IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ アロン化成株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-浴室用椅子 図1
  • 特許-浴室用椅子 図2
  • 特許-浴室用椅子 図3
  • 特許-浴室用椅子 図4
  • 特許-浴室用椅子 図5
  • 特許-浴室用椅子 図6
  • 特許-浴室用椅子 図7
  • 特許-浴室用椅子 図8
  • 特許-浴室用椅子 図9
  • 特許-浴室用椅子 図10
  • 特許-浴室用椅子 図11
  • 特許-浴室用椅子 図12
  • 特許-浴室用椅子 図13
  • 特許-浴室用椅子 図14
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-14
(45)【発行日】2023-07-25
(54)【発明の名称】浴室用椅子
(51)【国際特許分類】
   A47C 9/00 20060101AFI20230718BHJP
   A47C 4/28 20060101ALI20230718BHJP
   A47C 4/38 20060101ALI20230718BHJP
   A47C 5/10 20060101ALI20230718BHJP
   A47K 3/12 20060101ALI20230718BHJP
【FI】
A47C9/00 Z
A47C4/28 B
A47C4/38
A47C5/10 E
A47K3/12
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2018237983
(22)【出願日】2018-12-20
(65)【公開番号】P2020099410
(43)【公開日】2020-07-02
【審査請求日】2021-05-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000000505
【氏名又は名称】アロン化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124648
【弁理士】
【氏名又は名称】赤岡 和夫
(74)【代理人】
【識別番号】100060368
【弁理士】
【氏名又は名称】赤岡 迪夫
(74)【代理人】
【識別番号】100154450
【弁理士】
【氏名又は名称】吉岡 亜紀子
(72)【発明者】
【氏名】李 剛
(72)【発明者】
【氏名】土井 健史
(72)【発明者】
【氏名】岩本 楓
(72)【発明者】
【氏名】青山 智行
【審査官】胡谷 佳津志
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-087394(JP,A)
【文献】特開2012-130569(JP,A)
【文献】特開2008-295735(JP,A)
【文献】特開2011-067448(JP,A)
【文献】特開2002-293176(JP,A)
【文献】特開2013-159339(JP,A)
【文献】特開2016-088482(JP,A)
【文献】特開2015-093525(JP,A)
【文献】米国特許第06206462(US,B1)
【文献】特許第4652266(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A47C 9/00-16/04
A47C 4/04
A47C 4/28
A47C 5/10
A47K 3/02-4/00
A61H 1/00-5/00;99/00
B60N 2/00-2/90
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
左右一対の脚部を有する脚フレームと、
脚フレームに取り付けられた背もたれ部と、
略水平な展開状態と略垂直な折り畳み状態との間で回動自在に脚フレームに取り付けられた座部とからなる浴室用椅子において、
脚フレームは、互いに回動自在に取り付けられた前脚フレームと後脚フレームとを含み、そして
前脚フレームと後脚フレームを、互いに離間した開脚状態と互いに近接した閉脚状態との間で開閉させる動きは、座部を、略水平な展開状態と、座部の表面が前を向いた略垂直な折り畳み状態との間で回動させる動きと連動しており、さらに
脚フレームは、左右一対の脚部を連結する補強フレームを備
座部には、座部を補強フレームへ係合させて略水平な展開状態を保持するためのロック手段が設けられ
ロック手段は、補強フレームに対してスライド移動可能であり、且つ補強フレーム上を横断することで該補強フレームと係合する係合爪を備え、そして
係合爪は、補強フレームと接するように係合する摺接面を有し、該摺接面はスライド方向から、補強フレームから離間する側へ傾いた傾斜面を含んでいることを特徴とする浴室用椅子。
【請求項2】
摺接面は、曲面により構成されていることを特徴とする請求項に記載の浴室用椅子。
【請求項3】
摺接面の曲率半径は、係合爪の根元端付近よりも先端付近の方が小さいことを特徴とする請求項に記載の浴室用椅子。
【請求項4】
摺接面は、平面および曲面の組み合わせにより構成されていることを特徴とする請求項に記載の浴室用椅子。
【請求項5】
ロック手段は、係合爪を、補強フレームと係合する方向へ付勢する爪付勢手段を備えていることを特徴とする請求項1からのいずれか1項に記載の浴室用椅子。
【請求項6】
背もたれ部には、ロック手段による座部と補強フレームとの係合を解除するためのロック解除手段が設けられており、そしてロック解除手段は、手を掛けるための折り畳みレバーを有しており、且つ該折り畳みレバーは、その上端部が背もたれ部の上端部分と略面一となるように配置されていることを請求項1からのいずれか1項に特徴とする浴室用椅子。
【請求項7】
折り畳みレバーは、背もたれ部の背面に沿って上下方向にスライド可能に取り付けられていることを特徴とする請求項に記載の浴室用椅子。
【請求項8】
浴室用椅子を折り畳んで水平面に自立させた状態において、背もたれ部の上端部分および折り畳みレバーの上端部は、背もたれ部の表面側から背面側へ向かうにつれて高くなるように傾斜していることを特徴とする請求項に記載の浴室用椅子。
【請求項9】
折り畳みレバーの上端部は、背もたれ部の上端部分よりも上側領域のみにおいてスライド可能であることを特徴とする請求項に記載の浴室用椅子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、浴室において使用される折り畳み可能な浴室用椅子に関し、特に座部を水平状態に保持するためのロック手段が、スライド方向から、補強フレームから離間する側へ傾いた傾斜面を含んだ摺接面を有する係合爪を備えている該摺接面は浴室用椅子に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、高齢者や要介護者、身体障害者などは、入浴に際し、立位姿勢で身体を洗ったり、シャワーを浴びたりするのが大変なことから、使用者が腰を掛ける座部と、背中を持たせ掛ける背もたれ部と、これらの部品を支持する脚部とを備えた浴室用椅子が利用されている。そして浴室用椅子は、不使用時、狭い浴室ではスペースを占有して邪魔になることから、近年では、脚部を閉脚する際に座部を上方へ折り畳んでコンパクトにすることができる浴室用椅子が開発されている。
【0003】
例えば、特開2008-295753号公報(特許文献1)には、脚部と連結された座部と、脚部を開脚することによって水平状態にした座部の位置を保持する係合手段と、座部の係合を解除するための係合解除手段とを備えており、該係合解除手段によって座部の係合を解除し、脚部を閉脚することによって座部を上方へ折り畳むことができる折り畳み椅子が開示されている。そして、特許文献1に記載の係合手段は、操作ハンドルを回転軸に対して回動させることにより、該操作ハンドルに設けられた横向きコの字型の係合爪を断面円形のロックバーへ係合(嵌合)させたり、該ロックバーから係合(嵌合)を解除させたりするものである。
【0004】
例えば、特開2011-67448号公報(特許文献2)には、脚部と座部が連結されており、脚部を開脚することによって水平状態にした座部の位置を保持するロック装置と、座部のロックを解除するための解除具とを備えており、該解除具によって座部のロックを解除し、脚部を閉脚することによって座部を上方へ折り畳むことができる浴室用椅子が開示されている。そして、特許文献2に記載のロック装置は、ロック具を枢支軸に対して回動させることにより、該ロック具に設けられた係合用凹部を断面円形の係合杆へ係合(嵌合)させたり、該係合杆から係合(嵌合)を解除させたりするものである。
【0005】
ところが、特許文献1,2に記載の係合手段、ロック装置は、いずれも内側へ凹んだ凹部を備えた係合爪、係合用凹部を、ロックバー、係合杆へ係合(嵌合)および係合(嵌合)を解除するものであるため、係合(嵌合)を解除するためには、係合爪、係合用凹部をロックバー、係合杆と完全に干渉しない位置まで退避させなければならない。また、係合爪、係合用凹部を有する特許文献1,2に記載の係合手段、ロック装置は、いずれも回転軸を中心とした回動式であるため、係合爪、係合用凹部を上述のようにロックバー、係合杆と完全に干渉しない位置まで離間させるためには、係合爪、係合用凹部をロックバー、係合杆からX軸方向にもY軸方向にも後退(回転)させて離間する必要がある。
【0006】
このため、特許文献1,2に記載の係合手段、ロック装置は、係合及び係合を解除するために、係合爪、係合用凹部を密着(前進)又は離間(後退)させるための移動量、操作量が大きくなり、またその操作力も増大することから、指の可動域及び握力が低下した高齢者や要介護者、身体障害者などは、座部の係合を解除する際に係合手段、ロック装置を容易に操作することができないという問題があった。
【0007】
さらに、例えば特開2012-130569号公報(特許文献3)には、浴室用椅子に関するものではないが、脚部と座部が連結されており、脚部を開脚することによって水平状態にした座部の位置を保持するロック手段と、座部のロックを解除するためのロック解除手段とを備えており、該ロック解除手段によって座部のロックを解除し、脚部を閉脚することによって座部を上方へ折り畳むことができる歩行補助車が開示されている。そして、特許文献3に記載のロック手段は、係合部本体を回動軸に対して回動させることにより、該係合部本体に設けられた係合凹面を断面円形の係合杆へ係合(嵌合)させたり、該係合杆から係合(嵌合)を解除させたりするものである。
【0008】
しかしながら、特許文献3に記載のロック手段は、上述した特許文献1,2に記載の係合手段、ロック装置と同様の係合凹面と、回動軸を中心とした回動式であるという構成を有しているため、係合及び係合を解除するために、係合凹面を密着(前進)又は離間(後退)させるための移動量、操作量が大きくなり、またその操作力も増大することから、指の可動域及び握力が低下した高齢者や要介護者、身体障害者などは、座部の係合を解除する際に係合手段、ロック機構を容易に操作することができないという特許文献1,2と同様の問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2008-295735号公報
【文献】特開2011-67448号公報
【文献】特開2012-130569号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
そこで、本発明は、折り畳み可能な浴室用椅子の座部を水平な状態に保持するためのロック手段において、ロック及びロックを解除するためのロック手段の移動量、操作量及びその操作力を小さくしたにも拘らず、ロック手段によるロック及びロック解除が容易且つ確実に行える前記ロック手段を備えた浴室用椅子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者等は、折り畳み可能な浴室用椅子の座部を水平な状態に保持するためのロック手段において、ロック手段の係合部分の動き、形状などについて鋭意検討を重ねた結果、係合爪を脚部の補強フレームに対してスライド可能に配置し、且つ脚部の補強フレーム上を横断する係合爪の摺接面には特殊な傾斜面を設けることにより上記の課題を解決できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0012】
すなわち、本発明によれば、左右一対の脚部を有する脚フレームと、脚フレームに取り付けられた背もたれ部と、略水平な展開状態と略垂直な折り畳み状態との間で回動自在に脚フレームに取り付けられた座部とからなる浴室用椅子において、脚フレームは、左右一対の脚部を連結する補強フレームを備えており、座部には、座部を補強フレームへ係合させて略水平な展開状態を保持するためのロック手段が設けられており、ロック手段は、補強フレームに対してスライド移動可能であり、且つ補強フレーム上を横断することで該補強フレームと係合する係合爪を備えており、そして係合爪は、補強フレームと接するように係合する摺接面を有しており、該摺接面はスライド方向から、補強フレームから離間する側へ傾いた傾斜面を含んでいる浴室用椅子が提供される。また、ロック手段は、係合爪を補強フレームと係合する方向へ付勢する爪付勢手段を備えていることが好ましい。
【0013】
本発明において、補強フレーム上を横断する係合爪の摺接面は傾斜面を有しているので、補強フレームとの係合を解除する際は、係合爪が補強フレームと完全に干渉しない位置へ後退する前から、補強フレームが係合爪の中心軸(例えばワイヤー)へ相対的に近づく動きを許容する。また、本発明の浴室用椅子では、係合爪を備えたロック手段は座部に取り付けられており、補強フレームは前脚フレームに取り付けられているので、補強フレームが係合爪の中心軸へ近づく動きは、座部が前脚フレームから離間する動きを許容する。
【0014】
このため、本発明の浴室用椅子では、脚フレームは前脚フレームと後脚フレームとを含んでおり、前脚フレームと後脚フレームは互いに回動自在に取り付けられており、そして前脚フレームと後脚フレームを互いに離間した開脚状態と互いに近接した閉脚状態との間で開閉させる動きは、座部を略水平な展開状態と略垂直な折り畳み状態との間で回動させる動きと連動するように構成されていることが好ましい。
【0015】
座部の動きと前脚フレーム及び後脚フレームとの動き互い連動させることにより、座部と前脚フレームとのロックを解除する際、係合爪による座部の第1の補強フレームへの係合が完全に解除される直前の段階から、係合爪の少ない移動量、操作量で、座部を略水平な展開状態から略垂直な折り畳み状態へ円滑に移行することが可能となり、それに伴い、前脚フレームと後脚フレームが互いに離間した開脚状態から互いに近接した閉脚状態へ円滑に移行することも可能になる。
【0016】
特に本発明では、係合爪と係合する前脚フレームの補強フレームは円形の断面を有する丸棒から出来ているので、係合爪は、補強フレームとの係合を解除する際は、係合爪を補強フレームの外周面に沿わせることにより、補強フレームが係合爪の中心軸へ相対的に近づく動きを増長し、座部が前脚フレームから離間する動きも増長する。その結果、小さな操作力により、座部を略水平な展開状態から略垂直な折り畳み状態へ移行することがより一層円滑となり、それに伴い、前脚フレームと後脚フレームが互いに離間した開脚状態から互いに近接した閉脚状態へ移行することもより一層円滑になる。
【0017】
このため、摺接面は曲面により構成されていることが好ましく、また摺接面の曲率半径は係合爪の根元端付近の曲率半径よりも先端付近の曲率半径の方が小さいことが好ましい。さらに、摺接面は曲面のみならず、平面および曲面の組み合わせにより構成されていてもよい。
【0018】
本発明の浴室用椅子では、背もたれ部に、ロック手段による座部と補強フレームとの係合を解除するためのロック解除手段を設けることが好ましく、そしてロック解除手段は、手を掛けるための折り畳みレバーを有しており、且つ該折り畳みレバーは、その上端部が背もたれ部の上端部分と略面一となるように配置されていることより好ましい。また、浴室用椅子を折り畳んで水平面に自立させた状態においては、背もたれ部の上端部分および折り畳みレバーの上端部は、背もたれ部の表面側から背面側へ向かうにつれて高くなるように傾斜していることがより好ましい。
【0019】
一般に、折り畳み椅子において、レバーなどの可動部品を背もたれ部の上端部分に設けると、可動部品が背もたれ部の上端部分において背面側へ張り出してしまうために折り畳んだ椅子を壁などに密接させてコンパクトに収容することができなくなるという不都合を生じる。また、ロック解除手段やその操作レバーを背もたれ部へ直接に取り付けると、ワイヤーなどの操作伝達手段を通過させるのに適した脚部などのフレーム部材から離れてしまうため、レバーの動きをロック手段へ伝達するための操作伝達手段の機能を害さず、体裁よく始末することが困難になるという問題があった。
【0020】
本発明では、背もたれ部の背面に凹部を設けて、該凹部の中でロック解除手段の折り畳みレバーを背もたれ部の背面に沿って上下方向にスライド可能に取り付けることにより、背もたれ部の背面側へ張り出さないようにできることを見出し、上記の問題を解決した。すなわち、本発明の浴室用椅子は、座部を略水平に展開した開脚状態において例えば垂直な壁面に当接させても、折り畳みレバーは背もたれ部の背面側へ張り出しておらず、且つ上下方向にスライド可能であるので、折り畳みレバーと壁面との間に生じた隙間から手の指を差し込んで容易に操作をすることができる。
【0021】
また、折り畳みレバーの動きをロック手段へ伝達するための操作伝達手段については、折り畳みレバーを背もたれ部の背面に沿って上下方向にスライド可能に取り付け、さらにワイヤーとテコ手段を組み合わせることにより、背もたれ部の背面の凹部内における折り畳みレバーの上下方向の直線運動をテコ手段の略水平方向の回転運動へ変換できることを見出し、上記の問題を解決した。
【0022】
なお、本発明において「略面一」とは、折り畳みレバーの上端部の面と背もたれ部の上端部分の面との間に殆ど段差がない状態を意味し、厳密な意味において段差がない状態を意味するものではない。本発明では、折り畳みレバーの上端部及び/又は背もたれ部の上端部分は、使用者が、例えば掌により下方向へ押し込んで、折り畳み状態にある浴室用椅子を開脚させるために使用する領域である。このため、「略面一」とは、使用者が、掌で折り畳みレバーの上端部と背もたれ部の上端部分とを同時に押し込んでも段差感を感じることがない程度に、折り畳みレバーの上端部の面と背もたれ部の上端部分の面とが連続的に形成されていればよい。
【0023】
本発明の浴室用椅子において、折り畳みレバーは、背もたれ部の背面に沿って上下方向にスライド可能に取り付けられていることが好ましく、また、折り畳みレバーの上端部は、背もたれ部の上端部分よりも上側領域のみにおいてスライド可能であることがより好ましい。
【0024】
また、ロック解除手段は、折り畳みレバーのスライド量を規制するために、折り畳みレバーに設けられたスライド規制長穴と、該スライド規制長穴に挿通される、カバーに設けられたスライド規制突起からなるスライド規制手段を備えていることが好ましく、スライド規制突起は背もたれ部の背面に設けてもよい。さらにスライド規制手段は、スライド規制長穴をカバー又は背もたれ部の背面に設け、スライド規制突起を折り畳みレバーに設けてもよい。本発明では、ロック解除手段にスライド規制手段を設けることにより、折り畳みレバーをスライド限界まで引き上げた後は、引き手を離すことなく、そのまま続けて浴室用椅子を持ち上げて持ち運びができるようになる。
【0025】
上述したように、本発明において、座部の動きは前脚フレーム及び後脚フレームの動きと連動しているので、折り畳みレバーを上方向へ引き上げることにより、ロック手段による座部と脚フレームとの係合を解除して、座部が略水平に展開した開脚状態にある浴室用椅子を座部が略垂直に折り畳まれた閉脚状態にすると共に、下方向へ押し込むことにより、閉脚状態にある浴室用椅子を開脚状態にするためにも使用できる。このため、折り畳みレバーの上端部を背もたれ部の上端部分よりも上側へスライドするが、背もたれ部の上端部分よりも下側にはスライドしないようにすることで、上述の引き上げ操作による浴室用椅子の閉脚および座部の折り畳みと、押し込み操作による浴室用椅子の開脚および座部の展開を容易且つ確実に行えるようになる。
【0026】
このため、折り畳みレバーは、背もたれ部の背面に対して回動不可能に取り付けられていることが好ましい。
【0027】
折り畳みレバーは、その引き上げ操作により、開脚状態にある浴室用椅子を座部が略垂直に折り畳まれた状態にし、そしてその押し込み操作により、閉脚状態にある浴室用椅子を座部が略水平に展開した状態開脚状態にするために使用するものである。このため、折り畳みレバーが回動可能であると、引き上げ操作および押し込み操作に際して折り畳みレバーの角度が変化してしまい操作性が低下すると共に、折り畳みレバーを引き上げた後は、引き手を離すことなく、そのまま続けて浴室用椅子を持ち上げて持ち運びができるという本発明特有の機能を失うことになるからである。
【0028】
このように、本発明の浴室用椅子では、ロック手段による座部と脚フレームとの係合を解除するためのロック解除手段として、背もたれ部の上端部分よりも上側領域のみにおいて上下方向にスライドする折り畳みレバーを、その上端部が背もたれ部の上端部分と略面一となるように配置したので、折り畳みレバーを上方向へ引き上げるワンタッチ操作のみにより、ロック手段による座部と脚フレームとの係合が解除され、そして座部を略水平な展開状態から略垂直な折り畳み状態へ回動して、浴室用椅子を閉脚状態にすることができる。また、折り畳みレバーを引き上げた手を持ち替えることなく、そのまま状態で浴室用椅子を持ち上げて運搬することもできる。
【0029】
さらに、折り畳みレバーを下方向へ押し込むワンタッチ操作のみにより、座部を略垂直な折り畳み状態から略水平な展開状態へ回動して、浴室用椅子を開脚状態にすることもできる。特に本発明の浴室用椅子の場合は、浴室用椅子を折り畳んで水平面に自立させた状態において、背もたれ部の上端部分および折り畳みレバーの上端部は、背もたれ部の表面側から背面側へ向かうにつれて高くなるように傾斜しているので、この傾斜によって、背もたれ部の上端部分や折り畳みレバーの上端部を押し付けることにより、後脚部および後脚フレームへ力が伝わり易くなる結果、浴室用椅子の展開が容易になる。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、補強フレーム上を横断する係合爪の摺接面は傾斜面を有しているので、補強フレームとの係合を解除する際は、係合爪が補強フレームと完全に干渉しない位置へ後退する前から、補強フレームが係合爪の中心軸(例えばワイヤー)へ相対的に近づく動きを許容することができる。また、本発明によれば、係合爪を備えたロック手段は座部に取り付けられており、補強フレームは前脚フレームに取り付けられているので、補強フレームが係合爪の中心軸へ近づく動きは、座部が前脚フレームから離間する動きを許容することもできる。
【0031】
本発明によれば、座部の動きは前脚フレーム及び後脚フレームの動きと連動しているので、座部と前脚フレームとのロックを解除する際、係合爪による座部の第1の補強フレームへの係合が完全に解除される直前の段階から、係合爪の少ない移動量、操作量で、座部を略水平な展開状態から略垂直な折り畳み状態へ円滑に移行することが可能となり、それに伴い、前脚フレームと後脚フレームが互いに離間した開脚状態から互いに近接した閉脚状態へ円滑に移行することも可能になる。
【0032】
特に本発明では、係合爪と係合する前脚フレームの補強フレームは円形の断面を有する丸棒から出来ているので、係合爪は、補強フレームとの係合を解除する際は、係合爪を補強フレームの外周面に沿わせることにより、補強フレームが係合爪の中心軸へ相対的に近づく動きを増長し、座部が前脚フレームから離間する動きも増長する。その結果、小さな操作力により、座部を略水平な展開状態から略垂直な折り畳み状態へ移行することがより一層円滑となり、それに伴い、前脚フレームと後脚フレームが互いに離間した開脚状態から互いに近接した閉脚状態へ移行することもより一層円滑になる。
【0033】
本発明によれば、ロック手段による座部と脚フレームとの係合を解除するためのロック解除手段として、背もたれ部の上端部分よりも上側領域のみにおいて上下方向にスライドする折り畳みレバーを、その上端部が背もたれ部の上端部分と略面一となるように配置したので、折り畳みレバーを上方向へ引き上げるワンタッチ操作のみにより、ロック手段による座部と脚フレームとの係合を解除し、そして座部を略水平な展開状態から略垂直な折り畳み状態へ回動して、浴室用椅子を閉脚状態にすることができる。また、折り畳みレバーを引き上げた手を持ち替えることなく、そのまま状態で浴室用椅子を持ち上げて運搬することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
図1】本発明の一実施形態に係る浴室用椅子を上から見た斜視図である。
図2図1に示される浴室用椅子を下から見た斜視図である。
図3図1に示される浴室用椅子の正面図である。
図4図1に示される浴室用椅子の背面図である。
図5図1に示される浴室用椅子の平面図である。
図6図1に示される浴室用椅子を開脚して、座部を略水平に展開した状態を示す左側面図である。
図7図1に示される浴室用椅子を閉脚して、座部を略垂直に折り畳んだ状態を示す左側面図である。
図8図1に示される浴室用椅子のロック手段の動作を示すためにロック手段を部分的に拡大した概要図であり、(a)は係合爪がロック状態にある位置を示し、(b)は係合爪がロック解除状態にある位置を示している。
図9図8に示される浴室用椅子のロック手段の動作を示すロック手段のB-B断面図であり、(a)は係合爪がロック状態にある位置を示し、(b)は係合爪がロック解除状態にある位置を示しており、そして(c)は係合爪の部分的拡大図を示している。
図10図1に示される浴室用椅子の背もたれ部の分解した状態を示す斜視図である。
図11図1に示される浴室用椅子のロック解除手段の動作を示す背もたれ部の概要図であり、(a)は折り畳みレバーがロック状態にある位置を示し、(b)は折り畳みレバーがロック解除状態にある位置を示している。
図12図4に示される浴室用椅子のロック解除手段の動作を示す背もたれ部のA-A断面図であり、実線は折り畳みレバーがロック状態にある位置を示し、破線は折り畳みレバーがロック解除状態にある位置を示している。
図13図1に示される浴室用椅子の座部付勢手段を示すために折り畳んだ状態の浴室用椅子を裏側から見た斜視図およびその部分的拡大図である。
図14図13に示される浴室用椅子の座部付勢手段の動作を示す概要図であり、(a)は浴室用椅子を開脚した状態を示し、(b)は浴室用椅子を閉脚した状態を示している。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下、本発明の一実施形態に係る浴室用椅子について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、本発明は、以下に示される実施例に限定されるものではなく、本発明の技術的思想を逸脱しない範囲内で各種の変更が可能である。
【0036】
1.浴室用椅子の全体構成
図1には、本発明の一実施形態に係る浴室用椅子1を上から見た斜視図が示されており、図2には、図1に示される浴室用椅子1を下から見た斜視図が示されている。また、図3,4,5には、図1に示される浴室用椅子1の正面図、背面図、平面図が示されている。また、図6には、図1に示される浴室用椅子1を開脚して、座部6を略水平に展開した状態を示す左側面図が示されており、図7には、図1に示される浴室用椅子を閉脚して、座部を略垂直に折り畳んだ状態を示す左側面図が示されている。なお、本願明細書では、特に断りがなければ、浴室用椅子1の背もたれ部5の表面側を「前」、背もたれ部5の背面側を「後」、浴室用椅子1へ腰を掛けた状態において左手が在る側を「左」、右手が在る側を「右」と呼んでいる。
【0037】
図1~5に示されているように、本実施形態の浴室用椅子1の脚フレーム2は、前脚部30と、前脚部30から上方に延びて、背もたれ部5を取り付けるための支持部31とからなる左右一対の前脚フレーム3を含んでいる。前脚フレーム3において、左右一対の支持部31はそれぞれの上部において水平部分を有しており、正面視において下向きコの字型を形成するように互いに連結されている。また、本実施形態の浴室用椅子1の脚フレーム2は、後脚部40を備えた後脚フレーム4を含んでおり、前脚フレーム3に回動自在に取り付けられている。前脚フレーム3および後脚フレーム4は、いずれも金属製の中空パイプから形成されているが、材料はこれに限定されるものではない。
【0038】
また、図2,3に示されているように、前脚フレーム3は、補強を兼ねて、左右一対の前脚部30を連結する第1の補強フレーム32と、第1の補強フレーム32よりも前側に配置されている第2の補強フレーム33とを有している。第1の補強フレーム32は、後述するロック手段8の係合爪80と係合することにより、座部6を第1の補強フレーム32へ回動不能に固定することができる。さらに、第2の補強フレーム33には、略水平な展開状態と略垂直な折り畳み状態との間で回動する座部6の動きを、互いに離間した開脚状態と互いに近接した閉脚状態との間で開閉する前脚フレーム3および後脚フレーム4の動きと連動させるために、座部6の裏面に設けられた一対の第2のブラケット62と連結される一対のリンク63が回動自在に取り付けられている。
【0039】
後脚フレーム3は、図2,4に示されているように、補強を兼ねて、左右一対の後脚部40(後脚フレーム4)を連結する座部支持フレーム41と、座部支持フレーム41よりも後側に配置されている補強フレーム42とを有している。座部支持フレーム41は、左右一対の後脚部40に対して回動不能に取り付けられており、座部6は、座部6の裏面に設けられた一対の第1のブラケット61を介して座部支持フレーム41へ回動自在に取り付けられている。
【0040】
なお、図1,2に示されているように、前脚部30および後脚部40の外周にはスリーブ状の前脚可動部300および後脚可動部400がスライド可能に取り付けられており、前脚可動部300および後脚可動部400の挿入長さを調整することで、前脚部30および後脚部40に対する前脚部30および後脚部40の長さ(座部6の高さ)を調整できるようになっている。また、前脚可動部300および後脚可動部400には、長手方向に沿って複数の係合孔301,401が設けられており、該係合孔301,401を、前脚部30および後脚部40に設けられたピン(図示せず)と整列させ、嵌合させることにより、前脚部30および後脚部40に対する前脚可動部300および後脚可動部400の挿入長さを調整することができる。
【0041】
また、後脚可動部400の先端には、床への傷付け防止や滑り防止のために樹脂製のキャップ402が装着されており、前脚可動部300には、床への傷付け防止や滑り防止の他、閉脚状態にある浴室用椅子1の開脚および閉脚の容易化を兼ねて接地面とローラとを備えた樹脂製のキャップ302が装着されている(図2参照)。
【0042】
背もたれ部5は樹脂材料から形成されており、その前面には発泡樹脂製の背もたれクッション50が取り付けられている。また、背もたれ部5は、前脚フレーム3の上部で左右一対の支持部31を連結している水平部分へ取付金具を介してビス止めされている(図4参照)。
【0043】
左右一対の肘掛け7は樹脂材料から形成されており、前脚フレーム3の上部で左右一対の支持部31へ回動自在に取り付けられている(図1参照)。
【0044】
座部6は樹脂材料から形成されており、その表面には発泡樹脂製の座面クッション60が取り付けられている。図2,3,6,7に示されているように、座部6の裏面には一対の第1のブラケット61が設けられており、該第1のブラケット61の貫通孔へ、スリーブ(図示せず)を介して座部支持フレーム41を挿通することにより、左右一対の後脚部40(後脚フレーム4)へ回動自在に取り付けられている。
【0045】
さらに、座部6の裏面には、一対の第1のブラケット61よりも前側に一対の第2のブラケット62が設けられており、一対のリンク63の一方の端部が該第2のブラケット61の貫通孔へ回動自在に取り付けられている。また、一対のリンク63の他の端部は、左右一対の前脚部30を連結する第2の補強フレーム33をクランプするように回動自在に取り付けられている。このため、本実施形態の浴室用椅子1は、座部6を略水平な展開状態(図6)と略垂直な折り畳み状態(図7)との間で回動させると、該座部6の動きに連動して、前脚フレーム3と後脚フレーム4が互いに離間した開脚状態(図6)と互いに近接した閉脚状態(図7)との間で開閉する。
【0046】
なお、図示しないが、座部6は必ずしも後脚フレーム4に回動自在に取り付けられている必要がなく、前脚フレーム3へ回動自在に取り付けられていてもよい。この場合、例えば左右一対の前脚部30(前脚フレーム3)に座部支持フレームを設けることで、上述した後脚フレーム4と同様に、座部6を簡単に前脚フレーム3へ回動自在に取り付けることができる。
【0047】
2.ロック手段
図8には、本実施形態の浴室用椅子1のロック手段8の動作を示すためにロック手段8を部分的に拡大した概要図が示されており、(a)は、係合爪80が前脚フレーム3の第1の補強フレームと係合して32ロック状態にある位置を示しており、(b)は、係合爪80が前脚フレーム3の第1の補強フレームから離間してロック解除状態にある位置を示している。また、図9には、図8に示される浴室用椅子1のロック手段8の動作を示すロック手段8のB-B断面図が示されており、(a)は、係合爪80が前脚フレーム3の第1の補強フレーム32と係合してロック状態にある位置を示しており、(b)は、係合爪80が前脚フレーム3の第1の補強フレームから離間してロック解除状態にある位置を示しており、そして(c)は、係合爪80の部分的拡大図を示している。
【0048】
本実施形態の浴室用椅子1において、ロック手段8は、係合爪80と、係合爪80を前脚フレーム3の第1の補強フレーム32と係合する方向に付勢する弦巻ばね状の爪付勢手段81と、係合爪80および爪付勢手段81を収容するハウジング82とを備えており、そしてハウジング82を介して座部6の裏面にネジ止めされている。
【0049】
係合爪80は、前脚フレーム3の第1の補強フレーム32と係合および係合解除ができるように、座部6の裏面に対して斜め下方向へスライド可能にハウジング82の中に収容されており、そして、係合爪80の後端には、後述するロック解除手段9の折り畳みレバー90による操作を伝達するためのワイヤー92が連結されている。
【0050】
ハウジング82は、その先端に係合爪80をスライド可能に前進および後退させるための開口部820と、ワイヤー92をスライド可能に収容するシース920の先端部および爪付勢手段81とを固定するための固定壁821を有している。そして、ワイヤー92と連結された係合爪80の後端と固定壁821との間には弦巻ばね状の爪付勢手段81が配置され、係合爪80を前脚フレーム3の第1の補強フレームと係合する方向に付勢する。
【0051】
係合爪80は、前脚フレーム3の第1の補強フレーム32と接するように係合する摺接面800を有しており、該摺接面800はスライド方向から、第1の補強フレーム32から離間する側へ傾いた傾斜面801を含んでいる(図9(c)参照)。
【0052】
係合爪80は、図8(a)および図9(a)に示されるように、第1の補強フレーム32上を横断することにより該第1の補強フレーム32と係合し、座部6を第1の補強フレーム32へ固定して略水平な展開状態に保持する。また、係合爪80は、図8(b)および図9(b)に示されるように、第1の補強フレーム32上から完全に後退することにより該第1の補強フレーム32との係合を解除し、座部6を第1の補強フレーム32から離して略垂直な折り畳み状態にすることを許容する。
【0053】
本実施形態において、係合爪80は摺接面800が上述のような傾斜面801を有しているので(図9(c))、第1の補強フレーム32との係合を解除する際は、係合爪80が第1の補強フレーム32と干渉しない位置(図9(c)中の第1の補強フレーム32が符号cの相対位置にある態様)へ完全に後退する前から、第1の補強フレーム32が係合爪80の中心軸(例えばワイヤー92)へ相対的に近づく動き(図9(c)中の第1の補強フレーム32が符号aからbの相対位置へ動く態様)を許容する。また、本実施形態では、係合爪80を備えたロック手段8は座部6に取り付けられており、第1の補強フレーム32は前脚フレーム3に取り付けられているので、第1の補強フレーム32が係合爪80の中心軸へ近づく動きは、座部6が前脚フレーム3から離間する動きを許容する。
【0054】
すなわち、本実施形態の浴室用椅子1では、座部6と前脚フレーム3とのロックを解除する際、係合爪80による座部6の第1の補強フレーム32への係合が完全に解除される直前の段階から、座部6を略水平な展開状態から略垂直な折り畳み状態へ円滑に移行することが可能となり、それに伴い、前脚フレーム3と後脚フレーム4が互いに離間した開脚状態から互いに近接した閉脚状態へ円滑に移行することも可能になる。
【0055】
特に本実施形態では、係合爪80と係合する前脚フレーム3の第1の補強フレーム32は円形の断面を有する丸棒から出来ているので、係合爪80は、第1の補強フレーム32との係合を解除する際は、係合爪80を第1の補強フレーム32の外周面に沿わせることにより、第1の補強フレーム32が係合爪80の中心軸へ相対的に近づく動きを増長し、座部6が前脚フレーム3から離間する動きも増長する。その結果、座部6を略水平な展開状態から略垂直な折り畳み状態へ移行することがより一層円滑となり、それに伴い、前脚フレーム3と後脚フレーム4が互いに離間した開脚状態から互いに近接した閉脚状態へ移行することもより一層円滑になる。
【0056】
このため、摺接面800は曲面により構成されていることが好ましく、また摺接面800の曲率半径は係合爪の根元端付近の曲率半径r1よりも先端付近の曲率半径r2の方が小さいことが好ましい(図9(c)参照)。さらに、摺接面800は曲面のみならず、平面および曲面の組み合わせにより構成されていてもよい。
【0057】
また、本実施形態では、浴室用椅子1の開脚をアシストするために、座部6を略水平な展開状態から略垂直な折り畳み状態へ回動させる方向へ付勢する捻りコイルばね状の座部付勢手段43が、座部6と該座部6が回動自在に取り付けられている座部支持フレーム41との間に取り付けられているので(図13参照)、座部付勢手段43は、係合爪80による第1の補強フレーム32との係合が解除される際は、第1の補強フレーム32が係合爪80の中心軸(例えばワイヤー92)へ近づくように円滑な動きをアシストする。その結果、座部6を略水平な展開状態から略垂直な折り畳み状態へ移行するための力が軽減され、それに伴い、前脚フレーム3と後脚フレーム4が互いに離間した開脚状態から互いに近接した閉脚状態へ移行するための力も軽減され、脚フレーム3,4の動きもより一層円滑になる。
【0058】
なお、図示しないが、係合爪80は必ずしも前脚フレーム3または前脚フレーム3の補強フレームと係合する必要はなく、後脚フレーム4または後脚フレーム4の補強フレームと係合することにより、座部6を後脚フレーム4または後脚フレーム4の補強フレームへ固定して略水平な展開状態に保持することもできる。
【0059】
3.ロック解除手段
図10には、本実施形態の浴室用椅子1のロック解除手段9の概要を示すために浴室用椅子1の背もたれ部5の分解した状態を示す斜視図が示されている。また、図11には、本実施形態の浴室用椅子1のロック解除手段9の動作を示すための背もたれ部の概要図が示されており、(a)は折り畳みレバー90がロック状態にある位置を示しており、(b)は折り畳みレバー90がロック解除状態にある位置を示している。また、図12には、図4に示される浴室用椅子1のロック解除手段9の動作を示す背もたれ部5のA-A断面図が示されており、実線は折り畳みレバー90がロック状態にある位置を示しており、破線は折り畳みレバー90がロック解除状態にある位置を示している。
【0060】
本実施形態の浴室用椅子1において、ロック解除手段9は、手を掛けるための折り畳みレバー90と、折り畳みレバー90に回動自在に連結されるテコ手段91と、テコ手段91に連結されるワイヤー92とを備えており、そして折り畳みレバー90およびテコ手段91を覆うカバー93を介して背もたれ部5の背面にネジ止めされている。
【0061】
図1,2,12によく示されているように、本実施形態では、折り畳みレバー90は、その上端部が背もたれ部5の上端部分51と略面一となるように配置されている。また、本実施形態では、浴室用椅子1を折り畳んで水平面に自立させた状態において、背もたれ部5の上端部分51および折り畳みレバー90の上端部は、背もたれ部5の表面側から背面側へ向かうにつれて高くなるように傾斜している(図7)。
【0062】
折り畳みレバー90の上端部を背もたれ部5の上端部分51と略面一となるように配置すると、折り畳みレバー90が背もたれ部5の上端部分51において背面側へ張り出してしまうことから、本実施形態では、折り畳みレバー90は背もたれ部5の背面に凹部52を設けて、該凹部52の中で折り畳みレバー90が背もたれ部5の背面に沿って上下方向にスライドできるようにすることにより、背もたれ部5の背面側へ張り出さないように取り付けられている。このため、本実施形態では、折り畳みレバー90は、折り畳みレバー90と壁面との間に生じた隙間から手の指を差し込んで容易に操作をすることができる。
【0063】
また、ロック解除手段9は、折り畳みレバー90のスライド量を規制するために、折り畳みレバー90に設けられたスライド規制長穴913と、該スライド規制長穴914に挿通される、カバー93に設けられたスライド規制突起930からなるスライド規制手段913を備えており、スライド規制突起930は背もたれ部5の背面に設けてもよい。さらに、図示しないが、スライド規制手段913はスライド規制長穴をカバー93又は背もたれ部5の背面に設け、スライド規制突起を折り畳みレバー90に設けてもよい。本実施形態では、ロック解除手段9にスライド規制手段913を設けることにより、折り畳みレバー90をスライド限界まで引き上げた後は、引き手を離すことなく、そのまま続けて浴室用椅子1を持ち上げて持ち運びができるようになる。
【0064】
なお、「略面一」とは、折り畳みレバー90の上端部の面と背もたれ部5の上端部分51の面との間に殆ど段差がない状態を意味し、厳密な意味において段差がない状態を意味するものではない。本実施形態では、折り畳みレバー90の上端部及び/又は背もたれ部5の上端部分51は、使用者が、例えば掌により下方向へ押し込んで、折り畳み状態にある浴室用椅子1を開脚させるために使用する領域である。このため、「略面一」とは、使用者が、掌で折り畳みレバー90の上端部と背もたれ部5の上端部分51とを同時に押し込んでも段差感を感じることがない程度に、折り畳みレバー90の上端部の面と背もたれ部5の上端部分51の面とが連続的に形成されていればよい。
【0065】
本実施形態では、ロック解除手段9は、第1のアーム910と第2のアーム911を有しており、背もたれ部5の凹部52中に設けられた回転軸912の周りに回転可能に取り付けられたテコ手段91を備えている。そして、テコ手段91の第1のアーム910は、第1のアーム910に設けられた長穴を、折り畳みレバー90の下端部付近に設けた円柱形の突起900に嵌合させることにより折り畳みレバー90と回動自在に連結されている。また、テコ手段91の第2のアーム911には、折り畳みレバー90による操作(テコ手段91の回転)をロック手段8へ伝達するためのワイヤー92が取り付けられている。
【0066】
また、本実施形態の浴室用椅子1は、上述したように前脚フレーム3と座部6とを連結するリンク63を設けているので、前脚フレーム3と後脚フレーム4を、互いに離間した開脚状態と互いに近接した閉脚状態との間で開閉させる動きは、座部6を、略水平な展開状態と略垂直な折り畳み状態との間で回動させる動きと連動するように構成されている。
【0067】
このため、本実施形態の浴室用椅子1では、折り畳みレバー90を上方向へ引き上げると(図11(b),図12の破線部)、ロック手段8による座部6と前脚フレーム3との係合が解除されて、座部6が略水平に展開した開脚状態から座部6が略垂直に折り畳まれた閉脚状態へ移行する一方、折り畳みレバー90を下方向へ押し込むと(図11(a),図12の実線部)、閉脚状態にある浴室用椅子1が開脚状態に移行する。このように、本実施形態では、折り畳みレバー90の上端部を背もたれ部5の上端部分51よりも上側へスライドするが、背もたれ部5の上端部分51よりも下側にはスライドしないようにしたので(図11(a),(b)および図12)、上述の引き上げ操作による浴室用椅子1の閉脚および座部6の折り畳みと、押し込み操作による浴室用椅子1の開脚および座部6の展開を容易且つ確実に行えるようになる。
【0068】
図11(a),(b)および図12に示されているように、本実施形態では折り畳みレバー90は、その上端部が背もたれ部5の上端部分51よりも上側領域のみにおいてスライドできるように取り付けられており、さらに、折り畳みレバー90は背もたれ部5の背面に対して回動不可能に取り付けられている。
【0069】
折り畳みレバー90は、その引き上げ操作により、開脚状態にある浴室用椅子1を座部6が略垂直に折り畳まれた状態にし、そしてその押し込み操作により、閉脚状態にある浴室用椅子1を座部6が略水平に展開した状態開脚状態にするために使用するものである。このため、折り畳みレバー90が回動可能であると、引き上げ操作および押し込み操作に際して折り畳みレバー90の角度が変化してしまい操作性が低下すると共に、折り畳みレバー90を引き上げた後は、引き手を離すことなく、そのまま続けて浴室用椅子1を持ち上げて持ち運びができるという本実施形態特有の機能を失うことになるからである。
【0070】
このように、本実施形態の浴室用椅子1では、ロック手段8による座部6と前脚フレーム3との係合を解除するためのロック解除手段9として、背もたれ部5の上端部分51よりも上側領域のみにおいて上下方向にスライドする折り畳みレバー90を、その上端部が背もたれ部5の上端部分51と略面一となるように配置したので、折り畳みレバー90を上方向へ引き上げるワンタッチ操作のみにより、ロック手段8による座部6と前脚フレーム3との係合が解除され、そして座部6を略水平な展開状態から略垂直な折り畳み状態へ回動して、浴室用椅子1を閉脚状態にすることができる(図7)。また、折り畳みレバー90を引き上げた手を持ち替えることなく、そのまま状態で浴室用椅子1を持ち上げて運搬することもできる。
【0071】
さらに、折り畳みレバー90を下方向へ押し込むワンタッチ操作のみにより、座部6を略垂直な折り畳み状態から略水平な展開状態へ回動して、浴室用椅子1を開脚状態にすることもできる(図6)。特に本実施形態の場合は、浴室用椅子1を折り畳んで水平面に自立させた状態において、背もたれ部5の上端部分51および折り畳みレバー90の上端部は、背もたれ部5の表面側から背面側へ向かうにつれて高くなるように傾斜しているので、この傾斜によって、背もたれ部5の上端部分51や折り畳みレバー90の上端部を押し付けることにより、後脚部30および後脚フレーム5へ力が伝わり易くなる結果、浴室用椅子1の展開が容易になる。
【0072】
本実施形態において、折り畳みレバー90を、第1のアーム910と第2のアーム911を備えたテコ手段91のいずれか一方のアームに連結に連結すると、折り畳みレバー90による背もたれ部5の背面に沿った上下方向の直線運動は、背もたれ部5の任意の位置において、テコ手段91の他方のアームによる背もたれ部5の背面に沿った任意の方向に向けた円弧上の往復運動として取り出すことができるようになる。このため、折り畳みレバー90による操作をロック手段8へ伝達するためのワイヤー92をテコ手段91の他方のアームへ連結すれば、該ワイヤー92は極端な屈曲などによりその動きが阻害されることなく、体裁よく背もたれ部の中や外へ自由に配設することができるようになる。
【0073】
また、テコ手段91の第1のアーム910の長さ(より正確には、第1のアーム910中の折り畳みレバー90との連結点から回転軸912までの距離)および第2のアーム911の長さ(第2のアーム911中のワイヤー92との連結点(取付け点)から回転軸912までの距離)をそれぞれに任意に設定および調節することもできるし、テコ手段91の回転軸(突起900)に対するそれぞれの取り付け角度を任意に設定および調節することもできる。別言すれば、第1のアーム910および第2のアーム911は、それぞれの長さ(連結点から回転軸までの距離)を互いに等しくすることもできれば、異なる長さにすることもできる。また、第1のアーム910および第2のアーム911は、テコ手段91の回転軸(突起900)に対してそれぞれを直線状に整列させることもできれば、異なる角度に取り付けて直線状に整列しないように配置することもできる。
【0074】
この結果、折り畳みレバー90による上下方向のストロークおよびその操作力は、テコ手段91を介して、テコ手段91の他方のアームによる円弧上のストロークおよびその操作力として自由に増大させこともできれば、減少させることもできる。
【0075】
4.閉脚アシスト機構
図13には、本実施形態の浴室用椅子1の捻りコイルばね状の座部付勢手段43を示すために折り畳んだ状態の浴室用椅子1を裏側から見た斜視図およびその部分的拡大図が示されている。また、図14には、図13に示される浴室用椅子1の座部付勢手段43の動作を示す概要図が示されており、(a)は浴室用椅子1を開脚した状態を示しており、(b)は浴室用椅子1を閉脚した状態を示している。
【0076】
本実施形態では、上述したように座部6は、その裏面に一対の第1のブラケット61が設け、該第1のブラケット61の貫通孔へ、スリーブ(図示せず)を介して座部支持フレーム41を挿通することにより、左右一対の後脚部40(後脚フレーム4)へ回動自在に取り付けられている(図2,3,6,7参照)。また、座部支持フレーム41には、左右一対の偏心カム44が該座部支持フレーム41に対して回動不能に固定されており、捻りコイルばね状の座部付勢手段43が座部6と偏心カム44との間に取り付けられている(図13)。なお、本実施形態では、座部付勢手段43は捻りコイルばねに限定されるものではなく、形状等が適合すれば、板ばねなどの一般の付勢手段も使用することができる。
【0077】
具体的には、座部付勢手段43は、第1の腕430と第2の腕431を有する捻りコイルばねであり、該捻りコイルばね43の中心開口へ座部支持フレーム41を挿通することにより、捻りコイルばね43の中心と座部支持フレーム41の中心とが同軸となるように配置される。このため、捻りコイルばね状の座部付勢手段43は、専用の付勢手段固定用のブラケット等を設けることなく、座部支持フレーム41にその中心を変位させることがないように確実に固定される。
【0078】
また、捻りコイルばね43の第1の腕430の先端は鉤型形状を有しており、座部支持フレーム41に固定された偏心カム44に固定され、一方、捻りコイルばね43の第2の腕431の先端は弦巻形状を有しており、常に座部6の裏面を押し付けるように当接させて配置される。すなわち、捻りコイルばね状の座部付勢手段43は座部6と該座部6が回動自在に取り付けられている後脚フレーム4または後脚フレーム4の座部支持フレーム41との間に取り付けられており、座部支持フレーム41および偏心カム44は後脚部40(後脚フレーム4)に対して回動しないので、捻りコイルばね43は常に座部6を略水平な展開状態(図14(a))から略垂直な折り畳み状態(図14(b))へ回動させる方向へ付勢する。
【0079】
なお、図示しないが、座部付勢手段43は必ずしも座部6と該座部6が回動自在に取り付けられている後脚フレーム4または後脚フレーム4の座部支持フレーム41との間に取り付けられている必要はなく、例えば座部6が前脚フレーム2に回動自在に取り付けられている場合は、前脚フレーム2または前脚フレーム2の座部支持フレームとの間に取り付けられていてもよい。
【0080】
本実施形態の浴室用椅子1は、上述したように前脚フレーム3と座部6とを連結するリンク63を設けることにより、前脚フレーム3と後脚フレーム4を、互いに離間した開脚状態と互いに近接した閉脚状態との間で開閉させる動きは、座部6を、略水平な展開状態と略垂直な折り畳み状態との間で回動させる動きと連動するように構成されている。
【0081】
このため、本実施形態の浴室用椅子1では、ロック解除手段9により、ロック手段8による座部6と前脚フレーム3との係合を解除すれば、座部6は自動的に又は外部から殆ど力を加えることなく、略水平な展開状態から略垂直な折り畳み状態へ回動して、浴室用椅子1が閉脚状態になる(図7)。また、捻りコイルばね状の座部付勢手段43の付勢力に抗して、折り畳みレバー90を下方向へ押し込むと、座部6は略垂直な折り畳み状態から略水平な展開状態へ回動して、浴室用椅子1が開脚状態になる(図6)。
【符号の説明】
【0082】
1・・・・・浴室用椅子
2・・・・・脚フレーム
3・・・・・前脚フレーム
30・・・・前脚部(脚部)
300・・・前脚可動部
301・・・係合孔
302・・・キャップ
31・・・・支持部
32・・・・第1の補強フレーム
33・・・・第2の補強フレーム
4・・・・・後脚フレーム
40・・・・後脚部(脚部)
400・・・後脚可動部
401・・・係合孔
402・・・キャップ
41・・・・座部支持フレーム(座部と後脚フレームの回動軸)
42・・・・補強フレーム
43・・・・座部付勢手段(捻りコイルばね)
430・・・第1の腕
431・・・第2の腕
44・・・・偏心カム
5・・・・・背もたれ部
50・・・・背もたれクッション
51・・・・上端部分
52・・・・凹部
6・・・・・座部
60・・・・座面クッション
61・・・・第1のブラケット
62・・・・第2のブラケット
63・・・・リンク
7・・・・・肘掛け
8・・・・・ロック手段
80・・・・係合爪
800・・・摺接面
801・・・傾斜面
r1・・・・根元端付近の曲率半径
r2・・・・先端付近の曲率半径
81・・・・爪付勢手段(弦巻ばね)
82・・・・ハウジング
820・・・開口部
821・・・固定壁
9・・・・・ロック解除手段
90・・・・折り畳みレバー
900・・・突起
91・・・・テコ手段
910・・・第1のアーム
911・・・第2のアーム
912・・・回転軸
913・・・スライド規制手段
914・・・スライド規制長穴
92・・・・ワイヤー
920・・・シース
93・・・・カバー
930・・・スライド規制突起
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14