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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-13
(45)【発行日】2023-07-24
(54)【発明の名称】電力変換システム及び電力変換制御方法
(51)【国際特許分類】
   H02M 7/49 20070101AFI20230714BHJP
【FI】
H02M7/49
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2022506887
(86)(22)【出願日】2021-01-08
(86)【国際出願番号】 JP2021000585
(87)【国際公開番号】W WO2022149288
(87)【国際公開日】2022-07-14
【審査請求日】2022-02-03
(73)【特許権者】
【識別番号】501137636
【氏名又は名称】東芝三菱電機産業システム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100135301
【弁理士】
【氏名又は名称】梶井 良訓
(74)【代理人】
【識別番号】100196689
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 康一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100207192
【弁理士】
【氏名又は名称】佐々木 健一
(72)【発明者】
【氏名】新村 直人
【審査官】高野 誠治
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/105121(WO,A1)
【文献】特開2015-033218(JP,A)
【文献】特開2018-113792(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 7/42 - 7/98
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多相交流の電力系統に連系する電力変換システムであって、
複数のスイッチを含み、前記電力系統の各相に、相ごとに並列になるように設けられた複数の変換器と、
互いに所定の位相差を有する複数のキャリア信号を用いて、前記複数の変換器をキャリア比較型のPWM制御によって制御する制御部と
を備え、
前記制御部は、
前記複数のキャリア信号の中の特定のキャリア信号の1周期の中に所定の時間間隔で4回以上の偶数回のタイミングが定められ、前記4回以上の偶数回のタイミングに夫々前記複数の変換器の1次側の電流を検出し、
前記検出した1次側の電流の値と、前記1次側の電流基準の値とを用いて前記PWM制御のための電圧基準を生成して、前記4回以上の偶数回のタイミングに夫々前記電圧基準を更新して、
前記特定のキャリア信号と前記更新された電圧基準とを用いて、前記複数の変換器の中の特定の変換器を制御する、
電力変換システム。
【請求項2】
前記4回以上の偶数回のタイミングには、前記複数のキャリア信号の何れかの振幅が尖塔値になるタイミングに係る第1タイミングが含まれる、
請求項1に記載の電力変換システム。
【請求項3】
前記4回以上の偶数回のタイミングには、前記複数のキャリア信号の振幅が夫々尖塔値になる第1タイミングの間のタイミングに係る第2タイミングが含まれる、
請求項1に記載の電力変換システム。
【請求項4】
前記第2タイミングは、時間軸上で時間軸方向に互いに隣接する前記複数のキャリア信号の振幅が夫々尖塔値になる2つのタイミングの中間に決定されている
請求項3に記載の電力変換システム。
【請求項5】
前記第2タイミングは、前記複数のキャリア信号のうち先行する第1キャリア信号が尖塔値になる第1尖塔タイミングと、前記第1キャリア信号に続く第2キャリア信号が尖塔値になる第2尖塔タイミングとの中間に決定されている
請求項3に記載の電力変換システム。
【請求項6】
前記4回以上の偶数回のタイミングの回数は、前記相ごとに並列になるように設けられた複数の変換器の個数に基づいて決定されている、
請求項1に記載の電力変換システム。
【請求項7】
前記相ごとに並列になるように設けられる前記複数の変換器の個数は、N個(Nは、2以上の整数。)であり、
前記制御部は、
前記電力系統に流れる系統電流の大きさと、前記N個の変換器に流す(N-1)個の循環電流との大きさを要素に含む電流ベクトルと、N次の正方行列とを用いた演算を含む電流制御によって決定する、
請求項1に記載の電力変換システム。
【請求項8】
前記制御部は、
1つの前記系統電流と、前記(N-1)個の循環電流とを要素に含む電流ベクトルをさらに用いた前記演算を含む電流制御を実施する、
請求項7に記載の電力変換システム。
【請求項9】
前記制御部は、
1つの前記電力系統側の合成電圧と、前記(N-1)個の循環電流に対応する電圧基準とを要素に含む電圧ベクトルを生成する前記演算を含む電流制御を実施する、
請求項7に記載の電力変換システム。
【請求項10】
1次側巻線が3相スター結線であり、2次側巻線が互いに絶縁された3相オープンデルタ結線の変圧器
を備え、
前記2次側巻線には、前記複数の変換器が接続され、
前記1次側巻線には、前記電力系統から3相の交流電力が供給される、
請求項1に記載の電力変換システム。
【請求項11】
多相交流の電力系統に連系する電力変換システムであって、
前記電力系統の各相に、相ごとに並列になるように設けられた第1変換器と第2変換器と、
互いに所定の位相差を有する第1キャリア信号と第2キャリア信号を含む複数のキャリア信号を用いて、前記第1変換器と前記第2変換器とをキャリア比較型のPWM制御によって制御する制御部と
を備え、
前記制御部は、
前記第1キャリア信号の1周期の中に所定の時間間隔で4回以上の偶数回のタイミングが定められ、前記4回以上の偶数回のタイミングに前記第1変換器と前記第2変換器との1次側の電流を検出し、
前記検出した1次側の電流の値と、前記1次側の電流基準の値とを用いて前記PWM制御のための電圧基準を生成して、前記4回以上の偶数回のタイミングに夫々前記電圧基準を更新して、
前記第1キャリア信号と前記更新された電圧基準とを用いて前記第1変換器を制御して、前記第2キャリア信号と前記更新された電圧基準とを用いて前記第2変換器を制御する、
電力変換システム。
【請求項12】
多相交流の電力系統に連系する電力変換システムの電力変換制御方法であって、
前記電力系統の各相に、相ごとに並列になるように設けられた複数の変換器に含まれる複数のスイッチを、互いに所定の位相差を有する複数のキャリア信号を用いて制御するキャリア比較型のPWM制御において、
コンピュータによって、
前記複数のキャリア信号の中の特定のキャリア信号の1周期の中に所定の時間間隔で4回以上の偶数回のタイミングが定められ、前記4回以上の偶数回のタイミングに夫々前記複数の変換器の1次側の電流を検出させ、
前記検出した1次側の電流の値と、前記1次側の電流基準の値とを用いて前記PWM制御のための電圧基準を生成して、前記4回以上の偶数回のタイミングに夫々前記電圧基準を更新させて、
前記特定のキャリア信号と前記更新された電圧基準とを用いて、前記複数の変換器の中の特定の変換器を制御する過程、
を含む電力変換制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、電力変換システム及び電力変換制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
スイッチング素子を有する電力変換器を含めて構成され、多相交流の電力系統に連系する電力変換システムがある。その電力変換器の稼働により電力系統側にスイッチングリップルが生じるが、このスイッチングリップルをより少なくすることが望まれている。これに対して、電力変換システムは、電力系統側の電流制御の制御応答性をより高めることが要求されることがあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】日本国特許特開2015-43660号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明が解決しようとする課題は、電力系統側の電流制御の制御応答性をより高めることができる電力変換システム及び電力変換制御方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
実施形態の電力変換システムは、多相交流の電力系統に連系する。前記電力変換システムは、複数の変換器と、制御部とを備える。前記複数の変換器は、前記電力系統の各相に、相ごとに並列になるように設けられている。前記制御部は、互いに所定の位相差を有する複数のキャリア信号を用いて、前記複数の変換器をキャリア比較型のPWM制御によって制御する。前記制御部は、前記複数のキャリア信号の中の特定のキャリア信号の1周期の中に所定の時間間隔で4回以上の偶数回のタイミングが定められ、前記4回以上の偶数回のタイミングに夫々前記複数の変換器の1次側の電流を検出する。前記制御部は、前記検出した1次側の電流の値と、前記1次側の電流基準の値とを用いて前記PWM制御のための電圧基準を生成して、前記4回以上の偶数回のタイミングに夫々前記電圧基準を更新する。前記制御部は、前記特定のキャリア信号と前記更新された電圧基準とを用いて、前記複数の変換器の中の特定の変換器を制御する。
【図面の簡単な説明】
【0006】
図1】実施形態の電力変換システムの一例を示す図。
図2A】実施形態の変圧器の巻線構造を示す回路図。
図2B】実施形態の変圧器の巻線構造を示す回路図。
図3A】実施形態のセル変換器の内部構成を示す回路図。
図3B】実施形態のセル変換器の内部構成を示す回路図。
図3C】実施形態のセル変換器の内部構成を示す回路図。
図4】第1の実施形態の簡略化された電力変換システムの構成図。
図5】第1の実施形態の電流サンプリングと電圧基準の更新のタイミングについて説明するための図。
図6図4の回路構成のシミュレーションの結果を説明するための図。
図7】第1の実施形態の変形例の電流サンプリングと電圧基準の更新のタイミングについて説明するための図。
図8】第2の実施形態の5個のコンバータを並列にした電力変換システムのモデルの構成図。
図9】第2の実施形態のコンバータ制御部の構成図。
図10】第3の実施形態の電流サンプリングと電圧基準の更新のタイミングについて説明するための図。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、実施形態の電力変換システム及び電力変換制御方法を、図面を参照して説明する。以下に説明の電力変換システムは、負荷の一例である電動機(モータ)に所望の交流電力を供給する。実施形態の電力変換システムは、交流の電力系統に連系するように形成された電力変換器を含む。実施形態における接続するという記載は、電気的に接続することを含む。
【0008】
まず、電力変換システム1の電気的な全体構成について説明する。図1は、実施形態の電力変換システム1の一例を示す図である。電力変換システム1は、例えば、変圧器201と、電力変換器30と、制御部601とを備えている。
【0009】
電力変換システム1は、交流入力端子R、S、Tを備え、これらの端子を介して交流電源101(電力系統)に接続される。電力変換システム1は、交流出力端子U、V、Wを備え、これらの端子を介して電動機401に接続される。
【0010】
交流入力端子R、S、Tには、変圧器201の1次巻線が接続され、変圧器201の2次巻線には、電力変換器30の交流入力側が接続され、電力変換器30の交流出力側が、交流出力端子U、V、Wに接続されている。
【0011】
制御部601は、セル変換器30U、30V、30Wに内在するスイッチング素子のオンオフを制御する。セル変換器30U、30V、30Wを纏めて、複数のセル変換器30Xと呼ぶ。
【0012】
次に、電力変換システム1の各部について説明する。
【0013】
変圧器201は、1次側巻線と、3群構成の2次側巻線とを備える。1次側巻線は、3相スター結線に形成されている。2次側巻線は、互いに絶縁された3相オープンデルタ結線に形成されている。変圧器201には、交流電源101から3相の交流電力が供給される。変圧器201は、交流電源101から供給された交流電力の電圧を巻数比による所望の電圧に変圧し、変圧した後の電圧の交流電力を複数のセル変換器30Xのそれぞれに供給する。
【0014】
電力変換器30は、複数のセル変換器30Xを含む。本実施形態では、複数のセル変換器30Xは、3台の第1相のセル変換器30U(30U1,30U2,30U3)、3台の第2相のセル変換器30V(30V1,30V2,30V3)、及び3台の第3相のセル変換器30W(30W1,30W2,30W3)を含む。各セル変換器30Xは、単相変換器であり、変圧器201の2次巻線から供給された単相の交流電力を直流電力に変換し、変換した直流電力を所望の周波数と電圧の単相の交流電力に変換して出力する。各セル変換器30Xは、同一回路構成である。これの詳細は、後述する。
【0015】
変圧器201の2次側第1群の第1相は、セル変換器30U1の入力に接続されている。変圧器201の2次側第1群の第2相は、セル変換器30V1の入力に接続されている。変圧器201の2次側第1群の第3相は、セル変換器30W1の入力に接続されている。
【0016】
変圧器201の2次側第2群の第1相は、セル変換器30U2の入力に接続されている。変圧器201の2次側第2群の第2相は、セル変換器30V2の入力に接続されている。変圧器201の2次側第2群の第3相は、セル変換器W2の入力に接続されている。
【0017】
変圧器201の2次側第3群の第1相は、セル変換器30U3の入力に接続されている。変圧器201の2次側第3群の第2相は、セル変換器30V3の入力に接続されている。変圧器201の2次側第3群の第3相は、セル変換器W3の入力に接続されている。
【0018】
3台の第1相のセル変換器30U1,30U2,30U3の出力は、この順番に直列に接続されている。3台の第2相のセル変換器30V1,30V2,30V3及び3台の第3相のセル変換器30W1,30W2,30W3も同様に、相ごとに直列に接続されている。
【0019】
セル変換器30U2と接続されていない側のセル変換器30U1の出力と、セル変換器30V2と接続されていない側のセル変換器30V1の出力と、セル変換器30W2と接続されていない側のセル変換器30W1の出力とは、互いに接続されて、負荷回路の3相交流の中性点を構成している。
【0020】
セル変換器30U2と接続されていない側のセル変換器30U3の出力は、交流出力端子Uに接続され、交流出力端子Uを介して電動機401のU相巻線に接続されている。セル変換器30V2と接続されていない側のセル変換器30V3の出力は、交流出力端子Vに接続され、交流出力端子Vを介して電動機401のV相巻線に接続されている。セル変換器30W2と接続されていない側のセル変換器30W3の出力は、交流出力端子Wに接続され、交流出力端子Wを介して電動機401のW相巻線に接続されている。
【0021】
制御部601は、複数のセル変換器30Xを制御する。例えば、制御部601は、第1制御部610と、第2制御部620と、第3制御部630と、を備える。第1制御部610は、後述するコンバータとして適用される複数のセル変換器30Xを制御する。第1制御部610は、例えば、コンバータ制御部611を含む。第2制御部620は、後述するインバータとして適用される複数のセル変換器30Xを制御する。第2制御部620は、例えば、インバータ制御部621を含む。第3制御部630は、電力変換システム1の制御状態を監視して、安定に制御されるように調整する。例えば、第3制御部630は、タイマーを含み、所定の周期の割り込み信号を生成する。
【0022】
例えば、コンバータ制御部611は、後述する電流センサー301(図3A)により検出された変圧器201の2次巻線(図2A,2B)に流れる電流を示す情報に基づき、各セル変換器30Xに含まれるスイッチング素子を制御するための信号を、各セル変換器30Xに送ることで、各セル変換器30Xを制御する。
【0023】
このような構成により、電力変換システム1は交流電源101から供給される交流電力を所望の周波数かつ所望の電圧の3相の交流電力に変換して電動機401に供給することができる。コンバータ制御部611の詳細は、後述する。
【0024】
図2A図2Bは、実施形態の変圧器201の巻線構造を示す回路図である。1次巻線(入力側)はスター(Y)結線となっているが、これは一例であり、デルタ(Δ)結線を用いてもよい。2次巻線(出力側)は、3相巻線が単相に電気的に分離されたオープン巻線となっている。
【0025】
図2Bの例では、スター結線の中性点をNとすると、R-N間、S-N間、T-N間に印加された電圧が、それぞれ巻数比倍されて、2次側第1群のRs1-Na1間、Ss1-Nb1間、Ts1-Nc1間に現れる。2次側第1群のRs1-Na1間、Ss1-Nb1間、Ts1-Nc1間は、2次側第1群の第1相、第2相、第3相にそれぞれ対応する。
【0026】
2次側第2群と2次側第3群についても同様である。2次側第2群のRs2-Na2間、Ss-Nb2間、Ts-Nc2間と、2次側第3群のRs3-Na3間、Ss3-Nb3間、Ts3-Nc3間とについても、第1群と同様に巻数比倍された電圧が現れる。2次側第2群のRs2-Na2間、Ss2-Nb2間、Ts2-Nc2間は、2次側第2群の第1相、第2相、第3相にそれぞれ対応する。2次側第3群のRs3-Na3間、Ss3-Nb3間、Ts3-Nc3間は、2次側第3群の第1相、第2相、第3相にそれぞれ対応する。
【0027】
図3Aから図3Cは、実施形態のセル変換器30X(X:U、V、W)の内部構成を示す回路図である。図3Aに示すように、セル変換器30Xは、その入力端子をIN1、IN2、出力端子をOUT1、OUT2とする。例えば、セル変換器30Xは、電流センサー(電流変成器)301と、セル変換器本体302とを備える。電流センサー301は、入力端子IN1とIN2の間を流れる電流を検出する。この電流の大きさをixで示す。xは、段数を識別する識別子であり、例えば、自然数であってよい。
【0028】
図3B図3Cに、各々、セル変換器30Xがいわゆる2レベル変換器の場合、及びいわゆる3レベル変換器の場合の構成例について示しており、どちらを採用してもよい。
【0029】
図3Bに示すセル変換器本体302は、交流側電位が2段階に変化する2レベル変換器を含む。セル変換器30Xは、入力側と出力側に、各々単相変換器を有しており、それらの直流部は互いに背中合せに接続されている。直流部には、コンデンサC1のようなエネルギー蓄積要素を接続する。電圧Vdcxは、コンデンサC1の端子に掛る電圧(コンデンサ電圧という。)である。
【0030】
図3Cに示すセル変換器本体303は、交流側電位が3段階に変化するように構成されたダイオードクランプ形の3レベル変換器を含む。その直流部には、コンデンサCP、CNを有する。3レベル変換器において、2つのコンデンサCP、CNの電圧をバランスさせるように制御するとよい。単にコンデンサ電圧と呼ぶ場合は、コンデンサCP、CNの合計電圧(Vdcx)を意味する。
【0031】
図3B図3Cのスイッチング素子には、IGBT(Insulated-Gate Bipolar Transistor)を採用しているが、他のスイッチング素子でもよい。他のスイッチング素子の例として、MOSFET(Metal-Oxide-Semiconductor Field-Effect Transistor)や、GTO(Gate Turn-Off)サイリスタ、GCT(Gate Commutated Turn-off)サイリスタなどがある。また、スイッチング素子にボディダイオードが内在しない場合、逆並列にFWD(Free-Wheeling Diode)を用いてもよい。
【0032】
力行時の電力の流れ(パワーフロー)を、入力側(R、S、T側)から出力側(U、V、W側)とすると、入力側の単相変換器は、順変換(交流から直流への変換)、出力側の単相変換器は、逆変換(直流から交流への変換)を行う。よって、入力側の単相変換器をコンバータ(Converter)、出力側の単相変換器をインバータ(Inverter)と呼ぶことにする。
【0033】
例えば、図3Bに示すセル変換器本体302は、コンバータ3021とインバータ3022を分離した回路ユニットとして構成してもよい。この場合、コンデンサC1は、コンバータ3021とインバータ3022とは別体であってもよく、何れかの回路ユニットに収容されていてもよい。或いは、セル変換器本体302は、コンバータ3021と、インバータ3022と、コンデンサC1とを一つの回路ユニット内に収めて構成してもよい。
【0034】
図3Cに示すセル変換器本体303は、コンバータ3031とインバータ3032を分離した回路ユニットとして構成してもよい。この場合、コンデンサCP、CNは、コンバータ3031とインバータ3032とは別体であってもよく、何れかの回路ユニットに収容されていてもよい。或いは、セル変換器本体303は、コンバータ3031と、インバータ3032と、コンデンサCP、CNとを一つの回路ユニット内に収めて構成してもよい。
【0035】
以下の説明では、説明を簡略化するため、上記のコンデンサ(C1,CP,CN)とインバータ(3032、3032)との組み合わせを直流電源DCとみなすことで、セル変換器30Xをコンバータ(3021、3031)と直流電源DCとの組み合わせに等価することができる。
【0036】
本実施形態のコンバータ制御部611は、セル変換器30Xのコンバータ(3021、3031)のゲートパルスを下記する方法で生成する。
【0037】
・コンバータ(3021、3031)のPWM制御に、三角波のキャリア信号(三角波PWMキャリア(三角波キャリア信号)という。)を利用する。例えば、三角波PWMキャリアは、その1周期の中に、振幅が所定の変化率で増加する第1期間と、振幅が所定の変化率で減少する第2期間とを含み、第1期間と第2期間の長さが互いに等しくなるように決定されている。
・各段の三角波PWMキャリアの位相が揃わないように位相差を設けている。
具体的には、各段の三角波PWMキャリアの位相がを所定の位相差になるように、基本の三角波PWMキャリアをシフトしている。N段構成の場合には、その位相差を180 / N(deg / 段)にして、各段の三角波PWMキャリアの位相を順に決定している。例えば、1段目の三角波PWMキャリアの位相を、基本の三角波PWMキャリアの位相に揃えて0にする。2段目の三角波PWMキャリアの位相を、基本の三角波PWMキャリアの位相に180 / N(deg / 段)を加えた位相にする。3段目の三角波PWMキャリアの位相を、基本の三角波PWMキャリアの位相に180x2 / N(deg / 段)を加えた位相にする。以下、同様に各段の位相を決定する。
図3Aに示すセル変換器30Xの入力IN1と、入力IN2に与える電圧基準の極性を反転させている(単相ユニポーラ変調という。)。
【0038】
なお、インバータ制御部621は、インバータ(3022、3032)のPWM制御に、上記と同様の三角波PWMキャリアを利用して、同様の位相差を設けた制御を実施してもよい。或いは、インバータ制御部621は、他の制御手法を適用してもよい。
【0039】
以下、説明を簡略化するため、2レベル型のセル変換器を2段構成にした事例について説明する。図4は、実施形態の簡略化された電力変換システム1の構成図である。例えば、図4に示す電力変換システム1の等価回路の直流側は理想電源とし、交流側の回路形式は単相回路とする。セル変換器30S1と30S2は、セル変換器30Xに相当する。
【0040】
変圧器201としてオープンスター巻線トランスを例示したが、これを等価した回路構成に置き換えて説明する。上記の回路構成における電圧電流方程式は、次の式(1)から(3)に示す関係になる。
【0041】
【数1】
【0042】
【数2】
【0043】
【数3】
【0044】
上記の式(1)から(3)において、セル変換器30S1とセル変換器30S2の入力電圧を、電圧v1、電圧v2で示し、交流電源の系統電圧を電圧vsで示す。セル変換器30S1とセル変換器30S2の入力電流を、電流i1、電流i2で示し、交流電源の系統電流を電流isで示す。Lは、変圧器201などに対応する等価リアクタンスである。
【0045】
上記の式(2)と式(3)の両辺を夫々加算して、これに式(1)を適用して整理して、その結果を積分系に変換すると次の式(4)を得る。
【0046】
【数4】
【0047】
上記の式(4)は、セル変換器30S1とセル変換器30S2の入力電圧に基づく合成電圧(v1 + v2)を用いて、系統電流isを制御できることを示している。
【0048】
図5を参照して、電流サンプリングと電圧基準の更新のタイミングについて説明する。
図5は、実施形態の電流サンプリングと電圧基準の更新のタイミングについて説明するための図である。
【0049】
図5に示すタイミングチャートの上段側に、2つの三角波PWMキャリア(例えば、第1セルキャリアCar1(第1キャリア信号)、第2セルキャリアCar2(第2キャリア信号)と呼ぶ。)と、レグAの電圧基準vA*と、レグBの電圧基準vB*との変化を夫々示す。例えば、電圧基準vA*と電圧基準vB*の差が、入力電圧v1に対応する。そのタイミングチャートの下段側に、合成電圧(v1+v2)の変化を示す。時刻t1からt17の夫々は、所定の周期(Tsmp)に決定されていて、それぞれが電流サンプリングと電圧基準の更新のタイミングになっている。
【0050】
上記の通り、各段のセル変換器30Xのキャリア(セルキャリアという。)の位相を、4分の1周期ほどシフトさせている。図5に示す事例の第2セルキャリアCar2の位相は、第1セルキャリアCar1の位相よりも、三角波PWMキャリアの1周期の4分の1ほど遅れている。
【0051】
各電圧基準を、前述の通りレグAとレグBで逆極性で与えることで、コンバータの入力IN1と、入力IN2に与える電圧基準の極性が反転する。ここでは、説明を簡略化するため、セル変換器30S1とセル変換器30S2の電圧基準は、同じ振幅で極性が反転した電圧基準にした一例である。
【0052】
例えば、第1セルキャリアCar1と第2セルキャリアCar2の各頂点と、各頂点の中で時間軸方向に互いに隣接する2つの頂点の間の各中間点(以下、単に各中間点という。)とのタイミングに基づいて、第1段のセル変換器30S1の電流サンプリングと電圧基準の更新のタイミングを決定してもよい。第2段のセル変換器30S2の電流サンプリングと電圧基準の更新のタイミングを、上記のタイミングに実施してもよい。なお、各段のセルキャリアの頂点には、正の値の尖塔値(極値)になる点と負の値の尖塔値(極値)になる点の何れか又は両方が含まれる。例えば、隣接する正の値の尖塔値(極値)になる点同士、又は隣接する負の値の尖塔値(極値)になる点同士を関連づけて、上記のタイミングを決定するとよい。
【0053】
例えば、第1セルキャリアCar1の頂点のタイミングは、図5中のt1、t5、t9、t13、t17である。第2セルキャリアCar2の頂点のタイミングは、図5中のt3、t7、t11、t15である。各中間点のタイミングは、図5中のt2、t4、t6、t8、t10、12、t14、t16である。この実施例の場合、t1からt17までの各タイミングが、各セル変換器30Xの電流サンプリングと電圧基準の更新のタイミングになる。
【0054】
上記のように、各段のセルキャリアの位相差が、三角波PWMキャリアの1周期の4分の1であるから、第1段のセル変換器30S1の電流サンプリングと電圧基準の更新のタイミングと、第2段のセル変換器30S2の電流サンプリングと電圧基準の更新のタイミングが一致する。これによれば、セル変換器30S1とセル変換器30S2の各セルキャリアの各頂点と、各中間点とにおいて、電流サンプリングと電圧基準更新を実施する構成になる。
【0055】
例えば、2つの三角波PWMキャリア(第1セルキャリアCar1、第2セルキャリアCar2)の大きさと、レグAの電圧基準vA*と、レグBの電圧基準vB*との大きさの大小関係に基づいて、多値に量子化された電圧を呈する合成電圧を生成することができる。
【0056】
コンバータ制御部611は、電圧基準vA*が第1セルキャリアCar1と第2セルキャリアCar2の両方よりも小さく、かつ電圧基準vB*が第1セルキャリアCar1と第2セルキャリアCar2の両方よりも大きい場合、合成電圧(v1+v2)が(-2E)になるように各コンバータの各スイッチング素子を制御する。
【0057】
コンバータ制御部611は、電圧基準vA*が第1セルキャリアCar1よりも小さく第2セルキャリアCar2よりも大きく、かつ電圧基準vB*が第1セルキャリアCar1と第2セルキャリアCar2の両方よりも大きい場合、合成電圧(v1+v2)が(-E)になるように各コンバータの各スイッチング素子を制御する。
【0058】
コンバータ制御部611は、電圧基準vA*と電圧基準vB*の両方が第2セルキャリアCarよりも大きく、第1セルキャリアCar1よりも小さい場合、又は電圧基準vA*と電圧基準vB*の両方が第1セルキャリアCar1と第2セルキャリアCarの両方よりも小さい場合、合成電圧(v1+v2)が(-0)になるように各コンバータの各スイッチング素子を制御する。
【0059】
コンバータ制御部611は、電圧基準vA*が第1セルキャリアCar1と第2セルキャリアCar2の両方よりも大きく、かつ電圧基準vB*が第1セルキャリアCar1よりも小さく第2セルキャリアCar2よりも大きい場合、又は、電圧基準vB*が第1セルキャリアCar1と第2セルキャリアCar2の両方よりも小さく、かつ電圧基準vA*が第1セルキャリアCar1よりも小さく第2セルキャリアCar2よりも大きい場合、合成電圧(v1+v2)が(+E)になるように各コンバータの各スイッチング素子を制御する。
【0060】
コンバータ制御部611は、電圧基準vA*が第1セルキャリアCar1と第2セルキャリアCar2の両方よりも大きく、かつ電圧基準vB*が第1セルキャリアCar1と第2セルキャリアCar2の両方よりも小さい場合、合成電圧(v1+v2)が(+2E)になるように各コンバータの各スイッチング素子を制御する。
【0061】
ここで、周期Tsmpによって区分される各区間(Tsmp区間という。)の電圧基準vA*と合成電圧(v1+v2)の関係に着目する。各Tsmp区間の合成電圧(v1+v2)の大きさは、時刻の経過により離散的に変化して複数の値をとる。
【0062】
コンバータ制御部611は、各Tsmp区間における電圧基準vA*に、Tsmp区間における合成電圧(v1+v2)の瞬時値の時間平均の値が等しくなるように、PWM方式で各コンバータを制御する。つまり、上記の各Tsmp区間において式(4)が成立することにより、次の式(5)も同様に成立する。
【0063】
【数5】
【0064】
上記の式(5)が各Tsmp区間において夫々成立するから、図4の並列接続した2つのコンバータ3021は、周期Tsmpで、電流サンプリングと電圧基準の更新を繰り返すことで、三相2レベルインバータ相当の電流制御性が得ることができる。
【0065】
上記の制御方法によれば、コンバータ制御部611は、図5に示すように三角波PWMキャリアの半周期以内で電圧基準の更新を複数回実施する。これにより、電圧基準vA*と三角波PWMキャリア(第1セルキャリアCar1)とが、三角波PWMキャリアの半周期内で複数回交差することになる。換言すれば、三角波PWMキャリアの1周期の中では、電流サンプリングと電圧基準の更新に係るタイミングが、4回以上の偶数回存在することになる。
【0066】
なお、図5に示す事例の場合、電圧基準と三角波PWMキャリアの比較の結果をそのまま図示しているため、比較的幅の狭いパルスが含まれている。実際の装置に適用する場合、比較的幅の狭いパルス(例えば、規定の幅に満たない幅の狭いパルス)については、コンバータ3021のスイッチング素子をスイッチングさせないなどの方法で、比較的幅の狭いパルスが生じることを制限することができる。
【0067】
図6を参照して、図4の回路構成のシミュレーションの結果を説明する。
図6は、図4の回路構成のシミュレーションの結果を説明するための図である。図6中の(a)に、第1段目のコンバータの電流(CNV電流)の検出値(I_U1:破線)のサンプリング結果(I_U1_S:実線)を示す。図6中の(b)に、第2段目のコンバータの電流(CNV電流)の検出値(I_U2:破線)のサンプリング結果(I_U2_S:実線)を示す。図6中の(c)に、系統電流の変化を示す。この系統電流の振幅は、上記の図6中の(a)に示した第1段目のコンバータの電流のサンプリング結果(I_U1_S)と、図6中の(b)に示した第2段目のコンバータの電流のサンプリング結果(I_U2_S)との和である。図6中の(c)に示す系統電流isのスイッチングリップルは、各コンバータの電流のサンプリング結果に比べて小さくなっている。
【0068】
上記の式(5)は、電流サンプリングと電圧基準の更新を各セルキャリアの各頂点と各中間点とにおいて実施する場合に、N段の回路構成で成立する。この場合、各段のキャリア周波数fcarと、周期Tsmpは、次の式(6)の関係になる。この式(6)の関係の通り、段数Nの増加に伴い周期Tsmpが短くなり、これに応じて制御特性の向上が見込める。
【0069】
【数6】
【0070】
なお、N段の場合の回路構成は、変圧器201の2次側にN個のコンバータが並列に接続された回路構成に等価である。
【0071】
実施形態によれば、電力変換システム1の複数のセル変換器30Xは、交流電源101(電力系統)の各相に、相ごとに並列になるように設けられている。コンバータ制御部611(制御部)は、互いに所定の位相差を有する複数のキャリア信号を用いて、複数のセル変換器30Xをキャリア比較型のPWM制御によって制御する。コンバータ制御部611は、複数のキャリア信号の中の特定のキャリア信号の1周期の中に周期Tsmp(所定の時間間隔)で4回以上の偶数回のタイミングが定められ、4回以上の偶数回のタイミングに夫々複数のセル変換器30Xの1次側の電流を検出する。コンバータ制御部611は、検出した1次側の電流の値ixと、1次側の電流基準の値とを用いてPWM制御のための電圧基準を生成して、4回以上の偶数回のタイミングに夫々電圧基準を更新する。コンバータ制御部611は、特定のキャリア信号と更新された電圧基準とを用いて、複数のセル変換器30Xの中の特定のセル変換器を制御する。これにより、電力変換システム1は、交流電源101側の電流制御の制御応答性をより高めることができる。
【0072】
(第1の実施形態の変形例)
第1の実施形態の変形例について説明する。
第1の実施形態において、各セルキャリアの各頂点と、各中間点とにおいて、電流サンプリングと電圧基準の更新を繰り返す事例について説明した。これに代えて、本変形例では、第1の実施形態の事例に対して各セルキャリアの各中間点を、制御に関わるタイミングから除き、各セルキャリアの各頂点において、電流サンプリングと電圧基準の更新を繰り返す事例について説明する。
【0073】
図7は、第1の実施形態の変形例の電流サンプリングと電圧基準の更新のタイミングについて説明するための図である。
【0074】
また、前述の図4の回路には、系統電流isに影響せずに電力変換器30の内部で電流を循環させ得る経路(循環電流の経路という。)があることがわかる。これを数式的に示すと、式(2)と式(3)の差分を取り、積分系に変換して下記の式(7)を得る。
【0075】
【数7】
【0076】
上記の式(7)は、電力変換器30内の各コンバータの差分電圧(v1-v2)によって、循環電流(i1-i2)を制御できることを示している。
【0077】
上記によれば、各セルキャリアの各頂点と、各中間点との両方のタイミングで電流サンプリングと電圧基準の更新を実施しなくても、各セルキャリアの各頂点のタイミングで電流サンプリングと電圧基準の更新を実施することで、第1の実施形態と同様に制御することができる。なお、本変形例の場合、第1の実施形態の事例に対して周期Tsmpを比較的長くできる。周期Tsmpを長くすると電流制御の応答性が低下することがあるが、各周期Tsmp内の演算処理の集中度(密度)を低減させることができる。
【0078】
なお、各セルキャリアの各頂点のタイミングを、各セルキャリアの各中間点のタイミングに変えることができる。これにより、この変形例によれば、各セルキャリアの各頂点又は各中間点のタイミングで電流サンプリングを実施することで、系統電流isのスイッチングリップルを、各段のコンバータの電流のサンプリング結果に比べて小さくすることができる。
【0079】
第1の実施形態とその変形例を対比すると、系統電流isについては、第1の実施形態の手法を適用することにより、第1の実施形態の変形例の手法よりも応答性を高めることが可能である。周期Tsmpの長さを調整して、電流サンプリングのタイミングの密度を変更しても、コンバータによる系統電流isを安定に制御することができる。
【0080】
これに対し、循環電流の制御については、系統電流isと同様の関係性が成り立たない。そのために、循環電流の制御に関する制御ゲインを下げることが必要になる。上記の式(5)と式(7)に示したように、系統電流isと循環電流とについては、互いに独立に制御ゲインを決定することが可能である。例えば、系統電流isの制御のための制御ゲインを維持したまま、循環電流の制御のための制御ゲインを低くするように調整することが可能である。
【0081】
(第2の実施形態)
第2の実施形態について説明する。
第2の実施形態では、第1の実施形態に示した手法を、並列数Nのコンバータに拡張した事例について説明する。系統電流isは、各コンバータの並列数に対応するN個の電流の加算になる。各コンバータは、個別に制御されるために、各コンバータの電流の値は一律にならない。各コンバータの電流のばらつきの影響を軽減させるために、各コンバータの電流値の重みを合わせるように、N個の電流の平均を算出して、系統電流isをこれに基づいて制御するとよい。なお、残りの(N-1)個の成分は、循環電流の成分に対応する。この循環電流の成分の割り付け方は様々な取り方が考えられるが、次の式(8)から式(13)にその一例を示す。
【0082】
以下に示す式(8)から式(13)において、例えば、各コンバータの交流側に対応する電流の成分をanで示す。例えば、nは、各コンバータの識別番号である。系統電流isは、電気的には零相(zero)に等しいためその頭文字をとってzで示す。循環電流は、循環(circulate)の頭文字をとってc1…cn-1で示す。各コンバータに対応する電流の成分anから、系統電流zと循環電流c1…cn-1に変換することを、zc変換と呼ぶ。zc変換の逆の変換を逆zc変換と呼ぶ。例えば、anによって示される各電流の成分は、zc変換前の電流である。zとc1…cn-1によって示される各電流の成分は、zc変換後の電流である。
【0083】
例えば、式(8)と式(9)は、コンバータの並列数を2個(N=2)にした場合の変換式の一例である。式(8)が、zc変換のための演算式であり、式(9)が、逆zc変換のための演算式である。
【0084】
【数8】
【0085】
【数9】
【0086】
式(10)と式(11)は、コンバータの並列数を3個(N=3)にした場合の変換式の一例である。式(10)が、zc変換のための演算式であり、式(11)が、逆zc変換のための演算式である。
【0087】
【数10】
【0088】
【数11】
【0089】
式(12)と式(13)は、コンバータの並列数を5個(N=5)にした場合の変換式の一例である。式(12)が、zc変換のための演算式であり、式(13)が、逆zc変換のための演算式である。
【0090】
【数12】
【0091】
【数13】
【0092】
上記のzc変換を用いることで、zc変換後の電流の成分を系統電流zと循環電流c1…cn-1の各成分に分けることができる。zc変換後の系統電流zと循環電流c1…cn-1の各成分を夫々調整して、その調整の結果に基づいて、N個の並列のコンバータを夫々制御することで、N個の並列のコンバータの電流制御が可能になる。
【0093】
図8図9とを参照して、より具体的に、コンバータの並列数を5個(N = 5)にした場合の電流制御系の一例について説明する。図8は、第2の実施形態の5個のコンバータを並列にした電力変換システムのモデルの構成図である。
【0094】
電力変換器30は、セル変換器30U1から30U5と、セル変換器30V1から30V5と、セル変換器30W1から30W5とを備える。
【0095】
図9は、第2の実施形態のコンバータ制御部611の構成図である。図9には、コンバータ制御部611と、これに関係する電力変換器30とが示されている。
【0096】
電力変換器30は、各段のコンバータがそれぞれ検出した電流の値(電流値)を夫々出力する。i_1^uvwは、1段目のコンバータの電流値を示す。1段目のコンバータの電流値とは、1段目のコンバータ内の電流センサー301によって検出された電流の大きさを示す値のことである。以下、同様。なお、「_」(下線)に続く文字列は、下付き文字であることを示し、「^」(ハット)に続く文字列は、上付き文字であることを示す。i_2^uvwは、2段目のコンバータの電流値を示す。同様に、i_5^uvwは、5段目のコンバータの電流値を示す。例えば、前述のセル変換器30U1、30V1、30W1が夫々検出した電流の値(i1u、i1v、i1w(図8))を、纏めてi_1^uvwと記す。i_2^uvwからi_5^uvwも同様である。なお、図8中のv1uからv5uは、U相のセル変換器30U1から30U5の入力電圧を示している。
【0097】
コンバータ制御部611は、例えば、dq0変換部6111と、ZC変換部6112と、電流制御部6113と、逆ZC変換部6114と、逆dq0変換部6115と、PWM制御部6116と、ゲートパルス生成部6117と、電流基準生成部6118とを備える。
【0098】
dq0変換部6111は、位相基準θ0を夫々用いて、各段のコンバータの電流値に基づいて、一般的なdq0変換を実施する。dq0変換は、静止座標系の成分を、位相基準θ0に応じて回転する回転座標系であるdq0座標系の成分に変換する座標変換である。例えば、i_1^dqzは、1段目のコンバータのdq0変換後の電流ベクトルを示す。i_2^dqzは、2段目のコンバータのdq0変換後の電流ベクトルを示す。同様に、i_5^dqzは、5段目のコンバータのdq0変換後の電流ベクトルを示す。i_1^dqzからi_5^dqzは、dq0座標系における電流成分のベクトルである。
【0099】
ZC変換部6112は、dq0変換後のdq0座標系における電流成分に対してzc変換を実施する。例えば、i_z^dqzは、zc変換後の系統電流zの電流ベクトルである。i_c1^dqzからi_c4^dqzは、zc変換後の循環電流の電流ベクトルである。
【0100】
電流基準生成部6118は、各段の直流電圧の大きさに基づいて電流基準を生成する。この電流基準の生成は一般的手法を適用してもよい。
【0101】
電流制御部6113(図中の記載はACR。)は、電流基準生成部6118によって生成され、制御周期に対応付けて決定された電流基準と、zc変換後の電流ベクトルとに基づいた電流制御をそれぞれ実施して、電圧基準を生成する。zc変換後の電流ベクトルは、上記のi_z^dqzと、i_c1^dqzからi_c4^dqzとを要素に含む。例えば、v_z^dqz*は、zc変換後の系統電流zに対応する電圧基準を示す。v_c1^dq*zからv_c4^dqz*は、逆zc変換後の循環電流に対応する電圧基準を示す。
【0102】
上記の通り、電流制御部6113は、1つの系統電流isの大きさと、(N-1)個の循環電流の大きさとを要素に含む電流ベクトルと、N次の正方行列とを用いた演算を含む電流制御を実施するとよい。電流制御部6113は、1つの系統電流isと、(N-1)個の循環電流とを要素に含む電流ベクトルと、N次の正方行列とを用いた演算を含む電流制御を実施してもよい。この演算により、電流制御部6113は、交流電源101側の合成電圧(v_z^dqz*)と、(N-1)個の循環電流に夫々対応する(N-1)個の電圧基準とを要素に含む電圧ベクトルを生成して、この演算を含めた電流制御を実施するとよい。
【0103】
逆ZC変換部6114は、電流制御部6113によって生成された電圧基準に対して逆zc変換を実施して、dq0座標系の電圧基準を、各段に対応付けて生成する。v_1^dqz*からv_5^dqz*は、逆zc変換後の各段の電圧基準を示す。
【0104】
逆dq0変換部6115は、逆ZC変換部6114によって生成されたdq0座標系の各段の電圧基準に対して逆dq0変換を実施して、uvw座標系の各段の電圧基準を生成する。v_1^uvw*からv_5^uvw*は、逆dq0変換後の各相の各段の電圧基準を示す。
【0105】
PWM制御部6116は、キャリア生成部6116cを含む。キャリア生成部6116cが生成する三角キャリアと、逆dq0変換部6115によって生成された各段の電圧基準とに基づいて、電力変換器30の各スイッチを制御するためのゲート信号を生成して、ゲートパルス生成部6117を介して、電力変換器30の各スイッチにゲート信号に基づいたゲートパルスを供給する。これにより、電力変換器30の各スイッチの導通状態が制御される。
【0106】
上記の一連の変換を、次の式(14)から式(17)を参照して説明する。式(14)から式(17)までの展開は、dq0変換後の各並列コンバータ電流から、各並列コンバータのdq0形式の電圧基準を得るまでに対応する。dq0軸座標系におけるd軸,q軸,0軸の各成分に数学的な差異はないため、d軸成分を例示して、これを代表にして説明する。また、説明を簡略化するため、並列数Nを2にした場合について説明する。
【0107】
d軸成分に関する各並列コンバータの電流基準ベクトルI^d*と、電流FBKベクトルI^dと、電圧基準ベクトルV^d*を、式(14)によって定義する。
【0108】
【数14】
【0109】
前述のzc変換行列をM_zcとおき、逆zc変換行列をM_zc^(-1)とおく。また、電流制御は、比例制御のみと仮定すると、電流制御ゲインの行列M_ACRを次の式(15)によって定義する。
【0110】
【数15】
【0111】
上記の式(15)において、K_zは系統電流isに対する電流制御ゲインであり、K_c1は循環電流に対する電流制御ゲインである。
【0112】
図9の電圧基準ベクトルV^d*の計算を、上記の定義を使用して次の式(16)に示す。
【0113】
【数16】
【0114】
上記の式(16)を、次の式(17)を用いて置き換えると、並列コンバータ形式の電流差分(I^(d*)-I^d)に対する制御によって、電圧基準ベクトルV^d*が算出されることと等価であることがわかる。
【0115】
【数17】
【0116】
本実施形態によれば、zc変換によって、zc変換後に行列M_ACRを用いて系統電流zと循環電流c1…cn-1の各成分を調整することにより、系統電流zと循環電流c1…cn-1の各成分の調整が容易になる。
【0117】
先に式(17)を用いて変換行列M’を算出しておくことで、変換行列M’を用いて演算することができ、制御周期ごとの演算負荷を軽減することができる。
【0118】
(第3の実施形態)
第3の実施形態について説明する。
第3の実施形態では、上述した手法を、並列数が3個のコンバータに適用した事例について説明する。この場合の構成は、図1の構成に相当する。
【0119】
図10を参照して、第3の実施形態の電流サンプリングと電圧基準の更新のタイミングについて説明する。図10は、第3の実施形態の電流サンプリングと電圧基準の更新のタイミングについて説明するための図である。
【0120】
前述の図5との相違点は、並列数が2個から3個に代わったことにより、キャリアの個数が2個から3個に代わっている。これにより、第2セルキャリアCar2から所定の位相遅れた第3セルキャリアCar3が増えている。各セルキャリアの位相差は、上記の通り等間隔になる。この事例の場合、セルキャリアの1周期に対して、電流サンプリングと電圧基準の更新のタイミングの回数が、8回になっている。並列数が3個であることにより、合成電圧(v1+v2+v3)が、-3E、-2E、-E、0、+E、+2E、+3Eの計7段階になる。
【0121】
本実施形態によれば、コンバータの並列数が3個の場合であっても、上記の所望の合成電圧を生成できる。このようにコンバータの並列数が増えることにより、量子化された合成電圧の値の変化のステップが全振幅に対する比率が小さくなることから、リップルノイズを低減させることに貢献する。
【0122】
(第4の実施形態)
第4の実施形態について説明する。
第4の実施形態では、上述した手法を、電動機401を駆動させるドライブシステム以外に適用する事例について説明する。
【0123】
第1の適用例:
前述の図4に示した構成例は、自励式無効電力補償装置(Static synchronous compensator(STATCOM))に適用可能である。これを等価回路ではなく、電力変換システム1Aの主回路の概略構成とする。STATCOMの場合には、複数のセル変換器30Xを、自励式インバータとして機能させる。換言すれば、セル変換器30Xのインバータ回路を除いて構成してもよい。
【0124】
上記のように構成の定義を変え、さらに、STATCOMとして、コンデンサ動作、無負荷、及びリアクトル動作の各動作モードの切り替えを、電力変換システム1Aによる無効電力の補償によって実現するとよい。例えば、上記のインバータの制御部(前述のコンバータ制御部611に相当。)は、複数のセル変換器30X内に流す循環電流を調整することで、上記の動作モードを切り替えて、交流電源(電力系統)101の無効電力を補償するとよい。
【0125】
第2の適用例:
さらに、電池を、その直流側に接続して、電力変換システム1Aを電池電力貯蔵装置として構成してもよい。この場合、交流電力から変換した直流電力で電池を充電したり、電池に蓄えた直流電力を変換した交流電力として、電池から放電させたりすることが可能なる。
【0126】
上記の実施形態によれば、ドライブシステム以外のシステムに、同様の制御方法を適用できる。
【0127】
以上説明した少なくとも一つの実施形態によれば、電力変換システムは、多相交流の電力系統に連系する。前記電力変換システムは、複数の変換器本体と、制御部とを備える。前記複数の変換器本体は、前記電力系統の各相に、相ごとに並列になるように設けられている。前記制御部は、互いに所定の位相差を有する複数のキャリア信号を用いて、前記複数の変換器本体をキャリア比較型のPWM制御によって制御する。前記制御部は、前記複数のキャリア信号の中の特定のキャリア信号の1周期の中に所定の時間間隔で4回以上の偶数回のタイミングが定められ、前記4回以上の偶数回のタイミングに夫々前記複数の変換器本体の前記1次側の電流を検出する。前記制御部は、前記検出した1次側の電流の値と、前記1次側の電流基準の値とを用いて前記PWM制御のための電圧基準を生成して、前記4回以上の偶数回のタイミングに夫々前記電圧基準を更新する。前記制御部は、前記特定のキャリア信号と前記更新された電圧基準とを用いて、前記複数の変換器本体の中の特定の変換器本体を制御する。これにより、電力変換システムは、電力系統側の電流制御の制御応答性をより高めることができる。
【0128】
なお、上記の制御部601(コンピュータ)は、例えば、記憶部と、CPU(central processing unit)と、駆動部と、取得部とを備える。記憶部と、CPUと、駆動部と、取得部は、例えばBUSを介して制御部内で接続されている。記憶部は、半導体メモリを含む。CPUは、ソフトウェアプログラムに従い、所望の処理を実行するプロセッサを含む。駆動部は、CPUの制御に従い、電力変換システム1の各部に対する制御信号を生成する。取得部は、各電流センサーと電圧センサーの検出結果を取得する。例えば、制御部601のCPUは、取得部によって取得した電流センサーと電圧センサーの検出結果に基づいて、駆動部によって各相の主回路を制御する。制御部601は、その処理の一部又は全部を上記のようにソフトウェアプログラムの処理により実現されてもよく、これに代わりハードウェアによって実現されてもよい。また、制御部601を適宜分割して構成してよく、これによって回路の絶縁性を確保してよい。
【0129】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0130】
1…電力変換システム、201変圧器、30…電力変換器、30S、30U、30V、30W、30X、…セル変換器、302、3021、3031…コンバータ、303、3022、3032…インバータ、C1、CP、CN…コンデンサ、401…電動機、101…電力系統、601…制御部、611…コンバータ制御部、621…インバータ制御部、201変圧器、6111…dq0変換部、6112…ZC変換部、6113…電流制御部、6114…逆ZC変換部、6115…逆dq0変換部、6116…PWM制御部、6117…ゲートパルス生成部、6118…電流基準生成部
図1
図2A
図2B
図3A
図3B
図3C
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10