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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-14
(45)【発行日】2023-07-25
(54)【発明の名称】振動伝達装置
(51)【国際特許分類】
   G06F 3/041 20060101AFI20230718BHJP
   H10N 30/20 20230101ALI20230718BHJP
   H10N 30/87 20230101ALI20230718BHJP
【FI】
G06F3/041 480
H10N30/20
H10N30/87
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018089175
(22)【出願日】2018-05-07
(65)【公開番号】P2019197248
(43)【公開日】2019-11-14
【審査請求日】2021-04-19
(73)【特許権者】
【識別番号】519315280
【氏名又は名称】NJコンポーネント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】弁理士法人一色国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大場 佳成
(72)【発明者】
【氏名】小林 亮介
(72)【発明者】
【氏名】三谷 明洋
(72)【発明者】
【氏名】八幡 信隆
(72)【発明者】
【氏名】山中 哲
【審査官】塩屋 雅弘
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-078692(JP,A)
【文献】特開2000-233157(JP,A)
【文献】国際公開第2017/163917(WO,A1)
【文献】特開2015-215820(JP,A)
【文献】特開2013-254522(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B06B 1/00-3/04
G06F 3/01
3/03
3/041-3/04895
H02N 2/00-2/18
H10N 30/20
30/87
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
平板状の振動板に振動を発生させる振動伝達装置であって、
前記振動板の厚さ方向を上下方向とし、当該上下方向と直交する面を水平面として、
前記振動板の下方に配置されたアクチュエーターと、
前記アクチュエーターと前記振動板との間に介在して、前記アクチュエーターの振動を前記振動板に伝達する振動伝達部と、
備え、
前記アクチュエーターは、水平面と平行な平板部と、当該平板部の周縁の複数箇所に、下方に向けて延長する脚部と、前記平板部の少なくとも上下一方の面に貼着される圧電体と、を備え、
前記平板部は、矩形平面形状を有し、
前記平板部の長辺方向を前後方向として、前記脚部は、前記平板部の前後の短辺側に形成され、
前後の前記脚部は、互いに非対称となる形状に形成され、
前記平板部と前記脚部とは一体的な板状の導体からなり、
前記圧電体は、表裏一方の面に電極が形成され、表裏他方の面が前記平板部に貼着され、
当該圧電体と前記平板部とによって圧電素子が構成され、
前記圧電素子は、前記圧電体が水平面内で伸縮することで、前記平板部を撓み振動させ、
前記平板部に上下方向の荷重がかかると、前記脚部が変形し、前記平板部の撓み運動が水平面と平行な揺動運動に変換される、
ことを特徴とする振動伝達装置。
【請求項2】
平板状の振動板に振動を発生させる振動伝達装置であって、
前記振動板の厚さ方向を上下方向とし、当該上下方向と直交する面を水平面として、
前記振動板の下方に配置されたアクチュエーターと、
前記アクチュエーターと前記振動板との間に介在して、前記アクチュエーターの振動を前記振動板に伝達する振動伝達部と、
を備え、
前記アクチュエーターは、水平面と平行な平板部と、当該平板部の周縁の複数箇所に、下方に向けて延長する脚部と、前記平板部の少なくとも上下一方の面に貼着される圧電体と、を備え、
前記平板部は矩形平面を有し、
前記平板部の長辺方向を前後方向として、前記脚部は、前記平板部の前後の短辺側に形成され、
前記平板部と前記脚部とは一体的な板状の導体からなり、
前記圧電体は、表裏一方の面に電極が形成され、表裏他方の面が前記平板部に貼着され、
当該圧電体と前記平板部とによって圧電素子が構成され、
前記圧電素子は、前記圧電体が水平面内で伸縮することで、前記平板部を撓み振動させ、
前記平板部に上下方向の荷重がかかると、前記脚部が変形し、前記平板部の撓み運動が水平面と平行な揺動運動に変換され、
前記圧電体は、間隙を有して、前記平板部の前方と後方とに二つに分割された状態で貼着されている、
ことを特徴とする振動伝達装置。
【請求項3】
請求項2に記載の振動伝達装置であって、前記脚部は、前後非対称となる形状に形成されていることを特徴とする振動伝達装置。
【請求項4】
平板状の振動板に振動を発生させる振動伝達装置であって、
前記振動板の厚さ方向を上下方向とし、当該上下方向と直交する面を水平面として、
前記振動板の下方に配置されたアクチュエーターと、
前記アクチュエーターと前記振動板との間に介在して、前記アクチュエーターの振動を前記振動板に伝達する振動伝達部と、
を備え、
前記アクチュエーターは、水平面と平行な平板部と、当該平板部の周縁の複数箇所に、下方に向けて延長する脚部と、前記平板部の少なくとも上下一方の面に貼着される圧電体と、を備え、
前記平板部は矩形平面を有し、
前記平板部の短辺方向を左右方向として、前記脚部は、前記平板部の前後の短辺側に形成されているとともに、前記平板部から下方に向かって左右方向に斜めに延長して形成され、
前記平板部と前記脚部とは一体的な板状の導体からなり、
前記圧電体は、表裏一方の面に電極が形成され、表裏他方の面が前記平板部に貼着され、
当該圧電体と前記平板部とによって圧電素子が構成され、
前記圧電素子は、前記圧電体が水平面内で伸縮することで、前記平板部を撓み振動させ、
前記平板部に上下方向の荷重がかかると、前記脚部が変形し、前記平板部の撓み運動が水平面と平行な揺動運動に変換される、
ことを特徴とする振動伝達装置。
【請求項5】
平板状の振動板に振動を発生させる振動伝達装置であって、
前記振動板の厚さ方向を上下方向とし、当該上下方向と直交する面を水平面として、
前記振動板の下方に配置されたアクチュエーターと、
前記アクチュエーターと前記振動板との間に介在して、前記アクチュエーターの振動を前記振動板に伝達する振動伝達部と、
前記アクチュエーターは、水平面と平行な平板部と、当該平板部の周縁の複数箇所に、下方に向けて延長する脚部と、前記平板部の少なくとも上下一方の面に貼着される圧電体と、を備え、
前記平板部は円形の平面を有し、
前記脚部は、前記平板部の周縁に等角度間隔で三箇所以上に形成され、
複数の前記脚部は、下方に向かって当該平板部の円周に沿う同方向に斜めに延長して形成され、
前記平板部と前記脚部とは一体的な板状の導体からなり、
前記圧電体は、表裏一方の面に電極が形成され、表裏他方の面が前記平板部に貼着され、
当該圧電体と前記平板部とによって圧電素子が構成され、
前記圧電素子は、前記圧電体が水平面内で伸縮することで、前記平板部を撓み振動させ、
前記平板部に上下方向の荷重がかかると、前記脚部が変形し、前記平板部の撓み運動が、当該平板部の円周に沿って回転する揺動運動に変換される、
ことを特徴とする振動伝達装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、利用者によるタッチ入力に応動して振動を出力する振動伝達装置に関する。
【背景技術】
【0002】
振動伝達装置は、例えば、利用者がタッチパネルに表示されているボタンを模した図案に触れたとき、ボタンを押し込んだことを振動によって利用者に認知させる。周知のごとく、振動伝達装置は、タッチパネルやガラス基板などの平板状の振動板を、圧電素子や偏心モータを用いて振動させる。また、その振動の周波数や振幅を変えることで、物の形状や表面の手触りなどの「触感」を発生させる振動伝達装置もある。なお、以下の特許文献1には、触感を出力する装置の原理などについて記載されている。また、特許文献2や3には、振動板の振幅を増幅させるための技術について記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2007-122501号公報
【文献】特開2007-300426号公報
【文献】国際公開第2017/163917号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
振動伝達装置では、利用者がタッチパネルに表示されているボタンなどの図案、あるいは実際のプッシュボタンなどの「ある物」に触れた瞬間に、その「ある物」に触れたことを利用者に認知させたり、その「ある物」の立体感や手触りなどの触感を出力したりすることが要求される。すなわち、入力信号に対して速い応答速度が必要となる。また、振動伝達装置では、利用者に、振動や触感をより明瞭に伝えるために、振動板をより大きな振幅で振動させることも必要となる。
【0005】
上記の高速応答性については振動の発生源(以下、振動源)を適切に選ぶ必要がある。振動源としては圧電素子や偏心モータがあるが、偏心モータは応答速度が遅いため、触感に大きな違和感が生じる。したがって、振動源としては、圧電素子を用いることが現実的である。しかし、圧電素子は、偏心モータと比較するとそれ単体では大きな振幅が得られない。そこで、上記特許文献2や3に記載の共振構造とともに使用することで振幅を大きくすることが考えられる。
【0006】
ところで、タッチパネルなどを振動板として用いる振動伝達装置では、利用者によって振動板が押圧されるなどして荷重がかかっている状態で、その振動板を振動させることになる。そのため、荷重がかかっていない状態では、共振構造を用いて大きな振動を発生させることができても、実際に利用者に大きな振動を伝達することが難しい。もちろん、荷重がかかっていても、より大きな振動を発生させれば振動が利用者に伝達される。しかし、その大きな振動を発生させるためには、圧電素子をより高い電圧で駆動したり、より大型の共振構造を採用したりする必要がある。
【0007】
そこで本発明は、圧電素子の駆動電圧を大きくしたり、大きな共振構造を設けたりすることなく、明瞭な振動を利用者に伝達できる振動伝達装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するための本発明の一態様は、平板状の振動板に振動を発生させる振動伝達装置であって、
前記振動板の厚さ方向を上下方向とし、当該上下方向と直交する面を水平面として、
前記振動板の下方に配置されたアクチュエーターと、
前記アクチュエーターと前記振動板との間に介在して、前記アクチュエーターの振動を前記振動板に伝達する振動伝達部と、
備え、
前記アクチュエーターは、水平面と平行な平板部と、当該平板部の周縁の複数箇所に、下方に向けて延長する脚部と、前記平板部の少なくとも上下一方の面に貼着される圧電体と、を備え、
前記平板部は、矩形平面形状を有し、
前記平板部の長辺方向を前後方向として、前記脚部は、前記平板部の前後の短辺側に形成され、
前後の前記脚部は、互いに非対称となる形状に形成され、
前記平板部と前記脚部とは一体的な板状の導体からなり、
前記圧電体は、表裏一方の面に電極が形成され、表裏他方の面が前記平板部に貼着され、
当該圧電体と前記平板部とによって圧電素子が構成され、
前記圧電素子は、前記圧電体が水平面内で伸縮することで、前記平板部を撓み振動させ、
前記平板部に上下方向の荷重がかかると、前記脚部が変形し、前記平板部の撓み運動が水平面と平行な揺動運動に変換される、
ことを特徴とする振動伝達装置としている。
【0009】
平板状の振動板に振動を発生させる振動伝達装置であって、
前記振動板の厚さ方向を上下方向とし、当該上下方向と直交する面を水平面として、
前記振動板の下方に配置されたアクチュエーターと、
前記アクチュエーターと前記振動板との間に介在して、前記アクチュエーターの振動を前記振動板に伝達する振動伝達部と、
を備え、
前記アクチュエーターは、水平面と平行な平板部と、当該平板部の周縁の複数箇所に、下方に向けて延長する脚部と、前記平板部の少なくとも上下一方の面に貼着される圧電体と、を備え
前記平板部は矩形平面を有し、
前記平板部の長辺方向を前後方向として、前記脚部は、前記平板部の前後の短辺側に形成され、
前記平板部と前記脚部とは一体的な板状の導体からなり、
前記圧電体は、表裏一方の面に電極が形成され、表裏他方の面が前記平板部に貼着され、
当該圧電体と前記平板部とによって圧電素子が構成され、
前記圧電素子は、前記圧電体が水平面内で伸縮することで、前記平板部を撓み振動させ、
前記平板部に上下方向の荷重がかかると、前記脚部が変形し、前記平板部の撓み運動が水平面と平行な揺動運動に変換され、
前記圧電体は、間隙を有して、前記平板部の前方と後方とに二つに分割された状態で貼着されている、
ことを特徴とする振動伝達装置とすることもできる。さらに、前記脚部が、前後非対称となる形状に形成されている振動伝達装置とすれば好ましい。
【0010】
平板状の振動板に振動を発生させる振動伝達装置であって、
前記振動板の厚さ方向を上下方向とし、当該上下方向と直交する面を水平面として、
前記振動板の下方に配置されたアクチュエーターと、
前記アクチュエーターと前記振動板との間に介在して、前記アクチュエーターの振動を前記振動板に伝達する振動伝達部と
を備え、
前記アクチュエーターは、水平面と平行な平板部と、当該平板部の周縁の複数箇所に、下方に向けて延長する脚部と、前記平板部の少なくとも上下一方の面に貼着される圧電体と、を備え、
前記平板部は矩形平面を有し、
前記平板部の短辺方向を左右方向として、前記脚部は、前記平板部の前後の短辺側に形成されているとともに、前記平板部から下方に向かって左右方向に斜めに延長して形成され
前記平板部と前記脚部とは一体的な板状の導体からなり、
前記圧電体は、表裏一方の面に電極が形成され、表裏他方の面が前記平板部に貼着され、
当該圧電体と前記平板部とによって圧電素子が構成され、
前記圧電素子は、前記圧電体が水平面内で伸縮することで、前記平板部を撓み振動させ、
前記平板部に上下方向の荷重がかかると、前記脚部が変形し、前記平板部の撓み運動が水平面と平行な揺動運動に変換される、
ことを特徴とする振動伝達装置であってもよい。
【0011】
平板状の振動板に振動を発生させる振動伝達装置であって、
前記振動板の厚さ方向を上下方向とし、当該上下方向と直交する面を水平面として、
前記振動板の下方に配置されたアクチュエーターと、
前記アクチュエーターと前記振動板との間に介在して、前記アクチュエーターの振動を前記振動板に伝達する振動伝達部と
前記アクチュエーターは、水平面と平行な平板部と、当該平板部の周縁の複数箇所に、下方に向けて延長する脚部と、前記平板部の少なくとも上下一方の面に貼着される圧電体と、を備え、
前記平板部は円形の平面を有し、
前記脚部は、前記平部の周縁に等角度間隔で三箇所以上に形成され、
複数の前記脚部は、下方に向かって当該平板部の円周に沿う同方向に斜めに延長して形成され
前記平板部と前記脚部とは一体的な板状の導体からなり、
前記圧電体は、表裏一方の面に電極が形成され、表裏他方の面が前記平板部に貼着され、
当該圧電体と前記平板部とによって圧電素子が構成され、
前記圧電素子は、前記圧電体が水平面内で伸縮することで、前記平板部を撓み振動させ、
前記平板部に上下方向の荷重がかかると、前記脚部が変形し、前記平板部の撓み運動が、当該平板部の円周に沿って回転する揺動運動に変換される
ことを特徴とする振動伝達装置とすることもできる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、圧電素子の駆動電圧を大きくしたり、大きな共振構造を設けたりすることなく、明瞭な振動を利用者に伝達できる振動伝達装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の実施例に係る振動伝達装置の構造を示す図である。
図2】上記実施例に係る振動伝達装置をばねに置き換えたときの図である。
図3】上記実施例に係る振動伝達装置の振動状態を示す図である。
図4】実施例に係る振動伝達層が備える振動伝達部の効果を確認するための振動伝達装置(比較装置)を示す図である。
図5】実施例に係る振動伝達層が備える振動伝達部の効果を確認するための振動伝達装置(評価装置)を示す図である。
図6】上記比較装置と評価装置における振動特性の測定点を示す図である。
図7】実施例に係る振動伝達装置が備える脚部の効果を確認するためのアクチュエーターを示す図である。
図8図7に示したアクチュエーターの振動特性を示す図である。
図9】本発明の実施例に係る振動伝達装置が備えるアクチュエーターの変形例を示す図である。
図10】その他の実施例に係る振動伝達装置が備える圧電素子のシミュレーション用モデルを示す図である。
図11】上記シミュレーションの結果を示す図である。
図12】本発明のその他の実施例に係る振動伝達装置が備えるアクチュエーターを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の実施例について、以下に添付図面を参照しつつ説明する。なお、以下の説明に用いた図面において、同一または類似の部分に同一の符号を付して重複する説明を省略することがある。図面によっては説明に際して不要な符号を省略することもある。
【0015】
===本発明の実施例===
本発明の実施例に係る振動伝達装置では、振幅を大きくするために、圧電素子を振動源としたアクチュエーターの振動をガラス板などの振動板に伝達する。また、振動板が押圧されるなどして、振動板に荷重がかかっている状態であっても、アクチュエーターがその荷重方向に対して交差する方向に振動し、振動板を自身の法線方向以外にも振動させることができるようになっている。
【0016】
図1に、本発明の実施例に係る振動伝達装置1の基本構造を示した。図1(A)は、振動伝達装置1の構造を示す斜視図であり、図1(B)は、振動伝達装置の側面図であり、図1(A)において、図中白抜き矢印の方向から見たときの図に対応している。また、図1(C)は、実施例に係る振動伝達装置1が備えるアクチュエーター2を示す平面図であり、図1(A)において、図中、黒塗り矢印の方向から見たときの図に対応している。
【0017】
実施例に係る振動伝達装置1は、図1(A)に示したように、ガラス板などからなる平板状の振動板と、振動を発生させるアクチュエーター2と、アクチュエーター2の振動を振動板3に伝達する振動伝達部と、アクチュエーター2が固定される台座5とから構成されている。ここで、平板状の振動板3の厚さ方向を上下方向とするとともに、利用者が振動板3の上面31を触れることで振動や触感を認識することとして、上下の各方向を規定すると、図1(B)に示したように、アクチュエーター2は、振動板3の下方に配置され、上下方向を法線方向とする面を有する平板部21の少なくとも上下一方の面に圧電体22が貼着されてなる圧電素子23と、平板部21の周縁の複数箇所に下方に延長する脚部24とから構成されている。
【0018】
平板部21と脚部24とは一体的に形成されており、本実施例では、矩形平板状のステンレス板において互いに対向する二つの縁辺側を下方に屈曲することで脚部24が形成されている。ここで、脚部24が、平板部21の前縁辺および後縁辺に接続していることとして、前後方向を規定し、上下および前後の各方向と直交する方向を左右方向とすると、前方および後方の脚部24の下端は、平板部21と平行となるように、後方および前方に向かって屈曲し、その屈曲した先端部分25は、平板部21と平行になっている。そして、その先端部分25の下面が台座5の上面に接着などの方法で固定されている。
【0019】
また、本実施例では、電極付きの圧電体22が平板部21の上面と下面とにエポキシ系接着剤によって接着され、平板部21と圧電体22とによってバイモルフ型の圧電素子23が形成されている。アクチュエーター2の平板部21と振動板3との間には、振動伝達部4が介在している。振動伝達部4は、柱状の部材で、上面と下面が、それぞれ、振動板2の下面と圧電素子23の上面とに接着されている。それによって、アクチュエーター2にて発生させた振動が振動板3に伝達される。振動伝達部4の素材としては、ある程度の剛性を有する樹脂が考えられる。高い弾性を有する素材では、アクチュエーター2の振動が吸収されてしまう。本実施例では、ポリプロピレン製の振動伝達部4を用いている。
【0020】
図1(C)は圧電素子23の具体的な構造を示しており、図1(C)に示したように、圧電体22は、表裏一方の面に、銀ペーストを焼き付けてなる薄膜状の電極122を備え、表裏他方の面が平板部21に貼着されている。圧電体22は、平板部21と脚部24とを構成するステンレス板と電極122との間に電圧が印加されると、前後方向に伸縮する。それによって、圧電素子23が、前端と後端を節として撓み運動をする。
【0021】
そして、上記構成を備えた実施例に係る振動伝達装置1では、圧電素子23が発生させた振動が振動伝達部4によって増幅されて振動板3に伝達されるようになっている。また、振動伝達装置1は、脚部24により、振動板3が利用者によって押圧されるなどして振動板3に荷重がかかっている状態でも、振動の減衰を抑制し、振動板3を確実に振動させる減衰抑制機能を備えている。さらに、脚部24が板バネとして機能するため、図2に示したように、アクチュエーター2が、平板部21によるばね101と脚部24によるばね102とを合成した直列ばね100として作用し、より現実感のある触感を再現するための複雑な振動を発生させることが可能となる。
【0022】
図3に、実施例に係る減衰抑制機能の概略を示した。図3(A)と図3(B)に示したように、振動板3に荷重がかかっていない状態では、圧電素子23は面内方向に伸縮し、それに伴ってアクチュエーター2の平板部21は撓み運動をする。それによって、振動板3は、振動伝達部4を介して上下方向に振動する。一方、振動板2が押圧されるなどして、振動板3における上下方向の振動が抑制されると、図3(C)に示したように、アクチュエーター2の脚部24において、台座5に固定されている下端部分の基部124を支点にして前後に揺動する。それによって、圧電素子23により平板部21に発生した撓み運動が、前後方向の振動に変換される。すなわち、平板部21における撓み運動が、上下方向と直交する水平面内の振動成分を含む運動に変換される。
【0023】
===特性評価===
実施例に係る振動伝達装置1では、振動伝達部4が、主に上下方向の振幅を増幅させ、脚部24が、振動板3に荷重がかかっている状態での振幅の減衰を抑制させる。そこで、次に、振動伝達部4による振動特性と、脚部24による振動特性とを個別に評価することとした。
【0024】
<振動伝達部による振幅増幅作用>
まず、振動伝達部4による振幅の増幅作用を確認するために、振動板3に直接圧電体22を貼着した振動伝達装置(以下、比較装置)と、振動伝達部4を介して振動板3を振動させるように構成した振動伝達装置(以下、評価装置)とを作製した。図4に比較装置(1a、1b)の構造を示した。図4では、図1図3と同様に、振動板3の厚さ方向を上下方向とし、振動板3の上面31に触れる利用者の手指などに振動を伝達することとしている。そして、図4(A)と図4(B)は、比較装置(1a、1b)を上下方向から見たときの図であり、図4(C)は、比較装置(1a、1b)を上下方向と直交する方向から見たときの側面図である。そして、図4(D)は、比較装置(1a、1b)に用いられている圧電素子の構造を示している。
【0025】
図4(A)、(B)、(C)を参照すると、比較装置(1a、1b)は、長さL1=140mm、幅W1=23mm、厚さ1mmの矩形平面形状を有するガラス板を振動板3としている。振動板3の四隅には、直径2.1mmのピン6が挿通された状態で固定されている。振動板3の長辺方向を前後方向とし、短辺方向を左右方向とすると、比較装置(1a、1b)は、振動板3の前端側と後端側とに、前後に長い帯状の圧電素子(23a、23b)が左右方向に並んで貼着された構造を有している。そして、図4(C)に示したように、圧電素子(23a、23b)は、振動板3の上面にエポキシ系の接着剤などを用いて接着されている。また、ピン6の下端が台座5に固定されている。
【0026】
図4(A)と図4(B)とに示した比較装置(1a、1b)の違いは、圧電素子(23a、23b)の数であり、図4(A)に示した比較装置(以下、第1比較装置1aとも言う)の圧電素子23aは、長さL2=27mm、幅W2=4mm、厚さ0.15mmの圧電体の表面に選択的に薄膜状の電極が形成された構造を有している。そして、その圧電素子23aが、振動板3の上下両面の前後両端側に、それぞれ2個ずつエポキシ系接着剤により貼着されて、合計8個の圧電素子23aを備えている。
【0027】
また、図4(B)に示した比較装置(以下、第2比較装置1bとも言う)は、振動板3の上下両面の前後両端側に、それぞれ3個の圧電素子23bが貼着され、合計12個の圧電素子23bを備えている。そして、第2比較装置1bの圧電素子23bは、第1比較装置1aは、圧電素子23aと同じ長さL2=27mmを有しているが、左右両側の圧電素子23bの左右幅W3が第1比較装置1aのW2=4mmに対して、W3=3mmとなっている。なお、左右中央の圧電素子23bは、第1比較装置1aの圧電素子23aと同じ左右幅W2=4mmを有している。
【0028】
第1比較装置1aおよび第2比較装置1bが備える圧電素子23aは、図4(D)に示したように、厚さt=0.15mmのPZTからなる圧電体22の表裏両面(221,223)に銀ペーストを焼き付けてなる電極(123、124)が形成された構造であり、図4(D)では、電極(123、124)を斜線のハッチングで示している。また、以下では、圧電素子(23a、23b)における電極(123、124)の厚さを無視することとする。
【0029】
圧電体22の表裏一方の面221の全面に形成されている電極124は、圧電体22の前後一方の端面222を介して表裏他方の面223にまで連続し、その表裏他方の面223の前後一方の端部側の一部を覆っている。この例では、前後一方の端部からD1=3mmの位置まで覆っている。そして、圧電体22の表裏一方の面221には、この面221から他方の面223まで連続する電極124の端部と間隙125を介して前後他方の縁辺にまで電極124が形成されている。この例では、間隙125の幅D2=1.5mmであり、この間隙125を介して前後他方の縁端まで前後長D3=22.5mmの領域に渡って電極124が形成されている。そして、圧電素子(23a、23b)は、全面に電極123が形成されている面221が振動板3に貼着されている。そして、圧電体22の表裏他方の面223に形成されている二つの電極123と124間に電圧を印加すると、圧電体22は、上下両面で電極(123、124)が対面する領域に上下方向の電圧が印加され、前後方向に伸縮するように振動する。それによって、振動板3の前後両端側が撓み、振動板3は、上下方向を振幅方向として波状に振動する。なお、第1比較装置1aにおける圧電素子23aの実質的な総面積は、
8個×22.5mm×4mm=720mm
となる。また、第2比較装置における圧電素子の実質的な総面積は、
8個×22.5mm×3mm+4個×22.5mm×4mm=900mm
となる。
【0030】
次に、評価装置の構造について説明する。図5に評価装置1cの構造を示した。図5(A)は、評価装置を情報から見たときの平面図であり、図5(B)は、評価装置を左右方向から見たときの側面図である。そして図5(C)は、評価装置に用いられている圧電素子を示す平面図である。図5(A)、(B)に示したように、評価装置1cは、比較装置(1a、1b)と同様に、長さL1=140mm、幅W1=23mm、厚さ1mmの矩形平面形状を有するガラス板を振動板3としている。また、振動板3の四隅に直径2.1mmのピン6が挿通された状態で固定され、そのピン6の下端が台座に固定されている点も比較装置(1a、1b)と同様である。
【0031】
しかし、評価装置1cでは、振動板3の前端側と後端側の下方に、それぞれ、矩形平面形状を有する圧電素子23cが配置されており、その圧電素子23cの上面と振動板3の下面との間にポリプロピレンからなる柱状の振動伝達部4が介在している。なお、振動伝達部4は、圧電素子23cの上面と振動板3の下面とに接着されている。また、圧電素子23cは、矩形平面形状を有し、下面の前端と後端側がアクリル樹脂製の台7の上に載置された状態で固定されている。そして、その台7が台座5に固定されている。
【0032】
評価装置1cには、ユニモルフ型の圧電素子23cを備えたものと、バイモルフ型の圧電素子23cを備えたものとを用意した。圧電素子23cは、図5(C)に示したように、前後方向を長辺方向とした矩形平面形状を有するステンレス板121の上面あるいは上下両面に、矩形平面形状を有する圧電体が貼着されてなる。圧電体22の表裏一方の面には、図中斜線のハッチングで示した領域に電極126が形成され、電極126が形成されていない表裏他方の面がステンレス板121に貼着されている。圧電体22は、ステンレス板121と電極126との間に電圧が印加されると、前後方向に伸縮する。それによって、圧電素子23cが、前端と後端を節として撓み運動をする。なお、ステンレス板121は、前後長L3=27mm、左右幅W3=13mm、厚さ0.05mmであり、圧電体22は、ステンレス板121と同じ左右幅W3を有するとともに、前後長L4=21mm、厚さ=0.15mmで、ステンレス板121の前後中央に配置されている。電極126は、ステンレス板121と接触しないように、圧電体22の周縁が外方に露出するように圧電体22の平面形状に沿う矩形状に形成されている。したがって、評価装置1cが備える圧電素子23cの実質的な面積は、電極126の面積となる。そして、その面積は、ユニモルフ型の圧電素子23cを備えた評価装置1cでは、第1比較装置1aにおける圧電素子23aの8個分の面積と同じであり、バイモルフ型の圧電素子23cを備えた評価装置1cでは、第2比較装置1bにおける圧電素子23bの12個分の面積と同じである。
【0033】
そして、上述した構造を有する、比較装置(1a、1b)および評価装置1cをサンプルとして、各サンプルの振動特性を評価した。ここでは、比較装置(1a、1b)については、圧電素子(23a、23b)に、最大電圧と最小電圧との差(以下、電圧とも言う)が200Vpp、周波数が200Hzの正弦波を印加して振動板3を振動させ、評価装置1cについては、圧電素子23cに、電圧100Vpp、周波数200Hzの正弦波を印加して振動板3を振動させた。そして、振動板3の上面の複数箇所の測定点における振幅を、レーザードップラー計を用いて測定した。図6に、振動板3の上面における上記測定点を示した。図6に示したように、上方から見たときに、測定点A~Fを、振動板3を左右に二等分する線110上に設けた。具体的には、前後一方の縁端から15mmの距離d1にある測定点A、当該測定点Aから15mmの距離d2にある測定点B、および測定点Bから前後他方に向けて10mm間隔で前後中央の測定点Fまで、測定点C、Dを設けた。
【0034】
以下の表1に各サンプルにおける各測定点での振幅を示した。
【0035】
【表1】
表1において、サンプル1は第1比較装置1aであり、サンプル2は第2比較装置1bである。サンプル3はユニモルフ型の圧電素子23cを備えた評価装置1cであり、サンプル4はバイモルフ型の圧電素子23cを備えた評価装置1cである。表1に示したように、サンプル1とサンプル2は、圧電素子(23a、23b)の総面積が、それぞれ、サンプル3とサンプル4と同じであり、また、駆動電圧が、サンプル3とサンプル4の1/2であるが、全ての測定点A~Fにおいて評価装置1cのサンプルの方が、振幅が大きかった。サンプル2の圧電素子23の総面積と駆動電圧は、それぞれ、サンプル3の圧電素子23cの面積と駆動電圧の2倍であるが、それでも評価装置1cであるサンプル3の方が大きな振幅が得られた。そして、バイモルフ型の圧電素子23cを備えた評価装置1cであるサンプル4は、振動板3の中心位置である測定点Fで、サンプル2の振幅の10倍以上の141μmの振幅が得られた。以上により、振動伝達部4による振動増幅作用が確認できた。
【0036】
<脚部による減衰抑制機能>
次に、脚部24による減衰抑制機能による効果(減衰抑制効果)を確認するために、脚部24の有無や脚部24の形状が異なる各種アクチュエーターを作製し、各アクチュエーターの振動特性を調べた。図7に、減衰抑制効果を確認するためのアクチュエーター(2a~2c)を示した。図7(A)に示したアクチュエーター2cは、図5に示した評価装置1cから、振動板3と振動伝達部4とを省略した構成と同様であり、圧電素子23cはバイモルフ型となっている。また、圧電素子23cのサイズは、図5に示した評価装置1cのものと同じである。
【0037】
図7(B)に示したアクチュエーター2aは、図1に示した振動伝達装置1が備えるアクチュエーター2と同様の構造を有している。そして、図7(C)に示したアクチュエーター2bは、図7(B)に示したアクチュエーター2aに対し、前後一方の脚部24bの左右幅が他方の脚部24の左右幅の1/2となっている。それによって、前後方向に振動し易いように構成されている。なお、図7(B)、(C)に示したアクチュエーター(2、2b)において、平板部21と圧電体22とによって構成される圧電素子23のサイズは、図7(A)に示したアクチュエーター2cの圧電素子23cと同様である。また、脚部24は、高さH1=0.2mmであり、脚部24の下端において台座5に固定されているL字型の先端部分25の前後長L5はL5=0.5mmである。
【0038】
そして、図7(A)、(B)、および(C)に示したアクチュエーター(2c、2a、2b)について、ステンレス板121や平板部21の上面に貼着されている圧電素子(23c、23)に錘を乗せて荷重をかけた。次いで、荷重がかかった状態で、圧電素子(23c、23)を振動させ、平板部の平面領域の中央部分における上下方向および前後方向の振幅を測定した。
【0039】
表2に、アクチュエーターの構造による、荷重と振動特性との関係を示した。
【0040】
【表2】
表2において、サンプル5、6、および7は、それぞれ、図7(A)、(B)、および(C)に示したアクチュエーター(2a、2b、2c)に対応している。そして、表2に示したように、全てのサンプルにおいて、荷重が増えるのに従って、上下方向の振幅が小さくなっていく。振動板を備えた実際の振動伝達装置では、利用者が振動板を指で押さえることになり、その指で押されたときの荷重では、振動板は、上下方向の振幅が極めて小さくなると考えられる。そして、表2に示したように脚部24がないサンプル5では、荷重が0gfのときでは、前後方向の振幅がなく、100gfの荷重をかけたときにも、2.3μmの振幅しか得られなかった。一方、同じ左右幅の脚部24を前後に設けたサンプル6では、荷重が100gfのときの前後方向の振幅が、荷重が0gfのときに対して、7.6μm増加した。そして、前後一方の脚部24bの左右幅を細くしたサンプル7では、荷重が100gfのときの前後方向の振幅が、荷重が0gfのときに対して、11.3μmも増加した。
【0041】
図8に、各サンプルにおける荷重と振幅との関係をグラフにして示した。図8(A)は、荷重と上下方向の振幅との関係を示しており、図8(B)は、荷重と前後方向の振幅との関係を示している。図8(A)に示すように、上下方向の振幅は、サンプル5、6、7の順で、荷重に対する振幅の減衰傾向が緩やかになっており、図中点線で示したように、各サンプルとも、130gf程度の荷重で上下方向の振幅がなくなると予想される。一方、図8(B)に示したように、前後方向の振幅は、脚部24を設けたサンプル6、7では、荷重に対する振幅に明らかな増加傾向が確認でき、上下方向に振動しなくなる130gfの荷重がかかった状態でも10μm以上の振幅が見込まれる。しかし、脚部24のないサンプル5では、100gfの荷重がかかった状態では、前後方向の振幅が2μm程度と極めて小さい。そして、前後一方の脚部24bが細く、より前後方向に振動し易いサンプル7では、100gfの荷重がかかった状態で、前後方向に15μm以上の振幅が得られた。
【0042】
以上より、実施例に係る振動伝達装置1では、上述した振動伝達部4による振幅増幅効果と脚部24による減衰抑制効果とにより、利用者によって振動板3が押圧された状態でも、効果的に上下方向の振動が前後方向の振動に変換されて、利用者に振動を明確に伝達することが可能となる。
【0043】
===その他の実施例===
上記実施例に係る振動伝達装置1では、脚部24を備えたアクチュエーター2が平板部21を大きく撓ませる。また、利用者によって振動板3が下方に押圧されると、平板部21が下方に大きく撓む。そして、平板部21が大きく撓むと、その平板部21に貼着されている圧電体22には大きな応力がかかり、圧電体22が破損する可能性がある。そこで、上記実施例に係る振動伝達装置1のアクチュエーター2の変形例として、平板部21が大きく撓んでも圧電体22の破損を確実に防止できるアクチュエーターを挙げる。
【0044】
図9に、変形例に係るアクチュエーター2dを示した。図9(A)は、アクチュエーター2dを上方から見たときの平面図であり、図9(B)はアクチュエーター2dを左右方向から見たときの側面図である。図9(A)、(B)に示したように、アクチュエーター2dは、平板部21の表面に貼着されている圧電体22が、前後に二分割されている。具体的には、矩形平面形状を有する平板部21の前方と後方に、同じ平面形状を有する二つの圧電体22が貼着されている。そして、二つの圧電体22は、間隙26を介して平板部21に対して前後対称となるように配置されている。なお、ここに示した圧電素子23dは、図9(B)に示したように、平板部21の上面と下面とに、それぞれ二つの圧電体22が貼着されて、合計四個の圧電体22からなるバイモルフを構成している。この圧電素子23dを駆動すると、圧電体22が前後方向に伸縮し、平板部21は、前後中央の間隙のある位置を腹として撓み運動をする。そして、平板部21の前後中央の位置には圧電体22がないため、圧電体22に大きな応力がかからず、圧電体22の破損を防止することができる。
【0045】
次に、図9に示したアクチュエーター2dにおける圧電体22の耐久性をシミュレーションを用いて調べた。図10は、シミュレーションに用いたモデルを示している。図10(A)は、シミュレーションに用いた圧電素子23eの平面図であり、図10(B)は、その圧電素子23eの側面図である。また、図10(C)は、シミュレーションによって求めた圧電素子23eの特性を説明するための図である。シミュレーションには、圧電素子23eの特性解析として周知の有限要素法を用いた。そして、図10(A)、(B)に示したように、シミュレーションでは、前後長L6=25mm、左右幅W4=5mm、厚さ0.2mmのステンレス板121の上面と下面のそれぞれに、ステンレス板121と同じ幅と厚さの二つの圧電体22が、間隙26を介して、前方と後方とに貼着されて、合計四個の圧電体22を備えたバイモルフで構成される圧電素子23eの特性を調べた。なお、圧電素子23eの厚さt2は、t2=0.6mmとし、電極の厚さは無視している。そして、間隙26の幅D4が異なる圧電素子23eを30Vppの電圧で駆動したときの特性をシミュレーションにより求めた。なお、シミュレーションでは、図10(C)に示したように、上下方向の変位δと、図中点線の楕円で示した、圧電体22における間隙26側の端部27の応力σとを求めた。
【0046】
図11に上記シミュレーションの結果を示した。図11(A)は、間隙26の幅D4(mm)と応力σ(MPa)との関係を示す図であり、図11(B)は、間隙26の幅D4(mm)と変位δ(mm)との関係を示す図である。また、図11(C)は、ステンレス板121の前後長L6に対する間隙26の幅D4の割合D4/L6と、変位δおよび応力σの減少率との関係を示している。図11(A)、(B)に示したように、間隙26の幅D4が大きくなるほど変位δと応力σがともに小さくなっていく。そして図11(C)に示したように、間隙26の割合D4/L6と変位δの減少率との関係がほぼ比例しているのに対し、間隙26の割合D4/L6と応力σとの関係は、圧電素子23eが間隙26のない(D4=0)、一体的な圧電体22で構成されている場合に対し、間隙26の割合D4/L6が5%以下のときは、応力が大きく減少する傾向がある。そして、間隙26の割合D4/L6が5%を超えると、間隙26の割合D4/L6に対する、応力σの減少率および変位δの減少率を示す二つの曲線がほぼ平行となる。したがって、僅かでも間隙26を設ければ、変位δを大きく減少させることなく、応力σを効果的に減少させることができる。
【0047】
次に、荷重に対する圧電体の強度について調べた。ここでは、図10に示した、シミュレーションに用いた圧電素子23eと同じ外寸を有し、間隙26がなく(D4=0)、ステンレス板121の上面と下面とに当該ステンレス板121と同じ形状の一つの圧電体22が貼着されてなる圧電素子23eと、間隙26の幅D4=0.2mmとした圧電素子23eとをサンプルとして作製し、各サンプルの上面に荷重をかけて圧電体22の破損状態を目視により調べた。
【0048】
以下の表3に、各サンプルにおける荷重と圧電体22の破損状態の関係を示した。
【0049】
【表3】
表3では、サンプルの上面に荷重をかけたときの変位δと破損状態との関係が示されている。間隙がないサンプル8では、変位δ=1mmで圧電体の前後中央部に割れが発生した。一方、間隙D4=0.2mmのサンプル9では、変位δ=3mmでも割れが発生せず、高い耐久性を示した。以上より、圧電素子は、最小限の間隙を設けるだけで、荷重に対する耐久性が向上することが分かった。また間隙が最小限であるため、図10(C)に示した特性から、圧電素子を駆動させた際の変位も大きく減少しないことが確認された。
【0050】
<脚部の変形例>
上記実施例に係る振動伝達装置1では、脚部24の左右幅を異ならせることで、前後方向への振動を増幅させることができる。もちろん、左右幅を同じにしても、一方の脚部に孔を設けたり、一方の脚部の厚さを薄くしたりするようにしても、同様に前後方向への振動が増幅される。いずれにしても、前後の脚部を非対称な形状にすることで、減衰抑制効果をより高めることができる。前後の脚部24を下方に向かって左右方向に傾斜するよう形成してもよい。それによって、前後方向に加え、左右方向にも振動し易くなる。
【0051】
<圧電素子の変形例>
各種電子機器が備えるプッシュボタンに振動伝達装置を組み込む場合、ボタンの形状に合わせて振動板や圧電素子の平面形状を円形としてもよい。図12に、円形の圧電素子23fを備えたアクチュエーター(2f、2g)の例を示した。図12(A)に示したように、円形の圧電素子23fを用いたアクチュエーター2fは、円形の平板部21の少なくとも上下一方の面に圧電体22が貼着され、円形の平板部21の直径の両端側に脚部24が形成された構造とすることができる。また、図12(A)に示したアクチュエーター2fを作製し、そのアクチュエーター2fの振動特性を調べてみた。作製したアクチュエーター2fは、平板部21や脚部24を構成するステンレス板の厚さ、脚部24の長さや幅、台座に固定される部分25の長さ、および圧電体22の厚さが、図7(B)に示したアクチュエーター2bと同様であるとともに、圧電素子23fはバイモルフ型であり、圧電体22の直径は18.5mmである。また、圧電体22は、上下方向に電界が印加されると放射方向に伸縮する。そして、このアクチュエーター2fの平板部21の上面に100gfの荷重をかけて100Vppの電圧で駆動したところ、上下方向の振幅が4.7μmとなり、直径方向の振幅が9.9μmとなった。すなわち、圧電素子の形状を円形にしても、上下方向に荷重がかかった際に上下方向の振動が水平方向の振動に変換されることが確認できた。
【0052】
なお、円形の圧電体の直径の両端に脚部24を設けると、アクチュエーター2fの上方に荷重がかかった際、その直径方向を軸として圧電素子23fが傾く可能性がある。このような可能性に対しては、例えば、図12(B)に示したアクチュエーター2gのように、円形の平板部21の周囲に等角度間隔に脚部24を設ければよい。そして、各脚部24を鉛直下方に対して同方向に斜めに延長させるように形成すればよい。それによって、振動板が押圧されるなどして、平板部21の上面側に荷重がかかった際、円形の平板部21の撓み運動が、円周に沿って回転する揺動運動に変換される。もちろん、一部の脚部24を他の脚部に対して細くするなどして、水平面内での振動が容易になるようにしてもよい。
【0053】
図1に示した実施例に係る振動伝達装置1は、一つの振動板3を一つのアクチュエーター2によって振動させていたが、図5に評価装置1cとして示した振動伝達装置のように、矩形の振動板3の両端の下方にアクチュエーター2を配置してもよい。もちろん、矩形の振動板3の四隅の下方にアクチュエーター2を配置してもよい。また、実施例に係る振動伝達装置は、図4に示した比較装置(1a、1b)や図5に示した評価装置1cのように、振動板3の四隅がピンなどで固定されていたり、一般的なタッチパネルのように、振動板3の周囲が枠で固定されたりしていてもよい。
【符号の説明】
【0054】
1,1a~1c 振動伝達装置、2,2a~2d,2f,2g アクチュエーター、3 振動板、4 振動伝達部、5 台座、21 平板部、22 圧電体、
23,23,23a~23f 圧電素子、24,24a 脚部、26 間隙、
121 ステンレス板、122,123,124 電極
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12