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特許7313683ワクチンアジュバント及びマイクロニードル製剤
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-14
(45)【発行日】2023-07-25
(54)【発明の名称】ワクチンアジュバント及びマイクロニードル製剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 39/39 20060101AFI20230718BHJP
   A61K 39/00 20060101ALI20230718BHJP
   A61K 9/00 20060101ALI20230718BHJP
   A61K 47/36 20060101ALI20230718BHJP
   A61P 37/04 20060101ALI20230718BHJP
   A61M 37/00 20060101ALI20230718BHJP
   A61K 47/40 20060101ALI20230718BHJP
   A61K 47/38 20060101ALI20230718BHJP
   A61K 47/42 20170101ALI20230718BHJP
【FI】
A61K39/39
A61K39/00 G
A61K9/00
A61K47/36
A61P37/04
A61M37/00 530
A61K47/40
A61K47/38
A61K47/42
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2019532563
(86)(22)【出願日】2018-07-20
(86)【国際出願番号】 JP2018027247
(87)【国際公開番号】W WO2019021954
(87)【国際公開日】2019-01-31
【審査請求日】2021-06-29
(31)【優先権主張番号】P 2017142472
(32)【優先日】2017-07-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】502414389
【氏名又は名称】株式会社バイオセレンタック
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100122297
【弁理士】
【氏名又は名称】西下 正石
(72)【発明者】
【氏名】高田 寛治
【審査官】佐々木 大輔
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2009/066763(WO,A1)
【文献】特表2009-502261(JP,A)
【文献】特開2010-180228(JP,A)
【文献】特表2007-537783(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0098651(US,A1)
【文献】国際公開第2014/142135(WO,A1)
【文献】HAN, H. R. et al.,Effects of Adjuvants on the Immune Response of Staphylococcal Alpha Toxin and Capsular Polysaccharid,J. Vet. Med. Sci.,2000年,Vol. 62, No. 3,pp. 237-241
【文献】HILGERS, L. A. T. et al.,Immunomodulating Properties of Two Synthetic Adjuvants: Dependence upon Type of Antigen, Dose, and T,Cell. Immunol.,1984年,Vol. 86,pp. 393-401
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 39/00-39/44
A61K 9/00- 9/72
A61K 47/00-47/69
A61M 37/00
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基剤としてデキストラン硫酸を含む溶解性マイクロニードル製剤であって、
更にワクチン抗原を含み、
先端部と底部を結ぶ方向に積層された複数の層を有し、
先端部を有する層にワクチン抗原が含まれており、
先端部を有する層にデキストラン硫酸が含まれておらず、
先端部を有する層よりも底部の方向に位置する層に基剤としてデキストラン硫酸が含まれている溶解性マイクロニードル製剤。
【請求項2】
前記先端部を有する層よりも底部の方向に位置する層が先端部を有する層に隣接する層である、請求項1に記載の溶解性マイクロニードル製剤。
【請求項3】
前記先端部を有する層及び前記先端部を有する層よりも底部の方向に位置する層の2層から成る請求項2に記載の溶解性マイクロニードル製剤。
【請求項4】
基剤として曳糸性及び水溶性を有する高分子物質を含む請求項1~3のいずれか一項に記載の溶解性マイクロニードル製剤。
【請求項5】
前記デキストラン硫酸は、硫酸部分が酸の構造を有するもの又は塩の構造を有するものを含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の溶解性マイクロニードル製剤。
【請求項6】
前記デキストラン硫酸はワクチンアジュバントとして使用される請求項1~のいずれか一項に記載の溶解性マイクロニードル製剤。
【請求項7】
基剤としてデキストラン硫酸と水溶性及び曳糸性の高分子物質との混合物が使用される場合は、デキストラン硫酸は、基剤の50重量%以上になる量で含まれている請求項1~のいずれか一項に記載の溶解性マイクロニードル製剤。
【請求項8】
前記曳糸性及び水溶性を有する高分子物質が、コンドロイチン硫酸ナトリウム、デキストラン、ヒアルロン酸、シクロデキストリン、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロース、アルギン酸、アガロース、プルラン、グリコーゲン、血清アルブミン、血清α酸性糖タンパク質、コラーゲン、低分子コラーゲン及びゼラチンから成る群から選択される少なくとも1つの物質である請求項4~7のいずれか一項に記載の溶解性マイクロニードル製剤。
【請求項9】
前記曳糸性及び水溶性を有する高分子物質がヒアルロン酸又はコンドロイチン硫酸ナトリウムである請求項のいずれか一項に記載の溶解性マイクロニードル製剤。
【請求項10】
支持体の上に固定された請求項1~のいずれか一項に記載の溶解性マイクロニードル製剤。
【請求項11】
支持体と、支持体の上にアレイ状に構築された請求項1~のいずれか一項に記載の溶解性マイクロニードル製剤とを、有する、マイクロニードル・アレイ・チップ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は経皮ワクチン及びワクチンアジュバントに関する。
【背景技術】
【0002】
世界の主要なワクチン会社が、中空の金属製マイクロニードルを装填した皮内注射器を用いてインフルエンザワクチンの開発を進めている。しかし、例えば、注射時の背圧が高かったり、皮内へ注入できる薬液量に限界があるなど開発は決して順調に進んではいない。
【0003】
皮内注射器に代わる経皮ワクチンとしてマイクロニードル製剤がある。特許文献1には、ワクチン抗原表皮デリバリー用溶解性3層マイクロニードル製剤が記載されている。特許文献1の溶解性3層マイクロニードル製剤は、洩糸性及び水溶性を有する高分子物質を基剤に用いて、ワクチン抗原を基剤とともに練り込んで成形した、経皮ワクチンである。
【0004】
曳糸性とは、高分子物質を少量の水に溶解させた場合に糊状になり、長く糸状に伸びる性質をいう。高分子物質の曳糸性は、実際に高分子物質を少量の水と混合して濃厚液を作成し、これを引伸ばしてみることにより判別される。そのことにより、特許文献1のマイクロニードル製剤はポリマーが絡み合った内部構造を有し、溶解性でありながら強度が強く、皮膚への挿入製剤として使えることになる。
【0005】
溶解性マイクロニードル製剤は固形剤であるので、ワクチン抗原の長期安定性が良いため皮内注射液剤よりも優位性は高い。溶解性マイクロニードル製剤を使用した経皮ワクチンの性能に関し、免疫誘導性を強化することが望まれている。
【0006】
一般には、ワクチン抗原と組み合わせてワクチンアジュバントを使用することで、より強力に抗体価の誘導を行うことが可能である。しかしながら、従来から知られているワクチンアジュバントは不溶性、低溶解性、又は曳糸性が不十分である。
【0007】
ワクチンアジュバントとして水酸化アルミニウムなどの鉱酸塩、毒素、エマルジョン、サポニンなどの植物成分が知られているが、溶解性マイクロニードルに配合する場合には、溶解性マイクロニードル製剤の形状、強度及び溶解性に影響を及ぼしかねない。
【0008】
特許文献2には高分子多糖と脂肪酸のエステル等を含むワクチンアジュバントが記載されている。しかしながら、カルボン酸エステル以外の酸エステルのアジュバント効果に関し、特許文献2は何も記載していない。
【0009】
水不溶性、低溶解性、又は曳糸性が不十分な物質を溶解性マイクロニードルに含有させた場合、溶解性マイクロニードルの強度又は溶解性が悪影響を被る可能性がある。例えば、溶解性マイクロニードル製剤の強度が低下した場合は、皮膚への穿刺に耐えられなくなる可能性がある。また、溶解性マイクロニードル製剤の溶解性が低下した場合は、皮膚内に存在する少量の体液によりすみやかに溶解することができなくなる可能性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開2012-90767号公報
【文献】特開2001-39891号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は上記従来の問題を解決するものであり、その目的とするところは、新規のワクチンアジュバントを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
デキストラン硫酸は上記の洩糸性及び水溶性という2種の物理化学的性質を満たす高分子物質である。すなわち、デキストラン硫酸を少量の水で練って粘調液(ヒドロゲル)とすると強い洩糸性を示す。デキストラン硫酸は、曳糸性及び水溶性に加えて高い免疫学的な活性を示すことが見い出された。
【0013】
本発明は、デキストラン硫酸又はその誘導体を含むワクチンアジュバントを提供する。
【0014】
また、本発明は、上記ワクチンアジュバントを含む溶解性マイクロニードル製剤を提供する。
【0015】
上記溶解性マイクロニードル製剤は、更にワクチン抗原を含む。
【0016】
上記いずれかの溶解性マイクロニードル製剤は、先端部と底部を結ぶ方向に積層された複数の層を有する。
【0017】
上記いずれかの溶解性マイクロニードル製剤は、先端部を有する層にワクチン抗原が含まれている。
【0018】
上記いずれかの溶解性マイクロニードル製剤は、底部を有する層にはワクチン抗原が含まれていない。
【0019】
上記いずれかの溶解性マイクロニードル製剤は、ワクチン抗原が含まれている層とは別の層に上記ワクチンアジュバントが含まれている。
【0020】
上記いずれかの溶解性マイクロニードル製剤は、ワクチン抗原が含まれている層よりも底部の方向に位置する層に上記ワクチンアジュバントが含まれている。
【0021】
上記いずれかの溶解性マイクロニードル製剤は、基剤として曳糸性及び水溶性を有する高分子物質を含有する。
【0022】
また、本発明は、表面に形成された上記ワクチンアジュバントを含む被膜を有するマイクロニードル製剤を提供する。
【0023】
また、本発明は、上記ワクチンアジュバントを含有する経皮吸収製剤を提供する。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、新規なワクチンアジュバントが提供される。本発明のワクチンアジュバントを使用することで、強度及び溶解性が高く、免疫誘導性も高い溶解性マイクロニードル製剤が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】実施例4で作成した溶解性マイクロニードルの拡大写真である。
図2】比較例2で作成した溶解性マイクロニードルの拡大写真である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
デキストラン硫酸とは、デキストランの硫酸エステルをいう。デキストラン硫酸は、硫酸部分が酸の構造を有していてよく、塩の構造を有していてもよい。デキストラン硫酸は、その誘導体であってもよい。デキストラン硫酸又は誘導体の具体例としては、デキストラン硫酸ナトリウム、デキストラン硫酸カリウム、デキストラン硫酸エステルナトリウム イオウ18(局方品)などが挙げられる。
【0027】
デキストラン硫酸は市販されているものを使用することができる。ナカライテスク株式会社が試薬として販売している製品には、「デキストラン硫酸ナトリウム」(商品名)という商品がある。また、名糖産業株式会社が医薬品原薬、医療機器の原料や試薬用のデキストラン硫酸として販売している製品には、「デキストラン硫酸エステルナトリウム イオウ18」(商品名)、「デキストラン硫酸エステルナトリウム イオウ5」(商品名)、DSH(商品名)、DS 500(商品名)、及びDST-H(商品名)という商品がある。
【0028】
デキストラン硫酸の分子量は特に限定されない。デキストラン硫酸がマイクロニードル製剤の基剤として使用される場合は、デキストラン硫酸の分子量は、マイクロニードル製剤に要求される強度及び溶解性を考慮して適宜決定される。その場合、デキストラン硫酸の分子量は、重量平均分子量(Mw)として、例えば約1000~10万、好ましくは約2000~5万、より好ましくは約3000~1万である。
【0029】
名糖株式会社が販売している上記デキストラン硫酸の分子量は、デキストラン分子量と硫酸基置換度による計算値として、約4000~7000である。ナカライテスク株式会社が試薬として販売しているデキストラン硫酸ナトリウムの分子量は約5000~6000や約50万、約95万~200万のものがある。
【0030】
デキストラン硫酸は単独でワクチンアジュバントとして使用することができる。かかる場合、ワクチンアジュバントはデキストラン硫酸から成るものになる。デキストラン硫酸は、また、通常使用される添加剤及び溶媒等と組み合わせてワクチンアジュバントとして使用してもよい。
【0031】
デキストラン硫酸と組み合わせて使用される上記添加剤には、例えば、オレイン酸、スクワラン、スクワレン、流動パラフィン、合成直鎖アルカン系オイル、アルコール脂肪酸エステル油等の油性成分やポリグリセリンエステル系などの界面活性剤、リン酸アルミニウムゲル、水酸化アルミニウムゲル等を挙げることができる。
【0032】
デキストラン硫酸を含むワクチンアジュバントは、使用形態に応じて各種ワクチン製剤に、有効に機能する量で含有させる。ワクチン製剤の種類は特に限定されないが、例えば、皮内注射器用注射剤、及びマイクロニードル製剤、貼付剤及び塗布剤等の経皮吸収製剤が挙げられる。
【0033】
本発明のワクチン製剤は、上記本発明のワクチンアジュバントと所望の抗原を含有する。水性ワクチン製剤は、上記のような本発明のワクチンアジュバントに所望の抗原液を添加混合し、必要により乳化/分散させるか、あるいは所望の抗原を含有する水性ワクチンまたは油性ワクチンに上記のような本発明のワクチンアジュバントを添加混合し、必要により乳化/分散させることで調製することができる。所望の抗原としては、いずれの抗原でも用いることができる。
【0034】
水性ワクチン製剤中のデキストラン硫酸又はその誘導体の含有量は、剤形により異なるが、0.05~1.0w/v%が好ましく、より好ましくは、0.1~0.5w/v%である。また、ワクチン中の所望の抗原の含有量は、0.05~5.0w/v%が好ましく、より好ましくは0.1~1.0w/v%である。
【0035】
<溶解性マイクロニードル製剤>
本発明の溶解性マイクロニードル製剤は、例えば、鋳型を用いてマイクロニードルを形成し、次いで、形成されたマイクロニードルを支持体に固定することにより製造される。鋳型としては、マイクロニードルの形状及び配置に対応する穴が設けられた板状材料を用いる。板状材料の材質には、フッ素樹脂、シリコン樹脂、ABS樹脂等が用いられる。
【0036】
まず、マイクロニードルの原料である基剤、目的物質及び水等を混合して、原料混合物を調製する。原料混合物には、デキストラン硫酸及び必要に応じて添加剤等も含有させる。尚、油性の添加剤は、デキストラン硫酸と混合した場合にマイクロニードルの強度が脆くなるので、使用しないことが好ましい。
【0037】
本発明のある一形態においては、マイクロニードルの基剤としてデキストラン硫酸を使用する。マイクロニードルの強度、溶解性を調節する目的で、デキストラン硫酸と水溶性及び曳糸性の高分子物質とを混合して基剤に使用してもよい。
【0038】
基剤としてデキストラン硫酸と水溶性及び曳糸性の高分子物質との混合物を使用する場合は、デキストラン硫酸は、好ましくは、基剤の50重量%以上になる量で使用する。デキストラン硫酸の含有量が基剤の50重量%未満になると、溶解性マイクロニードル製剤の免疫誘導性が低下する可能性が生ずる。基剤中のデキストラン硫酸の含有量は、より好ましくは60~95重量%であり、更に好ましくは70~90重量%である。
【0039】
基剤として、デキストラン硫酸と共に使用する水溶性及び曳糸性の高分子物質としては、洩糸性を有する多糖類、タンパク質、ポリビニルアルコール、カルボキシビニルポリマー、及びポリアクリル酸ナトリウムからなる群より選ばれた少なくとも1つの物質が挙げられる。なお、これらの高分子物質については、1種類だけを用いてもよいし、複数種を組み合わせて用いてもよい。
【0040】
好ましくは、前記洩糸性の多糖類は、コンドロイチン硫酸ナトリウム、デキストラン、ヒアルロン酸、シクロデキストリン、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロース、アルギン酸、アガロース、プルラン、及びグリコーゲンおよびそれらの誘導体より選ばれた少なくとも1つの物質である。
【0041】
好ましくは、前記洩糸性のタンパク質は、血清アルブミン、血清α酸性糖タンパク質、コラーゲン、低分子コラーゲン及びゼラチンおよびそれらの誘導体より選ばれた少なくとも1つの物質である。
【0042】
特に好ましい水溶性かつ曳糸性の高分子物質としては、コンドロイチン硫酸ナトリウム、デキストラン及びヒアルロン酸等が挙げられる。
【0043】
溶解性マイクロニードル製剤の目的物質としては、ワクチン抗原を使用する。ワクチン抗原の具体例としては、ジフテリアワクチン抗原、破傷風ワクチン抗原、百日咳ワクチン抗原、肝炎ワクチン抗原、肺炎球菌ワクチン抗原、インフルエンザワクチン抗原、子宮頸がんワクチン抗原などすでに販売されている抗原以外に、HIVワクチン抗原,結核ワクチン抗原、マラリアワクチン抗原、高血圧ワクチン抗原、糖尿病ワクチン抗原、アルツハイマー病ワクチン抗原、禁煙ワクチン抗原、肥満ワクチン抗原、避妊ワクチン抗原等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0044】
マイクロニードル製剤中の目的物質、即ち抗原の含有量は、抗原の種類により異なるが、単一の層を形成する原料組成物の固形分を基準にして、50重量%以下、好ましくは0.1~40重量%、より好ましくは1~30重量%である。抗原の含有量が50重量%を超えると、マイクロニードル製剤の強度が低下する可能性がある。
【0045】
次いで、原料混合物を鋳型に載せ、要すれば、スキジー等の塗布用具又は塗布装置を用いて塗布圧をかけて、これを鋳型に形成された穴の中に充填する。充填を確実に行うために、遠心分離機等を用いて鋳型に遠心力を印加してもよい。
【0046】
原料混合物が乾燥する前に、原料混合物に接触するように鋳型の上に支持体を重ねる。支持体は多孔性であり、原料混合物と接触してその成分がアンカー効果で支持体内部の細孔へ侵入することにより強固に接合するとともに原料混合物に含まれる水を吸収し、放出することができる。
【0047】
支持体はマイクロニードルを強固に固定することが可能な材料で構成される。支持体は非水溶性である。支持体は硬質であり、室温環境下で実質的に変形しない。
【0048】
好ましい支持体は、非水溶性の錠剤用賦形剤から成る成形体である。生産性に優れ、滅菌などの医薬品製造プロセスに適するからである。錠剤用賦形剤は複数の成分を含有する組成物であってもよい。好ましい錠剤用賦形剤としては、酢酸セルロース、結晶セルロース、セルロース誘導体、キチン及びキチン誘導体などが挙げられる。
【0049】
錠剤用賦形剤から成る成形体は錠剤と同様にして製造すればよい。例えば、錠剤用賦形剤を打錠機の臼に入れ、杵を用いて適当な打錠圧で打錠する。支持体の寸法は、臼の直径、錠剤用賦形剤の充填量及び打錠圧を増減することにより、適宜調節される。
【0050】
次いで、穴に充填された原料混合物を乾燥させる。乾燥は、目的物質の変質等を防止するために、50℃以下、好ましくは室温以下の温度で行われる。その後、支持体を鋳型から剥がすことにより、支持体上に本発明の溶解性マイクロニードル製剤が多数植設された、マイクロニードル・アレイ・チップが得られる。
【0051】
上記原料混合物として、成分が異なるものを複数種類準備し、鋳型に充填する際には、それらを順番に充填してもよい。そうすることで、先端部と底部を結ぶ方向に積層された、成分が異なる複数の層を有する溶解性マイクロニードル製剤が得られる。その場合は、積層された層の少なくとも一つの層に、基剤としてデキストラン硫酸が含まれていればよい。また、積層された層の少なくとも一つの層に、目的物質としてワクチン抗原が含まれていることが好ましい。
【0052】
複数種類の原料混合物を鋳型に充填する場合、基剤としてデキストラン硫酸を含む原料混合物は、その前又は後に充填されるこれを含まない原料混合物と混ざりにくく、結果として、2つの層の間に明確な境界面を形成することが明らかになった。つまり、基剤として使用されるデキストラン硫酸は、その前又は後に充填されるこれを含まない層の成分と混合し難く、相互に分離されることになる。
【0053】
複数の層を有する溶解性マイクロニードル製剤のある好ましい一形態においては、先端部を有する層にワクチン抗原を含有させる。そうすることで、真皮層に存在するDendritic細胞にワクチン抗原が送達されやすくなる。ワクチンアジュバントは、先端部を有する層に含有させてよく、又は、先端部を有する層よりも底部の方向に位置する層に含有させてもよい。ワクチンアジュバントを、先端部を有する層よりも底部の方向に位置する層に含有させた場合、ワクチンアジュバントは、表皮層に存在するLangerhans細胞に送達されやすくなる。
【0054】
溶解性マイクロニードル製剤は、30~1000μm、好ましくは150~500μm、より好ましくは200~350μmの底部直径、及び50~1500μm、好ましくは100~750μm、より好ましくは200~600μmの挿入方向長さを有する。溶解性マイクロニードル製剤の寸法がこの範囲外であると、強度が不足したり、刺入性が低下したりする。より具体的には、溶解性マイクロニードル製剤は挿入方向長さ約500μm、底部直径約300μmの円錐状であってよい。
【0055】
得られた溶解性マイクロニードル製剤はヒト又は動物の体内にワクチン抗原及びワクチンアジュバントを投与するために使用される。投与方法は、まず、溶解性マイクロニードル製剤の先端部を皮膚に向け、その支持体を皮膚に対して指で押すことで、マイクロニードルを皮膚から体内へ刺入させる。指で押す代わりに、衝撃力を印加することで、より深く刺入することができる。
【0056】
<その他のワクチン製剤>
本発明は、鋳型を用いた充填法により調製する溶解性マイクロニードルに限定されるものではない。マイクロニードルの表面をデキストラン硫酸及びワクチン抗原でコーティングすることによってもマイクロニードル製剤を調製することができる。例えば、金属製、生分解性ポリマー物質あるいはプラスチック製のマイクロニードルの皮膚へ穿刺可能な先端部をデキストラン硫酸及びワクチン抗原でコーティングすることによっても本発明の目的を達成することができる。
【0057】
例えば、金属、プラスチックあるいは生分解性高分子物質を使用して円錐台形状を有するマイクロニードルの土台部を作製しておき、この土台部の上面に本発明のマイクロニードルを形成してもよい。そのような二層型溶解性マイクロニードル製剤は、例えば、マイクロニードルの土台部の上面に、抗原物質、デキストラン硫酸、及び要すれば水溶性の洩糸性高分子物質を含む水性粘調液を付着して曳き延ばし、乾燥させる等の方法で、その先端部を針状に整形することができる。
【0058】
また、マイクロニードル表面全体をいったんデキストラン硫酸あるいはその誘導体でコーティングを行い、乾燥する。その後、ワクチン抗原を含む液で皮膚へ穿刺可能な先端部分の表面をコーティングすることによっても本発明の目的を達成することができる。
【0059】
また、中空のマイクロニードルを用いる皮内注射器を使用して、デキストラン硫酸を添加したワクチン抗原液を皮膚の表皮層もしくは真皮層へ注入することによっても本発明の目的を達成することができる。
【0060】
また、金属製あるいはプラスチック製マイクロニードルで皮膚の表皮から真皮層に達する穿孔を開け、その後、デキストラン硫酸を添加したワクチン抗原液を塗布することによっても目的を達成することができる。
【実施例
【0061】
以下に実施例をあげて具体的な実施形態を説明する。もちろん、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。但し、実施例2、4及び6は参考例である。

【0062】
(実施例1)
ヒアルロン酸(商品名「ヒアルロン酸 FCH-SU」、キッコーマンバイオケミファ社製、平均分子量5~11万)の6mg、高分子デキストラン(商品名「デキストラン70」、名糖産業株式会社製、平均分子量7万)の12mg、卵白アルブミン(商品名「Ovalbumin」、Sigma-Aldrich社製,St. Louis, MO, USA)5mgにpH7.4のリン酸バッファーの150マイクロリットルを加えて攪拌することにより、第1の粘調液(ヒドロゲル)を調製した。1平方センチメートルあたりに深さ約500ミクロン、開口部直径約300ミクロンの逆円錐状の細孔を300個有するメス型の上にこの粘調液を塗布し、加圧条件下でメス型に充填し、乾燥させた。
【0063】
コンドロイチン硫酸ナトリウム(商品名「コンドロイチン硫酸Cナトリウム」、ナカライテスク社製)の600mg、デキストラン硫酸(商品名「デキストラン硫酸ナトリウム」、ナカライテスク社製、平均分子量5000~6000)の2.4gにpH7.4のリン酸バッファー2.1mLを加えて攪拌することにより第2の粘調液を調製した。
【0064】
酢酸セルロースとヒドロキシプロピルセルロースの重量比100:10の混合物を打錠することにより、直径約1.5cm、厚さ約2mmの円形の支持基盤を作製した。
【0065】
支持基盤の片面に第2の粘調液を塗り、メス型の上に被せ、加圧下で乾燥を行った。6時間後に支持基盤をメス型から引き離すことにより300本のマイクロニードルをアレイ状に構築したマイクロニードル・アレイ・チップを得た。
【0066】
(比較例1)
デキストラン硫酸の代わりに高分子デキストランの2.4gを使用して第2の粘調液を調製すること以外は実施例1と同様にしてマイクロニードル・アレイ・チップを得た。
【0067】
(実施例2)
コンドロイチン硫酸ナトリウム(商品名「コンドロイチン硫酸Cナトリウム」、ナカライテスク社製)の6mg、デキストラン硫酸(商品名「デキストラン硫酸ナトリウム」、ナカライテスク社製、平均分子量5000~6000)の24mgに卵白アルブミン(商品名「Ovalbumin」、Sigma-Aldrich社製,St. Louis, MO, USA)5mg、pH7.4のリン酸バッファーの200マイクロリットルを加えて攪拌することにより、第1の粘調液を調製した。1平方センチメートルあたりに深さ約500ミクロン、開口部直径約300ミクロンの逆円錐状の細孔を300個有するメス型の上にこの粘調液を塗布し、加圧条件下でメス型に充填し、乾燥させた。
【0068】
コンドロイチン硫酸ナトリウム(商品名「コンドロイチン硫酸Cナトリウム」、ナカライテスク社製)の600mg、高分子デキストラン(商品名「デキストラン70」、名糖産業株式会社製、平均分子量7万)の1.2gにpH7.4のリン酸バッファー2.1mLを加えて攪拌することにより第2の粘調液を調製した。
【0069】
酢酸セルロースとヒドロキシプロピルセルロースの重量比100:10の混合物を打錠することにより、直径約1.5cm、厚さ約2mmの円形の支持基盤を作製した。
【0070】
支持基盤の片面に第2の粘調液を塗り、メス型の上に被せ、加圧下で乾燥を行った。6時間後に支持基盤をメス型から引き離すことにより300本のマイクロニードルをアレイ状に構築したマイクロニードル・アレイ・チップを得た。
【0071】
(実施例3)
体重約230gのWistar系雄性ラットを用いて経皮ワクチンの有効性の評価を行った。実施例1および比較例1の製剤を1チップずつ除毛したラットの皮膚へ穿刺により投与した。投与はDay0およびDay14の2回、採血は、Day14およびDay28とした。得られた血液試料を用いて総抗体価Ig(G+A+M)を測定した。
【0072】
製剤の初回投与から14日後における総抗体価Ig(G+A+M)は、実施例1の製剤では15.1±2.6X10U/mL、比較例1の製剤では3.1±0.7X10U/mLであった。
【0073】
製剤の初回投与から28日後における総抗体価Ig(G+A+M)は、実施例1の製剤では310.2±47.3X10U/mL、比較例1の製剤では143.3±35.7X10U/mLであった。
【0074】
デキストラン硫酸を基剤として用いた実施例1の溶解性マイクロニードル製剤では、従来の水溶性及び曳糸性の高分子物質を基剤とする比較例1の溶解性マイクロニードル製剤に比べて高い抗体価が誘導された。
【0075】
(実施例4)
ヒアルロン酸(商品名「ヒアルロン酸 FCH-SU」、キッコーマンバイオケミファ社製、平均分子量5~11万)の20mg、高分子デキストラン(商品名「デキストラン70」、名糖産業株式会社製、平均分子量7万)の40mg、標識用色素である青色1号4.0mgにpH7.4のリン酸バッファーの520マイクロリットルを加えて攪拌することにより第1の粘調液を調製した。1平方センチメートルあたりに深さ約500ミクロン、開口部直径約300ミクロンの逆円錐状の細孔を300個有するメス型の上にこの粘調液を塗布し、加圧条件下でメス型に充填し、乾燥させた。
【0076】
コンドロイチン硫酸ナトリウム(商品名「コンドロイチン硫酸Cナトリウム」、ナカライテスク社製)の600mg、デキストラン硫酸(商品名「デキストラン硫酸ナトリウム」、ナカライテスク社製)の2.4gにpH7.4のリン酸バッファー1.5mLを加えて攪拌することにより第2の粘調液を調製した。
【0077】
酢酸セルロースとヒドロキシプロピルセルロースの重量比100:10の混合物を打錠することにより、直径約1.5cm、厚さ約2mmの円形の支持基盤を作製した。
【0078】
支持基盤の片面に第2の粘調液を塗り、メス型の上に被せ、加圧下で乾燥を行った。6時間後に支持基盤をメス型から引き離すことにより300本のマイクロニードルをアレイ状に構築したマイクロニードル・アレイ・チップを得た。
【0079】
(比較例2)
ヒアルロン酸(商品名「ヒアルロン酸 FCH-SU」、キッコーマンバイオケミファ社製、平均分子量5~11万)の440mg、高分子デキストラン(商品名「デキストラン70」、名糖産業株式会社製、平均分子量7万)の880mgにpH7.4のリン酸バッファー1.0mLを加えて攪拌することにより粘調液を調製した。
【0080】
コンドロイチン硫酸ナトリウム及びデキストラン硫酸を含む第2の粘調液の代わりに上記粘調液を使用すること以外は実施例4と同様にして、マイクロニードル・アレイ・チップを得た。
【0081】
(実施例5)
実施例4及び比較例2で得られた溶解性マイクロニードルをキーエンス社製ビデオマイクロスコープを用いて観察を行い、その結果を図1および図2に示す。
【0082】
実施例4で得たマイクロニードルは先端部が青色1号の存在により青色に標識されており、かつ根元部との境界が明確に示されている。青色に標識された先端部の長さを測定したところ148μmであった。一方、比較例2で得られたマイクロニードルの場合、先端部に充填したはずの青色1号が根元部に向かって拡散したために、先端部から根元部まで一様に青色に標識された。
【0083】
(実施例6)
デキストラン硫酸(商品名「デキストラン硫酸ナトリウム」、ナカライテスク社製、平均分子量5000~6000)の24mgに卵白アルブミン(商品名「Ovalbumin」、Sigma-Aldrich社製,St. Louis, MO, USA)5mg、pH7.4のリン酸バッファーの60マイクロリットルを加えて攪拌することにより、第1の粘調液を調製した。1平方センチメートルあたりに深さ約500ミクロン、開口部直径約300ミクロンの逆円錐状の細孔を300個有するメス型の上にこの粘調液を塗布し、加圧条件下でメス型に充填し、乾燥させた。
【0084】
コンドロイチン硫酸ナトリウム(商品名「コンドロイチン硫酸Cナトリウム」、ナカライテスク社製)の600mg、高分子デキストラン(商品名「デキストラン70」、名糖産業株式会社製、平均分子量7万)の600mgにpH7.4のリン酸バッファー1.0mLを加えて攪拌することにより第2の粘調液を調製した。
【0085】
酢酸セルロースとヒドロキシプロピルセルロースの重量比100:10の混合物を打錠することにより、直径約1.5cm、厚さ約2mmの円形の支持基盤を作製した。
【0086】
支持基盤の片面に第2の粘調液を塗り、メス型の上に被せ、加圧下で乾燥を行った。6時間後に支持基盤をメス型から引き離すことにより300本のマイクロニードルをアレイ状に構築したマイクロニードル・アレイ・チップを得た。
【産業上の利用可能性】
【0087】
本発明は、強度及び溶解性が高く、免疫学的活性も高い溶解性マイクロニードル製剤の製造を可能とするものであり、産業上有用である。
図1
図2