(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-13
(45)【発行日】2023-07-24
(54)【発明の名称】時計ムーブメントの停止爪
(51)【国際特許分類】
G04B 11/04 20060101AFI20230714BHJP
【FI】
G04B11/04
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022092975
(22)【出願日】2022-06-08
(62)【分割の表示】P 2021044278の分割
【原出願日】2021-03-18
【審査請求日】2022-06-08
(32)【優先日】2020-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】591048416
【氏名又は名称】ウーテーアー・エス・アー・マニファクチュール・オロロジェール・スイス
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【氏名又は名称】山川 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】ジュリアン・クリスタン
【審査官】平野 真樹
(56)【参考文献】
【文献】スイス国特許発明第41448(CH,A)
【文献】特開昭53-90968(JP,A)
【文献】米国特許第940117(US,A)
【文献】スイス国特許発明第711851(CH,B5)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G04B 1/00-99/00
G04C 1/00-1/14,10/00-10/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも
-外周部に、ラチェット(5)の歯列(50)とラッチ係合するラグ(4)と、
-前記ラグ(4)が前記ラチェット(5)の前記歯列(50)と噛み合う作動位置と非作動位置との間で中間位置を経由する角変位に沿って、自由回転して固定ロッド(7)と協働するように意図されたハブ(6)と
を備えている本体(3)を有する、時計ムーブメント(2)の停止爪であって、
前記停止爪(1)は、少なくとも
-角変位の過程で前記非作動位置から前記作動位置へ前記停止爪(1)を戻す1つの手段(9)
を有することと、
-前記戻し手段(9)および前記本体(3)は、一体品として作製されることと
、
-前記戻し手段(9)は、前記本体(3)と一体の一端部(91)および反対側の自由端(92)を有する少なくとも1つの弾性ブレード(90)を有することと、
-前記本体(3)は、前記弾性ブレード(90)の内面と前記本体(3)との間で、自身と一体の前記端部(91)から前記弾性ブレード(90)の前記自由端(92)まで延在する溝(10)を有することと、
-前記弾性ブレード(90)の前記自由端(92)は、内面で突出している張り出し部(12)を有し、
-前記溝(10)は、前記張り出し部(12)を受け入れるためのノッチ(13)を、
前記張り出し部(12)に対面して有することと
を特徴とする、停止爪(1)。
【請求項2】
-前記ハブ(6)は、閉じていて、環状ボア(15)の形状である
ことを特徴とする、請求項1に記載の停止爪(1)。
【請求項3】
-前記ハブ(6)は、開いていて、前記本体(3)は全体的にU字型である
ことを特徴とする、請求項1に記載の停止爪(1)。
【請求項4】
-前記本体(3)は、金属材料で作製される
ことを特徴とする、請求項1~3のいずれか一項に記載の停止爪(1)。
【請求項5】
-前記本体(3)は、ニッケル-リン合金で作製される
ことを特徴とする、請求項1~4のいずれか一項に記載の停止爪(1)。
【請求項6】
-前記本体(3)は、LIGAタイプの方法で製造される
ことを特徴とする、請求項1~5のいずれか一項に記載の停止爪(1)。
【請求項7】
-ブランク(8)の形状である支持構造と、
-回転運動する状態で前記ブランク(8)に取り付けられるラチェットであって、前記ラチェット(5)には歯列(50)が設けられている、ラチェット(5)と、
-前記ラチェット(5)の前記歯列(50)とラッチ係合する機構であって、前記ラッチ機構は、前記ブランク(8)内に形成されたハウジング(14)内部に回転式に取り付けられる、機構と、
-前記ブランク(8)の前記ハウジング(14)内で前記ラッチ機構を自由回転させるためのロッドであって、前記ロッド(7)は、前記ブランク(8)の前記ハウジング(14)内に形成されたボア(15)と固定状態で協働する、ロッド(7)と
を備える、時計ムーブメントであって、
-前記ラッチ機構は、請求項1~6のいずれか一項に記載の停止爪(1)を備えている
ことを特徴とする、時計ムーブメント(2)。
【請求項8】
-上部に前記ロッド(7)は、前記爪(1)の上部を前記ロッド(7)に沿って確実に保持するヘッド部(70)を有する
ことを特徴とする、請求項7に記載の時計ムーブメント(2)。
【請求項9】
-前記ボア(15)は、ねじ切りされ、
-前記ロッド(7)は、ねじの形状である
ことを特徴とする、請求項7または8に記載の時計ムーブメント(2)。
【請求項10】
-前記ロッド(7)は、前記ボア(15)に打ち込まれる釘の形状である
ことを特徴とする、請求項7または8に記載の時計ムーブメント(2)。
【請求項11】
-前記ハウジング(14)は、前記爪(1)の前記弾性ブレード(90)の外面と協働する内壁(140)を有する
ことを特徴とする、請求項7~10のいずれか一項に記載の時計ムーブメント(2)。
【請求項12】
請求項7~11のいずれか一項に記載の時計ムーブメント(2)を備えている計時器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、時計ムーブメントの停止爪に関する。
【0002】
本発明は、そのような停止爪を少なくとも1つ含む時計ムーブメントにも関する。
【0003】
本発明は、そのような時計ムーブメントを少なくとも1つ含む計時器にも関する。
【0004】
本発明は、時計製造の分野、さらに詳細には、計時器のムーブメントの伝達、打撃動作
、またはその他の機能を制御する停止爪の分野に関する。
【背景技術】
【0005】
時計ムーブメントの従来の設計では、ラッチがラチェットを備え、ラチェットは、香箱
によって角度を伴う動きで駆動される。この歯車形状のラチェットは、停止爪と協働する
。この停止爪は、回転して動くように取り付けられ、周縁にはラグが設けられる。このラ
グは、ラチェットの歯列と噛み合うことで協働して、前記ラチェットを一方向のみに回転
させるようにする。実際、爪の可動性により、前記ラグが前記ラチェットの歯列と噛み合
っている作動位置から、ラグが後退してラチェットが自由に回転できる非作動位置への角
変位に沿って爪は回転する。
【0006】
非作動位置から作動位置に戻すこと、および爪をラチェットと噛み合わせたままにする
ことは、戻し手段を用いて行われる。要するに、戻し手段は、爪を作動位置に戻してラチ
ェットの回転運動を阻止する。このように前記爪の変位によって特定の戻り角度を確保し
、それによってテンプが鳴るのを防止でき、香箱が空になることも防止できる。
【0007】
戻し手段は、湾曲したワイヤまたは弾性ブレードなどの独立したバネの形状であり、そ
の一方の端部はブランクに固定され、反対側の端部は爪に装着される。
【0008】
独立部品を追加することとは別に、戻すのをバネで行うと、このような時計ムーブメン
トの組立および分解が複雑になる。実際、組立過程では、特にバネのいずれか一方の端部
をブランクに固定して反対側の端部を爪に固定すると同時に、すでに定置にあるラチェッ
トの歯列と噛み合わせることによって前記爪を正しく配置することで、応力をかけてバネ
を配置する必要がある。
【0009】
このように、爪はハウジング内のブランクに取り付けられる。この取り付けは、前記爪
をブランクに確実に固定するロッドを用いて行われる。ロッドは、ピボット接続ができる
ように爪の中に形成されたハブと内部で協働し、それによって爪がロッドに対して自由回
転できるようにする。そのようなロッドは、ねじの形状で、前記ハウジング内で嵌合する
ように形成されたねじ切りにねじ締めされる。したがって、この種の取り付けでは、香箱
が空になる前にロッドのねじを弛めることで爪を撤去することができ、前記爪は、バネの
張力、特に香箱の張力によって引き続き応力を受ける可能性があり、これは構成要素の劣
化、さらには爪が突然飛び出すのを避けるために極力しないことが推奨される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、構成要素の数を減らし、組立作業および分解作業を簡易化することによって
、時計ムーブメントを簡易化することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
そのために、本発明は、ラチェットと噛み合った状態を維持するために必要な戻し手段
を組み入れてラッチを形成する停止爪を想定している。
【0012】
そのために、本発明は、少なくとも
-外周部に、ラチェットの歯列とラッチ係合するラグと、
-前記ラグが前記ラチェットの歯列と噛み合う作動位置と非作動位置との間で中間位置を
経由する角変位に沿って、自由回転して固定ロッドと協働するように意図されたハブと
を備えている本体を有する時計ムーブメントの停止爪であって、
前記停止爪は、少なくとも
-前記停止爪を角変位の過程で非作動位置から作動位置へ戻す1つの手段
を有することと、
-前記戻し手段および前記本体は、一体品として作製されることと
を特徴とする、停止爪に関する。
【0013】
別の非限定的な特徴によれば、前記戻し手段は、前記本体と一体の一端部および反対側
の自由端を有する少なくとも1つの弾性ブレードを有していてよい。
【0014】
前記本体は、外周部で突出して反対側の端部と対面して位置し、前記反対側の端部と当
接しているフック手段を有していてよい。
【0015】
前記本体は、前記弾性ブレードの内面と前記本体との間で、前記本体と一体の端部から
前記弾性ブレードの自由端まで延在する溝を有していてよく、
-前記弾性ブレードの自由端は、内面で突出している張り出し部を有する。
【0016】
前記溝は、前記張り出し部を受け入れるためのキャビティを、張り出し部に対面して有
していてよい。
【0017】
前記ハブは、閉じていてよく、環状ボアの形状である。
【0018】
前記ハブは、開いていてよく、前記本体は全体的にU字型である。
【0019】
前記本体は、金属材料で作製される。
【0020】
前記本体は、ニッケル-リン合金で作製される。
【0021】
前記本体は、LIGAタイプの方法で製造される。
【0022】
爪が戻し手段を組み入れているこのような構成により、必要なスペースの削減が可能に
なり、このような計時器の製造が簡易になる。
【0023】
さらに、爪の設計、特に戻りの設計により、ばらで詰め込まれるときにこのような部品
が密集しないように離すことができる。
【0024】
本発明は、このような爪をブランクに対して特定の方法で取り付けてこの作業を簡易に
し、独立したバネを張ることをなくすことも想定している。爪は自由回転する状態のため
、ラチェットの噛み合わせの配置は大幅に簡易化される。
【0025】
関連する方法で、爪は、前記ラチェットを用いて事前に取り付けることができ、その逆
に取り外すこともできる。特に、爪が全体的にU字型でハブが開いている場合、前記爪は
、ラチェットを配置する前にロッドの下にスライドさせることができる。爪を定置に維持
させられるのは、あとでラチェットを配置する場合だけである。その結果、ラチェットを
取り付けてしまえば、爪は出てこられなくなり、時計ムーブメントを分解する場合の安全
対策となる。その場合は実際に、最初にラチェットを取り除き、事前に香箱を空にする必
要がある。その結果、このような取り付けにすることで、固定ねじの形状のロッドをなく
し、ブランクにねじを切る精巧な工程をなくすことによって、構成をさらに簡易化できる
。
【0026】
そのために、本発明は、
-ブランクの形状である支持構造と、
-回転運動する状態で前記ブランクに取り付けられるラチェットであって、前記ラチェッ
トには歯列が設けられている、ラチェットと、
-前記ラチェットの歯列とラッチ係合する機構であって、前記ラッチ機構は、前記ブラン
ク内に形成されたハウジング内部に回転式に取り付けられる、機構と、
-前記ブランクのハウジング内で前記ラッチ機構を自由回転させるためのロッドであって
、前記ロッドは、前記ブランクのハウジング内に形成されたボアと固定状態で協働する、
ロッドとを備える、時計ムーブメントであって、
前記ラッチ機構は、本発明による停止爪を備えていることを特徴とする、時計ムーブメン
トにも関する。
【0027】
追加の非限定的な特徴によれば、ロッドは、爪の上部を前記ロッドに沿って確実に保持
するヘッド部を有していてよい。
【0028】
前記ボアは、ねじ切りされてよく、前記ロッドは、ねじの形状である。
【0029】
前記ロッドは、前記ボアに打ち込まれる釘の形状であってよい。
【0030】
前記ハウジングは、前記爪の弾性ブレードの外面と協働する内壁を有する。
【0031】
その結果、爪に戻し手段を組み入れ、その爪を時計ムーブメントの中に取り付けるとい
う特定の構成により、角変位の範囲で戻り作用を制御することが可能になる。実際、第1
の範囲に沿って爪は自由回転する状態であり、ラグは歯列と噛み合っているが、ラチェッ
トには一切力を印加せず、経年による歯列の摩耗が減少する。前記戻し手段が圧縮された
ときに戻る作用が起こるのは、角変位の第2の範囲のみに及ぶ。したがって、この2つの
範囲を含むこの変位に沿って、爪とラチェットとの間の摩擦は劇的に減少する。
【0032】
さらに、ブランク内のハウジングの形状に応じて、爪を戻す作用を制御して爪をできる
だけ早く前記ラチェットのロック位置に戻すために、前記爪の角変位の範囲を変化させる
ことが可能である。このように早期に戻すことで、特に自動巻き上げのときに香箱が空に
なるのを制限することが可能になる。
【0033】
さらに、このような時計ムーブメントであれば、独立したバネを固定することがなくな
り、特にブランクにねじを切る精巧な工程がなくなる。
【0034】
本発明は、このような時計ムーブメントを備えている腕時計などの計時器にも関する。
【0035】
非限定的な例として挙げた添付の図面を用いて本発明を以下にさらに詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【
図1】停止爪の第1の実施形態の立面図であり、特に閉じた環状ハブを示す概略図である。
【
図2】爪の第1の実施形態の変形例の立面図であり、特に前記爪が全体的にU字型になっている開いたハブを示す概略図である。
【
図3】第2の実施形態の立面図であり、特に閉じた環状ハブを示す概略図である。
【
図4】第2の実施形態の変形例の立面図であり、特に開いたハブを示す概略図である。
【
図5】ラチェットの歯列と噛み合う作動位置にある第1の実施形態の爪を備えている時計ムーブメントの第1の構成の立面図であり、特に閉じたハウジングを示す概略図である。
【
図6】
図5とほぼ同じ図であり、前記爪が自由回転する変位の第1の範囲の終わりで、かつ戻し手段がブランクのハウジングの内壁に対して圧縮される第2の範囲の始まりの概略図である。
【
図7】
図6とほぼ同じ図であり、前記爪が非作動位置にある第2の変位範囲の終わりで、かつ戻し手段が内壁に対して圧縮されるのが終わる概略図である。
【
図8】ラチェットの歯列と噛み合う作動位置にある第2の実施形態の爪を備えている時計ムーブメントの第2の構成の立面図であり、特に開いたハウジングを示す概略図である。
【
図9】第1の実施形態の第2の変形例による爪取り付け工程の一例の概略斜視図である。
【
図10】第1の実施形態の爪を備えている時計ムーブメントの構成を垂直に切った断面図であり、特に前記爪をブランクに固定するためのロッドを示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
本発明は、時計製造の分野、さらに詳細には、計時器の時計ムーブメント2の伝達、打
撃動作、またはその他の機能を制御する停止爪1の分野に関する。
【0038】
何より本発明は、以下「爪」と称する、時計ムーブメント2の停止爪1を目的とする。
【0039】
このような爪1は、本体3を有する。この本体3は、爪1の全体部分を形成している。
したがって、爪1の本体3は、単一の計時器を形成する。本体3は、全体的に平坦な形状
である。回転中心周りの回転では、本体3は、好ましくは周縁が丸い多角形の円周を有す
る。周縁は、互いに平行に設けられた上面と下面に対して直交して、または本質的に直交
して延在する。
【0040】
前記爪1の本体3は、少なくともいくつかの部材を備えている。したがってこれらの部
材は、前記本体3の1つ以上の部分を構成する。
【0041】
第一に、本体3は、外周部にラグ4を有する。このラグ4は、外周部から突出している
。すなわち、ラグ4は外側に突き出ている。ラグ4は径方向または本質的に径方向に延在
し、ラグの中央軸は本体3の回転中心を通る。
【0042】
ラグ4は、ラチェット5の歯列50とのラッチとして使用される。そのため、ラグ4は
、特に
図5および
図6に見られるように、前記歯列50と嵌合するような形状および寸法
であり、それによって少なくとも部分的に歯と噛み合うことで協働する。
【0043】
さらに、本体3は、ハブ6を有する。このハブ6は、自由回転して固定ロッド7と協働
するよう意図されている。
【0044】
ハブ6は、本体3の回転中心を中心とする、または本質的に中心とする。ハブ6は、前
記本体3の上面と下面のいずれか一方から他方への貫通孔の形状に作製される。
【0045】
1つの実施形態によれば、前記ハブ6は閉じていて、環状ボアの形状である。その場合
、本体3は、全体形状がワッシャのような穴あきディスクの形状である。このような丸い
ハブ6は、特に
図1および
図3に見ることができる。
【0046】
一変形例の実施形態によれば、前記ハブ6は開いていて、前記本体は全体的にU字型で
ある。その場合、本体3は、全体的に馬蹄形状である。ハブ6の開口は、前記ロッド7が
前記ハブ6の中心に正しく配置されると、互いに対して回転させるための間隙を除いて、
ロッド7を通せるような寸法である。
【0047】
さらに、ハブ6は、前記上面および下面に直交する内壁を有する。この内壁は、前記本
体3の回転軸を中心とする円の外周部に相当する環状部分を有する。このように開いたハ
ブ6は、特に
図2および
図4に見ることができる。
【0048】
さらに、ロッド7は、時計ムーブメント2の一部を形成するインサートである。ロッド
7は、本体3をブランク8などの支持体に対して確実に固定して保持し、この支持体は、
好ましくは香箱受けであってよい。その場合、ハブ6の内面はロッド7の外面と接し、ピ
ボット接続を形成する。このような接触は、直接的で、回転スライドするように実現され
てもよいし、あるいは間接的で、前記ロッド7に備わっている回転リングを介して実現さ
れてもよい。
【0049】
ハブ6の回転は、前記ラグ4が前記ラチェット5の歯列50と噛み合う作動位置と非作
動位置との間で中間位置を経由する角変位に沿って行われる。特に、作動位置では、ラグ
4が歯列50と機械的に組み合わさることでラチェット5の回転運動が阻止され、非作動
位置では、ラグ4は後退してラチェット5の回転運動を自由にさせる。
【0050】
ラチェット5が機能している状態では、ラグ4は、作動位置から第1の角変位部分に沿
って爪1を回転させ、ラグ4が歯列50と接触しなくなる非作動位置に達するまで歯列5
0との少なくとも部分的な係合を維持し、その後、ラチェット5を解放する。ラチェット
5と噛み合うように爪1を戻すのは、逆の変位に従って適切な動きで行われ、歯列50の
うちの1つ以上の歯に沿ったラチェット5の回転運動のみが可能になるようにする。
【0051】
そのために、前記停止爪1は、角変位の過程で前記爪1を非作動位置から作動位置へ戻
す手段8を含む。
【0052】
有利には、前記戻し手段8と前記本体3とは、一体品として作製される。したがって、
この戻し手段8と一体となるのは爪1であり、外部の独立部品はなくなる。したがって戻
し手段8は組み入れられている。
【0053】
上記のように、爪1が戻し手段8を組み入れているこのような構成により、必要なスペ
ースの削減が可能になり、このような計時器の製造が簡易になる。
【0054】
好適な実施形態によれば、前記戻し手段8は、前記本体3と一体の一端部91および反
対側の自由端92を有する少なくとも1つのブレード90を含む。このようなブレード9
0は、本質的に本体3の円周に沿って延在する。ブレード90は、前記本体3の外周部か
ら等距離または本質的に等距離に延在する、あるいは端部91から反対側の端部92に向
かって広がって延在する。したがって、ブレード90は、端部91から続く本体3の延長
部を形成する。さらに、前記ブレード90の内面と残りの本体3との間のスペースは、溝
10を形成する。この溝10は、ブレード90が前記本体3と接合する端部91で閉じら
れる。
【0055】
そのようなブレード90には弾性が備わっている。すなわち、慣性位置の周りで可逆的
に変形する。要するに、ブレード90は、応力がかかればブレードの形状および元の位置
に戻る。ブレード90のこの弾力性により、戻し手段9およびそのバネ作用に弾性が与え
られる。
【0056】
ブレード90は、円形または弓形である。この湾曲した形状により、前記ブレード90
の柔軟性および弾性が高まる。このように、前記ブレード90の弾性特性は、本質的には
爪1の本体3を構成している材料によってもたらされ、その材料からブレード90は一体
部品として形成される。
【0057】
1つの実施形態によれば、前記本体は、金属材料で作製される。好ましくは、爪1の前
記本体は、ニッケル-リン合金(NI-P)で作製される。
【0058】
爪1は、いかなる種類の方法でも取得可能である。好ましくは、本体は、LIGAタイ
プの方法(「Rontgenlithographie、Galvanoformung
、Abformung」、すなわち「X線リソグラフィ、電鋳、成形」の頭文字で、この
名称はこのような方法の主要な連続工程から取ったもの)で製造される。
【0059】
特に、本体3と接合する端部91と反対側の端部92との間のカンチレバー、ならびに
本体3および前記ブレード90を構成している材料は、前記ブレード90が圧縮され本体
3の方へ押されるときだけでなく、ブレード90が外側に引っ張られる可能性があるとき
も、ブレード90を弾性により慣性位置に確実に戻す。特に、応力がかかっている状態で
は、ブレード90は、本体3と接合している端部91から本質的に第1の部分に沿って湾
曲応力を受ける。一方、反対側の端部92は、慣性位置から前記本体3へ近づくように動
いて弓部に沿って移動する。前記慣性位置は、特に
図1~
図2に見ることができる。
【0060】
1つの実施形態によれば、前記本体3は、外周部で突出して前記ブレード90の反対側
の端部92に対面して位置し、前記反対側の端部92と当接しているフック手段11を含
む。このようなフック手段11は、くぼみの形状であってよく、前記反対側の端部92の
方を向いてこの端部の外側を覆っている。フック手段11により、特にブレードが本体3
に対して外側に引っ張られるのを防止し、ブレードを確実にロックして外側に変形するの
を防止し、ブレード90の柔軟性が本体3の方のみに向かうようにする。このようなフッ
ク手段11は、特に
図3および
図4に見ることができる。
【0061】
好ましくは、ブレード90は、フック手段11によって反対側の端部92をロックした
位置にあるときに応力を受け得る。要するに、ブレード90はすでに部分的に圧縮されて
いる。
【0062】
さらに、前記フック手段11は、これらの部品がばらで詰め込まれるときに複数の爪1
が密集しないように溝10を閉じる。
【0063】
上記のように、溝10は、前記ブレード90の内面と、前記本体3と一体である端部9
1から前記ブレード90の反対側の自由端92までである前記本体3との間に延在する。
このほか、前記ブレード90の反対側の自由端92は、内面で突出している張り出し部1
2を有する。したがって、このような張り出し部12は、突起の形状である。張り出し部
12の厚みは、少なくとも溝10の幅に等しい。その結果、前記溝10は、前記張り出し
部12を受け入れるためのノッチ13を、張り出し部12に対面し有する。このようなノ
ッチ13は、溝10の壁の中に形成されたキャビティの形状で本体3に空洞を形成する。
ノッチ13の寸法、特に深さは、前記ブレード90に応力が印加されている間に少なくと
も張り出し部12の遠位部が確実に入るような寸法である。このような張り出し部12お
よびそのノッチ13は、特に
図1および
図2に見ることができる。
【0064】
フック手段11と同じく、爪1がこのようなノッチを備えて張り出し部の少なくとも一
部を受け入れるこのような設計により、これらの部品がばらで詰め込まれるときに複数の
爪1が密集しないように溝10の端部を閉じることができる。
【0065】
以上のことから、爪1の本体3にブレード90形状の戻し手段9を組み入れることによ
り、前記ブレード90の遠位部に沿って応力が印加されたときに弾性による戻し力を印加
することが可能になる。このような戻し力により、本体3がロッド7の周りに固定されて
いるときにハブ6が一方向に回転するのに対抗し、それからラグ4を逆方向に戻すことが
可能になる。印加される力の一例を特に
図6および
図7に見ることができ、同図では、爪
1が時計ムーブメント2の中のラチェット5と協働している様子を示している。
【0066】
この点に関して、本発明はこのような時計ムーブメント2にも関する。
【0067】
前記時計ムーブメント2は、ブランク8の形状をした支持構造を有する。このようなブ
ランク8は、様々な計時器の支持体として使用される。ブランク8は、時計ケースなどの
計時器の外部に固定されるよう意図されている。ブランク8は、プレートの形状であって
よい。好適な実施形態によれば、ブランク8は、香箱受け、あるいは香箱受けと一体の部
品であってよい。
【0068】
時計ムーブメント2は、ラチェット5も有する。このラチェット5には、歯列50が設
けられている。ラチェット5は、回転運動する状態で前記ブランク8に取り付けられる。
特に、このような回転運動は、適切な接続を介して香箱によって引き起こされる。
【0069】
時計ムーブメント2は、前記ラチェット5の歯列50とラッチ係合する機構も有する。
このようなラッチ機構により、前記ラチェット5の回転運動の伝達を制御することができ
る。特に、ラッチは、入力部でのラチェット5によって引き起こされる連続的な回転運動
から、出力部での前記ラチェット5の振動する往復運動への変換を確実に行う。
【0070】
そのために、前記ラッチ機構は、前記ブランク8の中に形成されたハウジング14内部
に回転式に取り付けられる。このようなハウジング14は、ラチェット5の歯列と協働す
るためにラッチ機構を中に入れて中で保持できるような寸法である。
【0071】
このように、時計ムーブメント2は、前記ブランク8のハウジング14内で前記ラッチ
機構を自由回転させるためのロッド7を有する。よってロッド7は、爪1のハブ6と嵌合
するような寸法である。さらに、ロッド7は、固定した状態で前記ハウジング14内に形
成されたボア15と協働する。
【0072】
有利には、前記ラッチ機構は、前述したような停止爪1を有する。ラッチ機構は、他の
計時器を含むことができるが、好ましくは爪1のみを含む。
【0073】
上記のように、爪1は、ラグ4をラチェット5の歯列50の方に向けた状態でハウジン
グ14内に配置され、ブレード90は、前記歯列50の反対側に位置している。その結果
、ハウジング14は、爪1がラチェット5と協働することを意図した側で開いている。こ
のような配置は、特に
図5~
図8に見ることができる。
【0074】
さらに、時計ムーブメント2は、前記ラチェット5の回転運動によって引き起こされる
回転過程で爪1のブレード90を圧縮させる。この圧縮は、いかなる種類の手段でも実施
でき、特に当接によって実施できる。
【0075】
1つの実施形態によれば、前記ハウジング14は、前記爪1のブレード90の外面と協
働する内壁140を有する。そのため、ハウジング14は、上面141を平坦にしてくり
抜かれ、ブランク8の厚みの分だけくぼんでいる。その結果、内壁140は、前記上壁1
41から直交して、または本質的に直交してブランク8の表面80まで延在する。
【0076】
1つの実施形態によれば、内壁140は切れ目なく続いていてよい。要するに、内壁1
40は、ハウジング14の一方の端部から他方の端部まで途切れなく、または開口せずに
延在する。その場合、内壁140は、爪1が回転している間にブレード90を自由端92
で確実に圧縮する。このような構成を特に
図5~
図7に見ることができる。
【0077】
別の実施形態によれば、前記ハウジング14の前記内壁140は、前記ブレード90に
対面して位置するその長さの一部に沿って途切れている。要するに、ハウジング14は、
爪1のブレード90の側に、その内壁140を貫通する開口を有する。このように内壁1
40が途切れていることで、ブランク8を大幅に軽くすることが可能になる。途切れてい
ることで、特に内壁140の下部の長さを寸法決定することによって爪1の変位を制御す
ることもでき、内壁上部の角度は、爪1が回転しているときにブレード90を圧縮するた
めの当接材として用いられる。このような構成を特に
図8に見ることができる。
【0078】
上記のように、ロッド7により、爪1をハウジング14内に配置して保持することがで
き、爪の自由回転が可能になる。そのために、ロッド7は、下部でボア15と協働する。
上部では、ロッド7は、爪1の上部を前記ロッド7に沿って確実に保持するヘッド部70
を有する。
【0079】
さらに、ロッド7の外径は、前記ハブ6の内径に等しい、または本質的に等しいが、組
立過程および逆の分解過程で、互いに対して挿入を可能にする間隙は除き、ロッド7の円
周部とハブ6との接触は、直接か、回転する環状リングを介して間接的かのいずれかであ
る。
【0080】
1つの実施形態によれば、前記ボア15はねじ切りされ、その場合のロッド7はねじの
形状である。そのため、ボア15のねじ切りは、ロッド7のねじ山と嵌合するように実行
される。ねじ形状のロッド7がねじ切りしたボア15と組み合わさることで取り外し可能
な形で固定され、ラチェット5の取り付けまたは取り外しの前または後に、前記ロッド7
のねじを締めるのと弛めるのとで爪1の組立と分解が容易にできる。
【0081】
さらに、このようなねじ接続は、閉じているか開いているハブ6を備えている爪1に合
わせられる。ハブ6が開いていて前記爪1をU字型にする場合、ロッド7をねじ締めすれ
ば、前記爪1をスライドさせることによって組み立てが実現できる。この取り付けには、
最初に爪1を所望の角度位置まで回転させるように配置し、その後にのみラチェット5を
配置することが必要である。このような取り付け作業を特に
図9に見ることができる。逆
に、取り外し過程では、ロッド7のねじを外して、または好ましくはねじを外すことなく
、爪1を取り外すことが可能である。後者の場合、取り外しには、最初にラチェット5を
抜き取り、その後に香箱を事前に空にすることが必要である。
【0082】
別の実施形態によれば、ロッド7は、前記ボア15に打ち込まれる釘の形状である。釘
形状のロッド7をボア15に打ち込む組み立ては最後である。すなわち、釘を差し込んで
しまえば、簡単に取り外すことはできず、他の計時器を損傷するリスクがない。
【0083】
その結果、爪1を取り外せるようにするためには、そのハブ6は必然的に開き、前記爪
1は特殊な蹄鉄型になる。その結果、ロッド7をボア15に差し込むことからなる最初の
取り付けは爪1を配置した後に行うことができ、ロッド7の差し込みは、ハブ6を通すこ
とによって行われる。好ましくは、どのように取り付ける場合でも、ロッド7をボア15
に差し込んでしまえば、爪1はスライドすることで取り付けられる。この取り付けには、
最初に爪1を所望の角度位置まで回転させるように配置し、その後にのみラチェット5を
配置することが必要である。このような取り付け作業を特に
図9に見ることができる。逆
に、取り外し過程では、最初にラチェット5を取り外すことによってのみ爪1を取り外す
ことが可能で、その後に香箱を事前に空にする。さらに、打ち込まれる釘の形状であるロ
ッド7により、ボア15のねじ切りを正確に作る工程がなくなり、組立と分解の過程で起
こる経年の摩耗もなくなる。この解決策により、組立および分解を大幅に簡易化できると
同時に、計時器が劣化するリスクを抑える。
【0084】
さらに、爪1がブレード90形状の戻し手段9を組み入れている本発明による構成によ
り、前記爪1を時計ムーブメント2の中に取り付け、取り外すことが容易になる。実際、
この構成により、戻り作用を爪1の各変位の範囲に制限できる。
【0085】
第1の範囲では、爪1は自由回転する状態であり、ラグ4はラチェットの歯列50と噛
み合っているが、前記ラグ4はラチェット5に一切力を印加しない。さらに、前記第1の
範囲に沿って、ラグ4と歯列50との間の摩擦はほとんどなく、経年による摩耗が減少す
る。この第1の範囲は、ラグ4が歯列50と噛み合う作動位置からブレード90に応力を
かけ始めるまでの爪1の角移動に相当する。前記第1の範囲の広がりは、前記爪1の2つ
の角度位置の間で、特に
図5および
図6に見ることができる。
【0086】
ブレード90が圧縮され始めたときに戻りが有効になり、ラグ4が非作動位置に達して
歯列50と噛み合わなくなるまで続くのは、爪1の角変位の第2の範囲のみに及ぶ。この
時点で、ブレード90の圧縮によって、爪1は最初の位置とは反対の方向に戻る。前記第
2の範囲の広がりは、前記爪1の2つの角度位置の間で、特に
図6および
図7に見ること
ができる。
【0087】
したがって、このように、この第1と第2の2つの範囲を含むこの変位に沿って、爪4
とラチェット5との間の摩擦は、劇的に減少する。
【0088】
さらに、爪を戻す作用を制御して爪1をできるだけ早く前記ラチェット5のロック位置
に戻すために、ブランク8内のハウジング14の形状および途切れのある内壁140の開
口寸法に応じて、前記爪1の角変位の範囲を変化させることが可能である。このように早
期に戻すことで、特に自動巻き上げのときに香箱が空になるのを制限することが可能にな
る。
【0089】
さらに、爪の変位の第1の範囲は、とりわけ取り付け過程で爪1の動きを完全に自由に
することから、ラチェット5をラグ4に対して角度を付けて配置することが大幅に簡易化
される。
【0090】
本発明は、上記の時計ムーブメント2を有する計時器にも関する。このような計時器は
、好ましくは腕時計であり得る。
【符号の説明】
【0091】
1 停止爪
2 時計ムーブメント
3 本体
4 ラグ
5 ラチェット
50 歯列
6 ハブ
7 ロッド
70 ヘッド部
8 ブランク
9 戻し手段
90 ブレード
91 端部
92 反対側の自由端
10 溝
11 フック手段
12 張り出し部
13 ノッチ
14 ハウジング
140 内壁
141 上面
15 ボア