(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-14
(45)【発行日】2023-07-25
(54)【発明の名称】銅層用表面処理剤及び表面処理方法
(51)【国際特許分類】
C23G 1/10 20060101AFI20230718BHJP
C09K 3/00 20060101ALI20230718BHJP
H05K 3/18 20060101ALI20230718BHJP
【FI】
C23G1/10
C09K3/00 R
H05K3/18 J
(21)【出願番号】P 2019144886
(22)【出願日】2019-08-06
【審査請求日】2022-05-20
(31)【優先権主張番号】P 2018149979
(32)【優先日】2018-08-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】591021028
【氏名又は名称】奥野製薬工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】500400216
【氏名又は名称】住友電工プリントサーキット株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】瀬戸 寛生
(72)【発明者】
【氏名】橋爪 佳
(72)【発明者】
【氏名】村田 俊也
(72)【発明者】
【氏名】大須賀 隆太
(72)【発明者】
【氏名】粕谷 浩二
(72)【発明者】
【氏名】酒井 将一郎
(72)【発明者】
【氏名】新田 耕司
(72)【発明者】
【氏名】単 津海
(72)【発明者】
【氏名】山本 真
【審査官】池ノ谷 秀行
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-106354(JP,A)
【文献】特開2009-024220(JP,A)
【文献】特開2016-148116(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23G 1/00-5/06
C23C 18/00-18/54
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅層上のヨウ化物を除去するための表面処理剤であって、
(1)塩化物及び臭化物からなる群より選択される少なくとも1種、
(2)有機酸及び無機酸からなる群より選択される少なくとも1種の酸、及び
(3)界面活性剤
を含有
し、
前記酸の含有量は、10g/L以上であり、
前記塩化物は、塩化カリウム、塩化ナトリウム、塩化アンモニウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、塩化リチウム、トリクロロアセトアルデヒド、及び、二酸化塩素からなる群より選択される少なくとも1種を含み、
前記臭化物は、臭化カリウム、臭化ナトリウム、臭化アンモニウム、臭化カルシウム、臭化マグネシウム、及び、臭化リチウムからなる群より選択される少なくとも1種を含み、
前記有機酸は、モノカルボン酸、ジカルボン酸、及び、ヒドロキシカルボン酸からなる群より選択される少なくとも1種を含み、
前記無機酸は、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸、フッ化水素酸、及び、ホウ酸からなる群より選択される少なくとも1種を含む、
表面処理剤。
【請求項2】
前記塩化物及び臭化物からなる群より選択される少なくとも1種の含有量は、0.1~200g/Lである、請求項1に記載の表面処理剤。
【請求項3】
前記酸の含有量は、
10~200g/Lである、請求項1又は2に記載の表面処理剤。
【請求項4】
前記有機酸は、グリコール酸、乳酸、クエン酸及びリンゴ酸から選択される少なくとも1種である、請求項1~3のいずれかに記載の表面処理剤。
【請求項5】
前記無機酸は、硫酸、塩酸、硝酸及びリン酸から選択される少なくとも1種である、請求項1~4のいずれかに記載の表面処理剤。
【請求項6】
pHが0~7である、請求項1~5のいずれかに記載の表面処理剤。
【請求項7】
銅層上のヨウ化物を除去する銅層の表面処理方法であって、
表面上にヨウ化物を有する銅層が形成された基板を表面処理剤に浸漬する工程を有し、
前記表面処理剤は、
(1)塩化物及び臭化物からなる群より選択される少なくとも1種、
(2)有機酸及び無機酸からなる群より選択される少なくとも1種の酸、及び
(3)界面活性剤
を含有
し、
前記塩化物は、塩化カリウム、塩化ナトリウム、塩化アンモニウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、塩化リチウム、トリクロロアセトアルデヒド、及び、二酸化塩素からなる群より選択される少なくとも1種を含み、
前記臭化物は、臭化カリウム、臭化ナトリウム、臭化アンモニウム、臭化カルシウム、臭化マグネシウム、及び、臭化リチウムからなる群より選択される少なくとも1種を含み、
前記有機酸は、モノカルボン酸、ジカルボン酸、及び、ヒドロキシカルボン酸からなる群より選択される少なくとも1種を含み、
前記無機酸は、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸、フッ化水素酸、及び、ホウ酸からなる群より選択される少なくとも1種を含む、
表面処理方法。
【請求項8】
前記表面処理剤の温度は20~80℃である、請求項7に記載の表面処理方法。
【請求項9】
前記表面処理剤への浸漬時間は1~10分である、請求項7又は8に記載の表面処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銅層用表面処理剤及び表面処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電子部品の基板等は、樹脂基板上に銅層により形成された銅回路パターンが形成されており、その上に無電解ニッケルめっき、金めっき等が順次施されている。
【0003】
樹脂基板上に銅回路パターンを形成させる際には、樹脂基板の表面にパラジウム等の触媒を付与し、無電解により銅めっきを施す工程が必要となる。その後、各工程を経て形成された銅回路パターン上に無電解ニッケルめっき、金めっき等が施される。
【0004】
無電解ニッケルめっき、金めっき工程にて回路の短絡を抑制するためには、銅回路パターンを形成させた後で、パラジウム触媒除去剤を用いて樹脂基板上に付着したパラジウム触媒を除去する必要がある。このようなパラジウム触媒除去剤として、含窒素脂肪族有機化合物と含ヨウ素無機化合物を含有する水溶液からなる無電解メッキ用パラジウム触媒除去剤が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
このような無電解メッキ用パラジウム触媒除去剤は優れた表面処理剤であるが、銅回路パターン上に、無電解ニッケルめっき等をより十分に析出させることについては検討の余地がある。銅回路パターンを形成後、パラジウム触媒除去剤でパラジウム除去を行うと、銅回路パターン上にパラジウム除去剤中のヨウ素が付着し、銅回路パターンの表面にヨウ化物が形成されて、銅回路パターン上の無電解ニッケルめっき等の析出量が低下し、後工程での無電解ニッケルめっき等のめっきが部分的に形成されない、いわゆるスキップが発生するという問題がある。当該銅回路パターン上に十分なめっきを施すことができるようにするために、銅回路パターン上に付着したヨウ化物を十分に除去することができる表面処理剤及び表面処理方法の開発が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記した従来技術の問題点に鑑みてなされたものであり、銅層上に十分なめっきを施すことができるようにするために、銅層上に付着したヨウ化物を十分に除去することができる表面処理剤及び表面処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記した目的を達成すべく鋭意研究を重ねてきた。その結果、(1)塩化物及び臭化物からなる群より選択される少なくとも1種、(2)有機酸及び無機酸からなる群より選択される少なくとも1種の酸、及び(3)界面活性剤を含有する表面処理剤を用いて表面処理を行うことにより、上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
即ち、本発明は、下記の表面処理剤及び表面処理方法に関する。
1.銅層上のヨウ化物を除去するための表面処理剤であって、
(1)塩化物及び臭化物からなる群より選択される少なくとも1種、
(2)有機酸及び無機酸からなる群より選択される少なくとも1種の酸、及び
(3)界面活性剤
を含有する、表面処理剤。
2.前記塩化物及び臭化物からなる群より選択される少なくとも1種の含有量は、0.1~200g/Lである、項1に記載の表面処理剤。
3.前記酸の含有量は、0.1~200g/Lである、項1又は2に記載の表面処理剤。4.前記有機酸は、グリコール酸、乳酸、クエン酸及びリンゴ酸から選択される少なくとも1種である、項1~3のいずれかに記載の表面処理剤。
5.前記無機酸は、硫酸、塩酸、硝酸及びリン酸から選択される少なくとも1種である、項1~4のいずれかに記載の表面処理剤。
6.pHが0~7である、項1~5のいずれかに記載の表面処理剤。
7.銅層上のヨウ化物を除去する銅層の表面処理方法であって、
表面上にヨウ化物を有する銅層が形成された基板を表面処理剤に浸漬する工程を有し、 前記表面処理剤は、
(1)塩化物及び臭化物からなる群より選択される少なくとも1種、
(2)有機酸及び無機酸からなる群より選択される少なくとも1種の酸、及び
(3)界面活性剤
を含有する、表面処理方法。
8.前記表面処理剤の温度は20~80℃である、項7に記載の表面処理方法。
9.前記表面処理剤への浸漬時間は1~10分である、項7又は8に記載の表面処理方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明の表面処理剤によれば、銅層上に十分なめっきを施すことができるようにするために、銅層上に付着したヨウ化物を十分に除去することができる。
【0011】
本発明の表面処理方法によれば、表面上にヨウ化物を有する銅層が形成された基板を表面処理剤に浸漬することにより、銅層上に付着したヨウ化物を容易に除去することができる。
【0012】
本発明の表面処理剤によれば、表面上にヨウ化物を有する銅層が形成された基板を表面処理剤に浸漬することにより、銅層上に付着したヨウ化物を十分に除去することができる。銅層上に付着したヨウ化物は、銅層上のニッケルめっき等の形成を妨げる。本発明の表面処理剤によれば、当該ヨウ化物を十分に除去することができ、銅層上のニッケルめっき等のめっきの析出量が十分となる。
【0013】
また、本発明の表面処理方法によれば、表面上にヨウ化物を有する銅層が形成された基板を表面処理剤に浸漬することにより、銅層上に付着したヨウ化物を容易に除去することができ、銅層上のニッケルめっき等のめっきの析出量が十分となる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0015】
1.表面処理剤
本発明の銅層上のヨウ化物を除去するための表面処理剤(以下、単に「表面処理剤」とも示す。)は、(1)塩化物及び臭化物からなる群より選択される少なくとも1種、(2)有機酸及び無機酸からなる群より選択される少なくとも1種の酸、及び(3)界面活性剤を含有する。
【0016】
なお、本発明の表面処理剤により処理される銅層としては、銅又は銅合金により形成された層状の物品であれば限定されず、例えば、電子部品の樹脂基板上に形成された銅回路パターン等が挙げられる。
【0017】
(塩化物)
塩化物としては特に限定されず、塩化カリウム、塩化ナトリウム、塩化アンモニウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、塩化リチウム、トリクロロアセトアルデヒド、二酸化塩素等を用いることができる。これらの中でも、銅層上に付着したヨウ化物をより一層十分に除去することができる点で、塩化カリウム、塩化ナトリウム、塩化アンモニウムが好ましく、塩化カリウム、塩化ナトリウムがより好ましい。
【0018】
(臭化物)
臭化物としては特に限定されず、臭化カリウム、臭化ナトリウム、臭化アンモニウム、臭化カルシウム、臭化マグネシウム、臭化リチウム等を用いることができる。これらの中でも、銅層上に付着したヨウ化物をより一層十分に除去することができる点で、臭化カリウム、臭化ナトリウム、臭化アンモニウムが好ましく、臭化カリウム、臭化ナトリウムがより好ましい。
【0019】
上記塩化物及び臭化物からなる群より選択される少なくとも1種としては、臭化物を用いることが好ましい。臭化物を用いることで、銅層上に付着したヨウ化物をより一層十分に除去することができる。
【0020】
上記塩化物及び臭化物は、一種単独で又は二種以上を混合して用いることができる。
【0021】
表面処理剤中の塩化物及び臭化物からなる群より選択される少なくとも1種の含有量は特に限定されず、0.1~200g/Lが好ましく、1~50g/Lがより好ましく、5~25g/Lが特に好ましい。上記含有量の下限が上記範囲であることにより、銅層上に付着したヨウ化物をより一層十分に除去することができる。また、上記含有量の上限が上記範囲であることにより、より一層液安定性に優れる。
【0022】
(有機酸)
有機酸としては特に限定されず、酢酸、蟻酸等のモノカルボン酸;マロン酸、コハク酸、アジピン酸、マレイン酸、フマール酸等のジカルボン酸;グリコール酸、乳酸、リンゴ酸、クエン酸、グルコン酸などのヒドロキシカルボン酸等を用いることができる。これらの中でも、銅層上に付着したヨウ化物をより一層十分に除去することができる点で、ヒドロキシカルボン酸が好ましく、グリコール酸、乳酸、クエン酸、リンゴ酸がより好ましく、グリコール酸、乳酸が更に好ましい。
【0023】
(無機酸)
無機酸としては特に限定されず、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸、フッ化水素酸、ホウ酸等を用いることができる。これらの中でも、銅層上に付着したヨウ化物をより一層十分に除去することができる点で硫酸、塩酸、硝酸、リン酸が好ましく、硫酸、塩酸、リン酸がより好ましく、硫酸、塩酸が更に好ましい。
【0024】
上記有機酸及び無機酸は、一種単独で又は二種以上を混合して用いることができる。
【0025】
表面処理剤中の有機酸及び無機酸からなる群より選択される少なくとも1種の酸の含有量は特に限定されず、0.1~200g/Lが好ましく、10~50g/Lがより好ましい。酸の含有量の下限が上記範囲であることにより、銅層上に付着したヨウ化物をより一層十分に除去することができる。また、酸の含有量の上限が上記範囲であることにより、より一層液安定性に優れる。
【0026】
(界面活性剤)
界面活性剤としては特に限定されず、従来公知の界面活性剤を用いることができる。このような界面活性剤としては、ノニオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤、両性界面活性剤が挙げられる。
【0027】
ノニオン性界面活性剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックコポリマー、グリセリンエステルポリオキシエチレンエーテル、ソルビタンエステル、脂肪酸アルカノールアミド等が挙げられる。
【0028】
アニオン系界面活性剤としては、硫酸塩系界面活性剤、スルホン酸塩系界面活性剤、リン系界面活性剤等を用いることができる。
【0029】
硫酸塩系界面活性剤としては、芳香族硫酸塩系界面活性剤、脂肪族硫酸塩系界面活性剤等が挙げられる。
【0030】
上記芳香族硫酸塩系界面活性剤としては、例えばポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸塩が挙げられる。また、脂肪族硫酸塩系界面活性剤としては、例えばポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩が挙げられる。
【0031】
スルホン酸塩系界面活性剤としては、芳香族スルホン酸塩系界面活性剤等が挙げられる。
【0032】
リン系界面活性剤としては、リン酸エステル系界面活性剤、リン酸エステル塩系界面活性剤等を用いることができる。具体的には、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸エステル、ポリオキシエチレンアルキレン化フェニルエーテルリン酸エステル、アルキルリン酸エステル等とそれらの塩が挙げられる。
【0033】
両性界面活性剤としてはアルキルベタイン、脂肪酸アミドベタイン、アルキルアミンオキサイド等が挙げられる。
【0034】
上記界面活性剤としては、ノニオン系界面活性剤が好ましい。中でも、銅層上に付着したヨウ化物をより一層十分に除去することができる点で、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックコポリマーが好ましい。
【0035】
上記界面活性剤は、一種単独で又は二種以上を混合して用いることができる。
【0036】
表面処理剤中の界面活性剤の含有量は特に限定されず、0.01~50g/Lが好ましく、0.1~10g/Lがより好ましい。界面活性剤の含有量の下限が上記範囲であることにより、液安定性がより一層向上する。また、界面活性剤の含有量の上限が上記範囲であることにより、銅層上に付着したヨウ化物をより一層十分に除去することができる。
【0037】
(その他の成分)
本発明の表面処理剤は、更に、pH調整剤、防カビ剤、錯化剤等の添加剤を含んでいてもよい。
【0038】
pH調整剤としては特に限定されず、従来公知のpH調整剤を用いることができる。
【0039】
表面処理剤をアルカリ性側に調整するためのpH調整剤としては、例えば、アンモニア水、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カリウム水溶液等が挙げられる。なお、表面処理剤を酸性側に調整する場合は、上述の有機酸、無機酸により調製すればよい。
【0040】
上記pH調整剤は、一種単独で又は二種以上を混合して用いることができる。
【0041】
表面処理剤中のpH調整剤の濃度は特に限定されず、0~20g/Lが好ましく、0~10g/Lがより好ましく、0~5g/Lが更に好ましい。pH調整剤の濃度が上記範囲であることにより、銅層上に付着したヨウ化物をより一層十分に除去することができる。
【0042】
本発明の表面処理剤は、(1)塩化物及び臭化物からなる群より選択される少なくとも1種、(2)有機酸及び無機酸からなる群より選択される少なくとも1種の酸、及び
(3)界面活性剤を含有していればその他の成分は特に限定されないが、上述の各成分を含有する水溶液であることが好ましい。
【0043】
本発明の表面処理剤のpHは0~7が好ましく、1~5がより好ましい。表面処理剤のpHの下限が上記範囲であることにより、より一層液安定性に優れる。また、表面処理剤のpHの上限が上記範囲であることにより、銅層上に付着したヨウ化物をより一層十分に除去することができる。
【0044】
2.表面処理方法
本発明の表面処理方法は、銅層上のヨウ化物を除去する銅層の表面処理方法であって、 表面上にヨウ化物を有する銅層が形成された基板を表面処理剤に浸漬する工程を有し、前記表面処理剤は、
(1)塩化物及び臭化物からなる群より選択される少なくとも1種、
(2)有機酸及び無機酸からなる群より選択される少なくとも1種の酸、及び
(3)界面活性剤
を含有する表面処理方法である。
樹脂基板上にパラジウム触媒を付与する触媒付与工程、無電解銅めっき工程、及びパラジウム触媒除去工程に次いで、上記工程を行うことにより、銅層上に付着したヨウ化物を十分に除去することができ、後工程において銅層上にニッケルめっき等のめっきが部分的に形成されない、いわゆるスキップを十分に抑制することができる。
【0045】
上記工程は、表面上にヨウ化物を有する銅層が形成された基板を表面処理剤に浸漬する工程である。
【0046】
上記工程に用いる基板としては、上述の触媒付与工程、無電解銅めっき工程、及びパラジウム触媒除去工程を経た基板を用いることができる。
【0047】
上記工程に用いられる表面処理剤は、上記説明した本発明の表面処理剤を用いればよい。
【0048】
上記工程における表面処理剤の温度は、20~80℃が好ましく、30~60℃がより好ましい。表面処理剤の温度の下限が上記範囲であることにより、銅層上に付着したヨウ化物をより一層十分に除去することができる。また、表面処理剤の温度の上限が上記範囲であることにより、より一層液安定性に優れる。
【0049】
上記工程における表面処理剤への基板の浸漬時間は1~10分が好ましく、2~5分がより好ましい。浸漬時間の下限が上記範囲であることにより、銅層上に付着したヨウ化物をより一層十分に除去することができる。また、浸漬時間の上限が上記範囲であることにより、より一層液安定性に優れる。
【0050】
上記本発明の表面処理方法における上記工程に次いで、ソフトエッチング、プリディッピング、触媒付与、無電解ニッケルめっき、金めっき等の工程を施すことにより、基板上に回路パターンを形成することができる。以下に、上記工程に次いで、ソフトエッチング、プリディッピング、触媒付与、無電解ニッケルめっきの各工程の一例を示す。
【0051】
(1) 表面処理(脱脂)
表面上にヨウ化物を有する銅層が形成された基板を、表面処理剤中に、40℃で5分間浸漬。
(2) ソフトエッチング
過硫酸ナトリウム100g/L と98%硫酸10ml/Lとを含有する水溶液中に室温で1分間浸漬。
(3) プリディッピング
35%塩酸100ml/Lを含有する水溶液中、又は、98%硫酸10ml/Lを含有する水溶液中に、室温で0.5分間浸漬。
(4) 触媒付与
塩化パラジウム及び塩酸を含有する触媒付与液(商標名:ICPアクセラ、奥野製薬工業株式会社製)200ml/L水溶液中、又は、硫酸パラジウム及び硫酸を含有する触媒付与液(商標名:ICPアクセラKCR、奥野製薬工業株式会社製)40ml/L水溶液中に、室温で1分間浸漬。
(5) 無電解ニッケルめっき
無電解ニッケルめっき液(商標名:ICPニコロンFPF、ICPニコロンGM、ICPニコロンGM-SE、ICPニコロンSOF、ICPニコロンHFP等、いずれも奥野製薬工業株式会社製)中に85℃で20分間浸漬。
【実施例】
【0052】
以下に実施例及び比較例を示して本発明を具体的に説明する。但し、本発明は実施例に限定されない。
【0053】
下記組成の実施例及び比較例の表面処理剤を調製した。
【0054】
(実施例1)
62.5%硫酸 30g/L
ポリオキシエチレンアルキルエーテル 1g/L
臭化カリウム 10g/L
【0055】
(実施例2)
62.5%硫酸 30g/L
ポリオキシエチレンアルキルエーテル 1g/L
臭化ナトリウム 10g/L
【0056】
(実施例3)
62.5%硫酸 30g/L
ポリオキシエチレンアルキルエーテル 1g/L
塩化カリウム 20g/L
【0057】
(実施例4)
乳酸 50g/L
ポリオキシエチレンアルキルエーテル 1g/L
臭化カリウム 20g/L
【0058】
(実施例5)
乳酸 50g/L
ポリオキシエチレンアルキルエーテル 1g/L
塩化カリウム 20g/L
【0059】
(実施例6)
グリコール酸 50g/L
ポリオキシエチレンアルキルエーテル 1g/L
臭化カリウム 20g/L
【0060】
(実施例7)
グリコール酸 50g/L
ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックコポリマー 1g/L
臭化カリウム 20g/L
【0061】
(実施例8)
グリコール酸 50g/L
ポリオキシエチレンアルキルエーテル 1g/L
塩化カリウム 20g/L
【0062】
(比較例1)
62.5%硫酸 30g/L
ポリオキシエチレンアルキルエーテル 1g/L
【0063】
(比較例2)
乳酸 30g/L
ポリオキシエチレンアルキルエーテル 1g/L
【0064】
(比較例3)
62.5%硫酸 30g/L
ポリオキシエチレンアルキルエーテル 1g/L
フッ化カリウム 20g/L
【0065】
無電解めっき用パラジウム触媒除去剤の調製
エチレンジアミン0.3molとヨウ化カリウム0.05molを純水800mlに溶解させ、この溶液中に、酸化剤として過硫酸ナトリウム1g/lを加え、純水で1000mlとした。この水溶液を硫酸でpH10に調整することによって、褐色がかった無電解めっき用パラジウム触媒除去剤を調製した。
【0066】
触媒除去
オーバーレジストタイプの微小銅パッドを有するBGA(Ball Grid Array)基板を、上述のようにして調製した無電解めっき用パラジウム触媒除去剤に25℃、3分の条件で浸漬し、水洗後乾燥させた。
【0067】
無電解ニッケルめっき処理
下記(1)~(5)の工程の順に従って、上述のように触媒除去したBGA基板に、上記実施例及び比較例の表面処理剤を用いて表面処理し、無電解ニッケルめっき処理を行った。
【0068】
(1) 表面処理(脱脂)
上述のように触媒除去したBGA基板を、上記実施例及び比較例の各表面処理剤中に、40℃で5分間浸漬。
(2) ソフトエッチング
過硫酸ナトリウム100g/L と98%硫酸10ml/Lとを含有する水溶液中に室温で1分間浸漬。
(3) プリディッピング
35%塩酸100ml/Lを含有する水溶液中に室温で0.5分間浸漬。
(4) 触媒付与
塩化パラジウム及び塩酸を含有する触媒付与液(商標名:ICPアクセラ、奥野製薬工業株式会社製)200ml/L水溶液中に室温で1分間浸漬。
(5) 無電解ニッケルめっき
表1に示す無電解ニッケルめっき液中に85℃で20分間浸漬。なお、表1中の各表記は、下記の無電解ニッケルめっき液を用いたことを示している。
GM:ICPニコロンGM 奥野製薬工業株式会社製
GM-SE:ICPニコロンGM-SE 奥野製薬工業株式会社製
FPF:ICPニコロンFPF 奥野製薬工業株式会社製
SOF:ICPニコロンSOF 奥野製薬工業株式会社製
HFP:ICPニコロンHFP 奥野製薬工業株式会社製
【0069】
上記(1)~(5)の工程により無電解ニッケルめっき処理を行うことにより得られた各めっき皮膜を水洗し、乾燥した後、微小銅パッド部におけるめっきの析出状態を拡大鏡を用いて目視観察により確認した。正常にめっきが析出した微小パッド部は白色となるのに対して、無電解ニッケルめっきの全く析出していない未反応部は赤黒い色調となる。上記実施例及び比較例の表面処理剤(脱脂浴)を使用した場合の、未反応部分の微小銅パッドの面積の割合を表1に示す。
【0070】
【0071】
実施例1の表面処理剤、及び比較例1の表面処理剤により処理した後のBGA基板上の銅パッド部のヨウ素吸着量を表2に示す。また、上述の無電解めっき用パラジウム触媒除去剤により触媒除去された後の銅パッド部のヨウ素吸着量が、実施例及び比較例の表面処理剤を用いて表面処理されることにより、どの程度低減されるかを対比するために、上記(1)~(5)の工程を行う前の、上述の無電解めっき用パラジウム触媒除去剤により触媒除去を施したBGA基板上の銅パッド部のヨウ素吸着量を測定した。結果を表2に示す。
【0072】
なお、ヨウ素吸着量の測定は、BGA基板を燃焼し、発生ガスの捕集液をICP-MSを用いて分析することにより行った。
【0073】