(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-14
(45)【発行日】2023-07-25
(54)【発明の名称】走行制御システム及びパーソナルモビリティ
(51)【国際特許分類】
G05D 1/02 20200101AFI20230718BHJP
【FI】
G05D1/02 H
(21)【出願番号】P 2019096397
(22)【出願日】2019-05-22
【審査請求日】2022-03-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000101732
【氏名又は名称】アルパイン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099748
【氏名又は名称】佐藤 克志
(74)【代理人】
【識別番号】100103171
【氏名又は名称】雨貝 正彦
(74)【代理人】
【識別番号】100105784
【氏名又は名称】橘 和之
(74)【代理人】
【識別番号】100098497
【氏名又は名称】片寄 恭三
(72)【発明者】
【氏名】坂井 己博
【審査官】山村 秀政
(56)【参考文献】
【文献】特開平05-080840(JP,A)
【文献】特開2007-161198(JP,A)
【文献】特開2003-246576(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05D 1/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車輪で自走する移動体に搭載される走行制御システムであって、
前記移動体の最も前の車輪の接地面より前方の位置の動く歩道の踏板を検出する第1踏板検出手段と、
前記移動体の最も後ろの車輪の接地面より後方の位置の動く歩道の踏板を検出する第2踏板検出手段と、
前記移動体の走行中に、前記第1踏板検出手段が動く歩道の踏板を検出し、かつ、前記第2踏板検出手段が動く歩道の踏板を検出したときに、前記移動体の走行の停止の制御を行う停止制御処理を行う制御手段とを有することを特徴とする走行制御システム。
【請求項2】
請求項1記載の走行制御システムであって、
前記制御手段は、前記停止制御処理を行った後、前記第1踏板検出手段が動く歩道の踏板を検出しなくなったならば、前記移動体の走行の開始の制御を行う特徴とする走行制御システム。
【請求項3】
請求項1または2記載の走行制御システムであって、
動く歩道の入口への前記移動体の接近を検知する入口検知手段を有し、
前記制御手段は、前記入口検知手段が動く歩道の入口への前記移動体の接近を検知したときに、前記停止制御処理を開始することを特徴とする走行制御システム。
【請求項4】
請求項1、2または3記載の走行制御システムを搭載した、前記移動体であるパーソナルモビリティ。
【請求項5】
請求項4記載のパーソナルモビリティであって、
前記第1踏板検出手段は、前記パーソナルモビリティの先端下方の動く歩道の踏板を検出し、
前記第2踏板検出手段は、前記パーソナルモビリティの後端下方の動く歩道の踏板を検出することを特徴とするパーソナルモビリティ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パーソナルモビリティ等の車輪で自走する移動体の走行を制御する技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自走する移動体の走行を制御する技術としては、電動車いすの前方を3Dスキャナを用いて三次元測定し、電動車いす前方の所定距離内に段差等の障害物が検出された場合に電動車いすを停止させる技術が知られている(たとえば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
電動車いすやシニアカー等の道路交通法上で歩行者として扱われるパーソナルモビリティが、オートウォーク、ムービングウォーク、トラベレーター、ムービングサイドウォーク、オートスロープ等と呼ばれる動く歩道を利用する場合、安全確保の観点等より、パーソナルモビリティは動く歩道上では停止させることが好ましい。
【0005】
そして、このためには、パーソナルモビリティが動く歩道に乗ったならば速やかにパーソナルモビリティを停止する必要がある。
また、パーソナルモビリティを動く歩道上で停止させた場合、動く歩道からスムーズに降りるためには、動く歩道の終点に到達する直前にパーソナルモビリティの走行を再開させる必要がある。
【0006】
しかし、従来のパーソナルモビリティにおいては、このような走行の停止や再開を伴う、パーソナルモビリティの動く歩道の利用を支援することができなかった。
そこで、本発明は、パーソナルモビリティ等の車輪で自走する移動体の動く歩道の利用を支援することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題達成のために、本発明は、車輪で自走する移動体に搭載される走行制御システムに、前記移動体の最も前の車輪の接地面より前方の位置の動く歩道の踏板を検出する第1踏板検出手段と、前記移動体の最も後ろの車輪の接地面より後方の位置の動く歩道の踏板を検出する第2踏板検出手段と、前記移動体の走行中に、前記第1踏板検出手段が動く歩道の踏板を検出し、かつ、前記第2踏板検出手段が動く歩道の踏板を検出したときに、前記移動体の走行の停止の制御を行う停止制御処理を行う制御手段とを備えたものである。
【0008】
このような走行制御システムによれば、車輪で自走する移動体の車輪の全てが動く歩道に乗ったならば速やかに移動体の走行を停止させて、動く歩道による移動の安全性を確保することができる。
【0009】
ここで、このような走行制御システムは、前記制御手段において、前記停止制御処理を行った後、前記第1踏板検出手段が動く歩道の踏板を検出しなくなったならば、前記移動体の走行の開始の制御を行うように構成してもよい。
【0010】
このようにすることにより、動く歩道の終点に車輪が到達する直前に移動体の走行を再開させて、移動体を動く歩道からスムーズに退出させることができる。
また、以上の走行制御システムに、動く歩道の入口への前記移動体の接近を検知する入口検知手段を備え、前記制御手段において、前記入口検知手段が動く歩道の入口への前記移動体の接近を検知したときに、前記停止制御処理を開始するようにしてもよい。
【0011】
また、前記課題達成のために、本発明は、車輪で自走する移動体に搭載される走行制御システムに、前記移動体の最も前の車輪の接地面より前方の位置の動く歩道の踏板を検出する踏板検出手段と、前記移動体が動く歩道上で走行を停止しているときに、前記踏板検出手段が動く歩道の踏板を検出しなくなったならば、前記移動体の走行の開始の制御を行う制御手段とを備えたものである。
【0012】
このような走行制御システムによれば、動く歩道上で走行を停止している移動体の走行を、動く歩道の終点に車輪が到達する直前に開始させて、移動体を動く歩道からスムーズに退出させることができる。
【0013】
また、併せて本発明は、以上の走行制御システムを前記移動体として搭載したパーソナルモビリティを提供する。
ここで、このようなパーソナルモビリティにおいては、前記第1踏板検出手段や前記踏板検出手段は、前記パーソナルモビリティの先端下方の動く歩道の踏板を検出するものとし、前記第2踏板検出手段は、前記パーソナルモビリティの後端下方の動く歩道の踏板を検出するものとしてよい。
【発明の効果】
【0014】
以上のように、本発明によれば、パーソナルモビリティ等の車輪で自走する移動体の動く歩道の利用を支援することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の実施形態に係るパーソナルモビリティを示す図である。
【
図2】本発明の実施形態に係る走行システムの構成を示すブロックである。
【
図3】本発明の実施形態において検出する動く歩道の入口と踏板を示す図である。
【
図4】本発明の実施形態に係る動く歩道利用支援処理を示すフローチャートである。
【
図5】本発明の実施形態に係る動く歩道利用支援処理の処理例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について説明する。
図1a、bに、本実施形態に係るパーソナルモビリティ100を示す。
図1aはパーソナルモビリティ100の右側面を、
図1bはパーソナルモビリティ100の上面を表している。
図示するように、本実施形態に係るパーソナルモビリティ100は、利用者が着座する椅子を備えた四輪の装置であり、人力によらずに走行(自走)するための走行システムを備えている。
【0017】
図2に、パーソナルモビリティ100が備える走行システムの構成を示す。
図示するように、走行システムは、自走システム1と走行支援装置2とを備えている。
自走システム1は、パーソナルモビリティ100の減速、停止を行うブレーキ装置11、パーソナルモビリティ100の駆動輪を回転させる走行用モータ12、パーソナルモビリティ100の舵角を制御する操舵装置13、ブレーキレバーやアクセルレバーやハンドル等の運転装置14、ナビゲーションシステム15、自走制御部16を備えている。
【0018】
自走システム1は、ユーザが操作パネルから設定できる走行モードとして、マニュアルモードと自動運転モードとを備えており、自走制御部16は、マニュアルモードが設定されているときには、運転装置14の操作に従って走行用モータ12やブレーキ装置11や操舵装置13の動作を制御して、パーソナルモビリティ100を走行、停止させる。
【0019】
また、自走制御部16は、自動運転モードが設定されているときには、予めユーザによってナビゲーションシステム15に設定されているルートに従って当該ルートの目的地まで走行するように、走行用モータ12やブレーキ装置11や操舵装置13の動作を制御して、パーソナルモビリティ100を走行させる。
【0020】
次に、走行支援装置2は、前方カメラ21、前端センサ22、後端センサ23、動く歩道認識部24、前端路面認識部25、後端路面認識部26、走行支援制御部27を備えている。
【0021】
前方カメラ21は、たとえば、
図1a、bに示すように、パーソナルモビリティ100の前方を撮影するように配置される。
また、
図1a、bに示すように、前端センサ22は、パーソナルモビリティ100のボディの前端の下部に設けられ、パーソナルモビリティ100の前端下方の路面の性状を検出し、後端センサ23は、パーソナルモビリティ100のボディの、後端の下部に設けられ、パーソナルモビリティ100の、後端下方の路面の性状を検出する。
【0022】
次に、動く歩道認識部24は、前方カメラ21が撮影したパーソナルモビリティ100の前方の映像を画像認識し、パーソナルモビリティ100の動く歩道の入口への接近を検出する。
【0023】
ここで、動く歩道の入口は、おおよそ、
図3aに示すように、入口に正面から接近したときに、正面左右にハンドレールなどの手すり201が配置され、手前に乗降版202がある形状を現すので、動く歩道認識部24は、たとえば、このような形状を画像認識することにより、パーソナルモビリティ100の動く歩道の入口への接近を検出する。
【0024】
ただし、ナビゲーションシステム15に動く歩道の位置情報を含めた地図データを搭載し、ナビゲーションシステム15が算出している現在位置が、地図データが示す動く歩道の入口へ接近したときに、動く歩道認識部24において、動く歩道の入口への接近を検出するようにしてもよい。また、この場合には、動く歩道認識部24は、ナビゲーションシステム15が算出している現在位置が、地図データが示す動く歩道の入口へ接近したときに、前方カメラ21が撮影したパーソナルモビリティ100の前方の映像を画像認識した結果を併せ考慮して、動く歩道の入口への接近を検出してもよい。
【0025】
また、前端路面認識部25は、前端センサ22が検出した路面の性状から、パーソナルモビリティ100の前端下方の路面が動く歩道の踏板であるかどうかを認識し、後端路面認識部26は、後端センサ23が検出した路面の性状から、パーソナルモビリティ100の後端下方の路面が動く歩道の踏板であるかどうかを認識する。
【0026】
ここで、動く歩道の踏板は、
図3b1に断面を、
図3b2に上面を示すように、進行方向に向かって左右に凹凸が繰り返される形状を備えている。
そこで、前端路面認識部25と後端路面認識部26では、この左右の凹凸の繰り返し、または、この左右の凹凸の繰り返しによる模様を検出できたときに、下方の路面が動く歩道の踏板であると認識する。
【0027】
より具体的には、たとえば、前端センサ22として、左右方向のスキャンを行いながら下方の路面までの距離を検出する距離センサを設け、前端センサ22が検出した下方の路面までの距離の左右方向の変化が、所定範囲内の間隔での左右の凹凸の繰り返しを表しているときに、前端路面認識部25において、パーソナルモビリティ100の前端の下方の路面が動く歩道の踏板であると認識する。また、同様に、後端センサ23として、左右方向のスキャンを行いながら下方の路面までの距離を検出する距離センサを設け、後端センサ23が検出した下方の路面までの距離の左右方向の変化が、所定範囲内の間隔で左右の凹凸の繰り返しを表しているときに、後端路面認識部26において、パーソナルモビリティ100の後端の下方の路面が動く歩道の踏板であると認識する。なお、上記間隔の所定の範囲は、おおよそ動く歩道の踏板の凹凸の間隔が取り得る範囲とする。
【0028】
または、たとえば、前端センサ22として、下方を撮影するカメラを設け、前端センサ22で撮影した画像が、所定範囲内の間隔での左右に濃淡を繰り返す縞模様を表しているときに、前端路面認識部25において、パーソナルモビリティ100の前端の下方の路面が動く歩道の踏板であると認識する。また、同様に、後端センサ23として、下方を撮影するカメラを設け、後端センサ23で撮影した画像が、所定範囲内の間隔で左右に濃淡を繰り返す縞模様を表しているときに、後端路面認識部26において、パーソナルモビリティ100の後端の下方の路面が動く歩道の踏板であると認識する。なお、上記間隔の所定の範囲は、おおよそ動く歩道の踏板の凹凸の間隔が取り得る範囲とする。
【0029】
なお、前端センサ22や後端センサ23としてカメラを用いる場合には、前端路面認識部25や後端路面認識部26において、さらに、下方の路面の色等も考慮に加えて、下方の路面が動く歩道の踏板であるかどうかを判定するようにしてよい。
【0030】
次に、走行支援制御部27は、走行モードがマニュアルモードであるか自動運転モードであるかに関わらず、動く歩道認識部24が、パーソナルモビリティ100の動く歩道の入口への接近を検出したならば、動く歩道利用支援処理を実行する。
【0031】
図4に、この動く歩道利用支援処理の手順を示す。
図示するように、走行支援制御部27は、動く歩道利用支援処理において、前端路面認識部25のパーソナルモビリティ100の前端下方の動く歩道の踏板の認識の発生を待つ(ステップ402)。
【0032】
そして、前端路面認識部25がパーソナルモビリティ100の前端下方の動く歩道の踏板を認識したならば(ステップ402)、次に、後端路面認識部26のパーソナルモビリティ100の後端下方の動く歩道の踏板の認識の発生を待つ(ステップ404)。
【0033】
そして、後端路面認識部26がパーソナルモビリティ100の前端下方の動く歩道の踏板を認識したならば(ステップ404)、自走制御部16にパーソナルモビリティ100の走行の停止を指示する(ステップ406)。走行の停止を指示された自走制御部16は、走行用モータ12を制御してパーソナルモビリティ100の走行を停止すると共に、ブレーキ装置11を駆動してパーソナルモビリティ100が動かないように制動する。
【0034】
また、その後は、前端路面認識部25がパーソナルモビリティ100の前端下方の動く歩道の踏板を認識しなくなるのを待つ(ステップ408)。
そして、前端路面認識部25がパーソナルモビリティ100の前端下方の動く歩道の踏板を認識しなくなったならば(ステップ408)、自走制御部16に、パーソナルモビリティ100の走行の再開を指示する。走行の再開止を指示された自走制御部16は、ブレーキ装置11によるパーソナルモビリティ100の制動を解除すると共に、走行用モータ12を駆動してパーソナルモビリティ100の前進を開始する。
【0035】
以上、走行支援制御部27が行う動く歩道利用支援処理について説明した。
このような動く歩道利用支援処理によれば、
図5aのように、パーソナルモビリティ100が動く歩道300に入口に接近し、その後、
図5bのように、パーソナルモビリティ100の全体が動く歩道300の踏板の上に搭乗したならば、前端路面認識部25と後端路面認識部26の双方によって下方の動く歩道300の踏板が認識され、パーソナルモビリティ100の走行が停止され、パーソナルモビリティ100が制動される。
【0036】
そして、その後は、
図5cに示すように、制動されたパーソナルモビリティ100は安全に動く歩道300によって搬送され、動く歩道300の出口に向かう。
また、その後、
図5dに示すように、パーソナルモビリティ100の前端が動く歩道300の出口に到達する位置までパーソナルモビリティ100が動く歩道300によって搬送されると、前端路面認識部25によって動く歩道300の踏板が認識されなくなり、
図5eに示すように、パーソナルモビリティ100の前進が開始され、パーソナルモビリティ100は、支障なく、スムーズに動く歩道300から退出することができる。
【0037】
以上、本発明の実施形態について説明した。
以上のように本実施形態によれば、パーソナルモビリティ100が動く歩道に乗ったならば速やかにパーソナルモビリティ100を停止させて、動く歩道による移動の安全性を確保することができると共に、動く歩道の終点に到達する直前にパーソナルモビリティ100の走行を再開させて、パーソナルモビリティ100を動く歩道からスムーズに退出させることができる。
【0038】
また、以上の実施形態では、前端路面認識部25でパーソナルモビリティ100の前端下方の動く歩道の踏板を認識し、後端路面認識部26でパーソナルモビリティ100の後端下方の動く歩道の踏板を認識したが、前端路面認識部25で認識する踏板の位置は、パーソナルモビリティ100の最も前の車輪の接地面より前方の位置であればよく、後端路面認識部26で認識する踏板の位置は、パーソナルモビリティ100の最も後ろの車輪の接地面より後方の位置であればよい。
【0039】
すなわち、たとえば、
図1cに示すように前端センサ22でパーソナルモビリティ100より少し前方の路面の性状を検出し、前端路面認識部25でパーソナルモビリティ100より少し前方の動く歩道の踏板を認識するようにしてもよい。また、たとえば、
図1cに示すように、後端センサ23でパーソナルモビリティ100より少し後方の路面の性状を検出し、後端路面認識部26でパーソナルモビリティ100より少し後方の動く歩道の踏板を認識するようにしてもよい。
【0040】
なお、以上の実施形態で示した動く歩道の利用を支援する技術は、電動車いすやシニアカー等のパーソナルモビリティ100以外の、自走式の台車や、自走もしくは歩行するロボット等の動く歩道を利用する任意の移動体について同様に適用することができる。
【符号の説明】
【0041】
1…自走システム、2…走行支援装置、11…ブレーキ装置、12…走行用モータ、13…操舵装置、14…運転装置、15…ナビゲーションシステム、16…自走制御部、21…前方カメラ、22…前端センサ、23…後端センサ、24…動く歩道認識部、25…前端路面認識部、26…後端路面認識部、27…走行支援制御部、100…パーソナルモビリティ。