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  • 特許-強度検査方法および強度検査装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-13
(45)【発行日】2023-07-24
(54)【発明の名称】強度検査方法および強度検査装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 3/08 20060101AFI20230714BHJP
【FI】
G01N3/08
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021501203
(86)(22)【出願日】2019-02-20
(86)【国際出願番号】 JP2019006335
(87)【国際公開番号】W WO2020170360
(87)【国際公開日】2020-08-27
【審査請求日】2021-12-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000198318
【氏名又は名称】株式会社IHI検査計測
(74)【代理人】
【識別番号】100097515
【弁理士】
【氏名又は名称】堀田 実
(74)【代理人】
【識別番号】100136700
【弁理士】
【氏名又は名称】野村 俊博
(72)【発明者】
【氏名】川▲崎▼ 拓
【審査官】前田 敏行
(56)【参考文献】
【文献】特許第5841081(JP,B2)
【文献】米国特許出願公開第2001/0047691(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 3/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の種類の繊維強化複合材料である試験体の引張強度を評価するための強度検査装置であって、
引張荷重を増加させながら前記試験体に与えている試験期間において、該引張荷重により前記試験体において生じるAE波を検出してAE波の波形データを生成するAEセンサと、
各時点でのAE波の変位を表す前記波形データにおいて、設定時間が経過する度に、当該設定時間中に大きさが少なくとも1回は変位閾値以上になっている一連の変位を1つのAE波として、前記波形データに基づいて、持続時間が時間閾値よりも長いAE波を対象波として特定する対象波特定部と、
各対象波の重心周波数を求める演算部と、
各対象波について、該対象波の前記重心周波数と、該対象波の検出時点で前記試験体に与えた前記引張荷重の大きさとを対応付けた強度評価データを生成する評価データ生成部と、を備え
前記所定の種類の繊維強化複合材料について、前記試験期間において、前記時間閾値以下の持続時間を有するAE波が、前記時間閾値よりも長い持続時間を有する対象波よりも多く生じるように、前記時間閾値が設定されている、強度検査装置。
【請求項2】
前記対象波特定部は、前記波形データに基づいて、持続時間が前記時間閾値よりも長いAE波を対象波として特定し、各対象波と、当該対象波の検出時点とを対応付けた対象波データを生成し、
前記演算部は、前記対象波データに基づいて、各対象波の重心周波数を求め、各対象波の重心周波数と、該対象波の検出時点とを対応付けた重心周波数データを生成し、
前記評価データ生成部は、前記重心周波数データと、経過時間に対する前記引張荷重の大きさを表わす荷重データとに基づいて、前記強度評価データを生成する、請求項1に記載の強度検査装置。
【請求項3】
前記演算部は、
各対象波の波形に基づいて該対象波のスペクトルデータを生成するスペクトル生成部と、
各対象波の前記スペクトルデータに基づいて、該AE波の重心周波数を求める重心周波数算出部と、を有する、請求項1に記載の強度検査装置。
【請求項4】
前記強度評価データを表示するディスプレイ装置を備える、請求項1に記載の強度検査装置。
【請求項5】
所定の種類の繊維強化複合材料である試験体の引張強度を評価するための強度検査方法であって、
引張荷重を増加させながら前記試験体に与え、これにより前記試験体において生じるAE波の波形データを、AEセンサにより生成し、
各時点でのAE波の変位を表す前記波形データにおいて、設定時間が経過する度に、当該設定時間中に大きさが少なくとも1回は変位閾値以上になっている一連の変位を1つのAE波として、前記波形データに基づいて、持続時間が時間閾値よりも長いAE波を、対象波特定部により対象波として特定し、
各対象波の重心周波数を演算部により求め、
各対象波について、該対象波の前記重心周波数と、該対象波の検出時点で前記試験体に与えた前記引張荷重の大きさとを対応付けた強度評価データを、評価データ生成部により生成し、
前記所定の種類の繊維強化複合材料について、引張荷重を増加させながら前記試験体に与えている試験期間において、前記時間閾値以下の持続時間を有するAE波が、前記時間閾値よりも長い持続時間を有する対象波よりも多く生じるように、前記時間閾値が設定されている、強度検査方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、繊維強化複合材料(FRP:Fiber Reinforced Plastic)である試験体の引張強度を検査する技術に関する。より詳しくは、本開示は、試験体に引張荷重を与えることにより、試験体に生じたAE波(acoustic emission)に基づいて、試験体の引張強度を検査する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
FRPは、ロケットや航空機などに用いられている。特に、炭素繊維強化複合材料(CFRP:Carbon Fiber Reinforced Plastic)は、強度と剛性に優れている。FRPでは、積層の剥離や繊維の断線が生じた後に破壊に至る。
【0003】
このようなFRPの引張強度を検査する技術が、特許文献1に開示されている。特許文献1の強度検査方法では、次のようにFRPの引張強度を評価している。試験体に引張荷重を与え、この引張荷重を、時間の経過に従って増やす。この引張荷重により試験体に生じるAE波を検出する。試験期間に含まれる複数の荷重印加区間の各々におけるAE波の複数の周波数成分を求める。各荷重印加区間について、複数の周波数成分に基づいてAE波の重心周波数を求め、複数の荷重印加区間のうち、先の荷重印加区間よりも重心周波数が下がっている荷重印加区間を特定し、特定した荷重印加区間において試験体に与えた引張荷重の大きさを、試験体の引張強度と判定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第5841081号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
試験体に引張荷重を与えている時に、多数のAE波(一連の変位)が断続的に生じるが、これらのAE波の中には、試験体の破断の有無を表わさない傾向にあるAE波も含まれる。そのため、試験体の破断の有無を表わす傾向にあるAE波を特定して、特定したAE波に基づいて試験体の引張強度を評価することが望まれる。
【0006】
すなわち、本開示は、試験体の破断の有無を表わす傾向にあるAE波を特定し、特定したAE波に基づいて、試験体の引張強度を評価する技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示による強度検査装置は、繊維強化複合材料である試験体の引張強度を評価するための強度検査装置であって、
引張荷重を増加させながら前記試験体に与えている試験期間において、該引張荷重により前記試験体において生じるAE波を検出してAE波の波形データを生成するAEセンサと、
各時点でのAE波の変位を表す前記波形データにおいて、設定時間が経過する度に、当該設定時間中に大きさが少なくとも1回は変位閾値以上になっている一連の変位を1つのAE波として、前記波形データに基づいて、持続時間が時間閾値よりも長いAE波を対象波として特定する対象波特定部と、
各対象波の重心周波数を求める演算部と、
各対象波について、該対象波の前記重心周波数と、該対象波の検出時点で前記試験体に与えた前記引張荷重の大きさとを対応付けた強度評価データを生成する評価データ生成部と、を備える、強度検査装置と、を備える。
【0008】
本開示による強度検査方法は、繊維強化複合材料である試験体の引張強度を評価するための強度検査方法であって、
引張荷重を増加させながら前記試験体に与え、これにより前記試験体において生じるAE波の波形データを、AEセンサにより生成し、
各時点でのAE波の変位を表す前記波形データにおいて、設定時間が経過する度に、当該設定時間中に大きさが少なくとも1回は変位閾値以上になっている一連の変位を1つのAE波として、前記波形データに基づいて、持続時間が時間閾値よりも長いAE波を、対象波特定部により対象波として特定し、
各対象波の重心周波数を演算部により求め、
各対象波について、該対象波の前記重心周波数と、該対象波の検出時点で前記試験体に与えた前記引張荷重の大きさとを対応付けた強度評価データを、評価データ生成部により生成する
【発明の効果】
【0009】
本開示によると、引張荷重を増加させながら試験体に与えている試験期間において、試験体において生じるAE波の波形データを生成し、この波形データに基づいて、持続時間が時間閾値よりも長いAE波を対象波として特定し、各対象波について、その重心周波数と引張荷重の大きさとを対応付けた強度評価データを生成する。
【0010】
これについて、持続時間が時間閾値よりも長いAE波は、試験体の破断の有無を表わす周波数情報を含んでいる傾向にある。したがって、試験体の破断の有無を表わす傾向にあるAE波を用いて生成した強度評価データに基づいて、試験体の引張強度を評価することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本開示の実施形態による強度検査装置を示すブロック図である。
図2】AEセンサが生成する波形データの一例を示す模式図である。
図3A】重心周波数データの一例を示す概念図である。
図3B】荷重データの一例を示す概念図である。
図3C】強度評価データの一例を示す概念図である。
図4】本開示の実施形態による強度検査方法を示すフローチャートである。
図5A】比較例の強度検査方法により得られた強度評価データを示す。
図5B図5Aにおける重心周波数のプロットの密度をグレースケールで表わした図である。
図6A】本開示の実施形態による強度検査方法により得られた強度評価データを示し、時間閾値が30マイクロ秒である場合を示す。
図6B】本開示の実施形態による強度検査方法により得られた強度評価データを示し、時間閾値が200マイクロ秒である場合を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本開示の実施形態を図面に基づいて説明する。なお、各図において共通する部分には同一の符号を付し、重複した説明を省略する。
【0013】
(強度検査装置の構成)
図1は、本開示の実施形態による強度検査装置10を示すブロック図である。強度検査装置10は、繊維強化複合材料である試験体に引張荷重を与えた時に試験体に生じるAE波に基づいて、試験体の引張強度を評価するための装置である。ここで、繊維強化複合材料は、例えばCFRPである。試験体は、例えば、ロケット又は航空機を構成するCFRP、あるいは、水素を燃料として走行する自動車に積載され水素を蓄える水素タンクを構成するCFRPであってよいが、これらに限定されない。
【0014】
強度検査装置10は、AEセンサ1と対象波特定部2と演算部3と評価データ生成部4とを備える。
【0015】
AEセンサ1は、試験体に取り付けられ、試験体に生じたAE波を検出する。より詳しくは、AEセンサ1は、引張荷重を増加させながら試験体に与えている試験期間において、該引張荷重により試験体において生じるAE波の波形データを生成する。波形データは、各時点におけるAE波の変位を表わす。
【0016】
図2は、波形データの一例を示す模式図である。図2において、横軸は経過時間を示し、縦軸は、AE波の変位を示す。図2では、波形データにおける一連の変位を1つのAE波として2つのAE波W1,W2を示している。なお、試験期間においては、多数のAE波が断続的に生じる。AEセンサ1は、後述する時間計測部6が計測した経過時間に基づいてAE波の波形データを生成してよい。この時間計測部6は、AEセンサ1に組み込まれていてもよい。
【0017】
対象波特定部2は、AEセンサ1が生成した波形データに基づいて、持続時間が時間閾値よりも長いAE波を対象波として特定する。より詳しくは、波形データにおいて、設定時間(図2ではTs)が経過する度に、当該設定時間Ts中に大きさが少なくとも1回は変位閾値(図2ではDt)以上になっている一連の変位を1つのAE波として、対象波特定部2は、時間閾値よりも長く持続しているAE波を対象波として特定する。すなわち、対象波特定部2は、各AE波を特定し、当該各AE波の持続時間を求め、これらのAE波から、持続時間が時間閾値よりも長い各AE波を対象波として特定する。例えば、図2において、AE波W1は、持続時間T1が時間閾値以下であるので対象波として特定されず、AE波W1は、持続時間T2が時間閾値よりも長いので対象波として特定される。
【0018】
一例では、対象波特定部2は、次のように処理を行う。対象波特定部2は、上述の波形データから各AE波の持続時間の開始時点を特定する。この開始時点は、図2のように、AE波の変位の大きさが閾値Dt未満のまま、設定時間Tsを経過した後に、変位の大きさが変位閾値Dtに最初に達した時点である。また、対象波特定部2は、図2のように、持続時間の開始時点の後、AE波の変位の大きさが変位閾値Dt未満のまま最初に設定時間Tsを経過した時点を特定し、当該設定時間Tsの開始時点を持続時間の終了時点として特定する。対象波特定部2は、このように各AE波の持続時間を求め、各AE波について、その持続時間が時間閾値よりも長いかを判断する。これにより、対象波特定部2は、多数のAE波のうち、持続時間が時間閾値よりも長い各AE波を対象波として特定する。
【0019】
なお、適切な時間閾値は、試験体としての繊維強化複合材料の種類により変わるので、試験体の種類毎に実験的に予め求められてよい。また、一例では、試験期間において、持続時間が時間閾値以下のAE波が、持続時間が時間閾値よりも長いAE波(対象波)よりも多く生じるように、時間閾値が設定されてよい。この設定は、試験体と同じ構造の繊維強化複合材料に対する実験に基づいてなされてよい。
【0020】
対象波特定部2は、例えば、AEセンサ1により生成された波形データに基づいて、上述のように対象波を特定し、各対象波(すなわち対象波の波形)と、当該対象波の検出時点とを対応付けた対象波データを生成する。なお、対象波の波形は、AEセンサ1により生成された波形データに含まれており、経過時間に対する対象波の変位の大きさを表わす波形である(以下同様)。また、対象波の検出時点は、例えば、対象波の持続時間の開始時点、終了時点、又は中間時点であってよい。
【0021】
演算部3は、特定された各対象波の重心周波数を求める。演算部3は、例えば、上述の対象波データに基づいて、各対象波の重心周波数を求め、各対象波の重心周波数と、該対象波の検出時点とを対応付けた重心周波数データを生成する。図3Aは、重心周波数データの一例を示す概念図である。図3Aにおいて、横軸は、試験期間における経過時間を示し、縦軸は、各対象波について算出した重心周波数を示し、各白丸は、それぞれ、対応する対象波について算出された重心周波数を示す。演算部3は、スペクトル生成部3aと重心周波数算出部3bとを有する。
【0022】
スペクトル生成部3aは、対象波データに基づいて、特定された各対象波の波形に基づいて、当該対象波のスペクトルデータを生成する。より詳しくは、スペクトル生成部3aは、当該AE波の持続時間にわたって、経過時間に対して当該AE波の変位(強度)を表わした波形を、周波数に対してAE波の強度を表わしたスペクトルデータに変換する。この変換は、FFT(Fast Fourier Transform)により行われてよい。
【0023】
重心周波数算出部3bは、各対象波について、当該対象波のスペクトルデータに基づいて、当該対象波の重心周波数を求める。重心周波数Fgは、次の式により表される。

Fg=Σ(Fi×Pi)/ΣPi

ここで、Fiは、スペクトルデータにおける各周波数を示し、Piは、スペクトルデータにおける対象波の周波数成分(すなわち、周波数FiでのAE波の強度)を示し、FiとPiの添え字iは、複数の周波数を互いに区別するための指標値であって、1~n(nは、2以上の整数であり、好ましくは、十分に大きい値)までの値をとり、Σは、iのすべての値についての総和を示す。
【0024】
なお、重心周波数算出部3bは、各対象波について、当該対象波のスペクトルデータの全ての周波数成分に基づいて当該対象波の重心周波数を求めてもよいし、当該対象波のスペクトルデータにおける所定の周波数域に含まれる各周波数成分のみに基づいて当該対象波の重心周波数を求めてもよい。ここで、所定の周波数域は、AEセンサ1の共振周波数を除く(例えば当該共振周波数よりも低い)周波数域であってよい。
【0025】
評価データ生成部4は、各対象波について、当該対象波の重心周波数と、当該対象波の検出時点で試験体に与えた引張荷重の大きさとを対応付けた強度評価データを生成する。評価データ生成部4は、例えば、重心周波数データと、試験期間における経過時間に対する引張荷重の大きさを表わす荷重データとに基づいて、強度評価データを生成する。そのために、評価データ生成部4には、重心周波数データ以外に荷重データが入力される。
【0026】
図3Bは、荷重データの一例を示す概念図である。図3Bにおいて、横軸は、荷重増加時間を示し、縦軸は、試験期間において試験体に与えた引張荷重を示す。荷重データは、荷重データ生成部5により生成されてよい。荷重データ生成部5は、試験期間において試験体に与えた引張荷重の計測値と、試験期間において時間計測部6が計測した経過時間とに基づいて、荷重データを生成し、この荷重データを評価データ生成部4に入力する。ここで、荷重の計測値は、適宜の荷重センサ7(例えば試験体に取り付けたひずみゲージ)により計測された値であってよい。なお、荷重データ生成部5は、強度検査装置10の構成要素であってもよい。また、時間計測部6と荷重センサ7も、強度検査装置10の構成要素であってもよい。
【0027】
図3Cは、強度評価データの一例を示す概念図である。図3Cの横軸は、試験体に与えた引張荷重を示し、経過時間に対応する。図3Cの縦軸は、重心周波数を示す。また、図3Cにおいて、多数の白丸は、それぞれ、対応する引張荷重について算出された重心周波数を示す。例えば、図3Bの荷重データによる引張荷重が試験体に与えられた結果、図3Aの重心周波数データと図3Cの強度評価データが得られる。
【0028】
評価データ生成部4は、例えば、強度評価データをディスプレイ装置8に出力する。この場合には、ディスプレイ装置8は、その画面に強度評価データを表示する。強度評価データは、図3Cのように、引張荷重の増加に伴う、重心周波数の変化を表わす。このような強度評価データにおいて、引張荷重の増加により重心周波数が(例えば顕著に)低下する直前の引張荷重の大きさを、試験体の引張強度として判定することができる。すなわち、繊維強化複合材料は、引張荷重により、その繊維が破断して破壊されると、この材料には、高い周波数のAE波が伝わり難くなると考えられる。したがって、引張荷重の増加過程で試験体が破壊されると、以降において引張荷重により発生するAE波の重心周波数が下がる。したがって、重心周波数が低下する直前の引張荷重の大きさを試験体の引張強度として判定できる。例えば、図3Cにおいて破線で示す引張荷重を引張強度と判定できる。
【0029】
なお、評価データ生成部4は、強度評価データを他の装置(例えば、プリンタ装置または記憶装置)に出力してもよい。この場合、プリンタ装置は、強度評価データを用紙に印刷し、当該記憶装置は、強度評価データを記憶する。
【0030】
(強度検査方法)
図4は、本開示の実施形態による強度検査方法を示すフローチャートである。強度検査方法は、繊維強化複合材料である試験体の引張強度を検査するために、以下のステップS1~S5を有する。強度検査方法は、上述した強度検査装置10を用いて行われる。
【0031】
ステップS1では、試験期間において引張荷重を増加させながら試験体に与え、これにより試験体において生じるAE波の波形データを、AEセンサ1により生成する。
【0032】
ステップS2では、ステップS1で生成された波形データに基づいて、持続時間が時間閾値よりも長いAE波を、対象波特定部2により対象波として特定する。例えば、対象波特定部2は、波形データに基づいて上述の対象波データを生成する。
【0033】
ステップS3では、ステップS2で特定された各対象波の重心周波数を演算部3により求める。例えば、演算部3は、ステップS2で生成された対象波データに基づいて、上述の重心周波数データを生成する。
【0034】
ステップS3は、ステップS31,S32を有する。ステップS31では、ステップS2で生成された対象波データにおける各対象波の波形に基づいて、当該対象波のスペクトルデータを、スペクトル生成部3aにより生成する。ステップS32では、ステップS31で生成した各対象波のスペクトルデータに基づいて、当該AE波の重心周波数を、重心周波数算出部3bにより求める。
【0035】
ステップS4では、各対象波について、当該対象波の重心周波数と、当該対象波の検出時点で試験体に与えた引張荷重の大きさとを対応付けた強度評価データを、評価データ生成部4により生成する。例えば、評価データ生成部4は、ステップS3で生成された重心周波数データと、ステップS1における経過時間に対する引張荷重の大きさを表わす荷重データとに基づいて、強度評価データを生成する。
【0036】
ステップS5では、ステップS4で生成された強度評価データが評価データ生成部4により出力される。例えば、評価データ生成部4は、強度評価データをディスプレイ装置8に出力する。この場合、ディスプレイ装置8は、その画面に、図3Cのような強度評価データを表示する。人が、表示された強度評価データを見て、引張荷重の増加過程において重心周波数の低下(例えば顕著に)が始まる直前の引張荷重の大きさを、試験体の引張強度として判定することができる。
【0037】
(実施例)
図5Aは、比較例の強度検査方法により実際に得られた強度評価データを示す。図5Aの場合では、上述のステップS2において、ステップS1で生成した波形データにおいて、大きさが変位閾値以上となる一連の変位を1つのAE波として、AE波の持続時間に係わらず、全てのAE波の各々について重心周波数を求め、他の点は、上述した本開示の実施形態による強度検査方法と同じである。図5Aにおいて、横軸は、ステップS1で与えた引張荷重を示し、縦軸は、重心周波数を示す。図5Aにおいて、小さい各白抜きの丸印は、1つのAE波の重心周波数のプロットである。
【0038】
図5Aの強度評価データでは、試験体の破断を表わしていない各白抜きの丸印が多いので、引張荷重がどの値を超えたら重心周波数が低下していると言えるのかを判定し難い。図5Bは、図5Aにおいて、重心周波数のプロット(多数の白抜きの丸印)の密度をグレースケールで表わした図である。図5Bにおいて、濃い色の領域が、白抜きの丸印の密度が高い領域である。この領域から、図5Bの矢印が示すように、引張荷重が概ね475MPaを超えたら重心周波数が低下していると言える。したがって、試験体の引張強度は約475MPaであることが分かる。
【0039】
図6A図6Bは、本開示の実施形態による強度検査方法により実際に得られた強度評価データを示す。図6A図6Bは、図5Aの場合と同じ、ステップS1で生成した波形データから得られたデータである。図6Aは、持続時間が30マイクロ秒を超えるAE波を対象波として特定した場合(すなわち、上記時間閾値を30マイクロ秒とした場合)を示す。図6Bは、持続時間が200マイクロ秒を超えるAE波を対象波として特定した場合を示す。
【0040】
図6A図6Bの強度評価データにおいて、これらの図の矢印が示すように、引張荷重が概ね475MPaを超えたら重心周波数が低下していることが分かる。持続時間がより長い各対象波から生成した図6Bの強度評価データでは、引張荷重がどの値を超えたら重心周波数が低下しているのかを、図6Aの場合よりも精度よく判定することができる。
【0041】
(実施形態による効果)
持続時間が時間閾値以下であるAE波には、試験体の破断とは関係しない比較的高い周波数成分が含まれている傾向がある。したがって、このような持続時間の短いAE波の重心周波数は、試験体の破断の有無を表わさない傾向にある。
これに対し、本開示の実施形態では、上述のように、このような持続時間が短いAE波を用いずに、重心周波数が試験体の破断の有無を表わす傾向にある持続時間の長いAE波(対象波)を用いて強度評価データを生成している。したがって、このような強度評価データに基づいて、試験体の引張強度を精度よく判定することが可能となる。
【0042】
また、持続時間が時間閾値以下のAE波に対する処理(例えば重心周波数を求める処理)が不要となるので、強度評価データを生成するための処理量が低減される。例えば、図5Aのように膨大な数のAE波の重心周波数を生成することが不要になり、図5Aのデータから図5Bのデータを生成する処理が不要になる。
【0043】
本開示は上述した実施の形態に限定されず、本開示の要旨を逸脱しない範囲で種々変更を加え得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0044】
1 AEセンサ、2 対象波特定部、3 演算部、3a スペクトル生成部、3b 重心周波数算出部、4 評価データ生成部、5 荷重データ生成部、6 時間計測部、7 荷重センサ、8 ディスプレイ装置、10 強度検査装置、Ts 設定時間、Dt 変位閾値
図1
図2
図3A
図3B
図3C
図4
図5A
図5B
図6A
図6B