(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-13
(45)【発行日】2023-07-24
(54)【発明の名称】骨再生用組成物、骨再生用組成物キット、骨再生用部材および骨再生方法
(51)【国際特許分類】
A61K 38/18 20060101AFI20230714BHJP
A61K 9/06 20060101ALI20230714BHJP
A61K 47/36 20060101ALI20230714BHJP
A61K 38/44 20060101ALI20230714BHJP
A61K 47/08 20060101ALI20230714BHJP
A61L 27/20 20060101ALI20230714BHJP
A61L 27/22 20060101ALI20230714BHJP
A61L 27/40 20060101ALI20230714BHJP
A61L 27/52 20060101ALI20230714BHJP
A61P 19/08 20060101ALI20230714BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20230714BHJP
C07K 14/51 20060101ALN20230714BHJP
C12N 9/08 20060101ALN20230714BHJP
【FI】
A61K38/18
A61K9/06
A61K47/36
A61K38/44
A61K47/08
A61L27/20
A61L27/22
A61L27/40
A61L27/52
A61P19/08
A61P43/00 105
A61P43/00 121
C07K14/51
C12N9/08
(21)【出願番号】P 2020549215
(86)(22)【出願日】2019-09-24
(86)【国際出願番号】 JP2019037277
(87)【国際公開番号】W WO2020067014
(87)【国際公開日】2020-04-02
【審査請求日】2022-06-24
(31)【優先権主張番号】P 2018184885
(32)【優先日】2018-09-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004178
【氏名又は名称】JSR株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】598041566
【氏名又は名称】学校法人北里研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110001070
【氏名又は名称】弁理士法人エスエス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】林 英治
(72)【発明者】
【氏名】舟▲崎▼ 愛
(72)【発明者】
【氏名】諫山 純
(72)【発明者】
【氏名】内田 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 亘
(72)【発明者】
【氏名】庄司 真太郎
(72)【発明者】
【氏名】高相 晶士
【審査官】松浦 安紀子
(56)【参考文献】
【文献】特表2017-529208(JP,A)
【文献】特表2015-508118(JP,A)
【文献】特表2006-517598(JP,A)
【文献】特開2018-123241(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 38/18
A61K 9/06
A61K 31/728
A61K 38/44
A61K 47/08
A61K 47/42
A61L 27/20
A61L 27/22
A61L 27/40
A61L 27/52
A61P 19/08
A61P 43/00
C07K 14/51
C12N 9/08
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒアルロン酸にヒドロキシアリール基が導入された変性ヒアルロン酸およびその塩から選ばれる少なくとも1種の成分(A)と、
前記ヒドロキシアリール基の酸化カップリング酵素(B)と、
過酸化物(c1)および過酸化物を生成する物質(c2)から選ばれる少なくとも1種の成分(C)と、
骨形成タンパク質(D)と、
水(E)と
を含有する骨再生用組成物。
【請求項2】
前記ヒドロキシアリール基が、チラミン由来の基である請求項1に記載の骨再生用組成物。
【請求項3】
前記成分(A)における前記ヒドロキシアリール基による置換度が、0.1~50である請求項1または2に記載の骨再生用組成物。
【請求項4】
前記酸化カップリング酵素(B)が、西洋わさびペルオキシダーゼである請求項1~3のいずれか1項に記載の骨再生用組成物。
【請求項5】
前記成分(C)が、前記過酸化物(c1)である請求項1~4のいずれか1項に記載の骨再生用組成物。
【請求項6】
難治性骨折用である請求項1~5のいずれか1項に記載の骨再生用組成物。
【請求項7】
第1の溶液と、第2の溶液と、第3の溶液とを有する骨再生用組成物キットであり、
前記第1の溶液が、ヒアルロン酸にヒドロキシアリール基が導入された変性ヒアルロン酸およびその塩から選ばれる少なくとも1種の成分(A)と水(E)とを含有し、前記ヒドロキシアリール基の酸化カップリング酵素(B)、ならびに過酸化物(c1)および過酸化物を生成する物質(c2)から選ばれる少なくとも1種の成分(C)、のいずれかを含有するが両方は含有せず、
前記第2の溶液が、前記酸化カップリング酵素(B)および前記成分(C)のうち第1の溶液中で含有されない方を含有し、
前記第3の溶液が、骨形成タンパク質(D)を含有する、
骨再生用組成物キット。
【請求項8】
難治性骨折用である請求項7に記載の骨再生用組成物キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、骨再生用組成物、骨再生用組成物キット、骨再生用部材および骨再生方法に関する。
【背景技術】
【0002】
骨折後の骨の再生は、骨折間隙の血腫占拠による骨折部位の炎症が起こる炎症期、血腫が肉芽細胞に変わることによる仮骨の形成、骨膜に存在する骨形成細胞による新生骨の形成が進行する骨修復期、および新生骨の骨吸収・形成の繰り返しによる骨変形の矯正が進行する再造形期、により進行することが知られている。
【0003】
交通事故のような過剰な外圧が骨に加わると、不全骨折や開放骨折などの骨膜の損傷を伴う場合が多く、新生骨の形成に支障をきたすことがある。一般的に、新生骨が形成されれば、骨折部位は生活に支障のない程度の強度を有することから、骨膜の損傷を伴う交通事故において骨修復期が長いと、患者の日常生活に大きな影響を与えることが知られている。
【0004】
従来、骨折に対する骨再生治療のために、骨形成タンパク質(Bone Morphogenetic Protein、BMP)等の成長因子を含む骨再生用部材を用いる方法が知られている(特許文献1~2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2012-082180号公報
【文献】特表2015-523176号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者らの検討によれば、骨膜の損傷などの、骨形成において重要な組織の損傷や、それに伴う血流障害のある難治性骨折においては、従来の骨再生用部材を用いる方法では治療効果が充分ではないことがわかった。
【0007】
本発明は、骨膜の損傷などを含む難治性骨折等に有用な骨再生用組成物、骨再生用組成物キット、および骨再生用部材を提供すること、ならびに前記組成物等を用いた骨再生方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記課題を解決すべく検討した。その結果、以下の骨再生用組成物などにより上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
本発明は、例えば以下の[1]~[10]に関する。
【0009】
[1]ヒアルロン酸にヒドロキシアリール基が導入された変性ヒアルロン酸およびその塩から選ばれる少なくとも1種の成分(A)と、前記ヒドロキシアリール基の酸化カップリング酵素(B)と、過酸化物(c1)および過酸化物を生成する物質(c2)から選ばれる少なくとも1種の成分(C)と、骨形成タンパク質(D)と、水(E)とを含有する骨再生用組成物。
[2]前記ヒドロキシアリール基が、チラミン由来の基である前記[1]に記載の骨再生用組成物。
[3]前記成分(A)における前記ヒドロキシアリール基による置換度が、0.1~50である前記[1]または[2]に記載の骨再生用組成物。
[4]前記酸化カップリング酵素(B)が、西洋わさびぺルオキシダーゼである前記[1]~[3]のいずれかに記載の骨再生用組成物。
[5]前記成分(C)が、前記過酸化物(c1)である前記[1]~[4]のいずれかに記載の骨再生用組成物。
[6]難治性骨折用である前記[1]~[5]のいずれかに記載の骨再生用組成物。
[7]第1の溶液と、第2の溶液と、第3の溶液とを有する骨再生用組成物キットであり、前記第1の溶液が、ヒアルロン酸にヒドロキシアリール基が導入された変性ヒアルロン酸およびその塩から選ばれる少なくとも1種の成分(A)と水(E)とを含有し、前記ヒドロキシアリール基の酸化カップリング酵素(B)、ならびに過酸化物(c1)および過酸化物を生成する物質(c2)から選ばれる少なくとも1種の成分(C)、のいずれかを含有するが両方は含有せず、前記第2の溶液が、前記酸化カップリング酵素(B)および前記成分(C)のうち第1の溶液中で含有されない方を含有し、前記第3の溶液が、骨形成タンパク質(D)を含有する、骨再生用組成物キット。
[8]難治性骨折用である前記[7]に記載の骨再生用組成物キット。
[9]前記[1]~[6]のいずれかに記載の骨再生用組成物、または前記[7]もしくは[8]に記載の骨再生用組成物キットを用いて形成した骨再生用部材。
[10]前記[1]~[6]のいずれかに記載の骨再生用組成物、前記[7]もしくは[8]に記載の骨再生用組成物キット、または前記[9]に記載の骨再生用部材を用いて、骨を再生させる骨再生方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、骨膜の損傷などを含む難治性骨折等に有用な骨再生用組成物、骨再生用組成物キット、および骨再生用部材を提供すること、ならびに前記組成物等を用いた骨再生方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、本発明の骨再生用組成物を使用した骨再生過程のスキームである。
【
図2】
図2は、実施例等で測定したmicroCT画像である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を実施するための形態について説明する。
本明細書で例示する各物質、例えば、組成物中に含まれるまたは各工程で用いられる物質は、特に言及しない限り、それぞれ1種用いることができ、または2種以上を併用して用いることができる。
【0013】
[骨再生用組成物]
一実施形態において、本発明の骨再生用組成物(以下、単に「本実施形態の組成物」ともいう)は、
ヒアルロン酸にヒドロキシアリール基が導入された変性ヒアルロン酸およびその塩から選ばれる少なくとも1種の成分(A)と、
前記ヒドロキシアリール基の酸化カップリング酵素(B)と、
過酸化物(c1)および過酸化物を生成する物質(c2)から選ばれる少なくとも1種の成分(C)と、
骨形成タンパク質(D)と、
水(E)と
を含有する。
【0014】
<成分(A)>
成分(A)は、ヒアルロン酸にヒドロキシアリール基が導入された変性ヒアルロン酸、および当該変性ヒアルロン酸の塩から選ばれる少なくとも1種である。
骨形成タンパク質(D)は体液によって循環しやすいため、骨形成タンパク質(D)の投与部位にその効果を長期間維持することは一般的に困難である。本実施形態では、骨形成タンパク質(D)とともに成分(A)を用いることにより、本実施形態の組成物の投与部位において骨形成タンパク質(D)が安定的に存在でき、骨形成タンパク質(D)の有効濃度が長期間維持されると考えられる。このため、本実施形態の組成物は骨の再生効果が高い。具体的には本実施形態では、成分(A)および骨形成タンパク質(D)を用いることにより、新生骨形成を促進し、骨の再生速度を向上させることができると考えられる。
【0015】
本実施形態の組成物は、難治性骨折の治療用、特に骨膜損傷型骨折の治療用に有用であり、本実施形態の組成物を用いることにより、骨折した骨の癒合率を高めることができる。この理由は、成分(A)より形成されるゲルと有効成分である骨形成タンパク質(D)との親和性が適度に優れているため、前記ゲルからの有効成分の徐放速度が前記骨折における骨再生に適した速度であるためであると考えられる。なお、難治性骨折とは、骨膜の損傷などの、骨形成において重要な組織の損傷や、当該損傷に伴う血流障害のある骨折であり、感染症を伴う場合もある。難治性骨折としては、例えば、開放骨折が挙げられる。
【0016】
ヒアルロン酸は、N-アセチルグルコサミンとグルクロン酸との二糖単位を反復構造単位として有する多糖である。変性ヒアルロン酸の塩としては、例えば、生理学的または薬学的に許容される塩が挙げられ、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩、アンモニウム塩が挙げられる。
【0017】
成分(A)は、ヒドロキシアリール基を有する。ヒドロキシアリール基の炭素数は、通常、6~50、好ましくは6~30である。前記ヒドロキシアリール基において、ベンゼン核に結合する水酸基数は通常、1以上、好ましくは1~3、より好ましくは1~2である。このように、ヒドロキシアリール基は、モノヒドロキシアリール基に限定されるわけではない。
【0018】
ヒドロキシアリール基としては、例えば、ヒドロキシフェニル基、ヒドロキシナフチル基、ヒドロキシアントラセニル基が挙げられる。ヒドロキシアリール基は、アルキル基等の置換基を有することができる。ヒドロキシアリール基において、フェノール性水酸基に対して少なくとも1つのオルト位置の炭素原子には水素原子が結合していることが好ましい。本実施形態の組成物の投与部位において、骨形成タンパク質(D)が、安定的に存在でき、且つその有効濃度を保持できると考えられることから、ヒドロキシアリール基はチラミン由来の基であることが好ましい。
【0019】
変性ヒアルロン酸は、好ましくは、ヒドロキシアリール基が、直接または有機基を介して、エステル結合、ウレタン結合またはエーテル結合によりヒアルロン酸に結合した化合物である。エステル結合、ウレタン結合およびエーテル結合は、ヒアルロン酸に含まれる水酸基が結合していた炭素原子と結合していることが好ましい。
【0020】
前記有機基としては、例えば、炭素数1~20のアルカンジイル基、前記アルカンジイル基にエーテル結合および2価のアミノ基(-NH-等)から選ばれる少なくとも1種が付加又は挿入された置換アルカンジイル基、ペプチド結合を有する有機基(具体的には、ジペプチド等のオリゴペプチドまたはそのエステル体に由来する基)が挙げられる。
【0021】
以下、成分(A)の製造例の一実施態様について説明する。
例えば、ヒアルロン酸が有するアルコール性水酸基を、カルボニル化試薬を用いて、炭酸エステル誘導体基に変換した後(以下「変換反応」ともいう)、得られたヒアルロン酸の炭酸エステル誘導体と、ヒドロキシアリール基を有するアミン化合物とを反応させる(以下「ヒドロキシアリール基導入反応」ともいう)。
【0022】
前記カルボニル化試薬としては、例えば、クロロギ酸ニトロフェニル、クロロギ酸フェニル、クロロギ酸トリクロロメチル、炭酸ビス(トリクロロメチル)が挙げられる。カルボニル化試薬の量は、通常、ヒアルロン酸100質量部に対して1~100質量部である。中間体である炭酸エステル誘導体が安定である場合は、一旦単離した後に次の反応を行うことができる。
【0023】
前記ヒドロキシアリール基を有するアミン化合物としては、例えば、チラミンが挙げられる。前記ヒドロキシアリール基を有するアミン化合物の量は、通常、ヒアルロン酸の炭酸エステル誘導体100質量部に対して1~100質量部である。
【0024】
前記変換反応は、塩基性化合物の存在下で行うことが好ましい。塩基性化合物としては、例えば、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリブチルアミン、ピリジン、ピペリジンが挙げられる。
【0025】
前記変換反応およびヒドロキシアリール基導入反応は、溶媒中で行うことが好ましい。溶媒としては、例えば、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等のアミド溶媒;ジメチルスルホキシド等のスルホキシド溶媒;ジクロロメタン、1,2-ジクロロエタン、クロロホルム等のハロゲン化炭化水素溶媒;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素溶媒;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル溶媒が挙げられる。ヒアルロン酸の溶媒中への溶解性を向上させるため、塩化リチウム等のアルカリ金属塩を用いることができる。
【0026】
成分(A)の製造例の他の実施態様としては、例えば、ヒアルロン酸と、ヒアルロン酸中のアルコール性水酸基と反応可能な官能基(例:カルボキシ基、その酸ハロゲン化物、エポキシ基、オキセタニル基)およびヒドロキシアリール基を有する化合物とを、反応させる方法が挙げられる。
【0027】
ヒアルロン酸中のアルコール性水酸基と反応可能なカルボキシ基またはその酸ハロゲン化物と、ヒドロキシアリール基とを有する化合物としては、例えば、4-ヒドロキシフェニル酢酸、4-ヒドロキシフェニルプロピオン酸、4-ヒドロキシフェニルブタン酸、2-(2,5-ジヒドロキシフェニル)酢酸、これらの酸ハロゲン化物が挙げられる。
【0028】
成分(A)におけるヒドロキシアリール基による置換度(DS)は、通常、0.1~50であり、好ましくは1~40、より好ましくは2~30である。置換度は、1H NMRにより求めることができる。成分(A)の置換度とは、成分(A)の構成単糖100単位あたりに導入されたヒドロキシアリール基の平均数を示す。成分(A)はこのような置換度を有することにより、そのゲル化速度が向上する。
【0029】
成分(A)の多角度光散乱検出器を用いた絶対分子量測定による数平均分子量は、通常、1,000~10,000,000、好ましくは3,000~1,000,000、より好ましくは5,000~500,000である。また、成分(A)の分子量分布(重量平均分子量/数平均分子量;いずれも前記絶対分子量測定による)は、通常、1~20、好ましくは1~10、より好ましくは1~5である。
【0030】
成分(A)は1種または2種以上用いることができる。
本実施形態の組成物中の成分(A)の含有割合は、通常、0.05~49質量%、好ましくは0.5~30質量%、より好ましくは3~15質量%である。このような態様であると、ゲルの機械的強度および取扱い性の観点から好ましい。
【0031】
<ヒドロキシアリール基の酸化カップリング酵素(B)>
本実施形態の組成物は、ヒドロキシアリール基の酸化カップリング酵素(B)(以下「酵素(B)」ともいう)を含有する。酵素(B)は、ヒドロキシアリール基の酸化カップリング反応を直接的または間接的に触媒しうる酵素である。
【0032】
酵素(B)としては、例えば、ラッカーゼ、チロシナーゼ等のフェノールオキシダーゼ、カタラーゼ、ペルオキシダーゼが挙げられる。ペルオキシダーゼは、過酸化水素等の過酸化物(c1)と併用することで本実施形態の組成物をゲル化させることができる。ラッカーゼ、チロシナーゼ等の銅酵素類の起源は、例えば、ウルシ、キノコ(ツチカブリ、マッシュルーム)、カビ(Polyporus vericolor)が挙げられる。カタラーゼ、ペルオキシダーゼの起源は、例えば、ウシ肝臓、ウマ血球、ヒト血球、M. lysodeikticus、西洋わさび(ホースラディッシュ)、大豆、ダイコン、カブ、甲状腺、牛乳、腸、白血球、赤血球、酵母、Caldariomyces fumago、Steptococcus faecalisが挙げられる。これらの中でも、チロシナーゼとしてはマッシュルーム由来、ペルオキシダーゼとしては西洋わさび由来のもの、すなわち西洋わさびペルオキシダーゼが好ましい。
【0033】
本実施形態では、成分(A)が有するヒドロキシアリール基の架橋反応を効率的に進める観点から、成分(C)を用い、酵素(B)としてペルオキシダーゼおよびカタラーゼから選ばれる少なくとも1種を用いることが好ましく、成分(C)を用い、酵素(B)として西洋わさびペルオキシダーゼを用いることがより好ましい。
【0034】
酵素(B)は1種または2種以上用いることができる。
本実施形態の組成物において、酵素(B)の量は、0.01U/mL以上が好ましく、0.1U/mL以上がより好ましく;1,000U/mL以下が好ましく、500U/mL以下がより好ましい。なお、Uとは酵素活性の単位を示し、至適条件下で、温度30℃で毎分1マイクロモルの基質を変化させることができる酵素量である。
【0035】
<成分(C)>
本実施形態の組成物は、過酸化物(c1)および過酸化物を生成する物質(c2)から選ばれる少なくとも1種の成分(C)を含有する。
過酸化物(c1)としては、例えば、過酸化水素が挙げられる。
成分(C)として過酸化物(c1)を用いる場合、本実施形態の組成物において、過酸化物(c1)の量は、成分(A)中のヒドロキシアリール基1モルに対して、通常、0.01~1000モル、好ましくは0.1~500モル、より好ましくは0.5~200モルである。また、一実施態様において、本実施形態の組成物中の過酸化物(c1)の含有量は、反応性の点から、好ましくは10~1,000mM、より好ましくは100~800mMである。
【0036】
過酸化物を生成する物質(c2)は、通常、酸化酵素(c3)とともに用いられる。酸化酵素(c3)は、物質(c2)を消費して過酸化水素等の過酸化物を生成する反応を触媒する酵素である。酸化酵素(c3)としては、例えば、グルコースオキシダーゼ、コリンオキシダーゼ、アミノ酸オキシダーゼ、アルコールオキシダーゼ、ピルビン酸オキシダーゼ、コレステロールオキシダーゼが挙げられる。これらの酵素は、用途に応じて適宜選択できる。例えば、ゲル化速度が大幅に向上することから、グルコースオキシダーゼが好ましい。
【0037】
物質(c2)は、例えば、酸化酵素(c3)により消費されて過酸化水素等の過酸化物を生成し、酸化酵素(c3)に対応して選択される。例えば、酸化酵素(c3)が物質(c2)を、酸素の存在下(例:空気中の酸素)に酵素処理することによって、過酸化水素を生成させることができる。例えば、酸化酵素(c3)が、グルコースオキシダーゼ、コリンオキシダーゼ、アミノ酸オキシダーゼ、アルコールオキシダーゼ、ピルビン酸オキシダーゼまたはコレステロールオキシダーゼである場合、物質(c2)は、それぞれ、グルコース、コリン、アミノ酸、アルコール、ピルビン酸またはコレステロールである。
【0038】
成分(C)として物質(c2)を用いる場合、本実施形態の組成物中の酸化酵素(c3)の含有量は、反応性の点から、0.01U/mL以上が好ましく、1U/mL以上がより好ましく;1,000U/mL以下が好ましく、500U/mL以下がより好ましい。また、物質(c2)の含有量は、過酸化物を適度に生成するような量が適宜選択される。
成分(C)は1種または2種以上用いることができる。
【0039】
<骨形成タンパク質(D)>
本実施形態の組成物は、骨形成タンパク質(D)を含有する。
骨形成タンパク質(BMP:Bone Morphogenetic Protein)(D)は、骨の形成および骨折の修復を促進するタンパク質であり、具体的には、骨芽細胞の活性を増進する因子、および間葉系幹細胞の骨芽細胞への分化を誘導する因子である。骨形成タンパク質(D)の好適例としては、例えば、BMP-2、BMP-4、BMP-5、BMP-6、BMP-7、BMP-8、BMP-9が挙げられる。骨形成タンパク質(D)は、ヒト由来であっても、非ヒト動物由来であってもよい。
【0040】
また、骨形成タンパク質(D)としては、天然に存在するBMPのアミノ酸配列において1個または数個のアミノ酸が欠失、置換または付加されたアミノ酸配列を有し、天然に存在するBMPと同程度の活性を有するタンパク質も挙げられる。このように、骨形成タンパク質(D)は、遺伝子組換え型であってもよい。
【0041】
骨形成タンパク質(D)の中でも、BMP-2が好ましい。BMP-2は、細胞の増殖を制御および/または促進する因子の一種である。BMP-2は、骨形成能に優れており、骨膜や骨髄に存在する間葉系幹細胞の分化を促進する。
【0042】
骨形成タンパク質(D)は、例えば医薬として使用できる程度に精製されていれば、種々の方法で調製された骨形成タンパク質を用いることができる。
骨形成タンパク質(D)は1種または2種以上用いることができる。
【0043】
本実施形態の組成物において、骨形成タンパク質(D)の含有量は、成分(A)100質量部に対して、通常、0.01~10質量部、好ましくは0.05~5質量部である。このような態様であると、本実施形態の組成物から形成されるハイドロゲル中に骨形成タンパク質(D)が良好に保持される。
【0044】
<水(E)>
本実施形態の組成物は、水(E)を含有する。
本実施形態の組成物中の水(E)の含有割合は、通常、50~99.9質量%、好ましくは65~99質量%、より好ましくは70~97質量%である。このような態様であると、生体に対して低浸襲性な条件でゲル化が可能な組成物となり、さらに得られるゲルの機械的強度が優れる傾向にある。
【0045】
<他の成分>
本実施形態の組成物は、成分(A)以外の多糖をさらに含有することができる。前記多糖としては、例えば、ヒドロキシアリール基が導入されていない未変性のヒアルロン酸、プルラン、キサンタンガム、セルロース、グアーガム、フルクタン、マンナン、カラギーナン、キチン、キトサン、ペクチン、デンプン、アミロース、アミロペクチン、グリコーゲン、デキストラン、デキストリン、ゲランガム、アルギン酸が挙げられる。
【0046】
本実施形態の組成物は、その他、リン酸、ポリリン酸、pH調整剤、紫外線吸収剤、増粘剤、着色剤およびフィラーから選ばれる1種または2種以上を含有することができ、また、薬剤、細胞等の機能発現物質を含有することができる。
また、本実施形態の組成物は、さらに塩化ナトリウムを含有することができる。例えば本実施形態の組成物は、リン酸緩衝生理食塩水等の緩衝液を含有することができる。
【0047】
[骨再生用組成物キット]
一実施形態において、本発明の骨再生用組成物キット(以下、単に「本実施形態のキット」ともいう)は、以下に説明する、第1の溶液と、第2の溶液と、第3の溶液とを有する。
第1の溶液は、ヒアルロン酸にヒドロキシアリール基が導入された変性ヒアルロン酸およびその塩から選ばれる少なくとも1種の成分(A)と水(E)とを含有し、前記ヒドロキシアリール基の酸化カップリング酵素(B)、ならびに過酸化物(c1)および過酸化物を生成する物質(c2)から選ばれる少なくとも1種の成分(C)、のいずれかを含有するが両方は含有しない。
【0048】
第2の溶液は、前記酸化カップリング酵素(B)および前記成分(C)のうち第1の溶液中で含有されない方を含有する。
第3の溶液は、骨形成タンパク質(D)を含有する。
【0049】
第1~第3の溶液は、いずれも水溶液であることが好ましい。
第1~第3の溶液中の各成分(A)~(E)の詳細は上述したとおりである。また、第1~第3の溶液の量比、および第1~第3の各溶液中に含まれる各成分の含有量は、第1~第3の溶液を混合して得られる組成物中の各成分(A)~(E)の量比や含有量が[骨再生用組成物]欄に記載した範囲となるよう適宜設定される。
【0050】
第1~第3の溶液を混合することにより、本実施形態の組成物を調製することができる。この際、各溶液の混合順序は特に限定されないが、第1の溶液と第3の溶液とを混合して得られた混合物に第2の溶液を混合する態様、あるいは第2の溶液と第3の溶液とを混合して得られた混合物に第1の溶液を混合する態様が挙げられる。
【0051】
[骨再生用部材]
一実施形態において、本発明の骨再生用部材は、本実施形態の骨再生用組成物または骨再生用組成物キットを用いて形成され、具体的には、前記骨再生用組成物または骨再生用組成物キットから形成されるゲルからなる。
【0052】
前記ゲルは、成分(A)が有するヒドロキシアリール基の酸化カップリングによる架橋構造を有し、すなわち成分(A)由来の架橋体を含有する。例えば、成分(A)中のヒドロキシアリール基が酸化され、前記基同士の酸化カップリング(架橋)が起こり、ゲル化が進行すると推測される。
【0053】
一実施態様において、前記ゲルは、ハイドロゲルであり、具体的には水を通常、50~99.9質量%、好ましくは70~97質量%含有するハイドロゲルである。前記ハイドロゲルは、成分(A)由来の架橋体を通常、50~0.1質量%、好ましくは30~3質量%含有する。前記ハイドロゲルは、機械的強度および柔軟性に優れる。
【0054】
前記ハイドロゲルを適宜乾燥するなどして水分を除去することにより、キセロゲルを得ることができる。あるいは、前記ゲルは、例えば、Macromolecules(2015)2624-2630に記載のように、成分(A)とともにエオシンY、メチレンブルー、ローズベンガル等の光増感剤を用い、光照射を行うことでゲル化させて得ることもできる。
【0055】
骨再生用部材の製造方法の一例は、以下のとおりである。
本実施形態の組成物における各成分(A)~(E)、または本実施形態のキットにおける第1~第3の溶液を混合し、水溶液温度(架橋温度)が、通常、4~50℃、好ましくは10~45℃、より好ましくは20~40℃、反応時間が、通常、1分~48時間、好ましくは5分~30時間の条件で、ゲル化させることができる。前記各成分(A)~(D)は、各成分の水溶液として用いることができる。ハイドロゲル形成は、加圧下、常圧(大気圧)下および減圧下のいずれかで行うことができるが、常圧下が好ましい。
【0056】
なお、所望の形状のキャビティーを有する金型を用意し、本実施形態の組成物の各成分(A)~(E)、または本実施形態のキットにおける第1~第3の溶液を前記キャビティー中で混合して反応させることにより、前記形状を有するハイドロゲルを形成することができる。また、所定の基材上に本実施形態の組成物、または本実施形態のキットにおける第1~第3の溶液の混合液をキャストすることにより、フィルム状のハイドロゲルを得ることができ、前記フィルム状のハイドロゲルを例えば円柱形状、多角柱状等に打ち抜くこともできる。
【0057】
骨再生用部材の形状は特に限定されないが、例えば、フィルム状、円柱形状、多角柱状、不織布状、ファイバー状、チューブ状、粒子状、メッシュ状が挙げられる。
本実施形態の骨再生用部材中には骨形成タンパク質(D)が担持しており、したがって本実施形態では前記骨再生用部材の適用部位(例:骨の欠損部位、骨折部位)に骨形成タンパク質(D)を長期間維持できると考えられる。また、前記ハイドロゲルは患部において細胞外マトリックスとして機能し、この細胞外マトリックスは骨再生する細胞の足場となり、骨再生する細胞が定着して、良好に増殖および分化できると考えられる。したがって、本実施形態の骨再生用部材は、骨再生効果が高い。
【0058】
[骨再生方法]
本実施形態の骨再生用組成物、骨再生用組成物キットおよび骨再生用部材は、骨再生用途に用いられる。例えば、骨再生を必要とする対象(例えば、ヒト、ヒトを除く哺乳動物)の骨の欠損部位、骨折部位等の患部に、骨再生用組成物を投与する、もしくは骨再生用組成物キットの第1~第3の溶液を混合してなる混合物を投与することにより、骨再生用部材を患部に形成する、または前記患部に骨再生用部材を適用することにより、骨再生を誘導し、骨の癒合率を向上させることができる。
【0059】
図1に、一例として本実施形態の骨再生用組成物を用いた場合における骨再生の推定スキームを記載する。患部30に投与された骨再生用組成物はハイドロゲル40を形成し、ハイドロゲル40中には骨形成タンパク質50が良好に保持される。骨形成タンパク質50は、骨細胞の前駆細胞である間葉系幹細胞、骨芽細胞20の分化または増殖を促進する。その結果、大きな新生骨(仮骨)70が形成される。なお、
図1中では骨細胞は省略している。
【0060】
本実施形態の再生対象である骨は、網目状に形成されたコラーゲン線維にヒドロキシアパタイトが沈着したものであり、骨の有機質の大部分はコラーゲンである。
本実施形態の骨再生用組成物、骨再生用組成物キットまたは骨再生用部材は、その使用目的に合わせて、用法、用量および形状を適宜決定することができる。例えば、骨再生用組成物、または骨再生用組成物キットの第1~第3の溶液の混合物は、生体内の骨の欠損部位、骨折部位等の患部に、直接、例えば注射、塗布等により投与することができる。また、前記組成物または混合物を適当な賦形剤と混合し、軟膏状、ゲル状またはクリーム状にしてから、前記患部に塗布することもできる。
【0061】
本実施形態の骨再生用組成物、骨再生用組成物キットおよび骨再生用部材の対象疾患としては、前述したように、難治性骨折が挙げられる。
【実施例】
【0062】
以下、本実施形態を実施例に基づいてさらに具体的に説明するが、本実施形態はこれら実施例に限定されない。
<変性多糖の製造>
[合成例1]ヒドロキシフェニル基変性ヒアルロン酸(A1)の合成
窒素雰囲気下、フラスコに、ヒアルロン酸(品名「HA-LF5-A」、キューピー株式会社製)40g、ジメチルホルムアミド1600ml、および塩化リチウム30.9gを加え、90℃で90分間攪拌した。得られた溶液を0℃に冷却し、ピリジン9.2mlとクロロギ酸ニトロフェニル23.8gとを加え、0℃で1時間撹拌した。次いで、前記フラスコに、冷やしたエタノール2000mlを加え、析出物を濾別し、濾物を冷やしたエタノールで洗浄し、乾燥した。
【0063】
窒素雰囲気下、フラスコに、乾燥後の前記濾物をジメチルホルムアミド740mlで溶解した溶液を入れ、次いでチラミン9.1gを入れ、室温で3時間撹拌した。次いで、前記フラスコに、冷やしたエタノール800mlを加え、析出物を濾別し、濾物を純水に溶解させ透析した。
【0064】
このようにして、ヒドロキシフェニル基変性ヒアルロン酸(A1)を得た。ヒドロキシフェニル基変性ヒアルロン酸(A1)を1H NMRにて分析したところ、ヒドロキシフェニル基による置換度(DS)は3.2であった。
【0065】
[合成例2]ヒドロキシフェニル基変性デキストラン(AR1)の合成
合成例1において、ヒアルロン酸の代わりにデキストラン(品名「Dextran 40 powder」、名糖工業株式会社製)40gを用いたこと以外は同様の手法にて、ヒドロキシフェニル基変性デキストラン(AR1)を得た。ヒドロキシフェニル基変性デキストラン(AR1)を1H NMRにて分析したところ、ヒドロキシフェニル基によるDSは12であった。
【0066】
<骨再生用組成物キットの第1~第3の溶液の製造>
[製造例1]第1の溶液(1)の製造
合成例1で得られたヒドロキシフェニル基変性ヒアルロン酸(A1)0.2gを、リン酸緩衝生理食塩水(品名「PBS(-)」、和光純薬工業株式会社(製))0.8gに溶解しポリマー溶液を準備した。前記ポリマー溶液1.0gと、西洋わさびペルオキシダーゼ(和光純薬製、商品コード「169-10791」)水溶液(濃度:30U/ml)1.0gとを均一に混合し、第1の溶液(1)を製造した。
【0067】
[製造例2]第1の溶液(c1)の製造
合成例2で得られたヒドロキシフェニル基変性デキストラン(AR1)0.2gを、リン酸緩衝生理食塩水(品名「PBS(-)」、和光純薬工業株式会社(製))0.8gに溶解しポリマー溶液を準備した。前記ポリマー溶液1.0gと、西洋わさびペルオキシダーゼ(和光純薬製、商品コード「169-10791」)水溶液(濃度:0.8U/ml)1.0gとを均一に混合し、第1の溶液(c1)を製造した。
【0068】
[調製例1]第2の溶液(1)の準備
過酸化水素水(濃度:882mM)を、第2の溶液(1)とした。
【0069】
[製造例3]第3の溶液(1)の製造
BMP-2(PEPROTECH社製)を前記PBS(-)で濃度が2μg/μlとなるように調整し、第3の溶液(1)を準備した。
【0070】
<患部への骨再生用組成物の適用および評価>
[実施例1]
第3の溶液(1)14.4μlと、第1の溶液(1)165.6μlとを均一に混合し、混合液を得た。前記混合液15μlに第2の溶液(1)15μlを混合し、骨再生用組成物を準備した。
C57BL/6Jマウス(オス、生後9週齢)の大腿骨を、骨膜を電気メスで焼灼した後に骨折させた。前記マウスの骨折部位に前記骨再生用組成物25μlを投与した(
図1参照)。6週間後、C57BL/6Jマウスを屠殺し、骨癒合率をmicroCTにて測定した。骨癒合率は80%(8/10)であった。6週間後のmicroCTの画像を
図2に示す。
【0071】
[比較例1]
実施例1において、第1の溶液(1)の代わりに、第1の溶液(c1)を用いたこと以外は実施例1と同様にして、骨再生用組成物を準備した。次いで、実施例1と同様に、マウスの骨折部位に前記骨再生用組成物を投与し、6週間後マウスを屠殺し、骨癒合率をmicroCTにて測定した。骨癒合率は10%(1/10)であった。6週間後のmicroCTの画像を
図2に示す。
【0072】
[比較例2]
実施例1において、第3の溶液(1)の代わりに、リン酸緩衝生理食塩水(品名「PBS(-)」、和光純薬工業株式会社(製))を用いたこと以外は実施例1と同様にして、骨再生用組成物を準備した。次いで、実施例1と同様に、マウスの骨折部位に前記骨再生用組成物を投与し、6週間後マウスを屠殺し、骨癒合率をmicroCTにて測定した。骨癒合率は10%(1/10)であった。6週間後のmicroCTの画像を
図2に示す。
【0073】
[実験例1]control
大腿骨の骨膜を電気メスで焼灼した後に大腿骨を骨折させたC57BL/6Jマウス(オス、生後9週齢)をcontrolとした。骨癒合率は10%(1/10)であった。6週間後のmicroCTの画像を
図2に示す。
【0074】
<考察>
図2の上側が前記大腿骨の横視図、下側が前記大腿骨の骨断面図であり、濃灰色部が新生骨である。実施例1は、比較例1~2および実験例1と比較して骨癒合率が高く、本実施形態の骨再生用組成物は、骨膜の損傷などを含む難治性骨折に有用であることが明らかになった。
【符号の説明】
【0075】
10:骨
15:骨髄
20:間葉系幹細胞、骨芽細胞(骨膜)
30:患部(骨の欠損部位、骨折部位)
40:ハイドロゲル
50:骨形成タンパク質
60:増殖した骨芽細胞
70:新生骨
80:新生骨膜