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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-14
(45)【発行日】2023-07-25
(54)【発明の名称】熱電変換装置
(51)【国際特許分類】
   H02N 11/00 20060101AFI20230718BHJP
   H01M 6/36 20060101ALI20230718BHJP
   H10N 15/00 20230101ALI20230718BHJP
【FI】
H02N11/00 A
H01M6/36
H10N15/00
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019008750
(22)【出願日】2019-01-22
(65)【公開番号】P2020120474
(43)【公開日】2020-08-06
【審査請求日】2021-12-21
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成30年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)第2期事業「フィジカル空間デジタルデータ処理基盤/サブテーマ2:超低消費電力IoTデバイス・革新的センサ技術/常温発電IoT環境センサの研究開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(74)【代理人】
【識別番号】100095359
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100143834
【弁理士】
【氏名又は名称】楠 修二
(72)【発明者】
【氏名】ヴェン バン トアン
(72)【発明者】
【氏名】小野 崇人
【審査官】三澤 哲也
(56)【参考文献】
【文献】TOAN. N.V. , INOMOTO.N , TODA.M, ONO.T,Ion transport by gating voltage to nanopores produced via metal-assisted chemical etching method,Nanotechnology,vol.29, no.195301,日本,2018年03月16日,1-7ページ
【文献】VAN DER HYDEN. Frank H. J. , BONTHUIS. Douwe Jan, STEIN Derek ,MEYER Christine and DEKKER Cees,,Power Generation by pressure-Driven Transport of Ions in Nanofluidic Channel,NANO LETTERS,2007年01月24日,1022-1025ページ,図1-3
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02N 11/00
H10N 15/00
H01M 6/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
厚みを貫通して設けられたナノサイズの複数の貫通孔を有する膜体と、
内部に電解質溶液を収納しており、前記膜体を挟んで、前記複数の貫通孔で互いに連通するよう設けられた1対の電解槽と、
各電解槽に設けられた1対の電極と、
各電解槽に収納された前記電解質溶液に温度差を発生させるよう、少なくとも一方の電解槽を加熱または冷却可能に設けられた温度調整手段とを有し、
各電解槽に収納された前記電解質溶液に、前記温度調整手段で温度差を発生させたとき、各電極間に起電力が発生するよう構成されていることを
特徴とする熱電変換装置。
【請求項2】
前記膜体および前記電解質溶液は、前記複数の貫通孔の孔壁に沿って、電気二重層を形成可能に構成されていることを特徴とする請求項1記載の熱電変換装置。
【請求項3】
各電解槽に収納された前記電解質溶液に温度差がないとき、前記電気二重層により、前記電解質溶液中のイオンが前記複数の貫通孔を通過できないよう構成されていることを特徴とする請求項2記載の熱電変換装置。
【請求項4】
各電解槽に収納された前記電解質溶液に、前記温度調整手段で温度差を発生させた後、その温度差をなくすことにより、少なくともいずれか一方の電解槽に、+イオンまたは-イオンを蓄えて、蓄電可能に構成されていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の熱電変換装置。
【請求項5】
前記膜体は、ケイ素、酸化物、窒化物、金属または金属ガラスから成ることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の熱電変換装置。
【請求項6】
前記電解質溶液は、塩化カリウムまたは塩化ナトリウムを含むことを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の熱電変換装置。
【請求項7】
前記複数の貫通孔は、直径が1nm乃至100nmであることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載の熱電変換装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱電変換装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、工場等の排熱や地熱、太陽熱、化石燃料の燃焼熱、海水の温度勾配などを利用して電気エネルギーを得ることができる熱電変換装置が開発され、利用されている。熱電変換装置としては、例えば、熱電素子を利用したものや、水素吸蔵合金を利用したもの、反応ガスを利用したものなどがある(例えば、特許文献1または2参照)。
【0003】
なお、近年、ナノサイズの孔(以下、ナノチャンネルともいう)が、様々な用途に利用されている。ナノチャンネルは、孔の直径がデバイ長(Debye length)に近いとき、スケール効果が大きくなるため、ナノチャンネルの表面が電解質溶液に接すると、ナノチャンネルの孔壁に沿って電気二重層が形成される。その電気二重層の厚みはデバイ長に依存し、また、電解質溶液のイオン濃度が増加するとデバイ長が減少する。このような液相におけるナノチャンネルの振る舞いを利用して、分子ろ過やイオン輸送、発電装置などが開発されている(例えば、非特許文献1乃至3参照)。また、ナノチャンネルは、陽極酸化法やナノインプリント、イオンミリング、電子線リソグラフィ(EB lithography)、深掘りエッチング(Deep-RIE)、MacEtch(metal-assisted chemical etching)法などにより形成することができる(例えば、非特許文献2、4または5参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2004-63656号公報
【文献】特開2007-282449号公報
【非特許文献】
【0005】
【文献】Q. Yang, X. Lin, and B. Su, “Molecular filtration by ultrathin and highly porous silica nanochannel membranes: permeability and selectivity”, Anal. Chem., 2016, 88, p.10252-10258
【文献】N.V. Toan, N. Inomata, M. Toda, and T. Ono, “Ion transport by gating voltage to nanopores produced via metal-assisted chemical etching method”, Nanotechnology, 2018, 29, 195301
【文献】F. H. J. V. D. Heyden, D.J. Bonthuis, D. Stein, C. Meyer, and C. Dekker, “Power generation by pressure-driven transport of ions in nanofluidic channels”, Nano Lett., 2007, 4, p.1022-1025
【文献】W. Guan, R. Fan, and M.A. Reed, “Field-effect reconfigurable nanofluidic ion diodes”, Nature communication, 2011, 2, 506
【文献】益田秀樹、柳下崇、近藤敏彰、西尾和之、「陽極酸化プロセスによるアルミナナノホールアレーの作製と表面ナノ構造制御への応用」、J. Vac. Soc. Jpn.、2009年、Vol. 5、No. 4、p.207-211
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1および2に記載のような従来の熱電変換装置は、熱電素子や水素吸蔵合金、反応ガス等の材料の性能や特性等により、使用状態によっては、十分な変換効率が得られないことがあるという課題があった。また、優れた変換効率を有する熱電変換装置で、ナノチャンネルを利用したものは、未だ存在していない。
【0007】
本発明は、このような課題に着目してなされたもので、ナノサイズの貫通孔を利用して、比較的優れた変換効率を有する熱電変換装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明に係る熱電変換装置は、厚みを貫通して設けられたナノサイズの複数の貫通孔を有する膜体と、内部に電解質溶液を収納しており、前記膜体を挟んで、前記複数の貫通孔で互いに連通するよう設けられた1対の電解槽と、各電解槽に設けられた1対の電極と、各電解槽に収納された前記電解質溶液に温度差を発生させるよう、少なくとも一方の電解槽を加熱または冷却可能に設けられた温度調整手段とを有し、各電解槽に収納された前記電解質溶液に、前記温度調整手段で温度差を発生させたとき、各電極間に起電力が発生するよう構成されていることを特徴とする。
【0009】
本発明に係る熱電変換装置は、以下の原理により稼働するよう構成されている。すなわち、図1に示すように、内部に電解質溶液を収納した1対の電解槽が、ナノサイズの孔(ナノチャンネル)で互いに連通している系を考える。ここでは一例として、電解質溶液は、塩化カリウム(KCl)水溶液とし、ナノチャンネルは、アルミナ(Al)を貫通して形成された貫通孔とする。
【0010】
図1(a)に示すように、各電解槽の間に温度差がないときには、ナノチャンネルの孔壁に沿って、Kイオンが層状に並び、電気二重層が形成される。これにより、ナノチャンネル内の通路が狭くなり、イオンが通過しにくくなる。ナノチャンネルの孔径が所定の径の範囲であれば、形成された電気二重層により、KイオンもClイオンも通過できなくなる。
【0011】
次に、図1(b)に示すように、各電解槽の間に温度差を与えると、電気二重層が薄くなり、ナノチャンネル内の通路が広がる。図1(b)では、電気二重層の厚みが一定であるが、実際には、温度が高い方の電解槽側(HOT SIDE)の電気二重層の方が、温度が低い方の電解槽側(COLD SIDE)よりも薄くなる。これにより、主に熱浸透現象が発現し、図1(c)に示すように、温度が低い方の電解槽側(COLD SIDE)から温度が高い方の電解槽側(HOT SIDE)に向かって、Kイオンが移動する。その結果、各電解槽に設けられた1対の電極の間に、起電力が発生する。
【0012】
このように、本発明に係る熱電変換装置は、図1に示す原理により、ナノサイズの貫通孔を利用して、温度差を電気エネルギーに変換することができる。また、本発明に係る熱電変換装置は、比較的優れた変換効率を有している。本発明に係る熱電変換装置は、例えば、工場等の排熱や地熱、太陽熱、化石燃料の燃焼熱、海水の温度勾配などの熱や温度差を利用して、温度調整手段により1対の電解槽の間に温度差を与えることにより、各電極間に起電力を発生させて、電気エネルギーを得ることができる。
【0013】
本発明に係る熱電変換装置は、各電解槽に収納された前記電解質溶液に温度差がないとき、前記電気二重層により、前記電解質溶液中のイオンが前記複数の貫通孔を通過できないよう構成されていてもよい。この場合、各電解槽に温度差を与えてイオンを移動させた後、各電解槽の温度差をなくすことにより、各電解槽にそれぞれ+イオンまたは-イオンを蓄えることができ、キャパシタのような動作を行うことができる。また、本発明に係る熱電変換装置は、各電解槽に収納された前記電解質溶液に、前記温度調整手段で温度差を発生させた後、その温度差をなくすことにより、少なくともいずれか一方の電解槽に、+イオンまたは-イオンを蓄えて、蓄電可能に構成されていてもよい。この場合にも、キャパシタのような動作を行うことができる。
【0014】
本発明に係る熱電変換装置で、前記膜体および前記電解質溶液は、前記複数の貫通孔の孔壁に沿って、電気二重層を形成可能に構成されていることが好ましい。また、前記複数の貫通孔は、電気二重層によりイオンの流れを制御できるよう、直径が1nm乃至100nmであることが好ましい。また、複数の貫通孔は、膜体に高密度で設けられていることが好ましい。前記膜体は、ケイ素、酸化物、窒化物、金属または金属ガラスから成ることが好ましい。膜体が金属や金属ガラスから成る場合には、内部抵抗を抑制することができる。前記電解質溶液は、例えば、塩化カリウムまたは塩化ナトリウムなど、いかなる電解質を含んでいてもよい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、ナノサイズの貫通孔を利用して、比較的優れた変換効率を有する熱電変換装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明に係る熱電変換装置の稼働原理を示す(a)各電解槽の間に温度差がなく、電気二重層が形成された状態、(b)各電解槽の間に温度差を与え、電気二重層が薄くなった状態、(c)それによりKイオンが移動し、起電力が発生した状態を示す断面図である。
図2】本発明の実施の形態の熱電変換装置を示す正面図である。
図3図2に示す熱電変換装置の(a)膜体および支持体の断面、(b)膜体の表面、(c)膜体の断面、(d)膜体と支持体との境界付近の断面の顕微鏡写真である。
図4図2に示す熱電変換装置の、一方の電解槽を加熱した後、自然放熱したときの、各電解槽(Hot chamber、Cold chamber)の温度変化および出力電圧(Output voltage)の変化を示すグラフである。
図5図2に示す熱電変換装置の、各電解槽に温度差を与えたときの、負荷抵抗(Load resistance)と、出力電圧の絶対値(Absolute output voltage)および出力電力(Output power)との関係を示すグラフである。
図6図2に示す熱電変換装置の、各電解槽の温度差(Temperature difference)を変化させたときの、各電解槽の温度差と、出力電圧の絶対値および電力密度(Power density)との関係を示すグラフである。
図7図2に示す熱電変換装置の、各電解槽に温度差を与えたときの、電解質の濃度(Electrolyte concentration)と出力電圧の絶対値との関係を示すグラフである。
図8図2に示す熱電変換装置の、一方の電解槽を加熱した後、各電解槽の温度差をなくしたときの、出力電圧(Output voltage)の変化を示すグラフである。
図9図2に示す熱電変換装置の、図8で各電解槽の温度差がなくなった後の経過時間と電位差(Absolute output voltage)との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面に基づいて、本発明の実施の形態について説明する。
図2乃至図9は、本発明の実施の形態の熱電変換装置を示している。
図2に示すように、熱電変換装置10は、膜体11と支持体12と1対の電解槽13a、13bと1対の電極14a、14bと温度調整手段15とを有している。
【0018】
膜体11は、厚みを貫通して設けられたナノサイズの複数の貫通孔11aを有している。図2に示す具体的な一例では、膜体11は、陽極酸化された酸化アルミニウム(AAO;anodized aluminum oxide)製の膜から成り、厚みが約3μmであり、各貫通孔11aの直径は約10nmである。なお、膜体11は、酸化アルミニウム製のものに限らず、他の酸化物やケイ素、窒化物、金属または金属ガラスから成っていてもよい。
【0019】
支持体12は、シリコン(Si)基板12aと、そのシリコン基板12aの一方の表面に形成されたSiO膜12bとから成っている。支持体12は、SiO膜12bのシリコン基板12aとは反対側の表面に、膜体11が設けられている。支持体12は、シリコン基板12aの膜体11とは反対側の表面から膜体11まで貫通して、膜体11の複数の貫通孔11aに連通する連通孔12cを有している。図2に示す具体的な一例では、シリコン基板12aは、厚みが300μmであり、大きさが2×2cmのシリコンウエハから成っている。SiO膜12bは、厚みが300nmである。
【0020】
図2に示す膜体11および支持体12は、以下のようにして製造されている。すなわち、まず、シリコン基板12aの表面に、プラズマCVD法により、SiO膜12bを形成し、さらにその上に、スパッタリングにより、アルミニウム膜を成膜する。次に、そのアルミニウム膜に対し、非特許文献2に従って、陽極酸化法を用いて、複数の貫通孔11aを有する酸化アルミニウム(AAO)製の膜体11を形成する。次に、深堀り反応性イオンエッチング(deep RIE)により、シリコン基板12aおよびSiO膜12bをエッチングして連通孔12cを形成する。
【0021】
図3(a)~(d)に、実際に製造した膜体11および支持体12の断面等の顕微鏡写真を示す。図3(b)に示すように、膜体11の表面に、直径約10nmの複数の孔が高密度で存在していることが確認できる。また、図3(c)および(d)に示すように、膜体11中に、巾約10nmの複数の孔が、膜厚方向に沿って伸びていることが確認できる。図3から、膜体11に、直径約10nmの複数の貫通孔11aが高密度で形成されていることが確認できる。
【0022】
1対の電解槽13a、13bは、膜体11および支持体12を挟んで、複数の貫通孔11aおよび連通孔12cで互いに連通するよう設けられている。各電解槽13a、13bは、内部に電解質溶液13cを収納している。図2に示す具体的な一例では、各電解槽13a、13bは、それぞれ別々のテフロン(登録商標)製の板材に形成された穴から成っている。各電解槽13a、13bは、各板材を、穴の開口側を対向させた状態で、膜体11および支持体12を挟むようにして配置することにより、形成されている。また、電解質溶液13cは、塩化カリウム(KCl)溶液から成っている。なお、電解質溶液13cは、塩化カリウムに限らず、塩化ナトリウムなど、いかなる電解質を含んでいてもよい。
【0023】
1対の電極14a、14bは、各電解槽13a、13bに設けられている。図2に示す具体的な一例では、各電極14a、14bは銀(Ag)製であり、各電解槽13a、13b(板材の穴)の膜体11とは反対側に取り付けられている。温度調整手段15は、各電解槽13a、13bに収納された電解質溶液13cに温度差を発生させるよう、一方の電解槽13aを加熱可能に設けられている。図2に示す具体的な一例では、温度調整手段15は、ペルチェ素子を有し、そのペルチェ素子を一方の電解槽13aの外壁に接触させて、その電解槽13a中の電解質溶液13cを加熱するよう構成されている。
【0024】
本発明の実施の形態の熱電変換装置10は、図1に示す原理により稼働することができる。このことを調べるために、以下の実験を行った。
【実施例1】
【0025】
図2に示す熱電変換装置10を用いて、各電解槽13a、13bの間に温度差を与え、それにより得られる電気エネルギーを測定する実験を行った。実験では、図2に示すように、各電極14a、14bの間に負荷抵抗21およびデータロガー22を並列に接続し、各電極14a、14bの間の出力電圧の測定を行った。また、実験中、各電解槽13a、13bの温度を熱電対で測定した。
【0026】
まず、一方の電解槽13a中の電解質溶液13cをペルチェ素子で加熱し、その後、ペルチェ素子を取り外して加熱を停止し、自然放熱したときの、各電解槽13a、13bの温度変化および出力電圧(Output voltage)の変化を測定した。測定時の負荷抵抗21を47kΩ、電解質(KCl)の濃度を10-4Mとした。測定結果を、図4に示す。
【0027】
図4に示すように、加熱前には、電気二重層により、各貫通孔11aの通路が狭くなってイオンが通過しないため、出力電圧(Output voltage)は0mVになっている。加熱すると、電解槽13a(Hot chamber)と電解槽13b(Cold chamber)との温度差が大きくなるに従って、出力電圧の絶対値も大きくなっている。これは、温度差が大きくなるに従って、各貫通孔11aの通路が広がり、主に熱浸透現象により、電解槽13b(Cold chamber)から電解槽13a(Hot chamber)に向かってKイオンが移動し、各電極14a、14bの間に起電力が発生するためであると考えられる。なお、加熱中は、電解槽13a(Hot chamber)から電解槽13b(Cold chamber)への熱拡散により、電解槽13b(Cold chamber)の温度も徐々に上昇している。
【0028】
約15分(900秒)間加熱すると、電解槽13a(Hot chamber)の温度が一定となり、出力電圧の絶対値が最大値の23mVとなった。このとき、電解槽13a(Hot chamber)と電解槽13b(Cold chamber)との温度差は、約17℃である。なお、このときも電解槽13b(Cold chamber)の温度は徐々に上昇している。その後、加熱を停止すると、電解槽13a(Hot chamber)および電解槽13b(Cold chamber)の温度が低下して、それらの間の温度差が小さくなっていくに従って、出力電圧の絶対値も小さくなっていき、最終的には0mVになっている。これは、温度差が小さくなるに従って、各貫通孔11aの通路が狭くなっていき、熱浸透現象によるKイオンの移動量が減少するが、その間、負荷抵抗21による放電は続くためであると考えられる。
【0029】
次に、負荷抵抗21を様々に変えて同様の実験を行い、出力電圧を測定した。測定時の電解質(KCl)の濃度を10-4Mとした。各電解槽13a、13bの間の温度差が17℃のときの、負荷抵抗(Load resistance)21と出力電圧の絶対値(Absolute output voltage)との関係を、図5に示す。図5には、出力電力(Output power)[=(出力電圧)/負荷抵抗]も示している。図5に示すように、負荷抵抗21が47kΩのとき、最大電圧23mV、最大出力12.2nWが得られることが確認された。
【0030】
また、負荷抵抗21が47kΩのときの、各電解槽13a、13bの間の温度差(Temperature difference)と出力電圧の絶対値との関係を、図6に示す。図6には、電力密度(Power density)[=出力電力/膜体11の有効面積]も示している。図6に示すように、出力電圧および電力密度は、各電解槽13a、13bの間の温度差が大きくなるに従って、大きくなることが確認された。例えば、温度差が30℃のとき、出力電圧50mV、電力密度255μW/cmが得られている。
【0031】
次に、電解質(KCl)の濃度を様々に変えて同様の実験を行い、出力電圧を測定した。測定時の負荷抵抗21を47kΩとした。各電解槽13a、13bの間の温度差が17℃のときの、電解質の濃度(Electrolyte concentration)と出力電圧の絶対値との関係を、図7に示す。図7に示すように、電解質の濃度が高くなるに従って、出力電圧が小さくなることが確認された。これは、電解質の濃度が高くなるに従って電気二重層が薄くなり、熱浸透現象により移動したKイオンが逆流しやすくなるためであると考えられる。
【0032】
以上の結果から、熱電変換装置10は、ナノサイズの貫通孔11aを利用して、温度差を電気エネルギーに変換することができるといえる。このため、熱電変換装置10は、例えば、工場等の排熱や地熱、太陽熱、化石燃料の燃焼熱、海水の温度勾配などの熱や温度差を利用して、温度調整手段15により1対の電解槽13a、13bの間に温度差を与えることにより、各電極14a、14bの間に起電力を発生させて、電気エネルギーを得ることができる。
【0033】
熱電変換装置10は、各電解槽13a、13bに収納された電解質溶液13cに温度差がないとき、電気二重層により、電解質溶液13c中のイオンが複数の貫通孔11aを通過できないよう構成されていてもよい。この場合、各電解槽13a、13bに温度差を与えてイオンを移動させた後、各電解槽13a、13bの温度差をなくすことにより、各電解槽13a、13bにそれぞれ+イオンまたは-イオンを蓄えることができ、キャパシタのような動作を行うことができる。
このことを調べるために、以下の実験を行った。
【実施例2】
【0034】
図2に示す熱電変換装置10を用い、各電解槽13a、13bの間に温度差を与えた後、温度差をなくしたときの、各電極14a、14bの間の出力電圧(電位差)の測定を行った。実験では、約23分(1380秒)間加熱して、各電解槽13a、13bの間に、17℃の最大温度差を与えた後、各電解槽13a、13bを同じ温度にして温度差をなくした。なお、電解質(KCl)の濃度を10-4Mとし、出力には負荷抵抗21を取り付けず、開放とした。このときの出力電圧(Output voltage)の測定結果を、図8に示す。
【0035】
図8に示すように、加熱により、各電解槽13a、13bの間に約180mVの電位差が生じ、温度差がなくなった後、自然放電により、徐々に電位差(出力電圧の絶対値)が小さくなっていくことが確認された。温度差がなくなった後の経過時間と電位差(Absolute output voltage)との関係を、図9に示す。図9に示すように、温度差がなくなった当初は、時間の経過と共に、急激に電位差が小さくなっていくが、数時間経過後は、徐々に電位差の減少率が小さくなることが確認された。また、2日(48時間)経過後でも、60%以上の電位差が残っていることが確認された。以上の結果から、熱電変換装置10は、キャパシタのような動作を行うことができるといえる。
【符号の説明】
【0036】
10 熱電変換装置
11 膜体
11a 貫通孔
12 支持体
12a シリコン基板
12b SiO
12c 連通孔
13a、13b 電解槽
14a、14b 電極
15 温度調整手段

21 負荷抵抗
22 データロガー
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9