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特許7313556電気車制御装置、列車制御システム及び地上装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-13
(45)【発行日】2023-07-24
(54)【発明の名称】電気車制御装置、列車制御システム及び地上装置
(51)【国際特許分類】
   B61C 15/12 20060101AFI20230714BHJP
   B60L 15/20 20060101ALI20230714BHJP
【FI】
B61C15/12
B60L15/20 Y
B60L15/20 G
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2022527467
(86)(22)【出願日】2020-05-29
(86)【国際出願番号】 JP2020021454
(87)【国際公開番号】W WO2021240815
(87)【国際公開日】2021-12-02
【審査請求日】2022-06-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504158881
【氏名又は名称】東京地下鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118762
【弁理士】
【氏名又は名称】高村 順
(72)【発明者】
【氏名】山下 良範
(72)【発明者】
【氏名】新井 修
(72)【発明者】
【氏名】前田 郁
(72)【発明者】
【氏名】高橋 達郎
【審査官】長谷井 雅昭
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-164016(JP,A)
【文献】特開2005-168177(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第103010227(CN,A)
【文献】特開2005-094837(JP,A)
【文献】特開2017-055607(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2005/0189887(US,A1)
【文献】特開2006-034039(JP,A)
【文献】特開2018-030487(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B61C 15/12
B60L 15/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気車の車輪に生じ得る空転及び滑走を抑制する制御を行う空転滑走制御部を備えた電気車制御装置において、
前記空転滑走制御部は、
前記電気車を駆動する1台もしくは複数台の電動機の回転速度に基づいて、前記電気車に生じた空転又は滑走を検知する空転滑走検知部と、
前記空転滑走検知部の出力に基づいて前記空転又は滑走を抑制するトルク指令値を生成すると共に、空転又は滑走の発生を予測した予測信号が入力された場合、前記空転滑走制御部が空転滑走制御を行っているか否かに関わらず前記トルク指令値の絞り込みを行うトルク指令値生成部と、
備え、
前記空転滑走制御部は、
前記トルク指令値の絞り込みを行う際に、前記空転滑走制御における制御パラメータの一部を変更する
ことを特徴とする電気車制御装置。
【請求項2】
変更する前記制御パラメータは、空転又は滑走を検知する際の検知レベルである
ことを特徴とする請求項に記載の電気車制御装置。
【請求項3】
変更する前記制御パラメータは、前記トルク指令値の絞り込みを行う際の時定数である
ことを特徴とする請求項に記載の電気車制御装置。
【請求項4】
前記予測信号は、地点情報に関連付けられており、
前記地点情報に示される地点を通過する前に前記トルク指令値の絞り込みを行う
ことを特徴とする請求項1から3の何れか1項に記載の電気車制御装置。
【請求項5】
前記地点情報には、レール塗油器もしくは分岐器が設置されている位置の情報、又は曲率がある値以上のカーブの進入位置の情報が含まれる
ことを特徴とする請求項に記載の電気車制御装置。
【請求項6】
推進力を付与する複数の電動車を有して編成される列車に生じ得る空転及び滑走を抑制する空転滑走制御を行う列車制御システムであって、
前記電動車ごとに備えられ、各々が前記電動車に生じた空転又は滑走を検知して前記電動車の空転滑走制御を行う複数の制御装置と、
空転又は滑走の発生を予測した予測信号を生成して前記制御装置に出力する列車制御装置と、
を備え、
各々の前記制御装置は、前記予測信号が入力された場合、前記空転滑走制御を行っているか否かに関わらずトルク指令値の絞り込みを行うと共に、前記トルク指令値の絞り込みを行う際に、前記空転滑走制御における制御パラメータの一部を変更する
ことを特徴とする列車制御システム。
【請求項7】
前記予測信号は、地点情報に関連付けられており、
前記地点情報に示される地点を通過する前に前記トルク指令値の絞り込みが行われる
ことを特徴とする請求項に記載の列車制御システム。
【請求項8】
複数の電動車を有して編成される列車に生じ得る空転及び滑走を抑制する空転滑走制御を行う列車制御システムであって、
前記電動車ごとに備えられ、各々が前記電動車に生じた空転又は滑走を検知して前記電動車の空転滑走制御を行う複数の制御装置と、
前記列車の編成における前記電動車の位置情報を前記制御装置に伝送する列車制御装置と、
を備え、
前記編成の先頭に位置する前記制御装置は、空転又は滑走を検知した場合、空転又は滑走の発生を予測した予測信号を生成し、後続の前記制御装置に前記予測信号を伝送し、
前記予測信号を受信した前記制御装置は、前記空転滑走制御を行っているか否かに関わらずトルク指令値の絞り込みを行うと共に、前記トルク指令値の絞り込みを行う際に、前記空転滑走制御における制御パラメータの一部を変更する
ことを特徴とする列車制御システム。
【請求項9】
請求項6から8の何れか1項に記載の列車制御システムと連携する地上装置であって、
前記列車に生じた空転又は滑走の程度に関する情報である空転滑走度合いと、前記空転又は滑走が生じた地点の情報である地点情報とを前記列車制御システムから受信する受信部と、
受信した前記空転滑走度合いと前記地点情報とを関連付けて記憶する記憶部と、
前記記憶部に記憶された情報に基づいて、前記空転滑走制御における前記地点情報ごとの制御パラメータを決定する演算部と、
前記地点情報に関連付けられた前記制御パラメータを前記列車制御システムに送信する送信部と、
を備えたことを特徴とする地上装置。
【請求項10】
前記地点情報には、レール塗油器もしくは分岐器が設置されている位置の情報、又は曲率がある値以上のカーブの進入位置の情報が含まれる
ことを特徴とする請求項に記載の地上装置。
【請求項11】
請求項6から8の何れか1項に記載の列車制御システムと連携する地上装置であって、
前記列車に生じた空転及び滑走の回数に関する情報である空転滑走回数を前記列車制御システムから受信する受信部と、
受信した前記空転滑走回数を記憶する記憶部と、
前記記憶部に記憶された情報に基づいて、前記電動車の車輪の検修時期を決定する演算部と、
前記検修時期の情報を含む空転滑走履歴情報を出力する出力部と、
を備えたことを特徴とする地上装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電動機で駆動される電気車の空転及び滑走(以下、「空転滑走」と呼ぶ)を抑制する制御を行う電気車制御装置、電気車制御装置を備えた列車制御システム、及び列車制御システムと連携する地上装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電気車は、雨天時などにおいて、車輪の粘着係数が低下して空転滑走が生じる場合がある。電気車が空転滑走した場合、空転滑走を抑制するための制御が行われる。電動機で車輪に駆動力を付与しているときに粘着が失われた状態となるのが空転であり、車輪に制動力を付与しているときに粘着が失われる状態となるのが滑走である。空転滑走制御は、粘着が失われた状態を解消する制御である。
【0003】
下記非特許文献1には、空転滑走制御に関する技術が記載されている。具体的に、非特許文献1に記載の空転滑走制御では、まず、速度偏差、基準軸速度、基準加速度及び各軸加速度に基づいて、各車軸に対応した車輪が空転状態か否かが判断される。速度偏差は、最大の車軸速度と最小の車軸速度との偏差である。そして、車輪が空転状態と判断された場合、誘導電動機を駆動するための出力電流指令値が絞り込まれる。出力電流指令値が絞り込まれると、誘導電動機のトルクが絞られる。これにより、空転滑走している車輪は再粘着する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】三菱電機技報 Vol.66 No.4 p114 1992年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の空転滑走制御は、上記のような動作となる。この空転滑走制御は、再粘着特性を改善したものであって、性能的には十分なものであり、多くの適用実績がある。
【0006】
しかしながら、更なる再粘着特性の改善という観点から再粘着時の動作を見直すと、従来の空転滑走制御は、空転滑走を検知してから行われるため、空転滑走制御が発生してから解消するまでに時間を要するという課題がある。
【0007】
本開示は、上記に鑑みてなされたものであって、空転滑走制御が発生してから解消するまでの時間を短縮可能な電気車制御装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した課題を解決し、目的を達成するため、本開示に係る電気車制御装置は、電気車の車輪に生じ得る空転及び滑走を抑制する制御を行う空転滑走制御部を備える。空転滑走制御部は、空転滑走検知部及びトルク指令値生成部を備える。空転滑走検知部は、電気車を駆動する1台もしくは複数台の電動機の回転速度に基づいて、電気車に生じた空転又は滑走を検知する。トルク指令値生成部は、空転滑走検知部の出力に基づいて空転又は滑走を抑制するトルク指令値を生成する。トルク指令値生成部は、空転又は滑走の発生を予測した予測信号が入力された場合、空転滑走制御部が空転滑走制御を行っているか否かに関わらずトルク指令値の絞り込みを行う。
【発明の効果】
【0009】
本開示に係る電気車制御装置によれば、空転滑走制御が発生してから解消するまでの時間を短縮できるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施の形態1に係る電気車制御装置を含む電気車の構成を模式的に示す図
図2図1に記載した空転滑走制御部の構成を示すブロック図
図3図2に記載した空転滑走検知部の構成を示すブロック図
図4】実施の形態1に係る空転滑走制御部2の空転時の再粘着制御における要部の動作波形を示すタイムチャート
図5】実施の形態1におけるトルク指令値絞込部の動作説明に供する図
図6】実施の形態1に係る空転滑走制御部の機能を実現するハードウェア構成の一例を示すブロック図
図7】実施の形態1に係る空転滑走制御部の機能を実現するハードウェア構成の他の例を示すブロック図
図8】実施の形態2に係る列車制御システムの構成例を示す図
図9】実施の形態2に係る列車制御システムの動作説明に供するフローチャート
図10】実施の形態3に係る列車制御システムの動作説明に供する第1の図
図11】実施の形態3に係る列車制御システムの動作説明に供する第2の図
図12】実施の形態4に係る地上装置の構成例を示すブロック図
図13】実施の形態4に係る地上装置の動作説明に供するフローチャート
図14】実施の形態5に係る地上装置の構成例を示すブロック図
図15】実施の形態5に係る地上装置の動作説明に供するフローチャート
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に添付図面を参照し、本開示の実施の形態に係る電気車制御装置、列車制御システム及び地上装置について詳細に説明する。
【0012】
実施の形態1.
図1は、実施の形態1に係る電気車制御装置(以下、単に「制御装置」と表記)1を含む電気車100の構成を模式的に示す図である。図1において、電気車100は、電気車100を駆動するための4台の電動機5A~5Dを備える。制御装置1は、4台の電動機5A~5Dを制御する。なお、1つの制御装置1が1台の電動機を制御する構成、もしくは1つの制御装置1が4台以外の複数台の電動機を制御する構成もあるが、図1は、代表的な構成例を示している。
【0013】
電動機5A~5Dは、それぞれ車輪6A~6Dに連結される。電動機5Aは車輪6Aを駆動し、電動機5Bは車輪6Bを駆動し、電動機5Cは車輪6Cを駆動し、電動機5Dは車輪6Dを駆動する。車輪6A~6Dの回転により、電気車100は、車輪6A~6Dとレール7との間で発生する摩擦力により推進力を得る。
【0014】
実施の形態1に係る制御装置1は、電気車100の車輪6A~6Dに生じ得る空転及び滑走を抑制するための制御である空転滑走制御を行う。この機能を実現するため、制御装置1は、空転滑走制御部2と、ゲート指令生成部3と、電力変換器4とを備える。
【0015】
図1において、空転滑走制御部2には、車輪6A~6Dのそれぞれから、それぞれの回転速度を示す速度信号fm1~fm4が入力される。空転滑走制御部2は、入力された速度信号fm1~fm4に基づいて、電気車100の空転及び滑走を解消するようにトルク制御を行う。速度信号fm1~fm4は、車輪6A~6Dのそれぞれにおいて、図示しない車軸に取り付けられたセンサによって検出される。なお、速度信号fm1~fm4は、電動機5A~5Dのそれぞれに流れる電流である主電動機電流を用いて演算により求められる主電動機速度を用いてもよい。
【0016】
次に、制御装置1が実施する空転滑走制御における要部の構成及び動作について説明する。なお、以下の説明において、電動機5A~5Dのそれぞれを個々に区別しない場合は、添字を省略して「電動機5」と表記し、車輪6A~6Dのそれぞれを個々に区別しない場合は、添字を省略して「車輪6」と表記する。この表記は、添字を付して識別する下述の他の構成部にも適用する。また、以下では、代表的に空転の場合について説明するが、滑走の場合についても、同様に説明できることは言うまでもない。
【0017】
空転滑走制御部2には、速度信号fm1~fm4に加え、トルク指令値Trと、予測信号Csと、列車速度Vtとが入力される。トルク指令値Trは、非空転時のトルク指令値である。予測信号Csは、空転又は滑走の発生を予測した信号である。予測信号Csは、空転又は滑走が生起する可能性が高い地点を電気車100が通過すると判断された場合に出力される。列車速度Vtは、電気車100を含む走行速度に関する情報である。予測信号Cs及び列車速度Vtは、図1では図示しない上位制御装置から入力される。なお、予測信号Cs及び列車速度Vtは、制御装置1に伝送される情報、及び制御装置1で生成又は演算される情報のうちの少なくとも1つを用いて、制御装置1の内部で生成してもよい。
【0018】
空転滑走制御部2は、速度信号fm1~fm4、トルク指令値Tr、予測信号Cs及び列車速度Vtに基づいて、トルク指令値Tqを演算する。
【0019】
ゲート指令生成部3には、空転滑走制御部2が生成したトルク指令値Tqが入力される。ゲート指令生成部3は、トルク指令値Tqに基づいてゲート指令Gを生成する。ゲート指令生成部3は、トルク演算部、電流指令値演算部、電圧指令値演算部などを含む概念である。これらの各部は、公知の技術を用いて構成することができる。
【0020】
電力変換器4は、ゲート指令Gに基づいて制御され、電動機5を駆動するための駆動電力を生成する。電力変換器4によって生成された駆動電力は、1台もしくは複数台の電動機5に供給される。これにより、1台の電動機が駆動され、又は複数台の電動機5が一括駆動される。
【0021】
図2は、図1に記載した空転滑走制御部2の構成を示すブロック図である。空転滑走制御部2は、図2に示すように、空転滑走検知部8と、トルク指令値生成部9とを備える。トルク指令値生成部9は、粘着状態推定器10~10と、トルク指令レベル設定器11と、選択スイッチ12と、一次遅れ系13と、トルク指令値絞込部14とを備える。
【0022】
空転滑走検知部8は、車輪6の速度信号fm1~fm4と、非空転時のトルク指令値Trと、一次遅れ系13によって生成された後述するトルク指令値Tpに基づいて、各車輪6の粘着状態を判別する。
【0023】
粘着状態推定器10は、各車輪6の速度と基準速度との間の偏差である速度偏差ΔV1~ΔV4と、各車輪6の加速度と基準加速度との間の偏差である加速度偏差Δα1~Δα4とに基づいて、各車輪6の粘着状態を表わす係数g1~g4を出力する。基準速度は、一般的に各車輪6の速度の最小値が選ばれる。基準加速度は、基準速度に対応する車輪6における加速度である。なお、基準速度として、図1では図示しない上位制御装置から伝送される車両速度情報を用いてもよい。
【0024】
トルク指令レベル設定器11は、係数g1~g4と、非空転時のトルク指令値Trとに基づいて、トルク指令レベルTaを以下の(1)式を用いて演算する。
【0025】
Ta=Tr×(g1+g2+g3+g4)/4 …(1)
【0026】
選択スイッチ12は、空転滑走検知部8から出力される制御信号CSWに基づいて、トルク指令レベルTa及び非空転時のトルク指令値Trのうちの何れかを選択する。選択スイッチ12の出力は、トルク指令レベルTiとして一次遅れ系13に入力される。
【0027】
一次遅れ系13は、時定数tcの時素を有する制御器である。一次遅れ系13は、選択スイッチ12から出力されるトルク指令レベルTiに基づいて、トルク指令値Tpを生成する。時定数tcの値は、トルク指令レベルTiに基づいて変更される。具体的な実施例は、以下の通りである。なお、一次遅れ系13は、ts<tlの関係にある2つの時定数ts,tlが設定可能であるように構成されているものとする。
【0028】
トルク指令値生成部9は、(m-1)回目の制御時点におけるトルク指令レベルTi(m-1)と、m回目の制御時点におけるトルク指令レベルTi(m)との大きさを比較する。トルク指令値生成部9は、Ti(m)<Ti(m-1)のときには、相対的に値の小さい「ts」を時定数tcとして設定する。一方、Ti(m)≧Ti(m-1)のときには、相対的に値の大きい「tl」を時定数tcとして設定する。時定数tcは、予測信号Csの入力によって切り替えることができる。
【0029】
トルク指令値絞込部14には、一次遅れ系13が出力するトルク指令値Tpに加え、前述した予測信号Cs及び列車速度Vtが入力される。トルク指令値絞込部14は、予測信号Csが入力されている場合にはトルク指令値Tpの絞り込みを行う。トルク指令値Tpを絞り込む際の絞り込み量は、列車速度Vtに基づいて制御される。トルク指令値絞込部14の出力は、トルク指令値Tqとしてゲート指令生成部3に入力される。
【0030】
一方、予測信号Csが入力されていない場合、トルク指令値絞込部14は、トルク指令値Tpの絞り込みを行わない。トルク指令値Tpの絞り込みが行われない場合、一次遅れ系13によって生成されたトルク指令値Tpがトルク指令値Tqとして出力される。
【0031】
次に、空転滑走検知部8の動作について説明する。図3は、図2に記載した空転滑走検知部8の構成を示すブロック図である。
【0032】
空転滑走検知部8は、図3に示すように、基準速度演算部20と、高位優先論理部21と、加速度演算部22と、減算器23~23,24,28と、基準加速度演算部25と、空転滑走検知信号生成部26と、論理和回路27と、再粘着制御状態判別器29とを備える。
【0033】
基準速度演算部20は、速度信号fm1~fm4の中から最小の速度を選択し、その速度を基準速度Vsとして出力する。なお、基準速度Vsは、速度信号fm1~fm4の平均値でもよい。或いは、図示しない上位制御装置から伝送される車両速度情報でもよい。
【0034】
高位優先論理部21は、速度信号fm1~fm4の中から最大の速度を選択し、その速度を最大速度Vmaxとして出力する。加速度演算部22は、速度信号fm1~fm4に基づいて、各車輪6の加速度α1~α4を演算する。減算器23~23のそれぞれは、速度信号fm1~fm4に基づいて、各車輪6の速度と基準速度Vsとの間の速度偏差ΔV1~ΔV4を演算する。減算器24は、最大速度Vmaxと基準速度Vsとの間の速度偏差ΔVを演算する。基準加速度演算部25は、基準速度Vsに基づいて基準加速度αsを演算する。
【0035】
空転滑走検知信号生成部26は、速度偏差ΔVと、基準加速度αsと、加速度α1~α4とに基づいて、空転検知信号CSV,CS1~CS4と、加速度偏差Δα1~Δα4とを生成して出力する。加速度偏差Δα1~Δα4は、加速度α1~α4と基準加速度αsとの間の偏差である。空転検知信号CSVは、速度偏差ΔVが設定値以上であるか否かを示す信号である。空転検知信号CS1~CS4は、それぞれ加速度偏差Δα1~Δα4が検知レベル以上であるか否かを表す信号である。速度偏差ΔVが設定値以上である場合、空転検知信号CSVは、信号レベルが論理「1」に設定されて出力される。加速度偏差Δα1~Δα4が検知レベル以上である場合、空転検知信号CS1~CS4のそれぞれは、信号レベルが論理「1」に設定されて出力される。
【0036】
空転検知信号CSV,CS1~CS4は、論理和回路27に入力される。論理和回路27は、空転検知信号CSV,CS1~CS4の論理和を演算し、その演算結果を制御信号CSW1として出力する。
【0037】
減算器28は、非空転時のトルク指令値Trとトルク絞り込み前の指令値であるトルク指令値Tpとの間のトルク偏差ΔTを演算する。トルク偏差ΔT及び論理和回路27から出力される制御信号CSW1は、再粘着制御状態判別器29に入力される。再粘着制御状態判別器29は、トルク偏差ΔTと制御信号CSW1とに基づいて、再粘着制御状態を表わす制御信号CSWを生成して出力する。
【0038】
次に、実施の形態1に係る空転滑走制御部2の動作について、図1から図3の図面に加え、更に図4及び図5の図面を参照して説明する。図4は、実施の形態1に係る空転滑走制御部2の空転時の再粘着制御における要部の動作波形を示すタイムチャートである。図5は、実施の形態1におけるトルク指令値絞込部14の動作説明に供する図である。
【0039】
図4の縦軸には、上段部から順に、各車輪6の速度Vn、各車輪6の加速度αn、加速度偏差Δαn、制御信号CSW1,CSW、係数gn、トルク指令レベルTa,Ti、トルク指令値Tp、及び時定数tcの波形が示されている。添字の「n」は、各車輪6のうちの何れか1つの車輪の要素であることを意味している。また、上段部から1段目及び2段目には、それぞれ基準速度Vs及び基準加速αsの波形が破線で示されている。
【0040】
なお、図4の動作波形は、4軸空転を想定したものである。時刻t1から時刻t2の間は、各車輪の粘着力が低下した粘着力低下期間である。また、時刻t2以降は、粘着力が上昇して空転前の状態に復帰する動作に移行する。
【0041】
時刻t1で粘着力が低下すると、図4に示すように、空転滑走検知部8の加速度演算部22で演算される加速度αnは増加し始める。その後、加速度偏差Δαnが検知レベル以上になるA点では、空転検知信号CS1~CS4が「1」になり、論理和回路27から出力される制御信号CSW1も「1」となる。そして、再粘着制御状態判別器29から出力される制御信号CSWは、制御信号CSW1が「1」になると同時に「1」になる。
【0042】
A点で空転が検知されると、制御信号CSWは「1」になるので、選択スイッチ12の出力であるトルク指令レベルTiは、トルク指令値Trからトルク指令レベルTaに変更される。また、一次遅れ系13の時定数tcは、「tl」から「ts」に変更される。これにより、トルク指令値Tpは減少する。このとき、トルク指令値Tpで運転される電動機5の発生トルクも減少する。従って、加速度偏差Δαnも小さくなり、B点では、検知レベルより小さくなる。この時点で、制御信号CSW1は「0」となる。
【0043】
一般的に、検知レベルは、誤検知防止のため、「αd」よりも大きな値に設定される。このため、粘着状態推定器10で演算される係数gnは、B点を過ぎて、1より小さい設定値glとなるまで増加する。このとき、係数gnが増加していれば、トルク指令レベルTiも増加しているので、一次遅れ系13の時定数tcは「tl」に設定されている。その後、係数gnは、設定値glに保たれ、加速度偏差Δαnが「αu」(αu<αd)より小さくなるD点で、gn=1.0に復帰する。この時点で、トルク指令レベルTiはトルク指令値Trに等しくなるので、トルク指令値Tpは増加し続ける。
【0044】
その後、加速度偏差ΔαnがE点で「αd」に達すると、係数gnはglより小さい値となりトルク指令レベルTiも前回の制御時の値より小さな値になるので、時定数tcは「ts」に設定される。そして、トルク指令値Tpが減少し加速度偏差Δαnは小さくなりD点に達し、係数gnは「1.0」に復帰し、トルク指令値Tpは増加する。
【0045】
その後、時刻t2で粘着力が増加するまで、上述のD点、E点の検知がくり返され、再粘着制御が行われる。一次遅れ系13の時定数tcは、図4の最下段部に示されるように設定される。時刻t2で粘着力が増加すると、トルク指令値Tpも増加し、空転滑走検知部8の減算器28で演算されるトルク偏差ΔTはゼロに近づく。再粘着制御状態判別器29では、トルク偏差ΔTが設定値より小さくなると、制御信号CSWは「0」となる。これにより、選択スイッチ15から出力されるトルク指令レベルTiは、非空転時のトルク指令値Trに設定される。
【0046】
トルク指令値絞込部14が動作しない場合、トルク指令値絞込部14からは、一次遅れ系13によって生成されたトルク指令値Tpがそのまま出力される。整理して説明すると、車輪6が空転せず、且つ予測信号Csが入力されていない場合、トルク指令値絞込部14から出力されるトルク指令値Tqは、非空転時のトルク指令値Trに等しくなる。一方、車輪6が空転し、且つ予測信号Csが入力されていない場合、トルク指令値絞込部14からは、一次遅れ系13によって生成されたトルク指令値Tpが出力される。一次遅れ系13の出力は、加速度偏差Δαnが検知レベルより小さい範囲で変化するようにトルク指令値Tpの値が制御される。このため、トルク指令値Tpの変動幅を小さくできるので、空転が生起した場合の制御としては、充分な性能を有していると言える。その一方で、トルク指令値生成部9における粘着状態推定器10から一次遅れ系13までの処理は、空転を検知してからの処理となるため、空転制御が発生してから解消するまでに時間を要するという課題がある。この課題を解消するために、トルク指令値絞込部14が設けられている。
【0047】
図5には、レール7を走行する電気車100が示されている。また、図5には、レール7のカーブ部位への進入口付近にレール塗油器40が設置されている例が示されている。
【0048】
レール塗油器は、レールの摩耗を防止するためにレールに塗油する機械である。レールの急カーブ区間では直線区間に比べて大きな横圧が発生し、レールと車輪との間に大きな摩擦が発生する。この摩擦は、車輪の摩耗の原因となる。このため、車輪とレールとの間の摩擦を抑制させるために、急カーブ区間ではレール塗油器が設置されることがある。なお、本明細書で言う「急カーブ区間」とは、カーブの曲率がある値以上の区間を意味する。
【0049】
実施の形態1に係る電気車100において、レール塗油器40が設置されている位置の情報は、予め地点情報として上位制御装置に記憶されている。なお、地点情報は、制御装置1の内部に記憶されていてもよい。また、地点情報は、電気車100に搭載されているモニタ装置、列車情報管理装置に記憶されていてもよい。また、地上装置から伝送される地点情報を電気車100が受信する形態でもよい。
【0050】
また、上記では、地点情報の例としてレール塗油器40を説明したが、これに限定されない。分岐器もしくは転轍機が存在する場所、レール塗油器40が設置されない急カーブ区間の進入位置などを地点情報として設定してもよい。
【0051】
図4の説明に戻る。電気車100が、地点情報として記憶された場所に近づくと、列車速度Vtに加え、予測信号Csがトルク指令値生成部9に入力される。予測信号Csは、空転又は滑走の発生を予測した信号である。また、予測信号Csは、地点情報に関連付けられており、地点情報に示される地点を通過する前に出力される。予測信号Csが入力されると、トルク指令値絞込部14は、トルク指令値Tpの絞り込みを行う。前述したように、トルク指令値Tpの絞り込み量は、列車速度Vtに基づいて決定される。なお、列車速度Vt以外の他の制御要素を考慮して、トルクの絞り込み量を決定してもよい。他の制御要素の例は、レール7の曲率、降雨量、降雪量などである。
【0052】
トルク指令値絞込部14による制御は、空転滑走が生起する前に実施される。従って、実際に空転滑走が生起したときの過度なトルクの絞り込みを抑制することができる。これにより、電気車100を含む列車に乗車している乗客の乗り心地を改善することが可能となる。また、トルク指令値絞込部14による制御は、空転滑走を予測した制御であるため、空転滑走の発生回数を抑制することができる。空転滑走の発生回数を減らすことができるため、車輪6へのフラット発生などを抑制でき、フラットを修正するために行う車輪転削の回数を削減することが可能となる。そのため、車輪6の摩耗量を低減することが可能となる。
【0053】
また、トルク指令値絞込部14による制御を行う際に、空転滑走制御における制御パラメータの一部を変更するようにしてもよい。変更する制御パラメータの例は、空転又は滑走を検知する際の検知レベル、一次遅れ系13における時定数tcである。
【0054】
トルク指令値絞込部14を有していない制御系の場合、検知レベルを下げると誤検知が多くなり、電気車100の円滑な運行の妨げになる。これに対し、トルク指令値絞込部14を有する制御系の場合、空転滑走が生起し易い場所へ進入する際に、事前にトルク指令値の絞り込みを行うので、検知レベルを幾分下げる制御を併用することで、過度なトルク指令値の絞り込みを抑制することができる。これにより、粘着力低下期間の短縮が可能となる。なお、一次遅れ系13における時定数tcの制御を行っても、同様の効果が得られる。
【0055】
以上説明したように、実施の形態1に係る電気車制御装置によれば、トルク指令値生成部は、空転又は滑走の発生を予測した予測信号が入力された場合、空転滑走制御部が空転滑走制御を行っているか否かに関わらずトルク指令値の絞り込みを行う。これにより、空転滑走制御が発生してから解消するまでの時間を従来よりも短縮することが可能となる。
【0056】
なお、トルク指令値の絞り込みを行う際には、空転滑走制御における制御パラメータの一部を変更する制御を併用してもよい。このようにすれば、過度な絞り込みを抑制しつつ、粘着力低下期間の短縮が可能となる。
【0057】
次に、実施の形態1に係る空転滑走制御部2の機能を実現するためのハードウェア構成について、図6及び図7の図面を参照して説明する。図6は、実施の形態1に係る空転滑走制御部2の機能を実現するハードウェア構成の一例を示すブロック図である。図7は、実施の形態1に係る空転滑走制御部2の機能を実現するハードウェア構成の他の例を示すブロック図である。
【0058】
実施の形態1に係る空転滑走制御部2の機能の一部又は全部を実現する場合には、図6に示されるように、演算を行うプロセッサ500、プロセッサ500によって読みとられるプログラムが保存されるメモリ502、及び信号の入出力を行うインタフェース504を含む構成とすることができる。
【0059】
プロセッサ500は、演算装置、マイクロプロセッサ、マイクロコンピュータ、CPU(Central Processing Unit)、又はDSP(Digital Signal Processor)といった演算手段であってもよい。また、メモリ502には、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、フラッシュメモリ、EPROM(Erasable Programmable ROM)、EEPROM(登録商標)(Electrically EPROM)といった不揮発性又は揮発性の半導体メモリ、磁気ディスク、フレキシブルディスク、光ディスク、コンパクトディスク、ミニディスク、DVD(Digital Versatile Disc)を例示することができる。
【0060】
メモリ502には、実施の形態1に係る空転滑走制御部2の機能を実行するプログラムが格納されている。プロセッサ500は、インタフェース504を介して必要な情報を授受し、メモリ502に格納されたプログラムをプロセッサ500が実行し、メモリ502に格納されたテーブルをプロセッサ500が参照することにより、上述した処理を行うことができる。プロセッサ500による演算結果及び地点情報は、メモリ502に記憶することができる。
【0061】
また、実施の形態1に係る空転滑走制御部2の機能の一部を実現する場合には、図7に示す処理回路503を用いることもできる。処理回路503は、単一回路、複合回路、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field-Programmable Gate Array)、又は、これらを組み合わせたものが該当する。処理回路503に入力する情報、及び処理回路503から出力する情報は、インタフェース504を介して入手することができる。
【0062】
なお、空転滑走制御部2における一部の処理を処理回路503で実施し、処理回路503で実施しない処理をプロセッサ500及びメモリ502で実施してもよい。
【0063】
実施の形態2.
図8は、実施の形態2に係る列車制御システム150の構成例を示す図である。図8には、1両の指令車(以下、「Tc車」と表記)101と、3両の電動車(以下、「M車」と表記)102~102と、3両の付随車(以下、「T車」と表記)103~103とを有して編成される列車160が示されている。
【0064】
Tc車は、図示しない運転台が搭載される車両である。M車は、電動機が搭載される車両である。T車は、運転台及び電動機が搭載されない車両である。列車は、電動機が搭載されるM車によって推進力が付与される。
【0065】
Tc車101には、列車制御装置50と、列車情報管理装置52とが搭載されている。M車102~102には、実施の形態1で説明した制御装置1が搭載されている。即ち、制御装置1は、M車102~102の各々に搭載されている。
【0066】
列車情報管理装置52は、列車内で伝送される列車情報を管理する装置である。列車制御装置50は、実施の形態1で説明した予測信号Csを生成して制御装置1に出力する装置である。予測信号Csは、伝送線54を通じてM車102~102の各々の制御装置1に伝送される。なお、列車制御装置50は、列車情報管理装置52の内部に構成されていてもよい。この構成の場合、列車情報管理装置52は、実施の形態2に係る列車制御装置50として動作する。
【0067】
次に、実施の形態2に係る列車制御システム150の動作について、図8及び図9を参照して説明する。図9は、実施の形態2に係る列車制御システム150の動作説明に供するフローチャートである。
【0068】
列車制御装置50は、地点情報に基づいて空転又は滑走の発生を予測した予測信号Csを生成する(ステップS1)。列車制御装置50は、生成した予測信号CsをM車102~102の各々の制御装置1に出力する(ステップS2)。各々の制御装置1は、予測信号Csが入力された場合、自車において空転滑走制御を行っているか否かに関わらずトルク指令値の絞り込みを行う(ステップS3)。
【0069】
以上のように、実施の形態2におけるトルク指令値の絞り込みは、制御装置を統括する列車制御装置からの予測信号Csによって行われる。このため、制御装置がトルクの絞り込みを行う時刻を同期させることができるので、絞り込み後のトルク指令値のばらつきを小さく抑えることができる。これにより、実施の形態1の効果に加え、列車に乗車する乗客の乗り心地に与える影響を小さくすることが可能となる。
【0070】
なお、実施の形態1と同様に、トルク指令値の絞り込みを行う際には、空転滑走制御における制御パラメータの一部を変更する制御を併用してもよい。このようにすれば、列車全体において、過度な絞り込みが抑制されるので、列車における粘着力低下期間の短縮が可能となる。
【0071】
実施の形態3.
実施の形態2では、地点情報に基づいて生成した予測信号を列車制御装置50が各々の制御装置1に出力する実施の形態について説明した。実施の形態3では、進行方向の最前方の制御装置1が判断して、後続の制御装置1に予測信号を伝送する実施の形態について説明する。なお、実施の形態3に係る列車制御システムの構成は、実施の形態2と同様である。
【0072】
次に、実施の形態3に係る列車制御システム150の動作について、図10及び図11の図面を参照して説明する。図10は、実施の形態3に係る列車制御システム150の動作説明に供する第1の図である。図11は、実施の形態3に係る列車制御システム150の動作説明に供する第2の図である。
【0073】
図10には、図8に示した列車160が紙面の左方向に走行する様子が示されている。図10では、左側から順に、1号車、2号車、3号車、4号車、5号車とされ、6号車及び7号車は省略されている。図10において、2号車及び4号車は電動機が搭載されるM車である。また、図10の上段部には、走行する列車160の2号車が路面状況の変化地点60を通過する様子が示されている。図10の下段部には、時間経過と共に列車160の4号車が路面状況の変化地点60を通過しようとする様子が示されている。
【0074】
2号車に搭載される制御装置1は、路面状況の変化地点60を通過する際に、空転滑走を検知する。空転滑走を検知した2号車の制御装置1は、実施の形態1で説明した空転滑走制御を行うと共に、予測信号を生成して後続の制御装置1に伝送する。予測信号の伝送は、号車を指定して行われる。列車の編成におけるM車の位置情報は、列車情報管理装置52が管理しており、列車制御装置50を介して取得することができる。図10の編成の場合、2号車の制御装置1は、4号車の制御装置1に宛てて予測信号を伝送する。
【0075】
予測信号を受信した4号車の制御装置1は、空転滑走制御を行っているか否かに関わらず、実施の形態1で説明したトルク指令値の絞り込みを行う。図11には、トルクの絞り込みが時間を追って号車間を遷移する状況が示されている。列車160の編成の場合、4号車の次は7号車の制御装置1によってトルクの絞り込みが行われる。
【0076】
なお、上記の例では、号車を指定して予測信号を伝送しているが、これに限定されない。号車を指定しないで、後続の全ての制御装置1に予測信号を伝送してもよい。この例の場合、各々の制御装置1において、トルクを絞り込むタイミングは、列車速度Vtの情報を用いて判断することができる。
【0077】
以上説明したように、実施の形態3に係る列車制御システムによれば、列車編成の先頭に位置する制御装置は、空転滑走を検知した場合、空転又は滑走の発生を予測した予測信号を生成し、後続の制御装置に予測信号を伝送する。予測信号を受信した制御装置は、空転滑走制御を行っているか否かに関わらずトルク指令値の絞り込みを行う。これらの制御により、列車における電動車においては、トルク指令値の絞り込みが時間を追って号車間を遷移していくので、列車全体から見て、過度なトルク指令値の絞り込みが回避される。これにより、列車全体において、粘着力低下期間の短縮が可能となる。また、予測できない路面状況の変化に適応した空転滑走制御が可能となる。
【0078】
実施の形態4.
実施の形態4では、空転滑走制御を行う列車制御システムと連携する地上装置について説明する。図12は、実施の形態4に係る地上装置200の構成例を示すブロック図である。
【0079】
実施の形態1では、予め空転滑走が生起し易い場所へ進入する際に、事前にトルク指令値の絞り込みを行うことで、粘着力の低下期間を短縮できることについて説明した。また、トルク指令値の絞り込みを行う際に、空転滑走制御における制御パラメータの一部を変更する制御を併用することで、トルク指令値の過度な絞り込みを抑制できることについて説明した。
【0080】
一方、レールの状況は、時間の経過とともに変化する。例えば、レール塗油器によって塗油された直後のレールは、空転滑走が生起し易い状態となっているが、時間の経過と共に空転滑走が生起しにくい状態となる。空転滑走が生起しにくい状態のときに空転滑走が生起し易い状態と同じパラメータで制御を行うと、必要以上にトルクを絞りこんでしまう。このため、空転滑走度合いに応じてトルクの絞り込み量を変更することがより好ましい実施の形態となる。この機能を実現するため、地上装置200は、受信部201と、記憶部202と、演算部203と、送信部204とを備える。
【0081】
次に、実施の形態4に係る地上装置200の動作について、図12及び図13の図面を参照して説明する。図13は、実施の形態4に係る地上装置200の動作説明に供するフローチャートである。なお、地上装置200と連携する列車制御システムの例は、図8に示す列車制御システム150とする。
【0082】
受信部201は、各列車の列車制御システム150から空転滑走情報及び地点情報を受信する(ステップS11)。空転滑走情報には、「空転滑走度合い」が含まれている。空転滑走度合いは、空転又は滑走の程度に関する情報である。地点情報は、空転又は滑走が生じた地点の情報である。
【0083】
記憶部202は、空転滑走情報及び地点情報を記憶する(ステップS12)。空転滑走情報を記憶する際、記憶部202は、空転滑走度合いと地点情報とを関連付け、且つ、これらの情報を列車ごと、即ち各列車に対応させて記憶する。また、空転滑走度合いは、場所の関数であるのと共に時間の関数でもある。例えば、レール塗油器によって塗油された直後のレールは空転滑走度合いが大きく、時間経過とともに滑走度合いは小さくなる。このため、記憶部202は、空転滑走度合いを時間の関数として記憶する。なお、空転滑走度合いは、走行している列車が空転又は滑走している割合から算出されたものでもよい。また、空転滑走度合いは、車庫において、車輪を点検した際の車輪の損傷度合いから算出されたものでもよい。
【0084】
演算部203は、各列車の空転滑走度合いに基づいて制御パラメータを決定する(ステップS13)。ここで言う制御パラメータは、実施の形態1で説明した制御パラメータである。送信部204は、各列車の列車制御システム150へ制御パラメータ及び地点情報を送信する(ステップS14)。制御パラメータは、地点情報に関連付けられている。各列車の列車制御システム150は、地上装置200から送信された制御パラメータ及び地点情報に基づいて自列車の空転滑走を制御する。
【0085】
以上説明したように、実施の形態4に係る地上装置は、空転滑走度合い及び地点情報に基づいて、空転滑走制御における地点情報ごとの制御パラメータを決定して各列車の列車制御システムに送信する。これにより、各列車の列車制御システムでは、適切な制御パラメータに基づいて空転滑走制御が行われる。このため、各列車は、適切な空転滑走制御を実施することができるので、空転滑走制御が発生してから解消するまでの時間を短縮することができる。
【0086】
また、実施の形態4に係る地上装置は、空転滑走度合いを時間の関数として記憶する。従って、地上装置は、空転滑走の生起し易さを考慮した制御パラメータを各列車の列車制御システムに送信することができる。これにより、列車においては、不必要なトルクの絞り込みが抑制されるので、列車の運行ダイヤへの影響を小さくすることが可能となる。
【0087】
実施の形態5.
実施の形態4では、空転滑走制御を行う列車制御システムと連携する地上装置について説明した。実施の形態5では、電動車の検査又は修理の計画である検修計画の策定に活用できる地上装置について説明する。
【0088】
図14は、実施の形態5に係る地上装置200Aの構成例を示すブロック図である。地上装置200Aは、受信部201と、記憶部202と、演算部203Aと、出力部205とを備える。
【0089】
実施の形態5に係る地上装置200の動作について、図14及び図15の図面を参照して説明する。図15は、実施の形態5に係る地上装置200Aの動作説明に供するフローチャートである。なお、地上装置200と連携する列車制御システムの例は、図8に示す列車制御システム150とする。
【0090】
受信部201は、各列車の列車制御システム150から空転滑走情報及び地点情報を受信する(ステップS21)。空転滑走情報には、空転滑走の回数である空転滑走回数と、空転又は滑走の程度に関する空転滑走度合いとが含まれている。地点情報は、空転又は滑走が生じた地点の情報である。なお、空転滑走度合いは、走行している列車が空転又は滑走している割合から算出されたものでもよい。また、空転滑走度合いは、車庫において、車輪を点検した際の車輪の損傷度合いから算出されたものでもよい。
【0091】
記憶部202は、空転滑走情報及び地点情報を記憶する(ステップS22)。空転滑走情報を記憶する際、記憶部202は、空転滑走回数及び空転滑走度合いと地点情報とを関連付け、且つ、これらを列車ごと、即ち各列車に対応させて記憶する。
【0092】
演算部203Aは、列車ごとに空転滑走履歴を管理し、空転滑走回数に基づいて、検修時期を決定する(ステップS23)。出力部205は、検修基地へ空転滑走履歴情報を出力する(ステップS24)。検修基地は、列車の検修作業を行う基地である。
【0093】
検修時期の決定について補足する。地上装置200Aは、ある一定期間の空転滑走回数をカウントして滑走履歴として管理する。例えば、空転滑走回数が閾値以下の回数であれば、電動車の車輪について、次回の定期検査項目から外すといった処置がとれる。また、空転滑走回数によって、次回の検査時期を決定することができる。例えば、空転滑走回数が5回であれば1か月後に点検を実施し、空転滑走回数が3回であれば2か月後に点検を実施するといった処置がとれる。
【0094】
以上説明したように、実施の形態5に係る地上装置は、空転滑走回数に基づいて、電動車の車輪の検修時期を決定して出力する。これにより、電動車の車輪についての検修計画の策定に資することができる。各列車は、地上装置を活用して策定された検修計画を用いて検修作業が行われるので、車輪の修繕回数及び交換回数を減らすことができる。これにより、検修作業の効率化、省人化、省力化を図ることが可能となる。
【0095】
以上の実施の形態に示した構成は、一例を示すものであり、別の公知の技術と組み合わせることも可能であるし、要旨を逸脱しない範囲で、構成の一部を省略、変更することも可能である。
【符号の説明】
【0096】
1 制御装置、2 空転滑走制御部、3 ゲート指令生成部、4 電力変換器、5,5A~5D 電動機、6,6A~6D 車輪、7 レール、8 空転滑走検知部、9 トルク指令値生成部、10,10~10 粘着状態推定器、11 トルク指令レベル設定器、12,15 選択スイッチ、13 一次遅れ系、14 トルク指令値絞込部、20 基準速度演算部、21 高位優先論理部、22 加速度演算部、23~23,24,28 減算器、25 基準加速度演算部、26 空転滑走検知信号生成部、27 論理和回路、29 再粘着制御状態判別器、40 レール塗油器、50 列車制御装置、52 列車情報管理装置、54 伝送線、60 路面状況の変化地点、100 電気車、101 指令車(Tc車)、102~102 電動車(M車)、103~103 付随車(T車)、150 列車制御システム、160 列車、200,200A 地上装置、201 受信部、202 記憶部、203,203A 演算部、204 送信部、205 出力部、500 プロセッサ、502 メモリ、503 処理回路、504 インタフェース。
図1
図2
図3
図4
図5
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図9
図10
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