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<図1>
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-13
(45)【発行日】2023-07-24
(54)【発明の名称】金属細管の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 26/352 20140101AFI20230714BHJP
   B23K 26/08 20140101ALI20230714BHJP
   B23K 26/082 20140101ALI20230714BHJP
【FI】
B23K26/352
B23K26/08 D
B23K26/082
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020505042
(86)(22)【出願日】2019-03-05
(86)【国際出願番号】 JP2019008586
(87)【国際公開番号】W WO2019172234
(87)【国際公開日】2019-09-12
【審査請求日】2022-01-14
(31)【優先権主張番号】P 2018039443
(32)【優先日】2018-03-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】595138155
【氏名又は名称】ダイセルミライズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087642
【弁理士】
【氏名又は名称】古谷 聡
(72)【発明者】
【氏名】板倉 雅彦
(72)【発明者】
【氏名】清水 潔
(72)【発明者】
【氏名】宇野 孝之
(72)【発明者】
【氏名】片山 昌広
【審査官】黒石 孝志
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-124330(JP,A)
【文献】特開2016-078090(JP,A)
【文献】特開2017-496(JP,A)
【文献】国際公開第2017/216315(WO,A1)
【文献】特開2017-51331(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 26/00 - 26/70
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
外径0.2mm~3mm、厚さ0.05mm~0.3mmであり、外表面側に粗面化された表層部を有する金属細管の製造方法であって、
前記金属細管の内側に支持棒を差し込んだ状態で前記金属細管を回転させながら、前記金属細管の長さ方向に沿って前記金属細管に連続波レーザー光を連続照射することで前記金属細管の外表面側に粗面化された表層部を形成させる工程を有しており、
前記金属細管の回転速度が50~1000r/min、前記金属細管の回転時の周速度が0.002~0.3mm/msecであり、
前記連続波レーザーの照射速度が2000mm/sec以上である、金属細管の製造方法。
【請求項2】
前記金属細管の長さ方向に連続波レーザー光を連続照射するとき、レーザー光の照射部分と非照射部分が交互に生じるように照射する、請求項1記載の金属細管の製造方法。
【請求項3】
前記連続波レーザー光の連続照射工程が、前記金属細管の長さ方向の一方向に対してレーザー発振器およびミラーを使用して始点S1から終点F1までレーザー光を照射するとき、
始点S1から終点F1までレーザー光を照射する第1工程と、前記ミラーを調整することによって、レーザー光を照射することなくレーザー光の照射可能位置を前記始点S1方向に戻す第2工程を有しており、
前記第1工程が、
前記第1工程において始点S1から終点F1までレーザー光を照射するとき、前記始点S1からレーザー光の照射を開始する前において、前記始点S1に至る前のレーザー光を照射しないヘッドタイム(前記ヘッドタイム開始時の位置をH1とする)が存在し、前記終点Fまでレーザー光を照射した後において、前記終点F1からレーザー光を照射しないテールタイム(前記テールタイム終了時の位置をT1とする)が存在しており、
前記ヘッドタイム、前記始点S1から終点F1までのレーザー光の照射時間、およびテールタイムの合計時間(msec)が第1工程の処理時間であり、
前記第2工程が、
前記第1工程のテールタイム終了位置T1からレーザー光を照射することなく、前記第1工程のヘッドタイム開始位置H1から周方向に移動したH2まで戻す工程であり、
前記T1からH2まで戻す時間(msec)が第2工程の処理時間であり、
前記第1工程と前記第2工程を1サイクルとして、第1サイクルから第nサイクル(nは2以上の正の整数)まで繰り返し実施するとき、
1サイクルの処理時間が、第1工程の処理時間と第2工程の処理時間の合計時間(msec)であり、
下記の(a)~(c)の1、2または3の要件を満たすようにすることで前記1サイクルの処理時間を1~200msecの範囲に調整する、請求項1または2記載の金属細管の製造方法。
(a)第1工程におけるレーザー光の照射速度を調整することにより1サイクルの処理時間を調整する。
(b)第2工程の戻り速度を調整することにより1サイクルの処理時間を調整する。
(c)ヘッドタイムとテールタイムの一方または両方を調整することにより1サイクルの処理時間を調整する。
【請求項4】
前記金属細管の内側に支持棒を差し込み、前記金属細管の外側に冷却用筒状体を嵌め込んだ状態で、前記筒状の冷却用筒状体を回転させることで前記金属細管を回転させる、請求項1~3のいずれか1項記載の金属細管の製造方法。
【請求項5】
前記金属細管の内側に差し込まれた支持棒が固定されており、前記金属細管を回転させたときに前記支持棒が回転されない、請求項1~4のいずれか1項記載の金属細管の製造方法。
【請求項6】
前記金属細管が医療用具を用途とする、請求項1~5のいずれか1項記載の金属細管の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粗面化された表層部を有する金属細管の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
各種部品の軽量化の観点から、金属代替品として樹脂成形体が使用されているが、全ての金属部品を樹脂で代替することは難しい場合も多い。そのような場合には、金属成形体と樹脂成形体を接合一体化することで新たな複合部品を製造することが考えられ、前記接合一体化技術として、レーザー光を利用して金属成形体と樹脂成形体を接合する技術が知られている。
【0003】
特開2016-78090号公報には、連続波レーザー光と冷却手段を使用して、表層部に多孔構造を有する金属成形体の製造方法と、それを利用した複合成形体の製造方法の発明が記載されている。
【0004】
金属成形体としては、平板、直方体、立方体、円錐、角錐、円柱のほか、リング、筒、管、箱、半球、球、立体格子や木の枝のような複雑な形状のもの、針、ワイヤのような細いものも適用対象となっている(段落番号0016)。
発明の概要
【0005】
本発明は、注射器の注射針などとして使用できる、粗面化された表層部を有する金属細管の製造方法を提供することを課題とする。
【0006】
本発明は、外径0.2mm~3mm、厚さ0.05mm~0.3mmであり、外表面側に粗面化された表層部を有する金属細管の製造方法であって、
前記金属細管の内側に支持棒を差し込んだ状態で前記金属細管を回転させながら、前記金属細管の長さ方向に沿って前記金属細管に連続波レーザー光を連続照射することで前記金属細管の外表面側に粗面化された表層部を形成させる工程を有しており、
前記金属細管の回転速度が50~1000r/minであり、
前記連続波レーザーの照射速度が2000mm/sec以上である、金属細管の製造方法を提供する。
【0007】
本発明の製造方法によれば、外径0.2mm~3mm、厚さ0.05mm~0.3mmという、細くかつ薄肉の金属細管を寸法変化させることなく、その外表面側に粗面化された表層部を形成させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の製造方法で使用する金属細管の斜視図。
図2】本発明の製造方法で使用する支持棒の斜視図。
図3】本発明の製造方法で使用する冷却用筒状体の斜視図。
図4】本発明の製造方法の一実施形態を説明するための軸方向断面図。
図5】本発明の製造方法の他実施形態を説明するための軸方向断面図。
図6】連続波レーザー光の照射形態の説明図。
図7】本発明の製造方法により得られた粗面化された表層部を有する金属細管の斜視図。
図8】実施例3で得られた金属細管の粗面化された面のSEM写真。
図9】実施例4で得られた金属細管の粗面化された面のSEM写真。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面により本発明の製造方法を説明する。
【0010】
図1は、本発明の製造方法(例えば図4に示す1つの実施形態と図5に示す別の実施形態)で使用する金属細管10の斜視図である。金属細管10の金属は特に制限されるものではなく、本発明の製造方法で得られる外表面側に粗面化された表層部を有する金属細管(以下「最終金属細管」という)の用途に応じて公知の金属から適宜選択することができる。
【0011】
金属の例としては、鉄、アルミニウム、亜鉛、チタン、銅、マグネシウムおよびそれらを含む合金;各種ステンレス;タングステンカーバイド、クロミウムカーバイドなどのサーメットなどから選ばれるものを挙げることができる。本発明の製造方法は、これらの金属に対して、アルマイト処理、めっき処理などの表面処理を施したものにも適用できる。最終的に得られた金属細管が医療用具を用途とするものであるときは、金属としては各種ステンレス、鉄、チタンが好ましい。
【0012】
金属細管10は、均一外径および均一内径のものが好ましいが、用途に応じて一部の外径、一部の内径または一部の外径と内径の両方が異なるものでもよい。金属細管10の外径は外径0.2mm~3mmである。一部の外径が異なるものの場合には、最大外径が前記範囲内のものである。金属細管10の厚さは0.05mm~0.3mmである。金属細管の一部の厚さが異なる場合には、最大厚さが前記範囲内のものであることができる。
【0013】
図2は、本発明の製造方法(図4に示す1つの実施形態と図5に示す別の実施形態)で使用する支持棒20の1つの例を示す斜視図である。支持棒20は金属製のものであることができ、金属細管10の金属よりも熱伝導率が高い金属からなるものが好ましいが、金属細管10と同じ金属からなるものを使用することもできる。金属細管が医療用具を最終用途とするものであるときは、支持棒20にはステンレス、鉄、チタンを使用することが好ましい。
【0014】
支持棒20の外径は、金属細管10の貫通孔11内に挿入することができ、かつ金属細管10を回転させたときに金属細管10の内周面に軽く当接される程度の寸法であることが好ましい。金属細管10の内径(D1)と支持棒20の外径(D2)は、D2/D1≧0.90が好ましく、D2/D1=0.95~0.99の範囲がより好ましい。
【0015】
図3は、本発明の製造方法(図5に示す実施形態)で使用することのできる冷却用筒状体30の斜視図である。冷却用筒状体30は金属製のものであってよく、金属細管10の金属よりも熱伝導率が高い金属からなるものを使用することが好ましいが、金属細管10と同じ金属からなるものを使用することもできる。金属細管が医療用具を最終用途とするものであるときは、冷却用筒状体30にはステンレス、鉄、チタンを使用することが好ましい。
【0016】
冷却用筒状体30の内径と金属細管10の外径は、冷却用筒状体30の貫通孔31の内表面が金属細管10の外表面に密着して嵌め込むことができるように調整されていることが好ましい。例えば冷却用筒状体30の内径と金属細管10の外径はほぼ同程度であることができる。
【0017】
なお、冷却用筒状体30は、長さ方向に沿って二分割することができるように構成したものでもよい。そのような実施形態の場合には、二分割されたそれぞれの半体が有する合わせ面が対応する凹凸を有しており、前記対応する凹凸同士を嵌め合わせることで図3に示す形態にできるようにすることもできる。また冷却用筒状体30として二分割できるように構成したものを使用するときは、外側からバンドなどで固定して使用することもできる。
【0018】
図4により本発明の製造方法の1つの実施形態を説明する。支持棒20は、第1端部20aが金属細管10の第1端部10aに位置し、第2端部20bが金属細管10の第2端部10bから外側に突き出された状態になるように金属細管10の貫通孔11(図1参照)内に差し込まれている。
【0019】
1つの例では、金属細管10の第1端部10a側は図示してない回転装置に接続され、支持棒20の第2端部20bは図示していない治具により固定されている。このように支持棒20を固定するときは、例えば作業台に取り付けられた万力のような治具により固定することができる。
【0020】
この例においては、図4に示す状態で金属細管10を回転させながら、連続波レーザー光源1を操作して、金属細管10の長さ方向に沿って、金属細管10の外表面に対してレーザー光2を連続照射する。これにより、金属細管10の外表面側に粗面化された表層部が形成される。
【0021】
金属細管10に対するレーザー光の照射位置および照射面積は、用途に応じて決定することができる。金属細管10の回転方向は同一方向が好ましい。金属細管10を回転させるときに支持棒20を固定して回転させないようにすることで、レーザー光照射による熱と回転の両方により金属細管10が変形することを防止できるので好ましい。
【0022】
また支持棒20として金属細管10の金属よりも熱伝導率が高い金属または金属細管10と同じ金属からなるものを使用したときは、使用しないとき(即ち、空冷状態)と比べると、金属細管10の内表面側からの放熱効果が得られ、金属細管10の変形防止効果が高められるため好ましい。
【0023】
図5により本発明の製造方法の別の実施形態を説明する。支持棒20は、第1端部20aが金属細管10の第1端部10aに位置し、第2端部20bが金属細管10の第2端部10bから外側に突き出された状態になるように金属細管10の貫通孔11(図1参照)内に差し込まれている。
【0024】
1つの例では、支持棒20の第2端部20bは、図示していない治具により固定されている。このように支持棒20を固定するときは、例えば作業台に取り付けられた万力のような治具により固定することができる。
【0025】
金属細管10の第1端部10a側には、冷却用筒状体30が第1端面30a側から嵌め込まれている。冷却用筒状体30の第2端面30b側は図示してない回転装置に接続されている。冷却用筒状体30は、金属細管10の冷却効果を高めてレーザー光照射時の熱的影響を減少させるため、予め冷却した状態のものを使用することもできる。
【0026】
この例においては、図5に示す状態で冷却用筒状体30を回転させることで金属細管10を回転させながら、連続波レーザー光源1を操作して、金属細管10の長さ方向に沿って、金属細管10の外表面に対してレーザー光2を連続照射する。これにより、金属細管10の外表面側に粗面化された表層部が形成される。金属細管10の回転方向は同一方向が好ましい。
【0027】
冷却用筒状体30を回転させて金属細管10を回転させるとき、支持棒20を固定して回転させないようにすることで、レーザー光照射による熱と回転の両方により金属細管10が変形することを防止できるので好ましい。
【0028】
また冷却用筒状体30と共に支持棒20として金属細管10の金属よりも熱伝導率が高い金属または金属細管10と同じ金属からなるものを使用したときは、使用しないとき(即ち、空冷状態)と比べると、金属細管10の外表面側と内表面側の両方からの放熱効果が得られ、金属細管10の変形防止効果がより高められるため好ましい。
【0029】
図4に示す実施形態および図5に示す実施形態のいずれの製造方法においても、金属細管10の回転速度は50r/min~1000r/minであり、50r/min~500r/minが好ましい。例えば、外径2mm(外周6.28mm)の金属細管10が100r/minで回転するとき、周方向の回転速度(周速度)は628mm/min(=10.47mm/sec=0.01047mm/msec)となる。
【0030】
連続波レーザーは、照射速度が2000mm/sec以上で連続照射する。連続波レーザーの照射速度は、2000~20,000mm/secが好ましく、2,000~18,000mm/secがより好ましく、2,000~15,000mm/secがさらに好ましい。連続波レーザー光の照射速度は、金属細管10の回転速度に比べると十分に大きくなるように調整されている。
【0031】
連続波レーザー光は金属細管10の長さ方向に沿って直線状に照射することができる。隣接する照射痕(隣接する直線状の照射により形成された溝)同士の間隔は、0.01~0.2mmが好ましく、0.03~0.15mmがより好ましい。
【0032】
連続波レーザー光の照射時のエネルギー密度は1MW/cm以上が好ましい。レーザー光の照射時のエネルギー密度は、レーザー光の出力(W)と、レーザー光のスポット面積(cm)(π・〔スポット径/2〕)から求められる。レーザー光の照射時のエネルギー密度は、2~1000MW/cmが好ましく、10~800MW/cmがより好ましく、10~700MW/cmがさらに好ましい。
【0033】
レーザー光の出力は4~4000Wが好ましく、50~2500Wがより好ましく、150~2000Wがさらに好ましい。波長は500~11,000nmが好ましい。ビーム径(スポット径)は5~80μmが好ましい。
【0034】
レーザー光を照射するときの焦点はずし距離は、-5~+5mmが好ましく、-1~+1mmがより好ましく、-0.5~+0.1mmがさらに好ましい。焦点はずし距離は、設定値を一定にしてレーザー照射しても良いし、焦点はずし距離を変化させながらレーザー照射しても良い。例えば、レーザー照射時に、焦点はずし距離を小さくしていくようにしたり、周期的に大きくしたり小さくしたりしても良い。
【0035】
本発明の金属細管の製造方法では、粗面化対象となる金属細管の表面に対してレーザー光を照射するとき、レーザー光の照射部分と非照射部分が交互に生じるように照射することができる。
【0036】
レーザー光の照射部分と非照射部分が交互に生じるように照射するとは、レーザー光の照射部分と隣接するレーザー光の照射部分の間にあるレーザー光の非照射部分が交互に生じて、全体として点線状に形成されるように照射した状態を示している。
【0037】
このとき、同じ部分に繰り返して照射して外観上1本の直線に沿った点線状にすることもできる。繰り返し回数は、例えば1~20回にすることができる。複数回照射するときは、レーザー光の照射部分を同じにしてもよいし、レーザー光の照射部分を異ならせる(レーザー光の照射部分をずらす)ことで、金属細管の表面全体が粗面化されるようにしてもよい。
【0038】
レーザー光の照射部分を同じにして複数回照射したときは点線状に照射されるが、レーザー光の照射部分をずらして、即ち、最初はレーザー光の非照射部分であった部分にレーザー光の照射部分が重なるようにずらして照射することを繰り返すと、点線状に照射した場合であっても、最終的には実線状態に照射されることになるので好ましい。
【0039】
金属細管に対して連続的にレーザー光を照射すると、照射面の温度が上昇する場合があるが、点線状にレーザー照射すると、レーザー光の照射部分とレーザー光の非照射部分が交互に生じ、レーザー光の非照射部分では冷却されていることになるため、レーザー光の照射を継続した場合、金属細管でもそりなどの変形が生じ難くなるので好ましい。このとき、上記のようにレーザー光の照射部分を異ならせた(レーザー光の照射部分をずらせた)場合でも同様の効果が得られる。
【0040】
レーザー光の照射部分の長さ(L1)とレーザー光の非照射部分の長さ(L2)は、L1/L2=1/9~9/1の範囲になるように調整することができる。レーザー光の照射部分の長さ(L1)は、金属細管の表層部を複雑な多孔構造に粗面化するためには0.05mm以上であることが好ましく、0.1~10mmがより好ましく、0.3~7mmがさらに好ましい。
【0041】
本発明の金属細管の製造方法では、上記したレーザー光の照射工程は、レーザーの駆動電流を直接変換する直接変調方式の変調装置をレーザー電源に接続したファイバーレーザー装置を使用し、デューティ比(duty ratio)を調整してレーザー照射することによって行うことができる。
【0042】
レーザーの励起には、パルス励起と連続励起の2種類があり、パルス励起によるパルス波レーザーは一般にノーマルパルスと呼ばれる。連続励起であってもパルス波レーザーを作り出すことが可能であり、例えば、ノーマルパルスよりパルス幅(パルスON時間)を短くして、その分ピークパワーの高いレーザーを発振させるQスイッチパルス発振方法、AOMやLN光強度変調機により時間的に光を切り出すことでパルス波レーザーを生成させる外部変調方式、レーザーの駆動電流を直接変調してパルス波レーザーを生成する直接変調方式によりパルス波レーザーを作り出すことができる。
【0043】
本発明の好ましい実施形態では、レーザーの駆動電流を直接変換する直接変調方式の変調装置をレーザー電源に接続したファイバーレーザー装置を使用することで、レーザーを連続励起させてパルス波レーザーを作り出すことができる。
【0044】
デューティ比は、レーザー光の出力のON時間とOFF時間から次式により求められる比である。
デューティ比(%)=ON時間/(ON時間+OFF時間)×100
【0045】
デューティ比は、上記のL1/(L1+L2)に対応するものであるから、10~90%の範囲から選択することができる。デューティ比を調整してレーザー光を照射することで、点線状に照射することができる。デューティ比が大きいと粗面化工程の効率は良くなるが、冷却効果は低くなり、デューティ比が小さいと冷却効果は良くなるが、粗面化効率は悪くなる。目的に応じて、デューティ比を調整する。
【0046】
連続波レーザーは公知のものを使用することができ、例えば、YVO4レーザー、ファイバーレーザー(好ましくはシングルモードファイバーレーザー)、エキシマレーザー、炭酸ガスレーザー、紫外線レーザー、YAGレーザー、半導体レーザー、ガラスレーザー、ルビーレーザー、He-Neレーザー、窒素レーザー、キレートレーザー、色素レーザーを使用することができる。これらの中でもエネルギー密度が高められることから、ファイバーレーザーが好ましく、特にシングルモードファイバーレーザーが好ましい。
【0047】
連続波レーザー光の照射形態は特に制限されるものではなく、金属細管10の外表面に対して、金属細管10の長さ方向に沿って一方向(片方向)のみに照射する形態、双方向に照射する形態、一方向と双方向を組み合わせて照射する形態などを実施することができる。
【0048】
図6は、連続波レーザー光の好ましい照射形態の例を示したものである。レーザー光は、レーザー発振器から発振されたレーザー光がミラーを介して被照射物(金属細管10)に照射されるものである。このときミラーの角度を変化させて行くことでレーザー光の照射位置および照射長さが調整される。
【0049】
第1工程において、始点S1から終点F1までレーザー光を照射するとき(図6中のL1)、始点S1からレーザー光の照射を開始する前において、始点S1に至る前のレーザー光を照射しないヘッドタイム(ヘッドタイム[head time];ミラーの角度を始点S1に合わせるまでの時間)(ヘッドタイム開始時の位置をH1とする)が存在する。
【0050】
さらに第1工程において、終点F1までレーザー光を照射した後において、前記終点F1からレーザー光を照射しないテールタイム(テールタイム[tale time];終点F1を過ぎてミラーが停止するまでの時間)(前記テールタイム終了時の位置をT1とする)が存在している。
【0051】
このため、例えばレーザー光を始点S1から終点F1まで10mmの長さだけ照射するとき、レーザー光の照射が開始される始点S1(0mm)に至るまでの例えば約5mmの長さはレーザー光が照射されない時間(ヘッドタイム)であり、レーザー光の照射が停止される終点F1(10mm)から例えば約4mmの長さはレーザー光が照射されない時間(テールタイム)が必要になることになる。ヘッドタイム、始点S1から終点F1までのレーザー光の照射時間、およびテールタイムの合計時間(msec)が第1工程の処理時間である。
【0052】
第2工程は、第1工程のテールタイム終了位置T1から、レーザー光を照射することなく、前記第1工程のヘッドタイム開始位置H1から金属細管10の周方向に移動したH2まで戻す工程(図6中のL2)である。H1からH2の周方向への位置変化は、金属細管が回転していることに伴うものである。T1からH2まで戻す時間(msec)が第2工程の処理時間である。
【0053】
第1工程と第2工程を1サイクルとして、第1サイクルから第nサイクル(nは2以上の正の整数)まで繰り返し実施することができる。このとき、1サイクルの処理時間は、第1工程の処理時間(msec)と第2工程の処理時間(msec)の合計処理時間(msec)である。
【0054】
図6では、2サイクル目が、H1に対応するH2、S1に対応するS2、L1に対応するL3、F1に対応するF2、T1に対応するT2として示されている。T1からT2までの金属細管10の周方向の距離とH1からH2までの金属細管10の周方向の距離は、連続波レーザー光の隣接する照射痕(金属細管10の長さ方向に沿った隣接する照射により形成された溝)同士の間隔に相当する。
【0055】
レーザー光を照射するとき金属細管10は回転しているが、レーザー光の照射速度は金属細管10の回転速度と比べると著しく速いため、第1工程L1では、レーザー光は金属細管10の長さ方向に沿ったほぼ直線状に照射されることになる。
【0056】
第2工程L2では、第1工程と第2工程の合計時間中の金属細管10の回転を受けて、照射開始位置はS1からS2に周方向に僅かに移動している(図6では分かり易くするために斜線で示している)。なお、必要に応じてレーザー光の照射位置を修正する(照射位置をずらす)ための積極的な停止時間(delay time)(DT)を設けることができる。
【0057】
1サイクルの処理時間は、下記の(a)~(c)のいずれか1つ、2つ、または3つ全ての要件を満たすことで調整することができ、要件(a)、(b)のいずれかまたは両方により調整することが好ましい。
【0058】
(a)第1工程におけるレーザー光の照射速度を調整することにより1サイクルの処理時間を調整する。
(b)第2工程の戻り速度を調整することにより1サイクルの処理時間を調整する。
(c)ヘッドタイムとテールタイムの一方または両方を調整することにより1サイクルの処理時間を調整する。
【0059】
すなわち、本発明の例示的な連続波レーザー光の連続照射工程においては、金属細管の長さ方向の一方向に対してレーザー発振器およびミラーを使用して始点S1から終点F1までレーザー光を照射するとき、
始点S1から終点F1までレーザー光を照射する第1工程と、前記ミラーを調整することによって、レーザー光を照射することなくレーザー光の照射可能位置を前記始点S1方向に戻す第2工程を有しており、
前記第1工程が、
前記第1工程において始点S1から終点F1までレーザー光を照射するとき、前記始点S1からレーザー光の照射を開始する前において、前記始点S1に至る前のレーザー光を照射しないヘッドタイム(前記ヘッドタイム開始時の位置をH1とする)が存在し、前記終点Fまでレーザー光を照射した後において、前記終点F1からレーザー光を照射しないテールタイム(前記テールタイム終了時の位置をT1とする)が存在しており、
前記ヘッドタイム、前記始点S1から終点F1までのレーザー光の照射時間、およびテールタイムの合計時間(msec)が第1工程の処理時間であり、
前記第2工程が、
前記第1工程のテールタイム終了位置T1からレーザー光を照射することなく、前記第1工程のヘッドタイム開始位置H1から周方向に移動したH2まで戻す工程であり、
前記T1からH2まで戻す時間(msec)が第2工程の処理時間であり、
前記第1工程と前記第2工程を1サイクルとして、第1サイクルから第nサイクル(nは2以上の正の整数)まで繰り返し実施するとき、
1サイクルの処理時間が、第1工程の処理時間と第2工程の処理時間の合計時間(msec)であり、
下記の(a)~(c)のいずれか1つ、2つ、または3つ全ての要件を満たすようにすることで前記1サイクルの処理時間を1~200msecの範囲に調整する。
(a)第1工程におけるレーザー光の照射速度を調整することにより1サイクルの処理時間を調整する。
(b)第2工程の戻り速度を調整することにより1サイクルの処理時間を調整する。
(c)ヘッドタイムとテールタイムの一方または両方を調整することにより1サイクルの処理時間を調整する。
【0060】
さらにDTを設けるときは、要件(d)として、DTを調整することで1サイクルの処理時間を調整することができる。
【0061】
なお、本発明では、第2工程においてもレーザー光を照射することができる。第2工程においてもレーザー光を照射するときは、第2工程におけるレーザー光の照射速度を調整することによっても1サイクルの処理時間を調整することができる。
【0062】
1サイクルの合計処理時間、金属細管の外径と回転数(回転速度)から求められる金属細管を回転するときの周速度(mm/msec)を関連づけることによって、金属細管に対するレーザー光の照射工程を制御することが好ましい。
【0063】
1サイクルの処理時間は1~200msecが好ましく、1~100msecがより好ましく、1~50msecがさらに好ましい。金属細管を回転させるときの周速度は、0.001~0.3mm/msecが好ましく、0.002~0.2mm/msecがより好ましく、0.01~0.018mm/msecがさらに好ましい。
【0064】
レーザー光の照射痕(レーザー光により形成される溝)同士の間隔(ピッチ)は、1サイクル時間×周速度から求めることができる。金属細管の合計回転数(周回数)は、1サイクルの処理時間×照射回数×周速度から求めることができる。
【0065】
図4に示す実施形態の後、金属細管10と支持棒20を分離するか、または図5に示す実施形態の後、金属細管10と支持棒20、金属細管10と冷却用筒状体30を分離することで、図7に示すとおり、外表面側に粗面化された表層部12を有する最終的な金属細管10Aを得ることができる。1つの例では、表層部12は、連続波レーザー光が照射された粗面化された表面から深さ30μm~300μmの範囲までである。
【0066】
本発明の製造方法により製造された最終的な金属細管10Aは、注射針などの医療用具の用途に使用することができる。本発明の製造方法により製造された最終的な金属細管10Aを使用して注射器などを製造するときは、特許第5701414号公報に記載の発明に記載された、金属成形体(例えば最終的な金属細管10Aを使用した注射針)と樹脂成形体(例えば注射液を入れる注射器本体)を接合一体化する方法(射出成形法)を適用して製造することができる。
【0067】
実施例および比較例
図5に示す製造方法の例により実施して、図7に示すような金属細管10Aを得た。金属細管10、支持棒20、冷却用筒状体30の寸法は、次のとおりであった。
金属細管10:外径2.11mm、内径1.69mm、長さ100mm
支持棒:外径1.69mm、長さ120mm
冷却用筒状体:内径2.11mm、長さ30mm
実施例および比較例において、1サイクル当たりに要した時間は約4msecであった。
【0068】
支持棒20の第1端部20bは万力で固定し、冷却用筒状体30の第2端部30b側は回転装置の回転部分に接続した。金属細管10、支持棒20および冷却用筒状体30の材料は、いずれもSUS304を使用した。実施例3、実施例4の金属細管の粗面化された面のSEM写真を図8図9に示す。
【0069】
(支持棒の引抜き易さ)
表1に示す条件でレーザー光を照射した後、図5に示す状態のまま30秒間放置した。支持棒20の固定を解除した後、支持棒20を手で引抜くときの抵抗力で変形を評価した。
○ 抵抗なく支持棒を引抜くことができた。
△ 抵抗が大きいが引抜くことができた。
× 引抜くことができなかった。
×× 金属細管に貫通孔が形成されたか、または金属細管が切断された。
【0070】
(支持棒の挿入し易さ)
上記の支持棒20の引き抜き易さの評価後、金属細管10内に新しい支持棒20を手で挿入するときの抵抗力で変形を評価した。
○ 抵抗なく、支持棒を挿入できた。
△ 抵抗が大きいが挿入できた。
× 挿入できなかった。
【0071】
支持棒を使用していない比較例2は、表1に示す条件でレーザー光を照射した後、30秒間の冷却後に支持棒を挿入して評価した。
【0072】
(最大溝深さ)
溝深さは、レーザー光照射後の面をデジタルマイクロスコープVHX-900((株)キーエンス製)で測定した。最大溝深さは、周方向および長さ方向に等間隔で合計10箇所の溝深さを測定し、それらの中で最も深い部分の値とした。
【0073】
【表1】
【0074】
実施例と比較例の対比から、支持棒がない場合、金属細管の回転速度が遅い場合には、目的とする粗面化された表層部を有する金属細管を得ることができなかった。
産業上の利用可能性
【0075】
本発明の製造方法により製造された、外表面側に粗面化された表層部を有する金属細管は、例えば注射針などの医療用具の用途に使用することができる。
符号の説明
【0076】
10 金属細管
10A 外表面側に粗面化された表層部を有する金属細管
11 貫通孔
12 表層部
20 支持棒
30 冷却用筒状体
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9