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特許7313700二次電池用負極活物質とその製造方法、および二次電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-14
(45)【発行日】2023-07-25
(54)【発明の名称】二次電池用負極活物質とその製造方法、および二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/38 20060101AFI20230718BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20230718BHJP
   H01M 4/48 20100101ALI20230718BHJP
   H01M 4/587 20100101ALI20230718BHJP
【FI】
H01M4/38 Z
H01M4/36 A
H01M4/36 C
H01M4/48
H01M4/587
H01M4/36 E
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020557663
(86)(22)【出願日】2019-11-22
(86)【国際出願番号】 JP2019045770
(87)【国際公開番号】W WO2020105731
(87)【国際公開日】2020-05-28
【審査請求日】2021-08-04
(31)【優先権主張番号】P 2018219705
(32)【優先日】2018-11-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成30年度、文部科学省「イノベーションシステム整備事業 地域イノベーション・エコシステム形成プログラム」、平成25年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、戦略的創造研究推進事業(チーム型研究(CREST))「階層的相界面制御技術の構築と全結晶型リチウムイオン二次電池への応用」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】504180239
【氏名又は名称】国立大学法人信州大学
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 雅人
(72)【発明者】
【氏名】是津 信行
(72)【発明者】
【氏名】手嶋 勝弥
(72)【発明者】
【氏名】キム ヘミン
【審査官】小森 利永子
(56)【参考文献】
【文献】特表2016-526264(JP,A)
【文献】特開2011-049046(JP,A)
【文献】国際公開第2016/181890(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第104319367(CN,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0012278(US,A1)
【文献】特開2014-070008(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第103545493(CN,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0083268(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/13-4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコン化合物と黒鉛、難黒鉛化炭素、またはソフトカーボンのうち少なくとも一つの炭素材料とで構成されるシリコン複合体と、
前記シリコン複合体の表面を覆い、アミノ基を有する自己組織化単分子膜と、
前記アミノ基を介して前記自己組織化単分子膜と結合され、炭素原子を主成分として含む構造体と、を備え、
前記構造体が、カーボンナノチューブを含むことを特徴とする二次電池用負極活物質。
【請求項2】
前記シリコン化合物は、前記シリコン複合体の体積の5%以上を占めていることを特徴とする請求項1に記載の二次電池用負極活物質。
【請求項3】
前記シリコン化合物として、Si、SiO、SiO(xは実数)のうち少なくとも一つが、前記シリコン複合体に含まれていることを特徴とする請求項1または2のいずれかに記載の二次電池用負極活物質。
【請求項4】
前記構造体が、カーボンナノチューブであることを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載の二次電池用負極活物質。
【請求項5】
前記構造体が、さらに、ポリイミドを含むことを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載の二次電池用負極活物質。
【請求項6】
前記構造体が、さらに、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、エチレン-プロピレン-ジエン共重合体、スチレン-ブタジエンゴム、アクリロニトリル-ブタジエンゴム、カルボキシルメチルセルロース、フッ素ゴムのうち、少なくとも一つを含むことを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載の二次電池用負極活物質。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載の負極活物質を備えていることを特徴とする二次電池。
【請求項8】
請求項1~6のいずれか一項に記載の二次電池用負極活物質の製造方法であって、
カルボキシル基を備えた構造体を形成する工程と、
アミノ基を備えたシリコン複合体を形成する工程と、
前記構造体と前記シリコン複合体とを液体中で混合し、前記カルボキシル基と前記アミノ基とを結合させる工程と、を有することを特徴とする二次電池用負極活物質の製造方法。
【請求項9】
前記液体に、縮合剤を加えることを特徴とする請求項8に記載の二次電池用負極活物質の製造方法。
【請求項10】
前記縮合剤として、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩を用いること特徴とする請求項9に記載の二次電池用負極活物質の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二次電池用負極活物質とその製造方法、および二次電池に関する。
本願は、2018年11月22日に、日本に出願された特願2018-219705号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン電池の高エネルギー密度化に向けて、従来の負極材料の黒鉛に代わる新材料として、シリコンなどの合金系材料が着目されている(例えば、非特許文献1~3)。シリコンは、黒鉛に比べて比容量が四倍近く大きい反面、リチウムイオンを吸蔵した際の体積膨張も大きい。そのため、二次電池の負極材料としてシリコンを用いた場合、二次電池の充放電サイクルに伴う活物質粒子の破砕や、導電助剤との接触不良による容量劣化が起きることが知られている。その他にも、初回の充電反応時の被膜形成、さらに活物質の破砕にともなう活性化反応、LiSiOの生成にともなう不可容量の発生により、正極中のリチウムイオンが少なくなり、容量が劣化していくことが知られている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】T. Hirose et al., Solid State Ionics 303 (2017) 154-160
【文献】T. Hirose et al., Solid State Ionics 304 (2017) 1-6
【文献】T. Hirose et al., Solid State Communications 269 (2018) 39-44
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、比容量を高めるとともに、初回の充電反応時の被膜形成を抑え、破砕、導電助剤との接触不良による容量劣化を抑えることが可能な、二次電池用負極活物質を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するため、本発明は以下の手段を採用している。
【0006】
(1)本発明の一態様に係る二次電池用負極活物質は、シリコン化合物と黒鉛、難黒鉛化炭素、またはソフトカーボンのうち少なくとも一つの炭素材料とで構成されるシリコン複合体と、前記シリコン複合体の表面を覆い、アミノ基を有する自己組織化単分子膜と、前記アミノ基を介して前記自己組織化単分子膜と結合され、炭素原子を主成分として含む炭素化合物体と、を備えている。
【0007】
(2)前記(1)に記載の二次電池用負極活物質において、前記シリコン化合物は、前記シリコン複合体の体積の5%以上を占めていることが好ましい。
【0008】
(3)前記(1)または(2)のいずれかに記載の二次電池用負極活物質において、前記シリコン化合物として、Si、SiO、SiO(xは実数)のうち少なくとも一つが、前記シリコン複合体に含まれていることが好ましい。
【0009】
(4)前記(1)~(3)のいずれか一つに記載の二次電池用負極活物質において、前記炭素化合物体が、カーボンナノチューブであってもよい。
【0010】
(5)前記(1)~(3)のいずれか一つに記載の二次電池用負極活物質において、前記炭素化合物体が、ポリイミドであってもよい。
【0011】
(6)前記(1)~(3)のいずれか一つに記載の二次電池用負極活物質において、前記炭素化合物体が、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、エチレン-プロピレン-ジエン共重合体、スチレン-ブタジエンゴム、アクリロニトリル-ブタジエンゴム、カルボキシルメチルセルロース、フッ素ゴムのうち、少なくとも一つからなっていてもよい。
【0012】
(7)本発明の一態様に係る二次電池は、(1)~(6)のいずれか一つに記載の負極活物質を備えている。
【0013】
(8)本発明の一態様に係る二次電池用負極活物質の製造方法は、(1)~(6)のいずれか一つに記載の二次電池用負極活物質の製造方法であって、カルボキシル基を備えた炭素化合物体を形成する工程と、アミノ基を備えたシリコン複合体を形成する工程と、前記炭素化合物体と前記シリコン複合体とを液体中で混合し、前記カルボキシル基と前記アミノ基とを結合させる工程と、を有する。
【0014】
(9)前記(8)に記載の二次電池用負極活物質の製造方法において、前記液体に、縮合剤を加えることが好ましい。
【0015】
(10)前記(8)または(9)のいずれかに記載の二次電池用負極活物質の製造方法において、前記縮合剤として、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩を用いることが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、比容量を高めるとともに、初回の充電反応時の被膜形成を抑え、破砕、導電助剤との接触不良による容量劣化を抑えることが可能な、二次電池用負極活物質を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】(a)本発明の一実施形態に係る二次電池用負極の拡大断表面図である。(b)、(c)(a)の二次電池用負極活物質の一部の拡大断面図である。
図2】本発明の一実施形態に係る二次電池用負極活物質の製造工程について、詳細に説明する図である。
図3】(a)、(b)シリコン複合体に単分子膜を形成する一つの方法について、模式的に説明する図である。
図4】(a)~(d)本発明の一実施形態に係る二次電池用負極活物質の製造工程について、模式的に説明する図である。
図5】(a)~(c)本発明の実施例1、2、比較例1の二次電池用負極活物質に対する、XPS分析結果を示すグラフである。
図6】(a)~(d)本発明の実施例2、4、比較例2、3の二次電池用負極活物質のSEM像である。
図7】(a)~(d)本発明の実施例2、4、比較例2、3の二次電池用負極活物質を用いたR2032コイン型ハーフセルについて、定電流充放電特性の試験結果を示すグラフである。
図8】本発明の実施例2、4、比較例2、3の二次電池用負極活物質を用いたR2032コイン型ハーフセルについて、放電容量のサイクル試験結果を示すグラフである。
図9】本発明の実施例1、3、4、比較例2の二次電池用負極活物質を用いたR2032コイン型ハーフセルについて、放電容量のサイクル試験結果を示すグラフである。
図10】(a)~(d)図8のサイクル試験後の交流インピーダンス法による測定の結果について、ナイキストプロットしたグラフである。
図11図10の測定に用いた回路についての等価回路モデルを示す図である。
図12図8のサイクル試験後に得られる、実施例2、4、比較例2、3の二次電池用負極活物質のSEM像である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を適用した実施形態に係る二次電池用負極活物質とその製造方法、および二次電池について、図面を用いて詳細に説明する。なお、以下の説明で用いる図面は、特徴を分かりやすくするために、便宜上特徴となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などが実際と同じであるとは限らない。また、以下の説明において例示される材料、寸法等は一例であって、本発明はそれらに限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲で適宜変更して実施することが可能である。
【0019】
図1(a)は、本発明の一実施形態に係る二次電池用負極活物質102を備えた二次電池用負極100について、一部の構成を模式的に示す断面図である。二次電池用負極100は、銅箔等の導電部材からなる集電体101の一面101aに、二次電池用負極活物質102が膜を形成するように堆積(塗布)され、二次電池用負極活物質102同士の隙間に、導電助剤およびバインダー(結着剤)等が充填されてなる。
【0020】
二次電池用負極活物質102は、シリコン化合物と黒鉛、難黒鉛化炭素(ハードカーボン)、またはソフトカーボンのうち少なくとも一つの炭素材料とで構成されるシリコン複合体103、シリコン複合体103の表面を覆う自己組織化単分子膜104と、自己組織化単分子膜104と結合された炭素化合物体105と、を備えている。
【0021】
シリコン複合体103は、シリコン化合物として、例えば、Si、SiO、SiO(xは実数)のうち少なくとも一つを含んでいる。シリコン複合体103は、さらにSnを含んでいてもよい。
【0022】
比容量を高める効果を得る上で、シリコン化合物は、シリコン複合体103の体積の5%以上を占めていることが好ましい。シリコン化合物の平均径(あらゆる方向において測ったシリコン化合物の粒子の粒径について、平均した径)は、10nm以上15000nm以下であることが好ましい。
【0023】
シリコン化合物としては、例えば、粒径が約100nmのナノシリコン粒子を、粒径が約10nmの中空ソフトカーボン中に分散させてなる、複合粒子を用いることができる。
この場合のナノシリコンとソフトカーボンとの体積比は、50:50であることが好ましい。また、シリコン化合物としては、例えば、粒径が約10000nmの酸化シリコン(SiO)粒子、粒径が約1000nmの酸化シリコン(SiO)等の一次粒子を用いることもできる。
【0024】
自己組織化単分子膜104は、表面にアミノ基(-NH)が形成された、炭素等の分子からなる膜である。自己組織化単分子膜104の厚さTは、1nm以上10nm以下であることが好ましい。本実施形態では、自己組織化単分子膜104として、N-[(トリエトキシシリル)メチル]-1,6-ヘキサンジアミン(AHAMTES)を用いる場合を例に挙げて説明する。
【0025】
炭素化合物体105は、炭素原子を主成分として含む分子の構造体であって、その例として、カーボンナノチューブ(好ましくは多層カーボンナノチューブであり、その長さや太さの制限は受けない)、グラフェン、還元型酸化グラフェン、アセチレンブラック、非晶質カーボン、導電性高分子等の導電材、またはポリイミドやカルボキシルメチルセルロース等の結着剤が挙げられる。本実施形態では、炭素化合物体105として、カーボンナノチューブ105Aを用いる場合を例に挙げて説明する。
【0026】
図1(b)は、図1(a)の二次電池用負極活物質102のうち、領域Rを拡大した図である。二次電池用負極活物質102は、図1(b)に示すように、有機シラン化合物の単分子膜104とカーボンナノチューブ105Aとが、非共有結合している部分を有する。この部分は、より詳細には、自己組織化単分子膜104に形成されたアミノ基のうち正に帯電した官能基(-NH )と、カーボンナノチューブ105Aに形成されたカルボキシル基とが、静電相互作用に伴う引力によって非共有結合している。
【0027】
図1(c)は、図1(a)の二次電池用負極活物質102のうち、領域Rを拡大した図である。二次電池用負極活物質102は、図1(c)に示すように、シリコン化合物の単分子膜104に、アミノ基を介して、複数のカーボンナノチューブ105Aが結合している部分を有する。この部分は、より詳細には、自己組織化単分子膜104の表面に形成されたアミノ基に、カーボンナノチューブ105Aの表面に形成されたカルボキシル基(-COOH)が、アミド結合(破線で囲った部分)している。
【0028】
バインダーとしては、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、エチレン-プロピレン-ジエン共重合体(EPDM)、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、アクリロニトリル-ブタジエンゴム(NBR)、ポリイミド(PI)、カルボキシルメチルセルロース(CMC)、フッ素ゴム等が挙げられる。
【0029】
導電助剤としては、例えば、ケッチェンブラック、アセチレンブラック、カーボンブラック、グラファイト、カーボンナノチューブ、カーボンファイバー、グラフェン、非晶質炭素、導電性高分子ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアセチレン、ポリアセン等が挙げられる。
【0030】
図2は、本実施形態に係る二次電池用負極活物質102の製造工程について、模式的に説明する図である。
【0031】
まず、表面にカルボキシル基(-COOH)が形成されたカーボンナノチューブ105Aを準備し、これにEDC(1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩)106等の縮合剤を加え、カーボンナノチューブ105Aの活性エステル化合物105Bを合成する。
【0032】
次に、合成した活性エステル化合物105Bに対し、別途合成したアミノ基(-NH)を有するシリコン複合体103を反応させることにより、カーボンナノチューブ105Aとシリコン複合体103とがアミド結合してなる、二次電池用負極活物質102を得ることができる。
【0033】
なお、アミノ基を有するシリコン複合体103は、ドライプロセスまたはウェットプロセスのいずれによっても合成することができるが、ウェットプロセスによって合成する方が、シリコン複合体粒子の表面に対するカーボンナノチューブの吸着反応と、シリコン複合体粒子間でのカーボンナノチューブの自己集積反応とで、均衡を制御しやすいため、有効である。したがって、シリコン複合体103のアミノ基とカーボンナノチューブ105Aのカルボキシル基との結合が強力になり、かつシリコンの体積膨張に伴う導電助剤の剥離、活物質自体の破砕等を抑えることができる。その結果として、ドライプロセスで合成する場合に比べて、サイクル試験において放電容量を高く維持することができる。
【0034】
図3(a)、(b)は、アミノ基を有するシリコン複合体103Bを合成するためのウェットプロセスについて、模式的に説明する図である。
【0035】
まず、図3(a)に示すように、容器Vに収容した60mLのエタノール107に対し、シリコン複合体1gを室温で混合し、表面にヒドロキシル基(-OH)やカルボキシル基(-COOH)が形成されたシリコン複合体103Aを含む、混合液L1を作製する。
【0036】
続いて、図3(b)に示すように、同容器Vに20μL以上70μL以下のアミノ有機シラン108を加え、室温で一晩放置する。これにより、シリコン複合体103Aの表層部分(自己組織化単分子膜104)に形成されたヒドロキシル基に、シリコンを介してさらにアミノ基(-NH)が形成された、シリコン複合体103を含む混合液Lを得ることができる。
【0037】
なお、EDCを用いない場合には、カーボンナノチューブ105Aのカルボキシル基と、シリコン複合体103のアミノ基を正に帯電させた官能基(-NH )とが、静電相互作用に伴う引力によって非共有結合することになる。この場合の結合の強さは、アミド結合(共有結合)する場合に比べて劣るが、カーボンナノチューブ105Aがシリコン複合体103を被覆することにより、所定の効果が得られる。したがって、本実施形態の効果を得る上では、EDCを用いることは必須ではない。
【0038】
以上のように、本実施形態に係る二次電池用負極活物質102は、シリコンを含んでいるため、従来の黒鉛からなる負極活物質に比べて比容量を4倍近く大きくすることができる。また、シリコンの周囲を炭素化合物が覆っているため、初回の充電反応時における被膜形成を防ぎ、かつシリコンの体積膨張を抑えることができ、体積膨張に伴う導電助剤の剥離、活物質自体の破砕等のシリコン系活物質に特有の問題を回避することができる。したがって、二次電池用負極活物質102を二次電池に長期間用いる場合において、その信頼性を大きく向上させることができる。(この場合の二次電池において、負極以外の構成、すなわち、正極、電解液、セパレータ、ケース等の構成については限定されない。)さらに、活物質粒子の一部に、激しく体積膨張するシリコンが含まれていることにより、活物質粒子同士の隙間が減るため、隙間を充填する絶縁性のバインダーの量を減らすことができる。
【実施例
【0039】
以下、実施例により本発明の効果をより明らかなものとする。なお、本発明は、以下の実施例に限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲で適宜変更して実施することができる。
【0040】
本発明の実施例1~4、比較例1~3として、それぞれ異なる条件で二次電池用負極活物質を作製した。表1に、各条件で作製した二次電池用負極活物質102に含まれるシリコン複合体103、自己組織化単分子膜104、多層カーボンナノチューブ(MWCNT)105A等の混合比率を示す。
【0041】
【表1】
【0042】
(実施例1)
実施例1としての二次電池用負極活物質を備えた負極を、次の手順(工程1~5)で製造した。図4(a)~(d)は、各手順について模式的に説明する図である。
【0043】
[工程1]
まず、図4(a)に示すように、容器Vに収容した水(HO)に対し、多層カーボンナノチューブ(MWCNT)105Aを、9wt%となるように室温で混合し、表面にカルボキシル基(-COOH)が形成された多層カーボンナノチューブ105Aを含む、混合液Lを作製した。多層カーボンナノチューブ105Aとしては、長さ500~700nm、直径15~20nm、15~18層のものを用いた。
【0044】
[工程2]
また、別の容器に収容したエタノールに対し、ナノシリコン(n-Si)104を33%、黒鉛を67%の重量比で含むシリコン複合体103を、室温で混合し、表面にヒドロキシル基(-OH)が形成されたシリコン複合体103Aを含む、混合液Lを作製した。続いて、同容器にアミノ有機シランを50μL加え、室温で一晩放置し、シリコン複合体103Aに形成されたヒドロキシル基に、シリコンを介してアミノ基(-NH)が形成されたシリコン複合体103Bを含む、混合液Lを作製した。
【0045】
[工程3]
次に、図4(b)に示すように工程1で作製した混合液Lに、工程2で作製したシリコン複合体103Bを室温で混合して、水W、多層カーボンナノチューブ105A、シリコン複合体103Bの混合液L5を作製した。混合液L中の多層カーボンナノチューブ105A、シリコン複合体103の重量比については、1:9となるように調製した。
【0046】
[工程4]
次に、図4(c)に示すように、作製した混合液Lを導電部材からなる集電体101上に滴下し、押し当て部材109を用いてブレードコーティングを行った。
【0047】
続いて、コーティングされた混合液Lに含まれる水を、80℃で真空乾燥させて除去することにより、図4(d)に示すような、集電体101上に本実施形態に係る二次電池用負極活物質102が形成された二次電池用負極100を得た。得られた二次電池用負極活物質102は、ナノシリコンを含む粒状の複数のシリコン複合体103が、表面を被覆する自己組織化単分子膜104を介して、カーボンナノチューブ105Aと静電相互作用に伴う引力により、非共有結合した状態で、集電体の一面101aに積層(堆積)されている。
【0048】
(実施例2)
実施例2としての二次電池用負極活物質を備えた負極を、上記工程1の手順のみを実施例1と変えて製造した。すなわち、工程1において、容器に収容した水に対し、多層カーボンナノチューブとともに、1.5mgの粉末状のEDCを混合し、混合液Lを作製した。その他の工程の手順は、実施例1と同様とした。
【0049】
(実施例3)
実施例3としての二次電池用負極活物質を備えた負極を、実施例1と同様の手順で製造した。ただし、混合する有機シランを200μLとした。
【0050】
(実施例4)
実施例4としての二次電池用負極活物質を備えた負極を、実施例2と同様の手順で製造した。ただし、混合する有機シランを200μLとした。
【0051】
(比較例1)
比較例1としての二次電池用負極活物質を備えた負極を、上記工程2、4の手順のみで製造した。すなわち、集電体にコーティングする混合液を、多層カーボンナノチューブ105Aを混合せずに製造した。そのため、アミノ基を有する自己組織化単分子膜が露出した状態となった。
【0052】
(比較例2)
比較例2としての二次電池用負極活物質を備えた負極を、上記工程2を経ない手順(工程1、3、4を経る手順)で製造した。すなわち、上記工程3において、上記工程1で得た混合液Lに対し、アミノ基を有していないシリコン複合体103Aを、室温で混合した。
【0053】
(比較例3)
比較例3としての二次電池用負極活物質を備えた負極を、上記工程1~3を経ていないナノシリコン(n-Si)を用い、ナノシリコンを33%、黒鉛を67%の重量比で含むシリコン複合体103と、アセチレンブラックと、ポリフッ化ビニリデンとを重量比80:10:10で混合した混合NMP溶液Lを作製し、上記工程4と同様の手段により、これを集電体上にコーティングし、水の除去を行った。
【0054】
実施例1、2、および比較例1で得た二次電池用負極物質の表面状態について、XPSN1sコア準位スペクトル測定を行った。図5(a)~(c)は、それぞれ実施例1、2、比較例1での分析結果を示すグラフである。グラフの横軸、縦軸は、それぞれ、分子の結合エネルギー(eV)、スペクトル強度(a.u.)を示している。それぞれのスペクトルを波形分離して求めた、相対面積比率を表2に示す。
【0055】
【表2】
【0056】
実施例1では、スペクトル強度の比較から、アミノ基を正に帯電させた官能基(-NH 3+)を有する分子(シリコン複合体)が、比較例1に比べて、約1.7倍含まれていることが分かる。このことから、実施例1でのシリコン複合体の多くが、多層カーボンナノチューブのカルボキシル基に対して、静電相互作用に伴う引力により、非共有結合していることが分かる。
【0057】
これに対し、実施例2では、アミノ基を正に帯電させた官能基に加えて、多層カーボンナノチューブのカルボキシル基と共有結合(アミド結合(NHC=O))を有する分子も含まれていることが分かる。これは、多層カーボンナノチューブとともに混合したEDCが、アミド結合を形成するための縮合剤として機能したためである。
【0058】
図6(a)~(d)は、それぞれ、実施例2、4、および比較例2、3で得た、二次電池用負極について、の表面SEM観察の結果を示す。
【0059】
実施例2でのシリコン複合体粒子の表面が多層カーボンナノチューブで被覆されており、さらにシリコン複合体粒子間に多層カーボンナノチューブがバンドル状に自己集積して、粒子間を架橋していることが分かる。これにより、シリコン複合体粒子が、多層カーボンナノチューブのカルボキシル基に対して、静電相互作用に伴う引力により、非共有結合していることが分かる。
【0060】
実施例4でのシリコン複合体粒子は、実施例2と比較してより均一に、表面が多層カーボンナノチューブで被覆されていることが分かる。また、個々のシリコン複合体粒子が元の球形状を維持したまま、隣接するシリコン複合体粒子間が多層カーボンナノチューブにより連結されていることが分かる。アミド結合(NHC=O)の形成がシリコン複合体粒子と多層カーボンナノチューブの複合化に有効に作用していることがわかる。
【0061】
これらに対して、比較例2でのシリコン複合体粒子では、シリコン複合体粒子の表面に付着した多層カーボンナノチューブの剥離が見られる。シリコン複合体粒子の表面と多層カーボンナノチューブ間を化学的に接合する作用がない物理吸着だけでは、シリコン複合体粒子と多層カーボンナノチューブの複合化に不十分であることが分かる。
【0062】
実施例2、4、および比較例2、3で得た二次電池用負極活物質からなる電極と、Li金属を用いてなる対極とを備えたR2032コイン型ハーフセルについて、定電流の充放電特性の初期特性試験を行った。
【0063】
電極の目付量を、Siあたり約0.5mg/cm、膜厚約20μmに調整し、プレスは行わずに評価した。電解液には、1MのLiPFを含むEC-DMCを用いた。セパレータには、セルガード社製#2400を用いた。カットオフ電圧範囲を0.05~1.2V(Li/Li)とし、電流密度100mA/g、室温の条件下で充放電試験を10回繰り返し実施した。このとき、充放電反応はCCCVモードで、放電反応はCCモードで行った。図7(a)~(d)は、それぞれ、実施例2、4、比較例2、3の二次電池用負極活物質を用いたR2032コイン型ハーフセルについて、定電流充放電特性の試験結果を示すグラフである。グラフの横軸は、シリコン換算した比容量(mAh/g)を示している。表3に、それぞれの場合における、初回の充放電反応におけるクーロン効率を示している。
【0064】
【表3】
【0065】
初回の充放電反応において、比較例3のクーロン効率は71.4%を示し、充放電サイクルを繰り返すにつれて急速に劣化(減少)している。これに対し、実施例2、4、比較例2における、カーボンナノチューブを含むシリコン複合体粒子電極のクーロン効率は、それ以上の値を示し、その値は、高い順に、実施例4、実施例2、比較例2(実施例4>実施例2>比較例2)となっている。さらに、充放電サイクルに伴う容量の劣化の抑制が、同様の順(実施例4>実施例2>比較例2)で強められている。
【0066】
これは、実施例2、4に含まれるシリコン複合体粒子表面が、カーボンナノチューブで覆われており、隣接する粒子間がカーボンナノチューブにより連結した電子伝導経路を形成することにより、その体積膨張が抑えられ、体積膨張に伴う導電助剤の剥離、活物質自体の破砕等を、比較例3に比べて減らすことができているためである。カーボンナノチューブの効果は、シリコン複合体粒子との相互作用が強いほど効果的であることが分かる。
【0067】
実施例2、4、および比較例2、3で得た、二次電池用負極活物質からなる電極と対極にはLi金属を用いたR2032コイン型ハーフセルのサイクル試験を行った。図8は、試験結果を示すグラフである。グラフの横軸、縦軸は、それぞれ、サイクル数(充放電の繰り返しの回数)、放電容量(mAh/g)を示している。
【0068】
サイクル数20以下において、比較例2、3の放電容量は、充放電を繰り返すにつれて急速に劣化(減少)しているのに対し、実施例2、4の放電容量は、初期の約75%以上を維持しており、劣化が抑制されている。これは、実施例2、4に含まれるシリコンが、カーボンナノチューブで覆われており、その体積膨張が抑えられ、体積膨張に伴う導電助剤の剥離、活物質自体の破砕等を、比較例2、3に比べて減らすことができているためである。
【0069】
実施例4の放電容量は、少なくともサイクル数0~50までは、劣化が小さく抑えられており、実施例3より高い値を維持している。これは、実施例4の二次電池用負極活物質が、実施例2に比べてシリコン複合体と多層カーボンナノチューブとのアミド結合を多く形成することができ、含有するシリコンの表面を、より強力に保護することができるためである。
【0070】
一方、比較例2では、多層カーボンナノチューブが多く含まれているが、シリコン複合体表面に対して物理吸着しているだけであり、アミド結合されていないため、シリコン複合体を化学的に固定化できてきないため、シリコンの体積膨張を抑えることができず、体積膨張に伴う導電助剤の剥離、活物質自体の破砕等が増加する結果として、初期の段階から放電容量が大きく劣化している。
【0071】
実施例2、5で得た、二次電池用負極活物質の放電特性について、電流密度を電流密度500mA/gに上げて,同様の方法でサイクル試験を行った。図9は、試験結果を示すグラフである。グラフの横軸、縦軸については、図8と同様である。
【0072】
実施例4の放電容量は、少なくともサイクル数0~50までは、劣化が小さく抑えられており、実施例1、3、比較例2より高い値を維持している。さらに、電流密度増加に伴う内部抵抗増化よる比容量の減少も見られない。これは、実施例4で用いたEDCが、実施例1、3よりも、アミド結合の形成を促進する効果が高く、シリコンの体積膨張がより強力に抑えられ、体積膨張に伴う導電助剤の剥離、活物質自体の破砕等を大きく減らすことができているためである。
【0073】
また、実施例1と3を比較した場合、シリコン複合体表面により多くのアミノ基を含む実施例3の方が、劣化を小さく抑えており、静電引力を伴う非共有結合でも、ある程度のシリコンの体積膨張を強力に抑えられ、体積膨張に伴う導電助剤の剥離、活物質自体の破砕等を大きく減らすことができている。
【0074】
図10は、電流密度500mA/gの条件で5回および50回充放電サイクル試験後(After5、After50)に測定した交流インピーダンス法により計測したナイキストプロットを示す。図11は、図10の測定に用いた回路についての等価回路モデルを示す図である。表4に、等価回路モデルで解析したインピーダンスパラメータ(被膜抵抗RSEIと電解移動抵抗RCT)をまとめた。
【0075】
【表4】
【0076】
実施例2、4では、50サイクル後でもRSEI、RCTともに劣化が小さく抑えられており、比較例2、3より低抵抗を維持している。特に実施例4では、この傾向が顕著である。これは、実施例4で用いたEDCによるアミド結合形成による固定化効果が高く、シリコンの体積膨張がより強力に抑えられ、体積膨張に伴う導電助剤の剥離、活物質自体の破砕等を大きく減らすことができているためである。
【0077】
図12(a)~(d)は、実施例2、4、および比較例2、3において、電流密度500mA/gの条件で、50回充放電サイクル試験後に測定した、シリコン複合負極の断面SEM像である。実施例4では、50サイクル後の集電箔からの剥離が抑えられており、サイクル試験前と比べて膜厚変化も小さい。比較例2,3では,サイクル試験後には集電箔との界面に空隙は多くみられ,剥離していることがわかる。これらの結果は、実施例4で用いたEDCによるアミド結合形成による固定化効果が高く、シリコンの体積膨張がより強力に抑えられ、体積膨張に伴う導電助剤の剥離、活物質自体の破砕等を大きく減らすことができているためである。
【符号の説明】
【0078】
100・・・二次電池用負極
101・・・集電体
101a・・・集電体の一面
102・・・二次電池用負極活物質
103、103A・・・シリコン複合体
104・・・自己組織化単分子膜
105・・・炭素化合物体
105A・・・カーボンナノチューブ
105B・・・活性エステル化合物
106・・・EDC
107・・・エタノール
108・・・アミノオルガノシラン
109・・・押し当て部材
~L・・・混合液
、R・・・領域
T・・・自己組織化単分子膜の厚さ
、V・・・容器
W・・・水
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12