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特許7313578正極材料、その製造方法及び使用、リチウムイオン電池の正極板及びリチウムイオン電池
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  • 特許-正極材料、その製造方法及び使用、リチウムイオン電池の正極板及びリチウムイオン電池 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-13
(45)【発行日】2023-07-24
(54)【発明の名称】正極材料、その製造方法及び使用、リチウムイオン電池の正極板及びリチウムイオン電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/525 20100101AFI20230714BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20230714BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20230714BHJP
【FI】
H01M4/525
H01M4/505
H01M4/36 D
H01M4/36 C
H01M4/36 E
【請求項の数】 20
(21)【出願番号】P 2022565895
(86)(22)【出願日】2021-08-16
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-04-18
(86)【国際出願番号】 CN2021112726
(87)【国際公開番号】W WO2022198891
(87)【国際公開日】2022-09-29
【審査請求日】2022-10-27
(31)【優先権主張番号】202110736089.8
(32)【優先日】2021-06-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】522152256
【氏名又は名称】北京当升材料科技股▲フン▼有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】▲張▼ 学全
(72)【発明者】
【氏名】李 文慧
(72)【発明者】
【氏名】▲陳▼ 彦彬
(72)【発明者】
【氏名】▲劉▼ ▲亞▼▲飛▼
【審査官】前田 寛之
(56)【参考文献】
【文献】特表2020-517079(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2021/0126242(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第110970602(CN,A)
【文献】特開2014-035859(JP,A)
【文献】特開2002-298847(JP,A)
【文献】特開2020-191302(JP,A)
【文献】特開平11-329415(JP,A)
【文献】特開2009-266712(JP,A)
【文献】特開2008-214186(JP,A)
【文献】国際公開第2014/041793(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00- 4/62
H01G11/00-11/86
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多結晶粒子Aと、単結晶粒子又は単結晶様粒子Bとを含み、
粒径D、D50及びD95が、式Iに示される関係を満たし、
式(1)に示される組成を有する、ことを特徴とする正極材料。
1.5≦K95=(D95-D)/D50≦2.5 式I
[Li 1+a (Ni Co Mn 1-x-y-z )N 2-w ] (1)
(式(1)において、0≦a≦0.3、0.83<x≦1、0≦y≦1、0≦z≦1、0≦k≦0.1、0≦w≦0.1であり、Mは、B、Na、K、Mg、Al、Ca、Ti、Fe、Zn、Sr、Y、Zr、Nb、Mo、Sn、Ba、Ta及びWから選択される少なくとも1種であり、
Nは、B、Mg、Al、Ti、V、Sr、Y、Zr、Nb、Mo及びWから選択される少なくとも1種であり、
JはF、Cl及びPのうちの少なくとも1種である。)
【請求項2】
1.5≦K95≦2である、請求項1に記載の正極材料。
【請求項3】
前記多結晶粒子Aの粒径D50は7~22μmであり、
記多結晶粒子Aの粒径D、D50及びD95は式IIに示される関係を満たす、請求項1又は2に記載の正極材料。
0<K95=(D95-D)/D50≦1 式I
【請求項4】
前記単結晶粒子又は単結晶様粒子Bの粒径D 50 は0.2~7μmであり、
前記単結晶粒子又は単結晶様粒子Bの粒径D 、D 50 及びD 95 は式IIIに示される関係を満たす、請求項1又は2に記載の正極材料。
0.2≦K 95=(D 95 -D )/D 50 ≦3 式III
【請求項5】
前記多結晶粒子Aの表面に被覆層Pが被覆されており、
結晶粒子Aの全重量に対して、前記多結晶粒子Aと前記被覆層Pとの質量比が、1:0~0.05である、請求項1~4のいずれか1項に記載の正極材料。
【請求項6】
前記被覆層Pは導電性グラファイト及び/又は導電性ポリマーによるものであり、
記導電性ポリマーはポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアセチレン、ポリパラフェニレンスルフィド、ポリ-3,4-エチレンジオキシチオフェン、及びポリフェニレンビニレンから選択される少なくとも1種である、請求項5に記載の正極材料。
【請求項7】
前記正極材料において、前記多結晶粒子Aと前記単結晶粒子又は単結晶様粒子Bとの質量比が0.01~9:1である、請求項1~6のいずれか1項に記載の正極材料。
【請求項8】
マイクロメカニカル試験機を用いた測定では、前記多結晶粒子Aの単一粒子の強度が50MPa以上であり、
前記多結晶粒子Aの破裂前の変形量が多結晶粒子AのD50×(5~25%)である、請求項1~7のいずれか1項に記載の正極材料。
【請求項9】
圧力20kNの条件下で、前記正極材料の粉体圧縮密度が3.5g/cm以上である、請求項1~8のいずれか1項に記載の正極材料。
【請求項10】
前記正極材料の比表面積をA1、4.5Tの圧力で押し割った後の比表面積をA2とすると、(A2-A1)/A1×100%≦40%である、請求項1~9のいずれか1項に記載の正極材料。
【請求項11】
遷移金属前駆体Nix1Coy1Mnz1(OH)、リチウム塩及び添加剤を混合して、第1焼結に供し、第1焼結材を得るステップ(1)と、
第1焼結材と導電性グラファイト及び/又は導電性ポリマーとを混合して、第2焼結に供し、多結晶粒子Aを得るステップ(2)と、
遷移金属前駆体Nix2Coy2Mnz2(OH)、リチウム塩及び添加剤を混合して、第3焼結に供し、単結晶粒子又は単結晶様粒子Bを得るステップ(3)と、
多結晶粒子Aと単結晶粒子又は単結晶様粒子Bとを混合して、前記正極材料を得るステップ(4)とを含み、
x1+y1+z1=1、0.5≦x1≦1、0≦y1≦0.5、0≦z1≦0.5、
x2+y2+z2=1、0.5≦x2≦1、0≦y2≦0.5、0≦z2≦0.5、-0.05≦x1-x2≦0.05である、ことを特徴とする請求項1~10のいずれか1項に記載の正極材料の製造方法。
【請求項12】
前記添加剤はリチウムの化合物、ホウ素の化合物、タングステンの化合物、ネオジムの化合物、アルミニウムの化合物、ジルコニウムの化合物、マグネシウムの化合物、及び塩化物から選択される少なくとも1種である、請求項11に記載の製造方法。
【請求項13】
ステップ(1)においては、前記遷移金属前駆体Nix1Coy1Mnz1(OH)、前記リチウム塩及び前記添加剤のモル比が1:0.99~1.1:0~1であり、
記第1焼結の条件は、焼結温度650~800℃、焼結時間15~30hを含、請求項11又は12に記載の製造方法。
【請求項14】
前記第1焼結は昇温段階と保温段階を含み、前記昇温段階の昇温時間t と保温段階の保温時間t との比が下式を満たす、請求項13に記載の製造方法。
0.5≦t /t ≦2.5 (3)
【請求項15】
ステップ(2)においては、前記第1焼結材と前記グラファイト及び/又は前記導電性ポリマーとの質量比が1:0~0.05であり、
記第2焼結の条件は、焼結温度100~400℃、焼結時間4~12hを含む、請求項1114のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項16】
ステップ(3)においては、前記遷移金属前駆体Nix2Coy2Mnz2(OH)、前記リチウム塩及び前記添加剤のモル比が1:0.99~1.1:0~1であり、
記第3焼結の条件は、焼結温度800~1000℃、焼結時間15~30hを含む、請求項1115のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項17】
前記多結晶粒子Aと前記単結晶粒子又は単結晶様粒子Bとの質量比が0.01~9:1である、請求項1116のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項18】
請求項1~10のいずれか1項に記載の正極材料のリチウムイオン電池への使用。
【請求項19】
請求項1~10のいずれか1項に記載の正極材料で製造される、ことを特徴とするリチウムイオン電池の正極板。
【請求項20】
請求項19に記載のリチウムイオン電池の正極板を備える、ことを特徴とするリチウムイオン電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[関連出願の相互参照]
本願は2021年06月30日に提出された中国出願202110736089.8の利益を主張しており、該出願の内容は引用によりここに組み込まれている。
【0002】
本発明は二次電池の技術分野に関し、具体的には、正極材料、その製造方法及び使用、リチウムイオン電池の正極板及びリチウムイオン電池に関する。
【背景技術】
【0003】
電気自動車産業の急速な発展に伴い、高エネルギー密度と長寿命のリチウムイオン電池の正極材料が注目を集めている。層状三元材料(NCM)は高い容量があり、将来性が期待できる。しかし、NCM中のニッケル含有量が高くなるにつれて、材料の安定性は徐々に低下していった。充電過程で発生した高活性Ni4+と電解質との反応はNiO様岩塩相を生成し、層状材料の構造を厳重に破壊し、正極構造の崩壊を招き、さらに遷移金属イオンの溶解、相転移や格子酸素の析出を誘発する。現在通常の多結晶NCMの「二次粒子」は通常、多くのナノメートルオーダーの「一次粒子」で構成されており、充放電過程で格子パラメータが変化するため、マイクロクラックが形成される。形成されたマイクロクラックは粒子内部の新鮮なインターフェースを露出させ、構造減衰をさらに加速させる。なお、ニッケルの含有量が多いほどクラックの破壊効果が顕著である。以上のように、NCM、特に高ニッケルNCMのサイクル寿命が低下する主な原因はマイクロクラックであり、クラックにより正極材料の熱安定性、構造安定性、サイクル安定性が同時に低下する。
【0004】
サイクル過程でマイクロクラックが生じるという高ニッケルNCM材料の重大な欠陥に対して、一般的な解決方法は材料のドーピングと被覆の2つのプロセスを改善することに集中している。しかし、この2つのプロセスは単独の多結晶粒子、特に粒度分布範囲が狭い多結晶材料に対しては改善作用が限られている。そのため、新規多結晶材料の開発及びそれに適したプロセスが必要である。
【0005】
CN103811744Aは、まず、リチウム源と前駆体を用いて凝集体材料Aを製造し、次いで、リチウム源と前駆体を用いて単結晶又は単結晶様材料Bを製造し、凝集体材料Aと単結晶又は単結晶様材料Bとを均一に混合して焼結し、凝集体材料Cを形成し、この材料Cの粉体の外部に被覆物を被覆して、リチウムイオン三元正極材料を得るリチウムイオン電池用三元正極材料の製造方法を開示している。粒度及び形態の異なる凝集体と単結晶又は単結晶様三元材料とを配合することにより、単結晶粒子は、凝集体の粒子間に効率よく充填し、配合材料を導電剤やバインダと十分に接触させるとともに、材料の空間利用率やかさ圧縮密度を向上させることができ、さらに体積エネルギー密度を向上させて材料の電気的特性を十分に発揮させることを容易にするとともに、材料の熱安定性を向上させ、電池の安全性を向上させることができる。しかし、このプロセスは、複雑で、コストが高く、実際の生産に不利である。
【0006】
CN109524642Aは、1)三元材料前駆体A、三元材料前駆体B及びリチウム源を混合して、初期混合物を得て、2)前記初期混合物を温度350~550℃の第1の焼結に供し、粉砕した後、750~1150℃の第2の焼結に供し、混合三元正極材料を得る混合三元正極材料の製造方法を開示している。最終的に、二次粒子凝集体と単結晶/単結晶様の形態とが共存する差分混合三元正極材料が得られ、これにより、材料の圧縮密度とサイクル特性が向上し、製造コストが低減される。よく知られているが、リチウム源を加えて混合した後の焼結は材料に不可欠であり、異なるNi含有量の前駆体を焼結して正極材料を形成する最適条件としては、必要な配合比、焼結温度、焼結時間が異なるが、この従来技術では、異なるNi含有量の2種類の前駆体を一括して焼結するので、異なるNi含有量の2種類の前駆体を焼結して形成した正極材料の特性を最適化することができない。
【0007】
CN110970602Aは、低ニッケル単結晶材料と高ニッケル多結晶材料とを混合して正極活物質とする正極活物質を開示しているが、最終的な材料は高ニッケル多結晶材料に比べて容量が大幅に低下し、高ニッケル材料の利点を確実に引き出すことが困難である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、マイクロクラックの存在により高ニッケル正極材料の安定性及び容量が低下するという従来技術の問題を解決するために、多結晶粒子Aと単結晶粒子又は単結晶様粒子Bとを含むことにより、正極材料のマイクロクラックの発生を顕著に抑制し、正極材料の粒子強度を向上させ、該正極材料に高い圧縮密度及び高い圧縮強度を付与し、該正極材料を含む電池が高い体積エネルギー密度及び長いサイクル寿命を有することを確保する正極材料、その製造方法及び使用、リチウムイオン正極材料極板、リチウムイオン電池を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成させるために、本発明の第1態様は、
多結晶粒子Aと、単結晶粒子又は単結晶様粒子Bとを含み、
粒径D、D50及びD95が式Iに示される関係を満たす、ことを特徴とする正極材料を提供する。
1.5≦K95=(D95-D)/D50≦2.5 式I
【0010】
本発明の第2態様は、
遷移金属前駆体Nix1Coy1Mnz1(OH)、リチウム塩及び任意の添加剤を混合して、第1焼結に供し、第1焼結材を得るステップ(1)と、
第1焼結材と任意の導電性グラファイト及び/又は導電性ポリマーとを混合して、第2焼結に供し、多結晶粒子Aを得るステップ(2)と、
遷移金属前駆体Nix2Coy2Mnz2(OH)、リチウム塩及び任意の添加剤を混合して、第3焼結に供し、単結晶粒子又は単結晶様粒子Bを得るステップ(3)と、
多結晶粒子Aと単結晶粒子又は単結晶様粒子Bとを混合して、前記正極材料を得るステップ(4)とを含み、
x1+y1+z1=1、0.5≦x1≦1、0≦y1≦0.5、0≦z1≦0.5、
x2+y2+z2=1、0.5≦x2≦1、0≦y2≦0.5、0≦z2≦0.5、-0.05≦x1-x2≦0.05である、ことを特徴とする上記正極材料の製造方法を提供する。
【0011】
本発明の第3態様は、上記正極材料のリチウムイオン電池への使用を提供する。
【0012】
本発明の第4態様は、上記正極材料で製造されることを特徴とするリチウムイオン電池の正極板を提供する。
【0013】
本発明の第5態様は、上記リチウムイオン電池の正極板を備えることを特徴とするリチウムイオン電池を提供する。
【発明の効果】
【0014】
上記技術案によれば、本発明による正極材料、その製造方法及び使用、リチウムイオン電池の正極板、リチウムイオン電池は以下の有益な効果を有する。
(1)本発明では、前記正極材料は、多結晶粒子Aと単結晶粒子又は単結晶様粒子Bとを含むことにより、正極材料のマイクロクラックの発生を顕著に抑制し、正極材料の粒子強度を向上させることができ、具体的には、多結晶粒子Aはマイクロクラックの発生を抑制し、単結晶粒子又は単結晶様粒子は粒子Aの割れを効果的に抑制し、その結果として、該正極材料に高い圧縮密度及び高い圧縮強度を付与し、該正極材料を含む電池が高い体積エネルギー密度及び長いサイクル寿命を有することを確保する。
(2)さらに、本発明では、前記正極材料は高粒子強度を有する多結晶粒子Aを含み、さらに、前記多結晶粒子Aは被覆層を含み、これにより、多結晶粒子Aは一定の弾性を有し、これにより、正極材料を用いた極板の圧延過程で押しつぶされた割合を低下させ、かつ集電体への押圧を減少させ、一方、高強度の正極粒子によって材料の充放電過程でのマイクロクラックの発生も抑えられる。
(3)さらに、本発明では、多結晶粒子Aと単結晶又は単結晶様粒子Bとを個別に製造することにより、2種の材料の特性をそれぞれ最適にし、また、多結晶粒子AとNi含有量が近い単結晶又は単結晶様粒子Bとをブレンドすることにより、高ニッケル多結晶粒子Aの高い充放電容量を維持しつつ、正極材料の安全性及びサイクル特性を顕著に向上させる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の実施例1に係る正極材料のSEM像である。
図2】本発明の実施例1に係る正極材料のC元素分布のmapping図である。
図3】本発明の実施例1に係る正極材料粒子のマイクロメカニカル試験機による破裂圧力-変形曲線である。
図4】実施例1で製造された正極材料と比較例1の試料のそれぞれを用いてソフトパック電池を製造した場合のサイクル曲線である。
図5】実施例1で製造された電池極板の圧延後の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本明細書で開示された範囲の端点と任意の値はこの正確な範囲又は値に制限されず、これらの範囲又は値はこれらの範囲又は値に近い値を含むものとして理解すべきである。数値範囲の場合、各範囲の端点値同士、各範囲の端点値と単独の点値と、及び単独の点値同士は互いに組み合わせられて1つ又は複数の新しい数値の範囲を構成してもよく、これらの数値の範囲は本明細書で具体的に開示されたものとみなすべきである。
【0017】
本発明の第1態様は、多結晶粒子Aと、単結晶粒子又は単結晶様粒子Bとを含み、
粒径D、D50及びD95が式Iに示される関係を満たす、ことを特徴とする正極材料を提供する。
1.5≦K95=(D95-D)/D50≦2.5 式I
【0018】
本発明では、前記正極材料は多結晶粒子Aと単結晶粒子又は単結晶様粒子Bとを含み、粒径D、D50及びD95が上記関係を満たすと、正極材料のマイクロクラックの発生を顕著に抑制し、正極材料の粒子強度を向上させることができ、具体的には、多結晶粒子Aはマイクロクラックの発生を抑制し、単結晶粒子又は単結晶様粒子は粒子Aの割れを効果的に抑制し、その結果として、該正極材料に高い圧縮密度及び高い圧縮強度を付与し、該正極材料を含む電池が高い体積エネルギー密度及び長いサイクル寿命を有することを確保する。
【0019】
本発明では、正極材料の粒径D、D50及びD95はレーザー粒度分析装置によって測定される。
【0020】
本発明によれば、1.5≦K95≦2である。
【0021】
本発明によれば、前記多結晶粒子Aの粒径D50は7~22μmである。
さらに、前記多結晶粒子Aの粒径D50は11~20μmである。
【0022】
本発明によれば、前記多結晶粒子Aの粒径D、D50及びD95は式IIに示される関係を満たす。
0<K95=(D95-D)/D50≦1 式II
【0023】
本発明では、多結晶粒子Aの粒径D、D50及びD95が上記関係を満たすと、正極材料の粒子は優れた一致性及び均一性を有し、正極材料を長期間使用する過程では、粒子の収縮及び膨張の度合いが制御可能であり、そして、材料の表面の結晶形構造がより安定的であり、長期間使用していてもサイクル特性が優れている。
【0024】
さらに、0.55<K95=(D95-D)/D50≦0.95である。
【0025】
本発明によれば、前記単結晶粒子又は単結晶様粒子Bの粒径D50は0.2~7μmである。
【0026】
さらに、前記単結晶粒子又は単結晶様粒子Bの粒径D50は2~5μmである。
【0027】
本発明によれば、前記単結晶粒子又は単結晶様粒子Bの粒径D、D50及びD95は式IIIに示される関係を満たす。
0.2≦K95=(D95-D)/D50≦3 式III
【0028】
さらに、1.5≦K95=(D95-D)/D50≦2.5である。
【0029】
本発明によれば、前記正極材料は式(1)に示される組成を有する。
[Li1+a(NiCoMn1-x-y-z)N2-w] (1)
式(1)において、0≦a≦0.3、0<x≦1、0≦y≦1、0≦z≦1、0≦k≦0.1、0≦w≦0.1であり、MはB、Na、K、Mg、Al、Ca、Ti、Fe、Zn、Sr、Y、Zr、Nb、Mo、Sn、Ba、Ta及びWから選択される少なくとも1種であり、
NはB、Mg、Al、Ti、V、Sr、Y、Zr、Nb、Mo、Wから選択される少なくとも1種であり、
JはF、Cl、Pのうちの少なくとも1種である。
【0030】
本発明によれば、前記多結晶粒子Aの表面に被覆層Pが被覆されている。
【0031】
本発明では、前記多結晶粒子Aの表面に被覆層Pが被覆されることにより、多結晶粒子Aは一定の弾性を有し、正極材料を用いて正極板を製造する過程で押しつぶされた割合を低下させ、かつ集電体への押圧を減少させ、一方、正極材料の充放電過程でのマイクロクラックの発生も抑えられる。
【0032】
本発明によれば、多結晶粒子Aの全重量に対して、前記多結晶粒子Aと前記被覆層との質量比が、1:0~0.05である。
【0033】
さらに、多結晶粒子Aの全重量に対して、前記多結晶粒子Aと前記被覆層との質量比が、1:0.001~0.02である。
【0034】
本発明によれば、前記被覆層Pは導電性グラファイト及び/又は導電性ポリマーによるものである。
【0035】
本発明によれば、前記導電性ポリマーはポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアセチレン、ポリパラフェニレンスルフィド、ポリ-3,4-エチレンジオキシチオフェン及びポリフェニレンビニレンから選択される少なくとも1種である。
【0036】
本発明では、前記多結晶粒子Aは式(2)に示される組成を有する。
[Li1+a1(Nix1Coy1Mnz1M’1-x1-y1-z1)N’k12-w1J’w1] (2)
式(2)において、0≦a1≦0.3、0<x1≦1、0≦y1≦1、0≦z1≦1、0≦k1≦0.1、0≦w1≦0.1であり、M’はB、Na、K、Mg、Al、Ca、Ti、Fe、Zn、Sr、Y、Zr、Nb、Mo、Sn、Ba、Ta及びWから選択される少なくとも1種であり、
N’はB、Mg、Al、Ti、V、Sr、Y、Zr、Nb、Mo、Wから選択される少なくとも1種であり、
J’はF、Cl、Pのうちの少なくとも1種である。
【0037】
本発明では、前記単結晶粒子又は単結晶様粒子Bは式(3)に示される組成を有する。
[Li1+a2(Nix2Coy2Mnz2M’’1-x2-y2-z2)N’’k22-w2J’’w2] (3)
式(3)において、0≦a2≦0.3、0<x2≦1、0≦y2≦1、0≦z2≦1、0≦k2≦0.1、0≦w1≦0.1であり、M’’はB、Na、K、Mg、Al、Ca、Ti、Fe、Zn、Sr、Y、Zr、Nb、Mo、Sn、Ba、Ta及びWから選択される少なくとも1種であり、
N’’はB、Mg、Al、Ti、V、Sr、Y、Zr、Nb、Mo及びWから選択される少なくとも1種であり、
J’’はF、Cl、Pのうちの少なくとも1種である。
【0038】
本発明によれば、前記正極材料において、前記多結晶粒子Aと前記単結晶粒子又は単結晶様粒子Bとの質量比が0.01~9:1である。
【0039】
さらに、前記多結晶粒子Aと前記単結晶粒子又は単結晶様粒子Bとの質量比が0.25~4:1である。
【0040】
本発明によれば、マイクロメカニカル試験機を用いた測定では、前記多結晶粒子Aの単一粒子の強度が50MPa以上であり、前記多結晶粒子Aの破裂前の変形量が多結晶粒子AのD50×(5~25%)である。
【0041】
本発明では、圧力を受けた条件下で、圧力の上昇に伴い、初期の多結晶粒子Aは微小な変形を起こし、最終的に完全に破裂し、図4に示すように、圧力が小さい場合、粒子の変形量は最初に緩やかに変化する傾向があり、このときの変化は多結晶粒子Aの強度を表し、強度が高いほど、緩やかに増大する変位直径が大きくなる。圧力の上昇に伴い、粒子は、割って、その変形量が急激に増加して線形変化を示し、このとき、初期の多結晶粒子Aの内部の結晶形構造との関係が大きな影響を与える。つまり、圧力を受けた条件下で、線形変化が起こるまでに、多結晶粒子の変位直径が大きく緩やかであるほど、破裂までの変形量が大きく、粒子の強度が高いことを示す。
【0042】
本発明では、マイクロメカニカル試験機を用いた測定では、前記多結晶粒子Aの単一粒子の強度が50~200MPaであり、前記多結晶粒子Aの破裂前の変形量は多結晶粒子AのD50×(10~25%)である。
【0043】
本発明によれば、圧力20kNの条件下で、前記正極材料粉体の圧縮密度が3.5g/cm以上である。
【0044】
さらに、圧力20kNの条件下で、前記正極材料粉体の圧縮密度が3.5~4.5g/cmである。
【0045】
本発明によれば、前記正極材料の比表面積をA1、4.5Tの圧力で押し割った後の前記正極材料の比表面積をA2とすると、
(A2-A1)/A1×100%≦40%である。
【0046】
さらに、(A2-A1)/A1×100%は5~30%である。
【0047】
本発明の第2態様は、
遷移金属前駆体Nix1Coy1Mnz1(OH)、リチウム塩及び任意の添加剤を混合して、第1焼結に供し、第1焼結材を得るステップ(1)と、
第1焼結材と任意の導電性グラファイト及び/又は導電性ポリマーとを混合して、第2焼結に供し、多結晶粒子Aを得るステップ(2)と、
遷移金属前駆体Nix2Coy2Mnz2(OH)、リチウム塩及び任意の添加剤を混合して、第3焼結に供し、単結晶粒子又は単結晶様粒子Bを得るステップ(3)と、
多結晶粒子Aと単結晶粒子又は単結晶様粒子Bとを混合して、前記正極材料を得るステップ(4)とを含み、
x1+y1+z1=1、0.5≦x1≦1、0≦y1≦0.5、0≦z1≦0.5、
x2+y2+z2=1、0.5≦x2≦1、0≦y2≦0.5、0≦z2≦0.5、-0.05≦x1-x2≦0.05である、ことを特徴とする上記正極材料の製造方法を提供する。
【0048】
本発明では、多結晶粒子Aと単結晶又は単結晶様粒子Bとを個別に製造することにより、2種の材料の特性をそれぞれ最適にし、また、多結晶粒子Aと単結晶又は単結晶様粒子Bとをブレンドすることにより、高ニッケル多結晶粒子Aの高い充放電容量を維持しつつ、正極材料の安全性及びサイクル特性を顕著に向上させる。
【0049】
本発明によれば、前記添加剤はリチウムの化合物、ホウ素の化合物、タングステンの化合物、ネオジムの化合物、アルミニウムの化合物、ジルコニウムの化合物、マグネシウムの化合物及び塩化物から選択される少なくとも1種である。
【0050】
本発明では、前記リチウムの化合物は、LiO、LiOH、LiCO、LiCl、LiF、LiPO及びLiBOから選択される少なくとも1種である。
【0051】
前記ホウ素の化合物はB、HBO、Na及びLiから選択される少なくとも1種である。
【0052】
前記タングステンの化合物は、WO、WO、NaWO、Li、及びLiWOから選択される少なくとも1種である。
【0053】
前記ネオジムの化合物は、Nb、NbO、Nb及びNbClから選択される少なくとも1種である。
【0054】
前記アルミニウムの化合物は、Al、Al(OH)及びAlOOHから選択される少なくとも1種である。
【0055】
前記ジルコニウムの化合物は、ZrO、Zr(OH)及びZrSiOから選ばれる少なくとも1種である。
【0056】
前記マグネシウムの化合物は、MgO、MgCl及びMg(OH)から選択される少なくとも1種である。
【0057】
前記塩化物は、NaCl、KCl及びBaClから選択される少なくとも1種である。
【0058】
本発明によれば、ステップ(1)においては、前記遷移金属前駆体Nix1Coy1Mnz1(OH)、前記リチウム塩及び前記添加剤のモル比が1:0.99~1.1:0~1である。
【0059】
本発明によれば、前記第1焼結の条件は、焼結温度650~850℃、焼結時間15~30hを含む。
【0060】
さらに、前記第1焼結の条件は、焼結温度680~800℃、焼結時間16~25hを含む。
【0061】
本発明によれば、ステップ(1)においては、前記焼結の昇温時間tと保温時間tとの比が下式を満たす。
0.5≦t/t≦2.5 (4)
【0062】
本発明では、焼結の昇温時間と保温時間との比が上記範囲を満たすと、材料の合成中の反応過程を効果的に制御し、一次粒子の表面をより均一で光滑にし、二次粒子をより緻密にすることができる。また、表面の残留アルカリを効果的に制御し、粒子の強度を顕著に向上させる。このため、長期間使用する場合、材料の割れの度合いを効果的に低減させ、材料のサイクル特性及び安全性を向上させる。
【0063】
さらに、0.6≦t/t≦2である。
【0064】
本発明によれば、前記第1焼結材と前記グラファイト及び/又は前記導電性ポリマーとの質量比が1:0~0.05である。
【0065】
さらに、前記第1焼結材と前記グラファイト及び/又は前記導電性ポリマーとの質量比が1:0.001~0.02である。
【0066】
本発明の1つの具体的な実施形態では、第1焼結材、導電性グラファイト及び導電性ポリマーを混合して、第2焼結に供し、多結晶粒子Aを得る。
【0067】
具体的には、前記第1焼結材、前記導電性グラファイト及び前記導電性ポリマーの質量比が1:0.001~0.01:0.001~0.01、好ましくは1:0.002~0.008:0.002~0.008である。
【0068】
本発明によれば、前記第2焼結の条件は、焼結温度100~500℃、焼結時間4~12hを含む。
【0069】
さらに、前記第2焼結の条件は、焼結温度200~400℃、焼結時間6~10hを含む。
【0070】
本発明によれば、ステップ(3)においては、前記遷移金属前駆体Nix2Coy2Mnz2(OH)、前記リチウム塩及び前記添加剤のモル比が1:0.99~1.1:0~1である。
【0071】
本発明によれば、前記第3焼結の条件は、焼結温度800~1200℃、焼結時間15~30hを含む。
【0072】
さらに、前記第3焼結の条件は、焼結温度850~1000℃、焼結時間15~25hを含む。
【0073】
本発明によれば、前記多結晶粒子Aと前記単結晶粒子又は単結晶様粒子Bとの質量比が0.01:9:1、好ましくは0.25~4:1である。
【0074】
本発明の第3態様は、上記正極材料のリチウムイオン電池への使用を提供する。
【0075】
本発明の第4態様は、上記正極材料で製造されることを特徴とするリチウムイオン電池の正極板を提供する。
【0076】
本発明では、本分野で一般的な方法によって前記リチウムイオン電池の正極板を製造し、具体的には、正極材料、導電剤及びバインダを90~98:0~8:0.5~8の質量比で有機溶媒、例えばNMPに分散させ、均一に撹拌した後、均質化処理を行い、得たスラリーをアルミニウム箔上に塗布して、乾燥、切断、ロールプレスをして、リチウムイオン電池用正極板を製造する。
【0077】
本発明では、前記リチウムイオン電池の正極板の圧縮密度が3.4~3.6g/cmの範囲であると、正極粒子によるアルミニウム箔への押圧に起因するアルミニウム箔の変形量が30%未満である。
【0078】
本発明では、アルミニウム箔の変形量はルーラーで測定される。
【0079】
本発明の第5態様は、上記リチウムイオン電池の正極板を備えることを特徴とするリチウムイオン電池を提供する。
【0080】
本発明では、本分野で一般的な方法によってリチウムイオン電池を製造してもよい。具体的には、リチウムイオン電池の正極板、負極板及びセパレータを捲回してケースに入れ、注液、封口をすると、リチウムイオン電池が得られる。
【0081】
以下、実施例によって本発明について詳細に説明する。以下の実施例では、
多結晶粒子A、単結晶粒子又は単結晶様粒子B、及び正極材料のD、D50及びD95は以下の方法で測定される。
【0082】
Mastersizer2000レーザー粒度分析装置を用いて測定を行う。ソフトウェアの「測定」における測定回数項目の「試料測定時間」及び「背景測定時間」を6s、測定サイクル項目のサイクル回数を3回、遅延時間を5sに変更して、クリックして測定において平均結果レコードを作成する。次に、「開始」をクリックして背景測定を自動的に行い、自動測定が完了した後、ピロリン酸ナトリウムを40ml加えた後、薬さじで少量の試料を加え、遮光度が目視で10~20%領域の1/2に達すると「開始」をクリックし、3回の結果及び平均値を記録した。
【0083】
正極板の圧縮密度は以下の方法で測定される。
【0084】
MCP-PD51粉体抵抗計を用いて測定を行う。きれいな乾燥アルミニウム箔を準備し、測定試料を4g秤量し、内側壁に材料が付着しないセット済みの金型に入れて、左右方向に軽く振って金型内の材料を平坦にし、測定ソフトウェアに試料の質量及びロット番号を入力する。材料について加圧測定を行い、加圧時間を15~20min程度に制御し、圧力が20KNに達すると加圧を停止し、30s保圧し、圧力が下がると、20KNとなるまで圧力を補充する。次に試料について測定を開始し、抵抗測定が完了すると厚さを記録し、最後に、圧縮密度を算出する。
【0085】
正極材料の比表面積は以下の方法で測定される。
【0086】
MCP-PD51粉体抵抗計を用いて測定を行う。きれいな乾燥アルミニウム箔を準備し、測定試料5gを秤量し、内側壁に材料が付着しないセット済みの金型に入れて、左右方向に軽く振って金型内の材料を平坦にし、測定ソフトウェアに試料の質量及びロット番号を入力する。金型を昇降装置に取り付け、0T(ton)(Ref)、1.5T、2.5T、3.5T及び4.5Tの圧力を印加して測定を行う。加圧時間を15~20min程度に制御し、圧力が目的の値に達すると加圧を停止し、30s保圧した後、押し割った粒子を取り出して、比表面を測定する。
【0087】
Tri-star 3020比表面積計を用いて測定を行い、試料3gを秤量し、試料管を脱気ステーションのポートの真空コネクタに取り付ける。加熱温度300℃、脱気時間120minとし、脱気終了後、試料管を冷却する。テスタのソフトウェアインターフェースに空試料管の質量、脱気後の試料及び試料管の質量を入力し、ソフトウェアで算出された比表面積データ(BET方法)を記録することで、正極材料試料の比表面積の測定を完了する。
【0088】
正極材料の粒子強度は以下の方法で測定される。
【0089】
MCT-210マイクロ圧縮試験機を用いて測定する。まず、MCT-210測定ソフトウェアを起動させ、滑らないように試料台をシートの中央位置にクランプし、試料台の高さを少なくとも対物レンズよりも下の3cmにし、ホストでLEDランプのスイッチをオンにし、ホストの右下にあるハンドホイールを回して、CCD画像表示ウィンドウに表示された試料粒子の画像が明確になるまで試料台の高さを調整し、start testingをクリックし、粒子径を測定して、この粒子圧縮前の画像を保存し、ハンドホイールを回して、粒子の頂点をレンズの焦点に移し、試料台を右へ押してプラテンの下方にし、圧縮試験を開始させ、圧縮終了後、試料を左へ押して対物レンズの下にし、圧縮後の画像が明確になるまでハンドホイールを回し、画像を保存する。
【0090】
正極材料の表面形態及び正極材料の表面の元素分布はSEMで測定される。
【0091】
リチウムイオン電池については、リチウムイオンの国家標準GB/T 18287-2000に準じて電池の電気化学特性及び安全性を測定する。
【0092】
実施例1
(1)多結晶粒子Aの製造
モル比換算で、遷移金属水酸化物前駆体Ni0.83Co0.06Mn0.11(OH):LiOH:LiF:ZrOのモル比が1:1.03:0.01:0.005となるように、上記の化合物を均一に混合した後、780℃で24h焼結し、第1焼結材を得て、ここで、昇温時間12h、保温時間12hとした。
(2)第1焼結材、人造グラファイト及び導電性ポリアニリンを1:0.005:0.005の質量比で高速ミキサーにより混合した後、350℃で10h焼結し、最終的には、表面に被覆層Pが被覆された、組成が(Li1.03(Ni0.83Co0.06Mn0.11Zr0.005)O0.01)0.01Pである多結晶粒子Aを得た。多結晶粒子Aの粒径D、D50及びD95はそれぞれ8.5μm、12.6μm、18.4μmであり、K95は0.78であり、マイクロメカニカル試験機を用いて測定したところ、平均粒子強度は98MPaであり、粒子破砕前の変形量は破裂前の粒子D50の19.8%である2.5μmであった。
(3)単結晶粒子又は単結晶様粒子B
モル比換算で、遷移金属水酸化物前駆体Ni0.83Co0.06Mn0.11(OH):LiOH:ZrOのモル比が1:1.01:0.005となるように、上記の化合物を均一に混合した後、870℃で24h焼結し、組成がLi1.01(Ni0.83Co0.06Mn0.11Zr0.005)Oである単結晶粒子又は単結晶様粒子Bを得て、ここで、単結晶粒子又は単結晶様粒子Bの粒径D、D50及びD95は、それぞれ2.6μm、5.6μm、11.3μm、K95は1.55であった。
(4)正極材料
多結晶粒子Aと単結晶粒子又は単結晶様粒子Bとを70:30の質量比でブレンドし、高速ミキサーにより混合し、組成が(Li1.024(Ni0.83Co0.06Mn0.11Zr0.005)O0.007)0.007Pである正極材料を得た。該正極材料の粒径D、D50及びD95は、それぞれ2.3μm、10.7μm、20.5μm、K95は1.70であった。
測定したところ、20kN圧力の条件下で、該正極材料粉体の圧縮密度は3.65g/cmに達し、正極材料の比表面積A1は0.56m/gであり、4.5Tで加圧したところ、該正極材料の比表面積A2は0.68m/gであり、(A2-A1)/A1×100%は21%であった。
実施例1の正極材料のSEM及びC元素分布のmapping図はそれぞれ図1及び図2に示され、図1から、正極材料は多結晶粒子と単結晶又は単結晶様粒子との両方で構成され、大粒子の表面に被覆物質が均一に分散していることが分かった。さらに、図2図1のC元素分布のmapping図であり、大粒子の表面に均一に分散している弾性被覆層を確認した。
実施例1の多結晶粒子Aでは、単一粒子についてマイクロメカニカル試験機により測定した破裂圧力-変形曲線は図3に示され、図3から、圧力の上昇に伴い、粒子の変位直径が緩やかに増大してから、圧力の更なる上昇に伴い、変位直径が急激に増大し、最終的に破裂を発生する。
【0093】
実施例2
(1)多結晶粒子A
モル比換算で、遷移金属水酸化物前駆体Ni0.83Co0.06Mn0.11(OH):LiOH:ZrOのモル比が1:1.04:0.005となるように、上記の化合物を均一に混合した後、700℃で15h焼結し、第1焼結材を得て、ここで、昇温時間7h、保温時間8hとした。
(2)第1焼結材、人造グラファイト及び導電性ポリアニリンを1:0.005:0.005の質量比で高速ミキサーにより混合した後、350℃の条件下で10h焼結し、最終的に、表面に被覆層Pが被覆された、組成が(Li1.04(Ni0.83Co0.06Mn0.11Zr0.005)O)0.01Pである多結晶粒子Aを得た。多結晶粒子Aの粒径D、D50及びD95ははそれぞれ11.4μm、16.7μm、24.5μm、K95は0.78であり、マイクロメカニカル試験機を用いて測定したところ、その平均粒子強度は95MPaであり、粒子の破砕前の変形量は破裂前の粒子D50の19.2%である3.2μmであった。
(3)単結晶粒子又は単結晶様粒子B
モル比換算で、遷移金属水酸化物前駆体Ni0.83Co0.06Mn0.11(OH):LiOHのモル比が1:1.02となるように、上記の化合物を均一に混合した後、870℃で24h焼結し、組成がLi1.02(Ni0.83Co0.06Mn0.11)Oである単結晶粒子又は単結晶様粒子Bを得て、ここで、単結晶粒子又は単結晶様粒子Bの粒径D、D50及びD95はそれぞれ1.8μm、3.7μm、7.3μm、K95は1.48であった。
(4)正極材料
多結晶粒子Aと単結晶粒子又は単結晶様粒子Bとを70:30の質量比でブレンドし、高速ミキサーにより混合し、組成が(Li1.034(Ni0.83Co0.06Mn0.11Zr0.0035)O)0.007Pである正極材料を得た。該正極材料の粒径D、D50及びD95はそれぞれ2.0μm、13.2μm、26.6μm、K95は1.86であった。
測定したところ、20kN圧力の条件下で、該正極材料粉体の圧縮密度は3.60g/cmに達し、正極材料の比表面積A1は0.61m/gであり、4.5Tで加圧したところ、該正極材料の比表面積A2は0.74m/gであり、(A2-A1)/A1×100%は21%であった。
【0094】
実施例3
(1)多結晶粒子A
モル比換算で、遷移金属水酸化物前駆体Ni0.83Co0.06Mn0.11(OH):LiOH:LiF:ZrOのモル比が1:1.03:0.01:0.005となるように、上記の化合物を均一に混合した後、780℃で24h焼結し、第1焼結材を得て、ここで、昇温時間12h、保温時間12hとした。
(2)第1焼結材と人造グラファイトとを1:0.01の質量比で高速ミキサーにより混合した後、350℃の条件下で10h焼結し、最終的に、表面に被覆層Pが被覆され、組成が(Li1.03(Ni0.83Co0.06Mn0.11Zr0.005)O0.01)0.01Pである多結晶粒子Aを得た。多結晶粒子Aの粒径D、D50及びD95はそれぞれ8.4μm、12.5μm、18.3μm、K95は0.79であり、マイクロメカニカル試験機を用いて測定したところ、その平均粒子強度は89MPaであり、粒子の破砕前の変形量は破裂前の粒子D50の21.6%である2.7μmであった。
(3)単結晶粒子又は単結晶様粒子Bを実施例1のステップ(3)と同様にして製造した。
(4)正極材料
多結晶粒子Aと単結晶粒子又は単結晶様粒子Bとを70:30の質量比でブレンドし、高速ミキサーにより混合し、組成が(Li1.024(Ni0.83Co0.06Mn0.11Zr0.005)O0.007)0.007Pである正極材料を得た。該正極材料の粒径D、D50及びD95はそれぞれ2.3μm、10.7μm、20.4μm、K95は1.69であった。
測定したところ、20kN圧力の条件下で、該正極材料粉体の圧縮密度は3.63g/cmに達し、正極材料の比表面積A1は0.58m/gであり、4.5Tで加圧したところ、該正極材料の比表面積A2は0.71m/gであり、(A2-A1)/A1×100%は22%であった。
【0095】
実施例4
(1)多結晶粒子A
モル比換算で、遷移金属水酸化物前駆体Ni0.83Co0.06Mn0.11(OH):LiOH:LiF:ZrOが1:1.03:0.01:0.005となるように、上記の化合物を均一に混合した後、780℃で24h焼結し、第1焼結材を得て、ここで、昇温時間18h、保温時間9hとした。
(2)実施例1のステップ(2)と同様であった。組成が(Li1.03(Ni0.83Co0.06Mn0.11Zr0.005)O0.01)0.01Pである多結晶粒子Aを得た。多結晶粒子Aの粒径D、D50及びD95はそれぞれ6.2μm、11.9μm、17.3μm、K95は0.93であり、マイクロメカニカル試験機を用いて測定したところ、その平均粒子強度は102MPaであり、粒子の破砕前の変形量は破裂前の粒子D50の16.8%である2μmであった。
(3)実施例1のステップ(3)と同様であった。
(4)正極材料
多結晶粒子Aと単結晶粒子又は単結晶様粒子Bとを80:20の質量比でブレンドし、高速ミキサーにより混合し、組成が(Li1.026(Ni0.83Co0.06Mn0.11Zr0.005)O0.008)0.008Pである正極材料を得た。該正極材料の粒径D、D50及びD95はそれぞれ2.6μm、11.4μm、21.2μm、K95は1.63であった。
測定したところ、20kN圧力の条件下で、該正極材料粉体の圧縮密度は3.70g/cmに達し、正極材料の比表面積A1は0.50m/gであり、4.5Tで加圧したところ、該正極材料の比表面積A2は0.58m/gであり、(A2-A1)/A1×100%は16%であった。
【0096】
実施例5
ステップ(2)を行わず、ステップ(1)で得られた第1焼結材は、組成がLi1.03(Ni0.83Co0.060Mn0.11Zr0.005)O0.01である多結晶粒子Aを得た以外、実施例1の方法と同様にして正極材料を製造した。多結晶粒子Aの粒径D、D50及びD95はそれぞれ9.0μm、13.1μm、19μm、K95は0.76であり、マイクロメカニカル試験機を用いて測定したところ、その平均粒子強度は82MPaであり、粒子の破砕前の変形量は破裂前の粒子D50の13.7%である1.8μmであった。
ステップ(3)、及びステップ(4)は、実施例1のステップ(3)、及びステップ(4)と同様に行われた。最終的に、組成が(Li1.024(Ni0.83Co0.06Mn0.11Zr0.005)O0.007)0.007Pである正極材料を得た。該正極材料の粒径D、D50及びD95はそれぞれ2.5μm、10.9μm、20.5μm、K95は1.65であった。
測定したところ、20kN圧力の条件下で、該正極材料粉体の圧縮密度は3.55g/cmに達し、正極材料の比表面積A1は0.54であり、4.5Tの圧力で加圧したところ、該正極材料の比表面積A2は0.71であり、(A2-A1)/A1×100%は30%であった。
【0097】
比較例1
ステップ(3)、及びステップ(4)を行わなかった以外、実施例1の方法と同様にして正極材料を製造した。多結晶粒子Aを正極材料とした。多結晶粒子Aの粒径D、D50及びD95はそれぞれ8.5μm、12.6μm、18.4μm、K95は0.78であり、マイクロメカニカル試験機を用いて測定したところ、その平均粒子強度は98MPaであり、粒子の破砕前の変形量は破裂前の粒子D50の19.8%である2.5μmであった。
測定したところ、20kN圧力の条件下で、該正極材料粉体の圧縮密度は3.2g/cmであり、正極材料の比表面積A1は0.42であり、4.5Tの圧力で加圧したところ、該正極材料の比表面積A2は0.68であり、(A2-A1)/A1×100%は62%であった。
【0098】
比較例2
(1)多結晶粒子A
モル比換算で、遷移金属水酸化物前駆体Ni0.83Co0.06Mn0.11(OH):LiOHのモル比が1:1.09となるように、上記の化合物を均一に混合した後、600℃で10h焼結し、第1焼結材を得て、ここで、昇温時間6h、保温時間4hとした。
(2)第1焼結材、人造グラファイト及び導電性ポリアニリンを1:0.05:0.05の質量比で高速ミキサーにより混合した後、200℃の条件下で6h焼結し、最終的に、表面に被覆層Pが被覆され、組成が(Li1.09Ni0.83Co0.06Mn0.11)0.1Pである多結晶粒子Aを得た。多結晶粒子Aの粒径D、D50及びD95はそれぞれ4.5μm、10.5μm、21.5μm、K95は1.6であり、マイクロメカニカル試験機を用いて測定したところ、100MPaであり、粒子の破砕前の変形量は、破裂前の粒子D50の18.1%である1.9μmであった。
(3)単結晶粒子又は単結晶様粒子B
モル比換算で、遷移金属水酸化物前駆体Ni0.83Co0.06Mn0.11(OH):LiOH:ZrOのモル比が1:1.02:0.01となるように、上記の化合物を均一に混合した後、1000℃で24h焼結し、組成がLi1.02(Ni0.83Co0.06Mn0.11Zr0.01)Oである単結晶粒子又は単結晶様粒子Bを得て、ここで、単結晶粒子又は単結晶様粒子Bの粒径D、D50及びD95はそれぞれ1.8μm、4.3μm、11.5μm、K95は2.25であった。
(4)ブレンド方法を実施例1と同様にして、高速ミキサーにより混合し、正極材料を得た。該正極材料の粒径D、D50及びD95はそれぞれ1.6μm、9μm、24.5μm、K95は2.54であった。
測定したところ、20kN圧力の条件下で、該正極材料粉体の圧縮密度は3.46g/cmに達し、正極材料の比表面積A1は0.33m/gであり、4.5Tで加圧したところ、該正極材料の比表面積A2は0.45m/gであり、(A2-A1)/A1×100%は36%であった。
【0099】
【表1】
【0100】
表1から分かるように、多結晶粒子Aは、粒子Bとブレンドすることにより、圧縮密度及び圧力4.5Tの条件下で押し割った後のBET増幅の両方が大幅に向上又は改善され、また、多結晶粒子Aの表面の弾性被覆層は単一粒子の強度を効果的に向上させ、長時間サイクルにおける粒子の割れの度合いを低減させることができ、比較例で製造された正極材料は、K95が本発明の特許範囲ではなく、その粒子が分散しており、かつ強度が低く、長期間サイクルの場合に適していなかった。
【0101】
測定例
(1)リチウムイオン電池の正極板
実施例及び比較例で製造された正極材料、カーボンブラック、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)を95:2.5:2.5の重量比で配合し、アルミニウム箔上に塗布し、乾燥、切断、ロールプレスを行い、リチウムイオン電池の正極板を製造した。
(2)ソフトパック電池
人造グラファイトを負極、PEをセパレータ、リチウムイオン電池の正極板を正極板とし、具体的には、負極として人造グラファイトを銅箔上に塗布し、乾燥、切断、ロールプレスを行って負極板とし、これらの間にPEセパレータを介在し、捲回してケースに入れ、注液、封口をし、捲回型ソフトパック電池を得て、ソフトパック電池の特性を表2に示す。
実施例1の正極材料を用いて製造された正極板の圧延後の断面図のSEMを図5に示し、図5から分かるように、単結晶又は単結晶様粒子の存在により、実施例1の正極材料は集電体への押圧を低減できる。
実施例1及び比較例1の正極材料を用いて製造された正極板を正極としたソフトパック電池のサイクル曲線を図4に示し、図4から分かるように、比較例1に比べて、実施例1の正極材料を用いて製造された正極板を備えたソフトパック電池のサイクル特性は明らかに向上した。
【0102】
【表2】
【0103】
表2から明らかなように、本発明の前記正極材料を用いて製造された正極板は、圧縮密度が大幅に向上し、材料の充放電中のマイクロクラックの発生を効果的に抑制し、サイクル寿命及びガス発生量も大幅に改善した。また、多結晶粒子Aの表面の弾性被覆層は、容量にほぼ悪影響を与えることなく、粒子の集電体への押圧を緩衝し、サイクル寿命を長くする。
【0104】
以上は本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はこれらに限定されるものではない。本発明の技術的構造の範囲内で本発明の技術案について各技術的特徴を任意の他の方式で組み合わせることを含め複数の簡単な変形を加えることができ、これらの簡単な変形や組み合わせも本発明の開示内容とみなされるべきであり、全て本発明の特許範囲に属する。
図1
図2
図3
図4
図5