(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-14
(45)【発行日】2023-07-25
(54)【発明の名称】移動設備の遮熱構造
(51)【国際特許分類】
B62D 25/02 20060101AFI20230718BHJP
B60P 3/20 20060101ALI20230718BHJP
B60P 3/05 20060101ALI20230718BHJP
B60R 13/08 20060101ALI20230718BHJP
B61D 17/18 20060101ALI20230718BHJP
F16L 59/08 20060101ALI20230718BHJP
F25D 23/06 20060101ALI20230718BHJP
F25D 11/00 20060101ALN20230718BHJP
【FI】
B62D25/02 A
B60P3/20
B60P3/05
B60R13/08
B61D17/18
F16L59/08
F25D23/06 U
F25D11/00 101D
(21)【出願番号】P 2022191876
(22)【出願日】2022-11-30
【審査請求日】2022-11-30
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】512043360
【氏名又は名称】日本遮熱株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100095337
【氏名又は名称】福田 伸一
(74)【代理人】
【識別番号】100174425
【氏名又は名称】水崎 慎
(74)【代理人】
【識別番号】100203932
【氏名又は名称】高橋 克宗
(72)【発明者】
【氏名】野口 修平
(72)【発明者】
【氏名】野口 和恵
【審査官】林 政道
(56)【参考文献】
【文献】実開昭59-139416(JP,U)
【文献】国際公開第2018/074603(WO,A1)
【文献】実開昭58-065275(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 25/02
B60P 3/20
B60P 3/05
B60R 13/08
B61D 17/18
F16L 59/08
F25D 23/06
F25D 11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
屋外を移動し、内部に冷却装置を有する移動体に構築される移動体の遮熱構造であって、
前記移動体を構成する内装基材の室内側に、アルミホイル等輻射熱に対して高反射率の素材が大気に接して形成さ
れ、
前記アルミホイル等輻射熱に対して高反射率の素材が、冷却される室内に露出し、前記内装基材に直接設けられている、
ことを特徴とする移動体の遮熱構造。
【請求項2】
屋外を移動し、内部に冷却装置を有する移動体に構築される移動体の遮熱構造であって、
前記移動体を構成する内装基材の室内側に、アルミホイル等輻射熱に対して高反射率の素材が設けられ、
着色層や保護層が、
前記アルミホイル等輻射熱に対して高反射率の素材よりも室内側に大気に接して形成さ
れ、
前記着色層や保護層が、冷却される室内に露出し、前記アルミホイル等輻射熱に対して高反射率の素材が前記内装基材に直接設けられている、
ことを特徴とする移動体の遮熱構造。
【請求項3】
前記移動体が、自動車、鉄道車両、航空機、船舶等の乗物、輸送用コンテナである、
ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の移動体の遮熱構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、屋外で移動する自動車、鉄道車両、航空機、船舶等の乗物や輸送用コンテナ等の設備の内装基材の表面に、アルミホイル等輻射熱に対して高反射率の素材を施工する事により、即効性で軽量しかも冷暖房効果の大きい移動体の遮熱構造に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車やコンテナに遮熱効果を施したものが開示されている(例えば、特許文献1)。自動車の内装材と外装材の間に遮熱材を施工したり、コンテナの外装材の屋外側に遮熱塗装を施したりすることで、外部からの熱の侵入を防いでいる。
【0003】
特許文献1に記載のコンテナは、外装パネルと内壁面をなす内装材との間に遮熱シートを介在させたことで、外来の輻射熱は遮熱シートにより高い効率で反射され、遮熱シートより内側への輻射熱の侵入の大部分がカットされ、収納空間の温度上昇を阻止できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
屋外で移動する自動車や鉄道車両等の特徴は、全体容積が極力小さく、しかし室内容積は極力大きくする必要がある。その結果、そのしわ寄せとして外装材と内装材との空間を小さくする必要がある。外装材と内装材との間を移動する熱は輻射熱が最も多く、断熱を考えるのであれば、外装材と内装材との空間に遮熱材を使用することは最も効果的と考えられる。この場合、遮熱材は外装材と内装材の間に、しかも遮熱材の両面に空気層も確保され、遮熱材の特徴である高反射率や低放射率の性能を利用しやすいと考えられるが、実際には伝導熱や対流熱を考慮する必要がある。
【0006】
例えば、建物の壁内の例を見ると、外装材と内装材との空間を移動する熱の割合は、伝導熱6%、対流熱29%、輻射熱65%(合計100%)である。この空間に、反射率85%の遮熱材を一層設けた場合、その熱の割合は伝導熱6%、対流熱29%、輻射熱6%で合計41%となる。そうすると、あたかも熱移動量100%から41%に減少したようにみえるが、逆に見ると41%もの熱が伝達されている事になる。
【0007】
注目すべきは、伝導熱と対流熱の割合は減少していない事である。即ち、放射側が小空間で有る場合、伝導熱や対流熱の影響が大きく、これを極力少なくする必要がある。自動車も同様な構造や環境であるから、類似の性能と考えられる。従って、内装材と外装材の間に施工した場合では、遮熱材の本来の性能が十分に生かされていない。
【0008】
本発明は、これらの問題を解決する為になされたものであり、即効性があり、冷却・暖房効果が大きい移動体の遮熱構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る移動体の遮熱構造は、屋外を移動し、内部に冷却装置を有する移動体に構築され、移動体を構成する内装基材の室内側に、アルミホイル等輻射熱に対して高反射率の素材が大気に接して形成されていることを特徴とする。
【0010】
本発明に係る移動体の遮熱構造は、屋外を移動し、内部に冷却装置を有する移動体に構築され、着色層や保護層がアルミホイル等輻射熱に対して高反射率の素材よりも室内側に大気に接して形成されていることを特徴とする。
【0011】
本発明に係る移動体の遮熱構造は、移動体が、自動車、鉄道車両、航空機、船舶等の乗物、輸送用コンテナであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る移動体の遮熱構造は、内部に冷却装置を有する移動体を構成する内装基材の室内側に、アルミホイル等輻射熱に対して高反射率の素材が大気に接して施されている。室内側で、アルミホイル等輻射熱に対して高反射率の素材が大気に接する構造とすることで、冷却・暖房効果が大きく、これらの効果に即効性がある。
【0013】
また、本発明に係る移動体の遮熱構造は、内部に冷却装置を有する移動体に構築され、着色層や保護層がアルミホイル等輻射熱に対して高反射率の素材よりも室内側に大気に接して形成されている。この移動体の遮熱構造を構築することで、冷却・暖房効果が大きくすることに加え、太陽光を乱反射層させることができ、かつアルミホイル等輻射熱に対して高反射率の素材の腐蝕を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】(a)本発明の実施形態に係る移動体である自動車の天井部に構築した移動体の遮熱構造の断面図である。(b)本発明の実施形態に係る移動体の床材等外装材兼内装機材に構築した移動体の遮熱構造の断面図である。
【
図2】本発明の実施形態に係る移動体の遮熱構造をコンテナに構築した図である。
【
図3】本発明の実施形態に係る移動体の遮熱構造をコンテナに構築した図である。
【
図4】本発明の実施形態に係る移動体の遮熱構造を鉄道車両に構築した図である。
【
図5】本発明の実施形態に係る移動体の遮熱構造を鉄道車両に構築した図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を実施するための最良の形態について、
図1から
図5を参照し、説明する。
【0016】
熱は高温側から低温側に移動する。自動車、鉄道車両、航空機、船舶等の乗物や輸送用コンテナ等の移動体(移動設備)は太陽に直接晒され、しかも密封空間であることから、最も大きなエネルギーをもつ輻射熱の影響を受けやすい。従って、省エネルギーや熱中症対策には輻射熱の影響を重視する必要がある。
【0017】
本発明に係る移動体の遮熱構造10aは、
図1(a)に示すように、外装材1との間に所定の静止空間(静止空気層)3が形成された内装基材2の表側(室内側)に遮熱材6が設けられている。遮熱材6は、アルミホイル等輻射熱に対して高反射率素材4(以下、高反射率素材4ともいう)と、この高反射率素材4の表側(室内側)に設けられた着色層(保護層)5とを備えている。着色層5は、高反射率素材4よりも室内側に設けられ、大気に接している。また、本発明に係る移動体の遮熱構造10bは、
図1(b)に示すように、外装材1(内装基材2)の表側(室内側)に、高反射率素材4(遮熱材6)のみ備えて構成されている。この場合も、高反射率素材4は、室内側に設けられ、大気に接している。
そして、移動体の室内側には、冷却装置が備えられている。
【0018】
輻射熱を阻止するには、高反射率素材4が有効で有る事は一般的に知られている。輻射熱を阻止し性能を最大限に発揮するには、六つの大きなポイントがある。
【0019】
第一は、自動車や鉄道車両等の小空間の最も効果的な冷暖房効果は、高反射率素材4を移動体の室内側に使用することである。高反射率素材4の放射側が人間の近くにあることは、何よりも即効性があり省エネルギー効果が大きい。
第二は、高反射率素材4の放射側が極力大きな静止空間3に面している事である。放射側が静止空間3に近ければ、対流熱の影響が少ないと言える。又、大きな空間で有れば、急速な温度上昇を避けることが出来る。
第三は、高反射率素材4を極力移動体の室内全面に使用する事である。高反射率素材4の効果は面積に比例し、従って少しでも大きな面積を遮熱することが好ましい。
【0020】
第四は、高反射率素材4の放射側の温度が低温である事である。放射熱は、絶対温度の四乗に比例して増加するので、放射側の温度を低下させておくことが非常に重要である。例えば、高反射率素材4の施工面や周囲に隙間等があると放射側に熱が流出し、高反射率素材4の放射側の温度が上昇し、結果的に低放射の性能が大幅に低下する可能性がある。
第五は、高反射率素材4の放射側に放射された僅かな熱を、冷房装置等で吸収する事である。僅かな熱を放置しておくと放射側の温度を高める結果となり、前述と同様の結果となる。
第六は、高反射率素材4の放射側には、何も接触する物が無い事である。放射側に金物や胴縁等或いは種々の素材が接触していると、高反射率素材4からこれらの素材に伝導熱が伝達され、大幅な熱ロスとなる。
【0021】
本発明の移動体の遮熱構造10a,10bは、内部に冷却装置を有し、屋外で移動する移動体、例えば、自動車、鉄道車両、航空機、船舶等の乗り物や輸送用コンテナに構築され、移動体の内装基材2の室内側に、大気に接してアルミホイル等輻射熱に対して高反射率の素材4が施されている。
【0022】
以下、本発明の移動体の遮熱構造10a,10bについて、
図2から
図5を参照し、具体的に説明する。
図2及び
図3は、移動体の遮熱構造を輸送用コンテナに構築した図であり、
図4及び
図5は、移動体の遮熱構造を鉄道車両に構築した図である。
【0023】
図2から
図5に示すように、輸送用コンテナ20や乗り物(鉄道車両)30の内装基材2は、プラスチック材、革製品、布製品、金属素材、或いはガラス等種々の素材が使用されている。本発明の移動体の遮熱構造10a(10b)は、これらの素材の室内側表面に、高反射率素材4を施して、これらの設備の屋外側と室内側を移動する輻射熱を阻止する。即ち、高反射率素材4や着色層5を、大気に接する構造とする事により、低放射性能をフルに活用する構造とした。
【0024】
しかも重要なことは、高反射率素材4の放射側の温度を低温にしておくことである。放射熱は、絶対温度の四乗に比例するので、放射側温度が上昇するのは好ましい事ではないどころか、却って逆の効果を生む事もある。即ち、輸送用コンテナ20や鉄道車両30の室内への放射量を抑える方法として、これらの移動体の室内側にエアコン等の冷却装置21,31を備えることが好ましい。仮に室内に熱が侵入してもエアコン等の設備があればたちまち吸収、アルミホイル等輻射熱に対して高反射率の素材4の室内側温度上昇を阻止できるのである。
【0025】
輻射熱は、反射率+放射率=100%である。即ち、高反射率素材4は、この輻射熱を効率よく反射、或いは極わずかしか放射しない性能を持っている。又、その性能を効率よく引き出す為には、高反射率素材4が、放射側温度が上昇しにくい大きな空間である室内大気に面している事が好ましい。大きな空間は狭小空間に比べて侵入した熱が室内側の大気に拡散しやすく、結果的に高反射率素材4の放射側の温度上昇が小さくなる。
【0026】
高反射率の素材4が室内側に設けられていると、夏場、屋外から室内側に向かう最も大きな熱である輻射熱は極わずかしか室内側に放射されず、エアコン等の冷却装置21,31によって、短時間で冷却され低温を維持する事が出来る。
一方、冬場は、高反射率素材4が内装基材2の表面に接しているため、室内の熱は高反射率素材4に反射され室内側に戻される。
【0027】
高反射率素材4を室内側に設けているため、室内の熱が本来過熱或いは冷却しなければならない内装基材がなくなり、その分室温の上昇や下降が短時間になり即効性のある環境ができる。即効性のある環境とは、大きな省エネ効果をもたらす環境といえる。
【0028】
高反射率素材4はアルミの純度が重要であり、一般的には純度が99%以上の素材が使用される。本発明では、純度99.5%以上のものを使用する。又、輻射熱に対する反射率は95%から98%位の素材が多く使用されている。高反射率素材4は、アルミホイルを使用することがほとんどで、厚みは数ミクロンから10ミクロン程度のものが一般的である。ただ、施工部位の問題で厚みは決められる場合が多く、輻射熱の反射率とは殆ど関係がない。
天井材や床材等は柔軟性が要求されるが、このような所にはアルミ蒸着(アルミニウム蒸着)した素材が効果的である。現在は、殆どの素材にアルミ蒸着が可能で、色も種々のものを作る事が出来る。アルミ蒸着は、10から数百nmと薄く、蒸着層の厚みによって反射率が変わるものが多い。勿論、高反射率のものが好ましいが、厚みを特定するものでは無い。何れにしても、重量的には非常に軽量で、設備の全面に使用しても大幅な軽量化と効果が期待できる。勿論、反射率が高ければアルミ蒸着に関わらずほかの素材でも問題はない。
【0029】
本発明では、着色層5や保護層が、高反射率素材4よりも室内側に、大気に接して形成されている事を特徴とし、屋外で移動する自動車、鉄道車両、航空機、船舶等の乗物や輸送用コンテナ等の設備等の移動体の遮熱構造10aも提案する。
【0030】
高反射率素材4は、本来高反射率の性能をそのまま利用する為、表面は何も施されていないピカピカした鏡面が好ましい。しかし、人間が内部に滞在する自動車、鉄道車両、航空機、船舶等では、常時屋外から室内に向けて太陽光が照射される。高反射率素材4は鏡と同じ性能を持っている為、太陽光が高反射率素材4に照射されると、反射光が人間の目を傷める。そこで、本発明は高反射率素材4の表面に、輻射熱を良く透過する塗装や高透過樹脂層を施し、太陽光を乱反射層させている。輻射熱を良く透過する塗装や高透過樹脂層は、人間のいる室内側の表面に位置するので内装基材としての機能も重要で、これらには着色したものが使われる。なお、輻射熱を良く透過する塗装や高透過樹脂層が、着色層5や保護層である。
【0031】
又、室内では、高反射率素材4を腐食する様な物質、例えば汗が付着したり、食品をこぼした場合等が接触する事も考えられる。従って、この着色層5や保護層を設ける事により、この様な問題も解決できる。ただし、輸送用コンテナや貨物自動車等、人間が常時滞在しない空間では着色層5や保護層を設けなくても問題はない。
着色層5や保護層を施工すると、当然の事ながら輻射熱の反射率は低下する。但し、波長にもよるが、概ね73%から95%位にはなるが、遮熱面積が大幅に増える事を考えると大きな問題ではない。これらの着色層5や保護層は、人間の目を傷めない為の乱反射構造、金属と接触して電食を起こさない事、耐酸や耐アルカリ性等の性能を持っていれば特にこの方法に拘るものではない。
【0032】
高反射率の素材4を施工する方法として、少なくても以下の方法がある。
第一は、高純度のアルミ素材を直接内装基材2に蒸着するものである。プラスチックやガラス等の固体の素材から、布製品、皮製品、天井断熱材等に至るまで幅広く使用する事が出来る。アルミ蒸着層は非常に薄く、超軽量の遮熱構造となる。
第二は、高純度のアルミホイルを内装基材2に、接着や熱溶着等で取り付ける方法である。アルミホイルは板状(フィルム状)の素材であるので、プラスチック、ガラス、金属等固体の素材に直貼りして使用する事が出来る。
第三は、不織布や樹脂シートにアルミホイルを熱溶着した遮熱材6を、プラスチック、金属等外装材兼内装基材2に、アルミホイルが室内側になる様に施工するものである。
【0033】
アルミホイルは、金属に接触して使用すると電食を起こす可能性が有るため、その防止策としてこの様な工法がある。例えば、凹凸のある複雑な金属製の床材等でも、平板に遮熱材6を接着し、プレス等で簡単に成型できるので多くの物に使用可能である。本発明では、内装基材2にアルミ層を施す方法に拘るものでは無く、あくまでもアルミホイル等輻射熱に対して高反射率の素材4が内装基材2の室内側の表面に施工されていれば良く、何れの方法でも或いは他の方法でもよい。
【0034】
次に、本発明の本発明の移動体の遮熱構造のメカニズムを詳しく説明する。
例えば、自動車を例にすると、建物と同じく、夏と冬では熱の移動方向が変わる。更に、走行時と停止時でも同様である。当然の事ながら、夏は屋外側から室内側に向けて熱が移動し、冬は逆に室内側から屋外側に熱が移動する。ただ、建物と大きく異なる点は、自動車は動くことによって夏は外装材1の熱を対流によって屋外に放出し、冬は逆に室内に侵入させる量が増える。これ迄、これらの設備は年間を通して夏冬同等と考えてきたが、将来の気温上昇を鑑みると、夏型重視の断熱構造が好ましいと考えられる。
本発明の移動体遮熱構造は、この様な観点から遮熱性能を最大限に引き出す低放射性能を重視した構造とした。
【0035】
外装材1と内装基材2との間等の空間を移動する熱は、建物同様、輻射熱の影響が大きいと考えられる。又、輻射熱を阻止するには、高反射率素材4が効果的であることは良く知られている。夏、自動車の外装材1には屋外から輻射熱が照射されるが、この熱の一部は反射されるものの、熱の大半は外装材1に吸収される。自動車の外装材1を外側から触ると暑いのはこの為である。この熱は、外装材1から内装基材2に向かって二次輻射熱として放射され、大半は内装基材2に吸収され、三次輻射熱として室内側に伝達される。勿論、この時伝導熱も伝達されるが、輻射熱に比べたら明らかに少ないと考えられる。
【0036】
外装材から内装基材に向かう二次輻射熱を阻止するには、両者の間に高反射率素材を使用した遮熱材を設けるのが効果的であると考えられてきた。若し、両者の間に両面に高反射率素材を施工した遮熱材を設ければ、輻射熱に対して高反射率の遮熱材は、屋外からの二次輻射熱を効率よく反射して屋外に放射される筈である。ところが、遮熱材の屋外側の静止空気層は外装材の昇温で非常に高温になりやすく、遮熱材の温度を上昇させる。しかし、この段階では反射側の熱は保持され、極わずかしか放射側に放射されない。重要な点は、遮熱材を外装材と内装基材との間に取り付けし、遮熱材の両側に静止空気層を設ける為には、胴縁やボルト等何らかの素材が使われている。すると、これらの部材を通して、反射側から放射側に伝導熱が伝達される。又、この様な空間の周囲、即ち外装材と内装基材は当然接触しているため、ここでも同様に放射側に伝導熱が伝達されている。更に、天井等の内装基材に遮熱材が接触していると、ここからも熱移動が行われる。この様に、遮熱材の反射側から放射側に伝達される熱は、各部分からの熱伝達は少ないにしろ、結果的に合算すると大きな熱になる。しかも、遮熱材の放射側は静止空気層が形成され密封状態になっているので、その静止空気層内での熱移動は少ないが、その空間からその外側に熱が逃げにくい構造になっている。即ち、熱を蓄熱した小空間が出来ている。この蓄熱された熱は、遮熱材の放射側の表面温度を上昇せることになり、遮熱材からの放射量の増加を促進させる事になる。放射量は、絶対温度の四乗に比例する法則による。
【0037】
本発明は、これら狭小空間でなく室内という大きな空間に面した内装基材2の全面に高反射率素材4を施工するもので、遮熱性能の内低放射性能を最大限に引き出すことが出来る方法である。夏、屋外からの輻射熱は前述と同様、外装材1に吸収され、二次輻射熱が内装基材2に直接放射され内装基材2は高温になる。ここで重要なのは、放射側の温度である。放射側にはエアコン(冷却装置21,31)があり、放射される僅かな熱量を忽ち吸収してしまう。即ち、高反射率素材4の表面温度は上昇せず、確実にその性能を利用する事が出来る。
【0038】
ここで懸念されるのが、体温と高反射率素材4の表面温度との関係である。体温は、明らかに高反射率素材4の表面温度より高い。すると、熱は高温側から低温側に移動する熱の理論通り、体温は高反射率素材4の表面に向かって放射されることになる。この時重要なのは、体から放射された輻射熱は、高反射率素材4の表面で反射されて何処に向かうかである。結果的には、室内の殆どは体温より温度が低いため、反射した輻射熱はソファー等の基材に放射され、高温の人体を温める事は殆ど無い。
更に、遮熱施工面積は室内の大半を占めている。遮熱効果は、施工面積に比例するため、遮熱材を外装材1と内装基材2との間に設けた場合に比べ、はるかに大きい。
冬、高反射率素材4は全て室内側の内装基材2の内皮に施工されている為、室内にエアコン等の熱があると、この熱は内装基材2を暖める必要が無く室内は短時間で暖まる。
【0039】
一方、車両等の移動体では、エンジンの熱が室内側に伝達されるため、エンジンルームとキャビン等との界壁の断熱が重要である。高反射率素材4を界壁のエンジン側に施工することを考えると、高反射率素材4は輻射熱を効率よく反射し、効果的と考えられる。しかし、車両は走行するので高反射率素材4は輻射熱だけでなくエンジンからの対流熱も多く受けることになる。高反射率素材4は熱伝導率の高い素材で、忽ち温度吸収し遮熱材6自体の温度が上昇、やがて室内側の界壁に伝導熱の形態で伝達され、室内に侵入することになる。逆に、界壁の室内側に施工することを考えると、今度は低放射となる。
仮に、反射率98%の高反射率素材4を使用すると、室内側に放射される輻射熱は僅か2%である。即ち、殆どの輻射熱を阻止することが出来る。注意点は、エンジン側の熱は高反射率素材4の放射側表面まで来ている事である。そこに、室内側から何らかの素材を接触させると今度は伝導熱が生じ、室内側に熱が供給される。即ち、低放射性能を利用するには、極力素材の接触を少なくすることが重要である。
【0040】
保冷車は、熱が絶えず屋外側から保冷庫内に侵入している事が多い。これを阻止するには、室内側に高反射率素材4を利用することは効果的であることは言うまでもない。ただ、注意点は、保冷庫内を冷却する冷却ファンの風速が早いということである。風は、高反射率素材4の表面に接触すると熱を奪い室内に侵入する。この対策として、冷却ファンの吹き出しを分散或いは吹き出しの方向を変える事により、高反射率素材4に接するエリアの流速を低下させる事が重要である。保冷庫は、他の断熱工法では室内スペースが狭くなるが、本発明では外装材1又は内装基材2に直貼りでよく、スペースを確保することができ、輸送量の低下が生じない事が大きなメリットである。又、省エネ効果も大きくなり燃費向上が図れる。
【0041】
輸送用コンテナ20は、金属製で輻射熱の反射率も10%程度、大半の輻射熱を吸収し内部に取り込む事になる。しかも屋外で長時間にわたり使用するので、熱量は相当なものになる。これを阻止するのに、高反射率素材4を室内側に施工する事は効果的である。仮に、反射率98%の遮熱材6を使用すると、内部に伝達される輻射熱の量な僅か2%となる。ただし、この熱をそのままにしておくと、放射量は絶対温度の4乗に比例して増加、やがて屋内外の温度差は無くなり遮熱材の効果は消滅する。この様な小空間の性能を高めるには、放射量である2%を吸収する事である。即ち、超小型の冷房設備を設ける事により、非常に環境の良い空間を継続的に作る事が出来る。
【0042】
飛行機に乗ればブランケットを提供されるのはごく当たり前で有るが、多人数のいる空間を一定温度にすれば適温には個人差があり、寒く感じる人、暑く感じる人がいるのは当然のことである。暑さや寒さは、室温と輻射熱の量で決まるため、この個人差を少なくする為には、輻射熱の量を少なくする事が重要である。即ち、鉄道車両やバス或いは船舶等などの内装基材2に高反射率素材4を使用する事は非常に効果的である。
【0043】
鉄道車両では、駅毎に乗客の乗り降りの為に扉が開放され、空気の出入りが非常に多い。即ち、熱の出入りが非常に多く、室内は短時間で加熱又は冷却できる事が好ましい。本発明は、内装基材2の表面にアルミホイル等輻射熱に対して高反射率の素材4を施工する事により大幅な省エネ構造を構築することが可能である。何よりも、最も効果を感じるのは乗客で、即温かさや涼しさを感じる事が出来る。
【0044】
[試験1]
断面が30mm×30mmの硬質ウレタン材で、20cm×20cmの四角い枠を作成した。この一方の面には、ガルバリウム鋼板(登録商標)製の角波材を、もう一方には5mmのウレタンマットを貼った。そして、このウレタンマットの表面に、ポリエステル綿製のシートの片面にアルミ蒸着した遮熱材3mm×5cm×12cm(日本遮熱株式会社製THB-JB3)を、アルミ蒸着面が放射側に成る様に接着した。遮熱材の表面には、人間の目を傷めないような乱反射構造となる着色層が施工されている。遮熱材の反射率は、1800nm:73%、800nm:79%、1400nm:95%、単位当たりの重量は73~91g/m2である。この箱を、1000Wの遠赤外線ヒーターの前に、ガルバリウム鋼板(登録商標)製の角波材がヒーター側になる様に設置した。ガルバリウム鋼板(登録商標)製の角波材のヒーター側の表面にサーモレコーダーを取り付け、温度が40℃から80℃になる迄、徐々に昇温した。この時の、ウレタンマットと遮熱材の表面温度をサーモグラフィーで測定した。室温は、22℃であった。
【0045】
[結果1]
試験1の結果1を以下の[表1]に示した。
【0046】
【0047】
[考察]
(イ)ヒーター側鉄板温度が40℃の時、THB-JB3の蒸着した遮熱材はウレタンマット単体より4.1℃、80℃の時では9.0℃も低い事が解る。
(ロ)即ち、THB-JB3は放射が少なく、熱中症対策や省エネルギーに効果的であることの証明である。
【0048】
[試験2]
屋外から、高温の熱が室内側に来る部分の対応試験を行った。
黒色のガルバリウム鋼板(登録商標)で、黒色が外側になる様に300mm×300mm×300mmの箱を二つ作製し、一方の内側に遮熱材(日本遮熱株式会社製THB―CX、片面アルミ箔)を直貼りした。1000KWの遠赤外線ヒーターの前にこの箱を置き、サーモレコーダーにてヒーター側温度及び箱内の温度を測定した。室温は、23.5℃であった。
遮熱なし箱A:表面温度(1)、内部温度(3)
遮熱あり箱B:表面温度(2)、内部温度(4)
【0049】
[結果2]
試験2の結果2を以下の[表2]及び[表3]に示した。
【0050】
【0051】
【0052】
[考察2]
(イ)ヒーター側表面温度を見ると、温度上昇と共に遮熱してある温度(2)の方が高温になっている。これは、遮熱材にて箱内に熱が侵入しにくい事を示している。
(ロ)逆に、箱内温度を見ると、遮熱した箱の温度4の方が低い温度で維持されている。
(ハ)遮熱未施工のヒーター側の温度(2)が80℃の時、遮熱未施工の箱内温度(3)は38.7℃、遮熱施工の箱内の温度(4)は33.7℃とその差は5.0℃にもなっている。即ち、遮熱をすれば温度阻止効果が大きい事が解ると同時に、温度が上昇するとその差は大きくなる事も解る。
【0053】
室内側に面する殆どの内装基材が輻射熱に対する高反射率の素材で覆われていて、余分な部材を暖めたり冷やしたりする必要が無いので、短時間で冷暖房効果を発揮する事が出来る。その結果、大きな省エネルギー効果を生み出すことが出来る。
当然の事ながら、室内に放射される輻射熱の量が少なくなるので、熱中症対策に非常に効果的である。
【0054】
低温の金属部との接触も無い事、アルミホイル等輻射熱に対して高反射率の素材の表面温度が上昇する事により結露の発生を防止する事が出来る。従って、寒冷地仕様にも対応できる。また、内装基材の表面全体にアルミ蒸着しても良く、アルミ蒸着した場合、非常に軽量となり、乗物等の燃費向上が期待できる。
【0055】
以上、本実施形態について説明したが、これ以外にも、本発明の主旨を逸脱しない限り、上記実施の形態で挙げた構成を取捨選択したり、他の構成に適宜変更することが可能である。
【符号の説明】
【0056】
1 外装材
2 内装基材
3 静止空気層(静止空間)
4 アルミホイル等輻射熱に対して高反射率の素材(高反射率素材)
5 着色層(保護層)
6 遮熱材
10a,10b 移動体の遮熱構造
20 コンテナ(輸送用コンテナ)
30 乗り物(鉄道車両)
21,31 冷却装置(エアコン等)
【要約】
【課題】屋外で移動する自動車、鉄道車両等の設備の内装基材の表面に、アルミホイル等輻射熱に対して高反射率の素材を施工する事により、即効性で軽量しかも冷暖房効果の大きい移動体の遮熱構造を提供する。
【解決手段】移動体の遮熱構造10は、屋外を移動し、内部に冷却装置を有する乗り物30やコンテナ20等に構築され、乗り物30やコンテナ20等を構成する内装基材2の室内側に、アルミホイル等輻射熱に対して高反射率の素材4が大気に接して施されている。本発明の移動体の遮熱構造10を乗り物30やコンテナ20に構築することで、冷却・暖房効果を大きくすることができる。
【選択図】
図1