリジンの含有量(nmol)として、0.04nmol/μg以上であることが好ましく、0.4nmol/μg以上であることがより好ましい。
このような糖修飾タンパク質は、糖修飾タンパク質中においてグリケーションされたリジンの含有量が多いので、少量の使用でビールテイストアルコール飲料のコク味を増強することができるコク味増強剤として使用することができる。
【0032】
本発明のコク味増強剤は、穀類由来タンパク質を構成するリジンのアミノ基がグリケーションされた分子量35~50kDaの糖修飾タンパク質を多く含む、北米産麦芽から醸造したビールから精製することによって得ることができる。
また、穀類由来タンパク質を構成するリジンのアミノ基がグリケーションされた分子量35~50kDaの糖修飾タンパク質を含む麦芽又は大麦から精製することによって得ることもできる。
また、マッシングにより、リジンのアミノ基がグリケーションされた分子量35~50kDaの糖修飾タンパク質を多く含むようにタンパク質を抽出するようにしてもよい。
【0033】
本発明のビールテイストアルコール飲料の製造方法は、特に限定されるものではないが、原料中の麦芽の比率を50重量%以上とし、分子量35~50kDaの糖修飾タンパク質の含有量を増やす工程を有する製造方法が例示される。
より具体的には、原料中の麦芽の比率が50重量%以上であるビールテイストアルコール飲料に、穀類由来タンパク質を構成するリジンのアミノ基がグリケーションされた分子量35~50kDaの糖修飾タンパク質を添加することにより、コク味が増強されたビールテイストアルコール飲料を得る方法が挙げられる。
当該方法によるビールテイストアルコール飲料の製造方法は、本発明のビールテイストアルコール飲料のコク味増強方法でもある。
【0034】
ビールテイストアルコール飲料に対してコク味増強剤を添加する場合、コク味増強剤の添加量は、糖修飾タンパク質が有する、グリケーションされたリジンの含有量が、55.0nmol/mL以上となるようにすることが好ましい。
また、糖修飾タンパク質が有する、グリケーションされたリジンの含有量が、80.0nmol/mL以上となるようにすることも好ましく、100nmol/mL以上となるようにすることも好ましい。
この場合、コク味増強剤の添加量は、糖修飾タンパク質の量として5μg/mL以上となるようにすることが好ましい。
【0035】
また、本発明のビールテイストアルコール飲料のコク味増強方法においては、グリケーションされたリジンを添加濃度で4.7nmol/mL以上添加することが好ましい。
添加濃度として4.7nmol/mL以上添加することにより、ビールテイストアルコール飲料のコク味を増強することができる。
【0036】
また、本発明のビールテイストアルコール飲料のコク味増強方法においては、グリケーションされたリジンを添加濃度で37.6nmol/mL以上添加することが好ましい。
グリケーションされたリジンの添加濃度が上記範囲以上であると、グリケーションされたリジンを含む糖修飾タンパク質の添加により、コク味が少ないビールテイストアルコール飲料に対してもコク味増強効果を効果的に発揮させることができる。
【実施例
【0037】
(ビール由来の糖修飾タンパク質の精製)
北米産麦芽を適当な粒度に粉砕し仕込み槽に入れた後温水と混ぜ合わせた。麦芽酵素に適した温度で、糖化に十分な時間保持し、麦芽の酵素の働きででんぷん質を糖分に変換させ、糖化液を製造した。その後、糖化液をろ過してホップを加え、煮沸し、熱麦汁を製造し、発酵に備えた。熱麦汁を冷却し、これにビール酵母を加えた。数日の間に酵母の働きにより、麦汁中の糖分をアルコールと炭酸ガスに分解させ若ビールを製造した。若ビールを貯酒タンクに移し、低温で数十日間貯蔵した。この間にビールを熟成させ、ビールの味と香りを調和させた。熟成終了後、ビールをろ過し瓶詰を行った。
上記の方法で北米産麦芽から醸造したビール(1L)から下記に従い糖修飾タンパク質の精製を行った。
(1)陽イオン交換樹脂による分画
陽イオン交換樹脂SP Sepharose50mLを空きカラムに入れた。北米産麦芽から醸造したビールを樹脂に吸着させた。その後、樹脂をカラムに移し替え、20mM酢酸ナトリウム緩衝液(pH4.5)で洗浄した。次いで、20mM酢酸ナトリウム(pH4.5)+0.5M-NaClで溶出し画分を集めた。得られた画分をSDS-PAGEで評価し、40kDaの糖修飾タンパク質が含まれる画分を集め陽イオン交換樹脂結合画分とした。
(2)限外濾過(バッファー交換)
水洗浄した限外ろ過ユニット(Merck製 Amicon Ultra-15 30K)に(1)で得た陽イオン交換樹脂結合画分を10mLずつ添加し、3500rpmで遠心し限外ろ過し濃縮液を得た。
(3)硫安分画
(2)で得た濃縮液を、20mMリン酸バッファー(pH7.0)+2M硫酸アンモニウムをビーカーに入れ濃縮液を滴下、撹拌した。次に懸濁液を遠心(2330g、10分間、室温)した。上清を別容器に集めた。集めた溶液は限外ろ過ユニットを用いて濃縮した。濃縮液を20mM酢酸ナトリウム(pH4.5)に加え遠心(2330g、10分間、室温)し、濃縮を行い、糖修飾タンパク質精製品(Bradford定量(ウシ血清アルブミン(BSA)換算)、20.4mg/mL、2.21mL)を得た。得られた糖修飾タンパク質精製品の純度はSDS-PAGEで確認した。
【0038】
(麦芽由来の糖修飾タンパク質の精製)
北米産麦芽から下記に従い糖修飾タンパク質の精製を行った。
(1)麦芽の凍結粉砕
麦芽110gをボールミルに入れ、液体窒素で冷却後、粉砕(1100rpm、10分間)し、麦芽粉砕物とした。
(2)麦芽抽出液の調製
麦芽粉砕物100gを、水1Lを入れた三角フラスコに加え1時間撹拌した。その後、麦芽粉砕物懸濁液を遠心チューブに入れ、4℃、10分間、8000回転で遠心し、遠心上清を麦芽抽出液とした。
(3)硫安分画
(3-1)40%飽和硫安処理
麦芽抽出液1Lをビーカーに入れ、1Lあたり243gの硫酸アンモニウムを加え撹拌したのち、ビーカーの内容物を遠心チューブに入れ、4℃、10分間、8000回転で遠心し、遠心上清として40%飽和硫安処理画分を得た。
(3-2)40%-60%飽和硫安処理
40%飽和硫安処理画分全量をビーカーに入れ、1Lあたり123gの硫酸アンモニウムを加えた(ここで加えた硫酸アンモニウムの量は、麦芽抽出液の量を基準に算出した)。その後、撹拌したのち、ビーカーの内容物を遠心チューブに入れ、4℃、10分間、8000回転で遠心し、沈殿画分を回収し、麦芽抽出液の硫安分画物とした。
(3-3)硫安分画物のバッファー交換
麦芽抽出液の硫安分画物を可能な限り少量の20mMリン酸バッファー(pH9.0)に懸濁し、濁度が取れるまで20mMリン酸バッファー(pH9.0)を加えた。その後、限外ろ過ユニット(Merck製 Amicon Ultra-15 30K)を用いた限外ろ過により、20mMリン酸バッファー(pH9.0)に対し、バッファー交換を行った。
(4)陰イオン樹脂分画
陰イオン樹脂 Q Sepharose 100mLをエコノカラムに詰めた。
麦芽抽出液の硫安分画物のバッファー交換した画分に20mMリン酸バッファー(pH9.0)を加えた。その液に20mMリン酸バッファー(pH9.0)で平衡化したQ Sepharose 100mLを加えバッチ吸着を行った。
その後、ビーカーの内容物をカラムに詰め、素通り画分を集めた。
次いで、20mMリン酸バッファー(pH9.0)500mLを負荷した。
以下、0.1M NaClを含む20mMリン酸バッファー(pH9.0)300mL、0.2M NaClを含む20mMリン酸バッファー(pH9.0)300mL、0.3M NaClを含む20mMリン酸バッファー(pH9.0)300mL、0.5M NaClを含む20mMリン酸バッファー(pH9.0)300mLを負荷した。
得られた画分をSDS-PAGEなどで分析し、40kDaの含まれる画分を集めた。これらの40kDaの含まれる画分を陰イオン交換樹脂結合画分とした。
(5)陰イオン交換樹脂結合画分のバッファー交換
(5-1)65%飽和硫安による濃縮
麦芽抽出物の陰イオン交換樹脂結合画分1Lあたり430gの硫酸アンモニウムをビーカー中で加えた。その後、1時間撹拌したのち、ビーカーの内容物を遠心チューブに入れ、4℃、10分間、8000回転で遠心し、沈殿画分を回収し、麦芽抽出物の陰イオン交換樹脂結合画分の濃縮物とした。
(5-2)限外ろ過によるバッファー交換
麦芽抽出物の陰イオン交換樹脂結合画分の濃縮物を可能な限り少量の20mM酢酸ナトリウムバッファー(pH4.5)に懸濁した。その後、限外ろ過ユニット(Merck製 Amicon Ultra-15 30K)を用いて、限外ろ過により、20mM酢酸バッファー(pH4.5)に対し、バッファー交換を行った。
(6)陽イオン樹脂分画
陽イオン樹脂 SP Sepharose100mLをカラムに詰めた。
ビーカーを用意して、麦芽抽出物陰イオン交換樹脂結合画分の濃縮物のバッファー交換した画分に20mM酢酸ナトリウムバッファー(pH4.5)を加えた。その液に酢酸ナトリウムバッファー(pH4.5)で平衡化したSP Sepharose 100mLを加え、バッチ吸着を行った。次にビーカーの内容物をカラムに詰め、素通り画分を集めた。
次いで、20mM酢酸ナトリウムバッファー(pH4.5)300mLで溶出した。以下、0.1M NaClを含む20mM酢酸ナトリウムバッファー(pH4.5)300mL、0.2M NaClを含む20mM酢酸ナトリウムバッファー(pH4.5)300mL、0.3M NaClを含む20mM酢酸ナトリウムバッファー(pH4.5)300mLで溶出した。得られた画分をSDS-PAGEで分析し、40kDaの含まれる画分を集めた。これらの40kDaの含まれる画分を麦芽抽出物の陰イオン交換樹脂結合/陽イオン交換樹脂結合画分とした。
(7)麦芽抽出物陰イオン交換樹脂結合/陽イオン交換樹脂結合画分のバッファー交換
(7-1)65%飽和硫安による濃縮
麦芽抽出物陰イオン交換樹脂結合/陽イオン交換樹脂結合画分1Lあたり430gの硫酸アンモニウムをビーカー中で撹拌しながら加えた。その後、1時間撹拌したのち、ビーカーの内容物を遠心チューブに入れ、4℃、10分間、8000回転で遠心し、沈殿画分を回収し、濃縮物とした。
(7-2)限外ろ過によるバッファー交換
濃縮物を可能な限り少量の20mM酢酸ナトリウムバッファー(pH4.5)に懸濁し、濁度が取れるまで20mM酢酸バッファー(pH4.5)を加えた。その後、限外ろ過ユニット(Merck製 Amicon Ultra-15 30K)を用いて、限外ろ過により、20mM酢酸ナトリウムバッファー(pH4.5)を用いバッファー交換を行い、麦芽由来の糖修飾タンパク質精製品を得た(2.5mg/mL、6.23mL)。
【0039】
(大麦由来の糖修飾タンパク質の精製)
北米産大麦から下記に従い糖修飾タンパク質の精製を行った。
(1)大麦の脱穀
北米産大麦451.88gを精米器(SATAKE ギャバミルRSKM 3D)で脱穀し394.02gの精麦を得た。
(2)精麦の凍結粉砕
精麦394.02gをボールミルに入れ、液体窒素で冷却後、粉砕し(1100rpm、10分間を2回)、大麦粉砕物とした。
(3)大麦抽出液の調製
大麦粉砕物を、水5Lを入れた三角フラスコに加え、1時間撹拌した。その後、大麦粉砕物懸濁液を遠心チューブに入れ、4℃、8000回転で10分間、遠心し、遠心上清を大麦抽出液とした。
(4)硫安分画
(4-1)40%飽和硫安処理
大麦抽出液をビーカーに入れ、スターラーバーで撹拌しながら1Lあたり243gの硫酸アンモニウムを加え1時間撹拌したのち、ビーカーの内容物を遠心チューブに入れ、4℃、10分間、8000回転で遠心し、遠心上清4.9Lを回収し40%飽和硫安処理画分とした。
(4-2)40%-60%飽和硫安処理
40%飽和硫安処理画分全量をビーカーに入れ、スターラーバーで撹拌しながら1Lあたり123gの硫酸アンモニウムを加え1時間撹拌したのち、ビーカーの内容物を遠心チューブに入れ、4℃、10分間、8000回転で遠心し、沈殿画分を回収し大麦抽出液の硫安分画物とした。
(4-3)硫安分画物のバッファー交換
麦芽抽出液の硫安分画物の20mMリン酸ナトリウムバッファー(pH6.5)を加えた。その後、限外ろ過ユニット(Merck製 Amicon Ultra-15 30K)による限外ろ過を行い、20mMリン酸バッファー(pH6.5)を用いてバッファー交換を行った。
(5)陰イオン樹脂分画
陰イオン樹脂 Q Sepharose 300mLをエコノカラムに詰めた。
ビーカーを用意して、大麦抽出液の硫安分画物のバッファー交換した画分に、Q Sepharose300mLを加え、バッチ吸着を行った。
その後、ビーカーの内容物をカラムに詰め、素通り画分を集めた。
次いで、20mMリン酸バッファー(pH6.5)3000mLを負荷した。
次いで、0.1M NaClを含む20mMリン酸バッファー(pH6.5)900mL、0.2M NaClを含む20mMリン酸バッファー(pH6.5)900mL、0.3M NaClを含む20mMリン酸バッファー(pH6.5)900mLを負荷した。画分は300mL毎に集めSDS-PAGEで分析し、40kDaの含まれる画分を回収し陰イオン交換樹脂結合画分とした。
さらに濃縮物を可能な限り少量の20mM酢酸ナトリウムバッファー(pH4.5)に懸濁し、濁度が取れるまで20mM酢酸バッファー(pH4.5)を加えた。
その後、限外ろ過ユニット(Merck製 Amicon Ultra-15 30K)を用いて、限外ろ過により、20mM酢酸ナトリウムバッファー(pH4.5)を用いバッファー交換を行い、大麦由来の糖修飾タンパク質を得た(1.14mg/mL、16.1mL)。
【0040】
(糖修飾タンパク質の修飾解析)
(1)ゲル片の調製
精製した糖修飾タンパク質溶液(濃度1mg/mL、20mM酢酸ナトリウムバッファー(pH4.5))10μLをSDS-PAGEで泳動しCBB(クマシーブリリアントブルー)で染色後、40kDa付近の糖修飾タンパク質のゲルを切り出した。
【0041】
(2)タンパク質の酵素消化
切り出したゲル片を細切し、ジチオスレイトールによる還元(56℃、1時間)、ヨードアセトアミドによるカルバミドメチル化(遮光下、室温、45分間)を行った。次いで0.01%ProteaseMax含有10ng/μLキモトリプシン溶液(5mM塩化カルシウム、50mM炭酸水素アンモニウム溶液)15μL、5mM塩化カルシウム、50mM炭酸水素アンモニウム溶液15μLを添加し一晩インキュベートした後、酵素消化液を回収した。回収した溶液を減圧乾固し、0.1%ギ酸溶液に再溶解した。
【0042】
(3)LC-MS/MSによる測定
LC-MS/MSの測定は下記の条件で行った。
使用装置:ダイレクトフローnanoLCシステムEasy-nLC 1000TM (Thermo Scientific)
トラップカラム:Acclaim PepMap(登録商標)(Thermo Scientific)
分析カラム:NANO HPLC CAPILLARY COLUMN (日京テクノス(株))
液体クロマトグラフ質量分析計 Q Exactive Plus (Thermo Scientific)
移動相:A液:0.1%ギ酸/水、B液:0.1%ギ酸/アセトニトリル
流速:300nL/min
グラジエント:0-40%B/0-30min、40-60%B/30-35min、60-90%B/35-37min、90%B/37-45min
注入量:10μL
イオン化モード:ESI Positive
測定範囲:MS1(m/z 350-1750)
Data Dependent Scanモード
【0043】
(4)タンパク質および修飾解析
タンパク質同定および修飾検索は下記の条件で行った。
検索ソフト:Proteome Discoverer2.2.0.388(ThermoFisher製)
生物種:大麦(Hordeum vulgare)、ホップ(Humulus)、酵母(Saccharomyces cerevisiae)
検索条件:消化酵素:Chymotrypsin
修飾(Static):Carbamidomethyl (Cysteine)
修飾(Dynamic):Oxidation(Methionine), Hex(K, R, Protein N-term)、 Hex(2)(K, R, Protein N-term)、Hex(3)(K, R, Protein N-term)、Acetyl(Protein N-term)
プリカーサーイオン質量誤差範囲:Monoisotopic、±10ppm
プロダクトイオン質量誤差範囲:±0.02Da
最大ミスクリベージ数:5
コンフィデンスレベル(Percolator):High(確からしさ3段階のうち最も確率が高いレベル)
データベース:SwissProt
【0044】
修飾解析の結果、糖修飾タンパク質のリジンのアミノ基がグリケーションされていることを確認した。
【0045】
(糖修飾タンパク質の糖修飾度の評価)
精製した糖修飾タンパク質の糖修飾度はFructosamine Assay kit(abcam社製品、ab228558)を用いてNBT法にて比色定量した。
大麦由来精製糖修飾タンパク質、麦芽由来精製糖修飾タンパク質、ビール由来精製糖修飾タンパク質の糖修飾度を求めた。
各タンパク質につき試験数はn=2として、平均値を採用した。
各精製糖修飾タンパク質の重量あたりの糖修飾度は表3に示した。
【0046】
(市販ビール中のグリケーションされたリジンの濃度の測定)
いずれも麦芽比率50重量%以上である市販ビールA、B中のグリケーションされたリジンの濃度の測定は下記に従い行った。
(1)市販ビールA、Bからの糖修飾タンパク質の精製
北米産麦芽から醸造したビールからの糖修飾タンパク質の精製と同様にして、市販ビールA、Bから糖修飾タンパク質の精製を行った。
市販ビールAより糖修飾タンパク質溶液を得た。市販ビールBより糖修飾タンパク質溶液を得た。
(2)市販ビールA、Bから精製した糖修飾タンパク質の糖修飾度の評価
市販ビールA、Bから精製した糖修飾タンパク質の糖修飾度は、北米産大麦、北米産麦芽、北米産麦芽から醸造したビールから精製した糖修飾タンパク質の糖修飾度の測定方法と同様にしてNBT法で測定した。
(3)市販ビール中の糖修飾タンパク質の濃度測定
市販ビールA、Bのビール中の糖修飾タンパク質の濃度はLabChipTM GXII 装置(パーキンエルマー製)でHT Protein Expressチップを用いて、標準プロトコールに従い実施した(n=2)。
(4)市販ビール中のグリケーションされたリジンの濃度の算出
市販ビールA、B中のグリケーションされたリジンの濃度は下記の式に従い求めた。
(糖修飾タンパク質のタンパク質重量あたりのグリケーションされたリジンの濃度)×(ビール中の糖修飾タンパク質の濃度)=ビール中のグリケーションされたリジンの濃度
市販ビールA中のグリケーションされたリジンの濃度は、52.6nmol/mL、市販ビールB中のグリケーションされたリジンの濃度は、10.9nmol/mLであった。
【0047】
(市販ビールAに糖修飾タンパク質を添加した場合のコク味評価)
市販ビールAに、ビール由来精製糖修飾タンパク質を添加し、コク味の官能評価を行った。
市販ビールAのプリン体濃度は10.4mg/100mLである。
総プリン体濃度は、日本食品分析センターで分解法にて実施した(以下同様)。
市販ビールAの官能評価は、糖修飾タンパク質の添加をしていない市販ビールAのコク味を基準点の1.5点とし、市販ビールAにビール由来糖修飾タンパク質を25μg/mL添加した場合のコク味を基準点の2.0点とし、専門パネル4名により0.1点刻みでスコア化した。
糖修飾タンパク質の添加濃度を変化させて評価を行い、その結果を表1に示した。
コク味は以下の基準とした。
0点:全く感じられない
1点:やや感じられる
2点:明確に感じる
3点:非常に強く感じる
表1には、ビールテイストアルコール飲料における、糖修飾タンパク質が有するグリケーションされたリジンの含有量(nmol/mL)を示している。
【0048】
【表1】
【0049】
表1に示す結果から、ビールに対して糖修飾タンパク質を添加して、グリケーションされたリジンの含有量を増加させることによって、ビールテイストアルコール飲料のコク味を増強できることが分かる。
【0050】
(市販ビールBに糖修飾タンパク質を添加した場合のコク味評価)
市販ビールBにビール由来糖修飾タンパク質を添加し、コク味の官能評価を行った。
市販ビールBは、市販ビールAに比べてコク味が少ないとされているビールである。
市販ビールBのプリン体濃度は5.34mg/100mLである。
官能評価は、市販ビールAにビール由来糖修飾タンパク質を添加した場合のコク味評価と同様にした。
糖修飾タンパク質の添加をしていない市販ビールAのコク味を基準点の1.5点とし、市販ビールAにビール由来糖修飾タンパク質を25μg/mL添加した場合のコク味を基準点の2.0点としている。
表2には、ビールテイストアルコール飲料における、糖修飾タンパク質が有するグリケーションされたリジンの含有量(nmol/mL)を示している。
また、市販ビールBに対する糖修飾タンパク質の添加ありの場合のコク強度の変化を「Δコク強度」として示している。
【0051】
【表2】
【0052】
表2に示す結果から、元々コク味が少ないとされるビールに対しても、糖修飾タンパク質を添加して、グリケーションされたリジンの含有量を増加させることによって、コク味を増強できることが分かる。
【0053】
(糖修飾度の異なる糖修飾タンパク質のビールへの添加効果)
大麦由来の糖修飾タンパク質、麦芽由来の糖修飾タンパク質、ビール由来の糖修飾タンパク質をそれぞれ市販ビールAに添加し、そのコク味への効果を官能評価した。
なお、それぞれの精製タンパク質の糖修飾度は表3に示す通りであった。
【表3】
【0054】
官能評価は、市販ビールAにビール由来糖修飾タンパク質を添加した場合のコク味評価と同様にした。
糖修飾タンパク質の添加をしていない市販ビールAのコク味を基準点の1.5点とし、市販ビールAにビール由来糖修飾タンパク質を25μg/mL添加した場合のコク味を基準点の2.0点としている。
市販ビールAに各糖修飾タンパク質を添加して評価を行い、その結果を表4に示した。
糖修飾タンパク質の添加量はいずれも25μg/mLとした。
表4には、ビールテイストアルコール飲料における、糖修飾タンパク質が有するグリケーションされたリジンの含有量(nmol/mL)を示している。
【表4】
【0055】
表4に示す通り、糖修飾タンパク質の添加量が同じであっても、糖修飾タンパク質の糖修飾度によってコク強度が異なり、糖修飾度に応じてコクが向上することが明らかになった。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明によれば、穀類由来原料を用いてコク味の強いビールテイストアルコール飲料を提供することができる。