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▶ シヤチハタ株式会社の特許一覧

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-14
(45)【発行日】2023-07-25
(54)【発明の名称】筆記板用消去性インキ組成物
(51)【国際特許分類】
   C09D 11/16 20140101AFI20230718BHJP
   B43K 8/02 20060101ALN20230718BHJP
【FI】
C09D11/16
B43K8/02
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2019177099
(22)【出願日】2019-09-27
(65)【公開番号】P2021054898
(43)【公開日】2021-04-08
【審査請求日】2022-06-01
(73)【特許権者】
【識別番号】390017891
【氏名又は名称】シヤチハタ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】千賀 祐介
【審査官】林 建二
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-124529(JP,A)
【文献】特開2014-189725(JP,A)
【文献】特開昭50-019526(JP,A)
【文献】特開昭60-179477(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 11/00-13/00
B43K 1/00-1/12
B43K 5/00-8/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水、酸化チタン、消去性付与剤、ポリアミド、脂肪酸アミドを含有する筆記板用消去性インキ組成物であって、前記消去性付与剤が脂肪酸アルキルエステル,ポリアルキレングリコール脂肪酸ジエステル,脂肪酸ポリアルキレングリコールモノエーテルエステル,ジカルボン酸ビス(ポリアルキレングリコールモノエーテル)エステル,ポリグリセリン脂肪酸エステル,シリコーンオイル,アルキルビニルエーテル,流動パラフィン,高級アルコール,脂肪酸カリウム,及び多価アルコール脂肪酸エステルからなる化合物群より選ばれ、前記ポリアミド、前記脂肪酸アミドの配合量はそれぞれ単独でインキ全量に対し0.05重量%~0.6重量%であることを特徴とする筆記板用消去性インキ組成物
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス板、合成樹脂板、塗装板等の筆記板に筆記するためのマーキングペンに用いるインキに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、インキ不浸透性の筆記板(例えばガラス板、合成樹脂板、塗装板等)に筆記し、軟質紙や乾布等の消去材での擦過により筆記線を消去可能なマーキングペン用のインキ組成物の開示がある。このような筆記板用のマーキングインキ組成物は、筆記線の視認性の観点から、筆記板面において筆記線が不透明であることが求められる。特許文献1では、筆記線を不透明化する為に酸化チタンを配合して隠蔽性を付与しているが、酸化チタンは比重が高い為、マーキングペンをペン芯上向きで経時保存した場合に、酸化チタンがペン芯内で分離し、筆記線の隠蔽性が低下する不具合が生じる。その為、特許文献1ではポリビニルブチラール等の樹脂を配合する事で酸化チタンの分散を安定化させ、前記課題を解決している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特公平08-32844号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1記載のインキ組成物では、樹脂を配合する事で酸化チタンの分散性は良好となるものの、筆記線の筆記板に対する密着性が強くなる為、筆記線を消去する際に不必要に強い力で消去材を擦りつける必要があり、消去性に問題があった。
【0005】
本発明は、酸化チタンの経時的なペン芯内分離による隠蔽性低下の防止と、筆記線を軽い擦過力で消去する事ができる容易消去性の両立を可能とする筆記板用消去性インキ組成物を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するために完成された発明は、水、酸化チタン、消去性付与剤、ポリアミド、脂肪酸アミドを含有する筆記板用消去性インキ組成物であって、前記消去性付与剤が脂肪酸アルキルエステル,ポリアルキレングリコール脂肪酸ジエステル,脂肪酸ポリアルキレングリコールモノエーテルエステル,ジカルボン酸ビス(ポリアルキレングリコールモノエーテル)エステル,ポリグリセリン脂肪酸エステル,シリコーンオイル,アルキルビニルエーテル,流動パラフィン,高級アルコール,脂肪酸カリウム,及び多価アルコール脂肪酸エステルからなる化合物群より選ばれ、前記ポリアミド、前記脂肪酸アミドの配合量はそれぞれ単独でインキ全量に対し0.05重量%~0.6重量%であることを特徴とする筆記板用消去性インキ組成物である。
【発明の効果】
【0007】
本発明は、水、酸化チタン、消去性付与剤、ポリアミド、脂肪酸アミドを含有する筆記板用消去性インキ組成物であって、前記消去性付与剤が脂肪酸アルキルエステル,ポリアルキレングリコール脂肪酸ジエステル,脂肪酸ポリアルキレングリコールモノエーテルエステル,ジカルボン酸ビス(ポリアルキレングリコールモノエーテル)エステル,ポリグリセリン脂肪酸エステル,シリコーンオイル,アルキルビニルエーテル,流動パラフィン,高級アルコール,脂肪酸カリウム,及び多価アルコール脂肪酸エステルからなる化合物群より選ばれ、前記ポリアミド、前記脂肪酸アミドの配合量はそれぞれ単独でインキ全量に対し0.05重量%~0.6重量%であることを特徴とする筆記板用消去性インキ組成物である為、酸化チタンの経時的なペン芯内分離による隠蔽性低下の防止と、筆記線を軽い擦過力で消去する事ができる容易消去性の両立を可能とする。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下に本発明を詳細に説明する。
本発明の主溶剤としては水を用いる。水道水、蒸留水、純水など何でもよいが、水道水が最も安価であるので主に使用され、インキ全量中5.0~90.0重量%、好ましくは10.0~70.0重量%の範囲で用いられる。また、水と有機溶媒との混合溶媒を用いる場合、有機溶剤としては、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、ベンジルアルコール等のアルコールや、グリセリン、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール等のジオール類またはトリオール類を用いることができる。その配合量はインキ全量に対し1.0重量%~20重量%であることが好ましく、1.0重量%~10重量%であることがより好ましい。
【0009】
本発明では、隠蔽性を高め、筆記線を鮮明に視認できるように酸化チタンを配合する。使用する酸化チタンは、平均粒子径が0.001μm以上であって、ルチル型、アナターゼ型のいずれも使用することができ、例えば、Bayertitan R-FD-1・R-KB-3・R-CK-20(以上、バイエル社製)、TIPAQUE R-630・R-615・R-830(以上、石原産業(株)社製)、Unitane OR-342(A.C.C.社製)、Ti-pure R-900・R-901(E.I.Dupont社製)等、公知の酸化チタンを用いることができる。
酸化チタンの配合量は、インキ全量に対し0.1重量%~80重量%、好ましくは5.0重量%~40重量%である。
【0010】
本発明で使用する消去性付与剤は、筆記線が板面に強固に密着するのを適度に妨げ、それにより、形成された筆記線は乾式消去材での軽い擦過により容易に板面から剥離され、消去材に付着して消去されるという作用を果たすものである。用いられる前記消去性付与剤は、脂肪酸アルキルエステル,ポリアルキレングリコール脂肪酸ジエステル,脂肪酸ポリアルキレングリコールモノエーテルエステル,ジカルボン酸ビス(ポリアルキレングリコールモノエーテル)エステル,ポリグリセリン脂肪酸エステル,シリコーンオイル,アルキルビニルエーテル,流動パラフィン,高級アルコール類,脂肪酸カリウム,及び多価アルコール脂肪酸エステルからなる化合物群より選ばれ、インキ全量に対し0.5重量%~15重量%、好ましくは1.0重量%~10重量%の範囲で、水性媒体中に乳化又は可溶化されて用いられる。
【0011】
本発明では、樹脂としてポリアミド及び脂肪酸アミドを用いる。ポリアミド、及び脂肪酸アミドは、経時的な酸化チタンのペン芯内分離による隠蔽性低下の防止をする事で、筆記板面における筆記線を鮮明化すると同時に、筆記線の筆記板に対する密着性が不必要に上がらない為、軽い擦過力で筆記線を消去する容易消去性を実現する事ができる。使用するポリアミド及び脂肪酸アミドとして、前記2種類の樹脂が予め混合された「ディスパロンAQH-810(楠本化成(株)社製)」が挙げられる。ディスパロンAQH-810以外にも市販されている単体としてのポリアミド、脂肪酸アミドをそれぞれ混合して配合しても問題ない。
ポリアミド、脂肪酸アミドの配合量は、それぞれ単独でインキ全量に対し0.05~0.6重量%、好ましくは0.1~0.5重量%である。
【0012】
本発明において酸化チタン以外に着色剤を添加する事ができる。着色剤としては顔料・染料の両方用いる事ができる。
顔料としては、特に制限されることなく従来公知の有機顔料及び無機顔料を単独又は混合して使用することができる。例えば、アゾ系、縮合アゾ系、フタロシアニン系、キナクリドン系、アンスラキノン系、ジオキサジン系、インジゴ・チオインジゴ系、ベリノン・ベリレン系、イソインドレノン系、アゾメチレンアゾ系、ジケトピロロピロール系などの有機顔料や、カーボンブラック、マイカ、パール顔料、酸化鉄・真鍮等金属顔料などの無機顔料を用いることができる。これらの顔料は通常、ニトロセルロース、エチルセルロース、テルペンフェノール、塩化ビニル/酢酸ビニルコポリマー、ロジンエステル、ポリビニルブチラール、ポリビニルアルコールなどの公知の樹脂などに練り込んで加工顔料としておくと、溶剤と混合する際に容易に分散するので便利である。
染料としては、モノアゾ系、ジスアゾ系、金属錯塩型モノアゾ系、アントラキノン系、フタロシアニン系、トリアリルメタン系など従来公知の油溶性染料を特に制限されることなく使用することができる。
上記染料及び顔料は単独或いは混合して任意に使用することができ、その配合量はインキ全量に対して1~30重量%が好ましい。
【0013】
本発明では、他の各種物質を添加することもできる。例えば、防腐剤として、1,2-ベンゾイソチアゾール-3-オン、フェノキシエタノール、安息香酸ナトリウム、1,2-ベンゾイソチアゾール-3-オンナトリウム塩、1,2-ベンゾイソチアゾール-3-オンアルキルアミン塩、ソルビン酸カリウム、デヒドロ酢酸ナトリウム、2-メトキシカルボニルアミノベンズイミダゾール-4‘-N-ドデシルベンゾールスルフォン酸、顔料沈降防止剤・にじみ防止剤として沈降性硫酸バリウム、クレー、親水性シリカ、疎水性シリカ、超微粒子状無水シリカ、ケイ酸アルミニウム、炭酸カルシウムなどの体質顔料や、顔料分散剤としてソルビタントリオレエート、ソルビタンモノステアレートなどや、ブチルヒドロキシアニソール、2,2’-メチレンビス(4-メチル-6-t-ブチルフェノール)、2,2’-メチレンビス(4-エチル-6-t-ブチルフェノール)、4,4’-チオビス(3-メチル-6-t-ブチルフェノール)、4,4’-ブチリデンビス(3-メチル-6-t-ブチルフェノール)、ビタミンC、ビタミンEなどを添加してもよい。
【0014】
本発明のインキは、上記物質を適量選択して、撹拌機にて常温以上50℃以下で約3時間混合分散して製造する。
【0015】
実施例及び比較例のインキ配合を表1に示す。
表中のポリアミド及び脂肪酸アミドは、前記2種類の樹脂が予め混合された「ディスパロンAQH-810(楠本化成(株)社製)」である。
実施例及び比較例について、以下の条件で試験を行った。
(1)隠蔽性試験:実施例及び比較例のインキを充填したマーキングペンを、ペン芯上向きの状態で、20℃×65%の環境下で14日間放置した後、ガラス板に筆記した筆記線の隠蔽性を評価した。
○:筆記線の上からガラス板の裏地が透けず、筆記線を鮮明に視認できる。
×:筆記線の上からガラス板の裏地が透けて見える。
(2)消去性試験:実施例及び比較例のインキを充填したマーキングペンでガラス板に筆記し、8時間経過後250g荷重のスポンジで擦った後の筆記線を評価した。
○:5往復以内に完全に筆記線が消えている。
×:5往復後に筆記線が一部残っている。
(3)インキ吐出し性試験:実施例及び比較例のインキを充填したマーキングペンでガラス板にペン芯上向き(60~70°)で6m手筆記した後の筆記線の濃度を評価した。
○:初期筆記線と筆記線濃度が同等。
×:初期筆記線より筆記線濃度が低い。
【0016】
表1の比較例1、2は、酸化チタン・消去性付与剤にポリビニルブチラール樹脂、エチルセルロース樹脂をそれぞれ組み合わせた配合である。実施例1~4は、比較例1、2で配合した樹脂をポリアミドと脂肪酸アミドの混合樹脂に置換えた配合である。比較例1、2は、経時後のペン芯に酸化チタンの分離が生じず、隠蔽性は良好であるが、消去性が著しく悪い。一方、実施例1~3は、比較例1、2と樹脂総配合量は同一であるが、隠蔽性は良好な状態を維持しつつ、消去性も優れている事がわかる。理由は不明だが、ポリアミド及び脂肪酸アミドと、消去性付与剤(一般的に、筆記線が板面に強固に密着するのを適度に防ぐ性質を有する物質。表1では流動パラフィンと脂肪酸アルキルエステル)を併用すると相乗効果が生じ、消去性が著しく向上するものと考えられる。これにより、酸化チタンの経時的なペン芯内分離による隠蔽性低下の防止と、筆記線を軽い擦過力で消去する事ができる容易消去性の両立が可能となる。
また、比較例3は、実施例1~4のポリアミドと脂肪酸アミドの配合量をそれぞれ0.7重量%まで増加させた配合である。この場合、インキ粘度が過剰になる為、ペン芯からのインキ吐出し性能が著しく悪くなる。以上の結果よりポリアミドと脂肪酸アミドの配合量はインキ全量に対してそれぞれ0.1~0.5重量%が好ましいと考えられる。
【0017】
以上、現時点において、もっとも、実践的であり、かつ好ましいと思われる実施形態に関連して本発明を説明したが、本発明は、本願明細書中に開示された実施形態に限定されるものではなく、請求の範囲および明細書全体から読み取れる発明の要旨あるいは思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴う筆記板用消去性インキ組成物もまた技術的範囲に包含されるものとして理解されなければならない。