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特許7313763ガラス長繊維の製造方法、及びガラス長繊維
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-14
(45)【発行日】2023-07-25
(54)【発明の名称】ガラス長繊維の製造方法、及びガラス長繊維
(51)【国際特許分類】
   C03C 13/00 20060101AFI20230718BHJP
   C03C 13/02 20060101ALI20230718BHJP
   D01F 9/08 20060101ALI20230718BHJP
【FI】
C03C13/00
C03C13/02
D01F9/08 A
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2022580545
(86)(22)【出願日】2022-10-04
(86)【国際出願番号】 JP2022037176
【審査請求日】2022-12-26
(31)【優先権主張番号】P 2021212174
(32)【優先日】2021-12-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003975
【氏名又は名称】日東紡績株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000800
【氏名又は名称】弁理士法人創成国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】貫井 洋佑
【審査官】有田 恭子
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-117628(JP,A)
【文献】特開2014-234319(JP,A)
【文献】特開2016-113349(JP,A)
【文献】国際公開第2005/110695(WO,A1)
【文献】国際公開第2013/084892(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C 1/00-14/00
D01F 9/08-9/32
INTERGLAD
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス長繊維の製造方法であって、
ガラス繊維強化樹脂成形品から回収されたガラス繊維とガラス繊維鉱物材料を含むガラス原料を溶融して溶融ガラスとするガラス溶融工程と、
前記溶融ガラスを紡糸して、ガラス長繊維とする紡糸工程を含み、
前記ガラス原料における前記ガラス繊維強化樹脂成形品から回収されたガラス繊維の含有量が11~75質量%の範囲であり、
前記ガラス長繊維は、ガラス長繊維の全量に対し、48.00~62.00質量%の範囲のSiO 2 と、12.00~21.40質量%の範囲のAl 2 3 と、0.10~15.00質量%の範囲のB 2 3 と、10.00~22.50質量%の範囲のCaOと、1.30~10.00質量%の範囲のMgOと、合計で0.01~10.00質量%の範囲のP 2 5 、TiO 2 、及びZnOとを含有するように紡糸され、
下記式(1)が満たされる、ガラス長繊維の製造方法。
5.2≦S+A-B-C≦46.9 (1)
ここで、S、A、B及びCは以下の通りである。
S=前記ガラス繊維鉱物材料の全量に対するSiO2の含有率(質量%)-前記ガラス繊維強化樹脂成形品から回収されたガラス繊維の全量に対するSiO2の含有率(質量%)
A=前記ガラス繊維鉱物材料の全量に対するAl23の含有率(質量%)-前記ガラス繊維強化樹脂成形品から回収されたガラス繊維の全量に対するAl23の含有率(質量%)
B=前記ガラス繊維鉱物材料の全量に対するB23の含有率(質量%)-前記ガラス繊維強化樹脂成形品から回収されたガラス繊維の全量に対するB23の含有率(質量%)
C=前記ガラス繊維鉱物材料の全量に対するCaOの含有率(質量%)-前記ガラス繊維強化樹脂成形品から回収されたガラス繊維の全量に対するCaOの含有率(質量%)
【請求項2】
下記式(2)が満たされる、請求項1に記載されたガラス長繊維の製造方法。
10.8≦S+A-B-C≦34.3 (2)
ここで、S、A、B及びCは前記される通りである。
【請求項3】
前記ガラス原料における前記ガラス繊維強化樹脂成形品から回収されたガラス繊維の含有量が15~60質量%の範囲である、請求項1に記載されたガラス長繊維の製造方法。
【請求項4】
下記式(3)が満たされる、請求項1~3のいずれか1項に記載されたガラス長繊維の製造方法。
14.9≦S+A-B-C≦32.4 (3)
ここで、S、A、B及びCは前記される通りである。
【請求項5】
下記式(4)が満たされる、請求項4に記載されたガラス長繊維の製造方法。
21.9≦S+A-B-C≦30.4 (4)
ここで、S、A、B及びCは前記される通りである。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス長繊維の製造方法、及びガラス長繊維に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ガラス繊維強化樹脂成形品は、軽量化に伴う燃費の向上により環境負荷軽減に寄与するから、自動車部品等の金属代替材料として広く利用されてきた。
近年、環境問題に対する関心の高まりに伴い、廃棄物の量を削減するため、使用済みのガラス繊維強化樹脂成形品からガラス繊維を回収し、再利用することが期待されている。特許文献1には、ガラス繊維強化樹脂成形品から樹脂を溶解させて回収したガラス繊維(以下、「回収ガラス繊維」と称する場合がある)を再利用して、ガラス繊維強化プラスチックシートを作製する方法が記載されている。
【0003】
本発明者は、ガラス繊維強化樹脂成形品から回収したガラス繊維を、複数種類の鉱石又は鉱石から精製された材料であるガラス繊維鉱物材料と混合したものを原料として溶融し、紡糸して長繊維化するガラス長繊維の製造方法を提供した(特許文献2)。
廃棄物の量を削減するという観点から、ガラス原料全量に対する回収ガラス繊維の使用量(以下、「リサイクル率」と称する場合がある)を大きくすることが期待されている。しかしながら、回収ガラス繊維を使用するガラス長繊維の製造方法において、リサイクル率の高い製造方法では、ガラス繊維以外の成分の含有量が増加するため、ガラス繊維鉱物材料のみを使用するガラス長繊維の製造方法と比べて、ガラス原料が溶融された溶融ガラスの液相温度が上昇し、当該溶融ガラスの作業温度範囲が狭くなったりして、当該溶融ガラスの紡糸性が低下することがわかった。また、製造されるガラス繊維のガラス組成によっては、紡糸温度(1000ポイズ温度)が上昇し、炉を高温に保つために多量のエネルギーが必要となり、リサイクル率を向上させても、環境負荷がかかってしまうという不都合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2003-55475号公報
【文献】特願2021-107957号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
回収ガラス繊維を使用するガラス長繊維の製造方法において、リサイクル率を高くし、前記溶融ガラスの液相温度の上昇、及び前記溶融ガラスの作業温度範囲の狭小化を抑制しつつ、紡糸温度が低いガラス長繊維の製造が希求されていたが、そのようなガラス長繊維の製造方法は提供されていなかった。本発明が解決しようとする課題は、リサイクル率を高くし、前記溶融ガラスの液相温度の上昇、及び前記溶融ガラスの作業温度範囲の狭小化を抑制しつつ、紡糸温度が低いガラス長繊維を製造できる、回収ガラス繊維を使用するガラス長繊維の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は上記課題に鑑み検討を重ね、回収ガラス繊維とガラス繊維鉱物材料のガラス組成が同一ではなく、所定の関係を満たす場合、リサイクル率を高くし、前記溶融ガラスの液相温度の上昇、及び前記溶融ガラスの作業温度範囲の狭小化を抑制しつつ、紡糸温度が低くなることを見出した。本発明はこれらの知見に基づき完成されるに至ったものである。
【0007】
本発明は、ガラス繊維強化樹脂成形品から回収されたガラス繊維とガラス繊維鉱物材料を含むガラス原料を溶融して溶融ガラスとするガラス溶融工程と、
前記溶融ガラスを紡糸して、ガラス長繊維とする紡糸工程を含み、
前記ガラス原料における前記ガラス繊維強化樹脂成形品から回収されたガラス繊維の含有量が11~75質量%の範囲であり、
前記ガラス長繊維は、ガラス長繊維の全量に対し、48.00~62.00質量%の範囲のSiO 2 と、12.00~21.40質量%の範囲のAl 2 3 と、0.10~15.00質量%の範囲のB 2 3 と、10.00~22.50質量%の範囲のCaOと、1.30~10.00質量%の範囲のMgOと、合計で0.01~10.00質量%の範囲のP 2 5 、TiO 2 、及びZnOとを含有するように紡糸され、
下記式(1)が満たされる、ガラス長繊維の製造方法である。
5.2≦S+A-B-C≦46.9 (1)
ここで、S、A、B及びCは以下の通りである。
S=前記ガラス繊維鉱物材料の全量に対するSiO2の含有率(質量%)-前記ガラス繊維強化樹脂成形品から回収されたガラス繊維の全量に対するSiO2の含有率(質量%)
A=前記ガラス繊維鉱物材料の全量に対するAl2O3の含有率(質量%)-前記ガラス繊維強化樹脂成形品から回収されたガラス繊維の全量に対するAl2O3の含有率(質量%)
B=前記ガラス繊維鉱物材料の全量に対するB2O3の含有率(質量%)-前記ガラス繊維強化樹脂成形品から回収されたガラス繊維の全量に対するB2O3の含有率(質量%)
C=前記ガラス繊維鉱物材料の全量に対するCaOの含有率(質量%)-前記ガラス繊維強化樹脂成形品から回収されたガラス繊維の全量に対するCaOの含有率(質量%)
本発明のガラス長繊維の製造方法では、リサイクル率を高くし、液相温度の上昇及び前記溶融ガラスの作業温度範囲の狭小化を抑制しつつ、前記溶融ガラスの紡糸温度を低くして、ガラス長繊維を製造できる。
【0008】
本発明のガラス長繊維の製造方法において、好ましくは下記式(2)が満たされる。
10.8≦S+A-B-C≦34.3 (2)
ここで、S、A、B及びCは前記される通りである。
S、A、B及びCが上記式(2)を満たすと、前記溶融ガラスの紡糸温度をより低くして、ガラス繊維の弾性率の低下が抑制されているガラス長繊維を製造できる。
【0009】
前記ガラス原料における前記ガラス繊維強化樹脂成形品から回収されたガラス繊維の含有量は、好ましくは15~75質量%の範囲であり、より好ましくは15~60質量%の範囲である。当該含有量がこの範囲であると、前記溶融ガラスの液相温度を低くして、ガラス長繊維を製造できる。
【0010】
本発明のガラス長繊維の製造方法において、より好ましくは下記式(3)が満たされる。
14.9≦S+A-B-C≦32.4 (3)
ここで、S、A、B及びCは前記される通りである。
S、A、B及びCが上記式(3)を満たすと、前記溶融ガラスの液相温度の上昇及び作業温度範囲の狭小化を更に抑制して、ガラス長繊維を製造できる。
【0011】
本発明のガラス長繊維の製造方法において、更に好ましくは下記式(4)が満たされる。
21.9≦S+A-B-C≦30.4 (4)
ここで、S、A、B及びCは前記される通りである。
S、A、B及びCが上記式(4)を満たすと、前記溶融ガラスの紡糸温度を特に低くして、ガラス長繊維を製造できる。
【0012】
さらに本発明は、ガラス繊維強化樹脂成形品から回収されたガラス繊維とガラス繊維鉱物材料を含むガラス原料が溶融され、紡糸されてなり、前記ガラス原料における前記ガラス繊維強化樹脂成形品から回収されたガラス繊維の含有量が11~75質量%の範囲であり、上記式(1)が満たされ、ガラス長繊維全量に対して、48.00~62.00質量%の範囲のSiOと、12.00~21.40質量%の範囲のAlと、0.10~15.00質量%の範囲のBと、10.00~22.50質量%の範囲のCaOと、1.30~10.00質量%の範囲のMgOと、合計で0.01~10.00質量%の範囲のP、TiO、及びZnOとを含有するように紡糸されたガラス長繊維である。本発明のガラス長繊維は、原料のリサイクル率が大きく、前記溶融ガラスの紡糸温度が低減され、前記溶融ガラスの液相温度の上昇及び前記溶融ガラスの作業温度範囲の狭小化を抑制されているガラス長繊維である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の実施の形態について更に詳細に説明する。
本実施形態のガラス長繊維の製造方法は、回収ガラス繊維とガラス繊維鉱物材料を含むガラス原料を溶融して溶融ガラスとするガラス溶融工程と、前記溶融ガラスを紡糸して、ガラス長繊維とする紡糸工程を含む。
本実施形態のガラス長繊維は、前記回収ガラス繊維と前記ガラス繊維鉱物材料を含む前記ガラス原料が溶融され、紡糸されてなる。
【0014】
[ガラス繊維強化樹脂成形品]
前記ガラス繊維強化樹脂成形品は、例えば、ガラス繊維のガラスフィラメントが集束され、所定の長さを備えるチョップドストランドと熱可塑性樹脂を、二軸混練機で混練して樹脂ペレットを得た後、得られた樹脂ペレットを用いて射出成形を行うことにより得られる。また、前記ガラス繊維強化樹脂成形品は、射出圧縮成形法、二色成形法、中空成形法、発泡成形法(超臨界流体発泡成形法を含む)、インサート成形法、インモールドコーティング成形法、押出成形法、シート成形法、熱成形法、回転成形法、積層成形法、プレス成形法、ブロー成形法、スタンピング成形法、インフュージョン法、ハンドレイアップ法、スプレイアップ法、レジントランスファーモールディング法、シートモールディングコンパウンド法、バルクモールディングコンパウンド法、プルトルージョン法、フィラメントワインディング法等の公知の成形方法により得られたものであってもよい。
【0015】
<ガラス繊維>
前記ガラス繊維強化樹脂成形品の前記ガラス繊維を形成するガラスのガラス組成は特に限定されない。前記ガラス繊維が取り得るガラス組成としては、例えば最も汎用的であるEガラス組成、耐酸性ガラス組成、高強度高弾性率ガラス組成、高弾性率易製造性ガラス組成、及び低誘電率低誘電正接ガラス組成等が挙げられる。汎用性の観点からは、前記ガラス繊維強化樹脂成形品の前記ガラス繊維を形成するガラスのガラス組成は、Eガラス組成又は耐酸性ガラス組成であることが好ましい。また、流通量が多く環境負荷低減への効果が大きいことから、前記ガラス繊維強化樹脂成形品の前記ガラス繊維を形成するガラスのガラス組成は、Eガラス組成がより好ましい。
【0016】
前記Eガラス組成は、ガラス繊維の全量に対し52.0~56.0質量%の範囲のSiOと、12.0~16.0質量%の範囲のAlと、合計で20.0~25.0質量%の範囲のMgO及びCaOと、0.0~10.0質量%の範囲のBとを含む組成である。
前記耐酸性ガラス組成は、ガラス繊維の全量に対し52.0~62.0質量%の範囲のSiOと、12.0~16.0質量%の範囲のAlと、合計で16.0~30.0質量%の範囲のMgO及びCaOとを含む組成である。
【0017】
前記高強度高弾性率ガラス組成は、ガラス繊維の全量に対し60.0~70.0質量%の範囲のSiOと、20.0~30.0質量%の範囲のAlと、5.0~15.0質量%の範囲のMgOと、0~1.5質量%の範囲のFeと、合計で0~0.2質量%の範囲のNaO、KO及びLiOとを含む組成である。
【0018】
前記高弾性率易製造性ガラス組成は、ガラス繊維の全量に対し57.0~60.0質量%の範囲のSiOと、17.5~20.0質量%の範囲のAlと、8.5~12.0質量%の範囲のMgOと、10.0~13.0質量%の範囲のCaOと、0.5~1.5質量%の範囲のBとを含み、かつ、合計で98.0質量%以上であるSiO、Al、MgO及びCaOとを含む組成である。
【0019】
前記低誘電率低誘電正接ガラス組成は、ガラス繊維全量に対し48.0~62.0質量%の範囲のSiOと、17.0~26.0質量%の範囲のBと、9.0~18.0質量%の範囲のAlと、0.1~9.0質量%の範囲のCaOと、0~6.0質量%の範囲のMgOと、合計で0.05~0.5質量%の範囲のNaO、KO及びLiOと、0~5.0質量%の範囲のTiOと、0~6.0質量%の範囲のSrOと、合計で0~3.0質量%の範囲のF及びClと、0~6.0質量%の範囲のPとを含む組成である。
【0020】
<樹脂>
前記ガラス繊維強化樹脂成形品を形成する樹脂としては、熱可塑性樹脂又は熱硬化性樹脂を挙げることができるが、樹脂自体のリサイクル性の観点から、熱可塑性樹脂が好ましい。前記ガラス繊維強化樹脂成形品を形成する熱可塑性樹脂として、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、スチレン/無水マレイン酸樹脂、スチレン/マレイミド樹脂、ポリアクリロニトリル、アクリロニトリル/スチレン(AS)樹脂、アクリロニトリル/ブタジエン/スチレン(ABS)樹脂、塩素化ポリエチレン/アクリロニトリル/スチレン(ACS)樹脂、アクリロニトリル/エチレン/スチレン(AES)樹脂、アクリロニトリル/スチレン/アクリル酸メチル(ASA)樹脂、スチレン/アクリロニトリル(SAN)樹脂、メタクリル樹脂、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリ塩化ビニリデン(PVDC)、ポリアミド、ポリアセタール、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)、ポリカーボネート、ポリアリーレンサルファイド、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリフェニルスルホン(PPSU)、ポリフェニレンエーテル(PPE)、変性ポリフェニレンエーテル(m-PPE)、ポリアリールエーテルケトン、液晶ポリマー(LCP)、フッ素樹脂、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリアリレート(PAR)、ポリサルフォン(PSF)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリアミノビスマレイミド(PABM)、熱可塑性ポリイミド(TPI)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、エチレン/酢酸ビニル(EVA)樹脂、アイオノマー(IO)樹脂、ポリブタジエン、スチレン/ブタジエン樹脂、ポリブチレン、ポリメチルペンテン、オレフィン/ビニルアルコール樹脂、環状オレフィン樹脂、セルロース樹脂、ポリ乳酸等が挙げられる。
【0021】
前記ポリエチレンとしては、高密度ポリエチレン(HDPE)、中密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン(LDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、及び超高分子量ポリエチレン等が挙げられる。
【0022】
前記ポリプロピレンとしては、アイソタクチックポリプロピレン、アタクチックポリプロピレン、及びシンジオタクチックポリプロピレン等が挙げられる。
【0023】
前記ポリスチレンとしては、アタクチック構造を有するアタクチックポリスチレンである汎用ポリスチレン(GPPS)、GPPSにゴム成分を加えた耐衝撃性ポリスチレン(HIPS)、及びシンジオタクチック構造を有するシンジオタクチックポリスチレン等が挙げられる。
【0024】
前記メタクリル樹脂としては、アクリル酸、メタクリル酸、スチレン、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、メタクリル酸ブチル、及び脂肪酸ビニルエステルのうち一種を単独重合した重合体、又は二種以上を共重合した重合体等が挙げられる。
【0025】
前記ポリ塩化ビニルとしては、従来公知の乳化重合法、懸濁重合法、マイクロ懸濁重合法、塊状重合法等の方法により重合される塩化ビニル単独重合体、塩化ビニルモノマーと共重合可能なモノマーとの共重合体、及び重合体に塩化ビニルモノマーをグラフト重合したグラフト共重合体等が挙げられる。
【0026】
前記ポリアミドとしては、ポリカプロアミド(ポリアミド6)、ポリヘキサメチレンアジパミド(ポリアミド66)、ポリテトラメチレンアジパミド(ポリアミド46)、ポリテトラメチレンセバカミド(ポリアミド410)、ポリペンタメチレンアジパミド(ポリアミド56)、ポリペンタメチレンセバカミド(ポリアミド510)、ポリヘキサメチレンセバカミド(ポリアミド610)、ポリヘキサメチレンドデカミド(ポリアミド612)、ポリデカメチレンアジパミド(ポリアミド106)、ポリデカメチレンセバカミド(ポリアミド1010)、ポリデカメチレンドデカミド(ポリアミド1012)、ポリウンデカンアミド(ポリアミド11)、ポリウンデカメチレンアジパミド(ポリアミド116)、ポリドデカンアミド(ポリアミド12)、ポリキシレンアジパミド(ポリアミドXD6)、ポリキシレンセバカミド(ポリアミドXD10)、ポリメタキシリレンアジパミド(ポリアミドMXD6)、ポリパラキシリレンアジパミド(ポリアミドPXD6)、ポリテトラメチレンテレフタルアミド(ポリアミド4T)、ポリペンタメチレンテレフタルアミド(ポリアミド5T)、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド(ポリアミド6T)、ポリヘキサメチレンイソフタルアミド(ポリアミド6I)、ポリノナメチレンテレフタルアミド(ポリアミド9T)、ポリデカメチレンテレフタルアミド(ポリアミド10T)、ポリウンデカメチレンテレフタルアミド(ポリアミド11T)、ポリドデカメチレンテレフタルアミド(ポリアミド12T)、ポリテトラメチレンイソフタルアミド(ポリアミド4I)、ポリビス(3-メチル-4-アミノヘキシル)メタンテレフタルアミド(ポリアミドPACMT)、ポリビス(3-メチル-4-アミノヘキシル)メタンイソフタルアミド(ポリアミドPACMI)、ポリビス(3-メチル-4-アミノヘキシル)メタンドデカミド(ポリアミドPACM12)、ポリビス(3-メチル-4-アミノヘキシル)メタンテトラデカミド(ポリアミドPACM14)等の成分のうち1種、及びこれらの2種以上の複数成分を組み合わせた共重合体等が挙げられる。
【0027】
前記ポリアセタールとしては、オキシメチレン単位を主たる繰り返し単位とする単独重合体、及び、主としてオキシメチレン単位からなり、主鎖中に2~8個の隣接する炭素原子を有するオキシアルキレン単位を含有する共重合体等が挙げられる。
【0028】
前記ポリエチレンテレフタレートとしては、テレフタル酸又はその誘導体と、エチレングリコールとの重縮合により得られる重合体等が挙げられる。
前記ポリブチレンテレフタレートとしては、テレフタル酸又はその誘導体と、1,4-ブタンジオールとの重縮合により得られる重合体等が挙げられる。
前記ポリトリメチレンテレフタレートとしては、テレフタル酸又はその誘導体と、1,3-プロパンジオールとの重縮合により得られる重合体等が挙げられる。
【0029】
前記ポリカーボネートとしては、ジヒドロキシジアリール化合物とジフェニルカーボネート等の炭酸エステルとを溶融状態で反応させるエステル交換法により得られる重合体、及び、ジヒドロキシアリール化合物とホスゲンとを反応するホスゲン法により得られる重合体が挙げられる。
【0030】
前記ポリアリーレンサルファイドとしては、直鎖型ポリフェニレンサルファイド、重合の後に硬化反応を行うことで高分子量化した架橋型ポリフェニレンサルファイド、ポリフェニレンサルファイドサルフォン、ポリフェニレンサルファイドエーテル、及びポリフェニレンサルファイドケトン等が挙げられる。
【0031】
前記変性ポリフェニレンエーテルとしては、ポリ(2,6-ジメチル-1,4-フェニレン)エーテルとポリスチレンとのポリマーアロイ、ポリ(2,6-ジメチル-1,4-フェニレン)エーテルとスチレン/ブタジエン共重合体とのポリマーアロイ、ポリ(2,6-ジメチル-1,4-フェニレン)エーテルとスチレン/無水マレイン酸共重合体とのポリマーアロイ、ポリ(2,6-ジメチル-1,4-フェニレン)エーテルとポリアミドとのポリマーアロイ、及びポリ(2,6-ジメチル-1,4-フェニレン)エーテルとスチレン/ブタジエン/アクリロニトリル共重合体とのポリマーアロイ等が挙げられる。
【0032】
前記ポリアリールエーテルケトンとしては、ポリエーテルケトン(PEK)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルケトンケトン(PEKK)、及びポリエーテルエーテルケトンケトン(PEEKK)等が挙げられる。
【0033】
前記液晶ポリマー(LCP)としては、サーモトロピック液晶ポリエステルである芳香族ヒドロキシカルボニル単位、芳香族ジヒドロキシ単位、芳香族ジカルボニル単位、脂肪族ジヒドロキシ単位、及び脂肪族ジカルボニル単位等から選ばれる少なくとも1種の構造単位からなる(共)重合体等が挙げられる。
【0034】
前記フッ素樹脂としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、パーフルオロアルコキシ樹脂(PFA)、フッ化エチレンプロピレン樹脂(FEP)、フッ化エチレンテトラフルオロエチレン樹脂(ETFE)、ポリビニルフロライド(PVF)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、及びエチレン/クロロトリフルオロエチレン樹脂(ECTFE)等が挙げられる。
【0035】
前記アイオノマー(IO)樹脂としては、オレフィン又はスチレンと不飽和カルボン酸との共重合体であって、カルボキシル基の一部を金属イオンで中和してなる重合体等が挙げられる。
【0036】
前記オレフィン/ビニルアルコール樹脂としては、エチレン/ビニルアルコール共重合体、プロピレン/ビニルアルコール共重合体、エチレン/酢酸ビニル共重合体ケン化物、及びプロピレン/酢酸ビニル共重合体ケン化物等が挙げられる。
【0037】
前記環状オレフィン樹脂としては、シクロヘキセン等の単環体、テトラシクロペンタジエン等の多環体、及び環状オレフィンモノマーの重合体等が挙げられる。
【0038】
前記ポリ乳酸としては、L-乳酸の単独重合体であるポリL-乳酸、D-乳酸の単独重合体であるポリD-乳酸、及びその混合物であるステレオコンプレックス型ポリ乳酸等が挙げられる。
【0039】
前記セルロース樹脂としては、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、セルロースアセテート、セルロースプロピオネート、及びセルロースブチレート等が挙げられる。
【0040】
これら熱可塑性樹脂の少なくとも1種が使用される。
【0041】
前記熱硬化性樹脂としては、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、エポキシ(EP)樹脂、メラミン(MF)樹脂、フェノール樹脂(PF)、ウレタン樹脂(PU)、ポリイソシアネート、ポリイソシアヌレート、ポリイミド(PI)、ユリア(UF)樹脂、シリコーン(SI)樹脂、フラン(FR)樹脂、ベンゾグアナミン(BR)樹脂、アルキド樹脂、キシレン樹脂、ビスマレイドトリアジン(BT)樹脂、及びジアリルフタレート樹脂(PDAP)等が挙げられる。
【0042】
<添加剤>
前記ガラス繊維強化樹脂成形品には、ガラス繊維と樹脂の他に各種添加剤を含んでもよい。各種添加剤としては、難燃剤、着色剤、離型剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、核剤、可塑剤充填剤、改質剤等が挙げられる。
【0043】
前記難燃剤としては、リン系難燃剤である非ハロゲンリン酸エステル、含ハロゲンリン酸エステル、非ハロゲン縮合リン酸エステル、含ハロゲン縮合リン酸エステル、ポリリン酸塩、赤燐、臭素系難燃剤であるTBA(テトラブロモビスフェノールA)、DBDPO(デカブロモジフェニルエーテル)、OCTA(オクタブロモジフェニルオキサイド)、TBP(トリブロモフェノール)、無機系難燃剤である水酸化アルミニウム、三酸化アンチモン、酸化スズ、水酸化スズ、酸化モリブデン、五酸化アンチモン、及び水酸化マグネシウム等が挙げられる。
【0044】
前記着色剤としては、酸化チタン、酸化亜鉛、硫化亜鉛、及びカーボンブラック等が挙げられる。
【0045】
前記離型剤としては、ステアリン酸タルク、金属石鹸、ポリエチレンワックス、エチレンビスステアリンアミド、EDA(エチレンジアミン)、EBA(エチレンビスステアリン酸アミド)、高級脂肪酸ナトリウム塩、及び高級脂肪酸カリウム塩等が挙げられる。
【0046】
前記酸化防止剤としては、フェノール系抗酸化剤、アミン系抗酸化剤、硫黄系抗酸化剤、及びリン系抗酸化剤等が挙げられる。
【0047】
前記紫外線吸収剤としては、サリシレート系紫外線吸収剤、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、ベンゾトリアドール系紫外線吸収剤、シアノアクリレート系紫外線吸収剤、ニッケルキレート系紫外線吸収剤、及びヒンダードアミン系紫外線吸収剤等が挙げられる。
【0048】
前記帯電防止剤としては、アニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤、非イオン系界面活性剤、及び両性界面活性剤等が挙げられる。
前記核剤としては、タルク、ジベンジリデンソルビトール、及びβ晶核剤等が挙げられる。
【0049】
前記可塑剤としては、DOP(ジオクチルフタレート)、DBP(ジブチルフタレート)、DHP(ジヘプチルフタレート)、DIDP(ジイソデシルフタレート)、DINP(ジイソノニルフタレート)等のフタル酸系可塑剤、脂肪酸系可塑剤、TCP(トリクレジルホスフェート)、TMP(トリメチルホスフェート)、TEP(トリエチルホスフェート)等のリン酸系可塑剤、DOA(ジオクチルアジペート)、DINA(ジイソノニルアジペート)、DIDA(ジイソデシルアジペート)等のアジピン酸系可塑剤、ポリエステル系可塑剤、及びエポキシ系可塑剤等が挙げられる。
【0050】
前記充填剤としては、タルク、マイカ、ガラスフレーク、ガラスビーズ、及び炭酸カルシウム等が挙げられる。
前記改質剤としては、ポリブタジエン、スチレン-ブタジエン共重合体、スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体、メチルメタクリレート-ブタジエン-スチレン共重合体、メチルメタクリレート-アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体、メチルメタクリレート-ブタジエン共重合体、アクリロニトリル-スチレン-アクリルゴム共重合体、アクリロニトリル-エチレンプロピレンゴム-スチレン共重合体、メチルメタクリレート-アクリルゴム共重合体、メチルメタクリレート-アクリルゴム-スチレン共重合体、メチルメタクリレート-アクリル-ブタジエンゴム共重合体、メチルメタクリレート-アクリル-ブタジエンゴム-スチレン共重合体、メチルメタクリレート-(アクリル-シリコーンIPNゴム)共重合体、天然ゴム等を挙げることができる。
【0051】
<回収ガラス繊維>
前記ガラス繊維強化樹脂成形品からの前記ガラス繊維の回収は、例えば、ガラス繊維強化樹脂成形品を450~800℃の条件で0.5~8時間加熱するガラス繊維強化樹脂成形品に含まれる熱可塑性樹脂の焼却、ガラス繊維強化熱樹脂成形品に含まれる樹脂のベンジルアルコール等の溶剤への溶解等により実施される。
【0052】
前述のようにして回収された回収ガラス繊維は、前記ガラス繊維強化樹脂成形品に由来する有機物と、前記ガラス繊維強化樹脂成形品から前記ガラス繊維を回収する際に用いられる有機物が表面に微量残存している。前記回収ガラス繊維の強熱減量は、例えば0.001~0.500質量%の範囲にあり、0.002~0.400質量%の範囲にあることが好ましく、0.003~0.300質量%の範囲であることがより好ましく、0.004~0.200質量%の範囲であることが更に好ましく、0.005~0.115質量%の範囲であることがより更に好ましく、0.010~0.100質量%の範囲にあることが特に好ましく、0.015~0.075質量%の範囲にあることが殊更好ましく、0.020~0.060質量%の範囲にあることが最も好ましい。
ここで、強熱減量は回収ガラス繊維に表面に微量残存している有機物の量を示す指標であり、JIS R 3420:2013に準拠して測定される。
【0053】
前記回収ガラス繊維の数平均繊維長は、例えば5~5000μmの範囲にある。溶融炉投入後の溶融ガラスの溶融性の観点からは、前記回収ガラス繊維の数平均繊維長は10~500μmの範囲にあることが好ましく、15~500μmの範囲にあることがより好ましく、20~450μmの範囲にあることが更に好ましく、25~400μmの範囲にあることがより更に好ましく、30~350μmの範囲にあることが特に好ましく、35~330μmの範囲にあることが殊更好ましく、40~300μmの範囲にあることが最も好ましい。なお、前記回収ガラス繊維は、前記ガラス繊維強化樹脂成形品から回収された後に、ボールミル等の粉砕機において所定の長さに粉砕されてもよい。この場合、前記回収ガラス繊維の数平均繊維長は、粉砕後の回収ガラス繊維の数平均繊維長を意味する。
【0054】
ここで、前記回収ガラス繊維の数平均繊維長を、次の方法で算出できる。まず、前記回収ガラス繊維をガラスシャーレに移し、アセトンを用いて前記回収ガラス繊維をシャーレの表面に分散させる。次いで、シャーレ表面に分散した前記回収ガラス繊維1000本以上について、実体顕微鏡を用いて繊維長を測定し、平均値を算出して、当該平均値を回収ガラス繊維の数平均繊維長とする。
【0055】
前記回収ガラス繊維は、前記ガラス繊維強化樹脂成形品に含まれる添加剤に由来するガラス繊維以外の成分が微量残存していてもよい。ガラス繊維以外の成分としては、例えば酸化亜鉛、酸化チタン等の金属酸化物、五酸化二リン等の非金属酸化物、有機物等が挙げられる。当該金属酸化物及び非金属酸化物は溶融ガラスの紡糸性に影響する。
【0056】
本実施形態のガラス長繊維の製造方法において、前記ガラス原料は11~75質量%の範囲の前記回収ガラス繊維を含む。前記ガラス原料中の前記回収ガラス繊維の含有量が11質量%未満では、ガラス長繊維の製造方法におけるリサイクル率が小さすぎる。一方、前記ガラス原料中の前記回収ガラス繊維の含有量が75質量%より大きいと、前記溶融ガラスの液相温度が高くなって前記溶融ガラスの紡糸性が低下してしまう。
前記ガラス原料は、好ましくは15~75質量%、より好ましくは15~60質量%の範囲の前記回収ガラス繊維を含む。前記回収ガラス繊維の含有量が当該範囲であると、本実施形態のガラス繊維の液相温度を1250℃以下にできる。前記ガラス原料は、より好ましくは17~50質量%の範囲の前記回収ガラス繊維を含み、更に好ましくは20~45質量%の範囲の前記回収ガラス繊維を含み、特に好ましくは26~42質量%の範囲の前記回収ガラス繊維を含み、最も好ましくは30~40質量%の範囲の前記回収ガラス繊維を含む。
【0057】
<ガラス繊維鉱物材料>
ガラス繊維鉱物材料は、複数種類の鉱石、及びこれらの鉱石から精製された材料(以下、「鉱石由来精製材料」と称する場合がある)の少なくとも1つから構成される。前記鉱石、及びこれらの鉱石由来精製材料の含有成分に基づいて、全体として所望のガラス組成(以下、「設計ガラス組成」と称する場合がある)になるように、各鉱石、及びこれらの鉱石由来各精製材料の種類、並びに、各鉱石、及びこれらの鉱石由来各精製材料の含有比率を決定できる。
【0058】
前記鉱石としては、例えば珪砂、長石、クレー、及び石灰石が挙げられる。また、前記鉱物由来精製材料としては、例えばシリカパウダー、ドロマイト、タルク、クレー、アルミナ、及びソーダ灰が挙げられる。
【0059】
<回収ガラス繊維及びガラス繊維鉱物材料のガラス組成>
前記回収ガラス繊維のガラス組成と、前記ガラス繊維鉱物材料のガラス組成とを対比した場合、SiO、Al、B、及びCaOの含有率の差は下記式(1)に示される関係を満たす。すなわち、
S=前記ガラス繊維鉱物材料の全量に対するSiOの含有率(質量%)-前記ガラス繊維強化樹脂成形品から回収されたガラス繊維の全量に対するSiOの含有率(質量%)
A=前記ガラス繊維鉱物材料の全量に対するAlの含有率(質量%)-前記ガラス繊維強化樹脂成形品から回収されたガラス繊維の全量に対するAlの含有率(質量%)
B=前記ガラス繊維鉱物材料の全量に対するBの含有率(質量%)-前記ガラス繊維強化樹脂成形品から回収されたガラス繊維の全量に対するBの含有率(質量%)
C=前記ガラス繊維鉱物材料の全量に対するCaOの含有率(質量%)-前記ガラス繊維強化樹脂成形品から回収されたガラス繊維の全量に対するCaOの含有率(質量%)とすると、
5.2≦S+A-B-C≦46.9 (1)
となる。
ここで、回収ガラス繊維およびガラス繊維鉱物材料の前述した各成分の含有率は、軽元素であるLiについてはICP発光分光分析装置を用いて測定を行うことができ、その他の元素は波長分散型蛍光X線分析装置を用いて測定を行うことができる。
測定方法としては、初めにガラスバッチ(ガラス原料を混合して調合したもの)、又はガラス繊維(ガラス繊維表面に有機物が付着している場合、又はガラス繊維が有機物(樹脂)中に主に強化材として含まれている場合には、例えば300~650℃のマッフル炉で0.5~24時間程度加熱する等して、有機物を除去してから用いる)を白金ルツボに入れ、電気炉中で、ガラスバッチにおいては1550℃で4時間、1650℃で2時間保持して撹拌を加えながら溶融させることにより、ガラス繊維においては1550℃の温度に6時間保持して撹拌を加えながら溶融させることにより、均質な溶融ガラスを得る。次に得られた溶融ガラスをカーボン板上に流し出してガラスカレットを作製した後、粉砕し粉末化してガラス粉末とする。軽元素であるLiについては得られたガラス粉末を酸で加熱分解した後、ICP発光分光分析装置を用いて定量分析する。その他の元素は前記ガラス粉末をプレス機で円盤状に成形した後、波長分散型蛍光X線分析装置を用いて定量分析する。これらの定量分析結果を酸化物換算して各成分の含有量及び全量を計算し、これらの数値から前述した各成分の含有率を求めることができる。
【0060】
前記ガラス繊維鉱物材料のSiO及びAlのそれぞれは、ガラスのネットワークを強固にするから、前記溶融ガラスの紡糸温度の上昇とガラス長繊維の弾性率の向上に寄与する。一方、前記ガラス繊維鉱物材料のB及びCaOのそれぞれは、前記溶融ガラスの粘度を低下させる傾向がある。さらに前記ガラス繊維鉱物材料と前記回収ガラス繊維のガラス組成の差が小さいと、前記回収ガラス繊維に微量残存している有機物及び無機物の影響が相対的に大きくなり、前記溶融ガラスの液相温度及び紡糸温度が上昇する。結果的にS+A-B-Cが上記式(1)を満たすと、リサイクル率を高くし、液相温度の上昇及び前記溶融ガラスの作業温度範囲の狭小化を抑制しつつ、前記溶融ガラスの紡糸温度を低くして、ガラス長繊維を製造できる。S+A-B-Cが5.2未満であると、前記溶融ガラスの液相温度悪化度が高くなりすぎる。一方、S+A-B-Cが46.9より大きいと、前記溶融ガラスの紡糸温度が高くなりすぎる。
具体的には、S+A-B-Cが上記式(1)を満たすと、本実施形態のガラス長繊維の製造方法において、紡糸温度を1400℃以下にでき、溶融ガラスの下記液相温度悪化度を50℃以下にでき、下記作業温度範囲悪化度を80℃以下にできる。
ここで、前記液相温度悪化度は、回収ガラス繊維をガラス繊維鉱物材料からなるガラス原料に混合することで上昇した液相温度を示す。具体的には、回収ガラス繊維を混合して調製されたガラス長繊維の製造方法における溶融ガラスの液相温度と、回収ガラス繊維を混合せずに調製された、ガラス繊維鉱物材料からなるガラス原料から溶融された溶融ガラスの液相温度の差である。
さらに前記作業温度範囲悪化度は、回収ガラス繊維をガラス繊維鉱物材料からなるガラス原料に混合することで狭小化した作業温度範囲を示す。具体的には、回収ガラス繊維を混合せずに調製されたガラス原料から溶融された溶融ガラスの下記作業温度範囲と、回収ガラス繊維を混合して調製されたガラス繊維鉱物材料からなるガラス原料からガラス長繊維の製造方法における溶融ガラスの下記作業温度範囲の差である。
前記作業温度範囲は紡糸温度と液相温度との差である。
【0061】
S+A-B-Cが下記式(2)を満たすことがより好ましい。
10.8≦S+A-B-C≦34.3 (2)
上記式(2)を満たすと、前記溶融ガラスの紡糸温度をより低くして、ガラス繊維の弾性率の低下がより抑制されているガラス長繊維を製造できる。具体的には、本実施形態の長繊維の製造方法により得られるガラス長繊維の弾性率を、標準的なEガラスの弾性率(88GPa)以上にできる。弾性率が88GPa以上のガラス長繊維を含む繊維強化樹脂成形品は、ガラス長繊維の補強効果が十分に得られている繊維強化樹脂成形品である。さらに、本実施形態の長繊維の製造方法において、紡糸温度を1350℃以下にできる。
ここで、ガラス長繊維の弾性率は、以下の方法で測定したヤング率を意味する。まず、ガラス長繊維を1550℃の温度に6時間保持して撹拌を加えながら溶融させることにより、均質な溶融ガラスを得る。次に、得られた溶融ガラスをカーボン板上に流し出し、冷却することでガラスカレットを作製する。次いで、得られたガラスカレットを、切削加工機、例えばダイヤモンドカッターと研磨機を用いて、25mm×25mm×5mmの試験片に加工し、JIS R1602:1995に従って超音波パルス法にて弾性率の指標としてヤング率を測定する。なお、前記ヤング率の値は、前記ガラス長繊維を製造するのに用いられる、回収ガラス繊維とガラス繊維鉱物材料との混合物であるガラス原料、又は、前記ガラス長繊維と同一の組成を備えるように調合されたガラス原料から、以下の方法で得られるガラスカレットを、前記ガラス長繊維を溶融して得られるガラスカレットに代えて用いて測定したヤング率の値と同じ値とみなすことができる。ガラス原料からガラスカレットを得る方法は、まず、ガラス原料を、白金ルツボに入れ、当該白金ルツボを1400~1650℃の範囲の温度の電気炉中に4時間保持し、当該ガラス原料を攪拌しながら溶融し、均質な溶融ガラスを得る。次に、当該溶融ガラスをカーボン板上に流し出し、冷却してガラスカレットを得る。
【0062】
S+A-B-Cが下記式(3)を満たすことが更に好ましい。
14.9≦S+A-B-C≦32.4 (3)
S、A、B及びCが上記式(3)を満たすと、前記溶融ガラスの液相温度の上昇及び作業温度範囲の狭小化を更に抑制して、ガラス長繊維を製造できる。具体的には、本実施形態の長繊維の製造方法において、前記液相温度悪化度を10℃以下、前記作業温度範囲悪化度を30℃以下にできる。
【0063】
S+A-B-Cが下記式(4)を満たすことが特に好ましい。
21.9≦S+A-B-C≦30.4 (4)
S、A、B及びCが上記式(4)を満たすと、前記溶融ガラスの紡糸温度が特に低いガラス長繊維を製造できる。具体的には、本実施形態の長繊維の製造方法において、紡糸温度を1320℃以下にできる。
前記Sは、ガラス長繊維の弾性率向上に寄与するという観点からは、0.5以上であることが好ましく、紡糸温度低減に寄与するという観点からは、12.4以下であることが好ましい。前記Sは、1.9~9.4の範囲がより好ましく、2.4~8.0の範囲が更に好ましく、2.7~7.7の範囲が特に好ましく、5.1~7.5の範囲が最も好ましい。
前記Aは、ガラス長繊維の弾性率向上に寄与するという観点からは、-3.4以上であることが好ましく、紡糸温度低減に寄与するという観点からは13.9以下であることが好ましい。前記Aは、-1.4~9.6の範囲がより好ましく、0.3~8.3の範囲が更に好ましく、0.9~7.5の範囲が特に好ましく、3.0~7.0の範囲が最も好ましい。
前記Bは、紡糸温度低減に寄与するという観点からは、-9.9以上であることが好ましく、ガラス長繊維の弾性率向上に寄与するという観点からは、17.4以下であることが好ましい。前記Bは、-8.9~14.9の範囲がより好ましく、-7.9~9.9の範囲が更に好ましく、-6.9~8.4の範囲が特に好ましく、-5.5~0.0の範囲が最も好ましい。
前記Cは、紡糸温度低減に寄与するという観点からは、-20.0以上であることが好ましく、ガラス長繊維の弾性率向上に寄与するというからは、6.9以下であることが好ましい。前記Cは、-14.9~4.9の範囲がより好ましく、-13.4~5.4の範囲が更に好ましく、-12.5~2.5の範囲が特に好ましく、-9.8~-4.3の範囲が最も好ましい。
【0064】
本実施形態のガラス長繊維は、ガラス長繊維全量に対し、48.00~62.00質量%の範囲のSiOと、12.00~21.40質量%の範囲のAlと、0.10~15.00質量%の範囲のBと、10.00~22.50質量%の範囲のCaOと、1.30~10.00質量%の範囲のMgOと、合計で0.01~10.00質量%の範囲のP、TiO、及びZnOとを含有されるように紡糸される。さらに本実施形態のガラス長繊維は、5.00質量%未満のその他の成分を含む、ないしその他の成分を含まなくてよい。
前記ガラス長繊維のガラス組成が前記範囲であると、汎用的な回収ガラス繊維であるEガラス繊維及び耐酸性ガラス繊維を備える回収ガラス繊維を使用した際に、ガラス繊維鉱物材料と回収ガラス繊維の組成差が小さくなりすぎず、原料のリサイクル率が大きくしたときに、前記溶融ガラスの紡糸温度が低く、前記溶融ガラスの液相温度の上昇及び前記溶融ガラスの作業温度範囲の狭小化が抑制される。
【0065】
本実施形態のガラス長繊維は、ガラス長繊維全量に対し、好ましくは50.00~60.00質量%の範囲のSiOと、13.00~19.00質量%の範囲のAlと、0.30~5.00質量%の範囲のBと、12.00~20.00質量%の範囲のCaOと、2.50~9.00質量%の範囲のMgOと、合計で0.01~9.50質量%の範囲のP、TiO、及びZnOと、その他の成分が0~4.00質量%の範囲で含有されるように紡糸される。
【0066】
本実施形態のガラス長繊維は、ガラス長繊維全量に対し、より好ましくは51.00~59.00質量%の範囲のSiOと、14.00~18.50質量%の範囲のAlと、1.00~4.50質量%の範囲のBと、12.50~19.00質量%の範囲のCaOと、3.00~8.50質量%の範囲のMgOと、合計で0.01~9.00質量%の範囲のP、TiO、及びZnOと、その他の成分が0~3.00質量%の範囲で含有されるように紡糸される。
【0067】
本実施形態のガラス長繊維は、ガラス長繊維全量に対し、更に好ましくは52.00~58.00質量%の範囲のSiOと、14.50~18.00質量%の範囲のAlと、1.50~4.00質量%の範囲のBと、13.00~18.00質量%の範囲のCaOと、3.50~8.00質量%の範囲のMgOと、合計で0.01~8.50質量%の範囲のP、TiO、及びZnOと、その他の成分が0~2.00質量%の範囲で含有されるように紡糸される。
【0068】
なお、P、TiO、及びZnOは、前記ガラス繊維強化樹脂成形品に含まれていた添加剤に含まれる成分である。
【0069】
本実施形態のガラス長繊維において、S、A、B及びCそれぞれの絶対値の合計は、リサイクル率を高めても、溶融ガラスの紡糸性向上に寄与するという観点からは、10.6以上であることが好ましく、溶融ガラスの相分離を防止するという観点からは、46.9以下であることが好ましい。S、A、B及びCそれぞれの絶対値の合計は、より好ましくは12.8~31.1の範囲であり、更に好ましくは17.1~29.9の範囲であり、特に好ましくは18.1~29.4であり、最も好ましくは22.9~28.9の範囲である。
【0070】
本実施形態のガラス長繊維の製造方法の1つの実施形態では、前記ガラス原料を溶融炉に供給し、例えば1400~1650℃の範囲の温度で溶融する。次に、溶融された溶融ガラスを所定の温度に制御された白金ブッシングの1~30000個の範囲の個数のノズルチップから引き出し、急冷して、ガラスフィラメントを形成する。次に、形成されたガラスフィラメントに、塗布装置であるアプリケーターを用いて集束剤又はバインダーを塗布し、集束シューを用いて、1~30000本の範囲のガラスフィラメントを集束させながら、巻取り機を用いてチューブに高速で巻取り、ガラス長繊維を得る。
【0071】
ここで、前記ノズルチップとして、非円形形状を有し、溶融ガラスを急冷する突起部及び切欠部の少なくとも1つを有するノズルチップを使用し、温度条件を制御して扁平な断面形状を備えるガラスフィラメントから構成されるガラス長繊維を得てもよい。
本実施形態の製造方法により得られたガラス長繊維は、少なくとも1000mの長さを備える。
【0072】
本実施形態のガラス長繊維を構成するガラスフィラメントの換算繊維径は、例えば3.0~100.0μmの範囲にあり、好ましくは4.0~70.0mの範囲にあり、より好ましくは5.0~50.0μmの範囲にあり、更に好ましくは6.5μm~40.0μmの範囲にあり、特に好ましくは7.0~30.0μの範囲にある。ここで、ガラスフィラメントの換算繊維径とは、ガラスフィラメントの断面形状の面積と同一の面積をもつ真円の直径を意味する。また、ガラスフィラメントの断面とは、ガラス繊維の繊維長方向に垂直な横断面を意味する。
【0073】
本実施形態のガラス長繊維を構成するガラスフィラメントの断面形状は、通常、円形である。前記ガラスフィラメントが扁平な断面形状を備える場合、その形状としては、例えば長円形、楕円形、及び長方形が挙げられる。ここで、長円形とは長方形の短辺部分を、当該短辺を直径とする半円にそれぞれ置換した形状を意味する。
【0074】
本実施形態のガラス長繊維を構成するガラスフィラメントが扁平な断面形状を備える場合、当該断面における短径に対する長径の比(長径/短径)は、例えば2.0~10.0の範囲にあり、好ましくは3.0~8.0の範囲にある。
【0075】
本実施形態のガラス長繊維は、種々の形態に加工できる。本実施形態のガラス長繊維が加工されてとりうる形態として、チョップドストランドが挙げられる。当該チョップドストランドを構成するガラスフィラメントの本数(集束本数)は、好ましくは1~20000本、より好ましくは50~10000本、更に好ましくは200~8000本である。当該チョップドストランドを構成するガラス長繊維の長さは、好ましくは1.0~100.0mm、より好ましくは1.2~51.0mm、更に好ましくは1.5~30.0mm、特に好ましくは2.0~15.0mm、最も好ましくは2.3~7.8mmである。また、本実施形態のガラス長繊維が加工されてとりうる形態としては、チョップドストランド以外に、例えばガラスフィラメント10~30000本で構成されるガラス長繊維を切断しないロービング、ガラスフィラメント1~20000本で構成されるガラス長繊維を、ボールミル、ヘンシルミキサー等の公知の装置により長さ0.001~0.900mmになるように粉砕したカットファイバーが挙げられる。
【0076】
本実施形態のガラス長繊維を、例えばチョップドストランドに加工し、当該チョップドストランドと熱可塑性樹脂を二軸混練機にて混練し、得られた樹脂ペレットを用いて射出成形してガラス繊維強化樹脂成形品を得ることができる。また、前記ガラス繊維強化樹脂成形品は、射出圧縮成形法、二色成形法、中空成形法、発泡成形法(超臨界流体発泡成形法含む)、インサート成形法、インモールドコーティング成形法、押出成形法、シート成形法、熱成形法、回転成形法、積層成形法、プレス成形法、ブロー成形法、スタンピング成形法、インフュージョン法、ハンドレイアップ法、スプレイアップ法、レジントランスファーモールディング法、シートモールディングコンパウンド法、バルクモールディングコンパウンド法、プルトルージョン法、フィラメントワインディング法等の公知の成形方法を用いて得てもよい。
【0077】
前記ガラス繊維強化樹脂成形品は、例えばスマートフォンに代表される携帯電子機器の筐体、フレーム等の部品、バッテリートレイカバー、センサー、コイルボビン等の自動車電装部品、携帯電子機器以外の電子機器部品、電気接続端子部品等に用いられる。
【0078】
本実施形態のガラス長繊維は、ガラス繊維と樹脂との接着性の向上、ガラス繊維と樹脂との混合物中におけるガラス繊維の均一分散性の向上等を目的として、その表面を有機物で被覆されていてもよい。このような有機物としては、例えばウレタン樹脂、エポキシ樹脂、酢酸ビニル樹脂、アクリル樹脂、変性ポリプロピレン、特にカルボン酸変性ポリプロピレン、(ポリ)カルボン酸、特にマレイン酸と不飽和単量体との共重合体等の樹脂、及びシランカップリング剤が挙げられる。
【0079】
また、本実施形態のガラス長繊維は、前記樹脂又はシランカップリング剤に加えて、潤滑剤、界面活性剤等を含む組成物で被覆されていてもよい。当該組成物は、当該組成物に被覆されていないガラス長繊維の質量を基準として、0.1~2.0質量%の割合で本実施形態のガラス長繊維を被覆する。
【0080】
有機物によるガラス長繊維の被覆は、例えばガラス長繊維の製造工程において、ローラー型アプリケーター等の公知の方法を用いて、前記集束剤又はバインダーをガラス長繊維に塗布して実施する。前記集束剤又はバインダーは、前記樹脂、前記シランカップリング剤又は前記組成物の溶液を含む。前記ガラス長繊維の被覆は、その後、前記樹脂、前記シランカップリング剤又は前記組成物の溶液の塗布されたガラス長繊維を乾燥させ、完了する。
【0081】
ここで、前記シランカップリング剤としては、例えばアミノシラン、クロルシラン、エポキシシラン、メルカプトシラン、ビニルシラン、アクリルシラン、及びカチオニックシランが挙げられる。前記シランカップリング剤は、これらの化合物の1種を使用してもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0082】
前記アミノシランとしては、例えばγ-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-β-(アミノエチル)-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-β-(アミノエチル)-N’-β-(アミノエチル)-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、及びγ-アニリノプロピルトリメトキシシラン等が挙げられる。
【0083】
前記クロルシランとしては、例えばγ-クロロプロピルトリメトキシシラン等が挙げられる。
前記エポキシシランとしては、例えばγ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、及びβ-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン等が挙げられる。
前記メルカプトシランとしては、例えばγ-メルカプトトリメトキシシラン等が挙げられる。
【0084】
前記ビニルシランとしては、例えばビニルトリメトキシシラン、及びN-β-(N-ビニルベンジルアミノエチル)-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン等が挙げられる。
前記アクリルシランとしては、例えばγ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン等が挙げられる。
前記カチオニックシランとしては、例えばN-(ビニルベンジル)-2-アミノエチル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン塩酸塩、及びN-フェニル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン塩酸塩等が挙げられる。
【0085】
前記潤滑剤としては、変性シリコーンオイル、動物油、動物油の水素添加物、植物油、植物油の水素添加物、動物性ワックス、植物性ワックス、鉱物系ワックス、高級飽和脂肪酸と高級飽和アルコールとの縮合物、ポリエチレンイミン、ポリアルキルポリアミンアルキルアマイド誘導体、脂肪酸アミド、及び第4級アンモニウム塩等が挙げられる。前記潤滑剤は、これらの1種を使用してもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0086】
前記動物油としては、例えば牛脂等が挙げられる。
前記植物油としては、例えば大豆油、ヤシ油、ナタネ油、パーム油、及びひまし油等が挙げられる。
前記動物性ワックスとしては、例えば蜜蝋、及びラノリン等が挙げられる。
【0087】
前記植物性ワックスとしては、例えばキャンデリラワックス、及びカルナバワックス等が挙げられる。
前記鉱物系ワックスとしては、例えばパラフィンワックス、及びモンタンワックス等が挙げられる。
前記高級飽和脂肪酸と高級飽和アルコールとの縮合物としては、例えばラウリルステアレート等のステアリン酸エステル等が挙げられる。
【0088】
前記脂肪酸アミドとしては、例えばジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン等のポリエチレンポリアミンと、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸等の脂肪酸との脱水縮合物等が挙げられる。
前記第4級アンモニウム塩としては、例えばラウリルトリメチルアンモニウムクロライド等のアルキルトリメチルアンモニウム塩等が挙げられる。
【0089】
前記界面活性剤としては、ノニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤、及び両性界面活性剤が挙げられる。前記界面活性剤は、これらの1種を使用してもよく、2種類以上を併用してもよい。
前記ノニオン系界面活性剤としては、例えばエチレンオキサイドプロピレンオキサイドアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレン-ブロックコポリマー、アルキルポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレン-ブロックコポリマー、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸モノエステル、ポリオキシエチレン脂肪酸ジエステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、グリセロール脂肪酸エステルエチレンオキサイド付加物、ポリオキシエチレンキャスターオイルエーテル、硬化ヒマシ油エチレンオキサイド付加物、アルキルアミンエチレンオキサイド付加物、脂肪酸アミドエチレンオキサイド付加物、グリセロール脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ペンタエリスリトール脂肪酸エステル、ソルビトール脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、多価アルコールアルキルエーテル、脂肪酸アルカノールアミド、アセチレングリコール、アセチレンアルコール、アセチレングリコールのエチレンオキサイド付加物、及びアセチレンアルコールのエチレンオキサイド付加物等が挙げられる。
【0090】
前記カチオン系界面活性剤としては、例えば塩化アルキルジメチルベンジルアンモニウム、塩化アルキルトリメチルアンモニウム、アルキルジメチルエチルアンモニウムエチルサルフェート、高級アルキルアミン塩(酢酸塩、塩酸塩等)、高級アルキルアミンへのエチレンオキサイド付加物、高級脂肪酸とポリアルキレンポリアミンとの縮合物、高級脂肪酸とアルカノールアミンとのエステルの塩、高級脂肪酸アミドの塩、イミダゾリン型カチオン性界面活性剤、及びアルキルピリジニウム塩等が挙げられる。
【0091】
前記アニオン系界面活性剤としては、例えば高級アルコール硫酸エステル塩、高級アルキルエーテル硫酸エステル塩、α-オレフィン硫酸エステル塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、α-オレフィンスルホン酸塩、脂肪酸ハライドとN-メチルタウリンとの反応生成物、スルホコハク酸ジアルキルエステル塩、高級アルコールリン酸エステル塩、及び高級アルコールエチレンオキサイド付加物のリン酸エステル塩等が挙げられる。
【0092】
前記両性界面活性剤としては、例えばアルキルアミノプロピオン酸アルカリ金属塩等のアミノ酸型両性界面活性剤、アルキルジメチルベタイン等のベタイン型、及びイミダゾリン型両性界面活性剤等が挙げられる。
【実施例
【0093】
以下、本発明を実施例に基づき更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0094】
実施例及び比較例において、各種物性は以下のとおりに測定ないし算出された。
<ガラス組成>
各実施例又は比較例の回収ガラス繊維とガラス繊維鉱物材料との混合物であるガラス原料を白金ルツボに入れ、当該白金ルツボを1400~1650℃の範囲の温度の電気炉中に4時間保持し、当該ガラス原料を攪拌しながら溶融し、均質な溶融ガラスを得た。次に、当該溶融ガラスをカーボン板上に流し出し、冷却して得た塊状のガラスカレットを粉砕し粉末化してガラス粉末とした。当該ガラス粉末をプレス機で円盤状に成形した後、波長分散型蛍光X線分析装置を用いて定量分析した。これらの定量分析結果を酸化物換算して各成分の含有量及び全量を計算し、これらの数値から各成分の含有量を求めた。
【0095】
<紡糸温度>
回転式ブルックフィールド型粘度計付高温電気炉(芝浦システム株式会社製)を用い、白金ルツボ中で、前述の方法で得られた各実施例又は比較例のガラスカレットを溶融し、溶融温度を変化させながら当該電気炉が備える粘度計を用いて連続的に溶融ガラスの粘度を測定し、回転粘度が1000ポイズのときに対応する温度を紡糸温度として測定した。
【0096】
<液相温度>
前述の方法で得られた各実施例又は比較例のガラスカレットを粉砕し、粒径0.5~1.5mmのガラス粒子40gを180×20×15mmの白金製ボートに入れ、1000~1500℃の温度勾配を設けた管状電気炉で8時間以上加熱した。その後、前記管状電気炉から取り出し、偏光顕微鏡で観察して、ガラス由来の結晶(失透)が析出し始めた位置を特定した。管状電気炉内の温度を、B熱電対を用いて実測し、前記結晶が析出し始めた温度を測定して液相温度とした。
【0097】
<作業温度範囲>
紡糸温度と液相温度との差を作業温度範囲として算出した。
【0098】
<弾性率>
前述の方法で得られた各実施例又は比較例のガラスカレットを、切削加工機、例えばダイヤモンドカッターと研磨機を用いて、25mm×25mm×5mmの試験片に加工し、JIS R1602:1995に従って超音波パルス法にて弾性率の指標としてヤング率を測定した。
【0099】
<液相温度悪化度及び作業範囲温度悪化度>
各実施例又は比較例で用いたガラス繊維鉱物材料を、回収ガラス繊維を混合せずに調合してガラス原料を調製し、当該ガラス原料を白金ルツボに入れ、当該白金ルツボを1400~1650℃の範囲の温度の電気炉中に4時間保持し、当該ガラス原料を攪拌しながら溶融し、均質な溶融ガラスを得た。次に、当該溶融ガラスをカーボン板上に流し出し、冷却して塊状のガラスカレットを得、基準ガラスとした。各実施例又は比較例のガラス長繊維の製造方法における溶融ガラスの液相温度から、当該基準ガラスを溶融した溶融ガラスの液相温度を減じた値を液相温度悪化度として算出した。さらに当該基準ガラスを溶融した溶融ガラスの作業範囲温度から、各実施例又は比較例のガラス長繊維の製造方法における溶融ガラスの作業範囲温度を減じた値を作業範囲温度悪化度として算出した。
【0100】
[実施例1]
ガラス繊維強化熱可塑性樹脂成形品を625℃で4時間加熱して、熱可塑性樹脂を焼却したのち、残存したガラス繊維Aを回収した。回収ガラス繊維Aのガラス組成は下記表1に示す通りであり、回収ガラス繊維Aの数平均繊維長は320μmであった。下記表2に示す組成Dを有する、67質量部のガラス繊維鉱物材料Dに、33質量部の回収ガラス繊維Aを混合して、ガラス原料を得た。次に、当該ガラス原料を白金ルツボに入れ、当該白金ルツボを1400~1650℃の範囲の温度の電気炉中に4時間保持し、当該ガラス原料を攪拌しながら溶融し、均質な溶融ガラスを得た。次に、当該溶融ガラスをカーボン板上に流し出し、冷却して塊状のガラスカレットを得、ガラス組成、紡糸温度及び液相温度を測定し、作業温度範囲、液相温度悪化度及び作業範囲温度悪化度を算出した。結果を下記表3に示す。
【0101】
[実施例2]
80質量部のガラス繊維鉱物材料Dに20質量部の回収ガラス繊維Aを混合してガラス原料を得た以外、実施例1と同様の操作を行った。結果を下記表3に示す。
【0102】
[実施例3]
50質量部のガラス繊維鉱物材料Dに50質量部の回収ガラス繊維Aを混合してガラス原料を得た以外、実施例1と同様の操作を行った。結果を下記表3に示す。
【0103】
[実施例4]
下記表1に示すガラス組成を有する回収ガラス繊維Cを回収する以外、実施例1と同様の操作を行った。結果を下記表3に示す。
【0104】
[実施例5]
下記表1に示すガラス組成を有する回収ガラス繊維Bを回収する以外、実施例1と同様の操作を行った。結果を下記表3に示す。
【0105】
[実施例6]
50質量部のガラス繊維鉱物材料Dに50質量部の回収ガラス繊維Bを混合してガラス原料を得た以外、実施例1と同様の操作を行った。結果を下記表3に示す。
【0106】
[実施例7]
下記表2に示す組成Eを有するガラス繊維鉱物材料Eを使用する以外、実施例1と同様の操作を行った。結果を下記表3に示す。
【0107】
[実施例8]
50質量部のガラス繊維鉱物材料Eに50質量部の回収ガラス繊維Aを混合してガラス原料を得た以外、実施例1と同様の操作を行った。結果を下記表3に示す。
【0108】
[実施例9]
30質量部のガラス繊維鉱物材料Dに70質量部の回収ガラス繊維Aを混合してガラス原料を得た以外、実施例1と同様の操作を行った。結果を下記表4に示す。
【0109】
[実施例10]
下記表2に示す組成Fを有するガラス繊維鉱物材料Fを使用する以外、実施例1と同様の操作を行った。結果を下記表4に示す。
【0110】
[実施例11]
下記表2に示す組成Gを有するガラス繊維鉱物材料Gを使用する以外、実施例1と同様の操作を行った。結果を下記表4に示す。
【0111】
[比較例1]
下記表2に示す組成Hを有するガラス繊維鉱物材料Hを使用する以外、実施例1と同様の操作を行った。結果を下記表4に示す。
【0112】
[比較例2]
80質量部のガラス繊維鉱物材料Hに20質量部の回収ガラス繊維Aを混合してガラス原料を得た以外、実施例1と同様の操作を行った。結果を下記表4に示す。
【0113】
[比較例3]
下記表2に示す組成Iを有するガラス繊維鉱物材料Iを使用する以外、実施例1と同様の操作を行った。結果を下記表4に示す。
【0114】
[参考例1]
90質量部のガラス繊維鉱物材料Hに10質量部の回収ガラス繊維Aを混合してガラス原料を得た以外、実施例1と同様の操作を行った。結果を下記表4に示す。
【0115】
【表1】

なお、構成成分の単位は質量%である。
【0116】
【表2】

なお、構成成分の単位は質量%である。組成D~Iのそれぞれを有するガラス繊維鉱物材料D~Iのそれぞれを溶融して得られる溶融ガラスの液相温度、紡糸温度、及び作業温度範囲も表2に示されている。
【0117】
【表3】

なお、構成成分の単位は質量%である。
【0118】
【表4】

なお、構成成分の単位は質量%である。
【0119】
S+A-B-Cが所定範囲より小さい比較例1及び2のガラス長繊維の製造方法における溶融ガラスの液相温度悪化度及び作業温度範囲悪化度は大きかった。比較例1のガラス長繊維の製造方法における溶融ガラスの液相温度はその紡糸温度より高かった。さらにS+A-B-Cが所定範囲より大きい比較例3のガラス長繊維の製造方法における溶融ガラスの液相温度及び紡糸温度は高く、その作業温度範囲は狭かった。
一方、S+A-B-Cが所定範囲の実施例1~11のガラス長繊維の製造方法における溶融ガラスの液相温度及び紡糸温度は低く、作業温度範囲は広く、液相温度悪化度及び作業温度範囲悪化度は小さかった。
【要約】
リサイクル率を大きくし、溶融ガラスの液相温度の上昇及び溶融ガラスの作業温度範囲の狭小化が抑制され、紡糸温度が低いガラス長繊維を製造できる、回収ガラス繊維を使用するガラス長繊維の製造方法を提供する。ガラス長繊維の製造方法が、ガラス繊維強化樹脂成形品から回収されたガラス繊維とガラス繊維鉱物材料を含むガラス原料を溶融して溶融ガラスとするガラス溶融工程と、この溶融ガラスを紡糸して、ガラス長繊維とする紡糸工程を含み、このガラス原料における回収ガラス繊維の含有量が11~75質量%であり、ガラス繊維鉱物材料と回収ガラス繊維におけるSiO、Al、B、及びCaOそれぞれの含有率の差が所定の関係を満たす。