(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-14
(45)【発行日】2023-07-25
(54)【発明の名称】耐火被覆構造および耐火被覆工法
(51)【国際特許分類】
E04B 1/94 20060101AFI20230718BHJP
E04B 2/56 20060101ALI20230718BHJP
E04B 9/00 20060101ALI20230718BHJP
【FI】
E04B1/94 A
E04B1/94 D
E04B1/94 L
E04B2/56 645E
E04B9/00 D
(21)【出願番号】P 2019072015
(22)【出願日】2019-04-04
【審査請求日】2022-01-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000110804
【氏名又は名称】ニチアス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100167689
【氏名又は名称】松本 征二
(72)【発明者】
【氏名】清水 玄宏
【審査官】沖原 有里奈
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第03369929(US,A)
【文献】特開2010-248891(JP,A)
【文献】特開2013-087464(JP,A)
【文献】特開2012-224976(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04B 1/62-1/99
E04B 2/56-2/70
E04B 9/00-9/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内装建材と、
第1耐火被覆材と、
鉄骨部材と、
を含み、
前記鉄骨部材の一端部の当接面は、前記内装建材の第1面に当接し、
前記第1耐火被覆材は、前記鉄骨部材の一端部の周囲を覆うように前記内装建材の第1面を被覆する、
耐火被覆構造であって、該耐火被覆構造において、
下表面の赤外線反射率を0.4以上1.0以下に高められた床下用金属板が、前記第1耐火被覆材と前記内装建材との間、又は、前記第1耐火被覆材の前記内装建材の第1面とは反対側の面に設置されることが除かれ、
第2耐火被覆材を更に含み、
前記鉄骨部材の一端部の当接面と前記内装建材の第1面が当接している部分を、前記第2耐火被覆材が間接的に被覆しており、
前記第2耐火被覆材の少なくとも一部は、前記鉄骨部材の他端部の外面に接触するように配置されている
、
耐火被覆構造。
【請求項2】
内装建材と、
第1耐火被覆材と、
鉄骨部材と、
を含み、
前記鉄骨部材の一端部の当接面は、前記内装建材の第1面に当接し、
前記第1耐火被覆材は、前記鉄骨部材の一端部の周囲を覆うように前記内装建材の第1面を被覆する、
耐火被覆構造であって、該耐火被覆構造において、
下表面の赤外線反射率を0.4以上1.0以下に高められた床下用金属板が、前記第1耐火被覆材と前記内装建材との間、又は、前記第1耐火被覆材の前記内装建材の第1面とは反対側の面に設置されることが除かれ、
前記内装建材の第2面乃至第6面の少なくとも1以上の面が、前記第1耐火被覆材で被覆されている
、
耐火被覆構造。
【請求項3】
内装建材と、
第1耐火被覆材と、
鉄骨部材と、
を含み、
前記鉄骨部材の一端部の当接面は、前記内装建材の第1面に当接し、
前記第1耐火被覆材は、前記鉄骨部材の一端部の周囲を覆うように前記内装建材の第1面を被覆する、
耐火被覆構造であって、該耐火被覆構造において、
下表面の赤外線反射率を0.4以上1.0以下に高められた床下用金属板が、前記第1耐火被覆材と前記内装建材との間、又は、前記第1耐火被覆材の前記内装建材の第1面とは反対側の面に設置されることが除かれ、
前記鉄骨部材の一端部と前記内装建材の第1面とが、間接的に当接する
、
耐火被覆構造。
【請求項4】
前記耐火被覆構造において、
前記鉄骨部材の一端部の周囲以外が前記第1耐火被覆材で覆われることが更に除かれる、
請求項1
乃至3の何れか一項に記載の耐火被覆構造。
【請求項5】
前記内装建材が、非耐火内装建材である、
請求項1
乃至4の何れか一項に記載の耐火被覆構造。
【請求項6】
前記第2耐火被覆材の両端部が、前記内装建材の第1面を被覆している前記第1耐火被覆材に接触するように取り付けられている、
請求項
1に記載の耐火被覆構造。
【請求項7】
内装建材と、
第1耐火被覆材と、
第2耐火被覆材と、
第3耐火被覆材と、
鉄骨部材と、
を含み、
前記鉄骨部材の一端部の当接面は、前記内装建材の第1面に当接し、
前記第1耐火被覆材は、前記鉄骨部材の一端部の周囲を覆うように前記内装建材の第1面を被覆し、
前記鉄骨部材の一端部の当接面と前記内装建材の第1面が当接している部分を、前記第2耐火被覆材が間接的に被覆し、
前記第3耐火被覆材は石膏ボードで形成され、前記鉄骨部材に取り付けられ、且つ、前記第2耐火被覆材と離間して配置されている、
耐火被覆構造。
【請求項8】
内装建材、
ボード状の第1耐火被覆材、および、鉄骨部材を用いた耐火被覆工法であって、
該耐火被覆工法は、
前記内装建材の第1面に前記鉄骨部材の一端部を当接し、前記一端部の周囲を覆うように前記
ボード状の第1耐火被覆材を前記内装建材の第1面に
固定具または耐火性接着剤を用いて取り付ける工程、
または、
前記鉄骨部材の一端部を挿入できる切り欠きを形成した前記
ボード状の第1耐火被覆材を前記内装建材の第1面に
固定具または耐火性接着剤を用いて取り付け、前記切り欠きに前記鉄骨部材の一端部を挿入する工程、
の何れかの工程を含み、
前記耐火被覆工法において、
下表面の赤外線反射率を0.4以上1.0以下に高められた床下用金属板が、前記第1耐火被覆材と前記内装建材との間、又は、前記第1耐火被覆材の前記内装建材の第1面とは反対側の面に設置されることが除かれる、
耐火被覆工法。
【請求項9】
前記耐火被覆工法において、
前記鉄骨部材の一端部の周囲以外が前記第1耐火被覆材で覆われることが更に除かれる、
請求項
8に記載の耐火被覆工法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書における開示は、耐火被覆構造および耐火被覆工法に関する。特に、内装建材が、耐火内装建材および非耐火内装建材の何れにも対応可能な耐火被覆構造および耐火被覆工法に関する。
【0002】
建築基準法の上で建物が耐火建築物であると認められる検証方法の一つとして、耐火性能検証法が挙げられる。この検証法では、防火区画毎に火災継続時間を算定し、この火災継続時間において建物が構造物としての健全性を保てるように、建物の躯体となる柱や梁に施す耐火被覆の仕様(使用材料や被覆厚さ等)を定めている。
【0003】
耐火建築物は、例えば、コンクリートの様に、構造を担保する機能と耐火・防火性を担保する機能を同時に達成する部材を用いることで建造することができる。また、構造を担保する部分(部材)と、耐火・防火性を担保する部分(部材)とを分けて建造することもできる。
【0004】
構造を担保する部分(部材)と、耐火・防火性を担保する部分(部材)とを分けた例としては、構造を担保する部材として鉄骨部材を用い、耐火を担保する部材として耐火被覆材を用いた例が知られている。例えば、特許文献1では、建物の躯体梁又は躯体柱を構成する鉄骨部材の耐火被覆構造として、鉄骨部材と、鉄骨部材を取り囲む耐火被覆材により構成される耐火被覆構造と、耐火被覆構造を取り囲む耐火被覆材により構成される耐火被覆補強構造と、を有する耐火被覆複層構造が記載されている。
【0005】
また、特許文献2では、H型、I型またはボックス型の鉄骨の梁や柱等を構成する鋼材の表面に沿って全面または一部表面に吸熱パックを取付け、次いで該鋼材を取り囲んで無機繊維混合マットや耐火ボード或はロックウールまたはセメントスラリー等の吹付材の様な耐火断熱材や金属板や窯業系薄板の様な遮炎材を取付けて成る鉄骨耐火被覆構造が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第5839928号公報
【文献】特開平7-133640号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
耐火建造物において、床や壁等の内装建材は、一般的にはコンクリート(鉄筋コンクリート)や軽量気泡コンクリート(autoclaved lightweight concrete;ALC)等の耐火性能を有する部材が用いられている(特許文献1の段落0018参照)。したがって、上記特許文献1および特許文献2に記載されているように、建物の躯体梁又は躯体柱を構成する鉄骨部材と内装建材の接合部分の耐火被覆構造は、鉄骨部分のみが耐火被覆材で覆われるように形成されている。
【0008】
ところで、内装建材として、非耐火材料で形成した非耐火内装建材を用いる場合も想定される。しかしながら、上記特許文献1および特許文献2に記載されている耐火被覆構造は、内装建材には耐火性能を有する部材を用いた例のみしか記載されていない。内装建材と鉄骨部材を組み合わせた耐火被覆構造であって、従来から使用されている耐火内装建材および非耐火内装建材の何れの内装建材を用いることができる耐火被覆構造および耐火被覆工法は知られていない。
【0009】
本明細書における開示は、上記問題を解決する為になされてものであり、鋭意研究を行ったところ、
(1)内装建材の第1面に鉄骨部材の一端部を当接し、
(2)鉄骨部材の一端部の周囲を覆うように、第1耐火被覆材で内装建材の第1面を被覆することで、
上記問題を解決できることを新たに見出した。
【0010】
すなわち、本明細書の開示の目的は、新たな耐火被覆構造および耐火被覆工法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本明細書における開示は、以下に示す、耐火被覆構造および耐火被覆工法に関する。
【0012】
(1)内装建材と、
第1耐火被覆材と、
鉄骨部材と、
を含み、
前記鉄骨部材の一端部の当接面は、前記内装建材の第1面に当接し、
前記第1耐火被覆材は、前記鉄骨部材の一端部の周囲を覆うように前記内装建材の第1面を被覆する、
耐火被覆構造。
(2)前記内装建材が、非耐火内装建材である、
上記(1)に記載の耐火被覆構造。
(3)第2耐火被覆材を更に含み、
前記鉄骨部材の一端部の当接面と前記内装建材の第1面が当接している部分を、前記第2耐火被覆材が間接的に被覆している、
上記(1)または(2)に記載の耐火被覆構造。
(4)前記第2耐火被覆材の少なくとも一部は、前記鉄骨部材の他端部の外面に接触するように配置されている、
上記(3)に記載の耐火被覆構造。
(5)前記第2耐火被覆材の両端部が、前記内装建材の第1面を被覆している前記第1耐火被覆材に接触するように取り付けられている、
上記(3)または(4)に記載の耐火被覆構造。
(6)前記内装建材の第2面乃至第6面の少なくとも1以上の面が、前記第1耐火被覆材で被覆されている、
上記(1)乃至(5)の何れか一つに記載の耐火被覆構造。
(7)第3耐火被覆材を更に含み、
前記第3耐火被覆材は前記鉄骨部材に取り付けられ、且つ、前記第2耐火被覆材と離間して配置されている、
上記(3)乃至(6)の何れか一つに記載の耐火被覆構造。
(8)前記鉄骨部材の一端部と前記内装建材の第1面とが、間接的に当接する、
上記(1)乃至(7)の何れか一つに記載の耐火被覆構造。
(9)内装建材、第1耐火被覆材、および、鉄骨部材を用いた耐火被覆工法であって、
該耐火被覆工法は、
前記内装建材の第1面に前記鉄骨部材の一端部を当接し、前記一端部の周囲を覆うように前記第1耐火被覆材を前記内装建材の第1面に取り付ける工程、
または、
前記鉄骨部材の一端部を挿入できる切り欠きを形成した前記第1耐火被覆材を前記内装建材の第1面に取り付け、前記切り欠きに前記鉄骨部材の一端部を挿入する工程、
の何れかの工程を含む、
耐火被覆工法。
【発明の効果】
【0013】
本明細書で開示する耐火被覆構造および耐火被覆工法により、内装建材が、耐火内装建材或いは非耐火内装建材を問わず、耐火被覆構造を形成できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1Aおよび
図1Bは、第1の実施形態に係る耐火被覆構造1aの概略を示す断面図である。
【
図2】
図2Aおよび
図2Bは、第2の実施形態に係る耐火被覆構造1bの概略を示す断面図である。
【
図3】
図3Aおよび
図3Bは、第3の実施形態に係る耐火被覆構造1cの概略を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照しつつ、耐火被覆構造および耐火被覆工法の各種実施形態について、詳しく説明する。なお、本明細書において、同種の機能を有する部材には、同一または類似の符号が付されている。そして、同一または類似の符号の付された部材について、繰り返しとなる説明が省略される場合がある。
【0016】
(耐火被覆構造の第1の実施形態)
図1Aおよび
図1Bを参照して、第1の実施形態に係る耐火被覆構造1aについて説明する。なお、以下において、
図1Aおよび
図1Bに共通する説明の場合は、単に「
図1」と記載し、区別する場合のみ
図1A、
図1Bと記載する。以下の
図2および
図3も同様である。
図1は、第1の実施形態に係る耐火被覆構造1aの概略を示す断面図である。第1の実施形態に係る耐火被覆構造1aは、内装建材2と、建物の躯体梁又は躯体柱を構成する鉄骨部材3と、第1耐火被覆材4と、を少なくとも含んでいる。
【0017】
本明細書において、「内装建材」とは、床、壁、天井等に用いられる建材を意味する。第1の実施形態に係る内装建材2は、耐火材料で形成されている耐火内装建材、非耐火材料で形成されている非耐火内装建材の何れであってもよい。耐火内装建材としては、建築基準法(昭和25年法律第201号)第2条第7号の規定に基づき定められた『平成12年1399号〔建築基準法関係告示〕 耐火構造の構造方法を定める件』に規定されている耐火内装建材が挙げられる。例えば、内装建材2が床の場合には、以下の2種類が記載されている。
【0018】
『一 令第107条第一号及び第二号に掲げる技術的基準(第一号にあっては、通常の火災による火熱が2時間加えられた場合のものに限る。)に適合する床の構造方法は、次のイからハまでのいずれかに該当する構造とすることとする。
イ 鉄筋コンクリート造、鉄骨鉄筋コンクリート造で厚さが10cm以上のもの
ロ 鉄材によって補強されたコンクリートブロック造、れんが造又は石造で、肉厚及び仕上材料の厚さの合計が8cm以上であり、かつ、鉄材に対するコンクリートブロック、れんが又は石のかぶり厚さが5cm以上のもの
ハ 鉄材の両面を塗厚さが5cm以上の鉄網モルタル又はコンクリートで覆ったもの(塗下地が不燃材料で造られていないものを除く。)』
【0019】
『二 令第107条第一号及び第二号に掲げる技術的基準(第一号にあっては、通常の火災による火熱が1時間加えられた場合のものに限る。)に適合する床の構造方法は、次のイからハまでのいずれかに該当する構造とすることとする。
イ 鉄筋コンクリート造又は鉄骨鉄筋コンクリート造で厚さが7cm以上のもの
ロ 鉄材によって補強されたコンクリートブロック造、れんが造又は石造で、肉厚が5cm以上であり、かつ、鉄材に対するコンクリートブロック、れんが又は石のかぶり厚さが4cm以上のもの
ハ 鉄材の両面を塗厚さが4cm以上の鉄網モルタル又はコンクリートで覆ったもの(塗下地が不燃材料で造られていないものを除く。)』
【0020】
本明細書において「非耐火内装建材」とは、上記の耐火内装建材の基準を満たさない建材である。例えば、上記2種類の耐火内装建材の中で、耐火性能が低い方の基準(通常の火災による火熱が1時間加えられた場合)より、更に低い以下の内装建材が挙げられる。
イ’ 鉄筋コンクリート造又は鉄骨鉄筋コンクリート造で厚さが7cm未満のもの
ロ’ 鉄材によって補強されたコンクリートブロック造、れんが造又は石造で、肉厚が5cm未満であり、かつ、鉄材に対するコンクリートブロック、れんが又は石のかぶり厚さが4cm未満のもの
ハ’ 鉄材の両面を塗厚さが4cm未満の鉄網モルタル又はコンクリートで覆ったもの(塗下地が不燃材料で造られていないものを除く。)
【0021】
また、非耐火内装建材としては、後述する第1耐火被覆材と組み合すことで、耐火性能が発揮できればよいので、建築物として耐力を保持できれば特に制限はない。例えば、木材等の可燃性の材料で作製したものであってもよい。木材を用いた場合、単一の木材で非耐火内装建材を形成してもよいし、カットした木材を積層接着したCLT(Cross Laminated Timber)を用いてもよい。また、木材以外の非耐火内装建材としては、FRP建材、アルミ等が挙げられる。
【0022】
鉄骨部材3としては、例えば、建築の分野で汎用されているH型またはI型が挙げられる。
図1には、H形の鉄骨部材3の一端部31(
図1に示す例では上部フランジ)を、内装建材2の第1面21に当接した例が示されており、鉄骨部材3で内装建材2(床)を支えている。なお、鉄骨部材3は上記のとおり、H型またはI型が建築分野で一般的に用いられているが、鉄骨部材3の一端部31が内装建材2の第1面21に当接できればその他の形状であってもよい。その他の形状としては、例えば、T形、L形、溝形、Z形、角柱型等が挙げられる。また、鉄骨部材3は、形状以外の特徴として、内装建材2と当接する当接部(一端部31)を有する部材ということができる。
【0023】
図1に示す第1の実施形態に係る耐火被覆構造1aは、鉄骨部材3の一端部31の当接面311が、内装建材2の第1面21に当接している。そして、第1耐火被覆材4は、鉄骨部材3の一端部31の周囲を覆うように、内装建材2の第1面21に形成されている。なお、本明細書において、「鉄骨部材3の一端部31の当接面311」とは、一端部31の内、内装建材2の第1面21と当接する面を意味する。また、本明細書において、「鉄骨部材3の一端部31の周囲を覆う」と記載した場合、
図1Aに示すように、第1耐火被覆部材4が隙間なく一端部31に当接することに加え、〇で囲った部分の拡大図に示すように、耐火性能に影響のない範囲で隙間があることも包含する。
【0024】
また、後述する第2の実施形態および第3の実施形態に示すとおり、鉄骨部材3を覆うように第2耐火被覆材を配置する場合、拡大図に示す第1耐火被覆材4と鉄骨部材3の一端部31との隙間は、第2耐火被覆材で間接的に覆われることから、更に広く(内装建材の耐火被覆の仕様を満たさない)てもよい。その場合、第1の実施形態に係る耐火被覆構造1aは、耐火被覆構造を形成するための組立構造と言ってもよい。なお、第1の実施形態に係る耐火被覆構造1aは、前記耐火被覆構造を形成するための組立構造も包含する。
【0025】
耐火建築物は、一定区画ごとに防火区画が定められている。そのため、
図1では内装建材2の周囲全体が第1耐火被覆材4で覆われた例が示されているが、鉄骨部材3が当接する内装建材2の第1面21側が、第1耐火被覆材4で少なくとも被覆されていればよい。なお、内装建材2が防火区画と非防火区画に跨って配置される場合、第1耐火被覆材4は、第1面21の全面に形成される必要はなく、防火区画に面する部分に形成されていればよい。第1面21の反対側の面を第2面22、第1面21と第2面22に直交する面である、第3面23、第4面24、第5面(
図1の紙面手前側の面で図示は省略)、第6面(
図1の紙面奥側の面で図示は省略)と規定した場合、第2面乃至第6面は、当該面が防火区画に面する場合は、必要に応じて第1耐火被覆材4で被覆すればよい。換言すると、内装建材2の第1面21に加え、内装建材2の第2面乃至第6面の少なくとも1以上の面が、第1耐火被覆材4で被覆されていてもよい。
【0026】
第1耐火被覆材4は、鉄骨部材3の一端部31の周囲を覆うことができれば、公知の耐火被覆材を用いることができる。例えば、石膏ボード、繊維混入ケイ酸カルシウムボード等、が挙げられる。
【0027】
第1面21への第1耐火被覆材4の被覆方法は、鉄骨部材3が当接(
図1では上部フランジ31の当接面311)している部分以外の第1面21を、第1耐火被覆材4で被覆できれば特に制限はない。例えば、先ず、第1面21に当接する鉄骨部材3の一端部31と同じ形状となるように第1耐火被覆材4を切り欠き、第1面21に切り欠いた第1耐火被覆材4を取り付け、その後、鉄骨部材3を第1耐火被覆材4の切り欠いた部分に挿入すればよい。また、第1面21に鉄骨部材3の一端部31を先ず当接させ、次いで、第1面21に当接した鉄骨部材3の一端部31の周囲に、分割した第1耐火被覆材4を取り付けてもよい。第1面21への第1耐火被覆材4の取り付けは、両者が固定できれば特に制限はない。例えば、
図1Aに示すように、ねじ、ビス等の固定具5を用いて固定すればよい。或いは、
図1Bに示すように、耐火性接着剤を用いて固定してもよい。
【0028】
第1の実施形態に係る耐火被覆構造1aは、鉄骨部材3は内装建材2に直接当接し、且つ、内装建材2に当接した鉄骨部材3の一端部31(上部フランジ)の周囲は、第1耐火被覆材4が配置されている。したがって、第1の実施形態に係る耐火被覆構造1aは、内装建材2が耐火内装建材または非耐火内装建材の何れの場合でも、構造を担保する部材同士を連結することができ、耐火建築物の構造強度を高めることができる。また、内装建材2に当接した鉄骨部材3の一端部31(上部フランジ)の周囲は、第1耐火被覆材4で覆われていることから、鉄骨部材3に熱が伝わりにくくなる。
【0029】
また、第1の実施形態に係る耐火被覆構造1aは、内装建材2が、耐火内装建材または非耐火内装建材の何れの場合にでも適用ができる。したがって、施工途中で耐火性能の変更が生じた場合、例えば、非耐火区画(非耐火内装建材2を使用)から耐火区画(非耐火内装建材2に第1耐火被覆材4を取り付け)への変更、耐火区画の耐火性能の変更(火災による耐火性能を1時間から2時間に延長、耐火内装建材2に第1耐火被覆材4を取り付け)があっても、対応することができる。また、木材等の非耐火内装建材は、耐火建築物に使用し難いという問題があったが、第1の実施形態に係る耐火被覆構造1aにより、内装建材2の選択肢が拡がる。更に、内装建材2として木材等、鉄筋コンクリート以外の材料を用いた場合は、施工が容易となることから工期が短くなり、且つ、鉄筋コンクリートより軽くなる。以上のとおり、第1の実施形態に係る耐火被覆構造1aにより、複合的な効果を奏する。
【0030】
(耐火被覆構造の第2の実施形態)
図2(
図2Aおよび
図2B)を参照して、第2の実施形態に係る耐火被覆構造1bについて説明する。
図2は、第2の実施形態に係る耐火被覆構造1bの概略を示す断面図である。第2の実施形態に係る耐火被覆構造1bは、第2耐火被覆材6を更に備える点で、第1の実施形態に係る耐火被覆構造1aと異なる。その他の点では、第2の実施形態に係る耐火被覆構造1bは、第1の実施形態に係る耐火被覆構造1aと同様である。よって、第2の実施形態では、第2耐火被覆材6を中心に説明し、その他の構成についての繰り返しとなる説明は省略する。
【0031】
第2の実施形態に係る耐火被覆構造1bは、第2耐火被覆材6を更に含み、第2耐火被覆材6の少なくとも一部が、鉄骨部材3の他端部32(
図2に示す例では下部フランジ)の外面321に接触するように配置されている。なお、本明細書において他端部32の「外面」とは、鉄骨部材3の他端部32のウェブ33と反対側の面を意味する。
【0032】
図2に示すように、第2耐火被覆材6は、鉄骨部材3の周囲を覆うように配置されている。したがって、第2耐火被覆材6は、柔軟性のある材料で構成されることが好ましい。第2耐火被覆材6は、柔軟性があり且つ耐火能を有すれば特に制限はないが、例えば、ロックウール繊維を基材とした耐火被覆材等が挙げられる。第2耐火被覆材は、例えば、マキベエ(登録商標)(ニチアス株式会社製)等、市販の耐火被覆材を用いることができる。
【0033】
図2に示す例では、第2耐火被覆材6の第1端部61および第2端部62は、第1面21に取り付けた第1耐火被覆材4に取り付けられている。第2耐火被覆材6は、
図2Aに示すように、ねじ、ビス等の固定具5を用い第1耐火被覆材4に固定(内装建材2と第1耐火被覆材4とは耐火性接着剤で固定)、或いは、
図2Bに示すように、固定具5が内装建材2まで貫通するように取り付ければよい。なお、
図2に示す例では、第2耐火被覆材6の第1端部61および第2端部62の両端が第1耐火被覆材4に取り付けられている。代替的に、第1端部61および第2端部62の一方、或いは、両方が、図示されていない他の内装建材に取り付けられていてもよい。他の内装建材が耐火内装建材であれば、第2耐火被覆材6で鉄骨部材3を覆うことができる。
【0034】
(耐火被覆構造の第3の実施形態)
図3(
図3Aおよび
図3B)を参照して、第3の実施形態に係る耐火被覆構造1cについて説明する。
図3は、第3の実施形態に係る耐火被覆構造1cの概略を示す断面図である。第3の実施形態に係る耐火被覆構造1cは、第3耐火被覆材7を更に備える点で、第2の実施形態に係る耐火被覆構造1bと異なる。その他の点では、第3の実施形態に係る耐火被覆構造1cは、第2の実施形態に係る耐火被覆構造1bと同様である。よって、第3の実施形態では、第3耐火被覆材7を中心に説明し、その他の構成についての繰り返しとなる説明は省略する。
【0035】
第3の実施形態に係る耐火被覆構造1cは、第3耐火被覆材7を更に含み、第3耐火被覆材7は、鉄骨部材3の内側に取り付けられている。なお、本明細書において「内側」とは、鉄骨部材3の一端部31(
図3では上部フランジ)と他端部32(
図3では下部フランジ)を繋ぐ連結部材33(
図3ではウェブ)と、一端部31および他端部32の連結部材33側の面を意味する。換言すると、内側とは、鉄骨部材3の内装建材2、第1耐火被覆材4、および、第2耐火被覆材6と接しない部分ということもできる。第3耐火被覆材7は、耐火接着剤を用いて、鉄骨部材3に取り付け・固定すればよい。なお、火災時に、耐火接着剤が軟化し、連結部材33に取り付けた第3耐火被覆材7がずれる場合がある。そのため、必要に応じて、他端部32の内側の上に楔8を設け、第3耐火被覆材7が火災時にずれないように固定してもよい。第3耐火被覆材7は、鉄骨部材3の内側であれば、鉄骨部材3の全面、或いは、一部に設けることができる。また、第3耐火被覆材7の一部は、第1耐火被覆材4及び/又は第2耐火被覆材6に接していてもよい。
【0036】
第3耐火被覆材7は、第1耐火被覆材4、或いは、第2耐火被覆材6と同じものを用いることができる。ところで、第3耐火被覆材7として、石膏ボードを用いた場合を想定する。石膏ボードには、種類により異なるものの、約20%の結晶水が安定した形で含まれている。そのため、
(1)石膏ボード7を鉄骨部材3に取り付け、鉄骨部材3を覆うように第2耐火被覆材6を取りつけると、石膏ボード7と第2耐火被覆材6の間には、空間Sが形成され、
(2)火災時に耐火被覆構造1cの周囲の温度が上昇すると、石膏ボード7に含まれる結晶水が気化し、空間Sに水蒸気が充満し、
(3)その結果、鉄骨部材3の温度上昇を抑えることが出来るので、鉄骨部材3の温度が上昇する時間を遅延できる。
(4)また、空間Sに充填する水蒸気により、第2耐火被覆材6の継目等から熱気や炎の侵入を防止できるので、耐火性能が更に向上する。
という効果を奏する。
【0037】
上記のとおり、石膏ボード7に含まれる結晶水の量はほぼ決まっている。したがって、第3の実施形態に係る耐火被覆構造1cは、燃焼実験等により、鉄骨部材3に取り付けた石膏ボード7に含まれる結晶水の内、火災時に気化する水分の割合、そして、空間Sに充填した水蒸気による耐火性能の向上量を予め測定しておくことで、施工時に鉄骨部材3に取り付ける石膏ボード7の量に基づき、火災時の耐火性能の向上量を計算ができる。
【0038】
そして、石膏ボード7を取り付けたことによる耐火性能の向上量に基づき、第2耐火被覆材6の必要な厚さも計算できる。したがって、第3の実施形態に係る耐火被覆構造1cは、建築基準法を満たすために必要な石膏ボード7の量と第2耐火被覆材6の量(厚さ)を予め計算できることから、耐火被覆構造1cを不必要に大きくすることが無い。例えば、石膏ボード7を鉄骨部材3に取り付けない場合と比較して、第2耐火被覆材6の厚さを約10~20%薄くできる。したがって、従来の耐火被覆構造と比較して、躯体梁又は躯体柱の居室内への出っ張りを少なくし、また、居室内空間の容積を大きくできるという効果も奏する。なお、第1および第2の実施形態では、鉄骨部材3の形状は特に制限はないが、第3の実施形態では、鉄骨部材3は、例えば、H形またはI形等、第2耐火被覆材6と第3耐火被覆材7との間に空間が形成できる形状が好ましい。
【0039】
石膏ボード7の種類は特に制限はなく、建築の分野で一般的に用いられているものであればよい。
【0040】
第1乃至第3の実施形態に係る耐火被覆構造1a~1cは、単なる例示であって、本明細書で開示する耐火被覆構造の効果を損なわない範囲内であれば各種設計変更してもよい。例えば、上述の耐火被覆構造1a~1cは、鉄骨部材3の一端部31は内装建材2に直接当接しているが、鉄骨部材3の一端部31は内装建材2に間接的に当接するようにしてもよい。間接的に当接する場合は、鉄骨部材3の一端部31と内装建材2の間に、例えば、第1耐火被覆層4を配置すればよい。
【0041】
(耐火被覆工法の実施形態)
第1の実施形態に係る耐火被覆構造1aは、以下の(1)または(2)の何れかの工程を含む耐火被覆工法により形成できる。
(1)内装建材2の第1面21に鉄骨部材3の一端部31を当接し、一端部31の周囲を覆うように第1耐火被覆材4を内装建材2の第1面21に取り付ける工程。
(2)鉄骨部材3の一端部31を挿入できる切り欠きを形成した第1耐火被覆材4を内装建材2の第1面21に取り付け、切り欠きに鉄骨部材3の一端部31を挿入する工程。
【0042】
第2の実施形態に係る耐火被覆構造1bは、上記(1)または(2)の工程を実施後、
(3)第2耐火被覆材6の少なくとも一部を、鉄骨部材3の他端部32の外面321に接触するように配置する工程、
を含む耐火被覆工法により形成できる。
【0043】
そして、第3の実施形態に係る耐火被覆構造1cは、上記(1)または(2)の工程と上記(3)に工程の間に、
(4)鉄骨部材3の内側に第3耐火被覆材を取り付ける工程、
を含む耐火被覆工法により形成できる。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本明細書で開示する耐火被覆構造は、内装建材が、耐火内装建材或いは非耐火内装建材を問わず、耐火被覆構造を形成できる。したがって、建築産業にとって有用である。
【符号の説明】
【0045】
1、1a、1b、1c…耐火被覆構造、2…内装建材、3…鉄骨部材、4…第1耐火被覆材、5…固定具、6…第2耐火被覆材、7…第3耐火被覆材、8…楔、21…内装建材の第1面、22…内装建材の第2面、23…内装建材の第3面、24…内装建材の第4面、31…鉄骨部材の一端部(上部フランジ)、32…鉄骨部材の他端部(下部フランジ)、33…ウェブ、61…第2耐火被覆材の第1端部、62…第2耐火被覆材の第2端部、311…一端部の当接面、321…他端部の外面、S…空間