(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-14
(45)【発行日】2023-07-25
(54)【発明の名称】ハイブリッド自動車及びそのためのモーター制御方法
(51)【国際特許分類】
B60W 10/08 20060101AFI20230718BHJP
B60K 6/48 20071001ALI20230718BHJP
B60W 20/12 20160101ALI20230718BHJP
B60W 10/06 20060101ALI20230718BHJP
B60L 50/16 20190101ALI20230718BHJP
B60L 3/00 20190101ALI20230718BHJP
B60L 15/20 20060101ALI20230718BHJP
【FI】
B60W10/08 900
B60K6/48 ZHV
B60W20/12
B60W10/06 900
B60L50/16
B60L3/00 H
B60L15/20 J
(21)【出願番号】P 2018196880
(22)【出願日】2018-10-18
【審査請求日】2021-08-19
(31)【優先権主張番号】10-2017-0147218
(32)【優先日】2017-11-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】591251636
【氏名又は名称】現代自動車株式会社
【氏名又は名称原語表記】HYUNDAI MOTOR COMPANY
【住所又は居所原語表記】12, Heolleung-ro, Seocho-gu, Seoul, Republic of Korea
(73)【特許権者】
【識別番号】500518050
【氏名又は名称】起亞株式会社
【氏名又は名称原語表記】KIA CORPORATION
【住所又は居所原語表記】12, Heolleung-ro, Seocho-gu, Seoul, Republic of Korea
(74)【代理人】
【識別番号】100091982
【氏名又は名称】永井 浩之
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【氏名又は名称】佐藤 泰和
(74)【代理人】
【識別番号】100105153
【氏名又は名称】朝倉 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100127465
【氏名又は名称】堀田 幸裕
(74)【代理人】
【識別番号】100196047
【氏名又は名称】柳本 陽征
(72)【発明者】
【氏名】イ、ジェ、ムン
【審査官】井古田 裕昭
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-060034(JP,A)
【文献】特開2004-324613(JP,A)
【文献】特開平09-058301(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 10/08
B60K 6/48
B60W 20/12
B60W 10/06
B60L 50/16
B60L 3/00
B60L 15/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハイブリッド自動車のモーター冷却制御方法であって、
走行経路上に排気ガス排出に関連した特定地域が存在する場合、前記特定地域に進入するまえに到達しなければならないモーター温度である目標モーター温度を決定する段階、
前記目標モーター温度に到達するための冷却距離を決定する段階、
前記決定された冷却距離を用いて冷却制御開始時点を決定する段階、及び
前記冷却制御開始時点から
前記特定地域に進入するまでモーター稼働幅を制限する段階を含む、ハイブリッド自動車のモーター冷却制御方法。
【請求項2】
前記目標モーター温度を決定する段階は、
モーター過温基準温度から前記特定地域を通過するうちにモーターの起動によって上昇するモーター温度を差し引く段階を含む、請求項1に記載のハイブリッド自動車のモーター冷却制御方法。
【請求項3】
前記目標モーター温度を決定する段階は、
時間当たりモーター温度変化率を決定する段階、
前記特定地域の予想走行時間を決定する段階、及び
前記時間当たりモーター温度変化率及び前記予想走行時間を用いて前記上昇するモーター温度を決定する段階をさらに含む、請求項2に記載のハイブリッド自動車のモーター冷却制御方法。
【請求項4】
前記時間当たりモーター温度変化率は前記特定地域での走行負荷及び平均車速の少なくとも一つを用いて決定し、
前記予想走行時間は、前記特定地域の長さ、制限車速、交通量及び信号情報の少なくとも一つを用いて決定する、請求項3に記載のハイブリッド自動車のモーター冷却制御方法。
【請求項5】
前記冷却距離を決定する段階は、
冷却温度、前記特定地域の平均車速及びモーター稼働幅によって決定された単位温度当たり冷却時間を用いて遂行し、前記冷却温度は前記目標モーター温度と現在モーター温度の差分に対応する、請求項1に記載のハイブリッド自動車のモーター冷却制御方法。
【請求項6】
前記冷却制御開始時点を決定する段階は、
前記冷却距離が前記特定地域までの残存距離以下となる時点を前記冷却制御開始時点として決定する段階を含む、請求項1に記載のハイブリッド自動車のモーター冷却制御方法。
【請求項7】
前記モーター稼働幅を制限する段階は、
運転者要求トルクから前記モーター稼働幅以内のトルクを差し引いたトルクがエンジントルクを満たすようにエンジン運転点を変更する段階を含む、請求項1に記載のハイブリッド自動車のモーター冷却制御方法。
【請求項8】
前記特定地域は、
前記排気ガス排出の低減を強制又は勧奨する地域を含む、請求項1に記載のハイブリッド自動車のモーター冷却制御方法。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか一項に記載のハイブリッド自動車のモーター冷却制御方法を実行させるためのプログラムを記録したコンピュータ可読の記録媒体。
【請求項10】
ハイブリッド自動車であって、
走行経路上に排気ガス排出に関連した少なくとも一つの特定地域が存在する場合、前記少なくとも一つの特定地域を含む前記走行経路についての情報を獲得する第1制御器、及び
少なくとも前記第1制御器から伝達された前記情報を用いて前記特定地域に進入するまえに到達しなければならないモーター温度である目標モーター温度及び前記目標モーター温度に到達するための冷却距離を決定し、前記決定された冷却距離に基づいて冷却制御開始時点を決定すれば、前記冷却制御開始時点から
前記特定地域に進入するまでモーター稼働幅を制限するように制御する第2制御器を含む、ハイブリッド自動車。
【請求項11】
前記第2制御器は、
モーター過温基準温度から前記特定地域を通過するうちにモーターの起動によって上昇するモーター温度を差し引いて前記目標モーター温度を決定する、請求項10に記載のハイブリッド自動車。
【請求項12】
前記第2制御器は、
時間当たりモーター温度変化率及び予想走行時間を用いて前記上昇するモーター温度を決定する、請求項11に記載のハイブリッド自動車。
【請求項13】
前記時間当たりモーター温度変化率は前記特定地域での走行負荷及び平均車速の少なくとも一つを用いて決定し、
前記予想走行時間は前記特定地域の長さ、制限車速、交通量及び信号情報の少なくとも一つを用いて決定する、請求項12に記載のハイブリッド自動車。
【請求項14】
前記第2制御器は、
冷却温度、前記特定地域の平均車速及びモーター稼働幅によって決定された単位温度当たり冷却時間を用いて前記冷却距離を決定し、前記冷却温度は前記目標モーター温度と現在モーター温度の差分に対応する、請求項10に記載のハイブリッド自動車。
【請求項15】
前記第2制御器は、
前記冷却距離が前記特定地域までの残存距離以下となる時点を前記冷却制御開始時点として決定する、請求項10に記載のハイブリッド自動車。
【請求項16】
前記第2制御器は、
前記冷却制御開始時点から前記特定地域に進入するまで運転者要求トルクから前記モーター稼働幅以内のトルクを差し引いたトルクがエンジントルクを満たすようにエンジン運転点を変更して制御する、請求項10に記載のハイブリッド自動車。
【請求項17】
前記特定地域は、
前記排気ガス排出の低減を強制又は勧奨する地域を含む、請求項10に記載のハイブリッド自動車。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はハイブリッド自動車及びそのためのモーター制御方法に関し、より詳しくは目的地までの経路情報を用いて特定地域を通過するときにエンジンの起動なしに電気モーターの出力のみで走行する場合、電気モーターの過温を防止することができるハイブリッド自動車及びそのためのモーター制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ハイブリッド自動車(HEV:Hybrid Electric Vehicle)とは一般的に二つの動力源を一緒に使用する車を言い、両動力源は主にエンジンと電気モーターとなる。このようなハイブリッド自動車は内燃機関のみを備えた車両に比べ、燃費及び動力性能に優れるだけでなく排気ガスの低減にも有利であるので、近年多く開発されている。
【0003】
このようなハイブリッド自動車はどのパワートレイン(Power Train)を駆動するかによって二つの走行モードで動作することができる。その一つは電気モーターのみで走行する電気車(EV)モードであり、他の一つは電気モーターとエンジンを一緒に稼動して動力を得るハイブリッド電気車(HEV)モードである。ハイブリッド自動車は走行中の条件によって両モード間の転換を行う。
【0004】
これまでのハイブリッド自動車は効率性にだけ焦点を合わせた走行制御を遂行したが、最近には単に走行過程での燃費向上の達成のみではない特定地域での走行による環境汚染の防止まで要求されている。例えば、快適な環境に対する要求及び規制が次第に高くなるに伴い、法規、環境、安全、歩行者密度などの理由で排出ガスの低減を要求する地域が明示的/暗示的に設定される趨勢にある。このような地域で車両を運行するためには、エンジンの稼働を伴わないEVモード走行が好ましいと言える。
【0005】
ところが、このようなエンジンの稼働が適していない環境で電気モーターで過温が発生する場合、EVモード走行を持続することができなく、電気モーターの冷却のためにエンジンを使わなければならない問題点がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、環境要求状況により合うように電気モーターの制御を行う方法及びそれを行うハイブリッド車両を提供することである。
【0007】
特に、本発明の目的は、特定地域で走行するとき、電気モーターの過温を防止してエンジンの稼働を最小化することができる方法及びそれを行う車両を提供することである。
【0008】
本発明が達成しようとする技術的課題は以上で言及した技術的課題に制限されず、言及しなかった他の技術的課題は下記の記載から本発明が属する技術分野で通常の知識を有する者に明らかに理解可能であろう。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記のような技術的課題を解決するために、本発明の一実施例によるハイブリッド自動車のモーター冷却制御方法は、走行経路上に排気ガス排出に関連した特定地域が存在する場合、前記特定地域に進入するときに到達しなければならないモーター温度である目標モーター温度を決定する段階、前記目標モーター温度に到達するための冷却距離を決定する段階、前記決定された冷却距離を用いて冷却制御開始時点を決定する段階、及び前記冷却制御開始時点から前記特定地域に進入するまでモーター稼働幅を制限する段階を含む。
【0010】
また、本発明の一実施例によるハイブリッド自動車は、走行経路上に排気ガス排出に関連した少なくとも一つの特定地域が存在する場合、前記少なくとも一つの特定地域を含む前記走行経路についての情報を獲得する第1制御器、及び少なくとも前記第1制御器から伝達された前記情報を用いて前記特定地域に進入するときに到達しなければならないモーター温度である目標モーター温度及び前記目標モーター温度に到達するための冷却距離を決定し、前記決定された冷却距離に基づいて冷却制御開始時点を決定すれば、前記冷却制御開始時点から前記特定地域に進入するまでモーター稼働幅を制限するように制御する第2制御器を含む。
【発明の効果】
【0011】
前記のように構成される本発明の少なくとも一つの実施例に係わるハイブリッド自動車は、特定地域での走行中に電気モーターの過温を防止することができる。
【0012】
特に、運行経路に特定地域が含まれた場合、特定地域の進入前に予めモーターの温度を低下させることにより、特定地域での走行中にモーターの過温によるエンジン起動を抑制することができる。
【0013】
本発明で得られる効果は以上で言及した効果に制限されず、言及しなかった他の効果は下記の記載から本発明が属する技術分野で通常の知識を有する者に明らかに理解可能であろう。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の実施例を適用することができる特定地域の概念を説明するための図である。
【
図2】本発明の実施例を適用することができるハイブリッド自動車のパワートレーン構造の一例を示す図である。
【
図3】本発明の実施例を適用することができるハイブリッド自動車の制御系統の一例を示すブロック図である。
【
図4】本発明の一実施例によるモーター冷却制御のための制御ロジック構造の一例を示す図である。
【
図5】本発明の一実施例によるモーター冷却制御時点を決定する方法をそれぞれ説明するための図である。
【
図6】本発明の一実施例による冷却制御時、高い要求トルクによってエンジン運転点を補正する方式の一例を示す図である。
【
図7】本発明の一実施例による冷却制御時、低い要求トルクによってエンジン運転点を補正する方式の一例を示す図である。
【
図8】本発明の一実施例によるハイブリッド車両のモーター冷却制御過程の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下では添付図面に基づいて本発明の実施例について本発明が属する技術分野で通常の知識を有する者が容易に実施することができるように詳細に説明する。しかし、本発明は様々な相異なる形態に具現可能なもので、ここで説明する実施例に限定されない。そして、図面で本発明を明確に説明するために説明と関係ない部分は省略し、明細書全般にわたって類似した部分に対しては類似した図面符号を付けた。
【0016】
明細書全般にわたり、ある部分がある構成要素を“含む”というとき、これは特に反対する記載がない限り、他の構成要素を排除するものではなく他の構成要素をさらに含むことができることを意味する。また、明細書全般にわたって同じ参照番号で表示した部分は同じ構成要素を意味する。
【0017】
本発明の実施例によるモーター制御方法の説明に先立ち、
図1に基づいてエンジン稼働を抑制しなければならない地域の概念を説明する。
【0018】
図1は本発明の実施例を適用することができる特定地域の概念を説明するための図である。
【0019】
図1を参照すると、本発明の実施例では、出発地10と目的地20の間に排気ガス低減又は排出禁止を要求する特定地域30が存在する場合を仮定する。このような特定地域30は予め設定されている地域でもあり、現在/最近の状況によって可変的に設定される地域でもある。ここで、予め設定される場合とは、法規又は政府の政策などによって設定された地域(例えば、ロンドン又はソウルなどの排出ガス管理地域)でもあり、地域の特性によって排出ガスの低減が必要な地域(例えば、子供保護区域、室内駐車場、住居地域など)などがこれに当たることができる。また、可変的に設定される地域とは、テレマティックスなどの無線情報を介して現在の設定状態を確認することができる地域、車両に備えられた画像(Vision)情報獲得装置(ADASシステムなど)を介して判断された歩行者密集地域、室内環境、認識された表示板指示地域などがこれに当たることができる。具体的に、大気環境情報の参照によって特定地域の大気状況が悪くなった場合、スマートフォンの位置情報を活用したビッグデータに基づいて歩行者が密集した地域であると判断した場合、テレマティックスサービスなどによって収集された車両平均速度及び通行量に基づいて排出ガスが多量発生すると推定される場合などに該当地域を特定地域30に設定することができる。
【0020】
特定地域30は任意の行政区域単位で設定することもでき、境界点となる複数の座標を連結する区域に設定することもでき、特定施設の自体/一部又は特定施設/座標から一定の半径距離内の区域に設定することもできる。
【0021】
もちろん、上述した特定地域の設定例は例示的なもので、本発明の実施例はこのような特定地域の設定基準、設定範囲、設定期間などによって限定されない。また、特定地域30は出発地10と目的地20の間に位置することを想定するが、必ずしも目的地20がAVN(Audio/Video/Navigation)システムのナビゲーション機能上で明示的に使用者によって設定されることを要求するものではない。例えば、目的地20は運転者の運行パターン又は予め設定された運行条件(時間、地域など)によって車両で任意に設定したものであってもよい。ただ、このような特定地域30の経路内の存在有無及び規模はモード分配のために少なくとも該当地域に進入する前に車両で獲得することが好ましい。
【0022】
以下の記載では便宜上排気ガス低減/排出禁止を要求する特定地域を“グリーンゾーン(Green Zone)”と称することにする。
【0023】
次に、
図2に基づいて本発明の実施例を適用することができるハイブリッド自動車の構造を説明する。
【0024】
図2は本発明の実施例を適用することができるハイブリッド自動車のパワートレーン構造の一例を示す。
【0025】
図2を参照すると、内燃機関エンジン(ICE)110と変速機150の間に電気モーター(又は駆動用モーター)140とエンジンクラッチ(EC:Engine Clutch)130を装着した並列型(Parallel Type)ハイブリッドシステムを採用したハイブリッド自動車のパワートレーンが示されている。
【0026】
このような車両においては、一般的に、始動後に運転者がアクセルペダルを踏む場合、エンジンクラッチ130がオープンした状態で、まずバッテリーの電力によってモーター140が駆動され、モーターの動力が変速機150及び終駆動機(FD:Final Drive)160を介して車輪を動かすことになる(すなわち、EVモード)。車両が徐々に加速するに伴って段々もっと高い駆動力が必要となれば、補助モーター(又は、始動発電モーター)120が動作してエンジン110を駆動することができる。
【0027】
これにより、エンジン110とモーター140の回転速度が同一になれば初めてエンジンクラッチ130が噛み合うことによってエンジン110とモーター140が一緒に、又はエンジン110が車両を駆動することになる(すなわち、EVモードからHEVモードに遷移)。車両が減速するなどのように既設定のエンジンオフ条件が満たされれば、エンジンクラッチ130がオープンしてエンジン110が停止する(すなわち、HEVモードからEVモードに遷移)。また、ハイブリッド車両においては、制動の際、ホイールの駆動力を電気エネルギーに変換してバッテリーを充電することができる。これを制動エネルギー回生又は回生制動と言う。
【0028】
始動発電モーター120はエンジンが始動されるときにスタートモーターの役割をし、始動後又は始動オフ時のエンジンの回転エネルギーの回収時には発電機として動作するから“ハイブリッドスタートジェネレーター(HSG:Hybrid Start Generator)”と称することもでき、場合によって“補助モーター”と称することもできる。
【0029】
上述したパワートレーンが適用される車両において制御器間の相互関係を
図3に示す。
【0030】
図3は本発明の実施例を適用することができるハイブリッド自動車の制御系統の一例を示すブロック図である。
【0031】
図3を参照すると、本発明の実施例を適用することができるハイブリッド自動車において、内燃機関110はエンジン制御器210が制御し、始動発電モーター120及び電気モーター140はモーター制御器(MCU:Motor Control Unit)220によってトルクが制御されることができ、エンジンクラッチ130はクラッチ制御器230が制御することができる。ここで、エンジン制御器210はエンジン制御システム(EMS:Engine Management System)とも言う。また、変速機150は変速機制御器250が制御する。場合によって、始動発電モーター120の制御器と電気モーター140のそれぞれのための制御器を別に備えることもできる。
【0032】
各制御器は、その上位制御器として、モード転換過程の全般を制御するハイブリッド制御器(HCU:Hybrid Controller Unit)240と連結され、ハイブリッド制御器240の制御によって走行モード変更、ギア変速時のエンジンクラッチ制御に必要な情報、及び/又はエンジン停止制御に必要な情報をハイブリッド制御器240に提供するとか制御信号による動作を遂行することができる。
【0033】
より具体的に、ハイブリッド制御器240は車両の運行状態によってモード転換の遂行可否を決定する。一例として、ハイブリッド制御器は、エンジンクラッチ130の解除(Open)時点を判断し、解除時に油圧(湿式ECの場合)制御又はトルク容量制御(乾式ECの場合)を遂行する。また、ハイブリッド制御器240は、ECの状態(Lock-up、Slip、Openなど)を判断し、エンジン110の燃料噴射中断時点を制御することができる。また、ハイブリッド制御器は、エンジン停止制御のために始動発電モーター120のトルクを制御するためのトルク指令をモーター制御器220に伝達してエンジン回転エネルギーの回収を制御することができる。また、ハイブリッド制御器240は、後述する本発明の実施例による適応型モード転換制御時、モード転換条件の判断及び転換のための下位制御器の制御が可能である。
【0034】
もちろん、上述した制御器間の連結関係及び各制御器の機能/区分は例示的なもので、その名称にも制限されないことは当業者に明らかである。例えば、ハイブリッド制御器240はそれを除いた他の制御器のいずれか一つにおいて該当機能を取り替えて提供するように具現することもでき、他の制御器の二つ以上において該当機能を分散して提供することもできる。また、
図2及び
図3ではTMED方式の並列型ハイブリッド車両を基準として説明したが、これは例示的なものであり、本発明の実施例はハイブリッド車両の形式に限定されない。すなわち、本発明の実施例はエンジン稼働によって発生する熱を活用して暖房を遂行するものであれば、どの方式のハイブリッド車両にも適用可能である。
【0035】
以下では、上述した車両構造を基にして、本発明の一実施例によるより効率的な暖房制御方法を説明する。
【0036】
本発明の一実施例では、走行経路情報を用いて、経路上にグリーンゾーンが存在する場合、グリーンゾーン内で電気モーターを用いるEVモード走行によるモーター過温を防止するために、グリーンゾーンに進入する前に予めグリーンゾーン区間の間に走行によって上昇するモーターの温度を冷却しておくことを提案する。
【0037】
このために、本実施例の一態様によれば、目標とするモーターの温度を先に決定し、目標モーター温度によってモーター冷却制御時点を決定することができる。ここで、目標モーター温度はグリーンゾーン区間に進入する前に到達しなければならないモーター温度を意味することができる。モーター冷却制御時点は、現在グリーンゾーンの進入まで残った距離が目標モーター温度に到達するのに必要な走行距離(以下、便宜上“冷却距離”と言う)に相応する時点を意味することができる。
【0038】
また、本実施例の一態様によれば、走行経路情報はナビゲーション情報であってもよい。ここで、ナビゲーション情報はグリーンゾーンの有無、道路の種類、傾斜度、平均車速及び停滞度(実時間交通情報)の少なくとも一つを含むことができ、一般的にナビゲーションシステム、つまりAVN(Audio/Video/Navigation)システムを介して獲得することができるが、必ずしもこれに限定されるものではない。例えば、ナビゲーション情報はテレマティックスモデムを介してテレマティックスセンターから獲得するとか、無線通信モジュールを用いたデータセンター/サーバー/クラウドへの接続によって獲得することもでき、車速情報などは車両内の多様なセンサーを介して獲得することもできる。
【0039】
以下、
図4及び
図5に基づいて目標暖房性能の決定と昇温制御時点を決定する形態を具体的に説明する。
【0040】
図4は本発明の一実施例によるエンジン起動要請のための制御ロジック構造の一例を、
図5は本発明の一実施例による冷却制御時点を決定する方法をそれぞれ説明するための図である。
【0041】
図4を参照すると、本実施例による制御ロジック400は、目標モーター温度決定部410及び冷却制御時点決定部420を含むことができる。
【0042】
まず、目標モーター温度決定部410は、グリーンゾーン区間についての情報、モーター過温基準温度及び時間当たりモーター温度上昇率の少なくとも一つの情報を用いて目標モーター温度を決定することができる。ここで、グリーンゾーン区間についての情報はグリーンゾーン区間の長さ、制限車速、交通量及び信号情報の少なくとも一つを含むことができ、これらはナビゲーション情報を介して獲得することができる。また、モーター過温基準温度は電気モーターの保護のために稼働を中断しなければならない温度を意味することができ、この値は既設定の値であってもよく、電気モーターの種類ごとに違うように設定することもできる。また、時間当たりモーター温度上昇率はモーターの起動時にモーター温度が時間によって上昇する程度を示し、グリーンゾーン内での走行負荷と平均車速を考慮して決定することができる。一例として、登板走行を高速で行う場合にモーター温度は速く上昇し、反対の場合にモーター温度は比較的徐々に上昇することになる。
【0043】
上述した情報に基づいて目標モーター温度を決定する具体的な方法は次のようである。
【0044】
目標モーター温度(T_Target)は時間当たりモーター温度変化率(△T)、グリーンゾーン走行時間(t)及びモーター過温基準温度(T_OverHeat)によって下記の式1のように決定する。
【0045】
【0046】
すなわち、目標モーター温度はモーター過温基準温度からグリーンゾーン区間の間にモーターの起動によって上昇するモーターの温度を差し引いた値となる。モーター過温基準温度(T_OverHeat)が予め決定された場合、結局目標モーター温度は実質的に時間当たりモーター温度変化率(△T)とグリーンゾーン走行時間(t)によって決定される。時間当たりモーター温度変化率は上述したようであり、グリーンゾーン走行時間(t)はグリーンゾーンの長さと走行車速によって決定することができる。ここで、グリーンゾーンの長さはグリーンゾーンの設定状態によって決定される値であり、走行車速はグリーンゾーン内の制限車速を基準として交通量、信号情報などによって決定することができる。
【0047】
目標モーター温度決定部410で上述したように決定された目標モーター温度は冷却制御時点決定部420に伝達される。冷却制御時点決定部420は、モーター冷却制御時点を決定するに当たり、グリーンゾーンへの進入前に目標モーター温度にモーターを冷却するとともに、冷却制御による効率低下を最小化するために不必要な冷却制御は抑制しなければならない。
【0048】
したがって、モーター温度を目標モーター温度まで到達させるのに必要な距離である冷却距離を正確に推正する必要がある。
【0049】
冷却距離は下記の式2のように求めることができる。
【0050】
【0051】
式2によれば、冷却距離(D_Down)は冷却温度(T_Down=目標モーター温度-現在モーター温度)、グリーンゾーンまでの平均車速(V_Mean)及び単位温度当たり冷却時間(K)の積で表現することができる。
【0052】
したがって、冷却温度が高ければ長い冷却距離が必要であり、低ければ短い冷却距離が必要である。また、グリーンゾーンまでの平均車速(V_Mean)はグリーンゾーンまで制限車速を基準として交通量、信号情報などを考慮して決定することができる。また、単位温度当たり冷却時間(K)は、モーター稼働幅による冷却制御時、単位時間当たりモーター温度下落率の逆数であり、基本的に電気モーターと冷却系統の特性によって違ってもよく、モーター使用制限パワーを基準として実験又は熱伝逹式によって決定することができる。
【0053】
このように冷却距離が決定されれば、冷却制御時点決定部420は、不必要な冷却制御を防止するために、
図5に示したように、グリーンゾーンへの進入まで残った距離が冷却距離と同一であるとかそれより小さくなる時点に冷却制御を始めるように決定することができる。
【0054】
本実施例の一態様によれば、制御ロジック400の具現において、目標モーター温度決定部410と冷却制御時点決定部420は同じ制御器によって具現することもでき、相異なる制御器によって具現することもできる。一例として、目標モーター温度決定部410と冷却制御時点決定部420の機能はハイブリッド制御器によって遂行されるように具現することができる。この場合、ハイブリッド制御器はグリーンゾーン区間情報をAVNシステムから獲得し、モーター過温基準温度をモーター制御器から獲得するとか内部メモリに予め保存しておくことができる。
【0055】
また、現在のモーター温度情報はエンジン制御器から獲得することができ、モーター冷却制御要請はモーター制御器にモーター温度が下落する範囲内のトルク指令を伝達する方式で遂行することができる。本実施例の他の態様によれば、前述した制御ロジックの機能はモーター制御器が遂行することもできる。この場合、モーター冷却制御要請はハイブリッド制御器に伝達されることができる。これとは違い、本ロジックの遂行のために別に制御器を備えることができるのは言うまでもない。
【0056】
一般に、ハイブリッド制御器は、運転者要求パワーが既設定の要求パワー(例えば、電場負荷を考慮したモーターの最大出力など)を上回らなければEVモード走行制御を遂行し、反対の場合はHEVモードに走行モードを遷移する。HEVモードではエンジンの最適運転点を基準として運転者要求パワーとの差を電気モーターの最大出力範囲内で電気モーターの充放電によって調節し、運転者要求パワーとの差が電気モーターの最大出力範囲を超えれば運転点を補正することが普通である。
【0057】
ところが、本実施例によれば、ハイブリッド制御器は、モーター冷却制御が始まる場合、モーターの使用量を制限することになる。このために、ハイブリッド制御器はエンジン起動可否及びエンジンの運転点を可変的に制御することができる。
【0058】
【0059】
図6は本発明の一実施例による冷却制御時に高い要求トルクによってエンジン運転点を補正する方式の一例を、
図7は本発明の一実施例による冷却制御時に低い要求トルクによってエンジン運転点を補正する方式の一例をそれぞれ示す。
図6及び
図7では、共通してモーターの充電トルクと放電トルクに既に設定された制限幅内でモーターを起動すると仮定し、このような制限幅内でのモーターの起動はモーターの冷却を邪魔しないと仮定する。
【0060】
まず、
図6を参照すると、運転者要求トルク(★)が最適システム効率によるエンジン運転点(×)より高い場合、一般的な制御方式では運転者要求トルクと最適システム効率によるエンジン運転点(×)の差分がモーター最大放電トルク以下であればエンジン運転点は最適システム効率による。しかし、本実施例によるモーター冷却制御が行われる場合、電気モーターの起動は放電制限幅を超えない水準に制限される。よって、冷却制御時には、モーターの冷却のために多少効率が落ちてもエンジンの運転点を高いトルクが発生する地点(○)に変更させることができる。
【0061】
次に、
図7のように、運転者要求トルク(★)が最適システム効率によるエンジン運転点(×)より低い場合、一般的な制御方式では運転者要求トルクと最適システム効率によるエンジン運転点(×)の差分がモーター最大充電トルク以下であればエンジン運転点は最適システム効率による。しかし、本実施例によるモーター冷却制御が行われる場合、電気モーターの起動は充電制限幅を超えない水準に制限される。よって、冷却制御時には、モーターの冷却のために多少効率が落ちてもエンジンの運転点を低いトルクが発生する地点(○)に変更させることができる。
【0062】
要約すれば、冷却制御開始時点からグリーンゾーンへの進入前まで、エンジン運転点は運転者要求トルクからモーター稼働幅以内のトルクを差し引いたトルク(すなわち、モーター放電制限幅>差引きトルク>モーター充電制限幅)がエンジントルクを満たすように変更して制御することができる。一具現例において、ハイブリッド制御器は、電気モーターのトルクが充放電稼働幅以内であるとともに、エンジントルクと合算するとき、運転者要求トルクが満たされるようにモーターとエンジントルクをそれぞれ決定し、それに対応するトルク指令をモーター制御器とエンジン制御器にそれぞれ伝達することができる。
【0063】
これまで説明した本実施例による制御ロジックをフローチャートでまたまとめると
図8のようである。
【0064】
図8は本発明の一実施例によるハイブリッド車両のモーター冷却制御過程の一例を示すフローチャートである。
【0065】
図8を参照すると、まず走行経路上のグリーンゾーンを把握することができる(S810)。ここで把握すると言うのは、経路上に少なくとも一つのグリーンゾーンの存在有無、存在する場合、各グリーンゾーンについての区間情報を獲得することを意味することができる。
【0066】
走行経路上のグリーンゾーンが把握されれば、目標モーター温度を決定することができる(S820)。目標モーター温度を求める方法は
図4を参照して前述したようであるので、明細書の簡潔さのために重複記載は省略する。
【0067】
目標モーター温度が決定されれば、現在モーター温度と比較することができる(S830)。比較結果、現在モーター温度が目標モーター温度より高い場合(すなわち、モーターの冷却が必要な場合)冷却距離を決定することができる(S840)。冷却距離を決定する方法も
図4を参照して前述したようであるので、重複記載を省略する。
【0068】
冷却距離が決定されれば、これをグリーンゾーンまでの残存距離と比較し(S850)、冷却距離がグリーンゾーンまでの残存距離以上であれば、冷却制御を開始(すなわち、制限的モーターの稼働)することができる(S860)。
【0069】
その後、グリーンゾーンへの進入時まで冷却制御を遂行し、グリーンゾーンに進入したと判断されれば(S870)、冷却制御を終了し、EVモードでの走行を遂行することができる(S880)。
【0070】
仮に、経路上に複数のグリーンゾーンが存在する場合、上述した制御過程を一つのグリーンゾーン単位で繰り返し遂行することができるのは言うまでもない。
【0071】
前述した本発明は、プログラムが記録された媒体のコンピュータ可読のコードで具現することができる。コンピュータ可読の媒体は、コンピュータシステムが読めるデータが記録される全ての種類の記録装置を含む。コンピュータ可読の媒体の例としては、HDD(Hard Disk Drive)、SSD(Solid State Disk)、SDD(Silicon Disk Drive)、ROM、RAM、CD-ROM、磁気テープ、フロッピーディスク、光データ記憶装置などがある。
【0072】
前記の詳細な説明は全ての面で制限的に解釈されては行けなく例示的なものと考慮しなければならない。本発明の範囲は添付の請求範囲の合理的解釈によって決定されなければならなく、本発明の等価的範囲内での全ての変更は本発明の範囲に含まれる。